
「Apexplorers character T-rex 」(c)Winson Ma
『AKIRA』『ドラゴンボール』『ドラえもん』......子どものころ、僕らの心をアツくさせた漫画やアニメが、海の向こうに住むアジアの子どもたちの心にも火をつけていた。今や日本人だけのものではなくなった、日本のポップカルチャー。その影響を受けて育った、アジアの才能豊かなクリエーターたちを紹介します。
第28回
キャラクター・デザイナー
ウィンソン・マー(Winson Ma)
鉄人兄弟(brothersfree) 。アクション・フィギュア好きの人なら、一度は聞いたことがあるだろう。香港のマイケル・ラウ、エリック・ソーと並んで、2000年代初頭に旋風を巻き起こした「香港アクション・フィギュア」ブームの一翼を担い、今もなお世界中に根強いファンを持つ、アクション・フィギュア・クリエイティブユニットだ。
ウィンソン・マーが、友人のケニー・ウォン、ウィリアム・ツァンと共に「鉄人兄弟」をスタートさせたのは2000年。香港で、彼らのごく身近な存在である工事現場の労働者たちをモチーフにしたアクション・フィギュアのシリーズ「brothersworker」は、衝撃的なデビューを遂げた。「フィギュアはアートだ」と、誰しもが実感せずにはいられないほどの世界観と高いクオリティを持った彼らの作品は、フィギュア界に確実に新しいエポックを残した。
しかし06年、「広告代理店のクリエイティブ・ディレクターとしての待遇を捨て、貯金を削ってまで自分たちのアクション・フィギュアを作りたかった」鉄人兄弟の3人は、それぞれの道を選ぶことになる。
「カルチャーとかデザインとかの枠を超えて、あの時期、鉄人兄弟は、頂点に駆け上った。3人でやるべきことのすべてを成し遂げた結果だし、何より僕たちの作品が多くの人に受け入れられたことが自信になった」というウィンソンは、その後、自身の会社Winson Classic Creationを設立。自身初のオリジナル・シリーズ作品「Apexplorers(エイプクスプローラーズ)」を発表する。自らストーリーを作り、全キャラクターデザインを手がけた近未来物語。フィギュアだけでなく、ムービー、イラストなど、メディアミックスで展開されている。

「Apexplorers character Ice & Laser」(c)Winson Ma

「Apexplorers character Otto」(c)Winson Ma

「Apexplorers character Otto & Ice」(c)Winson Ma
「世界初めて三極(北極、南極、エベレスト登頂)を極めた香港の女性冒険家、レベッカ・リーが、探検先から地球に関する貴重な資料をたくさん持ち帰った。彼女は僕の友人なんだけど、鉄人兄弟を立ち上げる前に、彼女のプロジェクトに協力したこともあって……。Apexplorersは、彼女の冒険談や、環境保護データを基にした物語なんです」
鉄人兄弟時代とはかなりかけ離れたコンセプトだったため、ウィンソン自身も「環境をテーマにしてフィギュアをデザインすることが果たして正しいことなのか、迷った」という。「鉄人兄弟のスタート以降、この10年の間に、アクション・フィギュア・ブームも、何度も引き潮を迎えていたし」
しかし、ウィンソンの迷いは杞憂に終わる。
「ラッキーだよ。香港だけでなく、台湾、日本、アメリカ、中国などの市場で受け入れられ、多くのメディアが話題にしてくれた」

「Apexplorers Fashion product 2012」(c)Winson Ma

「hand made Adam figure @ 2004」(c)Winson Ma
ウィンソンに、どんなジャパニーズカルチャーの影響を受けたのか、聞いてみた。
「アニメ、SF映画にゲーム……とくに日本のキャラクターデザインとストーリー作りにはすごいものがある。例えば『Dr.スランプ』のラブリーなキャラクターとクレイジーで笑えるストーリー、『バイオハザード』のエキサイティングな展開と人物像。『AKIRA』は、アニメもコミックも、両方ヤラれました。スクリーニングの表現方法はショックの連続で、広告代理店で働いていた頃は、資料としていつも手元に置いていました」
そして、彼の敬愛する日本のアーティスト、空山基。
「すごくセクシーで、大胆なところがたまらない」

「Ice & Laser sketch」(c)Winson Ma
彼の描く近未来ストーリーやキャラクターの端々には、そうした要素をウィンソン流に咀嚼した片鱗がうかがえる。しかし、それはもはやジャパニーズカルチャーの模倣ではなく、ウィンソン・オリジナルになっている。
昨年、鉄人兄弟誕生10周年を記念する展覧会が香港で行われ、多くのファンが駆けつけた。そのことを喜びながらも、ウィンソンは、将来に向けての自分の計画に焦点を合わせている。目下、中国最大のウェブショップ「Taobao.com」とのコラボ企画であるApexplorersミニフィギュアがローンチを控えているという。

「Taobao 2012 project @ China」(c)Winson Ma
「その後は、Apexplorersのエピソード2を年内に発表し、来年には、Apexplorersファッションブランドを立ち上げたい。それと並行して、中国で僕のブランドをアップグレードするために、もっとたくさんのコラボレーション企画に参加したいと考えています」
かつてウィンソンに大きな影響を与えた『AKIRA』のように、香港発のApexplorersが、さまざまなメディアを通して、中国、そして世界の人たちに衝撃を与え続けている。
(取材・文=中西多香[ASHU])

●ウィンソン・マー
香港生まれ。コマーシャル・アート業界で経験を積み、2000年にケニー・ウォン、ウィリアム・ツァンと共に鉄人兄弟(brothersfree)を設立。アクション・フィギュアのデザインや、著名ブランドとのコラボレーションに従事。05年にWinson Classic Creation設立。自身がデザインしたキャラクター「Apexplorers/Jungle」が、07年HKDA Awardsの銀賞を受賞。リーバイス、ノキア、コカ・コーラ、キヤノンなど、国内外のブランドとのコラボレーションも多く手がける。
<
http://www.winsoncreation.com/>
●
なかにし・たか
アジアのデザイナー、アーティストの日本におけるマネジメント、プロデュースを行なう「ASHU」代表。日本のクリエーターをアジア各国に紹介するプロジェクトにも従事している。著書に『香港特別藝術区』(技術評論社)がある。<
http://www.ashu-nk.com >
オンラインTシャツオンデマンド「Tee Party」<
http://teeparty.jp/ashu/>
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