
リブレ出版公式サイトより
男性同士の恋愛やセックスを描くボーイズラブ(BL)マンガ。従来、男性向けと違い、18禁表示を行ってこなかったこのジャンルに堂々18禁を看板に掲げた書籍が登場し、注目を集めている。
この書籍を発行したのはBLジャンルの大手として知られるリブレ出版だ。話題のアンソロジー形式の単行本『PINK GOLD』は、「BL。なのに18禁。それって…超デンジャラス!!」をキャッチコピーに数量限定発売。BLを数多く取り扱う全国書店のほか、ネットでも販売されている。
まず気になるのは、BLジャンルでは18禁コーナーを設置していない書店の店頭で、どのように区分陳列し、販売しているかというところ。BLジャンルを多く取り扱う都内の某書店を訪れてみたところ、ほかの書籍と同じく平積みにされているが「18歳未満には販売できません」「レジで年齢をお聞きする場合がございます」という文面が記された紙と一緒にシュリンクされた状態。店頭で18歳未満が中身を読むこともできないし、対面販売のため、客が誤って購入する可能性を防ぐ十分な措置を取っていた。
この単行本が企画された契機は、一大騒動の末に改定された東京都青少年健全育成条例が施行された昨年7月のことだ。この条例は改定により「刑罰法規に触れる性交若しくは性交類似行為又は婚姻を禁止されている近親者間における性交若しくは性交類似行為を、不当に賛美し又は誇張するように、描写し又は表現する」雑誌や書籍を規制(東京都青少年健全育成審議会による不健全図書指定)できるよう求めたものだが、「規制される内容が曖昧」「表現を萎縮させる」として大きな反対運動が繰り広げられる中で成立したもの。改定された条例が施行されてから一年を過ぎて、新たな条文に抵触する「不健全図書」が出ていないのは本サイトでも報じている通りだが、やはり現場での不安の声は大きかった。今回、『PINK GOLD』の編集を担当した、岩本朗子氏は語る。
「条例が施行されてから不安は拭えませんでした。作家さんの中からも『不健全指定されたらどうしよう』とか『指定されて書店に置いてもらえなかったらどうしよう』といった不安の声をお聞きしました。編集部のスタッフからも『作家さんには自由に表現してほしい。でも、作家さんに、どんな助言をすればいいのか?』という意見が挙がり、編集部内で何度も話し合いました」
岩本氏の発言からは、条例改定反対の立場の主張の一つである「表現が萎縮する可能性」が、現実のものとなっていることがうかがえる。そうした中で、流れを変えるきっかけになったのは、書店から寄せられた声だ。
「売り場担当の方から作家さん宛にいただいたお手紙の中に、『仮に不健全指定されても、返品しないで区分陳列する道を模索したい(筆者注=不健全図書指定を受けた雑誌・単行本を、即返品する書店は多い。Amazonでも、東京都で不健全図書指定を受けたものは、すぐに消える)。それが、作家さんのために自分たちにできることだから』というメッセージがありました。そんなこともあり、じゃあ18禁本を出せないかなと考えたんです」(岩本氏)
ただ、前例のない(これまで18禁扱いになっていたのは、BLかゲイマンガか判然としないものだけ)、BLに「成年コミック」の黄色い楕円マークをつけて販売することは、簡単ではなかった。まず、書店のBLコーナーに18禁の棚は設けられていない。そのため、書店で売ってもらえない可能性、あるいは店頭に並んでも女性は恥ずかしくて手に取らないのではないかという懸念があったのだ。
「まさに未知の領域ですから、まったく売れないかもしれないけど、それでも出版してみようと決まったんです」(同)
こうして始まった編集作業。18禁だからと躊躇する作家はおらず、「久々に自由に描くことができた」と喜ぶ声が多かったという。
「とにかく作家さんには自由に描いてほしいし、読者さんが望むものを作っていきたいと思っていました。もちろん、全年齢向けでも表現の部分はあまり縛りを設けず、自由なテーマで描いてください、とお願いしていますが、今回はあらためてその部分を強調しました」(同)
問題なのは性器の消しの部分だが、これもやはり未知の領域。そこで、男性向けを参考に30冊あまりを読み込んで「参考」にしたのだとか。これらのエピソードから、誰もやったことがない領域を切り開いていく作家と編集の情熱を伝わってくる。
その情熱は読者に届いているようで、ネット上や編集部に寄せられている反応は「おおむね好評」なのだとか。
「官能的な描写が読めるだけではなく、近親相姦や18歳以下のキャラクターのエッチといった全年齢向けでは描きづらくなっている作品が収録されているので、読み応えがあったという意見もいただいています」(同)
店頭での売り方についても、冒頭で述べたように年齢確認はきちんと行われているようだ。また、どこの書店でもシュリンクはかけて販売するように配慮してくれたり、店頭には並べずに引換券を置き、レジに持ってきたら渡す形で販売という書店もあるという。
また表紙デザインも、女性がレジに持っていく時に恥ずかしくないように配慮したり、男性向けにはない気遣いがなされている。ただ、男性向けと同様の「成年コミック」の黄色い楕円マークは、ちょっと違和感がある。
「女性向けの成年コミックマークを作りたいなと、デザイナーさんとも相談したんですが目立つと目をつけられるのではないかなと不安もあって……。だから、最初は男性向けと同じマークにしてみました」(同)
現在、出版社が利用している「成年コミックマーク」は遡れば、90年代前半に全国的にエロを扱う漫画が「有害」だとバッシングを受けた「有害コミック騒動」を機に、1991年に出版倫理協議会(日本雑誌協会・日本書籍出版協会・日本出版取次協会・日本書店商業組合連合会の4団体による自主規制団体)が導入したもの。賛否はあるだろうが、「18禁BL」が、今後量産されていくならば女性向けの新たなマークを導入するのは、是であると筆者は考える。8月の東京都青少年健全育成審議会ではBLから『愛玩奴隷 クライマーズハイ!』(ジュネット)が不健全図書指定を受けているし(正直、男性向けならマークをつけるレベルである)、BLもマークを導入することで、多彩な表現の場を確保できることになるのではあるまいか。来年以降、書店のBLコーナーにも18禁の棚が出現するかもしれない。
(取材・文=昼間たかし)
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読者にも好評! 都条例の不安の中で生まれた前代未聞の「18禁BL」がもたらす可能性

リブレ出版公式サイトより
男性同士の恋愛やセックスを描くボーイズラブ(BL)マンガ。従来、男性向けと違い、18禁表示を行ってこなかったこのジャンルに堂々18禁を看板に掲げた書籍が登場し、注目を集めている。
この書籍を発行したのはBLジャンルの大手として知られるリブレ出版だ。話題のアンソロジー形式の単行本『PINK GOLD』は、「BL。なのに18禁。それって…超デンジャラス!!」をキャッチコピーに数量限定発売。BLを数多く取り扱う全国書店のほか、ネットでも販売されている。
まず気になるのは、BLジャンルでは18禁コーナーを設置していない書店の店頭で、どのように区分陳列し、販売しているかというところ。BLジャンルを多く取り扱う都内の某書店を訪れてみたところ、ほかの書籍と同じく平積みにされているが「18歳未満には販売できません」「レジで年齢をお聞きする場合がございます」という文面が記された紙と一緒にシュリンクされた状態。店頭で18歳未満が中身を読むこともできないし、対面販売のため、客が誤って購入する可能性を防ぐ十分な措置を取っていた。
この単行本が企画された契機は、一大騒動の末に改定された東京都青少年健全育成条例が施行された昨年7月のことだ。この条例は改定により「刑罰法規に触れる性交若しくは性交類似行為又は婚姻を禁止されている近親者間における性交若しくは性交類似行為を、不当に賛美し又は誇張するように、描写し又は表現する」雑誌や書籍を規制(東京都青少年健全育成審議会による不健全図書指定)できるよう求めたものだが、「規制される内容が曖昧」「表現を萎縮させる」として大きな反対運動が繰り広げられる中で成立したもの。改定された条例が施行されてから一年を過ぎて、新たな条文に抵触する「不健全図書」が出ていないのは本サイトでも報じている通りだが、やはり現場での不安の声は大きかった。今回、『PINK GOLD』の編集を担当した、岩本朗子氏は語る。
「条例が施行されてから不安は拭えませんでした。作家さんの中からも『不健全指定されたらどうしよう』とか『指定されて書店に置いてもらえなかったらどうしよう』といった不安の声をお聞きしました。編集部のスタッフからも『作家さんには自由に表現してほしい。でも、作家さんに、どんな助言をすればいいのか?』という意見が挙がり、編集部内で何度も話し合いました」
岩本氏の発言からは、条例改定反対の立場の主張の一つである「表現が萎縮する可能性」が、現実のものとなっていることがうかがえる。そうした中で、流れを変えるきっかけになったのは、書店から寄せられた声だ。
「売り場担当の方から作家さん宛にいただいたお手紙の中に、『仮に不健全指定されても、返品しないで区分陳列する道を模索したい(筆者注=不健全図書指定を受けた雑誌・単行本を、即返品する書店は多い。Amazonでも、東京都で不健全図書指定を受けたものは、すぐに消える)。それが、作家さんのために自分たちにできることだから』というメッセージがありました。そんなこともあり、じゃあ18禁本を出せないかなと考えたんです」(岩本氏)
ただ、前例のない(これまで18禁扱いになっていたのは、BLかゲイマンガか判然としないものだけ)、BLに「成年コミック」の黄色い楕円マークをつけて販売することは、簡単ではなかった。まず、書店のBLコーナーに18禁の棚は設けられていない。そのため、書店で売ってもらえない可能性、あるいは店頭に並んでも女性は恥ずかしくて手に取らないのではないかという懸念があったのだ。
「まさに未知の領域ですから、まったく売れないかもしれないけど、それでも出版してみようと決まったんです」(同)
こうして始まった編集作業。18禁だからと躊躇する作家はおらず、「久々に自由に描くことができた」と喜ぶ声が多かったという。
「とにかく作家さんには自由に描いてほしいし、読者さんが望むものを作っていきたいと思っていました。もちろん、全年齢向けでも表現の部分はあまり縛りを設けず、自由なテーマで描いてください、とお願いしていますが、今回はあらためてその部分を強調しました」(同)
問題なのは性器の消しの部分だが、これもやはり未知の領域。そこで、男性向けを参考に30冊あまりを読み込んで「参考」にしたのだとか。これらのエピソードから、誰もやったことがない領域を切り開いていく作家と編集の情熱を伝わってくる。
その情熱は読者に届いているようで、ネット上や編集部に寄せられている反応は「おおむね好評」なのだとか。
「官能的な描写が読めるだけではなく、近親相姦や18歳以下のキャラクターのエッチといった全年齢向けでは描きづらくなっている作品が収録されているので、読み応えがあったという意見もいただいています」(同)
店頭での売り方についても、冒頭で述べたように年齢確認はきちんと行われているようだ。また、どこの書店でもシュリンクはかけて販売するように配慮してくれたり、店頭には並べずに引換券を置き、レジに持ってきたら渡す形で販売という書店もあるという。
また表紙デザインも、女性がレジに持っていく時に恥ずかしくないように配慮したり、男性向けにはない気遣いがなされている。ただ、男性向けと同様の「成年コミック」の黄色い楕円マークは、ちょっと違和感がある。
「女性向けの成年コミックマークを作りたいなと、デザイナーさんとも相談したんですが目立つと目をつけられるのではないかなと不安もあって……。だから、最初は男性向けと同じマークにしてみました」(同)
現在、出版社が利用している「成年コミックマーク」は遡れば、90年代前半に全国的にエロを扱う漫画が「有害」だとバッシングを受けた「有害コミック騒動」を機に、1991年に出版倫理協議会(日本雑誌協会・日本書籍出版協会・日本出版取次協会・日本書店商業組合連合会の4団体による自主規制団体)が導入したもの。賛否はあるだろうが、「18禁BL」が、今後量産されていくならば女性向けの新たなマークを導入するのは、是であると筆者は考える。8月の東京都青少年健全育成審議会ではBLから『愛玩奴隷 クライマーズハイ!』(ジュネット)が不健全図書指定を受けているし(正直、男性向けならマークをつけるレベルである)、BLもマークを導入することで、多彩な表現の場を確保できることになるのではあるまいか。来年以降、書店のBLコーナーにも18禁の棚が出現するかもしれない。
(取材・文=昼間たかし)
移籍の最大理由は不安定な雇用関係? コアマガジン→ワニマガジン大量移籍問題の真相

ワニマガジン公式サイトより
数カ月前から業界内で大きな話題となっていた、コアマガジンエロマンガ部門の編集と漫画家の、ワニマガジンへの移籍問題。8月後半から、その全貌がいよいよ明らかになってきた。渦中の人物であるコアマガジンの編集S氏は、部下と漫画家を引き連れてワニマガジンへの移籍を完了。ワニマガジンの「快楽天」10月号には、新雑誌「エロマンガシンドローム」の予告が掲載されており、移籍組は早くも雑誌を立ち上げることが明らかになっている。一方のコアマガジンは「メガミルク」が休刊、「コミックメガストア」と「漫画ばんがいち」を維持するのがやっと、という状態に追い込まれているという。
「今月のコアマガジン各雑誌を見れば一目瞭然ですが、実力のある漫画家が、ごっそり抜けています。ほとんどの漫画家は、編集について移籍をしたそうです」(エロ漫画編集者)
従来、実力のある漫画家を数多く抱え、コアマガジンとライバル関係にあったワニマガジンだが、そのライバルがすべて仲間となり、ひとり勝ちの時代がやってきたという具合だ。
では、今回の大量移籍の背景にあるのは何か?
「今回の移籍は、編集S氏に部下と漫画家が一緒についていった構図です。S氏は業界でも人格者として知られており、会社内でも、漫画家や部下の待遇のことで上と対立することもしばしばでした。もともと、コアマガジンは強烈な実力主義をとっており、雑誌を立ち上げないと正社員になれないというのが不文律でした。ですので、どんなに実力のある漫画家を育てて単行本で売り上げを出そうとも、“雑誌を立ち上げていない”という理由で、契約社員のままという優秀な編集者が何人もいたんです。対してワニマガジンは、コアマガジンよりも正社員になれるチャンスが多い。そのために、一緒になって移籍を決意したようです」
と、別のエロ漫画編集者は内情を暴露する。さらに、漫画家がごっそりと抜けてしまったコアマガジンでは「時々でいいから、ウチでも描いてください」と移籍を決意した漫画家に頭を下げて歩いているという話も。
「まだ、移籍をするかどうか迷っている漫画家もいるようですが、ワニマガジンでは近々、“決起集会”的な漫画家と編集者による宴会が予定されているそうです。そこに出席する、しないが、まさに死に別れになるでしょうね」(同)
ひとり勝ちとなったワニマガジン。しかし、これは新たなエロ漫画業界の危機の始まりという声もある。
「ただでさえワニマガジンの支配力は強いのに、これ以上寡占化が進めば、エロ漫画全体が似たような色に染められてしまいます。そうなれば、やがてはエロ漫画そのものが飽きられる時がくるでしょう」(書店員)
やはり、今回の騒動は「終わりの始まり」なのか? エロ漫画の未来は明るくない。合掌。
(取材・文=三途川昇天)
まさに“シンガポール・ドリーム”! 国宝級アート・ディレクターが、憧れの地・日本でブレイク間近

テセウスがアート・ディレクターを務めた、ルイ・ヴィトンと
草間彌生氏のコラボレーションを記念したファイン・ブック。
『AKIRA』『ドラゴンボール』『ドラえもん』......子どものころ、僕らの心をアツくさせた漫画やアニメが、海の向こうに住むアジアの子どもたちの心にも火をつけていた。今や日本人だけのものではなくなった、日本のポップカルチャー。その影響を受けて育った、アジアの才能豊かなクリエーターたちを紹介します。
第30回
アート・ディレクター
テセウス・チャン(Theseus Chan)
今年建国47周年という若い母国よりも少しだけ年長のテセウスは、「国宝」(!?)の呼び名さえ持つ、シンガポールを代表するアート・ディレクターだ。歴史の浅いシンガポールのデザイン業界において、初めて世界的な評価を得たクリエイターであり、現地の若手が崇拝するマスター的存在。当地のヒーローであるPHUNKやクリス・リーも、テセウスにだけは決して頭が上がらないという。
さぞや押しの強そうな人物と思われるかもしれないが、実際には「多くの前世を経験し、徳を積んでこられたのでしょう」と拝みたくなるような、一見お坊さんのような風貌。本人はいたって腰が低く、注目されるのが苦手で、業界のパーティーなどにはまず足を運びたがらない。
テセウスがデザイナーという職業を意識しだしたのは、かなり早かったという。

「WERK No.18」
「僕が学生の頃は、デザイナーになるなんて言ったら、“馬鹿なことはやめろ”と説得されるか、変わり者扱いされるのがオチでした。銀行員か公務員になって安定した収入を得るのが一番の親孝行、と、多くのシンガポール人が信じて疑わなかった時代です」
そんな状況も、ここ10年ほどで随分変わってきた。シンガポールをアジアのアート&デザインのハブにし、経済効果を狙うというもくろみの下、政府主導のさまざまなバックアップ施策が実行されてきたのだ。一般市民へのデザインの認知度も上がり、クリエイターをめぐる環境もだいぶ整えられたように見える。若手デザイナーの数も増え、デザイナーを目指す学生を応援こそすれ、それを止める親や親戚もいなくなった。

「WERK No.18」

「WERK No.18」
しかし、テセウスからすると、事態はそれほど楽観できたものではない。
「残念なことに、今、多くのデザイナーは、クオリティーを追求したり、そのプロジェクトが自分のキャリアやクライアントにもたらす成果のために努力するのではなく、とにかく“仕事をとる”ことに精力を傾けがちです。そのためのダンピングもお構いなし。デザイナーはプライドをなくし、クライアントのデザインに対する意識は低いまま。市場は成熟するどころか、後退しているようにさえ感じます」
辛口なようだが、「上から降ってくる」施策を享受した、いかにも教科書的なデザインが大量生産されれば、競争のポイントはクオリティーからずれていくばかり。むしろ網の目をくぐり、破り壊してでもやり遂げたい、強いデザインスタイルを持つべきなのだ、とテセウスは言う。
テセウスがデザインで常にお手本にしていたのは、80~90年代の日本の雑誌。「流行通信」「スタジオボイス」「Mr.ハイファッション」……行ったこともない日本の雑誌を手に入れては、ボロボロになるまで研究していた。中でも、コム・デ・ギャルソンが1988~91年に出していたフリーペーパー「six」は、テセウスのデザイン・バイブルといっていい。シックでゲリラ的精神にあふれ、妥協のないビジュアル・センスで見る者を圧倒する……それはテセウスに、自らのクリエイティブの発露をも促し、2000年から、世界のマガジンフリークの垂涎の的である「WERK(ヴェルク)」を、年に2回自費出版し続けている。同時に「いつか縁があって、自分のデザインを認めてくれる人たちと日本で仕事ができれば」と夢見ていたという。

「OnPedderNewNews 2012 S/S」
そんなテセウスの夢が、ここ数年で次々と現実化している。日本がらみのプロジェクトが目白押しなのだ。2009年に「師匠」と呼ぶ田名網敬一氏との出会いをきっかけに、2010年、田名網氏とPHUNKのコラボ展覧会のPR誌「The Tanaami Times」のアート・ディレクションを担当。2011年に田名網氏をフィーチャーした「WERK No.18 Keiichi Tanaami - Psychedelic Visual Master」を発行。2012年の1月と3月には、同じく田名網氏を迎え、長年アート・ディレクターを務める香港の高級セレクト・ショップOnPedderの顧客向けマガジン「OnPedderNewNews」(http://onpedder.com/pedderzine_fullbook/part7/index.html)での競演を果たしている。

「LV - YK」ファイン・ブック
7月には、彼がアート・ディレクターを務めた、ルイ・ヴィトンと草間彌生氏のコラボレーションを記念したファイン・ブック(発行:ルイ・ヴィトン ジャパン。ドーバーストリートマーケット銀座のみでの期間限定販売/http://ginza.doverstreetmarket.com/new/louis_vuitton.html)が発表され、大きな話題となった。アーティストへの深い理解とリスペクト、そしてチャレンジ精神を120%出し切った本の出来栄えに、草間氏本人も大絶賛したという。ユニクロ銀座では、8月に「UT 東京土産」プロジェクト(http://www.uniqlo.com/jp/store/feature/uq/ut/tokyoomiyage/)をリリース、テセウスが来日のたびに気になっている日本語をモチーフにデザインしたTシャツが販売されている。

「UT 東京土産」プロジェクト
さらには今年12月、日本のグラフィック・デザインの殿堂、ggg(ギンザ・グラフィック・ギャラリー/http://www.dnp.co.jp/gallery/ggg/)での日本初個展が開催されるなど、まさに今年は「テセウス祭り」とでも呼びたくなるほどの盛り上がりを見せている。
「僕にとって、日本はクリエイティブのお手本にあふれた国。自分たちの仕事を気に入ってくれる人たちが日本にもいると思うと、本当に勇気づけられます」というテセウス。今年の「祭り」はほんの序の口。来年は、日本中にテセウスのデザインがあふれていくことだろう。
●テセウス・チャン
WORK代表/WERKマガジン クリエイティブ・ディレクター。1961年シンガポール生まれ。マッキャン・エリクソンなどを経て、97年に、広告・デザイン・ファッション・出版の枠を超えて活動するデザイン・オフィスWORKを設立。2000年に創刊した「WERK」は、印刷技術の限界に挑むインディペンデント・マガジンとして、世界中に熱狂的なファンを持つ。04年から09年まで、東南アジアで唯一のコム・デ・ギャルソン ゲリラストアを運営。同時にビジュアル誌「Guerrilazine」を制作。06年、シンガポール・プレジデンツ・デザイン・アワード受賞。09年「WERK」16号でD&AD賞イエローペンシル受賞。
<http://www.workwerk.com/>
<http://www.ashu-nk.com/ASHU/work.html>
●なかにし・たか
アジアのデザイナー、アーティストの日本におけるマネジメント、プロデュースを行なう「ASHU」代表。日本のクリエーターをアジア各国に紹介するプロジェクトにも従事している。著書に『香港特別藝術区』(技術評論社)がある。<http://www.ashu-nk.com >
オンラインTシャツオンデマンド「Tee Party」<http://teeparty.jp/ashu/>
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連載打ち切り、単行本化なしの作品も続出か? 「日刊サイゾー」が東京都青少年健全育成審議会に登場!

「東京都青少年・治安対策本部」より
8月6日に開催された、第626回東京都青少年健全育成審議会の議事録が公開され、委員から報告として、本サイトの記事が示されたことが明らかになった(http://www.seisyounen-chian.metro.tokyo.jp/seisyounen/09_622_menu.html#626)。
取り上げられたのは、7月にアップされた「危機感ゼロの無知すぎるマンガ編集者が、新たな規制を呼び込む!? 東京都『不健全図書』の最新事情」(※記事参照1)と「『非実在青少年』騒動はなんだったのか? “消していれば大丈夫”という判断をした青林堂の甘さ」(※記事参照2)の2つの記事だ。
議事録は、都庁などの行政関係職員を除き名前は伏せて公表されるため、発言者は明らかでない(なお「日刊サイゾー」の部分と執筆者の「昼間たかし」の部分も黒塗りである)が、不健全図書が指定された後に、そのほかの報告として述べられたものである。
<先日、■ ■ ■ ■ というインターネットの中にある週刊誌みたいなものですけれども、その中に■ ■ ■ ■ さんという方の記事が載ってるんですね。その■ ■ ■ ■ という方は、もともと、いわゆる条例改正のときには反対派のほうに立って論陣を張ってた方ですけれども、その方が、あまりにも今の漫画の編集者の方々が無知過ぎて、このままだと、またさらに規制が強化されてしまうぞ、というような趣旨での文章を書いている>(議事録より)
前出の2本の記事で取り上げた、7月に不健全図書指定を受けた青林堂の『なぶりっこ マリカとアキコ』に関する内容を説明し、次のように続ける。
<東京都も、何度となく出版業界とも話をして、どこのポイントが規制の対象になるのか、という話をしているにもかかわらず、修整だけすればいいんだという発想で、出版をしている編集者がいまだにいっぱいいると。これは、毎度毎度業界関係者からの聴き取り内容を見ると、「修整してるからいいじゃないか」みたいな人たちがたくさんいるんで、ここはちょっと考えなきゃいけないな>
さらに同記事で取り上げた、双葉社が年通算6回の不健全図書指定を回避するために、指定を受ける可能性のある単行本を系列のエンジェル出版に移行したことも取り上げられている。
<要するに、確信犯的にやってる会社がやっぱりあるんだ、ということが分かるんですねね、これの措置によって。これは出版ゾーニング委員会でも再三問題になってるらしいんですよ、■ ■ 自身の危機感のなさというのが。倫理協議会の中の出版ゾーニング委員会でも、警告を結構やってるらしいんですが、業界の関係者の人たちも、それは思ってるんだけども、■ ■ は全くそれを意に介さない、というようなことをやってる>
ここでは伏せ字になっているが、明らかに双葉社を名指しで批判したことが見て取れる。指定回数がリーチに達する前に系列社に出版元を移して、アウトになるのを裂けようとしている出版社側の手の内が、完全にバレてしまった格好だ。
「双葉社をはじめとして、18禁マークなしのエロ要素強めのマンガを出版する各社も、“そろそろこれまでの方法は通用しない”と考えているようです。というのも、議事録にも掲載されているように、出版倫理協議会の出版ゾーニング委員会が再三にわたって問題視しているにもかかわらず方針を改めないことに対して、さまざまな出版社から相当厳しい批判が寄せられているのです。双葉社だけでなく、見た目の指定回数を減らすために系列に出版元を移す出版社はいくつかありましたが、そうした社も含めて“今までの逃げ方じゃ通用しない”と、ここにきてようやく深刻に受け止め始めているようですね」(業界関係者)
こうした状況を東京都では、どう見ているのか?
「双葉社さんから事実関係を聞いているわけではありませんので、明確なお答えはできませんが、(私見として)出版元を移す行為がただちに脱法行為になるとは見ていません。あくまで別の出版社から出版されているわけですし、ただちに何かの対策を取ることは考えていません。各出版社で自主的に基準を決めていただくのが最もよいのですが、各社で温度差があると思いますので、業界団体で自主規制していただくのがよいのではないでしょうか」(都青少年課の佐藤久光課長)
東京都はまだ静観の構えだが、出版業界内部では「いくらなんでも、やりすぎ……」という意見が強い。明確な証言はないが、双葉社では、単行本にした場合にエロページが多くなりすぎる(指定される可能性が強まる)いくつかの雑誌連載を打ち切るというウワサもある。結局、編集部が自分たちで過激な表現に歯止めをかけられないために、会社の上層部が介入せざるを得ないという事態になってしまっているようだ。編集者もマンガ家も、こんな事態を巻き起こしてまで表現したいものがあったのだろうか……?
(取材・文=昼間 たかし)
「絶望の中の微かな希望」作者が語る『ウシジマくん』と『ドラえもん』の共通点

(C) 2012真鍋昌平・小学館/映画『闇金ウシジマくん』製作委員会
ヤミ金業者「カウカウファイナンス」のウシジマ社長を主人公に、欲望に堕ちてゆく人々を描くマンガ『闇金ウシジマくん』(小学館)。コミックスの売り上げは累計500万部を突破、山田孝之主演で映像化されたドラマ版は、深夜ながら高い視聴率を獲得した。
そして8月25日(土)、ウシジマくんが映画となって帰ってくる! ドラマ版を踏襲したキャスト陣に加え、映画版にはAKB48の大島優子が出演。この公開を記念して、日刊サイゾーでは原作者の真鍋昌平氏にインタビュー取材を敢行。顔出しNG、取材時間はわずか20分……。厳戒態勢の中、いま最も冷酷なマンガを執筆する真鍋氏を、固唾をのんで待ち受けた……。
「よろしくお願いしまーす」と入ってきた真鍋先生は、意外にも爽やかな好青年。物腰も柔らかく、笑顔もチャーミングだ。まさかこの人から『闇金ウシジマくん』のような冷酷な物語が生まれているとは、にわかに信じられない……。
――とても爽やかな人柄に、びっくりしました。てっきり、もっとイカツイ人なのかと……。
真鍋昌平(以下、真鍋) 「こういうヤツが描いているのか……」と思われるのがあまり好きではないんで、顔は出さないようにしているんです。
――ギャップがありすぎて、逆に好感度が上がりそうです。ところで、映画をご覧になった感想はいかがでしょうか?
真鍋 冒頭のシーンから、すごい作品だなと思いました。セレブたちのパーティーのシーンなのですが、金持ちのおじさんたちはTシャツ姿。彼らはいつも空調の効いた環境で生活をしているから半袖でいいんですよね。また、周囲に集まる女の子たちも、損得で考えるビッチな雰囲気を醸し出している。細部の美術に至るまで、スタッフのこだわりを感じました。こういった仕事は、スタッフ全体の熱量が上がらないと絶対に作れないですよね。
――映画を見ながら「これはマンガじゃできない」と思う部分はありましたか?
真鍋 大島優子さん演じる鈴木未來が、街を駆け抜けるシーンがあるんですが、あの瞬間は映画ならではの疾走感を感じました。マンガでは、あの表現は難しいですね。

――映像では、ウシジマ社長の部下である柄崎と加納という2人のキャラが1人に統合されていたり、ウシジマ社長に“野菜嫌い”の設定が加わっています。こういった映像オリジナルの設定については、どのように考えているのでしょうか?
真鍋 あまり気にならないですね。映像は監督の解釈で成立するものなので、問題はないと思います。僕が細部にこだわるというのは、登場人物がどんなスーパーでどんな物を買っているのか、といった部分。自分の中で、そのキャラクターが“存在している”と思えるように設定を作っているんです。原作とまったく同じように映像化してほしいと思っているわけではないので、別の設定が入っても全然構いません。
――真鍋さんは『闇金ウシジマくん』を描くにあたっては、かなり綿密な取材を重ねているそうですね。

真鍋 編集部から犯罪系のライターさんを紹介してもらい、さらにライターさんからソッチ系の方々を紹介してもらいながら、いろいろな話を聞き出しています。最新刊でテーマにしている生活保護の受給者にも、実際に会って話を聞いてきました。決してリアルだけを目指しているわけではないのですが、そのキャラクターや、彼らの考えていることに近づけたらと思って取材をしています。会って話したほうが、やっぱり情報量が多いんですよ。
――実体験をエピソードとして盛り込むこともあるんですか? 真鍋さん自身も借金地獄に苦しめられていたとか……。
真鍋 マンガ家になる前は借金をしていましたが……。
――えっ、ヤミ金ですか!?
真鍋 いえ(笑)、消費者金融です。マンガ賞に応募する作品を作るためにバイトを辞めて、生活費を借りたんです。賞が獲れなければ借金だけが残る状態だったんですが、無事受賞することができ、その賞金を持ってすぐにATMに行きました。
――資料によれば、藤子・F・不二雄先生の作品に衝撃を受けたそうですね。世界観としては、藤子不二雄A先生のほうが近い気がしますが……。
真鍋 小学校の頃に、『ドラえもん』を読んで衝撃を受けたんです。未来からやってきたドラえもんが、毎回ひみつ道具でのび太の窮地を一時的に助けますが、必ず最後にはのび太はしっぺ返しを食らう。6巻の「さよならドラえもん」という回で一度エンディングを迎えるんですが、この回はのび太がドラえもんの道具に頼らず、自分の力で戦うというストーリーでした。そこまでの『ドラえもん』が大好きなんです。

――お話を伺っていると、どことなく『ドラえもん』と『闇金ウシジマくん』が共通するお話のように思えてきます。
真鍋 『闇金ウシジマくん』も『ドラえもん』も「そんなうまい話はない」っていうことを描いているんじゃないかな。そこは共通しているかもしれませんね。
――『闇金ウシジマくん』のストーリーは、よく「救いがない」と言われます。作者としては、どのような意図から、救いのないストーリーを描いているのでしょうか?
真鍋 まったく救いがないわけではないんです。毎回、ちょっとだけ希望を感じられるような終わり方をしている。登場するキャラクターが、この先もやっていけるんじゃないかという希望を感じさせるための最低限の救いはあります。“絶望の中の微かな希望”というイメージですね。
――真鍋さんは、人間をどういう生き物だと捉えていますか?
真鍋 最初に『ウシジマくん』を描く時、葛藤している人間を描こうと思っていました。お金で葛藤している人々は、どこか生き生きとしているようにも見えたんです。それに、窮地に追いやられた時に人間の出す力は面白い。『ウシジマくん』では、そういった人間の面白い部分を描ければいいなと思っています。
(取材・文=萩原雄太[かもめマシーン])
●まなべ・しょうへい
生年月日非公開。1993年『GOMES』主宰のマンガコンテストにて『ハトくん』がしりあがり寿賞を受賞しデビュー。グラフィックデザインのアルバイトを経て、1998年『憂鬱滑り台」でアフタヌーン四季賞の四季大賞を受賞し、再デビュー。2004年より「ビッグコミックスピリッツ』で『闇金ウシジマくん』を不定期連載、第56回(平成22年度)小学館漫画賞一般向け部門を受賞。
●『闇金ウシジマくん』
監督:山口雅俊/脚本:福間正浩 山口雅俊/出演:山田孝之 大島優子 林遣都 崎本大海 やべきょうすけ 岡田義徳 ムロツヨシ 鈴之助 内田春菊 市原隼人 片瀬那奈 黒沢あすか 新井浩文/原作:真鍋昌平 『闇金ウシジマくん』(小学館「週刊ビッグコミックスピリッツ」連載中) /配給:S・D・P
8/25(土)新宿バルト9ほか 全国ロードショー
公式サイト <http://ymkn-ushijima-movie.com/>
公式Facebook <http://www.facebook.com/ymkn.ushijima.movie>
公式Twitter <https://twitter.com/#!/ushijima_movie>
【清野とおるの、キ○チ○ガ○イと呼ばないで】第5話「オモシロイ顔のおじさん」
『東京都北区赤羽』でおなじみの漫画家・清野とおるによる、悶絶必死の爆笑コラム。
飲みの席などで打ち解けた初対面の人に、冗談半分でカメラを向けて
「オモシロイ顔してください」
とか言ってみる。
まあ、大抵の人は「そんなのできないよ~」と照れたり、「カメラ向けないでよ~」と嫌がったりする。
頑張ってオモシロイ顔をしてくれたとしても、さほどオモシロクナイのがこの世の常である。別に俺だって期待なんてしていない。ただ単に、カメラ向けて相手の反応を楽しんでいるだけである。
しかし、ある日のこと、本当にオモシロイ顔をしてくれる、オモシロイおじさんと出会った。
場末のスナックで隣り合わせた、Sさん。
そんな訳で、Sさんのオモシロイ顔スタート。
Sさんのオモシロイ顔に、思わず爆笑してしまった……。
まさか「オモシロイ顔をしてくれ」と言って、本当にオモシロイ顔をしてくれるとは……。楽しい反面、言い知れぬ悔しさがこみ上げる。
後日、スナックに行くと、またSさんがいた。俺を見るなり、「またオモシロイ顔をするから、見てくれ!」という。
そんなわけで、2回戦目開始!!
Sさんのオモシロイ顔に、再び爆笑してしまった……。
「次はもっと笑わせてあげるよ。金曜にまたこの店で会おう」
笑いながら写真を撮る俺に、Sさんは不敵な笑みを浮かべて、そう言った。正直、もう十分。オナカいっぱいでございます。
一通りオモシロイ顔を拝見させていただいたし、これ以上どう笑わせてくれるというのか。俺も、同じ手(顔)で、三度は笑いませんよ。
……しかし、このSさんからは、そこらの量産型酔客とは違う、底知れない可能性を感じる。Sさんなら、さらに突拍子もない「何か」をやらかしてくれるのではないか? そんな淡い期待を胸に抱きつつ、指定された日時に再度スナックへ行ってみることにした。
スナックの戸を開けると……。
そこには、何故かコックに扮したSさんがいた。場末のスナックにコックさん……なんと不条理な光景であろうか。
聞けば、Sさんの本職はコックで、俺を笑わせるために、わざわざこの格好のまま、四谷から電車で赤羽までやってきたという。
3回戦目開始!!!
なんだこの髪型!!!!!!!!!
コック帽を外したSさんの頭に、俺は驚愕した。
俺を笑わせるためだけに、わざわざ床屋に行って、こんな素っ頓狂な髪型にしてきたという。
数日前にたまたま場末のスナックで居合わせただけの、得体の知れない若輩者を笑わせるためだけに……!!!
床屋のオヤジからは「本当にいいんですか……?」と心配され、職場の上司からは「なんだそのふざけた髪型は!!」と大目玉を食らったらしい。
Sさん……あんたって人は……。さあ、引き続きそのオモシロイ髪型でオモシロイ顔をしてくだせえ!
4回戦目開始!!!!
途中から、面白さを通り越して恐ろしくなり、恐ろしさを通り越して再び面白くなった後に、何故だか感動すら覚える自分がいた。
「Sさん、ご苦労様でした!」
頭をひと撫ですると、Sさんは少年のようなあどけない表情ではにかんだ。
俺も将来、こういうふざけたおじさんになりたい。
(文・イラスト・写真=清野とおる)
●せいの・とおる
1980年生まれ。東京都板橋区出身。地元・赤羽に生息する奇妙な人々を生き生きと描いた漫画『東京都北区赤羽』(Bbmfマガジン )が大ヒット中。
Twitter <https://twitter.com/seeeeeeeeeeeeno>
●【キ○チ○ガ○イと呼ばないで】INDEX
【第4話】「ウンコおじさん」
【第3話】「恐怖!‟木曜日の男”」
【第2話】「鳥盗り物語」(後編)
【第2話】「鳥盗り物語」(前編)
【第1話】「ホモビデオの清野さん」
【清野とおるの、キ○チ○ガ○イと呼ばないで】第5話「オモシロイ顔のおじさん」
『東京都北区赤羽』でおなじみの漫画家・清野とおるによる、悶絶必死の爆笑コラム。
飲みの席などで打ち解けた初対面の人に、冗談半分でカメラを向けて
「オモシロイ顔してください」
とか言ってみる。
まあ、大抵の人は「そんなのできないよ~」と照れたり、「カメラ向けないでよ~」と嫌がったりする。
頑張ってオモシロイ顔をしてくれたとしても、さほどオモシロクナイのがこの世の常である。別に俺だって期待なんてしていない。ただ単に、カメラ向けて相手の反応を楽しんでいるだけである。
しかし、ある日のこと、本当にオモシロイ顔をしてくれる、オモシロイおじさんと出会った。
場末のスナックで隣り合わせた、Sさん。
そんな訳で、Sさんのオモシロイ顔スタート。
Sさんのオモシロイ顔に、思わず爆笑してしまった……。
まさか「オモシロイ顔をしてくれ」と言って、本当にオモシロイ顔をしてくれるとは……。楽しい反面、言い知れぬ悔しさがこみ上げる。
後日、スナックに行くと、またSさんがいた。俺を見るなり、「またオモシロイ顔をするから、見てくれ!」という。
そんなわけで、2回戦目開始!!
Sさんのオモシロイ顔に、再び爆笑してしまった……。
「次はもっと笑わせてあげるよ。金曜にまたこの店で会おう」
笑いながら写真を撮る俺に、Sさんは不敵な笑みを浮かべて、そう言った。正直、もう十分。オナカいっぱいでございます。
一通りオモシロイ顔を拝見させていただいたし、これ以上どう笑わせてくれるというのか。俺も、同じ手(顔)で、三度は笑いませんよ。
……しかし、このSさんからは、そこらの量産型酔客とは違う、底知れない可能性を感じる。Sさんなら、さらに突拍子もない「何か」をやらかしてくれるのではないか? そんな淡い期待を胸に抱きつつ、指定された日時に再度スナックへ行ってみることにした。
スナックの戸を開けると……。
そこには、何故かコックに扮したSさんがいた。場末のスナックにコックさん……なんと不条理な光景であろうか。
聞けば、Sさんの本職はコックで、俺を笑わせるために、わざわざこの格好のまま、四谷から電車で赤羽までやってきたという。
3回戦目開始!!!
なんだこの髪型!!!!!!!!!
コック帽を外したSさんの頭に、俺は驚愕した。
俺を笑わせるためだけに、わざわざ床屋に行って、こんな素っ頓狂な髪型にしてきたという。
数日前にたまたま場末のスナックで居合わせただけの、得体の知れない若輩者を笑わせるためだけに……!!!
床屋のオヤジからは「本当にいいんですか……?」と心配され、職場の上司からは「なんだそのふざけた髪型は!!」と大目玉を食らったらしい。
Sさん……あんたって人は……。さあ、引き続きそのオモシロイ髪型でオモシロイ顔をしてくだせえ!
4回戦目開始!!!!
途中から、面白さを通り越して恐ろしくなり、恐ろしさを通り越して再び面白くなった後に、何故だか感動すら覚える自分がいた。
「Sさん、ご苦労様でした!」
頭をひと撫ですると、Sさんは少年のようなあどけない表情ではにかんだ。
俺も将来、こういうふざけたおじさんになりたい。
(文・イラスト・写真=清野とおる)
●せいの・とおる
1980年生まれ。東京都板橋区出身。地元・赤羽に生息する奇妙な人々を生き生きと描いた漫画『東京都北区赤羽』(Bbmfマガジン )が大ヒット中。
Twitter <https://twitter.com/seeeeeeeeeeeeno>
●【キ○チ○ガ○イと呼ばないで】INDEX
【第4話】「ウンコおじさん」
【第3話】「恐怖!‟木曜日の男”」
【第2話】「鳥盗り物語」(後編)
【第2話】「鳥盗り物語」(前編)
【第1話】「ホモビデオの清野さん」
「結局、コミケはニコ動に喰われていくのか?」他誌じゃ書けない本音満載『マンガ論争』Vol.07

『マンガ論争』vol.7 2012年夏号発行
「結局、コミケはニコ動に喰われていくのか?」他誌じゃ書けない本音満載『マンガ論争』Vol.07

『マンガ論争』vol.7 2012年夏号発行