【清野とおるの、キ○チ○ガ○イと呼ばないで】第6話「謎の美人くだもの売り」

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『東京都北区赤羽』でおなじみの漫画家・清野とおるによる、悶絶必死の爆笑コラム。  ある土砂降りの、寒い冬の夜のこと。池袋西口の、飲み屋街から一歩外れた閑散とした通りを歩いていたところ、 「すみません」  後ろから、俺を呼び止める、か細い女性の声が聞こえた。振り向くとそこには……
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 20代前半と思しき、モデル体系の美女が立ち尽くしていた。合羽を着てはいるものの、フードは被っておらず、ずぶ濡れだった。手には大きなダンボールを持っている。  反射的に傘を差し出すと、女性は「ありがとうございます」と言って微笑んだ。
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 女性は、ダンボールの中一杯に詰まった巨峰を見せ、俺に勧めてきた。 「果物の行商をしておりまして、この巨峰を売り切らないと帰れないんです……」  時刻は22時半。こんな時間に若い女性がズブ濡れで巨峰を売り歩くなんて、奇妙で不審だとは思ったけど、 4yaoya.jpg  それ以上に「健気でかわいらしい」という気持ちが勝ってしまい、ひと房だけ購入してあげることにした。  きっと男なら誰だってこう思ってしまうはずだ。 5yaoya.jpg  巨峰が新鮮な上に無農薬で、いかに素晴らしいものかを説明してくれたけど、巨峰に1,000円は払う気にはならなかった。これから呑みに行くのに、持って歩くのも面倒だし。ってゆーか、そもそもブドウとかあんま好きじゃねえし。  丁重にお断りすると、女性は「そうですか。どうもありがとうございました」と微笑んで、その場を後にした。  気になったので尾行してみたところ、俺と同じ手口で酔っ払ったサラリーマンに声をかけ、巨峰を売ろうとしていた。 6yaoya.jpg  案の定、女性はおじさんたちに大人気で、一瞬で巨峰を売り切ったご様子だ。  やがて女性は、ダンボールをたたみ、フードを被ると、すごい早さで暗い住宅街を歩き始めた。 7yaoya.jpg  そして、怪しげな雑居ビルに姿を消していってしまった……。  一体あの女性は何者だったのだろうか? 霊や妖怪や狐や狸の類だったのではあるまいか?  この出来事を、Twitter的なものでツイート的な行為をしてみたところ、「僕も会ったことあります」「私も会ったことあります」「おいどんも会ったことあるでごんす」と、目撃者が多数現れた!  しかも、目撃場所は池袋だけでなく、上野、銀座、渋谷、錦糸町、立川、横浜と多岐に渡る。販売員は若い女性だけでなく、若い男性バージョンもあり。皆、果物の入ったダンボールをカートで引いたり、手持ちで売り歩いていており、不審なくらい爽やかで感じがよかったというのが主な共通点。  しかし、彼らの正体は謎のままである。 8yaoya.jpg  そしてつい最近の深夜0時過ぎ。わが町、北区赤羽で、カートに梨をワンサカ乗せた、爽やか好青年に声をかけられた。 「コレはまさしくアレの類だ!」  そう確信した俺は、一個300円の梨を思い切って購入し、彼の素性を尋ねてみた。 「僕、『D』という果物販売会社の者でして、採れたての新鮮な果物をこうして売り歩いているんです」  名刺やチラシの類は持ち合わせていないとのことだったので、彼と別れた直後、すぐさま自慢のアイフォーン4Sで『D』という会社名を検索してやった。去り行く彼が、まだ俺の視界にバッチリ収まっちゃってるくらい速攻で検索してやったともさ。  『D』は都内にいくつもの支店を持つ、果物訪問販売の会社のようだ。担当者が毎日市場へ出向き、その日一番の国産果物を仕入れ、20~30代中心の販売スタッフによってあちらこちらで手売りされてるらしい。  住宅街やオフィス街を中心に飛び込み訪問販売していて、売れ残ったものを駅周辺や道行く人たちに売りさばいているようだ。  値段が若干高めな上、一部の販売員の果物の説明がかなり適当だったりと、少しばかり胡散が臭く、一部では「マルチではないのか?」という声も上がってるようだが、販売の仕方は割と控えめだし、被害らしい被害も特に出ていない模様。販売地域を拡大して、今でもさまざまな街を練り歩いているようだ。  まあ、良くも悪くも、こういう謎めいた人たちがその辺にいるのって、胸が躍って楽しいですよね。街の雰囲気にもコクが出るし。話のネタにもなるし。 9yaoya.jpg  俺も彼らみたいに、ダンボールに売れ残った自分の単行本抱えていろんな街を売り歩いてみようかな。  そしたら通行人の同情を引いて、結構売れるかもしれないし。  まあ、売れないわな。てへぺろりーん(。・ε・。) (文・イラスト・写真=清野とおる) 1seinoprof.jpg ●せいの・とおる 1980年生まれ。東京都板橋区出身。地元・赤羽に生息する奇妙な人々を生き生きと描いた漫画『東京都北区赤羽』(Bbmfマガジン )が大ヒット中。 Twitter <https://twitter.com/seeeeeeeeeeeeno> ●【キ○チ○ガ○イと呼ばないで】INDEX 【第5話】「オモシロイ顔のおじさん」 【第4話】「ウンコおじさん」 【第3話】「恐怖!‟木曜日の男”」 【第2話】「鳥盗り物語」(後編) 【第2話】「鳥盗り物語」(前編) 【第1話】「ホモビデオの清野さん」

【清野とおるの、キ○チ○ガ○イと呼ばないで】第5話「オモシロイ顔のおじさん」

a_omoshiro.jpg 『東京都北区赤羽』でおなじみの漫画家・清野とおるによる、悶絶必死の爆笑コラム。  飲みの席などで打ち解けた初対面の人に、冗談半分でカメラを向けて 「オモシロイ顔してください」 とか言ってみる。  まあ、大抵の人は「そんなのできないよ~」と照れたり、「カメラ向けないでよ~」と嫌がったりする。 b_omoshiro.jpg  頑張ってオモシロイ顔をしてくれたとしても、さほどオモシロクナイのがこの世の常である。別に俺だって期待なんてしていない。ただ単に、カメラ向けて相手の反応を楽しんでいるだけである。  しかし、ある日のこと、本当にオモシロイ顔をしてくれる、オモシロイおじさんと出会った。 1_1omoshiro.jpg  場末のスナックで隣り合わせた、Sさん。 c_omoshiro.jpg  そんな訳で、Sさんのオモシロイ顔スタート。 1_2omoshiro.jpg 1_3omoshiro.jpg 4omoshiro.jpg 5omoshiro.jpg 6omoshiro.jpg 7omoshiro.jpg 8omoshiro.jpg 9omoshiro.jpg 10omoshiro.jpg d_omoshiro.jpg  Sさんのオモシロイ顔に、思わず爆笑してしまった……。  まさか「オモシロイ顔をしてくれ」と言って、本当にオモシロイ顔をしてくれるとは……。楽しい反面、言い知れぬ悔しさがこみ上げる。  後日、スナックに行くと、またSさんがいた。俺を見るなり、「またオモシロイ顔をするから、見てくれ!」という。  そんなわけで、2回戦目開始!! 2_1omoshiro.jpg 2_2omoshiro.jpg 2_3omoshiro.jpg 2_4omoshiro.jpg 2_5omoshiro.jpg 2_6omoshiro.jpg 2_7omoshiro.jpg 2_8omoshiro.jpg 2_9omoshiro.jpg 2_10omoshiro.jpg 2_11omoshiro.jpg 2_12omoshiro.jpg 2_13omoshiro.jpg 2_14omoshiro.jpg 2_15omoshiro.jpg 2_16omoshiro.jpg e_omoshiro.jpg  Sさんのオモシロイ顔に、再び爆笑してしまった……。 「次はもっと笑わせてあげるよ。金曜にまたこの店で会おう」  笑いながら写真を撮る俺に、Sさんは不敵な笑みを浮かべて、そう言った。正直、もう十分。オナカいっぱいでございます。  一通りオモシロイ顔を拝見させていただいたし、これ以上どう笑わせてくれるというのか。俺も、同じ手(顔)で、三度は笑いませんよ。  ……しかし、このSさんからは、そこらの量産型酔客とは違う、底知れない可能性を感じる。Sさんなら、さらに突拍子もない「何か」をやらかしてくれるのではないか? そんな淡い期待を胸に抱きつつ、指定された日時に再度スナックへ行ってみることにした。  スナックの戸を開けると……。 3_2omoshiro.jpg  そこには、何故かコックに扮したSさんがいた。場末のスナックにコックさん……なんと不条理な光景であろうか。  聞けば、Sさんの本職はコックで、俺を笑わせるために、わざわざこの格好のまま、四谷から電車で赤羽までやってきたという。  3回戦目開始!!! 3_3omoshiro.jpg 3_4omoshiro.jpg 3_5omoshiro.jpg 3_6omoshiro.jpg 3_7omoshiro.jpg f_omoshiro.jpg  なんだこの髪型!!!!!!!!!  コック帽を外したSさんの頭に、俺は驚愕した。 g_omoshiro.jpg  俺を笑わせるためだけに、わざわざ床屋に行って、こんな素っ頓狂な髪型にしてきたという。  数日前にたまたま場末のスナックで居合わせただけの、得体の知れない若輩者を笑わせるためだけに……!!!  床屋のオヤジからは「本当にいいんですか……?」と心配され、職場の上司からは「なんだそのふざけた髪型は!!」と大目玉を食らったらしい。  Sさん……あんたって人は……。さあ、引き続きそのオモシロイ髪型でオモシロイ顔をしてくだせえ!  4回戦目開始!!!! 4_1omoshiro.jpg 4_2omoshiro.jpg 4_3omoshiro.jpg 4_4omoshiro.jpg 4_5omoshiro.jpg 4_6omoshiro.jpg 4_7omoshiro.jpg 4_8omoshiro.jpg  途中から、面白さを通り越して恐ろしくなり、恐ろしさを通り越して再び面白くなった後に、何故だか感動すら覚える自分がいた。 4_9omoshiro.jpg 「Sさん、ご苦労様でした!」  頭をひと撫ですると、Sさんは少年のようなあどけない表情ではにかんだ。  俺も将来、こういうふざけたおじさんになりたい。 (文・イラスト・写真=清野とおる) 1seinoprof.jpg ●せいの・とおる 1980年生まれ。東京都板橋区出身。地元・赤羽に生息する奇妙な人々を生き生きと描いた漫画『東京都北区赤羽』(Bbmfマガジン )が大ヒット中。 Twitter <https://twitter.com/seeeeeeeeeeeeno> ●【キ○チ○ガ○イと呼ばないで】INDEX 【第4話】「ウンコおじさん」 【第3話】「恐怖!‟木曜日の男”」 【第2話】「鳥盗り物語」(後編) 【第2話】「鳥盗り物語」(前編) 【第1話】「ホモビデオの清野さん」

【清野とおるの、キ○チ○ガ○イと呼ばないで】第5話「オモシロイ顔のおじさん」

a_omoshiro.jpg 『東京都北区赤羽』でおなじみの漫画家・清野とおるによる、悶絶必死の爆笑コラム。  飲みの席などで打ち解けた初対面の人に、冗談半分でカメラを向けて 「オモシロイ顔してください」 とか言ってみる。  まあ、大抵の人は「そんなのできないよ~」と照れたり、「カメラ向けないでよ~」と嫌がったりする。 b_omoshiro.jpg  頑張ってオモシロイ顔をしてくれたとしても、さほどオモシロクナイのがこの世の常である。別に俺だって期待なんてしていない。ただ単に、カメラ向けて相手の反応を楽しんでいるだけである。  しかし、ある日のこと、本当にオモシロイ顔をしてくれる、オモシロイおじさんと出会った。 1_1omoshiro.jpg  場末のスナックで隣り合わせた、Sさん。 c_omoshiro.jpg  そんな訳で、Sさんのオモシロイ顔スタート。 1_2omoshiro.jpg 1_3omoshiro.jpg 4omoshiro.jpg 5omoshiro.jpg 6omoshiro.jpg 7omoshiro.jpg 8omoshiro.jpg 9omoshiro.jpg 10omoshiro.jpg d_omoshiro.jpg  Sさんのオモシロイ顔に、思わず爆笑してしまった……。  まさか「オモシロイ顔をしてくれ」と言って、本当にオモシロイ顔をしてくれるとは……。楽しい反面、言い知れぬ悔しさがこみ上げる。  後日、スナックに行くと、またSさんがいた。俺を見るなり、「またオモシロイ顔をするから、見てくれ!」という。  そんなわけで、2回戦目開始!! 2_1omoshiro.jpg 2_2omoshiro.jpg 2_3omoshiro.jpg 2_4omoshiro.jpg 2_5omoshiro.jpg 2_6omoshiro.jpg 2_7omoshiro.jpg 2_8omoshiro.jpg 2_9omoshiro.jpg 2_10omoshiro.jpg 2_11omoshiro.jpg 2_12omoshiro.jpg 2_13omoshiro.jpg 2_14omoshiro.jpg 2_15omoshiro.jpg 2_16omoshiro.jpg e_omoshiro.jpg  Sさんのオモシロイ顔に、再び爆笑してしまった……。 「次はもっと笑わせてあげるよ。金曜にまたこの店で会おう」  笑いながら写真を撮る俺に、Sさんは不敵な笑みを浮かべて、そう言った。正直、もう十分。オナカいっぱいでございます。  一通りオモシロイ顔を拝見させていただいたし、これ以上どう笑わせてくれるというのか。俺も、同じ手(顔)で、三度は笑いませんよ。  ……しかし、このSさんからは、そこらの量産型酔客とは違う、底知れない可能性を感じる。Sさんなら、さらに突拍子もない「何か」をやらかしてくれるのではないか? そんな淡い期待を胸に抱きつつ、指定された日時に再度スナックへ行ってみることにした。  スナックの戸を開けると……。 3_2omoshiro.jpg  そこには、何故かコックに扮したSさんがいた。場末のスナックにコックさん……なんと不条理な光景であろうか。  聞けば、Sさんの本職はコックで、俺を笑わせるために、わざわざこの格好のまま、四谷から電車で赤羽までやってきたという。  3回戦目開始!!! 3_3omoshiro.jpg 3_4omoshiro.jpg 3_5omoshiro.jpg 3_6omoshiro.jpg 3_7omoshiro.jpg f_omoshiro.jpg  なんだこの髪型!!!!!!!!!  コック帽を外したSさんの頭に、俺は驚愕した。 g_omoshiro.jpg  俺を笑わせるためだけに、わざわざ床屋に行って、こんな素っ頓狂な髪型にしてきたという。  数日前にたまたま場末のスナックで居合わせただけの、得体の知れない若輩者を笑わせるためだけに……!!!  床屋のオヤジからは「本当にいいんですか……?」と心配され、職場の上司からは「なんだそのふざけた髪型は!!」と大目玉を食らったらしい。  Sさん……あんたって人は……。さあ、引き続きそのオモシロイ髪型でオモシロイ顔をしてくだせえ!  4回戦目開始!!!! 4_1omoshiro.jpg 4_2omoshiro.jpg 4_3omoshiro.jpg 4_4omoshiro.jpg 4_5omoshiro.jpg 4_6omoshiro.jpg 4_7omoshiro.jpg 4_8omoshiro.jpg  途中から、面白さを通り越して恐ろしくなり、恐ろしさを通り越して再び面白くなった後に、何故だか感動すら覚える自分がいた。 4_9omoshiro.jpg 「Sさん、ご苦労様でした!」  頭をひと撫ですると、Sさんは少年のようなあどけない表情ではにかんだ。  俺も将来、こういうふざけたおじさんになりたい。 (文・イラスト・写真=清野とおる) 1seinoprof.jpg ●せいの・とおる 1980年生まれ。東京都板橋区出身。地元・赤羽に生息する奇妙な人々を生き生きと描いた漫画『東京都北区赤羽』(Bbmfマガジン )が大ヒット中。 Twitter <https://twitter.com/seeeeeeeeeeeeno> ●【キ○チ○ガ○イと呼ばないで】INDEX 【第4話】「ウンコおじさん」 【第3話】「恐怖!‟木曜日の男”」 【第2話】「鳥盗り物語」(後編) 【第2話】「鳥盗り物語」(前編) 【第1話】「ホモビデオの清野さん」

【清野とおるの、キ○チ○ガ○イと呼ばないで】第4話「ウンコおじさん」

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『東京都北区赤羽』でおなじみの漫画家・清野とおるによる、悶絶必死の爆笑コラム。  ノストラダムスの予言に世界中が翻弄されていた、1999年の冬。当時暮らしていた、板橋区の実家にて。  気丈で、滅多に弱い部分を見せない父が、深くため息をつき、明らかに参っているではないか。 「父さん、どうしたの?」  当時の俺は、基本的に家で父とはほとんど会話をしなかったし、父から話しかけられても軽くシカトしたりするような「ザ・内弁慶」だったけど、この時ばかりはさすがに心配になり、思わず声をかけてしまった。 2dappun.jpg 3dappun.jpg 「なんであんなとこでウンコするかなあ~……あんなとこでよお……」  気丈な父がこれほどショックを受けるほどのウンコとは、一体、いかなる状況下でのウンコだったのか。 4dappun.jpg  そして、ほどよく酔った父が、事の真相を詳しく教えてくれた。 5dappun.jpg  血圧&血糖値が超高めの件で、近所の病院に通院していた父。 6dappun.jpg  薬局で薬を受け取り、いざ帰ろうと自動ドアを開けたその刹那……。 7dappun.jpg  なんと、道路のド真ん中で、こちらにケツを向けてもろウンコしているおじさんがいたという。 ※前回に引き続き、今回もウンコの色をピンクに塗らせていただいておりますm(。・ε・。)m 8dappun.jpg  思わず悲鳴を上げてしまった父の元に、若い薬剤師さんたちが駆け寄ってきた。 9dappun.jpg    彼女たちも、もろにおじさんの脱糞姿を見てしまい、絶叫。  その絶叫により、通行人たちも一斉にウンコおじさんの存在に気づき、あたりは悲鳴と絶叫とウンコの飛び交う地獄絵図と化したそうだ。  父は走ってその場を後にしたという。 10dappun.jpg 11dappun.jpg ……思えば、反抗期をこじらせ、内弁慶街道まっしぐらだった俺が、父と面と向かって笑顔でこんなにちゃんと会話したのは、何年ぶりのことだっただろう? 話の内容が「おっさんのウンコ」というのが、いささかアレではあるけれど。  その数日後。 12dappun.jpg  今度は母が「ウンコおじさん」の被害に遭った。  母いわく、最寄の地下鉄駅から地上に上がるべく駅の階段を上っていると、 13dappun.jpg  地上が何やら騒がしいという。何事かと思い駆け上がると、 14dappun.jpg  おじさんがウンコをしていたという。  地下鉄の駅から地上に出る時なんて、人間がもっとも無意識で無防備で「弱い」瞬間である。そんなところをウンコしながら待ち構えるだなんて、確信犯的な悪意すら感じる。  一瞬で気分が悪くなった母は、小走りで帰宅したそうだ。 15dappun.jpg  そんなウンコおじさんのことを、ご近所在住の幼なじみ、山本くんに話した。 「ああ、あのおじさんね」  山本くんは、“何をいまさら?”的な冷めた温度で答えた。  今年(99年)の春くらいから、通学時を始め、数え切れないほどおじさんを目撃しているらしい。ある時は、バス停で待ってる人たちに向かって脱糞。またある時は、歩行者天国真っ只中の人通りの多い車道で脱糞。必ず、人が多いほうに尻を向けるのが特徴だという。 16dappun.jpg  おじさんの不条理な尻の方角に激高し、詰め寄る人もいたという。普通この場合、野グソに怒ると思うのだが、もはや野グソは許容され、尻の方向で怒るというところに、おじさんの常習性とタチの悪さがうかがえる。 17dappun.jpg  また、ヤンキーに絡まれながら脱糞しているところも目撃したそうだ。それでもウンコをやめないおじさんの姿勢に、山本くんは「何か大いなる意志を感じた」という。 18dappun.jpg  俺は、ウンコおじさんとなかなか遭遇できない自分にいら立ちを覚えていた。近所でそんなすごいおじさんがいるんだし、せめて一度くらいは見てみたいと、想いを馳せる日々を送ったのである。今思うと、見る必要もないし、想いも馳せ損だなあとは思うけど。  そんある日。 19dappun.jpg  なにやら近所の公園に人だかりができているではないか。 20dappun.jpg  そこでは、下半身裸のおじさんが、 複数の警察官に取り押さえられているではないか……!  パッと見、ただの露出狂かと思ったけど、すぐにこの人がうわさのウンコおじさんなのだと確信した。 21dappun.jpg  おじさんの足元に、産みたてホヤホヤのウンコが転がっていたからだ。  おそらく、おじさんの行動を見かねた誰かが、ついに通報したのであろう。野グソだけでも犯罪だけど、脱糞の際、同時にチンポもお出しになられていらっしゃるので、罪状は「軽犯罪法違反」及び「公然わいせつ」のダブルパンチだとお察し致す。 「これでおじさんもおしまいだな……。最後の最後に見ることができて、いい記念になった」  俺はそう思った。 22dappun.jpg  命運尽きたと思われたおじさんであったが、数日後、何食わぬ顔をしてその辺でウンコしてるのを、散歩中の父と母が目撃。 23dappun.jpg  最初見た時は狼狽した父と母であったが、この頃には完全に「見慣れたいつもの光景」になっていたそうだ。  人間の適応能力って、つくづくすごいなあと思った。  残念ながらおじさんは、2001年の末に、近所の公園で死んでいるところを発見されたらしいです……。おじさんのご冥福を、心よりお祈り致します。 (文・イラスト=清野とおる) 1seinoprof.jpg ●せいの・とおる 1980年生まれ。東京都板橋区出身。地元・赤羽に生息する奇妙な人々を生き生きと描いた漫画『東京都北区赤羽』(Bbmfマガジン )が大ヒット中。 Twitter <https://twitter.com/seeeeeeeeeeeeno> ●【キ○チ○ガ○イと呼ばないで】INDEX 【第3話】「恐怖!‟木曜日の男”」 【第2話】「鳥盗り物語」(後編) 【第2話】「鳥盗り物語」(前編) 【第1話】「ホモビデオの清野さん」

【清野とおるの、キ○チ○ガ○イと呼ばないで】第3話「恐怖!‟木曜日の男”」

1mokuyou.jpg 『東京都北区赤羽』でおなじみの漫画家・清野とおるによる、悶絶必死の爆笑コラム。  2011年の師走のある日。東京から大阪に嫁いでいった親戚のユカリ姉ちゃんから、数年ぶりに電話がかかってきた。電話の向こうのユカリ姉ちゃんは、狼狽した様子で声を荒げている。一体何があったというのか? ユカリ姉ちゃんの話を聞いて、俺は恐怖に身震いした。  2011年11月24日木曜日、午後6時。閑静な住宅街が広がる大阪市東成区にて、最初の事件は起こった。
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 上下薄緑色の作業服に、緑色のママチャリに乗った30前後の男。 3mokuyou.jpg  その男が、暗い住宅街を歩いていた若い女性を追い抜きざまに、 4mokuyou.jpg  なんと、顔にウンコを塗りたぐり、猛スピードで走り去ったそうだ……。 ※この先もウンコの絵が続くため、あえてウンコの色を一番ウンコっぽくない「ピンク」に塗っておきましたが、実際は茶色極まりないウンコです。  男はその日、30分の間に同じ手口で計5人もの若い女性の顔にウンコを塗りたぐり、行方をくらませたという。  その翌週の木曜である12月1日にも、 5mokuyou.jpg  男は同じ手口で2人の女性の顔にウンコを塗りたぐって逃走。また、その翌々週の木曜である12月8日にも、 6mokuyou.jpg  男は同じ手口で2人の女性の顔にウンコを塗りたぐって逃走。被害者の数、3週間で計9人。  犯行は半径1キロ圏内、決まって木曜日の夕方~夜であったことから、いつの間にやら男は「木曜日の男」と呼ばれ、住民たちから畏怖される存在になったという。 7mokuyou.jpg  ユカリ姉ちゃんの家は、まさにこの1キロ圏内で、いつ顔にウンコを塗りたぐられてもおかしくない状況下に、発狂寸前であった。 8mokuyou.jpg  近所の主婦たちの間では、「木曜日の男」の話題で持ち切りとなり、さまざまな憶測が飛び交ったそうだ。 9mokuyou.jpg  また、東成区限定のローカル番組内でも連日、この「木曜日の男」のことが放送され続けたという。  女性たちはただただ恐怖に戦き、男性たちは犯人だと疑われることを恐れ、木曜日には気軽に自転車に乗れない心と身体になってしまったそうだ。 10mokuyou.jpg  この事態に、大阪府警も立ち上がった。現場に残されたウンコのDNA鑑定をし、60人もの私服警官を街に投入して、厳戒態勢で臨んだという。  そして迎えた4度目の木曜日、2011年12月15日。午後6時半。共働きのユカリ姉ちゃんは、仕事帰りに「1キロ圏内」の保育園に子どもを迎えに行くことになった。 11mokuyou.jpg  1キロ圏内に突入した姉ちゃんは、帽子とマスクを装備。長い髪をジャケット内に隠し、男っぽい雰囲気でいくことにしたそうな。  それでも万一、ウンコを塗りたぐられた時のために、応急処置用のミネラルウォーターと石鹸とファブリーズまで装備したというから周到だ。  「木曜日の男」のせいか、普段と比べて明らかに人気の少ない東成区。保育園までの道のりは200メートルほどだったが、この時ばかりは「8.5キロくらい」に感じたという。  と、その時。 12mokuyou.jpg  不気味に静まり返った暗い住宅街で、目つきの鋭い怪しげな男が近づいてくるではないか……! 13mokuyou.jpg 14mokuyou.jpg  ……彼は、「木曜日の男」を逮捕するために配備された私服警官だった。  保育園に到着したユカリ姉は、娘を抱きかかえると、無我夢中で家まで全力疾走したそうだ。 15mokuyou.jpg  結局この日、「木曜日の男」は現れなかった。 16mokuyou.jpg  というのがユカリ姉ちゃんはじめ、近所の主婦の方々の見解だそうだが、真相は闇の中だ。  「木曜日の男」は、2011年12月8日を境に、ピタリと現れなくなった。次いつ現れるのか、大阪市東成区の人々は落ち着かない日々を送っているという。  「木曜日の男」の一刻も早い逮捕を、東京都北区という超安全圏からお祈りしております……! (文・イラスト=清野とおる) 1seinoprof.jpg ●せいの・とおる 1980年生まれ。東京都板橋区出身。地元・赤羽に生息する奇妙な人々を生き生きと描いた漫画『東京都北区赤羽』(Bbmfマガジン )が大ヒット中。

ホモビデオの清野さん

1seino01.jpg 『東京都北区赤羽』でおなじみの漫画家・清野とおるによる、悶絶必死の爆笑コラム。  初めまして、清野(せいの)とおると申す者です。主に漫画やイラストを描いて生計を立てております。  さて連載1回目の今日は、わたくしのお名前を印象付けるためにも、「清野」という名字についてお話ししようと思います。  ある日ふと、こんな疑問を抱いたんですよ。 <日本には、自分以外にどんな「清野」がいるんだろう?>  早速、Yahoo!やGoogleやTwitter的なツールで、「清野」と入力し、調べてみることにした。出てくる出てくる、全国のありとあらゆる清野さんが。  有名どころの清野さんを数人挙げてみよう。 ・清野 智秋(せいの ともあき) プロサッカー選手。ジュビロ磐田やコンサドーレ札幌にて活躍。 2seino01.jpg ・清野静流(せいのしずる) 漫画家。代表作『純愛特攻隊長!』『POWER!!』(ともに講談社)など。 3seino01.jpg ・清野茂樹(きよのしげき) プロレス実況を中心に幅広く活躍するフリーアナウンサー。 4seino01.jpg ・清野芝香(せいのしこう) 100万人を導いた凄腕の占い師。通称「渋谷道玄坂の母」。「怖いほど当たる」と評判らしい。 5seino01.jpg ・清野(せいの)ゆり 処女を売りにした人気AV女優。 6seino01.jpg ・清野 智(せいの さとし) JR東日本代表取締役会長。 7seino01.jpg  若干一名、「きよの」が紛れ込んでいるけれど、この際そんな音訓的なことはどうだっていい。  全国の頑張っている清野さんたちを目にして、なんだかうれしくなった。俺も清野の端くれとして、彼らに負けないよう頑張ろう、と。  仮に俺の名字が「清野」でなく、「山田」や「鈴木」や「加藤」だったらここまで仲間意識は抱けなかったと思う。これは、「清野」という微妙な存在感の名字ゆえの仲間意識であろう。  彼らも「清野とおる」であるところの俺を意識して、同じように温かい目で見てくれているのだろうか? そうだったらうれしいなあ。清野冥利に尽きるなあ。  ……ところで、長年気になりまくっている、ミステリアスな清野さんがいる。  それが、ホモビデオの「清野さん」。  この方、学生時代にバイト感覚で数本のホモビデオに出演したようなのだが、そのビデオがゲイの間で“伝説”として語り継がれ、今なおカリスマ的な人気を誇っているようなのだ。  一体どんなビデオなのか、気になって探しまくったのだが、なかなか見つけることができず、とりあえずネット上で「清野さん」に関する情報を集めることにした。  出てくる出てくる、不穏な情報がわんさかと。 ・基本、常に無表情らしい。 ・時折、乳首が陥没するらしい。 ・小5で初手淫したらしい。 ・ビデオの中で、何度も「アツゥ~イ!」と絶叫しているらしい。「清野=アツゥ~イ!」という図式が成立するほど、ファンの間では定着しているらしい。 ・インタビュー内で、本当はラグビー部なのに、アメフト部と微妙なウソをついたらしく、それがキッカケで、ファンの間では「清野さんはウソつきだ!」と批判されているらしい。 ・ビデオにはバイト感覚で出演しただけで、本人は女好きらしい。 ・とにかくゲスいらしい。なぜゲスいのかは不詳だが、ファンの間では相手をののしる時、「清野さん並にゲスい!」と揶揄されるほど。 ・チ○ン○ポは、根元から図って16センチと、大きめらしい。 ・「伝説の雨天全裸兎跳び」を決行したらしい。  断片的であやふやな情報ばかりだが、俺の中で「ホモビデオの清野さん」に対する興味は日に日に大きくなっていった。なぜ、無表情の清野さんが、「アツゥ~イ!」と絶叫したのだろうか? 「伝説の雨天全裸兎跳び」ってなんなんだ?  そんなある日、一通のメールが届いた。上記で触れた、フリーアナウンサーの清野茂樹さんからだ。 8seino01.jpg 「同姓であり、漫画家として活動されている清野とおるさんのこと、以前から注目していました。よければ今度、僕のラジオ番組にゲスト出演してくれませんか?」  う……うおおお! 俺のことをちゃんと意識してくれていた清野さんが、いたー!! 俺はテンションが上がり、なんともうれしい気持ちになった。  あがり症で口下手の俺がラジオ、しかも生放送だなんてとんでもない話だったけれど、清野アナからのお願いならばと、快諾した。  打ち合わせを兼ねて、場末の居酒屋で清野アナと初顔合わせ。 9seino01.jpg 10seino01.jpg  やはり清野アナも、ホモビデオの清野さんのことがずっと気になっていたようで、俺たちはすぐに意気投合した。 11seino01.jpg  気づいた時には、熱燗を飲みながら「アツゥ~イ! アツゥ~イ!」と言っている俺と清野アナがいた。  そして、清野さんのラジオ『真夜中のハーリー&レイス』(ラジオ日本)に生出演。 12seino01.jpg  コアなプロレスファンのためのプロレス番組にもかかわらず、話題は主に「ホモビデオの清野さん」のことで終始した。  リスナーからは、「プロレスについて話せ!!」とか「プロレス知らねえ奴をゲストに呼ぶな!」とか、大変厳しいクレームが来たみたいだけど、そんなことは知ったこっちゃないのだ。  ラジオ出演から数カ月後。  ひょんなキッカケで、「ホモビデオの清野さん」の伝説的ホモビデオをついに入手した! どういうルートで入手したかって? それは極秘事項だ!  期待に胸躍らせ、ビデオを再生させる。  清野さんとは、一体どんな人で、どのタイミングで「アツゥ~イ!」って叫ぶのだろう? 13seino01.jpg  清野さんは、スリムな筋肉質で、予想に反してなかなかのイケメンであった。ウワサ通りの無表情で、淡々とインタビューに答える清野さん。腹筋させられたり、バーベルを持ち上げさせられたり、手淫をさせられたりしていたものの、男性と絡み合ったりするシーンはなかった。清野さん単体のイメージビデオといった作りである。 14seino01.jpg  土砂降りの中、どこかの狭~い屋上で、全裸で兎跳びする清野さん。「伝説の雨天兎跳び」ってこれかよ……。  そしてついに、「アツゥ~イ!」の謎が解けた。それは……。 15seino01.jpg

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17seino01.jpg  全裸でチングリ返しされ、肛門に熱々のローソクをたらされまくったのだ……。  苦悶の表情を浮かべ、「アツゥイ! アツゥイ!! アツゥ~イ!!!」と何度も絶叫する清野さん。本気で嫌がっている様子が伝わってきた。  「アツゥイ! アツゥ~イ!」「すいまへ~~ん」と、なぜか最後には涙声で弱々しく謝罪していた……。  気づいた時には、俺は涙を流しながら爆笑しており、すっかり清野さんのファンになってしまっていた。  今度、清野アナにこのビデオを見せにいくことにしよう。清野アナなら、きっと気に入ってくれるはずだ。  全国の微妙な存在感の名字を持つ皆さんも、一度、ご自分の名字を検索してみてはいかがでしょうか? 妙な同姓さんがいるかもしれませんよ。ウヒヒのヒー。 (文・イラスト=清野とおる) ●せいの・とおる 1980年生まれ。東京都板橋区出身。地元・赤羽に生息する奇妙な人々を生き生きと描いた漫画『東京都北区赤羽』(Bbmfマガジン )が大ヒット中。

『東京都北区赤羽』の作者と行く赤羽ディープスポットめぐり(後編)

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前編はこちらから ■ホームレス公園の近くには微妙な風俗街が......  『下北GLORY DAYS』『阿佐ヶ谷Zippy』『新宿スワン』『こちら葛飾区亀有公園前派出所』......などタイトルに地名のついた漫画はたくさんあるが、ほんとんどは実在の土地を舞台にしただけのフィクションだ。  そんな中『東京都北区赤羽』は、ガチで赤羽に実在する珍奇おじさんや珍妙おばさん、けったいなお店などを克明かつスリリングに描いたルポルタージュ的な漫画として、最近注目を集めている。  その作者、清野とおるさんと一緒に赤羽のディープスポットをめぐってしまおうという企画の後編。ますます微妙なスポットが登場しますよ。  前編では団地や児童館、幼稚園がすぐ近くにあるのにホームレスが大量に住みついてしまっている公園(ある意味、こっちも団地)などを見てきた。  仲良しファミリーや子どもたちが集う公園に段ボールハウスが乱立している光景はだいぶ衝撃的だったが、その公園からちょっこし歩くと、今度は風俗街が広がっているのだ。もちろん団地からもほど近い場所、なにもこんなところに風俗作らなくても......。赤羽のお役所はちゃんと都市計画してるのだろうか!?
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 近隣の住人がこんなところに入った日にゃあ、「山田さんところの旦那さん、真っ昼間からピンサロに行ってたらしいわよ!」......なんて団地中のホット・トピックスになって、回覧板が回ってこなくなってしまうこと必至だ。
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 お店自体もまた、妙に味わい深い。たとえば「忍者パブ」。"赤羽で伊賀だ、甲賀だ、くノ一だ"って、一体どんなサービスが受けられるの?  敵国の密書を盗み出し、雇い主の元へ急ぐ忍者。そこに追っ手のくノ一が! くノ一の八方手裏剣がバババーッ! すんでのところで避けて、返す刀でズバーッ! くノ一の忍者服が破け、素肌に鎖かたびら一丁に。「フハハハ、くノ一といえどもそんな姿になってしまえばただのメス。拙者の股間の太巻物を受けてみよ。ニンニン!」「イヤーン! アハーン! ウッフーン」......みたいなことか? うーん、気になる。
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コレはまだ営業してるのかな?「ロマンスサロン○○」
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そのビルに掲げられた謎のキャラクターもいい味出してます。
■お寿司屋さんにウルトラマンのフィギュアが!?  さて、そんな風俗街を抜けると突然「ここが『うるとらまん』ですよ!」と、清野さんがテンション高くある店を指さした。モロ和風な店構えなのに、ショーケースにウルトラ兄弟のフィギュアがズラリと飾られている謎のお寿司屋さん。なんじゃこりゃ!? 「ここはもともと、寿司屋さんなのに『うるとらまん』っていう店名だったんですよ。子ども受けを狙ったらしいんですが、さすがに『うるとらまん』じゃお客さんに不審がられてしまうということで、今は『寿司清』という名前に変わっているんですけどね」
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店名が変わってもウルトラマンのフィギュアはそのまま。
 寿司屋に「うるとらまん」なんて名前をつけてしまったことを反省して「寿司清」に改名したのは非常に正しい判断だとは思うが、どうしてそのタイミングでウルトラマンのフィギュアも撤去しなかったのか!? 「うるとらまん」にウルトラマンが飾ってあることよりも、普通の店名でウルトラマンが飾ってあるということの方が遙かにクレイジー感を放っているような気がする。
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多分「寿司清」と「清野とおる」というコラボギャグ。
 ちなみにこの寿司屋さんは、清野さんの漫画『東京都北区赤羽』の4巻で面白おかしく取り上げられているのだが、それがうれしかったらしく「寿司清野とおる券」なるクーポン券を発行しているようだ。「寿司清野とおる券」!? ----この「寿司清野とおる券」って、持ってるとどんな特典があるんですかね? 「いや、分からないです......」  清野さんによると、怪しげなお店ながら肝心の寿司は安くてすごく美味いとのこと。だったら余計な工夫なんかしないで普通に営業していれば......と思わずにはいられない。  前編で紹介した、天然素材にこだわりすぎてちょっとおかしなことになっている豆腐屋さんしかり、仕事自体は真っ当なのに余計なプラスアルファのせいで異様な雰囲気になっちゃってる"ザ・蛇足"なお店が赤羽には多いような気がする。......がんばり屋さんが多いってことかな? ■赤羽の迷路で戦争を考えた 「今度は西口の方に行ってみましょう。赤羽西の坂の上の迷路に......」  迷路!? ......言われるがままについていくと、確かに迷路と言えるくらいすごく道が入り組んだ住宅街が。
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すんごい急斜面。自転車じゃ上れそうもない、上りたくもない。
 しかもこの迷路、やたらと高低差があるのだ。急な坂道を上ったり下ったり、いきなり変な場所に階段があったり......ひとりで来たら迷子になること間違いナシ! 小学生が「シムシティ」で街を作っても、もう少し計画性のある都市になるんじゃないかというくらい超雑然としている。なんでこんなことに......。  その原因はなんと戦争にあるらしい。戦時中、この辺りには旧日本軍の施設が沢山あったのだが、終戦にともない軍施設は撤退。その跡地を計画的に開発すればよかったのに、戦後のどさくさで、寿司「うるとらまん」や風俗街がある東口の方には闇市が、そして台地のあるこの西口側にはメチャクチャに入り組んだ住宅街が無計画に作られてしまったらしい。  ホーッ、意外なところに戦争の影響が残っているもんだ。赤羽の妙なディープさっていうのは、闇市を経て復興した街だからかもしれないな......などと思いを馳せた。  思いっきり余談ながら、普段全然運動しないボクにはこの迷路の急斜面はホントにつらくって、歩いているうちに疲労と苦痛で完全に心が折れそうになっていた。しかし、同行した日刊サイゾー女子編集Kさん(美人)のシャツが腋汗でしっとりと湿っていて、くじけそうになった時にはその腋汗をチラチラ見ながら「なんか......がんばろう!」と自分を鼓舞していたことをここに記しておきたい。 ■情報過多でフレンドリーなレストラン
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 さて、そんなゴチャゴチャの迷路住宅街を抜けて連れてこられた目的地は「ナイトレストラン・マカロニ」。このお店、外観からしてとにかく情報量が多い! そもそも「レストラン」で「マカロニ」なのに、のれんには堂々と「とんかつ」の文字が。他にも「洋食・割烹」「安くて家庭的な雰囲気の店」「オリジナル健康薬酒」「テレビ放映」さらに「MT会事務局」「東京教育研究協会」「新潟県人会」......等々、やたらといろんな文字が書かれている。とにかく説明過多なのだ。
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 もちろん店内にも文字情報がてんこ盛りで、壁一面に膨大な量のメニューが貼り出されている。しかし「ナイトレストラン・マカロニ」という店名のわりには「らーめん」にはじまり「焼うどん」「なめこおろし」......と、マカロニを使ってそうなメニューどころか、洋食ですらないメニューばかり。
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 飾り付けも非常に濃厚だ。熊手、天狗、おたふく、ダルマ......。確かになんでも収集しちゃうおばあちゃんの家に遊びに来たかのような"家庭的な雰囲気の店"ではあるが......。  この「マカロニ」も漫画に登場しているので、店のおじちゃん&おばちゃんも清野さんとは顔なじみのようだ。「これ食べな、あれ出してやりな」と、頼んでもないメニューがバンバン出てくるし、「清野さんの本、10冊買ったよ!」「知り合いの娘がファンだっていうから、今度会ってあげて」「一緒にさくらんぼ狩りに行こう」と、とことんフレンドリー。都内でもまだこんな人とのふれあいができるんだねぇ。  そして、店員でもなんでもない、近所に住んでいるらしいバアちゃんが10分おきくらいにやって来ては「ワタシ、さっきここに忘れ物しなかった?」「お金借りてなかったっけ?」「亡き旦那をすごく愛してたんだけどね」......と、唐突な発言をして帰って行く、というサプライズも。 ----あの人、さっきも来てましたよね。 「人は、寂しいのです」 ----ああ......。 「寂しいのです」  結局、ボクらがいた2時間で10回くらいは来ていました。それをいちいち相手にしてあげてる店のおばちゃん、ホントにフレンドリーだな。  整然とした都市計画に乗っからず、チェーン店では決して作り出せない雰囲気をかもし出した個人商店が、気合いと人情と(若干余計な)ナイスアイデアで21 世紀の今もバリバリがんばっている赤羽。かなりクセは強いものの、非常に味わい深い、そんな赤羽がボクもちょっと好きになってきたような、きてないような気が......。 ----清野さんも『東京都北区赤羽』の単行本がドーンと売れて印税がガッポリ入ったら赤羽に豪邸を建てなきゃですね! 「いや、ホントに大金持ちになったら世田谷に家建てますよ」 akabane2_i01.jpg ----......まー、そうですよね。  清野さん的には「赤羽に限らず、一年くらい住み着いたらどんな街でも漫画にできるくらいのネタは見つけられると思いますよ」とのこと。これからさらにディープに赤羽を掘り返していくのか、それとも他の街に手を広げていくのか......。今後の清野さんの活動にも注目していきたい。 (文・写真・イラスト=北村ヂン) ■せいの・とおる 1980年東京都板橋区生まれ。98年「週刊ヤングマガジン」に掲載された「アニキの季節」でマンガ家デビュー。主な著書に、『東京都北区赤羽』1~4巻(Bbmfマガジン )、『清野とおる漫画短変集 ガードレールと少女』(彩図社)『バカ男子』(イースト・プレス)がある。 「清野ブログ」<http://usurabaka.exblog.jp/>
東京都北区赤羽 4 Bbmfマガジン刊/900円 東京都民にも埼玉県民にも見放された空間ポケット・赤羽。この赤羽に住む漫画家・清野とおるが趣味の散歩と尾行で遭遇した赤羽住民との不気味で愉快なリアルな日常を漫画化。帯には同じく赤羽在住の林家ペー・パー子氏の直筆コメント。携帯コミックサイト「ケータイ★まんが王国」にて連載中。1~3巻も好評発売中。 amazon_associate_logo.jpg
●「突撃取材野郎!」バックナンバー 【第5回】『東京都北区赤羽』の作者と行く赤羽ディープスポットめぐり(前編) 【第4回】手塚、藤子、赤塚、石ノ森......漫画界の巨匠たちも食べた伝説のラーメン屋 【第3回】「激安宿に泊まりたい!」ドヤ街で一泊1,000円代の宿に泊まってみる 【第2回】「甘酸っぱい思い出のシンボル......」僕らの愛したブルマーは今どこに 【第1回】アイドル小明と行く、サブカル魔窟『中野ブロードウェイ』

『東京都北区赤羽』の作者と行く赤羽ディープスポットめぐり(前編)

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一見、ごく普通の街。面白いところなんてなさそうだが......。
珍奇なものをこよなく愛するライター・北村ヂンが、気になったことや場所にNGナシで体当たり取材していく【突撃取材野郎!】。第5回は、いまちょっとしたブームになっている赤羽に行ってきました。 ■今、「赤羽」がきているらしい  珍奇なスポットや変わったお店などに行くのが趣味なので、普段からその手の情報を集めているのだが、そこで最近ちょいちょい話題に挙がってくるのが「赤羽」だ。  なんでもみんな、赤羽に住む奇人・変人などを紹介した漫画『東京都北区赤羽』(Bbmfマガジン)を読んで赤羽に心奪われているらしい。でも、赤羽って名前は一応知ってはいるものの、わりと地味なイメージしか持ってないんだけど......。ホントにそんなに面白い街なんだろうか?  ......というわけで、今回は『東京都北区赤羽』の作者・清野とおるさん直々にガイドしてもらいながら、赤羽のディープスポットをめぐってみたいと思う。 ----ボク、赤羽駅で降りたのが初めてなんじゃないかというくらい初心者なんで、よろしくお願いします。赤羽が東京都なのか埼玉県なのかすら認識してませんでしたから......。 「そういう人は多いかもしれませんね。北区自体、目立つ区ではありませんから」  確かに北区って存在感ない! それでも、ホントに誰からも忘れ去られてるくらい存在感のないさびれた街だったら、それはそれでディープな場所がいっぱいあったりしそうだけど、見たところ赤羽ってそこそこ栄えてるし、非常に中途半端な印象を受けるのだ。こんな街に面白スポットなんてあるのかな?
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 ......と思ってたら、いきなり変なモノを発見。ビルの屋上にズドーンとそびえ立つ自由の女神。なんでこんなモノが!? 「たぶん、『サウナ→お風呂→入浴→ニューヨーク→自由の女神』ってことじゃないかと......」 ----は、はぁ〜。  やっぱりちょっこし変ね、赤羽。オラ、ワクワクしてきたぞ! ■『美味しんぼ』は絶対にうそつかない!  赤羽ディープ・ツアー。さっそく連れてきてもらったのはこの豆腐屋さん。
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微妙なクオリティのイラストも味わい深い。
----これは......。  看板にとって最も大切な要素である"店名"以上にでっかく『美味しんぼ』のロゴ&イラストが(しかもど真ん中に)。業種とは一切関係なく「カワイイやろ?」ってことで、デッサンの狂ったミッキーやドラえもんを看板にデカデカと描いちゃってるお店って時々あるけど、コレもそういうことなのかな!? 「ここは『美味しんぼ』に登場したこともある豆腐屋さんなんですよ」  ああーっ、そう言われてみればあったあった! アメリカから来た料理研究家が、大量生産の豆腐に文句付けて......みたいな話ね(『美味しんぼ・7巻』(小学館)収録「大豆とにがり」)。アレに出てきた手作り豆腐の店って実在するんだ。  それにしても、掲載された雑誌の切り抜きを貼り出している店はよくあるけど、漫画に紹介されたからって看板ごと変えちゃうなんて。「こだわりの天然豆腐の店」という素朴で実直なイメージが、この美味しんぼ看板で台無しになっちゃってるような......。
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 さらに店の品格をズズーンと落としちゃっているのが、店先にところせましと貼りまくられた貼り紙。これが、商品のラインナップあたりがギッシリと書かれているのならそれほど危険性を感じないけど、思いっきりエモーショナルな店主からのメッセージが込められた貼り紙なんで、なんともはや......。
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「美味しんぼは絶対うそはつきません」って......多分、
原作者・雁屋哲の肉親ですら、ここまで盲信してないと思うよ。
 こんなキャラの立ちすぎな豆腐屋さん、どんな濃い人がやっているのかと思いきや......。
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なんか品のいいおばちゃんでした。
 このおばちゃんがまたメチャクチャ気前がいい。天然水&国産大豆で作られた豆腐や豆乳を「飲みねえ食いねえ」状態でバンバン出してきてくれるのだ。もちろんお金は受け取ってくれない。「私はどうせもう先は長くないんだから、お金なんていいのヨー」って、商売成り立ってるのかしら、このお店。  肝心の味は、こだわって作ってるだけあってさすがにスゴイ。豆腐も豆乳もとにかく超豆臭くて濃厚な味! ツルンと滑らかな......という豆腐のイメージからはかけ離れた、野性味あふれる豆腐なので好みは分かれるかもしれないけど、コレが「本物の豆腐」ってヤツなんだろう。『美味しんぼ』に書いてあるんだから間違いない!  しかし、いずれにせよ『美味しんぼ』の看板や貼り紙を外してフツーに営業した方が繁盛すると思うけどな......。 ■段ボールハウス乱立公園
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 続いてやって来たのは、赤羽のセントラルパークこと「赤羽公園」。
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 周りを団地に囲まれ、児童館や図書館などの公共施設からも近い。緑も多いし、近隣に住む人にとっては嬉しい環境の公園なのだが......。
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 非常に残念なことに、ものすごい量の段ボールハウスが建ち並んでいるのだ。
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 家があるということは、当然住人も。平日の真っ昼間なのに寝て、酒飲んで、競馬の予想して......。本当の自由ってこういうことだよね。
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 タバコの吸い殻を注意する前に、もっと色々と注意すべきことがあるんじゃなかろうか、という貼り紙。段ボールハウスが燃えないように、ホームレスがこの貼り紙を書いたんじゃないかという気もする。 「ここの段ボールハウスは、公園内の施設を上手く利用して建ててるんですよ」
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確かに......。
 塀に立てかけたり、花壇を利用したり、防水対策を施してたりもして、他ではあまり見かけない、本格派の段ボールハウスが多いのだ。仮の宿というよりは、 ここに腰を落ち着けて住みつくつもりだね! ......って感じ。  普通、これだけホームレスが住みついている公園だったら、あまり子どもは近づかないように......みたいな雰囲気になりそうなモンですが、ここ赤羽では意外とホームレスと近隣の住人との折り合いがついているようで、お互いの領域を尊重しあっているというか、見て見ぬ振りをしているというか......。まあ、いいんだか悪いんだかだけどねぇ。
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近くの図書館には、こんな注意書きが。
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赤羽の書店では『1Q84』以上に大展開されている『東京都北区赤羽』......スゲエ!
後編に続く/文・写真・イラスト=北村ヂン) ■せいの・とおる 1980年東京都板橋区生まれ。98年「週刊ヤングマガジン」に掲載された「アニキの季節」でマンガ家デビュー。主な著書に、『東京都北区赤羽』1~4巻(Bbmfマガジン )、『清野とおる漫画短変集 ガードレールと少女』(彩図社)『バカ男子』(イースト・プレス)がある。 「清野ブログ」<http://usurabaka.exblog.jp/>
東京都北区赤羽 4 Bbmfマガジン刊/900円 東京都民にも埼玉県民にも見放された空間ポケット・赤羽。この赤羽に住む漫画家・清野とおるが趣味の散歩と尾行で遭遇した赤羽住民との不気味で愉快なリアルな日常を漫画化。帯には同じく赤羽在住の林家ペー・パー子氏の直筆コメント。携帯コミックサイト「ケータイ★まんが王国」にて連載中。1~3巻も好評発売中。 amazon_associate_logo.jpg
●「突撃取材野郎!」バックナンバー 【第4回】手塚、藤子、赤塚、石ノ森......漫画界の巨匠たちも食べた伝説のラーメン屋 【第3回】「激安宿に泊まりたい!」ドヤ街で一泊1,000円代の宿に泊まってみる 【第2回】「甘酸っぱい思い出のシンボル......」僕らの愛したブルマーは今どこに 【第1回】アイドル小明と行く、サブカル魔窟『中野ブロードウェイ』