
2012年、スカイツリーからの送信を開始。電波状況も改善され、ますます視聴者の裾野を広げている独立系ローカルテレビ局TOKYO MX(東京メトロポリタンテレビジョン)。アニメは名作・新作を問わず週60本放送、さらにはテレビで初めてバーチャルアイドル「初音ミク」の特集番組を組むなど、キー局には見られない独自色を強く打ち出している。しかし、何よりMXを象徴する番組は『5時に夢中!』をおいてほかにはないだろう。マツコ・デラックスや岩井志麻子ら“猛獣・珍獣”を巧みに操る一方で、時には自身の下半身事情まで晒される番組名物プロデューサー大川貴史氏。彼にあらためて聞く、お化け番組『5時に夢中!』の“これまで”と“これから”。
――大川さんは『5時に夢中!』をどんなコンセプトで作ったのですか?
大川貴史氏(以下、大川) 僕は営業からスポーツ局に異動になって、そこで1年くらいADをやっていましたが、ある時いきなり上が全員抜けちゃったんです。まだできたばかりの会社なので、政権争いがスゴかったんですよ(笑)。それで自動的に僕が一番年上になったので「じゃあ、お前がプロデューサーやれ!」みたいなノリでした。前身の音楽番組の頃はあまりにもお金がなくて、レーベルからお金をもらい、その代わりにこの人を使う――みたいなやり方でなんとかしのいでいたんですが、これがいろいろめんどくさい。出演者がスポンサーでもあるから、なかなか自由にはやらせてもらえないんです。制作会社の社長の愛人を使わなきゃいけないとか(笑)。そういう矛盾を、まず一つ一つ排除して。
うちの会社の中では、帯番組に動くお金が一番大きいんですね。そうなるといつも「帯番組をつぶせ」っていう議論になる。放送が決まってからも「やっぱりなくせ」。で、ある時になったら「やっぱりやれ」と。出演をオファーしていた(岩井)志麻子さんには「どっちなんじゃい!」と、菓子折りブン投げられましたよ(笑)。でも、それで腹くくったというか、いつ終わるか分からないんだったら、自分が興味のある人に出てもらおう。それだったら、終わっても後悔しねぇなって(笑)。それで「どっちにしろ誰も見てねぇし、スポンサーいねぇし、誰にも世話になってないから、言いたいこと言っちゃおうぜ」というコンセプトになりました。
――意識した視聴者層は?
大川 当時の上層部的に、夕方の番組といえば『夕やけニャンニャン』のイメージ。中高生がワ~ッと集まるような番組にしてくれ、と。でも、まったく引きがないんですよ。で、急遽、新しい番組を立ち上げろと言われた時に、どうしたらいいか全然分からなくて。『5時に夢中!』というタイトルは「五里霧中」が由来なんです。実際、その時間帯に中高生はいないんですね。調査したら、5時の在宅率は主婦層が圧倒的に多い。これはもう主婦向けしかない。しかも、その時間の裏番組は全部真面目なニュースでしょ。だったらこっちは極端に色のある人たちに出てもらって、主婦向けに本音トークをしてもらおうと。主婦が絶対読まない夕刊紙を題材に、真面目な顔しながら面白おかしく、ニュースパロディみたいな形でと、試行錯誤しながらたどり着いたのが現在の姿です。
――制作段階で参考にした番組はありましたか?
大川 テレビだったら『サンジャポ』、雑誌だったら「噂の真相」や「サイゾー」ですね。おべんちゃらでもなんでもなく(笑)。ある種マニアックかもしれないけど、熱狂的な信者を生むような。それくらい濃くやらないと視聴者に刺さらないんですよね、うちの場合。電波が弱いんで。キー局と同じコンテンツをMXが流したって、絶対数字なんて取れるはずないですからね。MXはローカル局であり、後発局でもありますから。
ただ全国ネットと違って、僕らはある程度刺激に強い、東京人だけを相手にすればいい。田舎のおじいちゃんおばあちゃんや、お子さんたちのことは考えなくていいんです。僕は第二次ベビーブーム世代で、視聴者層もだいたいその辺りがターゲット。この世代って深夜ラジオ全盛期でしょう。だから、深夜ラジオが夕方やってるっていうニュアンスでやるのがいいかなとは思っていました。大抵のことは深夜ラジオが教えてくれますしね(笑)。
――条件的には厳しいけど、だからこそやれることをやると。

大川貴史プロデューサー
大川 逆手に取って……って聞こえはいいですけど、結局はやれることが限られるので、そこを極端にしていっただけです。予算もそうですけど、人もいない。そうなると、この労力をどう効率的に回すか。だって帯番組なのに、当初はスタッフが5人だったんですよ(笑)。本来はできることから始まる発想なんてダメなんでしょうけど、実現不可能なことで会議しても、僕らの場合はしょうがないから。スタッフを育てながら、番組を作っていくしかない。だけど、いい感じに仕上がったところで、みんな辞めてっちゃう。もっとカネのイイところに(笑)。今は徐々に体制が整ってきて、スタッフも増えてきて、これからもっと面白いことができるかな~とは思ってるんですけどね。
――荒波の中で船出をした『5時に夢中!』が、現在ではすっかりMXの看板番組に。ヒットの理由は、どんなところにあるのでしょうか?
大川 何が理由でヒットしたかなんて分かりませんよ。そんなの分かってたら、世の中のすべての企画は大成功しているはず。ただ、MXは数字だけを評価する会社でもないので、そうなると逆に何を信じていいかが難しい。たまたま僕が最初の異動でADをやっていた時、まだ売れる前のTKOさんがMCだったんですね。それが死ぬほど面白かった。安田大サーカスさんとか、小島よしおくんとかも出ていました。彼らがみんな売れてくれたことで、自分の目線に自信が持てたことは確かです。僕が面白いと思ったことは、世の中も面白いと思ってくれる。勝手な自信ですけど。
――マツコさんを筆頭に、女性コメンテーターさんは皆さん売れっ子になっていますし。人選が絶妙だと思います
大川 この番組のメイン視聴者層、子育てしながら見ている主婦の人っていうのは、昔ながらの“幸せをつかんだ人”じゃないですか。家庭もあって、子どももいて。ただ、そういう人たちが本当に幸せかどうかは誰も分からない。だから、結婚や出産を選んだ主婦とは真逆な選択をして、なおかつ幸せに生きていそうな人たちを並べて、違う価値観を視聴者たちにぶつけてみたいなっていうのはありましたね。「温かな家庭=女性の幸せ」という画一的な価値観に対しても、一石を投じたいなと。まぁ、後付けですけどね(笑)。僕は自分の母親を見て、そう思っていたんです。幸せの条件は整っているんですけど、まったく幸せそうに見えなかった。本当はもっとやりたいことがあったんじゃないか、子どものために我慢しているんじゃないかっていうのは、なんとなく子どもの頃から思ってたんですよね。
――主婦のガス抜きという側面もあると。
大川 そうそう。誰だって一歩間違えれば、こういう人生だったかもしれない。志麻子さんなんか毎週ヤリマン自慢してますけど、家庭の主婦だってチャンスがあったら覗いてみたい世界なんじゃないですか? あと歴代の男性司会者がボロクソに叩かれるっていうのも、世の主婦たちにとっては代弁なんでしょう。ダンナに対するね。溜飲が下がるらしいんです。
――個人的に思い入れのある企画は?
大川 「おママの花道」(※註)ですね。女性の人生って、男には計り知れないところじゃないですか。僕は男子校で、しかも全寮制で、大学まで野球やってて、めちゃくちゃ男尊女卑の世界で生きてきました。だけど、知れば知るほど「女ってスゲーぞ!」と。スナックのママというのはその象徴みたいな人たちで、それこそ圧倒的な現実を生きている。離婚したとか、借金背負わされたとか。男だったら自殺するかもしれないなっていうことを、淡々と生きちゃうんですよね。その凄みみたいなものを見せたいっていうのが「おママ」です。
――予定調和なき世界というのが『5時に夢中!』の大きな魅力だと思いますが、大川さんの中で「言論の自由」のボーダーラインは、どのように設定しているのですか?
大川 そうですね、人格を貶めるようなことですかね。個人攻撃のような。皆さん、そんなこと言わないですけど。「好き」とか「嫌い」とか言う分には個人の自由ですからいいんですけど、「アイツは本当は○○だ」のような、裏の取れない話はダメかなとは思います。新聞社から頂いた情報はあくまでも入り口であり、コメンテーターさんにはどれだけ脱線してもらっても構いません。皆さんの妄想や世界観でしゃべってもらう分には、いくらでも。ただ、出演者さんは、ほとんど悪口は言ってないんです。人によってはそう聞こえるかもしれないけど、基本的には自虐。「私はこう思う」ってこと自体を咎める理由は何もないし、それがまったく言えなくなっちゃう世の中だったら本当に怖いと思いますしね。普通の人なら記事そのものを受け入れますけど、出演者の方々はその先を見ていたり、まったく見方が違ったりとか、視点が本当に独特だから、何年やっても飽きないのかなと思います。
――サイゾーもそうですが、表層部分だけを見て「悪口だ」とされるのが一番つらい(笑)。
大川 「こういう見方もあるんじゃないの?」っていう問題提起なんですよね。こうやって見たら、もっと面白いんじゃない? と。僕らが王道になっちゃうほうが世の中おかしいな、って思うし(笑)。
――『5時に夢中!』がサブカルだという意識は?
大川 まったくないですね。ただ、僕自身は吉田豪さんや水道橋博士さんのようなサブカル的な人が好きです。それは「こういう見方があるんだな」っていう視点が好きなんです。キャッチボールをしていても、とんでもない方向から球が来るような。
――『5時に夢中!』は、いつサブカルのアイコンになってもおかしくないと思いますが、番組がずっと「下世話」を貫き通しているのがすごいなと。
大川 サブカルは、もう「権威」ですからね。本当にいつ終わるかも分からない低予算番組なので、出てくれる人はみんな“ほかで飯が食える人”です。テレビがなくても飯を食っていける人のほうが、本当のことを言ってくれるから。それが、いい意味での下世話感を生んでいるのかもしれません。
――刹那的に始まったものが、ここまで長く続いている。
大川 結局は「偉大なるマンネリ」を作った人が勝ちなんですよね。ドリフみたいな。僕も40で、見てくれている人も同世代だと仮定すると、新しいことを追い続けるよりも、水戸黄門的な定番モノが欲しくなると思うんですよ。昔の人は情報も多くなかったから、みんな似たような生活をしていて、同じようなモノ見て、同じようなモノ食って。そういう共通項が多いほど、共感を呼ぶのかなとも思います。『5時に夢中!』を始めて、最初にリアクションがあったのは、実はゲイの方たちと水商売の人たちだったんです。コアに反応にしてくれた層です。『5時に夢中!』は、水商売の人のための“めざましテレビ”でもある。これから接客する人たちの情報収集として。もしできることなら朝の5時くらい、水商売の人たちが帰ってくるくらいの時間に再放送したいですね。
――再放送! ぜひお願いしたいです!
大川 ギャラの問題がね(笑)。ほら、皆さん大手事務所に入ってるから、二次使用とかなんとか大変で。今でも番組予算の3分の2くらいはギャランティーじゃないですかね。だからこっちはいつまでたっても人が足りない。人も足りなきゃ機材も足りない。編集室なんて奪い合いですよ、わが社は(笑)!! しかし、あえてそういう配分にしているのは、何はさておきトークが番組の生命線だから。とはいえ、キー局の10分の1にも満たないギャラです。本当によく出てくれるな、って涙が出ます。皆さん義理堅いんです。
――これからの『5時に夢中!』は、どんな展開を考えていますか?
大川 ちょっとやってみようかなって思ってるのは、祝日だけコメンテーターを一人足そうかと。3人いると、いろいろシャッフルもできるし。ふかわさんがようやく溶け込んできて、チームワークが取れてきたところですしね。DVDもね……新聞使ってるから難しいんだよなぁ。それこそイベントやったり、本出したりしてみたいですけどね。いざやるとなると、僕が全部やらなきゃいけないから、めんどくさい(笑)。なんで権利処理まで僕がやらなきゃいけないんだと。会社として専門家が全然いないし、前例もないから、なるべくその第一歩になりたいと思ってはいるんですけど。一番いいのは、地方局に買っていただくことでしょう。暴走族みたいに全国制覇していきたいですね。
――昨今のテレビ界では「地方から東京へ」というインパクトが目立っていますが、『5時に夢中!』が地方にもたらす影響は大きいと思います。
大川 『5時に夢中!』というか、MX自体がマイノリティなんです。東京という都会のマイノリティ。出演者さんが弱者の味方なのは、ご自身もマイノリティの自覚がある方が多いから。だから根底にあるものが優しいんですよ。スポンサーニーズには全然応えてくれないけど(笑)。もしウチがフジテレビみたいに恵まれている会社だったら、マツコさんはすぐに辞めていたと思いますよ。視聴者からのお便りで「もう何年も笑ってなかったけど、この番組で笑うことができた」ってもらった時、あぁ誰かの役には立ってるんだなって。常に逆風の中で生きている人たちの味方でありたいなと思っています。リアル“明日のジョー”として。
(取材・文=西澤千央)
※註 スナックのママが己の波瀾万丈な人生を赤裸々に語り、魂を込めて熱唱する、月曜日の人気コーナー。