"空手ガール"武田梨奈が忍者に変身! アクション時代劇『女忍 KUNOICHI』

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"いつも心にヌンチャクを"。19歳のアクション女優・武田梨奈から、
満点スマイルをいただきました。
 スクリーンの中で見せるハードなアクションとは裏腹に、普段はふんわりした笑顔を見せる"リナティー"こと武田梨奈。『ハイキック・ガール!』(09)で主演デビューを飾り、今年2月に主演第2作『KG カラテガール』が公開されたばかりの大注目のアクション女優なのだ。主演第3作となる『女忍 KUNOICHI』は初のアクション時代劇。キックボクサーとして鳴らした虎牙光揮を相手にスピード感溢れる忍者バトルを繰り広げる。実は取材当日、交通機関が運行しておらず、リナティーは自宅から取材を行なったソニー・ミュージックアーティスツまで3時間かけて辿り着いたのだ。疲れたそぶりをちっとも見せずに、いつも通りの明るい笑顔を振りまくリナティーに、もう日刊サイゾー取材班のハートはキュンキュンです。 ──平成生まれの19歳! 時代劇って観てましたか? 武田 正直、勉強不足で恥ずかしいんですが、時代劇はあまり観たことがありませんでした。"忍者"のイメージもつかめず、すぐにインターネットなどで調べました。今までと全然違う役ということもあり、戸惑いもありました。でも初めての時代劇で「自分にとって新しい挑戦だ」と思い、とても楽しみでもありました。
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時代劇アクションに初挑戦。「うま
くできたのは、共演の虎牙光揮さんや
アクションコーディネイターの園村健
介さんのお陰です」。
──チャレンジすることに燃えるタイプなんだ。 武田 そうですね。『ハイキック・ガール!』『KG カラテガール』と、これまでは私の得意な空手をベースにしたアクションが多かったので、今回はアクションの幅を広げるいいチャンスだなって。私、ヌンチャクは扱えるんですけど、今回のような刀を使った殺陣は初めて。勉強になりました。 ──『ハイキック・ガール!』『KG』『女忍』のアクションポイントをそれぞれ簡潔に解説すると、どんな感じ? 武田 『ハイキック・ガール!』のテーマは、"当てる"だったんです。きれいなアクションでなくてもいいから、"痛い"リアルなアクションを目指しました。『KG カラテガール』は相手の背中に乗ってのキックなど、より魅せるアクションに挑戦しました。この2作は空手をベースにした"一撃必殺"だったんですが、今回の『女忍』は時代劇ということもあり、アクションのテンポも間合いもまるで違って難しかったですね。技の手数がとても多く、テンポも速く、覚えるのが大変でした(苦笑)。最終的には殺陣の手数を覚えるというよりも、1対1で戦う虎牙さんと呼吸を合わせることに意識を集中させましたね。『女忍』はスピード感を見てほしいです。 ──今回の敵役は、ボクシング、キックボクシング、ブラジリアン柔術まで経験しているコワモテ男優・虎牙光揮! 武田 虎牙さんは格闘技をいろいろ経験されていることもあって、アクションの動きのことをすごく理解されていて、撮影期間中もその日の撮影が終わった後に2時間くらい私の稽古に付き合ってくれ、昼食中や撮影の空き時間にも、いろいろアドバイスしていただきました。虎牙さんは普段から体を鍛えている方なので、「本番中に当たっても気にしないで」と言ってくださったので、存分にやることができましたね。逆に虎牙さんが私のお腹を2発蹴るシーンは、寸止めじゃなくて本当に当ててもらいました。かなり痛かったです(笑)。
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 "もしも痴漢に襲われたら"という質問には、
「まず、危ない場所には近寄らないようにしま
す。護身術は最後の手段」とクレバーな返答。
──痛かったです(笑)って......。格闘技を経験した者同士の信頼関係があってのハードアクションだったんスね。クライマックスの洞窟での激闘シーンは、足元が小石まじりの砂利でコケたらヤバかったでしょ? 武田 はい、足元が滑りやすくて危なかったですね。走るシーンでは、滑ってずいぶん擦り剥いちゃいました(笑)。あれでも小石はかなり拾ったんですが、石を使った殺陣もあるので、あまり石がないのも変なので、わざと石はそのままにしてあったんです。大ケガだけはしないように、気を引き締めてやりました。でも私の擦り傷よりも、朝方まで撮影が続いたのでスタッフの方は寒くて大変だったと思います。 ──『女忍』の千葉誠治監督、『ハイキック・ガール!』の西冬彦監督と演出スタイルはかなり違った? 武田 違いましたね。西さんはアクションシーンをじっくり長回しで撮るんですが、千葉監督はものすごくカット数が多いんです。「えっ、こんなに多くのカット数を撮るの?」と思ったんですけど、完成した作品を観たらスピード感があってとてもカッコよかった。どちらも違った面白さがありますね。すごく勉強になりました。 ■19歳の乙女の密かな心配事とは......? ──17歳のときに『ハイキック・ガール!』でいきなり主演デビューを果たしたわけだけど、アクションの師匠である西監督とはどんな形での出会いだったの?
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くのいち=由美かおる、という従来のイメージ
を塗り替えるか? 武田梨奈が初となるソー
ドアクションに挑んだ『女忍 KUNOICHI』。
武田 もともと小3くらいから、役者さんの仕事がやりたくてオーディションを受けていました。空手は10歳から始めたんですが、空手の全国大会で優勝したことなどもあって、私のブログを西さんが注目してくれたんです。それで『ハイキック・ガール!』のオーディションを受けてみないかと声を掛けてくださった。それが高1のときですね。自分のやりたかったお芝居と特技の空手を活かせるので、「このオーディションは2度とないチャンスだ! と思いました。まさか主演に選ばれるとは思ってなかったので、ビックリ(笑)。 ──"映画に出てみない?"という誘い、怪しいとは思わなかった? 武田 はい、最初は正直いって怪しいと思いました(笑)。私のブログに「映画に興味ありませんか?」とメールが突然届いたので、「あっ、変なメールが来た」と(笑)。1週間くらいシカトしてたんです。でも、やっぱり気になったので父から連絡してもらいました。連絡して良かった(笑)。あのときシカトしたままだったら、今の武田梨奈はいなかったわけですよね。 ──メールをくれた西さんがまっとうな映画人でよかったですね。憧れの人が、ジャッキー・チェンと武田鉄矢ということだけど、もしかして年上の男性がタイプ? 武田 いやー、どうなんでしょうか(笑)。ジャッキー・チェンさんはアクションスターとして昔から憧れの存在です。武田鉄矢さんは『3年B組金八先生』(TBS系)の大ファンだったんです。後から『刑事物語』シリーズ(82~87)を観て、「金八先生ってアクションもやるのね!」と驚きました。『刑事物語』の頃の武田鉄矢さん、ちょっとジャッキー・チェンさんっぽくていいですね。
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敵対する甲賀の里から女をさらっていく、伊賀の
忍者・霜月(虎牙光揮)。虎牙は『あしたの
ジョー』ではウルフ金串を演じるなどアクション
映画に欠かせない存在。
──いつか片山刑事のハンガーヌンチャクと競演を果たしてくださいよ。 武田 いいですね。『金八先生』に出演するのが長年の夢だったんですが、終わってしまって残念だなぁって思ってたんです。『刑事物語』の新作が作られる際は、ぜひ武田さんのハンガーと私のヌンチャクで競演したいですね。でも、ハンガーをあそこまで自在に操る武田さんはすごい。私も今度、ハンガーヌンチャクに挑戦してみようと思います(笑)。 ──19歳の年ごろの女の子に聞くのも何だけど、カバンにいつもヌンチャクを入れてるの? 武田 毎日じゃないですけど、アクションの稽古がある日や空き時間ができそうなときは、ヌンチャクを持ち歩いてます。公園や自宅の前でも、よくヌンチャクを振り回してます(笑)。ひとつ心配なことがあって、お巡りさんに「カバンの中を見せてください」って言われたら、どうしようかなって。ヌンチャクを持ち歩いていたら、捕まっちゃいますか? ──大丈夫。もうすぐ、"武田梨奈=アクション女優"として世間が認知するようになりますよ。『マッハ!!!!!!!』(03)、『チョコレート・ファイター』(08)のプラッチャヤー・ピンゲーオ監督はわざわざタイから来日して、西道場での練習を見学したとか。 武田 はい、『KG カラテガール』のクランクイン前の練習を観ていただきました。『KG カラテガール』用のスタントの練習の他に、ピンゲーオ監督の希望で空手の基本の型もお見せしました。ピンゲーオ監督からは「いつか一緒にお仕事できるといいですね」と言葉を掛けてもらえたので、実現させることを目標にしています。『チョコレート・ファイター』でヒロインを演じたジージャさんとも格闘雑誌の企画で対談する機会があったので、ぜひジージャさんと競演してみたいです。 ──タイのアクション映画は、まじでガチンコですよね。『チョコレート・ファイター』ではジージャの顔面を突きや蹴りが直撃してましたが......。
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素早い身のこなしで伊賀忍者たちを翻弄する
甲賀忍者の如月(武田梨奈)。「私は男を殴る
のが大好きさ」なんてサディスティックな台詞が!
武田 『ハイキック・ガール!』を撮影する前に、西さんから『チョコレート・ファイター』のジージャを目指せと言われたんですが、さすがにあのレベルのスタントは当時の私には難しく感じました。でも、その後『KG カラテガール』などで経験を重ねることで、少しずつですがあのレベルに近づけていると思うんです。周りからも「同じ女性だから、できるよ」と励まされているので、自分で「できない」と思わずに、「そうだ、やれる!」と思うようにしています。 ──そのポジティブ思考から、超絶ハイキックが繰り出されるんスね。最後に日刊サイゾーのユーザーにメッセージをお願いします! 武田 『ハイキック・ガール!』『KG カラテガール』と『女忍』はまったく違った作品になっているので、前2作を観ていただいた方でも新しい面白さがあると思います。前2作とはテンポも雰囲気も違った時代劇アクションに、男性の方はコーフンできるはずです(笑)。キャッチコピーに"男ども。なめるなよ。"とあるんですが、女性の方がご覧になってもすっきりするアクション時代劇になっていると思います。虐げられた女性が逆襲するストーリーなので、ぜひ女性のみなさんにも観ていただきたいですね。  劇中ではリナティー扮する女忍者・如月が「私は男を殴るのが大好きさ」と口にするシーンがあり、普段のふんわかしか雰囲気とのギャップがたまりません。スクリーンいっぱいに元気のオーラを振りまくアクション女優・武田梨奈に、目はもうクギづけです。 (取材・文=長野辰次/メイク=門間導子/スタイリスト=山本真里江/オランジェ) ●『女忍 KUNOICHI』 監督・脚本・編集/千葉誠治 アクションコーディネイター/園村健介 出演/武田梨奈、虎牙光揮、三元雅芸、佐藤雄一、小野村麻郁、藤澤志帆、琴乃、島津健太郎 配給/日本出版販売 3月19日(土)よりシアターN渋谷ほか全国順次公開 <http://kunoichi-movie.com> ●たけだ・りな 1991年神奈川県横浜市出身。10歳から空手を始め、全日本チャンピオンにも輝く。現在琉球少林流空手道月心会の黒帯。西冬彦監督の『ハイキック・ガール!』(09)の主演に抜擢されたのに続き、主演第2弾『KG カラテガール』が2月に公開されたばかり。その他の出演作に『少女戦士伝シオン』(10)、テレビドラマ『古代少女隊ドグーンV』(毎日放送)など。6月には青春スポーツ映画『アベックパンチ』が公開予定。 <http://ameblo.jp/rina615>
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「一人一人の言葉に耳を傾けて欲しい」 『FREAKOUT』知的障害者バンドの記録

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鬼才・故石井輝男監督の愛弟子でもある矢口将樹監督。
監督二作目となる本作に込めた思いとは?(取材場所:K's cinema)
 静岡県富士宮市・超教派弘願寺の二代目住職・角田大龍氏が、「頭脳警察」「裸のラリーズ」などの伝説のバンドを支えたミュージシャンたち、そして知的障害を持った3人の僧侶と結成したバンド「ギャーテーズ」。彼らを追ったドキュメンタリー映画『FREAKOUT』が3月5日から公開される。  世界共通語である"音楽"を軸に描かれた本作だが、僧侶たちが生活する寺の創設者である在日朝鮮人・和上が帰国したことをきっかけに、それぞれの歯車が狂い出す。苦境に喘ぐ寺の再建の過程で、和上とバンドのリーダーである大龍との確執が表面化していく。単なる考え方の違いではなく、日韓日朝問題という歴史的背景も複雑に絡み合い、双方の主張は平行線をたどる。はたして、この映画に込められたメッセージとは何なのか? 監督である矢口将樹氏にお話を伺った。 ――監督がギャーテーズを知ったきっかけを教えてください。 「一緒に映画をやっていた友人から『面白そうな題材がある』と教えてもらったことがきっかけです。それで、当時(2002年頃)、病気で入院していたバンドのリーダー・大龍さんに会いに行きました。"障害者"であり"お坊さん"がバンドをやっていれば、ドキュメンタリーとして何かしら形になるんじゃないか、とりあえずやってみようという感じで撮影を始めました」
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――実際に障害者たちが生活する環境に身を置いて、どのように感じられましたか? 「最初はかなりキツい場所をイメージしていたんですが、全然普通だったので驚かされました。みんな普通に会話することもできるし、魅力的な人ばかりです。僕たちが話すよりもまっとうでしたね」 ――「まっとう」というのは? 「頭で考えたことが、ダイレクトに言葉として出てくるんです。それがすごいなと思いました。自分の言葉として、日本語をここまでちゃんと話せる人たちに、それまであまり接したことがなかったんです」 ――フィルムが進むにつれて、障害者バンドから、だんだんと日本と韓国、朝鮮との関係も描かれるようになっていきますね。始めからそちらの問題も取り上げようと考えられていたんでしょうか? 「いえ、もともと朝鮮人住職はいなくて、そういう寺(在日朝鮮人のためのお寺)だということは全然知らなかったんです。撮り始めた当初は『ちょっと面白くないな』と思いながら撮影していたんですが、住職が帰ってきたあたりから、バンドよりもこの住職にシフトした方が面白いなと思ったんです」
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(c) TRICKSTER FILM 
――寺の再建をめぐって、この「和上」という朝鮮人住職と大龍さんとの確執が表面化していく過程で、和上はともするとヒールとして描かれてしまいそうですが、映画の中ではヒールとしてではなく、とても人間くさい人物として扱われているように思います。 「彼にとって日韓日朝問題は、多くの日本人のように『しょうがない』という一言で片付けることはできない問題なんです。それは、自分自身を否定してしまうことになってしまう。明確に提示しているわけではありませんが、日本と韓国、朝鮮のために尽くした人がいるということを少しでも分かってもらえれば」 ――ただ、和上の姿を見ていると、やはり日本と韓国、朝鮮の埋まらない溝を感じてしまいます。 「当時は北朝鮮に対するネガティブな報道が多い時期だったんですが、和上という人物は、そんなマスコミが作るイメージそのものだったんです。韓国や北朝鮮の方は、日本が過去にいかにひどいことをしたかと問いつめる。けれども、戦争を知らない世代の日本人はどうすればいいのか分からない。実際、僕が和上からその質問を突きつけられたときも、結局、彼らがどうして欲しいのか分かりませんでした。和上という人間はとても日韓日朝問題に対して熱い人物ですが、同時に日本のことが好きで、ギャーテーズのことが好きで、みんなと楽しくやりたい人だったと思うんです。けれども、最終的には個人としてのスタンスよりも、国のスタンスを優先しなければならない。そういうジレンマは可哀想だなと思いましたね」 ――完成から8年の歳月を経て無事公開の運びとなったわけですが、公開にあたっての心境は?
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(c) TRICKSTER FILM 
「ちょうど02年、03年の頃は拉致被害者が帰国し、日朝問題が注目されていたので、そのようなタイムリーな時期に公開できればよかったとは思います。完成から2、3年は毎日のように、何とか公開できないかと悶々としていましたね。ただ、そういった感情すらなくなった頃に劇場公開の話が具体化したので、『ラッキー』という感じです。実はこの作品は、大学生の頃に初めて撮ったものなんです。公開が決まって、だいぶ直さなきゃならないんだろうなと思いながら見直したんですが、結局1カット削っただけでした。撮影は下手ですが、編集に関してはこれはこれでいいかな、と」 ――障害者と日朝問題のどちらが、メッセージとしてより残ってほしいですか? 「別にどちらも打ち出したくないし、テーマにしているわけでもありません。登場人物のバックグラウンドが障害者や在日っていうだけで、あまり難しく考えてほしくないんです。それよりも、一人一人の言葉をしっかりと聞いてほしいなと思います。みんな本当に言葉に魅力がある人たちなんです」 (取材・文=萩原雄太[かもめマシーン]/撮影=佐久間ナオヒト) ●やぐち・まさき 1978年長野県生まれ。武蔵野美術大学油絵科卒。鬼才・故石井輝男監督に師事し、遺作となった「盲獣VS一寸法師」(04年公開)にスタッフとして参加。05年石井監督の急逝後、同作の撮影風景を収めた「石井輝男FAN CLUB」(撮影・熊切和嘉)を監督。石井監督の最晩年の姿、演出風景が一挙に映るこの貴重なドキュメンタリーは06年に短期公開されたが、 今や幻の作品となっている。本作「FREAKOUT」が監督第二作目。新進気鋭の若手監督である。映像制作チームTRICKSTERFILM所属。現在は映画だけでなく、テレビや舞台、ライブなど、さまざまなジャンルの映像制作に携わっている。 fo05.jpg ●『FREAKOUT』 監督・撮影・編集/矢口 将樹  撮影/菅原 養史、松本 真樹 出演:ギャーテーズ 角田 大龍(Syn Key)、小山 大僑(Vo)、大久保 弘順(Vo)、荒川 大愚(Cl)、高橋 ヨーカイ(Bass ex.裸のラリーズ)、棟居 イズミ(G)、石塚 俊明(Ds from 頭脳警察)、寺田 佳之(Per)、松本 ケンゴ(G from フリーキーマシーン)、釋 弘元 宣伝・配給/ふーてんき 製作/TRICKSTER FILM 公式サイト<http://www.freakout-movie.com> 3/5より新宿K's cinema、渋谷アップリンクにて公開 公開記念イベント開催決定!! ●『FREAKOUT』公開記念!! トーク&ライブ ギャーテーズの角田大龍氏が参戦し、ギャーテーズ秘蔵ライブ映像とともにその軌跡を語ります。また、松江哲明監督と山下敦弘監督のトークや、スペシャルゲストによるミニライブもあり。 ※登壇者は諸事情により当日変更となる場合も御座います。予め御了承ください。 【日時】3月6日(日)OPEN12:00 //START13:00 【場所】ネイキッドロフト(新宿)<http://www.loft-prj.co.jp/naked/> 【出演】角田大龍(ギャーテーズ)、松谷健(CAPTAIN TRIP RECORD 代表)、小林健二(アーティスト)、山下敦弘監督(『リンダリンダリンダ』『天然コケッコー』他)松江哲明監督(『童貞。をプロデュース』『ライブテープ:他)、松本章(ふーてんき音楽・ライター)、ほかスペシャルゲスト来場予定。 【チケット】前売1,300円/当日1,500円(共に飲食代別) 前売りはローソンチケット【L:36779】&ネイキッドロフトHP にて発売中!! ●『FREAKOUT』公開記念ライブ  映画の公開を記念して、ギャーテーズ出演のライブイベント決定! 詳細は近日発表。 【日時】3月23日(水) 【場所】下北沢ガーデン <http://www.gar-den.in/pc/index.php>
盲獣VS一寸法師 異色のキャストです。 amazon_associate_logo.jpg
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日本映画界期待の新鋭・石井裕也監督「今の時代は、面白いだけじゃダメ」

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1983年生まれの石井裕也監督。
「"中の下"って、バブル以降に育ったボクらの世代に共通する意識。
思った以上に、共感してくれた人が多かった」
 上がる上がるよ消費税、金持ちの友達一人もいない 来るなら来てみろ大不況、そのときゃ政府を倒すまで 倒せ倒せ政府~♪  シジミ工場の社歌とは到底思えない、アナーキーかつ本音むきだしな歌詞で各地の劇場で爆笑を呼んだ石井裕也監督の商業デビュー作『川の底からこんにちは』。劇中でヒロインが口にする「どうせ、中の下ですから」という台詞は、長引く不況にあえぐ今の日本社会の気分とマッチして、本作はスマッシュヒットに。現在28歳の石井監督は本作で「第53回ブルーリボン賞」監督賞を最年少で受賞。さらに、昨年10月にはヒロインを演じた満島ひかりとの入籍を発表したことでも話題を呼んだ。2月26日(土)に『川の底からこんにちは』がDVDリリースされるのを記念して、日本映画界期待の石井監督が日刊サイゾーに登場。気になるあのことも聞いちゃいました。 ――石井監督、この度は入籍に受賞、おめでとうございます! 石井裕也監督(以下、石井) ありがとうございます。
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石井裕也監督の作品では"疑似家族"が描かれる
ことが多い。「ボクは血の繋がりはさほど気に
しない。でも、人と人との繋がりには興味が
ありますね」。
――大阪芸術大学の卒業制作『剥き出しにっぽん』(05)がPFFグランプリを受賞して注目されていた石井監督にとって、『川の底からこんにちは』は念願の商業デビュー作。PFFスカラシップ作品として、企画をプレゼンして製作費を獲得したわけですね。 石井 そうです。ボクの場合は、企画書ではなく、完成した脚本をプロデューサーに読んでもらったんですが、最初の脚本はお蔵入りしました(苦笑)。どん底状態の主人公が開き直ってスゴ味を発揮するというストーリーは『川の底――』と同じだったんですが、最初の脚本では39歳のグラビアアイドルが主人公で、かなりヤバい人という設定でした。生理的にエグい描写もあり、プロデューサーから「これはヤメてくれ」とダメ出しされましたね。けっこう時間をかけて書いた脚本でしたが、今考えるとお蔵入りして良かったと思います(笑)。その後、主人公が男になったり、女になったりして、今の形に収まったんです。 ――39歳のグラビアアイドルのサバイバルものとは強烈ですね(笑)。"中の下"というモチーフは最初からあったんですか? 石井 いえ、最初は考えていませんでした。その後、東京で派遣OLやっていたヒロインが故郷でシジミ工場を建て直すというストーリーに落ち着いたんですが、脚本を書きながらプロデューサーと「何かが足りないよね」という話になったんです。「今は面白いだけじゃ勝てない時代だよね」「面白さに、+αが必要じゃない」と。そこで、すでにヒロインの「私、中の下ですから」という台詞は脚本に書いていたので、これじゃないかと。「これをフックにしていけば、ただの面白いだけの作品じゃなくて、もうひとつ上のステージに行けるんじゃないか」と話したんです。それから"中の下"という価値観を前面に押し出した形ですね。プロデューサーからの指摘は重要でした。 ――これまでも独特なパワーとテイストを放っていた石井作品を、より際立たせたのがヒロイン・佐和子役の満島ひかりさん。おふたりの出会いは? 石井 最初は、この作品の顔合わせですね。主演俳優のキャスティングはプロデューサーに頼んでいたんです。それでプロデューサーから「この人、主演にするから」と言われ、じゃあ一度会おうと。 ――初対面の場で満島さんから「私を使わないと後悔しますよ」と言われたそうですね?
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流れに流されて生きてきた佐和子(満島ひかり)
は父の入院をきっかけに、倒産寸前のシジミ
工場を継ぐことを決意。ひと癖ふた癖ある従業
員たちを束ねられるか?
石井 はい、言われました(笑)。顔合わせの席は、ちょっとお互いにケンカ腰でしたね。いや、ケンカ腰という表現は良くないなぁ(苦笑)。でも、まぁ、フツーじゃねぇなぁと。他の作品でも俳優と顔合わせしましたけど、フツーは初対面から、そういう暴挙に走る人はいませんよね。さすがに、開口一番の言葉が「後悔しますよ」じゃないです。それじゃあ、まんまドラマですよ(笑)。 ――日刊サイゾーでも『愛のむきだし』(09)で満島さんをインタビューしましたが(参照記事)、非常にユニークな方ですね。いつも、あんな感じなんですか? 石井 いや、逆にボクは取材の場で彼女がどんな感じなのかは知りませんから(笑)。 ●石井作品はコンテなし、カット割りもなし! ――ヒロイン・佐和子を演じた満島さんの「中の下ですから」とつぶやく前半のイケてない感じから、社歌をきっかけにシジミ工場を建て直そうとする開き直りぶりへの跳躍がお見事。前半のダメダメ感を漂わせている細かい仕草は、石井監督の演出? 石井 そうですね。前半のキャラクターづくりに関しては細かく演出しました。後半のブチ切れ演技は彼女が得意なことは分かっていたので、東京でのOL生活を前半に撮影して、彼女のテンションをなるべく抑えるように細かく演出しました。逆に後半は、演出はラフなものにしています。前半と後半で演出の仕方は変えましたね。前半抑えていた彼女が後半に感情を爆発させるシーンは、狙い通りに行ったと思います。でも、彼女が開き直る朝礼の場面はこの作品のキモになるものだったので、うまく撮影できるかどうかものすごく心配で、怖くて怖くてたまらなかったんです。 ――満島さんはハードルとなるシーンを鮮やかにクリアして、石井監督の期待に応えてみせたわけですね。佐和子がやる気のない従業員たちに啖呵を切る朝礼シーンは名場面ですが、必ずしも石井監督のイメージの通りではないんでしょうか? 石井 もちろん違います。でも、自分のイメージを強要するのは違うとボクは思うんです。映画って、やっぱりみんなで作るものですから。ボクのイメージと違うから、ここはこう直してくれと言うのは違うんじゃないか。こうした方がもっと面白くなるから、こうしてくれという言い方ですね。ボクはコンテを描かないし、カットも割らないし、脚本の読み合わせもしない。とりあえず、現場に行ってから1回やってみようと。そこから、「あぁ、やっぱりダメか」と悩みながら、細かく細かく撮り直して、現場でできるMAX状態に持っていくんです。朝礼のシーン、ボクはすんなりと2テイクぐらいで撮り終えたつもりだったんですが、DVDの特典のメイキング映像を見ていたら、かなりテイク数を重ねているのが分かって、自分でも驚きました。あんまり細かくテイクし直しているので、彼女(満島ひかり)は退屈しかかってましたね(苦笑)。
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叔父さん(岩松了)から連絡をもらい、5年
ぶりに故郷に帰ってきた佐和子(満島ひかり)。
工場の跡取りと知り、バツイチ子持ちの恋人
(遠藤雅)が強引に付いてきた。
――DVDの特典映像も要チェックですね。石井監督が作詞した「木村水産 新社歌」が大変なインパクト。あの社歌はどのようにして生まれたんですか? 石井 普段はダメな人たちが一生懸命になる姿を描きたかったんです。ボクとしては有意義なことを一生懸命やるよりも、どうでもいいことを懸命にやることのほうが尊いように思えるんです。歌詞はすんなり書けました。歌詞の内容が反体制的であるとも言われましたが、ボクとしてはもちろん風刺的な意味合いはありますが、ナンセンスの範疇に入るものだと思っています。意味のないことをみんなが集まって、熱中していることが感動を呼ぶんじゃないでしょうか(笑)。個人的に社歌とか校歌とかって好きなんです。無意味なものが好き。それに映画なら、歌ったり踊ったりしたほうがいいなと。楽しいじゃないですか。まぁ、下手にやると映画そのものを壊してしまうので、あの社歌がギリギリのレベルだったと思います。あの社歌に振り付けを入れたらアウトだったでしょうね。 ●シンボルとしての汚物、そして疑似家族について ――無意味なことへの情熱が感動を呼ぶ、ですか。石井監督の作品と言えば、『剥き出しにっぽん』もそうでしたが、肥だめやウンコがよく出てきますよね。 石井 はい(笑)。自主制作時代のボクの作品に出てきたウンコは、すべて小児趣味的なものでしたね(苦笑)。海外の映画祭などでも、記者会見や質疑応答などで、「お前の作品に出てくるウンコにはどんな意味があるんだ?」とよく訊かれます。そのときは、まぁ、ボクもマジメに答えるようにしているんですが、さすがにもう短絡的にウンコを出すことはやめようと考えています(笑)。でも、今回の場合は、小輪廻というか、湖とシジミの関係、人間の生と死の関係を含めて、すべては循環しているという意味付けがあったんですけどね。ある種、人の嫌悪感を煽るウンコをまき散らしながらも、ひとつの希望に結実する物語を思い付き、これで行けるなと思ったんです。言葉を換えれば、クソみたいな世の中にも、ほんのちょっとした希望を見つけることができる映画にしたかったんです。 ――自主制作時代は無意味にウンコを出していたけど、商業作品ではきちんと辻褄のあったウンコを出すようになったわけですか。 石井 そうです(笑)。普段は目を背ける人間の汚い部分に目を向けることで、それでも"人間って、やっぱりいいじゃん"と思えるものにしたかったんです。ウンコは言わば、そういう人間の汚い部分のメタファーですね。今回はうまくシンボルになったと思います。でも、まぁ、もういい加減、汚物ネタは本当にやめようと思います(笑)。 ――でも、そういう泥臭さ、人間臭さは、熊切和嘉監督や山下敦弘監督らを輩出した大阪芸術大学出身者のいわば芸風でもありますよね? 石井 そうですね。ボクは熊切監督や山下監督のことは知らずに大阪芸術大学に入ったんですけどね。でも、ボクに"ダイゲイ論"を語らせると、ウルサイですよ(笑)。大阪芸術大学のある南大阪って、遊ぶ場所がなくて、物づくりに励むしかないんですよ。また、地理的に閉鎖的なこともあり、縦の繋がりが強くて、校風というか"ダイゲイ精神"みたいなものが脈々と受け継がれているのは確かですね。それに大学の近くの街で16mmカメラを回していたら、外部の人間が見たら似たような作品にどうしてもなってしまう。ちょっと退廃的でブルージーな感じになるんです(苦笑)。
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工場の経営だけでなく、父親の忠男(志賀
廣太郎)の看病や血の繋がらない加代子の世話
にも追われる佐和子だが、逆に忠男や加代子
に励まされている自分に気づく。
――なるほど。もう少し、石井監督の作風について聞かせてください。『川の底――』のヒロイン・佐和子は寄る辺なき存在から、疑似家族、そして最後には拡大家族の中心へと成長していきます。石井監督の作品は、駆け落ちや血の繋がらない人たちが疑似家族を形成していく物語が多いように思いますが......。 石井 ボクは昔から幼友達や同級生たちでグループを作っちゃうんです。けっこう家族的な繋がりを持つグループで、誰かが他のヤツにバカにされたら、みんなでやり返しに行くみたいな感じなんですよ。ボクが子どもの頃に母親が亡くなり、片親で育ったというのがあるのかもしれません。「石井は疑似家族を作ろうとしているんじゃないか」と友人に指摘されたことがあって、それって当たっているかもしれないなと思いましたね。自分では自分のことを分析したりしないので、自分のことは分からないもの。映画の中でも無意識に描いているのかも知れません。家族の在り方を問う、みたいなことは考えてないですけど、人と人の繋がりに興味あるのは確かですね。駆け落ちに関しては、2つ興味があるんです。1つは駆け落ちに失敗してしまった人に興味が湧くんです(笑)。それと2つめは、理想論なのかもしれませんが、恋とか愛のために、それ以外のものを全部捨てられる心意気ってスゴいなぁと。自分は大切なものを1つだけ選ぶことすら難しいのに、それ以外のものは全部捨ててしまうなんて到底無理。憧れますね。 ――石井監督は、実生活で新しい家庭を持ったわけですね。満島さんとの馴れ初めについて、少し聞かせてください。『川の底――』の製作期間中にどちらかからアクションがあったんですか? 石井 製作中は一切、そういうことはありませんでしたよ。う~ん、その件は『川の底――』の売りにはしてないので、ノーコメントってことにしてもらえませんか(笑)。 ――では今後、満島さんを起用した作品の予定は考えています? 石井 いやいや、それはないんじゃないかと思います。一緒に仕事......、というのは今はちょっと考えられないですね(苦笑)。  石井監督、プライベートな部分にまで踏み込んでスミマセン。でも、作品論に関しては雄弁な石井監督が、奥さまの話題になるとしきりに照れているのが印象的でした。石井監督の言葉をそのまま受け取ると、新鋭監督と話題のミューズとのコラボレーションが満喫できるのは『川の底からこんにちは』だけということに当面はなりそう。数々の奇跡を生み出した『川の底からこんにちは』、見逃すと後悔しますよ! (取材・文=長野辰次) kawanosoko_sub4.jpg ●『川の底からこんにちは』 監督・脚本/石井裕也 出演/満島ひかり、遠藤雅、相原綺羅、志賀廣太郎、岩松了、稲川実代子、菅間勇、猪股俊明、牧野エミ 発売元/IMAGICA TV 販売元/紀伊國屋書店 2月26日(土)DVDリリース 作品公式サイト <http://kawasoko.com> ●いしい・ゆうや 1983年埼玉県出身。大阪芸術大学の卒業制作として『剥き出しにっぽん』(05)を監督。PFF2007グランプリ&音楽賞を受賞。長編第2作『反逆次郎の恋』(06)はゆうばり国際ファンタスティック映画祭などに入選。大阪市の映像文化振興事業として、長編第3作『ガール・スパーク』(07)を制作。長編第4作『ばけもの模様』(07)は香港国際映画祭アジアン・デジタル・アワードにノミネート。さらに香港で開催されたアジアン・フィルム・アワードにて、アジアで最も期待される若手監督に贈られる第1回エドワード・ヤン賞を受賞。ロッテルダム国際映画祭、および香港国際映画祭にて、上記4作品の特集上映も行なわれ、反響を呼んだ。第19回PFFスカラシップ作品として『川の底からこんにちは』が2010年に公開。同年、『君と歩こう』(09)も公開された。『川の底からこんにちは』(09)はブルーリボン賞監督賞、ヨコハマ映画祭新人監督賞&主演女優賞、モントリオールファンタジア映画祭最優秀作品賞&最優秀女優賞など多数受賞。新作『あぜ道のダンディ』(10)は2011年公開予定。
川の底からこんにちは こんにちは。 amazon_associate_logo.jpg
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ビターな味わいが広がるスイーツムービー『洋菓子店コアンドル』

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(C)2010『洋菓子店コアンドル』製作委員会
 2月14日のバレンタインデーから3月14日のホワイトデーに至る期間は、女子・男子ともに年間を通じて"スイーツ感度"が最も高くなる1カ月。江口洋介と蒼井優が初共演の映画『洋菓子店コアンドル』(アスミック・エース配給、2月11日公開)は、この時期にぴったりの"目で味わうご馳走"だ。  鹿児島のケーキ屋の娘・なつめ(蒼井)は恋人を追って上京し、有名洋菓子店「パティスリー・コアンドル」を訪ねる。恋人は辞めた後だったが、なつめはオーナーでシェフパティシエの依子(戸田恵子)に頼み込み、店で働くことに。一方、コアンドルに時折現れる元天才パティシエ・十村(江口)は、過去のある事件のせいでケーキを作れなくなっていた。  依子ら店のパティシエたちからケーキ作りを学びながら、十村や常連客との出会いを通じて、自分の生き方や夢を見つめ直していくなつめ。十村もまた、何事にもまっすぐな気持ちをぶつけるなつめに、心を揺さぶられていく。そんな折、晩さん会のデザートを作る契約を取った依子が倒れて大けがを負ってしまい、コアンドルは最大のピンチを迎える。  実際に名店のシェフパティシエが提供したという優美なスイーツの数々が、瑞々しくつややかな映像で映し出され、出来たてのケーキから漂う甘い香りや、口の中に広がる繊細な風味までもがスクリーンから伝わってくるかのよう。  一方で、なつめや十村が経験する人生は決して甘くない。失恋に挫折、取り返しのつかない過ち。それでも、そうしたビターな味わいがあるからこそ、苦悩と努力を経て手にする「幸せ」が一層甘美なものになるのかも。  メガホンを取ったのは若手実力派の深川栄洋監督。堀北真希が悪女を演じたサスペンス『白夜行』(公開中)がベルリン国際映画祭のパノラマ部門に出品されることが決まったほか、櫻井翔・宮崎あおい共演の医療ヒューマンドラマ『神様のカルテ』も8月公開が予定されるなど、タイプの異なる話題作が目白押しだ。  エンディングに流れる主題歌「明日、キミと手をつなぐよ」でメジャーデビューを果たしたのは、福岡在住のシンガーソングライター、ももちひろこ。フレッシュなさわやかさと素材の良さを感じさせる歌声は本作との相性も抜群。最後までしっかり"美味しい感動"を味わっていただきたい。 (文=eiga.com編集スタッフ・高森郁哉) 「洋菓子店コアンドル」作品情報 <http://eiga.com/movie/55511/>
洋菓子店コアンドルの幸せレシピ 激甘。 amazon_associate_logo.jpg
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キレ味、喉ごしが違うアクション! 黒帯美少女の"涙拳"が炸裂『KG』

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ノーワイヤーで宙を舞う"カラテガール"こと武田梨奈。
スカートを覗こうとするヤツは容赦しないぞ!(c)2011 東映ビデオ アマゾンラテルナ
 現役女子高生ながら空手の有段者という経歴を引っさげ、『ハイキック・ガール!』(09)で主演デビューを飾った武田梨奈。細身のボディから繰り出すキレのあるハイキック、スタントを一切使わない爽快感に満ちたガチンコファイトでアクション映画愛好家たちのハートの渇きをたちまち潤してみせた。志穂美悦子の引退以降、長きにわたって空位となっていた和製アクション女優の誕生だった。『ハイキック・ガール!』同様に全アクションシーンをノーワイヤー、ノーCG、ノースタントで撮影したのが、武田梨奈主演作第2弾『KG カラテガール』だ。前作以上の強敵や見せ場が用意されている。    1991年6月生まれの武田梨奈の特技はヌンチャク。ネイルアートや英検じゃなくて、履歴書の特技欄はヌンチャクですよ! 空手歴は10歳から。父親が空手の大会で負けるのを見て、「私がお父さんのカタキをとる」との決意を抱き、空手道場に入門。プリクラやお菓子作りじゃなくて、敵討ちに情熱を捧げた10代ですよ! 現在、琉球少林流空手道月心会二段という黒帯保持者。痺れるようなプロフィールの持ち主じゃないですか。08年に映画プロデューサーの西冬彦氏に見出され、『ハイキッグ・ガール!』に初主演。同作の劇場公開時には生イベント"きみ、蹴られたいの? イクよ! 武田梨奈さんに蹴られたい人、集まれ~!!"と称して、観客の中から希望者にハイキックをプレゼントするというデンジャラスなファンサービスを敢行している。もちろん、参加者にはキックミットを持たせていたわけだが、彼女のハイキックを実際に浴びたファンは心身ともにジンジンと痺れまくった。
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洗脳されている実の妹・菜月(飛松陽菜)と
闘うはめになった彩夏(武田梨奈)。父親か
ら同じ空手を学び、実力はほぼ互角。どーする彩夏!?
 「モーニング娘。オーディション2005」の3次審査まで進んだ武田梨奈だが、ルックスはどちらかというと古風顔。切れ長の奥二重で、スクリーンの中の彼女は今にも泣きそうな表情で、襲いかかるヒットマンたちに鋭い突きと蹴りを見舞う。ひとり敵を倒すごとに、ひと粒の涙を流しているかのようだ。ジャッキー・チェンは酔えば酔うほどに強くなる『酔拳』(78)で一躍人気者になったが、武田梨奈の拳は"涙拳(るいけん)"と呼びたい。涙を流した分だけ、彼女はタフになる。そして、彼女が泣きはらした後には、悶絶した大男たちが累々と重なり合うことになる。  前作では"壊し屋"軍団との激闘を演じた武田梨奈だが、本作の敵はよりクレイジーだ。ヒロインの名前は、紅彩夏。少女時代の彩夏は、妹の菜月と共に父・紅達也(中達也)の道場で空手修行に励んでいた。そんな折、達也が持つ"伝説の黒帯"を手に入れるため、田川(堀部圭亮)率いる悪の組織が道場を襲撃。達也と彩夏を殺害し、菜月を拉致してしまう。時は流れ、彩夏(武田梨奈)は人知れず美しく成長。一度は殺された彩夏だったが、瀕死状態の父が最後の力を振り絞って喝を入れ、奇跡的に蘇生を果たしたのだ。  「なんでやねん!」「んなバカな!」という観客のツッコミを浴びながらも、物語はひるまず進行する。"伝説の黒帯"を手に入れた田川は世界の格闘界を牛耳り、いたいけな少年少女を殺人兵器に育て上げ、要人暗殺やテロを請け負う闇ビジネスで巨利を得ていた。一方、横浜のシネコンでアルバイトしていた彩夏は館内にいたひったくり犯を得意の空手技で撃退。その様子がネットで広まり、悪の組織の知るところとなる。自分が奪った黒帯が偽物だったことに気づいた田川は、怒り心頭。打倒彩夏のため、最凶の刺客を送り込む。それは幼いときに彩夏と生き別れた妹の菜月(飛松陽菜)だった。菜月は悪の組織によって洗脳された格闘マシンと化していた。同じ血が流れ、同じ空手を学んだ妹との対決を彩夏は余儀なくされる。"涙拳"はより悲壮感を増すのだった。
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"伝説の黒帯"を執拗に狙う悪の組織のボス(堀部
圭亮)。紅達也(中達也)の一撃を受け半身
不随になるも、障害者であることを盾にさらなる
ワルぶりを発揮。
 今回の見どころは、前作では型を披露するだけだった特技のヌンチャクを駆使してのガチンコアクション。また、妹の菜月を救出するために、悪の組織の地下アジトへ単身で殴り込みを掛けるシーンは、なぜか学生服。ミニスカでのハイキックや回し蹴りがノンストップで連打される。ゆるいストーリーとのギャップが激しい。スクリーンを息を詰めて凝視しすぎ、思わず呼吸困難に陥ってしまいそうだ。次世代アクションスター候補の飛松陽菜とのハイスピードバトルの他に、身長190cm体重95kg空手四段の猛者リチャード・ウィリアム・ヘセルトンと激突するクライマックスが待ち受けている。メジャー系アクション大作『SP 野望篇』『SP 革命篇』にも出演している堀部圭亮の無国籍風な悪役ぶりからも目が離せない  宣伝スタッフを通して武田梨奈にメールインタビューを申し込んだところ、10代の女の子らしいカワイイ手書き文字が綴られたPDFが返ってきた。ミニスカ姿でのアクションシーンは恥ずかしくなかった? というこちらの質問に対して、「前作『ハイキック・ガール!』もスカートだったので、慣れました(笑)。制服姿の女の子が戦うのって、ある意味かっこいいなと思いました。前回も体を張りましたが、今回はそれプラス、美しさや派手さを目指そうと、かなり高度な技にも挑んでいます」とカワイイ文字とは裏腹に頼もしい返答。  前作では「共演者の顔を蹴るのが辛い」と語っていたけど、それは克服できた? という質問には、「正直、克服できていません。一瞬でも間違うと大ケガになるので......。でも、たくさん練習して、共演者と信頼関係を築くことで撮影することができたんです」との真摯なコメントが書き込まれてあった。また、目標とする俳優にはジャッキー・チェンと武田鉄矢の名前を挙げ、稽古や撮影のない日は腹筋・背筋・ストレッチ運動を済ませてから、友達とお茶したり、カラオケしたり、健康ランドに行ったりしているとのこと。昭和世代を和ませる素顔ですなぁ。  クランクイン前の武田梨奈の練習風景を、『マッハ!!!!!!!!』(03)、『チョコレート・ファイター』(08)のプラッチャヤー・ピンゲーオ監督がタイから来日して見学している。『チョコレート・ファイター』のアイドル顔のヒロイン、ジージャとの"空手vs.ムエタイ"競演企画を西プロデューサーには進めてほしいところだ。勝新太郎と"片腕ドラゴン"ジミー・ウォングが対決した『新座頭市 破れ!唐人剣』(71)みたいに2バージョンのエンディングもいいじゃないか。すでに主演作第3弾『女忍 KUNOICHI』の公開が3月に控えている武田梨奈だが、ぜひともリアルアクション映画の復興にいっそうの活躍をしてもらいたい。  『KG』は現在、横浜ブルグ13と新宿バルト9の2館で上映中。"涙拳"という名の秘拳が、あなたのツボを直撃する! (文=長野辰次) kg4.jpg 『KG カラテガール』 監督/木村好克 脚本・アクション監督/西冬彦 主題歌「Ready Steady Go!」武田梨奈 出演/武田梨奈、飛松陽菜、中達也、横山一敏、リチャード・ウィリアム・ヘセルトン、入山法子、滝沢沙織、堀部圭亮 配給/CJ Entertainment Japan、ティ・ジョイ 2月5日より横浜ブルグ13、新宿バルト9ほか全国順次公開中 <www.t-joy.net/kg>
ハイキック・ガール! お見事! amazon_associate_logo.jpg
●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第104回] 高齢化するニートはどこに行くのか? "戸塚校長"のその後『平成ジレンマ』 [第103回]堀北真希&高良健吾主演作『白夜行』闇に生きる"影男"の密やかなる喜び [第102回]園子温の劇薬ムービー『冷たい熱帯魚』"救いのない結末"という名の救い [第101回] NHKが放映しない"裏プロジェクトX" AV界のカリスマ監督『YOYOCHU』 [第100回]エロスとタブーを交配した"至高の美女" 禁断のサイエンスホラー『スプライス』 [第99回]2010年に活躍した女優を勝手に表彰! 満島ひかりに"面倒くさい女"大賞を [第98回]大人だって"ドラえもん"にいて欲しい 残念男の逆転劇『エリックを探して』 [第97回]平凡な高校生デイヴは2度変身する!原点回帰のヒーロー『キック・アス』 [第96回]村上春樹の超絶ベストセラーの映画化『ノルウェイの森』はどこにある? [第95回]実在した"奇妙な高額バイト"の顛末 心理サスペンス『エクスペリメント』 [第94回]"アル中"カメラマンの泣き笑い人生『酔いがさめたら、うちに帰ろう。』 [第93回]朝ドラと異なる映画『ゲゲゲの女房』ゴールなき"貧乏耐久"2人3脚走 [第92回]バラエティーでの実績は通用するか? テリー伊藤の初監督作『10億円稼ぐ』 [第91回] 不謹慎なる社会派エンタテイメント『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』 [第90回]"世界のナベアツ"大阪府知事に就任! 政治コメディ『さらば愛しの大統領』 [第89回]自分の恋愛もプロデュースする女優、ドリュー・バリモア主演『遠距離恋愛』 [第88回]スタローンが立ち上げた"筋肉共和国"男たちの祭典『エクスペンダブルズ』 [第87回]元"おはガール"安藤聖の再起動ドラマ 就職氷河期を生きる『バカがウラヤマシイ』 [第86回]マイノリティーは"理想郷"を目指す。筒井文学の金字塔『七瀬ふたたび』 [第85回]清純派・佐藤寛子が美しく"変態"! 官能サスペンス『ヌードの夜──』 [第84回]死を意識して、ギラギラ輝く男たち! 三池節、大バクハツ『十三人の刺客』 [第83回] 女を食い物にする男どもは全員処刑! モダン社会の闇を暴く『ミレニアム』 [第82回] "企画AV女優"たちの青春残酷物語 性なる鎮魂劇『名前のない女たち』 [第81回]猫を見れば、人間社会が見えてくる! 世界の人気猫大集合『ネコを探して』 [第80回]原恵一監督の新作は辛口ファンタジー 退屈な"日常生活"を彩る『カラフル』 [第79回]米軍に実在した"超能力部隊"の真実!? ムー民、必見『ヤギと男と男と壁と』 [第78回]戦場から帰還した夫は"芋虫男"だった! ヤクザ監督の反戦映画『キャタピラー』 [第77回] 白ユリの花開くガールズの妖しい世界 H系ホラー『ジェニファーズ・ボディ』 [第76回] 爽やか系青春ゾンビ映画にホロリ......夏休みは『ゾンビランド』に集結せよ [第75回] "生きる"とは"見苦しい"ということ 藤沢周平の時代活劇『必死剣 鳥刺し』 [第74回]初恋の美少女は200歳の吸血鬼だった! 北欧産のホラー映画『ぼくのエリ』 [第73回] "三億円事件"の真相を解き明かす! 桜タブーに挑んだ『ロストクライム』 [第72回/特別編] 上映反対で揺れる問題作『ザ・コーヴ』"渦中の人"リック・オバリー氏の主張 [第71回] 女子にモテモテになる方法、教えます。軟派少年の実話物語『ソフトボーイ』 [第70回] 下町育ちの"北野少年"が見た現代社会 人間同士の食物連鎖『アウトレイジ』 [第69回] "リアルと虚構の狭間"を生きる男、アントニオ猪木初主演作『アカシア』 [第68回] ヒーローも神もいない現代社会の惨劇 井筒監督の問題作『ヒーローショー』 [第67回] アイドルが地獄で微笑む『戦闘少女』ギャグ×血しぶき×殺陣の特盛り丼! [第66回]アナーキーな"社歌"で生産性アップ! 満島ひかり大進撃『川の底からこんにちは』 [第65回]超ヘビー級なシリアス劇『プレシャス』"家族"という名の地獄から脱出せよ [第64回]乱れ咲く"悪の華"ゼブラクイーン! 仲里依紗が過激変身『ゼブラーマン2』 [第63回] オタク王が見出した"夢と現実"の接点 ティム・バートン監督作『アリス──』 [第62回] バッドテイストな感動作『第9地区』 アナタはエビ人間とお友達になれるか? [第61回]スコセッシ監督の犯罪アトラクション『シャッターアイランド』へようこそ! [第60回]宮崎あおいの"映画代表作"が誕生! 毒を呑んでも生き続けよ『ソラニン』 [第59回]"おっぱいアート"は世界を救えるか? 母乳戦士の記録『桃色のジャンヌ・ダルク』 [第58回]現代に甦った"梶原一騎ワールド"韓流ステゴロ映画『息もできない』 [第57回]命知らずの変態レポーター、中東へ! 史上最大のどっきり?『ブルーノ』 [第56回]仲里依紗がアニメから実写へと跳躍! 母娘2代の時空旅行『時をかける少女』 [第55回]ビグロー監督はキャメロンより硬派! 人間爆弾の恐怖『ハート・ロッカー』 [第54回] "空気を読む"若者の悲劇『パレード』楽しいルームシェア生活の行き先は? [第53回]社会の"生け贄"に選ばれた男の逃亡劇 堺雅人主演『ゴールデンスランバー』 [第52回]『男はつらいよ』の別エンディング? "寅さん"の最期を描く『おとうと』 [第51回]ひとり相撲なら無敵のチャンピオン! 童貞暴走劇『ボーイズ・オン・ザ・ラン』 [第50回]ヒース・レジャーが最後に見た夢の世界 理想と欲望が渦巻く『Dr.パルナサスの鏡』 [第49回]トニー・ジャーは本気なんジャー! CGなしの狂乱劇再び『マッハ!弐』 [第48回]全米"オシャレ番長"ズーイー、見参! 草食系に捧ぐ『(500日)のサマー』 [第47回]市川崑監督&水谷豊"幻の名作"『幸福』28年の歳月を経て、初のパッケージ化 [第46回]押井守監督、大いなる方向転換か? 黒木メイサ主演『アサルトガールズ』 [第45回]ドラッグ漬けの芸能関係者必見!"神の子"の復活を追う『マラドーナ』 [第44回] 暴走する"システム"が止まらない! マイケル・ムーア監督『キャピタリズム』 [第43回]"人は二度死ぬ"という独自の死生観『ガマの油』役所広司の監督ぶりは? [第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』 [第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』 [第40回]"涅槃の境地"のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』 [第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』 [第38回]海より深い"ドメスティック・ラブ"ポン・ジュノ監督『母なる証明』 [第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』 [第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』 [第35回]"負け組人生"から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』 [第34回]2兆円ペット産業の"開かずの間"に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』 [第33回]"女神降臨"ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』 [第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』 [第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』 [第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇 [第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』 [第28回]"おねマス"のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』 [第27回]究極料理を超えた"極地料理"に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』 [第26回]ハチは"失われた少年時代"のアイコン  ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊! [第25回]白熱! 女同士のゴツゴツエゴバトル 金子修介監督の歌曲劇『プライド』 [第24回]悪意と善意が反転する"仮想空間"細田守監督『サマーウォーズ』 [第23回]沖縄に"精霊が暮らす楽園"があった! 中江裕司監督『真夏の夜の夢』 [第22回]"最強のライブバンド"の底力発揮! ストーンズ『シャイン・ア・ライト』 [第21回]身長15mの"巨大娘"に抱かれたい! 3Dアニメ『モンスターvsエイリアン』 [第20回]ウディ・アレンのヨハンソンいじりが冴え渡る!『それでも恋するバルセロナ』 [第19回]ケイト姐さんが"DTハンター"に! オスカー受賞の官能作『愛を読むひと』 [第18回]1万枚の段ボールで建てた"夢の砦"男のロマンここにあり『築城せよ!』 [第17回]地獄から甦った男のセミドキュメント ミッキー・ローク『レスラー』 [第16回]人生がちょっぴり楽しくなる特効薬 三木聡"脱力"劇場『インスタント沼』 [第15回]"裁判員制度"が始まる今こそ注目 死刑執行を克明に再現した『休暇』 [第14回]生傷美少女の危険な足技に痺れたい! タイ発『チョコレート・ファイター』 [第13回]風俗嬢を狙う快楽殺人鬼の恐怖! 極限の韓流映画『チェイサー』 [第12回]お姫様のハートを盗んだ男の悲哀 紀里谷監督の歴史奇談『GOEMON』 [第11回]美人女優は"下ネタ"でこそ輝く! ファレリー兄弟『ライラにお手あげ』 [第10回]ジャッキー・チェンの"暗黒面"? 中国で上映禁止『新宿インシデント』 [第9回]胸の谷間に"桃源郷"を見た! 綾瀬はるか『おっぱいバレー』 [第8回]"都市伝説"は映画と結びつく 白石晃士監督『オカルト』『テケテケ』 [第7回]少女たちの壮絶サバイバル!楳図かずおワールド『赤んぼ少女』 [第6回]派遣の"叫び"がこだまする現代版蟹工船『遭難フリーター』 [第5回]三池崇史監督『ヤッターマン』で深田恭子が"倒錯美"の世界へ [第4回]フランス、中国、日本......世界各国のタブーを暴いた劇映画続々 [第3回]水野晴郎の遺作『ギララの逆襲』岡山弁で語った最後の台詞は...... [第2回]『チェンジリング』そしてイーストウッドは"映画の神様"となった [第1回]堤幸彦版『20世紀少年』に漂うフェイクならではの哀愁と美学

高齢化するニートはどこに行くのか? "戸塚校長"のその後『平成ジレンマ』

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マスコミのカメラに対して、常に不敵な笑みを浮かべる「戸塚ヨットスクール」の戸塚宏校長。"教育や社会の荒廃は、マスコミが原因"だと語る。(c)2010東海テレビ放送
 訓練中に生徒2人が死亡、さらに訓練から逃れるためにフェリー船から海に飛び込んだ生徒2人が行方不明となった。1980年代に日本中を騒がせた「戸塚ヨットスクール事件」だ。83年に逮捕された戸塚宏ヨットスクール校長は「体罰は教育」と無罪を主張したが、裁判では傷害過失致死罪で懲役6年の実刑が下された。この事件をきっかけに教育界では"体罰"はタブーとなる。06年に戸塚校長は刑務所から出所し、ただちにヨットスクールに復帰。マスコミの大バッシングを受けたヨットスクールだが、手に負えなくなった子どもを預ける親は今も絶えることがない。戸塚校長復帰後のヨットスクールの内情を10カ月間にわたって密着取材したのが、東海テレビ放送制作のドキュメンタリー『平成ジレンマ』。10年5月に愛知・岐阜・三重の3県でローカル放映されたものに、取材期間中に飛び降り自殺した女子高生の火葬シーンなどテレビではオンエアできなかった映像を加えた完全版として劇場公開される。 「体罰を止めたために、教育に何が起きたのか。とんでもないことになったんじゃないのか。だから"体罰"は善だったんじゃないのか?」  番組の序盤で、戸塚校長は自身の講演会に集まった人たちに向かって問い掛ける。愛知県美浜町にある「戸塚ヨットスクール」には現在10名前後の訓練生が共同生活を送っている。かつては非行児が中心だったが、最近は20歳を過ぎたニートや引きこもりが多い。入学金315万円の他に毎月の生活費11万円を払わなくてはならないが、息子や娘の家庭内暴力に苦しむ親たちは藁にもすがる思いでヨットスクールに我が子を託する。未成年なら学校や児童相談所が対応してくれるが、成人したニートや引きこもりに対応してくれる施設は他にはないのだ。マスコミからバッシングという名の社会的制裁を受けたことでヨットスクールから体罰は消え、訓練内容は30年前に比べずいぶんと緩やかなものになった。その分、訓練期間は3カ月から1年と延びている。成人している訓練生たちは就労に備え自動車学校に通ったり、調理の実習に励むが、毎朝6時起床・夜10時就寝という規則正しい共同生活に耐えれず、途中で逃げ出してしまうことが多い。  09年10月、3階建てのヨットスクールの屋上から飛び降り自殺した17歳の女子高生の姿をカメラは記録している。入校前の彼女はイジメがきっかけで自宅に引きこもり、リストカットを繰り返していた。途方に暮れていた母親を見かねた戸塚校長が「自傷行為のある生徒は受け入れない」というヨットスクールの原則を曲げて入校させたのだ。同じ境遇の女子生徒と仲良くなり、明るい笑顔を見せていた。協調性を養うためのオカリナの練習にも、向精神薬で震える指で取り組んでいた。しかし、入校からわずか3日目で彼女は屋上から飛び降りてしまう。「また体罰があったのか?」とマスコミがヨットスクールに押し寄せる。唯一入室を許された番組のカメラがヨットスクール内で行なわれた葬儀の様子を映し出す。生徒たちが惜別のオカリナ合奏する中、いつも不敵な笑みを浮かべている戸塚校長が憔悴した表情で正座したまま固まっている。事務所ではヨットスクールを非難する電話が鳴り響く。
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戸塚校長は現在70歳。戸塚ヨットスクールが
無くなれば、ニートや引きこもりを受け入れる
"最後の受け皿"は日本社会から消滅すること
になる。
 09年7月から10年5月にかけてヨットスクールを密着取材した東海テレビ放送の齊藤潤一ディレクターが取材の発端について語った。 「ボクが中学生の頃に『戸塚ヨットスクール事件』が起き、悪いことすると『戸塚ヨットスクールに入れるぞ』とよく言われていました。そのヨットスクールが事件後も存続していることを知ってボク自身が驚いたのが、企画の始まりです。あれだけの騒ぎになったのに、なぜ今もあるのか? その理由を確かめるために戸塚校長にまず会って、ヨットスクールの取材を申し込みました。変なことを言ったら、ぶん殴られるんじゃないかと緊張しましたね(苦笑)。戸塚校長は『今の教育がダメになったのは、すべてマスコミのせいだ』とマスコミ批判を1時間ほどしゃべった後、最後に『撮りたければ、撮ればいい』と素っ気なくOKしてくれました。この人は懐が深いのか、それとも何も考えていないのか、どっちなんだろう? 戸塚校長の人間性の不思議さにも興味を持ちました。怖いもの見たさで、ヨットスクールの取材を始めた部分も正直あるかもしれません」  戸塚校長はカメラの前で、常にアルカイックスマイル然とした笑顔を見せている。齊藤ディレクターは"戸塚スマイル"をこう解説する。 「あの表情はマスコミ向けのものです。あの強気の態度のせいで、誤解されている部分が大きいでしょうね。本当は恥ずかしがり屋なんですが、マスコミの前では"舐められてたまるか"という気持ちをいつも持っているんです。毎週3~4日通い続けることで、ヨットスクール内はフリーパス状態でカメラを回せるようになり、女子高生の葬儀の様子もマスコミで唯一撮影することが許されました。戸塚校長からはことあるごとにマスコミ批判について聞かされましたが、こちらが教育問題について投げ掛けると、熱く語ってくれる人でもあるんです。でも、10カ月間取材した我々に対しても、最後まであの表情は変えませんでしたね」
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東海テレビの齊藤潤一ディレクター。「子ど
もの頃の躾が大事なことを実感しました。自分
にも小学生の娘がいます。でも、ヨットス
クールに預けるのは、ちょっと考えますね」と
実直に話す。
 "平成ジレンマ"と名付けた番組タイトルについて、齊藤ディレクターは語る。 「戸塚ヨットスクールは開校当初は将来のオリンピック選手を育てるための"ジュニアヨットスクール"という名称で、『その頃がいちばん楽しかった』と戸塚校長は話していました。たまたま参加した不登校児が小学校に通うようになったことをマスコミが報道したことから、全国から情緒障害児ばかりが預けられるようになり、生徒数が100人と膨れ上がったんです。事件が起きるとマスコミは一転して、バッシングしました。戸塚校長とヨットスクールを社会的に抹殺したわけです。でもマスコミは戸塚校長を非難するだけで、ヨットスクールの代わりに情緒障害児たちの受け皿になるものを作ろうと提案し、積極的に動いたようには思えません。『平成ジレンマ』というタイトルには、自分も今、所属するマスコミに対しての自省の意味も込めています。答えが簡単に出るものではありませんが、考えるきっかけになれればと思うんです」  といっても番組は、戸塚校長とヨットスクールを擁護するためのものではない。「擁護するつもりなら、最後は更生に成功した卒業生たちを並べて、爽やかな終わり方にしていたと思います」と齊藤ディレクターは言う。実際の番組のエンディングは更生したように見えた卒業生が紹介された職場から姿を消し、戸塚校長が「小さいときに教育しないと効果がない」と唱えているにも関わらず、40歳の引きこもりが新たに入校してくるシーンで終わりを告げる。戸塚校長は『平成ジレンマ』を観て、怒ることもなく、逆に齊藤ディレクターにねぎらいの言葉を掛けることもなかったそうだ。  劇場版ではエンドロール部分にワイプ画面として、訓練生が先輩から小突かれる様子、ヘッドロックを掛けられる様子なども映し出される。現在の戸塚ヨットスクールには体罰は存在せず、これはあくまでも生徒同士のスキンシップということらしい。このエンドロール部分の映像も、テレビ放映時には流されなかったものだ。訓練生、卒業生たちへの配慮から、劇場公開後のDVD化の予定はない。東海エリア以外の人たちにとっては、劇場での上映が唯一の機会となる。改めて問われる体罰の是非、年々高齢化するニート・引きこもり問題、マスメディアの在り方......、様々な問題が知恵の輪のごとく絡み合った"平成ジレンマ"はどうすれば解決の道に向かうことができるのだろうか。試写室が明るくなった後、途方もない絶望感が襲いかかってきた。 (文=長野辰次) heiseij04.jpg 『平成ジレンマ』 ナレーション/中村獅童 プロデューサー/阿武野勝彦 撮影/村田敦祟 音声/戸田達也 編集/山本哲二 監督/齊藤潤一  製作・著作・配給/東海テレビ放送 配給協力/東風 1月29日(土)より名古屋シネマテーク、2月5日(土)よりポレポレ東中野ほか全国順次公開  <http://www.heiseidilemma.jp> ●『平成ジレンマ』公開前夜祭 2月4日(金)『裁判長のお弁当』上映&トーク「テレビと映画、ドキュメンタリーの境界線」 18:30開場/19:00開演 会場/ポレポレ坐(ポレポレ東中野1Fのカフェ)  ゲスト/田中早苗(弁護士)、石井彰(放送作家)、阿武野勝彦(プロデューサー)、齊藤潤一(ディレクター) ●東海テレビドキュメンタリー〈傑作選〉 2月19日(土)『光と影 光市母子殺害事件・弁護団の300日』 2月20日(日)『罪と罰 娘を奪われた母 弟を失くした兄 息子を殺された父』 2月21日(月)『村と戦争』 2月22日(火)『約束 日本一のダムが奪うもの』 2月23日(水)『毒とひまわり 名張毒ぶどう酒事件の半世紀』 2月24日(木)『検事のふろしき』 2月25日(金)『裁判長のお弁当』 数々の受賞歴を持つ齊藤潤一ディレクターと阿武野勝彦プロデューサーのコンビ作を中心とした東海テレビ制作の力作ドキュメンタリーを特集上映 各日14:20~ 会場/ポレポレ東中野
戸塚ヨットスクールは、いま?現代若者漂流 著書/東海テレビ 岩波書店より2月4日(金)発売 amazon_associate_logo.jpg
●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第103回]堀北真希&高良健吾主演作『白夜行』闇に生きる"影男"の密やかなる喜び [第102回]園子温の劇薬ムービー『冷たい熱帯魚』"救いのない結末"という名の救い [第101回] NHKが放映しない"裏プロジェクトX" AV界のカリスマ監督『YOYOCHU』 [第100回]エロスとタブーを交配した"至高の美女" 禁断のサイエンスホラー『スプライス』 [第99回]2010年に活躍した女優を勝手に表彰! 満島ひかりに"面倒くさい女"大賞を [第98回]大人だって"ドラえもん"にいて欲しい 残念男の逆転劇『エリックを探して』 [第97回]平凡な高校生デイヴは2度変身する!原点回帰のヒーロー『キック・アス』 [第96回]村上春樹の超絶ベストセラーの映画化『ノルウェイの森』はどこにある? [第95回]実在した"奇妙な高額バイト"の顛末 心理サスペンス『エクスペリメント』 [第94回]"アル中"カメラマンの泣き笑い人生『酔いがさめたら、うちに帰ろう。』 [第93回]朝ドラと異なる映画『ゲゲゲの女房』ゴールなき"貧乏耐久"2人3脚走 [第92回]バラエティーでの実績は通用するか? テリー伊藤の初監督作『10億円稼ぐ』 [第91回] 不謹慎なる社会派エンタテイメント『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』 [第90回]"世界のナベアツ"大阪府知事に就任! 政治コメディ『さらば愛しの大統領』 [第89回]自分の恋愛もプロデュースする女優、ドリュー・バリモア主演『遠距離恋愛』 [第88回]スタローンが立ち上げた"筋肉共和国"男たちの祭典『エクスペンダブルズ』 [第87回]元"おはガール"安藤聖の再起動ドラマ 就職氷河期を生きる『バカがウラヤマシイ』 [第86回]マイノリティーは"理想郷"を目指す。筒井文学の金字塔『七瀬ふたたび』 [第85回]清純派・佐藤寛子が美しく"変態"! 官能サスペンス『ヌードの夜──』 [第84回]死を意識して、ギラギラ輝く男たち! 三池節、大バクハツ『十三人の刺客』 [第83回] 女を食い物にする男どもは全員処刑! モダン社会の闇を暴く『ミレニアム』 [第82回] "企画AV女優"たちの青春残酷物語 性なる鎮魂劇『名前のない女たち』 [第81回]猫を見れば、人間社会が見えてくる! 世界の人気猫大集合『ネコを探して』 [第80回]原恵一監督の新作は辛口ファンタジー 退屈な"日常生活"を彩る『カラフル』 [第79回]米軍に実在した"超能力部隊"の真実!? ムー民、必見『ヤギと男と男と壁と』 [第78回]戦場から帰還した夫は"芋虫男"だった! ヤクザ監督の反戦映画『キャタピラー』 [第77回] 白ユリの花開くガールズの妖しい世界 H系ホラー『ジェニファーズ・ボディ』 [第76回] 爽やか系青春ゾンビ映画にホロリ......夏休みは『ゾンビランド』に集結せよ [第75回] "生きる"とは"見苦しい"ということ 藤沢周平の時代活劇『必死剣 鳥刺し』 [第74回]初恋の美少女は200歳の吸血鬼だった! 北欧産のホラー映画『ぼくのエリ』 [第73回] "三億円事件"の真相を解き明かす! 桜タブーに挑んだ『ロストクライム』 [第72回/特別編] 上映反対で揺れる問題作『ザ・コーヴ』"渦中の人"リック・オバリー氏の主張 [第71回] 女子にモテモテになる方法、教えます。軟派少年の実話物語『ソフトボーイ』 [第70回] 下町育ちの"北野少年"が見た現代社会 人間同士の食物連鎖『アウトレイジ』 [第69回] "リアルと虚構の狭間"を生きる男、アントニオ猪木初主演作『アカシア』 [第68回] ヒーローも神もいない現代社会の惨劇 井筒監督の問題作『ヒーローショー』 [第67回] アイドルが地獄で微笑む『戦闘少女』ギャグ×血しぶき×殺陣の特盛り丼! [第66回]アナーキーな"社歌"で生産性アップ! 満島ひかり大進撃『川の底からこんにちは』 [第65回]超ヘビー級なシリアス劇『プレシャス』"家族"という名の地獄から脱出せよ [第64回]乱れ咲く"悪の華"ゼブラクイーン! 仲里依紗が過激変身『ゼブラーマン2』 [第63回] オタク王が見出した"夢と現実"の接点 ティム・バートン監督作『アリス──』 [第62回] バッドテイストな感動作『第9地区』 アナタはエビ人間とお友達になれるか? [第61回]スコセッシ監督の犯罪アトラクション『シャッターアイランド』へようこそ! [第60回]宮崎あおいの"映画代表作"が誕生! 毒を呑んでも生き続けよ『ソラニン』 [第59回]"おっぱいアート"は世界を救えるか? 母乳戦士の記録『桃色のジャンヌ・ダルク』 [第58回]現代に甦った"梶原一騎ワールド"韓流ステゴロ映画『息もできない』 [第57回]命知らずの変態レポーター、中東へ! 史上最大のどっきり?『ブルーノ』 [第56回]仲里依紗がアニメから実写へと跳躍! 母娘2代の時空旅行『時をかける少女』 [第55回]ビグロー監督はキャメロンより硬派! 人間爆弾の恐怖『ハート・ロッカー』 [第54回] "空気を読む"若者の悲劇『パレード』楽しいルームシェア生活の行き先は? [第53回]社会の"生け贄"に選ばれた男の逃亡劇 堺雅人主演『ゴールデンスランバー』 [第52回]『男はつらいよ』の別エンディング? "寅さん"の最期を描く『おとうと』 [第51回]ひとり相撲なら無敵のチャンピオン! 童貞暴走劇『ボーイズ・オン・ザ・ラン』 [第50回]ヒース・レジャーが最後に見た夢の世界 理想と欲望が渦巻く『Dr.パルナサスの鏡』 [第49回]トニー・ジャーは本気なんジャー! CGなしの狂乱劇再び『マッハ!弐』 [第48回]全米"オシャレ番長"ズーイー、見参! 草食系に捧ぐ『(500日)のサマー』 [第47回]市川崑監督&水谷豊"幻の名作"『幸福』28年の歳月を経て、初のパッケージ化 [第46回]押井守監督、大いなる方向転換か? 黒木メイサ主演『アサルトガールズ』 [第45回]ドラッグ漬けの芸能関係者必見!"神の子"の復活を追う『マラドーナ』 [第44回] 暴走する"システム"が止まらない! マイケル・ムーア監督『キャピタリズム』 [第43回]"人は二度死ぬ"という独自の死生観『ガマの油』役所広司の監督ぶりは? [第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』 [第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』 [第40回]"涅槃の境地"のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』 [第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』 [第38回]海より深い"ドメスティック・ラブ"ポン・ジュノ監督『母なる証明』 [第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』 [第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』 [第35回]"負け組人生"から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』 [第34回]2兆円ペット産業の"開かずの間"に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』 [第33回]"女神降臨"ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』 [第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』 [第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』 [第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇 [第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』 [第28回]"おねマス"のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』 [第27回]究極料理を超えた"極地料理"に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』 [第26回]ハチは"失われた少年時代"のアイコン  ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊! [第25回]白熱! 女同士のゴツゴツエゴバトル 金子修介監督の歌曲劇『プライド』 [第24回]悪意と善意が反転する"仮想空間"細田守監督『サマーウォーズ』 [第23回]沖縄に"精霊が暮らす楽園"があった! 中江裕司監督『真夏の夜の夢』 [第22回]"最強のライブバンド"の底力発揮! ストーンズ『シャイン・ア・ライト』 [第21回]身長15mの"巨大娘"に抱かれたい! 3Dアニメ『モンスターvsエイリアン』 [第20回]ウディ・アレンのヨハンソンいじりが冴え渡る!『それでも恋するバルセロナ』 [第19回]ケイト姐さんが"DTハンター"に! オスカー受賞の官能作『愛を読むひと』 [第18回]1万枚の段ボールで建てた"夢の砦"男のロマンここにあり『築城せよ!』 [第17回]地獄から甦った男のセミドキュメント ミッキー・ローク『レスラー』 [第16回]人生がちょっぴり楽しくなる特効薬 三木聡"脱力"劇場『インスタント沼』 [第15回]"裁判員制度"が始まる今こそ注目 死刑執行を克明に再現した『休暇』 [第14回]生傷美少女の危険な足技に痺れたい! タイ発『チョコレート・ファイター』 [第13回]風俗嬢を狙う快楽殺人鬼の恐怖! 極限の韓流映画『チェイサー』 [第12回]お姫様のハートを盗んだ男の悲哀 紀里谷監督の歴史奇談『GOEMON』 [第11回]美人女優は"下ネタ"でこそ輝く! ファレリー兄弟『ライラにお手あげ』 [第10回]ジャッキー・チェンの"暗黒面"? 中国で上映禁止『新宿インシデント』 [第9回]胸の谷間に"桃源郷"を見た! 綾瀬はるか『おっぱいバレー』 [第8回]"都市伝説"は映画と結びつく 白石晃士監督『オカルト』『テケテケ』 [第7回]少女たちの壮絶サバイバル!楳図かずおワールド『赤んぼ少女』 [第6回]派遣の"叫び"がこだまする現代版蟹工船『遭難フリーター』 [第5回]三池崇史監督『ヤッターマン』で深田恭子が"倒錯美"の世界へ [第4回]フランス、中国、日本......世界各国のタブーを暴いた劇映画続々 [第3回]水野晴郎の遺作『ギララの逆襲』岡山弁で語った最後の台詞は...... [第2回]『チェンジリング』そしてイーストウッドは"映画の神様"となった [第1回]堤幸彦版『20世紀少年』に漂うフェイクならではの哀愁と美学

"メジャーの壁"知らずの筧昌也監督が新作ドラマでは"表現の壁"もスルー!

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映画監督、映像ディレクター、イラストレーター......と様々な顔を持つ筧昌也監督。
新作『豆腐姉妹』では実写ドラマ、アニメ、ドキュメンタリーの融合に挑んでいる。
 缶詰の中からセクシーな美女が続々と現われる、男のリビドー200%刺激作『美女缶』(2003)でゆうばりファンタスティック映画祭オフシアター部門グランプリを受賞した筧昌也監督。死んだ人間が人生のロスタイムを使って、最後にやりたいことを遂げる感涙系ファンタジー『ロス:タイム:ライフ』は08年にフジテレビ系で連続ドラマ化され、さらに新作がケータイ向けコンテンツとして配信された。アジアンスター金城武を主演に迎えた『Sweet Rain 死神の精度』(08)は長編デビュー作ながら、ワーナー系で全国公開。1977年生まれの筧監督は、メジャーorインディペンデントというボーダーを身軽に跳び越えて映画・テレビ・ケータイ......と様々な映像媒体で活躍する個性派クリエイターなのだ。そんな筧監督が、またまた一風変わった新作ドラマをDVDリリースする。WOWOWで昨夏オンエアされた吉高由里子主演作『豆腐姉妹』がそれだ。  『婚前特急』『GANTZ』の公開を控える人気女優・吉高由里子が、5話完結の『豆腐姉妹』では3姉妹をひとりで演じ分けている。不倫中の長女・絹代はフィクションドラマ、キャバクラに勤める次女・もめんはアニメーション、売り出し中の新人女優である三女・由里子はドキュメンタリータッチで描かれている。ドラマ・アニメ・ドキュメンタリーと3つの異なる表現方法が『豆腐姉妹』という作品の中に同居し、3つの表現を駆使することで吉高由里子の多面的な魅力に迫った野心作なのだ。筧監督、相変わらずカマしてくれますなぁ。映像のデジタル化が進み、様々な表現スタイルが可能となった新時代エンターテイメントの旗手・筧監督の素顔をクローズアップしよう。 ――筧監督、よろしくお願いします。あれ、筧監督の名刺って、名前と住所だけのシンプルなものですね。  えぇ、いろいろとやっているもので、最近は名刺に肩書きを入れるのは止めたんです。まぁ、長編映画はまだ『Sweet Rain』だけですけど、自分としては映画監督をメーンに考えてはいます。でも劇場用の作品だとかテレビ向けの作品だとかは、自分ではあまり意識してないですね。ケースバイケースですけど、企画のアイデアを考える際は、どの媒体向けでやるかという意識よりも、面白い作品を作りたいという意識が強いんです。 ――ユニークすぎる『豆腐姉妹』は、どのようにして誕生したんでしょうか?  今回の『豆腐姉妹』は"まるで豆腐のように色の白い姉妹のお話"というユルい設定をずいぶん前に考えたものです。それで2年くらい前に、吉高由里子さん主演でDVD用のオリジナルドラマを作らないかという話が来たんで、実写ドラマとアニメを融合した『ロジャー・ラビット』(88)みたいな作品にしようと思ったんですね。でも、どうせやるなら、より面白いものに挑戦してみたい。ドラマとアニメに、さらにドキュメンタリーも加えたらどうなるんだろうと。ボク自身もどんな作品になるか分からなかったのに、製作のアミューズさんがボクの予想以上に食い付いてきたんです(笑)。せっかくだから、WOWOWの連続ドラマにしようと企画が膨らんで、脚本をしっかり練ることになり、製作の準備に1年半を要しましたね。
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ユニークな作品が多いアイデアマンの筧
監督。「今回の『豆腐姉妹』は肌の白い
美人姉妹という、自分としてはかなりユル
い設定から始まりました。その後、ブレ
ストで話がどんどん膨らんでいくんです」
――2年前から吉高由里子主演作として企画が動いたということですが、彼女が『蛇にピアス』(08)で注目を集め始めた頃でしょうか?  そうですね。『蛇にピアス』が劇場公開されていたけど、まだテレビでの露出が少なくて、広く知られている感じではなかった頃ですね。それで吉高由里子さんに会ったんですけど、彼女はすぐにこちら側をイジリたがるんですよ(苦笑)。現場でもボクのことをやたらとイジってくるんですけど、ボクも現場ではいろいろやることがあるんで途中から相手をするのを止めたら、すごく寂しそうな顔をするんです。面白い子ですね(笑)。 ――有料チャンネルであるWOWOWは、山下敦弘監督やタナダユキ監督らが参加したオムニバスドラマ『蒼井優×4つの嘘』(08)をはじめ、作品のクオリティーが高いことで定評があります。  確かに、WOWOWのドラマはレベルが高い。でも、ボクの場合、あまり他の作品を意識することや「ライバルは××監督です」みたいなことを考えることがほとんどないんです。大きいことを言うようですが、他の監督がライバルというよりも、今の若い人たちは映画の他にテレビもあるし、DVDもあるし、ケータイもあるし......という状況で育っているので、そういう若者たちにどうすれば自分の作品を観てもらえるかということなんです。それでボクは、他の人がやらないような変わった設定、ひと言説明しただけで「面白そう!」と興味を持ってもらえる企画を考えるようにしているんです。
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『豆腐姉妹』のドキュメンタリーパートで"白タ
イツ姿"を披露する吉高由里子。ふわふわとした
つかみ所のなさが、彼女の魅力。
――若手人気女優vs.気鋭のクリエイターの組み合わせである『豆腐姉妹』ですが、ドラマ&アニメ&ドキュメンタリーの融合という今回の趣旨を吉高由里子はすぐに理解できた?  吉高さんに最初に今回の企画を説明したときは、それこそ彼女の頭の上に「?」マークが並んでました(笑)。まぁ、ボクの企画はいつも突飛なものだと思われがちなので、プロデューサーたちにプレゼンするときは、企画書と一緒にキービジュアルもイラストにしてセットで見せるようにしています。今回の場合だと、3姉妹のキャラクターが一列に並んで食事をしているイラストですね。仲のいい3姉妹だけど、実はそれぞれの顔が向いている方向はバラバラだという。 ――家族が横に並んで食事してるシーンというと、森田芳光監督の『家族ゲーム』(83)ですね!  えぇ、ボクの持論なんですが、映画って面白い作品に限って、強烈なビジュアルがキーになっているように思うんです。強烈なビジュアルから、ストーリーが広がっていくんです。でも、困ったことに、ふだん映画を観に行くときも、面白い設定に出くわすと、自分の頭の中で勝手にオリジナルストーリーが始まってしまう。つまんない映画ならそれでもいいけど、面白い映画を観ていても、自分の頭の中でまったく別なストーリーを考えてしまうんです(苦笑)。とりあえず映画館を出たら、すぐにメモ書きするようにしていますね。 ――『豆腐姉妹』の撮影現場はどんな感じだったんでしょうか?  ドラマ部分の撮影に20日間ほど要し、ドキュメンタリー部分はそのうち1~2割程度の時間を割きました。アニメ部分は実写パートの撮影が終わってから、2カ月間くらいかけて完成したアニメにアフレコしていきました。吉高さん、アニメの本格的なアフレコは初めて。また実年齢より上となる長女・絹代みたいな役を演じるのも珍しかったようで、声の出し方から変えていましたね。彼女は憑依型でもないし、地道に役づくりをしていくタイプでもない。カメラが回っていないときは明るくおしゃべりしているけど、カメラが回るとパッと役に入っていく。一種の天才肌でしょうね。ドキュメンタリー部分は部分的にはフェイクですが、でも6~7割は吉高由里子の"素"だと思います。劇中のインタビューで、交通事故に遭って死を意識したと語っていますが、あれは彼女の実体験。彼女はすごく勘がいいので、劇中のインタビューでも質問によって、自分の素をさらしたほうがいいか、『豆腐姉妹』の三女として答えたほうがいいかを自分で瞬時に判断してしゃべっているんです。インタビュー部分の台本は白紙にしていたので、全部彼女がその場で考えてしゃべっている形です。ドキュメンタリー部分では白タイツ姿でダンスも披露しますが、女優らしくないことなら良かったんです。白タイツはボクの趣味というより、プロデューサーの趣味じゃないですか(笑)。
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しっかり者の長女・絹代、新人女優の三女・由里子、キャバ嬢である次女・もめん。
『豆腐姉妹』は、はたしてレンタル店のどのコーナーに置かれるのか?
(c)WOWOW/アミューズソフトエンタテインメント
――筧監督が感じた女優・吉高由里子の魅力とは?  吉高さん本人に聞いたんですけど、「フラットでいたい」そうです。人を色メガネで見ないようにしているみたいですね。局のエラい人が来ても、現場スタッフとも、変わらず同じように接しているように思います。彼女は撮影現場で製作スタッフと仲良くなって、撮影が終わってからも共演者とではなく、スタッフと飲みに行く方が楽とか言っていました。知らない人間同士がわぁ~と集まって、1~2カ月熱い時間を過ごす撮影現場が好きみたいですね。今回、最初は企画を説明しても「???」だらけだったのに、わかんないけどとりあえずやってみようという柔軟性もある。個性があるようで、個性がないというのかな。でも、それって女優としてメリットですよね。どんな役でも演じられるということですから。 ――なるほど、吉高由里子はどんな調理法にも合う豆腐みたいな女優だと。  ハハハ、うまくまとめましたね。"吉高由里子は豆腐みたいな女優"。味がなさそうで、味がある(笑)。ボクの企画はブレーンストーミング的に、こういう風に話している最中にキャッチコピーが決まったりすることが多いんですよ。 ――最後にもうひとつ。筧監督ってメジャーorインディペンデントというこだわりを感じさせないんですが、その点は自分ではどう考えていますか?  ボクらの世代だと、そういう意識はあまりないように思いますね。ボクらよりひと周り上の世代だとハリウッド映画への憧れがあるように感じますが、ボクらの世代は何でもあり。面白ければ、スピルバーグも観るし、ウォン・カーウェイも観るし、岩井俊二監督や伊丹十三監督も観る。本当、観てるものがグチャグチャ(笑)。面白ければ、メジャーもマイナーも関係ない。実際の製作になると予算による影響が多少あるでしょうけど、基本的に企画を考える段階では、メジャーかマイナーかといったことは考えないですね。もちろん、できれば自分の作品は何千万人もの人に観てほしいという気持ちで作っています。でもいちばん大事なのは、やっぱり"もっと面白いものを"ということですね。 (取材・文=長野辰次) ●かけひ・まさや 1977年東京都出身。日大芸術学部卒業。中学時代には漫画執筆に勤しみ、講談社「ちばてつや賞」に入選。大学時代から自主映画製作を始め、『美女缶』(03)はゆうばりファンタスティック映画祭オフシアター部門グランプリ受賞後、04年に劇場公開。さらに『世にも奇妙な物語 '05春の特別編』(フジテレビ系)の一編、妻夫木聡主演作としてセルフリメイクされた。03年から始めたショートムービー『ロス:タイム:ライフ』は、フジテレビ系で08年に連続ドラマ化。その後もauで配信された谷村美月主演『ロス:タイム:ライフ 猫編』(09)など発表媒体を変えて新作を発表している。伊坂幸太郎の原作を映画化した『Sweet Rain 死神の精度』(08)で長編映画の監督デビューも果たした。
豆腐姉妹 監督/筧昌也 脚本/鈴木智尋、筧昌也 アニメーション監督/青木純 ナレーション/小林幸子 出演/吉高由里子、塚地武雅(ドランクドラゴン)、平田薫、宮崎美穂(AKB48)、ムロツヨシ、きたろう、津田寛治、田中要次  発売元/WOWOW、アミューズソフト 販売元/アミューズソフト 1月28日(金)発売&レンタル開始 http://www.wowow.co.jp/drama/tofu amazon_associate_logo.jpg
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堀北真希&高良健吾主演作『白夜行』闇に生きる"影男"の密やかなる喜び

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堀北真希、高良健吾主演で映画化された『白夜行』。『ALWAYS三丁目の夕日』(05)で人気を博した堀北にとっては、初の悪女役となる。(c)2011映画「白夜行」製作委員会
 人気ミステリー作家・東野圭吾が1999年に刊行した代表作『白夜行』(集英社)が堀北真希、高良健吾の主演で映画化された。80年、密室状態の廃ビルで起きた質屋の店主殺しを振り出しに、被害者の息子・亮司と容疑者の娘・雪穂の2人が暗い過去を引きずりながらも成長し、バブル前夜からバブル崩壊後の80~90年代をサバイブする物語だ。生き抜くために"悪女"に徹することを自分に課した雪穂をヒロインとする犯罪サスペンスであるのと同時に、彼女の素顔を唯一知る亮司の常軌を逸した献身的な行動を追った哀しいラブストーリーでもある。06年に山田孝之&綾瀬はるか主演で放映された連続ドラマ版『白夜行』(TBS系)は、視聴者が感情移入しやすいように亮司と雪穂が互いに感情を吐露し合う人間臭い側面が脚色されていたが、今回の映画版は原作本来の世界観にかなり忠実。雪穂と亮司の感情的な部分は極力排した、日本では珍しいハードボイルドタッチの作品に仕上げてある。堀北真希と高良健吾は、感情をあらわにせずに複雑な内面を表現するという難易度の高い演技に挑んだ。  『白夜行』のヒロイン・雪穂は、ある意味で天才的な女優だ。ビンボーな母子家庭に生まれた雪穂だが、誰もが振り向く美貌と常に一歩先を読む明晰な頭脳をフル活用して、周囲の人間の心を巧みにコントロールしてしまう。男も女も、雪穂の清純そうな顔立ちと忌まわしい過去にめげずに明るく振る舞う健気さにほだされてしまう。質屋殺しの容疑を掛けられた母親が不可解な死を遂げた後、雪穂は遠縁の女性の養女となり、茶道・華道をたしなみながらお嬢さま学校に通い、美少女ぶりに磨きを掛ける。有名大学に入学後は社交ダンス部の人気者となり、お金持ちの御曹司とお近づきになる。ここぞというときには自分の体を武器にすることも厭わない。養母、親友、交際相手の前でも決して仮面を外すことのない、"究極の悪女"なのだ。もちろん、人前で常に演技を続ける雪穂のうさん臭さに勘づく人間も少数派ながらいるのだが、雪穂の前に立ち塞がろうとする人間は、不思議なことに事故に巻き込まれ退場を余儀なくされる。大学を卒業した雪穂は資産家の息子と結婚し、豊かな財源をバックにファッション業界という大舞台に進出。美しき"悪の花"を咲かせる。
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成長した亮司を演じるのは、『蛇にピアス』
(08)、『ソラニン』(10)などで注目を集め
た高良健吾。今、映画界で最も多忙な若手演技派
男優だ。
 雪穂は的確な演技力と完璧なセルフプロデュース能力を身に付けた希代の悪女キャラだが、男は誰しも"プチ雪穂"に出会ったことがあるのではないだろうか。雪穂のような犯罪者でなくとも、悪女的な資質を持つ女性は少なくない。そして哀しいことに、男という単細胞生物は、この悪女という名の魔性のクリーチャーにメロメロに弱い。悪女は"聖女"の仮面を巧みに被って、運命の出会いを装って男に近づいてくる。周囲が「あの女はヤバいよ」と忠告しても、男は「オレにもようやくモテキが来た!」「あいつのことを分かってやれるのはオレだけなんだ」と聞く耳を持たない。まんまと悪女によって遠隔操作される。そして悪女は相手を利用できるだけ利用して、さらに利用度の高い次のターゲットへと乗り換える。精気を吸い取られた男は、後は鶏ガラスープに使われた鶏ガラのように、ポイッと棄てられるだけ。連ドラ版の綾瀬はるかといい、映画版の堀北真希といい、およそ悪女らしくない若手女優を起用しているのが、映像化された『白夜行』の見どころだ。綾瀬はるかが仮面が外れそうな危うさで視聴者を魅了したのに対し、堀北真希は絶えず仮面を意識させる緊張感のある芝居を持続させる。いずれにしろ、女優としては非常に演じがいのある役であることは間違いないだろう。  天才的な女優としての才能を持つ雪穂だが、いかんせん舞台の御膳立てをしてくれる"裏方"がどうしても必要となる。雪穂の影の部分、汚れ仕事を請け負っているのが、もうひとりの主人公だ。すでに原作小説の刊行から11年、テレビドラマも放映されているので、多少のネタバレは許してほしい。お互いに問題のある家庭環境で育った雪穂と亮司は、欲と虚言にまみれた大人の社会を生き抜くために、共生関係を結ぶ。美しさを誇る雪穂に危機が迫ると、闇の中でじっと息を潜めていた亮司が現われ、邪魔者を排除する。2人は一心同体の関係、ケンタウロスのような半人半獣のモンスターと化す。そして、成長を遂げた雪穂がさらに脚光を浴びれば浴びるほど、亮司はより深い影の存在となっていく。それでも亮司は幸せなのだ。不幸な生い立ちを持つ雪穂が、ドロドロの大人の社会で悪の花とはいえ、見事に"大輪の花"を咲かせたことが嬉しくて堪らない。闇の世界でしか生きられない"影男"の密やかな喜びである。
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物語の鍵となる少女時代の雪穂(福本史織)。
深川栄洋監督は『自転少年』(04)、『狼少女』
(05)、『半分の月がのぼる空』(10)など子役
の演出が抜群にうまい。
 雪穂と亮司が奇妙な共生関係にあることを察知したのは、刑事の笹垣(船越英一郎)。19年前に起きた質屋殺し事件が迷宮入りしたことがずっと気になっており、笹垣は事件関係者の足取りを追い続けていたのだ。純愛と呼ぶにはあまりにも歪み切った雪穂と亮司の関係を知った笹垣は慟哭する。自分がもっと早く事件の真相に気づいていれば、多くの犠牲者を出すことも、一心同体化した犯罪モンスターを生み出すことも防げたのではないかと。"2時間ドラマの帝王"の称号を持つ船越英一郎がテレビとはひと味違った深みのある演技で、映画に奥行きを与えている。子どもを病気で亡くした笹垣の父性的要素を盛り込むなど、原作の世界観を壊さずに手を加えた深川栄洋監督の手腕も評価したい。  映画版『白夜行』の公開に先立ち、同じく東野圭吾原作の『幻夜』がWOWOWで連続ドラマとしてオンエアされた。『幻夜』は東野ファンの間で、『白夜行』の姉妹編とも続編とも称されている作品で、こちらは深田恭子と塚本高史が主演している。深田恭子演じるミステリアスな美女"美冬"が新しいパートナーを手に入れて、さらなる悪女ぶりを発揮するストーリーだ。船越英一郎が年老いた元刑事役で最終話に出演しており、『白夜行』との関連性を匂わせるものになっている。映画版『白夜行』ではヒロインの雪穂は自分の本音を押し殺し続けるが、『幻夜』では男に寄生することでしか生きることのできない悪女の哀しみが見る者にジワジワと伝わってくる。下半身を失ったケンタウロスは、どうやって生きていけばいいのだろうか。 (文=長野辰次) byakuya04.jpg ●『白夜行』 原作/東野圭吾 監督/深川栄洋 出演/堀北真希、高良健吾、姜暢雄、緑友利恵、粟田麗、今井悠貴、福本史織、斎藤歩、中村久美、田中哲司、戸田恵子、船越英一郎  配給/ギャガ 1月29日(土)より全国公開 <http://byakuyako.gaga.ne.jp>
堀北真希 -ひこうきぐも- 真希ちゃんのためなら......! amazon_associate_logo.jpg
●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第102回]園子温の劇薬ムービー『冷たい熱帯魚』"救いのない結末"という名の救い [第101回] NHKが放映しない"裏プロジェクトX" AV界のカリスマ監督『YOYOCHU』 [第100回]エロスとタブーを交配した"至高の美女" 禁断のサイエンスホラー『スプライス』 [第99回]2010年に活躍した女優を勝手に表彰! 満島ひかりに"面倒くさい女"大賞を [第98回]大人だって"ドラえもん"にいて欲しい 残念男の逆転劇『エリックを探して』 [第97回]平凡な高校生デイヴは2度変身する!原点回帰のヒーロー『キック・アス』 [第96回]村上春樹の超絶ベストセラーの映画化『ノルウェイの森』はどこにある? [第95回]実在した"奇妙な高額バイト"の顛末 心理サスペンス『エクスペリメント』 [第94回]"アル中"カメラマンの泣き笑い人生『酔いがさめたら、うちに帰ろう。』 [第93回]朝ドラと異なる映画『ゲゲゲの女房』ゴールなき"貧乏耐久"2人3脚走 [第92回]バラエティーでの実績は通用するか? テリー伊藤の初監督作『10億円稼ぐ』 [第91回] 不謹慎なる社会派エンタテイメント『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』 [第90回]"世界のナベアツ"大阪府知事に就任! 政治コメディ『さらば愛しの大統領』 [第89回]自分の恋愛もプロデュースする女優、ドリュー・バリモア主演『遠距離恋愛』 [第88回]スタローンが立ち上げた"筋肉共和国"男たちの祭典『エクスペンダブルズ』 [第87回]元"おはガール"安藤聖の再起動ドラマ 就職氷河期を生きる『バカがウラヤマシイ』 [第86回]マイノリティーは"理想郷"を目指す。筒井文学の金字塔『七瀬ふたたび』 [第85回]清純派・佐藤寛子が美しく"変態"! 官能サスペンス『ヌードの夜──』 [第84回]死を意識して、ギラギラ輝く男たち! 三池節、大バクハツ『十三人の刺客』 [第83回] 女を食い物にする男どもは全員処刑! モダン社会の闇を暴く『ミレニアム』 [第82回] "企画AV女優"たちの青春残酷物語 性なる鎮魂劇『名前のない女たち』 [第81回]猫を見れば、人間社会が見えてくる! 世界の人気猫大集合『ネコを探して』 [第80回]原恵一監督の新作は辛口ファンタジー 退屈な"日常生活"を彩る『カラフル』 [第79回]米軍に実在した"超能力部隊"の真実!? ムー民、必見『ヤギと男と男と壁と』 [第78回]戦場から帰還した夫は"芋虫男"だった! ヤクザ監督の反戦映画『キャタピラー』 [第77回] 白ユリの花開くガールズの妖しい世界 H系ホラー『ジェニファーズ・ボディ』 [第76回] 爽やか系青春ゾンビ映画にホロリ......夏休みは『ゾンビランド』に集結せよ [第75回] "生きる"とは"見苦しい"ということ 藤沢周平の時代活劇『必死剣 鳥刺し』 [第74回]初恋の美少女は200歳の吸血鬼だった! 北欧産のホラー映画『ぼくのエリ』 [第73回] "三億円事件"の真相を解き明かす! 桜タブーに挑んだ『ロストクライム』 [第72回/特別編] 上映反対で揺れる問題作『ザ・コーヴ』"渦中の人"リック・オバリー氏の主張 [第71回] 女子にモテモテになる方法、教えます。軟派少年の実話物語『ソフトボーイ』 [第70回] 下町育ちの"北野少年"が見た現代社会 人間同士の食物連鎖『アウトレイジ』 [第69回] "リアルと虚構の狭間"を生きる男、アントニオ猪木初主演作『アカシア』 [第68回] ヒーローも神もいない現代社会の惨劇 井筒監督の問題作『ヒーローショー』 [第67回] アイドルが地獄で微笑む『戦闘少女』ギャグ×血しぶき×殺陣の特盛り丼! [第66回]アナーキーな"社歌"で生産性アップ! 満島ひかり大進撃『川の底からこんにちは』 [第65回]超ヘビー級なシリアス劇『プレシャス』"家族"という名の地獄から脱出せよ [第64回]乱れ咲く"悪の華"ゼブラクイーン! 仲里依紗が過激変身『ゼブラーマン2』 [第63回] オタク王が見出した"夢と現実"の接点 ティム・バートン監督作『アリス──』 [第62回] バッドテイストな感動作『第9地区』 アナタはエビ人間とお友達になれるか? [第61回]スコセッシ監督の犯罪アトラクション『シャッターアイランド』へようこそ! [第60回]宮崎あおいの"映画代表作"が誕生! 毒を呑んでも生き続けよ『ソラニン』 [第59回]"おっぱいアート"は世界を救えるか? 母乳戦士の記録『桃色のジャンヌ・ダルク』 [第58回]現代に甦った"梶原一騎ワールド"韓流ステゴロ映画『息もできない』 [第57回]命知らずの変態レポーター、中東へ! 史上最大のどっきり?『ブルーノ』 [第56回]仲里依紗がアニメから実写へと跳躍! 母娘2代の時空旅行『時をかける少女』 [第55回]ビグロー監督はキャメロンより硬派! 人間爆弾の恐怖『ハート・ロッカー』 [第54回] "空気を読む"若者の悲劇『パレード』楽しいルームシェア生活の行き先は? [第53回]社会の"生け贄"に選ばれた男の逃亡劇 堺雅人主演『ゴールデンスランバー』 [第52回]『男はつらいよ』の別エンディング? "寅さん"の最期を描く『おとうと』 [第51回]ひとり相撲なら無敵のチャンピオン! 童貞暴走劇『ボーイズ・オン・ザ・ラン』 [第50回]ヒース・レジャーが最後に見た夢の世界 理想と欲望が渦巻く『Dr.パルナサスの鏡』 [第49回]トニー・ジャーは本気なんジャー! CGなしの狂乱劇再び『マッハ!弐』 [第48回]全米"オシャレ番長"ズーイー、見参! 草食系に捧ぐ『(500日)のサマー』 [第47回]市川崑監督&水谷豊"幻の名作"『幸福』28年の歳月を経て、初のパッケージ化 [第46回]押井守監督、大いなる方向転換か? 黒木メイサ主演『アサルトガールズ』 [第45回]ドラッグ漬けの芸能関係者必見!"神の子"の復活を追う『マラドーナ』 [第44回] 暴走する"システム"が止まらない! マイケル・ムーア監督『キャピタリズム』 [第43回]"人は二度死ぬ"という独自の死生観『ガマの油』役所広司の監督ぶりは? [第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』 [第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』 [第40回]"涅槃の境地"のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』 [第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』 [第38回]海より深い"ドメスティック・ラブ"ポン・ジュノ監督『母なる証明』 [第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』 [第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』 [第35回]"負け組人生"から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』 [第34回]2兆円ペット産業の"開かずの間"に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』 [第33回]"女神降臨"ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』 [第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』 [第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』 [第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇 [第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』 [第28回]"おねマス"のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』 [第27回]究極料理を超えた"極地料理"に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』 [第26回]ハチは"失われた少年時代"のアイコン  ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊! [第25回]白熱! 女同士のゴツゴツエゴバトル 金子修介監督の歌曲劇『プライド』 [第24回]悪意と善意が反転する"仮想空間"細田守監督『サマーウォーズ』 [第23回]沖縄に"精霊が暮らす楽園"があった! 中江裕司監督『真夏の夜の夢』 [第22回]"最強のライブバンド"の底力発揮! ストーンズ『シャイン・ア・ライト』 [第21回]身長15mの"巨大娘"に抱かれたい! 3Dアニメ『モンスターvsエイリアン』 [第20回]ウディ・アレンのヨハンソンいじりが冴え渡る!『それでも恋するバルセロナ』 [第19回]ケイト姐さんが"DTハンター"に! オスカー受賞の官能作『愛を読むひと』 [第18回]1万枚の段ボールで建てた"夢の砦"男のロマンここにあり『築城せよ!』 [第17回]地獄から甦った男のセミドキュメント ミッキー・ローク『レスラー』 [第16回]人生がちょっぴり楽しくなる特効薬 三木聡"脱力"劇場『インスタント沼』 [第15回]"裁判員制度"が始まる今こそ注目 死刑執行を克明に再現した『休暇』 [第14回]生傷美少女の危険な足技に痺れたい! タイ発『チョコレート・ファイター』 [第13回]風俗嬢を狙う快楽殺人鬼の恐怖! 極限の韓流映画『チェイサー』 [第12回]お姫様のハートを盗んだ男の悲哀 紀里谷監督の歴史奇談『GOEMON』 [第11回]美人女優は"下ネタ"でこそ輝く! ファレリー兄弟『ライラにお手あげ』 [第10回]ジャッキー・チェンの"暗黒面"? 中国で上映禁止『新宿インシデント』 [第9回]胸の谷間に"桃源郷"を見た! 綾瀬はるか『おっぱいバレー』 [第8回]"都市伝説"は映画と結びつく 白石晃士監督『オカルト』『テケテケ』 [第7回]少女たちの壮絶サバイバル!楳図かずおワールド『赤んぼ少女』 [第6回]派遣の"叫び"がこだまする現代版蟹工船『遭難フリーター』 [第5回]三池崇史監督『ヤッターマン』で深田恭子が"倒錯美"の世界へ [第4回]フランス、中国、日本......世界各国のタブーを暴いた劇映画続々 [第3回]水野晴郎の遺作『ギララの逆襲』岡山弁で語った最後の台詞は...... [第2回]『チェンジリング』そしてイーストウッドは"映画の神様"となった [第1回]堤幸彦版『20世紀少年』に漂うフェイクならではの哀愁と美学

園子温の劇薬ムービー『冷たい熱帯魚』"救いのない結末"という名の救い

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"動物好きに悪い人はいない"なんて誰が言った? ペットショップを経営する村田は、気のいいオッチャンという表の顔とは別に、邪魔者は消すという冷酷な裏の顔を持っていた。
(c)NIKKATSU
 『紀子の食卓』(06)で吉高由里子、『愛のむきだし』(09)で満島ひかり......とフレッシュスターを輩出してきた園子温監督が、R18指定の新作『冷たい熱帯魚』でまたまたフレッシュスターを生み出した。いや、フレッシュスターというよりは、フレッシュモンスターを解き放ったと言うべきか。'90年代に起きた"愛犬家連続殺人事件"をはじめ実在の犯罪事件を組み合わせた『冷たい熱帯魚』で、ニコニコ顔で殺人を重ねる庶民派俳優・でんでんの怪演ぶりが突出している。一見、人の良さそうな熱帯魚屋のオヤジだが、自分に逆らう人間は何のためらいもなく血祭りに上げてしまうシリアルキラーとしての裏の顔を持つ男なのだ。強烈なエロス&バイオレンス映画ながら、あまりに怖すぎて、ポン・ジュノ監督の『グエムル 漢江の怪物』(06)のように思わず笑ってしまうブラックコメディーでもある。テレビでレギュラー番組を持つ人気タレントを起用したがる近年の日本映画の流れから大きく逸脱した衝撃作だ。  本作の主人公は、小さな熱帯魚店を営む平凡な中年男・社本(吹越満)。若い巨乳妻・妙子(神楽坂恵)と再婚したが、先妻との間に生まれた娘・美津子(梶原ひかり)との折り合いが悪く、家庭内の空気は極めて重い。そんな折、美津子がスーパーマーケットで万引き騒ぎを起こし、警察沙汰になりそうなところを丸く収めてくれたのが村田(でんでん)だった。派手な経営で知られる大型熱帯魚店「アマゾンゴールド」のオーナーである村田は面倒見がよく、すっかり社本一家は魅了される。村田は人を惹き付けるカリスマ性の持ち主だった。社本一家を完全に手なずけた段階で、村田は本当の素顔を見せる。違法ビジネスで金儲けしていた村田は、妻の愛子(黒沢あすか)と組んで、邪魔者を次々と毒殺していたのだ。すでに村田夫妻の周辺では、30人以上の人間が行方不明となっていた。村田は「ボディを透明にしちまえば、警察には捕まらねぇよ」とのたまい、バラバラにした死体の処理を社本に手伝わせる。気の弱い社本はなすがままに共犯者に仕立てられ、ズブズブと"血の池地獄"へとハマっていく。
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不思議なカリスマ性を持つ村田(でんでん)。
園子温監督いわく「実在の事件の犯人、ボクが
被害に遭った口の巧い詐欺師など複数の犯罪者
像を組み合わせた」。言わば"怪しい人物の
集合体"だそうだ。
 にっこり笑顔で殺人を犯す村田を演じた でんでんは、30年のキャリアを持つ名バイプレイヤー。90年代に舞台『星屑の町』で注目され、『湯けむりスナイパー』(テレビ東京系)の陽気な番頭、『ゴールデンスランバー』(10)の涙もろい巡査など、人のいいオッチャンを演じることが圧倒的に多い。人間臭さからヤクザ役を演じることはあるものの、ここまでの本格的悪役は初。巻き込まれ型の主人公を演じた吹越満といい、底力を発揮したでんでんといい、俳優のネームバリューに捕われずにキャスティングを決めた園子温監督の英断が冴える。でんでんにとっても普段とまるで違う大役での映画出演は、役者冥利だったに違いない。また、園子温監督作はシナリオが重視され、役者がシナリオ上の台詞をアドリブかと思わせるほど自然に口にできるようになるまで撮り直すことで知られていたが、今回はコメディアン出身のでんでんの持ち味を活かすために、あえてアドリブ演技を求めたそうだ。「オレはいつだって勝新太郎だ!」などの村田ギャグは、でんでんがその場で考えたもの。園監督は、でんでんのことを「日本のジム・キャリー」と誉め讃える。  妻の愛子と共に猟奇殺人の限りを尽くした村田は、警察に捕まれば死刑確実。今さら守るべき法律も社会的モラルもない。あらゆる束縛から解放されている村田夫妻には性のモラルもなく、毎日を欲望のおもむくままに面白おかしくゲラゲラと大笑いしながら生きている。社本一家だけでなく、いつの間にかスクリーンを見ている我々も、誰にも気兼ねせずに自由気ままに暮らす村田夫妻の快楽ライフに危険な魅力を感じ出してしまう。フィクションの世界だから許される"背徳の輝き"がそこにはある。
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村田の妻・愛子は、これまた強度のマゾ体質の
クレイジーな女。『六月の蛇』(03)で美しい
姿態を披露した黒沢あすかが、今回も熱演&妖演!
 園子温監督は、代表作である『紀子の食卓』や『愛のむきだし』でどん底に陥った家族が懸命に再生しようとする様をドラマにしてきた。『冷たい熱帯魚』の社本も、娘の美津子や妻の妙子に危害が及ぶのを恐れ、村田夫妻の言いなりとなる。しかし、秘密を知ってしまった社本も、やがては村田夫妻から"ボディを透明に"されてしまうことは明白。意を決した社本は反撃に出ようとするが、それがさらにサイアクの結果を呼び寄せることに......。  2010年11月の「東京フィルメックス」で『冷たい熱帯魚』がプレミア上映された後、園子温監督にコメントをもらう機会があった。今まで以上にシニカルな結末について、園監督はこう語った。「確かに『紀子の食卓』『愛のむきだし』も家族の再生の物語だけど、その2作は娘や息子の立場で描いたもの。今回の『冷たい熱帯魚』は社本という父親の視点で描いたことが大きかったように思いますね。大人は今さら愛とか希望なんかなくても生きていけるんです」「日本映画で希望を持たせるようなエンディングの作品を見るとガッカリする。気分が悪くなる。"人生捨てたもんじゃないよ"と変に救いを持たせるより、"愛とか希望なんかあるかよ、そんなものにこだわらずに生きてみろよ"とハッキリ言ったほうがボクはすっきりする。ボク自身も『冷たい熱帯魚』を完成させて、とてもスッキリしましたから」。愛や希望といった甘っちょろい言葉では救えない人もいる。それが園子温監督の考えだ。  救いのない結末をくっきり描くことで、日本映画の新しい可能性を切り開いてみせた『冷たい熱帯魚』。ただし、水槽の中でぬくぬく生きる熱帯魚のような生活を過ごす人間には、あまりに刺激が強い作品かもしれない。 (文=長野辰次) tsumetai04.jpg『冷たい熱帯魚』 監督/園子温 脚本/園子温、高橋ヨシキ 出演/吹越満、でんでん、黒沢あすか、神楽坂恵、梶原ひかり、渡辺哲  +R18 配給/日活 1月29日(土)よりテアトル新宿ほか全国公開 <http://www.coldfish.jp>
愛のむきだし 名作です。 amazon_associate_logo.jpg
●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第101回] NHKが放映しない"裏プロジェクトX" AV界のカリスマ監督『YOYOCHU』 [第100回]エロスとタブーを交配した"至高の美女" 禁断のサイエンスホラー『スプライス』 [第99回]2010年に活躍した女優を勝手に表彰! 満島ひかりに"面倒くさい女"大賞を [第98回]大人だって"ドラえもん"にいて欲しい 残念男の逆転劇『エリックを探して』 [第97回]平凡な高校生デイヴは2度変身する!原点回帰のヒーロー『キック・アス』 [第96回]村上春樹の超絶ベストセラーの映画化『ノルウェイの森』はどこにある? [第95回]実在した"奇妙な高額バイト"の顛末 心理サスペンス『エクスペリメント』 [第94回]"アル中"カメラマンの泣き笑い人生『酔いがさめたら、うちに帰ろう。』 [第93回]朝ドラと異なる映画『ゲゲゲの女房』ゴールなき"貧乏耐久"2人3脚走 [第92回]バラエティーでの実績は通用するか? テリー伊藤の初監督作『10億円稼ぐ』 [第91回] 不謹慎なる社会派エンタテイメント『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』 [第90回]"世界のナベアツ"大阪府知事に就任! 政治コメディ『さらば愛しの大統領』 [第89回]自分の恋愛もプロデュースする女優、ドリュー・バリモア主演『遠距離恋愛』 [第88回]スタローンが立ち上げた"筋肉共和国"男たちの祭典『エクスペンダブルズ』 [第87回]元"おはガール"安藤聖の再起動ドラマ 就職氷河期を生きる『バカがウラヤマシイ』 [第86回]マイノリティーは"理想郷"を目指す。筒井文学の金字塔『七瀬ふたたび』 [第85回]清純派・佐藤寛子が美しく"変態"! 官能サスペンス『ヌードの夜──』 [第84回]死を意識して、ギラギラ輝く男たち! 三池節、大バクハツ『十三人の刺客』 [第83回] 女を食い物にする男どもは全員処刑! モダン社会の闇を暴く『ミレニアム』 [第82回] "企画AV女優"たちの青春残酷物語 性なる鎮魂劇『名前のない女たち』 [第81回]猫を見れば、人間社会が見えてくる! 世界の人気猫大集合『ネコを探して』 [第80回]原恵一監督の新作は辛口ファンタジー 退屈な"日常生活"を彩る『カラフル』 [第79回]米軍に実在した"超能力部隊"の真実!? ムー民、必見『ヤギと男と男と壁と』 [第78回]戦場から帰還した夫は"芋虫男"だった! ヤクザ監督の反戦映画『キャタピラー』 [第77回] 白ユリの花開くガールズの妖しい世界 H系ホラー『ジェニファーズ・ボディ』 [第76回] 爽やか系青春ゾンビ映画にホロリ......夏休みは『ゾンビランド』に集結せよ [第75回] "生きる"とは"見苦しい"ということ 藤沢周平の時代活劇『必死剣 鳥刺し』 [第74回]初恋の美少女は200歳の吸血鬼だった! 北欧産のホラー映画『ぼくのエリ』 [第73回] "三億円事件"の真相を解き明かす! 桜タブーに挑んだ『ロストクライム』 [第72回/特別編] 上映反対で揺れる問題作『ザ・コーヴ』"渦中の人"リック・オバリー氏の主張 [第71回] 女子にモテモテになる方法、教えます。軟派少年の実話物語『ソフトボーイ』 [第70回] 下町育ちの"北野少年"が見た現代社会 人間同士の食物連鎖『アウトレイジ』 [第69回] "リアルと虚構の狭間"を生きる男、アントニオ猪木初主演作『アカシア』 [第68回] ヒーローも神もいない現代社会の惨劇 井筒監督の問題作『ヒーローショー』 [第67回] アイドルが地獄で微笑む『戦闘少女』ギャグ×血しぶき×殺陣の特盛り丼! [第66回]アナーキーな"社歌"で生産性アップ! 満島ひかり大進撃『川の底からこんにちは』 [第65回]超ヘビー級なシリアス劇『プレシャス』"家族"という名の地獄から脱出せよ [第64回]乱れ咲く"悪の華"ゼブラクイーン! 仲里依紗が過激変身『ゼブラーマン2』 [第63回] オタク王が見出した"夢と現実"の接点 ティム・バートン監督作『アリス──』 [第62回] バッドテイストな感動作『第9地区』 アナタはエビ人間とお友達になれるか? [第61回]スコセッシ監督の犯罪アトラクション『シャッターアイランド』へようこそ! [第60回]宮崎あおいの"映画代表作"が誕生! 毒を呑んでも生き続けよ『ソラニン』 [第59回]"おっぱいアート"は世界を救えるか? 母乳戦士の記録『桃色のジャンヌ・ダルク』 [第58回]現代に甦った"梶原一騎ワールド"韓流ステゴロ映画『息もできない』 [第57回]命知らずの変態レポーター、中東へ! 史上最大のどっきり?『ブルーノ』 [第56回]仲里依紗がアニメから実写へと跳躍! 母娘2代の時空旅行『時をかける少女』 [第55回]ビグロー監督はキャメロンより硬派! 人間爆弾の恐怖『ハート・ロッカー』 [第54回] "空気を読む"若者の悲劇『パレード』楽しいルームシェア生活の行き先は? [第53回]社会の"生け贄"に選ばれた男の逃亡劇 堺雅人主演『ゴールデンスランバー』 [第52回]『男はつらいよ』の別エンディング? "寅さん"の最期を描く『おとうと』 [第51回]ひとり相撲なら無敵のチャンピオン! 童貞暴走劇『ボーイズ・オン・ザ・ラン』 [第50回]ヒース・レジャーが最後に見た夢の世界 理想と欲望が渦巻く『Dr.パルナサスの鏡』 [第49回]トニー・ジャーは本気なんジャー! CGなしの狂乱劇再び『マッハ!弐』 [第48回]全米"オシャレ番長"ズーイー、見参! 草食系に捧ぐ『(500日)のサマー』 [第47回]市川崑監督&水谷豊"幻の名作"『幸福』28年の歳月を経て、初のパッケージ化 [第46回]押井守監督、大いなる方向転換か? 黒木メイサ主演『アサルトガールズ』 [第45回]ドラッグ漬けの芸能関係者必見!"神の子"の復活を追う『マラドーナ』 [第44回] 暴走する"システム"が止まらない! マイケル・ムーア監督『キャピタリズム』 [第43回]"人は二度死ぬ"という独自の死生観『ガマの油』役所広司の監督ぶりは? [第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』 [第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』 [第40回]"涅槃の境地"のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』 [第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』 [第38回]海より深い"ドメスティック・ラブ"ポン・ジュノ監督『母なる証明』 [第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』 [第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』 [第35回]"負け組人生"から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』 [第34回]2兆円ペット産業の"開かずの間"に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』 [第33回]"女神降臨"ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』 [第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』 [第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』 [第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇 [第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』 [第28回]"おねマス"のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』 [第27回]究極料理を超えた"極地料理"に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』 [第26回]ハチは"失われた少年時代"のアイコン  ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊! [第25回]白熱! 女同士のゴツゴツエゴバトル 金子修介監督の歌曲劇『プライド』 [第24回]悪意と善意が反転する"仮想空間"細田守監督『サマーウォーズ』 [第23回]沖縄に"精霊が暮らす楽園"があった! 中江裕司監督『真夏の夜の夢』 [第22回]"最強のライブバンド"の底力発揮! ストーンズ『シャイン・ア・ライト』 [第21回]身長15mの"巨大娘"に抱かれたい! 3Dアニメ『モンスターvsエイリアン』 [第20回]ウディ・アレンのヨハンソンいじりが冴え渡る!『それでも恋するバルセロナ』 [第19回]ケイト姐さんが"DTハンター"に! オスカー受賞の官能作『愛を読むひと』 [第18回]1万枚の段ボールで建てた"夢の砦"男のロマンここにあり『築城せよ!』 [第17回]地獄から甦った男のセミドキュメント ミッキー・ローク『レスラー』 [第16回]人生がちょっぴり楽しくなる特効薬 三木聡"脱力"劇場『インスタント沼』 [第15回]"裁判員制度"が始まる今こそ注目 死刑執行を克明に再現した『休暇』 [第14回]生傷美少女の危険な足技に痺れたい! タイ発『チョコレート・ファイター』 [第13回]風俗嬢を狙う快楽殺人鬼の恐怖! 極限の韓流映画『チェイサー』 [第12回]お姫様のハートを盗んだ男の悲哀 紀里谷監督の歴史奇談『GOEMON』 [第11回]美人女優は"下ネタ"でこそ輝く! ファレリー兄弟『ライラにお手あげ』 [第10回]ジャッキー・チェンの"暗黒面"? 中国で上映禁止『新宿インシデント』 [第9回]胸の谷間に"桃源郷"を見た! 綾瀬はるか『おっぱいバレー』 [第8回]"都市伝説"は映画と結びつく 白石晃士監督『オカルト』『テケテケ』 [第7回]少女たちの壮絶サバイバル!楳図かずおワールド『赤んぼ少女』 [第6回]派遣の"叫び"がこだまする現代版蟹工船『遭難フリーター』 [第5回]三池崇史監督『ヤッターマン』で深田恭子が"倒錯美"の世界へ [第4回]フランス、中国、日本......世界各国のタブーを暴いた劇映画続々 [第3回]水野晴郎の遺作『ギララの逆襲』岡山弁で語った最後の台詞は...... [第2回]『チェンジリング』そしてイーストウッドは"映画の神様"となった [第1回]堤幸彦版『20世紀少年』に漂うフェイクならではの哀愁と美学

「作品」を「コンテンツ」と呼び始めた邦画界 "お蔵入り映画"が続出する杜撰な内情

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2005年に製作されたものの、5年間お蔵入り状態になっていたオムニバスホラー
『オボエテイル』のポスター。ポジフィルムおよびスチール素材を製作会社が紛失したため、
画面から抜いたシーン画像とイラストの合成で作られている。
(c)2005(株)ベルウッド
 年末年始は映画館がもっとも賑わう稼ぎどきだが、映画界から明るいニュースがなかなか発信されない。映画ファンから長年支持されてきた恵比寿ガーデンシネマが1月28日に閉館するのに続き、シネセゾン渋谷も2月の閉館を予定している。2010年6月には渋谷シネマライズが3スクリーンから1スクリーンに縮小。都内で個性を競い合ってきたミニシアターが厳しい状況に追い込まれている。また、邦画バブル以降、年間400本以上も公開されている日本映画だが、興収成績の上位は『踊る大捜査線 THE MOVIE3 ヤツらを解放せよ!』『THE LAST MESSAGE海猿』といったテレビ局主導による"製作委員会方式"のシネコン映画がほぼ独占。いや、劇場公開される作品はまだ恵まれており、日の目を見ずに"お蔵入り映画"と化している作品が続出しているのだ。"映画ファンド"は製作委員会方式に変わる画期的システムとして鳴り物入りで迎え入れられたが、株式会社アイコットが潤沢なファンドを元に製作した青山真治監督の『こおろぎ』(06)、小林政広監督の『ええじゃないかニッポン・気仙沼編』(06)は、ともに人気女優・鈴木京香を主演に据えながらも一般公開されずにお蔵入りしたまま。邦画バブルの崩壊後、製作会社の倒産や吸収合併などが相次ぎ、映画の権利が宙に浮いてしまった作品が年々増えている状態だ。フィルム現像所には引き取り手の現われない、倉庫に眠る作品が数百本にも及ぶとも言われている。  製作はしたものの、製作費の回収の見通しが立たずにお蔵入り状態となっている作品も少なくない。社会派ドラマ『密約 外務省機密漏洩事件』(78)で知られる千野皓司監督の『THWAY 血の絆』(03)は製作費3億5,000万円を投じた日本・ミャンマー合作による上映時間3時間15分の大作だが、製作費を回収するのに充分な配給・宣伝費を用意することができずに未公開となっている。中村雅俊主演の『ふうけもん』は09年1月に全国東映系で公開されることが発表されたが、公開が間近に迫っても製作会社が完成フィルムを東映に納品しないという非常事態となり、08年12月になって急遽公開中止に。『ふうけもん』は製作会社が資金面で問題を抱えたことから、作品を期日までに完成させることができなかったとされている。  直木賞作家・高橋克彦原作のオムニバスホラー映画『オボエテイル』は05年10月に「第9回みちのく国際ミステリー映画祭2005 in 盛岡」でフィルム上映されたが、製作会社側のトラブルから5年間お蔵入り状態となっていた作品だ。当時の製作会社とは別の会社から1月21日にDVDリリースされることが決まったが、『オボエテイル』に参加した3人の監督の中で企画を主導した明石知幸監督が「どうしても映画館で上映したい」と自腹を切る形で劇場公開に漕ぎ着けたレアなケースである。明石監督、そして『オボエテイル』の配給に奔走したフリーのプロデューサー・生駒隆始氏に一連の舞台裏を語ってもらった。
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オムニバスホラー『オボエテイル』の第3話「緋い記憶」。
高橋克彦の直木賞受賞作品を香川照之、光石研ら
実力派キャストで映画化している。
 生駒プロデューサーは映画製作会社ディレクターズ・カンパニー(82~92年)の末期に参加し、黒沢清監督の初期作品『地獄の警備員』(92)をプロデュース。また、井筒和幸監督の"お蔵入り映画"『東方見聞録』(91)は直接のスタッフではなかったが、当時の厳しい状況を知る人物だ。配給・宣伝のノウハウも持つことから、旧知の明石監督から協力を求められ、新宿K's Cinemaほか全国3館で『オボエテイル』の配給をブッキングすることに成功した。 生駒「実は『地獄の警備員』も"お蔵入り"寸前でした。ディレクターズ・カンパニーの経営が破綻してしまったため、そのままだとフィルムを差し抑えられてしまうため、プロデューサーのボクの判断で別の会社に権利を譲渡させたんです。『東方見聞録』がお蔵入り映画となったのはロケ現場で出演者のひとりが事故で亡くなったことが大きいのですが、実際にはディレクターズ・カンパニーが倒産しようにも倒産できるだけのお金もなくて休眠状態に陥ったために、配給会社が自分のところに支払いの請求が来ることを避けるためにお蔵入りさせたんです。映画がお蔵入りする理由は様々ですが、製作会社で金銭的問題が生じると、配給会社はトラブルに巻き込まれたくないので作品をお蔵入りさせてしまうんです」
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『オボエテイル』を劇場公開するためにみずから
動いた明石知幸監督。「商業映画で監督から
働きかけて公開に漕ぎ着けたケースは珍しい
でしょう(苦笑)。原作者の高橋克彦さんや出演者の
みなさんとの約束を果たせて
よかった」と語る。
 日活撮影所出身の明石監督は、森田芳光監督の『家族ゲーム』(83)、『キッチン』(89)などの助監督を務めた後、『免許がない!』(94)、『キリコの風景』(98)などを監督している実力派。『オボエテイル』がお蔵入りした経緯をこう説明する。 明石「05年6月に『オボエテイル』は盛岡市で撮影し、9月には完成させました。10月の『みちのく国際ミステリー映画祭』でフィルム上映され、原作者の高橋克彦さんや地元の方たちに温かく迎え入れられました。ちょうど邦画バブルだったこともあり、製作会社側には早く劇場を押さえるようにと口を酸っぱくして言っていたんですが、その後どうも配給に動いている様子がない。06年2月に製作会社側を呼び出してどうなったのか尋ねると、新しい映画の製作に取りかかっていて、そちらに力を注いでいるらしい。それなら監督側で自主配給させてくれとも頼みましたが、なしのつぶてでした。しばらくして、その製作会社は社名変更してしまい、『オボエテイル』の権利が宙に浮いた格好になってしまっていたんです。社名変更した新会社には『オボエテイル』に関わった社員はもう誰もいませんでした」  10年9月になって、明石監督は『オボエテイル』の権利が製作会社とは別の株式会社ベルウッドに移ったこと、年明けには劇場未公開のままDVDとしてリリースされることを知った。そこで明石監督はベルウッド社から劇場で公開する権利を認めてもらい、劇場に顔の利く生駒プロデューサーに配給・宣伝を依頼することになった。 明石「配給は生駒さんに尽力してもらいましたが、ポスターやチラシの製作・印刷代など宣伝にかかる諸経費はボクと第3話を担当した久保朝洋監督で出し合った形です。具体的な金額は差し控えますが、単館系で公開するなら配給・宣伝費は少なくとも200~300万円はかかるんじゃないですか。でも、お金の問題じゃないですよ。キャストのみなさんには『劇場公開作品です』ということで出演していただいたわけですし、久保監督は35mmフィルムでのデビュー作になるはずだった作品。原作者の高橋克彦さんにとっては直木賞受賞作の映画化でもあったわけです。企画を主導し、みんなに声を掛けたボクとしては何とかして劇場公開したかったんです」
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中村美玲、篠井英介らが出演した第2話「前世の
記憶」は明石監督作。「今回の『オボエテイル』は
タイプの異なる3人の監督がそれぞれ個性を出して
いる叙情派ホラー。ボクの作品は70年代の米国風
ショック映画っぽい内容です」と明石監督。
 自分たちの熱意を汲んで、わずかな期間で新宿、横浜、さらに神戸での劇場公開をブッキングした生駒プロデューサーに感謝する明石監督だが、「100%喜ぶわけにはいかない」とも打ち明ける。元々、『オボエテイル』はHDCAMというデジタルカメラで撮影されたが、劇場公開用に35mmフィルムにブローアップしていた。だが、製作会社が社名変更などのドタバタの中で上映用の35mmポジフィルムを紛失。今回の劇場公開はブルーレイでの上映を余儀なくされている。 明石「35mmのポジフィルムだけでなく、宣伝に使うために撮影したスチール素材も丸ごと紛失しているんです。そのため、今回のポスターは画面から抜いた画像を合成した苦肉の策ですよ(苦笑)。しかも、一連のトラブルの後、HDのオリジナル原版さえも紛失しているんです。現場の苦労を知っている人間なら、こんな過ちは起こしませんよ  今回のトラブルは『オボエテイル』だけに降り掛かったものではなく、日本映画界全体に関わるものではないかと生駒プロデューサーと明石監督は話す。 生駒「邦画ファンドもそうですが、近年は映画の現場のことを知らない他の分野から来た人たちが製作に参加しています。映画のことを作品と言わず、コンテンツと呼ぶ人たちです。もちろん、新規参入が悪いわけではありませんが、あまりにも作品の扱いが軽すぎる。作品に対する想いも浅い。採算がちょっと難しいようだと、すぐにお蔵入りさせてしまっているように見えます。お蔵入りした作品をいろいろ見聞きしてきましたが、最近のお蔵入りした理由はあまりにもレベルが低いように感じますね」 明石「今回はお蔵入りする前に、製作会社からキャストとスタッフにちゃんとギャラが払われていたのが幸いでした。もし、払われていなかったら、監督としてボクはみんなに会わせる顔がなくて、本当にお蔵入りさせたままになっていたはずです。これからの監督は現場の責任者であるだけでなく、作品がどういう形でアウトプットされるのかまで、きちんと見届ける必要があるように思いますね」  最後に明石監督はこう付け加えた。 明石「シネマライズが1スクリーンになり、シネマアンジェリカもすでに休館。恵比寿ガーデンシネマ、シネセゾン渋谷も閉館に......。渋谷系のミニシアターは壊滅的状況。テレビ局が製作したシネコン映画は全国チェーンで大々的に公開されていますが、逆に日本映画の多様性は失われつつあるんじゃないですか。ヒットが難しい作品は、存在さえなかったことにされる。『オボエテイル』はそんな日本映画界の現状の一端を象徴しているように思うんです。『オボエテイル』の公開うんぬん以上に、日本映画の今後が心配です」  製作会社が失念してしまった大事なことを、監督たち現場の人間はしっかりと覚えていた。映画『オボエテイル』は1月8日より期間限定で劇場公開される。 (取材・文=長野辰次) ●高橋克彦ミステリーコレクション『オボエテイル』 原作/高橋克彦 第1話「遠い記憶」 監督・脚本/芳田秀明 出演/村上淳、麻生祐未、浅井江理名、吉田日出子 第2話「前世の記憶」 監督/明石知幸 脚本・久保朝洋 出演/中村美玲、葛山信吾、結城しのぶ、篠井英介 第3話「緋い記憶」 監督・脚本/久保朝洋 出演/香川照之、光石研、渡辺真紀子、蛍雪次朗 配給/生駒隆始 1月8日(土)より新宿K's cinema、横浜ニューテアトル、神戸映画資料館にて限定ロードショー
オボエテイル [DVD] DVDはGPミュージアムより1月21日発売。 amazon_associate_logo.jpg
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