なぜ「ジャンプ」は変わったのか? フリー化された解釈に見る「ジャンプ」腐女子化の理由

【サイゾーpremium】より 12月無料購読キャンペーン開催! 「『ジャンプ』は腐女子に媚びだしてから終わった」──。マンガ好きなら、こうした論調を耳にする向きも多いだろう。だが、これは果たして正しいのだろうか? 消費社会論と腐女子の消費傾向から、「ジャンプ」作品の変遷を探ってみたい。 「『黒子のバスケ』イベントを中止せよ」  2012年10月、「週刊少年ジャンプ」(以下「ジャンプ」)で連載されている人気マンガ『黒子のバスケ』の作者と、作者の出身校含む関係各所へ脅迫状が送付される事件が発生した。この騒動の中で頻繁に登場するキーワードがある。それが”腐女子”だ。犯人は文書で「パロディ作品をやめろ」「腐女子ども覚えておけ」などと述べ、時期近くしてフジテレビが登場人物に想いを馳せる「仮想カレシに夢中な女子たち」という扇情的な報道をしたことも相まって、ネットで炎上した──。  そもそも近年、業界最大部数を誇る「ジャンプ」が腐女子に媚びてきたという批判を耳にする。”腐女子”という属性については、もはやここで説明するまでもないだろうが、なぜ「ジャンプ」がそうした謗りを受けることになったのだろうか? 本稿では、腐女子の消費傾向から、「ジャンプ」が腐女子に受け入れられるようになった経緯をひもといてみたい。まずは本題に入る前に、80年代以降の日本における消費社会論と腐女子の消費傾向を照らし合わせながら、彼女たちが「ジャンプ」を支持するに至る経緯を見ていこう。  日本では80年代、社会学者ボードリヤールが『消費社会の神話と構造』(原著1970年)で展開した消費社会論がもてはやされていた。これによれば「消費」とは、欲求のままモノを享受することではなく、何かを区別し意味付けする行為として社会構造に組み込まれたものとされる。同時期の日本ではバブルを享受し、高度消費社会に突入したのだが、人々は記号的な消費行動──例えばコム・デ・ギャルソンの服という”記号”を買う──を通じて、社会における自分の立場を確立した時代だったのだ。社会学者のP・ブルデューはこうした記号を用いた”人とは異なる”という区別を「卓越化」と呼んだが、それぞれの世代では記号的消費行動を通じた卓越化ゲームが営まれていた。例えばサブカルチャーの世界でも、83年に中森明夫が「おたく」と命名したのは、性愛の世界でのゲームを降りて、当時流行していたガンダムやマクロスなどのアニメの世界でうんちく競争という名の「卓越化」にいそしむ人々のことだった。  だが90年代以降になると、「このブランドを着ればカッコイイ」「このマンガを読むとオタク」といった記号消費をベタに信奉する振る舞い自体が陳腐化する。そもそも”人と違う”と区別するのが「卓越化」である。皆が記号消費を当たり前に行うようになれば、”あえて記号消費を拒む”ことで「卓越化」を図る振舞いが出てくるのは当然だ。それはバブル文化に対する反動ともいえるだろう。こうしてひとつの記号的価値をベタに頼る「卓越化」よりも、そこから距離を取って戯れるような「自分内的なモード切り替え」(=マイブーム)が散見されるようになった。  そんな90年代には、少女マンガでは『カードキャプターさくら』(講談社)、『ママレード・ボーイ』(集英社)が人気を博し、とりわけ『美少女戦士セーラームーン』の老若男女を巻き込んだ一大ブームを覚えている人も多いだろう。中でも、『セーラームーン』と『さくら』のヒットはすさまじく、いわゆる”大きなお友だち”と呼ばれる成人男性ファンをも獲得。そこでは、あくまで既存の女性読者のみならず、大人から子どもまでが〈マイブーム/非マイブーム〉という自分の基準にのっとり消費した格好だ。  こうして、80年代のロリコンブームなどの影響で”低俗”な文化の一端と見なされていた同人誌文化も、マイブーム的消費の対象になっていった。従来は「おたく」だけの娯楽だと思われていたコミックマーケットだが、「おたく」を自認しない女子も『スラムダンク』(集英社)がマイブームだから、といったノリでコミケに参加するようになったのだ。  コミケは今年で開催35年。90年代には一般参加者が10万人を突破し、2000年以降は参加者40万人以上を突破、今年の「夏コミ」(コミケ82)では参加サークル3万5000、実に一般参加者は約56万人に激増した。また、08年の出展サークルは男性29%、女性71%、コミックマーケット準備会は「世の中の認識と異なり、女性参加者が多い」と発表。コミケで扱われる作品は二次創作が圧倒的に多く、この中で腐女子を中心とした女性参加者は75年頃から、男性同士の恋愛を描いた二次創作物である「やおい」作品を発表、消費していた。  さて、こうした流れの中、コミケ参加者の急増、そして同人誌市場が拡大した90年代末になると、『セーラームーン』の戦闘美少女モノの流れをくみつつも、新しい少女マンガの幕開けを告げる作品が登場した。それが種村有菜による『神風怪盗ジャンヌ』だ。『ジャンヌ』は98年から00年まで小中学生向けの少女マンガ誌「りぼん」で連載された作品である。
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少女マンガらしからぬBLシーンが描かれた『紳
士同盟†』の1コマ。
 その後も種村は『満月を探して』(集英社)、『紳士同盟†』などのヒット作を飛ばす。ジャンヌダルクの生まれ変わり、日下部まろんが怪盗ジャンヌとして活躍する『ジャンヌ』。延命する代わりに声を失わなければならないという選択を迫られた難病の少女、満月が歌手になる夢を叶える『満月』、元ヤン少女が初恋の相手である資産家の息子との恋を成就させていく『紳士同盟』。過剰なマニエリスム、異世界ファンタジー、学園生活のドタバタギャグとラブコメ、複雑な家庭事情、セックスを彷彿させる描写、性倒錯や同性愛など、種村作品は「恋愛もの」「バトルもの」「ファンタジー」だけにとどまらず、「エロ」「BL」「百合」など二次創作を誘発させる要素を多くちりばめていた。  例えば『ジャンヌ』ではヒロイン怪盗ジャンヌとヒーロー怪盗シンドバッドの「エロ」描写、またシンドバッドと彼にお供する黒天使アクセスのBL的関係や、ジャンヌとお供の準天使フィンの百合関係も同人化されることがあり、『紳士同盟』でその傾向は過激化する。御曹司の影武者、東宮高成と彼を愛するゲイの辻宮真栗の「公式BL」カップル、また真栗を好きな女装男子まおらと真栗の「BL」関係。さらにヒロインの乙宮灰音と彼女を愛する天宮潮の百合関係なども描かれている。  こうした要素の過剰さには、作者の種村自身が『セーラームーン』の同人誌や『ガンダムSEED』のBL同人誌を制作した経験があることも無関係ではないだろう。二次創作は原作の読み手の想像力を通じ、能動的に新しい解釈を生み出す営みだが、多様な解釈余地がある作品ほど同人カルチャーとの親和性が高い。「多様な解釈のうちのひとつを、物語として提示する」同人作家の一面を持つ種村作品が、解釈余地の広い作品となったこともうなずける。このように、種村作品は、「あなたは違うかもしれないが、私はこう読んでいる」と言える余地が大きいのが特徴だが、『ジャンヌ』が生まれた00年以降、こうした多様な解釈の余地を持つ作品は多く生まれた。その特性をここでは〈解釈コードフリー〉と定義したい。実は、腐女子に媚びているとされる現在の「ジャンプ」作品は、一様に〈解釈コードフリー〉を兼ね備えているのだ。 ■腐女子は「ジャンプ」になぜ興味を持つのか?  ではなぜ、「ジャンプ」作品は〈解釈コードフリー〉を兼ね備えたのだろうか? それは「ジャンプ」がアンケート至上主義に基づいていたため、前述した消費社会の動向と足並みを揃えた「時代と寝る少年マンガ誌」であったからだ。 「ジャンプ」作品がこの傾向を強めたことで、腐女子を含む女性読者を受け入れる土壌が醸成されたわけだが、ほかにも少女マンガ誌のピンポイントマーケティングに外れた女性読者の支持を得たことも女性読者獲得につながった。 「ジャンプ」に流れることとなる女性読者が生まれた背景には、00年以降「りぼん・ちゃお・なかよし」の三大雑誌の発行部数が激減したことで方向転換を余儀なくされた各誌が、その対象年齢を比較的幼年層向けに限定したことが挙げられる。 『美少女戦士セーラームーン』『カードキャプターさくら』『ママレード・ボーイ』など、90年代の大ヒット作品の連載が終了。その頃から、合理的なターゲティング戦略として、三大雑誌の作品はより幼年向けへとシフトした。  かつては三大雑誌が”恋に恋するお年頃”といった年齢を問わないテーマ性でブームを巻き起こした「乙女ちっく」ものや、『ちびまる子ちゃん』に見られるような世代を問わず楽しめる「日常コメディ」など、中学生含む少女層全般をカバーしていた。しかし、63年に創刊された学園恋愛ものが中心の「別冊マーガレット」(集英社)は例外として、90年代後半以降、矢沢あいでおなじみの「cookie」(集英社/99年~)、エロ要素の強い「デザート」(講談社/96年~)や「ベツコミ」(小学館/06年~、ただし誌名変更しリニューアル)など、中高生向け、ハイティーン向け、成人向けと「次に読むべき雑誌」が出揃った。だが、三大雑誌を卒業した少女が皆ストレートに「次に読むべき雑誌」へ向かったわけではない。  その一因として、学園ラブコメやリアルな男女の恋愛模様に共感できない少女もいたことが挙げられる。ドジでフツウの女の子が”恋に恋する”という「乙女ちっく」モチーフならともかく、これらの雑誌は容姿端麗な女子がイケメンキャラと結ばれる様を描く。”こんな恋愛、今の自分とは無縁だ”と思う女子もいて当然だ。それに引き換え、リアルな私を介入させずにすむ「少年マンガ」のカップリングは無害なものとして受け入れられる。とりわけ「ジャンプ」作品では男女間の恋愛がそこまで描かれないために、好きなキャラクターに「疑似恋愛」もしやすい。「ジャンプ」に掲載されるラブコメ作品も、主人公の男子目線で描かれているので、生々しさがない。  前述の通り消費スタイルの変遷に適応することとなる「ジャンプ」だが、94年にマンガ誌過去最高発行部数の653万部を誇るも、『ドラゴンボール』が連載終了した95年、『スラムダンク』が連載終了した96年を経て、急速に発行部数を落とした。雑誌不況もあって、以降、03年頃から現在まで300万部弱で推移する。とはいえ「週刊少年マガジン」が143万部、「週刊少年サンデー」が52万部(※12年4~6月)であることをみれば、圧倒的部数であることには変わりない。  その半面、冒頭で指摘したように「腐女子に媚び出してから『ジャンプ』は終わった」と言う声を耳にすることも事実だ。例えば、女性受けの良い繊細なタッチでイケメンばかりが登場する『家庭教師ヒットマンREBORN!』や、イケメンでかつギャップのある「真選組」キャラが掛け合う『銀魂』(04年~)などが、そう指摘されがちだ。しかし、「無駄にイケメンキャラを登場させる」という理由だけでは腐女子人気は説明できないだろう。「女性ファン」ウケを狙っていたとしても、それが「腐女子に媚びている」ことに直結するわけではない。確かに『ONE PIECE』(97年~)、『HUNTER×HUNTER』(98年~)、『NARUTO』(99年~)など90年代末からの「ジャンプ」作品については、00年代に入ってすさまじい量のBL同人誌が作られた。中でも『テニスの王子様』(99年~)は同人誌界隈でも驚異的なブームを巻き起こし、その後も『BLEACH』(01年~)、『DEATH NOTE』、テニプリブームを彷彿させる『黒子のバスケ』(09年~)などは現在でも同人界隈で人気を博している。また、今年に入っても『ハイキュー!!』(12年~)は、スポ根マンガとして男性人気を獲得しつつ、同人ショップですでに専用コーナーが設けられるなど腐女子の注目度も高い。だが、こうした人気作品には多様な要素が盛り込まれており、「腐女子に媚びている」というよりは、多様な要素のひとつを「腐女子が勝手に読み替えている」というのが実情だろう。この特性こそが〈解釈コードフリー〉なのだ。  さまざまな層が自由に解釈できる〈解釈コードフリー〉の作品は、その解釈余地の広さ故に腐女子の想像力も掻き立てる。と同時に、間口の広さから男女や世代問わず多くのファンを獲得することができるのだ。近年の「ジャンプ」が〈解釈コードフリー〉な作品を求めたということは、『保健室の死神』の藍本松や『D・Gray-man』の星野桂といった同人経験作家を起用したことも、あながち無関係ではないだろう。 ■あらゆるコンテンツに見られる解釈の自由化
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コンサートでのコントから始まり、
映画化もされたエイトレンジャー。
「ジャンプ」以外にも、00年代以降に女性にヒットした作品は、マンガ消費の〈解釈コードフリー〉化を色濃く反映している。元々児童向けだったサッカーゲーム『イナズマイレブン』や『忍たま乱太郎』は、00年代後半から女性にブームとなった。『イナイレ』の場合は、骨太なストーリーとシナリオの完成度の高さから大人も楽しめる作品となっており、「サッカー」だけでなく「バトル」「学園もの」「パラレルワールドもの」など、好きなように解釈できる余地が広い。男性向けか女性向けかだけでなく、対象世代の垣根も超えた〈解釈コードフリー〉な消費傾向があるのだ。  解釈の余地が広い作品群は、原作で描かれていない背景を想像しやすい。そのことを意識して、原作側もその”余地”を積極的に利用する傾向が見られる。具体的には”公式二次創作”の数々だ。例えば『ジョジョの奇妙な冒険』の公式ノベライズは、乙一、西尾維新、舞城王太郎らライトノベル出身者を起用し『ジョジョ』の物語世界を拡張させることに成功した。  もちろん、こうした〈解釈コードフリー〉を兼ね備え、女性向け同人誌ジャンルで盛り上がりを見せるのはマンガだけではない。ジャニーズの人気ユニット関ジャニ∞も同様の消費傾向が散見できる。  今年公開された映画「エイトレンジャー」では、メンバーが戦隊モノを演じたことは記憶に新しいだろう。これは元をたどれば、05年からメンバー自身が始めたコンサート限定の挿入コントで、”公式二次創作”と言ってもいい。ほかにも、丸山と安田の漫才コンビ「山田」、大倉と錦戸の関ジャニ内ユニット曲「torn」などでは時に「BL」を想起させる演出もあり、二次創作を誘発しているとも取れるだろう。普段とは違う一面がほの見えるため、ファンが妄想、つまり能動的にかかわれる仕掛けだ。この傾向を持った女性アイドルには、メンバー同士のカップリングを楽しむAKB48が挙げられる。    ここまで見てきたように、「腐女子に媚びた」というだけで同人誌の人気ジャンルになるとは言い切れない。ジャンルが細分化し、ハイブリッド化した今、かつてのように作り手が「こう読むべし」と解釈コードを提示する作品スタイルはすでに廃れてしまった。そこでは、BL同人誌でいうところの「同性愛コード」、少女マンガ誌における「共感コード」、男性向けの「ラブコメコード」などに留まらず、自分が受け入れやすいように解釈コードを再構成するような読み手の能動性と想像力がマンガ消費を一層楽しくさせてくれるだろう。つまるところ、さまざまな人が好きなように解釈し、意味を与えることができる作品が受容されやすくなる。原作の世界観をズラし、新たな解釈を見つける能動的営みは、腐女子だけでなく今や誰もが多くの事象に対して行っていることだ。  腐女子のマンガ消費に見られる消費動向は、腐女子に限らず00年代以降の消費「全般」を語る上で極めて重要なものといえるのかもしれない。 大尾侑子(おおび・ゆうこ) 1989年生まれ。上智大学総合人間科学部社会学科卒業後、東京大学大学院学際情報学府修士課程在籍。専攻は両大戦間期宗教論、現代社会意識論。 今なら無料で読める!サイゾーpremiumでは他にも少年ジャンプ関連記事が満載です。】『ワンピース』がついに落ち目に!? 書店員が明かす”ヒット作”の実情と出版社との関係『ワンピース』頼りで後がない!? 増刊を乱発する「ジャンプ」はもう、死んでいる!?増刊ラッシュでなんと10誌も!! マンガ界最強の「ジャンプ」ブランド辛口批評「ジャンプ」「マガジン」「サンデー」......エロは読み切り・短期集中連載!? ここがエロいよ、メジャー少年マンガ誌
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読んだ後もずっと怖い! 記憶に入り込むノイズのような不安が襲う『後遺症ラジオ』

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『後遺症ラジオ』(講談社)
 あやふやな記憶に対する恐怖というものがある。僕の場合、やけにだだっ広い空き地みたいな場所(今探しても見つからない……)で誰かと遊んでた記憶とか、山道で親の運転する車が派手に脱輪した記憶(どうやって帰ってきたか覚えてない)とかがそれだ。ヤマもオチもないし、本当にあったことなのかも疑わしいのだけれど、そういう不確かな記憶は、ふとした瞬間に蘇って僕を薄気味悪い気持ちにさせる。  中山昌亮の『後遺症ラジオ』(講談社)は、そんなノイズのような恐怖の記憶を植え付ける作品だ。「ラジオ」にちなんで、「89.27MHz」といった無機質なサブタイトルが付けられた各エピソードには、どれもわずか数ページで、物語というより不可解な体験が描かれている。突然、“何か”に髪を引っ張られたり、不思議なものが見えたりする様子を、ほとんど説明もなく目の前に提示されるのだ。  そうして描かれた断片は徐々に積み重なり、やがてつながりや全体像らしきものをぼんやりと見せ始める。まるで、恐ろしいものの正体に少しずつ迫っているようで、実は相手のほうがジワジワと近づいてきているような……そんな気持ちにさせる読み味だ。  しかし、この作品の真骨頂は、全体像が見えてきたときの恐怖ではなく、全体が見えないまま断片を突きつけられるという、得も言われぬ不安感にある。  人は理解できないものに名前や理屈をつけることで、恐怖や不安を抑えようとする。だから、整合性のある“物語”になればなるほど、読み手も怖さに折り合いをつけやすくなる。だけど、物語化されていない断片は、整合性がないがゆえに不安となる。子ども時代のあやふやな記憶の恐怖と同じように、単体ではヤマもオチもないため、異質なものとして記憶に残り、不条理な恐怖としてこびりつくというわけだ。  この作品を読む人は注意したほうがいい。読んでいる最中や読み終わった直後はもちろんだが、『後遺症ラジオ』はそのずっと後まで怖い作品なのだ。忘れたころに、ふと作中のワンシーン、1コマを思い出してゾクッとさせられる。まさに“後遺症”を読者に与える作品だ。 (文=小林聖)

「『マンガ 金正日入門』発禁」はウソ! エロか、親日表現か…韓国マンガのタブー事情

【サイゾーpremium】より ――今夏より、いささかの緊張状態を過ごしてきた日韓両国。韓国における反日感情は根強い。韓国内のマンガにおいて、日本はどのように描かれてきたのか?多様性を増す韓国マンガの現場で、日本がどう受け止められているのか探求した。
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(絵/師岡とおる)
 今夏、8月10日に李明博大統領が竹島に上陸したことを発端に、史上最悪とまでいわれる緊張状態に陥った日韓関係。かねてより韓国内では、もろもろの歴史的経緯を鑑み、反日感情が強いと言われてきた。だが、文化レベルになれば話は別。韓国内で日本のマンガの人気は高い。マンガ好きが高じて、日本に留学してきた韓国人女子はこう言う。 「韓国で人気があるのは『NARUTO』や『ONE PIECE』、『名探偵コナン』などの少年マンガや、一部の少女マンガです。マンガの人気ランキングサイトなどを見ても、上位20位をほとんど日本のマンガが占めていることもあります。韓国内で”マンガ好き”といわれる層は、だいたい日本のマンガを読んでいるのではないでしょうか」  マンガオタクだという韓国人男性も、これに同意する。 「ファンの間でアツく語られるような作品は、だいたい日本のマンガだと思います。そもそも韓国では、マンガはアイドルと同じく子どもの趣味と見なされている。数年前までは街中に貸本マンガ屋があって、マンガはそこで借りて読むものだったのですが、そこにいて違和感がないのは高校生くらいまで。最近はパソコンでダウンロードして読む人も増えているので、少し状況は変わってきていますが……」  韓国のマンガコラムニストで、出版企画社を経営する宣政佑氏は、「社会全体としてはいまだにその傾向が強いです」と首肯した上で、時代による変遷を語ってくれた。 「韓国内でも90年代、一時的にオタク文化に照準が当たって、『マンガ・アニメを見る大人がいる』ことに、大衆が”驚く”ということがありました。00年代に入るとマンガ・アニメ文化の流行が過ぎてしまって、そうした雰囲気は感じられなくなりましたが、個人主義の空気も社会に拡がっているので、大人がマンガやアニメを見ていても、かつてより珍しがられる雰囲気はないと思います」  とはいえ日本では、「マンガは子どもが読むもの」という認識は、今や雲散霧消している。日本と韓国では、マンガを取り巻く事情がかなり異なっているようだ。 「韓国では今、ネットで読むマンガが人気です。2大ポータルサイトであるDaumとNAVERに連載されるものがよく読まれ、話題になります」(前出・マンガ好き韓国人女子)  ネット大国・韓国では、マンガの主戦場もウェブに移行している。ウェブマンガはWEB+CARTOONの造語で、「ウェブトゥーン」と総称される。日本ではウェブ連載で好評を博した作品が単行本化されてヒットすることがあるが、韓国でのウェブトゥーンの扱われ方は、少し違っている。 「韓国でも当初は個人がブログ等で発表し、単行本にして売るという形も存在しました。しかし00年代中盤頃から徐々に、NAVERやDaumといった大手ポータルサイトが、ウェブトゥーンの連載場所になり、雰囲気が変わってきます。個人サイトなどで発表するのはアマチュア作家で、プロのウェブトゥーン作家になると、ポータルサイトからの依頼で原稿料をもらって週1~2回ペースで連載するようになった。韓国でもマンガ雑誌の縮小は激しく、SFにギャグ、スポーツ、恋愛と、幅広いジャンルを描くのはウェブトゥーンの役割になっている感じはあります。単行本化する場合は出版社から出しますが、サイトのほうは作品を下ろしませんから、さほど売り上げは期待できない。だから、日本では”ヒット”というと単行本の売り上げが基準になりますが、韓国では必ずしもそうではないわけです。ウェブトゥーンに関しては、売り上げという概念はあまり意味がありませんから」(前出・宣氏) ■エロには厳しいが政治的には厳しくない?
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金正日死亡後の半島を描いた『STEEL RAIN』。今
は日本でも、ウェブ上で無料で読める。
 ことほどさように韓国マンガ界の成り立ちは、日本のそれとは大きく違う。では、内容の面はどうだろうか? 韓国のマンガにおいて、タブーとなるのはどういった表現なのか。  まず、法的に最も厳しくチェックされるのは性表現と暴力表現だ。先述の通り「マンガは子どもの読むもの」という認識が根強いため、子どもが目にすることを基準にした規制が行われる。 「97年に成立した青少年保護法の中には、『青少年への有害環境』の規制義務が規定されています。マンガを含む出版物、映画、放送番組などすべての分野に対して一定の審議が行われますが、これは日本に比べれば厳しいといえます。もっとも、世界的に見て日本が緩すぎるということもありますが」(前出・宣氏)  日本では少年マンガでもバトルものが主流なだけに、暴力表現が多い。『ドラゴンボール』は90年代に韓国でも人気を博したが、暴力描写の多さと、日本文化への反感も相まって販売反対運動が起こった、と当時日本国内で報じられている。  一方、モチーフ自体が社会背景に照らしてタブーとなりそうな事柄もある。例えば北朝鮮問題。両国は今も「休戦中」であり、10年の延坪島砲撃事件のようなことが起きれば、関係は緊張する。そうした”微妙”なネタをマンガにすることは、タブーではないのだろうか。事実、98年に発行された『マンガ 金正日入門』は、韓国内で発禁処分を受けたと話題になった。 「確かに同作の日本版は、『韓国で発売禁止』と大きくうたわれていました。しかし本全体を読むとわかるのですが、実際は、当時韓国に流れていた北朝鮮との和解ムードで出版社が及び腰になり、一度は書店に並んだものを自主回収した、という話なのです。当時も今も、北朝鮮を批判する書籍はほかにもたくさん流通している。むしろ今でも戦争が終っていない『敵国』である北朝鮮を、事実に反して擁護するような出版物のほうが危険です」(同)  実際、80年代当時においては、北朝鮮を賛美するような内容の本はタブーであった。 「当時は『韓国政府が隠しているだけで北朝鮮は素晴らしい国だし、皆豊かに暮らしている。だから北朝鮮に行こう』といった内容の作品は、国家保安法による取り締まりの対象になりました。その後90年代には、融和政策を進めていく中で、北朝鮮を批判する内容に対して気を使う雰囲気ができた時期がありました。『マンガ 金正日入門』の原著が出た頃は、ちょうどそのタイミングにぶつかったため、出版社のほうが過剰反応したのではないかと思います」(同)  現在、小学館のウェブサイト「クラブサンデー」に掲載されている韓国マンガ『STEEL RAIN』という作品がある。これは11年5月からDaumで連載されたウェブトゥーンだが、内容は、金正日総書記死亡後に北朝鮮内部でクーデターが発生し、朝鮮半島が混乱に陥る、というもの。実際に金正日が亡くなったのは11年12月なので、生前から連載されていたことになる。同総書記には長らく健康不安が囁かれていたこともあり、かなり不謹慎感があるが……。 「特に何も起きてないですね。近年、北朝鮮を描いたマンガが問題になったことはないと思います」(同)  そしてもうひとつ気になるのが、韓国マンガにおける日本の描かれ方だ。例えば、反日感情が高まる中では、親日的な作品が読者から非難を受けるようなことはあるのか? 「日本をマンガの中でどう描こうと、基本的にはタブーはそこにはないです。そもそも、あまり流行るネタではありません」(同)  本稿の取材にあたって調べてみたところ、商業作品においてはそうしたものは確かに少なかった。80年に出版された『弓』では、日本帝政時代の朝鮮半島を舞台に、母国を裏切って日本側に近づいた同胞へ復讐を遂げる主人公が義賊的に描かれている。舞台設定ゆえに反日的とも受け取れるかもしれないが、どちらかというと、強いものに加担してしまう人の弱さや愚かさを描いた作品だ。そして『弓』の作者・李賢世による『南伐』(94年/日本未発売)では、日本の侵略を受けた韓国が日本を降伏させ、竹島の領有権が韓国にあることを世界に知らしめる……という今まさに旬な話題を扱っている。同作は人気を呼び、08年には実写映画化の話まであったほどだ。ちなみに作者の李は05年、「名誉独島警備隊長」に任命され、サイバー空間で独島を守る任務を任されている。  とはいえ、これら以外に目立った人気作はなく、かつて『嫌韓流』へのアンサーとして『嫌日流』が出版されたが、韓国内でも全然売れなかったという。国家間の問題とマンガは別物とばかりに、日本との距離感も適切に構えるのが通常のようだ。そして創作者の側の動きも、かつてのように日本のマンガ界を目指す方向ではなくなってきている。 「例えば90年代からマンガを描いている作家たちは日本進出に積極的ですが、今の若い世代は、日本マンガもあくまで面白さのひとつとしてしか認識していない。今主流になっているウェブトゥーンは日本マンガの流れとは大きくかけ離れていますから、そこからマンガを描き始めた人たちは、日本進出を目指す感じでもないのです」(前出・宣氏)  政治の緊張が文化に与える影響は少なくないが、サブカルチャーが国のあり方に左右されるのも馬鹿馬鹿しい話ではある。韓国マンガが独自進化を遂げ、まったく異なるスタイルのマンガと影響を受けあうようになることが、日本にとっても良きことであるのは間違いないだろう。 (取材・文/七星 光) 【「サイゾーpremium」では他にも韓国をえぐる記事が満載です。】ナマモノタブーはなし!? K-POPアイドル同人も! 韓国腐女子事情慰安婦問題でも大統領の保身のためでもない! 竹島問題が加熱した本当の理由韓国”ネトウヨ・ネトサヨ”の真の脅威朴槿恵の大統領就任で反日運動が激化!?
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「のうのうと生きてちゃいけない」“リストカッター”鳥居みゆきが生きる意味を得たマンガ

【サイゾーpremium】より ――サブカル系のマンガ読みとしても知られ、”リストカット”経験を持つ芸人・鳥居みゆき。今年7月に発売された小説『余った傘はありません』(幻冬舎)でも自らの死生観をぶつけているという彼女は、小さい頃から「35歳で死ぬ」と公言しているという。そんな彼女に、リストカット体験を踏まえて、生きる意味を与えてくれたマンガについて聞いてみた。
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(写真/オノツトム A/M)
──鳥居さんは、好きなマンガ家さんっているんですか? 鳥居みゆき(以下、鳥居) 丸尾末広先生が大好き! 9月にやった単独ライブのチラシも、丸尾先生に描いてもらったの。で、今度発売する丸尾先生の画集にもコメント書かせてもらったんだ! いいでしょ! ──うれしそうですね……。丸尾先生にハマったきっかけは? 鳥居 小さい頃に、古本屋で、見世物小屋を舞台にした『少女椿』(青林工藝舎)を立ち読みして衝撃を受けて。それからしばらく見世物小屋の人につきまとって、「見せ物じゃねーよ!」って怒られてたくらい。それ以来、ずーっとファン。でもね、当時は、お小遣いを全部甘いパンに使ってて、そればっかり食べて太ってたから「白豚」って呼ばれてたの。 ──えっと……? 鳥居 だから、丸尾先生のほかの本がなかなか買えなかったの。 ──ああ、なるほど。 鳥居 白豚って呼ばれるのは構わないけど、でも丸尾先生の本は欲しいなって悩んでて。結局パンを我慢して丸尾先生の本を買うようになったの。それで痩せたし。ちょっとスリムになったのは丸尾先生のおかげ。 ──丸尾ダイエットですか(笑)。 鳥居 そう。あとね、つげ義春先生の『夜が掴む』『外のふくらみ』(共にちくま文庫)も好き。みゆきも夜が怖くて、「同じ感覚の人がいたんだ」って思った。夜眠れなかったんだけど、これを読んで部屋の窓にガムテープで目張りして、夜とか外が入ってこないようにしたら安心できるようになった。 ──それからは、夜眠れるようになったんですね。 鳥居 ううん。眠れない。 ──え? 安心できるって……。 鳥居 安心しても眠れるかどうかは別。だって、昼に寝てるもん。 ──……。ところで、本題に入りますけど、”死の描写”に惹かれたマンガ作品ってありますか? 鳥居 丸尾先生の作品のように、死んだ時が一番美しくなるように描いてたり、性と食のとらえ方が真逆で、人も殺していいっていう、藤子・F・不二雄先生の『気楽に殺ろうよ』とか、死を大げさにせずに、身近にあるものとして描くものが好き。 ──自分の死を意識することは? 鳥居 いつも。指にささくれができても「死にてぇ」って思うもん。 ──聞いたところによると、リストカットの経験もあるとか……。 鳥居 うん。でも、ある時「リストカットはダセぇな」って気づいて。その痕を消そうと思って、リゲインのふたの下のクルクルってなってるとこで、傷の反対側を切って皮膚をくるんって剥がせば傷が消えるんじゃねぇかって考えて、やってみたの。 ──成功……してないですよね?リストカットより怖いですよ。 鳥居 もう血がドバドバ出て。おかげで「痛い、痛いぃー! はっ! 私、生きてる!」って思えたんだ。 ──リゲインの用法違いますよ。 鳥居 でも、リゲイン飲んだから「よし、やるぞ!」って勢いがついたし。まぁ、リストカットの痕は自然に消えて、リゲインの傷だけ残っちゃったんだけどね。あはは。 ──壮絶ですね……。生きることを考えたマンガ作品とかはあります? 鳥居 しりあがり寿先生の『ジャカランダ』で、それを考えた。この作品の中では、死は重要視されていなくて、人を平気で殴り殺しちゃったりするの。で、その世界ではある”木”をご神木のようにみんなでありがたがってるんだけど、その木が成長して人を殺すようになって、初めて人々が死を恐れるっていう内容で。これを読んで、「のうのうと生きてちゃいけないな」って感じたよ。逆に、『方舟』(太田出版)を読んだ時は「生きててもしょうがねーじゃん!」って考えさせられたりもしたんだけど……しりあがり先生のメッセージは押しつけがましくなくて、かえって受け入れやすい。そこがかっこいいって思うの。 ──本当に「死にたいな」と思い詰めた時は、そういったマンガに救われたりも? 鳥居 ううん。そういう時は『美味しんぼ』で栗田ゆう子がアワビのしゃぶしゃぶを食べてるシーンを読んで、「エッロいなー」って思ったり、『名探偵コナン』(小学館)とか適当に読んで、あまり深く考えないようにしてる。 ──そこは、あまり重くない本を選ぶんですね。ちなみに、鳥居さんが人にマンガを勧めるなら? 鳥居 うーん。しりあがり先生を勧めたら「ちょっと怖いよ」とか、丸尾先生を勧めたら「絵はキレイなんだけどね……」って言われたりしてイラッとするから、最近は弘兼憲史先生の作品を勧めてる。 ──これまた幅広い。 鳥居 この間も『黄昏流星群』(小学館)を読んでたら、おじさんがテレビをぼーっと見てて、小島(よしお)らしき芸人が「おっぱっぴー!」とかやってたら消されるっていうシーンがあって。すぐに小島に電話して「おい! お前、すべってるぞ!」って言ってやったわ。 ──小島さん……(笑)。 鳥居みゆき(とりい・みゆき) 1981年、秋田県生まれ。高校卒業後、お笑い養成所「松みのるお笑い塾」に入る。現在はサンミュージックプロダクション所属のピン芸人。『PON!』(日本テレビ)にレギュラー出演するほか、バラエティに限らず、映画やドラマ、小説などでも活躍中。近著に、『余った傘はありません』(幻冬舎)。 【「サイゾーpremium」では他にも自殺をとりまく事象に迫る記事が満載!】『よいこの黙示録』『ぢるぢる日記』etc. マンガ家たちはなぜ自殺したのか? 最期の作品に隠された”遺言”自殺大国の実相と社会的包摂の必要性“劣悪”精神医療と製薬会社の思惑が自殺者量産!?
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【清野とおるの、キ○チ○ガ○イと呼ばないで】第7話「生卵恐怖症」(後編)

『東京都北区赤羽』でおなじみの漫画家・清野とおるによる、悶絶必死の爆笑コラム。前編はこちらから  ふとしたキッカケで、有精卵を手にした俺と高田くん。ヒヨコを誕生させるため、卵を温めたりひっくり返したりする日々を送った   11tamago.jpg  ところが、20日が経過しても、ヒヨコは生まれる気配がなかった。 12tamago.jpg 13tamago.jpg  ところが、 14tamago.jpg  1カ月半が経過しても、ヒヨコは生まれる気配がなかった。 17tamago.jpg  卵を軽く振ってみたところ、「ゴロゴロ」と、奇妙な音がした。  その、明らかに生気のない、物体的な音に、俺と高田くんの希望は、絶望へと変わった。 15tamago.jpg 16tamago.jpg  このまま処分するわけにはいかないので、割って中身を確認することにした。 18tamago.jpg 19tamago.jpg
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 ……俺が割るハメになってしまった。 21.tamago.jpg 22.tamago.jpg  何が出てくるのかまったく予想のできない、不穏な卵を手に取り、恐る恐る床に叩きつけて割ってみる……。 23tamago.jpg  内臓に産毛が生えたような、青紫色の物体が、ボトリと落ちてきた……!!! 24tamago.jpg  俺と高田くんは、一瞬でパニックに陥った。 25tamago.jpg  しかもその青紫色の物体は、ものすごく臭かった。 26tamago.jpg  27tamago.jpg  なので俺は、高田くんと青紫色の物体を放置して、走って逃げた。  翌日、学校で高田くんと顔を合わせると、 28tamago.jpg 29tamago.jpg  俺は完全に無視されてしまった。 30tamago.jpg 31tamago.jpg  なんかムカついたので、俺も高田くんのことを、無視し返してやった。  小学生の社会では、お互いがお互いを無視し始めた時、そこに待ち受ける結果は、そう「絶交」ある。  これがきっかけで、卒業まで高田くんとは一言も口を利かないまま、別々の中学へと進学したのであった。  まあ今思うと、異臭を放つあんなグロテスクな物体を放置して、先に逃げてしまったのだから、悪いのは100パーセント俺である。  一人でアレを処分する高田くんの姿を想像したら、今、改めて土下座しに行きたい衝動に駆られるほど申し訳ない。 1tamago11.jpg  ……そんな過去の経緯があって、俺は生卵が怖い。 23tamago11.jpg  だって、またアイツが……青紫の恐ろしいアイツが出てくるんじゃないかと思って…… 一瞬、嫌な汗をかくのですよ……。 <PS>高田くん、もしこの記事見てたら、すぐ謝罪に行くから連絡ちょうだい! (文・イラスト・写真=清野とおる) 1seinoprof.jpg ●せいの・とおる 1980年生まれ。東京都板橋区出身。地元・赤羽に生息する奇妙な人々を生き生きと描いた漫画『東京都北区赤羽』(Bbmfマガジン )が大ヒット中。 Twitter <https://twitter.com/seeeeeeeeeeeeno> ●【キ○チ○ガ○イと呼ばないで】INDEX 【第6話】「謎の美人くだもの売り」 【第5話】「オモシロイ顔のおじさん」 【第4話】「ウンコおじさん」 【第3話】「恐怖!‟木曜日の男”」 【第2話】「鳥盗り物語」(後編) 【第2話】「鳥盗り物語」(前編) 【第1話】「ホモビデオの清野さん」

【清野とおるの、キ○チ○ガ○イと呼ばないで】第7話「生卵恐怖症」(前編)

1tamago.jpg 『東京都北区赤羽』でおなじみの漫画家・清野とおるによる、悶絶必死の爆笑コラム。  俺は生卵が怖い。  正確には、生卵の味は大好きだけど、生卵を割るその瞬間が、怖い。 2tamago.jpg  あれは小4の時の話。近所で、大量のニワトリを飼って、コケコケ言わせてるおじさんがいた。  ある日、同じクラスの高田くんと、そのニワトリどもを駄菓子片手にボーっと眺めていたところ、飼い主のおじさんが近づいてきて、卵を一つくれた。 3tamago.jpg 4tamago.jpg  おじさんは、無知な俺たちに分かりやすく説明してくれた。  有精卵とは、オスと交尾した後にメスが産んだ卵のこと。精子入りなので、うまく育てると、ヒヨコが生まれるという。通常、その辺のスーパーで売られている卵は、交尾しないで産んだ無精卵なので、ヒヨコは生まれない。 5tamago.jpg  俺と高田くんは、有精卵に大興奮した。  有精卵については知らなかったけど、ヒヨコが卵からかえって初めて見る、自分より大きくて動くものを親と認識する「刷り込み」という習性があることは知っていた。  その習性を利用して、 6tamago.jpg  こんな感じでヒヨコに付きまとわれたいという、ステキ極まりない願望を抱いた俺たちは、早速図書館に行って、卵の育て方を調べてみた。 7tamago.jpg  高田くんの家に電気毛布があったので、それに包んで卵からかえるのを見守ることにした。 8tamago.jpg 9tamago.jpg  「刷り込み独占禁止条約」を締結した俺たちは、連日、放課後になるとダッシュで高田くんの家に行き、卵ヒヨコ化計画を遂行する日々を送った。 10tamago.jpg  時に卵を抱きしめて、おなかのぬくもりで温めたりもした。俺と高田くんは、ありもしないエセ母性に目覚め、まだ見ぬヒヨコを愛してしまっていたのだ。  嗚呼、早くヒヨコを。ヒヨコを抱きしめたい。耳元でピヨピヨ言われたり、追いかけられたりしたい。ヒヨコが、好きだ。  しかし……まさかあんなことになるなんて……この時の俺たちは……予想だにしなかったのであります……。 (後編へ続く/文・イラスト・写真=清野とおる) 1seinoprof.jpg ●せいの・とおる 1980年生まれ。東京都板橋区出身。地元・赤羽に生息する奇妙な人々を生き生きと描いた漫画『東京都北区赤羽』(Bbmfマガジン )が大ヒット中。 Twitter <https://twitter.com/seeeeeeeeeeeeno> ●【キ○チ○ガ○イと呼ばないで】INDEX 【第6話】「謎の美人くだもの売り」 【第5話】「オモシロイ顔のおじさん」 【第4話】「ウンコおじさん」 【第3話】「恐怖!‟木曜日の男”」 【第2話】「鳥盗り物語」(後編) 【第2話】「鳥盗り物語」(前編) 【第1話】「ホモビデオの清野さん」

ビジネスデーの来場者1,000人は多いか少ないか? “西日本最大級”「京都国際マンガ・アニメフェア」の課題

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京都国際マンガ・アニメフェア公式サイト
 去る9月21日から23日まで開催された「京都国際マンガ・アニメフェア2012」。京都市が「西日本最大級の総合見本市」と銘打って開催したこのイベントは、3日間で合計2万3,800人の来場者を数えた。うち、商談を目的としたビジネスデーの来場者は1,000人。開催から1カ月あまりを経て、イベントの成果を京都市に聞いた。  声優・水樹奈々の平安神宮奉納公演などファンに向けた訴求力の高い企画が盛り込まれた今回のフェア。一方で、主催する京都市が目指したのは、ビジネス面での成果だ。京都の企業が製造・販売している製品と、マンガ・アニメをコラボした商品を生み出すことにも、期待がかかっていた。  そうした背景の下、ビジネスデーには主に東京からマンガ・アニメのコンテンツを保有する企業が多数出展した。ところが、実際に取材した雰囲気では、具体的な商談に至っている様子は少なかった。ほかのビジネス主体のイベント、例えば、世界規模の恒例行事となった「東京国際アニメフェア」のビジネスデーは、出展する側に売り込もうとする意志が強く感じられる。来場者も同様で、何か新たなビジネスはないかと、それこそ目を皿のようにして探しているものだ。それに比べると、どうもビジネスの場としての雰囲気が薄かったことは否めず、少し拍子抜けである。こうしたビジネスデーの状況を、京都市はどのように考えているのか。 「正直、物足りなさはあります。ビジネスデーの来場目標が1,000~2,000人でしたので、想定していたギリギリの数でした。何よりも、来場した京都の企業は、キャラクターとコラボした商品を具体化するためにどうしたらよいか、わかっていない印象を受けました。そうした点は、改善をしていかなければならないと考えています」 と、京都市産業観光局産業振興室の草木大さんは話す。フェア開催前には、コラボ商品の開発を考えている企業向けに事前商談会も開催されたが、まだまだどのような形で具体的に話を進めていくか戸惑いが見られたようだ。それでも、フェアでは15種類のコラボ商品が展示、販売された。京都市では初回にもかかわらず多数の商品が開発できたことを肯定的に捉えており、これを継続的に販売していくための準備を進めているという。  初年度ゆえに戸惑いもあったが、先行きが明るいのは、京都市の担当者が「大成功!」と諸手を挙げるのではなく、改善すべき点を正確に把握していることだ。フェア会場で展示、販売されたコラボ商品を先行事例として使い、キャラクターを用いた商品開発の方法、商談のポイントなどが共有されれば、ビジネスデーはさらに密度の濃いものになっていくだろう。京都市の門川大作市長は、3年は継続して開催する意向を示しているが、幸いにも水樹奈々効果もあり2万を超える参加者があったことで、来年はナシとはならなそうだ。「西日本最大級」を謳うこのフェアが、京都の秋の風物詩として定着していくことを期待したい。 (取材・文=昼間たかし)

製作総指揮・クリムゾンが語る『蒼い世界の中心で』の魅力とは

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(c)2012 Crimson 
 「最も危険なWEBコミック」というキャッチコピーが躍るWEBコミック『蒼い世界の中心で』が、TOKYO MXほかでテレビアニメ化される!  このニュースを聞いて「いろいろと大丈夫なの?」と、驚きよりも先に、心配をしてしまったオールドゲーマーは少なくないだろう。  覇権(シェア)をめぐり、ニンテルド帝国とセグア王国が激しく争うコンシューム大陸。「炎帝・マルクス」率いる強国ニンテルド帝国は、特殊能力を持つ優秀なキラーの力であっという間に大陸の覇権を握り、近隣諸国をも傘下に収めていた。有効な打開策を見出せないセグア王国は防戦一方。しかし、「青い音速」ことギアの登場で、戦局は大きく動き出していく、という一見ファンタジー戦記モノっぽいあらすじの本作だが、読んでいただければ分かる通り、出てくる名称がいちいちゲーム業界を彷彿とさせるものばかり。こういうネタは誰もが一度は想像するけれども、それを実際に作品として発表し、あまつさえちゃんと「面白い作品」になっているのが本作のすごいところだ。 「もともとこういう漫画は描いてみたいと思っていて、これまで自分を育ててくれた“ゲーム”への感謝の気持ちで描き始めました。“ゲーム”は世界的にはとても評価されているにもかかわらず、日本国内での評価はまだそれに見合うものではないと感じています。国内でも、もっとその価値が認められるようになったらいいなと思います」  そう執筆の動機を語るのは、原作であるWEBコミック『蒼い世界の中心で』の作画を手がけ、アニメ版の製作総指揮も担当するクリムゾン氏だ。  ゲームとともに成長し、ゲームから多くのことを教えてもらった氏が描く『蒼い世界の中心で』の世界は、ゲームへの愛情に満ち溢れている。1980年代以降の国内コンシューマゲーム市場の動向を下敷きに描かれる壮大な戦国絵巻である本作の物語は、ほぼ史実に基づいたものだ。 「やはり一から創作するとなると、よほど練り込まない限りは薄っぺらいファンタジーになってしまうので、実際の歴史をエッセンスのように取り入れてはいます。実際の歴史が8割くらいのつもりです。  物語の細かいところに思い出を詰め込む作業は楽しいですね。とあるゲーマーの方から“『蒼い世界の中心で』は本気でゲームを愛していた人ほど細かい部分で泣けるマンガ”という評価をもらったときはうれしかったですね」
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 「ニンテルド」と「セグア」の抗争という基礎設定だけで、思わずニヤリとしてしまう読者も少なくはないだろうが、その戦いにニンテルドと友好関係を結んでいた「ハビド」が「ピシエ王国」と結託し、突如第三勢力として参戦。さらに、敵か味方か、北方からやってきた穴に棒を入れたがる謎の傭兵・アレクセイ=テジロフ(好きな数字は4で、パズルと呼ばれる魔道を使って戦う)などが登場し、物語が進むにつれてコンシューム大陸は混迷を深めていく。しかし、覇権を目指して登場人物たちはみな生き生きと戦場を駆け抜け、各陣営は強化戦士である「キラー」を駆使して必死に生き残りをかける。その光景は、まるで活気に溢れていたひところのゲーム業界の縮図そのものといってもいいかもしれない。  そんな驚異の擬人化(?)アニメ『蒼い世界の中心で』だが、冒頭にも書いた通り、原作には「最も危険なWEBコミック」というキャッチフレーズがついたほど「ここまで描いちゃっていいの?」と思えるような業界ネタや、マニアックなゲームネタがたっぷりと盛り込まれている。果たしてアニメ版では、この危険な要素はどの程度再現されるのだろうか。この疑問にクリムゾン氏は、 「製作総指揮を原作者である私自身が務めていますので、その辺りは大丈夫だと思います。キャラクターデザイン、脚本、絵コンテ、アフレコ、動画チェックすべてにおいて参加していますので、原作のテイストを可能な限り残すように頑張りました」 と自信満々に回答。氏のゲームに対する深い理解と愛情は、アニメ版でも健在のようだ。  また、アニメ版では躍動感溢れるアクションシーンはもとより、原作ではまだ一度も戦ったことのないニンテルド最強の男・マルクスの戦闘シーンも描かれるということで、原作ファンも見逃せない内容となっている。個人的にはキャラクターのアクションに加えて、演出やSEといった要素でも、どこまでネタを再現できるのかにも注目したいところだ。  そんな問題作を作り上げてしまったクリムゾン氏。WEBコミックからスタートし、ついにテレビアニメまで成長してしまった本作を作る原動力となった「ゲーム業界」の魅力とは、いったい何なのだろうか?
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「0と1と夢とで、0から1を生み出すことができることですね」  自身が作詞を手がけ、ネル役の三森すずことオパール役の橘田いずみが歌うEDテーマ「0と1の花」の一節を引用して語るクリムゾン氏。その言葉からは、揺るぎのないゲームへのリスペクトと愛情が感じられる。  クリムゾン氏は、「普通の少年漫画として見てもいいし、壮大なコント作品として見てもいいところ」が本作最大の魅力だと言うが、コントも突き詰めれば立派にドラマを語れるのだ。原作コミックを読んだことのある人なら、誰もがそう感じたことだろう。  前代未聞のチャレンジ精神とゲーム愛。そしてほんのちょっぴりのノスタルジーに満ちた『蒼い世界の中心で』第1話は、10月20日にTOKYO MXにて。11月9日にAT-Xにて放送予定。第2話、第3話は2013年春に放送を予定している。  余談ではあるが、もともとクリムゾン氏といえば同人業界のヒットメーカー。商業ベースの作品を発表する上で、何か違いや新たな発見がないかを尋ねたところ、 「実は今回のアニメ化以外にも、ここ数年の間に携帯コミック化、アダルトビデオ化、OVA化などいろいろやっているのですが、もちろん新しい発見が数多くありました。すごく面白くて貴重な体験もありますので、いずれ自叙伝とか出して語りたいです(笑)」 とのこと。クリムゾンファンは、こちらにも期待してもいいのかもしれない。 (取材・文=有田シュン)

マンガ家・大橋裕之版『スタンド・バイ・ミー』? 子どもたちのひと夏の冒険を描いた新作『夏の手』

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『夏の手』(幻冬舎)
 今夏、「サイゾーpremium」のロンドン五輪特別短期集中連載「オリンピック奇想譚」で話題を集めたマンガ家・大橋裕之。そんな彼が新刊を発売した。あらすじは、3人の少年が1人の少女のために、常夏の島・ケロ島にいる「夏さん」を日本に連れてこようとする冒険の物語。そこで発刊を記念して、執筆の裏話も含め、おおいに語っていただいた。 ──まずは発刊おめでとうございます。9月26日発売に発売された『夏の手』(幻冬舎)ですが、現在までの反響はどういった感じでしょうか? 大橋裕之(以下、大橋) まだ反響は少ないですが、Twitterでちょろちょろっと。身近な人が読んでくれた感想としては、「わけがわからなかった」という意見も(笑)。あと、「読んで混乱した」とか(笑)。 ──そんな意見もあるんですね。「『スタンド・バイ・ミー』を超える名作、誕生!!」と本の帯にもあるように、個人的にはストレートな少年の冒険譚として楽しく読ませていただきました。 大橋 そう言っていただけるとありがたいです。 ──『夏の手』は「papyrus」(幻冬舎/隔月刊)の今年2月号から10月号までの連載に、描き下ろしを加えてできた作品だと伺いました。 大橋 実は1話目、2話目は自費出版で出していた「週刊オオハシ」の9巻と10巻で掲載して、あらためて1話目から「papyrus」で連載し直して、「続きを描ければな」と思ったわけです。 ──「週刊オオハシ」で描いたころから、続きがなんとなく頭の中にあったということですか? 大橋 そうですね。ずっとぼんやりと続きが頭の中にあって。でも、そのまま途切れちゃっていて……。 ──「papyrus」で連載するときは、もともと『夏の手』でいきます、ということだったんですか? それとも新作を描くつもりだったんですか? 大橋 事の発端は、幻冬舎の担当編集者さんが、「自費出版で出していたときの短編を集めて、単行本を出しませんか?」と。それで、この『夏の手』を持っていったらすごく面白がってくれて、「これの続きを描きませんか?」とおっしゃってくれたんです。それで、僕の思いとも合致したというわけです。 ──この作品の単行本自体は、三段階の構成になっているんですよね。まずは「週刊オオハシ」掲載時の『夏の手』があり、「papyrus」連載時の『夏の手」があり、描き下ろしの『夏の手』がある。なんでも、描き下ろしの作業はとてつもないスケジュールだったとか? 大橋 68ページの作画を2日間でやりきりました(笑)。どう考えて無理だな、と思ってたんですが、なんとかできちゃいました。 ──それでは具体的に、物語の内容に移りますが、3人の少年と1人の少女が出てきて、基本は少年の冒険譚というのがベースですが、恋愛あり、SFチックなところがあります。そこで大橋さん独特のペーソスというか、叙情派でロマンチックな部分も加わって、という感じですよね。 大橋 ありがとうございます。でも、かつてこの作品をマンガ雑誌の賞なんかにも出したんですけど、全然引っかからなくて……。 ──物語の筋道としては、「今年は夏が来ない」と言う少女・なっちゃんの言葉を真剣に受け止めた少年3人が、人称化された「夏さん」を探す話ですよね。これは事前に考えていた構想だったんですか? 大橋 昨日、思い出したんですが(笑)、1970年代初頭に活動していた乱魔堂というバンドがいまして、「可笑しな世界」という曲があるんですけど、その歌詞の中に、「夏が来てるって」という歌詞があるんです。その歌詞を耳にしたら、夏が人間のような感じに思えてきて。そこが発想の出発点だったんですね。夏に人格みたいなものがあったら、と思うと、奇妙に思えてきたんです。 ──いちばん重要な人物として出てくる少女・みっちゃんのキャラ設定は本当に絶妙ですよね。アホでいじめられっ子の少年・タケシより「アホ」なキャラクターとして登場して、単純な「不思議ちゃん」に思えるし、本当の「キチ○イ」のようにも思えてきました。 大橋 そこはどう捉えてもらってもいいんです。こういう言い方を許してもらえれば、読者まかせですよね。いろんな見方をしてもらって結構です。正直、どこまで人物設定を細かくしていいのか、自分でもわかんないですから(笑)。ただ、この作品を描くにあたり、自分の好きな『スタンド・バイ・ミー』であったり、『グーニーズ』であったり、楳図かずお先生の『わたしは真悟』といった作品を目指して描いていたことは間違いないです。もちろん、あの領域まで届くことは自分でも無理だとはわかっているんですが(笑)。ただ目標としては、そういった作品群が頭の中にありました。 ──少年少女の話というくくりでは、そういった作品と同系列ですよね。 大橋 最初の気持ちは、単純にあんな作品作りたいな、と。 ──作品を描き終えて、手応えみたいものはありましたか? 大橋 いや、毎回そうなんですけど、自信を持って作品を世に出したことはありません。いわゆる、「手応え」を感じたことがないんです(笑)。 ──それはそれで非常に大橋さんらしいですよね(笑)。さて、これはネタバレになるから言えませんが、このラストはとてもポジティブな終わり方ですよね。 大橋 こういう終わりにするのは照れがあったんですけどね。でも、せっかく描くなら、希望を持たせたいな、と。救いのない話にするのは簡単なので。 ──これから読む人に、こういう部分に注目して読んでほしいといった点はありますか? 大橋 さらっと自由に読んでほしいです。しょぼいSFとして読んでもらってけっこうですし(笑)。 ──さらっと自由に。でも、さらっと自由に読んでも、どうしても大橋さん独特の作品のにおいみたいなものがついて回りますよ。 大橋 そういうものですかね。自分ではあまり意識してないので、特別これといったオススメポイントはないです!(キッパリ) 今回の出版に当たって、インタビューしてくれたのが、まだ「日刊サイゾー」さんだけなので、非常にありがたいです。ほかの媒体でも取り上げていただけるよう、どうぞよろしくお願いします!! (構成=編集部)

【清野とおるの、キ○チ○ガ○イと呼ばないで】第6話「謎の美人くだもの売り」

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『東京都北区赤羽』でおなじみの漫画家・清野とおるによる、悶絶必死の爆笑コラム。  ある土砂降りの、寒い冬の夜のこと。池袋西口の、飲み屋街から一歩外れた閑散とした通りを歩いていたところ、 「すみません」  後ろから、俺を呼び止める、か細い女性の声が聞こえた。振り向くとそこには……
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 20代前半と思しき、モデル体系の美女が立ち尽くしていた。合羽を着てはいるものの、フードは被っておらず、ずぶ濡れだった。手には大きなダンボールを持っている。  反射的に傘を差し出すと、女性は「ありがとうございます」と言って微笑んだ。
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 女性は、ダンボールの中一杯に詰まった巨峰を見せ、俺に勧めてきた。 「果物の行商をしておりまして、この巨峰を売り切らないと帰れないんです……」  時刻は22時半。こんな時間に若い女性がズブ濡れで巨峰を売り歩くなんて、奇妙で不審だとは思ったけど、 4yaoya.jpg  それ以上に「健気でかわいらしい」という気持ちが勝ってしまい、ひと房だけ購入してあげることにした。  きっと男なら誰だってこう思ってしまうはずだ。 5yaoya.jpg  巨峰が新鮮な上に無農薬で、いかに素晴らしいものかを説明してくれたけど、巨峰に1,000円は払う気にはならなかった。これから呑みに行くのに、持って歩くのも面倒だし。ってゆーか、そもそもブドウとかあんま好きじゃねえし。  丁重にお断りすると、女性は「そうですか。どうもありがとうございました」と微笑んで、その場を後にした。  気になったので尾行してみたところ、俺と同じ手口で酔っ払ったサラリーマンに声をかけ、巨峰を売ろうとしていた。 6yaoya.jpg  案の定、女性はおじさんたちに大人気で、一瞬で巨峰を売り切ったご様子だ。  やがて女性は、ダンボールをたたみ、フードを被ると、すごい早さで暗い住宅街を歩き始めた。 7yaoya.jpg  そして、怪しげな雑居ビルに姿を消していってしまった……。  一体あの女性は何者だったのだろうか? 霊や妖怪や狐や狸の類だったのではあるまいか?  この出来事を、Twitter的なものでツイート的な行為をしてみたところ、「僕も会ったことあります」「私も会ったことあります」「おいどんも会ったことあるでごんす」と、目撃者が多数現れた!  しかも、目撃場所は池袋だけでなく、上野、銀座、渋谷、錦糸町、立川、横浜と多岐に渡る。販売員は若い女性だけでなく、若い男性バージョンもあり。皆、果物の入ったダンボールをカートで引いたり、手持ちで売り歩いていており、不審なくらい爽やかで感じがよかったというのが主な共通点。  しかし、彼らの正体は謎のままである。 8yaoya.jpg  そしてつい最近の深夜0時過ぎ。わが町、北区赤羽で、カートに梨をワンサカ乗せた、爽やか好青年に声をかけられた。 「コレはまさしくアレの類だ!」  そう確信した俺は、一個300円の梨を思い切って購入し、彼の素性を尋ねてみた。 「僕、『D』という果物販売会社の者でして、採れたての新鮮な果物をこうして売り歩いているんです」  名刺やチラシの類は持ち合わせていないとのことだったので、彼と別れた直後、すぐさま自慢のアイフォーン4Sで『D』という会社名を検索してやった。去り行く彼が、まだ俺の視界にバッチリ収まっちゃってるくらい速攻で検索してやったともさ。  『D』は都内にいくつもの支店を持つ、果物訪問販売の会社のようだ。担当者が毎日市場へ出向き、その日一番の国産果物を仕入れ、20~30代中心の販売スタッフによってあちらこちらで手売りされてるらしい。  住宅街やオフィス街を中心に飛び込み訪問販売していて、売れ残ったものを駅周辺や道行く人たちに売りさばいているようだ。  値段が若干高めな上、一部の販売員の果物の説明がかなり適当だったりと、少しばかり胡散が臭く、一部では「マルチではないのか?」という声も上がってるようだが、販売の仕方は割と控えめだし、被害らしい被害も特に出ていない模様。販売地域を拡大して、今でもさまざまな街を練り歩いているようだ。  まあ、良くも悪くも、こういう謎めいた人たちがその辺にいるのって、胸が躍って楽しいですよね。街の雰囲気にもコクが出るし。話のネタにもなるし。 9yaoya.jpg  俺も彼らみたいに、ダンボールに売れ残った自分の単行本抱えていろんな街を売り歩いてみようかな。  そしたら通行人の同情を引いて、結構売れるかもしれないし。  まあ、売れないわな。てへぺろりーん(。・ε・。) (文・イラスト・写真=清野とおる) 1seinoprof.jpg ●せいの・とおる 1980年生まれ。東京都板橋区出身。地元・赤羽に生息する奇妙な人々を生き生きと描いた漫画『東京都北区赤羽』(Bbmfマガジン )が大ヒット中。 Twitter <https://twitter.com/seeeeeeeeeeeeno> ●【キ○チ○ガ○イと呼ばないで】INDEX 【第5話】「オモシロイ顔のおじさん」 【第4話】「ウンコおじさん」 【第3話】「恐怖!‟木曜日の男”」 【第2話】「鳥盗り物語」(後編) 【第2話】「鳥盗り物語」(前編) 【第1話】「ホモビデオの清野さん」