いったい僕は、何を見ているんだろう? 『山田孝之の東京都北区赤羽』(テレビ東京系)を見ていると、そんな疑問がどうしても湧いてくる。原作には清野とおるの漫画作品『東京都北区赤羽』『ウヒョッ! 東京都北区赤羽』がクレジットされているし、これまでドラマ作品を放送してきた枠だし、「主演」は山田孝之だから、おそらくドラマなのだろう。だが、どう見ても、普通のドラマではない。なにしろ、原作漫画の作者であり、主人公であるはずの清野とおる本人がマスク姿で、なぜかミニチュアホースを連れて、主演の山田孝之と一緒に画面の中で普通にしゃべっているのだから。 『山田孝之の東京都北区赤羽』は、山田孝之の映画撮影風景から始まる。『己斬り』と題された時代映画である。監督は、『天然コケッコー』で報知映画賞最優秀監督賞を最年少で受賞した山下敦弘。山田演じる主人公が、一番の悪は自分だということに気づき、「死に様こそ生き様」と刀で自害するラストシーンを撮っている。しかし、山田は突然「作り物の刀では死ねない」と面倒くさいことを言いだし、撮影を止めてしまう。「刀(真剣)を用意してもらうか、タイトル・結末を変えるか」と。当然ながら、どちらも監督は受け入れることができず、撮影は中止してしまった。 その数週間後、山下のもとに山田から荷物が届けられた。それが『東京都北区赤羽』の単行本だ。山下を自宅に呼び出した山田は、その漫画を読んだかを確認すると、「感じなかったですか?」と山下を見据えて問う。「え、何が?」と戸惑う山下に、山田はこう言うのだ。 「ここに出てくる人たちって、すっごい人間らしいと思いませんか?」 「僕は今まで自分らしく生きないように生きてきたんですよ」 「自分らしい軸を作りたい」 ついては赤羽に住みたい、とまで言いだす山田。そして、軸を見つけるまでの過程を、山下監督に記録してほしいと請うのだ。 本作のジャンルを規定するならば、『東京都北区赤羽』をモチーフにしたモキュメンタリーということになるだろう。現実と虚構をないまぜにしながらドキュメンタリー風のドラマを作っていくジャンルである。 『山田孝之の東京都北区赤羽』が“連続ドキュメンタリードラマ”として放送されるに至った経緯を、山下とともに本作の監督にクレジットされている松江哲明はこう証言している。 「山下君から『松江君、助けて』と、ある日突然連絡がありました。そこで見せられたのは、赤羽での山田孝之を映した日常の映像素材。『2時間前後の映画にまとめてしまうのは、もったいない』と感じ、テレ東さんに相談したところ、なんと全12話の番組として放送していただくことになりました。僕はドキュメンタリー監督としての技術をぶち込み、何よりも北区民として恥ずかしくない作品を目指しました」(番組公式HPより) 実際に、山田は赤羽に移り住んで、そこでの日常を山下は撮り続けたという。 「今振り返って見てみるとあの時期はやはり相当参っていたのだなぁ、結構ヤバいところまで行ってしまってた」と本人も述懐する、「山田孝之の“崩壊”と“再生”の記録」だと山下は言う。 それらの証言すら、どこまでが真実で、どこからが虚構なのか分からない。ただ確かなのは、本作で山田が赤羽の地を訪れ、清野とおるをはじめとする、原作漫画に登場する赤羽の住民たちと交流をしていくということだ。今後は、親友の綾野剛や先輩のやべきょうすけ、大根仁監督、ミュージシャンの吉井和哉らも登場するという。もちろん“本人”役で、だ。 1話のラストでマスク姿の清野とおると赤羽で合流した山田は、亀ヶ池弁財天や“拝めないお稲荷様”作徳稲荷大明神が祀られているビル、清野が初めに暮らしたアパートなど漫画に登場するスポットに案内される。 「清野とおるのトキワ荘なわけですね」「友達いなかったですけどね」「こっから始まったわけですね。サクセスストーリーが」「サクセスはまだしてないですけど」などという乾いた会話をしながら、その日の最後にたどり着いたのは、「ナイトレストラン・マカロニ」。そこで山田孝之の歓迎会を開いてくれるという。 集まったのは、居酒屋「ちから」のマスターや悦子ママ、堅気の人とは思えないコワモテのジョージさんなど、原作漫画に登場する名物キャラたち。もちろん、役者ではなく本物の赤羽の住民たちだ。 彼らの“圧”に押され、山田が渋々、THE YELLOW MONKEYの「カナリヤ」を歌ったり、ダジャレや下ネタが飛び交う、いかにも「赤羽」というムードの宴をカメラは映し続ける。 そしてその宴会の最後、山田は自分が赤羽に住みたいと思った経緯を説明しながら、締めの挨拶をする。 「赤羽に住んで、みなさんのように己を持って生きていきたい」 その挨拶に拍手が起こる中、ひとりジョージさんだけは、もともとコワモテの顔がさらにこわばっていた。 「おいらよ、悪いけどお前の最後の話で、今、拍手も握手する気もないよな」 山田を隣に座らせたジョージさんは、静かに怒りをぶつける。 「赤羽の人たちをなめてねえか?」 清野がフォローしようと慌てて口を挟む中、「素直に生きれるように赤羽で挑戦したい」とあらためて説明する山田に「挑戦したいなんて思ってること自体がおかしい」とジョージさんは突っぱねる。 「お前にその気があるんだったら、普通に生活すれば素直になるんだよ!」 そんなジョージさんの説教に、虚空を見つめる山田というカットで第2話が終わるのだ。 どこまでが台本なのか、まったく分からない。ドラマなのか、ドキュメンタリーなのか、もはやそんなことはどうでもいい。ジャンルなどという枠組みを解体し、すべてフラットにしてしまうのが「テレビ」だ。真実と嘘もないまぜにし、あらゆるジャンルを内包するのが「テレビ」なのだ。そうしてテレビはジャンルを超え、人間そのものの「己」をえぐりながら映し出す。それでもなお、あの虚空を見つめる山田孝之を見ると、もう一度問い返さずにはいられない。 いったい僕は、何を見ているんだろう? (文=てれびのスキマ <http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/>) ◆「テレビ裏ガイド」過去記事はこちらから『山田孝之の東京都北区赤羽』テレビ東京
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「赤羽は、僕の創造力をはるかに凌駕している」赤羽漫画家×犯罪ジャーナリストの異色対談【後編】
■前編はこちらから 丸山 清野さんは先ほど「本当にとんでもないものは、路地裏にある」とおっしゃっていましたが、『知らない街』でも怪人「三本足のサリーちゃん」にまつわる怖い話を描いていますよね。こういう怪奇的な話は好きなんですか? 清野 昔から好きですね。板橋にも、高島平の自殺団地とかそういうことがちょくちょくありますけど、赤羽は本当にそういう話が多いんですよ。雑誌に載るレベルではないのですが、そのへんにいる人からも怖い話が出てきてゾッとするんですよね。 丸山 最近聞いて、怖かった話はありますか? 清野 とある不動産屋さんが匿名で裏事情を書いているサイトがあって、そこでゾッとする記事を見つけました。僕が昔住んでいたアパートでの、ちょっと不幸な事件について書かれていたんですよ。 丸山 えっ……まさかの展開ですね。 清野 確かにそのアパートに住んでいた頃、いろいろあったんですよ。やけに高くて暗いロフトがあったんですけど、そこから物音や人の気配がして。壁が薄かったので隣の部屋かなと思っていたのですが、調べたら、もうとっくに引っ越して空室で。料理している時にも、換気扇から長い髪の毛みたいなものが垂れ出ていて、それを見た時に「髪の毛ではなくて、謎の物体と目が合った」と直感的に思っちゃったんです。その瞬間、髪の毛がニュルニュル~と換気扇に吸い込まれていって。 丸山 まだ漫画家として、あまり売れていない時に住んでいたんですか? 清野 そうです。なぜかいつも家に帰りたくなくて、それが知らない街に繰り出す原因のひとつでもあったんです。当時は無職で、全然お金がなかったにもかかわらず、結局4年で引っ越したんです。まあ、今振り返ると、オバケ的な話は全部僕の妄想でしょうけどね。あの時、ノイローゼ気味でしたし。今振り返ると、実に住み心地のいい、素晴らしいアパートでしたよ。機会があったら、また住みたいです\(^o^)/ 丸山 ……そのほかにも、赤羽には根深くて怖いネタがありそうですね。 清野 うーん、赤水門という赤羽で一番有名な心霊スポットがあるのですが、荒川に飛び込んだ人が昔から流れ着いているところなんです。水門の先にあるちょっとした中州は鬱蒼としていて、昼なのに暗くどんよりしている。中州にはベンチが置いてあって、ベンチの横に木があるんですが、そこでよく人が首を吊るんですね。「どうぞ死んでください」という感じで、ベンチに立って首を吊れるように配置してあるんです。僕の知り合いの居酒屋のマスターが早朝散歩しにいくと、ちょくちょく吊られているんですって。 丸山 それは、人が首吊っているってこと? 清野 そうなんです。自殺です。つい最近も赤羽でゲリラ豪雨があったんですが、3人の釣り人が中州で釣りをしていて、雨が降りだしたので一時的にそのいわくつきの木の下に避難したら、その瞬間、雷が落ちた。一人が亡くなり、一人心肺停止で、一人は生き残ったんですけど、あの場所には木がたくさんあるのに、なんであの木に落ちたんだろうと思うんですよね。『赤羽』にも、いくつかそういう心霊的な話も出てきますが、相当オブラートに包んで描いていますね。やっぱり住んでいる人もいるので。 ■清野とおる、街取材の極意とは? 丸山 赤羽愛にあふれる清野さんだけに、赤羽のスナックに行ったら、清野さんのサイン色紙がたくさんありそうですね。 清野 あることはありますけど、実際そんなに名乗ることはないので。一人で飲む時はたいてい、スーツ着てビジネスバッグを持って、サラリーマンの体で行くんです。 丸山 潜入取材にしても、相当徹底していますね(笑)。取材中に話を振られた時のための、架空の設定ってあるんですか? 清野 それがまた面白いんですよ。その都度、いろいろな設定を考えているんです。店に若い客がいたら「俺、mixi作ってんだよ」とか言ったりして。 丸山 身分偽装することで、聞き出せる話も多いんですか? 清野 そうですね。あとはちょっと変身願望もあって、私服で普通にスナックに行っても、いつもの低いテンションのままなんですけど、スーツを着て設定を考えて、お酒の勢いでそれを貫き通すと、普段の自分とは全然別の人格が出てくるんですよ。その人格がお店の人たちとうまいこと意気投合して仲良くなれた時の達成感はすごいです。 『知らない街』では私服で歩きましたが、ほかの取材はたいていスーツですね。カバンの中には一応ノートパソコンを入れています。変身のためのアイテムは、『赤羽』の連載が始まって、ある程度お金に余裕ができた時に買いました。最初は汚い安物のカバンを使っていたんですけど、スナックって意外とそういうところを見るんですよね。なので、そのカバンは燃やして、新宿でブランド物のビジネスバッグを買って(笑)。最初の頃は私服でスナックに行くと、まだ営業時間なのに「ごめんなさい、今日終わっちゃったの」とか「予約で埋まっているの」と断られることが何度もあったんです。初見のペーペーの若者ですから、不審に思ったんでしょうね。でもスーツ着てカバン持って行くようになってからは、100%入れてもらえます。 丸山 出張族かもしれないし、サラリーマンなら継続してお金を落としてくれるかもしれないと思ってもらえる。そこまで客商売に精通したら、いよいよ赤羽でスナックを経営したりとかしないんですか? 清野 いや、接客は僕は無理ですね。一番無理だと思う理由は、「地縛客」と呼んでいるのですが、大してお金を落とさないにもかかわらず、延々といる客。自分のどうでもいい話をマスターに聞かせたりして。僕、それで気が狂っちゃった店主を知ってるんですよ。赤羽駅からちょっと離れた場所にある喫茶店なんですけど、行くたびにおっさんがコーヒー1杯だけ飲んでいて、マスターにずっと話しかけているんです。マスターも「はい、そうですね」「ははは」とか生返事なんですけど、毎日いるんですよ、そのおっさん。開店から閉店まで。それである日行ったら、潰れていた。あんな客の相手してたら、気がいくらあっても狂い足りないですよ。 丸山 それはキツいですね……。 清野 どこの店にも、絶対に常連客がいるんです。この『知らない街』の取材でも、どの店に行っても常連とおぼしき人が必ずいました。寂しくて、居場所が欲しいんでしょうね。 ■清野流・スナック攻略法 丸山 スナック攻略のツボって、例えばどんなものがあるんですか? 清野 企業秘密なので、全部は話せませんけど(笑)。例えば入店時、いきなりドアを開けるのではなく、入る前に耳を澄ませて、中の様子をうかがうんです。カラオケで盛り上がっている店は、歌っている最中は人と話せないのでなるべく避けますね。入るとしても、歌が終わってから。ママは、そういうところを見ているんです。座る位置もママに聞いて、最初はおとなしく飲むんですけど、常連が歌い始めたら飲むのをやめて、歌っている人のほうに姿勢ごと向けるんです。間奏の時は拍手して終わったあと「うまいっすね~」とか言うと、まずその常連は味方になってくれる。あと、なるべくトイレから離れた席に座って、トイレに行く時はママに一言「トイレお借りしてもいいですか?」と聞いて、お客さんの後ろの狭い空間を通る時は「ちょっと後ろ失礼しますね」とか言って、さりげなく肩にボディタッチしたり。あと、これは僕のジンクスなんですけど、トイレを掃除するんですよ。 丸山 トイレ掃除を?(笑) 清野 お店によっては、お客さんがトイレに行くたびに掃除をするママもいるんです。トイレットペーパーを三角折りにして、前のお客さんが汚したところを僕が掃除したあとにママがトイレ掃除に行ったら、もうこっちのものですね。さらに「営業時間は何時までですか?」「休みは何曜日ですか?」と聞いたりすると、好感を持たせることができる。 丸山 すごいノウハウですね。しかも、かなり蓄積されている。スナックは自分の嗅覚で選ぶんですか? 清野 自分の嗅覚だけです。 丸山 それだけスナックに行っていたら、ママさんと仲良くなってしっぽり……みたいなこともありそうですけど。 清野 僕の場合、そこには重点を置いていないんですよ。どちらかというと、面白い客に重点を置いているので。基本観察ですよ。 丸山 清野さんと同年代、もしくはもっと若い奴がふらっと来ることもあるんですか? 清野 たまにいるんですよ、物好きの手だれが。『知らない街』の中でも描いたんですが、久留里という街に行った時にも出会いましたね。おじさんしかいない場末の居酒屋にいきなり入ってきて、すぐカウンターに座って自然に溶け込んでいるんですよ。そこからはもう、僕と彼との戦いです。どちらが先にこの店を落とせるか、みたいな感じで。全力でトイレも掃除して、結局僕のほうがママからお土産をたくさんもらいましたからね。 丸山 「店を落とす」って(笑)。 清野 客のおじさんも若者には名刺を渡さなかったけど、僕にはくれましたから。「どうだ参ったか! 赤羽だぞ、こっちは!」と思いましたね。 丸山 やりますね、清野さん(笑)。 清野 名刺は戦利品なんですよ。「名刺=私は、あなたに心を許しましたよ」という証しじゃないですか。集めた名刺を家に持ち帰って、ニヤニヤしながら飲むんです(笑)。今後もこの人とは広がりそうだな、面白そうだなという人の名刺は取っておきますね。次に会った時のために、名刺の裏に覚えている限りのパーソナルデータを書いておく。常連客を落とす一番の基本は、名前を覚えておくことなんです。再会した時に「○○さん、この間はありがとうございました。勉強させてもらいました」と下から行くと、仲良くなれる。 丸山 さすがですね。全然コミュ障じゃないじゃないですか。 清野 そういう人に対しては行けるんですけど、普通の同世代の人に対してはコミュ障です。 丸山 ちなみに、そこまで培った「赤羽力」を、取材以外で発揮する場ってないんですか? 清野さんが合コンに行ったら面白そうですけど。 清野 実はどれだけ通用するのか試してみたくて、何度か行ったことありますよ。しかし、スナックや居酒屋で気持ちイイほど通用するテクが一切通用せず、終始しどろもどろで……。 ■赤羽「愛」と今後の展望 丸山 知人が赤羽に住んでいて、たまに飲みに行くのですが、住宅地も飲み屋も風俗もあって、街としても発展していますよね。成熟しきって、端っこが腐っているような感じというか。清野さんは、赤羽の街をどう捉えていますか? 清野 恥ずかしい話、最初は上から目線で赤羽のことを描いていたんです。「どれ、いっちょ赤羽でも描いてみるか」と。でも、ひとつ描くとその上をいくことが起こるので、今となっては「赤羽様に描かせていただいている」ような感じです(笑)。これまた恥ずかしい話ですが、連載を始めた時はコミック3巻分くらいのネタしかなかったんです。 丸山 ひとつの街であそこまで描くって、すごいですよね。 清野 描いている最中も、現在進行形で、とんでもないことが次から次へと起こりますからね。 丸山 清野さんは、顔出しはしていませんけど、街を歩いていて声をかけられたりするんですか? 清野 最近増えてきましたけど「清野さんですか?」と聞かれて、「えっ?」「は?」「えええっ!?」って聞き返すと、だいたい大丈夫ですね。 丸山 清野さんって、悪ふざけ好きですよね(笑)。なんでそこまで大胆に悪ふざけできるんですか? 漫画家さんって、一般的に社交性がなく、控えめというイメージがあるんですけど。 清野 基本的には社交性皆無ですよ。会話の間とか超怖いですし、次にどんな話題を振ろうか考えていると、こんがらがって黙っちゃうタイプなんです。でも「一期一会の悪用」と言っているのですが、知らない街なら、どう思われてもいいやと思える。ただ、赤羽は、すごく落ち着きますね。なんせ赤羽の人は独特なので、かえってやりやすい。お酒の席では、なおさらです。 丸山 一期一会の悪用(笑)。ほかの漫画家さんとの交流も、ブログなどを拝見する限りは結構ありますよね。 清野 知人は多いですが、友人は限られています。 丸山 『赤羽』は今までなかったタイプの漫画ですけど、ほかの漫画家さんの目を意識されたりしますか? 清野 一切意識していないですね。 丸山 今のノンフィクションスタイルのルポ漫画がヒットしているからこそのジレンマは、ありますか? ストーリー漫画を描いてみたいとか。 清野 最近ちょっとあるんですよ。デビューした頃はずっと創作のギャグ漫画を描いていたんですけど、赤羽に住み始めてから、目の前で起こる現実の数々が、僕が紙とペンで描く面白いことを、はるかに凌駕しているんですよ。だったら、単純にこの街をそのまま描きたいと思ったのがきっかけなんですけど、最近それがちょっと悔しくなってきまして。赤羽の街の面白さをさらに超えた漫画を描きたいなと思うんですけど、超える自信は今のところ皆無ですね。とりあえず、赤羽のまだ描いていない部分を早く描き尽くしてスッキリしたいです。 丸山 そうしたら赤羽から引っ越すんですか? 清野 ちょっとまだなんとも言えないんですけど、とにかくたまっているネタを描いてスッキリして、次に行きたいですね。やり尽くさないと気持ち悪いので。作家にはいろいろなタイプがいると思います。例えば友人の押切蓮介君みたいに、器用にいろいろなジャンルの仕事をこなせるタイプ。彼の場合は、ちゃんと作品のクオリティも高いんですよ。僕は不器用な人間なので、掛け持ちしたら、天津飯の分身の術理論じゃないですけど、それぞれのスピードとパワーが弱くなってしまうと思うんですよね。赤羽を描いているうちは、赤羽だけに全力投球しようと決めています。『知らない街』は掛け持ちでしたが(笑)。 丸山 ここまで赤羽を推している人って、過去にいませんよね。なぎら健壱さんくらいで(笑)。 清野 林家ペー・パー子さんはずっと赤羽に住んでいて、赤羽絡みの特集が組まれると、必ず出ていますよ。先週、ようやく林家ぺーさんと赤羽のスナックで飲めました。 丸山 そろそろ赤羽利権が、清野さんに転がり込んでくるんじゃないですか? 清野 そういうものには、極力ノータッチでいこうと思っていますので。赤羽の人たちからイラストの依頼が来ても、怖いのでお金は取りませんし。単純に恩返しという意味もありますけど、やっぱりイメージは大切ですからね。ヒヒヒヒ。 (構成=編集部) ●せいの・とおる 1980年生まれ。東京都板橋区出身。地元・赤羽に生息する奇妙な人々を生き生きと描いた漫画『東京都北区赤羽』(Bbmfマガジン)が大ヒット。現在、双葉社の「漫画アクション」にて『ウヒョッ!東京都北区赤羽』を連載中。 Twitter <https://twitter.com/seeeeeeeeeeeeno> ●まるやま・ゆうすけ 1977年生まれ。宮城県仙台市出身。編集者、官能小説家、ゴーストライターなど幅広く活動する傍ら、考古学者崩れの犯罪ジャーナリストとして、著作を執筆。別のペンネーム・丸山ゴンザレスとして海外紀行ものも発表している。主な著作に『アジア罰当たり旅行』『図解裏社会のカラクリ』『悪の境界線』など多数。 Twitter <https://twitter.com/marugon>
「僕は、街に対しては基本ドMなんです」赤羽漫画家×犯罪ジャーナリストの異色対談【前編】
東京都北区にある「赤羽」を舞台にした異色のノンフィクション漫画、『東京都北区赤羽』(Bbmfマガジン)や『ウヒョッ!東京都北区赤羽』(双葉社)が人気を集めている。一説によれば、赤羽では『ONE PIECE』より売れているというから驚きだ。 その作者である清野とおる氏が、これまで赤羽で培った、奇人や珍妙な店を引き寄せる力をもって、まったく知らない街を取材した新刊『全っっっっっ然知らない街を歩いてみたものの』(大洋図書)を上梓した。その刊行を記念して、裏社会を取材しながら国内外の危険な街を徘徊し続ける犯罪ジャーナリストの丸山ゴンザレス氏を迎え、2人で全っっっっっ然知らない街を歩いて対談することに。果たして、どんな展開を見せるのか!? 「街歩き」をキーワードにする2人が訪れたのは、足立区の谷在家(やざいけ)だった。ところが、待ち合わせ時間になっても丸山氏が現れない。いら立ちを隠せない清野氏をよそに、時間だけが経過する。 30分後…… 丸山ゴンザレス氏(以下、丸山) すいませーん。来たことない街だったので……遅刻しちゃった。 清野とおる氏(以下、清野) 全っっっっっ然気にしないでください。 丸山 で、どこ行くの? 清野 それを今探していたんですよ……ここなんてどうですか? (駅前の地図を指さしながら、なにやら候補地を選別する清野氏) 丸山 喫茶○○ですか……よさそうな名前ですね。 清野 ニオイますよね。 丸山 ええ、確実にニオってきますね。 「なんもねーな」「ただの住宅地」と暴言にも似た無駄話をしながら、谷在家の街を歩く両氏。十数分後に喫茶○○に到着し、対談開始となった。 ■なぜ赤羽を出て、知らない街を描いたのか? 丸山 早速で恐縮ですが、この店ってなんかニオイませんか……トイレ臭いっていうか、なんというか。 清野 確かに、ちょっとニオイますけど…… 丸山 まあいいや。では本題に入りますね。新刊の『全っっっっっ然知らない街を歩いてみたものの』(以下、『知らない街』)は、どのような本なのでしょうか? 清野 本題への入り方がなんとも……とりあえず、どこかに行くときって、大抵は最初に明確な目的地を設定して、ネットでおいしい店とか調べてから出かけるじゃないですか。でも、それだと刺激がないので、本当に全然知らない街を適当に設定して、行き当たりばったりで歩く。目的のないことを目的に設定した軌跡をまとめた本ですね。 丸山 いきなり本題になってしまいますが、なんでも事前にネットで調べてから出かけるという風潮へのアンチテーゼもあるのでしょうか? 清野 別にアンチってほどではないのですが。以前に書いた『東京都北区赤羽』(以下、『赤羽』)や『ウヒョッ!東京都北区赤羽』でもそうなんですけど、基本的に僕は、ネットではあまり調べないようにしてるんですよ。 丸山 編集の方から、今回の対談でのルールもそうだと聞いたので……それで遅刻したっていうのもあります。 清野 言い訳はさせませんよ。でも、調べないほうが面白いじゃないですか。無駄にトラブルが起こったりしますが、この街(谷在家)はまったく何もありませんね。さすがにここまで平穏で何もないとは思いませんでしたけど(笑)。 丸山 びっくりしましたね。駅に降りたときに「あ、これは(何もなさすぎて)ヤバイ」と思いました(笑)。それでも、取材前のリサーチの有無は『知らない街』の大きなテーマだと思うのですが、ここだけの話、本当に何も調べないんですか? 清野 いやいや、本当に何も調べてないです。むしろ、迷ったりする過程のすべてが目的となっていますね。 丸山 新刊『知らない街』と既刊の『赤羽』との違いはありますか? 読者の方も『赤羽』と比較してイメージしていると思うのですが。 清野 新刊のほうが言い方は悪いですが、知らない街なだけに、もう「描き捨て」ですね。「旅の恥はかき捨て」じゃないですけど、どう思われてもいいやぐらいの気持ちで描きました。赤羽の場合は、ホームなんでそうもいかないですけど。 丸山 『赤羽』だと、どうしてもホームレスとか飲み屋が中心になりますけど、『知らない街』では街並みの描写がメインですよね。 清野 風景に関しては、けっこうちゃんと描きましたね。 丸山 楽しみ方としては「清野さんが赤羽以外を歩くとこうなるよ」という、いい見本という感じでしょうか? 清野 そうですね。どの街にも、ある程度楽しみはあるので。あとはそのへんを歩いているおばあさんに話しかけたり、初見のスナックや居酒屋を攻めたりというような、今まで僕が『赤羽』で培ったテクニックが、ほかの街でどれだけ通用するのか試したかったんですよね。 丸山 この本は「赤羽力」の体現なんですね(笑) 。 ■街ルポのスタイルは、いかにして生まれたのか? 丸山 そもそも、どうして街や人をテーマに漫画を描き始めたんですか? 清野 なんででしょうね……。ホームページを始めたのが2003年頃なんですが、そのときの日記を見ても、用もないのにちょくちょく知らない街に行っているんですよね。あのときは全然仕事もなく、精神的にも満たされていない時期で、自分の生活環境が嫌で嫌でしょうがなかったので、現実逃避ですよね。03~04年から『赤羽』の連載が決まるまでは、ちょくちょく歩いていました。 丸山 ちょうど私が無職だった時期と重なっていますね。私は清野さんの2つ上の35歳なんですけど、当時は日雇いバイトとかしていました。その頃は、ほかにやることもないので、無意味に街をうろうろしていましたね。だから、清野さんの行動って、すごくよくわかります。清野さんの漫画は、主人公が「自分」ですよね。なぜそのスタイルにしたんですか? 清野 実は自分のようで、俯瞰すると全然自分じゃないんです。なるべく本心は出さないようにしています。このキャラは僕が描く一番普通の顔で、一番シンプルな男の顔を描こうとして描いたのが、この髪形やこの顔なんです。『知らない街』は『赤羽』と比べると若干毒を吐いたり鬱っぽさを出したりしていますが、それでも本心はあまり出さないようにしています。読者が感情移入しやすいよう読者目線で描いているので、自分のようで自分じゃないんですよね。 丸山 みんなはこれが清野さんだと思っているし、見た目が同じだから『赤羽』と同じキャラクターだと思うけど、実はちょっと違うんですね。 清野 まったくもって違います。 丸山 あと『知らない街』でも『赤羽』でも、主人公がすごい悪そうな笑顔をするときがありますよね。 清野 そういうときは、本来の僕かもです(笑)。 丸山 そこはそうなんですね(笑)。最初から「キャラクターに自分をある程度投影しているけど、100%ではない」というスタイルだったんですか? それとも、試行錯誤の末に、たどり着いたのでしょうか? 清野 今のスタイルが確立したのは、やっぱり『赤羽』のときですね。連載を始めるときに、主役は自分ではなく赤羽と決めていたので。清野という登場人物は、あくまで赤羽の引き立て役なんです。 丸山 それはつまり『赤羽』も『知らない街』も主人公は街だと。 清野 そうですね。自分のねじ曲がった感性を出さないように。多少は出ちゃってますけど(笑)。 丸山 自分では、ねじ曲がっていると思っているんですか? 清野 まあ、少なからずねじ曲がってはいるでしょうね。描けないようなひどいことも、結構いろいろ思ったりしてますし。 ■どうやって「街」を選ぶのか? 丸山 今回、清野さんが選んだ対談場所が足立区の谷在家ですが、「街選びの基準」ってあるんですか? 清野 僕は、街に対しては基本ドMなんですよね。 丸山 ドM!? どういうことですか? 清野 突拍子もないところへ行って、とんでもない目に遭いたいとか。今回の『知らない街』にも収録されているんですが、せっかくの休みに北海道の発寒中央(はっさむちゅうおう)なんて絶対に行きたくなかったんです。だけど、飛行機が遅れまくっていたりとか、ひどい目に遭うとゾワゾワするんですよね。 丸山 トラブルに燃えるタイプですね。私も同じ性質なので、よくわかります。ちなみに海外には行かないんですか? 清野 海外は怖いんですよ。都市伝説であるじゃないですか、「だるま女」とか。あとは映画の『ホステル』みたいな、猟奇的な事件に巻き込まれるイメージしかないから……。 丸山 悪夢と自分の状況がつながってしまうんですね……考えすぎだと思いますけど(笑)。 清野 でも、そう考えてしまうんです。いまだにパスポート持っていませんもの。 丸山 編集の方が、勝手にパスポート作って清野さんを連れ去ったら面白いと思いますよ。 清野 それでも絶対に行きたくないですね。人って結構とんでもない刺激を求めたり、価値観を変えるために海外とか宇宙とかに行こうとするじゃないですか。そうではなくて、本当にとんでもないことは、そのへんの薄暗い路地を曲がった先とかにあったりすると思うんですよね、意外と。そういう身近な部分を見過ごして、海外に行く人とかが多いと思う。 丸山 私は「より遠くに、より危険なところに」という意識がすごく強かったのですが、そんな時に『赤羽』を読んで「こういうこともあるんだ」と思って衝撃を受けた記憶がありますね。 清野 僕の場合は、たまたま赤羽に住んでいたから、そういうことに気づけたんだと思います。 丸山 清野さんは、東京生まれ東京育ちですよね。インタビューで「自分のプロフィールは明かさない」とおっしゃっていたのを読んだような覚えがあるのですが。 清野 いや、結構明かしていますよ。顔はあんま出していないですけど。ウィキペディアにも出身地や年齢が出ていますが、隠しているわけではないです。 丸山 東京生まれ東京育ちなのに、東京で知らない街があるんですか? 清野 まだまだたくさんあります。 丸山 私は地方出身者ですし、皇居の東側にはあまり行ったことがなくて東京の知識がすごく偏っているんですけど、清野さんにとっての東京ってどこらへんなんですか? 清野 僕は板橋区と北区だけですね。あとは何も知らないです。出かけることもありますけど、せいぜい新宿、池袋、渋谷とか大きい街ぐらいで、そこに至るまでの細々とした街はちゃんと歩いたこともないですし。 丸山 例えば雑司が谷なんて、池袋と高田馬場という誰もが知っている地名の間にありますが、実際に歩いたことがある人は少ないですよね。 清野 そういう、エアポケット的なところが一番好きなんですよ。 (後編に続く/構成=編集部) ●せいの・とおる 1980年生まれ。東京都板橋区出身。地元・赤羽に生息する奇妙な人々を生き生きと描いた漫画『東京都北区赤羽』(Bbmfマガジン)が大ヒット。現在、双葉社の「漫画アクション」にて『ウヒョッ!東京都北区赤羽』を連載中。 Twitter <https://twitter.com/seeeeeeeeeeeeno> ●まるやま・ゆうすけ 1977年生まれ。宮城県仙台市出身。編集者、官能小説家、ゴーストライターなど幅広く活動する傍ら、考古学者崩れの犯罪ジャーナリストとして、著作を執筆。別のペンネーム・丸山ゴンザレスとして海外紀行ものも発表している。主な著作に『アジア罰当たり旅行』『図解裏社会のカラクリ』『悪の境界線』など多数。 Twitter <https://twitter.com/marugon>
【清野とおるの、キ○チ○ガ○イと呼ばないで】第12話「ホームレスごめんなさい物語」(後編)
■前編はこちらから
確かにおじさんは、清野家の敷地の一部に勝手に足を踏み入れていたので不法侵入に該当するけれど、この時の横川くんが俺に提案した理由は、おそらく絶対「ただのノリ」だったと思う。
だって「不法侵入」なんて概念自体、なかったし。
横川くんのノリに対して、俺もノリで返した。何故なら当時の俺は、「ショウガクニネンセイ」だったからだ。
そして本当に110番通報した。
通報内容はあまり記憶にないけど、たぶんこんな感じだったと思う。
そしてすぐさまパトカーが到着し、おじさんは問答無用でパトカーに押し込まれた。
俺と横川くんは家から出ずに、小窓から顔を出して「そのおじさんです! 早く捕まえてください!」とか一丁前に指図していたような覚えがある。
パトカーの中で、おじさんは警官に何かを必至に訴えかけるような素振りをしていたけど、内容は全然聞こえなかった。
子どもの一方的な通報……しかも「変だから」というような理由だけで大人が連行される訳ない、とお思いになられる方もいるかもしれないが、80年代は町中に変なおじさんがウジャウジャ生息していて社会問題にもなっていたので、割と簡単に連行されるシステムになっていたのだ。
パトカーが発車しようとした、その時……
一瞬……でも明らかに、おじさんが俺たちのことを、鬼のような形相でにらんだのだ……。
そしてパトカーは、おじさんを連れて、去っていった……。
それにビビッた横川くんは、俺を残してそそくさと帰ってしまった。
その日からしばらくの間、眠れない夜が続いた。
俺の家も俺の顔も完全にバレてしまっていることだし、おじさんが警察から出てきたら絶対復讐される。俺だけじゃなく、お父さんもお母さんも弟も、皆殺しにされる……そう思ったのだ。
しかし、結局おじさんを見ることは、二度となかった……。
境内で向けられた優しい笑顔と、パトカーの窓越しに向けられた恐ろしい顔。
その二つの顔を思い出すと、何故あの時通報なんてしてしまったのだろうと、心底後悔する……。
だから大人になった今の俺は、なるべくホームレスには優しくしようと思っているのだ。
おじさん、この記事読んでますか?
絶対読んでないと思いますけど、もし読んでたら、あの時は通報してすみませんでした!
横川くんもあの後、すごく反省してましたんで!
(文・イラスト=清野とおる)
●せいの・とおる
1980年生まれ。東京都板橋区出身。地元・赤羽に生息する奇妙な人々を生き生きと描いた漫画『東京都北区赤羽』(Bbmfマガジン )が大ヒット中。
Twitter <https://twitter.com/seeeeeeeeeeeeno>
◆「キ○チ○ガ○イと呼ばないで」過去記事はこちらから
【清野とおるの、キ○チ○ガ○イと呼ばないで】第12話「ホームレスごめんなさい物語」(前編)
『東京都北区赤羽』でおなじみの漫画家・清野とおるによる、悶絶必死の爆笑コラム。
自分で言うのもなんだけど、俺はそこら辺の人たちよりも、ホームレスには優しいほうだと思う。
どんな場面でどういう形で絡まれようとも、絶対に笑顔で応じるし、物品やお金を求められれば喜んで差し出すし。
……でも、その行為は純粋な善意ではなく、過去に自分が犯してしまったある過ちに対する贖罪なのかもしれない……。
小2の時。近所に一人のホームレスのおじさんが出没した。
顔が認識できないほど、髪の毛も髭も伸び放題。ボロボロのジャンパーやズボンの中に拾ったモノをパンパンに詰め込みまくっていたため、筋肉ムキムキの「イエティ」のように見えた。
おじさんと遭遇したら、すぐに家に逃げ帰るほど、当時の俺は彼の存在が怖かった。
ある日、神社で一人で遊んでいた時。
境内に座って、拾い集めたと思われるシケモクを吸っていたおじさんと不意に遭遇し、目が合ってしまった。
俺は恐怖で、金縛りにあったかのように身動きが取れなくなった。
おじさんは、歯抜けの口を大きく開け、ニタリと俺に微笑んだ。
俺は反射的に、悲鳴を上げてその場を逃げ去った……。
今の俺だったら、好意アリと受け取って、おじさんと「始めてみる」ところだけど、子ども心には好意を向けられたところで恐怖以外の何物でもなかったのだ。
後日、おじさんと遭遇した両親もかなり戦慄気味だったので、子ども心だけでなく、大人心にも十分恐ろしい存在だったと思われる。
ある日、近所に住む悪友の横川くんがうちに遊びにやってきた。
ファミコンをやってる時、腹が減って餓死しそうになったので、食料を買い込むために、駄菓子屋へと馳せ参じることにした。
玄関を開けると、あのおじさんが、俺んちのド真ん前で、シケモク拾いをしていた!!
反射的に、家の中に避難した。
初めておじさんに遭遇した横川くんは、絵に描いたように戦慄していた。
当時の俺には絵心がなかったので、横川くんの絵に描いたような戦慄っぷりを描けなかったけど、今の俺になら描けるぞ!
こんな感じだ!
俺と横川くんは、二階のトイレの小窓から恐る恐るおじさんの様子を伺った。
そして横川くんが、俺にある提案をしてきた。
(後編に続く/文・イラスト=清野とおる)
●せいの・とおる
1980年生まれ。東京都板橋区出身。地元・赤羽に生息する奇妙な人々を生き生きと描いた漫画『東京都北区赤羽』(Bbmfマガジン )が大ヒット中。
Twitter <https://twitter.com/seeeeeeeeeeeeno>
◆「キ○チ○ガ○イと呼ばないで」過去記事はこちらから
【清野とおるの、キ○チ○ガ○イと呼ばないで】第11話「初めてのモグラ」
『東京都北区赤羽』でおなじみの漫画家・清野とおるによる、悶絶必死の爆笑コラム。
小2の時の話。
昼休みに校庭でドッジボールをしようと思い、室井くんと外に出ようとしたところ、下駄箱付近に、一匹のモグラが転がっていた。
モグラなんて、小学生にしてみたら、大人でいうところの河童やツチノコ並みの、UMA的存在じゃないですか。
俺たちは大興奮し、軽くパニックになった。
でも、すぐに見慣れて、飽きてしまった。
作戦会議した結果、モグラを元いた世界……つまり、土の中に帰してあげることにした。
校庭の隅の、木々がちょろっと茂っているエリアに移動し、柔らかめの土の上にモグラを置いた。
モグラと小学生の、心温まる出会いと別れ。
この連載をずっと読んでくれてる方は、「小学生によるモグラ四肢切断の末の惨殺」とか予想されたかもしれないけど、そんなことは決してしませんのである。
……しかし、モグラは穴を掘らず、ぐったりしたままその場に突っ伏している。
陸の魚を早く川に戻してあげなきゃ死んじゃう~、とまったく同じ感覚である。
考えた末、モグラが掘って出てきた「穴」を探して、そこに戻してあげようということになり、手分けして探した。
しかし、「穴」が見つからないまま、チャイムが鳴ってしまった。早いところ教室に戻らないと、先生に怒られてしまう。
やむなく花壇に穴を掘って、そこにモグラを埋めることにした。
やがて下校する頃には、モグラの存在なんて完全に忘れていた。
なにせ当時は、ビックリマンシールやファミコンなど、麻薬的娯楽が多くて、それに比較するとモグラなんて、ねえ……。
ぶっちゃけ、最初のインパクトだけじゃないですか。
数週間後、ふとモグラのことを思い出したので、モグラを埋めた花壇に行ってみることにした。
モグラを生めた埋めたあたりの土から、何か得体の知れない、ミミズに毛が生えたような謎の物体が飛び出しているではないか……。
室井くんがそれを引っ張ったところ、
それは、腐りかけてビッグ異臭を発するモグラの死体の尻尾だった……。
モグラを生きて土に帰してあげられなかったガッカリ感と、モグラから発せられる腐敗臭に、俺たちのテンションは、下がれる限界までとことん下がった。
こんなおもいをさせられるなら、もうにどと、ちじょうにあらわれてほしくないなあと、ぼくはおもいました。
おわり。
(文・イラスト=清野とおる)
●せいの・とおる
1980年生まれ。東京都板橋区出身。地元・赤羽に生息する奇妙な人々を生き生きと描いた漫画『東京都北区赤羽』(Bbmfマガジン )が大ヒット中。
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【清野とおるの、キ○チ○ガ○イと呼ばないで】第10話「睡眠にまつわる恐ろしい話2」(後編)
■前編はこちらから
ところが、夢の中で何度起きようとしても、起きられなかったのだ……。
パニックになって、その辺にいる人に尋ねてみたものの、きちがい扱いされてしまった。
起きられない。どうやっても起きられない。普段起きる時、どうやって起きてたんだっけ? 夢の中で冷静になればなるほど、恐ろしくなってきた。
夢の世界の片隅で、俺は途方にくれた。
このまま一生……いや、永遠に夢から出られないのではなかろうか? もしかして現実の俺は死んでいて、今いるこの世界は夢ではなくて「あの世」だったりして……?
夢の世界の空に、突如浮かんだ母の顔。
母いわく、目覚ましが何度も鳴りまくっているのに、一向に起きてこないので、起こしにきたという。
俺は、かなりうなされていたそうだ。
命の恩人である。
その日以降、しばらく「睡眠恐怖症」になったことは言うまでもないけど、一応言っておくことにする。
(文・イラスト・写真=清野とおる)
●せいの・とおる
1980年生まれ。東京都板橋区出身。地元・赤羽に生息する奇妙な人々を生き生きと描いた漫画『東京都北区赤羽』(Bbmfマガジン )が大ヒット中。
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【清野とおるの、キ○チ○ガ○イと呼ばないで】第10話「睡眠にまつわる恐ろしい話2」(前編)
『東京都北区赤羽』でおなじみの漫画家・清野とおるによる、悶絶必死の爆笑コラム。
皆さんは寝てる時、夢の中で、「あ、これ夢だ!」って気づいたことありますか?
「明晰夢」っていうらしいんですけど、俺は何回かありますよ。
でも、夢の中で夢と気づいても、大抵その瞬間に目覚めて、現実の世界に強制送還されしまうのだ……。
できることなら、夢の中で夢と気づいたまま、好き勝手暴れ回ることができたらどれだけ楽しいだろうか?
そんなことを考えていた、高校2年生のある日。
何かの番組で、「夢の中で夢と気づく方法」の特集をやっており、その中で、不思議なメガネが紹介されていた。
うろ覚えだけど、人間が夢を見ている時、無意識のうちに眼球が動くらしい。眼球が動き出したらメガネのセンサーが感知し、点滅した赤外線ライトが眼球に向かって自動的に当てられる。
そのライトが夢の中の映像にも反映され、何度か繰り返すうちに「あ、このライトが現れたってことは、これは夢だ!」と夢の中で夢だと気づけて、夢を自在にコントロールできるようになる、というシステムらしい。
でもそんな機械、どこで売っているのかわかんないし、どうせ高くて手が出ないだろうし、若干うさんくさいので、いまいち現実味がなかった。
また、別の番組で、「誰でも簡単に夢の中で夢と気づく方法」の特集をやっており、その中では、こんなような訓練法が紹介されていた。

これまたうろ覚えだけど、大体こんな感じだったと思う。
これなら俺でも簡単に実践できると思い、毎日トレーニングを重ねた。
一体、当時の俺は、どうしてここまで夢にこだわっていたのか?
答えはカンタン☆
それは毎日が、死に値するほど糞つまらなかったからだ。
「現実」がつまんなんくても、人生の3分の1を占める「夢」を毎日楽しむことができたら、それはそれで楽しい人生といえるんじゃないかなと思ったからだ。
ネガティブなのかポジティブなのか、いまいちよくわからない発想だけど。
そんなある日のこと。
とうとう夢の中で夢と気づけた!!
しかもすぐには目覚めず、ちゃんと夢にとどまれている!!
手始めに、その辺にいる夢のおっさんをぶん殴ってみた。
殴ったのはおっさんだけじゃない。
せっかくなので、女子どもも容赦なく殴ってやりましたとも。もちろん、グウでね。
ここは夢の世界。法律なんてありゃしない。あったとしても、夢なんだし、目覚めちゃえばオール無罪なのである。
手からビーム的なものが出た。
目に入るものを、片っ端からビームで破壊してやった。
勢い余って空まで飛んでやった。
現実の世界は毎日が死に値するほど糞つまらないけど、これからの俺には夢の世界がある! 明日から、夢の世界で幸せを見出そう!!
そう決意し、今日のところは起床して現実の世界に戻ることにした。
(後編に続く/文・イラスト・写真=清野とおる)
●せいの・とおる
1980年生まれ。東京都板橋区出身。地元・赤羽に生息する奇妙な人々を生き生きと描いた漫画『東京都北区赤羽』(Bbmfマガジン )が大ヒット中。
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◆「キ○チ○ガ○イと呼ばないで」過去記事はこちらから
【清野とおるの、キ○チ○ガ○イと呼ばないで】第7話「生卵恐怖症」(後編)
『東京都北区赤羽』でおなじみの漫画家・清野とおるによる、悶絶必死の爆笑コラム。
■前編はこちらから
ふとしたキッカケで、有精卵を手にした俺と高田くん。ヒヨコを誕生させるため、卵を温めたりひっくり返したりする日々を送った
ところが、20日が経過しても、ヒヨコは生まれる気配がなかった。
ところが、
1カ月半が経過しても、ヒヨコは生まれる気配がなかった。
卵を軽く振ってみたところ、「ゴロゴロ」と、奇妙な音がした。
その、明らかに生気のない、物体的な音に、俺と高田くんの希望は、絶望へと変わった。
このまま処分するわけにはいかないので、割って中身を確認することにした。
何が出てくるのかまったく予想のできない、不穏な卵を手に取り、恐る恐る床に叩きつけて割ってみる……。
内臓に産毛が生えたような、青紫色の物体が、ボトリと落ちてきた……!!!
俺と高田くんは、一瞬でパニックに陥った。
しかもその青紫色の物体は、ものすごく臭かった。
なので俺は、高田くんと青紫色の物体を放置して、走って逃げた。
翌日、学校で高田くんと顔を合わせると、
俺は完全に無視されてしまった。
なんかムカついたので、俺も高田くんのことを、無視し返してやった。
小学生の社会では、お互いがお互いを無視し始めた時、そこに待ち受ける結果は、そう「絶交」ある。
これがきっかけで、卒業まで高田くんとは一言も口を利かないまま、別々の中学へと進学したのであった。
まあ今思うと、異臭を放つあんなグロテスクな物体を放置して、先に逃げてしまったのだから、悪いのは100パーセント俺である。
一人でアレを処分する高田くんの姿を想像したら、今、改めて土下座しに行きたい衝動に駆られるほど申し訳ない。
……そんな過去の経緯があって、俺は生卵が怖い。
だって、またアイツが……青紫の恐ろしいアイツが出てくるんじゃないかと思って……
一瞬、嫌な汗をかくのですよ……。
<PS>高田くん、もしこの記事見てたら、すぐ謝罪に行くから連絡ちょうだい!
(文・イラスト・写真=清野とおる)
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1980年生まれ。東京都板橋区出身。地元・赤羽に生息する奇妙な人々を生き生きと描いた漫画『東京都北区赤羽』(Bbmfマガジン )が大ヒット中。
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●【キ○チ○ガ○イと呼ばないで】INDEX
【第6話】「謎の美人くだもの売り」
【第5話】「オモシロイ顔のおじさん」
【第4話】「ウンコおじさん」
【第3話】「恐怖!‟木曜日の男”」
【第2話】「鳥盗り物語」(後編)
【第2話】「鳥盗り物語」(前編)
【第1話】「ホモビデオの清野さん」
ところが、20日が経過しても、ヒヨコは生まれる気配がなかった。
ところが、
1カ月半が経過しても、ヒヨコは生まれる気配がなかった。
卵を軽く振ってみたところ、「ゴロゴロ」と、奇妙な音がした。
その、明らかに生気のない、物体的な音に、俺と高田くんの希望は、絶望へと変わった。
このまま処分するわけにはいかないので、割って中身を確認することにした。

……俺が割るハメになってしまった。
何が出てくるのかまったく予想のできない、不穏な卵を手に取り、恐る恐る床に叩きつけて割ってみる……。
内臓に産毛が生えたような、青紫色の物体が、ボトリと落ちてきた……!!!
俺と高田くんは、一瞬でパニックに陥った。
しかもその青紫色の物体は、ものすごく臭かった。
なので俺は、高田くんと青紫色の物体を放置して、走って逃げた。
翌日、学校で高田くんと顔を合わせると、
俺は完全に無視されてしまった。
なんかムカついたので、俺も高田くんのことを、無視し返してやった。
小学生の社会では、お互いがお互いを無視し始めた時、そこに待ち受ける結果は、そう「絶交」ある。
これがきっかけで、卒業まで高田くんとは一言も口を利かないまま、別々の中学へと進学したのであった。
まあ今思うと、異臭を放つあんなグロテスクな物体を放置して、先に逃げてしまったのだから、悪いのは100パーセント俺である。
一人でアレを処分する高田くんの姿を想像したら、今、改めて土下座しに行きたい衝動に駆られるほど申し訳ない。
……そんな過去の経緯があって、俺は生卵が怖い。
だって、またアイツが……青紫の恐ろしいアイツが出てくるんじゃないかと思って……
一瞬、嫌な汗をかくのですよ……。
<PS>高田くん、もしこの記事見てたら、すぐ謝罪に行くから連絡ちょうだい!
(文・イラスト・写真=清野とおる)
●せいの・とおる
1980年生まれ。東京都板橋区出身。地元・赤羽に生息する奇妙な人々を生き生きと描いた漫画『東京都北区赤羽』(Bbmfマガジン )が大ヒット中。
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●【キ○チ○ガ○イと呼ばないで】INDEX
【第6話】「謎の美人くだもの売り」
【第5話】「オモシロイ顔のおじさん」
【第4話】「ウンコおじさん」
【第3話】「恐怖!‟木曜日の男”」
【第2話】「鳥盗り物語」(後編)
【第2話】「鳥盗り物語」(前編)
【第1話】「ホモビデオの清野さん」
【清野とおるの、キ○チ○ガ○イと呼ばないで】第7話「生卵恐怖症」(前編)
『東京都北区赤羽』でおなじみの漫画家・清野とおるによる、悶絶必死の爆笑コラム。
俺は生卵が怖い。
正確には、生卵の味は大好きだけど、生卵を割るその瞬間が、怖い。
あれは小4の時の話。近所で、大量のニワトリを飼って、コケコケ言わせてるおじさんがいた。
ある日、同じクラスの高田くんと、そのニワトリどもを駄菓子片手にボーっと眺めていたところ、飼い主のおじさんが近づいてきて、卵を一つくれた。
おじさんは、無知な俺たちに分かりやすく説明してくれた。
有精卵とは、オスと交尾した後にメスが産んだ卵のこと。精子入りなので、うまく育てると、ヒヨコが生まれるという。通常、その辺のスーパーで売られている卵は、交尾しないで産んだ無精卵なので、ヒヨコは生まれない。
俺と高田くんは、有精卵に大興奮した。
有精卵については知らなかったけど、ヒヨコが卵からかえって初めて見る、自分より大きくて動くものを親と認識する「刷り込み」という習性があることは知っていた。
その習性を利用して、
こんな感じでヒヨコに付きまとわれたいという、ステキ極まりない願望を抱いた俺たちは、早速図書館に行って、卵の育て方を調べてみた。
高田くんの家に電気毛布があったので、それに包んで卵からかえるのを見守ることにした。
「刷り込み独占禁止条約」を締結した俺たちは、連日、放課後になるとダッシュで高田くんの家に行き、卵ヒヨコ化計画を遂行する日々を送った。
時に卵を抱きしめて、おなかのぬくもりで温めたりもした。俺と高田くんは、ありもしないエセ母性に目覚め、まだ見ぬヒヨコを愛してしまっていたのだ。
嗚呼、早くヒヨコを。ヒヨコを抱きしめたい。耳元でピヨピヨ言われたり、追いかけられたりしたい。ヒヨコが、好きだ。
しかし……まさかあんなことになるなんて……この時の俺たちは……予想だにしなかったのであります……。
(後編へ続く/文・イラスト・写真=清野とおる)
●せいの・とおる
1980年生まれ。東京都板橋区出身。地元・赤羽に生息する奇妙な人々を生き生きと描いた漫画『東京都北区赤羽』(Bbmfマガジン )が大ヒット中。
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●【キ○チ○ガ○イと呼ばないで】INDEX
【第6話】「謎の美人くだもの売り」
【第5話】「オモシロイ顔のおじさん」
【第4話】「ウンコおじさん」
【第3話】「恐怖!‟木曜日の男”」
【第2話】「鳥盗り物語」(後編)
【第2話】「鳥盗り物語」(前編)
【第1話】「ホモビデオの清野さん」

