昼間はOL、夜は寡黙なアーティスト ソン・ニが描く秘密の快楽の世界

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©Son Ni
 『AKIRA』『ドラゴンボール』『ドラえもん』......子どもの頃、僕らの心をアツくさせた漫画やアニメが、海の向こうに住むアジアの子どもたちの心にも火をつけていた。今や日本人だけのものではなくなった、ジャパニーズ・ポップカルチャー。その影響を受けて育った、アジアの才能豊かなクリエーターたちを紹介します。 第13回 作家・イラストレーター Son Ni (兒子/ ソン・ニ)  台北市に住むSon Ni(ソン・ニ)は、昼間は特許の登録会社で経理として働くOLだ。会社がひけると家に帰り、イラストや漫画を描いたり、コラージュ作品やzine作りに時間を費やす。
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『妖怪ハンター 天の巻』
(集英社)
 自分の好きなことを黙々と続けるのが好きなだけだから、周りが面白がって、彼女の作品に関するいろんなことを聞いたとしても、返ってくる答えはそっけない。でもそれは、「自分の作ったものについて話すということに、どうしても一生懸命になれないから。ごめんなさい」とソン。自分のことに饒舌にはなれない彼女の作品からは、しかし、決して寡黙ではない彼女の内的世界がはっきりと伝わってくる。  自分の子どもの頃の環境や、影響を受けたジャパニーズ・カルチャーのことを聞くと、ポツポツと話してくれた。 「子どもの頃、同級生の筆箱にあったHello Kittyの鉛筆は、燦然と輝いていました。日本の商品は、いつも宝物のように思えました」 「好きなのは、漫画家だと諸星大二郎さん、作家だと澁澤龍彦さん。理由ですか? 彼らの作品からは、秘密の快楽が享受できるから」
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<画像をクリックすると拡大されます>©Son Ni 
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<画像をクリックすると拡大されます>©Son Ni
 でも、日本語が分からないので、選ぶものは、どうしても「みんなが見ているもの=流行っているもの」になってしまうというジレンマもあった。 「日本の漫画は、作家が描きたいものを描いている。これを描いてはいけない、というタブーもない。そもそも"何故描くのか"なんて聞かれない。私が日本のカルチャーから一番影響を受けたのは、そういうところです」  アートを見るのは好きだが、自分が特に詳しいとは思わない。今台湾で流行っていることも、「あまりよく知らないんです。あ、でも3Dはめちゃくちゃ流行ってるみたいです......」。  今後の予定は、特にないという。
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<画像をクリックすると拡大されます>©Son Ni
「毎日会社に行きます。そして、空いた時間で絵を描きます」  どこまでも寡黙なOLアーティスト、ソン。作る理由や、決まりことから解き放たれた彼女の想像力が行き着く先を、是非見たいと思う。 (取材・文=中西多香[ASHU]) soniportrait.jpg ●ソン・ニ 作家、イラストレーター。台湾生まれ。昼間は会社勤めをしながら、作品制作、zine制作も行う。これまで参加した展覧会(いずれもグループ展)は「樂而不雅淫畫展 Lustfully Yours」展( Hulahoop Gallery, Hong Kong 2009年)、「DRAWN from TAIWAN」展( Domy Books, Houston, USA. 2010年)。作品集に『Mermaid, Foufa 』(Nos Books, Taipei 発行 2009年)、『人體盆栽栽培』(Nos Books, Taipei 発行 2010年)。 <http://www.deadtreeopenflower.com/> <http://www.flickr.com/photos/yourson/> <http://www.nosbooks.com> ●なかにし・たか アジアのデザイナー、アーティストの日本におけるマネジメント、プロデュースを行なう「ASHU」代表。日本のクリエーターをアジア各国に紹介するプロジェクトにも従事している。著書に『香港特別藝術区』(技術評論社)がある。<http://www.ashu-nk.com > オンラインTシャツオンデマンド「Tee Party」<http://teeparty.jp/ashu/>
妖怪ハンター 天の巻 怪異。 amazon_associate_logo.jpg
■バックナンバー 【vol.12】まるで初期アニメ ローテクを駆使する南国のアート・ユニット「トロマラマ」 【vol.11】「造形師・竹谷隆之に憧れて......」 1000の触手を持つ、マレーシアのモンスター 【vol.10】"中国のガロ系"!? 80年代以降を代表するコミック・リーダー ヤン・コン 【vol.9】大のラーメンおたく!? シンガポールデザイン界を率いる兄貴、クリス・リー 【vol.8】メイド・イン・ジャパンに憧れて...... 香港の文学系コミック作家・智海 【vol.7】「血眼になってマンガを追いかけた」海賊版文化が育んだ中国の新しい才能 【vol.6】裸人間がわらわら 香港ピクセル・アートティストが放つ"アナログデジタル"な世界 【vol.5】ダメでも笑い飛ばせ! 香港の国民性を体現したグラフィック・ノベリスト 【vol.4】「教科書はガンダムの落書きだらけだった」 香港・原色の魔術師の意外な原点 【vol.3】「懐かしいのに、新しい」 読むほどにクセになる"タイ初の日本漫画家"タムくん 【vol.2】 マイブームはBL!? 香港の腐女子が描きとめる、消えゆく都市の記憶 【vol.1】「 :phunk版ガッチャマンが作りたい」 シンガポール発のデザイン集団が描く夢

まるで初期アニメ ローテクを屈指する南国のアート・ユニット「トロマラマ」

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「ザー・ザー・ズー」2007年/©TROMARAMA
 『AKIRA』『ドラゴンボール』『ドラえもん』......子どもの頃、僕らの心をアツくさせた漫画やアニメが、海の向こうに住むアジアの子どもたちの心にも火をつけていた。今や日本人だけのものではなくなった、ジャパニーズ・ポップカルチャー。その影響を受けて育った、アジアの才能豊かなクリエーターたちを紹介します。 第12回 アート・ユニット Tromarama(トロマラマ)  インドネシアのカリスマ的ヘビメタバンド、セリンガイのPV『戦いの狼』は、400枚もの手彫りの木版がコマ撮りされた労作だ。セル画数が少ない初期のアニメのようなぎこちない動きが、何故かヘビメタとびったり合って、不思議な感覚を醸し出す。驚くべきローテクを駆使した、このアニメーションの作り手は、トロマラマ。フィービー、ハーバート、ルディの3人のインドネシア人によるアート・ユニットだ。400枚の木版と格闘した悪夢のような約1カ月半は、彼らのトラウマになった。「それでユニット名が『トロマラマ』なんです」。
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『ミスター味っ子(1)』(講談社)
 しかし、トラウマ体験にもめげず、以降も彼らの作るアニメーションには、山のようなビーズやボタン、磁器の食器などを使った、これでもかというほどの手仕事感が満載だ。身の回りの素材が、彼らのイマジネーションと手作業で、見たことのない映像に生まれ変わる。トロマラマの作品には、病みつきになる何かが仕込まれているようだ。  同じ家に一緒に住んで創作活動をする3人は、「日本のテレビアニメで育った」と口をそろえる。 「たくさん見ましたよ。『ミスター味っ子(Born to Cook-Ajiyoshi Yoichi)』『ドラえもん』、それと、タミヤのミニ自動車が出てくる、なんだっけ、ええと......そう、『ダッシュ! 四駆郎』!」
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戦いの狼」2006年/©TROMARAMA
 彼らをテレビに釘付けにしたのは、アニメに出てくる、ありえないほど過剰なアクション。 「めちゃくちゃ面白かった。例えば『ミスター味っ子』で、主人公の陽一が作った料理を食べると、その人の後ろから突然龍が飛び出して、その場が炎に包まれたり」  日本人の、こうした想像力マックスの状況描写は、本当にすごい、と3人。  「コミックもずいぶん読みました。『ドラえもん』『 鉄拳チンミ(Kungfu Boy)』『キャンディ・キャンディ』、上原きみ子の『まりちゃん』シリーズ......」  王道と言うべきか、渋いと言うべきか。 『テレビチャンピオン』(テレビ東京系)や『風雲! たけし城』(TBS系)などのバラエティー番組にも夢中になったという。
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ザー・ザー・ズー」2007年/©TROMARAMA
「日本の人たちが、奇妙でおかしな競争をする様子がおかしくて。子どもの頃も、今でも、インドネシアのテレビ局は、たくさんの日本のアニメを放送しています。日本のカルチャーは、無意識のうちに僕たちの体にしみ込んでいるんです」  彼らのアニメやビデオ作品自体には、日本のものがダイレクトに映し込まれているわけではない。だが、その制作姿勢やストーリー展開には、彼らの日本カルチャー体験がにじみ出る。 「日本のマンガやアニメのバラエティーあふれるテーマを見ると、"どんなことでも物語になり得る"んだ、と実感します。パン作り大会、タミヤの自動車レース、ドッヂボール、バレエ、カンフー、ビリヤード、パスケットボール、車いすバスケ......日常のあらゆるものが、素材になる」
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「ティン」2008年(陶器を素材にしたビデオ)/©TROMARAMA
「私たちの作品に最も影響を与えるのは、普段の生活や、身の回りにあるものです......それは食器だったりボタンだったり、バテック(インドネシアの伝統的な織物)だったりするのですが、そんなありふれたものを素材にし、ストーリーを膨らませてアニメーションにする過程が面白いんです」。  現在は、来年1月6日からジョグジャカルタのギャラリーで開催する個展の準備に忙しいという。 「とは言うものの、ビデオを上映するか、インスタレーションをするか。あるいは他のメディアを使ったものになるか......実は、まだ内容も決まらず、周りを見ながらあれこれ考えている最中です。もう少し時間をかければ、インスピレーションが降りてくるかな......」。彼らの次の素材になるのは、一体何なのだろう。 (取材・文=中西多香[ASHU]) TromaramaPhoto.jpg ●Tromarama(トロマラマ) インドネシアのバンドゥンを中心に活躍する3人組のクリエイティブ・ユニット。フィービー・ベビーローズ(1985 年生)、ハーバート・ハンス(1984年生)、ルディ・ハトゥメナ(1984 年生)により、バンドゥン工科大学在学中の2004 年に結成。ビデオやインスタレーションを中心に、あらゆるメディアを利用した作品作りを続ける。2008 年のシンガポール・ビエンナーレへの参加以来、国際的な注目を集めている。 <http://tromarama.blogspot.com/> ・トロマラマ 個展『KIDULT』2011年1月6日〜25日 Tembi Contemporary <http://vwfa.net/kl/index.php> ●なかにし・たか アジアのデザイナー、アーティストの日本におけるマネジメント、プロデュースを行なう「ASHU」代表。日本のクリエーターをアジア各国に紹介するプロジェクトにも従事している。著書に『香港特別藝術区』(技術評論社)がある。<http://www.ashu-nk.com > オンラインTシャツオンデマンド「Tee Party」<http://teeparty.jp/ashu/>
ミスター味っ子(1) いい趣味してます。 amazon_associate_logo.jpg
■バックナンバー 【vol.11】「造形師・竹谷隆之に憧れて......」 1000の触手を持つ、マレーシアのモンスター 【vol.10】"中国のガロ系"!? 80年代以降を代表するコミック・リーダー ヤン・コン 【vol.9】大のラーメンおたく!? シンガポールデザイン界を率いる兄貴、クリス・リー 【vol.8】メイド・イン・ジャパンに憧れて...... 香港の文学系コミック作家・智海 【vol.7】「血眼になってマンガを追いかけた」海賊版文化が育んだ中国の新しい才能 【vol.6】裸人間がわらわら 香港ピクセル・アートティストが放つ"アナログデジタル"な世界 【vol.5】ダメでも笑い飛ばせ! 香港の国民性を体現したグラフィック・ノベリスト 【vol.4】「教科書はガンダムの落書きだらけだった」 香港・原色の魔術師の意外な原点 【vol.3】「懐かしいのに、新しい」 読むほどにクセになる"タイ初の日本漫画家"タムくん 【vol.2】 マイブームはBL!? 香港の腐女子が描きとめる、消えゆく都市の記憶 【vol.1】「 :phunk版ガッチャマンが作りたい」 シンガポール発のデザイン集団が描く夢

「造形師・竹谷隆之に憧れて……」 1000の触手を持つ、マレーシアのモンスター

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(c)1000Tentacles
 『AKIRA』『ドラゴンボール』『ドラえもん』......子どもの頃、僕らの心をアツくさせた漫画やアニメが、海の向こうに住むアジアの子どもたちの心にも火をつけていた。今や日本人だけのものではなくなった、ジャパニーズ・ポップカルチャー。その影響を受けて育った、アジアの才能豊かなクリエーターたちを紹介します。 第11回 クリエイティブ・チーム 1000Tentacles(1000テンタクルス)  1000Tentaclesは、マレーシア出身のWanKokとKhorによるクリエイティブ・チーム。イラストレーターとしてのバックグラウンドを持つWanKokと、ゲーム業界でコンセプト・デザイナーとしてキャリアを始めたKhorが手がけるのは、広告のイラストレーションからコミック・アート、フィギュアまで、幅広い。クアラルンプールをベースに、すでに15年以上のキャリアを持つ2人は、大の仕事オタク。 「週6.5日から7日は働いています。この仕事が好きでヨカッタ......!」  彼らの作品に出てくるモンスターや、奇怪な生物や昆虫(?)たちは、初めて見るようでどことなく懐かしく、なんとなしに愛嬌がある。そして、その色使いからは、ちょっと気だるい熱帯の熱気と湿気が漂ってくる。
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「S.I.C. VOL.57 仮面ライダーW
サイクロンジョーカー」
 それにしても、このモンスターたちの造形ときたら。マレーシアの作家は、みんなこんなに"粘着質"なのだろうか。  イラスト、クリエイティブ・ディレクション担当のWanKokは、それこそ日本の作家から学んだことだという。フィギュア造形家の竹谷隆之の大ファンであり、彼の作品のコレクターでもある。 「特に、仮面ライダーのS.I.C.シリーズが最高なんです。ボディの形がスリムで、すごくフィットしている。これこそが竹谷さんのタッチであり、彼独自のスタイルなんですよ! 彼の名著『漁師の角度』(ホビージャパン)は、常に僕のバイブルですよ!」
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(c)1000Tentacles
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 WanKokの最近の一番の関心事は、『漁師の角度』のリ・エディション版が発行されるかも、ということ。 「それって本当ですか? もしそうなら、いつでも購入する心の準備はできてます!」  一方、コミュニケーション、コミック・スクリプト担当のKhorは、ジャパニーズ・コミックの「ストーリー展開」に大きな影響を受けたという。 「話の持って行き方が"スムーズ"なんです。コマとコマの間の飛躍が大きすぎないから、まるで映画を見ているように感じます。欧米のマンガとはそこがちょっと違いますよね」  手塚治虫の『ブッダ』や『火の鳥』は、その真骨頂だと彼女は言う。  テレビやコミックの『ドラえもん』『ウルトラマン』『仮面ライダー』を見ては、「次回が待ちきれない!」という幼少期を過ごしていたという二人。 1000_02s.jpg 1000_03s.jpg 1000_01s.jpg
(c)1000Tentacles
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「ウルトラマンが怪獣を退治すると、最後にちょっとだけ、次の回に出てくる新しい敵が紹介されるでしょう。そこで"次週をお楽しみに"ってなるんだけど......その"次週"がどれだけ待ち遠しかったか!」 「『仮面ライダー』は、ヒーローが"虫"というのが、たまらなくツボでした! あと、バイクがカッコよすぎます!」  彼らのチーム名にある"Tentacles(触手、触角)"は、そんな"モンスター好き"の2人の嗜好を現したものだ。 「マンガや映画、ゲームには、必ず悪巧みをしかけるモンスターがつきもの。でも彼らは、いつだってデザイン的には誰よりもクールで、革新的なんです」 「僕にとって"Tentacles"という言葉は、モンスターっぽい何か、海の底深くに潜んでいる、歪んだ(でもイカした!)姿をしたエイリアン、というものを思いださせます。そして、まさにそういう"僕らを捉えて話さないもの"を、僕らは描きだしているんです」
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(c)1000Tentacles
 1000の触手を持つモンスター。KhorとWanKokは、「次週」を待ちきれず、自分たちでそれらを作り出すようになったというわけだ。  現在、彼らは、イギリスのコミック雑誌「Heavy Metal」(http://www.heavymetalmagazinefanpage.com/)のコミック『War of The World Goliath』(http://www.wotw-goliath.com/)の仕事や、ゲーム会社のコンセプト・デザインワーク、1000Tentaclesシリーズのトイ・シリーズなど、多くのプロジェクトを抱えている。自分たちのストーリーとデザインをベースにしたアニメーション制作も計画中とのこと。近い将来、1000Tentaclesの作ったモンスターが、世界の子どもたちから「次週が待ちきれない!」と言われる日が来かもしれない。 (取材・文=中西多香[ASHU]) * Special Thanks to Si Juan from Bigbrosworkshop <http://www.bigbrosworkshop.com/html/>
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(左)Khor、(右)WanKok
●1000Tentacles マレーシア出身のLeong WanKok(レオン・ワンコク)とKohr PheikHoy(コー・フェイコーイ)によるクリエイティブ・チーム。15年以上に渡り、コマーシャル・イラストレーション、コミック、キャラクターデザイン、トイ・スカルプチャー、3Dアートなどの分野で活躍。国内外のアートショーや展覧会に招聘され、『Imagine FX(イギリス)』『CGWorld China(中国)』『3dTotal(イギリス)』『DPI(台湾)』『CGTalk(オーストラリア)』などへの寄稿も数多い。著書に『Twisted Mind of 1000Tentacles』『Liquid City』『Monster Mania』など多数。 <http://www.1000tentacles.com> * 現在、静岡市クリエーター支援センター(CCC)で開催中の展覧会『Asian Creative Culture』展に、1000Tentacles の作品が出展中です。 詳細は:<http://www.c-c-c.or.jp/nowonview/adc2010/exhibition.html> ●なかにし・たか アジアのデザイナー、アーティストの日本におけるマネジメント、プロデュースを行なう「ASHU」代表。日本のクリエーターをアジア各国に紹介するプロジェクトにも従事している。著書に『香港特別藝術区』(技術評論社)がある。<http://www.ashu-nk.com > オンラインTシャツオンデマンド「Tee Party」<http://teeparty.jp/ashu/>
S.I.C. VOL.57 仮面ライダーW サイクロンジョーカー 2011年3月30日発売予定。 amazon_associate_logo.jpg
■バックナンバー 【vol.10】"中国のガロ系"!? 80年代以降を代表するコミック・リーダー ヤン・コン 【vol.9】大のラーメンおたく!? シンガポールデザイン界を率いる兄貴、クリス・リー 【vol.8】メイド・イン・ジャパンに憧れて...... 香港の文学系コミック作家・智海 【vol.7】「血眼になってマンガを追いかけた」海賊版文化が育んだ中国の新しい才能 【vol.6】裸人間がわらわら 香港ピクセル・アートティストが放つ"アナログデジタル"な世界 【vol.5】ダメでも笑い飛ばせ! 香港の国民性を体現したグラフィック・ノベリスト 【vol.4】「教科書はガンダムの落書きだらけだった」 香港・原色の魔術師の意外な原点 【vol.3】「懐かしいのに、新しい」 読むほどにクセになる"タイ初の日本漫画家"タムくん 【vol.2】 マイブームはBL!? 香港の腐女子が描きとめる、消えゆく都市の記憶 【vol.1】「 :phunk版ガッチャマンが作りたい」 シンガポール発のデザイン集団が描く夢

"中国のガロ系"!? 80年代以降を代表するコミック・リーダー ヤン・コン

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(c) Yan Cong
 『AKIRA』『ドラゴンボール』『ドラえもん』......子どもの頃、僕らの心をアツくさせた漫画やアニメが、海の向こうに住むアジアの子どもたちの心にも火をつけていた。今や日本人だけのものではなくなった、ジャパニーズ・ポップカルチャー。その影響を受けて育った、アジアの才能豊かなクリエーターたちを紹介します。 第10回 コミック作家、イラストレーター Yan Cong(ヤン・コン)  いきなりですが、問題です。以下の中国語の表記に該当するタイトル名を日本語で答えなさい。 kanjiyankon.jpg
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『少女椿』
(青林工芸舎)
 これらは、北京ベースで活動するコミック作家、ヤン・コンが、子どもの頃に夢中になった日本のマンガ作品である。(ちなみに解答は1『幽☆遊☆白書』、2『ドラゴンボール』、3『Dr.スランプ アラレちゃん』、4『らんま1/2』、5『ドラえもん』、6『聖闘士星矢』)。  マンガだけではない。ヤン・コンは、ゲームセンターに通っては、『スノーブラザーズ』やら『ストリートファイター』、『THE KING OF FIGHTERS』などの日本のゲームに夢中になり、その世界に浸り込んだという。 「幼いころから、マンガやアニメゲームなどの日本カルチャーの洗礼を浴びるように受けてきました。だから将来、自分もコミックに関わる仕事をしたいと思うようになったのは、自然な成り行きだったと思います」
 
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(c) Yan Cong
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 彼は今や、中国で、ここ10年の「アンダーグラウンド・コミック」ムーブメントを牽引してきた作家であり、「80後(80年代以降に生まれた若い世代。中国の一人っ子政策の申し子)」を代表するコミック・リーダーだ。しかし、その生活は、かなり地味。 「ここ数年は、外出もほとんどせず、友達とはインターネットでコンタクトを取り合う、というのが、僕の日常です。絵を描いている以外は、もっぱら切手収集にいそしんでいます。だから、コミックと僕の生活の関係は、本当に分ち難いものとなっています。僕のコミックに登場するキャラクターは、自分自身であり、友人であり、飼い猫なんです」    ヤン・コンが描くのは、シュールなキャラクターたちが過ごす、きわめて普通の日常生活。モノクロの作品は、一見、子どもの想像力で描かれたようでもあるが、強いリアリティが感じられる。ちょっと不気味で可愛くもあるヤン・コンの世界だが、同時にこれは、中国の今の若者の現実でもあるのだ。
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(c) Yan Cong
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 そんなヤン・コンが今でも惹かれてやまないというのが、かつての青林堂が排出し、またその流れをくむ、いわゆる「ガロ系」の作家たちだ。 「つげ義春さん、根本敬さん、鴨沢祐仁さん、逆柱いみりさん、後藤友香さん......彼らの想像力と、造画における芸術的なセンスには、我を忘れるほど夢中になります」
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(c) Yan Cong
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 それにしても、中国で「ガロ」とは......。 「たまたま日本の"アンダーグラウンド"コミックをネットで見たのがきっかけなんです。丸尾末広さんのマンガでした。ラッキーなことに、同じような趣味を持った友人たちがいたので、いろいろな情報を交換し合いました。市場大介さんや後藤友香さん、鴨沢祐仁さんは友達の家で読んだし、つげ義春さんや横山裕一さんは、アマゾン・ジャパンの古本で手に入れました。一度、香港の友人を訪ねたときに、彼が青林堂のすごいコレクションを持っていたんです。それで、根本敬さんや逆柱いみりさん、山田花子さんの作品を知りました。あとはもう、その世界にどっぷりでしたね」
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『Special Comix』 
 好きが嵩じて、ヤン・コンは友人達と、インディペンデント・コミック『Special Comix』 の出版を始めた。 「3号がやっと出たところです。ゆくゆくは青林工藝社のような出版社になって、自分達のコミックや、『Special Comix』の漫画家たちの作品を発表していきたいと思っています。青林工藝社の方とお話しできたら、と思っています(実際、今、ショート・コミックを創作しているのですが、そのうちどれかを、『アックス』に投稿しようと思っています)。そして、中国と日本のコミック作家たちが、お互いにコミュニケーションを取れるような仕組みを作れたら、本当にうれしい!」  "日中ガロ系コミック交流計画"が、進んでいくことを期待したい。 (取材・文=中西多香[ASHU]) yancong_photo.jpg ●ヤン・コン(Yan Cong) コミック作家、イラストレーター。1983年湖北省生まれ。現在北京をベースに活動。ヨーロッパや中国の著名ギャラリーでの展覧会も数多く開催している。ユーモラスで、子供の落書きのような作風で、わたしたちの日常生活や子供の頃の記憶と、シュールリアリスティックなキャラクターの世界を溶け込ませるのに成功している。 Special Thanks to Ann Xiao and Wide Open Space. ●なかにし・たか アジアのデザイナー、アーティストの日本におけるマネジメント、プロデュースを行なう「ASHU」代表。日本のクリエーターをアジア各国に紹介するプロジェクトにも従事している。著書に『香港特別藝術区』(技術評論社)がある。<http://www.ashu-nk.com > オンラインTシャツオンデマンド「Tee Party」<http://teeparty.jp/ashu/>
少女椿 ガロ系は海を越える! amazon_associate_logo.jpg
■バックナンバー 【vol.9】大のラーメンおたく!? シンガポールデザイン界を率いる兄貴、クリス・リー 【vol.8】メイド・イン・ジャパンに憧れて...... 香港の文学系コミック作家・智海 【vol.7】「血眼になってマンガを追いかけた」海賊版文化が育んだ中国の新しい才能 【vol.6】裸人間がわらわら 香港ピクセル・アートティストが放つ"アナログデジタル"な世界 【vol.5】ダメでも笑い飛ばせ! 香港の国民性を体現したグラフィック・ノベリスト 【vol.4】「教科書はガンダムの落書きだらけだった」 香港・原色の魔術師の意外な原点 【vol.3】「懐かしいのに、新しい」 読むほどにクセになる"タイ初の日本漫画家"タムくん 【vol.2】 マイブームはBL!? 香港の腐女子が描きとめる、消えゆく都市の記憶 【vol.1】「 :phunk版ガッチャマンが作りたい」 シンガポール発のデザイン集団が描く夢

大のラーメンおたく!? シンガポールデザイン界を率いる兄貴、クリス・リー

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チョコレート・リサーチ・ファシリティのオリジナル・フレーバー・チョコ。
その数100種類以上!
 『AKIRA』『ドラゴンボール』『ドラえもん』......子どもの頃、僕らの心をアツくさせた漫画やアニメが、海の向こうに住むアジアの子どもたちの心にも火をつけていた。今や日本人だけのものではなくなった、ジャパニーズ・ポップカルチャー。その影響を受けて育った、アジアの才能豊かなクリエーターたちを紹介します。 第9回 デザイナー Chris Lee (クリス・リー)  クリス・リーは、シンガポールのデザイン界の兄貴分だ。大樹の陰によらない独立系、クライアントはグローバル、評価は国際的。けれど、あくまでシンガポールという"ローカル"に根ざした活動を続けている。「地元のクリエイターたちのプラットフォームになれば」と、2005年にオープンしたデザイン・ショップ「アサイラム(精神病棟の意)」は、ガイドブックに載るほどの人気店だし、09年には"チョコレートが好きすぎて"、自分でチョコレート専門店「チョコレート・リサーチ・ファシリティ」を作ってしまった。材料や味の選定から、パッケージ、ショップインテリア、BGMに到るまで、クリスのこだわりが全面展開した、いわば彼自身の「アイデアのショーケース」。各国のデザイン関連の賞を総ナメにし、シンガポール・デザイン・プレジデント・アワードという快挙をもたらした。  そう、クリスは、シンガポールの若手クリエイターにとっての憧れであり、勇気をくれる存在なのだ。彼がチェアマンを務めるNPO「ザ・デザイン・ソサエティ」が今年1月に開催した設立イベントの会場には、クリス・カット(短髪)&クリス・ファッション(黒の細身のジャケット&黒ぶちメガネ)の"ミニ・クリス"が多数"出現"したという。  大の日本びいきでもあるクリス。
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『仮面ライダー(1)』
(石ノ森章太郎 著/
中央公論社刊)
「テレビっ子だった子どもの頃の自分は、ほぼ、ガンダム、ウルトラマン、ドラえもん......でできていた。10代はチェッカーズや(松田)聖子ちゃんという、ポップミュージックがそれに加わったんだ」 また、日本のコミックはクリスの考え方に大きな影響を与えたという。 「自分でも、仮面ライダーを主役に、いろんなストーリーを考えてはマンガを描いていた」 現在は、日本のクリエイターたちから精神的なインスピレーションを得ることが多い。 「何をやるにしても、その道でベストになろうというモチベーションが素晴らしい。日本のアーティストやデザイナーは、自分たちの仕事に、確信的なアイデンティティを持っていると思う」 クリスにとっての永遠のアイドルは、コム デ ギャルソンの川久保玲氏。 「彼女は長年に渡ってファッションの境界を押し広げてきた。いまでも彼女の創る服は素晴らしいし、服だけではなくて、パッケージから、ブランドのイメージ、ショップ、展示まで、全ての要素に対する強いディレクションがある。すごく尊敬しています」
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クリスがインテリアを手がけた広告代理店Bartle Bogle Hegartyの上海オフィス。
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サラダレストラン「Salad Shop」のインテリア。
 クリスのスタジオの活動も、グラフィック、インテリア、オンラインと、分野を越えて多岐に渡っており、常時両手でも足りないほどのプロジェクトを抱えている。11月には、これまでの活動や、仕事への考え方をまとめた本が出版される予定だ。  
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オーストラリアのM.A.Dワイン
(ラベルデザイン)。
 ところで今、シンガポールでは、日本食が大流行。中でも「ラーメン」は、有名店の出店も相次ぎ、かなりの市民権を得ている。そして何を隠そう、クリス兄貴、実はこてこての「ラーメンおたく」なのである。ブームになる何年も前から、自分の足と舌を使って東京中のラーメンを開拓してきた。現在、東京のラーメン事情に最も詳しいシンガポール人と言っても過言ではないだろう。シンガポールのデザイン業界では、東京に来る前には、クリスの「ラーメン指南」を受けることが必須事項になっているとか(!?) 。ちなみにクリスの今一番のおススメは恵比寿と原宿にあるAFRI。 「ここのつけ麺は、絶対試す価値あり! チャーシューには驚くよ〜。長らく"マイ・ラーメン・ランキング"の一位の座を占めていた一風堂は、この間シンガポールに支店ができちゃってさ...。そうそう、東京のラーメンと言えば......」。  クリスの"ラーメン・リサーチ・ファシリティ"の設立も近い? (取材・文=中西多香[ASHU])
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クリス・リー(アサイラム) 国内でデザインを学び、外資系広告代理店を経て1999年にデザインスタジオ「アサイラム」設立。05年にはオフィスの上に同名のデザイン・ショップをオープン。独自のセレクションによる世界中のデザインのショーケースに惹かれ、集まる若者は多い(現在は移転のため、一時休業中)。オリジナルのプロダクトやCDレーベルを持ち、出版の企画も進行中。国内外のクライアントのブランディングや空間デザイン、展覧会のキュレーションなど、活動は幅広い。09年、チョコレート専門店「Chocolate Research Facility」オープン。同年より、デザインNPO「ザ・デザイン・ソサエティ」チェアマン。09年シンガポール・デザイン・プレジデント・アワード受賞。<http://www.theasylum.com.sg/v3/#> ●なかにし・たか アジアのデザイナー、アーティストの日本におけるマネジメント、プロデュースを行なう「ASHU」代表。日本のクリエーターをアジア各国に紹介するプロジェクトにも従事している。著書に『香港特別藝術区』(技術評論社)がある。<http://www.ashu-nk.com > オンラインTシャツオンデマンド「Tee Party」<http://teeparty.jp/ashu/>
仮面ライダー (1) テレビ版とは一味違います。 amazon_associate_logo.jpg
■バックナンバー 【vol.8】メイド・イン・ジャパンに憧れて...... 香港の文学系コミック作家・智海 【vol.7】「血眼になってマンガを追いかけた」海賊版文化が育んだ中国の新しい才能 【vol.6】裸人間がわらわら 香港ピクセル・アートティストが放つ"アナログデジタル"な世界 【vol.5】ダメでも笑い飛ばせ! 香港の国民性を体現したグラフィック・ノベリスト 【vol.4】「教科書はガンダムの落書きだらけだった」 香港・原色の魔術師の意外な原点 【vol.3】「懐かしいのに、新しい」 読むほどにクセになる"タイ初の日本漫画家"タムくん 【vol.2】 マイブームはBL!? 香港の腐女子が描きとめる、消えゆく都市の記憶 【vol.1】「 :phunk版ガッチャマンが作りたい」 シンガポール発のデザイン集団が描く夢

メイド・イン・ジャパンに憧れて…… 香港の文学系コミック作家・智海

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「Sea」(2006) ©Chihoi
 『AKIRA』『ドラゴンボール』『ドラえもん』......子どもの頃、僕らの心をアツくさせた漫画やアニメが、海の向こうに住むアジアの子どもたちの心にも火をつけていた。今や日本人だけのものではなくなった、ジャパニーズ・ポップカルチャー。その影響を受けて育った、アジアの才能豊かなクリエーターたちを紹介します。 第8回 コミック・アーティスト 智海(チーホイ)  智海(チーホイ)は、香港随一の「文学系コミック作家」だ。実際の文学作品をモチーフにすることも多く、その静謐なタッチはフランスやイタリアで受け入れられ、今では台湾、中国本土にも人気が広がっている。哲学者のカントと誕生日が同じなのが自慢(?)のチーホイだが、子どもの頃は、思いっきり「メイド・イン・ジャパン」に囲まれて過ごしたのだという。
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『ヤッターマン 1』(松竹)
「うちでは、扇風機やオーブン、掃除機まで、みんな『National』。母親は、昔から"家電といえばNationalよ!"って。日本製は、質が良くて、長持ちだって、みんなが信じてた。日本のモノって、そんな感じで、ずっと僕たちの身近にあったんです」  身近なのは、家電だけではなかった。1980年代、他の香港の子どもたち同様、幼いチーホイは、毎日テレビのアニメ番組を見て過ごした。 「まずは『ヤッターマン (広東語のタイトル:小雙俠)』『ドラえもん』『六神合体ゴッドマーズ (六神合體)』『ユニクロン (宇宙大帝)』『1000年女王 (千年女王)』。そうそう『魔法の天使クリィミーマミ (我係小忌廉)』に、あとそれから......」  と、日本アニメ三昧の日々。
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「Fa Fa World」
(2009) ©Chihoi
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「全部日本製だと気づいたのは大人になってから。でも、子どもは、どこ製のアニメか、なんて気にしないでしょう」 「いい時代でした。今でもすごく懐かしい。あの頃は、いつも、宮崎駿の『未来少年コナン』の主人公になれたら、と、夢想してました」  そんな時代に対する思いが、『花花世界(ファーファーの世界)』という、最近の作品にも現れている。花花(ファーファー)という小さな女の子が主人公の、チーホイの作風には珍しい、ほのぼの系四コママンガだ。08年に新聞で連載されるや、これまでチーホイの作品を知らなかった人たちも含め、たくさんの読者から反響があったという。花花は、今、香港で最も愛されているキャラクターだ。  チーホイの「日本観」はもう少し続く。 「日本人は、みんなが熱心に働いている、というイメージ。すごく集中力があるから、他のことに気を取られない。集中力を保つためには、心を静めることも必要だし、時間もかけなくては。日本の芸術は、そうした、静謐さ、正確さ、注意深さ、繊細さに対するクオリティやメンタリティを表したものだと思う。そこにとても憧れます」  チーホイが敬愛するアーティストは、「竹久夢二、棟方志功、橫尾忠則、橫山裕一(今一番欲しいのが、横山さんのTシャツ!)、辻直之。あとそれから......」
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左:「The Train」(2007)/右:「Papa(爸爸) from Still Life」 (2003) ©Chihoi
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 最近、ドイツのおもちゃ工場の依頼で、花花をキャラクターにしたヴィンテージ・トイ(スライド・ビューTV)を作った。代表作『Still Life(黙示録)』の改訂版や、『花花世界』の簡体字版の発行が決まっているし、友人のライターの本の挿絵も頼まれている。2011年の1月に、フランスのアングレーム国際コミック・フェスティバルで「香港展」が開かれるのに併せ、同年末まで開催される、グループ展へも招待された。 「全てがハイスピードで進む香港で活動していると、集中するということがとても難しい。いろんな情報が入って来て、つい散漫になる。今、自分を集中モードに持っていく必要を感じています。日本スタイルを倣ってね」 (取材・文=中西多香[ASHU]) Chihoi_portrait.jpgチーホイ(智海/CHIHOI) 1977年、哲学者イマヌエル・カントと同じ日に香港に生まれ、長じてはフランツ・カフカをこよなく愛する(いわく「彼は人間の創造性の究極の源だ」)。文学的とも評される作風により、香港のインディペンデント・シーンにとどまらずアジア各国からヨーロッパへと人気が広がっている。主な作品集に、地元香港で出版された『黙示録(Still Life)』(03)、愛らしい四コママンガ集『花花世界』(09)『花花世界2』(10)、台湾で出版された鴻鴻との共著『灰掐(The Train)』(07)、そのイタリア語
『Il Treno』(08)、スイスで出版されたフランス語の『A L'Horizon』(08)などがある。 <http://www.chihoi.net/> 『花花世界(ファーファーの世界)』(2009年 Joint Publishing刊) <http://www.ashu-nk.com/ASHU/shop2_Joint.html> ●なかにし・たか アジアのデザイナー、アーティストの日本におけるマネジメント、プロデュースを行なう「ASHU」代表。日本のクリエーターをアジア各国に紹介するプロジェクトにも従事している。著書に『香港特別藝術区』(技術評論社)がある。<http://www.ashu-nk.com > オンラインTシャツオンデマンド「Tee Party」<http://teeparty.jp/ashu/>
ヤッターマン 1 ポチッとな。 amazon_associate_logo.jpg
■バックナンバー 【vol.7】「血眼になってマンガを追いかけた」海賊版文化が育んだ中国の新しい才能 【vol.6】裸人間がわらわら 香港ピクセル・アートティストが放つ"アナログデジタル"な世界 【vol.5】ダメでも笑い飛ばせ! 香港の国民性を体現したグラフィック・ノベリスト 【vol.4】「教科書はガンダムの落書きだらけだった」 香港・原色の魔術師の意外な原点 【vol.3】「懐かしいのに、新しい」 読むほどにクセになる"タイ初の日本漫画家"タムくん 【vol.2】 マイブームはBL!? 香港の腐女子が描きとめる、消えゆく都市の記憶 【vol.1】「 :phunk版ガッチャマンが作りたい」 シンガポール発のデザイン集団が描く夢

「血眼になってマンガを追いかけた」海賊版文化が育んだ中国の新しい才能

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Try Lie another Language(2008)©Ann Xial
 『AKIRA』『ドラゴンボール』『ドラえもん』......子どもの頃、僕らの心をアツくさせた漫画やアニメが、海の向こうに住むアジアの子どもたちの心にも火を付けていた。今や日本人だけのものではなくなった、ジャパニーズ・ポップカルチャー。その影響を受けて育った、アジアの才能豊かなクリエーターたちを紹介します。 第6回 アニメーション作家 アン・シャオ(Ann Xiao)  アン・シャオは、ロンドンをベースに活動する、北京生まれのアニメーション作家だ。世界中のさまざまなアニメーション・フェスティバルにひっぱりだこの彼女の作品は、「建設的な空間と、シュールリアリスティックな夢との遭遇」と評されることが多い。どこの都市でもない、しかし、どこの都市にもあるような見覚えのあるリアルな風景と、ファンタジーなキャラクターが妙にしっくり共存している。
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『AKIRA 1』(講談社)
「子どもの頃読んだ『AKIRA』のビジュアルスタイルに憧れて、なんとか近づこうと努力したものです。AKIRAたちが疾走する、ドラマチックな都会のランドスケープの魅力に、今も取り付かれているのかもしれません。ストーリー作りには、村上春樹の小説に影響を受けました。"ちょっと現実離れした設定に、孤独な、でも愛すべきキャラクターが登場する"という展開が好きなんです」  もちろん、アンは他にも豊かなインスピレーションの素を数多く身につけている。それにしても、「『AKIRA』の街で展開する村上春樹的ストーリー」という組み合せが、中国人である彼女の口から出てくるのは、ちょっとした驚きだ。  「始まりは、日本のマンガとの出会いです」と、アン。 「マンガは、私の子ども時代の大きな部分を占めていました。今の私のビジュアル感覚や作品のスタイルに影響を与えただけでなく、"マンガ・アーティスト"になることは、当時の私の一番大きな夢でもあり、野心でもありました。『AKIRA』、『ドラえもん』、そして手塚治虫の世界が大好きでした」
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Mean Street Visual Design(2009)©Ann Xiao
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 マンガ・アーティストを目指して、地元の雑誌に、せっせとマンガを描いては投稿していたというアン。アニメーション・ディレクターとしての今の活動は、「元の夢からそう遠くはないかな」とも思っている。  ところで、1980年代生まれのアンが子どもの頃と言えば、中国では、今よりもかなり厳しい情報規制が敷かれていたはずだ。日本のマンガが、そんなに自由に読めたのだろうか...?  「日本のクリエイターに対して、失礼にあたることなのですが......」と、恐縮しつつ、アンが話してくれたのは、80〜90年代のリアルな中国の文化的状況だった。 「私とマンガの出会いは、正直に言えば、正規のルートではありませんでした。90年代前半の中国には、海賊版しかなかったんです。当時、中国政府は、カルチャーコミュニケーションの対象としてマンガを禁止していたので、海賊版を見るまで、私たちはマンガがどういうものなのか全く知らなかった。でも、一度知ってしまったら、ハマらずにはいられません。高価なもので、アンダーグラウンドなルートでしか入手できませんでしたが、みな血眼になってマンガを追いかけていました」
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The Locked Dreamland(2004)/The Ostrichman Utopia(2008)©Ann Xiao
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 90年代後半以降には、本物のマンガがちゃんとした本屋さんで堂々と(!?)買えるようになったが、それでも、マンガ・アーティストになりたいアンにとっては、全然量が足りなかった。 「私がラッキーだったのは、90年代後半に初めて行った香港で、『AKIRA』のコミックを手に入れたことです。涙が出るほど高かった......。でも、香港にはいたるところに(海賊版ではない)本物の日本のマンガを売る店があって、私にとってはまるで天国のような場所でした!(笑)」  アンによれば、80〜90年代の中国の若者は、マンガだけではなく、本や音楽、ソフトウエアまで、彼らにとって必要なものは、全て海賊版に頼るしかなかったという。 「海外のクリエイターにとって、本当に申し訳ないことだと思います。でも、それは、精神的にも、新しい文化に飢えた若い中国人たちを満たしてくれる唯一のものだったんです」
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Try Lie another Language(2008)©Ann Xial
   アンは、数年前から、CDR(Chinese Designers' Region/チャイニーズ・デザイナーズ・リージョン) という、中国人デザイナーのための、交流とコラボレーションを支援する、ネットを中心としたコミュニティのマネジメント活動も行っている。 「アジアのクリエイターたちがつながり、何かを一緒に創造するのをサポートするのは、本当にわくわくします」  文化に飢えた子ども時代、その後自国を離れて異文化で活動し、さまざまな経験をもつアンに励まされるメンバーは多いだろう。  プライベートでも、相変わらずコミックを描きためているという。 「まだ到達できていない、コミックに対する子どもの頃の夢を、追い続けているんです」。 (取材・文=中西多香[ASHU])
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アン・シャオ(Ann Xiao) 中国、北京生まれ。2004年、ロンドン芸術大学卒業後、ロンドンでアニメーション・ディレクターとして活動開始。建築家、コミック・アーティストとしてのバックグラウンドが生み出す、シュールでユニークなビデオ作品を発表。MTV、トヨタ、タイガービール、ディスカバリーチャンネルなど、国際的なコマーシャル作品も多く手がける。現在、自身のアニメーションブランドを立ち上げ、アニメやイラストの分野で活動するアジアのクリエイターたちをサポートしている。
<http://www.annxiao.com/>
<www.cdregion.com>
<http://www.cdregion.com/blog/> ●なかにし・たか アジアのデザイナー、アーティストの日本におけるマネジメント、プロデュースを行なう「ASHU」代表。日本のクリエーターをアジア各国に紹介するプロジェクトにも従事している。著書に『香港特別藝術区』(技術評論社)がある。<http://www.ashu-nk.com > オンラインTシャツオンデマンド「Tee Party」<http://teeparty.jp/ashu/>
AKIRA(1) 言わずもがな。 amazon_associate_logo.jpg
■バックナンバー 【vol.6】裸人間がわらわら 香港ピクセル・アートティストが放つ"アナログデジタル"な世界 【vol.5】ダメでも笑い飛ばせ! 香港の国民性を体現したグラフィック・ノベリスト 【vol.4】「教科書はガンダムの落書きだらけだった」 香港・原色の魔術師の意外な原点 【vol.3】「懐かしいのに、新しい」 読むほどにクセになる"タイ初の日本漫画家"タムくん 【vol.2】  マイブームはBL!? 香港の腐女子が描きとめる、消えゆく都市の記憶 【vol.1】 「 :phunk版ガッチャマンが作りたい」 シンガポール発のデザイン集団が描く夢

裸人間がわらわら 香港ピクセル・アートティストが放つ"アナログデジタル"な世界

『AKIRA』『ドラゴンボール』『ドラえもん』......子どもの頃、僕らの心をアツくさせた漫画やアニメが、海の向こうに住むアジアの子どもたちの心にも火を付けていた。今や日本人だけのものではなくなった、ジャパニーズ・ポップカルチャー。その影響を受けて育った、アジアの才能豊かなクリエーターたちを紹介します。 第5回 ウェブデザイナー&ピクセルアーティスト フランシス・ラム  画面をちょろちょろと動きまわるNudemen(ヌードメン)。ウェブデザイナーであり、ピクセル・アートのカリスマ的存在、フランシス・ラムが生んだ人気キャラクターだ。蟻んこのようなNudemenがわらわらと沸き出て、人文字のメッセージを作ったり(Nudemessenger)、時計になって時を刻んだり(NudemenClock)。裸男たちの動きが、妙にキモ可愛らしくて、ついハマってしまう。
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「ENJOY THE PLANET,2003」
 フランシスは、ネット上のポルノサイトに影響を受けて、このNudemenを作ったという。実は、フランシスの出身地である香港では、性表現に対する規制が日本に比べてとても厳しい。彼がNudemenを作った頃、香港の大学生が発行する新聞が自分たちのセックスライフに関する記事を掲載し、当局から告発されたというニュースが大手の日刊紙の見出しを飾ったことがあるほどだ。その時フランシスは、「自分たちの日常生活にごく普通にあることなのに、公に口にすると社会的パニックになってしまうなんて!」と、大いに憤ったらしい。フランシスのピクセル・グラフィック作品にやたらと登場する「裸男」や「裸女」たち、そして、カーソルをあわせると「Don't touch me! (触るな!)」とか「Leave me alone!(ほっといてよ!)」というセリフを残して逃げていくウェブ上のNudemenたちは、そんなフランシスの気持ちを、皮肉をこめて代弁しているのかもしれない。
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「Pixel World, published by IdN,2003」「Bitboxland
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 背後で走る超高度なプログラムに繰られた、手作り感のあるピクセル・グラフィックが作りだす、"アナログデジタル"的な、懐かしくも不思議な世界。自分の作品のスタイルを、フランシスは「ビデオゲームへのノスタルジーから生まれている部分が大きいと思う」と自己分析する。余計なものをそぎ落とした「形」の美しさに取り付かれて、限られた□(ピクセル)だけを使ってアート制作をしているのだと。  フランシスがピクセルの美しさや楽しさに目覚めるきっかけとなったのが、任天堂の『スーパーマリオブラザーズ』。 「子どもの頃の僕には、とにかく衝撃でした。僕の人生そのものに影響を与えたと言ってもいいぐらい」  世界中の大人も子どもも夢中にさせて、社会現象とも言える空前の大ブームを巻き起こしたこのゲームの、何にフランシスは惹かれたのだろう。 「シンプルさ、ユーモア、そしてロマンスがあるところ。今でも、作品を作るときのインスピレーションになっています」  また、「単純でありながら、ディティールにまで気を配ったハイレベルな"質"を保ち続けるという本質的なことは、日本の文化から学んだと思う」とも。
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「Illustration for THE FACE magazine,2002」「Pornostars,2002」
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 現在は上海にもベースを持ち、活動の幅がぐんと広がっているようだ。つい最近発表したiPhoneのアプリは『Bitboxland (サウンド・トイ&音楽演奏ツール)』 と『Goldfish Music Box (インタラクティブ音楽生成ツール)』 で、いずれもフランシスの超人プログラミングスキルと遊び心が満載されたインタラクティブ・アプリ。自分が子どものころに体験したピクセル・ゲームの楽しさが、そのままiPhoneで再現されている。  さらに、そうした"デジタル"活動の傍ら、なんと、上海に、ファニチャーショップをオープンさせたという。木製のシンプルな家具を中心に扱うお店で、「一見、デジタルの世界とは真逆なんだけど、ピクセルと木片には、何か通じるところがあると思わない?」。確かに。両者に共通するのは、"アナログデジタル"な懐かしさと温かさ。フランシスの中では、その二つは、喧嘩をせずに共存しているものなのだ。 (文=中西多香[ASHU]) francis_portrait.jpgFrancis Lam(フランシス・ラム) 香港出身のウェブデザイナー&ピクセル・アーティスト。独自のユーモアセンスと、デジタルメディアの美的、社会的側面に焦点をあてたアートワークで、多くの関心を集める。MIT Media Laboratoryにて、Sociable Media Group学位取得。さまざまな出版物で作品が紹介されており、オーストリア、香港、日本、台湾、アメリカでのエキシビションにも参加している。オリジナルウェブサイト「db-db loves you」は、同じ感性を持つ個人個人をつなぐ、新しいブログツールとプラットフォームの実現を目指す。 <http://db-db.com/loves/francis/> ●なかにし・たか アジアのデザイナー、アーティストの日本におけるマネジメント、プロデュースを行なう「ASHU」代表。日本のクリエーターをアジア各国に紹介するプロジェクトにも従事している。著書に『香港特別藝術区』(技術評論社)がある。<http://www.ashu-nk.com > オンラインTシャツオンデマンド「Tee Party」<http://teeparty.jp/ashu/>
スーパーマリオブラザーズ ビヨ~ン! amazon_associate_logo.jpg
■バックナンバー 【vol.5】ダメでも笑い飛ばせ! 香港の国民性を体現したグラフィック・ノベリスト 【vol.4】「教科書はガンダムの落書きだらけだった」 香港・原色の魔術師の意外な原点 【vol.3】「懐かしいのに、新しい」 読むほどにクセになる"タイ初の日本漫画家"タムくん 【vol.2】  マイブームはBL!? 香港の腐女子が描きとめる、消えゆく都市の記憶 【vol.1】 「 :phunk版ガッチャマンが作りたい」 シンガポール発のデザイン集団が描く夢

ダメでも笑い飛ばせ! 香港の国民性を体現したグラフィック・ノベリスト

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『Suffer Hero』 (c)Tak
 『AKIRA』『ドラゴンボール』『ドラえもん』......子どもの頃、僕らの心をアツくさせた漫画やアニメが、海の向こうに住むアジアの子どもたちの心にも火を付けていた。今や日本人だけのものではなくなった、ジャパニーズ・ポップカルチャー。その影響を受けて育った、アジアの才能豊かなクリエーターたちを紹介します。 第5回 コミックアーティスト&グラフィック・ノベリスト Tak(楊学徳/タック)  基本、香港人はお笑い好きだ。生きるってことは結構ハード。辛いこともいろいろあるけど、現実は現実。だったらいっそ笑ってしまおうや! 的な精神が貫かれている。だから彼らは、どんなに悲惨な話になっても、最後は絶対に笑いでオチをつけようとふんばるのだ。Tak(楊学徳/タック)がみんなから愛されているのは、そこらへんのツボをよく分かっているからだと思う。彼は、誰もが知っている香港のコミック・アーティストであり、グラフィック・ノベリストだ。
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『ウルトラマン Vol.1 』
バンダイビジュアル
 Takが生んだ香港で最大のヒーロー、それが「Suffer Hero(苦悩のヒーロー)」。主人公のUltra Low(ウルトラ・ロー)は、その名の通り、いつも今ひとつアガれない奴。今日もパートナーのWonder Po(ワンダー・ポー)に説教されつつ、強敵 Porky Mon (ポーキー・モン)との勝いに臨む!......よりも、公園で黄昏れていることの方が多い。愛すべきダメダメヒーロではあるのだが......。やっぱりモデルはあの? と聞くと、「もちろん。だって彼は、僕たちにとって、すごく身近なキャラクターだからね。特に今30代の香港人は、『ウルトラマン』シリーズを見て大きくなったと言っても過言ではないから」とTak。
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<クリックすると拡大されます>『標童話集』(c)Tak
(c)Tak
 Takが子ども時代を過ごした70年代、テレビをつけると、アメリカやイギリスの番組に混じって、『ドラえもん』や『仮面ライダー』など、毎日たくさんの日本のアニメやドラマが放映されていた。「『俺たちの旅』と『燃えろアタック』は、毎回欠かさず観ていたよ」  80年代になると、日本のカルチャーがどんどん香港に紹介され始める。 「香港におけるジャパニーズ・ポップ・カルチャーの最盛期だったと思う。当時の僕のヒーローは、日本のアイドルたち。中森明菜、マッチ、チェカーズ、安全地帯に小泉今日子! 特にマッチは、すごい人気だった。男子は全員彼の髪型にして、ファッションを真似て競っていた。でも僕の髪は硬くて、どうしてもマッチ・カットにならなくて......。青春の"苦悩"を味わったというわけ(笑)」
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<クリックすると拡大されます>『Tree(2005)』(c)Tak
 アイドルへの憧れや自己への苛立ちと共に過ごした80年代。貧しかったけど、毎日がカラフルだった時代を、Takは今でもとても愛しく思っている。彼のそんな思いが最大に表現されているのが、28歳で初めて発表した作品集『錦繍藍田(How blue was my valley)』だ。香港の庶民のほとんどが住んでいた低家賃の公共住宅を舞台として、彼らの日常生活が鮮やかな色彩で再現されている。コミック作品とは全く異なる画法で描かれたこの作品集は、遅咲きのTakの才能を広く知らしめ、彼が「グラフィック・ノベリスト」と称されるきっかけともなった。言葉がなくても、彼の絵は、雄弁に物語を語っている。 「この本を自費出版したとき、それまでやっていたデザイナーに、自分は向いてないって分かって仕事を辞めていたから、本当に貧乏だった。でも、それで自分を無理矢理創作活動に追い込めたから、逆に良かったのかも」
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『錦繍藍田(How blue was my valley)』『The ballte of the noon (2005)』(c)Tak
 ここ数年、コミックの連載や単行本の出版、キャラクターがグッズ化されたり、各地で展覧会を開いたりと、大忙しのTak。最近、あるアニメ映画のキャラクター・デザイナーの依頼を受けて、忙しさに拍車がかかった。「自分の作品作りの時間がなかなかとれなくなっちゃって」と、温和なTakがめずらしく愚痴るほどだ。
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<クリックすると拡大されます>『Ghost Festival(2005)』(c)Tak
 彼が密かに暖めているライフワーク。それは、1841年に始まり、1997年の中国返還で終焉を迎えた、香港のイギリス植民地時代のグラフィック小説だ。「植民地じゃなくなって、香港人は中国国民としてのプライドを取り戻した、とか言われるけど、みんなどこか居心地の悪さを感じているんです。心の中では、香港が一番香港らしかった"黄金時代"を懐かしんでる。その時代の物語を描けたらなと」。それは、きっと、香港人だけではなく、毎日にちょっと疲れている人たちに、深く受け入れられる作品となるだろう。「いろいろあるけど、現実は現実。だったら笑ってしまおう」と。 (文=中西多香[ASHU]) tak_p.jpgTak (楊学徳/ヨン・ホク・タック) 1970年、香港生まれ。デザイン事務所、広告代理店、出版社勤務を経て、1999年に季刊『コックローチ(Cockroach)』誌上でコミック作品の発表を開始。以降、コミックとアートの領域を越えた「グラフィック・ノベル」スタイルを確立。多くの作品を発表している。<http://www.kicklamb.com/> ・『錦繍藍田(How blue was my valley)』の購入はこちら <http://www.ashu-nk.com/ASHU/shop2_Joint.html> ・TakデザインのオリジナルTシャツの購入はこちら <http://teeparty.jp/ashu/> ●なかにし・たか アジアのデザイナー、アーティストの日本におけるマネジメント、プロデュースを行なう「ASHU」代表。日本のクリエーターをアジア各国に紹介するプロジェクトにも従事している。著書に『香港特別藝術区』(技術評論社)がある。<http://www.ashu-nk.com > オンラインTシャツオンデマンド「Tee Party」<http://teeparty.jp/ashu/>
ウルトラマン Vol.1 ダメダメなヒーローでも、いいんでない? amazon_associate_logo.jpg
■バックナンバー 【vol.4】「教科書はガンダムの落書きだらけだった」 香港・原色の魔術師の意外な原点 【vol.3】「懐かしいのに、新しい」 読むほどにクセになる"タイ初の日本漫画家"タムくん 【vol.2】  マイブームはBL!? 香港の腐女子が描きとめる、消えゆく都市の記憶 【vol.1】 「 :phunk版ガッチャマンが作りたい」 シンガポール発のデザイン集団が描く夢

「教科書はガンダムの落書きだらけだった」 香港・原色の魔術師の意外な原点

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「Boomシリーズ」より
 『AKIRA』『ドラゴンボール』『ドラえもん』......子どもの頃、僕らの心をアツくさせた漫画やアニメが、海の向こうに住むアジアの子どもたちの心にも火を付けていた。今や日本人だけのものではなくなった、ジャパニーズ・ポップカルチャー。その影響を受けて育った、アジアの才能豊かなクリエーターたちを紹介します。 第4回 アーティスト・マイケル・パンチマン  マイケル・パンチマン。本名マイケル・チョン。香港を活動拠点とするアーティストであり、売れっ子アート・ディレクターでもある。本人いわく、「パンチマン」とは、世の中の理不尽や、社会を漫然と襲う絶望感に対する怒りを、その拳(パンチ)に込めながら、「どろどろ」と渦巻く思いを抱えるマイケルの分身として生まれたキャラクターなのである!......だが、その見た目はちょっと「ゆるゆる」。よく聞けば、「香港では道を歩けばマイケルやチョンにあたるから(そのぐらいポピュラーな名であり姓であるということ)、他のマイケルと区別したいと思って」つけた、というのが本音らしい。
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「Punchman blue」 /「 Punchman red」
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 アーティストとしての活動を始めたのは2000年。02年にFRP(ファイバーグラス)彫刻作品として発表し、今も素材や形を変えて進化している「BOOM」シリーズは、昨年末に、シルバーアクセサリー/オブジェとして、高級セレクトショップ、ハーベイ・ニコラスで展示販売され、話題を呼んだ。「パンチマン」は、06年のシンガポール・アート・ビエンナーレのパブリック・アート・プログラムの参加作品に選ばれ、日本の伊東豊雄氏が設計した巨大商業施設VIVO CITYに設置されて、今でも施設のマスコット・キャラクターとして子どもたちに親しまれている。もっと継続的に作品を発表したいが、人気ディレクターゆえ、特に一昨年の北京オリンピックの時期には、あちこちから声がかかり、膨大なクライアント・ワークに忙殺されて、新作に取り組む時間がなかった、と苦笑いする。
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『ガンダム30th
アニバーサリー
コレクション
機動戦士ガンダムI』
 造形のインパクトもさることながら、マイケルの作品を特徴づけるのは、その鮮やかな色使いと、自分の作品の良さを最大限"魅せる"、卓越したプレゼンテーション・スキルだろう。マイケルによれば、こうした感覚や技を身につけたのは、『ガンダム』のおかげだという。 「中学生のころ、『機動戦士ガンダム』(広東語で『機動戰士高達』)に夢中になって、学校でも家でも、紙と鉛筆さえあれば、いつまでもガンダムを描き続けた。教科書が全部ガンダムだらけになっちゃって、先生がすごく怒ったなあ。母親は『子どもに勉強を忘れさせるアニメを作るなんて、日本はなんて悪い国なんだ!』って、逆ギレするし(笑)」
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「BOOM」
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 叱られても、絵の具を取り上げられても、マイケルはガンダムを描くことを諦めなかった。唯一、美術の先生だけは、「お前の色使いはユニークだ」と、背中を押してくれたという。そしてある日、「全香港青少年ガンダム絵画競技会」なる大会で、マイケルは優勝する。 「絵だけじゃなく、ガンダムのプラモデルもたくさん作ったんだけど、自分で工夫して着色したことで、色の組み合せの基礎や、絵の具に関する知識も蓄えられたんだ」  数年前のこと。マイケルがいつもFRP作品を共同制作している中国の工場が、納期をずらしてくれと言ってきたことがある。理由を聞くと、日本のメーカーからの緊急の注文で、なんと大型のFRP製ガンダムを制作することになり、ラインに割り込ませなければならなくなったという。 「他ならぬガンダムなら仕方ないよね。というか、むしろ光栄だったよ。やっぱり"縁"があるのかな、と」
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「百足(Scolopendra)」<クリックすると拡大されます>
 最近はボクシングにハマっており、見事減量も果たした。繰り出す拳に込められているのは、今は怒りではなく、「みんなの夢」だという。相変わらず忙しいクライアント・ワークの合間をぬって、自身のアートワークの一環として、ひそかに進めているプロジェクト、「Union Cult(ユニオン・カルト)」は、アジアを中心とした、世界中の才能あるアーティストたちの一大ネットワーク化計画だ。プロジェクト・ベースでチームを作り、ひとつのクライアント・ワークを企画/制作していくことで、個々のクリエイティビティを十分に発露させつつ、クライアントが満足する結果を提供し、同時にクリエイターへの収入も確保する。コマーシャルとアートがウィン-ウィンで結合する、理想の形。両方の分野での多くの経験とネットワークを持つ、マイケルならではの発想だ。クリエイティブ界を大いに刺激する、ユニークな「パンチ」に育ってほしい。 (取材・文=中西多香[ASHU])   mk09.jpgMichael Punchman (マイケル・パンチマン) 1967年香港生まれ。クリエイティブ・ディレクターとして多くの広告制作を手がける。00年よりコンテンポラリー・アートにも活動の場を拡げる。02に発表したFRP作品「Boomシリーズ」展は世界各国を巡回。06年「シンガポール・アート・ビエンナーレ」参加。 <http://www.michaelpunchman.com/> ●なかにし・たか アジアのデザイナー、アーティストの日本におけるマネジメント、プロデュースを行なう「ASHU」代表。日本のクリエーターをアジア各国に紹介するプロジェクトにも従事している。著書に『香港特別藝術区』(技術評論社)がある。<http://www.ashu-nk.com >
ガンダム30thアニバーサリーコレクション 機動戦士ガンダム 世界標準の人気モノ。 amazon_associate_logo.jpg
■バックナンバー 【vol.3】「懐かしいのに、新しい」 読むほどにクセになる"タイ初の日本漫画家"タムくん 【vol.2】  マイブームはBL!? 香港の腐女子が描きとめる、消えゆく都市の記憶 【vol.1】 「 :phunk版ガッチャマンが作りたい」 シンガポール発のデザイン集団が描く夢