ホラー少女が鈍感力でライバルをなぎ倒す~椎名軽穂『君に届け』~

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『君に届け12』(集英社)
マンガ評論家・永山薫のコミックレビュー。連載第2回は椎名軽穂『君に届け』です!  女子中高生を中心に女性読者のハートをワシ掴みにしちゃってるのが椎名軽穂の『君に届け』(『別冊マーガレット』連載中/集英社)だ。アニメ化もされたし、映画化にもなった。単行本も確実に売れている。J-BOOKSの週単位ベスト30によれば、最新の第12巻は9月27日初登場1位。恐ろしいことにその後、11月1日集計分までの連続6週にわたってベスト30位圏内をキープしているのだ。ちなみに、ほとんどのベスト30登場コミックスは2~3週で圏外に落ちている。累計1400万部。一巻あたり100万部超。総売上54億6,000万円。メディアミックス効果があるとはいえ、ここまで売れてるとは思ってもみなかった。  昔ほどではないにせよ、マッチョな野郎共にとって少女漫画はちょっと敷居が高い。しかもそれが、この『君に届け』みたいにド直球な学園ラブストーリーだとさらにハードルが高くなる。でもコレは読んでおいて損のない秀作だ。  物語そのものはド定番。主役の彼女と彼が互いに一目惚れしてるのに、そうとは気づかず、微妙にすれ違い、ライバルの妨害、周囲の応援等々もあって、徐々に近づいていくというオハナシ。......と書くと全く新味がないのにもかかわらず、実際に読むとハマる。ほのぼの、ニコニコ、ハラハラ、ドキドキと読ませる読ませる。二人が急接近して互いの想いを確認するシークエンスでは思わず目頭が熱くなってしまいましたよ。いやはや年取って涙腺緩くなったのか? 俺もヤキが回ったもんだぜと思ってたら、知り合いのいい歳したオッサ......、いやオジサマ、お姉様方の多くが「泣いた」というのだからタダゴトではない。  とにかく、椎名軽穂は上手い。少女漫画ラブストーリーの王道、つまり一つ間違うと、アリキタリで陳腐な凡作になりかねない路線を極上の作品に仕上げてしまった。そのカギはまず、キャラクター造型の見事さだろう。ヒロインの黒沼爽子から破格としかいいようがない。なにしろ第1巻の帯に 「史上最もダークな見た目、だけどピュアホワイツな少女まんがヒロイン」  とワザワザ明記されちゃうくらい圧倒的な存在感なのだ。容貌は普通だが、前髪パッツンのストレート黒髪ロン毛で、下三白眼の恨みがましい目つき。はっきり言って暗い。下手にちょっかい出したら、呪われそうなくらい暗い。これで鉄球でも振り回したら、まんまゴーゴー夕張@『キル・ビル』(栗山千明)だぜというくらいダークでコワイ。小学校以来の仇名が「貞子」である。連載第一回目の登場シーンなんか、ほとんどホラーコミックだ。この外見だけでもヤバイのに、コミュニケーション・スキルが超低レベル。孤立して当たり前である。横並びがデフォルトで、目立ちすぎると敬遠あるいは排斥されるのがニッポンのコミュニティーのオヤクソク。おかげさまで貞子には「霊感がある」「1日3回、目が合ったら不幸に襲われる」という噂が飛び交う始末。  なんで、こんな子がヒロイン? と男読者は思う。やっぱヒロインは美少女でないとね。男性向けなら確かにそうだ。しかし少女漫画のヒロイン像は美醜ではなく、その存在が読者から愛されるかどうかがポイント。特に中高生向けはそうだろう。読者だけには爽子の内面の愛らしさが見えている。内気で純情で、みんなと友達になりたがってる不器用な子だと分かっている。第1巻の帯には「いっしょに応援したくなる」とあるが、その通りだろう。読者よりも「ちょっと不器用」で「ちょっとダメ」な子。でも、爽子の抱える問題は、実は女子の多くが、いや人間なら誰しもが抱えている問題だ。爽子は誰の中にもいる。  爽子ほど不器用な人間は、そうそういないだろう。両親とは仲がいい。いや、ほとんど溺愛されている。この居心地の良さが、外部のセカイとの接触を阻害しているのかもしれない。にもかかわらず、ヒキコモリになることもなく、爽子は前向きにセカイの扉を開こうとする。現実にはなかなかそうはできないと思うのだが、そのけなげさが共感を呼ぶ。そしてそこには「努力しない限り、コミュニケーションは成り立たない」という明確でド直球なメッセージが込められているわけだ。  とはいえ、個人の努力だけではコミュニケーション・スキルのレベルアップは困難だ。そこに登場するサポーターが、こんなヤツいねーよ(けどいたらいーな)的なサワヤカ君の風早翔太であり、翔太の友人である野球少年の龍であり、爽子と机を並べることになるサバサバした男っぽい性格の千鶴とギャルのあやねだ。翔太は別格の王子様で誰にでも親切だから当然といえば当然なれど、サバサバ系&ギャルの迷コンビはクラスの女子コミュニティーから半分浮いているという意味で爽子とカテゴリは違うものの「同類」なのである。このあたり、都合のイイ設定なわけだが、そこはそれも含んだファンタジーなので、突っ込むのは不粋というもの。面白いのはこのサポーターズにも、それぞれ「想いが上手く伝わらない」あるいは「伝えるべきではない」といった「想い」を抱えている点。オールマイティに見える翔太ですら、爽子への恋愛感情が上手く伝えられなくてジタバタしているのだ。  本人が前向きでサポーターがいれば、なんとかなりそうだが、それだけじゃドラマにならない。ちゃんと敵役も登場する。具体的な形では、お人形のように愛らしいが腹黒なくらい恋に前向きな胡桃沢梅だし、女子コミュニティーにありがちな同調圧力、嫉妬だったりする。本作が上手いのは、そうした加害者側の心理(これもコミュニケーション不全の一形態)をも押さえている点。さらに注目すべきは爽子自身の持つ「鈍感力」だ。もちろん時には傷つくし、悩みもするが、傷つきすぎないし、悩みすぎない。周囲のイジメに近い扱いも、意地悪も、嫌味も、爽子の核心にまでその刃を届かせることができない。この鈍感力はコミュニケーション不全と裏腹な関係にあるのだろうが、基本的にお人好しなのである。爽子の鈍感力と天然力によって、コミュニケーション能力が遥かに高い敵役はぶっ飛ばされて、なぎ倒され、より深く傷ついてしまうのだ。  この物語は、ラブロマンスであると同時に、コミュニケーション不全というハンデを負った女の子が、周囲のサポートもあって、徐々にコミュニケーション・スキルを身につけていき、それによって世界が拡がっていくという『奇跡の人』的な障碍克服物語であり、『電車男』的なコミュニケーションのドラマとして読むこともできる。つまり、スポ根漫画で泣けるオッサン、育成ゲームにワクワクしたゲーマーならば間違いなくハマる! (文=永山薫) ●永山薫(ながやま・かおる) 1954年、大阪府大東市出身。80年代初期から、エロ雑誌、サブカル誌を中心にライター、作家、漫画原作者、評論家、編集者として活動。1987年、福本義裕名義で書き下ろした長編評論『殺人者の科学』(作品社)で注目を集める。漫画評論家としてはエロ漫画の歴史と内実に切り込んだ『エロマンガ・スタディーズ』(イースト・プレス)、漫画界の現状を取材した『マンガ論争勃発』シリーズ(昼間たかしとの共編著・マイクロマガジン)、『マンガ論争3.0』(n3o)などの著作がある。
君に届け 12 こんなにいい子なんていないけど。 amazon_associate_logo.jpg
【関連記事】 いっそゾンビな世の中に──花沢健吾『アイアムアヒーロー』 『バクマン。』が示す「友情・努力・勝利」の変化とは? 非モテもイケメンもごちゃごちゃ言わずに『モテキ』を読め!

ホラー少女が鈍感力でライバルをなぎ倒す~椎名軽穂『君に届け』~

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『君に届け12』(集英社)
マンガ評論家・永山薫のコミックレビュー。連載第1回は花沢健吾『アイアムアヒーロー』です!  女子中高生を中心に女性読者のハートをワシ掴みにしちゃってるのが椎名軽穂の『君に届け』(『別冊マーガレット』連載中/集英社)だ。アニメ化もされたし、映画化にもなった。単行本も確実に売れている。J-BOOKSの週単位ベスト30によれば、最新の第12巻は9月27日初登場1位。恐ろしいことにその後、11月1日集計分までの連続6週にわたってベスト30位圏内をキープしているのだ。ちなみに、ほとんどのベスト30登場コミックスは2~3週で圏外に落ちている。累計1400万部。一巻あたり100万部超。総売上54億6,000万円。メディアミックス効果があるとはいえ、ここまで売れてるとは思ってもみなかった。  昔ほどではないにせよ、マッチョな野郎共にとって少女漫画はちょっと敷居が高い。しかもそれが、この『君に届け』みたいにド直球な学園ラブストーリーだとさらにハードルが高くなる。でもコレは読んでおいて損のない秀作だ。  物語そのものはド定番。主役の彼女と彼が互いに一目惚れしてるのに、そうとは気づかず、微妙にすれ違い、ライバルの妨害、周囲の応援等々もあって、徐々に近づいていくというオハナシ。......と書くと全く新味がないのにもかかわらず、実際に読むとハマる。ほのぼの、ニコニコ、ハラハラ、ドキドキと読ませる読ませる。二人が急接近して互いの想いを確認するシークエンスでは思わず目頭が熱くなってしまいましたよ。いやはや年取って涙腺緩くなったのか? 俺もヤキが回ったもんだぜと思ってたら、知り合いのいい歳したオッサ......、いやオジサマ、お姉様方の多くが「泣いた」というのだからタダゴトではない。  とにかく、椎名軽穂は上手い。少女漫画ラブストーリーの王道、つまり一つ間違うと、アリキタリで陳腐な凡作になりかねない路線を極上の作品に仕上げてしまった。そのカギはまず、キャラクター造型の見事さだろう。ヒロインの黒沼爽子から破格としかいいようがない。なにしろ第1巻の帯に 「史上最もダークな見た目、だけどピュアホワイツな少女まんがヒロイン」  とワザワザ明記されちゃうくらい圧倒的な存在感なのだ。容貌は普通だが、前髪パッツンのストレート黒髪ロン毛で、下三白眼の恨みがましい目つき。はっきり言って暗い。下手にちょっかい出したら、呪われそうなくらい暗い。これで鉄球でも振り回したら、まんまゴーゴー夕張@『キル・ビル』(栗山千明)だぜというくらいダークでコワイ。小学校以来の仇名が「貞子」である。連載第一回目の登場シーンなんか、ほとんどホラーコミックだ。この外見だけでもヤバイのに、コミュニケーション・スキルが超低レベル。孤立して当たり前である。横並びがデフォルトで、目立ちすぎると敬遠あるいは排斥されるのがニッポンのコミュニティーのオヤクソク。おかげさまで貞子には「霊感がある」「1日3回、目が合ったら不幸に襲われる」という噂が飛び交う始末。  なんで、こんな子がヒロイン? と男読者は思う。やっぱヒロインは美少女でないとね。男性向けなら確かにそうだ。しかし少女漫画のヒロイン像は美醜ではなく、その存在が読者から愛されるかどうかがポイント。特に中高生向けはそうだろう。読者だけには爽子の内面の愛らしさが見えている。内気で純情で、みんなと友達になりたがってる不器用な子だと分かっている。第1巻の帯には「いっしょに応援したくなる」とあるが、その通りだろう。読者よりも「ちょっと不器用」で「ちょっとダメ」な子。でも、爽子の抱える問題は、実は女子の多くが、いや人間なら誰しもが抱えている問題だ。爽子は誰の中にもいる。  爽子ほど不器用な人間は、そうそういないだろう。両親とは仲がいい。いや、ほとんど溺愛されている。この居心地の良さが、外部のセカイとの接触を阻害しているのかもしれない。にもかかわらず、ヒキコモリになることもなく、爽子は前向きにセカイの扉を開こうとする。現実にはなかなかそうはできないと思うのだが、そのけなげさが共感を呼ぶ。そしてそこには「努力しない限り、コミュニケーションは成り立たない」という明確でド直球なメッセージが込められているわけだ。  とはいえ、個人の努力だけではコミュニケーション・スキルのレベルアップは困難だ。そこに登場するサポーターが、こんなヤツいねーよ(けどいたらいーな)的なサワヤカ君の風早翔太であり、翔太の友人である野球少年の龍であり、爽子と机を並べることになるサバサバした男っぽい性格の千鶴とギャルのあやねだ。翔太は別格の王子様で誰にでも親切だから当然といえば当然なれど、サバサバ系&ギャルの迷コンビはクラスの女子コミュニティーから半分浮いているという意味で爽子とカテゴリは違うものの「同類」なのである。このあたり、都合のイイ設定なわけだが、そこはそれも含んだファンタジーなので、突っ込むのは不粋というもの。面白いのはこのサポーターズにも、それぞれ「想いが上手く伝わらない」あるいは「伝えるべきではない」といった「想い」を抱えている点。オールマイティに見える翔太ですら、爽子への恋愛感情が上手く伝えられなくてジタバタしているのだ。  本人が前向きでサポーターがいれば、なんとかなりそうだが、それだけじゃドラマにならない。ちゃんと敵役も登場する。具体的な形では、お人形のように愛らしいが腹黒なくらい恋に前向きな胡桃沢梅だし、女子コミュニティーにありがちな同調圧力、嫉妬だったりする。本作が上手いのは、そうした加害者側の心理(これもコミュニケーション不全の一形態)をも押さえている点。さらに注目すべきは爽子自身の持つ「鈍感力」だ。もちろん時には傷つくし、悩みもするが、傷つきすぎないし、悩みすぎない。周囲のイジメに近い扱いも、意地悪も、嫌味も、爽子の核心にまでその刃を届かせることができない。この鈍感力はコミュニケーション不全と裏腹な関係にあるのだろうが、基本的にお人好しなのである。爽子の鈍感力と天然力によって、コミュニケーション能力が遥かに高い敵役はぶっ飛ばされて、なぎ倒され、より深く傷ついてしまうのだ。  この物語は、ラブロマンスであると同時に、コミュニケーション不全というハンデを負った女の子が、周囲のサポートもあって、徐々にコミュニケーション・スキルを身につけていき、それによって世界が拡がっていくという『奇跡の人』的な障碍克服物語であり、『電車男』的なコミュニケーションのドラマとして読むこともできる。つまり、スポ根漫画で泣けるオッサン、育成ゲームにワクワクしたゲーマーならば間違いなくハマる! (文=永山薫) ●永山薫(ながやま・かおる) 1954年、大阪府大東市出身。80年代初期から、エロ雑誌、サブカル誌を中心にライター、作家、漫画原作者、評論家、編集者として活動。1987年、福本義裕名義で書き下ろした長編評論『殺人者の科学』(作品社)で注目を集める。漫画評論家としてはエロ漫画の歴史と内実に切り込んだ『エロマンガ・スタディーズ』(イースト・プレス)、漫画界の現状を取材した『マンガ論争勃発』シリーズ(昼間たかしとの共編著・マイクロマガジン)、『マンガ論争3.0』(n3o)などの著作がある。
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『ラブひな』赤松健が漫画無料公開 絶版マンガ図書館構想を佐藤秀峰も応援

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公式ブログ「(株)Jコミの中の人」より
 出版業界は大手10社中8社が減収、2社が赤字という出版不況と、電子書籍リーダーの誕生により、一大パラダイムシフトを迎えている。そんな中、『ラブひな』『魔法先生ネギま!』で知られる漫画家・赤松健が、作者の許諾を得て絶版漫画を無料公開し、その広告収益を作者に還元する新サービス「Jコミ」を立ち上げた。同サービスのブログで次のように明かした。  「スキャンされた漫画を収集し、作者の許諾を得て無料公開する。その漫画の中に、広告を入れる。そして、その広告料は作者にお渡しする......と。この方式なら、読者は、合法的に、しかも無料で漫画を読めちゃう。ダウンロードした作品を、お友達にあげちゃってもOK。中に入っている広告がクリックされればされるほど、作者にお金が入る。巻末にアフィリエイトのページを付けて、その作者の新作が買えるようにすれば、新作のプロモーションにもなる。もちろん、そのアフィリエイト料も、作者に行くようにする」  作者の許諾を得て、漫画をスキャンした画像をアップロードし、広告付きで公開することで、"絶版マンガ図書館"を構築。許諾を得た作品限定のため、動画投稿サイト・ニコニコ動画やYouTubeのように、ユーザーもアップロードに参加し、ラインナップの増強を図るプランだ。単行本にならなかった漫画や、単行本未収録の作品なども揃えていく予定。赤松の『ラブひな』全14巻を11月26日から公開し、ダウンロード数、クリック数を調査する。  絶版となった作品は、中古書店などで取引されても、当然作者に利益が還元されるわけではない。だが、広告を付けて読者に公開することで、その広告収入を作者に還元し、赤松は1円も利用料は取らないという。還元される金額は、複数のネット広告業者に相談したところ、「全ての広告ページが5,000クリックあるのなら、広告1ページに対し、10~30万円くらいで販売できるかもしれないそうです。そうなると、1作品(1巻)約70~80万円くらいに」と明かしている。読者、作者、双方にWIN-WINなサービスと言えるだろう。  漫画の無料公開と言えば、『ブラックジャックによろしく』『海猿』の漫画家・佐藤秀峰が9月に、自ら手がけるオンラインコミックサイト「漫画 on Web」で、『海猿』を無料公開。当初、1カ月間の予定だったが、現在も公開を続けている。同サイトによると、公開時から数十億規模のページビューとなり、10月の売り上げは100万円程度となったことを明かしている。さらに、「週刊漫画TIMES」(芳文社)に連載を再開させた『特攻の島』の第1巻のほか、『ブラックジャックによろしく』も無料公開し、同作はユーザーに英訳してもらう"『ブラックジャックによろしく』英訳プロジェクト"をニコニコ動画の画像版であるニコニコ静画で行っている。意欲的な挑戦を続ける佐藤は赤松の「Jコミ」について、Twitterで次のようにサポートを宣言した。 「赤松さんの件は、頑張って欲しいし、僕の作品でよければ、zipでデータを提供しても構わないですけど、あれですね。まず、サーバをどうするのか心配ですね」  自らデータを提供を辞さないことを告げ、膨大なアクセス数が予測されるサイトのサーバーが懸念材料になることを指摘した佐藤。やはり、この点がサイト運営の一番の肝となるようだ。これらのトライアルの背景には、P2Pなどによる、世界的な漫画の違法配信に苦慮し、アクションを起こした面もある。11月12日に開催されたイベント「電子書籍・コミックサミット in 秋葉原」では、集英社の鳥嶋和彦専務取締役が出版社37社が共同して、北米の漫画ファンに向けた総合ポータルサイト「Jマンガポータルサイト(仮称)」の設立を宣言。出版社側も配信への対応を行っている。過渡期を迎える出版業界が、今後どのように収益を確保していくのか、注目だ。
ラブひな(1) デンシコミックキテマス。 amazon_associate_logo.jpg
【関連記事】 佐藤秀峰が漫画『海猿』全話を無料公開 漫画界の新たなスタンダートとなるか? 「マンガを正当なビジネスにしたい」マンガ家・佐藤秀峰 爆弾発言の裏にある思い(前編) 電子書籍なのに手売り販売? ウワサの「電書フリマ」で電子書籍の最前線を体験レポート

再び動き出した「東京都青少年健全育成条例」改定案に民主党も反対しない可能性

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写真は5月17日豊島公会堂『どうする!? どうなる?
都条例――非実在青少年とケータイ規制を考える』
 再び「非実在青少年」問題がやってくる。11月22日から始まる、本年度の第4回都議会に東京都青少年課が、新たな東京都青少年健全育成条例改定案を提出することが、ほぼ決まったのだ。  16日には読売新聞が報じた再提出案は「定義があいまいで過度な規制につながる恐れがあると指摘された『非実在青少年』との文言を削除、『18歳未満』とするもので、同紙では「これまで反対していた民主党も修正内容に同意するとみられ、条例改正の公算が大きくなった」と記している。  この記事をめぐって、ネット上では都側のリークか、飛ばし記事か、さまざまな憶測が流れている。  そんな中、実は「読売新聞の記事は事実で、成立の公算が大きい」という情報が次々と入ってきている。  都庁内の事情通によれば、都は今回の再提出案が可決されることにかなりの自信を持っている様子だ。前回、改定案が否決される公算が強い中で、顔色の悪さが目立った櫻井美香青少年課長も、今は「非常に顔色がよい」との話も聞かれる。 「都は、今回は民主党も同意すると考えています。というのも、これまで反対してきた民主党内部でも、一部の熱心な議員を除いては、"一度反対したから、いいじゃないか"と考えているようです」(事情通)  特に都議会民主党の幹事長である大沢昇都議が、さほど、この問題に熱心ではないという話もある。また、「非実在青少年」の文言をめぐり大きく注目された春頃に比べて、反対を表明する手紙やメールでの有権者の声も少なくなっていることも、民主党をブレさせている要因だ。 「前回の否決以降、警察庁からの出向者である櫻井課長や、その上司の倉田潤青少年・治安対策本部長は、本庁に戻る際に汚点は残したくないと必死に活動してきた。まさに、命がけといった感じでしたよ」(事情通)  こうなってくると、いったいどういった再提出案が出てくるのか。出版関係者なども、早く再提出案を入手しようとしているが、未だに誰も入手できていない(民主党には、都側が一度見せたが写しは渡さずにすぐに、引っ込めたという話も)。  ただ、おそらくは文言を変えても出版界が規制の強化を余儀なくされるものになる観測は大きい。この間、都は出版関係者と二度「意見交換会」を行っている。その席上での都側の態度は、「出版には映倫やBPOのような組織がなぜ存在しないのか」というもの。  もちろん出版界も無法地帯ではなく、日本雑誌協会が出版ゾーニング委員会という第三者機関があるのだが、それでは足りないというのが都側の態度。 「意見交換会の時に、さまざまな作品を見せて"これはどうなんだ"と問いただしたら、『僕は妹に恋をする』(小学館『少女コミック』掲載の少女マンガ)まで"近親相姦だからダメ"と言われた。意見交換じゃなくて査問みたいな感じでしたよ」(出版関係者) 「アレもコレもダメ」という東京都だが「では、どのようなシステムにすればいいのか」というと、なにも考えていない様子。前述のように「ここで汚点を残せば出世に響く」という点だけが原動力になっている様子。  公務員は、業務内容ゆえに「一度決めたことはコンプリートできなければ無能」という強迫観念に近い思いこみを持っている人が多い。それはそれで、問題なのだが、だからといって、規制の強化を、おいそれと許すわけにはいかない。 「非実在青少年」という文言を削除して、態度を改めたフリを見せる東京都だが、内実がまったく変わっていないことだけは確実。再び反対の声が盛り上がることになるのか、注目していきたい。 (取材・文=昼間たかし)
非実在青少年〈規制反対〉読本 どうなる。 amazon_associate_logo.jpg
【関連記事】 そろそろ覚悟の決め時? 大阪府の青少年条例改定の動きとBLの今後 修正か? 撤回か?「非実在青少年規制」は民主vs自公が真っ向対立! 5,000人が注目した「非実在青少年」の行方 東京都は何を隠したか?

オタクのゴールは大学教授? いまコンテンツ文化史学会が熱い!

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コンテンツ文化史学会公式ページより
 日本国内の産業空洞化の波は止まらない。もはや、国内で製造した製品を海外へ輸出することで利潤を得る時代はひとまず終わったと言える。  そうした中で、新たな産業として注目を集めているのがマンガ・アニメ・ゲーム・映画・音楽といったコンテンツ産業である。この分野(特に、マンガ・アニメ・ゲーム)の、特異な文化的成長が、諸外国から注目を集めているのは既に知られている通り。  そうした世の中の動きに対応するかのように、大学の場でマンガやアニメ、ゲームを扱う研究者は急増中だ。  この新しい研究者が集う学会の一つ「コンテンツ文化史学会(http://www.contentshistory.org/)」は、昨年4月に立ち上げられた学会だ。その第2回大会が11月20、21日の両日開催される。  研究発表のタイトルを見ていると、「新聞記者時代の久留島武彦と子ども向けジャーナル―中央新聞『ホーム』のデジタル化保存と分析を中心に―」と、一見スタンダードな学問研究風のタイトルがあるかと思えば「コンテンツ産業化が進む鉄道産業に関する一考察」、「歴史コンテンツの受容に関する実態調査―「新撰組」コンテンツに関する調査報告」と、どことなく趣味と実益(研究)の一致が、垣間見えるようなものまで多種多様。  さらに注目したいのは「メディアミックスの歴史と展望」と題されたパネルディスカッションの登壇メンバー。『爆れつハンター』『らいむいろ戦奇譚』をはじめ、オタク業界では今や大御所となった作家・マンガ原作者のあかほりさとる氏。アニメ化もされた『迷い猫オーバーラン!』の作家・松智洋。そして、角川書店社長の井上伸一郎氏という構成。我々が通常考える「学会」とは、ちょっと違う雰囲気だ。 「コンテンツ文化史学会の委員の顔ぶれを見ても、歴史学、社会学、経済学、文学など、さまざまな分野の研究者がおります。また、本学会の例会や学会誌にも、民俗学、宗教学、観光学、政策論など、多様な研究者にご参加いただいております。これまで「コンテンツ」は、学術研究の対象としては否定的に捉えられ、とりわけ伝統的な学問分野の研究の俎上にはなかなかのりにくかったのですが、今後はそういった状況も薄れていくと思いますし、そのような状況を生み出すためにも本学会がより成果をアピールしていかなければいけないと考えております」  と、話すのは同学会の会長を務める吉田正高さん。吉田さんは、東京大学大学院情報学環コンテンツ創造科学産学連携教育プログラム特任講師を経て、現在は東北芸術工科大学デザイン工学部メディア・コンテンツデザイン学科准教授の職にあるのだが、その授業も興味深いものだ。  昨年には、講義の一環として学生を対象とした一日かけて11作品を鑑賞する授業を行っている。朝から晩まで延々とアニメと映画を見続けるというのもなかなか過酷だが、そのラインナップもすごい。『獣人雪男』にはじまり『超人バロム1』があるかと思えば、『魔法のプリンセス ミンキーモモ』『幻夢戦記レダ』、最後は日が暮れてから『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』を観賞したそうだ。  こう記していくと、少々オタク色が色濃い気もするが、扱う素材とは対照的に研究内容は硬派だ。 「私はもともと江戸の文化史を学び、日本独自の文化の進捗について考えてきましたので、戦後の日本文化を左右するまでに成長したコンテンツの歩みを包括的に研究したいと思うのは、とても自然なことでした。コンテンツ文化史を学ぶことで、これまでとは違った視点で戦後日本の文化の流れや動向を見ていければ面白いと思っています。まあ、「江戸の鎮守の研究者」だった私が、「『俺妹』っていろいろ考えさせられるね」とか言ってるのは奇異にみえるでしょうが(笑)、根本的な興味の所在にはほとんど変化がないと思っています」  職業としてマンガやアニメを研究対象にするには、歴史学なり社会学なりの基礎的な知識が欠かせない。なんだかんだ言っても、大学という場は非常に保守的なところ。時代に即した「新しい」研究を行うにも、学問の基礎ができていなければ批判されてしまう。  ただ「自分の好きな物」が研究対象ならば、より価値のある成果が出せるのは、間違いない。 「今年の大会では、プロ・アマチュアなどを含めて、変貌し、融合し、拡大を続けているコンテンツを正面からとらえる意味で大会テーマを「拡大するコンテンツ」として、パネルディスカッションも企画しました。大会初日は、日々変化を続けるコンテンツやそれを取り巻く状況の中で、クリエイタ―やプロデューサーといったコンテンツ関連の人材育成を実施している大学の教員の皆様、とりわけ自身も業界でのご実績のある方をお招きして、これからの大学におけるコンテンツ教育の在り方を討論します。2日目は、インターネットの本格的な普及や、電子書籍やデジタル・デバイスの進化などの状況を受け、すでに一般用語になった感のある「メディアミックス」を改めて取り上げ、その変遷や戦略、現状の課題などを踏まえ、2010年代におけるコンテンツの創作や流通の展望を討論します」  さまざまな大学にマンガやアニメ関係の学部ができたり、これから先、コンテンツ文化が学問として成熟していくことは間違いない。いつまでも消費者でいることに疑問を感じている諸君、研究者になるのも悪くはないぞ。もちろん、専門書を読んだりアニメを見たり、寝る時間は今よりも少なくなりそうだが......。    筆者は昨年も参加したのだが、同人ゲームの研究者やガールズファッションの研究者(ちなみに男性)から、クリエイターまでが集う、カオスな空間。好きな物を趣味だけで終わらせたくないなら参加してみるしかない。参加申込みは、公式サイト(http://www.contentshistory.org/2010/10/26/824/)で受付中だ。 (取材・文=昼間たかし)
クロスイッチ―電通式クロスメディアコミュニケーションのつくりかた 電通式ね......。 amazon_associate_logo.jpg
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いっそゾンビな世の中に──花沢健吾『アイアムアヒーロー』

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『アイアムアヒーロー 4 』
(小学館)
マンガ評論家・永山薫のコミックレビュー。連載第1回は花沢健吾『アイアムアヒーロー』です!  気分が滅入っている時の花沢健吾はキツイ。『ルサンチマン』にしても『ボーイズ・オンザ・ラン』にしても、暑苦しい非モテ野郎が愛と誠意を胸に、はた迷惑な空回りを演じてくれて、ちっとでも主人公の境遇や考え方に近い読者は胸が痛くなって、ブン投げたくなるだろう。でも、読んでしまう、読ませちまうのが花沢健吾。ホント、イヤな野郎だ。  さて、花沢の最新作『アイアムアヒーロー』(「BIG COMIC スピリッツ」連載中)は、これまでの作品以上に強烈だ。乱暴に言うと、まったくイケてない主人公が頭がヘンになっていくと同時に、セカイの方も発狂(ゾンビパニック化)していくってお話。  で、単行本第1巻では、主人公・鈴木英雄君の鬱屈と静かな狂気がこれでもかと描かれる。人間って一人きりの時は変なコトをやってんのがフツー(人前でできないモノマネとか、ダンスとか、全裸オナニーとか......)とはいえ、英雄君の場合は自分にしか見えない脳内友達の「矢島」が便器の中から顔を出してくるわ、ベッドの下やブラインドのスキマから妖怪が出てくるわ、それを奇怪な術式で封じようとするわ、仕事場でも独り言を言い始めるわ、もはやブツブツ系の危ない人と紙一重。一回クリニック行けちゅーに! 話題の『マンガでわかる心療内科』(作画:ソウ、原作:ゆうきゆう/少年画報社)とか読めっちゅーに。  英雄君の職業は漫画家。単行本も出している。でも次の連載が何年も決まっていない。アシスタントで生計を立てながら、編集部への持ち込みを続けている。アシスタント先の先生は売れっ子の漫画家だ。エロ漫画家っぽい描写(チンコのトーン指定とか)があるんだけど、「数人のアシスタントを使って不眠不休で描いているエロ漫画家」は俺の知る範囲では存在しない。あれはどう見たって週刊連載を持ってる漫画家の仕事場だ。とはいえ、その一点を除けば超リアル。華やかでもなけりゃカッコよくもねえ。汗臭い家内制手工業。これって『バクマン。』(作画:小畑健、原作:大場つぐみ/集英社)の世界じゃないよねー。でも、それが現実。週刊連載持ってる先生だったらそれでもいい。同業者だって一目置いてくれるし、零細企業のオヤジくらいには儲かるし、ファンにとっては憧れの先生だ。億単位の年収を手にする可能性だってまだまだあるぜ。アシスタントはどうか? もちろんピンキリの世界だけど、英雄君レベルだと月収で20~25万円程度。悪くはない。ワンルームマンションに住んで、ファッションもカジュアルブランドでそれなりだ。趣味は射撃。同業者のカノジョもいるぞ。ただ、問題は年齢だ。35歳。アシスタント専業ならともかく、もう一発当てるにゃツライお年頃。持ち込み先の担当編集者に「......うーん、......まあ、そっかぁ......そーなると今から就職も難しいかぁ......」と言われる始末。これって翻訳すると「漫画家辞めたら?」ってことだよな。まあ、こんなこと言われたら俺はグーで殴ってますけどね。ちなみに花沢健吾は1974年生まれの36歳。作者自身がリアルで体験したイヤなこと、恨みつらみ、妬み、嫉み、不安、イラ立ちなどなどを英雄君に投影しているのかもしれない。  年齢だけでも、相当キツイのに、彼女は元彼のオタク漫画家の才能を誉め称えるし、職場には、デブ&メガネで女子アナの話しかしないウザすぎるチーフがいるし、ちょっと可愛い同僚アシスタントは先生に喰われてる。なんかもう閉塞感バリバリちゅーか、こうした周囲の状況が英雄君の症状悪化に拍車をかけていることは間違いない。しかし、改善することは不可能ではないはずだ。専門家による心のケアでかなり楽になれると思うし、もうちょっと視野を広げて持ち込み先を変えてみる(超学館のみって無理すぎる)とかすれば状況は全然違ってくるのだが、それができりゃあ、ここまでこじれてないわけだ。マジメな小心者ほどブッ壊れやすい。  でもまあ、非モテから見れば彼女がいるって一点だけは救いだよね。自分をさらけだして甘えることのできる唯一の逃げ場があるわけだ。ところが、セカイの終わりってヤツが、ドーン・オブ・ザ・デッド(ゾンビの夜明け)がやってくる。序盤から始まってたゾンビ出現の前フリが第1巻終盤でようやく臨界に達する。あたかも、ダムが決壊するみたいに、一気にゾンビの輪が拡がってしまう。いわゆるパンデミック、爆発的感染だ。イタイ日常を延々読ませて、ギリギリまでタメといてド~~~~ンッ! いやあ、御褒美ですよ! 爽快、痛快、ザマー見やがれ! これって時代を超えて、自分が不遇だと感じている若い連中にとっちゃフツーの感覚だと断言しよう。セカイがぶっ壊れる。法律も常識も通用しねぇ。それは絶体絶命のピンチだ。しかし、もうその瞬間から職場にも学校にも行かなくていい。義務も責任もあったもんじゃない。フリーダム。絶対的な自由時間が目の前に拡がるのだ。セカイなんか滅びてしまえ! と心の中で一度も叫んだことのない人、「世界を呪うなんて異常だよ」と思える人はシアワセだ。一生、そのシアワセが続くといいよね。登場人物の一人はこうつぶやく。 「俺達の時代がやってきたんだ」  これに激しく同意しちゃった人は第2巻以降の悪夢のように痛快なブッ殺しワールドを堪能すればヨシ。ゾンビ物としては『学園黙示録HIGHSCHOOL OF THE DEAD』(作画:佐藤ショウジ、原作:佐藤大輔/富士見書房)が人気で、虐殺度&お色気サービス(コレ邪魔だよな)も高めなんだけど、リアル度ではコチラが買い。ゾンビ描写、喰われる連中の断末魔描写においては花沢健吾の黒さ全開です。普通の人々もヤンキーもヤナ野郎も外人も可愛い子供も無差別にヤラレちゃう。ハラワタははみ出る、顔を囓り取られる、脳が露出する、首が飛ぶ。腐乱死体の写真を参考にしてんじゃないかと思える腐れっぷりには唖然となった。オヤクソクだが、噛まれたら感染してゾンビになっちゃうわけで、一匹ゾンビがあらわれたら、後はネズミ算のように増殖していく。ゾンビは痛みも疲れも感じない。おまけに怪力だ。さらに関節とかもどうなってんのか分からない。とてつもなくひん曲がった体で、人間様に襲いかかる。もちろんゾンビはブッ殺していい。いや、動いてる死体だから殺すもクソもない。でも、英雄君も他の人々もゾンビ現象だって認識がなかなか持てないもんだから、すぐには虐殺ゲームのスイッチが入らない。これ、どうなってんの!? 殴っていいの? とオタオタ遠慮してるうちに次々噛まれたり、喰われたりしてゾンビになっていく。コワイしキモイのに、どうしようもなくオカシイ。掃除中にゾンビになったおばちゃんがモップを目に突っ込んだまま徘徊してたり、折りたたまれた形でババアゾンビが疾走したり、アフロなゾンビが「あいーん」(by志村けん)をエンドレスで繰り返したり、グロテスクを突き抜けて笑うしかない光景が次々登場。ほんとに恐怖と笑いは紙一重ってことを実感できちゃう。  もちろん我らがヒーロー、英雄君もいい味出してる。大パニック進行中なのに、駅から脱出する時には「キセル」を気にするし、大破したタクシーや、無人のコンビニにお金置いてきたりするもんね。もうカネなんか何の価値もないし、法律も道徳も蒸発しちゃってんの、小市民気質が抜けない。命懸かってるのに、周囲の顔色をうかがって、気をつかいまくる。「バカか、オメェは」とツッこんでしまいましたよ。ホントに使えない野郎だぜ。俺ならもっと上手くやんのに。とりあえずホームセンター行ってサバイバルに使えそうなもんかっぱらうとか、無人の警察か銃砲店を見つけて武器を調達するとか、いろいろあるだろうに。もう、なんか序盤における日常での不器用さが、パニック後のセカイでもそのまんま受け継がれているわけだ。このあたりもまたリアル。人間、簡単には変われないんだよね。できれば、英雄君にはどんな展開になっても一皮剥けないで欲しい。多少は「成長」するにしても、読者の優越感(ダメダメじゃんコイツ)を満足させ、想像力(俺ならこーするね)を刺激するイマイチ使えないヤツとしてジタバタしていただきたい。それこそが、全く新しい、花沢健吾のみが描けるクソリアルなヒーロー像なのではないか? (文=永山薫) ●永山薫(ながやま・かおる) 1954年、大阪府大東市出身。80年代初期から、エロ雑誌、サブカル誌を中心にライター、作家、漫画原作者、評論家、編集者として活動。1987年、福本義裕名義で書き下ろした長編評論『殺人者の科学』(作品社)で注目を集める。漫画評論家としてはエロ漫画の歴史と内実に切り込んだ『エロマンガ・スタディーズ』(イースト・プレス)、漫画界の現状を取材した『マンガ論争勃発』シリーズ(昼間たかしとの共編著・マイクロマガジン)、『マンガ論争3.0』(n3o)などの著作がある。
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そろそろ覚悟の決め時? 大阪府の青少年条例改定の動きとBLの今後

 東京都の「非実在青少年」問題以降、各地の「青少年健全育成条例」は注目を集める存在になった。中でも、特に注視されているのが大阪府の動向である。  大阪府の動向が注目される理由。それは、東京都が「非実在青少年」問題に揺れている渦中に、女性向けエロメディアといえるボーイズラブ(BL)漫画雑誌の規制を行ったことにある。しかし、BL漫画雑誌8冊の「有害指定」を行ったのは、今年4月。実は、府がBL漫画雑誌の有害指定の検討を始めたのは昨年7月からと、都の「非実在青少年」問題よりも早かったのだが、間の悪いことに都の問題と実施時期が被ってしまったわけである。  もともと、大阪府の有害図書指定制度は全国レベルよりも厳しい。性描写など、条例の指定基準に該当する内容が書籍・雑誌ならば表紙を含めた総ページ数の10分の1、もしくは10ページ以上あれば自動的に有害図書になる。ほかの自治体でも、同様に総ページ数で判断するところはあるが、大抵は30ページ以上が基準である。この指定基準に該当する数量を超えたものを自動的に有害図書とする制度は「包括指定」制度と呼ばれており、全国的にはこちらを導入している自治体のほうが多数だ。対して、東京都は審議会に諮った上で個別の雑誌・書籍を指定する「個別指定制度」を取っている。大阪府の場合は両方の併用(4月のBL指定はすべて個別指定)。包括指定の場合、それが有害図書にあたるかどうかは、販売する書店が自分で考えなければならず、ある意味、書店泣かせな制度である(それでも、大阪府、東京都共に「こっちのほうが、間違いない」と主張する)。  もとより条例の厳しい大阪府。そこで、さらに条例の改定・強化を進める動きもあり、注目を集めている。10月に入り大阪府青少年問題協議会の青少年育成環境問題特別委員会が2回に渡り開催されているが、ここで論点を整理した上で、新たな条例案が作成されることになると見られる。  条例改定の動きは既に3月頃から見られたもので、筆者は幾度かの大阪府への取材の中で、これについても問い合わせているが「現行条例の枠内で十分対応が可能で、(非実在青少年のような)新たな規制を行うことはない」というのが、基本的な考えだという。 「(条例改定は)橋下知事からの問題提起ですが、我々の指定基準は規則で定められているため、これには議会の議決がいらない。そのため、行政が勝手に規則を付け加えることができるので、それが問題ではないかという話があった。いわゆる、表現の自由の直接の制限ではないけど、密接に関連している分野なので議会の審議が必要であろう。ということで、今指示を受けているのは指定基準の規則を条例に明文化する形で条例改正をしなさいというものです」(大阪府青少年課)  通常、条例は条例本体とは別に「施行規則」を作成し、業務を行う基準としている。どうも、大阪府(というよりは、橋下知事)の目指していることは「施行規則」では、明文化されない役人の恣意的な運用の可能性が避けられないので、条例に含めてしまおうというもののようだ。と、なると社会情勢において「施行規則」でフレキシブルに対応していた部分まで、いちいち、議会で審議して......となる。本当に、そんなことが可能かは疑問だ。  ただ、7月に公表された大阪府の「青少年を性的対象として扱う図書類の実態調査」という調査結果の中でも、東京都のような過剰な規制は求められておらず、雑誌や書籍に対する更なる規制には、あまり主眼を置いていないと見てよい。  ただし、BLだけは別問題。大阪府では4月の段階でBLを有害図書指定していないものの、東京都では6月、7月、9月と、それぞれ指定がなされている。その理由は、あまりにも性器の「消し」が薄い(というか、消していない)とか、付録に過激なゲイ物のDVDが付いているといった理由。大阪府のBL大量指定は注目を集めたものの、実際に大阪府に「どこか問題か」聞きに来た出版社は1社だけだったという。東京都が指定を行ってからも、付録がローターの雑誌が公然と発売されたり、どうもBLを出している出版社は危機感が欠如しているとしか思えない。  以前、大阪府の担当者からは、こんなセリフを聞いたこともある。 「本当は、18禁マークがあるのが望ましいのですが(女性向けだから)難しいでしょうねえ......」  18禁にするか、配慮するか。そろそろ、覚悟を決めたほうがよいのではなかろうか。 (取材・文=昼間たかし)
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「ここであったが百年目」 現代マンガ図書館館長から見た『化物語』原画盗難事件

 9月に発生した西尾維新原作の人気アニメ『化物語』原画展で原画2点が盗まれた事件。今後のアニメ制作にも必要な資料だけに、原画展を主催したアニメ制作会社のufotable(http://www.ufotable.com/)は、自社のサイトで返却を求めているが、いまだ動きはない。  作品をファンに親しんでもらおうとする制作者の想いをないがしろにするこの事件。しかし、イベントや展覧会、資料を保管する施設などから貴重な資料が盗み出される事件は、後を絶たない。資料を盗み出す人々の目的、そして対策はあるのだろうか。 「ファンにしてみれば"ここであったが百年目"。チャンスを逃さないわけがない」  と、話すのは「現代マンガ図書館(http://sites.google.com/site/naikilib/)」の館長・内記稔夫氏。自身のコレクションをもとに約18万点を所蔵する同館では1978年の開館以来、幾たびも盗難事件が発生している。しかも、最初の盗難事件は開館初日に発生したというから、驚きだ。 「その時は、表紙が見えるようにして本棚に展示してた。展示品として手に触れないようにと思って、棚にビニールを貼って画鋲で留めておいたんですが......気がついたら画鋲が外れて......なくなってたんだよ。手塚治虫の『月世界の少年』と『火の鳥』(『少女クラブ』付録)、それに『ピピちゃん』(『おもしろブック』付録)が!(註:どれも超貴重品である)」  当時はまだ、マンガを専門に扱う古書店も少なかった時代。早速、古書店に電話をして回り、売りに来るヤツがいたら連絡をしてもらうことを頼んだが、一向にどこからも連絡が来ない。 「そしたら、ある日ウチのスタッフが神田のあるマンガ専門古書店で見つけたんだ。その店にも連絡を入れてたし、ウチの蔵書だって分かりそうなもんなんだけどね」  どうもこの古書店は、スタッフが見つけなければ素知らぬ顔で売ってしまう気だったらしい。盗品である以上は売却などできず、一人で部屋で眺めながらほくそ笑んでいるくらいしかないかと思うかもしれないが、それは違う。盗品だと分かっていても、商売するヤツは存在するということだ。  それから30数年。館の歴史の中では今でも記憶が鮮明に残る「スゴイ」泥棒が何人も現れたという。 「何度も通ってた高校生がある日、眼鏡をかけてあからさまに変装して来て"初めてなんですけど"とやってきたことがあって。これはなにかやる、と思ってたら手塚治虫の『虫の標本箱』(註:これも青林堂版は超貴重品)を持って逃げていった。慌てて追いかけたら、下で待っていた仲間と一緒に外苑東通りを猛スピードで。その時、自分はぎっくり腰をやっていてさ.........」  この事件では、内記館長が犯人が制服で来たときの校章を記憶していたので高校に乗り込んで取り返したという。ちなみに犯人の変装用の眼鏡は、父親のものだったというオチがある。度の違う眼鏡でよくも階段を駆け下りて通りを猛ダッシュできたものだと、感心してしまう。しかも、『虫の標本箱』は箱入り本なのに犯人が盗んだのは中身だけ。それでは売っても価値はないわけだが、なぜ中身だけ欲しがったのだろうか......。  そして、泥棒はなにも外部からの来訪者だけではないとも、内記館長は話す。 「働いていた人間にも、コイツはなにかおかしいと感じるのはいたね。閉館時間で仕事が終わっても、なかなか帰ろうとしないのとか。用もないのに大きなカバンを持って出勤してくるのとかね」  内部の人間を疑わなければならないのは、非常に悲しいこと。だが実際に、展示会での盗難では内部の犯行が疑われる事例もあるという。例えば、06年度に川崎市民ミュージアムで開催された「横山光輝展」で展示された横山氏の初期の単行本『魔剣烈剣』が、行方不明になった事件。この事件では、撤収の際に本がなくなってしまったというから、見学者以外も疑わざるを得ないだろう。  こうした数多くの経験を経て内記館長は「危ないヤツは態度でわかる」と話す。その上で盗難対策としてまず心得ていなければならないことは「人の目がなければ、必ず盗む」こと。そこで、現代マンガ図書館では閲覧室には必ずスタッフが常駐する体制を取っているが、それでも「リストにはあるのに行方不明」の蔵書はいくつもあるという。どんなに緊張感を持っていても盗む気満々でやって来る者には、かなわない。  ましてや、今回の『化物語』原画展のように来場者の多くが作品ファンという状況だと、緊張感は緩む。楽しく作品に親しんでもらう目的は正しいのだが、それは同時につけ込まれる隙を生んでしまう。そんな、つけ込まれまくった事例として上げられるのが京都国際マンガミュージアム。ここは、一般公開されている蔵書を入場料のみで館内はもちろん、庭の芝生に寝転がって読むことができる「開かれた施設」なのだが、当然開館当初から盗難が相次いだという。こうなってくると「人を見たら泥棒と思え」で対処するしかなくなってしまう。しかし、それはなかなか困難だ。 「ほんの一部の人々のために、全体が悪く見られたりするのは困る」  と、内記館長。求められるのは、利用者に不快感を与えず不心得者に隙を見せない展示方法だろう。既存の施設を見れば、美術館や博物館では展示室に、誰かしらが座って「人の目」をつくっているのは当然。貴重な図書を所蔵する図書館では入館の際にカバンをロッカーに預けるのは日常的な風景だ。  盗まれるのは、その資料に価値があるからこそ。ある意味、資料の価値が世間に認められていることの証左でもあろう。その価値を、より多くの人に知って貰いたいのは誰でも同じ。であれば、なおさら盗難対策にも心を配らなければならない。  ──この他、内記館長の話は、都電が走っていた頃から区画整理の話、明治大学東京国際マンガ図書館の行方など多岐に及んだが、それはまた機会を改めて記していきたい。 (取材・文=昼間たかし)
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【関連記事】 人気作家・西尾維新原作アニメ『刀語』全話のシナリオが流出 問われる危機管理 佐藤秀峰が漫画『海猿』全話を無料公開 漫画界の新たなスタンダートとなるか? 「やったもん勝ち」なんて当たり前! 海外マンガ・アニメ違法投稿サイトの実情

佐藤秀峰が漫画『海猿』全話を無料公開 漫画界の新たなスタンダートとなるか?

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佐藤秀峰氏
 「ビッグコミックスピリッツ」(小学館)連載の『新ブラックジャックによろしく』を7月に完結させた漫画家・佐藤秀峰。映画『THE LAST MESSAGE 海猿』が9月18日に公開される中、佐藤は原作となった自身の漫画『海猿』の全119話を、自ら手がけているオンラインコミックサイト『漫画 on Web』で、1ヵ月間の期間限定で無料公開することを発表。サイトの日記で次のように明かした。 「オンラインコミック版「海猿」全119話を、本日から1ヶ月の期間限定でどーんと無料公開いたします。読者登録の必要もありませんので、こちらからどんどん読よみください」(原文ママ)  さらに、佐藤は『海猿』の1話をYouTubeでも公開。「漫画のコマを1コマずつ切り取って、多少の演出や調整を行い、紙芝居風(?)に閲覧できるようになっています」と説明している。漫画のYouTubeでの公開をめぐっては、「週刊少年ジャンプ」(集英社)掲載の『ONE PIECE』などを違法に投稿したとして、著作権法違反容疑で6月に名古屋市中区の男子中学生が逮捕された。佐藤は自ら公開しているが、彼はその点についてTwitterで次のように見解を示した。 「漫画の違法アップロードが時々問題になるけど、僕は規制をするより、その影響力を宣伝等に利用したほうが建設的だと思います。規制は読者のためにも作品のためにもならないし、ならば規制する側の自己満足」  規制をすることに対しての独自の価値観を明かした佐藤。さらに、「規制が読者の為にならない、ってどういう論拠ですか?」というあるユーザーの質問には、以下のように答えた。 「違法アップロードによって、単行本の売り上げが落ちたと証明するに足るデータがないので、であれば、読者が作品に触れる機会を奪うだけですよね」 「違法であることも多いと思いますが、現行法でも著者が了承すれば合法なので、考え方次第ですね。後、お金を出した人だけを『読者』とすると、図書館の利用者も『読者』ではないことになってしまいますし、読書文化が失われれば、結果的に損失は大きいと思います」  『漫画 on Web』では、手がけた作品を1話10円から販売し、『ブラックジャックによろしく』が「モーニング」(講談社)から「ビッグコミックスピリッツ」(小学館)への移籍するてん末も暴露してきた佐藤。さらに同サイトでは、『ダービージョッキー』『日本沈没』などで知られる漫画家・一色登希彦との合作漫画の製作ノートも公開するなど、漫画の新たな可能性を探っている。作品の無料公開について、ある出版社の編集者は次のように明かした。 「iPad、Kindleなど電子書籍リーダーの誕生により、出版社は未曾有の岐路に立たされる中、作品の一時的な無料公開は増えています。無料ビジネスから収益を生みだす仕組みを説いた書籍『フリー <無料>からお金を生みだす新戦略』は、1万人限定で無料公開して話題をさらい、ベストセラーとなりました。また、五木寛之の『親鸞』上巻、渡辺淳一の『死化粧』も期限付きで無料公開され、世間の耳目をさらいました。漫画界では『モーニング・ツー』(小学館)が全ページ無料試し読みを行い、一時休止していましたが、9月22日発売号から再開を決めています。一時的に無料で公開して注目を集めるのは、今後出版界でのスタンダードとなるかもしれません」  基本的なサービスを無料で提供し、さらに高度な機能を課金することでまかなうビジネスモデルである"フリーミアム"。過渡期を迎える出版界で、コミックでは12巻もある『海猿』全話を無料公開する佐藤の挑戦が、今後どのような成果をもたらすのか注目だ。 ●漫画 on WEB http://mangaonweb.com/
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「やったもん勝ち」なんて当たり前! 海外マンガ・アニメ違法投稿サイトの実情

 「マンガやアニメは好きだけど、中の人は飢え死にしてもいいです」そんな心の中の声が聞こえてきそうだ。  先日、アニメ化もされたマンガ『黒執事』の作者・枢やな氏が公式ブログで「友達からROMで借りて読みました」「1期全部海外動画サイトで見ました」などのメールを送ってくる、「ファン」を称する人々のモラルのなさに非難する文章をアップし注目を集めた。そして、正規のルート以外で違法にアップロードされたマンガやアニメを入手・閲覧している人々の意識は、世界のどこでも同じらしい。  8月にアメリカ・サンディエゴで開かれたマンガ・アニメを中心としたポップカルチャーの祭典「コミコン・インターナショナル」。そこで催された、オンラインの違法コンテンツをめぐるシンポジウムの中で、参加者の一人が客席から次のような発言をしたという。 「出版社はスキャンレーション(後述)のサイトを、(どのマンガが現在ファンの間で流行っているかを見るための)調査に使っているのではないか? 例えば『ヘタリア』(日丸屋秀和による国擬人化コメディ)などはスキャンレーションがあったからこそ、アメリカで出版されることになったのではないか?」  これに対するパネラーの発言は次のようなものだった。 「いったんネットに作品が出回ると、もうそれはネット上から取り下げても意味は無くなるし、実際に日米出版社による共同声明後(後述)に、出版社が多くのスキャンレーションサイトに作品をサイトから取り除くように要請したが、その要請に応えたサイトは少数だった」  ほかにもパネラーは次のように話している。 「調査のためなら、数章掲載するだけでも足りる。例えば『ワンピース』の人気を見るだけなら、最初の2~3章掲載するだけでいい。でも多くのスキャンレーションサイトには『ワンピース』が全章アップされている。それはどう言い訳するのか?」  違法にマンガやアニメをアップロードしたサイトであっても、ビジネスの役に立つ。果たしてそんなことはあるのだろうか?  海外のマンガ・アニメ愛好者にとって違法アップロードサイトは、日本では考えられないほど公然と存在している。違法にアップロードされたマンガやアニメのうち、マンガはスキャンレーション、アニメはファンサブと呼ばれる。その歴史は長く、インターネットが普及した90年代後半から行われていた。それぞれ、日本語が理解できなくても分かるように、英語など(ほかにも各国語がある)の字幕をつけたものが流されるわけだが、驚くべきはその仕事の速さ。日本で放送されたばかりの深夜アニメが、翌日、翌々日には早くも字幕付きでアップロードされていることもあるのだ。  そんなハイスピードで作業を行うことができるのも、日本国内で雑誌をスキャンしたり番組を録画する日本人協力者がいるからだ。海外のファンとネットワークを持っているくらいだから、協力者たちの多くは高学歴だ。でありながら、違法かつモラルのない行為に手を染める理由はなにか。 「アメリカですら、日本で流通しているマンガやアニメのうち英訳され販売されるものは限られている。かりに販売されたとしても、長期間のタイムラグがある。そうしたファンの心情が、スキャンレーションやファンサブを成立させているんです」(ある日本人協力者)  今でも、こうした「愛ゆえの、止むに止まれぬ行為」だというファンは少なからず存在するが、その数は少ない。かつて、「愛ゆえ」にファンサブやスキャンレーションのサイトが運営されていた時代には、自分たちの国で作品がオフィシャルに放映・販売されるようになると削除する「暗黙の紳士協定」があった。しかし、現在はそういうファンはほとんどいない。そして、違法だという意識も薄い。 「大手の違法アップロードサイトは、アフィリエイトや企業広告で収益を得ています。そればかりか、勝手に(c)マークをつけたり、有料配信をしているものもあります。欧米で人気を博している『NARUTO』は、一時期Googleで作品名を入力すると、そうした違法サイトが検索順位のトップに表示される状態になっていた。そのため、年少のユーザーは違法だという意識どころか、それらが公式のものだと思って閲覧していることもあります」 もちろん、権利者の側も黙っているわけではない。日本ではアニメビジネスの情報サイト『アニメ!アニメ!』が報じている(http://animeanime.jp/news/archives/2010/06/42_3.html)が、今年に入り日米の出版社が共同で、違法サイトに警告書を送付する取り組みを行っている。これにより、いくつかのサイトは閉鎖に追い込まれた。その中のサイトの一つは、Googleが発表している世界の上位サイト1000にランクインしていた。それくらい、違法サイトは誰もが気軽にアクセスするものになっている。ユーザーに違法サイトを利用することの問題を知らしめるためにも、権利者のアクションが求められている。 ◆合法に転身した? 違法サイト  消えてもすぐに新たなものが立ち上がる違法アップロードサイト。中には、どういうわけか合法サイトに転身を遂げたものもある。  それが、動画配信サイト「クランチロール(http://www.crunchyroll.com/)」だ。  2006年にカリフォルニア大学バークリー校の出身者らによって立ち上げられたこのサイトは、アニメの違法アップロードサイトとしては異例の急成長。それに目をつけた投資家によって本格的な収益事業を目指すことになった。それは、権利者とライセンス契約を結び合法サイトに転換することだった。09年に日本法人を設立すると、まずテレビ東京との契約に成功。さらに、GDHや東映などとも契約を結ぶに至った。 「当初は、合法だと言いながら違法な動画を混在させていたこともあり、不信感はぬぐえない。それにクランチロールの成功例が、ほかの違法アップロードサイトを正当化する口実となっているんです」  さらに問題なのは、総務省が同社に「お墨付き」を与えてしまっていることだ。同社は昨年開催された、総務省が後援するデジタルメディアのイベント「第15回AMD Award '09」にて「デジタル・コンテンツ・オブ・ジ・イヤー'09年間コンテンツ賞/優秀賞」を受賞。いわば、日本政府が存在を公認したかのような構図になっている。このことが、ほかのサイトに「彼らも最初は違法だったのだから、いいじゃないか」という意識を蔓延させている。  性善説で考えれば「改心した」と思いたいところだが、同社からはどうもグレーな印象が漂う。たとえば、同社がどうやって収益を上げているのかも謎だ。今年5月から「黒字化した」と公表しているが月600万人のユニークユーザー(公称)に対して、月7ドルの有料会員は、わずか2万人(公称)にすぎない。そのような企業と、テレビ東京や東映などの大手コンテンツホルダーが手を結び、出資している理由があるとすれば、幾ばくかの出資でアメリカに公式配信サイトをつくり違法サイト撲滅の一助にするという利便性だろう。  いずれにせよ、同社の行いは「成功」というよりも「やったもん勝ち」の印象がぬぐえない。今年6月には凸版印刷の子会社で携帯コミック配信の大手・ビットウェイが同社に75万ドルを出資したことも報じられている。  「合法化」したとはいえ不安の残る外資ベンチャーに期待せねばならぬほど、日本のコンテンツホルダーは追いつめられているのだろうか。 (取材・文=昼間たかし)
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