失敗と偶然が生み出す、神がかりショット写真集再び!『味写道』

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『味写道』(アスペクト)
 サブカル界のバイブル『バカドリル』シリーズ(アスペクト)の生みの親、天久聖一氏の著書『味写道』(同)が発表された。これは、2010年発売の『味写入門』(記事参照)に続く第2弾で、『ほぼ日刊イトイ新聞』の人気連載「天久聖一の味写道」をまとめた、前作からのファンも多い1冊。  タイトルにもなっている“味写”とは、「こんなつもりじゃなかったのに」「どうしてこんなものを撮ったんだろう」という失敗写真だったはずが、よ~く見ると、偶然が重なって重なって、妙に味わい深く仕上がっている写真のこと。本書ではそんな味写の中でも、よりすぐりの作品がずらり。とくに、筆者お気に入りの神クオリティの作品が、こちら。
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「全身無職」(C)天久聖一/アスペクト
 枯れた芝生の上で、ブレイクダンスがうまくいかず、ぐちゃっとつぶれたようなポーズの男性と、尋常ではないほど洋服に芝生がついている男性。2人とも無職とのことで、これ以上ないタイトルがあてがわれている。
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「都市伝説」(C)天久聖一/アスペクト
 なんだかすごい1枚。子どもがただ遊んでいるだけなのだが、この異様さ。こういうところから、都市伝説は生まれるのか!?
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「洗脳中」(C)天久聖一/アスペクト
 「○ンタッキー」の白い服の老人に、あたかも洗脳されているようなこの表情。○ンタッキーが好きになーれ、○ンタッキーが好きになーれ、○ンタッキーが……。  前回の『味写入門』も、素晴らしいクオリティの高さだったが、今回もまたすごい。一般の人々の日常がいかに笑いに満ちているのか、そして、日々どれだけ奇跡の出会いに満ちているのか。なぁんてことも感じられる、ハズ。  今回紹介した写真のほかにも、タクシードライバーらしきおじさまが横断歩道で、トランクを開けて座ってひと休みする「トランクおじさん」、ウォーーーと叫んでいるかのような超凶暴系「肉食パンダ」、お尻に桜が一輪見事に挟まったまま歩くおじいちゃん「ミッケ」など、100枚を超える名作ぞろい。新春のひと笑いどうぞ。 (文=上浦未来)

90年代サバサバ脳を、コント仕立てでお届け! NHK有働由美子『ウドウロク』の正しい読み方

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『ウドウロク』(新潮社)
 先日、昼間の再放送で『29歳のクリスマス』(フジテレビ系)を観た。山口智子、松下由樹、柳葉敏郎が恋に仕事に悩みながら、20代最後のクリスマスを迎える。最終回の視聴率は26%を超えた、90年代を代表する大人気ドラマだ。  不器用で一生懸命、肝心なときにかわいくなれない元祖サバサバ女。山口智子は、現代に続く女の自意識問題というパンドラの箱を開けてしまったA級戦犯だな……と、『29歳のクリスマス』を観ながらぼんやり考えた。山口智子はその後、表舞台から姿を消し、「いつまでも変わらない美貌の女優」としてイメージの世界に生きている。しかし当時の山口智子に共感し、サバサバ道を選んだ女たちは、30代、40代になっても「いい女=男前」という呪縛から逃れられず、コントのような物言いをしながら21世紀をさまよう。山口より5歳下であるNHKアナウンサー有働由美子初のエッセイ『ウドウロク』には、そんな山口的サバサバ道を選んでしまった女の悲哀が、そこかしこにあふれている。  有働アナといえば、何はさておき『あさイチ』である。朝の絶対正義『はなまるマーケット』(TBS系)を終了に追い込んだ、モンスター番組のMC。時に、NHKらしくないと言われるぶっ飛んだ企画、発言、それらは有働アナのキャラクターに負うところが大きい。その象徴たるが、くだんの「わき汗」事件。有働アナのわき汗を指摘するFAXを、番組内で本人が読み上げたというアレ。本書でも冒頭で、この「わき汗」について触れている。そして「“わき汗の”アナウンサーという、ちょっとイタい、かわいそうな形容に耐えている感じが好感を持ってとらえられるらしく、放送でちょっとくらいクロいことを述べても、苦情がこなくなった」と、わき汗というマイナスが好感にチェンジされたことに驚いている。えー、知ってるくせに! NHKのアナウンサーがわき汗について触れたらオイシイってこと、知ってるくせに!   そんな有働流イメージ戦略は、「下ネタ対応」にも表れる。長く男社会に生きてきたから、ぶりっ子的反応ができなくなったと嘆く有働アナ。男性から「このモデルさん、清楚でいいよね」と言われ、「でもさ、実は意外に奔放だったりするのよ~。たぶん。いや、きっと。そういうギャップに男は弱いよね~。昼間は純白、夜は娼婦。歌にもなっているもんね。ま、分かるけどね~。やっぱ娼婦って、ひとつの憧れでもあるよね」と返したという有働アナ。その時、かの男性から言われた一言が「有働さん、発言が、男社会で長く生きすぎ」。そして由美子はショックを受ける。「処世術として、身を守るために健気な努力をした結果、なんですよ」と。下ネタOKの気取りなさで男性ファンを喜ばせ、かわいらしい反応ができないことを「男社会に生きてきたから」と転換して、女性ファンを共感させる。もうこうなると「“昼間じゃ純白、夜は娼婦”ってアンタ……」とツッコむことも虚しい。恐るべし、サバサバ脳。  また、本書で繰り返し述べられるのは、自身の容姿への、アナウンス能力への自己批判、そして40代独身であることの虚しさだ。数々のNHK看板番組のキャスターをこなし、NY特派員を経験し、紅白歌合戦の総合司会に抜擢され、NHK最大の賭けだった『あさイチ』も成功させ……。有働アナが築き上げた輝かしい実績を考えれば、なんら自身を蔑む必要はないはず。しかし『あさイチ』を観ていれば、なんとなく分かる。イケメン俳優が来れば、大げさに浮かれる。スーパー主婦(家事機能抜群のスペシャリスト)が紹介されれば、自分の家事力の低さを嘆く。有働アナは超有能であるがゆえに、「イケメンに浮かれるおばちゃん」や「私生活はだらしない中年女」を自然と演じてしまうのだ。視聴者を、親しみやすさの渦に巻き込む。わき汗も下ネタも容姿/仕事能力への悲観も、スーパーエリートである自分をダウンサイズさせるための演出。そんなことしなくてもいいのに……と思っても、せずにはいられないのだ。すべては、サバサバしたイイ女であるために。  『29歳のクリスマス』では、不器用ながら一生懸命仕事をこなす主人公を、必ず評価してくれる誰かがいた。有働アナの場合、それは視聴者。どんなに自虐しても(といっても、書かれていることはそれほどではないが)、本当はそうじゃない、あなたはデキる子と理解してくれる。「自他ともに認めるクロい部分も、ちょっとだけあるシロい部分も、包み隠さず書いてみました」とは帯の一文。Twitterのプロフィールに「毒吐きます」と書く人が大して毒を吐いていないのと同じように、有働アナの自称「クロい私」は、お堅いNHKという檻の中でのみ有効なお家芸である。彼女が繰り出す「毒舌」も「自虐」も、あくまで「コント“独身女性アナ”」に回収されるラインを出ない。だからこそこの本は、大いなる「有働劇場」に身を任せたほうが数倍楽しく読める。「この部分、友近がネタにしそうだな」……ではなく、「有働さん、あんなに優秀なのに、こういうところ、私と一緒じゃん!」とか「分かる分かる! 私も下ネタ言って引かれちゃう!」とか言いながら。あまりにもベタなサバサバ表現が、スベっていることも気にしない。これはサバサバを一切メタ化することなく、己のアイデンティティにまで昇華させた有働由美子だからこそ成せる業だ。今なおNHKのエースとして独走する理由は、視聴者を有働劇場という自分のテリトリーに誘い込むうまさにあるのだと思う。  きっと今年の紅白も、きちんと仕事をこなしつつ、適度にフザけ適度にズッコケ適度に自分を見世物化するんだろうなぁ。NHK広報局のTwitterを見たら、有働アナが「紅白でセーラー服が着たい」と息巻く様子がツイートされていた。「有働劇場~紅白特別編」はすでに始まっている……。 (文=西澤千央)

高所、灼熱と極寒、異世界、廃墟……世界中の絶景を集めた『行ってはいけない! 危険な絶景』

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『行ってはいけない! 危険な絶景』(竹書房)
 世界には、立ち入り禁止、アクセス困難、極限の環境……とわかっていても、どうしてもこの目で見てみたいと思わせる、とんでもない絶景が存在している。海外へ行くと、安全第一の日本では絶対に考えられない配慮のなさで、自分の身は自分で守りやがれ! 死んじゃっても知らないよ、とばかりに野放しに開放され、その分、絶景が満喫できて感動も大きいことが結構ある。  たとえば、ペルーの世界遺産「マチュピチュ遺跡」のような超有名観光どころ。実際に行ってみて驚いたのは、自由にあちこち歩き回れるということ。入り口から順路通りに進み、出口へというようなお決まりのルールがなく、高所の崖っぷちに造られた遺跡ながら、柵がない。うっかり足を滑らせたら即死間違いなしの場所がいくつもあるが、自由な移動を許されているからこそ、南米のダイナミックな自然とともに遺跡を大満喫でき、ずっとここにいたいという気持ちにさせられた。  『行ってはいけない! 危険な絶景』(竹書房)は、ページをめくるたび「ほぇ~、世界にはこんな場所があるのか!」と驚かされる、世界中の絶景を集めた一冊である。「思わず膝が震える!高所の絶景」「極限の地だけで見られる神秘 灼熱と極寒の絶景」「ここは本当に地球?異世界の絶景」「戦慄と悲哀を覚える世界 廃墟の絶景」の4つのテーマを軸に、大きな写真と詳しい紹介文で、世界約50カ所を紹介している。  年間100人が命を落とすといわれる、断崖絶壁を伝い歩く中国の命がけの登山道、パキスタンにあるワイヤーと木片だけで作られた今にも壊れそうな世界最恐の橋、世界で最もマグマに近づけるバヌアツ共和国の山など、まさに近づくことも危険な絶景ほか、最近話題を集めている空が湖に反射するボリビアの塩湖や、セネガルの美しいピンク色に染まる湖など、日本から簡単にはたどり着けないものの、ちゃんとした手順を踏めば誰でも立ち寄れる絶景スポットまで幅広い。  また、本書の中でも異彩を放っている「廃墟の絶景」の章では、絶景かどうかは不明だが、超ホラースポットが紹介されている。たとえば、ドイツ・ブランデンブルク州の州都・ポツダムのほど近くにある廃病院「ベーリッツ・サナトリウム」は、かつてアドルフ・ヒトラーが下級兵だった頃、治療のために入院していたこともあるという病院で、激しく荒らされた手術室跡ほか、建物内は独特の退廃的な空気を漂わせ、興味本位で訪れた人は、みな一様に押し黙ってしまうという……。ほかにも、人骨で装飾されたチェコにある骸骨寺院、無数の人形で埋め尽くされたメキシコの人形島など、恐ろしくも気になるスポットばかり。  この本を参考に旅をすれば、刺激たっぷりなこと間違いなし。ただし、行くにはそれなりの覚悟と、もちろん自己責任でヨロシク。 (文=上浦未来)

池袋に中華街、錦糸町にリトルバンコク……東京でアジアを感じる案内本『東京のディープなアジア人街』

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『東京のディープなアジア人街』(彩図社)
 かつて一大ブームに沸いた韓流の街・新大久保をはじめ、錦糸町のリトルバンコク、高田馬場のリトルヤンゴン、池袋の新中華街、西葛西のリトルデリー、竹ノ塚のリトルマニラなど、東京には母国を離れて暮らすアジアの人々が独自のコミュニティを形成しているエリアが多数存在する。『東京のディープなアジア人街』(彩図社)は、そんな異国情緒漂うディープなエリアを徹底的に紹介する、アジア好きにはたまらない1冊だ。  著者の河畑悠氏は、学生時代にアジア独特の怪しさや猥雑さの魅力にとりつかれ、バックパッカーとしてアジア全域を放浪した経験を持つ。帰国後、池袋に中華料理を食べに、新大久保に韓国料理を食べに、錦糸町にパクチーを買いにと、あちこち回っているうちに、東京にもアジアが感じられる場所があることに気づく。日本とは言語も風習も異なる在留アジア人は、当然ながら、自分たちの国の食材が欲しくなるし、気兼ねなく訪れられる飲食店、パブやスナックを求める。そして、自然と同郷の人たちが集まり、自国と同じような空気感を形成していく。  たとえば池袋の中華街。私も、かつて池袋の北口に中華系のお店がたくさんあるらしい……との噂を聞きつけ、探してみたことがあるのだが、ぶらぶらと歩く程度ではさっぱり見つけられず、がっかりして帰った記憶がある。ところが、噂だけではなく、どうやら本当に存在しているようで、中華食品店、美容室、書店にカラオケ、ビリヤード店、マッサージ店、ネイルサロン、ガールズバーなど、生活に必要なものがそろっているという。しかも、日本一有名な横浜の中華街とは違う特徴として、池袋には中国東北部からの留学生が多く集まっていることから、彼らをターゲットにした東北料理店が多いという。中でも特筆すべきが、吉林省の朝鮮族自治州の韓国料理と中華料理をミックスした「延辺料理」なる店の多さで、その代表的なメニューは、クミンをふんだんにまぶした羊の串焼きや犬肉料理というから、なかなか衝撃的である。  また、錦糸町に存在するというリトルバンコクの章では、ほかの街でもよく見かけるタイ料理店やタイ古式マッサージ店だけではなく、タイ料理教室やタイ語教室、フルーツや野菜で器を作るタイカービングなど、タイに関すること全般を学べる「タイ教育・文化センター(タイテック)」を紹介。そんな場所があったのかとまず驚いたが、その理事長を務め、さらには、タイ食材輸入会社「ピーケーサイアム」代表、タイ料理店「ゲウチャイ」オーナーも務める、1976年に来日した松本ピムチャイさんにインタビューも試みている。なぜ錦糸町だったのか、リトルバンコクが誕生するきっかけなど、“ほー、なるほど!”と納得できる興味深い内容が記されている。    アジアが大好きだけれど、時間やお金がなくてなかなか行くことができない人、かつてバックパッカーだった人、アジアに興味はあるが未経験の人が興奮する内容に仕上がっている。 (文=上浦未来) ●かわはた・ゆう ライター・編集者。1979年生まれ。学生時代にアジアの魅力にとりつかれ、バックパッカーとしてアジア全域を旅する。大学卒業後、業界紙記者や情報誌の編集などを経験。現在はアジア関連をテーマとするライターとして活動中。好きな場所はタイのバンコク。タイ料理やゲテモノ料理の食べ歩きがライフワーク。

テッパンのあのネタに隠された愛情物語――COWCOW善しと、ちょっとヘンなおばあ

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撮影=後藤秀二
 それぞれにR-1決勝出場経験があり、コンビとしても「あたりまえ体操」で満を持してのブレークを果たしたCOWCOW。笑う人を選ばないユニバーサルなネタは、インドネシアなど海外でも高い人気を誇る。このたびCOWCOW善しが、大好きなおばあとの物語『ハイハイからバイバイまで―田島のおばあちゃんとぼくのヘンテコな二人暮らし』(ワニブックス)を上梓。トークでもテッパンのおばあネタに隠された、祖母と孫のおかしくもほろ苦い、小さな愛情物語を訊いた。 ――『ハイハイからバイバイまで』は、本当に突然ぶわっ……とくるので、電車の中で読むのは気を付けたほうがいい本ですね。 COWCOW善し(以下、善し) それはよく言ってもらえます。“自分のおばあちゃんを思い出す”と。もともと僕の人生で「本を書く」なんて予定は全然なかったので(笑)、そう言ってもらえるのはすごくうれしいです。 ――本を書くきっかけは、なんだったんですか? 善し 読売新聞で、小さいコラムを書かせてもらっていたんです。それをワニブックスの方が読んでくださって、「本にしませんか?」とお話をいただきました。そのコラム自体も、実は全然書く気はなくて。だって僕、そういうの得意じゃないんですもん。ただ、書くならおばあの話がいいとは思っていました。芸人とのトークでもね、テッパントークといったらなんですけど、よくおばあの話をしていたんですよ。「おばあって変だな」って気づき始めてからですけど。それにしてもまぁ、調子乗ってますよ、本を出すなんて。 ――執筆する中で、どんなところが大変でしたか? 善し 皆さんもそうだと思うんですけど、おばあちゃんとの記憶なんて限られてるじゃないですか。僕の中でも、おばあとの話は3~4ネタぐらいやったんです。いつも舞台なんかで話しているネタを書いた後が大変でしたね。 ――どうやって乗り越えたんですか? 善し おばあの家があった田島(大阪市生野区田島)に何度も足を運んでは、思い出したことをメモに取りながら……という感じで書きました。行くと記憶が蘇るんですよ。そもそも、おばあとの暮らしに「事件」なんてほぼほぼないのでね。この本の中にも、奇想天外なストーリーなんて全然ないでしょ(笑)。ただの日常ですもん。 ――でも描写はすごく詳細で、たとえばねずみとりのネバネバに引っかかったおばあの靴下のピンク色とか。そこがグッときます。
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善し ポイントポイントで妙に覚えているんですよ(笑)。でも、おばあが危篤やって言われた夜にバニラアイスを食べさせた話も、自分の中ではずっとなんでもない話でした。親戚が集まって、その中で僕が――当時はなかなかおばあに会えなかったので、僕が一晩付き添うということになって。「バニラアイスが食べたい」というのも、おばあはよく言うてたことだから。もちろんセンチメンタルな気分でしたけど、よくよく考えたら、その夜から1年半も生きてるんですよ。なんでやろ? っていう疑問が後から湧いてきた(笑)。その時だったら素通りする思い出も、今思い返せば……っていうのが結構あります。今になって、その時の気持ちを分析しているというか。 ――大人になって、あらためて「おとん」や「おばあ」の気持ちが分かってきたということでしょうか。 善し 自分が親になって、感じ方が変わったことも、もちろんあります。ただ小さいときにね、ワガママなことを言う子だった一方で、どこか冷静に見ているようなところもあった。大人が言うことをね、冷静に考えて蓄積していたと思うんです。それを少しずつ思い出していったというか。 ――周りの方々は、この本に対してどんな反応でしたか? 善し いろいろな種類のエピソードが入っているんですけど、人によって好きなところや、感じたことがバラバラなのが面白いですね。“自分のおばあちゃんを思い出した”というのが一般的な読み方だと思うんですけど、年配の人はきっと感じ方が違うだろうし、小さい子だったらどう思うかな……っていうのは、聞きたいところですね。 ――今回の本では、イラストや写真も善しさんが担当されているんですよね。この表紙のおばあは……似てらっしゃいます? 善し これはすごい似てます。僕のおばあのイメージは、これなんですよ。僕が小学校のときのおばあちゃん。その後、さらに老いていくんですけど、頭の中にあるのはいつもこれ。すごく好きなおばあなんですけど、どっかね、なんか変だなっていうのは、この小学生の時点で感じているんです。さらに言えば、この田島っていう街にもね、感じてる。変やぞっていうのは(笑)。 ――「田島」も「おばあ」も、芸人としての善しさんに大きな影響を与えた存在ですか? 善し そうですね。芸人になってから、僕は「優しい」とか「とろい」とか言われてきましたけど、それってまさにおばあです。おばあとの生活では、せかされるということがほとんどなかった。ここにも書きましたけど、銭湯行ったら何時間も帰ってこない子ですよ(笑)。漫才のテンポがゆっくりなのも、おばあから来てるんだと思ってます。 ――ギラギラとかガツガツとかとは無縁な。
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善し ギラギラガツガツせんとアカンとも思うんですけど(笑)。ただ本当に僕の単なるワガママを、いつも受け止めてくれていたんで。お寿司の話とかね、なんで僕はあんなことを言ってしまったんだろうって、ずっとずっと後悔してる記憶なんですよ。あんなに優しいおばあにって。 ――選ぶのが難しいとは思いますが、善しさんが特に思い入れのあるエピソードはどれですか? 善し 僕としては、やっぱり“ちょっと変なおばあ”の記憶がつづられている前半部ですね。この本のタイトル『ハイハイからバイバイまで』って、確かにハイハイしている小さい頃からっていう意味もあるんですけど、それだけじゃなくて「おばあちゃんとハイハイ」という不思議なエピソードも少し絡んでいるんです。この話は、僕の記憶の中でもSF的なエピソードなんですよ。いつかどこかで解明してほしい。 ――これはぜひ読者の方にも読んでいただいて、「?」を共有してもらいたいところですね。でも、思い返せばありました。うちの近所にも「ハイハイ」。 善し 大人たちは一体ここで何をしているのかという疑問と、おばあはなんのためにここに来ているのかという疑問と、あと僕はせっかくおばあの家に遊びにきて好きなテレビも見放題なのに、なんでこんなことに時間使ってんねんという疑問ですね。もう訳が分からない。 ――一方で、後半のおばあの話はちょっと切ない。 善し 後半は、僕が大人になってきて「おばあ何してくれてんねん!」ってぶつかり合ったエピソードですね。おばあはずっとおばあだけど、僕はどんどん大人になる。理由もなくイライラして、それをおばあにぶつけて、そんな自分にまたイラ立ってっていう。 ――おばあがお亡くなりになったのは…… 善し 12年前ですかね。 ――では、「あたりまえ体操」で全国的にブレークした姿を見ることはなかったんですね。 善し そうですね。でも、僕としては芸人としての姿よりも、結婚して子どもが生まれた今の家族の姿を見せたいです。結婚したのも、おばあが亡くなったのが大きかったんです。家族を求めるじゃないですけど、そういうタイミングだったと思う。おばあが死んで「あぁちゃんとしな」っていう気持ちはありました。 ――「ちゃんとしな」は、おばあに言われていたことですか? 善し ずっとですよ。だって僕、全然ちゃんとしてないんですもん(笑)。だからおばあが死んで、初めて独り立ちしたんだと思います。 ――善しさんは、これからどんな芸人さんを目指されますか? 善し ずっと同じことをする。ブレずにいたいです。ネタを作って、時々テレビに出させてもらって、そのペースを崩さずに。おばあといる時間が長かったので、会場におじいちゃんおばちゃんがいると、どうしても気になっちゃうんですよ。この人たち、ちゃんと楽しめてるのかなって。だからご老人でも理解できる、楽しめるネタをっていうのは、いつもどっか頭にありますね。
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――インドネシアでのブレークも、まさにそうですね。ユニバーサルな面白さ。 善し よく分からないことを自信ありげにやるというのは、僕の中ではあまりない。やっぱり、分かりやすく皆さんに伝えたいと思っています。あたりまえ体操のブレークも、皆さんに知ってもらえたのが、たまたまあれやったんだという感じなんです。これがもっと僕も若くてあのネタでブレークしていたらしんどいでしょうけど、自分らの中では「これで、そんなになんの?」というのが正直なところです。 ――世間って、分からないものですね(笑)。 善し それやったら、もっと早くやっとけばよかった(笑)。なので、あたりまえ体操が売れても廃れても、特にどうとは思いません。「あぁ、そこに引っかかってくれたんか」って。出版物もそうですよね。自分の本が店に並んだら本当に感動しますし、おばあの話が本屋に置いてんのやって客観的な目で見たりもするんですけど、でも大ベストセラーになってくれとは、あまり思わないかもしれない。ワニブックスさんの前では言えないですけど(笑)。だけど印刷した分は、きっちり誰かの手に届いてほしい。一生かかっても売り歩こうかなと思ってます。だって、もうこの表紙とか、いい紙使いすぎてへんですか?   ――そんな謙虚な……ぜひ第二弾もお願いします。 善し いやいや、それはいいです。でも、本当に刷った分はなんとかせんと。本にも書いた芸人になるきっかけもそうですけど、この本も、本当に人生はどこでどういうふうになるか分かりませんね。 ――これから何かチャレンジしてみたいことはありますか? 善し 本も出さしてもらったのに、まだですか!? ――そう言わず、何か……。 善し う~ん(しばし無言)……いつか、自分の劇場を持ちたいという夢はずっとあります。本多劇場みたいな。 ――演劇もいいですね。善しさんが脚本を書いて。 善し いやいやいや、そういうやましい気持ちはないですよ。ただ大きな劇場を作って、満たされたい。お菓子の家を作りたいっていうのと、大して変わらないのかも。お菓子の家は「食べたい」から作るんじゃないでしょ。ただ劇場、自分の劇場を持ちたいという。 ――おばあの家で作っていたプラモデルと同じじゃないですか!! (文=西澤千央)

こんな問題に人生を弄ばれていたのか!『絶対に解けない受験世界史―悪問・難問・奇問・出題ミス集』

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『絶対に解けない受験世界史―悪問・難問・奇問・出題ミス集』(社会評論社)
 人生を左右する大学受験。それを通過してきた人の中には「まさか、あんな問題が出るとは……」という苦い思い出を持っている人も多いんじゃなかろうか?  筆者もそうである。「世界史で90点以上取れるから大丈夫だろう」と軽く合格を予測していた某大学の入試。問題用紙を開くと、掲載されていたのはスペインの19世紀末~20世紀前半を問う問題だった。教科書レベルを越える出題範囲でした、ハイッ!  『絶対に解けない受験世界史―悪問・難問・奇問・出題ミス集』(社会評論社)は、人生を左右する局面に登場した、とんでもない出題を集めた一冊である。大学受験の必須アイテムである赤本をイメージした装丁。掲載されているのは、さまざまな大学で実際に出題された難問・悪問、そして出題ミスなのである。いくつか引用してみよう。 ●慶応大学文学部<悪問> 問題3 (南ア戦争=ブール戦争)戦争は、イギリスにとっては(F)戦争以来の長期戦となった。 ●早稲田大学国際教養学部<出題ミス> 問題1 問3 下線部2の地(編註:現在のシリアの首都)を支配したことのない王朝はどれか。ア~エのうちから一つ選びなさい。 ア アッバース朝 イ ササン朝 ウ マルムーク朝 エ ウマイヤ朝  わかるだろうか? 前者はクリミア戦争が当てはまりそうだが、「長期戦」をどう捉えるかで回答が分かれてしまう問題だ。  後者はササン朝を答えにしたかったのだろうが、「支配したこと」は、すべての王朝があるのだから、一つは選べないのである。  作者は、こうした人生を左右する入試での、トンデモ問題にひとつひとつツッコミを入れていく。この問題でも「この作題者は多分ホスロー2世知らないよね」とか、容赦ない。またクラシックミュージックを扱った慶応大学の難問では「慶応大学の商学部を受けるような層にとっては“クラシックは一般教養の範囲内”という判断は可能かもしれない」と記す。  そして、この本は464ページもあるのだが、掲載されているのは2009年以降のもの。わずか5年あまりで、こんなにトンデモ問題が出題されていたというわけである。「人生懸かってるのに、何してるんだ!」そんな怒りを感じるのは、筆者だけではないハズだ。 (文=昼間たかし)

9年ぶりの日本シリーズ進出でも……野村克也が明かす「阪神の黄金時代が永遠に来ない理由」とは?

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相も変わらず、ボヤいてます。
 今シーズン、クライマックスシリーズに進んだ阪神タイガースは、巨人を4連勝で下し、パ・リーグの覇者・福岡ソフトバンクホークスと9年ぶりの日本シリーズを戦っている。10月30日現在、勝ち星は3対1と崖っぷちに立たされてはいるものの、2012年の和田豊監督就任から3年、「猛虎復活」という当初のコンセプトが実現したといってもいい成績だろう。  はたして85年以来29年ぶりの日本一に輝くことができるのか? それとも……と、全国の阪神ファンがかたずをのんで見守っている中、この熱狂を斜めから眺めている人物がいる。元阪神タイガース監督・野村克也だ。彼は、この阪神の好調を一過性の出来事として考えている。今年9月に発売された、その名も『阪神タイガースの黄金時代が永遠に来ない理由』(宝島社新書)の冒頭で、野村は「阪神タイガースが強くなることは絶対にない。阪神に黄金時代は永遠に来ないと断言できる」と書き記しているのだ。  いったい、どういうことだろうか?  99年から3年間阪神の監督を務めた野村。当時は3年連続最下位と芳しくない成績に終わっているが、その経験から、野村は阪神の「悪い伝統」の内幕をつぶさに観察することができた。まず、彼が告発するのは、その人気ぶりから来る弊害だ。 「弱くても人気があり、周囲からチヤホヤされるから、選手が“お坊ちゃん”なのだ。甘えの体質が染みついていた」  サッカーW杯がどんなに盛り上がろうとも、関西のスポーツ紙は阪神ネタばかりが1面を飾る。そして、その人気をあおっているのが、「虎番」と呼ばれるスポーツ新聞の阪神担当記者たち。勝てば選手を大々的に持ち上げるが、負けた場合はその後の関係を考慮して選手ではなく、監督や球団へバッシングの矛先を向ける。調子に乗った選手たちは、キャンプ中にミーティングをしていても、練習後の遊びのことを考えて、気もそぞろ。タニマチからの食事のお誘いや、OB会の接待など、阪神選手は球場の外でも忙しいのだ。  そして、なぜか阪神はドラフトにおいて有力選手を獲得することができない。野村は、近年の阪神のドラフト1位で即戦力としてチームの柱になったのは、鳥谷敬、能見篤史と、藤浪晋太郎ぐらいしかいない、と語っている。野村のヤクルト監督時代、阪神には選手を入団までこぎ着けると、担当スカウトに球団から数十万円のボーナスが支給される制度があったという。取りたい選手ではなく、取れる選手を……そんなスカウトの姿勢では、実力のある若手選手を獲得することは難しいだろう。  さらに、FAで阪神が獲得した選手たちのほとんどは、実力を発揮せずに終わると野村。その原因は、阪神の中にある「空気」だという。 「あのチームでは、ヨソ者扱いされて馴染めないのだ。FAで加入した選手や、城島(健司)、福留(孝介)、西岡(剛)も、それで力を発揮できない面もあるのだろう」 と、独特の「伝統」を持つ阪神タイガースならではの事情が、「黄金時代が永遠に来ない」と断言する野村の根拠となっているようだ。そして、その「伝統」に対する批判だけでなく、現役選手や監督個人についても、野村の批判はやむことがない。  野村の監督時代に現役選手だった和田監督には「オーラのようなものがない」と苦言を呈する。「和田はマジメな性格で、コーチとしては手腕を発揮するが、残念ながら監督の器ではない。(略)あまりしゃべるタイプではないし、ベンチでも、いるのかいないのかわからない感じがする」。さらにオ・スンファンの150kmのストレートに「スピードの割には打者は早く感じない」、新井貴浩に「フルスイングではなくムチャ振り」、鳥谷は「キャプテンというより脇役タイプ」と、同書では批判的な分析が展開されているのだ。  そもそも、野村は、監督時代に当時のオーナーであった久万俊二郎オーナーに対して、クビを覚悟で阪神タイガースの球団改革を訴えていた。しかし、それから14年が経過しても球団全体からの「毎年優勝してやろう」という気概は一向に感じられないという。だからこそ、「勝ったところで決して本質が改善されているわけではない」と、この好調が一過性のものであると予言しているのだ。  ただし、野村も、ただただぼやき続けているわけではない。サッカーに押され、野球人気が低迷する今だからこそ、野村は関西を中心に絶大な人気を誇る阪神タイガースの活躍に、プロ野球界の未来を見ている。 「関係者にとっては相当厳しいことを書いてきたが、それは3年間お世話になり阪神の内情を知る私があえて低減することで、少しでもいい方向に進んでくれればという思いからだ」  はたして、そんな野村の思いが通じる日は来るのだろうか? (文=萩原雄太[かもめマシーン])

パリ、台湾、スペイン、サンフランシスコ……禁断のハッテン場漫遊記『世界一周ホモのたび 祭』

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『世界一周ホモのたび 祭』(ぶんか社)
 『世界一周ホモのたび 祭』(ぶんか社)は、めくるめく禁断のホモ旅をのぞき見ることができる大人気シリーズの第3弾。本書は、デブ好きでフケ専のホモライター・サムソン高橋氏の原作を基に、派手好きで露出好きのホモ漫画家・熊田プウ助氏がイラスト描く“ハッテン(場)漫遊記”である。その内容は、ふたりが元ホモ雑誌編集者時代の同僚ということもあり、かなり詳細で、あけっぴろで、最初から最後までぶっ飛んでいる。熊田氏のユーモアあふれるかわいらしいタッチのイラストに惹かれ、軽い気持ちでページをめくると、性へのあくなき探求心……いや、ホモの方々だけが知るディープな世界が広がり、ページをめくった瞬間から「わー、わー、わー!!!」と叫びたくなる。  第3弾では、“祭”という名のタイトルにふさわしく、台湾で6万人の参加者が集まった世界最大級のゲイパレートや、ヨーロッパ中のゲイが参加するパリのゲイパレード、サンフランシスコの革とSMの祭典「フォルサムストリートフェア」などのイベントをはじめ、ゲイバーやゲイサウナ、ハッテン便所ほか、いわゆる“ハッテン場”と呼ばれる世界各国のゲイスポットを、短編マンガで紹介している。  一言で“ホモ”といえど、プロレスラー的に鍛えた太めのガチホモ、パッと見でいかにもホモとわかる独特ファッションに身を包んだイカホモ、美青年系などいろいろなタイプがいるそうで、高橋氏自身は40代の自称ブス系で、好みは冒頭で書いた通り、デブ好きのフケ専。その筋では、角●卓造氏のようなタイプがかなりの高級物件だという。そんな高橋氏が「ブスだから相手にされない!」と怒りながらも、デブフケ系を狙い、グイグイと積極的にアプローチしては撃沈を繰り返していく姿がこの本の見どころとなっている。  終始非常に濃密な下話が続くのだが、ラストは同姓婚が認められているスペインで、輝くようなイケメン親父に「パリはキャンセルしてしばらくこの家にいたら? 君が望むなら好きなだけ」と求愛されるも断り、「また今度」と涙でお別れ……という、ちょっと切ないエピソードで締められている。  ……と、「イイハナシダナー」のまま終わればいいのだが、直後のコーナー「サムソン高橋×熊田プウ助 ハミ珍対談」での会話がひどい。
高橋:編集者から<いつもハッテンでモテない話ばっかり! 恋愛エピソードはないの?」ってリクエストがあって、そんなものない体験の中で必死に探して書いたのがこの話で、その原稿が送ったら、ソッコーで返事がきて、<すっごいムカつく!>って。 熊田:その編集者の気持ちはよくわかるんだけど、ひどい話ね。 高橋:(いや、)熊田さんが仕事の途中にツイッターで「(原作に絵を)描きながら不愉快で体調がおかしくなりそうです」とかってつぶやいてたんだよね……。 熊田:ぜんぜん覚えてないわ。あまりムカついたから記憶から消去したのかしら。 高橋:おふた方の反応を見て、ああ、自分はモテないままのほうが皆さんに幸せを届けられるんだな、と改めて実感しましたよ。だから今後の目標としては、読者の幸せ配達人としてこれからもモテないままでいたいですね。 熊田:そこはいちいち目指さなくても、今のままで大丈夫だから。
 こんなふたりが描く、ホモ旅の世界。読者は非常にニッチな層に思えるのだが、第3弾まで出ているということは、いわゆる“ノンケ”の方々からも需要があるのかも!? ホモとノンケの世界の架け橋になる1冊かもしれない。 (文=上浦未来)

「奥さんさえいれば、友達なんていらない」テレビでは見られない“黒蛭子”の極端すぎる人づきあい観

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 最近『ローカル路線バス乗り継ぎの旅』(テレビ東京系)がきっかけで再ブレーク中の蛭子能収。テレビへの出演歴もだいぶ長いのに、いまだに画面の中で異様な雰囲気を放っていて、なんだかモヤモヤした気持ちにさせられます。  そんな蛭子さんが『ひとりぼっちを笑うな』(KADOKAWA)という本を出版した。要は「友達がいなくたって、別にいいだろ」というような内容で。納得できるようなできないような……とにかくテレビでヘラヘラしている蛭子さんとは一線を画した、邪悪な蛭子さんが見え隠れする一冊なのだ。  「蛭子伝説」と呼ばれるような危険なうわさも多い蛭子さんにとっての「人づきあい観」って、どんなものなのか!? 聞いてみました。 ■友達なんていても、あんまりいいことはなかった ――テレビとかのイメージでは、蛭子さんってあんまり自分語りをするイメージがなかったんですが、今回この本はどうして出そうと思ったんですか? 蛭子能収(以下、蛭子) 広島でLINE殺人っていうのがあったでしょ? 友達とモメて殺されちゃったっていう。そういった、友達や仲間を作ることによってマイナスになることもあるんじゃないかな……っていうことを伝えたかったんです。 ――世の中的には「友達や仲間がいっぱいいるのはいいことだ」っていう風潮がありますよね。 蛭子 でも、その友達というのは、実は恐ろしい存在であったり、自分の自由を奪う存在であったりする可能性があるから、もう一度、友達というものを考えてみませんか? ということなんですよね。 ――蛭子さんは「友達がいて助かったな」みたいなことはなかったんですか? 蛭子 ううーん……うん、そういう記憶はあんまりないですね。 ――友達なんていても、あんまりいいことはなかったと。みうらじゅんさんとか根本敬さんは、よく「蛭子さんと友達だ」って言っていますけど。 蛭子 アレは……まあ、同じ絵を描く仲間ではありますけどね。でも、遊びに行こうとか電話をかけるような仲ではないですよ。仕事がある時に一緒になることはありますけど、プライベートでの付き合いはまったくないです。だから、プライベートでどっかに行く時には、ほとんどひとりなんですよ。映画に行くか、競艇に行くか、麻雀に行くか……。とにかく、ひとりで遊べるものが好き。 ――テレビで蛭子さんが何か言いだすとすぐにツッコまれちゃいますけど、本ではノーツッコミで丸々一冊蛭子さんの主張が繰り広げられていて面白かったです。意外だったのが、「とにかく目立ちたくない」ということですね。なんでそれが舞台に出たり、テレビに出たりすることになったんですか? 蛭子 いやぁ~、一般の人に埋もれて普通に過ごしたいんですよ、本当は。自分の顔とか姿を人前にさらしたくないですもん。最初に舞台に出たのは、柄本明さんから「出てくれ」って頼まれたから。オレは、ホントは出たくなかったんですよ。それからテレビの依頼も来るようになって……。だけど、人から頼まれたことを断るのもイヤなんですよ。仕事にしたって、せっかく頼まれたら普通断らないでしょ? ――あ、そうなんですか? ギャラも気にしない? 蛭子 「いくらくれるのかなー?」っていうのは、楽しみにするけど。安くてもとにかくやって、予想より多かったら「ヤッター!」、少なかったら「クソー!」って。だから、仕事は高くても安くても断らない。 ――なるほど、それじゃ今でもテレビに出るのはイヤだ……という感覚なんですか? 蛭子 今は出たいですね。お金稼ぎたいから。もう、お金を稼ぐのが面白くて面白くて! ――ああ(笑)。やっぱり漫画を描いているのと比べて、テレビのギャラは全然違いますか? 蛭子 「ガロ」で描いてた頃は、原稿料なんてもらえなかったですからね。今、普通の人が1日働いたとすると1万円くらい? それを、テレビに出ると10倍くらいもらえるわけじゃないですか。そりゃあ、辞められないですよ。すごく稼げるので、ドンドン出たいと思います。 ――漫画と違って、テレビに出ていると、チヤホヤされたりするわけじゃないですか。そのへんもうれしかったりしますか? 蛭子 それは、うれしくも悲しくもないって感じですね。まあ、いちいち声を掛けられて返事をするのがめんどくさいっていうのはありますけど。だから、かぶらなくてもいい帽子をかぶるようになりましたからね。おかげでハゲが進んできちゃって……。 ――それは年齢的な問題じゃないんですか? 蛭子 やっぱり帽子をかぶってると太陽の光をさえぎっちゃうから、栄養が足りなくなっちゃって……。 ――そんな光合成みたいな原理ではないでしょう! ■漫画でも意外と稼いでいる ――最近、『ローカル路線バス乗り継ぎの旅』で再ブレークして、テレビによく出ていますけど、テレビの仕事が全然なかった時期ってあるんですか? 蛭子 いやー、意外とコンスタントにあるね。最初にテレビに出たのは『笑っていいとも!』で、それからドラマの『教師びんびん物語』と、『いつも誰かに恋してるッ』(すべてフジテレビ系)で宮沢りえのお父さん役が来て、それからもわりとずーっとあって、しばらくなくなったのは麻雀で捕まってから……半年くらいはなかったね。でも、その後もチョコチョコ仕事が入ってたから。でもこれからは、テレビに出るために、もっと話術とかを磨いていかないといけないですねぇ……。 ――えっ、今さらですか!? 蛭子 そろそろ新鮮味がなくなってきてると思うんで、お笑いの人みたいにしゃべりを上手にして、バーッとしゃべって最後にオチをつけられるようなトーク術を身につけたいですね。 ――それ、求められてない方向だと思いますよ……。 蛭子 そうかなぁ~? ――本にも書いてあって意外だったんですが、今でも「本業は漫画家だ」という認識なんですね。 蛭子 そうですね。「テレビタレント」というのは、ちょっと職業として言いづらいんですよね。「俳優」だったら言いやすいんだけど。オレはお笑いでもないし、テレビには漫画家として出てると思ってますね。まあ、漫画自体はほとんど描いてないけど。 ――本業だけど、仕事は全然していないと。 蛭子 ただ、イラストや4コマみたいなのはよく描いてますよ。だから、まだ漫画家っていってもいいんじゃないですかね。 ――収入的には、圧倒的にテレビのほうが……。 蛭子 そうですねぇ……。それでも、意外と思うかもしれないけど、漫画でも月50万くらいは稼いでるんですよ。テレビはもっとありますけどね。でも意外でしょ? ――ええーっ、そんなに!? 漫画の収入なんて、月2~3万くらいだと思ってましたよ 蛭子 そうでしょ? だから、今タレント辞めても細々だったら食っていけるの。 ――50万もあったら、細々でもないでしょう! ■奥さんは、どうしても必要な存在だった ――蛭子さんが、お葬式みたいな場所に行くと笑っちゃうというのは有名ですが、前の奥さんのお葬式では、ものすごく泣けたそうですね。 蛭子 そうですね、それまで他人の葬式っていうのは、どんなに親しい人でも全然悲しくなかったんですよ。 ――逸見政孝さんとか、山田花子さん(漫画家)なんかのお葬式にも出られたそうですけど。 蛭子 山田花子さんの時も、すごく笑ってしまったから……。すごく友達だと思ってたんですけど、だけどあんなに笑ったということは、そうも思ってなかったのかなって。 ――悲しいっていう気持ちはあるんですか? 蛭子 それはありますよ。あんなに面白い漫画を描いていたのに、どうして自殺してしまったんだと。それでも笑っちゃうんですよね……。だから、オレが死んだ時も別に悲しんでもらわなくていいと思ってます。死んじゃったら何の心もないわけですから、わざわざオレの葬式のために時間を使ってもらいたくないんですよ。各自で好きなことをしててもらいたい。人の自由を奪うのがイヤなんで。 ――それでも、奥さんの時はすごく泣けたと。 蛭子 やっぱり、どうしても必要な存在だったのかな、奥さんっていうのは。自分にとっては、すごく大切な人だった。 ――で、前の奥さんが亡くなってから、「必要な存在だ」ってことで、必死になって次の奥さんを探し出したらしいですね。 蛭子 ものすごく必死で探しました。ファンレターに電話番号が書いてあったら電話して「ご飯でも食べませんか?」とか。 ――それは「寂しい」っていう気持ちからだったんですか? 蛭子 そうですねぇ。電車に乗ってても、知らない女性が「寂しくなったら電話して」って電話番号くれたりしましたからね。 ■「奥さんって、セックスの面でも便利ですよね」 ――今回の本って、「自由」というのがテーマなのかなと思いますけど。 蛭子 そう。自由が一番楽しく生きる方法だと思いますね。ただ、そのためには、自分がやりたいことがなけりゃダメだと思うんですよ。やりたいことがない人に限って、友達に走って悪いことをする ――友達に走って(笑)。 蛭子 人間ってグループになると、たいてい悪い方向に行くでしょ。態度が大きくなるし、個人に対して失礼なことをしがちじゃないですか。だから、すべてのグループを否定しますね。ロクことはない、仲たがいもする、面白くない。だって、今までのグループって全部潰れてますよ。中核派とか革マル派とか、ロクなもんじゃないですよ。仲間割れになって殺し合いになって潰れていくじゃないですか。これがすべてのグループの末路ですよ。絶対に、支配する側と虐待される側に分かれちゃうんだから。 ――また極端な例を……。でも、確かに蛭子さんがそういうグループに所属したら、確実に虐待される側になりそうですよね。 蛭子 だから入りたくないんですよ。虐待する側だったら、楽しいかも分からないけど……。グループってどうしても、みんな平等ってことにはならないからイヤですね。 ――上下関係がイヤだと。 蛭子 そうですねぇ~。よっぽどリーダーができた人だったらいいと思いますけどね。たとえばオレみたいな……。オレがリーダーだったら、絶対にうまくやる自信がありますよ。グループをやる意思はないですけど。 ――確かにグループってめんどくさいですけど、それでも「寂しい」という気持ちに勝てない人も多いんじゃないでしょうか? 蛭子 そうなんですよ。そういう時は、趣味のグループに入るのがいいんじゃないですかね。適当なところに行ってみて、大丈夫かなっていうグループを探して。山登りでもいいし、コーラスでもいいし。 ――え? そういうグループだったらアリなんですか? 蛭子 あんまりリーダーが突出してないような、仲良しグループみたいなのだったらいいんじゃないですかね。 ――……? 蛭子さんは、寂しいっていう気持ちを、どこで解消しているんですか? 蛭子 うーん、競艇場に行っても寂しいですからね……。やっぱり、それが奥さんなんじゃないですかねぇ。お嫁さんと旦那さんっていう関係は、すごく大切だと思います。それが一番いいですよ。家で女房が待っていると思うからこそ、ひとりで競艇場に遊びに行っても寂しくないんですよね。 ――これだけ聞くとハートフルな話に聞こえますけど、蛭子さんは「奥さんとセックスすればタダだからいい」って、よく言ってますからねぇ……。 蛭子 それはそうじゃないですか! その面でも便利ですよね、奥さんって。オレは奥さんがいる時は絶対に浮気もしないですし、「いいな」って思っても声もかけないですし。……まあ、また亡くなったら必死で探すかもしれないですけど。 ――奥さんさえいれば、友達なんていらないという結論ですかね? 蛭子 まあ、どうしても友達が欲しかったら、たとえば「遊びに行こう」って電話がかかってきた時に、気軽に断れる人がいいと思います。本当はほかのことをしたいのに、気を使って「行く」って言わなきゃならないような関係は、あまりよくないんじゃないかと。それくらいお互いの自由を尊重できる関係が、いい友達だと思います。 (取材・文・写真=北村ヂン)

と学会が「嫌韓・嫌中論争」に参戦! トンデモ本から読み解く、“真実”の日中韓関係と歴史

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『日・韓・中 トンデモ本の世界』(サイゾー)
 世の中、嫌韓・嫌中ブームである。書店へ行くと、韓国と中国の悪口本が山のように出ている。売れているのだ。中韓の日本嫌いは凄まじいが、これまではネット以外でこの2カ国の反日文化を知ることは難しかった。その実態を知らせるべく多くの本が書かれている。  しかし反日の実態がわかればわかるほど、疑問が浮かぶ。  彼らの反日は、日本人の知る日本やアジアの歴史とはあまりにもかけ離れている。従軍慰安婦や領土問題などの高度に政治的な案件はともかく、桜や剣道の起源は韓国だという韓国起源説、いわゆるウリジナルや日本を軍国主義化していると批判しながらチベットやウイグルを弾圧する中国の姿勢は、日本人からすると意味不明、トンデモな話である。  しかもそうした現状を知っているだろう日本の政治家や財界の大物たちが、過剰なほど中韓に肩入れをしているのだ。日本にもまた、トンデモない価値観の人たちがいるらしい。  トンデモのことはトンデモ本に訊け! 中韓を巡るトンデモ言説の真相を、日・韓・中3カ国のトンデモ本から解き明かそうとしたのが『日・韓・中 トンデモ本の世界』(と学会、水野俊平、百元籠羊/サイゾー刊)である。  韓国で政治問題にまで発展した超絶“嫌日”本(『悲しい日本人』)、悪名高き統一教会の教祖による丸ごと一冊自画自賛本(『平和を愛する世界人として 文鮮明自伝』)、敵が真っ赤っかな韓国の反北朝鮮アニメ(『ロボット王シャーク』)、さらには幸福の科学の教祖・大川隆法が北朝鮮の現在の首領・金正恩の守護霊を呼び出し、秘密のベールに隠された北朝鮮の「真実」を暴き出した一冊(『金正恩の本心直撃!』)など日・韓・中にまたがって、互いに互いがトンデモないことになっている本や映画を発掘し、その裏側にある民族的メンタリティを掘り下げる。そこでは歪んだ妄想が合わせ鏡のように増幅し合い、もう笑うしかない異様な価値観を生み出しているのだ。 『平和を愛する世界人として 文鮮明自伝』のパートを読むと、韓国人の唱える反日が理屈ではなく、宗教であることがよくわかる。  合同結婚式や開運壺売りで社会問題化した統一教会。彼らは、韓国を「防共の砦(とりで)」とする西側諸国の戦略に乗って勢力を拡大したが、そのバックに故・笹川良一など日本の右派がいたことは公然の秘密だろう。しかしその教祖の故・文鮮明が日本で早稲田高等工学校を卒業していたことや、反共を唱えながらも北朝鮮出身だったことは、評者はこの解説で初めて知った。  彼は韓国の反日思想を、神からの教えとして信者に伝えているらしい。『平和を愛する世界人として 文鮮明自伝』によると、日本は海に浮かぶ島国なので女性を表し、「世界の中でエバ国(母の国)の使命」(p.33)を担う。だから「世界の母として、たとえ飢えたとしても世界の国々を保護」(同)しなければならないという。ずいぶんな話である。  エバ国があるならアダム国(父の国)もあるだろう。それが韓国だ。その証拠に半島は男性を表す大陸から突き出している。その形は男性自身を表しているという。  たしかに大陸から朝鮮半島は突き出てはいるが、角度的には元気の尽きた老人のようだ。反日は、彼らにとってバイアグラなのか?  文鮮明いわく、エバはアダムに仕えなくてはならない。だから日本は日韓併合の贖罪として南北朝鮮の統一のために「生きなければならない」(同)。世界中に慰安婦像を建てるようなメチャクチャができるのは、それが宗教行為だからなのだ。  宗教といえば日本も負けてはいない。『金正恩の本心直撃!』で呼び出された金正恩の霊(本人が生きていても霊を呼び出せる、それが大川隆法流である)は、台湾が繁栄している理由を、南にあって「バナナがいっぱいとれる」(p.166)からと言い、父だった金正日を「注射を打てば死ぬでしょう」(p.170)と暗殺したことを認め、「君らの敵は、われわれじゃなくて、税務署だ」(p.180)と、幸福の科学の税金の心配までするのだ。  戦前の朝鮮と日本が同じ起源を持つという日韓同祖論(だから日本は朝鮮を併合していいという屁理屈である)は、日本にも(『韓国人は何処から来たか』)、韓国にも(『日本語の正体 — 倭の大王は百済語で話す』)あり、そのベクトルが真逆になっているのが面白い。前者では日韓は同じ民族が日本と韓国に分かれたといい(そして韓国だけが堕落したのだという)、後者では韓国から日本へと民族が移動したという(だから日本は韓国の亜流で二流)。日韓同祖論者の日韓同祖史観というべき独特の考え方が、この2つのパートを読むと理解できる。そして、そんなトンデモ説を掲げて朝鮮併合を行なった当時の日本の姿が、その向こう側に透けて見えるのだ。  トンデモ本を読むのは、多くの場合、苦行以外の何ものでもない。こういっては申し訳ないが、冗長で退屈で、正直、まったく面白くない作品が多いのだ。だが、と学会の面々がそんなトンデモ本のエッセンスを抽出し、こねくり回すとあら不思議、ゲラゲラ笑いながら読み進むうちに、トンデモ説の持つ視点のユニークさに気が付き、トンデモを生み出した背景を知ることができるのだ。  嫌中・嫌韓本のさらに先には、アジア3国の濃密な関係と隠された史実がある。その端っこを覗き見る、入門書としてぜひ一読をオススメしたい。 (文=コタロー)