
対談は2012年3月某日、東京・高田馬場の安田理央氏事務所にてなごやかにとり行われました。
■文学は黒木香にかなわない?
高橋 いちAVファンとしては、「ミス本番」シリーズを追っかけてたでしょ。で、ほどなくして黒木香の『SMっぽいの好き』(86年/クリスタル映像)が出て、2度目の衝撃を受けた。すごい淫乱で、びっくりしたよね。
安田 監督の村西とおるさんに聞いたんですけど、当時は「女が淫乱」っていうAVなんてウケないだろう考えて、お蔵入りしかけたらしいんです。でも、その頃村西さんのところに出入りしてた警察官に絶賛されて、出してみたら大当たりしたという。まあ、村西さんだから話を盛ってるかもしれませんが(笑)。
高橋 あれは新しい表現だったよね。AVは本来オナニーのためにあるんだけど、はっきりいってあれじゃヌケないよ(笑)。だって気持ちよくなったらホラ貝を吹くって、爆笑するしかないでしょ。悲劇や死はセックスと結びつくけど、笑いとセックスは結びついたことがない。日本ではね。ほんとまいった。僕は、これ見たとき、「文学はこれにはかなわんな」って思った(笑)。
安田 実は、残念ながらこの2作品は、諸事情で「AV30」には入れられなかったんですよ。80年代の作品で収録されてるのは、一番古い人で84年の竹下ゆかり、あと主立ったところでは小林ひとみ、桂木麻也子、斉藤唯、葉山みどり、立原友香、美穂由紀、豊丸……。
高橋 全員見てる(笑)。特に、豊丸は強烈だったね。ここまでくると、もはや人間を超えてる。黒木香はまだ人間だったけど(笑)、豊丸は「何? セックスロボ?」って感じ。それまでの日本にはなかった洋ピンのノリで、しかもアソコがブラックホールみたいなんだもん。
安田 フィストファックしたり大根入れたりしてましたからね。この豊丸と同時期に葉山レイコが『処女宮 うぶ毛のヴィーナス』(88年/h.m.p)でデビュー。さらに89年に松坂季実子や樹まり子、90年に桜木ルイや星野ひかる、あいだももなんかが登場して、ひとつのAV黄金時代を迎えます。
高橋 「処女宮」シリーズもクオリティ高かったよね。宇宙企画の美少女モノにぶつけてさ。
安田 僕は、この頃ビデオ業界誌の仕事をしてたんですけど、あるときゴールドマン監督の作品にハマって、無理やりインタビューしにいったんですよ。そこからカンパニー松尾さんやバクシーシ山下さん、平野勝之さんといったV&Rプランニングの人たちと付き合うようになったんです。90年前後は、そういう異端の企画モノ作品が花開いた時期でもありますね。
高橋 バクシーシ山下さんの『ボディコン労働者階級』(92年)とかね。V&Rはアウトサイダーだったよね。
■期せずしてアートとなった「500人SEX」
安田 90年代半ばになると、ソフト・オン・デマンドなどインディーズ系(セルビデオ)メーカーが台頭して、00年代初頭にいわゆる企画単体ブームが起こります。以降、女優の質、量ともに充実するんですけど、例えばいまなお現役の吉沢明歩(03年~)や麻美ゆま(05年~)みたいな息の長いビッグネームがいる一方で、デビュー作が売れずにすぐ切られてしまう女優もいたり。そのへんはシビアになっていくんですよね。
高橋 社会の縮図だね。
安田 メーカーも苦しいんですよね。やっぱりインターネットの影響が一番大きいんですけど、作品の本数は増えてるのに価格は下がってますから。そうなると、とにかく売れる作品をつくらなきゃいけなくなって、結果、V&R的なもの、つまり企画性重視のドキュメンタリータッチのものなんかが排除されていく。
高橋 余裕がないから、遊べないんだよね。
安田 高橋さんは、昨年上梓された『恋する原発』(講談社)で集団セックスを扱ってますけど、ソフト・オン・デマンドの名作『500人SEX』(06年)みたいなのは、いまはもう撮れないですよ。
高橋 あれは感動的だよね。全員がイッたあと、エンドロールでやたら叙情的な歌が流れるでしょ。もうね、大作映画を見終わった気分なんだけど、泣いたらいいのか笑ったらいいのかわかんない。もはやアート。
安田 しかも制作サイドにはそんな気はさらさらなくて、ただ結果としてアートになっちゃってるという(笑)。
高橋 そうそう。「これはすばらしいものだから鑑賞してください」って思ってつくると「お芸術」になっちゃう。でも、あの作品は「これはなんなの? もうアートとしかいいようがないよね?」っていうものに、結果としてなってしまった(笑)。
安田 高橋さんって、最近のAVも結構見てますよね?
高橋 僕はDMMの会員だからね(笑)。新作のサンプルなんかはほぼチェックしてます。僕が「AVが変わったな」って思ったのは、00年代後半、プレステージの作品を見てから。あそこって、基本的に女優の名前で売ってないでしょ。
安田 いわゆる「素人モノ」といわれるジャンルなんだけど……。
高橋 別に本当の素人なわけではない。単体女優並みに可愛い女の子たちを、匿名性でもって、街で見かける本物のOLさんとか女子大生っぽく見せてるよね。いいとこ突いてる。
安田 「プレステージ以前」と「以降」では大きな違いがあって、以前は、素人はブスで当たり前、むしろブスだから素人っぽくていいっていわれてたんです。だけど、プレステージ以降は、素人モノでもブスは許されなくなった。
高橋 AVの中でブスが生きていけるのは、もはやヘンリー塚本【AV黎明期からアクの強いSM系のドラマ作品ばかりを撮り続けている、孤高の有名AV監督】の世界だけだね。ときどき僕は近所のホテルで缶詰になって作品を書いてるんだけど、そこのホテルの部屋のテレビのアダルトチャンネルは、ヘンリー作品ばっかり流すの。僕すっかり喜んじゃんって(笑)。
安田 ヘンリーさんはいいですね。最近は特に、エロと作品性がいい具合にミックスされてて。つぼみや風間ゆみも出てるから、必ずしもブスばっかりってわけじゃないですけど(笑)。
高橋 男優の花岡じったをうまく使ってるじゃない。キワモノなんだけど、あの世界では妙にリアリティがある。ほんとにどうしようもない、野獣のような昭和の男。ドラマ性が濃厚だから、ヘタするといやらしくなくなっちゃう気もするんだけど、彼の作品の中では、普通のおばさんみたいな人でもやたらエロいよね。
安田 基本的にAVのカラミって、始まったらあとは男優と女優にお任せで撮る場合が多いんですけど、ヘンリーさんはカラミも細かく演出するんですって。セリフ回しとかも、女優が「たまんねえ……」とか言ってて。
高橋&安田 へへへへへへへ(笑)。
高橋 退廃的で、登場人物が不健康な貧乏人ばっかりで、みんなトラウマを抱えててさ。そんな人たちが、ものすごいねっとりとしたセックスをするんだよね。
■ヌキに特化された、AVの完成形
安田 ところで、企画もののAVが淘汰されていって、AVから「遊び」がなくなったという話をしましたけど、それは決して悪いことではないんですよね。「AV30」を編集してて思ったんですよ、「いまのAV、エロくていいわぁ」って(笑)。
高橋 たしかにヌキに特化した視点で見てみれば、ものすごくレベルが高くなってるよね。E-BODYとかS1の作品っていうのは、それのある種の完成形。30年かけて練り上げられたスタイルだからね。
安田 平野勝之さんの作品とかもすばらしいんだけど、「ヌク」というAV本来の機能からはちょっと外れちゃう。
高橋 どうしても「表現」が入っちゃうからね。
安田 だから「さあヌクぞ!」っていうときは、S1とかを見ちゃうんじゃないかな。「ユーザーが見たいものを見せる」ためのノウハウが蓄積されてますから。そういう意味では、僕はプレミアムっていう、高級感ある単体女優のメーカーが一番好きなんですよ。
高橋 そういう作品って、ものすごく可愛い子が、ものすごくエロい肉体を、完璧なアングルで見せてくれる。そういう技術がもう、完成されてるよね。
安田 女優も男優も制作者も、みんなスキルが高い。職人的といってもいいですね。特に女優はね、「なんでデビュー作からそんなに上手いの?」っていうくらいのことをみんなやってる。なんでかっていうと、彼女たちの世代って、もう子どもの頃から自然にAVを見てるんですよ。見てるから、男の乳首は舐めるものだと思ってる(笑)。
高橋 この前ね、僕の姪っ子が遊びに来たんだ。超絶可愛い、今年大学に入る18歳なんだけど、「Rioちゃんが~」とか、AV女優の名前をよく知ってるんだよね。僕が「なんで?」って聞くと、女の子同士のお泊まり会とかで見てるんだって。女子会でAV鑑賞だよ。
安田 いまは、恵比寿マスカッツとかの影響で、ほんとにAV女優に憧れてやってくる女の子がいっぱいいるんですよね。成瀬心美も、Rioに憧れてこの業界に入ったと公言してますし。
高橋 だってさ、もはや普通のアイドルより可愛いもんね。
安田 そんなコがいきなり乳首舐めたりするっていう(笑)。新しい世界に入りましたね。
■AVは多様性を取り戻せるか?
高橋 安田さんがこれからのAV業界に望むことって、なに?
安田 僕はやっぱり、多様性が欲しいんですよね。S1もプレミアムも好きだけど、はじっこにV&R的なものも成り立ってほしいなって。いろんな作品があって、全部ひっくるめてAV。「AVの世界は広い」っていうのが面白いので。
高橋 それはあらゆるジャンルでそうだよね。多様性が失われた世界は一番恐いから。
安田 90年代初頭のカンパニー松尾さんたちって、AVの枠を広げる作業をしてきたんですよ。いまは逆に、「ヌクためのAVを深く掘っていく」作業がメインストリームになっちゃってますよね。もちろん、そうすることでAVの完成形が出来上がったことはひとつの大きな成果ではあるんですけど。
高橋 売れなきゃしょうがないんだけど、王道だけになっちゃうとね。辺境開拓っていうか、「こいうのもアリか!?」「AVってそんなこともできるの!?」みたいな新たなジャンルも、きちんと出てきてくれないと。
安田 それこそ、黒木香のホラ貝吹きを見たときのような衝撃が、最近はあまりない。
高橋 でもさ、人間から、性欲っていうか、エロスがなくなるはずはないからね。AVもビデオテープからDVDになって、いまはネット配信になりつつあるでしょ。そうやって変身を繰り返して、その過程で一度ガクンと落ちたりするのは、長い歴史の中ではしょうがないよね。文学だってさ、すごくダメなときなもあるんだよ。でも、そしたらまた違うものを見つけて、変わっていくの。そういうもの。
安田 男と女がセックスしてる映像は、どこかで必ず流れてるわけですしね。カタチが変わっていくだけで。
高橋 そう。男と女がセックスしなくなったら、もうどうしょうもないでしょ。それは世界の終わりだからね。
(取材・文=須藤輝/撮影=編集部)
●やすだ・りお
1967年、埼玉県生まれ。風俗、AVなどのアダルト系記事を中心に、一般週刊誌からマニア誌まで、幅広く執筆。現在、AV30年史をメーカー横断的に振り返る「AV30」プロジェクトを進行中。著作に『エロの敵――今、アダルトメディアに起こりつつあること』(翔泳社)など。
●たかはし・げんいちろう
1951年、広島生まれ。81年、『さようなら、ギャングたち』で、講談社の群像新人長編小説賞優秀賞を受賞。88年、『優雅で感傷的な日本野球』で第1回三島由紀夫賞受賞。その他の著書に『虹の彼方に』『ジョン・レノン対火星人』(共に講談社文芸文庫)、『日本文学盛衰史』『恋する原発』(共に講談社)など多数。05年より明治学院大学国際学部教授を務める。
●作品解説
アダルトビデオ30周年記念プロジェクト 「AV30」
アダルトビデオ誕生30周年を記念し、主要AVメーカー40社超が集結。12年1月より6月まで毎月5本、計30本のコンピレーションAVが続々とリリースされる。
『メーカー横断ベスト!!! 小室友里8時間』『【AV女優日本代表】 熟女☆JAPAN』などの女優重視 のセレクトから、『AV30年史3 ハード・陵辱の名作編』『アナルSEXの殿堂 【肛門プレイ大全】』など の企画重視のセレクト、さらには、『メーカー横断ベスト!!! カンパニー松尾8時間』といった、監督重視のセレクトまで盛りだくさん。
各巻に封入されているライナーノーツも読みどころ満点。安田理央氏のほか、藤木TDC氏などのAVに詳しいライター陣のみならず、カンパニー松尾編では松尾氏みずからが解説。
全作品8時間、いずれも税込2,980円(税込)で続々発売中!!
公式サイト<http://www.av30.jp/>



