9月1日、アメリカの株式市場「ナスダック」において、投資家たちがため息を漏らした。今年5月の株式公開後ずっと値下がりを続けていたフェイスブック(以下、FB)の株価が19ドルまで下落、ついに公開価格の半値を切ってしまったからだ。 アップルが時価総額で世界一の企業となったように、20世紀末以降のアメリカ経済はIT産業が牽引してきた。多くのIT企業が株式公開し、その後の株価上昇によって莫大な利益が生み出されてきたのである。 「マイクロソフトやグーグルなど著名なIT企業があらかた株式公開してしまった中、9億人が利用する世界最大のSNSという『最後の大物IT企業』。当然投資家たちも大きな期待を寄せ、ヘッジファンドから個人投資家までが、FBの公開株に殺到しました」(証券アナリスト) ところがFBの株価は、上場初日こそ38ドルという公募価格を上回ったものの、その後は連日最安値を更新し続け、わずか4カ月足らずで半値にまで下落した。上場時で約1000億ドル(約7兆8000億円)だった時価総額は、9月には約400億ドル(約3兆1000億円)にまで下落してしまったわけだ。 その要因としては、スマートフォンへの対応の遅れや創業者マーク・ザッカーバーグの経営手腕への不安などが挙げられている。しかし、最も大きいとされるのが、FB上での広告の収益力の弱さである。 「SNSを活用した広告は、従来のマス広告よりも購買行動につながりやすいといわれている。企業の宣伝よりも友人からの推薦のほうが信頼できるから、というわけですね。ところが、FBの広告は思ったよりも効果がないとして、米ゼネラル・モーターズがFBでの広告を打ち切ってしまったんです」(同) このFBの株価騒動を、太平洋を挟んだ日本から不安げに見つめる企業がある。日本最大の広告代理店である電通だ。同社は、日本におけるFB掲載広告を一手に取り仕切っている。FBのページにはいくつかの広告が掲載される設定になっているが、電通は日本ユーザー向けの広告表示枠をすべて買い切る独占的な契約【1】をFBと締結。このため、日本企業がFBで日本人向けに広告を出すためには、すべて電通を通す必要があるのだ。 インターネットにおける広告は、グーグルでおなじみの「キーワード広告」のように、低価格かつ低単価で、中小企業でも手軽に宣伝が行えるのが特徴だった。このため「ウチの会社は、テレビCMや大型キャンペーン広告など、大きな予算がつく広告がメインです。それに比べるとネット広告の予算は小さいので、ウチの会社では積極的には扱ってきませんでした」と、ある電通社員は説明する。しかし、テレビ・新聞・雑誌・ラジオという、いわゆる4大マス媒体のメディアパワーが下がり、一方でネットがメディアとしても広告媒体としても大きく伸びてくると、ネット広告に消極的だった電通は、大きく出遅れる結果となった。 「完全にネット広告に出遅れたため、会社全体にもかなりの危機感がありましたね」(電通社員) その起死回生の手段が、FB広告枠の買い切りだったというわけだ。 ■“センス”がない電通という企業 しかし、2010年の時点で米国ではすでにSNSの最大手となっていたFBだが、日本ではミクシィやモバゲーなど国内企業によるSNSが大きく普及しており、FBの躍進は困難に見えた。そこで電通は、FBを「ビジネスユーザーのための最新鋭サービス」と定義して売り込む作戦に出た。具体的には、経済系ニュース番組や雑誌などに、FBを大きく扱うよう売り込んだのだ。10〜11年にかけて、「週刊ダイヤモンド」から「GQ」「anan」に至る複数の雑誌で、「FB大特集」が繰り返されたことを覚えている読者も多いだろう。そのウラには、FBの認知度を高めたい電通による、メディアの熱心な誘導があったのだ。もちろん、取り上げる側のメディアにもメリットはある。FBと近しい距離にある電通が取材の便宜を図ることによって、それまであまり日本メディアには露出しなかったFB日本支社、さらにはFBを活用している企業の取材が可能になったのだ。さらに、”天下の電通”ならばこそ、他のページに入る広告に関しても、なんらかの優遇策を”おまけ”としてつけるなどしていることも容易に想像できるだろう。 電通によるこうした売り込み、そしてFB自体が他のSNSよりも使いやすいこともあって、日本でのユーザー数は11年末には1000万人を突破、12年8月末時点では1500万人を超えたといわれている。またユーザー層も、各メディアへの大量露出の効果もあって、20代後半から40代前半の働く世代が過半数を占めており、可処分所得の高い層が集まるSNSという、電通の狙い通りの広告媒体に育ちつつある。 そうした折も折に起こったのが、5月のFB上場であり、その後の株価下落だったのである。 「ウチの会社はしょせん”日本的”な営業の会社。ITやネットを活用することは不向きなんです。先物買いのつもりでFBに投資しましたが、このままでは持ち出しに終わってしまいそうですよ」(電通社員) ところが、電通も懲りずに次の狙いを定めているという。それがスマホでヒットしているチャットアプリ「LINE」だ。韓国系企業NHNの日本支社が開発したアプリで、高校生や大学生、女性などを中心に急速に普及している(詳細は「サイゾーpremium」で9月28日より更新予定のNHN特集を参照)。そのLINEの広告は当初、博報堂がメインで扱っていた。ところが、LINEが成功を収めつつあるのを見た電通が、「ウチにもやらせろ」と食い込もうとしているというのだ。 「海の向こうのFBよりはコントロールしやすそうということで、目をつけたようです。だけど問題は、そもそもネットのセンスに電通がついていけてないことなんですよ。FBのように国内メディアを総動員して知名度を上げたところで、『広告媒体としてあんまり価値がなかった』ではねえ……」(同) 社員が呆れるほどネットのセンスに欠けているという電通。テレビや新聞など旧来型の媒体が本格的に崩壊する前に新たな広告枠を、とネットに飛びついているが、FBについては失敗に終わる気配が濃厚である。 ネット上では、”アヤしい”宣伝活動はすべて「電通の陰謀」「ステマ」などと揶揄されがちだ。しかし、FBにおける同社の暗躍を見れば、それもあながちデマではないということになる。いわば、火のないところに煙は立たぬ。しかし、その火も実は、風前のともし火なのかもしれないのである。 (三森黒介)「週刊ダイヤモンド」2011年1月29日号
【1】独占的な契約 広告枠の「買い切り」は、電通に限らず大手広告代理店がよく行う手法である。人気のテレビ番組や新聞の紙面広告、雑誌の裏表紙など、多くの人の目に触れやすく、広告を出す側にも人気が高い広告のスペース、いわゆる”枠”をまるごと買い切って独占することで、広告料金をコントロールし、高値を維持しやすくなるのである。 ■下落し続けるフェイスブックの株価 「久しぶりの大型株上場」「第2、第3のアップル、グーグル」。鳴り物入りで5月18日に上場したフェイスブック。公募価格38ドルに対し一時は45ドルまで上昇したが、結局同日は38・23ドルで終了。メディアでは、一気に「期待はずれ」感が広まった。その後は30ドル前後をうろうろしていたが、8月以降は20ドル台前半にまで低迷していたのだ。 【「サイゾーpremium」では他にも話題のニュース記事が満載!】 ・ブランド価値”1500億円”日経 の失態 読売と「リーク元公開」で業界騒然! ・第2のリクルート事件?”疑惑にまみれた”JAL再上場の舞台裏 ・“脱税””隠し子”騒動でGACKTがピンチ! ベールは剥がされるのか
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