
最近『ローカル路線バス乗り継ぎの旅』(テレビ東京系)がきっかけで再ブレーク中の蛭子能収。テレビへの出演歴もだいぶ長いのに、いまだに画面の中で異様な雰囲気を放っていて、なんだかモヤモヤした気持ちにさせられます。
そんな蛭子さんが『ひとりぼっちを笑うな』(KADOKAWA)という本を出版した。要は「友達がいなくたって、別にいいだろ」というような内容で。納得できるようなできないような……とにかくテレビでヘラヘラしている蛭子さんとは一線を画した、邪悪な蛭子さんが見え隠れする一冊なのだ。
「蛭子伝説」と呼ばれるような危険なうわさも多い蛭子さんにとっての「人づきあい観」って、どんなものなのか!? 聞いてみました。
■友達なんていても、あんまりいいことはなかった
――テレビとかのイメージでは、蛭子さんってあんまり自分語りをするイメージがなかったんですが、今回この本はどうして出そうと思ったんですか?
蛭子能収(以下、蛭子) 広島でLINE殺人っていうのがあったでしょ? 友達とモメて殺されちゃったっていう。そういった、友達や仲間を作ることによってマイナスになることもあるんじゃないかな……っていうことを伝えたかったんです。
――世の中的には「友達や仲間がいっぱいいるのはいいことだ」っていう風潮がありますよね。
蛭子 でも、その友達というのは、実は恐ろしい存在であったり、自分の自由を奪う存在であったりする可能性があるから、もう一度、友達というものを考えてみませんか? ということなんですよね。
――蛭子さんは「友達がいて助かったな」みたいなことはなかったんですか?
蛭子 ううーん……うん、そういう記憶はあんまりないですね。
――友達なんていても、あんまりいいことはなかったと。みうらじゅんさんとか根本敬さんは、よく「蛭子さんと友達だ」って言っていますけど。
蛭子 アレは……まあ、同じ絵を描く仲間ではありますけどね。でも、遊びに行こうとか電話をかけるような仲ではないですよ。仕事がある時に一緒になることはありますけど、プライベートでの付き合いはまったくないです。だから、プライベートでどっかに行く時には、ほとんどひとりなんですよ。映画に行くか、競艇に行くか、麻雀に行くか……。とにかく、ひとりで遊べるものが好き。
――テレビで蛭子さんが何か言いだすとすぐにツッコまれちゃいますけど、本ではノーツッコミで丸々一冊蛭子さんの主張が繰り広げられていて面白かったです。意外だったのが、「とにかく目立ちたくない」ということですね。なんでそれが舞台に出たり、テレビに出たりすることになったんですか?
蛭子 いやぁ~、一般の人に埋もれて普通に過ごしたいんですよ、本当は。自分の顔とか姿を人前にさらしたくないですもん。最初に舞台に出たのは、柄本明さんから「出てくれ」って頼まれたから。オレは、ホントは出たくなかったんですよ。それからテレビの依頼も来るようになって……。だけど、人から頼まれたことを断るのもイヤなんですよ。仕事にしたって、せっかく頼まれたら普通断らないでしょ?
――あ、そうなんですか? ギャラも気にしない?
蛭子 「いくらくれるのかなー?」っていうのは、楽しみにするけど。安くてもとにかくやって、予想より多かったら「ヤッター!」、少なかったら「クソー!」って。だから、仕事は高くても安くても断らない。
――なるほど、それじゃ今でもテレビに出るのはイヤだ……という感覚なんですか?
蛭子 今は出たいですね。お金稼ぎたいから。もう、お金を稼ぐのが面白くて面白くて!
――ああ(笑)。やっぱり漫画を描いているのと比べて、テレビのギャラは全然違いますか?
蛭子 「ガロ」で描いてた頃は、原稿料なんてもらえなかったですからね。今、普通の人が1日働いたとすると1万円くらい? それを、テレビに出ると10倍くらいもらえるわけじゃないですか。そりゃあ、辞められないですよ。すごく稼げるので、ドンドン出たいと思います。
――漫画と違って、テレビに出ていると、チヤホヤされたりするわけじゃないですか。そのへんもうれしかったりしますか?
蛭子 それは、うれしくも悲しくもないって感じですね。まあ、いちいち声を掛けられて返事をするのがめんどくさいっていうのはありますけど。だから、かぶらなくてもいい帽子をかぶるようになりましたからね。おかげでハゲが進んできちゃって……。
――それは年齢的な問題じゃないんですか?
蛭子 やっぱり帽子をかぶってると太陽の光をさえぎっちゃうから、栄養が足りなくなっちゃって……。
――そんな光合成みたいな原理ではないでしょう!
■漫画でも意外と稼いでいる
――最近、『ローカル路線バス乗り継ぎの旅』で再ブレークして、テレビによく出ていますけど、テレビの仕事が全然なかった時期ってあるんですか?
蛭子 いやー、意外とコンスタントにあるね。最初にテレビに出たのは『笑っていいとも!』で、それからドラマの『教師びんびん物語』と、『いつも誰かに恋してるッ』(すべてフジテレビ系)で宮沢りえのお父さん役が来て、それからもわりとずーっとあって、しばらくなくなったのは麻雀で捕まってから……半年くらいはなかったね。でも、その後もチョコチョコ仕事が入ってたから。でもこれからは、テレビに出るために、もっと話術とかを磨いていかないといけないですねぇ……。
――えっ、今さらですか!?
蛭子 そろそろ新鮮味がなくなってきてると思うんで、お笑いの人みたいにしゃべりを上手にして、バーッとしゃべって最後にオチをつけられるようなトーク術を身につけたいですね。
――それ、求められてない方向だと思いますよ……。
蛭子 そうかなぁ~?
――本にも書いてあって意外だったんですが、今でも「本業は漫画家だ」という認識なんですね。
蛭子 そうですね。「テレビタレント」というのは、ちょっと職業として言いづらいんですよね。「俳優」だったら言いやすいんだけど。オレはお笑いでもないし、テレビには漫画家として出てると思ってますね。まあ、漫画自体はほとんど描いてないけど。
――本業だけど、仕事は全然していないと。
蛭子 ただ、イラストや4コマみたいなのはよく描いてますよ。だから、まだ漫画家っていってもいいんじゃないですかね。
――収入的には、圧倒的にテレビのほうが……。
蛭子 そうですねぇ……。それでも、意外と思うかもしれないけど、漫画でも月50万くらいは稼いでるんですよ。テレビはもっとありますけどね。でも意外でしょ?
――ええーっ、そんなに!? 漫画の収入なんて、月2~3万くらいだと思ってましたよ
蛭子 そうでしょ? だから、今タレント辞めても細々だったら食っていけるの。
――50万もあったら、細々でもないでしょう!
■奥さんは、どうしても必要な存在だった
――蛭子さんが、お葬式みたいな場所に行くと笑っちゃうというのは有名ですが、前の奥さんのお葬式では、ものすごく泣けたそうですね。
蛭子 そうですね、それまで他人の葬式っていうのは、どんなに親しい人でも全然悲しくなかったんですよ。
――逸見政孝さんとか、山田花子さん(漫画家)なんかのお葬式にも出られたそうですけど。
蛭子 山田花子さんの時も、すごく笑ってしまったから……。すごく友達だと思ってたんですけど、だけどあんなに笑ったということは、そうも思ってなかったのかなって。
――悲しいっていう気持ちはあるんですか?
蛭子 それはありますよ。あんなに面白い漫画を描いていたのに、どうして自殺してしまったんだと。それでも笑っちゃうんですよね……。だから、オレが死んだ時も別に悲しんでもらわなくていいと思ってます。死んじゃったら何の心もないわけですから、わざわざオレの葬式のために時間を使ってもらいたくないんですよ。各自で好きなことをしててもらいたい。人の自由を奪うのがイヤなんで。
――それでも、奥さんの時はすごく泣けたと。
蛭子 やっぱり、どうしても必要な存在だったのかな、奥さんっていうのは。自分にとっては、すごく大切な人だった。
――で、前の奥さんが亡くなってから、「必要な存在だ」ってことで、必死になって次の奥さんを探し出したらしいですね。
蛭子 ものすごく必死で探しました。ファンレターに電話番号が書いてあったら電話して「ご飯でも食べませんか?」とか。
――それは「寂しい」っていう気持ちからだったんですか?
蛭子 そうですねぇ。電車に乗ってても、知らない女性が「寂しくなったら電話して」って電話番号くれたりしましたからね。
■「奥さんって、セックスの面でも便利ですよね」
――今回の本って、「自由」というのがテーマなのかなと思いますけど。
蛭子 そう。自由が一番楽しく生きる方法だと思いますね。ただ、そのためには、自分がやりたいことがなけりゃダメだと思うんですよ。やりたいことがない人に限って、友達に走って悪いことをする
――友達に走って(笑)。
蛭子 人間ってグループになると、たいてい悪い方向に行くでしょ。態度が大きくなるし、個人に対して失礼なことをしがちじゃないですか。だから、すべてのグループを否定しますね。ロクことはない、仲たがいもする、面白くない。だって、今までのグループって全部潰れてますよ。中核派とか革マル派とか、ロクなもんじゃないですよ。仲間割れになって殺し合いになって潰れていくじゃないですか。これがすべてのグループの末路ですよ。絶対に、支配する側と虐待される側に分かれちゃうんだから。
――また極端な例を……。でも、確かに蛭子さんがそういうグループに所属したら、確実に虐待される側になりそうですよね。
蛭子 だから入りたくないんですよ。虐待する側だったら、楽しいかも分からないけど……。グループってどうしても、みんな平等ってことにはならないからイヤですね。
――上下関係がイヤだと。
蛭子 そうですねぇ~。よっぽどリーダーができた人だったらいいと思いますけどね。たとえばオレみたいな……。オレがリーダーだったら、絶対にうまくやる自信がありますよ。グループをやる意思はないですけど。
――確かにグループってめんどくさいですけど、それでも「寂しい」という気持ちに勝てない人も多いんじゃないでしょうか?
蛭子 そうなんですよ。そういう時は、趣味のグループに入るのがいいんじゃないですかね。適当なところに行ってみて、大丈夫かなっていうグループを探して。山登りでもいいし、コーラスでもいいし。
――え? そういうグループだったらアリなんですか?
蛭子 あんまりリーダーが突出してないような、仲良しグループみたいなのだったらいいんじゃないですかね。
――……? 蛭子さんは、寂しいっていう気持ちを、どこで解消しているんですか?
蛭子 うーん、競艇場に行っても寂しいですからね……。やっぱり、それが奥さんなんじゃないですかねぇ。お嫁さんと旦那さんっていう関係は、すごく大切だと思います。それが一番いいですよ。家で女房が待っていると思うからこそ、ひとりで競艇場に遊びに行っても寂しくないんですよね。
――これだけ聞くとハートフルな話に聞こえますけど、蛭子さんは「奥さんとセックスすればタダだからいい」って、よく言ってますからねぇ……。
蛭子 それはそうじゃないですか! その面でも便利ですよね、奥さんって。オレは奥さんがいる時は絶対に浮気もしないですし、「いいな」って思っても声もかけないですし。……まあ、また亡くなったら必死で探すかもしれないですけど。
――奥さんさえいれば、友達なんていらないという結論ですかね?
蛭子 まあ、どうしても友達が欲しかったら、たとえば「遊びに行こう」って電話がかかってきた時に、気軽に断れる人がいいと思います。本当はほかのことをしたいのに、気を使って「行く」って言わなきゃならないような関係は、あまりよくないんじゃないかと。それくらいお互いの自由を尊重できる関係が、いい友達だと思います。
(取材・文・写真=北村ヂン)