
不健全図書指定後に全年齢向けコーナーに
陳列されていた事例(現在は、棚を移動済み)。
「大丈夫!アスキー・メディアワークスの一般コミックだよ!」
8月、都内の書店で販売されたある単行本に、こんなPOPがつけられていた。POPが意味するのは、出版社側が18歳未満への販売を自主規制する「成年コミックマーク」をつけていない=すなわち小学生でも購入できるということだ。
その単行本が、綾乃れな著『ぽちとご主人様』(アスキー・メディアワークス)だ。書店のPOPは「大丈夫!」と銘打っていたにもかかわらず、東京都は、9月の東京都青少年健全育成審議会に、この本を提出。参加した委員から「指定やむなし」という多数意見を得て、不健全図書に指定された。
この作品は、SkyFish pocoが発行する同名の美少女ゲームをコミカライズしたもので、アスキー・メディアワークスが発行する雑誌「電撃HIME」などに連載されていた。ドエスな主人公と幼なじみが互いの親の婚約によって兄妹になってしまうが、幼なじみは主人公のペットになることを提案するという物語だ。
東京都青少年課は、この単行本を不健全図書の候補として審議会に挙げた理由を次のように語る。
「従来の基準に従って、精液や擬音から卑わい性があると判断しました」(都青少年課の佐藤久光課長)
審議会の前に自主規制団体から意見を聞く、諮問候補図書に関する打ち合わせ会では(昨年改定施行された条例で追加された指定基準である)近親相姦描写についても、規制に該当するという意見が出たが、都側は「あくまで新基準は従来の基準では指定対象にならない場合に用いるもの」として、採用しなかった。都は、あくまで問題なのは作品中の描写の「卑わい性」だというわけだ。
そもそも「卑わい性」とは、非常に曖昧な概念である。資料によれば、この作品は、条例を運用するために定めている施行規則に記された基準のうち、第15条第1項第一号イ・ロの部分に該当しているとされる。その基準は、次のようなものである。
「イ 全裸若しくは半裸又はこれらに近い状態の姿態を描写することにより、卑わいな感じを与え、又は人格を否定する性的行為を容易に連想させるものであること。
ロ 性的行為を露骨に描写し、又は表現することにより、卑猥な感じを与え、又は人格を否定する性的行為を容易に連想させるものであること」
この基準も「一体どこまで描写したらアウトなのか」判然としない、極めて曖昧なものだ。となると、恣意的に決めているのではないかという疑念が湧くが、少なくとも今回に限っては反論が難しい。というのも、この作品が連載されていた「電撃HIME」が、表紙に成年向けマークを表示した雑誌だからだ。
出版社が雑誌・単行本の表紙に「18禁」、あるいは「成年向け」のマークを印刷する自主規制の目的は、過激な表現を扱っていることを示し、書店に18禁コーナーなど子どもの手には届かない場所で販売することを促すもの。
つまり、過激で子どもが買ってはいけない内容であることを出版社が自覚している雑誌で連載していた作品なのに、単行本になったら子どもでも買える珍妙な現象が起きてしまったというわけだ。
「電撃HIME」に連載された作品は、青年向けコミックレーベル「電撃ジャパンコミックス」として販売されている。「電撃HIME」で連載された作品は、ほかにも単行本化されているが、いずれも黄色い楕円の自主規制マーク「成年向けコミック」マークはつけていない。アスキー・メディアワークスが、マークをつけなかった理由はなんなのだろうか。
「今回のコミックスの内容は、不健全図書指定を受けるような水準ではないという判断をしてしまいました」
と、同社の担当者は話す。東京都が不健全図書指定の候補に挙げる判断をする基準として「擬音と体液の量」を重視していることは、同社も知っていたと話す。また、日本雑誌協会には角川グループパブリッシング(角川グループの各出版社の発売元)が加盟しており、規制問題に関する情報はきちんと入手しているという。
実のところ、今回の一件を同社の「ミス」と責めるのは酷である。というのも、この作品で扱われている描写は、かなり微妙なラインなのだ。成年向けマークつきの雑誌・単行本も含めて、昨今のエロ描写強めの作品に日常的に触れていると、この描写で指定を受けるか否か? あるいは、マークなしでも大丈夫か否かの判断は、迷うところだ。
「今後は、同様の指定を再度受けないような表現内容の基準を設けるなど対応したいと思います」
という同社担当者の言葉からは、大手出版社ならではの責任感が感じられる。
あくまで推測にすぎないが、もし描かれているのが成人女性だったら、指定を受けていたかは微妙なところである。やはり、指定候補の雑誌・単行本を買い集める都の職員、審議会のメンバー構成を考えると、ロリ表現は、悪い意味で下駄を履かされる面が否めない。
また、この作品の場合は冒頭で触れた書店のPOPのように、平積みされて非常に目立っていたことも、指定候補に挙げられた理由ではないかと考えられる。指定候補の雑誌・単行本は、都の職員が実店舗を回って購入するスタイルだ。この作品は、良くも悪くも目立ったがために、指定に至ったとも見ることができる。今年は創立20周年を迎え、長く日本のオタク文化を牽引してきた同社には、今回のことで萎縮することなく、読者を驚かせる表現を追求してほしいものだ。
■不健全図書指定後も区分陳列しない書店が
一方で『ぽちとご主人様』は、予想を超えたあり得ない問題を引き起こしていた。それは、多くの書店で不健全図書に指定された後も、必要な対応が取られていなかったことだ。
『ぽちとご主人様』が不健全図書指定された審議会が開催されたのは、9月10日。翌11日には報道発表がなされ、14日には都からの通達も行われた。
不健全図書指定された場合、指定を受けた雑誌・単行本を店頭で販売する際に書店は、包装した上で18禁コーナーに区分陳列し、18歳未満には売らない措置を取らなければならない。
ところが、9月26日に秋葉原の書店をめぐってみたところ、なおも全年齢向けの書棚に、ほかの「電撃ジャパンコミックス」レーベルの単行本と一緒に並べられていたので驚いた! 早速、本を手に取って、店員に「これは、18禁じゃないのか?」と聞いたところ、きょとんとしながら
「いえ、一応大丈夫です」
と、返された。一体、何が大丈夫なのだろうか? もしや、石原都政に対する新たな挑戦なのかと、この書店に取材してみたところ、驚きの回答が返ってきた。
東京都では9月14日に郵送で通知をしたというのだが、この書店では
「当社及び秋葉原店を含めた当社各店舗への東京都からの通知の到達が確認できておらず、現在、事実関係につき調査中です」
というのだ。
早速、前出の都青少年課の佐藤課長に再度問い合わせてみたところ、
「正直、100%すべての書店に通知を発送できてはいないと思います」
と、これまた驚きの答えが。佐藤課長は続ける。
「東京都でも電話帳などで確認して随時更新をしておりますが、書店は登録制の事業ではないため、若干反映しきれていないところもあります。書店組合などに加盟していれば、そういった団体を通じて別途、通達が行っていると思うのですが……」
てっきり「届いてないハズがない」と反論されるかと思いきや、予想外の自信のない回答だった。だが、この書店は別件で取材した際に、東京都からも立ち入り調査を受けて「ちゃんと年齢区分していて問題がない」と太鼓判を押されたこともあると話していたのだが……真相は藪の中である。
ただこの書店も、当惑しつつも
「直ちに全年齢向けコーナーでの陳列を中止し、条例に適した陳列・販売方法への変更を行っていきます。また、現時点では、18歳未満のお客様がご購入された事実は確認できておりません」
と、対応は真摯であったことを、付け加えておきたい。
不健全図書指定が決まった後の運用に、若干の漏れがあることが明らかになってしまった今回の一件。全体を総括する中で見えてくるのは、表現が多様化する中で18禁と全年齢を区分するだけの、自主規制ができなくなってきていることだ。そろそろ、本気で15禁の導入など、あくまで自主規制としてレーティングを細分化する必要性が出てきているのではなかろうか。インターネットも普及し、いつでもどこでもエロを手に入れることができるようになった昨今、ちょっとは少年少女にも、エロを手に入れる苦労とドキドキ感を味合わせたほうがよい。
(取材・文=昼間たかし)
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連載打ち切り、単行本化なしの作品も続出か? 「日刊サイゾー」が東京都青少年健全育成審議会に登場!

「東京都青少年・治安対策本部」より
8月6日に開催された、第626回東京都青少年健全育成審議会の議事録が公開され、委員から報告として、本サイトの記事が示されたことが明らかになった(http://www.seisyounen-chian.metro.tokyo.jp/seisyounen/09_622_menu.html#626)。
取り上げられたのは、7月にアップされた「危機感ゼロの無知すぎるマンガ編集者が、新たな規制を呼び込む!? 東京都『不健全図書』の最新事情」(※記事参照1)と「『非実在青少年』騒動はなんだったのか? “消していれば大丈夫”という判断をした青林堂の甘さ」(※記事参照2)の2つの記事だ。
議事録は、都庁などの行政関係職員を除き名前は伏せて公表されるため、発言者は明らかでない(なお「日刊サイゾー」の部分と執筆者の「昼間たかし」の部分も黒塗りである)が、不健全図書が指定された後に、そのほかの報告として述べられたものである。
<先日、■ ■ ■ ■ というインターネットの中にある週刊誌みたいなものですけれども、その中に■ ■ ■ ■ さんという方の記事が載ってるんですね。その■ ■ ■ ■ という方は、もともと、いわゆる条例改正のときには反対派のほうに立って論陣を張ってた方ですけれども、その方が、あまりにも今の漫画の編集者の方々が無知過ぎて、このままだと、またさらに規制が強化されてしまうぞ、というような趣旨での文章を書いている>(議事録より)
前出の2本の記事で取り上げた、7月に不健全図書指定を受けた青林堂の『なぶりっこ マリカとアキコ』に関する内容を説明し、次のように続ける。
<東京都も、何度となく出版業界とも話をして、どこのポイントが規制の対象になるのか、という話をしているにもかかわらず、修整だけすればいいんだという発想で、出版をしている編集者がいまだにいっぱいいると。これは、毎度毎度業界関係者からの聴き取り内容を見ると、「修整してるからいいじゃないか」みたいな人たちがたくさんいるんで、ここはちょっと考えなきゃいけないな>
さらに同記事で取り上げた、双葉社が年通算6回の不健全図書指定を回避するために、指定を受ける可能性のある単行本を系列のエンジェル出版に移行したことも取り上げられている。
<要するに、確信犯的にやってる会社がやっぱりあるんだ、ということが分かるんですねね、これの措置によって。これは出版ゾーニング委員会でも再三問題になってるらしいんですよ、■ ■ 自身の危機感のなさというのが。倫理協議会の中の出版ゾーニング委員会でも、警告を結構やってるらしいんですが、業界の関係者の人たちも、それは思ってるんだけども、■ ■ は全くそれを意に介さない、というようなことをやってる>
ここでは伏せ字になっているが、明らかに双葉社を名指しで批判したことが見て取れる。指定回数がリーチに達する前に系列社に出版元を移して、アウトになるのを裂けようとしている出版社側の手の内が、完全にバレてしまった格好だ。
「双葉社をはじめとして、18禁マークなしのエロ要素強めのマンガを出版する各社も、“そろそろこれまでの方法は通用しない”と考えているようです。というのも、議事録にも掲載されているように、出版倫理協議会の出版ゾーニング委員会が再三にわたって問題視しているにもかかわらず方針を改めないことに対して、さまざまな出版社から相当厳しい批判が寄せられているのです。双葉社だけでなく、見た目の指定回数を減らすために系列に出版元を移す出版社はいくつかありましたが、そうした社も含めて“今までの逃げ方じゃ通用しない”と、ここにきてようやく深刻に受け止め始めているようですね」(業界関係者)
こうした状況を東京都では、どう見ているのか?
「双葉社さんから事実関係を聞いているわけではありませんので、明確なお答えはできませんが、(私見として)出版元を移す行為がただちに脱法行為になるとは見ていません。あくまで別の出版社から出版されているわけですし、ただちに何かの対策を取ることは考えていません。各出版社で自主的に基準を決めていただくのが最もよいのですが、各社で温度差があると思いますので、業界団体で自主規制していただくのがよいのではないでしょうか」(都青少年課の佐藤久光課長)
東京都はまだ静観の構えだが、出版業界内部では「いくらなんでも、やりすぎ……」という意見が強い。明確な証言はないが、双葉社では、単行本にした場合にエロページが多くなりすぎる(指定される可能性が強まる)いくつかの雑誌連載を打ち切るというウワサもある。結局、編集部が自分たちで過激な表現に歯止めをかけられないために、会社の上層部が介入せざるを得ないという事態になってしまっているようだ。編集者もマンガ家も、こんな事態を巻き起こしてまで表現したいものがあったのだろうか……?
(取材・文=昼間 たかし)
「非実在青少年」騒動はなんだったのか? “消していれば大丈夫”という判断をした青林堂の甘さ

『なぶりっこ マリカとアキコ』
(青林堂)
いったい、どんな理由で顔射まであるマンガ単行本を、18禁にしなかったのか? 前回(※記事参照)触れた、7月に東京都に「不健全図書」指定された、しろみかずひさ『なぶりっこ マリカとアキコ』(青林堂)の一件をさらに追った。
この件が特異なのは、同人誌としては18禁マークを付けて売っていたのに、なぜか商業出版ではマークを付けずに発行してしまったこと。その理由についていろいろ考えてみても、「危機感が欠落している」ことくらいしか思いつかない。やはり、当事者の意見を聞かねばなるまい。
まず、取材したのは出版元の青林堂だ。担当者は、“マルセイ(成人指定)”に慣れていなかったと繰り返す。
「これまで、あまりこうした本を出版していなかったので、印刷所や取次にも相談をしましたが、判断基準がわかりませんでした。取次からも“それは、出版社のご判断で”と言われましたので。ですので、局部を消していれば大丈夫だと判断したんです」(担当者)
前記事にも記した通り、東京都が「不健全図書」の候補を選ぶにあたって重視しているのは「擬音と体液」である。その点についても知識がなかったのか?
「消していれば大丈夫という判断でしたね。“マルセイ”に慣れていなかったんです。ですので、東京都がダメというのであれば、素直に聞きます。これからは、こういったものには(18禁)マークを付けるつもりですし、今回指定された本もマークを付けて販売する方針です」
■作者も「消し」に戸惑った
続いて、作者のしろみかずひさ氏にも話を聞くことができた。まず驚いたのは、しろみ氏が自分の本が「不健全図書」指定を受けたことを知ったのは、本サイトの記事だったということだ。「指定されたことについて、出版社からは何も連絡はありませんでしたね」
と話す、しろみ氏。指定を受けたことも驚きだが、作品をズタズタに切り裂くがごとき「消し」には、本人も戸惑ったという。いったい、なぜこのような事態になってしまったのか?
しろみ氏に、同人誌を商業出版しないかという依頼があったのは、昨年の夏頃。当初は「デジタルで」という話だったので、デジタルにあまりよい印象を持たないしろみ氏は「単行本ならいいですよ」と、印刷物としてなら了承するという条件を出したところ「なら、そうしましょう」と、話がまとまったという。
「もともと同人ベースで出していて、商業ならばもっと修正がめんどくさいんじゃないかと思っていた作品でした。それに、美少女系……エロ系を、自分の前には一冊しか出版していない青林堂で本当に大丈夫かな? とは思っていたんですけど」
しかも、たぐいまれなひどい修正をしろみ氏が知ったのは、なんと献本が来てから。なんでも、校正刷りと献本が「ほぼ同着くらいだった」というから、これまた驚きだ。さらに、一番の問題である18禁マークを付けていない件についても聞いてみると、説明があったか少々記憶が曖昧だとしながら、次のように話す。
「18禁マークを付ける・付けないという話は、確かにされた記憶があります。ただ、これがエロ漫画の中でも濃厚な描写に特化した作品であることは、ヒロインのマリカとアキコのメス顔や、汗と大量のザーメンが紙面中に飛び散る絵を見れば一目瞭然です。だからそれを18禁マークなしで出すとは普通思わないし、18禁を付けずに出すなら、何かそれなりに策や方法があるのだろうとは思っていました」
しろみ氏自身、もとになった同人誌では、18禁マークを付けて売っていたわけだから、当然だ。
やはり、相次ぐ現場レベルでのやり過ぎ、あるいは無知ゆえの行為を通じて感じるのは、世間を騒がせた「非実在青少年」の騒動はなんだったのかということだ。あれだけの騒動を経ても、いかにして権力による規制に対抗するか、手練手管を使って出し抜くか、退くべきところは退くかを理解していない編集者は、まだ多いということか。覚悟を決めて、意図的に権力に挑戦的な表現を用いるのであればよい。無知ゆえの過激表現なんか、なんの意味もない。
(取材・文=昼間たかし)
「非実在青少年」騒動はなんだったのか? “消していれば大丈夫”という判断をした青林堂の甘さ

『なぶりっこ マリカとアキコ』
(青林堂)
いったい、どんな理由で顔射まであるマンガ単行本を、18禁にしなかったのか? 前回(※記事参照)触れた、7月に東京都に「不健全図書」指定された、しろみかずひさ『なぶりっこ マリカとアキコ』(青林堂)の一件をさらに追った。
この件が特異なのは、同人誌としては18禁マークを付けて売っていたのに、なぜか商業出版ではマークを付けずに発行してしまったこと。その理由についていろいろ考えてみても、「危機感が欠落している」ことくらいしか思いつかない。やはり、当事者の意見を聞かねばなるまい。
まず、取材したのは出版元の青林堂だ。担当者は、“マルセイ(成人指定)”に慣れていなかったと繰り返す。
「これまで、あまりこうした本を出版していなかったので、印刷所や取次にも相談をしましたが、判断基準がわかりませんでした。取次からも“それは、出版社のご判断で”と言われましたので。ですので、局部を消していれば大丈夫だと判断したんです」(担当者)
前記事にも記した通り、東京都が「不健全図書」の候補を選ぶにあたって重視しているのは「擬音と体液」である。その点についても知識がなかったのか?
「消していれば大丈夫という判断でしたね。“マルセイ”に慣れていなかったんです。ですので、東京都がダメというのであれば、素直に聞きます。これからは、こういったものには(18禁)マークを付けるつもりですし、今回指定された本もマークを付けて販売する方針です」
■作者も「消し」に戸惑った
続いて、作者のしろみかずひさ氏にも話を聞くことができた。まず驚いたのは、しろみ氏が自分の本が「不健全図書」指定を受けたことを知ったのは、本サイトの記事だったということだ。「指定されたことについて、出版社からは何も連絡はありませんでしたね」
と話す、しろみ氏。指定を受けたことも驚きだが、作品をズタズタに切り裂くがごとき「消し」には、本人も戸惑ったという。いったい、なぜこのような事態になってしまったのか?
しろみ氏に、同人誌を商業出版しないかという依頼があったのは、昨年の夏頃。当初は「デジタルで」という話だったので、デジタルにあまりよい印象を持たないしろみ氏は「単行本ならいいですよ」と、印刷物としてなら了承するという条件を出したところ「なら、そうしましょう」と、話がまとまったという。
「もともと同人ベースで出していて、商業ならばもっと修正がめんどくさいんじゃないかと思っていた作品でした。それに、美少女系……エロ系を、自分の前には一冊しか出版していない青林堂で本当に大丈夫かな? とは思っていたんですけど」
しかも、たぐいまれなひどい修正をしろみ氏が知ったのは、なんと献本が来てから。なんでも、校正刷りと献本が「ほぼ同着くらいだった」というから、これまた驚きだ。さらに、一番の問題である18禁マークを付けていない件についても聞いてみると、説明があったか少々記憶が曖昧だとしながら、次のように話す。
「18禁マークを付ける・付けないという話は、確かにされた記憶があります。ただ、これがエロ漫画の中でも濃厚な描写に特化した作品であることは、ヒロインのマリカとアキコのメス顔や、汗と大量のザーメンが紙面中に飛び散る絵を見れば一目瞭然です。だからそれを18禁マークなしで出すとは普通思わないし、18禁を付けずに出すなら、何かそれなりに策や方法があるのだろうとは思っていました」
しろみ氏自身、もとになった同人誌では、18禁マークを付けて売っていたわけだから、当然だ。
やはり、相次ぐ現場レベルでのやり過ぎ、あるいは無知ゆえの行為を通じて感じるのは、世間を騒がせた「非実在青少年」の騒動はなんだったのかということだ。あれだけの騒動を経ても、いかにして権力による規制に対抗するか、手練手管を使って出し抜くか、退くべきところは退くかを理解していない編集者は、まだ多いということか。覚悟を決めて、意図的に権力に挑戦的な表現を用いるのであればよい。無知ゆえの過激表現なんか、なんの意味もない。
(取材・文=昼間たかし)
危機感ゼロの無知すぎるマンガ編集者が、新たな規制を呼び込む!? 東京都「不健全図書」の最新事情

『なぶりっこ マリカとアキコ』
(青林堂)
「東京都青少年健全育成条例」の改正施行から1年。喉元過ぎれば熱さを忘れたのか、単なる無知なのか? ここにきて、やりすぎな出版社がしっぺ返しを食らう事例が相次いでいる。
今年5月以降、双葉社の「ピザッツ系コミック」と総称される、ゾーニングマークなしエロ系単行本の発売延期が相次いだ。発売が延期されたのはZUKI樹『アネアナ』3巻、ポン貴花田『女子アナでもいーですか?』1巻、usi『夢見る派遣 苺ちゃん』、かわもりみさき『ひめか先生の言う通り!』、ながしま超助『人魚を喰らう島』の5冊だ。現在、これらの単行本は8月に、双葉社系列のアダルト系出版社であるエンジェル出版からマークなしで発売予定であることが判明している。
双葉社がこのような措置を取った背景には、昨年7月から施行された改正条例の第9条の3で示された各条項を恐れてのことだ。ここでは、次のような規定が記されている。
2 知事は、図書類発行業者であつて、その発行する図書類が第八条第一項第一号又は第二号の規定による指定(以下この条において「不健全指定」という。)を受けた日から起算して過去一年間にこの項の規定による勧告を受けていない場合にあつては当該過去一年間に、過去一年間にこの項の規定による勧告を受けている場合にあつては当該勧告を受けた日(当該勧告を受けた日が二以上あるときは、最後に当該勧告を受けた日)の翌日までの間に、不健全指定を六回受けたもの又はその属する自主規制団体に対し、必要な措置をとるべきことを勧告することができる。 3 知事は、前項の勧告を受けた図書類発行業者の発行する図書類が、同項の勧告を行つた日の翌日から起算して六月以内に不健全指定を受けた場合は、その旨を公表することができる。 4知事は、前項の規定による公表をしようとする場合は、第二項の勧告を受けた者に対し、意見を述べ、証拠を提示する機会を与えなければならない。少々長い上に難解だが、簡潔に述べるならば過去1年以内に6回の「不健全図書」指定を受けた出版社は、東京都知事名義で社名を公表され、自主規制団体に必要な措置を取るように勧告されてしまうというもの。いわば、「有害な出版社である」と名指しされてしまうということだ。 これは1965年から出版倫理協議会(日本出版取次協会、日本書籍出版協会、日本雑誌協会、日本書店商業組合連合会)が行ってきた帯紙措置、すなわち雑誌類が連続3回または年通算5回「不健全」指定を受けた場合には「該当する雑誌に帯紙(18歳未満の方々には販売できませんの文句を記した幅3センチ以上5センチ以下、薄いブルーまたはグリーンの紙)をつけなければ取次で取り扱わない」「取次は帯紙措置を適用された雑誌類を販売店に送品する際、定期部数の再確認を行い、必要部数の申し込みを受ける」「申し込みのない販売店への送品は行われない」という自主規制を、条例に取り込んだものだ。この措置を受けると流通する部数が極端に減ってしまうため、雑誌は実質的に廃刊になってしまう。 まだ改正条例施行後に第9条に該当する連続6回の指定を受けた出版社はないが、もしそのような事態が起こった場合には、業界団体がなんらかの自主規制措置を余儀なくされることは、容易に想像がつく。 すでに双葉社は過去1年以内に5回の指定を受けており、リーチがかかっている状態。そこで、発行元を系列の出版社に移すことでアウトになるのを回避したというわけだ。 「双葉社の危機感のなさは、以前から出版倫理協議会の出版ゾーニング委員会(出倫協加盟団体や学識経験者らで構成)でも再三問題になり、警告を受けていました。ところが、現場レベルとコミュニケーションが取れていないのか、あるいは調整がつかないのか、過激なエロを抑えることができず、たびたび指定を受けている状態でした」(業界関係者) 一昨年、青少年健全育成条例の改正問題が大騒動になった際に、都がいかなる形で規制を行ってくるか、あるいは自主規制の在り方など学ぶものは多かったハズ。それなのにこんな事態になるとは、現場レベルがまったく何も学んでなかったということか。 ■「消しときゃいい」と勘違いした? 無知すぎる編集者も登場 今月はさらに呆れる事例も起こっている。7月13日付で不健全図書に指定された、しろみかずひさ『なぶりっこ マリカとアキコ』(青林堂)が、それだ。これは、しろみ氏が、18禁同人誌として頒布していた作品をもとに、商業誌として出版されたもの。同人誌の段階では18禁だったのに、商業誌ではマークなしの一般書籍扱い。もとは18禁で発売されていたのに、いったいなぜマークをつけなかったのか理解に苦しむ。驚くのはそれだけではない。ここでコマを掲載することははばかられるので実際に読んで確認してほしいのだが、男性器と女性器、局部の結合シーンを執拗に大きく、ホワイトで「消して」いるのだ。一昨年の騒動の際に、都側の説明などを通じて、都が「不健全指定」の候補に挙げる際の基準として重視しているのは「性器や体液、擬音の描写」であることは、何度もさまざまなメディアで報じられている。 このひどい修正から見えるのは、編集者が「性器を消しておけばいいんだ」と思い込んでいること、まさに無知そのものだ。何よりも本来、18禁同人誌で頒布されていたものであり、度を超えた「消し」を想定して描かれていないので、ページをめくるたびにホワイトの部分が目に飛び込んできて、まったく物語に集中できないのだ(しろみ氏のマンガは、物語性が大きな持ち味)。こんなに読者をバカにしきった単行本は見たことがない。作者にしてみても原稿をナイフで切り裂かれた上で印刷されたような気分だろう。作者の気持ちを思うと泣けてくる……。たとえ土下座されても、許すことはできないレベルである。編集者の判断でやっているんだったら、とっとと田舎に帰って別の仕事を探すことを、会社の方針だったらマンガから手を引くことをオススメする(なお、同人誌版は同人誌ショップなどでも販売中、念のため)。 一昨年の改正都条例成立後、日本雑誌協会をはじめ出版業界の諸団体は、都と交渉を重ね、条例で新しく定められた近親相姦などの規制基準に該当する図書が審議会に提出される際には、出版業界が選出する専門委員が意見を述べるという運用を承諾させた。これも、一つのくさびとなり、都に新基準を運用させることを躊躇させている。ところが、現場レベルで危機感が弛緩して、やり過ぎや無知なふるまいが目立つようになってきているようだ。まさに、後ろから斬りかかるような行為を容認することはできない。 (取材・文=昼間たかし)
「東方のクリアデータを返せ!」スウェーデン<マンガ“児童ポルノ”裁判>元被告が悲痛な訴え!

シモーン・ルンドストローム氏
6月、スウェーデンでPCに保存していたマンガの画像が「児童ポルノ」にあたるとして逮捕・起訴されていた裁判で、同国最高裁から無罪判決を勝ち取ったシモーン・ルンドストローム氏(記事参照)が来日し、インタビューに応じた。
──無罪判決に対して、スウェーデン国内での反応は?
「主要な新聞・テレビなどがトップで報道した。報道は無罪判決におおむね好意的。批判的なものは個人ブログ程度でしか見られない」
──最高裁が、1枚だけは児童ポルノに該当すると示唆したことについては?
「スウェーデンの裁判所は違憲審査の権限を持たない。そのため、明らかに法律が誤っていることに言及するのを避けるための政治的な方便だと思う。穿った見方をすれば、法律に対する議論を喚起する狙いがあるのではないかとも考えている」
──日本のマンガ・アニメの規制にも肯定的とされる国際NGO「エクパット」の反応は?
「これまでエクパットは、この問題に対して取材に応じることを避けていたが、今回はラジオ番組にスウェーデンマンガ協会の会長や警察関係者と共に出演した。しかし、彼らの態度は逃げ腰で『我々が、こういった絵にどういう反応をすればよいかわかってよかった』と発言するにとどまった」
──無罪判決後、警察当局から謝罪などはあったか?
「釈放後、コートも持ってきていないのに、氷点下10度の寒空に放りだされたにもかかわらず、まったくない」
──国家賠償や名誉棄損で裁判をする予定は?
「裁判に疲れたので考えてはいないが、押収された物品が返ってこなかった場合は提訴するつもりだ」
──押収されたものは?
「ハードディスク2台。一台に入っていたデータはどうでもいいものだが、もう一台にはPC-98版からの『東方Project』のゲームとクリアデータが入っていた大切なもの。判決が出る前にすでに破棄したという話も聞いたが、それが本当ならば訴えるしかない」
──判決後、本業である翻訳の仕事を再開することはできたか?
「直接関係があるかどうかはわからないが、『名探偵ホームズ(1984年のアニメ版)』の翻訳の依頼を受けた。帰国後、取りかかる予定だ」
ルンドストローム氏に対するスウェーデン高裁の判決文は、表現の自由の問題を扱うNPO「うぐいすリボン」(http://www.jfsribbon.org/)が日本語訳し、サイトに公開中だ。ルンドストローム氏は、8月にもコミケのために再来日し、講演会などを行う予定になっている。
なお、取材後に筆者らは東方カラオケで親交を深めた。
(取材・文=昼間たかし)
「東方のクリアデータを返せ!」スウェーデン<マンガ“児童ポルノ”裁判>元被告が悲痛な訴え!

シモーン・ルンドストローム氏
6月、スウェーデンでPCに保存していたマンガの画像が「児童ポルノ」にあたるとして逮捕・起訴されていた裁判で、同国最高裁から無罪判決を勝ち取ったシモーン・ルンドストローム氏(記事参照)が来日し、インタビューに応じた。
──無罪判決に対して、スウェーデン国内での反応は?
「主要な新聞・テレビなどがトップで報道した。報道は無罪判決におおむね好意的。批判的なものは個人ブログ程度でしか見られない」
──最高裁が、1枚だけは児童ポルノに該当すると示唆したことについては?
「スウェーデンの裁判所は違憲審査の権限を持たない。そのため、明らかに法律が誤っていることに言及するのを避けるための政治的な方便だと思う。穿った見方をすれば、法律に対する議論を喚起する狙いがあるのではないかとも考えている」
──日本のマンガ・アニメにも肯定的とされる国際NGO「エクパット」の反応は?
「これまでエクパットは、この問題に対して取材に応じることを避けていたが、今回はラジオ番組にスウェーデンマンガ協会の会長や警察関係者と共に出演した。しかし、彼らの態度は逃げ腰で『我々が、こういった絵にどういう反応をすればよいかわかってよかった』と発言するにとどまった」
──無罪判決後、警察当局から謝罪などはあったか?
「釈放後、コートも持ってきていないのに、氷点下10度の寒空に放りだされたにもかかわらず、まったくない」
──国家賠償や名誉棄損で裁判をする予定は?
「裁判に疲れたので考えてはいないが、押収された物品が返ってこなかった場合は提訴するつもりだ」
──押収されたものは?
「ハードディスク2台。一台に入っていたデータはどうでもいいものだが、もう一台にはPC-98版からの『東方Project』のゲームとクリアデータが入っていた大切なもの。判決が出る前にすでに破棄したという話も聞いたが、それが本当ならば訴えるしかない」
──判決後、本業である翻訳の仕事を再開することはできたか?
「直接関係があるかどうかはわからないが、『名探偵ホームズ(1984年のアニメ版)』の翻訳の依頼を受けた。帰国後、取りかかる予定だ」
ルンドストローム氏に対するスウェーデン高裁の判決文は、表現の自由の問題を扱うNPO「うぐいすリボン」(http://www.jfsribbon.org/)が日本語訳し、サイトに公開中だ。ルンドストローム氏は、8月にもコミケのために再来日し、講演会などを行う予定になっている。
なお、取材後に筆者らは東方カラオケで親交を深めた。
(取材・文=昼間たかし)
【速報】スウェーデン「非実在青少年」裁判 スウェーデン最高裁が起訴自体を批判し無罪判決

『非実在青少年〈規制反対〉読本』
(サイゾー)
本日16時頃、シーモン・ルンドストローム(Simon Lundstroem)氏から届いたメールによれば、スウェーデン最高裁判所は性的なポーズをとる女児を描いたイラスト39点をパソコン内に所持していたとして児童ポルノ罪で起訴されたルンドストローム氏(記事参照)に対して、無罪判決を下した。
早速、本人に電話で詳細を確認したところ、(「今、船に乗っている」とのことで長くは話せなかったが)判決で裁判所は、検察側の訴えを「却下」あるいは「忌避」(日本語の法律用語でどれが正当かは確認中)し、「(問題となった39点のイラストのうち)1枚はリアルなので有罪になる可能性も考えられる」としながらも「犯罪として成立しえるものではない」と、ルンドストローム氏をイラスト所持を事件化し起訴したこと自体を批判しているという。
現地の大手日刊紙『スヴェンスカ・ダーグブラーデット』と『ダーゲンス・ニュヘテル』の電子版を確認したが、まだ判決については報じられていない。
ルンドストローム氏の友人でもある翻訳家の兼光ダニエル真氏は
「想像上の未成年者を表現することへの規制をもっとも強めている国の最高裁が、このような判決を下したことは、欧米においても“児童ポルノ”の概念に様々な議論があることを示している。今後も、児童の福祉を理由に、思想信条に国家が踏み込む行為を許してはならない」
と話している。
判決文など、詳細な情報が入手でき次第、続報をお届けする。
(取材・文=昼間たかし)
【速報】スウェーデン「非実在青少年」裁判 スウェーデン最高裁が起訴自体を批判し無罪判決

『非実在青少年〈規制反対〉読本』
(サイゾー)
本日16時頃、シーモン・ルンドストローム(Simon Lundstroem)氏から届いたメールによれば、スウェーデン最高裁判所は性的なポーズをとる女児を描いたイラスト39点をパソコン内に所持していたとして児童ポルノ罪で起訴されたルンドストローム氏(記事参照)に対して、無罪判決を下した。
早速、本人に電話で詳細を確認したところ、(「今、船に乗っている」とのことで長くは話せなかったが)判決で裁判所は、検察側の訴えを「却下」あるいは「忌避」(日本語の法律用語でどれが正当かは確認中)し、「(問題となった39点のイラストのうち)1枚はリアルなので有罪になる可能性も考えられる」としながらも「犯罪として成立しえるものではない」と、ルンドストローム氏をイラスト所持を事件化し起訴したこと自体を批判しているという。
現地の大手日刊紙『スヴェンスカ・ダーグブラーデット』と『ダーゲンス・ニュヘテル』の電子版を確認したが、まだ判決については報じられていない。
ルンドストローム氏の友人でもある翻訳家の兼光ダニエル真氏は
「想像上の未成年者を表現することへの規制をもっとも強めている国の最高裁が、このような判決を下したことは、欧米においても“児童ポルノ”の概念に様々な議論があることを示している。今後も、児童の福祉を理由に、思想信条に国家が踏み込む行為を許してはならない」
と話している。
判決文など、詳細な情報が入手でき次第、続報をお届けする。
(取材・文=昼間たかし)
単純所持違法化の歪み……児ポ根絶セミナーで飛び出すスウェーデン当局の仰天発言

『非実在青少年〈規制反対〉読本』
(サイゾー)
6月2日、日本国内での「児童ポルノ」の単純所持禁止の必要性、インターネット上の児童ポルノの根絶に向けた国際シンポジウム「第3回児童の性的搾取に反対する世界会議(2008年リオ会議)フォローアップセミナー - インターネット上の児童の性的虐待画像(児童ポルノ)の根絶に向けて」(主催:スウェーデン大使館・公益財団法人日本ユニセフ協会、ECPATスウェーデン、ヤフー株式会社)が東京渋谷区の国連大学で開催された。
シンポジウムの冒頭、挨拶に立ったシルビア・スウェーデン王妃は年間100万人あまりの子供が商業的性的搾取の被害に遭っていることを取り上げ、この被害を防止する効果的な方法として、営利目的である「児童ポルノ」の収益性を立つことの重要性を強調した。さらに、国際連合の児童の権利条約第二条と選択議定書で示された「児童ポルノ」の定義について触れて日本でも単純所持導入を導入すべきだと訴えた。
「この定義は18歳未満への性的な犯罪のすべてのドキュメンテーションを対象にしています。マンガなども対象になるのです。日本でも単純所持が議論されていることは知っています。スウェーデンでも言論の自由の制限への懸念から反対の声は強かったのですが、1999年から所持は違法化されました。これによって、警察の捜査は円滑化され、犯罪者を裁くことができるようになり、被害児童の特定の可能性が出てきました。日本も我が国の事例にならって欲しいと願います」。
■単純所持で冤罪が立証された例はない!
3時間あまりのシンポジウムでは、多くの人々が発言をしたが、ここでは、閉会後の記者会見で、パネリストのひとりアンダーシュ・ペーション氏に寄せられた質問を紹介したい。ペーション氏は、1997年よりスウェーデン国家警察に所属し、国際刑事警察機構捜査官として、同機構の「子ども虐待画像データーベース(ICAID)」構築に尽力した人物である。
──単純所持の導入すれば冤罪の可能性が懸念される。冤罪に対する予防措置は、どのように行われているのか?
ペーション氏 そういうことに対する懸念は耳にしたことがあります。ただ、警察官として、そういう事件、そういう捜査に出会ったことがありません。ひとつ、警察の捜査官としてコンピューターなどを押収した場合にとる予防策としては、ソフトウェアを探そうとするわけです。冤罪になるような誰かがワザと入れるようなことを可能にするトロイの木馬とか、そういうコンピューターウィルスを探します。でも、警察官として、実際にそうした事態に出くわしたことはありません。
──そうしますとスウェーデンは1999年の1月1日から単純所持を違法化していますが、現在まで10数年あまりの間に冤罪が発生した事例はひとつもないと理解してよろしいでしょうか?
ペーション氏 被告が、画像がコンピューターの中に故意に入れられたということを主張したことはありますが、それが正しいと立証されたことはありません。ですから、他人がコンピューターに画像を入れたということは主張はできるわけですけれども、私が知る限りにおいてそうした情報が事実だったということを掴んだことはありません。
──では、質問を変えましょう。現在、日本ではスウェーデンの漫画翻訳家であるシーモン・ルンドストローム氏が日本の漫画をコンピューター内に所持していた、これが「児童ポルノ」にあたるとして最高裁まで争っている事件が注目を集めています。これについては、スウェーデンの警察はどのような見解を持っているのか、教えて頂ければと思います。
ペーション氏 まだ、裁判所の決定は出ていません。現在、スウェーデンの最高裁判所が、この漫画の問題を検討しているところです。来週に、最高裁判所からの決定が出る予定ですけれども警察はスウェーデンの法律に従って活動するということでありますので、もし裁判所がそれを合法であるといえば、それを尊重します。私の個人的な見解と致しましては児童が描かれていて、実際の子供に見えないとしても、これは児童虐待の画像であると考えられるべきと思っています。鼻や目や耳が違っても、これは児童を描いたものであり、性的虐待をされているところを描いたものでありますから、まずは数日後に出る最高裁判所の判決を待ちたいと思います。
──では、実際に逮捕し起訴したということは現在のスウェーデン警察当局の見解では、日本で一般に流通している漫画をスウェーデンに持ち込んだ場合は「児童ポルノ」に該当するという見解をお持ちということですか? 裁判所が決定する前ですが。
ペーション氏 漫画の画像が、児童を描き性的虐待を描いているのであれば違法な画像とされます。これは、「児童ポルノ」とみなされます。しかし、私が申し上げました通り、最高裁判所が今週にも判決を出すことになっていますので、どのような判決が出るか私は待っているところです。私の個人的な見解ですが、おそらくこういった画像も犯罪化されるものと思います。ただ、まだ公式的な見解は出ていません。
──スウェーデンの警察当局は漫画の「この部分が児童にあたる」と判断する一定の基準を持っているということでよろしいですか?
ペーション氏 はい、基準があります。思春期の児童の成長が終わっていない状態。つまり絵の中で、まだ思春期が終わっていない状況であるということになれば、児童虐待の画像になるということになります。大変、小さな児童、ファンタジーの形の児童であるわけですけれども、身体を見れば子供であることがわかります。思春期が終わっていない状況であることがわかります。ですので、これは児童のポルノグラフィー、児童虐待といわれるべきだと思います。
──スウェーデンでは、日本の漫画はほとんど流通していません。その上で、日本の漫画は非常に多様化しており、年齢の判断は難しい。ゆえに「児童ポルノに漫画を含めるべきではない」という議論がありますが、スウェーデンの警察当局は既に、日本の漫画を読んで、これは何歳であるか、思春期であるかを判断できる自信を持っていらっしゃるということですか?
ペーション氏 私は漫画の専門家ではありません。ただ、私の同僚で捜査をした人から学んだところでは、その特定の画像は漫画ではない。誰かが想像してつくった自分のファンタジーで描き上げたものだと聞いております。漫画については、よくは知らないのですが私が見た、そのイメージ、画像は明らかに子供だったのです。思春期のプロセスが終わっていない人だったのです。ただ、漫画を「児童ポルノ」として自動的に禁止するわけではありません。唯一、性的な児童の虐待が描かれた画像であれば、犯罪になる。それが漫画でなくても、あるいは描いた児童の絵ではあっても、それが虐待されていれば、児童虐待になるわけです。
──スウェーデンの新聞等でも報じられておりご存じだと思いますが、スウェーデンの警察当局は実際の被害児童に対する捜査が疎かになるため、漫画の取締りを重視していないとコメントしています。これが、スウェーデン警察当局のスタンスと理解してよろしいでしょうか?
ペーション氏 警察は、公的な発言はまだしていません。個々の警察官が発言していますが、これは、これは、その公的なスウェーデンの警察の見解として受け止められては困るのです。今年、そんなにたくさんの絵を巻き込んだ事件はないのです。私が推測するに99.9%が写真とか絵ではない実際の児童虐待が描かれたものであり、イラストとかはいくつかだけです。常に疑念のある場合には、釈放します。議論の余地のある場合、子供か成人か判断できないには、これは釈放します。まったく、疑念の余地のない場合には、これは不法な素材といいますが、これは非常に稀です。ですので、公式的な見解はスウェーデンの警察は出していません。個々の警察官の発言のみです。
スウェーデン警察当局が、漫画に描かれたキャラクターの「身体を見れば子供である」「思春期が終わっていない」ことも判断できる基準を持っているというのは、驚きだ。
これについて、シーモン・ルンドストローム氏にコメントを求めたところ、
「スウェーデンの警察は、何かの超能力でも持っているのでしょうか? すごいですね」
と、苦笑した。なお2日現在、ルンドストローム氏には、スウェーデン最高裁から判決の日を知らせる通知は、まだ届いていない。
(取材・文=昼間たかし)