最近ではウェブ上での展開を中心にしている漫画も増えてきたが、その中でも異彩を放つ作風で話題となっているのが『やれたかも委員会』だ。 あの時、もう一歩踏み出していたら、あの娘とやれたんじゃ……。 そんな甘酸っぱ~い思い出を『やれたかも委員会』が「やれた」のか「やれたとは言えない」のか判定するというこの作品は、新作が公開されるたびに「いや、やれただろう!」「ねーよ!」などのザ・不毛な議論がネット上でヒートアップし、作品外での盛り上がりも見せている。 有料サイトで連載され、それをまとめた第1巻が双葉社より6月28日に発売。さらに2巻に向けての制作費を募るクラウドファンディングもスタートと、紙の雑誌で連載して原稿料をもらうという形ではない、ネット発のヒット作となった『やれたかも委員会』。 ネット時代の漫画家は、どうやって生き抜くべきなのか!? そしてネット漫画で本当に食えるの? ……などなど、作者の吉田貴司氏に聞いた。(c)吉田貴司
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原作とは完全別物!? ディープすぎる『聖闘士星矢』派生マンガの世界
『聖闘士星矢』が実写映画化される――先日、こんなニュースが世間を騒がせました。あらためて紹介するまでもありませんが、『聖闘士星矢(セイントセイヤ)』とは「週刊少年ジャンプ」(集英社)で1985~90年まで連載されていた、車田正美先生による大ヒットマンガです。 リアルタイムで星矢を読んでいた、僕と同じぐらいの世代の皆さんの中には、30年の時を経て、なぜいま実写化なのか? と思う方も多いかもしれませんが、実は『聖闘士星矢』はスピンオフ作品によって、今もなお大変アツい状況なのです。今回は、そんな『聖闘士星矢』スピンオフマンガの世界をご紹介しましょう。 『聖闘士星矢』はギリシア神話をモチーフとした格闘マンガで、聖闘士(セイント)と呼ばれる少年たちが、星座を冠した聖衣(クロス)という鎧を身にまとって闘います。聖闘士には青銅聖闘士(ブロンズセイント)、白銀聖闘士(シルバーセイント)、黄金聖闘士(ゴールドセイント)という階級があり、主人公のペガサス星矢やその仲間であるドラゴン紫龍、キグナス氷河、アンドロメダ瞬たちは、最下層の青銅聖闘士でありながら、友情・努力・勝利というジャンプ的ご都合主義を武器に、本来は絶対にかなわないはずの白銀聖闘士、黄金聖闘士を打ち倒していくのです。 作品中で一番の人気コンテンツといえるのが、12星座を冠した黄金聖闘士たち。全員が最強レベルの戦闘力を持つというのもさることながら、どいつもこいつもキャラのクセが強すぎるのが魅力です。蟹座はクズ野郎だし、魚座はオカマ野郎だし、牡牛座はデブだし、天秤座はジジイだし、双子座は二重人格だし……とにかく個性の宝庫。聖闘士星矢ブーム全盛期の頃、黄金聖闘士のキャラを自分の星座になぞらえるのがはやったため、蟹座や魚座の人は非常に肩身が狭かったのです。ちなみに僕は魚座ですが、3月生まれの自分をこれほど呪ったことはありませんでした。 そんな一世を風靡した聖闘士星矢のスピンオフマンガですが、現在これだけの作品が出ています。 『聖闘士星矢 EPISODE.G』『聖闘士星矢 EPISODE.G アサシン』『聖闘士星矢 THE LOST CANVAS 冥王神話』『聖闘士星矢 THE LOST CANVAS 冥王神話 外伝』『聖闘士星矢 NEXT DIMENSION 冥王神話』『聖闘士星矢 セインティア翔』『聖闘士星矢Ω』 いかがでしょう? 皆さんの想像以上の作品数ではないでしょうか。しかも、これらの作品の多くが長期連載となっているのです。すごいことですね。 ちなみに派生作品のほとんどは車田先生の作画ではない上に、やたらと黄金聖闘士推しなのが特徴です。タイトルに冠されている星矢に関しては、ほぼ脇役扱い、白銀聖闘士に至っては完全に空気です。 というわけで、スピンオフ作品の中で特に読んでおくべき作品をピックアップしてご紹介しましょう。 ■『聖闘士星矢 EPISODE.G』(原作:車田正美 作画:岡田芽武)『聖闘士星矢 1』(集英社)
聖闘士星矢スピンオフマンガの元祖にして、ちょっとスピンさせすぎだろという仕上がりなのがこの『エピG』です。 Gとはもちろん、みんな大好き黄金聖闘士(ゴールドセイント)のG。黄金聖闘士・獅子座のアイオリアが主人公の作品なのですが、そういった設定以前に画が原作とは完全に別物になっているのがツッコミどころです。典型的少年マンガな車田画の原作に対して『エピG』では、目のパーツが顔の半分を占め、体が枝のようにひょろひょろのガリもやしな聖闘士ばかりです。正直、最初は違和感しかないのですが、これに慣れるとクセになってきます。 ■聖闘士星矢 THE LOST CANVAS 冥王神話(原作:車田正美 作画:手代木史織)『聖闘士星矢EPISODE.G 1』(秋田書店)
『THE LOST CANVAS~』(通称LC)も少女マンガタッチのため車田先生の画の雰囲気とは違いますが、『エピG』ほどの強烈な違和感はなくマイルドで安心して読むことができます。落ち着いて読める、星矢スピンオフマンガといえましょう。 ストーリーはやはり黄金聖闘士がメインですが、原作より243年も昔の前世代の聖闘士たちが活躍する作品となっています。聖闘士は歌舞伎役者の襲名制のごとく、星座ごとに世代交代が行われるのです。例えば魚座のオカマ野郎・アフロディーテの前にもちゃんと先代、先々代の魚座の聖闘士がいて代々受け継がれてきたのです。三代目 J Soul Brothersみたいな感じでしょうか(微妙に違う?)。 ちなみに、よく似たタイトルの『聖闘士星矢 NEXT DIMENSION 冥王神話』(通称ND)という作品があるのですが、こちらは本家の車田先生が描いている正真正銘の星矢続編マンガのため、違和感は限りなくゼロです。当たり前ですが、やっぱり星矢には車田画が一番フィットします。 ■『聖闘士星矢 セインティア翔』(原作:車田正美 作画:久織ちまき)『聖闘士星矢THE LOST CANVAS冥王神話 1』(秋田書店)
元来、聖闘士は女人禁制、もし女子が聖闘士になるのであれば、仮面をかぶり、女であることを捨てなければならないという厳しい掟があります。原作では、魔鈴さんとかシャイナさんといった仮面をかぶった女聖闘士が悲劇のヒロインとして扱われていました。 しかし、このルールには例外がありましてな……というまさかの後付け設定により、顔出しした美少女聖闘士「聖闘少女(セインティア)」が大活躍するマンガが爆誕! セーラームーンのようなノリで楽しめます。 ■『聖闘士星矢 EPISODE.G アサシン』(原作:車田正美 作画:岡田芽武)『聖闘士星矢セインティア翔 1』(秋田書店)
タイトルの通り、スピンオフ作品である『エピG』をさらにスピンオフさせて、もはやハンドスピナーみたいな回転力を誇る続編がこの『エピGアサシン』。前作をはるかに上回る超ヤバイ画で、最も異形の聖闘士星矢派生作品となっています。 画はとにかく過剰なまでにキラキラしています。豪華・全ページフルカラーでキラッキラ。キラキラしすぎて、読むのにブルーライトカット眼鏡が必要なレベルです。そして、設定がやたらと現代的。 バトルする場所が新宿西口の地下駐車場や池袋のサンシャイン近辺で、もはやギリシア感はゼロ。かつて活躍した聖闘士達は小宇宙(コスモ)が燃え尽きてしまったらしく、アンドロメダ瞬は練馬で医者やってるし、キグナス氷河は墨田区の飲み屋でバーテンをやっています。星矢は赤いパーカーのフードをかぶったメンタル病みまくりの兄ちゃんだし、「先生が来てくれるなンてッ!!」とか小池一夫風のセリフ回しまで出てくるし……。タイトルでは星矢のスピンオフ作品だとわかっていても、脳がしばらくそうだと認識できません。 *** というわけで、ディープすぎる聖闘士星矢スピンオフ作品の世界をご紹介しました。かつて「ジャンプ」で『聖闘士星矢』を愛読していた皆さんも、当時を思い出しながら、星矢が今どれだけ進化しているか確かめてみてはいかがでしょうか? そして、どうせ星矢スピンオフ作品に手を出すなら、スピンオフの究極系である『聖闘士星矢 EPISODE.G アサシン』まで、ぜひ読んでみてください。別物すぎて腰を抜かしますよ。 (文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん<http://ablackleaf.com/>) ◆「ザオリク的マンガ読み」過去記事はこちらから『聖闘士星矢EPISODE.Gアサシン 1』(秋田書店)
ウェブ漫画バブルの韓国から黒船来航! 日本漫画風アレンジで、ヒットの予感?
一見すると、普通の漫画のようにも思えるが、よく見るとちょっとおかしい。6月初め、そんな漫画が、「BookLive!」や「LINEマンガ」をはじめとする電子コミックサイトに掲載された。タイトルは、『24時のイタズラな彼女』だ。 大企業の競争社会になじめず会社を辞め、彼女からバカにされながらも、コンビニを経営する主人公のマコト。そんなコンビニにバイトで応募してきた破天荒な不良少女・セナが、マコトと彼女との間に割って入り、混乱を巻き起こしていくラブコメ風の漫画だ。テンポも良くて画力も高いのだが、どうにも読んでいて違和感が拭えない。 まず、オールカラーという点が引っかかる。『ドラゴンボール』のような人気作を色塗りするならまだしも、通常、新規連載の作品をカラーで仕上げることなどはない。コストもかかるし、手間もかかるためだ。『24時のイタズラな彼女』
女子高生がリュックサックを背負い、スニーカーを履いている。オールカラーだ
そして、漫画の描写もおかしい。女子高生は制服を着ているのに、その靴がローファーではなくてスニーカーだったり、登場人物たちがLINEではなくてカカオトークでやりとりしていたり、主人公の男性が左ハンドルの車に乗っている。どうやら、ここは日本ではなさそうだ。 それもそのはず、この漫画は韓国漫画であり、それを日本風にアレンジしたものだったのだ。版元のTOPCOMICS JAPANに問い合わせてみると、おそらく韓国の方なのだろう、癖のある日本語ながらも丁寧に対応してくれた。 「この作品は、韓国で『コンビニのセッピョル』というタイトルで連載中です。韓国では連載半年ながら、月間300万PV以上、総PV数が2,550万超の大人気作です。韓国と中国ではドラマ化の話も進んでいます。今回、この漫画を日本にも広めたいと考え、日本の漫画形式に編集し直したんです」(担当者)この寄り目の少女がヒロイン。毎回、コンビニで騒動を起こる
■縦スクロールの漫画を無理やり日本漫画に変更 韓国では紙文化が2000年代前半には廃れ、その煽りを食らい、漫画文化も虫の息になった。しかし、スマホの隆盛とともに、2000年代後半から「WEBTOON」と呼ばれる漫画文化が盛り上がる。日本漫画とは違い、オールカラーで、1コマずつ縦に読む形式の漫画だ。この『24時のイタズラな彼女』も、もともとはそんなWEBTOON形式のカラー漫画だったのだという。 「『24時のイタズラな彼女』の作家さんは1コマずつ、縦に並べて描いています。それを日本式ページに組み直すのは大変でした。それから、登場人物の名前も悩みました。韓国人の名前だと頭に入りにくいという意見を頂いたので、日本っぽい名前に変更しました。なるべく読者が読む上でのストレスをなくしたいと考えたからです」(同) それは、ほとんどゼロから構築するようなものだったという。 「韓国では今、WEBTOONバブルが起こっていて、年間1億円以上を売り上げる作品がいくつも生まれています。今回、このようなWEBTOON形式の漫画を完全な日本漫画風に加工したのですが、これは弊社が初めてのケースでしょう。ですが、もしこの漫画が日本の読者に受け入れられるようでしたら、きっと今後、韓国の人気作が日本漫画風に加工されていくと思います」(同) 韓流ドラマは日本でも一大ブームを巻き起こしてきた。しかし、この漫画大国である日本において、果たして韓国漫画は受け入れられるのだろうか? 『24時のイタズラな彼女』は現在、各サイトで6話分のすべてが無料公開中だ。その評価は各読者に委ねたい。 ●LINEマンガ https://manga.line.me/book/detail?id=0027h9odもともとのWEBTOON形式の漫画素材。これを加工したのだという
ウェブ漫画バブルの韓国から黒船来航! 日本漫画風アレンジで、ヒットの予感?
一見すると、普通の漫画のようにも思えるが、よく見るとちょっとおかしい。6月初め、そんな漫画が、「BookLive!」や「LINEマンガ」をはじめとする電子コミックサイトに掲載された。タイトルは、『24時のイタズラな彼女』だ。 大企業の競争社会になじめず会社を辞め、彼女からバカにされながらも、コンビニを経営する主人公のマコト。そんなコンビニにバイトで応募してきた破天荒な不良少女・セナが、マコトと彼女との間に割って入り、混乱を巻き起こしていくラブコメ風の漫画だ。テンポも良くて画力も高いのだが、どうにも読んでいて違和感が拭えない。 まず、オールカラーという点が引っかかる。『ドラゴンボール』のような人気作を色塗りするならまだしも、通常、新規連載の作品をカラーで仕上げることなどはない。コストもかかるし、手間もかかるためだ。『24時のイタズラな彼女』
女子高生がリュックサックを背負い、スニーカーを履いている。オールカラーだ
そして、漫画の描写もおかしい。女子高生は制服を着ているのに、その靴がローファーではなくてスニーカーだったり、登場人物たちがLINEではなくてカカオトークでやりとりしていたり、主人公の男性が左ハンドルの車に乗っている。どうやら、ここは日本ではなさそうだ。 それもそのはず、この漫画は韓国漫画であり、それを日本風にアレンジしたものだったのだ。版元のTOPCOMICS JAPANに問い合わせてみると、おそらく韓国の方なのだろう、癖のある日本語ながらも丁寧に対応してくれた。 「この作品は、韓国で『コンビニのセッピョル』というタイトルで連載中です。韓国では連載半年ながら、月間300万PV以上、総PV数が2,550万超の大人気作です。韓国と中国ではドラマ化の話も進んでいます。今回、この漫画を日本にも広めたいと考え、日本の漫画形式に編集し直したんです」(担当者)この寄り目の少女がヒロイン。毎回、コンビニで騒動を起こる
■縦スクロールの漫画を無理やり日本漫画に変更 韓国では紙文化が2000年代前半には廃れ、その煽りを食らい、漫画文化も虫の息になった。しかし、スマホの隆盛とともに、2000年代後半から「WEBTOON」と呼ばれる漫画文化が盛り上がる。日本漫画とは違い、オールカラーで、1コマずつ縦に読む形式の漫画だ。この『24時のイタズラな彼女』も、もともとはそんなWEBTOON形式のカラー漫画だったのだという。 「『24時のイタズラな彼女』の作家さんは1コマずつ、縦に並べて描いています。それを日本式ページに組み直すのは大変でした。それから、登場人物の名前も悩みました。韓国人の名前だと頭に入りにくいという意見を頂いたので、日本っぽい名前に変更しました。なるべく読者が読む上でのストレスをなくしたいと考えたからです」(同) それは、ほとんどゼロから構築するようなものだったという。 「韓国では今、WEBTOONバブルが起こっていて、年間1億円以上を売り上げる作品がいくつも生まれています。今回、このようなWEBTOON形式の漫画を完全な日本漫画風に加工したのですが、これは弊社が初めてのケースでしょう。ですが、もしこの漫画が日本の読者に受け入れられるようでしたら、きっと今後、韓国の人気作が日本漫画風に加工されていくと思います」(同) 韓流ドラマは日本でも一大ブームを巻き起こしてきた。しかし、この漫画大国である日本において、果たして韓国漫画は受け入れられるのだろうか? 『24時のイタズラな彼女』は現在、各サイトで6話分のすべてが無料公開中だ。その評価は各読者に委ねたい。 ●LINEマンガ https://manga.line.me/book/detail?id=0027h9odもともとのWEBTOON形式の漫画素材。これを加工したのだという
「死んでも契約解除できない」漫画家・佐藤秀峰がkindleを訴えた裏側を語る
今ではごく当たり前に書籍や漫画、専門書まで読めるようになった電子書籍。その一方で作家と配信側との契約トラブルが後を絶たない。勝手に商品を削除するなど、横暴ともいえる電子書籍配給側のやり口に、あの男が動いた。『ブラックジャックによろしく』や『海猿』で知られる漫画家の佐藤秀峰氏だ。 このたび佐藤氏が上梓した『Stand by me 描クえもん』では、新人漫画家の主人公にそんな業界のありとあらゆる理不尽が降りかかる。先日、kindleを運営するAmazonを提訴した佐藤氏だが、電子書籍が台頭した昨今をどう見つめるのか。 ――過去に佐藤さんが著した『漫画貧乏』を読んだ時のことを思い出しまして、あそこで扱ったことを、実際に漫画化した印象を受けました。デビュー当時から漫画家の実情を発信することに、こだわり続けている理由をお聞かせください。 佐藤秀峰(以下、佐藤) 漫画家の実情を描いているという部分は確かに共通しているかもしれませんね。自分のいる業界にまったく疑問を感じないという人はいないと思うんです。だけど、大抵は自分の名前で問題提起しませんよね。それで自分の立場を危ういものにしたくないし、漫画家だったら仕事を干されても困ります。だから、折り合いをつけていくのが大人なのでしょうが、僕は子どもなので。 ――タイトルは、佐藤さんが付けたんですか? 佐藤 そうですね。当時、『STAND BY ME ドラえもん』(2014)という映画がやっていたんで、じゃあ、「Stand by me描クえもん」でいいかくらいで。適当です。適当にやりたいんです。描き始めたのも、WEB雑誌を自分たちで作ろうと思って、そこで何か連載しようと思ったのがきっかけですね。何か描くなら私小説っぽいものが取材もいらないし楽でいいよねと。 でも、こういう題材を扱うと敵に回さなくてはいけなくなる人も出てきますし、適当を貫くのは結構しんどいんですね。 ――『描クえもん』に、どこまで実体験が含まれているんだろうかということは、この漫画を読んだ読者であれば、誰でも気になるところだと思うんです。 佐藤 フィクションが多いです。当時、僕は彼女とかいなかったですしね。作品的に考えた時に、自分の歴史だと『海猿』が連載デビューで、次に『ブラックジャックによろしく』という作品があって、それを丁寧に時間軸に沿って追っていったら、20年間の自分のことを描かなきゃいけない。ダラダラして読者が退屈だろうなとか思ったんで、『海猿』と『ブラックジャックによろしく』のトラブルをまとめてブチ込みました。 ――あと、 やっぱり『ハードタックル』かなと思いました。『描クえもん』1巻の「スポーツ漫画をとりあえず描いとけば〜」的な流れとか。 佐藤 あんな嫌な言い方はされなかったですけど、僕も担当さんに「今、スポーツものがきている」とか、「柔道漫画と卓球漫画があって、もう1本あっても載る」とか、「こういうのはあるから、描いても載らない」とか、そういうことは言われました。例えば、僕がSFやりたいんですと言っても、もう通らない。向こうがやりたいのを「いいですね」と言ってやるしかない (笑)。担当さんに「ラグビーモノで連載しよう」って言われてネームを描いたら、ある日、副編集長がやってきて「海上保安庁モノを描け」と。取材に数回連れて行かれましたが、数回じゃ何もわからない。本を読んだり自分で勉強してなんとか連載にこぎ着けて、それで評判になった頃には「アレはオレが作った」って人がワラワラ出てきて……。「アレオレ詐欺」って呼んでいますけどね。そんなことをもうちょっとわかりやすく娯楽的に描いている感じです。 ――『描クえもん』2巻以降は、大変なことになるんですか? もう既に1巻を読んで地獄だと思ったんですけど。
佐藤 そうですか? 別に殴られたり、お金取られたりはしていないし、檻の中に入れられて、死なない程度のエサは与えられているじゃないですか。檻から出ようとすると「せっかく飼ってやっていたのに逆らうのか!」ってコテンパンにされるというだけで。2巻以降が本番ですかね。ある程度、過去の自伝的な話を描き切ったところで、これからの話をしていきたいと思っています。紙を離れ、電子書籍の話に向かっていく予定です。おっさんの正体が徐々に明らかになり、人間関係も盛り上がっていって……。 ――2巻以降も楽しみですね。『描クえもん』で印象的なものとして、契約書のシーンがありますが、契約についての状況は変わっていないんでしょうか? 佐藤 僕は散々言ってきたので「あいつはうるさい」って、周囲がわかっているので(笑)。言わなくても向こうから契約書のドラフトを持ってきてくれる。出版契約でも電子配信契約でも、それを叩き台にして内容を詰めるだけなので、楽といえば楽ですね。でも、他の作家さんはどうなのかな……? 昨日もアダルト系の漫画家さんがここ(事務所)へいらっしゃったんですよ。IT系企業と執筆契約をしたそうで、「こんな契約書にハンコを押しちゃったんだけど大丈夫ですか?」ってご相談をいただきました。で、契約内容を伺ったんですけど、とても酷いですね。まず、契約期間が「著作権保護期間」なんです。その人が死んでから50年とかなんですよ。生きている限り契約解除できなくて、死んでも解除できない。 ――違法な気もしますけど……。 佐藤 行政書士に確認したんですが、問題はあるけど、双方の合意があれば違法とまでは言えないという見解でした。契約期間は今話した通りで、作品の独占的な使用を認めるって内容。しかも、印税は0%。事実上、著作権譲渡と変わらないのに、そんな言葉はどこにも書いてない。ハンコを押すとページ数千円の原稿料で作品を盗られてしまうんです。その方は、20年以上やっている方だったんですけど、そんな契約書が普通に取り交されています。昔は漫画に関わる人たちというのは出版社が中心でした。今はIT系企業が漫画アプリを作って、そこでオリジナルコンテンツを作りたいだとか、出版以外の人たちが入ってきているんで、状況はむしろメチャクチャになってきている気がします。IT系は漫画部門がうまくいかない時は、極論すれば切り捨てればいいと思っているんじゃないですかね?事業を継続していく根本的な覚悟がないから、平気で無理難題を言ってくる傾向はありますね。出版社だけの頃は、不平等な契約条件を押し付けられることはあっても、もうちょっとわかりやすかったです。 ――電子書籍のシステムが整備されてきて、収入面と経済面、環境に変化があったと思うのですが、それによって取り組み方が変わりましたか? 佐藤 お金の話をすると、去年は2億円以上を電子書籍で稼いでいます。電子書籍様々というか、紙と完全に逆転していますね。 ――紙はどれぐらいなんでしょうか。 佐藤 紙は原稿料と印税収入を合わせて、2,000万弱じゃないですかね。 去年は紙単行本が出なかったので特に低かったです。 ――2億円以上と聞いて、驚いたんですが、どのように収益を上げているのですか。 佐藤 ただ電子書籍を売るだけではダメで、キャンペーンを組んだり運用が重要ですね。今は他の作家さんの取次もやっていますので、収益としてはそちらも大きいです。電子書籍業界全体でいえば、Kindleが圧倒的に強くて、他にも対立野党がいくつかあるという感じです。各ストアからはKindleができないようなキャンペーンをやろうという提案も多いですが、そうするとKindleは大国にしかできないようなことをしてくる。少し前ですが、Amazonはマーケットプレイス出品者に、競合ECサイトより有利な価格・品ぞろえで出品させるという「最恵待遇条項」を盛り込んだ契約を結ばせていたということで、公正取引委員会が入りました。電子書籍はどうなるのかな? と見守っているところです。今、僕はAmazonに対して訴訟を提起しています。彼らは自分たちに都合が悪いことが起きると、契約条件の変更を求めてきたり、それに従わないとコンテンツの配信を一方的に停止したりします。トライ&エラーのフェーズだと言われればその通りですが、ムチャクチャですよ。海賊みたいな中間業者もウヨウヨいますし。ただ、電子書籍は未発達なシステムなだけに、やり方によっては儲かるという感じでしょうか。 ――紙と電子書籍の立場がここ10年で逆転しましたが、この先さらに10年、漫画はどのように変化すると思いますか?
佐藤 まず、販売環境について言うと、今より電子書籍のストア数は減っていくと思います。少しずつ統合されていくつか大きいところが決まってきて、「今さら新規参入してもな……」という流れになっていくのかな。そうなった時に、「Kindle一強」になると、当然、足元を見てくるでしょうし、作家や出版社にとってはつらい時代がくると思います。10年後、各ストア間で健全な競争ができる環境になっていれば良いですね。僕がAmazonを訴えるのも、彼らが憎いからじゃなく、フェアであってほしいからなんですよ。フェアじゃない業界は長続きしない。現在の紙業界の衰退は、言ってしまえば殿様商売を続けてきたツケじゃないですか。うまくやれば電子書籍の主役になることもできたのに、既得権益にあぐらをかいていたから主役を他に奪われ、結果的にコンテンツの衰退も招いた。電子書籍業界には、紙業界と同じ失敗を繰り返さないでほしいんです。電子が失敗したら次の主役は現れないかもしれない。そうなると漫画はもうダメですよね。 作家側の制作環境でいうと、先程も言った通り IT系企業の参入で契約関係が不安定になってきています。権利関係もシビアになってきていますが、原稿料が値崩れを起こしていますね。僕は新人の頃は、最低原稿料は7~8000円くらいでした。今は安いところだと1話5万円とか、もっと酷いところだと一次メディア掲載時の原稿料は0円で、書籍化された場合のみロイヤリティが配分される仕組みだったり……。経費を安く抑えられて企業は都合が良いのかもしれませんが、結果的に作品に何が起こっているかといえば、お金がないから作画にコストをかけられない、取材もできないということで、背景描写のない真っ白な原稿、作家の想像力に頼ったストーリーが増えています。お金がなくてもアイデア次第で漫画は面白くできるというレベルじゃない。世界的にエンターテインメントの質が向上している中で、漫画の質が低下しているのだとしたら、漫画はますますローカルなものになっていくんじゃないかな? のらくろからアキラまでマンガの制作コストは上がり続け、今はまたのらくろに戻っていっている。時々、僕が今20歳だったら漫画家を目指していたかな?って考えるんです。作品発表の場所が増えて、誰でも漫画家を名乗りやすくはなったけど、誰も儲かっていない。儲かっているのはごくごく一部のヒット作家のみ。若者の夢に依存して成立しているようでは先が短いでしょうね。 ――『描クえもん』は、『ブラックジャックによろしく』とか『海猿』のことを思い出して、とお話されていましたが、ちょっと前なんですか? それとも完全に現代なんですか? 佐藤 時代設定的には2010年くらいにしています。作品内でも電子書籍はもうあって、そこから5 年くらいを描き、今に追いついてその先の時代を描きます。今ここで話せないことはフィクションの中で描いていきますよ。Kindleの訴訟についても、作品内で触れるかもしれませんね。Kindleを倒すような展開になれば面白いかな? ――Kindleを倒すという前例を作ることで、他の不当な契約がなくなればいいですね。 佐藤 えーと、作品の話と現実の話が交互にくるので、スタンスの切り替えが難しいですね……。現実の話をすると、これまでは漫画家と出版社の間であまりフェアな取引きができなかったという気持ちがあるので、電子が出てきた時は、漫画家が作品を独自に運用できるって、すごく夢を感じたんですよ。でも、いろいろ仕組みがわかってくると、紙以上に がんじがらめで儲からないようにできているんですよね。「電子書籍よ、お前もか!」って。 紙と違うのは先ほども言った通り、電子書籍は未発達なシステムなだけに、穴というか水が漏れている場所がいっぱいあるんです。そこを突くとお金がドバドバと出てくるというか。僕は儲かったら割と公表するようにしているんです。「今月1億儲けました」って公表していくことで、このシステムにはこういう弱さがあるというのを周知しているイメージかな? 昨年は講談社が社員を集めて「佐藤秀峰がやっているのはこういうことだ」って説明会が開かれたそうです。僕が何か公表すると「あいつがやっているのはこういうことだ」って解説したがる人が必ず出てくるんですけど、それこそ思う壺ですね。僕が周知しているのは、実はシステムがフェアじゃないと感じた箇所だけなんです。それで何がしたいかというと、フェアなシステムに切り替えていってほしい。ストア側が自分たちだけに有利に働くシステムを作ったけど、それには穴があった。じゃあ、みんなで穴をつつけば不平等なシステムは立ち行かなくなるだろうと。僕のフォロワーが勝手にシステムを壊してくれる。 ――ここを攻めろ! と。 すごく明快な話ですね。電子書籍については聞きたいことが聞けました。お恥ずかしい話なんですが、Amazonの「Kindle Unlimited」が出てきた時は、すごくありがたいなと思ったんです。でも、本が読み放題で月額900円は、やっぱりおかしい。 佐藤 適切に運営してくれればいいと思います。今は動画やゲームが無料で観られたりプレイできるものがいっぱいある。そういう時代に漫画は一時間もかからず読み終わって500円と思うと手が出ない。読み放題に向かっていくのは自然じゃないですかね。 ――問題はあの仕組みというよりは、それを適切に運営するかどうかにあって、それを問うということですね。
佐藤 彼らは事前通告も事後報告もなくある日、商品を削除しちゃうんですよ。彼らに都合が悪くなってしまうとある日きます。 ――それが契約違反にならない契約に なっているのでしょうか。 佐藤 契約違反だというのが僕の考えですけど、ストアは「何を売るかを決める自由はある。サービスが赤字で立ち行かなくなったら、ストアは閉鎖する自由だってある。その時はコンテンツ全部の取り扱いをやめるわけだから、そういう裁量をストアは持っているんだ」って、主張してくるんじゃないかな。僕らは契約に従って適切に商品を卸しているんで、契約に従って売ってくださいよと思っているんですけど、彼らは契約を守りたくなくなったら一方的に売るのをやめてしまう。 ――違法のように聞こえます。 佐藤 独占禁止法やいろいろなものに触れそうですけど、契約書は弁解の余地があるような文言になっていますね。こちらがそれを指摘して文言の変更を求めたところで、じゃあ、契約しませんとしかならないんです。とはいえ、Kindleの売り上げは大きいですから、契約してから公正取引委員会に連絡するのが賢いやり方かもしれませんね。 ――『描クえもん』にそういうのが全部入るとかなり画期的な漫画になりますね。 佐藤 そういったことを肌で感じながら、内情がわかっている漫画家は僕しかいないと思うので、自分にしか描けない漫画が描ければいいかなと思っています。 (取材=綾門優季[青年団リンク キュイ]) Stand by me 描クえもん 1巻 過酷過ぎ!
“昭和漫画”を現代へ受け継ぐ漫画家・史群アル仙が語る、ADHDとの付き合い方
手塚治虫やちばてつや、永井豪といった漫画家に影響を受け、昭和を彷彿とさせる懐かしくてどこか哀愁漂う作風で人気の漫画家・史群アル仙(シムレアルセン)。不安障害やADHD(注意欠陥・多動性障害)など、メンタル面にさまざまな支障を抱える彼女が、自身の経験を赤裸々につづったコミックエッセイ『史群アル仙のメンタルチップス~不安障害とADHDの歩き方~』(秋田書店)を上梓した。WEB連載時から話題を呼んでいた本作だが、作品を描き上げた現在の心境と、社会的な認知が広がりつつあるADHDについて、アル仙氏に話を聞いた。 *** ――まず、本書を描こうと思った経緯について教えてください。 アル仙 知ってほしいことがある、伝えたいことがある、生きづらさを乗り越える工夫を共有したいという気持ちと、自分みたいな人間を主人公にしたらどんな漫画ができるんだろう? といった思いからです。 ――かなり赤裸々に描かれていますが、ご自身の過去を振り返ることは、つらくありませんでしたか? アル仙 前向きな気持ちが芽生えてからの執筆だったので、基本的にはつらくありませんでした。ふと強烈な出来事を思い出してつらい気持ちになった時は、本書にも登場する恩師・菩須彦(ボスヒコ)さんに助けてもらっていました。ただ、時系列を思い出す作業が一番難しくて、つらかったですね。1カ月の間に大きな出来事が連発したり、半年間何も起こらなかったりと波が大きかったので、どういうふうに描いたらいいのか悩みました。 ――この本を描く前と描いた後で、ご自身の中で変化はありましたか? アル仙 ほんの少し冷静な目線で、自分の生き方を見つめられるようになったと思います。また、漫画に描けるようにと、日々、生きづらさ対策のアイデアを考えるようになりました。 ――医師の誤診が原因でクスリ漬けにされ、体もメンタルもボロボロの「ゴミクズ時代」のエピソードはかなり強烈です。夢遊病で街を徘徊するようになったり、幻覚に襲われたり、挙げ句の果てには自殺未遂……。この時期は、どれくらい続いたんですか? アル仙 それが詳しく思い出せないんです……。漫画では印象的だったことを抜粋して描きましたが、忘れていることもあるようです。週1でボスヒコさんの絵画教室に通っていた時期だったので、ボスヒコさんやメンバーから、当時の自分の言動を聞いて思い出すこともあります。感覚としては、とてつもなく長い間だった気がします。この時期は、人としての責任感やモラルを完全に失っていました。史群アル仙氏
――そこから精神科病棟へ入院し、紆余曲折を経て、やっとADHDと診断されたわけですが、もっと早くそう診断されていたら……という思いはありますか? アル仙 小学校・中学校での生活が苦しかったので、その頃に自覚していたら、少しは違ったのかなとも思います。当時は、何度気をつけようと思っても「またできなかった」「なんでできないんだろう……」と、解決の糸口が見えなかったので。その一方で、診断されたところで、学校側も私自身も何もできなかっただろうなあ、とは思いますが……。 ――本書には「障害は免罪符にならない」と書かれていますが、初めからそのような考え方だったのでしょうか? それとも、何かきっかけがあったんですか? アル仙 ADHDだと診断されてすぐは、肩の荷が下りたような気持ちになったのですが、そのうち何かうまくいかないことがあるたびに「どうせADHDだから……」という言葉が頭をよぎりました。ADHDコンプレックスというか。しゃべっては自己嫌悪、行動しては後悔。やがて、いろいろなことをあきらめるようになってしまいました。ADHDを免罪符にして自分を甘やかして逃げて、堕落した生活を送っていました。その時、ボスヒコさんに叱られて、考え直したんです。「不得意なことはあっても、診断を免罪符にして何もかも仕方がないとあきらめていたら、どんどん何もできなくなっていく。診断は免罪符にならないし、してもいけない。不得意なことはあるけれど、できることもある。一生懸命やれば自信を持てる。可能性をあきらめてほしくないな」って。 ――アル仙さんはボスヒコさんとの出会いがきっかけでアートという喜びを知り、漫画家になりたいという夢を取り戻していきました。 アル仙 初対面の時は、体は大きいし、ただ怖い人だと思っていましたが、ハングリー精神とチャレンジ精神の塊で、とても尊敬しています。そして何より、初めて真面目に叱ってくれたことが大きかったです。今までは怒られることはあっても、ちゃんと正しく叱ってくれる人がいなかったから。そして、勇気が出ない時に、ポンと背中を押してくれるんです。 ――2014年からTwitterにアップし始めた1日1ページの漫画「今日の漫画」も、「ストーリー構成がなっとらん!」というボスヒコさんのアドバイスで始めたものなんですよね? 今日の漫画」はわずか半年でフォロワー数6万9,000人を超え、商業誌デビューのきっかけとなりましたが、ご自身にどんな影響を及ぼしたと思いますか? アル仙 そうですね、今から振り返ると、生きる意味をもらったんだと思います。幼い頃から漫画と一緒に生きて、漫画と一緒に死にたいと思っていたので、「今日の漫画」が拡散されたあの日がなかったら、商業誌デビューの際に支えてくれた方々がいなければ、私はとっくに死んでいたと思います。だから自分の命は、読者のみなさんと、支えてくれるみなさんから授かったものだと。そういう意味で「命を粗末にしてはいけない」という言葉は、本当だったんだなって。『メンタルチップス』より(以下同)
――現在、漫画家としてお忙しい日々を送っていらっしゃると思いますが、忙しすぎてパンクすることはありませんか? アル仙 執筆量自体は忙しいといえるほどではありませんが、スケジュール管理が苦手で、些細なことでも変化があるとパンクして、パニックになります。その時は、ボスヒコさんに相談し、さらにわかりやすく整理してもらって、助けてもらっています。恥ずかしながら、まだまだ試行錯誤中です。 ――アル仙さんにとって、漫画はどのような存在ですか? アル仙 漫画は私にとって、命と直結しているものです。幼い時から大人になった今まで、人生の相棒でした。対人関係が苦手でも、漫画を通してだとコミュニケーションができました。漫画は私の恋人であり、親友であり、親であり、読者との対話であり、武器であり、目です。 ――最近ではADHD関連本が多数出版されていますが、このように世間の関心が高まること、認知が広がることは好意的に捉えられていますか? ADHDという言葉だけが独り歩きして誤解を生んだり、軽く捉えられてしまうのではないかといった懸念もありますが……。 アル仙 正直に言うと、不安です。執筆中に悩むこともあります。知り合いから、「書類1~2枚と少しの問診だけで、ADHDという診断書がもらえる」というウワサを聞きました。ADHDの症状は、パッと聞いたら誰にでも当てはまるようなこともあります。「自分はADHDなんだから仕方ないだろ」と開き直る人や「あなたはADHDなんだから気をつけてよ」という人にも出会いました。また、ADHDという名称は、あくまで生きづらさを取り除くヒントだと思うので、個人の姿をしっかり見た上で診断してほしい。ADHDの認知と共に、当事者が前向きに対応できるアイデアなどが広まっていったらいいなあと思います。 ――沖田×華さんの『毎日やらかしてます。アスペルガーで、漫画家で』(ぶんか社)や永田カビさん『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』(イースト・プレス)など、ADHDやアスペルガーといった生きづらさを赤裸々に明かした告白系漫画も増えていますが、実際に読まれた本はありますか? アル仙 実は、薬局の待合室で沖田×華さんの漫画を読んだのがきっかけで、発達障害、ADHDの存在を知りました。当時、自分はADHDだと思っていなかったんですが、環境は違えど沖田さんの経験と自分の経験が重なることが多くて。笑えるけど笑えない、けど面白い。そして「自由に自分のことを描いていいんだ」と、感銘を受けたことを覚えています。 ――沖田さんも自分の障害をきちんと受け入れた上で、人生を謳歌されていますよね。それでは最後に、『メンタルチップス』をどんな人に読んでもらいたいですか? アル仙 当事者の方はもちろん、親御さんや周囲の人にも読んでほしいです。私たちは自分をコントロールするのが難しいです。自分でも予想がつかないことをやってしまったりします。そんな私たちが孤立すると、ヘタしたら私の「ゴミクズ時代」みたいになってしまうかもしれない。ADHDの人も、そうでない人も、みんな同じ人間。お互いが工夫して、協力して生きていけたらいいなと思います。 また、当事者の方には「できない」という言葉に押しつぶされないでほしいです。工夫したらできるようになることがある。できることが増えたら、生きづらさが減る。「少しずつでもいい、人生はチャレンジだ」と楽しみながら、ADHDと向き合ってほしいなと思います。生き続けるのがつらい、という言葉は否定できません。死にたいという気持ちも否定できない。だけど、1%の可能性を信じて行動を起こしたら、何かが変わるかもしれない。勝手な言葉かもしれないけど、生きることをあきらめないでほしいです。 (取材・文=編集部) ●史群アル仙Twitter https://twitter.com/shimure_arusen 史群アル仙のメンタルチップス 好評発売中!
『BOYS BE…』の玉越博幸氏が描く、AV業界の赤裸々な内情とは?
余命1年を宣告された女の子が、AV女優という道を選択して業界のトップを目指し、自分の生きてきた証しを世に残す――。そんなストーリーの漫画『余命一年のAV女優』が、6月9日より小学館のモバMAN(http://csbs.shogakukan.co.jp/book?book_group_id=12380)でスタートした。 ヒロインはAVメーカーの「ピーチ・デマンド」から単体デビューする「天月もゆ」という名前の女優。そんなヒロインが憧れるのは、超売れっ子女優の「成宮心菜」。そして、ヒロインの父親である業界の大御所監督は「ハメ撮り」が得意で、「ナイスですよ」ならぬ「ブラボーですよ」というのが口癖。どこかで見聞きしたことがあるような名前のメーカーや人物、設定ばかりのように思えるのは気のせいだろうか? 「この漫画の作画を担当しているのが、90年代に人気を博した『BOYS BE…』(講談社)の作者・玉越博幸先生です。出てくる女優さんたちが、とにかくかわいくて、そこが作品の魅力になっています。残りの限られた人生でいちずにAV界のトップを目指す、天月もゆを、ぜひ応援してほしいです」(編集スタッフの太田ぐいやさん) 『BOYS BE…』の淡いエッチ描写で青少年をドキドキさせた玉越氏が、20年の時を経て、本作ではAVという題材で、より濃厚なエロ描写に挑戦しているという。 それにしても、AV出演強要問題が世を騒がせている昨今、なぜ、こんなAV賛美にも思える漫画が作られたのだろうか? 2016年3月、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ(HRN)が、出演強要の報告書を発表して以降、AV業界は激震している。大手AV事務所の摘発をはじめ、無修正AVを制作する業者の摘発、キャンプ場で撮影した作品の摘発などが相次いだ。そして今年5月18日には、政府が全国の都道府県警にAV事案に関する専門官を配置するなど、国も本腰を入れ、AV問題に取り組み始めている最中だ。 AV業界には逆風が吹き荒れ、業界に対してポジティブなイメージは抱きにくくなっている。しかし、本作は、「今のAV事情を反映したもの」だという。 「出演強要問題って、スカウトの入り口の段階でだまされるっていうケースもあるんですけど、その一方で、AV女優をやろうって決意したものの、やってくうちに『なんで、こんなことまでやらされるの!?』といった事態に遭遇して心が折れるといった事例も、同時に問題視されています。本作が描いているのはそこです。本作の中では、こうしたAVならではの過酷な撮影が、試練となってヒロインの前に立ちはだかります。AV女優をやっていると、台本なしで、お笑い芸人のようにむちゃぶりされることだってありますし、HRNが報告書に記載したように、12リットル以上の水を飲まされたケースもあります。それは、演技ではない、ドキュメンタリー性を重視するAVというメディアの特性です。本作では、そんな撮影をめぐり、出演者と制作者サイドのバトルが描かれているんです」(原作者の井川楊枝氏) 出演強要問題で騒動となっている今だからこそ生まれた作品だという。作画の玉越氏も「AV業界のウンチクがいっぱいあって、見ると誰かに言いたくなります」と、リアルなAV業界に即した作品の魅力を語る。 ベテラン漫画家が挑戦する「2017年のAV業界内幕」漫画に注目だ。 (文=渡辺則明) ●「モバMAN」http://csbs.shogakukan.co.jp/book?book_group_id=12380表紙は遺影になっている
ぜんぜんエロくない!? 純粋な少女マンガが描く、ソープ嬢の日常『お風呂のお姫様』
関東ローカルな話で恐縮ですが、僕がよく行く「おふろの王様」というスーパー銭湯のチェーンがありまして、特に「スーパージェットバス」の泡ジェットが腰に効いて最高なんです。 今回ご紹介する作品『お風呂のお姫様』は、名前こそ似ていますが、スーパー銭湯とは全然関係なく、お風呂はお風呂でもソープランドが舞台。「ここは吉原、私はソープ嬢です」というオープニングナレーションで始まる、ソープ嬢がヒロインのマンガです。 風俗をテーマにしたマンガは世にたくさんあります。しかし、その多くはオヤジ向けの劇画誌で描かれており、エロエロでギラギラしてますよね? それに対し『お風呂のお姫様』は純粋な少女マンガ作品である、というところが珍しいのです。ソープがテーマのマンガでありながらもエロさはなく、むしろエレガントさすら漂っています。 主人公のソープ嬢、桃世(本名:青山朋美)は3年前に失踪した父親が残した借金の返済のため、母親に内緒で吉原のソープランド「ジュリエット」で働いています。そう、ワケアリなんです。 母親には広告代理店で働いていると偽りながら、日々ソープで稼いで借金返済の毎日。そして借金を返済したあかつきには、マンションを購入し、苦労が絶えない母にプレゼントする、そんなささやかな夢を持っています。イマドキ珍しい、親孝行な娘さんですよね。 こういうお仕事ですから、当然ながら、いろいろな客がいてストレスもたまります。例えば、時間を延長せず店外デートに持ち込もうとする客、難癖をつけて料金を値切ろうとする客、嬢をだまして身ぐるみはがそうとするホストくずれなどなど……。こういった面倒くさい客、セコい客に対しても笑顔とプロ根性で乗り切ります。すべてはマンション購入のために! しかし、ようやく借金を完済し、マンション購入の夢に向かって前向きに生きようとした矢先、桃世に最大の危機が訪れます。そう、DVを繰り返し、借金を作って失踪したはずの父親が、桃世の前に再び現れたのです。桃世がソープの人気嬢であるという情報をつかみ、金をたかろうとする父親。「300万円出さなければ、母親にソープで働いていることをバラすぞ」と脅迫してきます。自分の借金を娘に返済させた上で、さらに金をたかるとは、なんというクズ・オブ・クズな父親でしょうか。 金を出すことをかたくなに拒否する桃世に対し、仕事場(ソープランド)や母親のいる自宅にまで嫌がらせに来るクズ父親。ついに我慢できなくなった桃世は、夜の公園にクズ父親を呼び出し、直接交渉へ。手にはナイフを忍ばせて……。 果たして桃世は、自分の父親を殺めてしまうのか? ソープ嬢に幸せが訪れることはないのか? ラストシーンはぜひ、作品を読んでいただければと思います。 ちなみに、本作品は生粋の少女マンガだけあって、幸せとか夢とかが満載の泣けるソープ名言が数多く出てきます。最後にいくつかご紹介しましょう。 「みんな幸せになろう、私たち泡姫ですもの、きっといつか王子様が…」 「さあ仕事に戻ろう、私は私の夢を手に入れるために、できるならみんな幸せに、笑顔の未来が手に入りますように」 「私はあなたの2時間だけの恋人、ドアを出たら忘れていいの、それがこの街のルール」 最後のやつだけ、やたら現実的ですね……。結局、2時間制ってことですか。 (文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん<http://ablackleaf.com/>) ◆「ザオリク的マンガ読み」過去記事はこちらから『お風呂のお姫様』(朔本敬子/CoMax)
『HUNTER×HUNTER』連載再開も募るファンの不安……「次回作構想」発言に非難の声も
冨樫義博の人気漫画『HUNTER×HUNTER』が、6月26日発売の「「週刊少年ジャンプ」(集英社)2017年30号で連載再開することがわかった。同日には、コミックス最新34巻も併せて発売されるという。 ファンとしてはうれしいニュースだが、冨樫はジャンプ執筆陣の中でも悪名高き“休載作家”として知られる。口さがないファンの間では「どうせ、またすぐに休載するんだろ」といった声も聞かれる。 「『HUNTER×HUNTER』が最後に掲載されたのは、約1年前の16年31号。連載が始まったのは1998年ですが、頻繁に休載を繰り返していて、2014年からは2年にもわたる長期休載でしたからね。週刊誌での連載19年でコミックスがたったの34巻なんて、通常は考えられないですよ」(男性コミック誌編集者) そんな冨樫だが、昨年には姉妹誌「ジャンプGIGA」誌上での発言がヒンシュクを買った。『NARUTO -ナルト-』の作者・岸本斉史との対談で、次回作の構想について問われると、冨樫は「僕めちゃくちゃあるんですよね。描きたいやつ」と応じたのだ。 「当時休載中だったにもかかわらず、この発言ですからね。連載中の作品すら全うしていないのに、よく次回作の構想なんて口にできたものです。厚かましいにもほどがありますよ。たびたび休載してしまうのは、持病の腰痛のせいだなんていわれていますが、単に連載に飽きてしまったのでしょう」(同) 連載を再開するというだけでニュースになってしまうのは、冨樫と『HUNTER×HUNTER』の人気の高さをうかがわせるが、またしても休載に突入してファンをぬか喜びさせないよう願いたいものだ。『HUNTER×HUNTER 33』(集英社)
伝説の女相場師は18歳! 枕営業も駆使する、仕手バトルマンガ『銭華』
みなさんは「はちきん」という言葉をご存じですか? 「男勝りの女性」を指す土佐弁ですが、土佐の女性が4人の男性(=8つのキン○マ)を手玉に取るほどの男勝りであることに由来しているそうです。高知県出身の女性タレントいえば、広末涼子さんや島崎和歌子さんなどがいますが、なるほど、そう言われてみると「はちきん」かもしれません。 今回は、そんな高知県出身18歳の「はちきん」な美少女が、両親を死に追いやった奴らへの復讐のため守銭奴となり、兜町の女帝といわれる女相場師になるまでのストーリーを描くマンガ『銭華(ぜにばな)』をご紹介します。 「そこらの小娘と一緒にしなや、土佐の女舐めちょったら痛い目にあうぜ!」 一見すると、おとなしそうな女子高生が、2代目スケバン刑事みたいな土佐弁をまくし立てます。彼女に一体何があったのか? 『銭華』の主人公は坂本千尋。高知県一の財閥、山之内家に両親を殺され、山之内家の長男に自分の処女までも奪われた千尋は、東京に出て一攫千金を狙って、カネの力で山之内家に復讐することを誓います。 「山之内一族…絶対許さんぜよっ!」 「今度帰ってくる時は復讐の時だ! 山之内一族を潰す時だ…!!」 「私は夜叉となって金を稼いでやる!! 他人に何と言われようと守銭奴となって銭の華を咲かせてやる!!」 18歳にしてこの決意。ただ事ではありません。 田舎から上京してきた小娘がビッグになって、故郷の奴らに復讐するというストーリーは以前、当コラムでご紹介した『女帝』(参照記事)の設定と似ています。それもそのはず、この『銭華』も『女帝』と同じく、原作・倉科遼先生、作画・和気一作先生のコンビ作なのです。 東京で大金をつかむ手段として千尋が選んだのは「株」。千尋は、カリスマ相場師・片山鉄造が率いる投資顧問会社「日本橋経済研究所」に就職します。そこで思い知らされるのが、投資の世界の汚れっぷり。投資顧問会社の仕事の実態は、しょせん株投資の電話営業。全国の強欲投資家に対し、嘘八百並べて金を吐き出させる詐欺稼業なのでした。 「顧問業も相場師も一番近いのは刑務所だね」 「俺達がやっている顧問業は出資法や証券取引法に完全に抵触しているんだ!」 「兜町では騙される方がマヌケなんだ。兜町というところは日本で唯一嘘が認められた社会なんだ!」 会社の先輩のありがたい教えの数々……正直、読者はドン引きします。やっぱり投資って、うっかり手を出すとだまされる運命なんですね。 しかし、千尋の目的は復讐です。相場師になるために、初めっからヨゴレ上等で東京に来ています。そんじょそこらのリーマンとは、カネに対するモチベーションが違うのです。 「女の体は武器になる!! この肉体(からだ)が通じるうちに勝負してやる!! 銭の華を咲かせてやる!!」 というわけで、師匠の片山をはじめ、ありとあらゆる業界人に枕営業を仕掛けては、投資の裏情報をゲットしていきます。最終的には片山をも敵に回して仕手戦に勝利し、5億円ゲット! 18歳にして、伝説の女相場師と呼ばれるようになります。女がビッグになるために枕営業は必須! 処女はできるだけ高く売る!! これは倉科作品に共通する哲学です。 「恐怖のふるい落としで提灯筋は全滅させてやる!!」 「これが片山鉄造得意の地獄の逆落としだ!」 などなど、一見すると格闘マンガの必殺技のようですが、違います。これらはすべて仕手戦の最中に出てくるセリフです。マネーゲームだって命懸けですから、セリフも自然と熱くなります。 そのほかにも提灯、受け皿、利食い、ネタ玉、ハメ込み、踏み上げ、場内クロス、売りぶつけ等々、普段聞いたこともない専門用語が山ほど出てきて、読んでいると自然に株に詳しくなれるため、これから投資を始めたい人の入門マンガとして最適! な気もしないでもないですが、一方で登場人物に詐欺師が多すぎて、投資に対して尻込みしてしまう可能性もある、そんな悩ましい作品です。 (文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん<http://ablackleaf.com/>) ◆「ザオリク的マンガ読み」過去記事はこちらから『銭華 1』(作:倉科遼/画:和気一作/グループ・ゼロ)


























