「表現の自由」では許されない エロマンガ「自粛案」の顛末と、児童ポルノ法改定強化の危機

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『あきそら』秋田書店
 先月、多くのマンガ・アニメファンが驚愕した成年向けコミックを発行するアダルト系出版社を含めた出版業界の「自粛案」をめぐる問題(記事参照)。直後に開かれたアダルト系出版社の業界団体・出版倫理懇話会(以下、懇話会)の会合では、あくまで現実味のない「素案」に過ぎないことが確認された。その上で、大手から中小まで、各出版社が恐れる都条例の先にある危機が浮かび上がってきた。  前回の記事でも記した通り、問題となった「自粛案」は、日本雑誌協会などで構成される出版倫理協議会(以下、出倫協)内に設けられた「児童と表現のあり方検討委員会」で示されたもの。本来、一部の委員にしか配布されなかった文書だったが、何者かによって、この資料は懇話会に加盟する各社に配布され、騒動の引き金となった。  筆者の元にも複数の出版関係者から情報が提供されたが、中には「早く(自粛案を)つぶせ」などと口走る者もあり、さまざまな混乱が巻き起こっていることを感じさせた。さらには、この「自粛案」が配布された「児童と表現のあり方検討委員会」にオブザーバーとして出席していた懇話会の長嶋博文会長が「出倫協に5時間にわたって叱責された」という噂も飛び交い、「大手出版社が、中小アダルト系出版社をスケープゴートにしようとしている」という怒り交じりの陰謀論まで、巻き起こっていた。  こうした中、4月14日に開催された懇話会の会合に招かれた日本雑誌協会の渡辺桂志氏は、「日刊サイゾーの記事は先走りすぎている」と強く否定した上で、そもそも誰も「自粛案」に賛同しておらず、申し合わせ案を作るための、さらに素案レベルのものに過ぎないと話した。 「検討委員会では、参加者の誰もが"自粛では文言が強すぎる"と一致して、すべてリセットして話合おうということになったはずです。そのことは、その場にいた長嶋会長も確認していました」(渡辺氏)  対して、長嶋氏は、「リセットということであれば、それで構いません。それならば、申し合わせをするか、しないか。もし、するなら文言をどうするかということを話し合えばよいでしょう」と、その場を収めた。  こうして、懇話会の会合は先に示された「自粛案」が現実味のあるものとして各社に配布されたことが誤解だったことを確認。その上で、申し合わせ案の是非の検討、懇話会が「児童と表現のあり方検討委員会」にオブザーバー以外の方法で参加する等も含めて話し合うことなどを確認し幕を閉じた。 ◆本当の恐怖は児童ポルノ法改定  そもそも、なぜ「自粛案」と呼ばれるような申し合わせを考慮する必要が迫られ、さらに出版各社の間に混乱を招いたのか。  後日、取材した出倫協「児童と表現のあり方検討委員会」の委員で日本雑誌協会編集倫理委員長の山了吉氏は語る。 「長嶋氏に検討委員会へ参加していただいたのは、さまざまな意見をお伺いする目的です。もし、我々の疑問や質問を、責められていると感じたのなら誤解ですし、大変残念です」  その上で、山氏は都条例改定が成立したことで、児童ポルノ法を改定しマンガを含めた規制が行われることの危機が強まっていると警鐘を鳴らす。 「今回の都条例改定が、国会でなかなか実現されない児童ポルノ法の改定と密接に絡んでいるのは間違いありません。その中で、規制を進める主張を行う人々から再びマンガが攻撃材料にされるのは防げません。その時には、都条例と違い成年マークの付いた雑誌や単行本も、攻撃対象にされるでしょう。そのため、協議会、懇話会の枠にこだわらず抜本的な対策が必要になってきていると思います」(山氏)  与野党共に、まだ新たに児童ポルノ法の改定案を提出する動きは見せていない。しかし、規制強化を目指す側が、とにかく絵(マンガ・アニメ)を対象に入れたいという考えを改めておらず、東京都から国の法律へ、をもくろんでいることは容易に想像できる。そうした中で、成人マークの有無にかかわらず、なんらかの対策を設ける必要はあると多くの出版関係者は考えているようだ。  例えば、出版元の秋田書店が重版を行わないことを決めた糸杉柾宏氏の『あきそら』について、山氏は次のように話す。 「ページを変えて手を替え品を替え、さまざまな性表現が出てきます。雑誌ならばさまざまなジャンルの作品が掲載されているので性的刺激は薄められますが、単行本になれば、しつこいほどの性表現が出てくることになる。こんなに大胆な描写が繰り返される必然性は、どこにあるのか? マンガ家と編集者で表現のあり方を考えたほうがよいと思います」(前出・山氏)  ならば「成年コミックマーク付きならば問題ないのか?」となりそうだが、山氏は大山田満月氏の『ちいさなおててにやわらかほっぺ』(茜新社)を例に挙げ「成年コミックマークがあるからといって、幼児を性の対象としてもてあそぶことが"表現の自由"とはならない」と説く。  こうした作品が出版業界内部でも批判されるのは、児童ポルノ法改定でマンガ・アニメが規制されるのを防ぐための努力を無にしかねないと見られているからだ。  いずれにせよ、具体的な対抗策は、これからの話し合いに持ち越された。最後に、前出の懇話会の会合中、ロリ系の成年マーク付きマンガを出版する各社からの発言は、ほとんどなかったことだけは記しておく。 (取材・文=昼間たかし)
あきそら 2 アウアウ?(編) amazon_associate_logo.jpg
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自粛ムードに性と生の熱気を吹き込むエロスの原点が結集した「昭和エロ劇画クロニカル」

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 表現の規制をめぐり、暗い話題が続くエロマンガ業界。その陰鬱とした空気を吹き飛ばすがごとく、熱気あふれる展覧会が銀座・ヴァニラ画廊で開催されている。 「昭和エロ劇画クロニカル『1970年代を失踪した愛と夢』」と題されたこの展覧会は、70年代に巻き起こった、いわゆる"三流エロ劇画ブーム"をけん引した劇画家たちの生原稿が壁一面に並べられている。   そもそも"三流エロ劇画ブーム"とは、70年代中期に勃興した一大ムーブメントだ。このブームの勢いはすさまじく、一時には月に50~60誌余りが発行、そこに増刊・別冊などの枠を加えると実に100誌余りが毎月発行されていたのだ。ネガティブに言えば、粗製乱造だ。しかし、そこには「エロがあれば、あとはなんでもアリ」という自由があった。どんな前衛的な作品だろうが、難解なストーリーだろうが、エロがあれば自由なのである。そこに、血気盛んな若い編集者や劇画家たちが飛び付かないわけはない。マンガ研究者の永山薫氏は自著の中で「今から見れば団塊・全共闘世代の最後の一暴れだった」と記す。
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(c)中島史雄
 今回、会場に並ぶ、あがた有為、石井まさみ、榊まさる、ダーティ・松本、つか絵夢子、つつみ進、冨田茂、中島史雄、羽中ルイ、早見純、間宮青児らは、文字通り「一暴れ」して、劇画表現の新たな時代を作った面々だ。  その一人であるダーティ・松本氏は語る。 「あのころは、誰も個性が決まっていなかった時代。今と違ってお手本にできる作品がないから、編集も作家も、みんな手探りでやっていた。だからこそ、それまでにない自由な作品を描くことができたんです」
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(c)ダーティ・松本
 ダーティ氏は「当時は人気投票もなかったから(自由に描けた)」とも話すが、ブームになり得たのは、単に自由だったからだけではない。創作に対するパワーが違う。ダーティ氏は現在も作品を発表し続けているし、コミックマーケットなどの同人誌即売会にも積極的に参加している。他の劇画家でも、あがた有為氏は近年では坂本六有の名で漫画原作者として活躍中(近作は、ふくしま政美氏と組んだ『女犯坊』)だったり。とにかく、誰もが40年近くにわたって現役感覚を失っていない。展示された作品群は、創作に賭けた人生の原点と言えるものだ。  この展覧会は長年にわたって「いつかやろうと思っていた企画」だというヴァニラ画廊代表・内藤巽氏も熱く語る。
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(c)つつみ進
「この時代のパワーを持っている劇画家さんたちの原画を、ぜひ生でご覧になっていただきたいと思います。70年代初頭、町の書店には『ガロ』や『COM』と同じ平台に、赤塚不二夫編集の『まんがNo.1』が並んでいました。一方で町の米屋や牛乳屋のスタンドで、表紙を見せて売られていたのが、三流エロ劇画誌と言われる一群です。60年代の熱い空気が、行き場を求めてエロマンガという媒体に一気に流れ込んだ感じでした。何人にも束縛されない表現と、自由な編集方針で百花繚乱のごとく現れた三流エロ劇画誌を、今でも愛してやみません」  4月23日(土)には、ダーティ・松本氏と高取英氏(エロ劇画誌の代表格である『漫画エロジェニカ』編集長にして、今や京都精華大学マンガ学部教授に!)による特別トークイベントも予定されている。ちまたに自粛ムードがあふれる中、何十年も創作のパワーを衰えさせない劇画家たちの作品は、見る者に活力を与えてくれるはずだ。  これを見ずしてエロスは語れない! (取材・文=昼間たかし) <開催詳細> 昭和エロ劇画クロニカル「70年代を疾走した愛と夢」 日時:2011年4月11日(月)~4月30日(土) 入場料:500円 ※7日(日)、4日(日)も特別に営業(17:00まで)。 ※18歳未満入場不可 会場:ヴァニラ画廊 東京都中央区銀座 6-10-10第2蒲田ビル4階 TEL 03-5568-1233 <http://www.vanilla-gallery.com/> ■特別トークイベント:高取英/ダーティ・松本 日時:4月23日(土)17:00~18:30  入場料:2,000円(1ドリンク付)
官能中毒家―あがた有為作品集 生粋。 amazon_associate_logo.jpg
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ついにロリマンガ消滅へ 業界団体が示した「自粛案」の苛烈さ

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「LO」2011年5月号
 7月からの改定・東京都青少年健全育成条例(以下都条例)全面施行を前に、出版業界内部で成年向けエロマンガを含めたロリコンものの自粛に向けた取り組みが計画されていることが明らかになった。一部の出版社からは、反発の声も挙がっており対立は深刻になっている。  新たな自粛の取り組みは、業界団体・出版倫理協議会(以下協議会)が設けた「児童と表現のあり方検討委員会」の席上で示されたもの。自粛案は「出版倫理協議会と出版倫理懇話会の申し合せ(案)」のタイトルで 1:いわゆる第二次性徴期を迎える前の、13歳未満と想起させる子どもをモデルとした漫画(コミック)を出版する際には、性交又は性交類似行為を連想させる表現は自粛する。 2:いわゆる第二次性徴期を迎える前の、13歳未満と思われる子どもを大人が凌辱するような行為を描いた漫画(コミック)の出版は自粛する。  以上の二点を求めている。  委員会から示された自粛提案に、出版倫理懇話会(以下懇話会)側の加盟各社は反発を強めている。協議会は64年に設立された日本雑誌協会・日本書籍出版協会・日本出版取次協会・日本書店商業組合連合会の4団体からなる、いわば業界大手を中心とした組織。対して、懇話会は85年に設立された、茜新社・コアマガジン・辰巳出版などが加盟するアダルト系出版社の業界団体だ。 「都条例がターゲットとしているのは、秋田書店や白泉社、双葉社などから出版されている成年向けマークを付与していないにも関わらず、同等の性行為を描写をしている漫画。これまで、区分を徹底してきたアダルト系出版社が煽りを受けるのは納得できない。そもそも、この自粛案は都条例よりも厳しい規制案ではないのか」(懇話会加盟社社員)  昨年の都条例騒動は、あくまで「成年向けマーク」を表示していないにも関わらず「過激な」性描写が行われているものがターゲットで、アダルト系出版社にとっては、いわば「対岸の火事」だった。突然の自粛協力要請は寝耳に水ともいえる。 ■「有害コミック騒動」の再現か  アダルト系出版社が自社で発行する雑誌・書籍の表紙に自主的に表示する「成年向け」マーク。このマークの導入も協議会の提案で導入されたものだ。  発案されたのは91年のこと。前年から大手出版社が発行する青年向けマンガの性描写への批判をきっかけに、アダルトも含めて、あらゆるマンガで性描写の自粛が余儀なくされた「有害コミック騒動」への対応の一環であった。ところが、大手各社はマーク付き=有害と見られることから二の足を踏み、結果的に主にアダルト系出版社が利用するものになった。 「アダルト系出版社の間では"再び大手が自分たちのツケを懇話会加盟社に押しつけてきている"との声もある。構図は、90年代の騒動と似ている。もし、懇話会加盟社に(前出の)自粛要求を飲めというならば秋田書店の『チャンピオンREDいちご』は廃刊、双葉社はエロ系をすべてエンジェル出版(成年向けマーク付き出版物を発行する関連会社)に移行するくらいの措置を取って貰わないと納得できない」(アダルト誌編集者)  協議会が自粛案を示した背景には、東京都と出版界の対立構造に警察が介入することへの危機感が伺える。「有害コミック騒動」の最中の91年には、神保町の書泉ブックマートの店長らがワイセツなマンガを販売した容疑で逮捕されエロ同人誌約5,000冊が押収される事件も起こっている。 「東京都は、未だに強硬な姿勢を崩してはいない。7月からの改定都条例の全面施行に併せて成年向けや同人誌も含んだ、みせしめ的な摘発が行われる可能性も否定できない」(業界関係者)  昨年の都条例をめぐる騒動の中で、多数の名の知れたマンガ家や知識人の発言は立派だったが、肝心のエロ表現の是否は見過ごされていた。果たして既に自主規制が徹底され、書店でも18禁コーナーに置かれ、東京都も従来は「問題ない」としてきたマーク付きの雑誌・書籍も含めた「自粛」は必要なのか、感情的な対立も含めて出版社間の意見は簡単にはまとまりそうもない。この問題を扱う懇話会の会合は今月14日に予定されている。 (取材・文=昼間たかし)
LO (エルオー) 2011年 05月号 ずっと好きだったんだぜ~。 amazon_associate_logo.jpg
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あまりにリアルな"原発マンガ"『白竜~LEGEND~』突如休載の理由とは?

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『白竜LEGEND 16巻』(日本文芸社)
 「どこからか圧力があったのかもしれない」「いや、作者がさすがに描く気がしなくなったのでは?」  突然の連載中断にファン騒然だ。  「週刊漫画ゴラク」(日本文芸社)に連載中だったマンガ『白竜~LEGEND~』(原作・天王寺大、画・渡辺みちお)が、3月18日発売号で休載。次号以降は過去のエピソードの再録などに替わっている。  このマンガ、内容がまさに今、世間で最も関心を集めている福島第一原発の事故と見事に合致しているのだ。いろいろな題材をルポ風につづったことで人気の同シリーズだが、ちょうど東日本大震災が起こった時に連載されていたのが「原子力マフィア編」というもの。  あくまでフィクションとしながらも、劇中には"東都電力"なる東京電力ソックリの電力会社が登場。原発の問題点を次々と浮き彫りにし、「主要配管が吹っ飛べばチェルノブイリ級の事故が起こる」など、原発の実態が生々しく描かれている。  原発の配管技術は化学プラントに比べると15年遅れているとしており、下請け孫請けに丸投げされた配管工事のずさんさも指摘。東都電力から支払われる7万円の人件費も、下請けに回されるたびにピンハネされ、現場作業員の日当は8,000円程度。登場人物が「ヤクザでもそこまではしねぇぞ」というセリフを吐く。溶接作業員のライセンスは偽造され、配管検査をごまかす手口にも異様なリアリティーがあるのだ。  これには原発に詳しい専門家も、「とても想像で描いたようなレベルではないですね。原作者がよほどこの問題に関心を持って勉強していたか、内部関係者からのリークを受けていたか、でしょう」(科学技術研究者・佐藤真一氏)と感心する。  さらに物語では、電力会社に頻発する事故を金と権力で覆い隠す体質があるとしている。描かれた内容がすべて現実と合致するかどうかは分からないが、実際の原発の現場作業員は日当9,000円、資格不要かつ年齢・学歴不問で求人されていたことが分かっており、見事にリンクする部分があることは否めない。  発行元の日本文芸社に問い合わせたところ、連載の中止理由は圧力でも作者の都合でもなく、「震災による被害状況を踏まえた出版社としての判断」だというが、最後の掲載となった号では「もっと深い闇を抱え込んでいるッ!!」と、次号での表紙・巻頭カラーを予告していた。お蔵入りになった残りの話が非常に気になるところだ。まさか「続きは現実で」というわけではないだろうが......。
白竜LEGEND 16巻 東電に読ませたい。 amazon_associate_logo.jpg
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夢は漫画家兼スナックのマスター!? "最後のマンガ職人"東陽片岡のダウナーな日常

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取材当日も二日酔いだったようですが......。
 異常にびっしりと描き込まれた超・特徴的な画風で、非常にビンボーくさい下町の人たちをシュールかつ変に現実感を伴った世界観で描き出す漫画家・東陽片岡。名前は知らない人でも、一度くらいはあの強烈な絵をどこかで見掛けたことがあるんじゃないだろうか(いや、オシャレ雑誌ばっかり読んでる人は見掛けたこともないか)。  そんな東陽片岡が初の活字本『シアワセのレモンサワー』(愛育社)を完成させた。スナック・風俗・バイク・温泉など、漫画作品にも頻繁に登場するテーマを、飲み屋で語っているがごとく話題があっちに飛びこっちに飛びと、気ままに書いているエッセ―集だ。今回のインタビューは、飲み屋が建ち並ぶ街にあるご自宅での取材だったのだが......。 ――いやー、イメージ通りスナックがたくさんある場所に住んでるんですね。 「はい。飲みにばっか行ってるもんで、もう飲み屋街に住んじまえば楽しいだろうなって。でも、近くにあり過ぎて逆にあんまり行かなくなりました。このマンションの一階にもおスナックが入ってるんですが、30秒くらいで行けちゃうんで楽しくないんですよ。......今、ちょっと酔っぱらってますけどね」 ――やっぱり、ちょいちょい飲んでるんじゃないですか。 「国民健康保険をずっと滞納してたもんで、貯金を差し押さえられましてね。お金がなくて最近おスナックにも行ってなかったんですけど、昨日は臨時収入があったんで久しぶりに行ってきました」 ――東陽さんの漫画や文章を読んでいるとスナック・風俗・バイクという三本柱がよく出てきますが、一番長くやっているのはどれなんですか。 「バイクですね、免許を取ったのが高校三年の時ですから。でもまあ、オナニーの方が長いですけど......。その次がお風俗です、初めて行ったのが27歳の時ですね」 ――あ、風俗に行き始めた年齢は遅いんですね。 「なぜかというと、それまで真性包茎だったんですよ。27の時に手術をして、すぐに大塚の駅前の"K"っていう60分1万4,000円のソープに行きました。そこのお姉さんの源氏名はみんな東京23区から取っていて、"杉並さん"っていう人に当たって。でも、手術の直後だったからプレイの最中にすり切れて出血しちゃってね」 ――処女でもないのに出血って! 杉並さんもびっくりしたでしょうね。 「まあ、とにかくそれで童貞を捨てましてね。そこから盛んにお風俗に通うようになって、まだ25年くらいですから歴史は短いですよ」 ――スナック初体験は何歳ごろですか。 「行き始めたのは30歳くらいですね。おスナックはやっぱり居酒屋なんかと違って料金が若干高いんで、若いころは行けませんでしたから。その当時、草野球をやっていたんですけど、他のメンバーは年配の人たちが多かったんで、それでおスナックに連れて行かれるようになったんです。初めはおスナックでカラオケをやってるヤツはバカだと思ってましたけどね。自分でやってみたら楽しいんですよ、コレが。『こりゃたまらんな』と思って、一人でも通うようになりました」 ――スナックでのカラオケって、どんな曲を歌ってるんでしょう。 「ムード歌謡ですね。ボクは世代的にはフォークの時代なんですけど、フォークの人たちってテレビに出ないという風潮があったんで、当時テレビに出てたぴんからトリオとかクールファイブ、殿様キングスなんかを聴いて育ちました。ボクがスナックに行き始めた20年ちょっと前は、まだカラオケはレーザーディスクの時代でねえ......。一回一回、ママに曲の番号を伝えてディスクを入れ替えてもらってましたよ」 ――スナックへは一人で行ってるんですか。 「最近はお金がないから編集さんとかに連れてってもらってますが、普段は一人です。昔は友達に合わせてみんなで安いチェーン店の居酒屋とかに行ってましたけど、基本的に一人が好きなんでしょうね。お風俗も一人で行ってますし......。お風俗のルポ漫画を描いてるんで、お風俗に行った後に毎回その足で飲みに行って、先ほどまでのプレイを回想してニヤニヤしながらシアワセのレモンサワーを飲むのが好きなんですよ。これはたまらないです!」 ――風俗に行くのも仕事になっちゃうと、純粋に楽しめないんじゃないですか。 「でもルポだと考えると、ハズレのお姉さんが出てきてもそんなに腹が立たないんですよ。『あ、いいネタもらった』みたいな。純粋に自腹で行って、すさまじい地雷に当たったときは悲惨です。カナシミのレモンサワーですよ!」 ――ボクも最近スナックに行くようになったんですが、新しい店に入るとき、どんなことに気をつければいいでしょうか。 「ボクの場合は熟女好きだから、看板が新しくて、文字が丸い感じのかわいい書体を使ってるところは避けるようにしていますね。どっちかというと明朝体が好きです。外観はボロくてもいいんですけど、そこそこ清潔な感じで。入り口に観葉植物の鉢植えとかが置いてあると、よりいいですね。で、入ってくときはとりあえず笑顔が大事。むこうも客商売なんで、どんな客が来るのか楽しみな反面、ちょっと怖いと思ってるんですよ、だからニコニコしながら『一人ですけどいいですか?』って入っていけばいいんです。金がないときは『3,000円で大丈夫ですか?』とか」 ――スナックって帰るタイミングも分からないんですけど、どういうきっかけで切り上げればいいんですかね。 「基本的には、新しいお客さんが入ってきたタイミングで『じゃ、ボクはそろそろ......』みたいな感じで帰りますね。逆に全然お客さんが来なくて一人だと、ずっとママさんのグチを聞かされて閉店までいなくちゃいけない......みたいなこともありますけど」 ――東陽さん、月にいくらくらい飲み代を使ってるんですか。 「景気が良かったころは月に10万円くらい......。そんなことしているからお金がまったく貯まらなくてね。ボトルも、もう分からないくらいいろんな店に入れてますから。おかげで健康保険も住民税も滞納しちゃってねえ。年金はもうあきらめました、年金を払うのが義務だって分かってなかったんで」 ――最後にお仕事の話を......今後、漫画などで描きたいと思っていることってありますか。 「経費をバッチシ頂いてバイクで温泉街を回って、夜はおスナックに行って、できたらコンパニオンさんと一発できるっていうルポ漫画がやりたいですね」 ――それ、すごい経費が掛かりそうですね。 「だからまったく依頼が来ないです。やりたいことっていったら仕事じゃなくって欲望に即したものでしかなくてね、前向きなことは全然浮かんでこないですよ......今、二日酔いなもんで。そうだ、昭和ブームみたいなのがあるんで、昭和40年代前半くらいを舞台に下町のセコイ人間が出てくる漫画を描いてみたいなとは前々から思っていますね」 ――昭和30年代を描いた『三丁目の夕日』(西岸良平/小学館)があれだけ売れたんだから、昭和40年代ブームも来るかもしれませんね。 「それと、おスナックを自分で始めたいと思ってて。今、52歳なんですけど、それくらいの年齢のママやマスターってほとんどいないんですよ、高齢化しちゃってるから。だから、漫画家兼スナックのマスターっていうのもアリじゃないかなと。昼過ぎに起きて、ちょっと漫画描いて店開けて。カウンターの中で描いたりしてもいいし。いい物件があって、マジメにやろうかなって思ってた時があったんですけどね。ちょうどその時期に漫画の仕事がどっと減っちゃったんでできなかったんですけど。おスナックを始めるにしても、まったくの初心者だからしばらくは赤字が出ると思うので、その分を漫画で補てんすればいいやって考えてたんですけど、その漫画の仕事が減っちゃったんで」 ――漫画家としての展望よりも、スナック開店計画の方を大いに語っていただきまして......。 「そのうち本当にやりたいと思ってるんでね。家具屋さんとかに行っても『店にこんなインテリア置きたいな』......とか思ってますから!」 (取材・文・写真=北村ヂン) ●とうよう・かたおか 東京都出身。多摩美術大学デザイン科卒。青林堂の創業者であり、「月刊漫画ガロ」の初代編集長である故・長井勝一氏にその才能を見初められ、漫画家デビュー。ビンボーくさい下町の人々とその生活をテーマとし、下品とシュールを織り交ぜた独自の世界を描いている。「畳の目を描かせたら日本一」との呼び声も高い。
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『テルマエ・ロマエ』に『宇宙兄弟』も──次々と実写化映画が製作される理由とは?

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『We are 宇宙兄弟 vol.2』
──「日刊サイゾー」で話題のあの記事をただ読む以上に、さらなる知識を知りたいそんなアナタのために、話が100倍(当社比)膨らむ" プレミアム"な記事をサイゾー目線で厳選レビュー! 『GANTZ』や『毎日かあさん』、『あしたのジョー』などが続々と公開されるなど、すでにマンガ原作の実写映画はおなじみのものとなっています。そんな中、「2010年マンガ大賞」受賞作の『テルマエ・ロマエ』が、阿部寛主演で実写映画化されることが話題となりました。ほかにも「モーニング」(講談社)で連載中の人気マンガ『宇宙兄弟』も実写映画として製作が進行しており、原作に愛着を持つファンからは、マンガ原作の実写映画にありがちな大幅の改変やミスマッチ感のあるキャスティングを不安視する声も聞こえてきます。  このように、昨今の映画界ではマンガなどの原作ものが尽きることはありません。さらに、こうした原作ものは映画だけにとどまらず、現在では『テニスの王子様』や『忍たま乱太郎』のように舞台化される作品も散見されます。  そこで今回のプレミアサイゾーでは、実写化作品にまつわるお話をピックアップ。マンガの実写化作品が量産される背景からイケメン俳優に聞くマンガキャラを演じる上での苦労、さらには押井守監督が語る『うる星やつら』実写映画の話まで――原作ファンからは"なかったこと"にされることも多い実写化作品。その価値を今再び考えてみてはいかがでしょうか? 【日刊Pick Up記事】 また人気コミックが実写に『テルマエ・ロマエ』阿部寛主演で映画化決定! 2011年3月27日付(日刊サイゾー) ノーモア! 原作レイプ プレミアムな記事紹介はこちら↓ 【プレミアムな関連記事】 [レベル1:続々と実写映画化される作品たち] 「また原作レイプ!?」人気コミック『宇宙兄弟』小栗旬&岡田将生のW主演で映画化へ 2011年2月16日付(日刊サイゾー) 小栗旬の髪がすごいことになってる。 伝説のコミック『あしたのジョー』NEWS山下智久主演でTBSが実写映画化へ 2010年2月17日付(日刊サイゾー) 香川照之の丹下段平だけは必見。 『GANTZ』『大奥』に『あしたのジョー』......人気マンガ続々実写映画化の悲劇 2010年5月号(プレミアサイゾー) 実写映画化はなぜベストを尽くさないのか。 [レベル2:俳優たちの原作に対する思いとは?] 【芦名星】──「読まれたら恥ずかしいこともある」クール・ビューティの意外な頭の中とは? 2010年11月号(プレミアサイゾー) マンガ化もされた『七瀬3部作』の『七瀬ふたたび』を実写化。 彼女の頭の中では、超能力者の苦悩よりも食欲のほうが勝る!? 【蓮佛美沙子】──「言わなきゃ伝わらない」ツンデレ女優は気持ちを届けることが目標!? 2010年10月号(プレミアサイゾー) 三浦春馬くんとの甘酸っぱい思い出話が? 『テニスの王子様』高橋優太の苦悩と女性への反応「やりきるためにはすね毛もそります!」 2011年1月号(プレミアサイゾー) とんでもない格好や髪の色になることも多々......。 [レベル3:他ジャンルから実写映画に参入する人々] "バカ映画の巨匠"河崎実の逆襲!? 『新・巨人の星』のごとく復活せり 2011年3月25日付(日刊サイゾー) 『あしたのジョー』に続き、『タイガーマスク』実写化の動きもあったとか。 押井守、ご乱心? 「ストーリーもメッセージもない」と公言! 2009年12月号(プレミアサイゾー) 押井監督で『うる星やつら』実写化なんて、また高橋留美子御大がブチ切れちゃうよ! ヤマカンの『私の優しくない先輩』に見るハイブリッドな身体性 2010年9月号(プレミアサイゾー) 実写・アニメともに監督経験のあるヤマカンが実写映画化作品にはぴったりかも!? プレミアサイゾー http://www.premiumcyzo.com/
テルマエ・ロマエ I 阿部ちゃん、出ちゃってるよ! amazon_associate_logo.jpg

また人気コミックが実写に『テルマエ・ロマエ』阿部寛主演で映画化決定!

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『テルマエ・ロマエ』(エンターブレイン)
「ついにあの話題作が映画化ですからね。いやがおうにも盛り上がりますよね。製作はフジテレビで、キャストもほぼ決まって、台本もほとんど完成しているそうで、すでに撮影も始まっています」(映画関係者)  昨年の「マンガ大賞」に選ばれ、第14回手塚治虫文化賞短編賞も受賞。そして、「このマンガがすごい!」2011年版オトコ編2位になり、1巻の単行本の売り上げも50万部を突破するなど、その勢いはとどまることをしらない『テルマエ・ロマエ』(ヤマザキマリ)。その作風は、 「古代ローマ時代の浴場と、現代日本の風呂をテーマにしています。入浴文化という共通のキーワードを軸に、現代の日本にタイムスリップした古代ローマ人の浴場設計技師が、日本の様々な風呂文化にカルチャーショックを覚えて、それを大真面目なリアクションで返すギャグ漫画です」(漫画編集者)  それを実写化するにあたって、もちろん、ローマを舞台にしていることから、外国人が主人公で、ローマ系の人選かと思いきや、そこはやはり日本人だった。 「主人公のルシウス役は、阿部寛さんです。原作にはありませんが、ヒロインとして上戸彩さんも出演します。ローマでのロケも行うので、かなりスケールの大きい話になりそうですよ」(広告代理店関係者)  確かに、阿部寛だと、顔の彫りも深く、元メンズノンノモデルだけあって、背も高いモデル体型。まさに、日本人限定で考えると、阿部寛以外考えられない絶妙なキャスティング。それよりも、気になるのは上戸彩。もしかして、入浴シーンもあったりして!?
テルマエ・ロマエ I また原作レイプ!? amazon_associate_logo.jpg
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マンガ最大のタブー『ワンピース』──誰も語らないヒットの真相【前編】

──いまや、単行本の累計発行部数が2億部を突破したという『ワンピース』。その圧倒的な認知度や支持率の高さから批判的なコメントはもちろん、まともな批評すら許されがたい状況になっている。いったい何がファンを妄信的にとりこにしているのか。
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 2011年1月31日、集英社は「週刊少年ジャンプ」で連載中の尾田栄一郎『ONE PIECE(以下、ワンピース)』【1】の単行本60巻までの累計発行部数が2億部を突破したことを発表。2月末までに発売される同社全33誌の表紙を『ワンピース』にちなんだものにする「表紙ジャックキャンペーン」を展開。「non-no」4月号や「週刊プレイボーイ」8号などで、タレントがキャラのコスプレをして表紙を飾るなどしている。  こんな例を引くまでもなく、ここ数年の『ワンピース』人気の過熱ぶりには目を見張るものがある。ゲームやフィギュアなど、サブカルチャーのニオイのするコンテンツやプロダクトについて、浅い知識を自慢げに開陳し、一家言ある風を装いたがる矢口真里はご多分に漏れず、多くのタレント、芸人、ミュージシャンらがファンであることを公言。明石家さんままでもが、サンジが恩人のもとを離れ、麦わらの一味に加入するシーンで泣いたと発言している。  また、集英社の雑誌のほか、10年7月には「日経エンタテインメント!」(日経BP社)8月号の表紙にもルフィは登場し、この2月には『クローズアップ現代』(NHK総合)も同作のヒットの理由を探る特集を企画。本誌でも10年11月号で『ワンピース』バブルの過熱ぶりについて報じた。そして、09年末公開の映画『ONE PIECE FILM STRONG WORLD』は興行収入48億円を記録し、1月にはアニメ版の制作や版権管理などを手掛ける東映アニメーションが、10年度の『ワンピース』の国内版権売り上げが第3四半期までに前年度通年の4倍近くとなる24億4900万円に上ると推計するなど、メディアミックス事業の成績も上々だ。

『ワンピース』批評はタブー化してる?

 かようにメガヒットコンテンツと化した『ワンピース』ではあるが、その半面、ベストセラーにはつきものの本格的な批評、評論にはなぜかめったに出くわさない。  前出「non-no」において専属モデル・佐藤ありさが「感動できるエピソードが続々と出てきてハマっちゃう」と語るように、ファンを公言するタレントの『ワンピース』評は「泣ける」「燃える」「熱い友情に感動」など、読後感を表すものばかり。「日経エンタテインメント!」が同作の魅力を「夢を抱き、仲間との友情を信じる熱いメッセージ性」「各キャラクターがそれぞれ人生の物語を持っている」「壮大な世界観」とするなど、メディアでの扱いもそう変わらない。 「それだけに、なぜ『ワンピース』が突出した人気を獲得しているのか。理由がよくわからないんですよ」  そう語るのは、『オタクコミュニスト超絶マンガ評論』(築地書館)などの著書を持つ紙屋高雪氏だ。紙屋氏は10年6月、自身のブログに「なぜ『ワンピース』はつまらないのか?」というエントリを投稿。『ワンピース』は、続々と登場する強大な敵やライバルに打ち勝つスポーツマンガのように物語が進む作品と見受けられるものの、その割にルフィには敵を倒すための努力や勝つための戦略があるようには見えない。しかし、強い信念や決意を表明するための"名言"をことあるごとに絶叫してみせる。そのロジカルではない精神論は苦手だ、としたところ、はてなブックマークに400ものブックマークが寄せられた。 「あの一件では『読者は努力や理屈なんて求めていないのでは』『あのテンポの良さが魅力』『友情と離別の物語が面白いんだ』という指摘を数多く頂きました。それだけに、ロジックを求めた僕が野暮だったのかなぁ、とも思ったものの、じゃあ、なぜ別のマンガじゃダメなんだろう? という疑問も浮かんでしまった。たとえば『SLAM DUNK』【2】だって同じように友情や仲間との絆を描いた作品ですよね。もちろん『SLAM DUNK』もベストセラーですが、なぜ『ワンピース』はそれすらも飛び越えて、日本一売れているマンガたり得ているのか。はてなブックマークはもちろん、マンガ評論家の書評や雑誌の『ワンピース』特集などもマジメに追いかけてみたんですけど、作中に描かれた絆やバトルの素晴らしさを明確に語ることに成功している言説には、残念ながら出会えませんでした」(紙屋氏)  前出『クローズアップ現代』によると、その読者層の9割は19歳以上が占め、全読者の1割以上は50代以上だという。あまりにも多くの大人をそこまで魅了するワケが明確に説明されないのは不思議な話だが、紙屋氏は、その理由のひとつにファン層があるのではないか、と見る。
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人気はSNSのお陰? これからが勝負の絶望的活劇漫画~諫山創『進撃の巨人』~

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『進撃の巨人 4』(講談社)
マンガ評論家・永山薫のコミックレビュー。連載第4回は諫山創『進撃の巨人』です!  オッサンは荒削りで勢いがあってハッタリの効いた漫画が好きなんだよ! というワケで、今回は話題爆裂、ミリオンセラー街道進撃中の諫山創の『進撃の巨人』(講談社)だ。漫画好きでこの作品のことを知らなかったらモグリだと思うが、モグリさんたちのために、簡単にまとめちゃうと、遠未来の地球らしきところを舞台にキショク悪い全裸巨人の群と人類が闘うのドラマ。  で、人類サイドは残念無念の連戦連敗中。高さ50mの壁に囲まれた城塞都市に立てこもってなんとか生き長らえている。ところが、巨人の中には壁よりもデカイ50m超級ってヤツがいて、こいつが壁をブチ壊す。その穴から並の15mサイズの巨人がワラワラと侵入。巨人どもは揃いも揃って美食家なので、人間を捕まえちゃあ生きたままバクバク喰っちゃう。  主人公の少年エレンを含む戦士の皆さんが果敢に対抗しているものの、基本ラインは絶望的な後退戦だ。一つの壁を粉砕されたら都市の一区画は見捨てられ、住人は美味しく完食されちまう。とは言え、一方的な殺戮の宴で終わっちゃったら全3巻で完結! サヨナラ人類なワケだけど、ご安心あれ。エレンが巨人と一体化したり、巨人化したりして、人型決戦兵器になるみたいな展開。  確かにこれは面白い。  逃げ場ゼロの閉塞感。容赦のない暴力描写。誇張された遠近感。キモすぎる巨人の造型。それだけでも充分お腹いっぱいなのに、この魅惑的な地獄世界を主に少年少女からなる戦士がワイヤーを使ってビュンビュン飛び回る。この「立体機動」の爽快な浮遊感は絶品。空中ブランコを乗り継ぎながら剣を振るうと言えばいいのか、これは絶対3D動画で見てぇ!  キャラも立っている。子ども時代、女の子を助けるために悪党を迷いなく刺殺したエレン。救われたミカサはそれがトラウマとなり、命懸けの闘いに参加することによって自らのアイデンティティを保っている。臆病だが直感に優れた少年。そう、これは今時の漫画らしく、どこか壊れた、あるいは欠損した思春期の少年少女の冒険譚なのだ。  ブログや書評で、俺が言いそうなことは大体書かれている。人類が立てこもる城塞都市は、逼塞(ひっそく)する現代日本の姿じゃないのかとか、特に若年層のやり場のない鬱屈を反映してるんじゃないかとか、ヱヴァンゲリオンの影響とか、ヘタウマだとか、諸々の過去作からの系譜だとか、全くその通りだと思う。そういうのを読みたい人は探して読んでくれ。  謎解きも始まってて、カバー下の表紙に描かれたタペストリー風の装画に書かれた文字を解読したブログが評判になっている。ネタバレが怖くない人は、検索して見つけて欲しい。だが、まだ単行本は3巻しか出ていない。全体に散りばめられた伏線、謎は全く回収されていない。この世界の姿も断片的にしか分からない。  巨人とは何なのだろうか? 人間が殺すことができるからには何らかの生命体なのだろうが、作中で語られるように人間のような知性を確認できず、生殖器が存在せず、従って繁殖方法が不明で、「そもそも巨人が/人間のいない環境下で/100年以上存在していることを/考えると......食事を摂ること/自体 必要無いものであると/推測できる」とされる存在とは一体? しかも50m超級の巨人に至っては、突然姿を現し、姿を消す(だったら城塞都市の中心にいきなり出現できると思うのだが)。巨人についてグルグルと考えを巡らせると、エレンやミカサのいるセカイが果たして現実の世界なのか? なんて疑問まで頭をもたげてくる。このセカイが地獄で巨人が鬼なのか? 巨大生物の中のセカイで、巨人は白血球みたいに異物である人間を喰っているのか? それともヴァーチャルなセカイで、巨人はウイルス/アンチウイルスなのか?  もちろん、あらゆる謎を明かにする必要はないし、不条理や不可知の部分もまた必要だ。とは言え、諫山創の拡げた風呂敷の面積はかなりデカイ。これをどう畳んでいくのかが見所でもあるわけだが、唯一、気になるのは作品の出来以上に注目と人気が過熱していることだ。画力を含め、これから伸びるだろう、いや伸びて欲しいというノビシロへの期待値が大きい。いや、大きすぎるんじゃないか? 作者には相当のプレッシャーがかかっていることは想像に難くない。この期待に応えられなかったら? そう考えると少々怖い。読者サイドに、「これは面白そうだから、じっくり育てよう」という我慢が足らないんじゃないか? と思えてしまう。少なくとも、昨年暮れに出た『このマンガを読め!』(宝島社)の男組第一位になっちゃったのはムチャだと思う。 『進撃の巨人』が注目されたのは、第1巻が出た2010年の3月頃。常に面白い漫画を探し求めているマニアックな漫画ファンや漫画系ブロガー、評論家スジの間では連載中から「これって、スゴイ漫画なんじゃ?」みたいな情報が飛び交っていたらしい。俺自身は夏目房之介さんのブログを読んで「へーっ、こんなのあるんだワクワク」となった次第だから相当遅い。単行本発売以降は加速度的に話題が拡がって、『このマン』男組一位に輝き、最近じゃ同時期のベストセラーランキングに1、2、3巻が並ぶという快挙まで成し遂げた。  面白い漫画が売れた。確かにそれだけの話だろうか? 掲載誌「別冊少年マガジン」(講談社)の発行部数はタッタの6万部にすぎない。「週刊少年マガジン」が157万部、「月刊少年マガジン」が85万部。桁が違う。それが、累計263万部(1月末)のミリオンセラーを生み出したんだから、これまでの常識からいえば「奇跡」に近い。  いくら素晴らしい作品でも掲載誌が少部数だと、最初から大きなハンデを背負うことになる。別マガ編集部もそのことは百も承知だ。テレビ番組でバラしてたけど、『進撃の巨人』の認知度を上げるために「週刊少年マガジン」に番外編を掲載するという出張作戦を展開している。こうした編集部、出版社の努力の効果も大きいのだろうが、果たしてそれだけだろうか?  答えの一つはソーシャルメディアの一般化ということではないか? 乱暴に言っちゃえば、中東諸国の独裁政権に対する民衆の蜂起も、東京都青少年育成条例騒動における反対の声の盛り上がりも、根っこは同じではないか? 日本のTwitter人口は2011年1月の段階で約1,421万人、mixiが約1,123万人、Facebookが460万人だ。情報は一気に拡散し、共有され、さらに拡散する。もちろん誰かが「この漫画が面白い!」とつぶやいただけで情報が拡散するという単純な話ではない。漫画レビュー系のブログ、ネットマガジンのコラム、あるいは紙媒体での評価という「情報の裏付け」など幾つかの条件が重なった時に「情報爆発」が起こる。  ある貧乏な漫画家にこの説を披露したところ、 「ということは、マイナー誌の無名の新人でも、いい作品さえ描けば売れる可能性が出てきたってことだよね」  と表情が明るくなった。もちろん、そこまで簡単ではないなけれど。少なくとも現状よりは少しは明るい展望が見えてきたのも事実である。その意味でも『進撃の巨人』の進撃の果ては、注目すべきだし、夢を託したいとも思うのだ。 (文=永山薫) ●永山薫(ながやま・かおる) 1954年、大阪府大東市出身。80年代初期から、エロ雑誌、サブカル誌を中心にライター、作家、漫画原作者、評論家、編集者として活動。1987年、福本義裕名義で書き下ろした長編評論『殺人者の科学』(作品社)で注目を集める。漫画評論家としてはエロ漫画の歴史と内実に切り込んだ『エロマンガ・スタディーズ』(イースト・プレス)、漫画界の現状を取材した『マンガ論争勃発』シリーズ(昼間たかしとの共編著・マイクロマガジン)、『マンガ論争3.0』(n3o)などの著作がある。
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■【コミック怪読流】バックナンバー 【第3回】小さく産まれて大きく育った、お風呂漫画~ヤマザキマリ『テルマエ・ロマエ』~ 【第2回】ホラー少女が鈍感力でライバルをなぎ倒す~椎名軽穂『君に届け』~ 【第1回】いっそゾンビな世の中に──花沢健吾『アイアムアヒーロー』

「また原作レイプ!?」人気コミック『宇宙兄弟』小栗旬&岡田将生のW主演で映画化へ

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『宇宙兄弟12』(モーニングKC/講談社)
 講談社「モーニング」で連載中の人気コミック『宇宙兄弟』に、実写映画化の動きがあることが、関係者への取材で明らかになった。 「映画化に向けて、かなり具体的な動きが出てきていることは確かですよ。主演は小栗旬と岡田将生でほぼ決定です。小栗は5月7日公開の『岳-ガク-』に続いてのコミック原作モノになりますね」(映画関係者)  『宇宙兄弟』はマンガ家・小山宙哉が2008年1月から「モーニング」上で連載している人気作品。現在12巻まで刊行されており、ファンも多いだけに、実写化となれば話題を呼びそうだが......。 「連載はまだ続いていますし、むしろ佳境といってもいい展開です。そんな時期に映画化するということは、原作とは異なるストーリーになるということです。また、原作は兄弟の兄が主役ですが、今回の映画では"W主演"という形になることが既定路線です。業界には心配する声も少なくありません。某作品のように"原作レイプ"などという評判が立たないといいのですが......」(同)  とは言え、小栗旬&岡田将生というキャスティングは、現在の邦画界ではこれ以上ないという組み合わせ。はたして、どんな作品になるのだろうか。
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