「漫画家としての誇りは●●」『キャプ翼』高橋陽一が新作発売記念サイン会を開催


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 『キャプテン翼』などのヒット作で知られる人気漫画家・高橋陽一先生の最新作『誇り―プライド―』1巻の発売を記念し15日、SHIBUYA TSUTAYAにてサイン会が開催され、多数のファンたちが詰めかけた。  『誇り―プライド―』は週刊漫画ゴラク(日本文芸社)で連載中の、北海道を拠点とするJ2チーム「函館トゥルーパーズ」を舞台に、それぞれの誇りを持ってサッカーに取り組む男たちの姿を様々な視点から描き出すオムニバス形式のサッカー漫画。 _1190729.jpg _1190734.jpg _1190725.jpg  サイン会後に行われた取材で高橋先生は「日本サッカー界には三浦知良選手をはじめ、ピークを過ぎても"やめない誇り"を持ってプレーし続けている選手たちがたくさんいます。そんな姿を見て自分も頑張ろうと思ってもらいたくて題材に選びました」と語った。  また、エピソードによって主人公が変わっていく本作については、子どものころに大好きだった水島新司先生のオムニバス野球漫画『野球狂の詩』のサッカー版をイメージしているという。  「もしかしたら今後、審判の話だったり、スポーツ記者の話、もちろん女子サッカーなんかも題材にできそうですね」と展望を語り、漫画家としての誇りを問われた際には「手抜きしないで一生懸命、そして締切を守ること! 今まで原稿を落としたことがないのが誇りですね。まあ、プロなんだから当然といえば当然なんですけど(笑)」と笑いを誘っていた。 (取材・文=北村ヂン)
誇り-プライド 1巻 これが大事。 amazon_associate_logo.jpg
【関連記事】 ・分からなくってもダイジョーブ! 脳内麻薬を噴出させる異常な漫画『女子攻兵』綾瀬はるか主演の実写版『ひみつのアッコちゃん』所属事務所が抱える2つの不安とは巨大資本・文教堂の参入で激化する同人誌書店のシェア争いの行方

狂気とポップカルチャーが融合!? 香港のアーティストが追求する"不完全な美"

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"the 161 series" (c)Tore
 『AKIRA』『ドラゴンボール』『ドラえもん』......子どものころ、僕らの心をアツくさせた漫画やアニメが、海の向こうに住むアジアの子どもたちの心にも火をつけていた。今や日本人だけのものではなくなった、ジャパニーズ・ポップカルチャー。その影響を受けて育った、アジアの才能豊かなクリエーターたちを紹介します。 第22回 アーティスト Tore Cheung (トーレ・チョン)  香港のアーティスト、Tore(トーレ)は現在27歳。絵はまったくの独学だが、大学卒業後、フリーで活動を始めると、すぐにその才能が認められ、イラストレーターとして雑誌や新聞で活躍するようになる。本人は「ビギナーズ・ラックだった」というが、その作風には、技術を超えた個性が際立っている。
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『おにいさまへ...DVD-BOX1』
(パイオニアLDC)
 少女漫画のようにきらきら星の目を持つ女の子たち。はっきりとした明るい色づかい。しかし、ポップだからこそ逆に危険な香りが際立つ背景の中で描かれた彼女たちの表情は、深い狂気をはらんでいる。  幼いころ、朝ご飯のときに必ずテレビで見ていたアニメ、『おにいさまへ...』(NHK、出崎統監督)。 「なんでその番組がついていたのかよく分からないんですが......とにかく毎日、朝ご飯を食べながらショックを受けていました」  自殺やドラッグ、レズビアンや暴力など、およそ子ども向けとはいえない要素がてんこもりだったそのアニメは、幼いトーレに、朝っぱらから大変な恐怖を与えたという。 「きれいで痩せっぽちで、イノセントな瞳を持つ女の子たち、クラシックでアンティークな装い......夢見るような美しさの裏には、暗いメッセージが隠されていたんです」
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"illustration for Jet Magazine" (c)Tore
 しかしそれは逆に、彼の世界観を広げることにもなる。 「人生っていろいろあるんだなと。僕が"かわいい、でも怖い"という矛盾したテーマを選ぶのは、この原体験がもたらしたものだと思います」  幼児期に既に「人生の暗い部分」を疑似体験した彼の1990年代は、日本のポップ・カルチャーとともにあった。カヒミ・カリィ、コーネリアス、ピチカート・ファイヴ。内田有紀や、ともさかりえ、広末涼子、PUFFY......「Zipper」(祥伝社)や「CUTiE」(宝島社)といった女性向けファッション誌は、安くなった古本を買い込み、サンリオが発行する「いちご新聞」(一体どこで手にいれたのか?)まで購読していたという。こうした「渋谷系」のアーティストと「ポップ・スター」やおしゃれガール雑誌は、日本がはじけていた頃の象徴でもある。トーレは「日本のカラフルで楽しいグラフィックやイラストを見るのが大好きだった」という。
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"Joystick_sticker project 2" (c)Tore
 その後、大人になったトーレが追いかけたのは、一転して「日本のダークサイドもの」。荒木経惟の写真、寺山修司の映画、椎名林檎や戸川純の音楽、丸尾末広の漫画、大竹伸朗のコラージュ......。 「僕の作風は、子どもの頃に体験した明るくてスィートな日本と、大人になって知ったダークな日本が混合したものなんです」  トーレの作品は、香港ではどのように受けとめられているのだろう。トーレによれば「香港人は、分かりやすいものにひかれる傾向がある」という。
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"new substance" (c)Tore
「アーティストにとってそういう状況は、複雑なアイデアを分かりやい表現に落とし込むという、挑戦しがいのある状況でもあります。ちょうどいいバランスに到達するのは、かなり難しいことだから」  つまりトーレは、そうした微妙なバランス感覚に優れた表現者なのだ。  最近、日本の「わびさび」に関する本を読んで感動したという。 「日本人が、"不完全で、永遠のものではない"美をいかに表現するのか、ということに、すごくインスピレーションを受けました」  かわいさ、怖さ、わびさび......。「来年は個展を開きたい」というトーレは、これからも絶妙なバランスの上で、その作風をより深化させていくのだろう。 tore-portrait.jpg●Tore Cheung 1984年香港生まれ。ドローイング、ペインティング、コラージュを制作するトーレは、香港理工大学でヴィジュアル・コミュニケーションを学び、その後フリーランスとして活動。雑誌やファッション、音楽などの分野で作品を発表している。現在は香港のファッションブランド、Daydream Nationでテキスタイル・デザインも担当。初の作品集は、2009年に出版された『Mexican Bun Crumbs』。 <http://tearmeboreyou.temptemps.com/> ●なかにし・たか アジアのデザイナー、アーティストの日本におけるマネジメント、プロデュースを行なう「ASHU」代表。日本のクリエーターをアジア各国に紹介するプロジェクトにも従事している。著書に『香港特別藝術区』(技術評論社)がある。<http://www.ashu-nk.com > オンラインTシャツオンデマンド「Tee Party」<http://teeparty.jp/ashu/>
おにいさまへ...DVD-BOX1 アニメの枠を超えたアニメです。 amazon_associate_logo.jpg
■バックナンバー 【vol.21】「人間の欲望を視覚化?」香港人気キャラの生みの親が追求する"醜さの美学" 【vol.20】「故郷・ボルネオ島での原体験が創造力の源」世界で活躍するマレーシアの"ケンヂ" 【vol.19】「人生に起きるすべてのことを細かく観察したい」中国ネット世代のアーティスト 【vol.18】「ヒーローは宮崎駿と奈良美智」シンガポールのマルチスタイル・アーティスト 【vol.17】「ルーツは『天空の城 ラピュタ』」ウォン・カーウァイに見い出された香港の若き才能 【vol.16】怖かわいい魑魅魍魎が暴れ回る! ヤン・ウェイの妖魔的異界 【vol.15】「原点は日本のコミック」東南アジアを席巻する都会派クリエーター 【vol.14】エロ×宗教×故事が混在!? 中国版・寺山修司が造り出すカオスな世界 【vol.13】昼間はOL、夜は寡黙なアーティスト ソン・ニが描く秘密の快楽の世界 【vol.12】まるで初期アニメ ローテクを駆使する南国のアート・ユニット「トロマラマ」 【vol.11】「造形師・竹谷隆之に憧れて......」 1000の触手を持つ、マレーシアのモンスター 【vol.10】"中国のガロ系"!? 80年代以降を代表するコミック・リーダー ヤン・コン 【vol.9】大のラーメンおたく!? シンガポールデザイン界を率いる兄貴、クリス・リー 【vol.8】メイド・イン・ジャパンに憧れて...... 香港の文学系コミック作家・智海 【vol.7】「血眼になってマンガを追いかけた」海賊版文化が育んだ中国の新しい才能 【vol.6】裸人間がわらわら 香港ピクセル・アートティストが放つ"アナログデジタル"な世界 【vol.5】ダメでも笑い飛ばせ! 香港の国民性を体現したグラフィック・ノベリスト 【vol.4】「教科書はガンダムの落書きだらけだった」 香港・原色の魔術師の意外な原点 【vol.3】「懐かしいのに、新しい」 読むほどにクセになる"タイ初の日本漫画家"タムくん 【vol.2】 マイブームはBL!? 香港の腐女子が描きとめる、消えゆく都市の記憶 【vol.1】「 :phunk版ガッチャマンが作りたい」 シンガポール発のデザイン集団が描く夢

狂気とポップカルチャーが融合!? 香港のアーティストが追求する"不完全な美"

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『グラゼニ』森高夕次×『砂の栄冠』三田紀房──「『ドカベン』は描かなかった 球界とカネ事情」


【プレミアサイゾーより】 ──プロ野球界で年俸事情を軸に据え、選手たちが右往左往するさまを描く『グラゼニ』と、1000万円を預かった公立校のエースが、その金を元手に甲子園を目指す異色の高校野球マンガ『砂の栄冠』。マンガ史に燦然と輝く野球マンガの名作は数あれど、「野球と金」をテーマに据えた作品はこの2作が初であろう。両作の作者、森高夕次と三田紀房が、裏金や栄養費問題など、金をめぐるタブーの存在が囁かれる野球界への思いを語る!

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(写真/田中まこと)
三田(以下、)『グラゼニ』は「週刊モーニング」の連載で毎週追って読んでるんですけど、今日は「どうしてくれるんだ」って森高さんに訴えに来たんです。 森高(以下、) え!?  実はプロ野球の裏側を描くストーリーは、僕も狙ってたんです(笑)。ひそかにプロ関係の人に会ったり選手や球団を取材して、「これは面白い、いける!」って踏んでたんですけど、『グラゼニ』が始まって先を越されて、しかもすごく面白いから、全部おジャンですよ(笑)。  それはすみません(笑)。僕は逆に、『砂の栄冠』のような作品は描けないというか、発想もなかったですね。単行本で一気に読みたくて、これまであえて連載は読まないようにしてたんです。今回いい機会だということで拝読したら、ストーリーもやっぱり三田流に楽しませつつ一気に引き込まれるし、何より巻末のコラムと合わせて「コミックスの商品性」がすごい。あそこまで裏側を書けるってことは、巻末コラムを書かれてる田尻賢誉さん(スポーツジャーナリスト)含めて相当取材なさってますよね?  でも、あのコラムに出てる話って、取材で得た情報のうちの、ほんの10分の1くらいなんですよ。表には出せないエゲツない話が多いから、これでも削りに削って、当たり障りのないレベルに落として書いてるんです。『グラゼニ』は、よく中継ぎピッチャーの話で連載に持っていったな、と感心しますね。中継ぎが主人公って本当に画期的なことで、そんな地味なものは企画段階でまず「連載にならない」と編集部にハネられるはずなんですよ。そこをこじ開けた功績は相当大きいと思います。  実際そこまで深く考えたわけではなくて、『グラゼニ』はぶっちゃけ、ほかの雑誌用に描いて眠っていたネームがあったんです。もともと僕自身のパッションというか、「これが描きたいんだ!」というのが強くあって、それを出しただけというか。  なるほど、個人的な動機が大きかったんですね。僕も高校野球はずっと描きたくて、『クロカン』や『甲子園へ行こう!』【2】の後、『ドラゴン桜』【3】を描いてる時も、春夏必ず甲子園には行ってたんですよ。でも単純に「高校野球を描きたい」と言っても、今時どこの雑誌も、洟も引っかけてくれない。何かしら読者を惹きつけるフックが必要だったから、表向きは爽やかで純粋だと思われている世界の裏側を見せながらストーリーを展開していこうと。  僕は『砂の栄冠』は、主人公チームのサクセス物語だと読んだんですけど、画期的に新しい点は、主人公率いる弱小公立校が「21世紀枠」を狙うところなんですよね。そういう実践的な戦略を立てて、弱小チームが強くなっていくプロセスを一つひとつ見せていく作りが三田マンガの真骨頂というか。  ロールプレイングゲームじゃないですけど、一個一個アイテムを揃えていってキャラクターが強くなっていくと、楽しいじゃないですか。アイテムを揃えてレベルアップした田舎の弱小校が、強豪校を打ち倒すっていう感覚はありますね。  あと、演出に結構な頻度で動物が出てくるとこも三田流だなと。  それは僕のオリジナルというか、単に僕が「週刊漫画ゴラク」(日本文芸社)の出身だからですよ。 『ミナミの帝王』【4】イズムですか(笑)。  やっぱり「ゴラク」で生き抜くためには、『ミナミの帝王』のテイストが必須だから(笑)。  冒頭で主人公がグラウンドの中に1000万円の札束を埋めるシーンも、そう考えれば「ゴラク」テイストかもしれませんね。  最初にその絵が浮かんだところから、あの作品は出発してます。冒頭にそんな象徴的なシーンがあれば、後のストーリーはどうにでも転がっていくものじゃないですか。それに、野球の裏側を知れば知るほど、お金の話はやっぱり絡んできますからね。 ■裏金も監督バックもアリ!? 爽やかじゃない高校野球 ――「グラウンドに札束を埋める」ということでいえば、森高さんの『グラゼニ』のタイトルも「グラウンドにはゼニが埋まってる」という野球界の常套句から来てるんですよね?
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森高夕次氏。
 物理的にと概念的にとで違いはあるけど、ある意味、丸かぶりですよね(笑)。でも『グラゼニ』も、別にテーマが「お金」というわけではないんです。プロ野球を球場観戦すると、どうしてもだんだん試合以外のものが見えてくるものなんですよ。特に僕はヤクルトファンなので神宮球場によく行くんですが、あそこなんかブルペンが丸見えなもんだから、ブルペンキャッチャーとかコーチとかのさまざまな人間模様が見てとれて、それをドラマにしたいと思ったのがきっかけです。で、そうした場合に、お給料の話が出てこないわけにはいかないといいますか。  主人公の凡田は年俸1800万円ですが、あのへんは選手に取材されて生の声を反映してるんですか?  いえ、僕は観戦以外の取材はしてないんです。  そうなんですか!? 確かに想像力で描いたほうが真実を突くことはありますが。  まあ、あまりに角が立ちすぎる話題なんで、取材しにくいというのもあります。でも例えば1800万円のピッチャーが1億8000万円のバッターと勝負したら、画面上では普通に対戦してるだけに見えるかもしれないですけど、給料のこと考えたら、何かおかしいじゃないですか。それでも勝負する時は1対1だというドラマを描きたいから、あえて年俸を全面に出してみたんです。そこは『砂の栄冠』の主人公が強化費1000万円をグラウンドに埋めるのと同じで、「ゼニ」とか「年俸」が出てくるとマンガとしての「引き」があるだろうと。  でもあの1000万円って数字は、実はリアルではないんです。マンガのストーリー的にそのくらいが妥当だろうと、あの金額にしたんですけど、高校野球の関係者が読むと「1000万円じゃ何もできないよ」って、みんな口を揃えますね。  やっぱりそうなんですか。 「3カ月くらいでなくなるよ」ってバッサリ。やっぱり遠征が一番金かかるみたいで、一回で300万円は超えちゃうらしいんです。  取材してると、そういう裏側の声ってどんどん聞こえてくるものなんですか?  甲子園のバックネット裏席や記者席は、裏話の宝庫ですよ! もうほんと、書けないことだらけで。 ――04年の一場問題のようなスカウトの裏金問題や、選手の契約金の何割かは出身校の監督の懐に入るという話は、世間的にもよく聞く噂ですが......。  記者なんかと話してると、たまにそういう噂も耳にしたりしますよね。ただ、そういうお金も、世間のイメージみたいに監督が懐に入れて私腹を肥やすっていうんじゃなくて、ほとんどは野球部の強化費で設備投資に使われてるって噂ですけどね。  そうなんですね。  あと、プロ志望届を出したのに、ドラフトに引っかからない選手がいるんですよ。そこで漏れちゃうと、大学や社会人はもう締め切られていて宙ぶらりんになっちゃう場合が多い。そういう浪人確定の生徒に、当面の生活費として、そうした金からいくらか渡したりするって話も聞いたことあります。というのも、中学生をスカウトする時に、監督が「俺の顔で絶対プロに入れますから」って親御さんたちを口説く場合が多いみたいなんです。逆に言えば、それくらいやらないと、名門校の監督は務まらないんじゃないですか。  名門校の監督って、クセの強い人が多くないですか? ある意味、感覚が浮世離れしてるというか。  本当にそう、強豪校の監督ってすごいですよ。何十年もずーっとグラウンドで過ごしてるから「王様」なんです。しかも地元じゃ名士ですからね。横柄な人も少なくないです。『砂の栄冠』でもガーソというイヤな監督が出てくるんですが、まあだいたいあんな感じになる(笑)。  高校野球の監督って、アマチュアイズムと体育会系の権化なんですよね。プロに来る人は草食系もオタクもいるんだけど、アマチュアだと、体育会系的な価値観に染まらないとやっていけない面もあると思う。だから妙に草食系でマスコミ対応なんかにも気を使える監督を見てると、「ひょっとしたら、現場ではうまく指導できてないんじゃないか」って不安になっちゃうんですけど。  そうですね、そういう人は大体地方予選の準決勝ぐらいで負けます。  (笑)  いや、ベスト8ぐらいかな......一生懸命に子どもたちと向き合ってる良い人のほうが勝てない。監督だけじゃなくて高校球児も、プロを目指してる子は『砂の栄冠』の主人公の七嶋のように腹黒いですよ。強豪校の選手なんかだと、一般社会で生きてくことを捨ててますからね。むしろ監督が「勉強なんかしてんじゃねぇ」って指導してる。で、プロに上がると、具体的にお金を稼いでいく『グラゼニ』の世界になる。 ■「本当はお金の問題はあるし皆そこに興味があるはず」
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三田紀房氏。
 プロにとって、やはり年俸は切実な問題ですからね。それに、この時代的に「現役のうちに、できるだけ稼ぎたい」と多分思ってるんだろうなっていう考えが、『グラゼニ』の根っこにはある。  再就職も厳しい時代ですからね。元プロ選手が解説者に転身してはみたものの......という現実も、『グラゼニ』はリアルに描いてますよね。  昭和世代のプロ選手は「辞めても何かで食っていけるんじゃないか」って感じはあったと思うんですよ。社会的にもそうだったと思うし。でも今は普通の人だってなかなか正社員になれない時代に、「野球しかしたことがない俺が、どうやって第二の人生やっていくんだ」っていう不安が大きいと思うんです。 『グラゼニ』の中で、神宮球場の売店に再就職してる元ドラフト1位の選手が出てくるじゃないですか。あれってモデルはいるんですか?  いるような......いないような......。『グラゼニ』の登場人物は誰かを想像できるような、できないような......というバランス感覚で書いているつもりなんで、そこは読者に勝手に想像してもらいたいんです。  でも引退後の身の振り方とか、そのへんはこれまでの野球マンガじゃ全然描かれてきませんでしたよね。日本人は全般的にお金に対してアレルギー体質みたいなところがあるからな。  だから『ドカベン』の中には契約更改は出てこないんですよ。山田たちはとんでもない成績を上げてて、皆10億円ぐらいもらっててもおかしくないけど、決して契約更改は描かれない(笑)。  これまでの野球マンガは、「お金」に触れないようにしてきたと思います。でも僕らは、「そうはいっても、現実にはこういう一面も存在するんだよ」ってことを提示してる。下世話なところもあるけど、そこには皆、実は興味あるんだしね。  それと、的外れかもしれないけどサイゾー的な分析をしてみるなら、社会状況的にそこに切実な関心があるってことなのかもしれない。『グラゼニ』は最初、自営業者に向けて「自営はつらいよね」という意味で描いてる面があったんですよ。でもネットの書き込みとか見てると、むしろサラリーマンの人たちの「共感できる」って声のほうが大きくて。  何かわかる気がするなぁ。  「サラリーマン向けじゃないのになぁ」って自営組の作者としては思ってたんですが(笑)、でも考えてみれば、今は正社員でも首切りにおびえてて、一歩踏み外せば格差社会の下のほうに落っこちちゃうって不安を抱えてる。それがプロ野球選手の抱えてる「今の仕事を辞めちゃったら、次はない」って感覚と通じてるんじゃないかって。  我々が描いている青年誌ってジャンル、実際は読者層がそういう勤労者じゃないですか。だからどこかで読者が作品を自己問題化しないと、支持を得られない面はありますよね。「これは自分の問題だ」と主人公ないし登場人物や物語にシンクロできないと、人気が出ない。『砂の栄冠』がサラリーマンの共感を得たところは、監督のガーソなんです。これは全国の高校野球指導者のイヤな部分を煮詰めたようなダメ監督なんだけど、読者の反応は「ウチの上司そっくりです!」と。意図して描いたわけではないけど、勝手なこと言うわ、敵前逃亡するわ、選手に責任転嫁はするわ、こういう人間ってどこの会社にもいるみたいで(笑)。  ガーソの描き方、中間管理職の生態として、すごいリアルなんだよなぁ。ああいう思考回路の人って、本当に世の中に多いですよね。「当たり障りのないこと言っておけば失敗しないだろう」とか、失敗したくないってところが、すべての思考の元になってるタイプ。  だから『グラゼニ』も同じだと思いますよ。「こんなに毎日中継ぎでがんばって馬車馬のように働いてるのに、たった1800万円か」という主人公の葛藤が、「毎日残業してるのに給料上がらない俺と一緒じゃん」って共感を得てるんだと思う。  そうかもしれないですね。  まあ何にせよ、僕ら世代のマンガ家は野球を描くとなると、水島新司先生が刈りきった、草一本生えてない砂漠をさまよってる状態なんで、あの手この手でやっていかないと。  オアシスを求めていろいろ模索していかなきゃならないから、大変ですよね(笑)。 (構成/鈴木ユーリ) 森高夕次(もりたか・ゆうじ) 1963年生まれ。マンガ家・コージィ城倉氏の、原作者としてのペンネームである。マンガ家として『砂漠の野球部』【6】、『かんとく』【7】、原作者として『おさなづま』【8】などの代表作がある。野球マンガを多く描いており、現在は『おれはキャプテン』【9】を連載中。10月17日に第27巻刊行。

三田紀房(みた・のりふさ) 1958年生まれ。『ドラゴン桜』『エンゼルバンク』等のビジネス・教育系の作風で知られるが、野球等のスポーツマンガも数多く描いている。『砂の栄冠』最新刊6巻は11月4日に刊行。

『砂の栄冠』1~6巻 三田紀房/講談社「週刊ヤングマガジン」/各580円
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埼玉県西部の県立樫野高校野球部は、創立100周年記念の夏に、地区予選決勝までコマを進めるが、逆転負けを喫して甲子園を逃す。その後新キャプテンとなったエース・七嶋は、野球部の練習を見に来ている地元の老人から、「野球部のために」と1000万円を手渡される。額面の大きさにビビりながらも、采配のできない監督(通称ガーソ)や選手を顧みない学校&OB会の様子に、七嶋は「自分ひとりでチームを作ってみせる」と腹をくくり、この金を使いながら21世紀枠で春のセンバツを目指す。 『グラゼニ』1~2巻 森高夕次(原作)、アダチケイジ(作画)/講談社「週刊モーニング」/各580円
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プロ野球チーム・神宮スパイダース1軍に所属する投手、凡田夏之介(年俸1800万円)。中継ぎ投手の彼は、「プロは金がすべて」と考える年俸マニアだ。その趣味ゆえに、相対したバッターの年俸を必ず思い出し、自分より下なら調子よく、そうでない選手には萎縮して打たれがち。そんな彼の目から、職業としてのプロ野球選手という立場や、解説者の苦労、球団フロント事情など、試合だけではない球界のドラマを見せる。タイトルは、「グラウンドにはゼニが埋まってる」という夏之介の座右の銘より。 ■プレミアサイゾーとは? 雑誌「サイゾー」のほぼ全記事が、月額525円読み放題! (バックナンバー含む) 【プレミアにはこんな記事も!】清原和博独白!! 「ピアスに込めた怒りと巨人の裏切り、そして伊良部の死」一番ダークなスポーツは野球!? 切っても切れないスポーツと闇社会野球、ラグビーは地盤沈下? 大学スポーツ"ハンカチ王子"の知られざる憂鬱

分からなくってもダイジョーブ! 脳内麻薬を噴出させる異常な漫画『女子攻兵』

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『女子攻兵 1』(新潮社)
マンガ評論家・永山薫のコミックレビュー。連載第7回は松本次郎の『女子攻兵』です!  出ました! 松本次郎の『女子攻兵』(新潮社)第1巻! 帯に「本年度最狂のSFロボ戦記」というアオリ文句が躍る。確かに狂ってる。松本次郎が狂っているだけではなく、この漫画を「月刊コミック@バンチ」に掲載する編集部も、喜んで読んでる読者も、俺も完璧に狂ってる。  女子攻兵とは何か? ミニスカ・セーラー服&パンチラ付きの女子高生型巨大戦闘ロボットだ。しかも、その頭部に人間が搭乗して、操縦する。おまけに素材は超合金じゃなくって、バイオ系で、腹をブッタ斬られればハラワタが飛び出すし、オシッコだって洩らす。早い話が、エヴァンゲリオンとか『進撃の巨人』(諫山創、講談社)とかを女子高生にしたと思ってくれ。サイズを気にしなければそれなりにかわいいが、ギャルやビッチの成分もタップリなので、拒否反応を起こすウブな坊やも多いだろう。そういうのがパンツ丸出しでウジャウジャ出てくるから、苦手な人はどうぞ気分悪くなってください。  それで、お話の印象は、3Dゾンビ虐殺系対人シューティングゲームの感覚に近い。てゆーか、操作できない分、動画掲示板でおなじみのゲーム実況録画を見てる気分。殺伐としてて、出口がなくて、不条理で、その癖、脳内麻薬がジワジワと湧いてきて、病みつきになって、気がついたら小1時間モニターを眺めてたみたいな、そんな感覚。  この漫画に関していえば、背景とか、世界観とか、状況説明とかを求めても無駄。冒頭の前置き的なテキストなんてひどいもんだ。 未来――― 異次元空間に新天地を求めて移住した人々は地球からの分離独立をもとめて武装蜂起。 地球連合軍との間に異次元戦争が勃発。 戦線は拡大、長期化。 地球連合軍は戦局を打開するべく、従来兵器全ての攻撃を無効にする新兵器「女子攻兵」を戦線へ大量投入、大規模な攻勢へ転じようと画策していた。  ナニコレ?  意味分かんねーよ。  未来っていつの話? 異次元空間って? 地球連合軍って?  SF的な考証もなければ、時代背景も語られないし、政治的なアレコレも分からない。  けど、分からなくっても大丈夫。  そもそもゾンビ虐殺シューティングゲームの箱に書いてある解説を真剣に読む人がいるんだろうか? 「謎の彗星の接近により世界はゾンビで一杯になってしまった。生き残るために闘え!」  でオーライ。いや、ゲームシステムさえ把握できてりゃ充分で、物語なんかどうでもいいんじゃないのか?  かくして、読者はイキナリ的に『女子攻兵』の世界に投げ込まれる。ゲームマスター松本次郎は、「なんで!?」「どうして!?」という読者の悲鳴を、力業で圧殺し、強引に作品世界に引きずり込む。  このへんが漫画の強味だ。これが小説だったら、読者がリアリティを感じるように、それなりの世界観を文章で呈示し、物語内でのルールを解説しなければならない。それも説明的にではなく、自然と解るように書かないと、「前置き長いだけで、ツマンネエ」とか、ついこの間、字の読み方を覚えたような小僧にバカにされたりする。  漫画は世界をそのまま絵で表現できる。漫画は「絵」でそう描いちゃえば、「そーゆー世界」になってしまう。もちろん、説得力は必要だが、これは絵のうまい・ヘタはあまり関係がない。キレイ・キタナイも関係ない。恥ずかしげもなく自分の妄想を公開できる破廉恥力と、読者をねじ伏せる剛腕力が大事なのだ。  その点、松本次郎は完全にリミッターが外れている。仇討ちが公認される狂った近未来を描く松本次郎の代表作『フリージア』も実にイヤな作品だったが、今回はさらに突き抜けている。  物語のキモは女子攻兵乗りが遅かれ早かれ精神を汚染されるという一点に集中する。衣服が人格を規定し、形成する。軍服が軍人を作る。特攻服を着れば気分は夜露死苦だ。女子攻兵の中の人も女子高生化してしまう。ジェンダーと体格のアイデンティティーが崩壊する。  巨大な武装女子高生たちが、「聖名」と称する女子名(○○ちゃんとか)で互いを呼び合い、ケータイでメールをやりとりし、いかにもなギャルトークを繰り返す。それを本書では「ママゴト」と呼ぶ。  主人公、つまり読者視点の代理人であるタキガワ中尉は、ママゴトに参加することを拒否し、必死で「男」で「軍人」という「マトモ」な「自我」にしがみつき、「汚染」に抵抗する。女子高生化する部下を叱りつけるが、その最中にも部下のツネフサ兵長のケータイには存在しないはずの「彼氏」からメールが届く。 「貴様 作戦行動中はケータイは切っとけって言っただろ」  とキレそうになる中尉を別の部下ハラダがなだめにかかる。 「ツネフサセンパイに何言っても無駄ですよー だってヤキモチやいてダダこねてるだけだからー」  そのヤキモチの理由というのが、ハラダがケータイのストラップを中尉とお揃いにしたからだというのだ。 「ハラダだけぬけがけして中尉とお揃いにするなんて」 「ずるいよねー」  気が狂いそうな会話の中で、中尉は「自分だけは違う」と抗う。確かに部下達は一線を超えている。女子高生成り切り度がハンパではない。  しかし、精神汚染は着実に進行する。いや、そもそも女子高生型巨大ロボットなんてキワキワのキワモノを兵器として認めた時点で狂っている。しかもセーラー服に巨大携帯だ。汚染は「現実」をも侵犯する。中尉の電源を切ってあるはずの携帯にツキコと名乗る「親友」からのメールが着信する。とうとう汚染度がピークに達したのか? しかしメールはギャル文ではあるが戦場を正確に把握している者にしか書けない内容だ。中尉はその情報が作戦遂行上、有効であるというリアリズムに徹し、戦闘を続行する。  第1巻で中尉たちが狩る敵は分離独立派勢力ではない。精神汚染がピークに達し、軍の制御が効かなくなった女子攻兵たちだ。かつての同僚だった「マトモな」女子攻兵を殺戮し、食らいつき、融合し、デタラメな人体の集合体と化して、 「おかーさん ともだち たくさん できたよー」  とつぶやく。いやはや暴走したエヴァよりタチが悪いぜ。  これが女子攻兵の、そして同時に女子攻兵乗りたちの末路である。そうなる前に任務から外された女子攻兵乗りには、ラボに監禁され、モルモットにされ、切り刻まれる運命が待っている。  では、破滅が避けられないことが分かっていながら、彼らは女子攻兵と一体化することによって得られる全能感に中毒し、降りることができなくなる。  この悪夢めいた世界ではマトモな人間は一人としていない。中尉の上官である大佐は、中尉の能力を利用しようとしているくせに中尉を自殺に追い込もうとするが、それすらもジョークだとうそぶく。第1巻終盤に登場するCIA軍事顧問のオデコには「CIA」と書いてある。彼らの作戦会議は、タチの悪いジョークをぶつけ合う狂ったコントだ。『フリージア』ではまだ異常と正常の対比があったが、本作ではもうぐちゃぐちゃです。みなさん変すぎます。頭オカシイです。  松本次郎が捏造した醒めない悪夢のような世界は、その訳の解らなさ故に、読者を深読みと誤読のドロ沼に誘導する。  例えば、頭のイイ人なら 「訳の解らなさでは実は我々の住む現実世界とやらも大差がない。現実世界だって道理は通らないし、充分に不条理だし、至る所で狂気が渦巻いている。その意味で『女子攻兵』は現実世界を茶化した諷刺漫画だとも言えるだろうし、ほとほと現実に愛想が尽きた呪いの書として読むこともできるだろう」  と解釈するかもしれない。シニカルなオタクならば、 「『巨大女子高生の殺戮合戦すればエロくてグロくて面白い』という単純な思いつきがとんでもない変態作品を生んでしまったということですねwww」  とも苦笑するかもしれない。それぞれが好き勝手に解釈すればいいし、解釈しなくてもいい。  この先、どう転がっていくのかは不明だが、中尉の行く手にはさらに、訳の分からないイヤな世界が待っているようだ。  ともあれ、狂気をエンターテインメントとして享受できる人、脳ミソのタガを外したくなった人にはオススメしよう。イヤな脳内麻薬が出ることは間違いないからな。 (文=永山薫) ●永山薫(ながやま・かおる) 1954年、大阪府大東市出身。80年代初期から、エロ雑誌、サブカル誌を中心にライター、作家、漫画原作者、評論家、編集者として活動。1987年、福本義裕名義で書き下ろした長編評論『殺人者の科学』(作品社)で注目を集める。漫画評論家としてはエロ漫画の歴史と内実に切り込んだ『エロマンガ・スタディーズ』(イースト・プレス)、漫画界の現状を取材した編著『マンガ論争勃発』シリーズ(マイクロマガジン)があり。現在は雑誌『マンガ論争』(n3o)共同編集人、漫画系ニュースサイト『Comics OH』(http://oh-news.net/comic/)編集長を務める。
女子攻兵 1 乗りたいといえば、乗りたい。 amazon_associate_logo.jpg
■【コミック怪読流】バックナンバー 【第6回】リアルより魅力的かもしれない虚構はリアルが旬のうちに味わうべし『AKB49~恋愛禁止条例~』 【第5回】とことんブレない! 幕末でもヤンキー! おまけに下品~加瀬あつし『ばくだん! 幕末男子』~ 【第4回】人気はSNSのお陰? これからが勝負の絶望的活劇漫画~諫山創『進撃の巨人』~ 【第3回】小さく産まれて大きく育った、お風呂漫画~ヤマザキマリ『テルマエ・ロマエ』~ 【第2回】ホラー少女が鈍感力でライバルをなぎ倒す~椎名軽穂『君に届け』~ 【第1回】いっそゾンビな世の中に──花沢健吾『アイアムアヒーロー』

グッドデザイン賞受賞! マンガに書き込む新感覚の日記帳『マンガ手帳2012』

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 2011年を象徴する漢字は何になるだろう。大震災の年として記憶されるであろう2011年も、もうすぐ年の瀬。忘れがたい出来事だが、気持ちも新たに新しい年を迎えたいものだ。2012年はうるう年で、ロンドン五輪も開催される。明るい年となることだろう。 そんな新しい年にオススメしたいのが、『マンガ手帳2012 いがらしゆみこ編』『マンガ手帳2012 タツノコプロ編』(ともに東京書籍)の2冊。マンガの吹き出しの空欄に、その日の予定や出来事を書き込むという新しいスタイルの日記手帳。マンガはなんと『キャンディ・キャンディ』でおなじみの巨匠・いがらしゆみこと、『ヤッターマン』『科学忍者隊ガッチャマン』などタツノコプロの2バージョンがあり、男女ともに楽しめる内容となっている。2011年度グッドデザイン賞を受賞した、非常に凝った作りの本だ。
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各コマに日付、曜日がふられている。
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「スイヨォ~」という仔ヤギの鳴き声がかわいい。
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雨×ネコ×不良。少女マンガの王道的展開。
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若い子が分かるのか、ジェネレーションギャップが気になるところ。
(c)タツノコプロ
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いろいろと期待してしまう日の1コマ。
(c)タツノコプロ
 コマとその日にあった出来事がピタリと合えばうれしいし、逆にギャップがあっても面白い。学齢期のお子さんも、絵柄が懐かしいミドルエイジも『マンガ手帳2012』、ぜひお試しあれ。何事もない日々も、この手帳に綴っていけば楽しい365日となることうけ合いだ。 (文=平野遼) ●いがらしゆみこ 漫画家。1950年8月26日生まれ。北海道旭川市出身。北海道札幌市在住。68年、集英社「りぼん」に掲載の『白い鮫のいる島』でデビュー。代表作に『キャンディ・キャンディ』(原作 水木杏子)、『ジョージイ!』(原作 井沢満)、『メイミーエンジェル』など。77年、『キャンディ・キャンディ』で第1回講談社漫画賞受賞。『キャンディ・キャンディ』、『ジョージイ!』、『ムカムカパラダイス』がテレビアニメ化。 ●タツノコプロ アニメーションの企画・制作会社。1962年10月19日、漫画家の吉田竜夫が弟の吉田健二、久里一平らとともに設立。漫画のプロダクションとしてスタート。1965年の「宇宙エース」、67年の「マッハGoGoGo」からアニメ制作を本格化。以後、「世界のファミリーに夢を」をモットーに、「科学忍者隊ガッチャマン」「タイムボカンシリーズ」など、多数のヒット作品を世に送りだしている。 ●MORNING GARDEN INC.(もーにんぐ・がーでん・いんく) グラフィックデザインを核に、数々の広告および書籍の企画、製作を行う。2010年より『マンガ手帳』(東京書籍)の編集を始める。
マンガ手帳2012 いがらしゆみこ編 普通の手帳に飽きた人に。パート1。 amazon_associate_logo.jpg
マンガ手帳2012 タツノコプロ編 パート2。 amazon_associate_logo.jpg
【関連記事】 ・『ゲゲゲの女房』で一念発起!?  サブカルチャー界のシンデレラ・ボーイの素顔リアルより魅力的かもしれない虚構はリアルが旬のうちに味わうべし『AKB49~恋愛禁止条例~』とことんブレない! 幕末でもヤンキー! おまけに下品~加瀬あつし『ばくだん! 幕末男子』~
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「人間の欲望を視覚化?」香港人気キャラの生みの親が追求する"醜さの美学"

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「Talk is not talk」(c) Graphicairlines
 『AKIRA』『ドラゴンボール』『ドラえもん』......子どものころ、僕らの心をアツくさせた漫画やアニメが、海の向こうに住むアジアの子どもたちの心にも火をつけていた。今や日本人だけのものではなくなった、ジャパニーズ・ポップカルチャー。その影響を受けて育った、アジアの才能豊かなクリエーターたちを紹介します。 第21回 アート・ユニット Graphicairlines(グラフィックエアラインズ)  膨らんだほっぺと、どこを見つめているのか分からない小さな瞳。ふてぶてしさと諦観を同居させたような、でもどこか憎めないキャラクター「Fat Face(ファット・フェイス)」が香港の街中に現れたのは、数年前。小さな虫のようにFat FaceにまとわりつくMeaty(ミーティ)と一緒に、グラフィティとして路上をにぎわせ、フィギュアになり、グッズになり、さらにはペインティングやインスタレーションとなって、ギャラリーやメディアで紹介されると、香港であっという間に話題となった。そしてFat Face+Meatyは、今ではおなじみのご近所さんのようにローカルの若者に親しまれている。  このキャラクターの生みの親、Graphicairlines(グラフィックエアラインズ)は、Tat(タット)とVi(ヴィ)の2人組のアート・ユニット。香港の人気コミック・アーティスト、Tak(※記事参照)も彼らの大ファンで、地元の雑誌の連載記事で、彼らのスタジオ訪問をしているほど。そのイラストレポートには、日本の漫画がぎっしり詰まった本棚が......「私たち、オタクなので」。
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『46億年物語』
 ふたりとも、子どものころから日本のアニメを見て、漫画を読んで、ゲームで遊んで過ごしたという。 「子どものころは完全にゲームオタクだった」  Tatがハマったのは、『スーパマリオブラザーズ』に『ドラゴンクエスト』、『ファイナル・ファンタジー』『夢工場ドキドキパニック』『忍者龍剣伝』『スーパーロボット大戦』。Viは、ツウ好み(?)の名作『46億年物語』。 「生物の進化が体験できるんですよ! 一番のお気に入りでした」  ゲームやアニメは、ふたりにファンタジーの世界をもたらしたという。それらは自分たちと一緒に成長し、彼らの生活にとってなくてはならないものになった。 「日本の作品は、キャラクターデザインが非常に優れていますよね。キャラクターを使って、物語や作家のメッセージを伝えるのがとてもうまい。わたしたちも多くのキャラクターを作っていますが、そういう影響は受けていると思います」
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「Speak is not speak」「Tell is not tell」(c) Graphicairlines
 彼ら自身は、自分たちのキャラクターにどんなメッセージを込めているのだろう。Viによると、Fat Faceの膨らんだほっぺたは「欲望の膨張」の現れだという。 「私たちは、常に、あらゆることを"もっと、もっと"と欲しています。富を増やし、強い権力を望み、より高いビルを建てたいと競い、大量のモノを買って、消費する......そんな人間の貪欲さが、ほっぺたをどんどん膨らませてしまうんです」  そしてFace Faceの周りでうろちょろしているMeatyは、Fat Faceのお肉で、体の中にひそむ欲望や貪欲さが視覚化されたものだ。  お世辞にも「きれい」とは言えないこのキャラだが、これをさまざまなメディアに落とし込み、表現することによって、Tat とViは「醜さの美学」を追求しているという。
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「live in 25sq.ft.」「alter_boy」「Beautiful freaks」(c) Graphicairlines
「私たちは完璧な絵画の技術を持っているわけではありません。自分たちのスタイルは未熟で、不完全だということも分かっています。でも私たちは、醜さの中には、ある種の美しさがあると信じているんです。メインストリームの市場には、美しさにおける一定の"基準"があるけど、私たちにとっての"醜さの美学"というのは、メインストリームから外れたところにあるものだと思っています」  これから、ドローイングやペインティングを含め、自分たちの満足のいく作品をもっともっと作っていきたいというTatとVi。  「毎年、新作を作って個展を開きたい。それに、自分たちの作品を香港だけではなく、他の国でも紹介したいと思っています」とVi。そして「アート活動以外に、GLA GLA DI GUOというバンドもやっているので、もっと面白いパフォーマンスや音楽も作っていきたいですね」と口をそろえる。  彼らのこんな「欲望」を聞けば、Fat Faceも頬を膨らますのをやめて、微笑みだすに違いない。 (取材・文=中西多香[ASHU]) gal_portrait.jpg ●Graphicairlines TatとViのふたりによるアート・ユニット。香港をベースに、2002年にタッグを組み、香港のストリート・アート・シーンでデビュー、話題をさらう。出版活動や展覧会を通して作品を発表するかたわら、2006年からはオリジナルのデザイン・グッズなどの制作も開始。グッズは、香港のデザインショップや、彼らのウェブで購入可能。 <http://www.graphicairlines.com/galnew/> ●なかにし・たか アジアのデザイナー、アーティストの日本におけるマネジメント、プロデュースを行なう「ASHU」代表。日本のクリエーターをアジア各国に紹介するプロジェクトにも従事している。著書に『香港特別藝術区』(技術評論社)がある。<http://www.ashu-nk.com > オンラインTシャツオンデマンド「Tee Party」<http://teeparty.jp/ashu/>
46億年物語 懐かしい。 amazon_associate_logo.jpg
■バックナンバー 【vol.20】「故郷・ボルネオ島での原体験が創造力の源」世界で活躍するマレーシアの"ケンヂ" 【vol.19】「人生に起きるすべてのことを細かく観察したい」中国ネット世代のアーティスト 【vol.18】「ヒーローは宮崎駿と奈良美智」シンガポールのマルチスタイル・アーティスト 【vol.17】「ルーツは『天空の城 ラピュタ』」ウォン・カーウァイに見い出された香港の若き才能 【vol.16】怖かわいい魑魅魍魎が暴れ回る! ヤン・ウェイの妖魔的異界 【vol.15】「原点は日本のコミック」東南アジアを席巻する都会派クリエーター 【vol.14】エロ×宗教×故事が混在!? 中国版・寺山修司が造り出すカオスな世界 【vol.13】昼間はOL、夜は寡黙なアーティスト ソン・ニが描く秘密の快楽の世界 【vol.12】まるで初期アニメ ローテクを駆使する南国のアート・ユニット「トロマラマ」 【vol.11】「造形師・竹谷隆之に憧れて......」 1000の触手を持つ、マレーシアのモンスター 【vol.10】"中国のガロ系"!? 80年代以降を代表するコミック・リーダー ヤン・コン 【vol.9】大のラーメンおたく!? シンガポールデザイン界を率いる兄貴、クリス・リー 【vol.8】メイド・イン・ジャパンに憧れて...... 香港の文学系コミック作家・智海 【vol.7】「血眼になってマンガを追いかけた」海賊版文化が育んだ中国の新しい才能 【vol.6】裸人間がわらわら 香港ピクセル・アートティストが放つ"アナログデジタル"な世界 【vol.5】ダメでも笑い飛ばせ! 香港の国民性を体現したグラフィック・ノベリスト 【vol.4】「教科書はガンダムの落書きだらけだった」 香港・原色の魔術師の意外な原点 【vol.3】「懐かしいのに、新しい」 読むほどにクセになる"タイ初の日本漫画家"タムくん 【vol.2】 マイブームはBL!? 香港の腐女子が描きとめる、消えゆく都市の記憶 【vol.1】「 :phunk版ガッチャマンが作りたい」 シンガポール発のデザイン集団が描く夢

「人間の欲望を視覚化?」香港人気キャラの生みの親が追求する"醜さの美学"

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「Talk is not talk」(c) Graphicairlines
 『AKIRA』『ドラゴンボール』『ドラえもん』......子どものころ、僕らの心をアツくさせた漫画やアニメが、海の向こうに住むアジアの子どもたちの心にも火をつけていた。今や日本人だけのものではなくなった、ジャパニーズ・ポップカルチャー。その影響を受けて育った、アジアの才能豊かなクリエーターたちを紹介します。 第21回 アート・ユニット Graphicairlines(グラフィックエアラインズ)  膨らんだほっぺと、どこを見つめているのか分からない小さな瞳。ふてぶてしさと諦観を同居させたような、でもどこか憎めないキャラクター「Fat Face(ファット・フェイス)」が香港の街中に現れたのは、数年前。小さな虫のようにFat FaceにまとわりつくMeaty(ミーティ)と一緒に、グラフィティとして路上をにぎわせ、フィギュアになり、グッズになり、さらにはペインティングやインスタレーションとなって、ギャラリーやメディアで紹介されると、香港であっという間に話題となった。そしてFat Face+Meatyは、今ではおなじみのご近所さんのようにローカルの若者に親しまれている。  このキャラクターの生みの親、Graphicairlines(グラフィックエアラインズ)は、Tat(タット)とVi(ヴィ)の2人組のアート・ユニット。香港の人気コミック・アーティスト、Tak(※記事参照)も彼らの大ファンで、地元の雑誌の連載記事で、彼らのスタジオ訪問をしているほど。そのイラストレポートには、日本の漫画がぎっしり詰まった本棚が......「私たち、オタクなので」。
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『46億年物語』
 ふたりとも、子どものころから日本のアニメを見て、漫画を読んで、ゲームで遊んで過ごしたという。 「子どものころは完全にゲームオタクだった」  Tatがハマったのは、『スーパマリオブラザーズ』に『ドラゴンクエスト』、『ファイナル・ファンタジー』『夢工場ドキドキパニック』『忍者龍剣伝』『スーパーロボット大戦』。Viは、ツウ好み(?)の名作『46億年物語』。 「生物の進化が体験できるんですよ! 一番のお気に入りでした」  ゲームやアニメは、ふたりにファンタジーの世界をもたらしたという。それらは自分たちと一緒に成長し、彼らの生活にとってなくてはならないものになった。 「日本の作品は、キャラクターデザインが非常に優れていますよね。キャラクターを使って、物語や作家のメッセージを伝えるのがとてもうまい。わたしたちも多くのキャラクターを作っていますが、そういう影響は受けていると思います」
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「Speak is not speak」「Tell is not tell」(c) Graphicairlines
 彼ら自身は、自分たちのキャラクターにどんなメッセージを込めているのだろう。Viによると、Fat Faceの膨らんだほっぺたは「欲望の膨張」の現れだという。 「私たちは、常に、あらゆることを"もっと、もっと"と欲しています。富を増やし、強い権力を望み、より高いビルを建てたいと競い、大量のモノを買って、消費する......そんな人間の貪欲さが、ほっぺたをどんどん膨らませてしまうんです」  そしてFace Faceの周りでうろちょろしているMeatyは、Fat Faceのお肉で、体の中にひそむ欲望や貪欲さが視覚化されたものだ。  お世辞にも「きれい」とは言えないこのキャラだが、これをさまざまなメディアに落とし込み、表現することによって、Tat とViは「醜さの美学」を追求しているという。
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「live in 25sq.ft.」「alter_boy」「Beautiful freaks」(c) Graphicairlines
「私たちは完璧な絵画の技術を持っているわけではありません。自分たちのスタイルは未熟で、不完全だということも分かっています。でも私たちは、醜さの中には、ある種の美しさがあると信じているんです。メインストリームの市場には、美しさにおける一定の"基準"があるけど、私たちにとっての"醜さの美学"というのは、メインストリームから外れたところにあるものだと思っています」  これから、ドローイングやペインティングを含め、自分たちの満足のいく作品をもっともっと作っていきたいというTatとVi。  「毎年、新作を作って個展を開きたい。それに、自分たちの作品を香港だけではなく、他の国でも紹介したいと思っています」とVi。そして「アート活動以外に、GLA GLA DI GUOというバンドもやっているので、もっと面白いパフォーマンスや音楽も作っていきたいですね」と口をそろえる。  彼らのこんな「欲望」を聞けば、Fat Faceも頬を膨らますのをやめて、微笑みだすに違いない。 (取材・文=中西多香[ASHU]) gal_portrait.jpg ●Graphicairlines TatとViのふたりによるアート・ユニット。香港をベースに、2002年にタッグを組み、香港のストリート・アート・シーンでデビュー、話題をさらう。出版活動や展覧会を通して作品を発表するかたわら、2006年からはオリジナルのデザイン・グッズなどの制作も開始。グッズは、香港のデザインショップや、彼らのウェブで購入可能。 <http://www.graphicairlines.com/galnew/> ●なかにし・たか アジアのデザイナー、アーティストの日本におけるマネジメント、プロデュースを行なう「ASHU」代表。日本のクリエーターをアジア各国に紹介するプロジェクトにも従事している。著書に『香港特別藝術区』(技術評論社)がある。<http://www.ashu-nk.com > オンラインTシャツオンデマンド「Tee Party」<http://teeparty.jp/ashu/>
46億年物語 懐かしい。 amazon_associate_logo.jpg
■バックナンバー 【vol.20】「故郷・ボルネオ島での原体験が創造力の源」世界で活躍するマレーシアの"ケンヂ" 【vol.19】「人生に起きるすべてのことを細かく観察したい」中国ネット世代のアーティスト 【vol.18】「ヒーローは宮崎駿と奈良美智」シンガポールのマルチスタイル・アーティスト 【vol.17】「ルーツは『天空の城 ラピュタ』」ウォン・カーウァイに見い出された香港の若き才能 【vol.16】怖かわいい魑魅魍魎が暴れ回る! ヤン・ウェイの妖魔的異界 【vol.15】「原点は日本のコミック」東南アジアを席巻する都会派クリエーター 【vol.14】エロ×宗教×故事が混在!? 中国版・寺山修司が造り出すカオスな世界 【vol.13】昼間はOL、夜は寡黙なアーティスト ソン・ニが描く秘密の快楽の世界 【vol.12】まるで初期アニメ ローテクを駆使する南国のアート・ユニット「トロマラマ」 【vol.11】「造形師・竹谷隆之に憧れて......」 1000の触手を持つ、マレーシアのモンスター 【vol.10】"中国のガロ系"!? 80年代以降を代表するコミック・リーダー ヤン・コン 【vol.9】大のラーメンおたく!? シンガポールデザイン界を率いる兄貴、クリス・リー 【vol.8】メイド・イン・ジャパンに憧れて...... 香港の文学系コミック作家・智海 【vol.7】「血眼になってマンガを追いかけた」海賊版文化が育んだ中国の新しい才能 【vol.6】裸人間がわらわら 香港ピクセル・アートティストが放つ"アナログデジタル"な世界 【vol.5】ダメでも笑い飛ばせ! 香港の国民性を体現したグラフィック・ノベリスト 【vol.4】「教科書はガンダムの落書きだらけだった」 香港・原色の魔術師の意外な原点 【vol.3】「懐かしいのに、新しい」 読むほどにクセになる"タイ初の日本漫画家"タムくん 【vol.2】 マイブームはBL!? 香港の腐女子が描きとめる、消えゆく都市の記憶 【vol.1】「 :phunk版ガッチャマンが作りたい」 シンガポール発のデザイン集団が描く夢

「ワンピース」は売れてない!? 書店員が語る有名作の"売れ行き"と"売れるマンガ"


【プレミアサイゾーより】  マンガ市場が落ち込みを見せつつも、その規模から、出版社にとっても書店にとっても、マンガは最も力を入れている商品だといえる。そんなマンガ流通の現場にいる書店員たちが、今本当に売れているマンガからメディアミックスの影響まで──その実情を語った!

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書店で膨大な数が並ぶマンガの中で、目立つために台座やPOPなどが
ところ狭しと並ぶ。これがあるとないとでは売り上げに大きく差が出てくる
という。
■座談会参加者 A...中規模チェーンの郊外店勤務
B...萌え系などに強い、都内のマンガ専門店勤務
C...学生街に店舗を構える、都内中規模チェーン店勤務
D...都心の大規模チェーン店勤務 A 今年は大物タイトルが相変わらず堅調という感じだったけど、ヒットしたという意味では2010年末発売の『花のズボラ飯』(作:久住昌之 画:水沢悦子/秋田書店)ですかね。【特集『マンガ編集座談会』参照】 B 僕が働いている書店は、30~40代のいわゆるアキバ系の男性客が9割以上ですが、『花のズボラ飯』はかなり売れました。相当大量に入荷したんですが、それでも品切れになるほど。 C 私のところは学生街なので、大学生が中心の客層。『花のズボラ飯』は最初3冊くらいしか入らなくて即完売。すぐに追加したんですが、それでも30冊程度しか入らず、すぐ売り切れ......の繰り返しでした。 A とにかく品薄でしたよね。しかも発売が年末だったから、重版がかかっても実際に入荷するのが年明けとか、かなりタイムラグがあった。100冊前後入れたのでなんとか年明けまで在庫がもちましたが、ほかの店舗はまったく入らない状況だったみたい。そもそも配本がほとんどなかったから、売れてることに気づいてないところも多かった。 D 私のところも配本がなかったクチ。ただ、年明けに動いているのを知って入荷しましたが、まったく動かなかったです。都心にあるうちの場合、主要客層である20~30代のビジネスマン層にはあまり響かなかったのかも。店舗的には男女比半々で、OLさんも多いですが、その層にもダメ。でも、繁華街の旗艦店では相当売れていましたね。 A 今の勢いでいうと、「コミックフラッパー」(メディアファクトリー)の作品も伸び盛りですね。昨年対比で150~250%伸びていて、本部からも棚を増やすように通達されてます。学生からサラリーマンまで、客層が比較的幅広いうちのような店では、『高杉さん家のおべんとう』(柳原望/メディアファクトリー)をはじめ、一般層にも売れるタイトルが部数を伸ばしていて、全体的に売り上げが底上げされている感じです。書店にとって大事なヒット作って、この手の作品。例えば『ワンピース』(尾田栄一郎/集英社)は、発行部数的には桁違いですが、売り場ではそこまで重要な作品じゃない。 C『ワンピース』や『HUNTER×HUNTER』(冨樫義博)、『君に届け』(椎名軽穂/共に集英社)といった、置いていて当たり前の作品はコンビニにもたくさん入っていて、必ずしも書店で買ってくれるとは限らないですからね。単行本にしろ、雑誌にしろ、コンビニにないものが書店にとっては大事なタイトル。 A もちろん店舗によっては1000冊以上入荷するところもありますけど、こういう一見さんがフラッと買っていくような作品は、リピーターが中心の店舗では売り上げを左右するほどのタイトルにはなりません。 B アキバ系をターゲットにしたマンガ専門店には、『ワンピース』目当てのお客さんなんていません(笑)。『けいおん!』(かきふらい)など萌え系4コマを多数抱える芳文社や、萌え系、ファンタジー系に強い一迅社の作品のほうが売れますし、入荷も多い。秋葉原のマンガ専門店では、『ひだまりスケッチ』(蒼樹うめ/芳文社)の6巻が1カ月で数千冊売れたなんて話もあるようで、アキバ系の店舗だと「ジャンプ」作品よりこのあたりが売れ筋。 D その売れ行きはさすがに異常だと思いますけど(笑)。私のところでは比較的全国ランキングに近い動きをするんですが、"バトルもの"はあまりウケません。『ワンピース』は3~4番手のタイトルという感じ。それよりも頭脳戦の要素が大きい『HUNTER×HUNTER』や『ジョジョの奇妙な冒険』(荒木飛呂彦/集英社)が売れます。立地的にサラリーマンが多いからですかね。特に『ジョジョ』はすごい動いて、今年、女性向けファッション誌「SPUR」(集英社)の10月号で荒木先生が表紙を描いていたんですが、男性にもウケて、すぐに売り切れました。 B 荒木先生は別格。うちの店舗でも例外的に「SPUR」を入れましたが、即完売していました。 C 狙って入荷したものが売れるのはうれしいですよね。でも、あてが外れる作品もある。『どげせん』(企画:板垣恵介 画:RIN)は、掲載誌の「週刊漫画ゴラク」(共に日本文芸社)で読んでいて面白かったので、話題になってもっと売れるかと思ってたんですが、案外伸びなかった。「このマンガがすごい! 2011」(宝島社)でオンナ編1・2位を独占したヤマシタトモコ先生の短編集『ミラーボール・フラッシング・マジック』(祥伝社)も思ったほど動きませんでしたね。あれは「カバーデザインが悪い」って声が多いけど。 ■「このマン」、アニメ......メディアの影響は? D「このマン」などのマンガ系アワードは、やはり影響力があります。同じチェーンの旗艦店では「このマン」とかアワード系の特設棚を作ると、上位から下位まで全部売れる。「マンガ大賞」や日販がやってる「全国書店員が選んだおすすめコミック」とかも売れるきっかけになります。 C「このマン」でオトコ編1位の『進撃の巨人』(諫山創/講談社)はすごかった。受賞前からプッシュしてましたが、1位になってからは桁違いの売れ行きでした。 A 僕のところは受賞前にたっぷりプッシュしたので、「このマン」の頃には、もうあまり置いてなかったですね。どこでも売れる作品は、置いても仕方ないので。正直、去年なんか常連さんはみんな、アワードに対して「今年つまんないね」って言ってました。 B 客層が違うからか、うちもほぼ影響ないです。
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『ゲゲゲの女房』で一念発起!?  サブカルチャー界のシンデレラ・ボーイの素顔

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 「謎漫画作品集」で漫画家デビュー。その後、ひとりでさまざまなペンネームを使い分け、複数の作品を同時に連載する「週刊オオハシ」を刊行。その独特な自費出版活動がサブカルチャー界隈でじわじわと話題を呼び、今や「モーニング・ツー」(講談社)で表紙を飾るまでの人気連載漫画家となった大橋裕之。哀愁と笑いが入り交じったショートストーリー『シティライツ』第1巻の発売を祝し、来る11月14日新宿LOFTにて開催されるイベントには、大橋のためならえんやこらと元ゆらゆら帝国の坂本慎太郎、いましろたかし、しまおまほをはじめとする錚々たる面々が顔をそろえるという。そんな、サブカルチャー界のシンデレラ・ボーイともいえる大橋裕之の気になる素顔に迫った。 ――しかし、まつげが長いですね。 大橋裕之(以下、大橋) よく言われます。本当に無駄なんですけどね。 ――作品の印象から、大橋さんって周りをよく見ている方なんだろうなと思っていたんですが、子どものころから客観的だったんですか? 大橋 あんまり主張せず、端から見てることが多かったですね。まぁ、仲の良い友達はいたんですけど、クラスとか大勢になっちゃうとしゃべれなくて......。
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(c)大橋裕之/講談社
――あまり他人としゃべりたくなかったんですかね。 大橋 いやいや、全然しゃべりたかった......。でも、恥ずかしかったりしてできなかったですね(笑)。自意識がもうすごく過剰だったので、なんか笑われるんじゃないかとかいつも気にしてて。ブランコなんかも漕げるんだけど、漕ぐことが恥ずかしかったり。保育園に入って、同級生の女の子と会ってもしゃべれなくて、その後もずーっとしゃべれなかったですね(笑)。気持ちはものすごくしゃべりたいんです、けどしゃべれないから悩んで毎日辛かったんです。そこから解放されたかったんで、高校はほぼ男子校みたいなところを自ら選びました。 ――それは相当消極的ですね。でも大橋さん、まだ商業誌での連載が何も決定していなのに上京されていますよね。ポジティブなのかネガティブなのかどっちなんですかね。 大橋 自分でも正直分からないんですけど、周りからは、「あんまりしゃべらなかったり、消極的なことを言ったりしてるのに、意外とやってる」と言われて、ああそうなのかと後から気づくというか。あまりポジティブではないと思います。何も決まってないのに上京しちゃったのは、3年間就職していたところを辞めたかったのもあるし、漫画を自費出版でしか出せてなかったので、ネタがどんどん無駄にたまってきていて、それをどういうかたちでも早く出したかったんで。そんな大したネタを考えていたわけでもないんですけど......。
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――NHKの朝ドラ『ゲゲゲの女房』を見たことが『シティライツ』連載のきっかけとなったというのは本当なんですか? 大橋 そうですね。水木(しげる)先生の当時の家と、今住んでる僕の家のボロい感じも近かったりして、おこがましいですけど、自分に重ね合わせてしまって、見終わったときに、これはもうやんなきゃなってなりましたね。連載が始まる1~2年前、ちゃんとしたネームじゃなくて、アイデアみたいなものを1度「モーニング・ツー」編集部に持って行ったことがあって、そのときに「キャラとか続きものとかを考えてみたら?」と言われたんですが、まったく考えられなかったんです。それで、商業誌は完全にあきらめてたんですけど、『ゲゲゲの女房』を見てから、自信はないけどとりあえず持ってかなきゃ始まらないなと思って。 ―― それが『シティライツ』の元ネタだったというわけですね。 大橋 最初は4ページくらいの短編だったら、スキがあればもしかしたら載せてくれるのかなとか思ったんで、短編を持っていきました。それで、連載が決まる前くらいに、何かしらの括りがあった方がいいんじゃないかということで、ひとつの街で起きている話にしようと決めたんですけど、徐々にあまり関係なくなってしまっていますね(笑)。一応、同じような町名は出してるんですけど。 cl03.jpg ――毎日の中で起きる、テンションが上がる瞬間とか、すごく落ち込む瞬間とか、すごく共感するんだけれど、読み終わるとそれはすべて幻想です、と言われているような、笑えるんだけどちょっと寂しくなるエピソードが多いですよね。 大橋 もし、実際自分が体験したら悲しいだろうし嫌ですけど、ちょっと悲しい感じが好きというか、アホっぽいのに悲しいみたいな場面が好きですね。なんとも言いようがないような、笑えもしないし悲しいわけでもなく、よく分からないけど心に残るような、そういうのが好きなんですよね。 ――確かに、そういうシーンばかりですもんね。ベースにある気持ちは同じだと思うんですが、自費出版と商業誌でテンションや意識の違いはありますか? 大橋 まぁ、自費出版は自分勝手にやれるので、主人公が何もせずに終わったりもするんですけど、『シティライツ』の場合は、あまりに何もなさすぎると担当さんが許してくれないんで(笑)。多少、物語の抑揚みたいなものには気をつけてますね。本当に微妙なところをもうちょっとだけ伝わりやすいようにしよう、と意識しています。 ――漫画連載以外にも、バンドや紙芝居など多岐にわたる活動をされていますが、そのモチベーションはいったいどこからくるものなんですかね? 大橋 最初は絶対漫画じゃないと、とは思ってなかったんです。楽器が弾けるなら音楽でもいいし、人前に立って何かやるんだったら芸人でもよかったんですけど、こんなヘナヘナな絵ですけど、これでもやっていけるなら自己完結でできるものなので、漫画を選んだんです。漫画に使えるネタを考えることが好きなので、それを発表したいというのと、見た人に面白いって思ってもらいたいっていうのが大きな動機ですね。それは、最初も今も変わらないです。「週刊オオハシ」の方は、いま止まってしまってる状態なんですけど、続いている話があって、筋書きはもう決まっているので描きたくてしょうがないんです。けど、どうしてかその作業をやる気になれなくて......。時間がないわけじゃないんですけどね。『シティライツ』も、このまま同じ感じではまずいかなと思ってはいるので、なんか考えなきゃなと。
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「週刊オオハシ」。
――担当編集さんにおうかがいしたいのですが、『シティライツ』の連載を決断された大橋さんの魅力ってなんだったのでしょう? 担当編集・柳川さん 決断したのは私じゃなく編集長なんですけど......(笑)。初めは、絵柄的に難しいのかなって思ってたんですけど、話がすごく面白くて完成度も高かったんです。「モーニング・ツー」は比較的自由な雑誌なので、「この人だったら大化けする可能性があるんじゃないか」という編集長の一言で連載が始まりました。ただ連載の条件として、自費出版で描かれているときの大橋さんの世界観とは少し変わってしまうかもしれないとは思ったんですが、手書き文字を写植に変えることと、枠線を定規で引くことの2点を提案させていだいて。 ――大橋さんはその提案、すぐ快諾されたんですか? 大橋 はい。枠線をちゃんと引くの大変だなぁとは思いましたけど。定規使うの苦手なんで......。ホント、とんでもないところから話をしていましたよね。 ――独特な絵柄の世界観なので、UFOとか宗教とかも出てきても、ああこういうことあるよねと妙に納得させられてしまうというか、キャラクターにすごくリアリティーがありますよね。 大橋 自分的にはUFOとか出てきてめちゃめちゃなんだけど、普通の人たちを描いてます。この絵柄でめんどうくさいとこは省いているだけなんですけど。 ――各界のクリエイターの方々から賞賛の声も上がっていて、おモテになっているのに本当にガツガツしてないというか謙虚ですね。 大橋 いや、モテてはないですよ。うれしいんですけど、そこまでたいしたことやってる気もないし、新しいこともあんまりやってないんで。本当に周りに紹介してくれたりする人が多かっただけで。だから、完全なラッキー・ボーイなんです。 ――大橋さん、浮かれたりはしゃいだりすることもあるんですか? 大橋 自信があるときとないときの波がものすごいんで、たとえば褒めてもらっても調子に乗れないんですよね。心の中ではちゃんとスキップしてますし、仲良い友達といるときは大声出して騒いたりしますけど、自分に酔うみたいなことは全くないですね。 (取材・文=小川知子) DSC_5028.jpg ●おおはし・ひろゆき 1980年生まれ。愛知県出身。2005年、初ミニコミ「謎漫画作品集」、06年ひとり連載漫画雑誌「週刊オオハシ」を自費出版で開始。07年、「QuickJapan」(太田出版)にて商業誌デビュー。73から75号まで『世界最古の電子楽器 静子』を連載。10年、「モーニング・ツー」(講談社)にて『シティライツ』連載開始。著書に『音楽と漫画』(太田出版)、『シティライツ』(講談社)がある。 ●『シティライツ』第1巻発売記念イベント 【サイン会&インストアライブ @ タワーレコード新宿店】 日時: 11月13日(日)19:00~ 場所:タワーレコード新宿店  東京都新宿区新宿3-37-1 フラッグス7階   TEL 03-5360-7811(お問い合わせは、10階書籍コーナー担当まで) 出演バンド: マリリンモンローズ/paradise 参加方法:タワーレコード新宿店10階にて『シティライツ』第1巻を購入・もしくは予約していただき、サイン会参加券をもらってください。サイン会参加券配布は、タワーレコード新宿店書籍コーナーのみの取り扱いとなります。他の店舗での取り扱いはありませんのでご注意ください。 【ライブ&トークイベント @ 新宿LOFT】 日時: 11月14日(月)18:00~ 場所: 新宿LOFT  東京都新宿区歌舞伎町1-12-9 タテハナビルB2 TEL:03-5272-0382 出演者:【大喜利&トーク】いましろたかし、大橋裕之、坂本慎太郎、しまおまほ、中原昌也、山下敦弘、吉田豪、古泉智浩ほか   【ライブ】GELLERS、Paradise、平賀さち枝、マリリンモンローズ チケット価格: ADV 2,300円/DOOR 2,500円(ともに+1ドリンク)
シティライツ(1) クセになる漫画。 amazon_associate_logo.jpg
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