君は粘土のために死ねるか? 老後に備えて読んでおきたい「陶芸マンガ特集」

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 サラリーマンが定年退職後にやりがちな趣味といえば、そば打ちと陶芸ですよね。どちらも、ある種の男のロマンを感じさせる職人的世界であり、サラリーマン時代に成し得なかったことにチャレンジしてみたいというその気持ちはわからないでもありません。  しかし、そばはともかく、陶芸なんて地味すぎて絶対マンガのテーマにならないだろうと思っていませんか? 実は、陶芸マンガって、結構あるんです。しかも、どいつもこいつも「粘土」に対する執念がハンパなくて、文字通り粘土に命を懸けている奴らばかりです。今回は老後に備えて読んでおきたい、熱い陶芸マンガを4作品集めてみました。
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■『緋が走る』(原作:ジョー指月、作画:あおきてつお)  陶芸マンガの中では、おそらく一番有名な作品。単行本が全15巻出ているだけでなく、『美咲の器―それからの緋が走る』という続編も単行本で9巻出ています。よくぞ、陶芸だけでここまでネタが引っ張れるものだ! と感心せざるを得ません。
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 陶芸といえば男の世界、という先入観を覆し、主人公に女性を据えたところもポイントです。『夏子の酒』とか『ソムリエール』などと同様の手法ですね。  タイトルの通り、陶芸の最高芸術といわれながらもかつて誰も再現できなかった、朱よりも赤く炎より深い色「緋色」の器を作ることが作品のテーマです。主人公・松本美咲は、「緋色(ひいろ)」の器を作ることに陶芸家生命を懸けた父の遺志を継ぎ、女子大生からいきなり陶芸家にジョブチェンジします。  ただ、女子大生がいきなり陶芸家を目指すという設定なので、前半はひたすら地道に修業。土を運んだり、掘り起こしたり、こねまくったりするシーンが続きます。泥だらけで、画的にはとにかく地味。地味ながらグイグイ引き込まれるのは、父娘二代にわたって命懸けで「緋色」を追い求めるというテーマが壮絶すぎるからにほかなりません。
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■『ハルカの陶』(原作:ディスク・ふらい、作画:西崎泰正)  こちらも主人公は女子です。OLの小山はるかが、陶芸展で見た備前焼の大皿に感銘を受け、会社を辞めていきなり大皿の作家のもとへ弟子入りしに行くという話です。設定からもわかる通り、『緋が走る』に比べると悲壮感薄めです。というか「陶芸=命懸け」なマンガが多すぎて、こういうライトな設定が逆に斬新という不思議なジャンルになのです。  単行本は3巻出ており、1巻では土を練っているシーンがメイン、2巻ではロクロを回しているシーンがメイン、最終巻となる3巻ではようやっと窯に火が入って……という、これまたひたすら下積みばかりのマンガです。地味なのは陶芸マンガの宿命なので致し方ありません。かわいい女の子が主人公というのが救いです。  ちなみに『緋が走る』は萩焼がテーマとなっており、一見イメージがかぶりそうな2作品ですが、ちゃんと棲み分けされています。
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■『流れ陶二郎 けんか窯』(原作:遠崎史朗、作画:ビッグ錠)  職人バトルマンガの大家・ビッグ錠先生と『アストロ球団』の原作者・遠崎史朗先生のコンビが送り出す陶芸マンガ。タイトルからも想像がつく通り、陶芸バトルマンガであり、リアルさを追求していた上記2作品とはブッ飛び度が段違いとなっています。  主人公の流陶二郎は凄腕の「渡り焼き物師」。渡り焼き物師とは日本全国を渡り歩き、数百万円とも数千万円ともいわれる法外な報酬を受け取って焼き物を焼き、日本各地のピンチに陥った窯元を救うという、助っ人陶芸家です。いわば「陶芸版ブラック・ジャック」みたいな感じです。さすがに陶芸バトルマンガだけあって、陶二郎の常軌を逸した行動が、これでもかと言わんばかりに炸裂。  時価数百万円の茶碗をいきなりで手で叩き割り、その破片をポリポリと食べ始めます。「釉薬は柞灰(いすばい)ですね…」などと、破片を食べることで土や塗料などの陶器の成分をズバリ当ててしまう陶二郎。そこまでしなくても、人に聞けばいいだけのことだと思うのですが、陶芸バトルでは、まずは周りの度肝を抜くことが大切なのです。  萩焼編では陶芸バトルで勝つために、燃えさかる窯の中に直接飛び込んで釉薬を吹き付けるという新製法に挑みます。ちなみに窯は、最高で1400度になるらしいんですが、そんなところに飛び込んで大丈夫なんでしょうか? 答えはノー。当然、全身黒焦げになります。あらかじめ用意をしていた水をかけまくって一命をとりとめますが、文字通り命懸けの陶芸バトル。  瀬戸焼編ではなんと、処女の初潮の血を土に練り込んだという幻の乙女茶碗が登場。芸術のためならばタブーも侵すという、狂気な側面が垣間見られますね。この幻の乙女茶碗を処女の初潮の血を使わずになんとか現代に蘇らせようとする陶二郎と、コンピューター解析で処女の初潮の血と同じ成分を作り、再現しようとする科学者とのバトルになります。  丹波焼編では、エジプトのピラミッドの内部で発見された壺がどうも丹波焼の壺にそっくりなので、それを証明したいというワケのわからない依頼により、ピラミッドの壺とそっくり同じ物を丹波焼で作らされるハメになる陶二郎。ここでは、ライバルの渡り焼き物師「窯神」が登場。  なんとこの話では、渡り焼き物師同士の裏窯勝負に恐ろしい掟があることが発覚。敗れた者は二度と粘土練りができないよう、己の指を打ち砕かなければならないらしいのです。恐ろしい掟ですね。何が恐ろしいって、どう考えても掟が後付けくさいところです。
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■『陶炎』(原作:原田大輝、作画:はしもとみつお)   こちらも、男が主人公の陶芸マンガです。主人公・浜田陶太は、表向きは「自由窯」という窯の主人で、陶芸教室なんかも開催しちゃっているほのぼの系陶芸家ですが、裏の顔は数千万円の報酬で陶芸にまつわるあらゆる揉め事を解決する「裏陶工師」なのです。渡り焼き物師といい裏陶工師といい、とにかく一癖も二癖もある裏稼業っぽい陶芸家が出てくるのがメンズ陶芸マンガの特徴です。  こちらの作品でも、800度の窯の中に飛び込んで全身黒焦げになってみたり、時価数億円の器を叩き割ったり、贋作を作って本物とすり替えたり等々、おおよそ陶芸マンガに期待される陶芸アクションがちりばめられた作品です。さらに焼き物を作って殺人事件を解決してみたりと、陶芸家のスキルを超えるハイスペックぶりを発揮。単行本全2巻ですが、なかなか見応えのある作品となっています。 ***  というわけで、とにかくストイック、とにかく粘土ラブな陶芸マンガの世界をご紹介しました。これらの作品を読んじゃうと、老後にのんびり陶芸でもやろうかな……なんて甘っちょろい考えは吹っ飛んでしまうかもしれません。どうせ陶芸を始めるなら、800度の窯に飛び込むぐらいの覚悟で臨みたいものです。 (文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん<http://ablackleaf.com/>)

「専業主婦はハウスキーピングが完璧であるべき」ネットに渦巻く男のホンネ――アマゾンレビューで荒れる『花のズボラ飯』の真実

――サブカルを中心に社会問題までを幅広く分析するライター・稲田豊史が、映画、小説、マンガ、アニメなどフィクションをテキストに、超絶難解な乙女心を分析。
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『花のズボラ飯 1』
今回は、夫が単身赴任のため一人暮らしをしながら、てきと~レシピに舌鼓を打つ女性の生活を描いたマンガ『花のズボラ飯』をピックアップ!※本文中にはネタバレがあります。  キング・オブ・深夜の飯テロでおなじみ、ドラマ『孤独のグルメ』(テレビ東京)待望の第5シーズンが、10月2日よりスタートする。松重豊演じる井之頭五郎が、さまざまな名店で「ひとり飯」を楽しむ人気シリーズだ。9月27日には原作コミックの第2巻が刊行。第1巻から実に18年ぶりの新刊ということで、こちらも大きな話題になっている。  そんな『孤独のグルメ』の原作者・久住昌之による“女子主人公版・孤独のグルメ”と言うべきコミック作品が、『花のズボラ飯』(原作:久住昌之、作画:水沢悦子)である。現在までに単行本は2巻まで刊行(連載継続中)。夫が単身赴任中の主婦・駒沢花(こまざわ・はな/30歳)が、その名の通り超手軽なズボラ飯を創作して食すという、1話読み切りものだ。2012年度の「このマンガがすごい!」では、栄えある「オンナ編」第1位に輝き、同年末時点で累計発行部数が60万部を超えたので、ご存知の方も多いだろう。  本作に登場するメニューは、どれもシンプルだ。「鮭フレークとマヨネーズを載せたトースト」「卵かけご飯」「サッポロ一番塩らーめん」「コンビニおにぎりのお茶漬け」「豆腐と明太子の丼」「ミョウガキャベツ」などなど。「それ料理じゃねえだろ」的なものも多いが、“テキトーに作ったけど、まあまあウマそう”なリアリティの具合が実に絶妙である。  また、小太りのヒロイン・花による体液(汗、よだれ、涙)まみれのバカ食い描写と生々しい至福の表情は、食欲の充足と性欲の充足が近似であることを分からせてくれる。「女子ひとり飯マンガ」の類作は数多いが、その中でも頭ひとつ抜けた異質感を放っているのが本作なのだ。  しかし、2010年12月に刊行された第1巻には、賞賛の一方で酷評も多く寄せられた。酷評の多くは「このマンガがすごい!」1位獲得の評判を聞いて購入した読者のものと推察されるが、とにかく鼻息が粗い。女子ひとり飯マンガのどこに炎上要素が? とお思いだろうが、当時の酷評ポイントを男女別にざっと拾ってみよう。 【男女共通の酷評】 ■花の部屋が汚くて不快 ■花の食べ方が汚くて不快 ■花の料理が手抜きすぎて不快 【主に男性読者の酷評】 ■単身赴任の旦那がかわいそうで不快(部屋が汚いから/飯が手抜きだから/旦那の不在中に花が浪費しているから) ■花が女として下品すぎるので不快 【主に女性読者の酷評】 ■子供のいない主婦がこんなにズボラだと思われるのが不快 ■30歳にもなって旦那に甘える花のカマトトぶりが不快 ■花は主婦のくせに節約の概念がなくて不快 ■花が隣人やバイト先の人を見下しているのが不快  絵柄や作風の好みは各人各様であるし、「話題になっているから買った」人が想像していた内容と違って腹を立てたケースもあるだろう。しかし、それにしても酷評者の怒りテンションが高すぎる。  第1巻のAmazonレビューは本稿執筆時点で260以上寄せられているが、これがもう荒れまくりなのだ。「途中まで読んで捨てた」だの「あれは食べ物ではなく汚物」だの「高評価した奴はおかしい」だの、呪詛のように忌まわしい言葉を尽くし、作品をゴミ扱いするレビューが少なくない。  花にぶつけられた苛立ちの本質とは何なのか。それは、「30歳の専業主婦とはこうあるべき」という脅迫的な押し付けだ。  男性読者の不快感を言い換えるならこうだ。専業主婦はハウスキーピングが完璧であるべき。旦那には手の込んだ(見てくれのいい、Facebookで「いいね」を押されそうな)料理をふるまうべき。専業主婦は好きに服や靴を買ってはならない。家にひとりでいる時であっても、だらしない格好で部屋の中を歩くなんてもってのほか。常に身ぎれいに、常に美しく、常に上品であれ! まるで50年代アメリカのハウスワイフ1.0である。  女性読者からの不快感も、こう言い換えられる。子供がいないならフルタイムで働け、働かないなら子どもを作れ。結婚してもパートナーに依存しすぎず自立的であるべき。旦那に養ってもらっているなら極限まで節約しろ。大人として地域住民との面倒なコミュニケーショは文句言わずやるべき……こちらは発言小町臭が実に香ばしい。  もし本作の主人公が19歳の浪人生男子だったら、同じ絵柄、同じコンセプトであっても、ここまでは言われないだろう。部屋が汚いのも、食べ方が汚いのも、料理が手抜きなのも、きっと許容される。  花は他人様に迷惑をかけているわけではない。自分の生活を、自分の責任でもって、めいっぱい満喫しているだけだ。部屋が汚いのも、食べ方が汚いのも、料理が手抜きなのも、隣人を小馬鹿にして仲良くしないのも、花の勝手である。夫との合意が取れているなら、週3バイトの身分で服を買おうが、靴を買おうが、豪華な肉を貪り食おうが、他人が口を出す筋合いはない。  だいたい、彼女は単なるマンガのヒロインである。国民の税金で生活する公人でもなければ、子どもがテレビで見て影響を受ける類のタレントでもない。お金を出して買わなければ目に触れない女性マンガ誌と単行本に掲載されている、架空の人物だ。  しかし、世間は(特にネット界隈は)それを許さない。「一般的な30歳の専業主婦像」という、自分たちが設定した「型」から外れる者は、彼女が無邪気に幸せそうであればあるほど(実際、花はものすごく幸せそうだ)、たとえフィクション上の存在であったとしても、徹底的にバッシングされる。  それは、自らの出産シーンを幸せいっぱいにテレビ放映した芸能人に「配慮が足りない。不快に感じた。だから謝罪しろ」と主張する苦情や、イケメンと仲のいい女子に「あんたが視界に入るとアタシらスゲー気分悪いから、謝ってくんない?」と難癖をつける陰湿なイジメと、たいして変わらない。 「型」から外れた者は糾弾される。ダイバーシティ(多様性)推進だ、ジェンダーフリーの時代だ、などという進歩的なテーゼをぶったところで、歴史と伝統ある「女の子はピンクが似合う」派の大軍勢には、ちょっとやそっとじゃ太刀打ちできないのが2015年現在の日本だ。この国ではまだまだ、ピンクじゃない服を着ている女の子は訝しげに「なんで?」と詰問されてしまう(比喩的な意味で)。  また、ゆるふわ女子は没個性だの、料理上手な女子をありがたがるなんて前時代的だの、「プロ彼女」は不気味だのという、ネットにありがちな進歩的言説も、現実の局面においては依然として机上の空論だ。2015年現在の日本で、実際に一番モテる「型」が依然として「ゆるふわ系で・料理がうまい・プロ彼女」なのは、2〜30代の男性なら誰でも知っている。口に出して言わないだけだ。 「なんだかんだ言って30歳の専業主婦はこうあるべき」と主張する保守本流伝統派。その彼らが許容する「型」から外れた花というヒロインは、「世間サマを不快にした」罪で告発された。男女それぞれから別々のジェンダー押し付け圧力を一身に受けた、いわば教室内のいじめられっ子――それが花なのだ。  この状況から、特に男性諸氏は何を学べるだろうか?  ひとつ興味深い事実がある。実は作画担当の水沢悦子氏は、某成人向けマンガ家男性と同一人物だ(という説がとてつもなく濃厚)。無論、原作の久住昌之氏も男性である。  そして「男性が創造した“花”という名前の女性主人公」には覚えがある。本連載の第4回で言及した『おおかみこどもの雨と雪』(監督:細田守)だ。偶然だが、同作のヒロインも“花”という。  ふたりの花は、まったく異なるパーソナリティの持ち主だ。一方はストイックな努力家で、一方は脳天気な専業主婦。にもかかわらず、ふたりとも同性から一定の不快感を示されたという共通点を持つ。  この際、『おおかみこども』の花や『花ズボ』の花が、リアルな女性を正確に体現していたかどうかは、どうでもいい。男性諸氏がもっとも留意すべきなのは、「男性作者のジェンダー観(≒男女の社会的役割分担)が透けて見えるような行動を女性キャラがとると、女性は敏感に察知し、高確率で反感を抱きやすい」という法則である(『風立ちぬ』(2013)の結核ヒロインこと菜穂子も然りだが、それは別稿にて)。  要するに、男が「女はこうあるべきだ」「妻の役割とはこうだ」などとドヤ顔で断言するのは、東アジア某国の市街地でそっち系のヘイトスピーチを行う以上に危険な行為であるということだ。妻が「私がどういう人間かを勝手に決めつけないで」と夫に口走るのは、古来よりよく知られる離婚フラグ(筆者調べ)のひとつと知るべし。  おとなしそうな若手女子社員を指して「男と付き合ったことがなさそう」などと口にすれば、同僚の女性社員にバカ扱いされるのが関の山。かといって「ああ見えて経験豊富なのかも」と言えば言ったで、クズ野郎認定は免れない。女性は見たままが本質ではないが、見たままの逆が正しいとも限らない。であれば、口をつぐむに越したことはないのだ。大人の男なら。  余談だが、本稿執筆中に『花のズボラ飯』のドラマ版公式サイトのアドレスを踏んだら、なぜか「セフレの作り方【出会い系でセックス三昧体験】」というページに飛んでしまった。色々あるのだろうが、これについても口をつぐみたい。自分、大人なので。 稲田豊史(いなだ・とよし) 編集者/ライター。キネマ旬報社でDVD業界誌編集長、書籍編集者を経て2013年にフリーランス。『セーラームーン世代の社会論』(単著)、『ヤンキー マンガガイドブック』(企画・編集)、『ヤンキー経済 消費の主役・新保守層の正体』(構成/原田曜平・著)、評論誌『PLANETS』『あまちゃんメモリーズ』(共同編集)。その他の編集担当書籍は、『団地 団 ~ベランダから見渡す映画論~』(大山顕、佐藤大、速水健朗・著)、『成熟という檻「魔法少女まどか☆マギカ」論』(山川賢一・ 著)、『全方位型お笑いマガジン「コメ旬」』など。「サイゾー」「アニメビジエンス」などで執筆中。映画、藤子・F・不二雄、90年代文化、女子論が得意。http://inadatoyoshi.com

クドい! めんどくさい! 暑苦しい! この夏オススメの「こだわる男マンガ」4選

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 例年にも増して猛暑日が続く2015年夏ですが、エコ冷房、クールビズ全然意味なし! マンガ読みのみなさんにおかれましては、エアコンをガンガン効かせた部屋に引きこもるのが、この夏を快適に過ごす最も正しいやり方であることは言うまでもありません。  しかし、古来より暑い夏こそ、あえて熱いお茶を飲んだほうが暑さが引くなんていわれていますね。実はマンガもそれと同じ。暑い時ほど読むマンガも暑苦しくてクドいやつのほうが、暑気払いに向いているんです。  そこで今回は、この夏にぜひ読んでほしい、クドくて、暑苦しくて、めんどくさい、マンガのジャンル「こだわる男マンガ」をご紹介したいと思います。そんなマンガのジャンル聞いたことないと思う方も多いかもしれません。それはそうでしょう。ついさっき僕が作りましたから。でも、昨今「やたらとこだわる男が登場するマンガ」がウケていることは事実なのです。  例えば、ドラマ化された『孤独のグルメ』や『食の軍師』、あるいは最近単行本化されてスマッシュヒットしている『その「おこだわり」、俺にもくれよ!!』、これらのマンガはみんな「こだわる男」がテーマです。どうやら今の世の中、こだわる男たちが求められていることは間違いなさそうです。 というわけで、この夏にチャレンジしてほしいおすすめ「こだわる男マンガ」を4作品ご紹介しましょう。
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■『その「おこだわり」、俺にもくれよ!!』(著:清野とおる/ワイドKC モーニング)  『東京都北区赤羽』の清野とおる先生が講談社の「モーニング・ツー」で現在連載中のマンガが『その「おこだわり」、俺にもくれよ!!』です。文字通り、あることにこだわっている「おこだわり」な人たちが毎回紹介されるのですが、その「おこだわり」がどれも一癖あるヤバいやつばかりです。少しだけ紹介しておきますと、 ・ポテトサラダを割り箸でねぶるように食べ続ける男 ・マンションのベランダで生活することにこだわる男 ・さけるチーズをいかに極細に裂くかにこだわる男 ・喫茶店で、あえて「アイスミルク」を頼む男  などなど……客観的に見て、ほんっとにどうでもいいこだわりばかり。でも、それがいい。こだわりがしょーもなければしょーもないほど、内容が反比例して面白くなっているのです。しかもなぜか、この「おこだわり」を自分でも真似してみたくなるのです。僕もこのマンガを読んで、実際にシャノアールでアイスミルクを頼みましたからね。これは、北区赤羽という土地を一大ギャグタウンに変えてしまった「清野とおるマジック」といえるかもしれません。
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■『ネイチャージモン』(著:刃森尊、原案:寺門ジモン/ヤンマガKCスペシャル)  ご存じ、ダチョウ倶楽部の寺門ジモンこと「ネイチャージモン」の奇行っぷりを大胆にフィーチャリングしたルポマンガです。本やテレビなどで、肉へのこだわりがハンパでないことはすでに有名ですが、マンガで読むと、あらためてそのこだわりが尋常ではないというのがわかります。ちなみに単行本表紙の暑苦しさは、「こだわり男」マンガの中でも最凶レベルとなっております。  例えば、ネイチャージモンが東京一の焼き肉屋「スタミナ苑」で焼き肉を食べるために、以下のような儀式をします。 1.事前に30分以上筋トレをする。 2.徒歩で3時間半歩いて店に行く。 3.開店の2時間前から店の前で待つ。 4.待っている際は背中でオーラを出し、店のマスターにプレッシャーを掛ける。  焼き肉食べるだけなのに、すごくウザい! それも、ケタ外れのウザさです。そのほかにも…… ・牛肉が好きすぎて、家畜商の免許を取って松阪牛のセリに参加する。 ・世界最古のステーキを求めてイタリアに行く。 ・世界一のステーキを食べに、日帰りでニューヨークに行く。  などなど、規格外すぎる肉へのこだわりが満載。  また、肉以外にもオオクワガタへのこだわりもすごいです。というかこのマンガ、ほぼ肉とクワガタのことしか描いていません。それなのに単行本9巻も出ているんですから、いろいろ狂っていますよね。
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■『ダンドリくん』(著:泉昌之)  『ダンドリくん』は『食の軍師』と同じ、泉昌之先生(泉晴紀先生と久住昌之先生の合作名)の作品です。基本的に泉昌之先生の作品はすべて、画がクドくて説明がウザいギャグマンガばかりなのですが、この『ダンドリくん』はそんな中でもとりわけウザく、そんなウザさを嗜むために生まれてきたようなマンガといえます。  主人公のダンドリくんは、日常生活におけるダンドリに異常にこだわり、いかに日々を合理的に過ごすかばかりを考えている男です。要するに、すごくめんどくさいヤツなのです。  例えば、朝起きて顔を洗って歯を磨く、そして朝食へという早朝の一連の行為も、ダンドリくんにかかれば、まったく逆の順番になります。飯を食って、歯を磨いて、顔を洗う。そうすれば、最後に顔を拭くだけで全部終了。ムダがありません。  さらに、トイレのドアを開けっぱなしにしてテレビを見ることで、朝の情報収集と用便が同時にできるという合理的アイデアも紹介してくれます。確かに合理的だけど、人としてはどうなんでしょうか……。  このように、役に立つような立たないような、大きなお世話のようなダンドリ流ライフハックが次々と紹介されていきます。  ファッションについても、一家言あります。ダンドリくんの推奨する究極ファッションアイテムはズバリ、ベスト(チョッキ)です! ベストだと冬の暑い日にも脱がなくて大丈夫、夏の寒い日は着ていて大助かり。つまり、冬も夏もいちいち脱ぎ着せずに着っぱなしでいい。そんなハイブリッドさがベストの素晴らしさです。  またベストだと、着る時セーターのように、下のシャツがまくれ上がらないように袖を押さえておいたりするような必要もありません。注射打つ時もいちいち脱がなくてもいいし……ってダンドリくんのベスト推しがウザすぎる!!  こういった比較的どうでもよいことを、いちいちドヤ顔で解説してくるマンガなのですが、ダンドリにこだわりすぎるあまり、かえって非効率になっているダンドリくんを嘲笑ってあげるのが、このマンガの正しい楽しみ方です。
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■『それはエノキダ!』(著:須賀原洋行/モーニングワイドコミックス) 「こだわる男マンガ」の中でも、あらゆるジャンルに異常なこだわりを見せる、オールマイティにウザいマンガが『それはエノキダ!』という作品。  主人公は、物事がキッチリしていないと我慢できない神経質な男「榎田君」。物事がキッチリしていると「キモチE」、キッチリしてないと「キモチ悪い」というのが口癖です。  例えば、エレベーターでは「閉」ボタンを押して出て行く。一見よくある光景ですが、榎田君の場合、あらゆるエレベーターの機種でスムーズに「閉」が押せるように日頃から訓練を積んでおり、ボタンがドアの右にあろうが左にあろうが目をつむったまま「閉」が押せます。  異常に物持ちがいいのも特徴。何かについていた輪ゴム、ケーブルなどを束ねている針金ビニール、クリーニングに出すとついてくるハンガー、刺し身についているワサビや納豆についているカラシなどを生まれてこの方、ずっと捨てずに取ってあり、タンスは4段とも輪ゴムでいっぱい、冷蔵庫の中はワサビやら魚の容器のしょう油だらけ。断捨離の思想とは対極にいる男です。  オーディオへのこだわりも尋常ではありません。 ・ケヤキの無垢材やギリシャ産ラムスキンを使った、36万円最高級ヘッドホンを購入。 ・アンプやスピーカーの振動を抑えるための重しとして、鉛の板80kg・6万8,000円分を購入。 ・銅線の純度が99.99997%、1mあたり10万円のスピーカーケーブルを使用。  など、こだわりのためなら金に糸目をつけない恐るべきピュアオーディオぶりを発揮。  ト○タのハイブリッドカー「プリ○ス」を購入した時の話もかなりヤバいです。 ・徹底的に上り坂を避け、常に下り坂を走り続けるため、目的地にたどり着けない。 ・真夏でもエアコンをつけず、後部座席に巨大な氷を置いて走行。 ・燃費にいい高速道路を使うため、インターチェンジの近くに家を引っ越す。  などなど、究極の燃費走行を極めんとする、クレイジーなハイブリッドカーマニアたちが登場します。明らかにこだわっている方向性がおかしいです。  こんな感じのマンガなので、ページ内が説明、ウンチクだらけで1ページあたりの文字数がものすごく多くて、読んでいるとクラクラしてくる上級者向けの「こだわる男マンガ」です。 ***  というわけで、クドい、めんどくさい、暑苦しい、でもそこがいい、この夏オススメの「こだわる男マンガ」をご紹介してみましたが、いかがだったでしょうか? どのマンガもあきれるほどにクドく、実生活で役に立たない知識であふれています。なんの対策もせずにいきなり読むと、暑苦しくて本当に熱中症になってしまう可能性もありますので、よく水分をとって、涼しいところで読むことをオススメします。 (文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん<http://ablackleaf.com/>)

かわいすぎて悶絶! おっさんたちをキュンキュンさせる「もちる女子」って?

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 皆さんは、「いくえみ男子」という言葉をご存じでしょうか? マンガ家・いくえみ綾先生の作品に出てくる男子キャラクターたちのことで、いわゆるイケメンとは違う、塩顔で痩せ形、唇は薄め、オシャレすぎず飾りすぎず等身大。だけど、身近にいそうでいない。草食系なようで、実は肉食なロールキャベツ男子……ってどんな男子なのかサッパリ想像がつきませんね。とにかく、いくえみ綾先生の描く男子は女子を胸キュンさせてやまないのです。いくえみ男子だけを特集した『いくえみ男子スタイルBOOK』(集英社)なんてムック本まで出ているほど、もはや確固たるブランドを確立しているといえます。  少女マンガ界には「いくえみ男子」がいるのに、少年マンガ・青年マンガの世界には「○○女子」は存在しないのでしょうか? 残念ながら「いくえみ男子」ほど確固たるブランドを確立したキーワードはなさそうです。そんな中で今、新たに提唱したい「○○女子」があります。それは、星里もちる先生の作品に出てくる女子キャラクター、すなわち「もちる女子」であります。  星里先生のマンガに出てくる女子キャラクターは、いわゆる萌えマンガのかわいさとは系統が異なる、万人に愛されるかわいさを持っています。そんなかわいい女子たちが、冴えない主人公に惚れるというのが星里マンガのお決まりのパターン。しかも二股、三股あり、ハーレム設定ありと、男のロマンがトゥーマッチに盛り込まれています。僕たちがこの冴えない主人公に自分を投影させてしまった瞬間、胸のキュンキュンが止まらない“もちるワールド”が始まってしまうのです。  もちる女子のタイプは、多岐にわたります。癒やし系・ドジッ娘・不思議ちゃん・妹系・お姉さん系・ツンデレ系、ロングヘアーにショートヘアー、幼なじみから会社の後輩まで、我々ミドルエイジ男子が惚れがちな、あらゆる女子タイプが登場します。しかも、そのほぼすべてのキャラクターがかわいく魅力的。今回は、そんな「もちる女子」登場作品の中から、特にキュンキュンできるおすすめ作品をご紹介します。
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■『りびんぐゲーム』  星里先生の代表作といえば、『りびんぐゲーム』を思い浮かべる人も多いでしょう。主人公は、中小企業ナミフクDMサービスのちょっと冴えない若手社員、不破雷蔵(ふわ・らいぞう)。  雷蔵の職場、ナミフクDMサービスはオフィス移転に失敗し、急遽主人公雷蔵のアパートの部屋を無理やりオフィスにすることに。雷蔵は、自分の生活空間を会社に占領されてしまいます。  この時点ですでにありえない展開なのですが、さらに中卒15歳の女の子、氷山一角(ひやま・いずみ)が雷蔵の後輩として入社。このいずみこそ、同僚であり、後輩であり、妹的存在でもあり、恋人でもある、我々男子の理想を詰め込んだ「もちる女子」なのです。  いずみは、15歳のため自分一人ではアパートを借りることもできず、やむを得ず会社……つまり、雷蔵の家に住み込むことになります。冴えないサラリーマンが自分に好意を持つ15歳の女の子と一つ屋根の下で同居、しかも顔はあどけないくせに大人顔負けのエッチなカラダを装備しているという……なんという淫行スレスレの展開でしょうか。  2人きりのシーンでは、「先輩、あたしのこと、嫌いですか? それとも……なんとも思ってませんか?」などの年上殺しのセリフが次々飛び出す、うらやまけしからん展開がひたすら続きます。もし自分が雷蔵の立場だったら……手を出さずに我慢できるのか? 16歳になったら、手を出してもいいのか? 等々、男子読者の妄想は無限に広がっていくのです。自分、40代ですけど、胸キュンいいすか?
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■『夢かもしんない』  こちらは、星里版『ゴースト』とでも言うべきラブコメ作品です。主人公、加勢晴夫は妻子持ちですが、ワーカホリック気味で家族を顧みないため、夫婦仲は冷め始めています。  日々の生活にお疲れな加勢の前に突然現れた幽霊の女の子、夢野すみれ。すみれはなぜか加勢の前にだけ現れ、仕事も家庭もうまく行っていない加勢を「ハッピーにしてあげる」と明るく励ましてくれます。そんなすみれの正体は、若くして亡くなった人気アイドルだったのでした。  さらに、加勢は会社の後輩、佐藤ひろみ(癒やし系)に慕われ、「今日は一人に……しないで下さい……」なんて先輩殺しのセリフを繰り出された結果、不倫関係になってしまいます。でも、不倫のシーンすらも爽やかで全然ドロドロしてないあたりが、星里先生の手腕を感じます。  果たして、このまま加勢の家庭は壊れてしまうのか? そして、すみれが加勢の前に現れた目的とは!? 妻と、娘と、会社の後輩と、アイドルの幽霊。つまり、3人+1ゴーストの女子たちに囲まれて、いろいろヤキモキしちゃうラブコメです。
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■『オムライス』  一つ屋根の下、美女に囲まれて生活したい、そんな男のロマンであるハーレム状態をついに実現してしまったマンガ、それがこの『オムライス』です。  主人公・今井光は、ワケありのバツイチ無職青年。そして、登場する女子たちは今井珠子(歯科医)、羽子(アーティスト系)、葉子(女子大生)、緑(不思議ちゃん)という美人四姉妹。  無職で生活に困窮していた光は、ひょんなことから同じ今井姓というだけの理由で、今井四姉妹の住む家に居候することになります。マンガとはいえ、ここまで豪快かつ無理やりなハーレム設定は、なかなかお目にかかれません。  光は、今井四姉妹の四女、緑(不思議ちゃん系)と恋仲になるのですが、途中から光の元嫁、稲森はるなが光のことが忘れられず押しかけ、元女房として今井家に居候するようになり、緑とはるなの奇妙な三角関係が勃発。 結果として、女子5人の中に男1人というハーレム状態、それって、どう考えてもエロゲの設定だろといわんばかりのカオスさで、これまたうらやまけしからんのですが、一つ屋根の下に男女が入り乱れる異常な雑居状態でもごく普通にラブコメを展開してしまうのが星里作品の特徴であり、「住宅ラブコメ」の伝道師といわれるゆえんでもあります。
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■『ルナハイツ』  『オムライス』で実現した男の夢、ハーレム状態をさらにパワーアップさせたのが、この『ルナハイツ』です。  主人公は、婚約者・友美によって一方的に婚約破棄された男、南條隼人。南條は新婚生活を送るために購入した一軒家を、ローンの支払いのために女子寮として会社に提供することになります。しかし、家主である南條は男一人、その女子寮(ルナハイツ)に同居することになるのです。  今風にいえば、シェアハウスってことなんでしょうけど、やっぱり女子の中に男一人というのが普通のシェアハウスとは根本的に違うところです。ハーレムシェアハウスです。いやー、ありえない。でもうらやましい…・・・。なぜこんな夢設定を毎回考えつくんでしょうか。  同居する女子寮メンバーは大月窓明(おおつき・まどり)、日高りん、茅ヶ崎裕子、土屋重子の4人。この中で、ヒロインのまどり(サバサバ系)と、りん(ロリ系)が南條をめぐって三角関係に。さらに南條を振った元婚約者・友美が浮気相手との子を宿した妊婦姿で登場。普通に考えると、どのツラ下げて……って感じなのですが、なんと友美も同居してしまいます。ここまでいくと、カオスすぎて胸キュンどころではありません。 ***  そんな感じで、男のロマンをこれでもかといわんばかりに過積載したモテ設定。読後感のいい、ほのぼのストーリー。そして、なんといっても、ほぼ全員がかわいい「もちる女子」……。星里先生の作品は、今宵もおじさんをキュンキュンさせてやまないのです。おじさんおじさん言ってますが、青年誌の掲載作品が多いというだけで、おじさん以外でももちろん楽しめますよ。 (文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん<http://ablackleaf.com/>)

『孤独のグルメ』の原作コンビが描く、究極散歩マンガ『散歩もの』

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散歩もの』(作画・谷口ジロー、著・久住昌之)
 この世で最も奥が深く、老若男女が楽しめるアウトドアスポーツといえば、ズバリ「散歩」ではないでしょうか。健康診断で肉体年齢が60代と診断された、筋金入りのインドア派を自称する僕でも可能なスポーツ、それが散歩。散歩・イズ・ビューティフル。まあ……散歩がスポーツなのかどうかは、別途議論が必要なところですが。  今回は、そんな散歩がテーマのマンガ『散歩もの』をご紹介します。「散歩」がテーマのマンガなんて、一体どうやってオチをつけるんだ? と思う方もいらっしゃるかと思うのですが、そこは心配ご無用。実は、本作品は『孤独のグルメ』の名コンビ、谷口ジロー先生と久住昌之先生の作品なのです。本作品も『孤独のグルメ』同様、毎回これといったオチはなく、フワッとした感じで終わりますが、それでいてちゃんとした作品として成立しているのです。 『散歩もの』は通常のマンガ雑誌ではなく、「通販生活」(カタログハウス)という雑誌に掲載されていました。この掲載誌の渋さこそが、「散歩」というニッチなテーマのマンガを実現できる理由だともいえます。  テーマが違うとはいえ、谷口先生と久住先生のコンビ作品ですから、当然『孤独のグルメ』のテイストが色濃く出ており、読めば読むほどに『孤独のグルメ』のスピンオフ作品ともいえる雰囲気を感じます。特に、作品中に出てくる食事のシーンなどは、かなり孤独のグルメっぽいです。  ただし『散歩もの』は、あくまで散歩マンガなので、グルメではなく散歩がメイン。主人公である中堅文具メーカーの部長、上野原譲二が休日や仕事中にいろいろな場所をフラッと散歩して、古い町並みを見たり、雑貨を見つけたりしてはその心象風景をつづるという、これが全盛期のジャンプだったら、3話目ぐらいで強制的に途中からバトルものに方向転換させられかねない地味な内容です。もし散歩バトルマンガがあれば、それはそれで読んでみたい気もしますけど。  でもまあ、読者層はきっと「散歩の達人」(交通新聞社)とか「おとなの週末」(講談社)とか読んでいそうなアダルティな人たちを狙ってるわけですから、これでいいわけです。そういう意味では、孤独のグルメ以上にディープで読み手を選ぶ作品といえましょう。  主人公、上野原は妻帯者、中小企業の中間管理職という設定で、独身貴族の孤独のグルメ・井之頭五郎とは異なり、なかなかのリア充っぽさが漂います。しかし、作品が醸し出す雰囲気が酷似しているのは、どっちの主人公も頑固で結構変わった性格をしているからなんだと思います。  上野原は、とにかく散歩にかける情熱が人並み以上のものがあります。奥さんの頼まれ物の途中とか、仕事中の出先とかでもお構いなしにガンガン脇道にそれて、散歩モードに突入してしまいます。  自分のことを「散歩の天才」って言うぐらいの散歩好き。自称、散歩の天才……。うーん、実に微妙な響きです。さらに、頑固なまでの懐古主義者でもあります。 「俺は街を上へ上へ開発していくのって嫌いなんだよ」  上野原は、高層ビルなどの建築が大っ嫌い。それこそ、六本木ヒルズとか東京ミッドタウンは最悪なんでしょうね。その一方で、大正とか昭和の香りのするノスタルジックな建物は大好きな模様です。  そんな古めかしい店に入っては、普通の人が興味を示さないような渋い雑貨を衝動買いして帰ってくるという、奇妙な性癖(?)もあります。  慶応元年からやっている草履屋に興味を示して、いきなり草履を衝動買いしたり、ちょっとイイ感じの雑貨屋を発見して、エジソン電球なるレトロな電球を衝動買いしたり。いきなりエジソン電球とか買ってきて家に取り付けられても……そりゃ奥さんもあきれちゃいますよね。  そのほかにも、仕事途中に昔ながらの井戸を見つけて、テンション上がってしまい、井戸水をガンガンくみ出していたら、住人に怒られてしまったり。一企業の部長としてはなかなか行動がアレですよね。  そんな上野原の散歩にかける熱い思いがヒシヒシと伝わってくる、散歩原理主義者ともいえる数々の名言(しかも、ほとんどが独り言)をご紹介しましょう。 「テレビや雑誌で見た場所へ出かけていく散歩は、散歩ではない」    後でも出てきますが、散歩にガイドブックは不要というのが上野原の持論です。迷ったら、それはそれでいいじゃないか的な。つまり、「東京ウォーカー」(角川マガジンズ)、「るるぶ」(JTBパブリッシング)あたりで下調べしてから行くのは観光であって、散歩ではありません。もちろん、ネットで調べるというのもアウトです。 「理想的なのは、『のんきな迷子』」  どうやら、積極的に迷うのを推奨している模様です。確かに、散歩は無計画なぐらいなほうが楽しいかもしれません。もはや、この男にカーナビは不要に違いありません。 上野原の散歩論はさらにディープに、坂道についても熱く語ります。 「あー、いいねえ坂道だ」 「わあ、素晴らしいスロープだ」  目白の坂道に感動しまくり! 確かに、すごい坂道を見つけるとテンションが上がってしまうのは、なんとなく理解できますが……。 「こっちの坂もいいぞ」  別の坂道にも食いつく上野原。坂道がいいとか悪いとか……基準がよくわかりませんが、これは相当な坂道マニアですね。もしかしたら、坂道にエクスタシーを感じるタイプなのかもしれません。 「傾斜した道は使いにくい」 「だから工夫しなきゃならない」 「そういうのが街の味になってるんだな」  坂道文化を語り続けます。もはや、オッサンが散歩の最中に発する単なる独り言とは思えないほどのクオリティ。散歩の天才と呼ばれるには、このぐらいの域に達していなければならないようです。そういえばタモリさんも「日本坂道学会」なるものを設立しているぐらいですし、坂道にはどこか人を惹きつけてやまない魅力があるのかもしれません。  続いて、東京・吉祥寺の路地裏「ハーモニカ横丁」の日本一狭いカレー屋での一幕。路地裏文化に興味を示す若者カップルとの会話で、たいそうご機嫌な上野原です。 「吉祥寺の良心ですよ」  吉祥寺の良心……こういうクサいセリフは、相当吉祥寺ラブでないと言えないセリフです。しかし、若者たちがハーモニカ横丁のガイドブックを作りたいなどという発言をした途端、説教モードに。 「こういう路地はガイドなんかに頼らないでただ歩くのが楽しいんじゃない?」  独自の路地論を展開。ガイドに頼るのは散歩じゃないんだ、邪道だ、と。とにかく路地は自力で散策するのが粋なのだと力説します。まさに、散歩原理主義ならではですね。 「ちょっと不安なぐらいがいいんじゃない? 歩けば必ず面白い店やものが発見できる、そんな路地ですよ」  若者は完全にキョトン顔です。言いたいことはわかりますが、ここまでいくと老害……いやいや、日本の明日を担う若者たちに散歩の本当の楽しさを伝えたい一心での発言ですよね。わかります。この若者も今後はきっと改心して、ガイドなど持たずに路地裏を徘徊することでしょう。  というわけで、かつてないほどに硬派な散歩論が展開される究極の散歩マンガ『散歩もの』。いかがだったでしょうか? たまに散歩する程度の人からディープな坂道マニアの人まで、散歩をする人にはぜひ一度手に取って読んでいただきたい、そんな奥深い作品です。 (文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん<http://ablackleaf.com/>)

『孤独のグルメ』の原作コンビが描く、究極散歩マンガ『散歩もの』

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散歩もの』(作画・谷口ジロー、著・久住昌之)
 この世で最も奥が深く、老若男女が楽しめるアウトドアスポーツといえば、ズバリ「散歩」ではないでしょうか。健康診断で肉体年齢が60代と診断された、筋金入りのインドア派を自称する僕でも可能なスポーツ、それが散歩。散歩・イズ・ビューティフル。まあ……散歩がスポーツなのかどうかは、別途議論が必要なところですが。  今回は、そんな散歩がテーマのマンガ『散歩もの』をご紹介します。「散歩」がテーマのマンガなんて、一体どうやってオチをつけるんだ? と思う方もいらっしゃるかと思うのですが、そこは心配ご無用。実は、本作品は『孤独のグルメ』の名コンビ、谷口ジロー先生と久住昌之先生の作品なのです。本作品も『孤独のグルメ』同様、毎回これといったオチはなく、フワッとした感じで終わりますが、それでいてちゃんとした作品として成立しているのです。 『散歩もの』は通常のマンガ雑誌ではなく、「通販生活」(カタログハウス)という雑誌に掲載されていました。この掲載誌の渋さこそが、「散歩」というニッチなテーマのマンガを実現できる理由だともいえます。  テーマが違うとはいえ、谷口先生と久住先生のコンビ作品ですから、当然『孤独のグルメ』のテイストが色濃く出ており、読めば読むほどに『孤独のグルメ』のスピンオフ作品ともいえる雰囲気を感じます。特に、作品中に出てくる食事のシーンなどは、かなり孤独のグルメっぽいです。  ただし『散歩もの』は、あくまで散歩マンガなので、グルメではなく散歩がメイン。主人公である中堅文具メーカーの部長、上野原譲二が休日や仕事中にいろいろな場所をフラッと散歩して、古い町並みを見たり、雑貨を見つけたりしてはその心象風景をつづるという、これが全盛期のジャンプだったら、3話目ぐらいで強制的に途中からバトルものに方向転換させられかねない地味な内容です。もし散歩バトルマンガがあれば、それはそれで読んでみたい気もしますけど。  でもまあ、読者層はきっと「散歩の達人」(交通新聞社)とか「おとなの週末」(講談社)とか読んでいそうなアダルティな人たちを狙ってるわけですから、これでいいわけです。そういう意味では、孤独のグルメ以上にディープで読み手を選ぶ作品といえましょう。  主人公、上野原は妻帯者、中小企業の中間管理職という設定で、独身貴族の孤独のグルメ・井之頭五郎とは異なり、なかなかのリア充っぽさが漂います。しかし、作品が醸し出す雰囲気が酷似しているのは、どっちの主人公も頑固で結構変わった性格をしているからなんだと思います。  上野原は、とにかく散歩にかける情熱が人並み以上のものがあります。奥さんの頼まれ物の途中とか、仕事中の出先とかでもお構いなしにガンガン脇道にそれて、散歩モードに突入してしまいます。  自分のことを「散歩の天才」って言うぐらいの散歩好き。自称、散歩の天才……。うーん、実に微妙な響きです。さらに、頑固なまでの懐古主義者でもあります。 「俺は街を上へ上へ開発していくのって嫌いなんだよ」  上野原は、高層ビルなどの建築が大っ嫌い。それこそ、六本木ヒルズとか東京ミッドタウンは最悪なんでしょうね。その一方で、大正とか昭和の香りのするノスタルジックな建物は大好きな模様です。  そんな古めかしい店に入っては、普通の人が興味を示さないような渋い雑貨を衝動買いして帰ってくるという、奇妙な性癖(?)もあります。  慶応元年からやっている草履屋に興味を示して、いきなり草履を衝動買いしたり、ちょっとイイ感じの雑貨屋を発見して、エジソン電球なるレトロな電球を衝動買いしたり。いきなりエジソン電球とか買ってきて家に取り付けられても……そりゃ奥さんもあきれちゃいますよね。  そのほかにも、仕事途中に昔ながらの井戸を見つけて、テンション上がってしまい、井戸水をガンガンくみ出していたら、住人に怒られてしまったり。一企業の部長としてはなかなか行動がアレですよね。  そんな上野原の散歩にかける熱い思いがヒシヒシと伝わってくる、散歩原理主義者ともいえる数々の名言(しかも、ほとんどが独り言)をご紹介しましょう。 「テレビや雑誌で見た場所へ出かけていく散歩は、散歩ではない」    後でも出てきますが、散歩にガイドブックは不要というのが上野原の持論です。迷ったら、それはそれでいいじゃないか的な。つまり、「東京ウォーカー」(角川マガジンズ)、「るるぶ」(JTBパブリッシング)あたりで下調べしてから行くのは観光であって、散歩ではありません。もちろん、ネットで調べるというのもアウトです。 「理想的なのは、『のんきな迷子』」  どうやら、積極的に迷うのを推奨している模様です。確かに、散歩は無計画なぐらいなほうが楽しいかもしれません。もはや、この男にカーナビは不要に違いありません。 上野原の散歩論はさらにディープに、坂道についても熱く語ります。 「あー、いいねえ坂道だ」 「わあ、素晴らしいスロープだ」  目白の坂道に感動しまくり! 確かに、すごい坂道を見つけるとテンションが上がってしまうのは、なんとなく理解できますが……。 「こっちの坂もいいぞ」  別の坂道にも食いつく上野原。坂道がいいとか悪いとか……基準がよくわかりませんが、これは相当な坂道マニアですね。もしかしたら、坂道にエクスタシーを感じるタイプなのかもしれません。 「傾斜した道は使いにくい」 「だから工夫しなきゃならない」 「そういうのが街の味になってるんだな」  坂道文化を語り続けます。もはや、オッサンが散歩の最中に発する単なる独り言とは思えないほどのクオリティ。散歩の天才と呼ばれるには、このぐらいの域に達していなければならないようです。そういえばタモリさんも「日本坂道学会」なるものを設立しているぐらいですし、坂道にはどこか人を惹きつけてやまない魅力があるのかもしれません。  続いて、東京・吉祥寺の路地裏「ハーモニカ横丁」の日本一狭いカレー屋での一幕。路地裏文化に興味を示す若者カップルとの会話で、たいそうご機嫌な上野原です。 「吉祥寺の良心ですよ」  吉祥寺の良心……こういうクサいセリフは、相当吉祥寺ラブでないと言えないセリフです。しかし、若者たちがハーモニカ横丁のガイドブックを作りたいなどという発言をした途端、説教モードに。 「こういう路地はガイドなんかに頼らないでただ歩くのが楽しいんじゃない?」  独自の路地論を展開。ガイドに頼るのは散歩じゃないんだ、邪道だ、と。とにかく路地は自力で散策するのが粋なのだと力説します。まさに、散歩原理主義ならではですね。 「ちょっと不安なぐらいがいいんじゃない? 歩けば必ず面白い店やものが発見できる、そんな路地ですよ」  若者は完全にキョトン顔です。言いたいことはわかりますが、ここまでいくと老害……いやいや、日本の明日を担う若者たちに散歩の本当の楽しさを伝えたい一心での発言ですよね。わかります。この若者も今後はきっと改心して、ガイドなど持たずに路地裏を徘徊することでしょう。  というわけで、かつてないほどに硬派な散歩論が展開される究極の散歩マンガ『散歩もの』。いかがだったでしょうか? たまに散歩する程度の人からディープな坂道マニアの人まで、散歩をする人にはぜひ一度手に取って読んでいただきたい、そんな奥深い作品です。 (文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん<http://ablackleaf.com/>)

キングオブコメディ高橋健一“不朽の野球アニメ”『キャプテン』を語り尽くす!

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キングオブコメディ高橋健一、44歳。
 1972年2月号から「月刊少年ジャンプ」(集英社)で連載されていた、ちばあきお作の不朽の名作『キャプテン』。  当時流行していた熱血スポ根漫画や、魔球&秘打が登場しまくる超人漫画とは一線を画した、現実的で等身大の中学生たちが野球に打ち込む姿を描いた『キャプテン』は大人気作品となり、イチローや新庄剛志、田中将大など、後にプロ野球選手となった人たちも愛読していたことで知られている。  その人気を受け、1980年にはスペシャルアニメがテレビ放送。1981年に劇場アニメが公開。83年からはテレビシリーズが放送。さらに2007年には実写映画化と、たびたび映像化されているのだが、今回、劇場アニメ版とテレビシリーズ全話を収録したコンプリートBlu-rayBOXが発売さる。  谷口が、丸井が、イガラシが、近藤が……HDリマスターでメッチャきれいになった画質で蘇ったのだ!  ……というわけで、コンプリートBlu-rayBOXの発売を記念して『キャプテン』大好き芸人であるキングオブコメディの高橋健一に熱い思いを語ってもらった。 ■「漫画・イラストクラブ」だけど感動していた ――若手芸人のわりに年をくっていることでお馴染みの高橋さんですが、さすがに『キャプテン』ってリアルタイムではないですよね? 高橋 漫画はリアルタイムではないですね。アニメの方はリアルタイムで見ていたんじゃないかとは思いますけど、ちゃんと通して見たのは何回目かの再放送……中学生の頃だと思います。『巨人の星』なんかは目が燃えてたり、大リーグボール養成ギブスがカッコよかったり、魔球が出てきたりと子どもにもわかりやすかったんで見ていましたけど、『キャプテン』って、そういうのとはまったく違う野球漫画じゃないですか。 ――まあ、比較的地味ですからね。 高橋 スポ根的な要素もあるものの、基本的には青春群像劇なんで、子どもの頃はわからなかったんですよね。でも思春期を超えたくらいから面白くなってきました。 ――野球は好きだったんですか? 高橋 いや、全然。当時はみんなリトルリーグや軟式野球をやってたんですけど、俺はあんまり上手くなかったんで、リトルリーグに入ってるようなヤツらがしごいてくるんですよ。自分が先輩にしごかれてるからって! 近藤に対する丸井のようにね。それがすげーイヤで『絶対にこんなスポーツやりたくねー!』って思ってました。でも『キャプテン』は普通に感動しましたね。野球もしてないくせに『わかるわかる』って(笑)。今でもそうですけど、オープニングの曲を聴くと涙が出てくるんですよ。 ――ちなみに中学生の頃、部活動は? 高橋 何にもやってないです。強いていえば漫画・イラストクラブですね……。そもそも野球部がなかったんですよ。都内の学校なんで校庭も狭かったし、地面もウレタン舗装だったので、野球部もサッカー部もなかったですから。だから、いわゆる放課後残ってやる部活はやってなくて、水曜日の5時間目にクラブ活動として「漫画・イラストクラブ」に入っていたくらい。ただ、ウチの学校に『それゆけ!レッドビッキーズ』(少年野球ドラマ)のミルクがいたんですよ。その弟さんが僕の2~3歳上くらいなんですが、なかなかの不良でした。そういう意味では、野球とも関わりがあったんですけど……。
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等身大の中学野球が描かれた。(C) ちばあきお・エイケン
――全然関係ないですよ! 部活動もやっていないから『キャプテン』のような努力をすることもなく? 高橋 そうですねぇ~。クラスの人気者でもヤンキーでもない、端っこの方のポジションでしたし……。ヤンキーから『ボタンよこせよ』とか言われてましたからね。 ――えっ、それは好きだから第2ボタンが欲しいっていうことではなく? 高橋 違います! 学生服のボタンをストーブで黒く焼くのがヤンキーの間で流行ってたんですよ、威厳がつくから。でもヤンキーたちも自分のボタンは焼きたくないから、クラスの下層にいるヤツらからボタンを奪ってたんですね。みんな泣き寝入りしてたんですけど、俺だけは「返せよ~返せよ~」って泣きながら1時間つきまとって返してもらって、「なんかあいつヤベエぞ!」っていう感じになってました。そういう面では谷口に通じてるのかもしれませんね。 ――決してあきらめないという点では! 高橋 そうです。「がんばる、がんばる」です。ボタン取り返すために「がんばらなくっちゃ!」って思いましたもん。でも真面目な話、谷口みたいな地味で日の当たらなかった人が全国大会で優勝しちゃう……みたいなところには憧れましたね。「こういうこともあり得るんだ!」って。最初はなんの才能もないし、真面目なだけで筋肉がすごいとかもない。親もただの建設業の方ですし。……自分の家もただの運送業でしたから、ちょっとシンクロしてしまいました。 ――とはいえ、谷口はものすごく努力してますよ。 高橋 僕はなんにもしてませんでしたけどね。 ■丸井はダメだけど印象に残っている ――『キャプテン』の特徴として、年ごとにキャプテンの座を引き継いでいって、主人公も変わっていくというのがありますが、高橋さんの好きなキャプテンは誰ですか? 高橋 その質問は来ると思ったんだよなー。でもそれは難しいですよ。牛肉と豚肉と鶏肉どれがいいか、みたいな話なんで。性格が全員違うからなぁ~……。憧れるのはイガラシですね、天才タイプですから。野球技術的な才能は一番あるじゃないですか。しかも、最初は憎まれっ子みたいな感じで入ってきたのに、ツボとなるところで谷口のことを悪く言っている先輩に刃向かったり、丸井のことを一番理解していたり。一番チームのことを思っているキャプテンですからね。逆に一番ダメなのは丸井。谷口は「がんばる」っていう才能が開花するし、近藤も剛力だし。最初から最後までダメなのが目立っているのが、丸井。 ――墨谷二中野球部への情熱だけって感じですからね。 高橋 もちろん練習して技術も身につけるんですけど、同じくらい欠点が目につくんですよね。後輩のイガラシから「ダメですよ丸井さん」「丸井さん何やってるんですか」とか言われたりして。……ただ、一番印象に残っているのも丸井なんですよ。卒業してからもずっと部活に顔を出して、監督みたいになってますから。ちばあきおさんも、丸井みたいなキャラが必要で卒業後も出し続けてたんじゃないかな。こういう、感情を思いっきり出すキャラっていないじゃないですか。
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丸井のキャラがパーケンにも影響を?(C) ちばあきお・エイケン
――一方、谷口は卒業後全然出てこないですもんね。アニメでは最終回にチョロッと出てきましたけど。 高橋 漫画はキャプテンの引き継ぎもあっさりしてますからね。「えっ、もう出てこないの?」って感じで。アニメだと次のキャプテンを誰にするか悩むところなんかも描かれてて、またいいんですよ。丸井が全然自分じゃないと思っていたら、谷口に神社へ連れて行かれて「野球部を頼むぞ、次期キャプテンとしてな」って。そこにイガラシもやってきて「お願いしますよ丸井さん」なんていって、3人のキャプテンが集結するシーンとかすごい好きですね。そこでも肝となっているのは丸井だし、ストーリーも丸井の目を通して見ちゃう部分ってありますよね。結局自分に一番近いのが丸井だし、我々はなんだかんだ丸井と共に成長したんだと思います。 ――ちなみに、他の野球漫画って読んだりするんですか? 高橋 まあ『巨人の星』は読んでましたし、後に『名門!第三野球部』や『県立海空高校野球部員山下たろーくん』とかも。 ――あ、やっぱり努力する系の野球漫画が好きなんですね。 高橋 『第三野球部』『山下たろーくん』あたりは、おそらく『キャプテン』ありきじゃないですか。ああいう等身大の野球漫画のパイオニアですからね。実際に、いろんな野球選手が『キャプテン』を読んでいたっていうのも納得できますよ。『巨人の星』だけ読んでたら、大リーグボールが投げられないって分かった時点で野球やめちゃいますもん。『必殺仕事人』を見て、三味線の糸を投げる練習をしていた俺としては。 ――『キャプテン』を読んでいれば、神社で練習さえすれば結果を出せると思えると。 高橋 『キャプテン』を読むと野球をやりたくなるっていうのはすごく分かりますね。……俺はやってなかったですけど。 ■これなんだなあ……社長がみんなをひっぱる力は…… ――アニメの話に戻しますけど、『キャプテン』って声優さんがすごく特徴的じゃないですか? 高橋 みんな超・棒読みですからね。イガラシが「なんにもわかってないんだなぁ、キャプテンが……(棒読み)」とか。声質も真っ直ぐで抑揚のない感じで、当時はヘタとか思わなかったけど、今見るとものすごい棒読み! 丸井の声優さんも今聞くと、……俺がいうのもなんですけど、滑舌が悪いんですよ。わざと純朴な感じで過剰に抑揚をつけたりしないようにしてるのかな? と思ったら、全員児童劇団の人が演じてたらしいですね。
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神社で練習する谷口。(C) ちばあきお・エイケン
――しかも、イガラシは小学生だったらしいですよ。近藤だけはイメージに合わなかったから大人の声優を連れてきたみたいですけど。 高橋 そう『ドラゴンボールZ』のフリーザ(中尾隆聖)なんですよ。『あしたのジョー2』のカーロス・リベラもやってて、「どこかで聞いたことがあるな~」と思ってたら「カーロス・リベラだ!」って! ――ジブリアニメでは声優以外の人が声を当てているケースが多いですけど、ある意味その先駆けともいえますよね。 高橋 『耳をすませば』のお父さん(立花隆)とかね。「わが図書館もついにバーコード化するんだよ(棒読み)」。あと『風立ちぬ』の庵野(秀明)さんとか(笑)。『キャプテン』の場合、子どもが演じているから、段々と上手くなってくるんですよ。イガラシなんかは特に、技術的にもつたなくて声も出てなかったのが、途中で声変わりしたのか、声ができてくるのがわかるんですよ。それがイガラシの成長ともシンクロしているんですよね。ただ、イガラシの声優さんはWikipediaを見てもその後の活動が一切わからなくて……。おそらく、これ以降目立った活動はしていないんでしょうね。普通に会社員とかになってて「これなんだなあ……社長がみんなをひっぱる力は……(棒読み)」とか言っててほしいな! ■人力舎のイガラシは相方・今野!? ――お笑いの世界も先輩後輩の上下関係が厳しい世界ですけど、先輩になって欲しいキャラクターって誰ですか? 高橋 そこはやっぱり谷口でしょうね。男って背中を見せられるのが一番グッとくるじゃないですか。つべこべいわずに自分でやる。厳しい練習で他の部員たちが「キャプテンがうらやましいぜ……ただノックさえしてりゃあいいんだからな」とか言って抗議しに行こうとすると、上手い具合に谷口が神社で特訓してるんですよね。それでイガラシが「これなんだなあ……キャプテンがみんなをひっぱる力は……(棒読み)」みたいな(笑)。アニメだから都合良く秘密の特訓を見られちゃうんですけど、そうやって背中で語るのが一番伝わるから、憧れの先輩としてはやっぱり谷口ですね。キャプテンとしては別格ですもん。丸井もイガラシも、自分がキャプテンになってからも谷口のことは意識していたと思います。 ――それに比べて谷口の前のキャプテンの影の薄さときたら……。 高橋 ホントですよ! でも、ちょっと練習を見ただけでヘタクソだった谷口をいきなりキャプテンに抜擢した選球眼は卓越してる! まさに「ナイスセン!」。あの名もなきキャプテンが谷口に任せなかったら、墨谷二中の快進撃もなかったわけですから。あのキャプテンが最高のキャプテンですよ。 ――それじゃあ、プロダクション人力舎における谷口といえば誰ですか? 高橋 こんないい人いるわけないじゃないじゃないですか! こんな人は芸人になんてならないですよ。 ――じゃあ丸井は? 高橋 ダメキャラなんだけど熱い部分もあり、実はがんばっているということで……ドランクドラゴンの鈴木さんとか。一番後輩に近いというか、昔からよく一緒に遊んでくれたんです。まあ、ただ単に釣り行く後輩がいなかったってだけかもですけども。
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イガラシ=キンコメ今野? そういえば『ニコニコキングオブコメディ』で、こんなシーンを見たことがあるような……。(C) ちばあきお・エイケン
――丸井も、高校に友達いるのかっていう問題がありますからね。 高橋 中学の部活に顔出してばっかりですから。そういう意味でも鈴木さんに似ていますね。なにかと後輩目線で話を聞いてくれたり。それに鈴木さん、鼻は黒くないですけど腹黒いですから。 ――天才肌のイガラシは? 高橋 イガラシは、なぜか後輩っていうイメージがあるんですよ。生意気なんだけど「こいつにはかなわないな」っていう。そう考えると……相方の今野とかじゃないですかね。年下だし、憎たらしいけど、ここ一番で「かなわないな」ってことをいわれちゃう。養成所に入ってきたときの雰囲気とかも似ていたかな。顔もちょっと似ている気もしますし。あの淡泊な顔というか。 ――一番問題児の近藤は? 高橋 うーん、鬼ヶ島のアイアム野田とか……。ものすごいバカキャラなんだけど、その面ではやっぱりかなわない。人なつっこくて、みんなから愛されてる感じも似ていますね。まあ、野田はものすごく打算的に愛されようとしている部分もありますけど。「俺はかわいがられているからこれでいいんだ」とか自分でいっちゃいますから。 ――近藤が「外野を守ってるの見られたら恥ずかしい」とかいっちゃうみたいな。 高橋 そうそう。それも悪気なくいってますからね。そういう自分のことしか考えていない感じも似ています。 ■『キャプテン』は腐女子にもオススメ!? ――『キャプテン』は連載開始が1972年という古い漫画ですけど、それが2007年に実写映画になったり、今年Blu-rayになったり、いまだに愛され続けている理由はなんだと思いますか? 高橋 まあやっぱり……等身大の野球漫画としての完成形だから古びないんでしょうね。昔の漫画やアニメって、やっぱり今見ると変な部分が多くて、つっこんだり、揚げ足取りなが見ちゃうじゃないですか。でも『キャプテン』は本当に素直に見られるんですよ。たぶん、今の野球部の人が見ても「野球部員はこうあるべき」みたいな部分は変わっていないと思います。それは野球の人も、サッカーの人も、僕のような芸人でも通じるものがあるんじゃないかな。僕がやたらとコントの練習をしたがるのは間違いじゃなかったんだ! ――練習は裏切らないと。 高橋 まあ僕はキングオブコントの決勝前に7時間も練習したせいで口が回らなくなって本番で盛大に噛みましたけど……。野球でも、練習し過ぎて肩壊しちゃうとかもあるんで、やたら練習すればいいってわけじゃないですけどね。 ――谷口も無茶しすぎて指をケガしてましたから……。 高橋 あとは、僕の独自の見解ですけど、丸井とイガラシの関係なんかは、今で言う“萌え”的な見方もできるんじゃないかと思います。 ――ああー、分かります。 高橋 反発しながらも、最終的に認め合ったり。憎まれ口を叩きながらも、イガラシのことを一番買っているのは丸井だったり……。今の女の子が読んでも興奮できるんじゃないかと。
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イガラシ×丸井でBLもアリ?(C) ちばあきお・エイケン
――BLになっていてもおかしくないと。 高橋 そういう雰囲気、俺でも感じますもん。近藤のことで丸井が怒って部室に帰っちゃうんですけど、イガラシが迎えに行って『そのうちキャプテンも近藤とウマがあうようになりますよ、きっと!』『ぼくだって最初はキャプテンにきらわれたじゃないですか』っていうんですよ。それに対して丸井は『お前なんか、いまでも好きじゃねえよ』って。要はそんなことを言い合えるまでの関係になっているってことですからね、キュンとしましたよ! しかも部室にふたりっきりなんですよ! 時代が時代だったらよからぬ方向に行ってますよ。 ――腐女子の人たちにも是非見てもらいたいと。 高橋 野球部とか関係なく、いろんな人の心に響くと思います。俺なんて帰宅部なのに泣いてましたからね。あれ、何に対する涙なのかまったくわからないですけど。考えてみれば野球部を真面目にやっていたら夕方のアニメなんて見られないですからね。帰宅部のバイブルですよ。まあ、今回Blu-rayになったので野球部員の方たちも練習が終わった後に見られますから、是非! (取材・文=北村ヂン) ●高橋健一(たかはし・けんいち) 2000年にプロダクション人力舎のお笑い養成所「スクールJCA」同期生の今野浩喜と「キングオブコメディ」結成。2005年「第3回お笑いホープ大賞」受賞、2010年「キングオブコント2010」優勝。 著書に『卑屈の国の格言録』(サイゾー/小明との共著)。 サイゾーテレビ『ニコニコキングオブコメディ』出演中。 ●キャプテン コンプリートBlu-rayBOX http://www.odessa-e.co.jp/cont/captain/index.html

金、女、野望、復讐……柳沢きみお『青き炎』と『DINO』に学ぶ、アウトローな生き方

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青き炎』(実業之日本社)
 女性にとって、結婚したい男と付き合いたい男は違う。金持ちで優しい男が結婚相手としては理想だけど、付き合うんならどこか翳があって、ちょっと危険でワルな感じのする男がいい、というのが昔からの定説ですよね。もちろん、男目線で見ても憧れるのは後者のような男じゃないでしょうか。  今回ご紹介する柳沢きみお先生の『青き炎』と『DINO(ディーノ)』は、まさにそんな主人公が登場します。どちらもイケメンで高学歴、スポーツ万能という誰もがうらやむ天賦の才能を持ちながら、自らの野望達成のため、あえてドス黒い悪の道に進んでいくというピカレスク・ロマンです。  『青き炎』は、金と権力を手に入れるために徹底的に女を利用し、時には殺人も厭わない。そんなダークネスな男の一代記です。  主人公は海津龍一という高校生。成績優秀、スポーツ万能、おまけにイケメンという三拍子そろった男子なのですが、高校では友達を作らず、部活にも所属せず、おまけに家族とも折り合いが悪く、父親に「何を考えてるのかさっぱりわからん」と見捨てられている状態。筋金入りの一匹狼です。愛想がないので「氷のような人間」として男子からは嫌われていますが、イケメンでクールなので女子からは人気があるのです。性格が激悪でもイケメンならモテるという、実にわかりやすい事例です。  そんな龍一がどれだけ危険でワルな男なのか、ダイジェストで紹介しましょう。個人的には、絶対友達になりたくないタイプです。  高校生なのにホステスを愛人に持ち、しかもその女に貢がせている。  ホステスと二股をかけて、カネ目当てで大病院の娘と付き合う。娘の父親を脅して、手切れ金1,000万円を請求。  頭がいいので、ちゃっかり慶応義塾大学に合格。テニスサークルに入部して、モテモテ。  入部早々、速攻で部長の彼女に手を出して部長の怒りを買い、テニスの試合でボコボコにされるが、サークルを休んでテニススクールで1カ月特訓を積み、部長にリベンジ。今度は龍一が圧倒的な勝利を収め、部長に赤っ恥をかかせてサークルから追い出します。  テニサーと並行して、ディスコの黒服バイトを始めます。女殺しテクに磨きがかかり、ホストやヤクザとも付き合いだして、さらにタチが悪くなります。  究極のお金持ち、住菱財閥のお嬢様に目をつける。お嬢様がラグビー好きと見るや、ラグビー部にサクッとくら替え。運動神経バツグンなので、すぐに大学の代表選手に選ばれる。もちろん龍一の狙いは、住菱財閥に婿入りしてカネと権力をゲットすることです。  住菱財閥の婿入りが不可能と見るや、6つのビルを所有する未亡人オバさんにターゲットを変更。オバさんを言葉巧みに口説き落とし、結婚にこぎ着けた後、速攻で交通事故に見せかけて殺してしまい、念願のビルオーナーとなります。そしてババア殺しの疑いをかけてきた親戚は、ヤクザを使って脅して黙らせます。  資産ゲットでついに野望達成かと思いきや、その後の展開では、予想外の転落が待っているわけですが……。 「大企業の社長になれた!? ふん、それがどうだって言うんだ。しょせんサラ公じゃねーか! そんなのになって大喜びしてるヤツもしょせん三流野郎だ!」 「本当のエリートってヤツを教えてやろう。自由に生きていて、若くして成功したヤツだ。それがエリートだ」  龍一のこんなセリフに象徴されるように、社会の歯車たるサラリーマンを徹底的に蔑み、イケメンと明晰な頭脳を徹底的に悪い方へ利用するという、バブルが生んだドス黒いアンチヒーローなのです。
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DINO』(ゴマブックス)
 一方、『DINO』は老舗デパートが舞台であり、主人公の家族を不幸に追い込んだ奴らへの復讐をテーマにした壮大なストーリーです。  主人公の菱井ディーノは丸菱デパート7代目社長、菱井丈一郎の息子です。しかし丈一郎は、丸菱デパートの番頭格であった樽谷一族にクーデターを起こされ、追放されてしまいます。その後、丈一郎は酒に溺れて死亡、母は家を出ていき、ディーノは親戚をたらい回しにされる不遇な少年時代を送ります。  高校に入学したディーノは、父が遺品として、1軒の家とフェラーリ・ディーノ206GTを遺してくれていたことを知って感激し、亡き父のために樽谷一族へ復讐して丸菱デパートを取り返すことを決意します。    いきなりオープニングの「お父さん、いよいよだよ」というセリフのあと「天罰を与えるべき者」という復讐リストがドバーンと出てきます。そこには樽屋一族をはじめ、クーデターに参加した当時の重役たちの名前がズラッと並んでいます。丸菱デパートに潜入して、このリストに載っている奴らに一人ずつ復讐していこうというのです。  復讐のため、養子先の杉野姓を名乗り、杉野ディーノとして東大を卒業後、トップの成績で丸菱デパートに入社。早速、幹部候補生となります。もちろん、イケメンでスタイルも抜群なので、デパート内の女子にモテまくり。新卒のくせに、配属された売り場内の女主任を速攻で口説く手の早さ。さすが、東大卒イケメン。 「なにもこんな30にもなったオバさんを抱かなくても、キミならいくらでもいるでしょ」 「ふう、僕はアナタくらいの年上の人が好きなんだ」  甘いピロートークで、女主任から丸菱デパートの内部事情を夜な夜な聞き出します。もちろんこの女主任は、ディーノが復讐するための情報源にすぎません。そして主任から得た情報を元に、矢継ぎ早に復讐を実行していきます。  最初のターゲットは曽根崎専務。専務に復讐する足がかりとして、コネ入社の息子・曽根崎フロア長を狙います。深夜のオフィスで女子社員とエッチする性癖のある曽根崎フロア長を背後から襲い、素っ裸のまま縛り上げ、翌朝フロア中の晒し者に。  息子の失態により、流通センターに左遷された曽根崎専務。しかし、ディーノの怒りはその程度では収まりません。追い打ちを掛けるように流通センターへ忍び込んで、放火するディーノ。曽根崎専務はショックで心筋梗塞を起こし、再起不能に。そう、これがディーノ流の天罰なのです!  2人目のターゲットは登戸副社長。登戸には溺愛する一人娘・恵がいます。ディーノは松野という偽名で恵に接近し、口説き落とします。そう、東大卒イケメンなら、どんなにうさん臭い偽名でもナオンを口説けるんです!  自宅に呼び寄せ、酒でベロベロに酔わせた恵の裸体を撮影。その写真を登戸副社長宅に送りつけます。登戸は怒りのあまり、朝帰りの娘の首を絞めて殺してしまい、そのまま失脚です。天罰……怖すぎですね。  このようにディーノは女から得た情報を元に、ターゲットのウィークポイントを徹底的に突く、ヤクザ顔負けの発想で冷徹に復讐を実行していきます。なんというガチすぎる復讐。東大卒イケメンのくせに、とんだ大悪党です。  この先も、ラスボスである樽谷会長を目指して着々と復讐を敢行していくのですが、ツッコミどころも豊富な作品です。  まず気になるのが、主人公の菱井ディーノというキラキラネームっぷり。名字を変えて杉野ディーノになっているので、先代社長の息子だとはバレていない、という設定なのですが、そもそもディーノっていう名前が個性的すぎて、普通にバレるだろという気がします。しかし作品の後半になるまでそのキラキラネーム問題はスルーで、散々復讐しまくった「え、今さら?」というタイミングで、ディーノという名前は目立つからマズい……となり、杉野一郎へと強引に改名します。一郎って……急に変えすぎだろ!  そのディーノという名前は、ディーノの父親・丈一郎の遺品でもあったフェラーリ・ディーノ206GTから取られているのですが、息子にスーパーカーの名前をつけるという発想もすごいですよね。そんな作品なので、本編の復讐ストーリーとは関係なく、柳沢きみお先生のフェラーリ偏愛ぶりが遺憾なく発揮されています。作品中にまったく脈絡なく「フェラーリの名車たち」というミニコーナーが割り込んできたり、「この車は男が一人で走らせるためにある。この車は男の汗だけを求める」みたいな、イケてるフェラーリポエムが突然挿入されたりするのも特徴となっています。特にフェラーリに興味がない人には読んでいて違和感がすごいのですが、これが逆にクセになってくるのです。  こんな感じで、最初から全力で悪の道を行く『青き炎』と、復讐という大義名分がありつつも結局人を殺しまくる『DINO』。対照的な2作品なのですが、どちらもダークな主人公を軸としたストーリーがとてつもない面白さで、やっぱりクールでワルな男の生き様はどこまでいっても魅力的なのだ、ということを証明してくれています。今さらながらアラフォーの僕も、『LEON』あたりを熟読してクールなワルを目指さなければ、と思うようになりました。まあ、厄年なので、すでに運勢は十分にワルいんですけどね。 (文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん<http://ablackleaf.com/>)

元祖“Lサイズ女子”の圧倒的包容力! 名作ラブコメ『Theかぼちゃワイン』の魅力

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The かぼちゃワイン』(著:三浦 みつる/秋田書店)
 大地の母、母なる海、人間空母……これらの言葉に代表されるように、古来より人は女性に対して雄大さとか母性とか包容力みたいなものを求めてきました(人間空母は関係ありませんけど)。  しかし、残念ながら現代の日本では、自分より小柄な女性を好む男性が多いといわれています。そしてマンガの世界でも、男子のほうが女子よりも高身長なカップル設定が圧倒的に多いです。男子のほうが背が高くて当たり前、という先入観がいつの間にか世の中に浸透してしまっているんですよね。  ところが、そんな先入観をひっくり返す、170センチオーバー、180センチオーバーの高身長女子、すなわち“Lサイズ女子”が活躍するラブコメが近年増えてきています。『富士山さんは思春期』をはじめとして『ハル×キヨ』『Stand up!』などなど、さらには一歩踏み込んで『七つの大罪』のような文字通り巨人族の女子(9メートル級)が登場するマンガもあります。まあ『七つの大罪』は、ラブコメじゃないですけど。とにかく、Lサイズ女子復権の時代が、確実に到来してきているのです。  復権という言葉を使わせていただきましたが、1980年代、元祖Lサイズ女子がヒロインのマンガが人気を集めました。『Theかぼちゃワイン』がそれです。  『かぼちゃワイン』は1981年から「週刊少年マガジン」(講談社)で連載されたマンガで、作者は三浦みつる先生。82年からはアニメ化もされているので、原作は読んでいなくてもアニメは見ていたという人も多いのではないでしょうか。また、『かぼちゃワイン』の正式タイトルに「The」がついていることを知らない人も意外と多いかもしれません。  『かぼちゃワイン』は主人公であり、チビで女嫌いの自称硬派・青葉春助と、大柄ヒロインのエルちゃんこと朝丘夏美の「SLコンビ」によるドタバタラブコメディです。サンシャイン学園中等部に転校してきた春助に、エルちゃんが一目惚れ。一方的にモーションをかけます。しかし、春助は女嫌い硬派のキャラを押し通そうとして、エルちゃんを邪険に扱います。  しかし、エルちゃんのポジティブさや一途さに、次第に自分もエルちゃんに惹かれていることを認め始めます。それでも頑固な春助の性格のせいで、正式なカップル成立には至らない……という、非常にヤキモキさせるストーリー展開です。  春助もエルちゃんも中学生(後半では高校生)なのですが、その身長差はかなりのもので、エルちゃんが片膝をついてしゃがんでいる状態と春助が直立している高さがほぼ同じというシーンがあります。  春助とエルちゃんの身長について公式発表はされていませんが、初期設定ではエルちゃんが175センチで春助が120センチだったといわれています。中学生で120センチって……まさに、大人と子どもですね。  『かぼちゃワイン』の作品の魅力はなんといっても、元祖“Lサイズ女子”エルちゃんの、母なる海を感じさせる圧倒的包容力に尽きます。一方で、主人公の春助はケンカっ早く、トラブルメーカーで、エルちゃんに対する言葉も相当キツいものがあり、恋愛対象としてはかなりどうかと思うところがあります。  例えば、春助のためにエルちゃんがお弁当を作ってくれたシーンでの、春助のセリフ。 「よけえなおせっかいはやめろっていってんだろ! だれがくうかっ、ぜったいにくわねえぞ!」  それに対するエルちゃんのセリフは 「ううんっいいの、いやならしかたないもんっ。あたしってほんとおせっかいだね!」 ……切ないです。  また、レストランで春助とエルちゃんが一緒に食事するシーンでは、ワリカンでお金を払おうとするエルちゃんに対し、 「女におごってもらうなんて男としてカッコつかねえじゃんか」 と、男らしく自分がおごる意思を見せますが、ポケットが破れてお金を落としてしまっており、食い逃げ疑惑で店員とレジでモメ始めます。  結局、エルちゃんが全額立て替えることになるのですが、男のプライドが邪魔して、素直に受け入れられない春助。金がないくせに、頑なに拒みます。その時のやりとりのセリフ。 「春助クンあたしにはらわせて!おねがいっ。ねっ」 「よ……ようし……そんなにたのむんだったら、はらわせてやらァ!」 「ありがとっ。春助クン」  ちゃんと春助のメンツを立てつつ、お金を払ってきっちり場を収めるエルちゃんの懐の深さ……まさに女神です。中学生にしてこんなできた女、そうそういないですよね。  これだけだったら、春助は体も器も小さいサイテー男なのですが、そこは主人公。随所に、エルちゃんに対する気づかいも見られます。  足をくじいた春助の手当てをしようと、自分が住んでいる女子寮に春助を引っ張り込むエルちゃん。男子禁制の女子寮に男を連れ込んだことがバレて、エルちゃんは朝まで食事抜きの独居房のような反省部屋に入れられてしまいます。  責任を感じた春助は、女子寮に再度忍び込み、エルちゃんが幽閉されている反省部屋にこっそりあんパンを差し入れします。喜ぶエルちゃんに対して…… 「い、いいかっ勘違いすんなよ! 別におまえが心配だからきたんじゃねえぞ」  そう、春助は決してエルちゃんが嫌いなわけではないのです、頑ななまでの男ツンデレなのです。もちろん作品連載当時はツンデレなどという概念はありませんでしたが、春助は80年代からすでに孤高のツンデレ男子だったのです。  とにかくエルちゃんは、春助のしでかしたケンカやトラブルを丸く収め、どんなに春助に憎まれ口を叩かれても、常にニコニコして決してへこたれないタフなメンタル。そして、最終的には圧倒的包容力ですべてを包み込んでしまう、中学生にして完成された母性を持つ女なのです。人間関係がギスギスしがちな今の時代だからこそ、エルちゃんのような体もハートもビッグなLサイズ女子が評価されるべきではないでしょうか? Lサイズ萌えの時代は、確実に到来してきていますよ!  ちなみに『かぼちゃワイン』には続編として『Theかぼちゃワイン Another』という作品があります。こちらは27歳、社会人となった春助とエルちゃんの話です。エルちゃんは春助の実家のランジェリーショップで働いており、春助は探偵事務所で働きだすのですが…… 「ねぇ、せっかくだから泊まっていけばいいのに」 「恋人同士でもないのにそんなこと出来っかよ!!」 「気安くキスすんなって言ってんだろ!」  というわけで、27歳になった2人の関係は、中学時代から何も変わっていませんでした。ダメだ、この甲斐性なし男は……。エルちゃん、いくら器がでかいといっても、いい加減キレるべきだと思います。 (文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん<http://ablackleaf.com/>)

元看護師・元風俗嬢・整形マニア……超個性派漫画家が語る、“やらかしすぎ”の人生

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 LD(学習障害)とADHD(注意欠陥・多動性障害)と診断された幼少期のこと、看護師から風俗嬢への華麗なる転身、整形にどっぷりハマった日々……自らに起こった面白くも壮絶な日常を明るく楽しく描き、人気を博している漫画家、沖田×華(おきた・ばっか)。望まれない妊娠、児童虐待、中絶の現実……最新作『透明なゆりかご』(KC kiss)では、高校2年生の時の産婦人科アルバイトで経験したさまざまな「命」の在り様を、10代女性の視点で描いている。今後、テレビコメンテーターなどとしての活躍も期待されている彼女が、世のさまざまなセイ―性、生、整(形)をsayする! ――沖田さんの経歴を拝見すると、一体どんな方なんだろうと……ネットでも「沖田×華とは何者なのか?」というまとめがあるくらいなんですよ。 沖田×華(以下、沖田) こんなんですよ、本当に(笑)。 ――元看護師で、元風俗嬢で、整形マニア。経歴がにぎやかすぎます。 沖田 おかしいですよね。 ――風俗のお仕事は、石川にあった伝説のおっぱいパブが最初だと。 沖田 そう、「山乳証券」です(笑)。そこから名古屋のマットですね。風俗で働くということに関してはあんまり抵抗なくて、看護師の仕事をしてたから、ちょっとやそっとの人体の不思議には驚かない。ただキャバクラとか、疑似色恋みたいなのでお金をもらうのはたぶんヘタクソです。「俺のこと好きなんだろ」って言われても「好きなわけないじゃん! 何言ってんだこのハゲ」って言っちゃう。そんなんだったら、体でおとなしくさせたほうがいいやと思ってまして(笑)。「私すごい頭悪いけど、23歳でどれだけ稼げるか実験したい」と思い、山乳のナンバーワン嬢に「(風俗で)一番キツいところ教えてくれ」とお願いしました。 ――己に課しますね~(笑)。 沖田 男の人に攻められるのは嫌いなので、マットヘルスにしたんですよ。マットだったら自分が好きなようにできて、90分コースがあるところならお金もいっぱい入るだろうと。そこでは2年くらい働いて。おかげで、いわゆる“マット筋”、上腕二頭筋と背中がすごく鍛えられました。 ――当時の話は『×華のやらかし日記』(ぶんか社)にたくさん出てきますよね。ちんこ話は本当に面白い(笑)。 沖田 私ね、名前覚えられないんです。お客さんたちはだいたい偽名ですし、“吉田ひろし”か“田中たけし”か。「も~、どの吉田だよ!」って思いながらお客さんのところに行って脱がせてちんこ見ると「あ、先月来た人や」って、やっとわかる。そこからは次から次へと想い出話に花が咲くんですけど、お客さんに「どうしていつも、最初の時間はおとなしいの?」って、怪訝そうな顔されますね。 ――まさか、顔見ても思い出せないとは言えませんもんね。 沖田 だから、さっさと脱がせる。 ――風俗嬢っていうと「不幸な生い立ち」とか「貧困」とか「情緒が不安定」とかベタなイメージで語られがちですが、沖田さんの本を読むと全然違うんですよね。 沖田 昔、待機所に風俗嬢のことを書いた本が置いてありまして、それを読んでは、みんなでバカにしてました。なんだこれ? 風俗嬢のこと書いてるけど、この人、風俗のこと何にもわかってなくね? って。風俗嬢のことを書く男性エッセイストを、くそみそにけなしてました。 ――どんなところに引っかかりました? 沖田 変にストーリー作りすぎ! ナンバーワン性感エステ嬢が「男の人とプレイすると、すごく気持ちが入っちゃう。だから終わった後に1時間かけて、そのお客さんのことを忘れて次のお客さんの相手をする」とか。ちょっと待て、これおかしくないか? だとすると、このナンバーワンは客と客の間に1時間のロスタイムがあるってことだよね? だったら、1日に3~4人しか客取れねぇじゃん! 今までナンバーワンの子、腐るほど見てきましたけど、そんなまどろっこしいことしてる子に会ったことないですよ。 ――男の願望なのかもしれないですね(笑)。 沖田 「風俗嬢=理由アリ」という。「なんでこんな仕事やってんの?」って聞くから「私エッチ大好きだから」って答えてるのに、「そんなはずはない。何か抜き差しならない理由があるはず」って、ねぇわ!(笑) それが必ず、プレイが終わったあとなんですよ。 ――本当にいるんですね。風俗嬢に説教する人。 沖田 いますいます。またモテないやつなんですよ。でも「前の仕事はなんだよ?」「正看(護師)ですけど」って言ったら、たいてい黙りますけどね。 ――考えてみたら、看護師さんという職業も妄想されがちな仕事でした。 沖田 合コンで「俺が倒れたら……」「俺の親が倒れたら……」(面倒見て)とか本当に言ってくる人がいて、なんで無給でそんなことしなきゃならんのだと唖然としたことあります。 ――介護要員!? 沖田 彼らは信じて疑わないんですよ。仕事と関係なく、病気の人を助けるのが私の生きがいなんだと。はぁぁぁ? ですよ。 ――整形にハマったのは、何かきっかけがあったんですか? 沖田 最初は胸でした。美容外科に勤めていたこともあり「このおっぱいが大きかったら、人生は無敵になるはず」と思いきってやってみたら、十数年悩んでいたことがたった1時間で解消されました。整形すれば、コンプレックス全部解決じゃん! と目からウロコだったんですよ。それからは自ら進んで、脂肪吸引、二重、脱毛……etc。 ――すごい。 沖田 ただ「人から言われて」整形すると、依存症になる危険が高いかも。自分で望んだわけじゃないから、やっぱり仕上がりがイメージと違う、それを繰り返すというパターン。あと10代だとまだ脂肪も硬いので、脂肪吸引は痛いです。顔もハリがあるから、まぶたを縛って二重にしても弾力でパンって戻ったりする。もう少し全体的にたるみ気味になってからやったほうがいいです。ちなみに私は22歳の時に脂肪吸引しましたけど、こんな痛いことあるかなっていう痛みでした。足はむくむし、内出血はハンパないし。放っておくと固まっちゃうので、「痛い痛い痛い」と叫びながら毎日10kmくらい自転車で走らなきゃいけない。 ――風俗や整形などの経験を描いた今までの著書と比べると、この『透明なゆりかご』は少しテイストが違いますよね。高2でここまで産婦人科の現実を経験するって、すごいことではないでしょうか? 沖田 まだ処女でしたしね(笑)。バイトの初日に「中絶」に立ち会ったんですよ。カーテン開けたら、女の人がパカーッて足広げていまして。そんなの見るのも初めてだったのに、ましてや中絶手術なんて……マスクの下で、あわあわエア絶叫してました。術後に先生から「これを片づけといて」って塊のようなものを渡されて、それを決められたケースに入れて、シールを貼るんですけど、そこに性別欄があったのを見て初めて「あぁこれは……」と気が付いた。不思議なことに、ちっとも気持ち悪くなかったです。 ――本にもありますが、「日本人の死因の第1位は人工妊娠中絶」(1997年当時)というのも、あまり知られてはいないことですよね。 沖田 病気じゃないんでね。(中絶は)防ごうと思ったら防げるような気がしないでもないじゃないですか。でも、こんなに産めない事情の人がいるんだ、10代の女の子がデキちゃって、彼氏は逃げちゃって、親にも言えないどうしようっていうシチュエーションはとても多い。知識がないこともあるけど、男に言いくるめられちゃう子がほとんどじゃないかな。「大丈夫、外に出すから」とかね。それじゃ遅いんだよ! 「避妊して」って言って嫌われたらどうしようって思っちゃうんですよね、好きだから。 ――かといって、この漫画はそういう男性への怒りが燃料になっているわけではないので、かえって胸に迫るというか、答えのない迷路にはまったような気持ちにもなりました。 沖田 半分くらいは「仕方ない」って考えているのかもしれません。男と女のズレは、どうしようもないなと思っちゃいますね。たぶん、男に対して期待してないんだと思う。こうしてほしいとかああしてほしいとか思うから不満も出てくると思うんですけど、私はそういう感情が薄いんですよ。男のキャラを描けない理由もそれ。男のキャラクターは描いても動かないので、すぐ殺しちゃう(笑)。 ――『透明なゆりかご』で印象的だったのは、高校当時の沖田さんが「母性とは何か」考えあぐねているくだりでした。もしかしたら、この本のテーマそのものなのかもしれませんが。 沖田 そうですね。母性は、たぶん私自身にはないものなんです。看護学校時代も「母性とは脳みその中にシステム的に組み込まれていて、それが出産と同時に出てくる」って教わったんですけど、赤ちゃんを見ても自分の中にまったく感知できなくて。あれほど出産を心待ちにしていた人が、実際に生まれてきた赤ちゃんを見て「違う!」って否定する現場も目の当たりにしてきました。あまりにも個人差が大きすぎて、一言で「母性とはこういうもの」なんて言えないと思います。言えたとしても、それはあくまでも自分が思っている範囲のことであって、結論は出ないものじゃないですか。でも母性がなくても子どもを育てている人はいる。そういう人に「それでも子どもは育てられるものなの?」って聞いたら「義務だ」って。産んだこの子をいっぱしに育てるという義務。だからといって、嫌々やっているわけじゃないんですよ。自分に与えられた仕事として、ちゃんと子育てをする。そういう人もいるから「母性を語る」って相当難しいことだと思います。ただ女が唯一子どもを産める性だから、出てこざるを得ない問題なんだろうなとは思います。 ――児童虐待などは、必ず「母性」とセットで語られますよね。 沖田 それはちょっと違いますよね。「母性」はもっと移ろうもののような気がします。どんなに泣いてもかわいいと思える日もあれば、何をしてもかわいいと思えない日だってあるでしょう。グラフがこう、上と下を行ったり来たり繰り返すような状態じゃないですか? 親は子どもと一緒にいることで“耐性”を高めていくというか、勉強しながら育っていくんだと思う。そして何事にも動じなくなった時に、そのグラフはゆるやかに一定するんじゃないでしょうか。  ――高校生の時のあのバイトが、今の沖田さんに影響を与えているのはどんなところですか? 沖田 「私は妊娠できない」という確信かな(笑)。とりあえず10代は絶対に妊娠しちゃダメだと。避妊に関しては, ものすごく厳しくなりました。当時相手はいなかったですけど(笑)。夏休み前に友達集めて「私、今こういうところでバイトしてて、若い子の中絶すごい多いからさ、中絶ってああしてこうしてこうやってやるんだよ」って話をするんです。だいたいみんな「やめて~!!」と言います。それで「わかった? ちゃんとゴム買うんだよ」って促して解散(笑)。 ――「経験者は語る」いや、「目撃者は語る」ですね。 沖田 中絶は、痛いし、ツラい。私のように実物を見ることはないけど、やっぱり心の傷になる。一方で男は、な~んにもダメージない。「今はダメだけど、今度結婚するときに作ろうよ」くらいの軽いノリ。そのズレ。中絶したカップルは、すぐ別れます。男は普通のテンションなんだけど、女はそのうち去っていく。そりゃそうですよね。「私はあなたのこと信じて子ども作って体も傷つけたのに、どうしてそんなに軽いの?」って。でも、それは男の人にはわからないんです。おそらく、一生埋まらないズレなんでしょう。 ――今までの体験談を漫画にしたことで、何か変わったことはありますか? 沖田 そうだなぁ……。自分より周りの目、かな。ある程度口では言ってましたけど、実際に本になるとね。『やらかし日記』なんか、こんなに明るく風俗嬢の日常を描いてるのに、まだ「悲劇のヒロイン」的観点でレビューを書く人がいるんですよ。「きっと親に愛されなかった子なんだろうな」とか。だからここまで描いても「元風俗嬢」というのは世間的にはものすごくマイナスなんだとわかったし、自分がまったく感じてないことや思っていないことを勝手に結論づけて語られるんだなとも。私、別にツラくないですよ(笑)。 ――沖田さんはこれからテレビのコメンテーターなどで、ひっぱりだこになる予感がします……。 沖田 いや、無理です。絶対に言ってはいけないことを言ってしまう(笑)。私はたぶん好きなんですよ、人の体を触るのが。いやらしい意味ではなくね(笑)。昔タイに行った時に怪しげな店で「きんたまマッサージ」を教えてもらったことがあるんです、60くらいのおばちゃんに。あれはすごい技術らしい。「きんたまマッサージは、ちんこじゃなくて脳みそが元気になる」って、そのおばちゃんが言ってました。今の彼氏に毎日やってるんですけど、特に反応なくて(笑)。次はきんたまマッサージ師っていう仕事もいいなと、ちょっぴり考えている今日この頃です。 (取材・文=西澤千央) ●おきた・ばっか 富山県出身。1979年2月2日生まれ。小学4年生の時に、医師よりLD(学習障害)とADHD(注意欠陥・多動性障害)の診断を受ける。看護師、風俗嬢を経て、2008年『こんなアホでも幸せになりたい』(マガシン・マガジン)で漫画家デビュー。著書に『×華やらかし日記』(ぶんか社)、『ガキのためいき』(講談社)ほか。