「やっと“憂鬱な家族”を笑い話に変えることができた」漫画家・まんしゅうきつこの逃げ続けた過去

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撮影=後藤秀二
 壮絶なアルコール中毒体験を漫画にした『アル中ワンダーランド』(扶桑社)がスマッシュヒット。そして2015年12月、まさに“満を持して”原点である伝説的ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」が『まんしゅう家の憂鬱』(集英社)として書籍化された漫画家・まんしゅうきつこ。奇抜なペンネームから想像もつかない端麗な容姿、そしてシュールかつゲスかつユーモラスな作風で一躍時の人となった彼女が抱える、本当の「憂鬱」に迫る。 ――『アル中ワンダーランド』のヒットで、周りの環境など、何か変わったなと思うことはありますか? まんしゅうきつこ(以下、まんしゅう) 名前問題は相変わらずありますよ。私、「ナタリー」さんにタグを作ってもらえないんです。ほかの漫画家さんは、みんなタグがあるのに。結局ヒットしても、そこまでのヒットじゃない。やっぱり30万部くらいは売れないと……。 ――ペンネームで自ら業を背負い……。 まんしゅう 名前のせいなのか、私自身が嫌われているのか、それはわからないんですけど。この間トークイベントをやったときに、「おめおめこさん」というライターさんが来てくださって。やはり変わった名前の方は、親近感を持ってくださるようです。でも、そのあとに「潮吹プシャ美さん」(あやまんJAPANユース)がいらっしゃったときは、さすがに自分よりすごいな……と思いました。上には上がいるものですね。 ――まんしゅうさんは、確実に「その世界」の扉を開いたと思います。 まんしゅう 先人として、このままいくしかありませんよね。 ――メディアなどに顔出しするようになって、変わったことはありますか? まんしゅう 特にないですね。顔出ししたから本が売れたのか、しないほうが売れたのかは、よくわからないですけど。顔出ししたことを、快く思わない人もいるじゃないですか。漫画家たるもの、表に出ないほうがいいと思う方は多数いらっしゃるので。 ――ミステリアスな存在であってほしいという。 まんしゅう 私、精神的によくないので、ネットはアマゾンのレビューさえも見ないようにしてるんですけど、さすがにグラビアに出たとき(「週刊SPA!」4/14・21号)だけは恐る恐る見ちゃったんですよ。そりゃもう、散々でした。「ブス」だの「鶏ガラ雰囲気ババア」だの。「まんしゅうきつそうな顔してるな」っていうのも、もちろんありました。 ――ショックを受けましたか? まんしゅう でも、顔出しする前の「美人らしい」とかいわれてる時期がすごくイヤだったんですよね。だから、晴れてババアだの鶏ガラだのが明らかになって、ホッとした部分は正直あります。ウワサがひとり歩きしてハードルが上がりすぎて、でもフタを開けてみたらこれですよ。
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■弟がしんどい ――さて、このたび出版された『まんしゅう家の憂鬱』には、家族とのエピソードがたくさん綴られています。 まんしゅう 最初に書籍化の依頼があった版元の担当さんから漫画として描き下ろすよう言われて、でもそうなるとあのブログ特有の、スクロールすると画が出てくる“びっくり箱”的期待感が薄れてしまうんですよね。それは、私の能力と技術が追い付かないということなんですが。2本くらい描いて「う~ん」ってなっちゃって、それからずっと渋っていたら、その編集さんとは結局、違う漫画を描くことになって……。その直後くらいですかね、「集英社さんから出したほうがいい」っていう、啓示を受けたのは。 ――……啓示、ですか? まんしゅう そうです。でも、そのときは何も考えずに、ただ「集英社さん」っていう啓示を受けたと思っていたんですけど、よくよく考えてみたら、集英社さんから出せば『ドラゴンボール』の悟空(註:少女時代のまんしゅうさんの憧れの人。『まんしゅう家の憂鬱』にも登場)に目線が入らないの。 ――啓示は、どのタイミングでやってきたんですか? まんしゅう あの、フェイクプレーン(飛行機に擬態しているUFO)から(笑)。そのとき犬の散歩してたんですけど、急いで家に帰って、弟に「フェイクプレーンがね、集英社だって」って言ったら「全部オマエの声だよ!!」って言われちゃった。 ――弟さん(写真家の江森康之氏)との関係も、本当に面白いです。 まんしゅう 持ちつ持たれつって感じなんですよ。弟とは、合わせ鏡みたいな関係なんです。相手が元気ないと、自分まで引っ張られてしまう。 ――姉弟というか、双子みたいですね。 まんしゅう 確かに。いま弟夫婦の家の一室をアトリエとして借りているんですけど、私がいつものように漫画を描いていると、弟が扉をバっと開けて言うんです。「オマエ、どんどんブスになっていくな」「最近、毒が回ってて、だらしなくなってるぞ」と。 ――突然ですか? まんしゅう はい。弟って、めちゃくちゃストイックなんですよ。夏は部屋が42度くらいになっても、絶対にエアコンをかけない。「汗をかくと、精神状態が安定する」「汗をかくのは、うつ病にいい」というヘンな持論があって。それを、私にも強要するんです。無理ですよ、42度なんて死ぬじゃないですか。でも、エアコンをかけると、どこからともなく怒鳴り込んできて、「エアコンかけただろ!」って。あと「スープ春雨なんて食うな! 見ろ、この添加物!」とかもありますね。あの子、本当に漬物と玄米とか食べてるんですもん。 ――ストイックの域を超えてますね……。 まんしゅう でも、それをやったら私の人生も楽しくなると信じてるから、タチが悪い。弟の奥さんなんて、もっと大変ですよ。結婚して10kg痩せましたからね。最近では弟の罵声があまりにも大きすぎて、家の前に住んでいるおばあちゃんが弟のことを無視するようになりました。弟が「おはようございます」って挨拶しても、目も合わせないそうです。田房永子さんの『母がしんどい』(KADOKAWA/中経出版)ってありますけど、「弟がしんどい」っていう、そういうレベル!
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■機材代に200万円つぎ込んだ、宅録娘時代 ――……話がそれましたが、一度は筆が止まった『まんしゅう家の憂鬱』をまた描こうと思ったのはなぜでしょうか? まんしゅう 正直、もうやめようと思っていたんですよ。ブログもなかったことにしていただいて、今までの生活に戻ろうと。普通の主婦の生活にね。ただ、私は今までいろいろなことからすぐ逃げてきたので、さすがに35歳も過ぎてここでやめたら「またやめるんかい!」ってツッコむ自分もいたんです。だから、漫画だけはもうちょっと頑張ろうと。 ――今まで、どんなものから逃げてきたのですか? まんしゅう 22歳くらいから宅録をしていたんです。自分でドラム叩いて、ギター弾いて、ピアノ弾いて、作詞作曲して……みたいな。デモテープ作って送って、レコード会社から連絡もらったこともありました。それも、漫画の持ち込みと同じく、ダメ出しをされるわけですよ。そうなると「やっぱりいいや」って心が折れちゃって、そこでやめちゃった。結局、最後まで頑張れなくてやめちゃう。 ――レコード会社から連絡来るなんてすごい! まんしゅう かなり本格的にやってたんですよ。だって、機材代に200万円くらいかけてますから。バニーガールとキャバクラのバイトでためたお金を全部つぎ込んで。親は「あいつ大学留年したのに、何やってんだ!?」って思っていたでしょうね。 ――そんな宅録娘が今度は漫画家として、しかも『まんしゅう家の憂鬱』という家族の本を描くとは……。 まんしゅう 本当ですよ。ただ父と母は、まだ読んでいなくて。特に父は、読んだらなんて言うか……。この本に、父が松葉杖ついてるシーンがあるじゃないですか。あれ、事実なんですけど、ブログにアップしたときに父から「ウソ描くな!」って怒られたんです「俺はやられてない。逆に俺がボコボコにしてやったんだ」と。プライドがあるみたいで(註:本書に出てくる、弟の友達とケンカするシーンでのこと)。怖いです。母には「父を本屋に近づけないで」と、お願いしてるんですけど。 ――そんな危ない橋を渡ってまで(笑)、家族の話を描くのはなぜですか? まんしゅう 家族ものを描いてくれっていうオファーが、すごく多いだけ。家族の話にすると、どんなにぶっ飛んだ内容でも、結局、普遍的なところに落ち着くじゃないですか。でも、正直言えば家族のことは描きたくないです。 ――それはなぜですか? まんしゅう 私は今でも父が怖くて、父のイラストを描いているときは動悸がしてきちゃうくらい。昔ね、父がでっかい置時計を持って私を追いかけてきて、母が「逃げてぇぇぇ!!」って絶叫したことがあったんです。私、裸足のまま家から飛び出して、そのまま車の中で夜を明かしたんですよ。だから、父を描いていると、どうしても人殺しの目になっちゃう。 ■家族のことを書く、ということ ――……家族の漫画を描いて、よかったなと思ったことは? まんしゅう 私、自分の家族が変わってるなんて、1mmも思ったことなかったです。でも友達が遊びにくると、必ず言われる。「ほんっとに、変わってるねぇ……」って。まず聞かれるのが「ケンカしてるの?」です。ケンカはしてないんです。ただ会話が常にケンカ腰で、罵声が飛び交ってる家なんです。この本を描いて、みんなに「面白い」って言われて、ようやく「うちは変わってたんだ……」と認めることができました。 ――家族のことを描くというのは、自分を見つめる作業でもあったんですね。 まんしゅう つらかった話を笑える話に変換させることで、嫌な気持ちを昇華させているのかもしれません。うまく説明できないけど、私がこれから生きていく上でとても大切な作業だったと思います。 ――今後、描いてみたい題材はありますか? まんしゅう 本当はノンフィクションではなく、フィクション作品を描きたいんですよ。スポ根とかカンフー漫画とか。殺人拳法のお話とか。正直、私にとって、エッセイ漫画は楽なんです。実際体験したことを絵にするのは、フィクションよりたやすいと思う。本当にやりたいのはフィクションですけど、そこまでの能力はまだ自分には備わっていないので、もう少し修業して、技術力を身につけたいですね。 ――殺人拳法のスポ根漫画、楽しみに待ってます! まんしゅう ……でもわからない、いつやめたいという気持ちが勝ってしまうか。来年くらい、全部の連載終わりにしてたりして(笑)。 (取材・文=西澤千央)

『おそ松さん』よりブラック! 六つ子の厳しい現実を描く、学習マンガ『ニャロメのおもしろ性教室』

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『ニャロメのおもしろ性教室』(角川書店)
 赤塚不二夫先生の生誕80周年記念作として、大人になった現代版『おそ松くん』のアニメ、『おそ松さん』(テレビ東京系)が10月から放送されていますが、皆さんはご覧になりましたか? 六つ子が全員ニートでハローワーク通いをしていたり、声優がことごとくイケメンだったり、あまりのブラックさに、1話目がお蔵入りになったりと、何かと話題に事欠かないアニメ作品で、すでに、2016年からの第2クールの放送も決まっているとか。とにかく、すごい勢いです。  今回は、そんな『おそ松さん』ファンなら必読の『ニャロメのおもしろ性教室』(角川書店)をご紹介しましょう。本作は赤塚先生が手がけた学習マンガシリーズのひとつで、ほかにも『ニャロメのおもしろ数学教室』『ニャロメのおもしろ宇宙論』などが出版されています。学習マンガでありながら、赤塚キャラのシュールさと随所にちりばめられたギャグで、小難しい内容を、まるで『天才』バカボンを読んでるかのように楽しく学べてしまうという、実に画期的な学習本。もちろん『ニャロメのおもしろ性教室』も、基本的にはマジメに性を考える本になっています。あくまでも、基本的に……なのですが。  本シリーズは作品の枠を超えて、赤塚キャラがオールキャストで登場するのが魅力です。バカボンやバカボンパパはもちろん、ひみつのアッコちゃん、ウナギイヌやイヤミ、チビ太、おまわりさんなどのサブキャラ、そしてもちろん、おそ松くんも登場しています。  バカボンがニャロメ先生に勃起や性病について教わったかと思えば、SMやスワッピング、ゴム&革フェチといった、学習マンガでそこまでやらなくていいだろ! というレベルまで紹介されています。さすが赤塚先生、単なる学習マンガとは一味も二味も違う内容になっています。  なんといっても、本作品最大の被害者は、ひみつのアッコちゃんです。紅一点として、ありとあらゆる赤塚キャラからセクハラされまくり。  女性の体の紹介のために全裸にさせられたり、おそ松くんにボインタッチされたり、バカボンに「子どもをつくろう」と言われたり、チビ太に処女膜の話を振られたり……。もはや、同情したくなるレベルです。  そして、おそ松くんはといえば、思春期の多感な男の子としての役回りが課せられており、男子特有の現象がおそ松くんの体に起こります。  朝起きると、パンツの中に白い液体がベットリとついているおそ松くん。おそ松くんの体に、いったい何が起こったというのでしょうか!?  ここでズバリ、ニャロメ先生のマジメな解説です。 「これを射精というニャロメ!」  そうです。おそ松くんは、この作品で初めて射精というものを知ったのです。初めての射精の瞬間をネタにされるギャグマンガの主人公って、なかなかレアですよね。  また、おそ松くんが木登りをしたり、鉄棒や相撲をやっている時に刺激されて思わず射精してしまった現象については……。 「これを遺精(いせい)というニャロメ!」  これまた、ニャロメ先生の明快な解説です。なるほど、相撲を取る時は要注意なんですね! とにかく、おそ松くんが作品中で射精したり遺精したりと、本当の意味で「お粗末」な感じになっていくわけです。 「避妊」を解説する章では、おそ松くんのパパが、若気の至りで子どもを6人もつくったことで経済的に苦しく、後悔しているという、おそらく『おそ松くん』ファンが一番見たくなかったリアルなシーンが描かれています。 「なんて馬鹿なセックスをしてしまったんだろう…」 「妊娠しても、人工中絶しときゃよかった」  おそ松くんのパパの、現実的すぎるこのセリフ……。いろんな意味でブルーになりますね。「人工中絶」とか、もはやおそ松くんという作品の存在意義に関わる問題です。もし実行していたら、当然『おそ松さん』も存在し得なかったわけですからね。  そんな生々しい話の流れから、避妊の大切さについての話に展開するわけですが、ここでは性教育のお約束、コンドームの着け方についてイラスト付きで解説されています。ちなみに、イボ付きコンドームは使っても意味がないんだそうです。割と大きなお世話ですね。  そのほか、ラブドールを通して性の未来について語ったりとか、とにかく子ども向け学習マンガとは思えないレベルの解説がふんだんに盛り込まれている『ニャロメのおもしろ性教室』。ぜひ、『おそ松さん』鑑賞のお供に読んでみてはいかがでしょうか? (文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん<http://ablackleaf.com/>)

“ニルヴァーナ・トリップ”からバトルまで 読み手を選ぶ、異色のサウナマンガ『フィンランド・サガ』

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『フィンランド・サガ』(吉田貴司/モーニング KC)
「いつだってそう、真実はサウナでつぶやかれる」  今年もいよいよ、さむ~い冬がやって来ます。この季節、温泉や銭湯もいいですけど、体を芯から温めるんだったら、なんといってもサウナじゃないでしょうか。  スーパー銭湯や健康ランドには、必ずといっていいほどサウナが常設されています。それほどまでに、サウナ人口は多いのです。しかし「サウナなんか使ったことない」「熱いし、息苦しいし、いったい誰が得するんだよ、あんなもの」と思っている人もまた、結構多いのではないでしょうか。  今回はそんな、ハマる人とハマらない人がくっきりと分かれてしまう「サウナ」をテーマにしたマンガをご紹介します。  みなさんは、『サ道』(パルコ)という本をご存じでしょうか? 漫画家であり、「コップのフチ子」の発案者であり、そして日本初のサウナ大使でもあるタナカカツキ先生による、サウナエッセイ&マンガです。 『サ道』は、サウナの魅力をまだ知らない人をサウナジャンキーの道へと誘う、入門書といえます。サウナと水風呂の交互のセッションワークを繰り返すことにより、突然ありえないほどの気持ちいい状態、「ニルヴァーナ状態」が訪れるという衝撃的な内容が紹介されています。そう、みんなが苦手なあの水風呂こそ、サウナトリップの秘密! というわけです。さらに現在、「ビッグコミックスピリッツ」(小学館)で『マンガ サ道』というコミカライズ作品が月イチ連載されており、サウナブームが静かに、そして確実に訪れているといっていいでしょう。  この『サ道』こそ、日本で唯一のサウナマンガかと思われたのですが、実はもうひとつ、サウナをテーマにしたマンガが存在していました。その名も『フィンランド・サガ』。 『サ道』がサウナのイメージアップをテーマにしているのに対し、『フィンランド・サガ』はもっとストイックで、サウナの「殺伐とした感じ」や「重苦しい雰囲気」が表現されている作品です。  主人公は“プロサウナチャンピオン”本庄丈一郎。この時点で、すでに突っ込みどころ満載なのですが、全裸にフェイスタオル、そして肩にはチャンピオンベルトといういでたちで登場する、マンガの主人公としてはあまりにも斬新なキャラクターです。本庄は悩める現代人の相談役として、あるいは「耐えなければいけないことだらけ」な日常のストーリーテラーとして、サウナの中で語り続けます。圧巻なのは、あまりに誇大なサウナ名言の数々。 「ライフ・イズ・サウナ」 「私の流している汗は…スパンコールなんかじゃない…」 「耐える姿は現代人のフォークロア(民間伝承)」 「耐えることで人とつながる…それがプロサウナ」 「サウナの本質はグローバルコミュニケーション」 「いつだってそう、真実はサウナでつぶやかれる」 「サウナだけが世界を変える」 「君はレストランへ行くのに弁当を持っていくのか? 荷物はいらない…ただ脱ぎ捨てるだけ、それがサウナだ…」 などなど、次から次へと繰り出される意味深なポエム。ここまでいくと、名言というより、迷言レベルです。  こんな感じで、初めは人生相談スタイルだったのですが、何を思ったか、単行本2巻からは唐突に、サウナバトルへ突入。参加国78カ国、世界一のサウニストを決める地下サウナバトルが開催されます。日本代表は、もちろん本庄。ロサンゼルスからやってきた強豪サウニスト「J.D.」と一騎打ちをします。  サウナの世界大会って、いったいどんなスゴいバトルなのかと思うかもしれませんが、“我慢できなくなってサウナから退場したら負け”という、実に単純明快なシステムです。ただし、プロ同士の戦いですから、サウナ内での高度な駆け引きが勝敗を分けます。  常に清く正しい潔癖なサウナスタイルを誇るJ.D.に対し、本庄は幼い頃に好きだった女の子と遊園地でデートした挙げ句に失敗して微妙な空気になった話など、切ない話てんこ盛りでJ.D.のメンタルに揺さぶりをかけます。……全然高度な駆け引きじゃないですね。酔っぱらいの居酒屋トークに近いものがあります。  3巻では、さらに新展開。若者たちの恋愛三角関係にサウナチャンピオンが割り込んできて、状況がさらにややこしくなるという、予想の斜め上を行くストーリーになっています。正直、舞台がサウナである必然性があまりありません。  全体的に「なんだコレ!?」感がスゴいのですが、無理やりサウナに結びつける独特の世界観は、ほかのマンガでは味わえません。読み手を選ぶかなりの異色作であると同時に、ハマる人はハマる、まさしくサウナのようなマンガといえましょう。 (文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん<http://ablackleaf.com/>)

“ニルヴァーナ・トリップ”からバトルまで 読み手を選ぶ、異色のサウナマンガ『フィンランド・サガ』

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『フィンランド・サガ』(吉田貴司/モーニング KC)
「いつだってそう、真実はサウナでつぶやかれる」  今年もいよいよ、さむ~い冬がやって来ます。この季節、温泉や銭湯もいいですけど、体を芯から温めるんだったら、なんといってもサウナじゃないでしょうか。  スーパー銭湯や健康ランドには、必ずといっていいほどサウナが常設されています。それほどまでに、サウナ人口は多いのです。しかし「サウナなんか使ったことない」「熱いし、息苦しいし、いったい誰が得するんだよ、あんなもの」と思っている人もまた、結構多いのではないでしょうか。  今回はそんな、ハマる人とハマらない人がくっきりと分かれてしまう「サウナ」をテーマにしたマンガをご紹介します。  みなさんは、『サ道』(パルコ)という本をご存じでしょうか? 漫画家であり、「コップのフチ子」の発案者であり、そして日本初のサウナ大使でもあるタナカカツキ先生による、サウナエッセイ&マンガです。 『サ道』は、サウナの魅力をまだ知らない人をサウナジャンキーの道へと誘う、入門書といえます。サウナと水風呂の交互のセッションワークを繰り返すことにより、突然ありえないほどの気持ちいい状態、「ニルヴァーナ状態」が訪れるという衝撃的な内容が紹介されています。そう、みんなが苦手なあの水風呂こそ、サウナトリップの秘密! というわけです。さらに現在、「ビッグコミックスピリッツ」(小学館)で『マンガ サ道』というコミカライズ作品が月イチ連載されており、サウナブームが静かに、そして確実に訪れているといっていいでしょう。  この『サ道』こそ、日本で唯一のサウナマンガかと思われたのですが、実はもうひとつ、サウナをテーマにしたマンガが存在していました。その名も『フィンランド・サガ』。 『サ道』がサウナのイメージアップをテーマにしているのに対し、『フィンランド・サガ』はもっとストイックで、サウナの「殺伐とした感じ」や「重苦しい雰囲気」が表現されている作品です。  主人公は“プロサウナチャンピオン”本庄丈一郎。この時点で、すでに突っ込みどころ満載なのですが、全裸にフェイスタオル、そして肩にはチャンピオンベルトといういでたちで登場する、マンガの主人公としてはあまりにも斬新なキャラクターです。本庄は悩める現代人の相談役として、あるいは「耐えなければいけないことだらけ」な日常のストーリーテラーとして、サウナの中で語り続けます。圧巻なのは、あまりに誇大なサウナ名言の数々。 「ライフ・イズ・サウナ」 「私の流している汗は…スパンコールなんかじゃない…」 「耐える姿は現代人のフォークロア(民間伝承)」 「耐えることで人とつながる…それがプロサウナ」 「サウナの本質はグローバルコミュニケーション」 「いつだってそう、真実はサウナでつぶやかれる」 「サウナだけが世界を変える」 「君はレストランへ行くのに弁当を持っていくのか? 荷物はいらない…ただ脱ぎ捨てるだけ、それがサウナだ…」 などなど、次から次へと繰り出される意味深なポエム。ここまでいくと、名言というより、迷言レベルです。  こんな感じで、初めは人生相談スタイルだったのですが、何を思ったか、単行本2巻からは唐突に、サウナバトルへ突入。参加国78カ国、世界一のサウニストを決める地下サウナバトルが開催されます。日本代表は、もちろん本庄。ロサンゼルスからやってきた強豪サウニスト「J.D.」と一騎打ちをします。  サウナの世界大会って、いったいどんなスゴいバトルなのかと思うかもしれませんが、“我慢できなくなってサウナから退場したら負け”という、実に単純明快なシステムです。ただし、プロ同士の戦いですから、サウナ内での高度な駆け引きが勝敗を分けます。  常に清く正しい潔癖なサウナスタイルを誇るJ.D.に対し、本庄は幼い頃に好きだった女の子と遊園地でデートした挙げ句に失敗して微妙な空気になった話など、切ない話てんこ盛りでJ.D.のメンタルに揺さぶりをかけます。……全然高度な駆け引きじゃないですね。酔っぱらいの居酒屋トークに近いものがあります。  3巻では、さらに新展開。若者たちの恋愛三角関係にサウナチャンピオンが割り込んできて、状況がさらにややこしくなるという、予想の斜め上を行くストーリーになっています。正直、舞台がサウナである必然性があまりありません。  全体的に「なんだコレ!?」感がスゴいのですが、無理やりサウナに結びつける独特の世界観は、ほかのマンガでは味わえません。読み手を選ぶかなりの異色作であると同時に、ハマる人はハマる、まさしくサウナのようなマンガといえましょう。 (文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん<http://ablackleaf.com/>)

グダグダすぎる主人公を反面教師に! 全国の浪人生に贈る、予備校生マンガ『冬物語』 

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『冬物語』(原秀則/ヤングサンデーコミックス)
 予備校は受験勉強するところ? いえいえ……恋をするところです!  皆さんは、予備校に通ってましたか? 最近は少子化で、すっかり予備校の存在感は薄れており、目立っているのは「今でしょ!」の林修先生ぐらいですが、1970~90年代前半までは大学受験バブル。大学行くなら浪人して当たり前という、予備校天国の時代でした。かくいう僕も、かつては予備校で浪人生をしてました。  予備校といえば、その代名詞ともいえるのが駿台予備学校、河合塾、代々木ゼミナールのいわゆる3大予備校。「生徒の駿台、机の河合、講師の代ゼミ」なんて言われてました。いま思うと、「机の河合」って、扱いがヒドすぎますね。  そんな浪人、予備校ブームの最中に生まれた『冬物語』というマンガがあります。浪人して予備校に通う受験生たちの、まさしく「冬」な心境を描いた作品です。主人公の森川光は大学入試で、ことごとく不合格。残るはスベり止めに受けた「八千代商科大学」のみという状況。 「バーカ! あそこ(八千代商科大学)落ちたら人間やめるよ!」 「そーよ、あそこならだいじょーぶよ! あんなとこ小学生だって受かるわよ!」 「大学生っても、あそこじゃなあ…」  これぞまさに「Fラン大学」といった趣ですが、光はなんと、その「八千代商科大学」すら不合格。つまり小学生以下、人間やめろ状態です。付き合っていた彼女の和美ちゃん(専修大合格)にはあきれられた挙げ句にフラれ、どん底冬状態で浪人生活がスタートします。  この作品の見どころはなんといっても、主人公・光のすさまじいばかりの優柔不断さ、川の流れのようによどみなく流れていく意志の弱さにあるといえましょう。    浪人が決定し、通い始めた予備校、山の手ゼミナール(代ゼミがモデル)では、なんと「東大専科コース」に申し込む光。Fラン大学すら落ちた男が、なぜに東大専科コースを……? 実は、予備校で見かけたかわいい女の子(ヒロインの雨宮しおり)が東大専科コースに申し込んでいるのを見て、ついフラフラと、うっかり申し込んでしまったのです。なんだコイツは!? いきなりダメすぎる!!  当然、東大レベルの授業に、まったくついていけない光。模試の成績も赤点だらけ。さすがに、しおりちゃんにも心配されてしまいます。もちろん東大を受ける学力がないのは、本人が一番わかっているんです。でも、でも……! 「好きなコがいるんだよ…東大…東大目指してる好きなコが…だから…」  ドサクサに紛れて、しおりちゃんに遠回しな告白をする光。しかし、対するしおりちゃんは、それに気がつくどころか……。 「あたしも…光くんと同じなの…好きな人いるの! 東大に…」  告ったと思ったら返す刀で速攻轟沈。そう、しおりちゃんは、東大に入った彼氏を追いかけて一生懸命勉強している一途な女の子だったのでした。  しおりちゃんに脈がないことが判明したので、さっさと東大専科コースをやめればいいのですが、しおりちゃんに未練タラタラの光。いつまでもクヨクヨして、やめるやめないで悩み続け、ついに私大文系コースへの変更を申し出た時には単行本1巻のラストシーンでした。ここまでほとんど勉強せず。ダメだこりゃ!!  単行本2巻では、やっと夢から覚めた光。私大文系コースで目標を日東駒専に定め、再スタートを切ったのですが……。光の前に、新たなヒロインが登場。その名も、倉橋奈緒子。  天真爛漫で積極的なキャラクターながら、青学、中央を蹴って一貫して慶応を狙う才女です。この奈緒子がダメ男好きなのかなんなのかわかりませんが、光をひと目で気に入り、ちょっかい出しまくり。予備校そっちのけで映画に誘ったり、家に呼んだりと誘惑し、しまいにはキスまでしちゃいます。もともと意志の弱い光、これは勉強どころではありません。  これだけでも十分浪人生としてヤバい状況なのですが、奈緒子の一途な思いを裏切るように、しおりちゃんへの未練が再燃。勉強はできないくせに、恋愛だけはイッチョマエの恋多き予備校生として進化しています。  そんなこんなで迎えた、受験シーズン。一年浪人したその成果は……現役の時に落ちた「八千代商科大学」だけ合格! まあ、一応の成果はあったようです。親御さんも一安心です。  そのまま八千代商科大学でキャンパスライフを送るものの、やっぱり納得できない光。勉強できないくせに、プライドだけは一人前。親に黙って勝手に休学届を出して、再び予備校へ舞い戻ってきます。そう、二浪目突入です。しかし、ほどなくして休学がバレ、家族会議に。弟もこれから受験なのに、二浪させるお金なんてないとカーちゃんが泣いてます。身につまされるシーンです。 弟「俺、大学行く気ねーからさ。ま、がんばってよ」 父「金のことは心配するな、ボーナスとかその他にも多少は貯えあるから」  弟はともかく、父ちゃんのセリフ、明らかにムリしてます。  親を泣かせてまで選んだ二浪の道は、まさに修羅の道。今度こそ心を入れ替えて勉強を……と決意したところ、同じく東大に合格できず二浪目に突入したしおりちゃんと予備校で再会。再び、泥沼のノー勉強ライフへ……。  そんな感じで光のダメっぷりにイライラしたり、俺はさすがにこんなにヒドくなかったわーとか安堵しながら読むのが、この『冬物語』のたしなみ方ではないかと思うのです。  マンガではありえないほど情けなく見える光ですが、実はリアルな予備校生のひとつの姿だともいえます。中学・高校と違い、予備校生は基本的に時間の制約がないため、好きな時に好きなだけ勉強できる代わりに、自己管理ができないと、どんどん落ちていきます。誘惑に負けない意志の強さが求められるんです。  ちょっと最近サボり気味でヤバいなと思っている受験生の皆さんには、ぜひ『冬物語』を読んでいただき、勉強しなかったらコイツみたいになっちゃう! と光を反面教師にしつつ、頑張るのがオススメですよ! (文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん<http://ablackleaf.com/>)

連載終了は権利トラブルだった……集英社・鳥嶋和彦氏の異動で『SLAM DUNK』復活へ!?

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『SLAM DUNK 31巻』(井上雄彦/集英社)
 漫画家の鳥山明氏を発掘、育成したことで知られる、集英社の鳥嶋和彦氏が今年8月に同社の専務取締役を退任し、11月より子会社である白泉社代表取締役に就任することになった。 「編集者時代の鳥嶋氏は鳥山明氏、桂正和氏の2人を手がけたことで有名です。とりわけ、鳥山作品の『Dr.スランプ』では、鳥嶋氏をモデルにした悪役キャラクター『Dr.マシリト』として登場し、読者にも知られる存在だった。その一方で、意に沿わない内容であれば原稿を容赦なくボツにする鬼の編集者としての一面も持ち、口癖の『ボツ!』は鳥山氏の作中でたびたび登場し、鳥嶋氏本人の代名詞となっています」(出版関係者)  その鳥嶋氏が異動になったことで、ある不朽の名作に復活の可能性が出てきたと、集英社関係者が声を潜める。 「90年代に一世を風靡し、国内で単行本1億2,000万部を売り上げたバスケットボール漫画の金字塔『SLAM DUNK』の続編の芽が出てきました。本編では、主人公が所属する湘北高校が全国大会2回戦で敗退していますが、実は当初はもっと勝ち進む予定だったんです。というのも、連載中に作者の井上雄彦氏の関係者と編集部の間で、ゲームなどの版権に関するトラブルが発生。それがこじれた結果、集英社幹部である鳥嶋氏の『だったら、もう連載をやめてしまえ』という鶴の一声で、終了が決定したといういきさつがあった。以降、井上氏は『週刊少年ジャンプ』では描かなくなっていますが、因縁の鳥嶋氏が集英社からいなくなったことで、続編の復活が期待できる環境になったといえます」(同)  もしも“スラダン”が復活となれば、ジャンプが再び黄金時代を迎えることは間違いないだろう。

元祖“出会い系”のいかがわしき世界……伝説のスケベマンガ『テレクラの秘密』

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『テレクラの秘密』(成田アキラ/スケール)
 みなさんは「テレクラ」って、知ってますか? いまやすっかり死語同然になってしまいましたが、1980年代から1990年代にかけて、テレフォンクラブ略して「テレクラ」というお店が繁華街にはたくさんありました。今聞いても、いかがわしくあやしい、なんともいえない響きがたまりません。 「テレクラ」は、いわゆる風俗の一業態。インターネットが普及するまで興隆していた出会い系システムです。基本的には狭い個室に電話とかティッシュが置いてあるだけで、男性がその個室でひたすら女性からかかってくる電話を待つというもの。電話で男女の会話が盛り上がり、交渉が成立すれば、電話を介したチョメチョメ(死語)やら、店外でのニャンニャン(これも死語)などに発展する可能性もあります。  そんな「テレクラ」の世界にどっぷりとハマり、人生をテレクラに捧げ、テレクラマンガという一大ジャンルを築き上げた伝説の漫画家がいます。その名も成田アキラ先生。そして、その成田先生が内外タイムスで連載していた日本初のテレクラマンガが、今回ご紹介する『テレクラの秘密』です。  成田先生こそ、まさしく「スケベマンガの帝王」と呼ぶにふさわしい存在です。この場合、エロマンガでもエッチマンガでもなく、「スケベマンガ」であるというところがポイント。なにしろ成田作品は、漂いまくるオヤジ臭に加え、淡々としたタッチがやけにリアルなギャグテイストになっているのです。やはりこれは、紛れもなく「スケベ」なのであります。 『テレクラの秘密』は、基本的に成田先生自身がテレクラに入店し、電話越しでひたすら女性客と会話。外で会う約束を取りつけられたら、待ち合わせからホテルに連れ込んでエッチするまでの一連のオトコとオンナの駆け引きや、その顛末を体験マンガにしています。  仕事でスケベできるなんて、うらやましい! と思うかもしれません。もちろん若くてかわいいOLや、美人な人妻が来れば超ラッキーですが、当然ながら、そんなにうまい話ばかりではありません。超デブスなオバサンや、性欲ありまくりのお婆ちゃん、手を出したら一発アウトの未成年や性病持ち、ヤクザの情婦に至るまで、あらゆるトラップだらけの中、テレクラで出会ったオンナはどんなにブサイクでもとりあえず口説いてラブホに連れ込もうとする成田先生のテレクラにかけるプロ根性は、ある種の悟りの境地に達しているといえます。 「ボクはこの数十年、かけっこで全力疾走をしたことがない。しかし、いい女とセックスする時は全力を尽くしてする。息切れし、心臓が破裂しそうになってもする。やっている時、これで死んでもいいような気になる。全くボクはどうしようもないスケベだ」 「愛のあるセックスでは決してない。原始的で粗暴で、けもののようなセックス、格闘技セックスなのだ」 「ボクにはヘンなクセがあって、女性が歓んでくれればくたばるまでやってやろーじゃないかという気持ちになる。こうなると、もう耐久レースの観を呈してくる。すでに肉体的快感はなく、頭はモウロウとして、ただ惰性的、自虐的持続があるのみ」  作品中、こんな数々の名言まで残しています。まさに、道を極めた者のみが語ることのできるテレクラ名言。  作品終盤では、テレクラの全国行脚を敢行。北海道、盛岡、仙台、新潟、松本、京都、福岡、鹿児島、沖縄など各地のテレクラに赴いては、現地のオンナとエッチすることに命を懸けます。例えば沖縄では、男勝りのすごいパワーでカニバサミを仕掛け、身動き取れない状態でエッチするオンナが登場。 「これが沖縄の女だ、これがー。来たかいがあった!」 などと、エッチしながら感無量の表情の成田先生。いや、沖縄の女の人が、みんなこんなじゃないと思うんですけど……。  そんなわけで『テレクラの秘密』は、単なるドスケベマンガだと思ったら大違い。最後まで読むと、成田先生のストイックなまでにテレクラ道を追求する姿に感動すら覚える作品だったのでした。まあ結局、ドスケベマンガであることに変わりはないんですが。  成田先生は漫画家でありながら、自らのホームページを「漫画家成田アキラコミュニティーサイト出会い情報館」(http://www.akiragirl.com/top.html)と銘打ち、オトコとオンナの出会いをプロデュースする伝道師としても活躍。さらに、御歳70を迎える現在でも、ブログをガンガン更新されています。しかも「週刊アサヒ芸能」(徳間書店)で、『成田アキラの性感マン遊 女体の旅GTR』などという、むしろ若い時よりも絶倫じゃねーか、というようなタイトルの連載で活躍されております。いやはや、スゴいです。 (文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん<http://ablackleaf.com/>)

いったい何がイカンのか!? タイムリーな社会派ギャンブルマンガ 『野球賭博』

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野球賭博』(谷あく斗、村岡栄一/芳文社)
 いま、プロ野球選手の野球賭博問題が世間をにぎわせています。野球賭博といえば、有名なところでは1969年の黒い霧事件、そして2010年の大相撲野球賭博問題があります。特に2010年は多くの力士や親方が処分され、まさしく角界に激震が走った事件であり、記憶に新しい方も多いのではないでしょうか。そのわずか5年後に、再びプロ野球界で野球賭博問題が発覚するとは、この問題の根の深さを表しています。    そんなスポーツ界を揺るがす野球賭博問題ですが、いったい何が問題なのか? 一般的には、あんまりなじみがないですよね。正直、僕もよく知りません。しかし、そんな疑問を解決するマンガが存在するのです。その名もズバリ『野球賭博』というマンガです。まさに、このタイミングで紹介するにふさわしい作品と呼べるのではないでしょうか。  ちなみに、野球賭博の話が出てくるマンガは『ラストイニング』や『ラストニュース』『白竜』『名門!第三野球部』などがあります。しかし、いずれも、あくまで作品のほんの一部で取り上げているだけです。「野球賭博」そのものをフィーチャーしたマンガというのは、おそらく本作だけだと思われます。いかにもマンガにするニーズがなさそうですから、当然といえば当然ですが、とにかく大変異質な存在です。  実際、単行本の表紙からして、すごく異質です。どこが異質かというと、真っ赤なのです! 表紙が真っ赤なだけならまだしも、表紙に描かれているオッサンのサングラスの中まで赤いという、尋常じゃないセンスです。まるで、内容がレッドゾーンであることを物語っているかのようです。 『野球賭博』は、実は野球をテーマにした劇画短編集なのですが、プロ野球や高校野球で1軍に上がれないまま落ちぶれていった日陰男たちの悲哀をテーマにしています。普通の野球選手がテーマのマンガではなく、「落ちぶれた野球選手」専門のマンガです。すごいコンセプトですよね。  たとえば、第1話は、ドラフト5位でスターズ(明らかに巨人がモデル)に入団したもののフォーム改造で肘を壊し、結局1軍に上がることができずに解雇になった滝田という男の物語です。  球団の無理な投球フォーム改造のせいで人生を狂わされたことを恨んでいる滝田は、なんとハンク・アーロンの755本塁打の記録にあと1本と迫ったスターズの剛選手(明らかに王貞治氏がモデル) を誘拐するという暴挙に出ます。そして身代金1億円を奪い取った挙げ句、剛選手を殺してしまおうという計画です。100%逆恨みですね。  剛選手誘拐の一報を聞いた刑事たちは…… 「畜生! なんてことしやがる。明日の中日戦には来々軒の上カツ丼がかかってるってぇのに!」  なんと、剛選手が記録達成するかどうかでカツ丼を賭けていた模様。  結局、最終的には逃走中に警察によって銃で撃たれて殺されてしまう滝田。世にも悲惨なお話です。この話をまとめると、次のようになります。  プロ野球入団→球団による投球フォーム改造→肘を壊す→2軍でくすぶり続けた後、引退→テレビに出てるスター選手に嫉妬→その選手を誘拐→全国に指名手配→警察に銃で撃たれて死亡  プロ野球選手として大成できなかった末路が銃殺という、なんという転落人生……。こんな感じで、日の当たらない野球選手たちの切ない話が盛りだくさんなわけですが、やはりメインとなるのは第2話の野球賭博ネタの話です。タイトルは「ハンディ師竜二」。  主人公はタイトルの通り、ハンディ師の東竜二という男です。野球賭博にはハンディ師と呼ばれる、野球の試合に独自のハンディを設定して賭けを盛り上げるための仕掛け人が存在します。  ハンディ師の竜二は、現在はヤクザですが、元プロ野球選手で関西一の凄腕のハンディ師と呼ばれています。 「竜二、明日のハンディは何点や」 「パイレーツに2.5点やな!(くわっ)」  みたいな感じの会話でハンディが設定されます。たとえばジャイアンツVSタイガースの試合で、絶好調のタイガースが圧倒的大差で勝利すると思われる場合は、ハンディ師はタイガースに2.5のハンディを課します。その場合、実際の試合でタイガースが2点差で勝ったとしても、賭けの世界では負けとなります。  ちなみに、0.5というのは、実際の試合が引き分けに終わった場合でも白黒をはっきりさせるために設定されています。こうやって、ハンディ師のさじ加減で、実際には大差がつきそうな試合でも緊迫感を煽ることができるのです。そのためハンディ師は、元プロ野球選手のような相当プロ野球に詳しい人物がやるのです。  ……って、やたらルールを詳しく書いちゃってますが、よい子のみんなはくれぐれもやらないように!  さて、そんな凄腕のハンディ師竜二ですが、客の挑発に乗って「八百長賭博」に手を出してしまいます。実際のプロ野球選手を脅迫するなどして、勝敗に関わるような八百長をさせてしまう行為です。  目をつけたのはパイレーツのエース投手、尾形。実は、竜二とは甲子園時代のライバルでした。尾形投手は、なんと4日連続登板をするなど超人的な活躍をしていたのですが、実はドラッグの「スピード」をやってギンギンになって投げていたのでした。それに気づいた竜二は登板前にスピードを飲む瞬間をカメラで撮影し、それをネタに脅迫したのです。そもそも、試合中にドラッグやってるエースってのも、かなりありえない感じですが……。  しかし、今でも野球を愛しており、高校時代ライバルだった尾形を苦しめたことに良心の呵責を覚えた竜二は、もう八百長はしないと誓うのです。ところが、八百長賭博がめちゃくちゃ儲かることを知った組長たちは、竜二にもっと尾形に八百長をやらせるように命令します。抵抗した竜二は組と仲間割れ……。  腹をドスで刺されながらも球場に駆けつけ、試合中に苦悩している尾形の目の前でネガを焼き捨てる竜二。 「尾形、これであんたは自由の身や! もう何も恐れることはないで!」 「いいんだな、力いっぱい投げていいんだな、東」  野球を愛するひとりの男として、最後の良心が働いたのです。しかしその後、組からの刺客に刺され、力尽きてしまう竜二。 「歓声や…大歓声や、わ、わしは帰って来たんや、この歓声の中に…」  なぜか最後はちょっと泣ける話ふうになっていますけど、八百長賭博を始めたのは竜二本人ですので、どう考えても自業自得です。しかも、自分が歓声の中に帰って来たとか言ってるのも明らかに勘違いですし。  というわけで野球賭博に関わったがために、悲惨な末路を迎えてしまったハンディ師竜二の話でした。繰り返しますが、こんな悲惨な末路が待っていますので、賭博にはくれぐれも手を出さないように! あなたの人生が登録抹消されても知りませんよ!

人気マンガ『3月のライオン』 アニメ・実写化で命取りとなる“高すぎる完成度”と“過去の失敗”とは!?

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『3月のライオン 11巻』(白泉社)
 同じ道を歩んでしまわないか、不安になるのも仕方がない。  羽海野チカによるマンガ『3月のライオン』(白泉社)の実写映画化およびテレビアニメ化が決定したことが、25日に発売された「ヤングアニマル」(同)にて発表になった。 『3月のライオン』は、15歳で将棋のプロ棋士になった孤独な少年・桐山零(きりやま れい)を軸に、厳しい将棋の世界や、彼を見つめる川本3姉妹など周囲の人々と関わる中で成長していくストーリー。羽海野作品独特の高水準な心理描写やストーリー展開から高い人気を誇り、第4回マンガ大賞2011や2014年の第18回手塚治虫文化賞マンガ大賞など数多くの賞も受賞している作品だ。  アニメ化や実写化が積極的に行われる昨今を考えれば、すでに連載開始から8年が経過し、映像にしやすい舞台設定だったことからも、同作品の実写化・アニメ化に関して「意外と遅かった」という感想は多いだろう。逆にいえば、制作側としても“満を持して”の発表だったのかもしれない。  アニメ・実写化作品としては極めて珍しい「成功前提の作品」とも考えられる同作だが、原作者である羽海野チカの作品に関しては、「決して予断は許されない」というのが記者の論調だ。 「羽海野チカといえば、多くのファンを虜にした恋愛マンガ『ハチミツとクローバー』(集英社)でしょう。美術大学を舞台にしたこの青春群像劇は、若者の心の揺れや恋愛などの情感を見事に表現し、非常に完成度の高い作品として各方面から絶賛されました。辛口コメントも多い『BSマンガ夜話』(NHK)でも手放しで賛辞が送られたほどですからね。ただ、この作品の実写映画・ドラマはいずれもヒットには結びつくことなく、辛うじてアニメは“成功”といわれたものの、マンガの評価に比べれば寂しい限りでした。コマとコマの間に登場人物の葛藤や思いを挟み、繊細な心理描写を描くのが羽海野作品の特徴ですが、実写やアニメではその特徴を形にするのが難しいんでしょうね」(映画記者)  完成度が高すぎるがゆえの悩みということか。『3月のライオン』に関しても、それは同様だという。 「『3月のライオン』もファンの評価は非常に高い作品で、心理描写も変わらず冴え渡っています。特に実写化に関しては、将棋シーンの際に登場人物の頭の中で展開されるイメージ(炎や光など)をどう表現するのか。場合によってはものすごくチープな映像になる可能性がありますからね。今後キャスティングなども続々と発表されますが、ファンはその発表ごとに一喜一憂することになるでしょう」(同)  作品の良さを保ちつつ、マンガから良質な“映像作品”へと昇華させるのは決して簡単な作業ではなく、それが極めて完成度が高い作品ならなおさらである。『3月のライオン』は、制作陣としても極限まで企画を練り上げなければならない作品ということだ。

パクリ度ゼロ! デザイン業界激震の独創的すぎるファッションマンガ『こっとん鉄丸』

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『こっとん鉄丸』(あおきてつお/小学館)
 東京五輪のエンブレム騒動以来、いろいろと激震が走っているデザイン業界。“この素晴らしいアートも、実はパクリなんじゃないか”と疑心暗鬼になる、悲しい風潮になってきちゃっていますよね。  とりわけファッション・アパレル業界では、そういうパクッたパクられたのトラブルは顕著のようで、どこぞのファストファッションブランドがシャネルをパクッただの、エルメスとそっくりだの、ボタンの数が違うだけだの、そっくりなようだけど素材が違うから別物だのと複雑怪奇な様相を呈しています。  しかし、今回ご紹介する『こっとん鉄丸』では、まったくその心配がありません! どう考えても完全オリジナル、独創的すぎてドン引き! 誰もパクろうとする気すら起こらないレベルに達しているデザインが次から次へと飛び出してきます。パクッて当たり前の今の時代に強烈なメッセージを投げつけてくる、オリジナリティあふれるマンガなのです。 『こっとん鉄丸』は1987年から「週刊少年サンデー」(小学館)で連載された、少年誌としては珍しいファッションデザイナーマンガです。一見、少年マンガでファッションを語られてもあまりニーズがなさそうですが、バトルの要素を巧みに取り入れ、しっかり少年マンガとして成立させています。  主人公の山田鉄丸は、世界一のファッションデザイナーを目指す少年。原宿を舞台に、いろんな有名ショップや悪徳デザイナーに難癖をつけてファッション勝負を挑みます。他人様のファッションに文句をつけて勝負を挑むぐらいですから、主人公の鉄丸は相当なファッションセンスを持っているに違いありません。いったいどんなおしゃれボーイが主人公なのか?  鉄丸のファッションは、スウェットに横並びにプリントされた巨大な2つのチェック柄の胸ポケット。ズボンにも胸ポケットと同様のチェック柄の巨大膝パットがあてがわれ、ズボンの裾はしっかりとソックスの中にインしているという、独創的すぎる服装。こんなの、パリコレでも見たことありません。  オシャレなのかダサいのか判断がつかない(というか、世間一般的な感覚だと超ダサい)謎ファッションに身を包んだ鉄丸が、原宿で大暴れ。道行く原宿の若者のファッションに、いきなりイチャもんをつけ始めます。 鉄丸「ははーん。これからナンパしに行くんだね?」 若者「そんなの、お前の知ったことかよ!」 鉄丸「ぷぷぷっ! 悪いけどそのまんまじゃ、誰も寄ってこないかもね」  初対面なのに失敬すぎるセリフを放ちつつ、いきなり若者のコーディネートをし始める鉄丸。 鉄丸「ほいっ、できあがり!!」 …じゃじゃーん 鉄丸「ジーンズのすそは絶対ロールアップしたほうがいいよ!」 若者の友達「へーっ! なかなかいいじゃん。カッコよくなったぜ!」 若者「そ、そうか…」  鉄丸のドヤ顔で繰り出されるファッションアドバイス。確かに、ファッションのトレンドは時代とともに変わるもの。今まさに2015年、一回りしてロールアップがカッコいい時代が来つつあります。でもそれを踏まえた上でも、やっぱり全体としては実に微妙な感じに仕上がっております。これはパクれない!  さらに、このマンガはお役立ちファッションマンガ的な側面があり、鉄丸のファッションアドバイスコーナーがちょいちょい挟まれています。参考のために、いくつかご紹介しましょう。 ・国旗のプリントが今年のトレンド ・麻のジャケットはツータックのチノパンと合わせるのがオシャレ ・素足にスニーカーを履くことを強く推奨 ・いつもの服に「ワッペン」をつけるだけでオシャレ服に  などなど、さらに解けにくい靴ひもの通し方、モテるネクタイの結び方、デニムの色の落とし方、靴を買ったらまず防水スプレーをしろ、いま持っている服のボタンを付け替えるだけで途端にオシャレに、等々の明日から使える実践的アドバイスてんこ盛り。実践的なのに、なぜか真似したくないオシャレアドバイスが満載です。  ファッションバトルのハイライトはなんといっても、「ルフォーレ原宿」のショップ出店権をかけて有名ブランド「ヒューマンズ」とジャケット対決をするストーリー。それぞれのブランドのジャケット100着を先に完売したほうが勝ちという単純明快なルールとなっています。  鉄丸と敵対する有名ブランドのパーソ……もといヒューマンズは、ソ連からの直送ルートで格安の麻を手に入れ、普通なら4万円は下らないジャケットを1万5,000円で売るという戦略です。そう、価格のリーズナブルさも勝負のポイントなのです。  一方、鉄丸は麻のコストに頭を悩ませます。そこに妙案が!「コーヒーの麻袋を使えば、タダ同然じゃないか!」えー! 何言ってんの、コイツ?  しかも、麻袋にプリントされたコーヒーのロゴをデザインとしてそのまま利用。 「このスタンプって世界各地のものでしょ? 見てるだけでも夢があるじゃない?」  どう考えても間違った方向のポジティブさで、トントン拍子に話が進んでいきます。 そして、最後はボタンの選定です。コーヒーの麻袋にベストマッチなラフなボタンとは……? 「これだぁ、これだよ!」 なんと、コカ・コーラのフタをボタンにする鉄丸。いや、それはさすがにラフすぎでは? あまりにも貧乏くさ…… 「遊び心満点ね!」 ……ものすごいポジティブさで、ついに鉄丸の麻ジャケットが完成しました。コーヒー豆の麻袋のジャケットにコーラのフタのボタン。そして、着心地を重視して虫取り網の網を裏地に使うというナイス工夫! これでなんと1,000円という、GUもビックリの低価格を実現! ヒューマンズの1万5,000円に対し、1,000円。価格差が歴然すぎます。しかも、センスには定評のある鉄丸デザイン。ジャケット勝負は(デザインではなく)圧倒的価格差で、見事鉄丸が勝利したのでした。  そのほかの対決も、鉄丸の先鋭的すぎるデザインにより負け知らず。さすが世界一のファッションデザイナーを目指すだけのことはあります。  そんなわけで、ユニクロもギャップもしまむらもブッ飛ぶ、超ファッショナブルなマンガ『こっとん鉄丸』。みなさんもぜひ本書を読んで、モテるファッションのコツをマスターしてください。 (文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん<http://ablackleaf.com/>)