北野監督を支え続ける森昌行プロデューサーが語る『アウトレイジ』三部作の舞台裏と北野映画の今後(後編)

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テレビ番組のADを振り出しに映画プロデューサーとなった森昌行氏。北野武監督、そしてビートたけしの最大の理解者でもある。
 オフィス北野の社長であり、北野監督作品のプロデューサーでもある森昌行氏へのロングインタビュー後編。『アウトレイジ』シリーズの個性的なキャスティングと『アウトレイジ 最終章』後の展望について尋ねた。 (前編はこちらから) ──“全員、悪人”というキャッチフレーズで始まった『アウトレイジ』シリーズが話題になったことで、それまでの芸能界の「好感度」がもてはやされる風潮にクサビを打ったんじゃないでしょうか。 森昌行 実録犯罪ドラマで大久保清を演じたこともありますし、たけしさん自身が悪役を好んでやりますよね。そのきっかけになったのは、たけしさんが俳優として注目を集めた大島渚監督の『戦場のメリークリスマス』(83)です。たけしさんは坊主頭にして原軍曹という日本兵を演じたのですが、ラストシーンの「メリークリスマス、ミスター・ローレンス」という台詞で劇場に笑いが起きたんです。あんなシリアスな映画なのに自分のシーンで笑いが起きたことが、かなりショックだったようです。それもあって、あえてお笑いをやりながら悪役を演じるという難しいことにたけしさんは取り組み始めた。違和感なく役者をやれるようになるまで10年を要したと言っています。今では悪役が定着して、いいおじいちゃん役は映画では難しいでしょうね(笑)。極悪非道な役をやればやるほど、クールだと喜ばれる。そういう意味でも、お笑いと暴力は紙一重なのかもしれません。 ──ビートたけしの悪役ぶりに触発されるように、『アウトレイジ』シリーズでは西田敏行ら大物俳優たちも、それぞれ思い切った極道ぶりを披露していますね。  実は、西田さんが新人時代にバラエティー番組に出演していた頃、僕はそのバラエティー番組のADをやっていたんです。『アウトレイジ』が公開中のとき、フジテレビの廊下で西田さんとすれ違い、「森さん、俺にも悪いのやらせてよ」と頼まれたんです(笑)。西田さんみたいな大物俳優はそう簡単に出演してくれないだろうと思っていたんですが、「いい人の役ばかりで、ずっとイライラしていた。だから『アウトレイジ』には出たかった」と後から言われました。そういう経緯もあって、西田さんは撮影現場ではアドリブ連発でノリノリでした(笑)。 ■コワモテ俳優が集う『アウトレイジ』シリーズの現場 ──『ビヨンド』に続く『アウトレイジ 最終章』も実力派男優たちの顔面バトルの連続。撮影現場はかなりピリピリしていたのでは?  いえ、ピリピリした現場ではありませんでした。かといって、俳優たちがワーワーと騒いでいる現場でもなく、とても静かな現場でした。そんな中で、西田さんはカメラが回り出すとメリハリのついた演技を次々と見せる。北野監督は「プロの俳優はやっぱり違うな」と感心していたぐらいです(笑)。 ──花菱会の若頭・西野(西田敏行)が「迷惑もハローワークもあるかいっ」と捲し立てる場面がありますが、あれはアドリブ?  西田さんがアドリブで考えた台詞です(笑)。西田さんは他にもアドリブを連発していました。元証券マンの新会長(大杉漣)に向かって「ジェニ(銭)ジェニ♪って、リトル・リチャードじゃあるまいし」なんて台詞も飛ばしていたんですが、ほとんど編集でカットされています。西田さんは昨年入院されていたので心配していたんですが、自分の出番になると大変な集中力を見せてくれました。やっぱり、すごい俳優だなと思いましたね。 ──『最終章』からの出演となる花菱会直参幹部・花田役のピエール瀧も面白い存在です。凄んでみせるけど、どこかおかしみがある。  本物のヤクザではない、お金の力で幹部に取り立ててもらった半グレ上がりという設定ですね。まだヤクザの世界のことがよく分かっておらず、自分の指を詰めるのを怖がっている。ヤクザ然としていないところが、ぴったりだったんじゃないでしょうか。彼がいたことで、逆に塩見三省さんの凄みが際立ったように思います。 ──第1作には短い出番でしたがマキタスポーツが出ていましたし、ミュージシャンはドラマに出ると独特の面白さを発揮しますね。  ピエールさんが電気グルーヴで活躍していることはもちろん知っていましたが、ミュージシャンであることを意識してキャスティングしたわけではありません。でも、やっぱりミュージシャンの方は台詞の間を外すことがないし、話し方もリズミカルですね。たけしさんも「ミュージシャンはコントをやらせてもうまい」と言っています。
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金の力で花菱会の幹部に成り上がった花田(ピエール瀧)。花菱会と張会長グループとの抗争の火種となる。
■本職の俳優顔負けの存在感を放った男 ──『アウトレイジ』シリーズの意外なキャスティングで外せないのは、『ビヨンド』からフィクサー役で出演している金田時男さん。俳優ではなく、まったくの素人だと聞いています。  たけしさんは金田時男さんの息子さんと知り合い、個人的な付き合いがあったそうです。それで食事を一緒にするうちに、父親である金田時男さんを紹介され、戦後の日本をどう生きてきたかといった話をされ、その話がとても面白かったそうです。また、金田時男さんは松田優作さんの自伝なども読まれ、「お金はいくら稼いでも、いつかは消えてしまう。その点、俳優は映画にその姿を残すことができて羨ましい。とんでもないと思うかもしれないが、北野作品に自分の姿を刻みつける機会があればお願いできないか」とたけしさんにお願いしたそうです。金田さんは顔つきがいいし、あの存在感は本職の俳優たちにも負けていない。それで『ビヨンド』では台詞がほとんどなかったんですが、張会長として出演してもらい、『最終章』ではストーリーの展開上、出番も台詞もかなり増えることになったんです。 ──2014年に亡くなった高倉健さんですが、北野映画に出演かという噂が何度も上がりました。実際にオファーはされていたんでしょうか?  高倉健さんがご存命中に「こういうのをやりませんか」と企画を提案させていただいたことはありました。ただ提案書だけではなく、ある程度のホン(脚本)を用意しないとダメだと健さんの出演作をプロデュースされた方からは聞いていたので、北野組は脚本が変更することは多々ありますが、シノプスよりは詳しいものを準備しました。健さんもずいぶん考えてくれたみたいですが、自分がやる役ではないんじゃないかと丁寧に断られたというのが事実です。 ──『アウトレイジ』シリーズや先ほど出た「ヤクザ名球会」ではなかったんですね?  違います。映画化された企画へのオファーではなく、まったく別の企画でした。健さんの出演が決まっていなかったので、他のキャストへのオファーもしていない状態だったので、その企画は実現はしていないんです。
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『アウトレイジ ビヨンド』に続き、日韓の裏社会を牛耳るフィクサー・張会長(金田時男)は独特の存在感を見せる。
■恋愛小説『アナログ』の映画化の可能性は? ──『アウトレイジ』シリーズの完結後は、どのように考えていられるんでしょうか? ビートたけし初の恋愛小説ということで9月に発売されたばかりの『アナログ』(新潮社)も話題となっていますが……。  北野監督の頭の中には、次回作はどうするのか、バイオレンス映画をまた撮るのかどうかといった考えはあるようですが、それはそのときの気分によって変わるものなので、これからのことは『アウトレイジ 最終章』が興行的に成功して、そこから初めて「じゃあ、次回はどうするか」という話になります。もちろん、『アナログ』は出版されたばかりで話題性もあるので次回作の候補にはなり得ますが、最終的にはビジネスサイド、お金を出してくれる人たちが納得してくれないと次へは進めません。また、原作小説があっても、それを映画としてどう広がりのあるものにしていくかというアイデアも必要になってきます。『アウトレイジ』の前や『龍三と七人の子分たち』の前も、北野監督は別の企画を提案していたんですが、どの企画が優れている優れていないではなく、どの企画が実現可能かどうかということなんです。我々は大ヒットメーカーではありませんが、ヒットメーカーとしての立場は守っていかなくてはいけない。興行的に成功を見込める作品を作っていくことが責務でもあるんです。それと北野組には大きなハードルがあるんです。たけしさんはテレビの仕事もしているのでテレビの収録をする“テレビ週”と映画の撮影をする“映画週”とが隔週ごとに分かれていて、他の映画よりも機材費や人件費が2倍必要になってくるため、リクープラインが高くなっているんです。いろんな企画のアイデアを持っている北野監督は歯がゆいかもしれませんが、プロデューサーとしては企画選びは慎重にならざるを得ないんです。 ──北野監督の初期を代表するバイオレンス映画の傑作『ソナチネ』の後に『キッズ・リターン』(96)のような名作が生まれているだけに、ファンは次回作も大いに期待してしまいます。  いやいや、『キッズ・リターン』の前には『みんな~やってるか!』(95)がありましたし、94年にはバイク事故も起こしています(苦笑)。バランスが大きく崩れることもあるわけです。それで『座頭市』が大ヒットして喜んでいたら、また『TAKESHIS’』で沈んで……ということになっています。今の興行システムでは、それは許されないんです。単館でもロングラン上映してくれる映画館が全国に20~30館もあればビジネス的に可能なんですが、今はそんな劇場は国内には1~2館しかないというのが現状です。観客動員100万人という数字は、東京ドームを20日連続で満員にしなくちゃいけないということ。ローリングストーンズでもできるかどうか。シネコンのシステムの中でヒットさせるということは、そういうことなんです。 ──森プロデューサーはそんな重責を担っていながら、毎年11月に開催される映画祭「東京フィルメックス」のエクゼクティブプロデューサーも務めている。めちゃめちゃ大変じゃないですか。  「東京フィルメックス」は“アジアの若手監督を紹介する映画祭”という建前は非常に美しいのですが、内情はとても厳しいです(苦笑)。カンヌやベネチアといった映画祭でも近年はだんだん地味になってきているぐらいですからね。 ──最近のフィルメックス上映作品だと、中国のジャ・ジャンクー監督の『罪の手ざわり』(13)や奥田庸介監督の『クズとブスとゲス』(15)などは、とても面白い作品でした。  いい映画でしたねぇ。アジアにはまだまだ優れた才能がいることは我々も分かってはいるんですが、彼らの作品を定期的に公開できる環境が整っていない状況なんです。大量消費の時代にあって、いくら良作を作ってもビジネス的には難しい。多様化の時代と言われていますが、現実は全然多様化していません。みんな、マスのほうへ向かっているのが現状です。マスでなければ、いわゆるオタクと呼ばれる趣味趣向の世界になり、メジャーにはなり得ない。シネコンとは異なる、新しい受け皿づくりは今後の大きな課題かもしれません。 (取材・文=長野辰次)
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●森昌行(もり・まさゆき) 1953年鳥取県生まれ。テレビ番組製作会社でADとして過ごし、最初にチーフディレクターを務めたバラエティー番組『アイドルパンチ』(テレビ朝日)をきっかけに、司会のビートたけしと親交を深める。88年の「オフィス北野」の設立に参加し、92年から代表取締役社長に就任。89年の北野監督の監督デビュー作『その男、凶暴につき』から全ての北野作品をプロデュースしている。また、例年11月下旬に開催されるアジアを中心にしたインディペンデント系の映画祭「東京フィルメックス」の運営も手掛け、若手映像作家の育成にも取り組んでいる。
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『アウトレイジ 最終章』 監督・脚本・編集/北野武 音楽/鈴木慶一 撮影/柳島克己 照明/高屋齋 出演/ビートたけし、西田敏行、大森南朋、ピエール瀧、松重豊、大杉漣、塩見三省、白竜、名高達男、光石研、原田泰造、池内博之、津田寛治、金田時男、中村育二、岸部一徳 配給/ワーナー・ブラザース映画、オフィス北野 R15+ 10月7日(土)より全国ロードショー (c)2017『アウトレイジ最終章』製作委員会 http://outrage-movie.jp

北野武監督を支え続ける森昌行プロデューサーが語る『アウトレイジ』三部作の舞台裏と北野映画の今後(前編)

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北野映画にこの人あり。森昌行プロデューサーがいたから、『ソナチネ』や『キッズ・リターン』などの傑作が誕生した。
“世界のキタノ”こと北野武監督が衝撃デビューを果たした『その男、凶暴につき』(89)から、常に北野映画を支えてきたのが森昌行プロデューサーだ。またオフィス北野の社長として、テレビの第一線で活躍を続ける人気タレント・ビートたけしのマネジメントも手掛けている。多彩なキャストを配し、経済至上主義となった現代社会の風刺にもとれるバイオレンスエンターテイメント『アウトレイジ』シリーズは、どのようにして生まれたのか。そして、トリロジー完結編『アウトレイジ 最終章』を完成させ、北野映画はこれからどこへと向かうのか。北野監督の才能を誰よりも愛するがゆえに、時にシビアな判断も迫られる森プロデューサーが北野映画の裏側を語った。 ──2010年に公開された第1作『アウトレイジ』は独創的なバイオレンスシーンが話題となり、スマッシュヒットを記録しました。もともとは前作『アキレスと亀』(08)の主人公・真知寿がいろんな自殺方法を試すシーンで危なすぎて使えなかったネタから生まれたそうですね。 森昌行 我々はデスノートと呼んでいるんですが、死に方帳みたいなものをたけしさんは持っているんです(笑)。お笑いのネタ帳と同じように、面白い死に方や殺し方を思いついたら、たけしさんは『アキレスと亀』以前からメモしていました。子どもが自由に落書きするみたいな感覚なんですが、その手帳を持ち歩いているときに警察に尋問されたら、きっとテロリストとして逮捕されるでしょうね(笑)。 ■笑いほど残酷なものはない ──北野監督にとっては、笑いも死も同価値のものなんですね。  北野さんは昔から言っているんですが、「笑いとは残酷なものだ」と。また、「笑いは悪魔のように忍び寄る」とも言っています。お笑いって、シリアスな状況であればあるほど、そこで起きる笑いも大きくなるわけです。お葬式みたいに絶対笑ってはいけない場で、誰かがおならをするとおかしくて仕方ない。それがたけしさんの言う「笑いが悪魔のように忍び寄る」ということなんです。これは突発的に起きる暴力と同じようなもの。だから、笑いってすごく暴力的なものなんだ、というのがたけしさんの持論です。チャップリンが言っていたそうですが、「ホームレスがバナナの皮で転ぶより、大統領がバナナの皮で転んだほうが面白い」と。権力を持っている人間が転んだほうがおかしいわけです。だから、たけしさんも「お笑いをやっているからには俺は文化勲章をもらうんだ」と言っています。文化勲章をもらった翌日、立ちションで逮捕されたら、そのギャップが笑いを生むわけです。たけしさんはいつも笑いをベースに考えていて、その延長線に暴力も並んでいるようですね。 ──北野映画は“死生観”“破滅衝動”がテーマだとも言われています。  確かに「北野監督の作品は死がテーマになっている」と言われていたことが初期の頃はありました。でも、たけしさんに言わせれば「いや、そうじゃないんだ。今の時代は生に光を当て過ぎているんだ」ということなんです。たけし流に言えば、なぜ死を忌み嫌うのか、生きることにしか光を当てないほうがおかしいよ、ということ。人間の死を描くことは生を描くということでもあるんです。北野監督にとっては、死に方=生き方なんです。
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『アウトレイジ ビヨンド』でマル暴刑事・片岡(小日向文世)を射殺した大友(ビートたけし)は韓国の済州島に身を潜めていたが……。
■内面三部作は監督にとって必要な作品だった ──北野作品は、笑いと暴力、生と死が隣り合わせになっているわけですね。『アウトレイジ ビヨンド』(12)は北野監督にとっては初の続編。第1作のラスト、刑務所で刺殺されたはずの大友組の組長・大友(ビートたけし)が実は生きていたという『ビヨンド』のアイデアは、森プロデューサーの発案だったと聞いています。  ハハハ、それは事実です(笑)。確かに北野監督はそれまでシリーズものを作ることはせず、『アウトレイジ』も1作で完結させたつもりだったはずです。北野監督と揉めたわけではないんですが、これはプロデューサー個人の話として聞いてください。プロデューサーという仕事は、クリエイティブサイドとビジネスサイドとのブリッジ役だと認識しています。クリエイティブサイドに関しては、北野監督の意思を最大限に尊重したい。でも一方のビジネスサイドに立てば、プロデューサーは出資者たちへの責任があるわけです。作品を完成させるだけでなく、興行的にも成功を収めなくてはいけません。『アウトレイジ』の前に撮った、『TAKESHIS’』(05)、『監督・ばんざい!』(07)、『アキレスと亀』の3作品は正直なところ、ビジネス面で成功したとは言えませんでした。 ──北野監督の内面を描いた三部作、どれも興味深い作品でした。  もちろん、3作品とも内容は評価はされており、それぞれ海外の映画祭にも呼ばれています。北野監督の作家性には悪影響は何らもたらしていません。また、『座頭市』(03)の後、自分が撮りたいのはこれだという明確なものが見つからない混迷期に入り、北野監督にとっては新しい出口を探り出すために必要な3作だったと思います。決して開き直って、弁明しているわけではありません(笑)。そこで3作を撮り終えた北野監督に提案したのが、「十八番中の十八番であるバイオレンスエンターテイメントをやりましょう」ということでした。実験的な作品は避けて、北野監督が最も得意とするバイオレンスアクションに戻ろうと。でも、それは『その男、凶暴につき』や『3-4x 10月』(90)や『ソナチネ』(93)をもう一度撮るということではないし、そうならないと確信していました。北野監督はそれまでにいろんな作品を撮ってきたので、バイオレンスアクションを撮っても初期作品とは同じものにはならないはずだという期待もありました。
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老舗暴力団・花菱会の若頭・西野(西田敏行)と若頭補佐の中田(塩見三省)。実力派俳優たちの老練なやりとりは大きな見どころ。
■『アウトレイジ』に科せられた高いハードル ──北野映画初出演組を中心にした多彩なキャスティングも、『アウトレイジ』シリーズならでは。  それまでの北野監督は、色のついた俳優を起用することをあまり好みませんでした。自分の言うとおりに役者は動いてほしいと考えていたようです。それもあって、寺島進や大杉漣さんといった北野組と呼ばれる常連俳優たちをいつも起用していたんです。ですが、いろんな作品を撮ってきたことで北野監督はどんな俳優が来ても充分にやれるはずだという読みがこちらにはあり、『アウトレイジ』は北野組ではない俳優を使いましょうと提案しました。ビジネス的に前3作が成功しなかったということも、プロデューサーとして大きくありました。『アウトレイジ』がもし失敗したら、監督生命が危ぶまれる……くらいの危機感がありました。4作連続でリクープできなければ、メディアが“世界のキタノ”と持ち上げても、ビジネスパートナーたちはパートナーシップを解消してしまう。そうなれば、北野監督は好きなように映画を撮ることもできなくなる。『アウトレイジ』に関しては、私は観客動員100万人をボーダーラインとして考えていました。そのくらいの大ヒットじゃないと、過去3作のマイナスイメージを払拭できないと、スタッフ全員にハッパを掛けていたんです。いざ、劇場公開してみると観客動員は80万人程度でした。ヒットはヒットなんですが、私の設定していた目標値には達していなかった。そこで、たけしさんには「大友は生きているというアイデアはどうですか? 大友の死体は映していませんし」と私から持ち掛けて、『アウトレイジ』のDVDがリリースされるタイミングで、続編製作を正式発表することでヒット感を打ち出しました。その甲斐あって、『アウトレイジ』のDVDセールスは伸び、その勢いが第2作『アウトレイジ ビヨンド』へと続いたんです。 ──北野監督と森プロデューサーには長年の信頼関係があるわけですが、それでも「大友は生きている」というアイデアを切り出すタイミングは気を使ったんじゃないですか?  もちろん、そうです。下手なタイミングで切り出せば、一蹴されてしまう可能性もありました。でも、たけしさんにも思うところがあったんだと思います。「大友が生きているなら、こういうストーリーになるな」とアイデアを膨らせてくれました。その結果、『ビヨンド』は第1作を越える興収結果を残し、『ビヨンド』で終わってもよかったんですが、今度は北野監督が乗って、「次は大友が韓国へ逃げて……」と3作目まで作ることになったんです。まぁ、すぐに『アウトレイジ 最終章』を作るのではなく、一度違うベクトルに振ったほうがいいだろうと思い、たけしさんがネットで発表した短編小説『ヤクザ名球会』を『龍三と七人の子分たち』(15)として映画化することにしました。幸い、こちらもうまくヒットすることができました。 ──北野監督ほどの才能と実績とネームバリューがあっても、常に数字を残さなくてはいけない時代ですね。  やはり、シネコンというシステムの中では、興行成績というものが中心になっています。『HANA-BI』(98)の頃はアートハウス系でロングラン公開され、口コミで動員することができました。『HANA-BI』を1年間にわたって上映し続けた映画館もあったほどです。海外の映画祭で受賞したことで宣伝費も使わずに済みました。でも、そういったアートハウス系の映画館はほとんど消えてしまい、今はシネコンで上映するしかありません。ある意味、シネコンは残酷な世界です。公開初週の土日にどれだけ観客動員できたかで、公開期間も決められてしまう。宣伝費も『HANA-BI』の頃に比べて、10倍必要になっています。そんな中で、ただ作家性を重視した作品を撮っても、自己満足で終わってしまうことになってしまう。シネコンに作品を掛けるということは、メジャー指向で大量動員することが前提となっています。『HANA-BI』や『座頭市』くらいまでは海外マーケットもそれなりの市場だったんですが、今はアジア映画が海外で占める市場はとても縮小されています。嫌だと思っていても、日本の大量動員システムの中で勝負し、勝ち残っていくしかないんです。エンターテイメントに徹しないと、この国では映画を撮ることはできません。海外でインタビューを受けると「なぜ、北野監督は今もテレビ出演を続けているのか?」と質問されることがありますが、今の日本では映画を撮っているだけでは食べてはいけないからなんです。よっぽど慎ましい生活にすれば別でしょうけど。そういったことも含め、マネジメントも考えざるをえない。当然、たけしさんも年齢を重ね、テレビの世界では新しい人間も出てくる。今後、映画監督としてタレントとして、どう続けていくかは大きなテーマですね。 (取材・文=長野辰次/後編につづく) ●森昌行(もり・まさゆき) 1953年鳥取県生まれ。テレビ番組製作会社でADとして過ごし、最初にチーフディレクターを務めたバラエティー番組『アイドルパンチ』(テレビ朝日)をきっかけに、司会のビートたけしと親交を深める。88年の「オフィス北野」の設立に参加し、92年から代表取締役社長に就任。89年の北野監督の監督デビュー作『その男、凶暴につき』から全ての北野作品をプロデュースしている。また、例年11月下旬に開催されるアジアを中心にしたインディペンデント系の映画祭「東京フィルメックス」の運営も手掛け、若手映像作家の育成にも取り組んでいる。
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『アウトレイジ最終章』 監督・脚本・編集/北野武 音楽/鈴木慶一 撮影/柳島克己 照明/高屋齋 出演/ビートたけし、西田敏行、大森南朋、ピエール瀧、松重豊、大杉漣、塩見三省、白竜、名高達男、光石研、原田泰造、池内博之、津田寛治、金田時男、中村育二、岸部一徳 配給/ワーナー・ブラザース映画、オフィス北野 R15+ 10月7日(土)より全国ロードショー (c)2017『アウトレイジ最終章』製作委員会 http://outrage-movie.jp

北野武監督を支え続ける森昌行プロデューサーが語る『アウトレイジ』三部作の舞台裏と北野映画の今後(前編)

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北野映画にこの人あり。森昌行プロデューサーがいたから、『ソナチネ』や『キッズ・リターン』などの傑作が誕生した。
“世界のキタノ”こと北野武監督が衝撃デビューを果たした『その男、凶暴につき』(89)から、常に北野映画を支えてきたのが森昌行プロデューサーだ。またオフィス北野の社長として、テレビの第一線で活躍を続ける人気タレント・ビートたけしのマネジメントも手掛けている。多彩なキャストを配し、経済至上主義となった現代社会の風刺にもとれるバイオレンスエンターテイメント『アウトレイジ』シリーズは、どのようにして生まれたのか。そして、トリロジー完結編『アウトレイジ 最終章』を完成させ、北野映画はこれからどこへと向かうのか。北野監督の才能を誰よりも愛するがゆえに、時にシビアな判断も迫られる森プロデューサーが北野映画の裏側を語った。 ──2010年に公開された第1作『アウトレイジ』は独創的なバイオレンスシーンが話題となり、スマッシュヒットを記録しました。もともとは前作『アキレスと亀』(08)の主人公・真知寿がいろんな自殺方法を試すシーンで危なすぎて使えなかったネタから生まれたそうですね。 森昌行 我々はデスノートと呼んでいるんですが、死に方帳みたいなものをたけしさんは持っているんです(笑)。お笑いのネタ帳と同じように、面白い死に方や殺し方を思いついたら、たけしさんは『アキレスと亀』以前からメモしていました。子どもが自由に落書きするみたいな感覚なんですが、その手帳を持ち歩いているときに警察に尋問されたら、きっとテロリストとして逮捕されるでしょうね(笑)。 ■笑いほど残酷なものはない ──北野監督にとっては、笑いも死も同価値のものなんですね。  北野さんは昔から言っているんですが、「笑いとは残酷なものだ」と。また、「笑いは悪魔のように忍び寄る」とも言っています。お笑いって、シリアスな状況であればあるほど、そこで起きる笑いも大きくなるわけです。お葬式みたいに絶対笑ってはいけない場で、誰かがおならをするとおかしくて仕方ない。それがたけしさんの言う「笑いが悪魔のように忍び寄る」ということなんです。これは突発的に起きる暴力と同じようなもの。だから、笑いってすごく暴力的なものなんだ、というのがたけしさんの持論です。チャップリンが言っていたそうですが、「ホームレスがバナナの皮で転ぶより、大統領がバナナの皮で転んだほうが面白い」と。権力を持っている人間が転んだほうがおかしいわけです。だから、たけしさんも「お笑いをやっているからには俺は文化勲章をもらうんだ」と言っています。文化勲章をもらった翌日、立ちションで逮捕されたら、そのギャップが笑いを生むわけです。たけしさんはいつも笑いをベースに考えていて、その延長線に暴力も並んでいるようですね。 ──北野映画は“死生観”“破滅衝動”がテーマだとも言われています。  確かに「北野監督の作品は死がテーマになっている」と言われていたことが初期の頃はありました。でも、たけしさんに言わせれば「いや、そうじゃないんだ。今の時代は生に光を当て過ぎているんだ」ということなんです。たけし流に言えば、なぜ死を忌み嫌うのか、生きることにしか光を当てないほうがおかしいよ、ということ。人間の死を描くことは生を描くということでもあるんです。北野監督にとっては、死に方=生き方なんです。
北野武監督を支え続ける森昌行プロデューサーが語る『アウトレイジ』三部作の舞台裏と北野映画の今後(前編)の画像2
『アウトレイジ ビヨンド』でマル暴刑事・片岡(小日向文世)を射殺した大友(ビートたけし)は韓国の済州島に身を潜めていたが……。
■内面三部作は監督にとって必要な作品だった ──北野作品は、笑いと暴力、生と死が隣り合わせになっているわけですね。『アウトレイジ ビヨンド』(12)は北野監督にとっては初の続編。第1作のラスト、刑務所で刺殺されたはずの大友組の組長・大友(ビートたけし)が実は生きていたという『ビヨンド』のアイデアは、森プロデューサーの発案だったと聞いています。  ハハハ、それは事実です(笑)。確かに北野監督はそれまでシリーズものを作ることはせず、『アウトレイジ』も1作で完結させたつもりだったはずです。北野監督と揉めたわけではないんですが、これはプロデューサー個人の話として聞いてください。プロデューサーという仕事は、クリエイティブサイドとビジネスサイドとのブリッジ役だと認識しています。クリエイティブサイドに関しては、北野監督の意思を最大限に尊重したい。でも一方のビジネスサイドに立てば、プロデューサーは出資者たちへの責任があるわけです。作品を完成させるだけでなく、興行的にも成功を収めなくてはいけません。『アウトレイジ』の前に撮った、『TAKESHIS’』(05)、『監督・ばんざい!』(07)、『アキレスと亀』の3作品は正直なところ、ビジネス面で成功したとは言えませんでした。 ──北野監督の内面を描いた三部作、どれも興味深い作品でした。  もちろん、3作品とも内容は評価はされており、それぞれ海外の映画祭にも呼ばれています。北野監督の作家性には悪影響は何らもたらしていません。また、『座頭市』(03)の後、自分が撮りたいのはこれだという明確なものが見つからない混迷期に入り、北野監督にとっては新しい出口を探り出すために必要な3作だったと思います。決して開き直って、弁明しているわけではありません(笑)。そこで3作を撮り終えた北野監督に提案したのが、「十八番中の十八番であるバイオレンスエンターテイメントをやりましょう」ということでした。実験的な作品は避けて、北野監督が最も得意とするバイオレンスアクションに戻ろうと。でも、それは『その男、凶暴につき』や『3-4x 10月』(90)や『ソナチネ』(93)をもう一度撮るということではないし、そうならないと確信していました。北野監督はそれまでにいろんな作品を撮ってきたので、バイオレンスアクションを撮っても初期作品とは同じものにはならないはずだという期待もありました。
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老舗暴力団・花菱会の若頭・西野(西田敏行)と若頭補佐の中田(塩見三省)。実力派俳優たちの老練なやりとりは大きな見どころ。
■『アウトレイジ』に科せられた高いハードル ──北野映画初出演組を中心にした多彩なキャスティングも、『アウトレイジ』シリーズならでは。  それまでの北野監督は、色のついた俳優を起用することをあまり好みませんでした。自分の言うとおりに役者は動いてほしいと考えていたようです。それもあって、寺島進や大杉漣さんといった北野組と呼ばれる常連俳優たちをいつも起用していたんです。ですが、いろんな作品を撮ってきたことで北野監督はどんな俳優が来ても充分にやれるはずだという読みがこちらにはあり、『アウトレイジ』は北野組ではない俳優を使いましょうと提案しました。ビジネス的に前3作が成功しなかったということも、プロデューサーとして大きくありました。『アウトレイジ』がもし失敗したら、監督生命が危ぶまれる……くらいの危機感がありました。4作連続でリクープできなければ、メディアが“世界のキタノ”と持ち上げても、ビジネスパートナーたちはパートナーシップを解消してしまう。そうなれば、北野監督は好きなように映画を撮ることもできなくなる。『アウトレイジ』に関しては、私は観客動員100万人をボーダーラインとして考えていました。そのくらいの大ヒットじゃないと、過去3作のマイナスイメージを払拭できないと、スタッフ全員にハッパを掛けていたんです。いざ、劇場公開してみると観客動員は80万人程度でした。ヒットはヒットなんですが、私の設定していた目標値には達していなかった。そこで、たけしさんには「大友は生きているというアイデアはどうですか? 大友の死体は映していませんし」と私から持ち掛けて、『アウトレイジ』のDVDがリリースされるタイミングで、続編製作を正式発表することでヒット感を打ち出しました。その甲斐あって、『アウトレイジ』のDVDセールスは伸び、その勢いが第2作『アウトレイジ ビヨンド』へと続いたんです。 ──北野監督と森プロデューサーには長年の信頼関係があるわけですが、それでも「大友は生きている」というアイデアを切り出すタイミングは気を使ったんじゃないですか?  もちろん、そうです。下手なタイミングで切り出せば、一蹴されてしまう可能性もありました。でも、たけしさんにも思うところがあったんだと思います。「大友が生きているなら、こういうストーリーになるな」とアイデアを膨らせてくれました。その結果、『ビヨンド』は第1作を越える興収結果を残し、『ビヨンド』で終わってもよかったんですが、今度は北野監督が乗って、「次は大友が韓国へ逃げて……」と3作目まで作ることになったんです。まぁ、すぐに『アウトレイジ 最終章』を作るのではなく、一度違うベクトルに振ったほうがいいだろうと思い、たけしさんがネットで発表した短編小説『ヤクザ名球会』を『龍三と七人の子分たち』(15)として映画化することにしました。幸い、こちらもうまくヒットすることができました。 ──北野監督ほどの才能と実績とネームバリューがあっても、常に数字を残さなくてはいけない時代ですね。  やはり、シネコンというシステムの中では、興行成績というものが中心になっています。『HANA-BI』(98)の頃はアートハウス系でロングラン公開され、口コミで動員することができました。『HANA-BI』を1年間にわたって上映し続けた映画館もあったほどです。海外の映画祭で受賞したことで宣伝費も使わずに済みました。でも、そういったアートハウス系の映画館はほとんど消えてしまい、今はシネコンで上映するしかありません。ある意味、シネコンは残酷な世界です。公開初週の土日にどれだけ観客動員できたかで、公開期間も決められてしまう。宣伝費も『HANA-BI』の頃に比べて、10倍必要になっています。そんな中で、ただ作家性を重視した作品を撮っても、自己満足で終わってしまうことになってしまう。シネコンに作品を掛けるということは、メジャー指向で大量動員することが前提となっています。『HANA-BI』や『座頭市』くらいまでは海外マーケットもそれなりの市場だったんですが、今はアジア映画が海外で占める市場はとても縮小されています。嫌だと思っていても、日本の大量動員システムの中で勝負し、勝ち残っていくしかないんです。エンターテイメントに徹しないと、この国では映画を撮ることはできません。海外でインタビューを受けると「なぜ、北野監督は今もテレビ出演を続けているのか?」と質問されることがありますが、今の日本では映画を撮っているだけでは食べてはいけないからなんです。よっぽど慎ましい生活にすれば別でしょうけど。そういったことも含め、マネジメントも考えざるをえない。当然、たけしさんも年齢を重ね、テレビの世界では新しい人間も出てくる。今後、映画監督としてタレントとして、どう続けていくかは大きなテーマですね。 (取材・文=長野辰次/後編につづく) ●森昌行(もり・まさゆき) 1953年鳥取県生まれ。テレビ番組製作会社でADとして過ごし、最初にチーフディレクターを務めたバラエティー番組『アイドルパンチ』(テレビ朝日)をきっかけに、司会のビートたけしと親交を深める。88年の「オフィス北野」の設立に参加し、92年から代表取締役社長に就任。89年の北野監督の監督デビュー作『その男、凶暴につき』から全ての北野作品をプロデュースしている。また、例年11月下旬に開催されるアジアを中心にしたインディペンデント系の映画祭「東京フィルメックス」の運営も手掛け、若手映像作家の育成にも取り組んでいる。
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『アウトレイジ最終章』 監督・脚本・編集/北野武 音楽/鈴木慶一 撮影/柳島克己 照明/高屋齋 出演/ビートたけし、西田敏行、大森南朋、ピエール瀧、松重豊、大杉漣、塩見三省、白竜、名高達男、光石研、原田泰造、池内博之、津田寛治、金田時男、中村育二、岸部一徳 配給/ワーナー・ブラザース映画、オフィス北野 R15+ 10月7日(土)より全国ロードショー (c)2017『アウトレイジ最終章』製作委員会 http://outrage-movie.jp

『アウトレイジ 最終章』北野武監督が明かす“シリーズ完結”のワケ「映画よりも現実のほうが……」

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 北野武監督の最新作『アウトレイジ 最終章』が、いよいよ10月7日に公開となる。ありがたいことに、筆者は数社からの依頼を受け、北野監督に今作についてのインタビューをさせていただいた。  なぜ、3作目を最終章にしたのかという筆者の問いに対し、北野監督は「本当は世界戦争までやろうと思っていたけど、9・11の米国同時多発テロで、映画や小説は、現実にはかなわないと思った。ツインタワーにジャンボ機が突っ込んだ映像が、映画をはるかに超えていたのと同じように、今年9月12日に起こった、任侠山口組の組員が神戸山口組に射殺された事件はすごかったな。撃たれた組員が『撃ってみんかい!』だもん。マシンガンってウワサもあるじゃん。やっぱ、映画よりも現実のほうがすごい。芸術性とかエンタテインメントを軸にする映画に、暴力を絡ませるのは時代錯誤じゃないかと感じて」と自身の見解を述べた。  その上で「『アウトレイジ』(10年)や『アウトレイジ ビヨンド』(12年)でいっぱい死人が出た。死んだやつをもう1回出すわけにはいかないから、役者もいなくなっちゃうわけ。3部作でちょうどいいんじゃねぇかと」と、理由に付け加えた。  また筆者は、1・2作目共通して北野監督が女性を描かないことに対し、違和感を持っていた。その理由を聞くと「どうだっていいんだよ。いらねーよ、女なんか。ヤクザ映画に女を使うのはおかしいって。『アウトレイジ』に姐さん出てきたって、画として全然ハマんないもん。女を使うのは『極道の妻たち』だけで十分だよ」と一蹴されてしまった。 『アウトレイジ』シリーズには北野監督自らも出演しており、大友組組長という役どころを演じている。その大友組組長の魅力とともに、最終章の見どころを聞いてみた。 「大友組組長だった大友は韓国の済州島に渡り、日韓を牛耳る大物フィクサーの元に身を寄せている。成り上がることも考えず、義理を果たすことだけを大事にしている昔気質の叩き上げのヤクザが大友。自分が不義理をすれば指詰めで落とし前をつけるし、親分や兄弟分がやられれば復讐に燃えて、やっちゃいけないことまでやるような。その一方で、カネ、カネ、カネで急に成り上がったヤクザもいて、最終章ではその対比も出ていると思うよ」  ちなみに、ニューヨークで役者修行していた筆者の次男(ヒロ・ホンダ)も、“日韓の大物フィクサーに仕える英語が堪能な秘書”という端役で出演する。花菱会の若頭役の西田敏行が、アドリブで「今度は英語かよ」と笑いを誘うシーンに登場しているので、ぜひチェックしていただきたい。 『アウトレイジ』は今回の最終章で幕を閉じることとなるが、いつか北野監督が手を替えて、再びヤクザ映画を制作してくれることを期待したい。 (文=本多圭)

海外で受賞、スタッフ受けも上々……映画監督・齊藤工が“第2のキタノ”になる日

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「いまや俳優だけでなく、監督としてもブレーク間近ですよ。先日も、第20回上海国際映画祭でアジア新人賞部門最優秀監督賞を受賞しましたし、業界では“第2の北野武”との声も上がっているほどです」(映画関係者)  現在公開中の映画『昼顔』も好調の斎藤工。俳優としてのブレークは言うまでもないが、「齊藤工」名義で長編映画監督デビューを果たした彼は、“映画監督”として評価されていることを相当喜んでいるという。 「もともと彼は、俳優よりも制作を志望していたくらい、映画好きなんです。実際、今回賞を獲った映画『blank13』に、高橋一生、松岡茉優、リリー・フランキーなどそうそうたるメンバーがそろったのも、彼の映画好きをみんな知ってるから。本人は昨年末のテレビ番組で、あのサンシャイン池崎のモノマネを披露したくらい気さくな人柄ですから、好かれるんでしょうね。芸人さんとも仲がいいですし、スタッフともフランクに意見交換しているみたいなので、現場はやりやすかったと評判ですよ」(芸能事務所関係者)  俳優兼映画監督といえば、真っ先に北野武の名前が挙がるが、それに続く人は、いまだに出てきていない。 「大御所でいうと役所広司さん、竹中直人さん、津川雅彦さんが監督をされてますが、北野さんほどのヒット作はありません。中堅でも伊勢谷友介さん、オダギリジョーさんらが何本か撮ってますが、評判はイマイチでした。俳優としては向井理さん、玉木宏さん、玉山鉄二さんら色気あるイケメンがライバルどころですが、監督としては、俳優陣では抜きんでていますね」(広告代理店関係者) “世界のキタノ”に続けるか――。

海外で受賞、スタッフ受けも上々……映画監督・齊藤工が“第2のキタノ”になる日

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「いまや俳優だけでなく、監督としてもブレーク間近ですよ。先日も、第20回上海国際映画祭でアジア新人賞部門最優秀監督賞を受賞しましたし、業界では“第2の北野武”との声も上がっているほどです」(映画関係者)  現在公開中の映画『昼顔』も好調の斎藤工。俳優としてのブレークは言うまでもないが、「齊藤工」名義で長編映画監督デビューを果たした彼は、“映画監督”として評価されていることを相当喜んでいるという。 「もともと彼は、俳優よりも制作を志望していたくらい、映画好きなんです。実際、今回賞を獲った映画『blank13』に、高橋一生、松岡茉優、リリー・フランキーなどそうそうたるメンバーがそろったのも、彼の映画好きをみんな知ってるから。本人は昨年末のテレビ番組で、あのサンシャイン池崎のモノマネを披露したくらい気さくな人柄ですから、好かれるんでしょうね。芸人さんとも仲がいいですし、スタッフともフランクに意見交換しているみたいなので、現場はやりやすかったと評判ですよ」(芸能事務所関係者)  俳優兼映画監督といえば、真っ先に北野武の名前が挙がるが、それに続く人は、いまだに出てきていない。 「大御所でいうと役所広司さん、竹中直人さん、津川雅彦さんが監督をされてますが、北野さんほどのヒット作はありません。中堅でも伊勢谷友介さん、オダギリジョーさんらが何本か撮ってますが、評判はイマイチでした。俳優としては向井理さん、玉木宏さん、玉山鉄二さんら色気あるイケメンがライバルどころですが、監督としては、俳優陣では抜きんでていますね」(広告代理店関係者) “世界のキタノ”に続けるか――。

「帰れ!」と一喝……ビートたけし“ラッスンいじめ”に込められた8.6秒バズーカーへの思い

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『ラッスンゴレライ』よしもとアール・アンド・シー
 お笑い界の“ラッスンいじめ”に微妙な変化が生じている。「ラッスンゴレライ」で大ブレーク中のお笑いコンビ・8.6秒バスーカー。若年層には大人気だが、年齢が高くなるにつれ、その評価は辛口だ。お笑い界でも「何が面白いの?」「どうせ一発屋」という風潮が蔓延しており、ダウンタウンの松本人志をはじめ、多くの先輩芸人がその芸風に苦言を呈していたことは当サイトでも再三報じてきた。  そんな“ラッスンいじめ”の急先鋒と言えば、ビートたけしだ。かつて自身のネタ見せ番組に8.6秒バスーカーが出演した時は、制限時間を待たずして強制終了させ「バカ大学の文化祭」と切り捨てた。  そんなたけしが4月27日放送の『しゃべくり007』(日本テレビ系)にゲスト出演。孫娘の話になった際、MCの上田晋也から「もしもお孫さんが彼氏連れてきたらどうします? ラッスンゴレライラッスンゴレライって」と振られると、たけしは「殺すね」と即答。続く「たけしが会いたくない人」というコーナーでは、8.6秒バズーカーがリベンジのため登場。再びネタを披露したものの、たけしはクスリとも笑わず、「帰れ!」と、またもや一喝した。  それほど嫌っているのか…と思いきや、番組関係者によると「たけしさんは番組終了後も(8.6秒バスーカーの)2人にアドバイスを送っていました。たけし=ラッスン嫌いというのはネタ。というより、業界で彼らの生き残り策を考えた結果、変に持てはやすのではなく『いずれ終わる』という意識のもと、ぞんざいに扱うことにしたようです。“ラッスンいじめ”ではなく“ラッスンいじり”に変わりつつある」と話す。  2人はテレビの前では「休みがない」「ギャラが3倍になった」など“天狗発言”をかますことはあるが、裏では「礼儀正しい、というか、常に周囲にヘコヘコしている(笑)。素人が間違ってブレークしてしまった感じ」(お笑い関係者)という。  それだけに、新たな芸風として“いじられキャラ”を浸透させようというのだ。 「理想は『そんなの関係ねぇ!』で大ブレークしたあとも、しぶとく生き残っている小島よしおさんでしょうね。彼も元来の性格のよさから、先輩にかわいがられている」とは、ある放送作家。大先輩の“ラッスンいじり”を2人はモノにできるか――。

高倉健出演“幻の企画”『ヤクザ名球会』と『龍三と七人の子分たち』に北野武監督が込めた思い

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 北野武監督の17作品目『龍三と七人の子分たち』がいよいよ4月25日に公開される。「金無し、先無し、怖いモノ無し! 俺たちに明日なんかいらない!! ジジィが最高!!」というキャッチフレーズのこの作品は、元ヤクザのジジィたちが、オレオレ詐欺集団のガキどもに、ジジィのパワーを見せつけ、成敗を加えるという内容だ。  『アウトレイジ』『アウトレイジ ビヨンド』の前2作でも、男の哀愁を漂わす“キタノブルー”は健在だった。北野映画を見る側は、そのイメージを脳裏に焼き付けているだけに、『龍三と七人の子分たち』の試写を見た瞬間、まず映像の明るさに戸惑った。同時に「ここは笑っていい場面なのか?」と迷うこともあった。  この映画、お笑い・コメディ映画だ。北野監督は「主演に起用した藤竜也さんも、やっているうちにお笑いだと気がついたよ。まじめな俳優がまじめにやってるから面白いんだよ。若い女性たちにも“おじいちゃんたちがかっこよくてかわいい”と評判がいいんだよ」と、幅広い層に楽しんでもらえる本作に北野監督はヒットの予兆を感じ取っているようだ。  10年くらい前から、北野監督は「年を取った元ヤクザたちが、世直しをするために立ち上がる“ヤクザ名球会”という映画を作りたい」と言っていた。その頃、故・高倉健さんから「タケちゃん、一緒に映画を撮ろうよ」と声をかけられていたときだっただけに、監督が健さんをキャスティングしようと考えていたことは想像に難くなかった。だが結局、“ヤクザ名球会”の名球会という固有名詞が使えないことから、この話は先送りになった。  その後、『アウトレイジ』『アウトレイジ ビヨンド』が制作されて、大ヒット。その最中に世の中はオレオレ詐欺の被害者が急増。深刻な社会問題になってきた。北野監督は、“ヤクザ名球会”にかわって、平均年齢72歳の超ベテラン俳優たちを起用して、オレオレ詐欺集団に立ち向かう元ヤクザたちの奮闘記である『龍三と七人の子分たち』を制作した。「サンデー毎日」(毎日新聞)に北野監督への取材を依頼された筆者に、監督は映画製作の動機について、こう語った。 「高齢化社会だよね。今度のオレの映画の主要キャストの平均年齢も72歳。映画の内容は、子どもには怒られるし、病院ではのけ者にされ、オレオレ詐欺に引っかかった老人たちが、『頭きた。ガキなんかに負けるか』って、みんなで組んで世直しするっていうもの。なぜ、そういう老人ものを作ったかといえば、最近『なんで老人の党と言うか、老人だけの政党がないんだ』と不思議に思っていたんだよね。いまやわれわれ団塊の世代が、日本の高齢者の半数を占めるわけなんだから、本気で政治参加すれば、第一党になる可能性もあるわけなのに。ただ、団塊の世代が一番よくないのは、数は多いけどつるまないんだよね。つるんだのは安保闘争ぐらいなもんだよ。オイラの時代はバカはバカで、みんなから相手にされないし、つるむことはなかった。子ども時代に『みんなで仲良くしましょ』と教えられていないから。仲良くしましょと言い出したのは、オイラのあとの世代からでしょ。人との付き合いが悪いんだよね。ただ、老人は老人でつるまないと。つるむことで大きな力を発揮しないと。いつまでもゴミ扱いされたままじゃ、しょうがないでしょ。年寄りも団体とか政党を作って、若い世代に対抗しなきゃ、人数だったら負けないんだから。議員をドンドン送り出して老人に有利な社会にしないと。『年寄りがわがまま放題の明日の見えない社会に』ってね」  『龍三と七人の子分たち』は明日がない老人たちが大暴れするコメディ映画。それは、年寄りたちへのエールであると同時に、明日を背負う世代たちへの喝でもあるという、北野監督流のパラドックスだ。大ヒットに期待したい。 (文=本多圭)

『龍三と七人の子分たち』俳優・藤竜也に聞いた「“ジジイ”になるって、どうですか?」

fujitatsuya041701.jpg  年を重ねる楽しさがあるのなら、こんな老後も悪くない!? 北野武監督の最新作『龍三と七人の子分たち』は、引退して寂しい老後を送っている元ヤクザの“ジジイ”たちの物語だ。オレオレ詐欺に狙われたのをきっかけに、子ども、いや孫ほど年の離れたチンピラたちに逆襲を仕掛けるジジイたち。スカッとする結末を迎えるのか、それとも寄る年波には勝てぬのか。北野監督ならではのブラックユーモアがたっぷり詰まった、もうひとつの『アウトレイジ』だ。  博打狂いのマサ(近藤正臣)、戦争に行ったこともないのに自分を特攻志願兵だったと思い込んでいる“神風のヤス”(小野寺昭)、震える手で拳銃を握る“早撃ちのマック”(品川徹)ら血気盛んな元ヤクザを束ねるのは、70歳にして再び組長となった龍三親分だ。演じるのは映画『私の男』(2014年)での好演も記憶に新しい、藤竜也。渋い、セクシーといった従来イメージを覆す“おじいちゃん”を、驚くほど楽しそうに演じている。実のところ、男性にとって年を重ねることはどういった実感があるのか。話を聞くために取材に赴くと、「タブレットで毎日サイゾーを見てるよ」といううれしい一言からインタビューは始まった。 ――北野監督からオファーがあったときは驚かれたそうですね。 藤竜也(以下、藤) オファーがあったとマネジャーから聞いたときは、そんなはずはないだろうって思いました。「そのうち映画に出してやるから金振り込め」っていう“出てくれ詐欺”なんじゃないの、って思いましたよ(笑)。台本が届いて、やっと信じられましたね。 ――劇中でも、龍三にオレオレ詐欺の電話がかかってきますしね。  台本を読んだだけでもおかしくてね。詐欺じゃないかという不安と、こんなジジイばっかりで映画になるのかっていう不安。さらにもうひとつ、撮影が終わるまでにみんな無事でいるんだろうかという不安(笑)。監督も「誰かの遺作にならなきゃいいけど」なんておっしゃってたけどね。今のところみんな元気にやってるので、「あとは公開日の舞台あいさつまで頑張んなきゃな」って励まし合ってますよ。 ――藤さんといえば、撮影数カ月前から現地に住むといった、入念な役作りに関する逸話があります。今作のキャラクターは、どのように作っていったんですか?  今回は、監督が「白紙で来てくれ」とのことだったんです。今までギャングやヤクザは何度もやっているのもあって、現場で監督の演出に従ってやっただけですね。確かに役によっては役作りを一所懸命やるんです。手に職のある人の役なら、それなりに見えるように術を会得すると、なんとなく説得力が出てくる。科学者の役をやったときは悩んだけど、その人と家族のドラマを考えた。そうやって習ったり勉強したりするのは、もともと好きなほうですね。 ――役に応じて、準備の仕方を変えるんですね。  そう。僕の一番のモットーは、楽しんでやること。楽しめない仕事はしたくない。今回は、「監督の言う通りにやること」を楽しみました。監督の一言で方向性がわかるので、修正しながら作っていきましたね。でも今考えると……北野さんというのは吸血鬼だね。僕らの持てる生命力や技術を、余すところなく吸い取ってくれる。ありがたい吸血鬼様だなと思っていました。 fujitatsuya041702.jpg ――龍三たちの乗ったバスが商店街を暴走するシーンでは、藤さんたちも実際にバスの中に乗ってらっしゃったんですよね。怖そうでしたが……。  ううん、楽しかった。 ――笑顔で即答とは(笑)。  運転してるのはプロの方でしたから、ジェットコースターのように楽しみながら乗ってましたよ。僕が座っていた側のガラスが割れてしまったというハプニングはありましたけど、それでも楽しかったんですよ。 ――「楽しかった」とおっしゃるところが、藤さんらしく思えます。  ただ、人が好きなだけなんですよ。人の話を聞くのも好きだし。僕はいつも、自分はワン・オブ・ゼムだって思ってる。多くの中のひとりと意識すると、周りの人たちの存在がとても大きくなって、いろんなことに興味が向く。話を聞いちゃおう、なにか習っちゃおうってね。僕自身には何もないし、こうやって取材のときにしゃべらせてもらえれば十分ですね。 ――ちなみに、サイゾーを見てくださっているのはどうしてですか?  いつまでも野次馬でいたいんですよ。俳優の仕事は虚構の世界で、僕らはその中心にいる。それだけで十分に満足できるし、その仕込みをするためには普段から“人”を見ていなきゃいけないから。僕もいろんな人を見て、吸血鬼になりたいんです。 ――その好奇心、野次馬根性が、藤さんの若さの秘訣なのかもしれませんね。  お金と時間がうんとあっても、好奇心がないとつまらない。どんなことにも飽きないためには、常に自分を空っぽにしておくこと。ほかのものが入ってくる余地を、たくさん作っておくようにはしていますね。 ――そう思えるようになるのも、経験値ゆえですね。  年を取ってよかったことは、素直になれること。たとえば女性に「かわいいね」って平気で言える(笑)。言われたほうも相手にしないでしょ。若いときは意識しちゃって言えないし、言ったら言ったで変に受け止められてややこしくなっちゃったりするけど、年寄りなら「どうもありがとう」って言ってもらえる。失礼なことを言っていいというんじゃなく、素直にいいと思ったことを言える、というのは年を取ってよかったことですよね。 ――逆に失ったものというと?  やっぱり若さ。体の柔軟性とか。落ちたものを拾うだけで時間がかかるんだもん(笑)。でも、それぐらいなんだよね。ほかはそんなに変わらない。昔は、年取ったらいろんなことが変わるのかなって思ってたんですよ。だけど、自分自身はたいして変わりませんね。 fujitatsuya041703.jpg ――仕事へのスタンスも変わらないですか?  全然変わらない。いまだに慣れないんですよ。仕事を受けて台本をもらって、「この役が、はたしてできるんだろうか」って悩むところから、まず始まるんです。自分が気に入ってこれをやろうって心に決めたのに、「自分にできるんだろうか」という思いを、「できる」に変えていく作業なんです。そして撮影現場で「よーい、スタート!」の声を聞いたら、あとは競走馬みたいに一気にゴールを目指すだけ。最初のカチンコが鳴るまでは、いまだにすごく気が張りますね。だけど、そういう緊張がないとつまらないとも思う。クールにホットに。相反するものなんですけどね。 ――映画だけでも毎年のように出演作が公開されている藤さんですが、『愛のコリーダ』(大島渚監督作、76年)では実際のセックスを伴う撮影法がセンセーショナルに取り上げられ、その後2年間はオファーが来なかったという経験をされています。先が見えない時期を、どのような気持ちで過ごされていたんですか?  自分を信じ続けてました。絶対に大丈夫だって。10年だったらわからないけど、2年ぐらいだったから気持ちを持ち続けることができた。それ以上長かったら、どうなっていたかわからないけどね。 ――自分を信じるというのは、口で言うより相当難しいことですよね。  持てる力をこれだけ映画に捧げたんだという気持ちしかなかったですね。やるだけのことをやったんだ、自分を信じようと。そうすればきっと誰かが、「あいつを救ってやろうよ」って言ってくれるんじゃないかなって思ってました。それにさっき言った、自分を空っぽにして新しいことを入れる上でも大事な期間だったんですよ。つまらないことでもなんでも、むきになってやってた。遊びでもなんでも、懸命にやることって本当に大事なことなんですよ。 (取材・文=大曲智子/撮影=後藤秀二) 『龍三と七人の子分たち』 監督・脚本・編集/北野武 出演/藤竜也 近藤正臣 中尾彬 品川徹 樋浦勉 伊藤幸純 吉澤健 小野寺昭 安田顕 矢島健一 下條アトム 勝村政信 萬田久子 ビートたけし 4月25日より全国ロードショー http://www.ryuzo7.jp/ (c)2015「龍三と七人の子分たち」製作委員会 ●藤竜也(ふじ・たつや) 1941年、北京生まれ。大学時代にスカウトされ、日活に入社。62年、『望郷の海』でデビュー。76年、『愛のコリーダ』で報知映画賞最優秀主演男優賞を受賞。阿部定事件を題材にしたハードな内容ながら、国際的に高く評価された。近年だけでも、『スープ・オペラ』(10年)、『はやぶさ 遥かなる帰還』(11年)、『サクラサク』、『私の男』、『柘榴坂の仇討』(14年)など多数の映画に出演。4月9日からは、ドラマ『かぶき者 慶次』(NHK総合)に出演中。

ビートたけし、松本人志も「面白くない」……業界に蔓延する“ラッスンいじめ”

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『ラッスンゴレライ』よしもとアール・アンド・シー
 リズムネタ「ラッスンゴレライ」で人気沸騰中のお笑いコンビ・8.6秒バズーカーに逆風が吹き荒れている。といっても、世間ではなく大物芸人から「面白くない」とダメ出しが相次いでいるのだ。  8日放送のTBS系バラエティー番組『北野演芸館』では、ネタを見た“支配人”のビートたけしが「バカ大学の文化祭」と一刀両断。コンビが「ラッスンゴレライ~」と歌い始めたのも束の間、わずか30秒で幕を下ろし、ネタを強制終了させた。  これにはガダルカナル・タカも「これから多分、良くなるんですよ。あのリズムが良くなってきて“ラッスンゴレライ”の意味も分かってくるんじゃないですか?」とフォローするのがやっと。たけしは「じゃあ、次の時出そう」と最後まで素っ気なかった。  同様にダウンタウンの松本人志も先月のフジテレビ系『ワイドナショー』で言及し「別におもろくはない」と辛口コメント。続けて「これは曲ですよ。みんなやりたがる、手拍子したくなる。『ダメよ~ダメダメ』も一つの曲です」と持論を展開。“ラララライ体操”でブレークした藤崎マーケットを引き合いに出し「藤崎マーケットを最初に見たとき『大丈夫か』と思った。あれ(リズムネタ)がひとり歩きして、あれが落ち着いた後、今はネタおもろいですよ」と述べた。  お笑い界の大物2人にダメ出しされた8.6秒バスーカーの胸中は察するに余りある。だが、この業界は「売れてナンボ」の世界。一発屋だろうが、何だろうが大ブレークしたことは事実で、それを全否定するお笑い界の風潮には疑問も残る。むしろネット上ではたけしや松本に対し「おまえらの方が面白くねーよ」という声も飛んでいる。  ある放送作家も「8.6秒バズーカーの2人はリズムネタを否定され、落ち込み、このまま消えていくんじゃないかと恐怖で怯えている。そうさせたのは世間ではなく、この業界。評価してあげるところはしてもいいんじゃないか」と一石を投じる。  たけしに至っては、次に来るお笑いのブームついて、8日に行ったテレビ番組の会見で「落語」と即答。親交のある立川談春と話し合ったそうで「俺が落語家になって、引っかき回してやろうかね!」と意欲満々に宣言したが……。  「スマホ依存の若者が落語を見るとは思えない」とは、お笑い関係者。ある芸人は「若手芸人が育たない理由の1つは、“上”がつっかえているから。テレビの収録現場では、若手が常に大物芸人の顔色をうかがっている。大物芸人はちょっとボケただけで笑いが起きるけど、あんなの上司のつまらない話に愛想笑いする部下と一緒ですよ」と本音を語る。8.6秒バスーカーに一発屋のニオイがプンプンすることは紛れもない事実だが、それを良い方向に導いてあげるのも先輩の心意気ではないか。