中島哲也監督の“破壊衝動”が全編にほとばしる! 崩壊家族が織り成すポストホームドラマ『渇き。』

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「このミス大賞」を受賞した深町秋生の処女小説の映画化。暴力に満ちた社会を憎む加奈子(小松菜奈)は、暴力で社会に復讐しようとする。
 ベストセラーコミックの実写化『進撃の巨人』を降板した中島哲也監督にとって、4年ぶりとなる新作が『渇き。』だ。中島監督はこれまで『下妻物語』(04)や『嫌われ松子の一生』(06)などスタイリッシュな映像作品で人気を博し、前作『告白』(10)も暴力的な内容ながら極めて静謐かつ美しい作品に仕立ててみせた。東宝配給でヒット作を連発してきた中島監督だが、一度自分が積み上げてきたものを全部リセットしたくなったのではないか。そう思わせるほど、GAGA配給による『渇き。』は荒々しい破壊衝動に満ちている。まるで中島監督自身が巨人と化したかのように、スクリーンに映るものすべてを破壊して回る。家族も職場の人間関係も輝かしい記憶も、壊して壊して壊しまくる。  予兆はあった。2010年にAKB48がリリースしたシングル曲「Beginner」のプロモーションビデオを手掛けた中島監督は、ゲームの世界とはいえAKBの主要メンバーたちを血祭りにした。篠田麻里子が、渡辺麻友が、小嶋陽菜が、そして大島優子が次々と瞬殺されていった。多くの少女たちの犠牲の上で、前田敦子はゲームの世界から現実の世界へと覚醒を果たした。中島監督が構想していた実写版『進撃の巨人』も、そんな世界観の延長戦上にあったのではないだろうか。生きるか死ぬかのギリギリの世界。“痛み”を伴うことでしか得られない、生きていることの切実感を『渇き。』でも描こうとしている。  魔性のヒロインである加奈子役の小松菜奈をオーディションで抜擢した『渇き。』は、深町秋生のホードボイルド小説『果てしなき渇き』が原作だ。数カ月前までは刑事だった藤島(役所広司)のもとに、離縁した元妻・桐子(黒沢あすか)から連絡が入る。高校生の娘・加奈子(小松菜奈)が昨晩から帰ってこないので探してほしいという。世間体を気にする桐子は警察には届けることができず、藤島を頼ってきたのだ。久しぶりに藤島が自宅に戻ると、加奈子の部屋から高校生らしからぬ物が見つかる。覚醒剤と注射器のセットだった。加奈子がとんでもない事件に巻き込まれているのは間違いない。自分に似ず、品行方正で優等生だと思っていた娘がなぜこんなことに?
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失踪した娘・加奈子の足取りを追う藤島(役所広司)。中学時代の担任教師(中谷美紀)から“3年前の事件”を契機に加奈子が変わったことを知らされる。
 警察をクビになり、家からも追い出され、サイアクの状態だった藤島だが、この事件を独力で解決することで、父親として夫としての威厳を取り戻そうとする。うまくすれば、復縁して家族としてやり直せるかもしれない。元刑事の勘と長年培った捜査のノウハウで娘の消息をたどり始める藤島。同じ高校に通う森下(橋本愛)、中学時代の同級生・遠藤(二階堂ふみ)、神経科医の辻村(國村隼)らと接触するが、どうも加奈子は単なる被害者ではないらしい。加奈子の名前を出すと、みんな祟り神を恐れるように口を閉ざしてしまう。一体、自分の娘は何者だったのか。藤島は調べれば調べるほど娘の正体が分からなくなる。やがて藤島は、中学生の頃に加奈子が親しくしていた緒方という男子生徒が自殺していたことを知る。だが、どこをどう探しても加奈子の姿を見つけることができない。それは仕事にのめり込んで家庭を省みなかった藤島への娘からの挑戦状でもあるようだった。  突然姿を消した娘の行方を父親が這いつくばって探し続けるというストーリーは、ポール・シュレイダー監督の『ハードコアの夜』(79)を彷彿させる。ポール・シュレイダーは『タクシードライバー』(76)や『モスキート・コースト』(86)など強迫観念にとらわれた男が常規を逸した破滅的行動に突っ走る物語をやたらと描きまくった人物だ。『ハードコアの夜』の保守的で超厳格な父親(ジョージ・C・スコット)は仕事を放り投げ、失踪した娘を執念の末に探し当てる。ところが、娘は何者かに拉致誘拐されたのではなく、息苦しい実家から自分の意志で逃げ出し、ポルノ映画界の住人として暮らしていた……。『ハードコアの夜』はそんな苦いオチが待っていた。だが、藤島家の親子には、『ハードコアの夜』以上にハードコアな闇が待ち受けている。  よくR18指定にならなかったなと思えるほど、『渇き。』はバイオレンスシーンとアブノーマルセックスのオンパレードだ。公安や裏社会からの様々な妨害に遭い、ボロボロになりながらも娘の痕跡を追い求める藤島。娘の置き土産である覚醒剤を自分の体に注射することで、娘の意識とシンクロしようとする。もはや藤島が追い掛けているものは、幻影としての温かい家庭と愛すべき娘でしかない。幻想だとわかっていながらも、藤島はそれを追うことしかできない。クソ野郎! ぶっ殺す! 罵詈雑言を吐きながら、藤島は娘を探し続ける。
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イジメられっ子のボク(清水尋也)と不良グループに属する遠藤(二階堂ふみ)。姿を見せない加奈子によって、みんな巧みに操られている。
 バイオレンスものを得意とする韓国映画などに比べると、暴力描写が必ずしもハマっているとは言いがたい。刑事役のキャスティングにも一部難がある。ポップでスタイリッシュだと称されてきた中島監督ならではの映像センスが、今回は悪趣味なものに映る。これまでの中島監督作品の完成度の高さに対し、荒削りな印象が強い。だが、そういった荒々しさなくしては描けない世界に中島監督は挑んだのだ。無惨なまでに砕け散った家族像を描くことで、新しいホームドラマの在り方を模索しているようにも感じられる。粉々に砕け散った後に、果たして一体何が残ったのか?  クリエイターがどれだけ苦労したかに関わらず、すべてをエンターテイメントとして“消費社会”は一瞬のうちに食べ尽くしてしまう。まさに倒しようがない巨人のごとき存在である。CMディレクターとして業界でのキャリアをスタートさせた中島監督は、そんな巨人の恐ろしさを充分に知っている。それでも、中島監督は『告白』以上の猛毒を持って、貪欲な巨人と対峙しようとする。無敵の巨人に、一撃を加えんと立ち向かっていく。  この世界を支配する巨人に抗うためには、常識に縛られ、スタリッシュさや過去の評価にかまっていることはできない。もっと、もっと強烈な破壊衝動が必要だ。巨人を倒すには、自分自身が巨人化する覚悟がなくてはならない。また、巨人を倒した後の新しいビジョンも求められる。中島監督の手による実写版『進撃の巨人』を観ることは叶わなかったが、中島監督の体内に蓄積されていただろう破壊衝動は『渇き。』の中に充分感じることができる。巨人を引きずり倒せ! 巨人をぶっ潰せ! 巨人をバラバラに解体してしまえ! “巨人殺し”というテーマを、中島監督は今後も背負っていくのではないか。そんな予感を感じさせる。中島監督の渇きはまだまだ癒されていない。 (文=長野辰次) kawaki_nakashima04.jpg 『渇き。』 原作/深町秋生『果てしなき渇き』 脚本/中島哲也、門間宣裕、唯野未歩子 監督/中島哲也 出演/役所広司、小松菜奈、妻夫木聡、清水尋也、二階堂ふみ、橋本愛、オダギリジョー、中谷美紀ほか R15 配給/ギャガ 6月27日(金)よりTOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国ロードショー (c)2014「渇き。」製作委員会  http://kawaki.gaga.ne.jp/

秋葉原事件が題材の『RIVER』で、新境地に挑んだ蓮佛美沙子の素顔

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「女優って意識があまりないんです」と話す蓮佛美沙子。映画づくりに参加することが楽しいのだそうだ。
 16歳で大林宣彦監督の『転校生 さよなら あなた』(07)の主演に選ばれ、透明感あふれる佇まいと確かな演技力で鮮烈な印象を放った蓮佛美沙子。その後も超能力少女に扮したNHKドラマ『七瀬ふたたび』(08)、清水崇監督のサイコホラー『戦慄迷宮3D』(09)で物語の鍵を握るヒロイン、友達想いのちょいヤンを演じた『君に届け』(10)......といろんな役に染まってきた。だが、最新主演作『RIVER』で演じたひかり役はこれまでにない難役だった。廣木隆一監督のオリジナルストーリーによる本作は、2008年6月に起きた「秋葉原無差別殺傷事件」を題材にした作品。突発的な事件によって恋人を失ってしまった女性が、秋葉原という街をさまよい、さまざまな人々に出会っていく姿を描いたものだ。大人の女優へと着実にステップを刻みつつある蓮佛美沙子が、今ここにいる。 ――これまで主演・助演を問わず、さまざまな役を演じてきたけど、今回の役は難儀だったでしょ? 蓮佛 はい。挑戦でもあったし、ある意味で初心に帰らせてもらったように思います。廣木監督からは「本当にまっさらな気持ちでやってくれ。台詞も言いたくなかったら言わなくてもいいし、覚えてこなくていいから」と言われたんです。ドキュメンタリータッチで撮りたいということでした。それで私も、このシーンはこんな風に演じればいいな、この場面の台詞はこのくらい間を置いて......みたいな計算はいっさいしませんでした。その瞬間その瞬間で、自分が感じるままに動いたんです。お芝居をするようになってから無意識のうちに癖みたいなものが付いていたので、そういうのを取っ払うことができたように思いますね。
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主演作『RIVER』では大事な人を失った喪失感、なぜ自分は生きているのかという罪悪感に悩む女性役に挑んだ。「これまでにない達成感を感じました」。
――でも、役者が役づくりできないまま現場に入るのって、逆に不安では? 蓮佛 そうですね。それに今回は実際に起きた事件に基づいたものですし、撮影の初日が2011年3月27日、東日本大震災の直後だったんです。まだ3年しか経っていない事件を題材にして映画をつくることもそうですし、震災の直後に映画を撮っていて良いのかという気持ちがありました。ですから、役づくりというよりも、自分が映画にどう向き合うかということで悩みました。 ――蓮佛さん自身も、事件について調べたりしたんですか? 蓮佛 あのニュースをリアルタイムで見たときに自分が感じた心情を、もう一度思い起こすという作業はしましたね。事件のことを知って、まったく関係ない人たちが犠牲となり、残された遺族の方たちのことを想うと「何てことをしてくれたんだ......!」という感情が込み上がってきました。私自身はまだ近しい人を亡くした体験はないので、本当の意味では残された人たちの気持ちは分からないと思います。演じる人間が「分からない」なんて言葉を口にしちゃダメなんですけど。でも、残された人たちの気持ちについては、すごく考えました。 ■廣木監督は人の心を読み取る超能力者? ――廣木監督というと『ヴァイブレータ』(03)のようなインディペンデント作品から『余命1ヶ月の花嫁』(09)といったメジャー作品まで幅広く撮っていますが、蓮佛さん的にはどんなイメージの監督でした?
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事件以降、自宅に篭るように暮らしていたひかり(蓮佛美沙子)。恋人が通っていた街に、恐る恐る足を踏み入れる。
(c)2011ギャンビット
蓮佛 人の心の奥の奥まで映し出そうとする監督ですね。廣木監督の『雷桜』(10)と『軽蔑』(11)を観たんですが、人の心が動く瞬間だけを切り取って見せようとしているなぁって。現場に入るまでは「怖い監督」だと思っていました。いろんな方から「厳しいよ」と聞いていたので、覚悟して現場に入ったんです。でも、廣木監督は厳しいことは言わないんです。その代わり、見ているんです。ただ見ている。心の目で、穴が開きそうなくらい見られている感がありました。実際に私が「何か違うなぁ」と心の中で感じながら演じていると、絶対にカメラを回さないんです。で、「あっ、分かった」と自分の中でハマった感が湧いてくると、こちらから何も言わなくても「じゃあ、カメラ回そうか」とおっしゃる。もしかしたら廣木監督はエスパーなんじゃないかと思いました(笑)。 ――廣木監督からは、具体的に役に関しての説明はなかった? 蓮佛 はい。撮影前の本読みのときも「見たことあるぞ、その芝居」と言われたぐらいですね。無意識のうちに型にハマっている部分を取り払ってから現場に来いよ、ということだったんだと思います。それで私なりに、まっさらな気持ちで秋葉原に向かいました。その秋葉原で出会う人々にだけ、反応するようにしました。廣木監督はそれができているかどうかだけを見ていたみたいですね。 ――小手先の芝居では騙せないわけですね。 蓮佛 絶対に騙せません。覚悟を持って、現場に入らないとダメですね。ちょっとでも自分の頭の中で計算した芝居をしようとすると、すぐに注意されるんです。「芝居をするな」ってことなんでしょうけど、芝居をする人間にとって、それがいちばん難しいことなんです。 ――役づくりの準備もできず、しかもインディペンデント作品だから撮影期間も限られているわけでしょ? 蓮佛 私もそこがすごく不安だったんです。限られた撮影期間で役になりきれるんだろうかって。でも、今回は長回しが多くて、ひかりが事件後に初めて秋葉原駅を降りて15分ほど歩き続けるシーンを撮影初日にノーカットで撮ったんですね。このシーンの撮影に助けられました。ずっと歩き続けて、カメラマン(中村麻美)に話し掛けられ、最後に(映画には登場しない)彼のことを思い出して涙が流れてしまったんです。自分の想像を超える芝居でした。それって自分とって初めての体験だったので、すごく自信になったんです。あっ、このやり方で間違ってないんだなと思えたんです。 ――ひかりが不安げな表情で秋葉原を歩く姿は、戸惑いながら現場に入った蓮佛さん自身でもあったわけですね。 蓮佛 ほんと、そうですね。私自身が「これでいいのかなぁ。演じ切れるのかなぁ」と、探り探りの芝居でした。でも廣木監督に対する、絶対的な信頼感はあったんです。廣木監督は「秋葉原で起きた事件は絶対に風化させちゃいけない」という信念を持たれていました。それに廣木監督は福島の出身で、震災直後の自分の故郷の様子も今回撮影しているんです。そういう廣木監督の強い想いにも背中を押してもらったように思います。だから私も覚悟を決めて、現場に立つことができたんです。 ■家族や親友ではない人たちとの出会いが与えたもの ――うさん臭いスカウトマン(田口トモロヲ)に声を掛けられ、ひかりはメイドカフェで働き始めますね。メイド体験はどうでした?
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スカウトマンに声を掛けられ、メイド喫茶で働くことに。ひかりの閉じていた心が少しずつだが開いていく。
蓮佛 衣装合わせのときは「大丈夫かな」と心配でした(笑)。でも、メイドカフェには「一度、行ってみたい」と思っていたんです。実際にメイドカフェとして営業中のお店での撮影でした。お店で働いている女の子たちが制服からメイド服に着替えたりしている様子も見ていたんですが、「へぇ~、お店の裏側って、こんな風になってるんだぁ」と興味深かったですね。お店の女の子たちが「美味しくなぁ~れ~、シャカシャカ♪」なんてやっているのを見て、あそこまでできるのは役者に似ている部分もあるんじゃないかなんて思いました。劇中で「みんな自分じゃない、もう一人の自分を探しているんだ」って台詞がありますけど、確かに誰しも自分じゃない自分になってみたい願望ってあるんでしょうね。それが人によってはバイトだったり、私の場合だとお芝居だったり......。 ――田口トモロヲさんは廣木組の常連俳優。お店の女の子に手を出す、とんでもないスカウトマンですけど、「目的がないのが、いちばん辛い」って台詞は「おっ?」と考えさせますね。 蓮佛 私自身も秋葉原に行ってそのことを感じました。秋葉原駅を降りる人たちって、電器店だったり、メイドカフェだったり、AKB48の劇場だったり、目的が決まってる人たちが多いですよね。秋葉原は目的を持っている人たちが多い街。そんな街で目的がなく、ぼんやりと歩いていると浮いてしまう。目的って何だろうって考えちゃいました。 ――物語の後半には震災直後の福島の被災地の映像も。愛する人との突然の別れを強いられたひかりは、街を歩き回ることで喪失感を克服できたんでしょうか? 蓮佛 克服できたわけではないでしょうね。ひかりは恋人を失って、最初は生きていても死んでもどっちでもいいという精神状態だったと思うんです。そんな彼女が家族や親友とは違う、それほど深い関係でない人たちと出会っていく中で、いろんな話をするわけですよね。ひかりが相手に投げ掛けている言葉は、彼女自身にも向けられていると思うんです。ビルの屋上にいる青年(柄本時生)に「自殺したいの?」と尋ねて、「ううん」「よかったぁ」ってやりとりがあるんですけど、あの言葉は自分自身にも問い掛けていたものでしょうね。心のキズを克服できたかどうかは分からないけど、ほんのちょっぴり心の中に変化が生じたんじゃないかなと思います。大丈夫、これから私はしっかり生きていく、なんて大きな自信はまだないでしょうね。でも、いろんな人たちに逢うことで、ちょっとずつ背中を押してもらって、まったく希望が持てない状態から、少しだけど希望の光を感じることができるようになったのかなって。そうなればいいなと願いながら、演じていました。
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『RIVER』という題名の意味を尋ねると「川の上流が過去で、下流が未来。いろんな人に逢うことで、ひかりは『少し先の景色を見てみよう』という気持ちになれたんじゃないかな」と回答。
■今年は大学4年生。卒論は絵本の創作です ――蓮佛さんは、きちんと自分の言葉で説明してくれるのでインタビューのしがいがあります。撮影がない期間は大学に通っているんですよね。大学生活はどうですか? 蓮佛 今、大学3年生です。週2日に朝から晩まで授業を詰め込んで、他の日に撮影のスケジュールを組んでもらうようにしてるんです。大学2年までは一般教養だったんですが、苦手の英語があったりして大変でした(苦笑)。大学3年からは児童文化学科を専修していて、絵本の創作を学んでいるんです。これが、すごく楽しいんです(笑)。大学4年は卒論で絵本を創作するんです。ストーリーも絵も自分でやらなくちゃいけないけど、創作について学ぶことで、作家や脚本家の人たちはすごいなぁと思うようになりましたね。短い絵本の中でも、起承転結を考えるのが難しいんです。今までは芝居をしていて自分の演じる役の気持ちについては考えていましたけど、大学で学び始めてから「この脚本家は何を伝えたくて、この役にこの台詞を言わせているんだろう?」とか考えるようになりましたね。それが演じる上で役立っているかどうかは別ですけど(笑)。 ――撮影以外の時間をどう過ごすかって、女優にとって大事ですね。 蓮佛 そうですね。でも、この仕事をしていても、自分は女優だという意識があまりないんです。「自分は女優」という意識がないと、いけないんでしょうけど。でも大学に行くと友達が「美沙子がテレビに出てるよ、あはは」と笑われたり、もっと親しい友達だと、そういうことも考えずに一緒にいられますね。悩み事を相談したり、「今、こういうのが流行してるんだ」とかも分かりますし。仕事だけだと、そういうことが分からなくなってきますよね。そういうのも含めて、大学に通うのがすごく楽しいんです。 ――蓮佛さんは女優であることよりも、物づくりが好きなんですね? 蓮佛 そうなんです! 物づくりが好きです! 役を演じるのも、私がひとりの女の子を作っていくという感覚なんです。それで、私がひとりの女の子の役づくりをすることで、1本の映画に参加しているって意識なんです。だから、変な話、映画の完成披露の舞台挨拶に出ると「はて、何を話せばいいんだろう?」と悩んじゃうんです。役を演じ終わった後は、自分の立ち位置が分からなくなるんです。結局、素の自分で話すしかないんですけど、「あっ、どうもどうも」みたいな感じでお茶を濁してしまう(笑)。でも、まだ役について話す分にはいいんですけど、たまにテレビのバラエティー番組に出てしまうと、何を話せばいいのか全然分からなくなって「ひゃあ~」ってなっちゃうんです。 ――そんな素の蓮佛さんも素敵です。せっかくなので蓮佛さんのお薦めの絵本を教えてください。 蓮佛 私が小さいときから親に読み聞かせてもらった絵本なんですが、『まあちゃんのながいかみ』(たかどの ほうこ作)。私が髪を長くしたのもこの絵本の影響なんです(笑)。ショートヘアの少女がロングヘアにしたら、あんなことができるこんなことができると想像するお話。髪を三つ編みにして物干竿代わりにしたり、髪を洗ってソフトクリームみたいにしたり......。とてもカワイイ絵で、今読んでも癒されますね。親に絵本を読み聞かせてもらったことで、本を読むことが大好きになりましたし、脚本を読むのも楽しいです。親には感謝しています。 (取材・文=長野辰次/撮影=岡崎隆夫/スタイリスト=猪塚慶太[super sonic]/メイク=倉田明美) 『RIVER』 原案・脚本・監督/廣木隆一 主題歌/meg「Moon River」 出演/蓮佛美沙子、中村麻美、根岸季衣、尾高杏菜、菜葉菜、柄本時生、Quinka,with a Yawn、田口トモロヲ、小林ユウキチ、小林優斗 3月10日(土)より渋谷ユーロスペースほか全国順次ロードショー http://river-movie.com ●れんぶつ・みさこ 1991年2月27日生まれ、鳥取県出身。スーパー・ヒロイン・オーディションMISS PHOENIXグランプリを受賞し、市川崑監督の『犬神家の一族』(07)で映画デビュー。滝田洋二郎監督『バッテリー』(07)、大林宣彦監督『転校生 さよならあなた』(07)でキネマ旬報ベストテン日本映画新人女優賞、高崎映画祭最優秀新人女優賞を受賞。その後、大岡俊彦監督『いけちゃんとぼく』(09)、清水崇監督『戦慄迷宮3D』(09)、土井裕泰監督『ハナミズキ』(10)、熊澤尚人監督『君に届け』(10)、鶴橋康夫監督『源氏物語 千年の謎』(11)など多彩な作品に出演。ドラマ出演作に『七瀬ふたたび』(NHK総合)、『Q10』(日本テレビ系)、『全開ガール』(フジテレビ系)など。大林監督の『この空の花』が公開待機中。http://www.renbutsumisako.com/
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【関連記事】 ・和風美少女・蓮佛美沙子にゾクゾク! 日本初の3Dスリラー『戦慄迷宮』撮影中「秋葉原事件」とは何だったのか 気鋭の言論人が追った加藤智大の横顔秋葉原事件は必然!? トヨタ社員が憤る人材の使い捨て

70年前と変わらない日本人の精神構造『聯合艦隊司令長官 山本五十六』

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エネルギー資源を求めて日本は太平洋戦争に踏み切る。
石油ショックによって建設が加速化した原発禍と重なる日本が抱える根底的な問題だ。
(c)2011「山本五十六」製作委員会
 日本はなんで国力が10倍以上ある米国に無謀にも戦争を挑んじゃったのか? 『聯合艦隊司令長官 山本五十六 太平洋戦争70年目の真実』は、真珠湾奇襲攻撃を計画し、日米開戦の口火を切った連合艦隊司令長官・山本五十六の視点を中心に、太平洋戦争の発端から敗戦までを2時間20分の尺にまるっと収めたものだ。「文藝春秋」の記者時代に大座談会『日本のいちばん長い夏』を企画したことで知られる作家・半藤一利氏を監修に迎え、エネルギー資源を海外に頼る日本がエネルギー資源の輸出国である米国と戦争を始めることになった経緯と、その顛末を分かりやすくまとめている。戦争シーンは主にCGで描かれ、流血場面は極力少ない。バイオレンス描写を売りにした戦争映画が多い中、本作は戦争映画というよりは、70年前から今も変わらない日本人の精神構造について言及した問題提起作となっている。『八日目の蝉』が好評を博した戦後生まれ(1961年)の成島出監督が撮り上げた。  日中戦争が膠着状態に陥っていた1939年から物語は始まる。庶民は不況にあえぎ、内閣はことごとく短命で交替していく。日本中を先行きの見えない閉塞感が覆っている。派手な戦争をまた始めれば、景気は回復するのではないか? ドイツ、イタリアと軍事同盟を組んで、英米の圧力を押し返せ! そんな世論が広まっていた。ドイツと手を組めば米国との開戦は必至。国際情勢に詳しい山本五十六(役所広司)をはじめとする海軍が猛反対し、一度は三国同盟はお流れとなる。だが、アドルフ・ヒトラー率いるナチスドイツの欧州での快進撃の前に、「勝ち馬に乗りそびれるな」と結局は三国同盟を締結。山本五十六が予見したように、日米関係は一気に開戦へと向かう。1941年12月、国力に勝る米国との戦争は短期決戦による早期講和しかないと連合艦隊を指揮する山本五十六は真珠湾奇襲に成功するも、この戦果に大喜びした軍の上層部は戦域を拡大。米国との講和の機会を狙っていた五十六の思惑は、日本中の大熱狂に掻き消されてしまう。
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海軍次官から連合艦隊司令長官に拝命された山本
五十六(いそろく)。名前の由来は父親が56歳
のときに生まれたことから。
 本作で描かれているのは、山本五十六の武勇伝ではなく、日本人のおめでたい気質だ。ヒトラーの著書『わが闘争』の抄訳版には日本のことを見下した記述が省かれていることを知らずに、若い軍人たちは感激している。真珠湾攻撃は米軍の空母を叩くという目的が果たせなかったのに、「米軍は恐れるに足らず」とお祭り状態。自分たちの都合の悪いことには目をそむけ、都合のいい部分だけを見て大喜びする。現状を冷静に分析し、対策を練らなければいけないはずの軍の上層部や政治家たちも"都合のいい報告"に一緒に浮かれる。マスコミは都合のいい報告をさらに腕の見せ所とばかりに美化して広め、伝言ゲームのごとく現実とはまるで異なるニュースが流れる。庶民たちも嘘だらけのニュースを信じ込むことで安心する。みんなそろって、ぬか喜び。島国だけで自給自足していた時代ならいざしらず、血にまみれた歴史を踏み越えてきた諸外国にとっては格好のカモ。なんともおめでたい国・ニッポン。まさに、バンザ~イ、バンザ~イだ。
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ミッドウェー海戦で日本海軍は大敗。次代を担
うと期待された山口多聞(阿部寛)ほか多く
の部下と主力艦隊を失う。
 ミッドウェー海戦での大敗後、日本軍大本営は損害を矮小化して発表し、"撤退"という表現を使わずに"転進"と言い換える。新聞社の若手記者・真藤(玉木宏)は「それは転進ではなく撤退なのでは?」と大本営発表に疑問を挟むと、先輩記者の宗像(香川照之)が「国威発揚こそが我々の役割じゃないか」とたしなめる。真藤は反論できない。これとよく似たことを最近の日本人は経験している。福島第一原発事故で政府と東電側はかたくなに"メルトダウン"という言葉を使おうとせず、多くのマスコミはその大本営発表に同調した。太平洋戦争時と今の日本人の精神構造と行動パターンは変わっていない。また、「絶対に沈まない」と称された日本海軍のシンボル・戦艦大和は肝心の燃料がないという設計者が思いもしなかった想定外の理由から活躍の機会を失う。最後は片道分の燃料だけ積んでオトリ作戦に使われ、世界に誇る巨大戦艦は撃沈した。科学の粋を集め、「絶対に安全」と謳われた原発も、想定外の震災で大惨事を招いている。"絶対"という言葉ほど、もろくて危険なものはない。
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山本五十六を取材する新聞記者の宗像(香川
照之)と真藤(玉木宏)。宗像は五十六を
「あなたは世論がまったく分かってない」
と責める。
 本作では山本五十六を完全無欠な英雄に祭り上げることは避けている。日米開戦に反対し、戦争の主力が軍艦ではなく戦闘機になることを先見していた五十六だが、真珠湾攻撃とミッドウェー海戦で戦略の真意を連合艦隊中に徹底させることができず、そのことが致命傷を招く。また軍の中枢と距離を置いたことから、どんどん溝が生じて、五十六の真意がさらに伝わらなくなる。そして問題点が改善されないまま、次の局面へと押し流されてしまう。山本五十六もまた、どうしようもなく日本人的な人間として描かれている。  全編を通して印象に残ったのが、画面の狭苦しさだ。本来なら戦争映画は大スペクタクルシーンが見どころになるはずだが、主なシーンは五十六と参謀たちが詰める旗艦内の長官室、新聞社の編集室、記者の真藤が行き着ける小さな小料理屋、そして五十六と家族が暮らす質素な自宅。ほとんど室内でドラマが進む。密室の中で重要事項が決定されていく。予算的な都合だけでなく、演出的な意図もあるようだ。強いて開放感の感じられるシーンを挙げるとすれば、南洋の島で最後の夜を過ごす五十六がウイスキーを片手に気心の知れた部下たちと一緒に故郷の長岡甚句を歌う場面くらいだろう。いや、開放感があるシーンがもうひとつある。軍隊に徴兵された記者の真藤は、日本の敗戦にともない職場のあった東京に戻ってくる。都合のいいニュースが飛び交っていたあの東京は、焼け野原となっており、まったく何もなくなっていた。まるでキャンバスのように真っ白だ。あまりの何もなさに、真藤は唖然とするのと同時に、小さな希望も感じたのではないだろうか。 (文=長野辰次) gojyuroku5.jpg 『聯合艦隊司令長官 山本五十六 太平洋戦争70年目の真実』 監修/半藤一利 脚本/長谷川康夫、飯田健三郎 特撮監督/佛田洋 監督/成島出 出演/役所広司、玉木宏、柄本明、柳葉敏郎、阿部寛、吉田栄作、椎名桔平、益岡徹、袴田吉彦、五十嵐隼人、坂東三津五郎、原田美枝子、瀬戸朝香、田中麗奈、中原丈雄、中村育二、伊武雅刀、宮本信子、香川照之 配給/東映 12月23日(金)より全国ロードショー <http://isoroku.jp>
聯合艦隊司令長官 山本五十六 提督の真骨頂。 amazon_associate_logo.jpg
●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第148回]追悼......"永遠の反逆児"原田芳雄さん幻の主演作『原子力戦争』がDVD化 [第147回]"ファスト風土"を舞台にした犯罪喜劇 J・アイゼンバーグ主演『ピザボーイ』 [第146回]"正義のゾンビ"が犯罪者を貪り喰う! イラク戦争奇談『ゾンビ処刑人』 [第145回] "時代の寵児"の未ソフト化作品上映!「松江哲明グレイテスト・ヒッツ」 [第144回]原発事故を描いた『カリーナの林檎』と今関あきよし監督の背負った贖罪 [第143回]"窮屈なモラル"を脱ぎ捨てた裸の女たち 園子温監督の犯罪エロス『恋の罪』 [第142回]ノーベル賞作家・川端康成が夢想した新風俗『スリーピングビューティー』 [第141回]横暴な上司は有志社員が制裁します!『モンスター上司』のブラックな笑い [第140回]"クソみたいな社会を変えたい!"高校生テロリストの凄春『アジアの純真』 [第139回] うつ病なんかヘーキ!? 宮崎あおい主演作『ツレがうつになりまして。』 [第138回]"神話"が生まれる瞬間を目撃せよ! 人類への黙示録『猿の惑星:創世記』 [第137回]刑務所で食する至高の味『極道めし』ヒロインの後ろ姿に、むせび泣き! 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異色作を連発する天願大介監督が語る疑似共同体"デンデラ"とは何か?

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女性高齢者たち50人のサバイバル映画
『デンデラ』を撮り上げた天願大介監督。
 "うばすて山"伝説を題材にした今村昌平監督の『楢山節考』(83)はカンヌ映画祭でパルムドール(最高賞)を受賞した日本映画史に残る記念碑的作品だ。だが、もし山奥に棄てられた高齢者たちがその後も生きていたら? 女性だけのコミュニティーを築いていたら? そして自分たちを棄てた村への復讐を考えていたら? 天願大介監督の新作『デンデラ』は、そんな奇抜な物語が展開される高齢者サバイバル活劇なのだ。天願監督といえば、今村監督の子息であり、障害者プロレスの活動を追ったドキュメンタリー『無敵のハンディキャップ』(91)、エロスとユーモアを交えた大人のファンタジー『世界で一番美しい夜』(07)など独創的な作品を次々と発表している要注意人物。また、三池崇史監督の代表作『オーディション』(00)、『インプリント ぼっけえ、きょうてえ』(05)、『十三人の刺客』(10)の脚本家としても知られる。天願監督が描こうとした"デンデラ"とは何か? さらには三池監督とのコラボレーション、父・今村昌平像についても語ってもらった。 ――奇抜な設定の原作小説を、よくぞベテラン女優たちをそろえて実写映画化しましたね。どのような形でオファーがあったんでしょうか? 天願大介監督(以下、天願) 「こんな原作があるけど、読んでみない?」と佐藤友哉さんの小説『デンデラ』を渡されたんです。読み始めると『楢山節考』を彷彿させる内容で、「あぁ、それでオレのところに話が来たのか」と分かりました(笑)。でも、読み進むと、『楢山節考』とは全然違う物語だったので、父の作品のことは意識しませんでしたね。それよりも、ベテランの女優さんたちを使って、今どきこういう企画の映画が撮れることが面白いと思い、受けたんです。 ――村の高齢者たちが棄てられる"お山"はいろんなメタファーに解釈できますね。何でも使い捨てされる消費社会の象徴でもあるし、中身のある企画でもポイ捨てしてしまう現在の映画業界のようでもある。天願監督にとって越えなくてはいけない"世界的な巨匠"今村昌平という大きな山のようにも思えます。
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浅丘ルリ子、草笛光子、倍賞美津子、山本陽子
ら大ベテラン女優たちが襲いかかる!
(c)2011「デンデラ」製作委員会
天願 オヤジは病院で死んだんで、ボクが担いで山に棄てに行ったわけじゃないですよ(笑)。まぁ、メタファーは観た人によってそれぞれですから、どう解釈しても間違いじゃないですけど。でも、使い捨てといっても、この作品で棄てられるのは物ではなく命です。オヤジが『楢山節考』を撮った頃から、すでに老人問題はありました。戦争が終わって、高度経済成長があって、昔からの共同体は破壊され、お年寄りは大切にされなくなった。『デンデラ』は生きること、命がテーマなんです。 ――お山で死ねば極楽浄土に行けると信じていたカユ(浅丘ルリ子)が、お山で死んだはずのメイ(草笛光子)たちが築いた"デンデラ"で生きる意味を改めて知る物語。宗教が形骸化した現代社会にマッチした作品でもありますね。 天願 日本は葬式仏教。人が死んだときに稼ぐようになっていて、本来の宗教の在り方とは違ったものになっています。本来、葬式はオマケですよ。いかに生きるかが宗教の本来のテーマ。もちろん、このことに気づいて活動している一部の若い宗教家はいます。でも、他国に比べ、日本は宗教の形骸化、世俗化が著しいのは確かでしょうね。まぁ、『デンデラ』の中で村人たちが信じている宗教は形骸化されたものというよりは、村の機能を維持していくために必要なものとして存在しています。お山で成仏すれば極楽浄土に行けるというね。お山に棄てられる本人たちも、そのように考えたほうが楽なわけです。でも、実際にお山に棄てられてみて、それがウソだと分かる。じゃあ、そこからどうするか? それがこの物語です。 ――100歳になるメイが山奥に作り上げた女性高齢者だけの集落"デンデラ"ですが、『地獄の黙示録』(79)を連想しました。 天願 『地獄の黙示録』はウィラード大尉(マーティン・シーン)が王国を築いたカーツ大佐(マーロン・ブランド)を捜す物語。『デンデラ』ではカユとメイは序盤ですぐに会うことになるので物語としては違いますね。フランシス・フォード・コッポラ監督作品でいえば、どちらかと言うと『ゴッドファーザーPARTll』(74)でしょう。マフィア王国を築くドン・コルネオーネ(ロバート・デ・ニーロ)の過去の物語とその王国を守ることになるマイケル(アル・パチーノ)の現在の物語が交互に存在するという点でね。
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70歳になり村から棄てられたカユ(浅丘ルリ
子)だが、デンデラでは一番の若者。野生熊
との肉弾戦の最前線に立つ。
――さすが日本映画大学で教壇に立つだけに、物語構造の明快な解説です。撮影現場はどうだったんでしょうか。浅丘ルリ子、倍賞美津子、山本陽子、草笛光子ら錚々たるベテラン女優たちが集結した山形県庄内地方のロケ地は、48年ぶりの大豪雪に見舞われたと聞いています。 天願 女優さんたちに関してまったく問題ありませんでした。ボクのことを信頼してくれたというのもあるんでしょうが、やっぱり浅丘ルリ子さんが座長なわけです。浅丘さんは演じることに集中して、弱音を吐かず、まったくブレることなくやり通してくれました。他のみなさんも、そんな浅丘さんの姿勢に影響されるわけです。確かに寒さと豪雪には苦労しました。でも、映画としてはキツいほうがいいんですよ(笑)。すごい豪雪の中で芝居をしているので、小手先の芝居、その場凌ぎの芝居では済まないんです。逆にいえば、雪が吹雪く中に立っていることだけで表現になる。この人物はなんでここにいるのか、どうやって今まで生き延びてきたのかと。下手をするとデンデラはユートピアかファンタジーの世界に見えてしまいますから、今回は厳しい自然現象に遭遇したことが良かったと思います。もちろん制作部には、役の大きさに関係なく女優さんたちの防寒に気を遣うように言いました。ガンガン(一斗缶の空き缶)を焚いたりしてましたが、あれだけのキャリアを持つ大女優たちに対してケアしていないのと同然でしょうね(笑)。でもね、深夜、血も凍るような寒さの中で照明だけは灯されていて、雪が降ってくる。その様子がとても幻想的なんです。女優のみなさん、竪穴式住居のセットから出てきて「まぁ、なんて奇麗なんでしょう!」と喜んでました。あんまり寒すぎて感覚が麻痺してたのかも知れませんね(笑)。 ――どんな境遇でも、美しいものを求める。みなさん根っから女優なんですね。デンデラはユートピアではないとのことですが、村にはない自由があるコミュニティーではありますよね? 天願 でも、自由ということは両面あるわけですよ。何をしても咎められないけれど、すべて自分で考えて、自分で行動しなくてはいけない。村では男たちが威張っていたけど、黙って従っていたほうが楽だし、衣食住が保証されていたわけです。その村から70歳になったカユは棄てられてしまったので、メイが築いたデンデラで生きていくしかなくなった。デンデラは村と違って掟がなくて楽ですが、大変なこともいっぱいある。デンデラという疑似共同体では強くないと生きていけない、生活を楽しむことができないんです。原作を脚本に直しながら、また撮影しながらデンデラと村はどう違うかと考えた際に、デンデラではひとり一人が個人であるということに気づきました。村では責任はないけれど、自由もなかった。でも村から棄てられ、すべて自分で考えて生きていかなくてはいけなくなった。それはどういうことかいうと、"あなたはあなたである""あなたはひとりの人間である"ということです。でも、やっぱり、個であることはキツいですよ。共同体の中で無責任に発言してるほうが楽です。
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100歳になるメイ(草笛光子)。村へ復讐心から
デンデラをひとりで築き上げた。ついに村の
襲撃を決意する。
――村に復讐するためにメイが30年がかりで築いたデンデラですが、そのデンデラを原作で用意された以上の大自然の驚異が襲い掛かります。 天願 いくら人間が頑張っても、必ずしも報われるとは限りません。人間がいくらこうしたいと願っても、運命が邪魔をすることがあります。東日本を襲った震災もそうですが、唐突に乱暴な力が人間に襲い掛かるわけです。そんな状況に遭遇したら、どう抵抗するのか? 逃げるのか? それとも黙ってやり過ごすのか? 過酷な運命に遭遇した際、おばあさんたちの生き方が試されるわけです。相手は大自然だから聞く耳は持っていないけれど、メイやマサリ(倍賞美津子)はそれでも自分の意志を主張する。ヒカリ(山本陽子)も自分の意志で行動する。誰が見てるわけでも、誉めてくれるわけでもない。自分のやりたいことをやるという人生を選択した人たちの物語を、自分は描きたかったように思いますね。 ■三池監督とは"共犯関係"。相乗効果でとんでもない作品に ――三池監督の『十三人の刺客』でも十三人目の刺客・小弥太(伊勢谷友介)は、オリジナル版とは違う"山の民"という設定にしていますね。 天願 『十三人の刺客』は、それこそ『地獄の黙示録』的なイメージを最初は考えていました。刺客たちは山奥をさまよってから決戦の場に辿り着くというイメージですね。でも、山の中のエピソードばかり盛り込むわけにはいかないので、やめましたけど(苦笑)。山の民を出したのは、侍とは違う理屈で生きている人を出したかったんです。村に対してデンデラがあるように、ひとつの世界で通用した常識がその世界からこぼれ落ちた瞬間から通用しなくなるということです。米国の常識がアルカイダでは通用しないように。自分と相手は違うんだと認めない限り、コミュニケーションは成り立たないわけです。『十三人の刺客』で描いた"山の民"は実際にそれに近い生活をしていた人たちがいたと言われています。山の民から見れば、徳川幕府がどうなろうとまったく関係のないこと。身分制度に囚われないキャラクターがあの作品には必要でした。 ――せっかくなので、三池監督とのコラボレーションについても聞かせてください。『オーディション』『インプリント』『十三人の刺客』と、三池監督作品の中でも海外で人気の高い代表作3本の脚本を手掛けていますね。
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新潮社の『女優』シリーズのインタビュ
アーとしても知られる天願大介監督。
トークの中に自身が考える物づくりの
姿勢が浮かぶ。
天願 三池さんとは『オーディション』からの付き合いですね。実現したのは、その3本。実現しなかった企画もあります。基本的に三池監督はボクのことを信頼してくれていて、注文を付けられることはあまりないですね。最初に「こんな感じ?」みたいな大ざっぱな雑談だけして、「あとはよろしく」と(笑)。で、ボクが書き上げた脚本は、ほぼ忠実に撮ってくれています。その意味では、ボクの責任はすごく重大なんです(笑)。 ――三池監督とは表現者として共鳴し合う部分がある? 天願 相性がいいってことと、同世代だってことでしょうね。ボクとは映画製作のスタンスは全然違うけれど、応援したくなるスタンスなんですよ、三池監督は。三池監督もボクも、それぞれがそれぞれの戦いをしている。お互いに"個"ですから、それぞれが"個"として戦えばいい。で、「ちょっと助けてよ」と声を掛けられれば、助けにいく。助けにいくといったら失礼かな、手伝いにいくって感じですね。特に三池監督の作品ということを意識して『十三人の刺客』では稲垣吾郎くんを暴君にしたり、両手両足のない女性を出したわけではないですね。でも、山田洋次監督に頼まれていたら、出してなかったでしょう。ボクにも良識はあるんですよ(笑)。まぁ、三池監督とは一種の"共犯関係"でしょうね。ボクが脚本に書いたことを一切ブレーキをかけずに映像にするのが三池さん。なので下手なものを脚本に書くと、大変なことになってしまう。相乗効果でどこまで行ってしまうか分からない(苦笑)。脚本はとても慎重に書いていますよ。 ――『無敵のハンディキャップ』以来、天願監督作品は障害を持つ主人公が多い。身体性を主題にしているという点でも、三池監督とは共通しますね。 天願 ボクの場合は、身体性へのこだわりというより興味ですね。俳優は基本的に肉体を使って表現するので、当然ですが人間の体がどのように動くかを考えて、その中からベストの状態を選ぶのが演出であり、それを探っていく作業でもあるんです。まぁ『オーディション』の後半はかなり無茶な脚色をしていますが、原作者の村上龍さんも人間の身体にこだわっている作家ですし、三池監督のアクションシーンにもその傾向は感じられます。『オーディション』は当時、Jホラーブームだったんで、「幽霊を出すのも、ちょっとねぇ」ってことで、ああなったんです。三池作品でボクが脚本を手掛けたものはどれも残酷表現が多く、血が吹き出しますが、たまたまですよ(笑)。ボク自身ハードな作品を撮るのはやぶさかではないんですが、自分が監督するときはユーモアをちょっと入れたいな、救いがあったほうがいいなと考えるんです。ボクは自分が観てみたいものを撮っているだけなんです。最初から分かっているものより、分からないものを撮っているほうが面白いと思う。そうやって『世界で一番美しい夜』を撮って、「あぁ、これで当分は仕事ないな」と思っていたんですけどね(苦笑)。そこで来たのが『デンデラ』です(笑)。 ――今村監督が創設した横浜放送映画専門学院(現:日本映画大学)を三池監督は卒業。天願監督も三池監督も今村監督の映画的遺伝子の継承者であるように感じます。 天願 ボク自身はオヤジの作品の脚本を書いていますが、オヤジの撮影現場でのスタッフは経験していません。これは私見ですが、オヤジの作品にはいろんな監督たちが助監督として就いたんですが、その中で三池監督が一番うまく距離を保って、いい部分を盗んでいったように思います(※三池監督は87年の『女衒』、89年の『黒い雨』に助監督として参加)。そこは三池監督ならではの運動神経、反射神経の良さでしょう。やっぱり、うまく距離を置かないと見えてこないものがあります。中へ入りすぎると、愛憎が強まりすぎる。"毒"を浴びてしまうわけです。オヤジだけでなく、黒澤明監督でも他の監督でも強い人間には毒があります。毒との距離の取り方が、三池監督はうまかった。 ――そんな天願監督も、今村監督の"毒"を受け継いでいるように思います。 天願 いやいや、ボクは良識の人間ですよ(笑)。たまにはハートウォーミングな作品もやってみたいんですけどねぇ、なかなか分かってもらえない(苦笑)。まぁ、『デンデラ』をひとつよろしくお願いしますよ。 (取材・文=長野辰次) 『デンデラ』 原作/佐藤友哉 監督・脚本/天願大介 出演/浅丘ルリ子、倍賞美津子、山本陽子、草笛光子、山口果林、白川和子、山口美也子、角替和枝、田根楽子、赤座美代子 配給/東映 6月25日(土)より全国公開 料金/1000円均一 <http://dendera.jp> ●てんがん・だいすけ 1959年東京都生まれ。琉球大学卒業後、新潮社に入社。新潮社在籍中に林海象プロデュースによる『アジアン・ビート(日本編)アイ・ラブ・ニッポン』(91)で長編監督デビュー。その後フリーとなり、障害者プロレスを追ったドキュメンタリー映画『無敵のハンディキャップ』(93)が大きな反響を呼ぶ。合気柔術に魅せられた中途障害者の青春映画『AIKI』(02)、田中麗奈が視覚障害者を演じたサスペンス『暗いところで待ち合わせ』(06)、エロティックなファンタジーコメディ『世界で一番美しい夜』(07)と問題作、話題作を次々と発表している。父・今村昌平監督の『うなぎ』(97)、『カンゾー先生』(98)、『赤い橋の下のぬるい水』(01)の脚本も手掛けている。三池崇史監督作品の中でも海外で評価の高い『オーディション』(00)、『インプリント ぼっけえ、きょうてえ』(05)、『十三人の刺客』(10)に脚本提供していることでも有名。現在、今村監督が創設した日本映画大学(旧:日本映画学校)で学科長を務めている。
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北国で93年間営業を続ける"大黒座"と町の記録『小さな町の小さな映画館』

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人口1万4,000人の浦河町で1918年から
営業を続けている「大黒座」。写真は93年時の旧大黒座と
先代館主の三上政義さん。
 "映画を見ない人生より、見る人生のほうが豊かです"。これは北海道の南岸・浦河町にある映画館「大黒座」の3代目館主・三上政義さんの言葉だ。確かに映画を見なくても人間は死なないし、映画を見てもお腹は膨れない。でも、しかし、なのだ。映画を見る人生と見ない人生ではずいぶんと違う。できればDVDではなく、映画館の暗がりの中で知らない人と一緒に笑ってみたい、泣いてみたい。やっぱり、町に映画館があるとうれしい。スクリーンの向こう側は、現実世界とは異なる"鏡の世界"だ。たとえ鏡の世界に入れなくても、鏡の世界の存在を知っているだけで心が踊る。とはいえ、鏡の世界を維持していく映画館経営者は大変だ。週末はみんな車に乗って郊外のシネコンに向かう。客足が減る一方、ドルビーだデジタルだと新しい機材を次々と導入しなくてはいけない。現在の大黒座は政義さんの息子・三上雅弘さんが4代目となり、2008年に開業90周年を迎えた。ちなみに浦河町の人口は1万4,000人である。そんな北国の小さな町で大黒座はどうやって1世紀近くも営業を続けてこられたのか? ドキュメンタリー映画『小さな町の小さな映画館』はその謎を解き明かしていく。  大黒座が建てられたのは1918年、大正7年のこと。雅弘さんの曾祖父にあたる大工の三上辰蔵は、もともと自宅に旅芸人たちを泊まらせていた。そのうち旅芸人たちの余興を楽しみに三上家に集まる人たちが増え、どうせ大工なんだからと自前で劇場を作ったそうだ。映画上映だけでなく、浪曲や講釈ものもやっていたので大黒館ではなく大黒座となった。辰蔵の娘ヨネが2代目を継ぎ、1950年代はまさに映画黄金時代で、漁港に面する大黒座は羽振りのいい漁師たちで連日連夜賑わった。やがて政義さんが3代目となるが、70年代以降の映画産業は斜陽化。入場料よりストーブ代のほうが高くつく状態となる。都会の映画館では『E.T.』(82)や『子猫物語』(86)が大ヒットしていたが、フィルムの貸し出し料金が100万円と高く、大黒座はこの2本は上映できなかった。配給会社からは「これを買えないようなら、映画館はやめたほうがいい」と言われている。
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4代目館主の三上雅弘さん。「石にかじりつ
いても映画館を続けようと考えているわけで
はありません」と自然体の経営が信条。
 政義さんは何度も閉館を考えるが、風雪にさらされ続けてきた大黒座は映画スタッフの目に留まり山田勇男監督の『アンモナイトのささやきを聞いた』(92)や恩地日出夫監督の『結婚』(93)のロケ地に選ばれている。また地元の映画ファンたちが映画サークルを結成し、温かく応援してくれた。このように紹介すると映画の神様が微笑む幸運な映画館のようだが、現実はもっとシビアだ。映画館だけでは赤字なので、三上さん一家はクリーニング店を併設して、副業の黒字で何とか補填しながら運営を続けてきた。映画の上映開始時間だけ、政義さんの妻・雪子さんがモギリ嬢を務めている。政義さんが亡くなり、東京の大学に進学して稼業を継ぐ気のなかった息子の雅弘さんが4代目となった。これまで赤字を補っていたクリーニング業も、最近の若者はクリーニングの必要がないファッションを好むようになったため、経営は本業・副業どちらも厳しい。  では、大黒座を支えているのは何か? 本作の中で紹介される、ひとりの女子高生の思い出が印象的だ。映画好きな彼女が大黒座で見た映画の中で記憶にいちばん残っているのは、SF映画『エイリアン2』(86)だという。映画そのものは大したことなかったけれど、映画館を出ると目の前に見慣れた港の風景が広がっていたのがひどく不思議に思えたらしい。ついさっきまで宇宙の彼方にいたはずなのに。その女子高生は札幌の大学に進学したため、大黒座は熱心なお客をひとり失ってしまう。だが、彼女は札幌で見た映画の感想を手紙に綴り、大黒座に送り続けた。この女性は、後に4代目館主・雅弘さんの夫人となる佳寿子さん。父・政義さんが亡くなり、4代目を継ぐかどうか悩む雅弘さんが「ひとりでやっていく自信がない」と漏らした際に、無責任に「がんばって」と声を掛けることができず、「一緒にやろう」と嫁いだ。映画館運営は"映画愛"だけではやっていけない。もっと深い覚悟がないと続かないのだ。
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雅弘さんの母・雪子さん。クリーニング業の傍
ら、大黒座のモギリをしている。お客さんゼロで
も動じない年季の入った看板娘だ。
 雅弘さん・佳寿子さん夫妻の長女は、現在やはり地元を離れて、尾道の公立大学に通っている。入学の際に付き添った佳寿子さんは尾道に一軒だけ映画館(シネマ尾道)があることを知り、ホッとしたと話す。親類縁者のいない遠い町に娘を送り出すことに不安を感じていたが、娘の暮らす町に映画館があると分かり、親戚を見つけたような安心感を覚えたそうだ。長女は大学に通う傍ら、シネマ尾道でボランティアスタッフをし、見た映画の感想を実家に手紙で報告しているという。遠く離れていても、北国で生まれ育った家族の営みが綿々と続いている。  大黒座に通うお客さんも味のある人が多い。愛知でエンジニアをしていた櫻井さんは、浦河町に移り住んで和鶏の飼育をゼロから始めた。和鶏が産んだ健康卵は美味しいと評判だが、手間やエサ代が高くつくことから利潤がなかなか上がらない。毎日鶏を相手に苦闘している櫻井さんだが、大黒座の上映作品は欠かさず見ている。映画を見て、面白かったときはエビスビール、まぁまぁだったときは普通のビール、つまらなかったときは発泡酒を飲むそうだ。また、毎年11月になると大黒座では「大黒座まつり」が開催される。これは雅弘さんの古くからの友人である、地元在住の漫画家・鈴木翁二さんが発起人となって開いた「映画酒場・民衆BAR」が名前を変えたもの。祭りの日の大黒座ではロビーに食事や酒が並び、映画の特別上映のほかに、ステージ上で様々な出し物が延々と続く。初代・辰蔵の頃、旅芸人や地元の人たちが集まっての宴会も、きっとこんな風だったんだろう。幸福なデジャブ感で大黒座が満たされていく。
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ポスターをせっせと張る雅弘さんの妻・佳寿
子さん。大黒座はwebでの告知はしてないので、
昔ながらの宣伝と口コミが命。
 埼玉在住の森田惠子監督は08年から大黒座の撮影を始め、持ち出しで映画を完成させた。NTTの時報や番号案内の声で知られる中村啓子をナレーションに起用したのは、昔からの知り合いで友達価格で頼めたかららしい。聞き覚えのある声が"町の映画館"の身近さを伝える。森田監督によると、「大黒座がドキュメンタリー映画になる」ということを知って、昔から浦河に住んでいる町民たちが驚いたそうだ。自分たちが生まれるずっと前からある当たり前の存在なので、1万4,000人の町に映画館があることのレアさがピンとこなかったらしい。今年の2月から大黒座をはじめ、北海道や各地で上映が始まり、徐々にだが大黒座を、町の映画館を再評価する声が広がっている。  自分には関係のない鏡の世界の出来事のはずなのに、どうして映画を見ていると泣けてきたり、笑えたり、頭に来たり、ほんわかしたりするのだろか。中には映画館を出た瞬間にきれいさっぱり忘れてしまう映画もあれば、逆立ちしても理解できない作品もある。映画のプログラムは、凸凹だらけでふぞろいな人生に似ている。やはり、映画を見ない人生より、見る人生を選びたい。 (文=長野辰次) daikokuya.jpg 『小さな町の小さな映画館』 プロデューサー・監督・撮影/森田惠子 構成・編集/四宮鉄男 語り/中村啓子 音楽/遠藤春雄 配給/アルボス 6月18日(土)~7月1日(金)ポレポレ東中野にて毎朝10時20分よりモーニングショー、7月30日(土)~8月5日(金)シネマ尾道にて上映 http://www.chiisanaeigakan.com
ニュー・シネマ・パラダイス 不朽の名作。 amazon_associate_logo.jpg
<http://www.chiisanaeigakan.com> ●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第122回]新幹線がすれ違う瞬間、願いが叶う? 小学生の目線で描かれた『奇跡』 [第121回]理想と情熱がもたらした"痛い現実" 青春の蹉跌『マイ・バック・ページ』 [第120回]胸に響く金言"プロとは手を抜くこと" 職人秘話『アトムの足音が聞こえる』 [第119回]危険な出会い、井口昇ミーツ仲村みう 悪夢の遊園地『富江 アンリミテッド』 [第118回]ナタリー・ポートマン"第1章"の終幕 虚実が攻め合う『ブラック・スワン』 [第117回]"セカイ"を旅立った少女の地底探検記 新海誠監督の新作『星を追う子ども』 [第116回] 美少女たちの輝きが脳裏から離れない。青春ムービー『魔法少女を忘れない』 [第115回] 恋愛が与える"陶酔"とリアルな"痛み"サブカル活劇『スコット・ピルグリム』 [第114回]妄想、空想、そして現実からの大脱走 美少女革命『エンジェル ウォーズ』 [第113回]"3.11"後の新しい映画モデルとなるか『劇場版 神聖かまってちゃん』の挑戦 [第112回]マスコミが讃えた"楽園"のその後、ひとりの少女の成長記録『愛しきソナ』 [第111回]閉鎖的な"村社会"をブチ破ったれ! 韓流サバイバル劇『ビー・デビル』 [第110回]"粋"を愛したフランスの伯父さん J・タチ主演『イリュージョニスト』 [第109回]自分にとって家族は敵か、味方か? オスカー2冠受賞『ザ・ファイター』 [第108回]コーエン兄弟『トゥルー・グリット』40年で変化した"米国のヒーロー像" [第107回]ジョニー・デップが愛した"極道記者" 『GONZO』奇人がスターだった時代 [第106回] 巨匠イーストウッド監督の異色作! "あの世"はあるか?『ヒア アフター』 [第105回] キレ味、喉ごしが違うアクション! 黒帯美少女の"涙拳"が炸裂『KG』 [第104回] 高齢化するニートはどこに行くのか? 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[第95回]実在した"奇妙な高額バイト"の顛末 心理サスペンス『エクスペリメント』 [第94回]"アル中"カメラマンの泣き笑い人生『酔いがさめたら、うちに帰ろう。』 [第93回]朝ドラと異なる映画『ゲゲゲの女房』ゴールなき"貧乏耐久"2人3脚走 [第92回]バラエティーでの実績は通用するか? テリー伊藤の初監督作『10億円稼ぐ』 [第91回] 不謹慎なる社会派エンタテイメント『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』 [第90回]"世界のナベアツ"大阪府知事に就任! 政治コメディ『さらば愛しの大統領』 [第89回]自分の恋愛もプロデュースする女優、ドリュー・バリモア主演『遠距離恋愛』 [第88回]スタローンが立ち上げた"筋肉共和国"男たちの祭典『エクスペンダブルズ』 [第87回]元"おはガール"安藤聖の再起動ドラマ 就職氷河期を生きる『バカがウラヤマシイ』 [第86回]マイノリティーは"理想郷"を目指す。筒井文学の金字塔『七瀬ふたたび』 [第85回]清純派・佐藤寛子が美しく"変態"! 官能サスペンス『ヌードの夜──』 [第84回]死を意識して、ギラギラ輝く男たち! 三池節、大バクハツ『十三人の刺客』 [第83回] 女を食い物にする男どもは全員処刑! モダン社会の闇を暴く『ミレニアム』 [第82回] "企画AV女優"たちの青春残酷物語 性なる鎮魂劇『名前のない女たち』 [第81回]猫を見れば、人間社会が見えてくる! 世界の人気猫大集合『ネコを探して』 [第80回]原恵一監督の新作は辛口ファンタジー 退屈な"日常生活"を彩る『カラフル』 [第79回]米軍に実在した"超能力部隊"の真実!? ムー民、必見『ヤギと男と男と壁と』 [第78回]戦場から帰還した夫は"芋虫男"だった! ヤクザ監督の反戦映画『キャタピラー』 [第77回] 白ユリの花開くガールズの妖しい世界 H系ホラー『ジェニファーズ・ボディ』 [第76回] 爽やか系青春ゾンビ映画にホロリ......夏休みは『ゾンビランド』に集結せよ [第75回] "生きる"とは"見苦しい"ということ 藤沢周平の時代活劇『必死剣 鳥刺し』 [第74回]初恋の美少女は200歳の吸血鬼だった! 北欧産のホラー映画『ぼくのエリ』 [第73回] "三億円事件"の真相を解き明かす! 桜タブーに挑んだ『ロストクライム』 [第72回/特別編] 上映反対で揺れる問題作『ザ・コーヴ』"渦中の人"リック・オバリー氏の主張 [第71回] 女子にモテモテになる方法、教えます。軟派少年の実話物語『ソフトボーイ』 [第70回] 下町育ちの"北野少年"が見た現代社会 人間同士の食物連鎖『アウトレイジ』 [第69回] "リアルと虚構の狭間"を生きる男、アントニオ猪木初主演作『アカシア』 [第68回] ヒーローも神もいない現代社会の惨劇 井筒監督の問題作『ヒーローショー』 [第67回] アイドルが地獄で微笑む『戦闘少女』ギャグ×血しぶき×殺陣の特盛り丼! 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新幹線がすれ違う瞬間、願いが叶う? 小学生の目線で描かれた『奇跡』

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是枝裕和監督の新作『奇跡』。九州新幹線の一番列車が
すれ違う瞬間に奇跡が起きるという噂を聞きつけた兄弟が
願掛けの旅に出る。
(c)2011『奇跡』製作委員会
 桜島が大噴火すればいい。少年たちは冗談ではなく純粋な気持ちで、そう願う。このご時勢に不謹慎極まりない願いだが、少年たちは真剣だ。両親が別居してしまい、小学6年と4年になる息子たちは、鹿児島と福岡で別々に暮らしている。桜島が大噴火を起こせば、両親はケンカどころじゃないと思い直して、また一緒に暮らせるに違いない。兄弟はそれぞれ親に内緒で、九州新幹線のルートに沿って願掛けの旅に出る。『誰も知らない』(2004)、『空気人形』(09)などシニカルな社会派作品で知られる是枝裕和監督の新作『奇跡』は、少年たちが大人になるための通過儀礼として死体を捜しに行く『スタンド・バイ・ミー』(1986)の日本版といった趣きの作品だ。  この春に全線開通したJR九州新幹線のタイアップ企画かよと思われがちな作品で、実際にそうなのだが、『DISTANCE』(01)でオウム真理教問題を取り上げ、『誰も知らない』『空気人形』で生きることの痛さ、『歩いても 歩いても』(08)で心に傷を負いながら生きていく家族の姿を描いてきた是枝監督ゆえに、鉄道マニアの動員を狙っただけのイベント映画にはしていない。将来の見通しがつかない、どんよりとした社会情勢の中で、子どもたちの目線に立つことで、より低く、足元を見据えながら描いている。子どもたちを主人公にした『誰も知らない』ではシビアな結末を用意した是枝監督だが、監督自身が『歩いても 歩いても』の後、子どもが生まれたこともあり、シビアさの中にほんのりと希望が感じられる作品に仕上げてある。
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兄の航一(前田航基)は母(大塚寧々)に
連れられ、鹿児島で暮らす祖父母の世話に
なる。街の真ん前に活火山があることが信じ
られない。
 主人公は2人の兄弟。兄の航一(前田航基)は母親(大塚寧々)と共に鹿児島で暮らす祖父母(橋爪功・樹木希林)の実家で世話になっている。弟の龍之介(前田旺志郎)は福岡で売れないミュージシャンをしている父親(オダギリジョー)と気ままな生活を送っている。兄弟は父と母が新しい恋人を作らないよう監視しながら、「家族がまた一緒に暮らせるように」と密かに連絡を取り合っている。そんなとき、航一は学校で噂を耳にする。もうすぐ開通する九州新幹線の博多発の「つばめ」と鹿児島発の「さくら」の一番列車がすれ違う瞬間に凄いエネルギーが生じて、奇跡が起きると。そして、その瞬間を目撃した人は願いが叶うと。航一と龍之介はこの噂を信じて、それぞれクラスメイトを伴って鹿児島と福岡を出発。「つばめ」と「さくら」が出会う熊本で合流する約束を交わす。  子どもたちの願いが切実だ。航一の親友・真(永吉星之介)は、家族同然だった飼い犬が死んでしまい、生き返らせたいと願う。死んだ犬をカバンに詰め込んで熊本に向かう。蘇ったら、それこそスティーヴン・キング原作の『ペット・セメタリー』(89)だよ。父親に似て、女の子にモテモテの龍之介はクラスメイトの女子たちを連れてくる。中でもひと際目立つ美少女・恵美(内田伽羅)がいる。恵美の願いは「女優になりたい」というものだが、これは志なかばで妊娠してしまい、女優業を諦めた母親(夏川結衣)の夢を代わりに叶えようというもの。だが母親は恵美の優しい性格では女優として成功しないよと否定的だ。恵美が女優を目指しているのは、詳しくは触れられないが、テレビのCMやドラマに出るようになれば、別れた父親が自分の存在に気づいてくれるかもしれないという想いもあるのだろう。もしかしたら、父親が会いに来て「がんばったな」と誉めてくれるかもしれない。母親に対して「立派に育てたな」と言ってくれるかもしれない。意外にも子どもたちの願いは、自分のことよりも家族のことを心配し、思い遣るものが多い。
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弟の龍之介(前田旺志郎)と父(オダギリ
ジョー)は福岡で、男2人で気ままな生活を
送っている。龍之介は積極的に地元に溶け込む。
 『空気人形』のオダギリジョーがいい年齢して売れないミュージシャン、『歩いても 歩いても』の阿部寛がデリカシーに欠ける小学校の教員、やはり『歩いても 歩いても』の樹木希林がハワイアンに熱心な祖母と、是枝作品オールスターキャストかというくらい豪華なキャストがそろっている。大人たちは完成された人間ではなく、みんな欠点、短所を持っているが、それぞれ自分が選んだ道をマイペースで生きている。子どもたちは敏感で、マイペースで生きている大人の心配はさほどしないが、母親が暗い顔をしていると自分に原因の一端があるのではと気に病んでしまうのだ。  小学生のお笑いコンビとしてすでに活躍中の"まえだまえだ"が、航一・龍之介兄弟を達者に演じているのに加え、劇中で目を惹くのが、龍之介のクラスメイトの美少女・恵美を演じた内田伽羅。本木雅弘、内田也哉子夫妻の長女(1999年生まれ)で、祖母である樹木希林から勧められ、本作のオーディションを受けて女優デビューを果たした。すでに雑誌のグラビアや映像出演は経験していたが、本格的な演技は初となる。熊本に着いたものの、泊まるところがなくて航一・龍之介たちが困っていると、女優志望の恵美が機転を利かせて老夫婦(高橋長英・りりィ)の家に迎え入れられる。園子温監督の『紀子の食卓』(06)、三木聡監督の『転々』(07)をはじめ、映画の中で"疑似家族"は度々重要なモチーフとして描かれるが、本作で子どもたちと老夫婦がひと晩だけの"疑似家族"を演じるこのシーンは格別に美しい。少年少女たちと老夫婦は"子離れ・親離れ"の儀式を疑似体験する。たったひと晩のうちに、少年少女たちはぐんぐん大人へと成長していく。
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龍之介のクラスメイトの恵美(内田伽羅)の
将来の夢は女優になること。夢が叶うかどうか
分かるのは、まだまだ先のことだ。
 クライマックスはいよいよ九州新幹線の「つばめ」と「さくら」が交差する瞬間だ。少年少女たちはあらん限りの大声で自分たちの願いを叫ぶ。彼らの願いは果たして叶うのだろうか? 奇跡は本当に起きるのだろうか? 多分、少年少女たちが思い描いたような具体的な奇跡は、リアリスティックな是枝作品上では起きないだろう。それでもエンディングには、鹿児島の銘菓かるかんのように軽やかな甘い後味が残る。母親たちは帰ってきた我が子がすっかり大人の表情になっていることに驚く。熊本で暮らす老夫婦は久しぶりに懐かしく温かい時間を取り戻すことができた。子どもたちは気づいていないが、奇跡を願いに行った彼ら自身が、小さな幾つもの奇跡を起こしていたのだ。そのことは"誰も知らない"ではなく、観客は知ることになる。漫画家・楳図かずお先生の『わたしは真悟』での言葉だが、「奇跡は誰にでも起きる。だが、そのことに誰も気づかない」と。そういうことらしい。 (文=長野辰次) kiseki05.jpg 『奇跡』 監督・脚本・編集/是枝裕和 音楽・主題歌/くるり 出演/前田航基、前田旺志郎、林凌雅、永吉星之介、内田伽羅、橋本環奈、磯邊蓮登、オダギリジョー、夏川結衣、阿部寛、長澤まさみ、原田芳雄、大塚寧々、樹木希林、橋本功 配給/GAGA 6月4日より九州先行公開中、6月11日(土)より新宿バルト9ほか全国ロードショー <http://kiseki.gaga.ne.jp>
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●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第121回]理想と情熱がもたらした"痛い現実" 青春の蹉跌『マイ・バック・ページ』 [第120回]胸に響く金言"プロとは手を抜くこと" 職人秘話『アトムの足音が聞こえる』 [第119回]危険な出会い、井口昇ミーツ仲村みう 悪夢の遊園地『富江 アンリミテッド』 [第118回]ナタリー・ポートマン"第1章"の終幕 虚実が攻め合う『ブラック・スワン』 [第117回]"セカイ"を旅立った少女の地底探検記 新海誠監督の新作『星を追う子ども』 [第116回] 美少女たちの輝きが脳裏から離れない。青春ムービー『魔法少女を忘れない』 [第115回] 恋愛が与える"陶酔"とリアルな"痛み"サブカル活劇『スコット・ピルグリム』 [第114回]妄想、空想、そして現実からの大脱走 美少女革命『エンジェル ウォーズ』 [第113回]"3.11"後の新しい映画モデルとなるか『劇場版 神聖かまってちゃん』の挑戦 [第112回]マスコミが讃えた"楽園"のその後、ひとりの少女の成長記録『愛しきソナ』 [第111回]閉鎖的な"村社会"をブチ破ったれ! 韓流サバイバル劇『ビー・デビル』 [第110回]"粋"を愛したフランスの伯父さん J・タチ主演『イリュージョニスト』 [第109回]自分にとって家族は敵か、味方か? オスカー2冠受賞『ザ・ファイター』 [第108回]コーエン兄弟『トゥルー・グリット』40年で変化した"米国のヒーロー像" [第107回]ジョニー・デップが愛した"極道記者" 『GONZO』奇人がスターだった時代 [第106回] 巨匠イーストウッド監督の異色作! "あの世"はあるか?『ヒア アフター』 [第105回] キレ味、喉ごしが違うアクション! 黒帯美少女の"涙拳"が炸裂『KG』 [第104回] 高齢化するニートはどこに行くのか? 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[第95回]実在した"奇妙な高額バイト"の顛末 心理サスペンス『エクスペリメント』 [第94回]"アル中"カメラマンの泣き笑い人生『酔いがさめたら、うちに帰ろう。』 [第93回]朝ドラと異なる映画『ゲゲゲの女房』ゴールなき"貧乏耐久"2人3脚走 [第92回]バラエティーでの実績は通用するか? テリー伊藤の初監督作『10億円稼ぐ』 [第91回] 不謹慎なる社会派エンタテイメント『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』 [第90回]"世界のナベアツ"大阪府知事に就任! 政治コメディ『さらば愛しの大統領』 [第89回]自分の恋愛もプロデュースする女優、ドリュー・バリモア主演『遠距離恋愛』 [第88回]スタローンが立ち上げた"筋肉共和国"男たちの祭典『エクスペンダブルズ』 [第87回]元"おはガール"安藤聖の再起動ドラマ 就職氷河期を生きる『バカがウラヤマシイ』 [第86回]マイノリティーは"理想郷"を目指す。筒井文学の金字塔『七瀬ふたたび』 [第85回]清純派・佐藤寛子が美しく"変態"! 官能サスペンス『ヌードの夜──』 [第84回]死を意識して、ギラギラ輝く男たち! 三池節、大バクハツ『十三人の刺客』 [第83回] 女を食い物にする男どもは全員処刑! モダン社会の闇を暴く『ミレニアム』 [第82回] "企画AV女優"たちの青春残酷物語 性なる鎮魂劇『名前のない女たち』 [第81回]猫を見れば、人間社会が見えてくる! 世界の人気猫大集合『ネコを探して』 [第80回]原恵一監督の新作は辛口ファンタジー 退屈な"日常生活"を彩る『カラフル』 [第79回]米軍に実在した"超能力部隊"の真実!? ムー民、必見『ヤギと男と男と壁と』 [第78回]戦場から帰還した夫は"芋虫男"だった! ヤクザ監督の反戦映画『キャタピラー』 [第77回] 白ユリの花開くガールズの妖しい世界 H系ホラー『ジェニファーズ・ボディ』 [第76回] 爽やか系青春ゾンビ映画にホロリ......夏休みは『ゾンビランド』に集結せよ [第75回] "生きる"とは"見苦しい"ということ 藤沢周平の時代活劇『必死剣 鳥刺し』 [第74回]初恋の美少女は200歳の吸血鬼だった! 北欧産のホラー映画『ぼくのエリ』 [第73回] "三億円事件"の真相を解き明かす! 桜タブーに挑んだ『ロストクライム』 [第72回/特別編] 上映反対で揺れる問題作『ザ・コーヴ』"渦中の人"リック・オバリー氏の主張 [第71回] 女子にモテモテになる方法、教えます。軟派少年の実話物語『ソフトボーイ』 [第70回] 下町育ちの"北野少年"が見た現代社会 人間同士の食物連鎖『アウトレイジ』 [第69回] "リアルと虚構の狭間"を生きる男、アントニオ猪木初主演作『アカシア』 [第68回] ヒーローも神もいない現代社会の惨劇 井筒監督の問題作『ヒーローショー』 [第67回] アイドルが地獄で微笑む『戦闘少女』ギャグ×血しぶき×殺陣の特盛り丼! 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清純派・鈴木杏が大胆ヌード! 社会の底辺で生きる若者たちを描いた『軽蔑』

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(C)2011『軽蔑』製作委員会
 今週は、話題の原作を映画化した邦画の新作3本(いずれも6月4日公開)を紹介したい。  『軽蔑』は、46歳で病死した芥川賞作家・中上健次による最後の長編恋愛小説を、高良健吾と鈴木杏の主演で映画化。賭博に明け暮れ多額の借金を抱えていたカズ(高良)は、新宿・歌舞伎町のポールダンスバーを襲った際、そこで働く真知子(鈴木)と駆け落ちする。カズの故郷で新生活を始め、結婚を望む二人。だが、名家であるカズの両親は真知子をさげすみ、結婚を認めない。カズと父親の衝突を知った真知子は東京へ戻り、カズは再び賭博に手を出す。互いに相手を忘れられず、よりを戻した二人だったが......。  主演の二人による渾身の演技が強く印象に残る。とりわけ、これまで子役時代から一貫して清純派のイメージを通してきた鈴木杏が、大胆なヌードを初めて披露したことも重要なポイント。二人による哀しくも官能的なセックスシーンを含む、社会の底辺で暮らす若者たちの生きざまを切実に描くのは、ピンク映画出身で『ヴァイブレータ』(2003)『雷桜』(10)など多様な恋愛映画も手掛けてきた廣木隆一監督。中上文学の原点、和歌山県新宮市でのロケも作品世界を伝えるのに大きく寄与しており、原作ファンにとっても見逃せない一本だ。  対照的に、明るくポップな青春と恋愛を描くのが、新城毅彦監督、北川景子主演の『パラダイス・キス』。進学校に通う高校3年生のユカリ(北川)は、服飾専門学校生のジョージ(向井理)たちから、学園祭のファッションショーのモデルにスカウトされる。はじめは受験勉強を理由に断るユカリだったが、夢に情熱を注ぐジョージと仲間たちに心を動かされる。自らの"夢"を見つけたユカリは、ジョージへの想いを募らせるが......。  原作は漫画家の矢沢あいがファッション誌に連載していたヒット作で、コミックス全5巻は10カ国語以上に翻訳され、累計発行部数は600万部を超えるという。実写映画化された本作では、最新デザインの衣装などでファッション業界が総力を挙げてバックアップ。メインの二人を含め美男美女の若手俳優が大勢出演し、ファッショナブルな映像世界にぴったりハマっている。夢いっぱいの青春ドラマがポップな音楽を交えテンポ良く展開する本作は、ファッションに関心のある人にはもちろん、デートムービーとして若いカップルにもお薦めしたい。  最後の1本は、岩崎夏海のベストセラー小説を、アイドルグループAKB48のメンバー、前田敦子の初主演で映画化した『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』。都立高校に通うみなみ(前田)は、病気の親友に代わって野球部のマネージャーになる。初体験のマネージャーを務める参考にと、勘違いして購入した本はピーター・ドラッカーの著書『マネジメント』。会社経営について書かれた同書に不思議と感動を覚えたみなみは、本の教えを野球部で実践し、かつての弱小チームを変革していく。みなみと野球部は果たして、予選を勝ち抜き、甲子園出場という目標を実現できるのか......。  原作は、高校野球部の女子マネと経営学という意外な組み合わせで話題を呼び、「もしドラ」という略称がすっかり定着。アニメ化もされ、元ネタのドラッカー本の読者層拡大にも大きく貢献した。待望の実写映画化である本作には、AKB48から前田のほか、峯岸みなみも出演。さらにAKB48による主題歌、前田がソロで歌う挿入歌など、同グループのファンにとってはまさに至れり尽くせり。さわやかな青春ドラマを楽しみながら経営学の基本も学べるという、お得感のある映画でもある。 (文=eiga.com編集スタッフ・高森郁哉) 「軽蔑」作品情報 <http://eiga.com/movie/55832/> 「パラダイス・キス」作品情報 <http://eiga.com/movie/55692/> 「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」作品情報 <http://eiga.com/movie/55907/>
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「お子様ランチみたいな映画ばかり」の邦画界に風穴! "不良監督"山本政志のやり方

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 都市を漂泊する人々の狂騒といら立ちをフィルムに焼き付けた『闇のカーニバル』(1983)。箱庭的な廃墟での生活を通して、生と死が融合する自然の本性を語りきった『ロビンソンの庭』(87)。香港を舞台に水上生活者と地上げ屋の闘いをコミカルに描いた『てなもんやコネクション』(90)。社会の周縁で生きる人々の底力にフォーカスを当ててきた山本政志監督が自身のルーツである自主映画へと帰還し、わずか200万円の製作費で作り上げた最新作『スリー☆ポイント』が5月14日に劇場公開を迎える。舞台は京都・沖縄・東京の3都市。それぞれの街に生きる人々の多種多様な物語を、ある時はそれぞれが交錯しながらも、3本の独立した作品として描き出した本作は、なぜ、現状の製作システムではなく、自主映画というスタイルで作られたのか? 日本が誇る不良監督・山本政志が高らかに掲げた「超インディーズ宣言」の真相──そして、91年から製作に入るも、資金繰りの都合で未完のままになっている大作『熊楠KUMAGUSU』への想いに迫る! ──そもそも『スリー☆ポイント』は、どんな具合に動き始めたんですか? 山本 それなりに金の掛かる企画が立て続けにポシャったときに「こんなことをやってたら、バカになんじゃねえか?」と思ってね。一日の日課がプロデューサーに「どう?」って電話するだけとかさ、そんなの面白くねえから。それでシステマチックな映画作りとは真逆な作り方......それこそ映画を作り始めたときのようなフットワークの軽さと、自主映画でしかできない自由な作り方、「いま思いついたことを速攻で撮る」みたいな即興性もやってみたいと思って。 ──「こんな映画を撮ろうかな」みたいなこともなく、ですか? 山本 京都編は、たまたま動画サイトで見つけたANARCHYっていうラッパーに会うことだけは決めてた。実際、キモチのいいヤツだったから映画に出演してもらおうとしたんだけど、スケジュールが合わなくてね。それで彼に京都の若いヒップホップの連中を紹介してもらって、彼らと話をしているうちに「オレがやりたいのはコレだ!」と。そこから彼らの実体験をベースにした構成案を書き始めたんだよ。 ──京都編のキャストには『ジャンクフード』(98)の鬼丸さんや、『聴かれた女』(07)の小田敬さんに通じる本物の雰囲気がありましたね。 山本 特殊学級みたいな連中が好きなんだよ(笑)。アイツらは基本的に裏切らないじゃん。裏切るときは手痛く裏切るけど、スジの通らないハシゴの外し方はしないから。そういう連中と付き合う方が楽しいし、そういう連中が登場する映画の方が面白い。いまはドコを見てもお子様ランチみたいな映画ばかりじゃない。中には柴田剛(『堀川中立売』監督)や、松永大司(『ピュ~ぴる』公開中、監督)みたいなヤツもいるけど、大体が「身近なテーマを内向的に撮りました」っていう映画ばっか。いまはデジカメとパソコンがあれば低予算でも面白い映画を作れるんだから、若い連中も好きなことをやればいいんだよ。実際、沖縄編なんてデジカメ1台で撮影してんだから。
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「沖縄編」で出会ったナイスガイ・てっちゃん
──沖縄編の面白さは山本監督の素の面白さだと思いますよ。普通は沖縄有数の危険地帯・金武町で撮影しようとは思いませんから(笑)。 山本 沖縄の人間にも「金武町だけには近づかない方がいい」って言われてね。それなら金武町でカメラを回すしかないな、と(笑)。映画の中で、海兵隊の兄ちゃんたちが集まってるクラブあるでしょ。あそこは絶対に撮影できないって言われたんだけど、店のママさんに交渉してね。最初は「絶対に撮っちゃダメ!」って言われたけど「いいじゃん、面白いから撮らせてよ!」って言ったら「うーん、面白いならいいか」ってことになったんだよ(笑)。 ──全編を通じて、生と死のサイクルを前提とした自然や街の描写も、山本監督らしいなと感じました。こういった映像は、山本監督と宮崎駿監督くらいにしか撮れない気がします。 山本 宮崎駿とは近い感覚を共有している気がするよね。それは『風の谷のナウシカ』(84)のころから感じていた。あの映画も『ロビンソンの庭』と同じように森のエネルギーの話をしてたから。
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──中断になっている『熊楠』では、『もののけ姫』(97)以降の宮崎駿が切り捨ててしまった、"人間全体に対する希望"が描かれるんじゃないか? と密かに期待しています。 山本 オレは宮崎作品だったら『千と千尋の神隠し』(01)が一番好きだけどね。空を飛ぶシーンとか好きだから(笑)。ただ、そこから先のことは、やると思う。『熊楠』にかかわるまではインテリがキライでさ。だからアウトサイダーにこだわっていたんだけど、その考えも変わってきたからね。熊楠が「顕微鏡のぞくのもチンポいじんのも一緒」みたいなことを言ってんだけど、いいなと思って。あの人の周りには学者もヤクザも芸者もいて、それがぐちゃぐちゃっとしているんだよ。それは熊楠が歩いた熊野の森と一緒だから。上品と下品の区別もなく、いろんな考えがクロスしている状態なんだよね。 ──いまでも撮影を再開したいという想いは、あるんですか? 山本 作りたいけど、ちょっと時間を置かないと無理だろうね。重過ぎるから。それに今はどこを見ても金がない。『スリー☆ポイント』の予算って200万円なんだけど、それでも金を集めるのに苦労したから。それこそジブリに頼んでアニメで作るしかないんじゃねえかな。 ──そこまで資金がないですか。 山本 いまの映画を取り巻く経済的状況は、オレが映画を作り始めてから、一番悪いかもしれない。5,000万円の企画を動かすのも難しい。そこに今度の震災だろ......。ぶっちゃけた話をすれば、映画なんてなくてもいいもの。ただ、こんな状況だからこそパワーのある映画が生まれるんじゃねえかっていう希望もある。こんな時代だからこそ余計に映画を作りたいって思うしね、オレは。どう転んでも、オレには映画しかねえから。 ──次回作以降も期待できる言葉ですね。 山本 すべては『スリー☆ポイント』を上映した後の話だけどな。ただ、超インディーズ宣言の次は脱インディーズ宣言でいこうと思ってるから、そこは期待してくれていいよ。 (構成=渡辺トモヒロ) ●山本政志(やまもと・まさし) 1956年、大分県生まれ。明治大学中退後に自主映画製作を開始。83年に製作した『闇のカーニバル』がベルリン国際映画祭やカンヌ国際映画祭で上映され国際的な注目を集める。代表作に『ロビンソンの庭』(87)『てなもんやコネクション』(90)『ジャンクフード』(98)『リムジンドライブ』(2000)など。 ●『スリー☆ポイント』 山本政志監督が原点である自主映画スタイルで製作した予算200万円の、いわゆるオムニバスとはひと味違う新映画。その低予算とは裏腹に山本政志監督の思想と個性が凝縮された秀作だ。中でも『闇のカーニバル』以来一貫する人間観と『熊楠』(製作中断)を通して深められた自然観がボーダレースに絡み合う沖縄編は、山本政志監督の現在地を示すマイルストーン的作品となっている。監督・脚本・製作/山本政志、出演/村上淳、蒼井そら、渡辺大和、小田敬ほか。5月7日より京都シネマ、5月14日より渋谷ユーロスペースほか全国ロードショー。 http://www.three-points.com/
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硬派な監督が撮った恋愛サスペンス!『行きずりの街』は大人のドラマだ

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常にリスクを負う企画にチャレンジする阪本順治監督。
『行きずりの街』では初顔合わせのキャスト&スタッフを束ね、
見応えのある恋愛サスペンスに仕上げた。
 「このミステリーがすごい!」第1位を受賞した志水辰夫のハードボイルド小説を映画化した『行きずりの街』は、往年の東映アクション映画ファンにはたまらない作品となっている。黒澤満製作、丸山昇一脚本に加え、撮影・仙元誠三、照明・渡辺三雄といえば、松田優作主演作『最も危険な遊戯』(78)、『殺人遊戯』(78)、『処刑遊戯』(79)、『野獣死すべし』(80)、『ヨコハマBJブルース』(81)、『ア・ホーマンス』(86)などを手掛けた東映の黄金スタッフ。主演は『ビー・バップ・ハイスクール』(85)で俳優デビューし、東映作品でキャリアを磨いた仲村トオル。最近の仲村トオルは、WOWOWの社会派ドラマ『空飛ぶタイヤ』で中小企業の社長を大熱演するなど、大人の俳優としてかなりイイ感じ。そんな東映色の強いキャスト&スタッフを、がっちり束ねてみせたのが阪本順治監督だ。『どついたるねん』(89)で衝撃のデビューを飾って以来、『顔』(00)、『魂萌え!』(07)、『闇の子供たち』(08)と濃厚な人間ドラマを描き続けている。阪本作品では珍しいベッドシーン、撮影期間中は食事をまったく摂らない理由、震災直前に書き上げていた脚本......、男気溢れる阪本監督にいろいろ聞きましたぞ。 ――『行きずりの街』、仲村トオルと小西真奈美のハードなラブシーンもあり、大人のドラマとして非常に見応えがありました。本作は仲村トオルの芸能生活25周年、映画出演50本の記念作になるそうですね。 阪本順治監督(以下、阪本) はい、でもボクに監督のオファーがあった時点では、そのことは知らなかったんです。志水さんの『行きずりの街』を映画化するなら、仲村トオルくんがいいなぁと思っていたところ、ちょうど仲村くんにとって、そういう節目のタイミングだったんです。仲村くんにとって節目の作品になるということは後で知ったんだけど、そういう作品の監督をボクにやらせてもらえるのは嬉しいことだなと思いましたね。 ――かつて松田優作、仲村トオルらが所属した東映系の芸能プロダクション「セントラル・アーツ」の代表・黒澤満プロデューサーの計らいなわけですね。
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元高校教師の波多野(仲村トオル)は愛する
雅子(小西真奈美)と別れた過去に悩み続けて
いた。(c)2010「行きずりの街」製作委員会
阪本 そういうことですね。仲村くんにとって、映画出演50作目ということより、新人時代の彼を育てた黒澤プロデューサーの元で節目となる作品を撮ることができたということのほうが大きいんじゃないかな。まぁ、俳優としての節目の喜びは、彼自身にしか分からないことだけどね。 ――ひとりの俳優のデビュー25周年&映画出演50作目を記念する作品が作られるなんて、まだ映画業界にそんな"粋"な部分が残っていたんですね。 阪本 そうだね。うん、そういうことにしておこうよ(笑)。 ――阪本監督にとって、東映作品は『新・仁義なき戦い』(00)、『カメレオン』(08)に続く3作目ですが、がっちりとスタッフワークが噛み合ったように感じました。今回の脚本・丸山昇一、撮影・仙元誠三、照明・渡辺三雄というベテランスタッフとの顔合わせは、特別な想いがあったんじゃないでしょうか? 阪本 丸山さんは『カメレオン』でもご一緒したんだけれど、仙元さん、渡辺さんに関しては、ボクからお願いしたんです。黒澤プロデューサーで、仲村トオル主演、丸山昇一脚本となれば、これは東映の、それもセントラル・アーツの座組でやるべきだろうと。俳優に関しても『新・仁義なき戦い』『カメレオン』に出てくれた菅田俊さん以外は、ほとんど初めての人ばかり。でも、初めて組むキャストやスタッフと、ある種の緊張感を感じながら取り組んだほうがいいように思ったんです。単身で、現場に乗り込むという怖さ半分、面白さ半分でやれたことがいいように働いたんじゃないかな。 ――阪本監督ほどのキャリアでも、現場は緊張するもの? 阪本 だって、仙元さんは50年以上のキャリアですよ。仙元さんから見れば、ボクなんかヒヨッ子同然(笑)。世界的に見ても、80歳で現役の映画監督は少なくないでしょ。そういうベテランに比べれば、ボクのキャリアなんて無いに等しいですよ。 ――仙元誠三&渡辺三雄コンビとは、阪本監督は映画業界に入って間もない頃に現場を共にしたそうですね。 阪本 仙元&渡辺コンビと初めて遭遇したのは、『汚れた英雄』(82)の撮影現場。あの作品のレースシーンの"製作進行"としてボクは参加していたんです。現場でお弁当を配ったり、お茶を淹れたりの雑用係ですよ。若かった頃の仙元さんの傍若無人ぶりを、そのときしっかり体験しましたね(笑)。その日の撮影が終わると、宿泊先の仙元さんの部屋で酒盛りになるわけだけど、ボクが部屋の片隅でついアクビをしたら、「そこのお前、アクビすんじゃねぇ!」と怒鳴られた(苦笑)。その後、ホテルで打ち上げがあって、トイレで渡辺さんと一緒になって、連れションしたんです。そのとき、渡辺さんが「君が淹れてくれたお茶、美味しかったよ」と声を掛けてくれた。その頃の渡辺さん、パンチパーマでゴッツイ人相だったけど、「なんてイイ人なんだ!」と感激した覚えがあります(笑)。
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東映のベテランスタッフが集結した『行きず
りの街』。照明技師の渡辺三雄氏は10年11月
に亡くなり、仙元&渡辺の名コンビは本作がラスト
に。
――仙元&渡辺コンビから、図らずも現場の厳しさと優しさを両方教わったんですねぇ。阪本作品というと、撮影=笠松則通という印象が強いんですが......。 阪本 笠松さんとは、ボクが助監督だったときに笠松さんが撮影助手を務めていたこともあって、"あうん"の呼吸で撮影することができるんですよ。ボクが何を撮ろうとしているのか、どんな芝居を欲しがっているのか、笠松さんは分かってくれる人。強い絆があるんです。でも、その絆に頼らずに、どこに絆を見出せばいいのかというチャレンジも、時に必要だと思うわけです。今回、仙元さんとは初めて本格的に組んだわけだけど、クランクイン前に仙元さんは「今回に限って、怒鳴ることと人を殴ることはやめる」と言ってました(笑)。「阪本のやりたいことをまず聞いて、そこで自分に何ができるかを考える」というスタンスでいてくれたようです。といっても、現場では物が飛んだりしていましたけどね(笑)。今回はボクに合わせてくれたけど、次は分からない(苦笑)。でも、そのほうが面白いですよ。自分の生理だけで作品をつくると、自己満足に陥りやすいもの。俳優も含めて、いろんな生理が作品の中に混在しているほうが、楽しいですよ。 ■男物パンツに主人公が激怒するシーンは出色! ――仲村トオルと小西真奈美が俳優としてのポテンシャルを存分に発揮。2人のベッドシーンは魅せますね。阪本作品でのラブシーンは珍しいのでは? 阪本 そうだね、実は、『王手』(91)という作品で赤井英和と広田レオナちゃんのベッドシーンを撮ったことがあるんだけど、ボクの演出がマズくて、赤井くんの表情がすごすぎて、彼女を強姦しているようにしか見えなかった(笑)。それで編集段階で仕方なくベッドシーンを丸ごとカットしたんです。広田レオナちゃんから、ひどく怒られた。それ以来、ベッドシーンはどこか苦手意識があったんです(苦笑)。今回は12年ぶりに出会った主人公の波多野(仲村トオル)と雅子(小西真奈美)がもう一度心を交わすことで、自然と体を交わすことになるのは避けては通れないシーン。それでチャレンジしたんだけど、役者以上にボクのほうが照れてしまった(笑)。 ――主要キャストには、事前にメモ書きを渡すと聞いています。 阪本 えぇ、仲村トオル、小西真奈美、窪塚洋介の3人には、クランクイン前に各人物の気質とか設定についてメモを渡しました。映画って、その人の人生の途中から始まるから、その前はどんなことをしていたのか、なんてことを書いたメモを渡して、撮影が始まる前に話し合うようにします。そうすれば、現場に入ってから、撮影を中断するような長時間のディスカッションをしなくても済むわけです。途中で道に迷っても、立ち戻れる場所を作っておくということです。まぁ、今回はラブシーンについてまで具体的なことはメモでは触れていませんが、雅子は波多野と別れた12年という経験を活かして前向きに生きているが、波多野は12年前の経験を活かさないまま田舎に引っ込んでしまった男だということ、雅子は昼も夜も働いているが、一人ぼっちになったときぽっかりと心に穴が空き、その穴を埋めてくれるのは波多野だった......みたいなことをメモ書きにして渡しました。
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窪塚洋介、佐藤江梨子ら脇役陣もイイ味を出し
ている。「観た人に"あの役者、いいね"と思って
もらいたい。俳優の気質と役が被るような配役
を考えますね」と語る。
――なるほど、演出ってキャラクターの内面を作っていく作業なんですね。シャワーを借りた波多野が、雅子の用意した男物パンツを見て、ブチ切れるシーンは大変な名場面。2人の間で焼けぼっくいに火が付く瞬間が実に鮮やか。 阪本 波多野は目の前にある男物のパンツを見て、自分の頭の中で勝手に妄想して怒り出すわけだよね。しかも、雅子にたしなめられた後、「あっ、コーヒー飲むようになったんだ。昔は飲む人じゃなかったよね」とか、物すごく場違いなことを口にする情けない男なんですよ。ボクも現場で観ていて「お前は一体、何をしゃべっとるんだ?」と吹き出しそうになりました(笑)。丸山さんが原作をうまく脚色してくれました。まぁ、観ている人は波多野にツッコミながら、感情移入してもらえればと思います。結局、男は別れた時から全然成長できていないんだけど、女はそんな男を受け止められるだけ成長しているわけなんですよ。 ■"太った監督"は俳優から信用されない? ――阪本作品というと男臭い印象が強いんですが、実は藤山直美主演『顔』(00)、風吹ジュン主演『魂萌え!』、観月ありさ主演『ぼくんち』(03)と女性キャラクターが生き生きとしている秀作が多いんですよね。 阪本 男が主人公の場合なら、「もし、オレが同じ男だったら」と立場を置き換えて、自分の願望を込めて考えるわけだけど、さすがに女性の場合は「もし、オレが同じ女だったら」とは考えない(笑)。女性キャラクターの場合は「もし、同じ人間だったら」というふうに考えますね。あと、『魂萌え!』のときに原作者の桐野夏生さんから「原作小説をどのように換骨奪胎してもらっても構わないが、女性を男の願望で描かないでほしい」と言われたことが、今でも演出する上で頭に残っているんです。 ――阪本作品に出て来る女性たちは男の理想像ではなく、生身の女なんですね。以前から一度、阪本監督に聞いてみたかったんですが、撮影期間中は食事を摂らないって噂を聞くんですが、本当ですか?
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失踪した少女・ゆかり(南沢奈央)の元同居
人役の谷村美月がトボケた演技で笑いを誘う。
衣装合わせ時に、阪本監督と同じ中学の32期
下の後輩であることが判明したそうだ。
阪本 毎回ね、「今回はちゃんとみんなと一緒にお弁当を食べよう」と思って、最初の2~3日は食べるんだけど、段々と胃が受け付けなくなるんです。みんながお弁当を食べている間、ボクは片隅でカロリーメイトをぼそぼそと喰っています(笑)。1日の食事はカロリーメイトひと箱。撮影中にボクのお腹が鳴ってNGを出したこともあるんで、お腹が減りすぎて鳴ってしまいそうなときは、制作部が用意したお菓子をちょっとつまみますけどね。だいたい、ひとつの作品を撮り終わると6~7kg体重が減ります。でも撮影終わった後は酒を飲むんで、すぐにリバウンドするんです(笑)。 ――1カ月前後、まともに食事を摂らないわけですか。それは自分をギリギリの状態に追い込んで、感覚を研ぎ澄ますということですか? 阪本 単純に、食事をしないと内臓に負担が掛からないから疲れないんです。食事をした後で、頭がぼーっとすることもないしね。もともとは『どついたるねん』の撮影前、赤井くんに25kg減量させたんで、撮影中はボクも一緒に食事を摂らなかったことから始まったんです。ビタミン剤を1錠だけ手のひらに乗せて、「これが今日の食事な」とか赤井くんと言いながら撮影を続けたんです。その後、『鉄拳』(90)に出てもらった菅原文太さんに、『傷だらけの天使』(97)でまた出てもらったんですが、「阪本、お前太ったな」「オレは太った監督は信用しねえよ」と言われてね。『傷だらけの天使』の前、1年間作品が撮れなかったこともあり、暴飲暴食が続いて体重が増えていたんです。菅原文太さんに言われたこともあり、それからは撮影現場に臨む段階から体をぎゅーっと絞るように心掛けているんです。 ――身を削って映画を撮っているんですね。最後に"震災と映画"の関係について聞かせてください。3月に起きた東日本大震災は、クリエイティブな仕事に関わる人間に今後も多大な影響を及ぼしていくと思います。阪本監督はどのように考えているんでしょうか? 阪本 ボクも震災の直前に、脚本をひとつ、ちょうど書き終えたところでした。2013年の経済を予測するというテーマのものだったので、これは部分的に修正すればどうにかなるというものじゃない。根底から考え直さなくてはならないでしょう。もちろん、どのジャンルの映画でも、作り手はどんな時代にその作品を発表しようとしているのか、常に考えなくちゃいけない。でも、今は意識しなくても意識せざるを得ない状況ですよ。フィクションって何だ? 虚構って何だ? 映画に何ができるのか? あるいは、まったく無力なのか? 当然、映画業界にいる人間は、みんな考えていることだと思います。中には物理的な理由から製作をストップに追い込まれた企画もあるでしょう。生活が厳しくなる人も出てくるだろうけど、でも震災の直接被害に遭った方のことを思えば、そんなことは言ってられない。原発事故を含め、今後どんなことが起きるのか予測がつかない時代。どこに希望を見出せばいいのか、正直分からないよね。崔洋一監督が「映画は希望を与えるものだけど、絶望を与えるのも映画だ」と言っていますが、今はそのどちらでもないところに追いやられたように感じます。映画を作ることで現実に向き合うのか、それとも全然違うことに取り組むのか。今はそれぞれが考える時間が与えられたと思うしかないですね。 (取材・文=長野辰次) 『行きずりの街』 原作/志水辰夫 監督/阪本順治 脚本/丸山昇一 製作/黒澤満 撮影/仙元誠三 照明/渡辺三雄 出演/仲村トオル、小西真奈美、南沢奈央、菅田俊、うじきつよし、大林丈史、でんでん、宮下順子、佐藤江梨子、谷村美月、杉本哲太、ARATA、窪塚洋介、石橋蓮司、江波杏子 販売元/東映 発売元/東映ビデオ 5月13日よりレンタル開始、5月21日よりDVD発売(税込4,935円) <http://www.yukizuri.jp> ●さかもと・じゅんじ 1958年大阪府堺市出身。横浜国立大在学時から、石井聰亙、井筒和幸らの作品にスタッフとして参加。監督デビュー作『どついたるねん』(89)で第32回ブルーリボン賞最優秀作品賞を受賞。松山ホステス殺害事件をモデルにした『顔』(00)では第24回日本アカデミー賞最優秀監督賞、キネマ旬報ベストテン第1位など多くの映画賞を受賞。その他の監督作に、『新・仁義なき戦い』(00)、『KT』(02)、『ぼくんち』(03)、『亡国のイージス』(05)、『魂萌え!』(07)、『闇の子供たち』『カメレオン』(08)、『座頭市 THE LAST』(10)など。7月には原田芳雄を主演に迎えた新作『大鹿村騒動記』が公開される。
行きずりの街 5月21日発売。 amazon_associate_logo.jpg
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井上真央の新境地! 『八日目の蝉』疑似母娘の逃避行の結末とは

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(C)2011映画「八日目の蝉」製作委員会
 地上に出て7日目で仲間が死に絶え、1匹だけ生き残った8日目の蝉は不幸せだろうか、それとも......。孤独、虚しさ、渇き、哀しみを抱えながら生きる女性たちの姿を、そうした象徴的な問い掛けに重ねて感動的に描く映画『八日目の蝉』が、4月29日に公開される。  中絶手術の後遺症で子どもを産めなくなった希和子(永作博美)は、不倫相手とその妻の間にできた赤ん坊を誘拐し、逃避行を続けながら我が子として育てる。4歳になり両親の元に戻った恵理菜は、実の母親になじむことができず、心を閉ざし希和子との記憶を封印して成長する。  大学生になった恵理菜(井上真央)は親元を離れ、アルバイトをしながらアパートで一人暮らしをしていた。既婚者の岸田(劇団ひとり)と関係を持っていたが、ある日妊娠したことに気付く。恵理菜はそのころ接近してきたルポライターの千草(小池栄子)に誘われ、希和子との逃亡生活をたどる旅に出る......。  『対岸の彼女』(文藝春秋)で直木賞を受賞した角田光代のベストセラー小説を、『孤高のメス』(2010)の成島出監督が映画化。かつての「母」と過ごした土地を再訪する旅で、恵理菜が少しずつ記憶を取り戻し真実が次第に明らかになるさまを、過去と現在を行き来する巧みな構成でサスペンスフルに描き出す。  主演の井上真央は、現在放送中のNHK朝ドラ『おひさま』のヒロインのように、元気で明るくさわやかな少女といった役どころがこれまで多かったが、今回は複雑な感情や思いを内に秘めながら、過去と向き合う過程で徐々に変化していく難役で新境地を切り開いた。永作博美のにじみ出るような母性、鬼気迫る表情など、希和子になりきった熱演も忘れ難い。冒頭に裁判シーンがあり、必ず逃避行に終わりが来ると観客は知らされながらも、この疑似母娘の幸福な時間が少しでも長く続くことを願ってしまうだろう。  母性が大きなテーマになっているが、決して女性のためだけの映画ではない。むしろ男性が見ることで、自らは持ち得ない「母性」とは何か、また女性とはどういう存在か、といった問いについて考えるきっかけになるのでは。カップルで鑑賞するなら、さらに素敵な時間を共有できることだろう。涙腺の弱い方はくれぐれもハンカチをお忘れなく。 (文=eiga.com編集スタッフ・高森郁哉) 「八日目の蝉」作品情報 <http://eiga.com/movie/55771/>
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