「里中満智子さんとアグネス・チャンさんが対談すればいい」

【上】【中】はこちら  取材の中で橋本氏が何度も語ったのは、議論を尽くす必要性と、議論をするために知識が必要という点だ。「自分は感性の近い人の発言は信じる。だから(漫画家の)里中満智子さんが、おかしいと言っていたから、やはりおかしいのだろう、と思った」と「非実在青少年」の問題にもユーモアを交えて話す。そうしたバックグラウンドを持っているがゆえに、調査をしたり問題点を熟考したりもせず、議論を尽くさない人たちには規制への賛否に関係なく、辛口だ。  規制に反対する人々の中ではあまり注目されていないが、9月に京都国際マンガミュージアムで開催されたシンポジウム「マンガ表現規制問題の根源を問う」では、評論家の呉智英氏から表現の規制に反対する人たちの知識のなさに対する批判があった。「あれだけの知識人が言うのだから、その通りだと思う」と、橋本氏はネット上に散見される、規制に反対する人たちの「おかしい意見」はかえって危険だと説明する。そうした意見を、規制に賛成する人々たちは「規制に反対しているのは、ああいうおかしい人たちだ」と喧伝し、国民も規制に賛成する声にばかり、納得してしまいかねない。規制に反対しているはずが結果的に偏った規制賛成論に利用されかねない。「そういう危険な状態にある」のが、今の状態だ。それだからこそ、対話の場は絶対に必要である。 「里中満智子さんとアグネスさんがきちんと対談するのもよいでしょう。喧嘩別れしてもいい。分かっていないこと、調べてなかったこと、いろいろ出てくるんではないでしょうか。何より、お二方とも、思惑があってやっているわけではないですから」  規制を主張する人々は、都条例の時に出版社は漫画が規制されると収益が落ちるから反対している。そして、漫画家は出版社に逆らえないから反対の声を挙げていると考えていたそうだ。それだからこそ、里中氏や、あるいは、ちばてつや氏のような出版社の風下にたつことのない大家と対談すれば、流れも変わっていくと橋本氏は考えている。 「議論ができる人と、一緒にお茶を飲みながら話をするといった場を提案してもらいたい」。橋本氏からは、こんな呼びかけもあった。 もちろん「では、さっそく公開討論会を設定して......」というわけにはいかない。どんな議論のテーブルも、一歩間違えると単なるつばぜり合いになってしまう。互いの持っている知識を整理して議論のレベルを、どのあたりに設定するかも考える必要がある。児童ポルノ法改定の、問題点のひとつ、冤罪の危惧の先に「代用監獄」や、長期拘留を可能にする刑事訴訟法の問題が見えてくる。それらを無視して「表現の自由」とか「子どもを保護する」議論だけをすることはできない。  規制に反対する人々からは「この運動はシングルイシューだ」という声を度々聞くことがある。正確には「シングルイシュー・ポリティクス」という、この用語は一つの論点・争点だけをめぐる、政治運動という意味で使われる。この言葉が多様される背景には、戦後社会における市民運動のモデルに対する不信感がある。例えば、戦争反対なら、反原発で、○○にも反対で......と、セットで思考することを強制されたことへの不信感である。  そのことは理解できるとしても「児童ポルノ」「非実在青少年」といった問題を、それ単独で考えることは視野が狭いと言わざるを得ない。求められるのは、それらを切り口に、さまざまな問題へと目を向ける意志だ。 「"代用監獄"も"児童ポルノ"も、国際的な人権基準の視点から指摘を受けている。同じように指摘を受けているのなら、併せて議論できるといいでしょう」  規制の賛否に関わらず、合意形成が可能な対話のためには、知識のレベルアップが不可欠である、と筆者は考える。 (取材・文=昼間 たかし)
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「単純所持」議論を任せてはいけない人たちがいる

【上】はこちら  当初、橋本氏は「児童ポルノ法」の改定論議の中で、冤罪の危惧などの課題があることには、気づいていなかった。ところが、これまでの濃厚な人生経験ゆえの直感なのか「その後、気になって」調べる中で、さまざまな論点があることに気づいたという。橋本氏は規制に反対する立場の意見も理解した上で、単純所持の禁止がなくては、児童ポルノ法の本来の目的である児童の権利を保護する目的は全うされないと、考えている。 「ネットなどで(冤罪の危惧など)さまざまな意見があることを知りました。意図的に送りつけて、冤罪を発生させた事例があることも知っています。その上で"冤罪が起きるから、禁止しないほうがいい"ではなく、守られるべき法益の重さだとか、冤罪がまったく避けられないのかを、もっと議論すべきだと思います。冤罪は、どんな法でも創り出される可能性はあるのだから"冤罪の可能性があるから規制をしない"というのは一般論して成り立ちません。また、冤罪の可能性があるから単純所持の禁止をしないほうがよい、というのもおかしい。私は、単純所持の禁止は被害者の人権を保護するという目的で効果のあることだと思います。だから、冤罪の可能性だけで人権侵害に晒されている子どもを救済する可能性を否定してしまうのは、いかがなことかと思っています」  「児童ポルノ」の単純所持禁止に異議を唱える人は、ごく僅かな小児性愛者を除いていない。問題となっているのは禁止対象になる「児童ポルノ」という概念の曖昧さだ。この語感の曖昧さゆえに、「児童ポルノ」ではなく「CAM」(Child Abuse Material=児童虐待製造物)という言葉の置き換えも提唱されている。明確な定義で「児童虐待製造物」の所持を禁止するのであれば、反対する人は、まずいないだろう。 「18歳という年齢の定義は、婚姻が16歳で許されている中で整合性が問題になると思います。それに、(「児童ポルノ」にあたるのは)被写体がどう写されている場合か、定義し直す必要があると思います。また、単純所持を禁止することに実効性があるとしても、そこから生まれる冤罪の危険性や、権力の増大といった不利益。それらも、当然議論していかなければならないでしょう」  橋本氏の議論すべきポイントは、規制に反対を唱える人々のそれと変わらない。橋本氏が国民運動に名を連ねた理由は、規制を進める運動をしている人たちには「そうした思慮が、まったくない」と考えたからだ。 「母が理事だった頃は、(ユニセフ協会は)全国樺太連盟のビルに入っていて貧しい世帯でやってた。それが、ああしたビルを建てて、私の兄も"オフクロがやっていた時とは違う団体になった"と話していた」  ユニセフ協会の職員も多くの人は本来の業務に関しては真面目に、使命感を持ってやっている。それは、昔も今も変わりはない。しかし、組織が巨大になった今、さまざまな問題や批判を抱えているのは確かだ。本論とも外れるので詳細は省くが、橋本氏は現在のユニセフ協会そのものの問題点してくれた。もちろん、無謬の組織なんて決してあり得ない。組織を維持し発展させる中で、次々とトラブルが発生し、批判が巻き起こるのは当然だ。そうした時に、きちんと問題解決のために議論したり、批判に対応できることは、公共性を持った組織であれば、当然の義務と言える。ところが、なぜか「児童ポルノ」をめぐって、巻き起こった批判に対するユニセフ協会の対応は、非常に官僚的で思慮に欠けているのではないかと、筆者は感じている。  そうした中で、橋本氏は国民運動に参加した中で感じた違和感を隠そうとはしない。 「報告会の時に、都条例に関わっている東京都PTA協議会(註:会長の新谷珠江氏)の人も発言していましたが、とてもついてはいけないと思った。一言でいえば、価値観の多様性がまったくない。それで、子どもを守る金科玉条を言っている。でも、被害救済については何もやっていないのではないでしょうか。(財)インターネット協会も、話していることはおかしくはないけど、要は警察庁の守備範囲を広げたいと思ってやっている。それは、子どもの人権を守る問題とは相当違います」  そんな状況だからこそ、あえて参加しなければならないと、橋本氏は考えた。 「国民運動に関わっている人たちは、"児童ポルノの実体的な被害者がいる"という、多くの国民が問題意識を感じる点を突破口に、どんどん先走っていく危険性があるタイプだと見ています。それも、故意か否かに関係なくです。だから"あの人たちとはやっていけない"と、突き放すべきではない」  橋本氏は、今の日本の状況に大正デモクラシーの反動で言論が抑圧されていった1930年代の怪しげな雰囲気と重なる部分を見ている。そうした時代状況の中で、誰もが納得し賛同する問題は当初の理念を超えて、あらぬ方向へと進んでいくことになりかねない。「児童ポルノ法」も単純所持に止まらない方向へと発展していくことになる。突き放したり批判するのではなく、バランスを崩したり、一線を越えてしまわないように、関わっておくことに意味はあると橋本氏は考えているのだ。このような意識で参加している人は、おそらくは、ほかにいない。 「日本の民主主義は、批判一辺倒ではない、問題解決を目的としたバランスある議論ができるかどうかにかかっている。本来の民主主義とは、有権者が代表者を選ぶ部分と共に、多くの人の価値観を認めていくことにある。そこに制限を加えられるのは、よほどの合理性があるということです。ところが、規制に賛成しようとする人たちが、そういった意識を持っているかといえば、持っていないと思うんです」  ここが「非実在青少年」問題とは違うところだ。区分の幅が問題となる「非実在青少年」問題に対して「児童ポルノ」の問題は、もっと広くて影響の大きい問題。それゆえ、議論の余地のあるなしではなく、もっと議論が深められて当たり前だ。にも関わらず、議論を深めていこうという意識は薄い。国民運動の際に同席した東京都PTA協議会や(財)インターネット協会の人には「こいつは、仲間じゃない」と思われたらしく、名刺交換もなく終わった。 (【下】につづく/取材・文=昼間たかし)
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母の代から続く、日本ユニセフ協会との縁

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NHK勤務を経て、4期16年高知県知事を務めた
橋本大二郎氏。
   「表現の自由」をめぐる問題の中で、幾度となく俎上にあがる「児童ポルノ法」。今年に入ってからは、東京都のいわゆる「非実在青少年」問題に比べて、目立った動きはあまり見られない。その要因は、昨年の衆議院選挙における政権交代である。昨年7月、自民・公明党が国会に提出した「児童ポルノ法」改定案は単純所持の禁止をめぐり激しい議論となった。しかし、改定案は、この月の衆議院解散によって廃案。同法の改定に慎重な民主党が政権の座についたこともあり、同党内部では継続的に検討が行われているが、新たな法案が浮上する気配は、見られない。  そうした中でも、同法の改定・強化を求める人々の活動は継続している。今年10月5日、(財)日本ユニセフ協会(以下、ユニセフ協会)は「児童ポルノがない世界を目指して国民運動(以下、国民運動)」の第1回報告会を、同運動賛同団体向けに開催した。今年5月から行われているこの運動は「児童ポルノ」を「見ない」「買わない」「持たない」「作らせない」ための啓発活動をはじめ、「国会に対して、児童ポルノの根絶に必要な法的対策(児童ポルノの単純所持の違法化や児童ポルノ犯の厳罰化、被害者の保護体制の確立など)に取り組んでいただくため」の署名活動を実施している。運動には90を超える団体・個人が賛同しているが、果たして賛同する人々は、どのような意図を持っているのだろうか。  もちろん、児童虐待の一つである「児童ポルノ」を禁止することに反対するものはいないだろう。問題は「児童ポルノの単純所持の違法化」の部分だ。ここに、さまざまな問題が内包されていることは、既にさまざまな報道で語り尽くされている。海外では既に発生している冤罪への危惧。警察に新たな「魔法の手」を与えてしまうことの危険性。そして、所持を違法化することによる文化の抹殺や表現活動を萎縮させる可能性への危惧だ。  こうした問題を聞く相手として橋本大二郎氏を選んだのには理由がある。前述の国民運動の報告会では、各界の著名人の発言が紹介されているが、橋本氏は「東京都の条例などは議論の余地があると思うが、子どもたちをよりよい環境で育てていくことに反対する人はいない。まずは児童ポルノの所持を禁止し、法律を実効性のあるものにしていくためにも法改正が必要」と語っていたからだ。橋本氏は1991年に当時全国最年少の県知事に就任して以来、07年まで高知県知事として辣腕を振るう。加えて、知事になる以前はNHKで社会部畑を歩き、88年から当時の夜9時のニュース番組『NHKニュース TODAY』で社会部門のキャスターを務めていた。行政は時折、暴走する。法律は当初の目的とは別の意図に濫用される可能性を持つ。NHKは当時から巨大なメディア産業ではあっただろうが、それでも現在よりはジャーナリズムの精神を持ち得る人は多かったと思う。その上で、ジャーナリズムの中で培われた「権力観」と行政のトップとして視点を兼ね備える、ある意味で稀な人物ではないかと考えたのだ。それゆえ「児童ポルノ法」をめぐる問題に、どういった意見を持っているかは、ぜひとも聞いてみたかった。  正直に言えば、取材を受けてもらえるとは考えていなかった。これまで、何年にも渡って「児童ポルノ」の問題を追いかけているが、規制を進める側に立つ人々は、なかなか門戸を開けてくれない。アグネス・チャン氏には、対面での取材を受けてもらえていない。なにより、昨年、筆者はユニセフ協会から「今後のご取材・お問い合わせ等につきましてもご協力いたしかねます」とのメールを受けていたりする。  ところが、橋本氏の対応は早かった。取材を申し込むメールを送ったところ、翌日には早くも返事を頂くことができた。それだけで、橋本氏が規制に賛成・反対のいずれにせよ、確固たる知見を持っているであろうことは、想像できた。それもそのはずで、橋本氏とユニセフ協会の縁は長くて深い。現在、高輪にあるユニセフ協会の本部事務所「ユニセフハウス」にあるホールは「橋本正ホール」の名が冠されている。ホールの名前になっている橋本正氏が、ユニセフ協会の専務理事であった橋本氏の亡母だ。 「母は、まだ海外旅行が自由化されていなかった昭和30年代に世界各国を旅したときに、ユニセフ協会の仕事という名目で出国させてもらった。それが縁で、母は62年に理事になり、66年からは専務理事になった。私の高校から大学までの学費なんかは、その給料から出してもらっていた」  その後、正氏はユニセフ協会の仕事に献身し、晩年になっても海外に出かけ、徹夜で原稿を書いたりするようなハードな生活を続けた末、88年に当時、麻布大交差点の傍にあったユニセフ協会の事務所へ行く途中、脳溢血で倒れ入院、その後も91年にはユニセフ協会顧問として活動を続け98年に死去した。  正氏が倒れる直前の88年に、当時、竹下内閣の幹事長代理を務めていた故・橋本龍太郎氏(大二郎氏の兄、元首相)らに勧めて設立されたのが、超党派の議員による日本ユニセフ議員連盟だ。龍太郎氏は00年から死去する直前の06年4月まで会長を勤めた。  こうした家族ぐるみのユニセフ協会との縁もあってか、アグネス氏とは高知県知事時代に「児童ポルノ」とは別の問題で協力してもらってから、縁が深まったという。昨年、東京に戻ってきてからはアグネス氏の自宅兼事務所を訪問したこともあるそうだ。 「二つの義理と、"児童ポルノ"をなくしていくことに反対する、あまり積極的な理由はないなという思いで(国民運動に)賛成したんです」  こうして橋本氏が語ったのは、これまでの規制論議の中では出てこなかった新しい視点だった。 (【中】につづく/取材・文=昼間たかし)
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取材拒否! 日本ユニセフ協会「児ポ法早期改正を求める署名」に賛同する連合の不見識

 日本ユニセフ協会(以下、ユニセフ協会)が呼びかけている「児童ポルノがない世界を目指して」国民運動。その一環として行われているのが、所持の禁止を含めた児童ポルノ法の早期改正を求める署名活動だ。この署名活動に、日本最大の労働組合のナショナルセンター「連合」が賛同し、参加の組合に署名を求めていることに非難の声が挙がっている。  もちろん、どんな個人にも団体にも、政治的な主張を行うことは自由である。とは言え、連合の支持政党である民主党、社会民主党はいずれも「児童ポルノ」の所持禁止を含めた法改正には慎重な姿勢を示している。支持政党とは立場を異にするくらいだから、それなりの理由があるのだろうか? 連合に取材を申し込んだところ、帰ってきたのは驚くべき答えだった。  最初に取材を申し込んだのは、10月中旬。数日後、かかってきた電話で、次のような言葉を告げられた。 「申し訳ないのですが、現状で特に見解を持っていないため、お話しすることがない......」(連合企画局)  現に署名用紙が傘下の組合に回っているというのに「見解」がないのは、奇妙なこと。その点については、 「ユニセフ協会さんから、頂いたものを流しているだけです」(同)  とのことだった。これでは「内容も吟味せず、右から左へ流している」のと同じではないかと、さらに問いただしたところ「まあ、そうですね......」と、ちょっと困惑している様子。また、特に連合内部で検討を行ったこともないという。問題にはならないのかと、さらに詰問すると、担当者はしばらく無言になってしまい、筆者のほうが「ちょっと、話し合ってから連絡下さい」と、助け船を出すハメになってしまった。  それから2週間。まったく連絡は来なかった。そこで今月1日になり、こちらから連絡をしたところ、ようやく「明日までにお返事します」とのこと。そして、電話で告げられたのは...... 「今回の取材はお断りします。議論を呼んでいる問題ではありますが、連合内部で議論をしているものではないので、ちょっとお答えすることはできません」(同)  そろそろ春闘の準備で忙しいのだろうが、いったい2週間、何をしていたのだろうか。それでは、前の電話で「右から左へ流している」現状を肯定したことを、記事にしてもよいのか聞いたところ、困惑しながら「あれは、(企画局担当者の)個人的見解ですから......」と、話す。  また、集めた署名の取り扱いについては「特に(署名を)呼びかけているわけではないと思うのですが......」とのことで、集めている署名の数や取り扱いについて尋ねたところ「折り返しご連絡します」との回答だった。  数時間後、今度は「ご取材の申し込みにつきまして」というタイトルでFAXが送信されてきた。その文章をそのまま紹介しよう。
 (財)日本ユニセフ協会が呼びかけています、「国民運動『児童買春・児童ポルノ禁止法』の早期改正を求める署名活動」につきましては、連合第11回中央執行委員会(2010.08.19)におきまして、子どもの人権擁護をめざすという連合の政策要求と同主旨であるとして、賛同することを決定したところです。  その上で、まず現状としましては、文書にて各構成組織に対し、署名の呼びかけを行っております。  ただし、その署名数につきましては、各組織から直接、(財)日本ユニセフ協会に郵送することとしており、連合として、数の把握はいたしておりません。  連合としては、児童ポルノを撲滅するという、大きな方向性について賛同したところであり、ご依頼いただきました詳細な取材に関しましては、お断りさせていただきたく存じます。
 この文章、いろいろとおかしい。「連合第11回中央執行委員会(2010.08.19)におきまして」と書いているのだが、連合は「児童ポルノを見ない、買わない、持たない、作らせない緊急アピール」には、5月の時点で賛同している(http://www.unicef.or.jp/osirase/back2010/1005_14.html)。  残念ながら、慌てて作成した文書であることが垣間見えてしまう。また「ご依頼いただきました詳細な取材に関しましては、お断りさせていただきたく存じます」と書いてしまうあたり、やはり「見解」はないのだと考えるしかない。通常、連合は「取材は対面で」が基本で、筆者も幾度か訪問したことあるのだが、今回は電話では口を濁しFAXで回答。このあたりからも、彼らの内情が透けて見える。  労働運動や市民運動など社会運動の現場では、さまざまな署名活動がごく日常的に行われている。そのため、内容を吟味もせずに「断ってもアレなんで、名前だけでも書いておく」行為は、よくあることだ。おそらくは、本当に日常的なルーティンの中で行われた行為なので「見解」などなく、困惑しているのだろう。  会話の中では「ネットではいろいろ騒がれているみたいですね」というセリフも飛び出したので、ヤバいことになってしまったことも十分に分かっている様子。「児童ポルノ」は、本業(労働運動)とは、別問題なので、理解が浅いのは仕方がないにしても「見解」を考えるなり何なりの対策を取ろうともしていないのは、呆れるばかりである。 (取材・文=昼間 たかし)
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一般人を相手にした"恫喝"?  日本ユニセフ協会批判サイトが訴えられた!

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「名古屋ケーキバイキング・アラモード」より
 国連の国際連合児童基金(ユニセフ)と協力協定を結び、日本において寄付募集、広報・啓蒙活動を行う財団法人「日本ユニセフ協会」(以下協会)。なにかとお騒がせな歌手のアグネス・チャン氏が協会大使を務めており、「児童ポルノ」への取り組みに熱心で、主に日本国内で流通するマンガやアニメなどを「準児童ポルノ」と名付け、所持を含めた児童ポルノ禁止法の改定を求めていることでも注目されている。  また、毎年百億円を超える寄付金を集めながら、その2割以上が必要経費に回されていることなどでも非難されることの多い組織である。  その協会が、個人ブロガーが運営する批判サイトに対し記事の削除と損害賠償を求める訴訟を起こし、話題になっている。  思いもよらず被告人になってしまったのは、名古屋のケーキバイキングを網羅した情報サイト「名古屋ケーキバイキング・アラモード(http://my.reset.jp/~yuhto-ishikawa/viking/)」を運営するアラモード北原氏。氏のサイトは、甘味の食べ放題情報と店舗評価を掲載しており、Googleで「名古屋 ケーキバイキング」と検索するとトップに表示される同地の甘党が重宝する人気グルメサイトだ。訴訟のきっかけになったのは、サイト内の「日本ユニセフ協会 及びTAP PROJECTには応じないで下さい」というページ。以前よりマンガやアニメの規制を呼びかけたり、寄付金の中の経費の多さなどに疑問を持っていた氏が、批判ページを作成したのは次のような経緯からだ。 「協会が主催するTAP PROJECTは、レストランの水一杯につき100円の寄付を求めて発展途上国の貧しい村に給水ポンプを設けるというもの。しかし、先進国の団体が井戸や給水ポンプを作ってその村や周辺が発展・向上したケースは数十年間聞いたことがなく、それどころか設置即日で井戸が壊されて部品が売り払われるのが貧困国の実態だと思います。日本ユニセフはその現実を知らぬふりをして募金をつのり続けているんです。これに、自分が通っている店のいくつかが協賛していました。そこで、各々の店に抗議のメールを送信し、その顛末をサイトで公開したのです」  北原氏の送ったメールは、協賛する店舗に「ユニセフの本家本元である国連ユニセフ(大使は黒柳徹子さん)と、それを勝手にまねた日本ユニセフ協会(大使アグネスチャン)は全く無関係の別団体であること」「寄付金の4分の1もの額を、いわゆる"ピンハネ"していること」「どこからか入手した顧客名簿を使ってダイレクトメールを各々家庭の自宅に送りつけていること」などを知っているのかと問いただし、募金ビジネス活動への尻馬に乗り続けるのか返答を求めたもの。「怪文書とならないように、きちんと自分の住所氏名を記載しメールで送付した」と氏は話す。これに対し8月、協会は東京地裁にページの削除と100万円の損害賠償を求めてきたのである。  北原氏にも弱い部分はある。メールに記した協会の問題点は、ほぼネット上で収集した情報をもとにしているからだ。「ネットの情報を鵜呑みにする危険性も承知していますが、ネット配信にもし間違いがあれば、たくさんの訂正や否定の声が同じくネット上で巻き起こり、真実性への整合が自然にとられてゆく」と氏は話すが、「裏付け」の足りない情報であることは確かだ。  しかし、根拠の脆弱な情報だけで協会を、非難するサイトやブログは山のように存在する。協会大使のアグネス・チャン氏を「反日シナ人」とするような差別的なものも目立つ。  そうした中で、北原氏がピンポイントで訴えられた理由を、氏は「名古屋のケーキバイキングを扱うサイトでは検索順位の上位にランクされ、訪問者も多いからではないか」と分析している。協会が批判を多くの人が目する可能性からターゲットにしたとすれば、大いに問題である。  また、協会は訴訟の前にプロバイダに対して氏のブログの送信防止措置を要求したり、警告書の送付(北原氏が受け取り拒否したため詳細不明)を行っていたが、このうちプロバイダへの要求は「法や利用規約に違反しているとは判断できず、協会の主張・依頼にも根拠がない」と、拒否されたことも明らかになっている。北原氏の情報がネットから得た不明瞭な部分のあるもので「詐欺団体」「ピンハネ」等の言葉が過激だとしても、協会側の主張もまったく正当とはいえないのだ。  気になるのは、今後の裁判の動向だ。「法テラスに相談したところ、断られてしまった」という北原氏だが、現在は信頼できる弁護士を見つけ裁判の戦術を検討中だという。 「相談の結果、弁護士は立てずに私が出て行って本人訴訟で戦うことにしました。というのも、弁護士同士の対決では私の求めているものは得られないと考えたからです。裁判の中で協会の問題点も問いたいと思うので、裁判中も逐一情報を発信していくつもりです。勝ち負けは分かりませんが、仕事を捨ててもやる価値はあると考えています。これで、沈黙してしまったら誰もが協会に対する批判をやりにくくなってしまう」  当初は裁判費用を心配していたが、寄付を呼びかけたところ予想外の賛同が得られたことも氏の闘志に火をつけている。  なお、この件について協会に取材を申し込んだところ「懸案中の案件なので応えることはできない」(協会広報室)とのことであった。  スラップ(恫喝訴訟)の側面も否定はできないこの訴訟。今後予定される裁判では、協会の思いもよらぬ実態が明らかになるかもしれない。 (取材・文=昼間たかし)
アグネス・チャン ベストアルバム ツッコミどころ満載です。 amazon_associate_logo.jpg
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