ホリエモンの「本音で生きる」とは!? SMAP&ベッキー騒動の“真実”に切り込んだトークライブ全容!

horiemon0201.jpg
生のホリエモン、サインももらっちゃいました
 1月31日、渋谷の「HMV&BOOKS」で、元ライブドア社長で実業家の堀江貴文氏による「シブヤの中心でトコトン 本音を叫ぶ!」が開かれた。  自著である『本音で生きる 一秒も後悔しない強い生き方』(SBクリエイティブ)の発売を記念したトーク&サイン会だったが、これまでもストレートかつ明快な“本音”で社会の真実を語り、今なお絶大な支持を集める「ホリエモン」の思考、生きることに対する考え方を記した同著。ホリエモンの一ファンである筆者は単純にサインが欲しくて来てしまったミーハーではあるが、トークライブでは「これぞホリエモン節」といえる鋭いコメントで場内を沸かせている堀江氏を見ることができた。  その中でも、今世間を騒がせている「ベッキー不倫騒動」「SMAP解散騒動」についても彼らしい見解を披露。ここではその一部を紹介しつつ、ホリエモンの「本音で生きる」の意味を探っていきたい。  堀江氏は、最近積極的に著書を出版する理由として「世代が一回りした」ことを挙げている。  十数年ほど前はプロ野球新規参入やニッポン放送買収、衆院選出馬など「時代の寵児」としてテレビで見ない日はなかった堀江氏、2006年に証券取引法違反容疑で逮捕され、その後の裁判、有罪確定、長野刑務所への収監、そして仮釈放と、過去のような露出のない状態ですでに10年近い年月が経過。そのため、今20代前半の人たちにとっては「たまにテレビで見るホリエモンて誰?」「クイズ番組とかけっこう当てるよね」というイメージしかないそう。ライブドア時代もたくさん書籍を出した堀江氏だが、もう一度自分の考えをまとめた本があれば、需要が見込めると考えたそうだ。クールに“勝ち”を狙いにいくあたりはさすがである。  今回の著書である『本音で生きる』は、「言い訳をやめる」「バランスをとるな!」「自意識とプライドを捨てる」などの章に分かれており、自分が望むように、楽しいと思える仕事や行動で生きていくことの大切さ、それによってもたらされるストレスフリーの重要性などが記されている。10年もの間に天国と地獄を見た数少ない人物が語る「生き方」は、悩める人々の心を後押ししてくれるはずだ。  そんな中、堀江氏が「本音で生きていない」代表例として挙げたのが、「SMAP解散騒動」だ。
horiemon0201-2.jpg
トークライブの様子。100人近く人がいたかしら
 堀江氏いわく、今回の解散騒動はSMAPにとって本音で生きる「最後のチャンス」だったそう。SMAPメンバーほどの人気と知名度があれば、たとえジャニーズ事務所を退社したとしても確実に上手くやれたはずだと語る。仮にテレビになかなか出演できなかったとしても、ニコニコ動画やネット上では引く手数多に違いなく、事務所のギャラの“中抜き”もなくなり、収入自体もUPするはずだ、と……。  しかしSMAP、特に木村拓哉以外の4人は、独立の意志がありながらも「事務所残留」の方向で納得し、憔悴しきった顔で「謝罪会見」をしたという事実。これは、彼らが「本音」で生きられる道を捨てたように堀江氏には見えたようだ。その意味で、楽しく自分の意志で、事務所の考えに縛られずに生きる「最後のチャンス」を逃した、と解釈していた。最後には「キムタクいないんじゃ歌歌えないかも(知り合いの芸能関係者の意見だけど)」と言って、笑いを誘っていたが……。  さらに、不倫騒動で騒がれたベッキーに関しては「別にあのベッキーさん、悪い人じゃないでしょ」「かわいそうだよさすがに」と同情の様子。休業も発表して精神的に参っているという報道もある中で、「批判などされて当然」というスタンスを持つことの大切さを堀江氏は示す。 よくSNSが“炎上”するという堀江氏は、「批判するやつは批判した瞬間からそのことを忘れてる」「所詮は他人事」と、自分の「本音」を語れば自然と非難する連中を出てくる、そんなものは無視すればいい、大したことじゃないから、と結論づけている。  わずか30分程度だったが、人が「楽しく生きる」ためのヒントがたくさんちりばめられた堀江氏のトーク。自分らしさを大切にすることはやはり重要なのだ。 『本音で生きる』はビジネス書・ハウツー本ではなく、いうなれば「思想書」と、ここでは結論づけておく。

「対話」の末に見えた、人が人を殺す“理由”とは――『殺人犯との対話』

514HekXWbDL.jpg
『殺人犯との対話』(文藝春秋)
 なぜ、人は人を殺すのか?   殺人事件の被害者数は年間383人(2012年)。実に、1日に1人以上が殺人事件の被害者となっており、殺人の報道を耳にしない日はほとんどない。怨恨、強盗、保険金、強姦、快楽など、さまざまな理由で人は人を殺す。にもかかわらず、司法の場以外で、殺人犯たちの生の声が社会の中で語られることはほとんどない。  ノンフィクション作家・小野一光は、「週刊文春」(文藝春秋)の連載「殺人犯との対話」で、凶悪殺人犯たちの素顔を追いながら、そんな疑問に迫っている。角田美代子が首謀者となった「尼崎連続変死事件」や、畠山鈴香による「秋田児童連続殺人事件」など、10の事件を追ったこの連載が、同名タイトルの書籍として刊行された。  02年に発覚した「北九州監禁連続殺人事件」は、主犯である松永太が自らの手を汚さずに、マインドコントロール下に置いた被害者たちに殺し合いをさせ、合計7人が殺害された事件。小野は、福岡拘置所で松永と面会すると「私の裁判はね、司法の暴走ですよ」「いわゆる魔女裁判のように裁こうとしているんです」と、饒舌にまくし立てられる。「一光さん、神に誓って私は殺人の指示などはしていません」。殴る蹴るにとどまらず、電気コードを用いた通電の虐待など暴力行為が常習化し、暴力の末に被害者が死ぬと、生き残っている家族に遺体の切り分けや肉を鍋で煮込むなどの処理をしていた松永は、後ろめたさも卑屈さもなく、そう断言した。小野は「大きな目でこちらを射抜くように直視して言い切る姿は、確信に満ちていた」と振り返り、「悪魔とは、意外とこんなふうに屈託のない存在なのかもしれない」と殺人犯の素顔を描写する。  同じく福岡県で04年に発生した「福岡一家4人殺人事件」は、3人の中国人留学生による凶悪な事件。犯人として捕らえられた楊寧、魏巍には死刑、王亮には無期懲役の判決が下された。金銭目当ての犯行にもかかわらず、彼らが手にしたのはわずか3万7,000円のみ。その金額と引き換えに、一家4人の命は失われ、福岡市内の箱崎ふ頭に沈められたのだった。小野は、中国に飛ぶと、魏巍の父親との面会を果たす。「進んだ技術を勉強するため、日本に送り出した」と語る父親は、親戚から自身の10年分の年収に相当する金を借り、息子に希望を託した。しかし、息子は日本で遊びほうけてアルバイト代も使い果たし、学費の支払いにも窮するほど金に困るようになると、「少なくとも100万円の分け前をもらえる」という甘言に乗り、事件に加わったのだ。中国では「優秀学生」にも選ばれた魏巍だが、異国での生活が彼を変えてしまった。彼の父親は、死刑判決の出る直前「どうして事件を起こすとき、私たちのことを思い出さなかったのか」と叱責し、「裁判官にありのままを話すように。失意のどん底に落ちてはいけない」と、親として最後の言葉を手紙にしたためた。  山地悠紀夫は、05年に大阪のマンションに住む19歳と27歳の姉妹を強姦し、殺害した。山地はこの事件を起こす5年前、16歳の時に自分の母親も殺害しており、取り調べに対して「母親を殺した時のことが楽しくて、忘れられなかった」と、快楽が動機であることを語っている。20歳で少年院を退院するとき、彼は「勉強をしたい」「ワーキングホリデイで海外に行きたい」という希望を手紙を弁護士に送り、これからの生活に希望を抱いているように見えた。しかし、退院し、パチンコ店に務めると、過去の殺人という履歴がバレてしまい、職を転々とせざるを得ない状況に追い込まれる。山地はゴト師グループの打ち子にまで身を落とすも、ここでも元締めから稼げないことを叱責されてグループを飛び出し、強姦殺人という凶行に及んだ。死刑判決を受けて、山地は弁護士に対して「私は生まれて来るべきではなかった」という手紙を送り、自らの控訴を取り下げ、死刑を確定させている。09年7月、大阪拘置所で山地の刑は執行された。  本書に掲載されている10人の殺人犯との対話から、「共通項」というべきものは浮かび上がってこない。ある者は深い後悔の念に沈み、ある者は反省の色を見せることがない。その動機だけでなく、出自も、性格も、振る舞いもさまざまなのだ。小野はそんな彼らへの取材を通じて、以下のような確信を得ている。 「なぜ私は闇に目が向いてしまうのか。それは、殺人犯を通じて人間を見たかったからに違いない。非人間的な殺人という行為は、人間だからこそやってしまうのだということを、改めて確認したかったのだ」  殺人が、人間の手による仕業であると確認する。それは至極当たり前のことではあるが、しかし、非人間的な殺人行為からは、「極悪非道」な姿しか浮かび上がってこない。本書を通じて、小野は動機や犯行手法などを積み重ねて犯人を裁く司法のシステムでは明らかにできない「殺人犯という人間」を描き出している。 (文=萩原雄太[かもめマシーン])

アブラカス、ホルモン、焼肉……差別された人々のソウルフードとは?『被差別のグルメ』

51cObpsVwBL.jpg
『被差別のグルメ』(新潮新書)
“被差別部落”という言葉を聞いたことはあるだろうか? 現代の日本社会では、あまりピンとこないかもしれないが、身分的、社会的に差別された人々が集まって暮らす地区のことだ。  今回紹介する『被差別のグルメ』(新潮新書)は、そんな被差別部落=“路地”で生まれた“ソウルフード”を追ったノンフィクションである。著者で作家の上原善広氏は、大阪の更池(現・松原市南新町)という路地出身で、2005年に海外の被差別グルメを中心に紹介した『被差別の食卓』(新潮新書)でデビューした。その当時は、国内の路地について書くには、まだあまりにもタブーが多かったため、海外を中心にした内容となった。しかし、今回は時代の移り変わりや、長年の調査の結果、自分なりの答えが出たということで、被差別グルメの国内版として発売された。  第1章には、上原氏が生まれ育った大阪の路地で食べられてきた“アブラカス”という食べ物が登場する。これは、牛の腸をカリカリになるまで炒り揚げたもので、見た目はまさに腸そのもの。しかも、よそ者を寄せつけないほど、独特の味と風味を持つ。これが路地では、煮物などの風味付けに使われてきた。だが、このアブラカスはかつて食卓に並べるだけで出自がばれ、離婚騒動にまで発展することもあるほど、危険をはらんだ料理だった。  そもそも、死んだ牛を解体したり、屠殺することは、汚穢(おわい)意識から、身分の低いものが行っていた歴史があるという。1820年代頃の文政時代、更池では牛を密殺した罪に問われた「落とし牛の罪」で数人が捕縛された記憶も残っている。今でこそ「ホルモン」と名づけられた内臓を食べる習慣も、実は肉や魚を購入することが困難だった路地ならではの食文化だったのだ。そんな歴史を経て生まれた日本の焼肉のルーツには、路地と在日韓国・朝鮮人の食文化が大きく関わっているという。本書では、その成り立ちや経緯、精肉だけでなく内臓まであますことなく使い、タレをつけて食べるというスタイルになった理由などが深く掘り下げられている。  このほかにも、アイヌ料理や、現在の樺太やサハリン南部に住んでいた北方少数民族の料理、沖縄本島から“島差別”を受けていた沖縄の島々の食文化についても綴られている。差別を受けてきた人々の歴史とそれに付随した食文化とは、一体どのようなものなのか? 食に対する見方が大きく変わる、一冊になるはずだ。 (文=上浦未来) ●うえはら・よしひろ 1973年大阪府生まれ。大阪体育大学卒業後、ノンフィクション作家となる。2010年『日本の路地を旅する』(文藝春秋)で大宅壮一ノンフィクション賞受賞。著書に『被差別の食卓』『聖路加病院 訪問看護科―11人のナースたち』『異形の日本人』(すべて新潮新書)、『私家版差別語辞典』(新潮選書)など。

実行犯は韓国人?  著者が肉薄した、20世紀最後の未解決事件『世田谷一家殺人事件』の真相

51T9soWNY6L.jpg
『世田谷一家殺人事件 15年目の真実』(角川書店)
 2000年12月31日。20世紀最後の日として世間が沸き立っていたこの日、恐ろしい惨劇のニュースが飛び込んできた。世田谷に住む会社員・宮澤みきおさん宅で、一家4人が惨殺されたこの事件は、年末気分、世紀末気分に浮かれた日本中に冷水を浴びせかけた……。  事件からもうすぐ15年となる現在も、いまだ解決の糸口はつかめず、迷宮入りとなっているこの事件を追い続けたジャーナリストの一橋文哉氏が、『世田谷一家殺人事件 15年目の新事実』(角川書店)を上梓した。いったい、なぜ犯人は見つからないままなのか? そして、一橋氏がつかんだ「新事実」とは? 本書の記述に即して、15年前の未解決事件を振り返ってみよう。  当初から、その異常性が取り沙汰されたこの事件。一家4人を惨殺するというだけでも十分に卑劣な犯行だが、みきおさんに対しては十数カ所のめった刺しにして殺害。妻・泰子さんには70カ所以上の切り傷、打撲痕などがあり、顔は原形をとどめないほどに切り刻まれていた。さらに、8歳の長女・にいなちゃんに対しては殴打によって歯を砕き、包丁で顔面を切り刻んだ挙げ句、腹部をえぐる……と、とても人間の仕業とは思えない方法で殺害されたのだった。  さらに犯人は、推定犯行時刻である午後11時から、少なくとも数時間にわたって血まみれの被害者宅にとどまり、ペットボトルのお茶や、冷蔵庫にあったメロン、ハムなどを平らげ、スプーンも使わずアイスをむさぼっていた。書類の山を風呂場に投げ捨てたり、トイレに大便を放置するなど、犯行後の行動も常軌を逸していたのだ。  だが、この事件は早期に解決するものと思われていた。現場には、犯人の指紋や血痕、靴の跡、トレーナー、バッグ、帽子など、大量の遺留品が残されていた。それにもかかわらず、この事件が迷宮入りしたのはなぜか? 一橋氏は、その理由に初動捜査のミスを挙げる。 「特捜本部は、犯人を『指紋や物証を随所にベタベタと残した、賢くない粗暴な若者』か、『精神に障害を持った人間』と決め付け、『捜査の網を大きく広げて不審な人物の情報を掴むか、病院で待ち構えていれば、即逮捕できる』と油断した、としか思えない。だが、過去の未解決事件の多くがそうだったように、そうした先入観やある種の思い込みに基づいて捜査を始めると、警察関係者はもとより、事件当事者や一般市民も事件の本質や犯人像について誤ったイメージを抱いてしまい、そこに大きな落とし穴が待ち受けていることが多いのだ」  そして、一橋氏はそんな警察の捜査をよそに、独自の取材で事件の深層を追及してゆく。すると、警察の見立てとは異なった人物像が浮かび上がってきた。  一橋氏の取材によって浮上してきたのが、韓国人の李仁恩(仮名)という男。一橋氏は、韓国に赴き、この男性に直接の取材を敢行する。すると、世田谷事件についてやたら詳しく、軍人としてのキャリアがあることも判明。何よりも、李の指紋を採取し、捜査当局が採取した事件現場の指紋との照合を試みたところ、「ほぼ一致する」という結果を得たのだ。残念ながら、李はすでに死亡しており、その亡がらは京都にある墓に葬られているとされる。  しかし、一橋氏によれば、彼はあくまでも実行犯にすぎず、本当の黒幕は別のところにいるという。一橋氏が事件の主犯と目しているのは、李が「カネダのおっちゃん」と語り、心酔していた人物。「カネダ」はキリスト教系宗教団体の幹部であり、宮澤さんの妻・泰子さんが参加していた言語障害児を抱える親のための福祉グループでボランティアをしていた。この「カネダ」を直撃すると、一橋氏の追及に対してしどろもどろの釈明をし、ついに「(世田谷事件は)私がやらせたことじゃない。本当の黒幕はBだ」と告白する。  カネダの発言に登場するBとは、裏社会で暗躍する不動産ブローカーとも密接な付き合いのある資産家。当時、宮澤家は都立祖師谷公園の拡張に伴って、土地を東京都に売却するなどして1億数千万円に上る現金を持っていた。一橋氏の見立てによれば、この金を狙ってBが犯行を計画し、カネダが李を実行犯に指名して犯行が行われる。その結末が、一家4人の惨殺という悲劇だったのだ……。  15年にわたって、警察が動員した捜査員の数は延べ24万人。それにもかかわらず、解決への筋道はついていないままだ。はたして、一橋氏の見立て通り、宮澤家が手にした金をめぐって一家惨殺が行われたのだろうか? 現在、犯人逮捕につながる情報提供には2,000万円の懸賞金がかけられ、捜査はいまだに続行されている。 (文=萩原雄太[かもめマシーン])

実行犯は韓国人?  著者が肉薄した、20世紀最後の未解決事件『世田谷一家殺人事件』の真相

51T9soWNY6L.jpg
『世田谷一家殺人事件 15年目の真実』(角川書店)
 2000年12月31日。20世紀最後の日として世間が沸き立っていたこの日、恐ろしい惨劇のニュースが飛び込んできた。世田谷に住む会社員・宮澤みきおさん宅で、一家4人が惨殺されたこの事件は、年末気分、世紀末気分に浮かれた日本中に冷水を浴びせかけた……。  事件からもうすぐ15年となる現在も、いまだ解決の糸口はつかめず、迷宮入りとなっているこの事件を追い続けたジャーナリストの一橋文哉氏が、『世田谷一家殺人事件 15年目の新事実』(角川書店)を上梓した。いったい、なぜ犯人は見つからないままなのか? そして、一橋氏がつかんだ「新事実」とは? 本書の記述に即して、15年前の未解決事件を振り返ってみよう。  当初から、その異常性が取り沙汰されたこの事件。一家4人を惨殺するというだけでも十分に卑劣な犯行だが、みきおさんに対しては十数カ所のめった刺しにして殺害。妻・泰子さんには70カ所以上の切り傷、打撲痕などがあり、顔は原形をとどめないほどに切り刻まれていた。さらに、8歳の長女・にいなちゃんに対しては殴打によって歯を砕き、包丁で顔面を切り刻んだ挙げ句、腹部をえぐる……と、とても人間の仕業とは思えない方法で殺害されたのだった。  さらに犯人は、推定犯行時刻である午後11時から、少なくとも数時間にわたって血まみれの被害者宅にとどまり、ペットボトルのお茶や、冷蔵庫にあったメロン、ハムなどを平らげ、スプーンも使わずアイスをむさぼっていた。書類の山を風呂場に投げ捨てたり、トイレに大便を放置するなど、犯行後の行動も常軌を逸していたのだ。  だが、この事件は早期に解決するものと思われていた。現場には、犯人の指紋や血痕、靴の跡、トレーナー、バッグ、帽子など、大量の遺留品が残されていた。それにもかかわらず、この事件が迷宮入りしたのはなぜか? 一橋氏は、その理由に初動捜査のミスを挙げる。 「特捜本部は、犯人を『指紋や物証を随所にベタベタと残した、賢くない粗暴な若者』か、『精神に障害を持った人間』と決め付け、『捜査の網を大きく広げて不審な人物の情報を掴むか、病院で待ち構えていれば、即逮捕できる』と油断した、としか思えない。だが、過去の未解決事件の多くがそうだったように、そうした先入観やある種の思い込みに基づいて捜査を始めると、警察関係者はもとより、事件当事者や一般市民も事件の本質や犯人像について誤ったイメージを抱いてしまい、そこに大きな落とし穴が待ち受けていることが多いのだ」  そして、一橋氏はそんな警察の捜査をよそに、独自の取材で事件の深層を追及してゆく。すると、警察の見立てとは異なった人物像が浮かび上がってきた。  一橋氏の取材によって浮上してきたのが、韓国人の李仁恩(仮名)という男。一橋氏は、韓国に赴き、この男性に直接の取材を敢行する。すると、世田谷事件についてやたら詳しく、軍人としてのキャリアがあることも判明。何よりも、李の指紋を採取し、捜査当局が採取した事件現場の指紋との照合を試みたところ、「ほぼ一致する」という結果を得たのだ。残念ながら、李はすでに死亡しており、その亡がらは京都にある墓に葬られているとされる。  しかし、一橋氏によれば、彼はあくまでも実行犯にすぎず、本当の黒幕は別のところにいるという。一橋氏が事件の主犯と目しているのは、李が「カネダのおっちゃん」と語り、心酔していた人物。「カネダ」はキリスト教系宗教団体の幹部であり、宮澤さんの妻・泰子さんが参加していた言語障害児を抱える親のための福祉グループでボランティアをしていた。この「カネダ」を直撃すると、一橋氏の追及に対してしどろもどろの釈明をし、ついに「(世田谷事件は)私がやらせたことじゃない。本当の黒幕はBだ」と告白する。  カネダの発言に登場するBとは、裏社会で暗躍する不動産ブローカーとも密接な付き合いのある資産家。当時、宮澤家は都立祖師谷公園の拡張に伴って、土地を東京都に売却するなどして1億数千万円に上る現金を持っていた。一橋氏の見立てによれば、この金を狙ってBが犯行を計画し、カネダが李を実行犯に指名して犯行が行われる。その結末が、一家4人の惨殺という悲劇だったのだ……。  15年にわたって、警察が動員した捜査員の数は延べ24万人。それにもかかわらず、解決への筋道はついていないままだ。はたして、一橋氏の見立て通り、宮澤家が手にした金をめぐって一家惨殺が行われたのだろうか? 現在、犯人逮捕につながる情報提供には2,000万円の懸賞金がかけられ、捜査はいまだに続行されている。 (文=萩原雄太[かもめマシーン])

“幻の地下施設”松代大本営跡とは!? めくるめく地下の魅力を語り尽くす『地下をゆく』

tika1216
『地下をゆく』(イカロス出版)
 地下といっても、身近に感じるのは地下鉄ぐらいだろう。主要な交通手段である地下鉄は、全国45路線が網目のように私たちの足の下を走り、のべ1605万人が毎日利用しているとされる。  この『地下をゆく』(イカロス出版)は、そんな我々と切っても切れない地下と、その地下施設ができる工程を全5章110ページにわたって解説するムック本だ。 「驚愕の地下世界」と銘打って、直径30m、深さ70mにおよぶ巨大な立筒が何本と連なる巨大な水槽である、埼玉県春日部市の首都圏外郭放水路にはじまり、栃木県宇都宮市の大谷石採掘場、黒部ダムの地下にある巨大な発電所などを写真入りで紹介。第2章では、首都圏の地下鉄開通から現在までの90年をまとめ、さまざまな店が軒を連ねる地下街特集、駅名の英語表記でみかける“sta.”と“stn.”の違いなど、地下に関連するありとあらゆる事柄を語り尽くす。  地下の魅力は、それだけではない。同書ではマニアも唸る“幻の地下施設”も網羅。  その“幻の地下施設”というのが、長野県長野市にある「松代大本営跡」だ。  内部に仮の皇居も存在するというこの施設は、戦争末期に造られた巨大な地下塹壕で、本土決戦を覚悟した当時の政権幹部らが1944年にのべ300万人を動員して工事を始めたもの。毎日定時にダイナマイトで岩盤を爆破し、その際に出る石クズをひたすら運び出す。石クズは、日本橋から品川にいたる国道1号線沿いに撒くかたちで処分され、その一部は皇居の砂利になった。  結局、この塹壕は一度も使用されることのないまま終戦を迎えたが、現在は地震計が設置され、その情報は国連に提供されている。太平洋戦争で最後の砦となるはずだったこの基地が、国連、いわば連合軍のために運用されるとは奇妙なものだ。  また、テレビ番組などで密かに注目されつつある、「廃駅」も取り上げられている。廃駅というと山奥にあって、駅員が1人もいないひっそりとしたものを想像するが、都内には区画整理の関係で使われなくなった地下鉄の駅が、7カ所存在するという。  かつて存在した、京成本線博物館動物園駅。上野公園の地下を走り、国立博物館や上野動物園の入場客に好んで利用されていたが、ホームが狭く4両しか止められないことと、施設の営業時間に合わせて18時台には閉まってしまうことが原因で、乗客の足が遠のき、97年に営業停止、2007年に完全廃止となった。現在でも当時の時刻表やベンチはそのままに、京成本線上野駅を出て左右の窓からその姿を確認できる。  巻末には産業、軍事施設、鉱山、自然と4つのジャンルに分け、全国28ヵ所の地下施設を解説した「行ける地下カタログ」を収録。  地下を知れば知るほど、昭和を生き抜いた先人たちの息遣いが聞こえてきそうだ。この本を片手に、普段は立ち入ることのできない地下に思いを馳せてみてはどうだろうか?

“幻の地下施設”松代大本営跡とは!? めくるめく地下の魅力を語り尽くす『地下をゆく』

tika1216
『地下をゆく』(イカロス出版)
 地下といっても、身近に感じるのは地下鉄ぐらいだろう。主要な交通手段である地下鉄は、全国45路線が網目のように私たちの足の下を走り、のべ1605万人が毎日利用しているとされる。  この『地下をゆく』(イカロス出版)は、そんな我々と切っても切れない地下と、その地下施設ができる工程を全5章110ページにわたって解説するムック本だ。 「驚愕の地下世界」と銘打って、直径30m、深さ70mにおよぶ巨大な立筒が何本と連なる巨大な水槽である、埼玉県春日部市の首都圏外郭放水路にはじまり、栃木県宇都宮市の大谷石採掘場、黒部ダムの地下にある巨大な発電所などを写真入りで紹介。第2章では、首都圏の地下鉄開通から現在までの90年をまとめ、さまざまな店が軒を連ねる地下街特集、駅名の英語表記でみかける“sta.”と“stn.”の違いなど、地下に関連するありとあらゆる事柄を語り尽くす。  地下の魅力は、それだけではない。同書ではマニアも唸る“幻の地下施設”も網羅。  その“幻の地下施設”というのが、長野県長野市にある「松代大本営跡」だ。  内部に仮の皇居も存在するというこの施設は、戦争末期に造られた巨大な地下塹壕で、本土決戦を覚悟した当時の政権幹部らが1944年にのべ300万人を動員して工事を始めたもの。毎日定時にダイナマイトで岩盤を爆破し、その際に出る石クズをひたすら運び出す。石クズは、日本橋から品川にいたる国道1号線沿いに撒くかたちで処分され、その一部は皇居の砂利になった。  結局、この塹壕は一度も使用されることのないまま終戦を迎えたが、現在は地震計が設置され、その情報は国連に提供されている。太平洋戦争で最後の砦となるはずだったこの基地が、国連、いわば連合軍のために運用されるとは奇妙なものだ。  また、テレビ番組などで密かに注目されつつある、「廃駅」も取り上げられている。廃駅というと山奥にあって、駅員が1人もいないひっそりとしたものを想像するが、都内には区画整理の関係で使われなくなった地下鉄の駅が、7カ所存在するという。  かつて存在した、京成本線博物館動物園駅。上野公園の地下を走り、国立博物館や上野動物園の入場客に好んで利用されていたが、ホームが狭く4両しか止められないことと、施設の営業時間に合わせて18時台には閉まってしまうことが原因で、乗客の足が遠のき、97年に営業停止、2007年に完全廃止となった。現在でも当時の時刻表やベンチはそのままに、京成本線上野駅を出て左右の窓からその姿を確認できる。  巻末には産業、軍事施設、鉱山、自然と4つのジャンルに分け、全国28ヵ所の地下施設を解説した「行ける地下カタログ」を収録。  地下を知れば知るほど、昭和を生き抜いた先人たちの息遣いが聞こえてきそうだ。この本を片手に、普段は立ち入ることのできない地下に思いを馳せてみてはどうだろうか?

人気連載「パンドラ映画館」が電子書籍化! 12月18日2冊同時リリース!

pandoracover.jpg
カバーイラスト/川崎タカオ
 2009年2月の「日刊サイゾー」での連載開始以来、記録的なPV(ページビュー)を叩き出し、映画ファンだけでなく監督や俳優ら映画の現場からも好評を集めている長野辰次氏の映画レビュー「深読みCINEMAコラム『パンドラ映画館』」が、待望の電子書籍化!  メジャー系の話題作を『パンドラ映画館 美女と楽園 ベストセレクション』、インディペンデント寄りの個性的な作品を『パンドラ映画館 コドクによく効く薬 裏ベストセレクション』とし、各54本ずつ、計108本のコラムを収録しました。 【収録作品】 ■パンドラ映画館 美女と楽園 ベストセレクション 『モテキ』『ヤッターマン』『さよなら渓谷』『空気人形』『息もできない』『そこのみにて光輝く』『約束』『トガニ 幼き瞳の告発』『僕達急行』『それでも恋するバルセロナ』『インスタント沼』『川の底からこんにちは』ほか ■パンドラ映画館 コドクによく効く薬 裏ベストセレクション 『ホドロフスキーのDUNE』『暗闇から手をのばせ』『地球防衛未亡人』『キャタピラー』『名前のない女たち』『チェイサー』『平成ジレンマ』『ギララの逆襲』『愛しきソナ』『あの頃、君を追いかけた』『カリーナの林檎』『ポエトリー』ほか 【著者略歴】長野辰次 ザテレビジョン編集部在籍後、1995年からフリーランスライターに。現在、「DVD&ブルーレイビジョン」「映画秘宝」「キネマ旬報」などで執筆中。『激アツ!男の友情映画100』『新世紀SF映画100』(ともに洋泉社)、『俺たちの007』(日乃出出版)などにも寄稿。単独での著書は2001年に上梓した『バックステージヒーローズ 映像産業の裏方たち』以来となる。 ●商品情報 タイトル/『パンドラ映画館 美女と楽園 ベストセレクション』・『パンドラ映画館 コドクによく効く薬 裏ベストセレクション』 著 者/長野辰次 表 紙/川崎タカオ 発売元/サイゾー 発売日/2015年12月18日 価 格/各680円+税 ご購入はこちらから! Amazon Kindleストア 『パンドラ映画館 美女と楽園 ベストセレクション』 http://www.amazon.co.jp/dp/B019EXXUKK/ 『パンドラ映画館 コドクによく効く薬 裏ベストセレクション』 http://www.amazon.co.jp/dp/B019EXXUM8 楽天Kobo電子書籍ストア 『パンドラ映画館 美女と楽園 ベストセレクション』 http://books.rakuten.co.jp/rk/0353f50cd0323340a8ff08b2bd3f4a12/ 『パンドラ映画館 コドクによく効く薬 裏ベストセレクション』 http://books.rakuten.co.jp/rk/85bfbc8dd1f3330693faac1874d6af64/ ほか、各電子書籍取扱い書店にて順次発売開始!

名古屋大生殺人事件から1年……止らない「人を、殺してみたかった」という“いびつな願望”の連鎖

514SL+pq-CL.jpg
『人を、殺してみたかった 名古屋大学女子学生・殺人事件の真相』(角川書店)
 当時14歳ながら、自身が通っていた中学校の校門に切断した男児の頭部を置くという残忍な事件を起こした神戸連続児童殺傷事件(1997年)の犯人は、酒鬼薔薇聖斗と自称した。2005年、少年院を退院した彼は、社会に復帰し、日本のどこかでひっそりと生活を行っていた。しかし、退院から10年の時を経て、にわかに動きを活発化させている。「元少年A」の名で手記『絶歌』(太田出版)を出版し、公式ホームページを開設。さらに、有料ブログマガジンまで配信しているのだ。  一般的な人間の多くは、彼の起こした事件について憎悪の感情を抱いている。しかし、仙台に住むひとりの少女は違った。彼女は「7月7日!!酒鬼薔薇聖斗くん32歳の誕生日おめでとう♪(///∇///)」とTwitterに投稿し、世間が蛇蝎のごとくに嫌う凶悪犯に対して、あたかもアイドルのような声援を送っている。酒鬼薔薇聖斗のほかにも、彼女は秋葉原事件の加藤智大、池田小児童殺傷事件の宅間守、オウム真理教の麻原彰晃など、残忍な犯行に及んだ犯罪者たちを称揚していた。  Twitterでつぶやいているだけであれば、「犯罪ミーハー」と呼ばれる風変わりな趣味を持つ少女にすぎなかっただろう。しかし、名古屋大学に進学した少女は、14年12月、名古屋市昭和区にあるアパートの自室で、殺人という凶行に及んだのだった。  いったい、彼女はなぜこのような事件を起こしたのだろうか? ジャーナリスト・一橋文哉氏の著書『人を、殺してみたかった 名古屋大学女子学生・殺人事件の真相』(角川書店)から、ちょうど1年前に起こった惨劇を振り返ってみよう。  14年12月7日、少女は顔見知りだった77歳の女性・森外茂子さんをアパートに招き入れた。そして、部屋の中に保管していた手斧を取り出し、森さんを背後から力いっぱい殴りつける。しかし、何度殴っても、森さんはなかなか死なない。少女は森さんが身につけていたマフラーに手をかけて、力いっぱい首を絞めた。動かなくなった森さんの体を浴室まで引きずり、洗い場の床に放置すると、彼女は「ついにやった。」とTwitterに書き込み、携帯電話のカメラで遺体の撮影も行った。  殺人は、少女にとって幼い頃からの夢だった。彼女は、小学生の頃から殺人願望を抱いており、犯行に使われた手斧は、中学生の頃に購入したもの。犯行後、彼女は仙台の実家に帰省しているが、その際にも、手斧を肌身離さず持っていた。犯行に使われた凶器が決定的な証拠になることは、火を見るよりも明らか。しかし、彼女は「そう簡単に“宝物”は捨てられないし、いつも身近に持っていたかったんです。大事なモノは肌身離さず持ち歩く。当たり前じゃないですか」と、取調官に向かって平然と言い放ったのだ。 「幼い頃から、人を、殺してみたかったんです」 「殺した時は、やった、という気がしました」 「人を殺して、達成感があった」  少女の供述からは、反省の弁ではなく「夢」をかなえた喜びだけが聞こえてくる。さらに、逮捕後の取り調べによって、さまざまな余罪があることが明らかになっていく。  高校時代には、同級生の男子生徒に対して硫酸タリウム入りのジュースを飲ませ、失明寸前に追い込んだ。劇薬ながら、無味無臭で水にも溶けやすいタリウムの投与は、周囲に気づかれにくい。男子生徒は、原因不明の体調不良として処理された。校内では彼女の犯行を疑うウワサも流れ、病院側からも学校側に「特殊な薬物が使われた可能性が高い」といった通報がなされたものの、「受験シーズンが控えており、(生徒たちに)動揺を与えたくない」という保身とも取れる対応で、学校側はこの事件を内々に処理してしまったのだ。  さらにこの事件の前にも、少女は一緒にカラオケへ行った中学時代の同級生に対してタリウムを投与していた。同級生の入院中、少女は病室に見舞いに訪れているが「見舞いはタリウム投与の効果を見極めるために行っただけで、意外と元気でがっかりしました」と供述している。また、森さん殺害後の1月には、帰省中の実家近くで「焼死体を見てみたかった」という動機から放火事件を起こしている。  一連のタリウム事件の背景には、2005年に母親にタリウムを服用させ、殺害しようとした静岡女子高生母親毒殺未遂事件の影響が色濃い。酒鬼薔薇の犯行声明文を持ち歩き、「秋葉原の事件現場に行きたい」と語る少女は、まるで、アイドルに恋い焦がれるように犯罪者たちへのシンパシーを寄せる。その動機は、恨みでも衝動でもなく、快楽ですらない。ただ、少女は憧れのセンパイたちのように、人を殺して凶悪犯罪者の仲間入りをしたかっただけなのだ。 「酒鬼薔薇聖斗や静岡のタリウム少女は、マリー(注:書籍内で一橋が少女に与えた仮名)にとってアイドルであった。いったんアイドルに憧れると、もうそれしか見えなくなる。やることは追っ掛けと模倣だから大したことはないが、ことが犯罪、特に殺人となれば、通常ならば躊躇するものだが、マリーはさっさと躊躇を乗り越え、前進してしまうのだ。それが『人を、殺してみたかった』の考え方なのである」  今年8月には北海道で19歳の少年が、今年10月には東京で33歳の男性が、それぞれ殺人の動機として「人を、殺してみたかった」と述べている。彼らの身勝手な好奇心の餌食になるのは、次は私たちかもしれない。  少女の心理を解き明かし、事件の全容を解明しなければ、今後も「人を、殺してみたかった」という動機から行われる殺人がなくなることはないだろう。 (文=萩原雄太[かもめマシーン])

行きたくても行けない!? “本邦初”日本の秘島ガイドブック『秘島図鑑』

51lAnfUZGpL.jpg
『秘島図鑑』(河出書房新社)
 島はいい。なんといっても、空気がゆるい。伊豆大島(東京都)や初島(静岡県)のように、首都圏から2時間かからずに行ける島であっても、足を踏み入れた途端、不思議なほどのんびりとした空気や時間が流れる。  そんな魅力的な有人の島を紹介するガイドブックはこれまで何冊もあったが、『秘島図鑑』(河出書房新社)は、本邦初の“行けない島”のガイドブックだ。日本全国に約7,000もあるという島々の中から、興味深い歴史や文化をひもとき、中でも特別感のある“秘島”を絞り、紹介している。登場する島は、全部で33島。女人禁制の伝統を持つ神聖な島として崇められる沖ノ島(福岡県)、太平洋戦争で激闘が繰り広げられた硫黄島(東京都)、北方四島・竹島・尖閣諸島といった領土問題に揺れる島から、アホウドリの生息地としても有名な鳥島(東京都)、トカラ列島のさらに先にある横島(鹿児島県)、フランスの軍艦バイヨネースが発見したベヨネース列岩(東京都)など、ほとんど耳にしたことがない島まで、幅広い。  本書はこれらの島について、例えば沖縄県東部にある沖大東島(ラサ島)であれば、「1543年、スペイン人(B・デ・ラ・トーレ)が島を発見。1807年、フランス軍艦カノリエル号により、「ラサ島」と命名。1900年、日本領に編入。11年にラサ島燐砿合資会社(34年ラサ工業に改称)が設立され、リン鉱石の採取・搬出が始まる。37年、日本政府よりラサ工業に沖大東島が譲渡され、正式にラサ工業の私有地となる。45年、太平洋戦争の激化で、従業員やその家族ら民間人が引き揚げる。58年、在日米海軍が島全体を射撃場として使用開始」などと、見開きの島の写真に基本情報が添えられ、ヒジョーに興味をそそる。これに加え、熾烈を極めた資源採取や島の開拓、男性しか暮らすことができなかった時代、現在の島の様子などが続き、これは本当に日本の話ですか? なんてツッコミたくなるほど、驚きの情報が詰まっている。  また、島紹介とは別に、50ページほどにわたる、行けない島を身近に感じるための「実践編」の章も興味深い。「秘島の“最寄”有人島まで行ってみる」「浜辺の漂着物をチェックする」「マイナー航路に乗って絶海を感じる」など、具体的な提案がされているのだが、中でも気になったのが「本籍を島に移してみる」というもの。都会で暮らしつつ、どんな島に本籍を置くことができるのかなどが詳細に記されており、ちょっとやってみたくなる。  本書を読んでいると、日本の島にはずいぶんいろいろな歴史があって、自分は全然知らないんだな、ということを痛感させられる。行ってみたいけれど、アクセスの方法もないし、行けない――。そんな近くて遠い日本の秘島へ、思いを馳せてみてはどうだろうか? (文=上浦未来) ●しみず・ひろし 1971年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。テレビ局勤務を経て、東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了、同大学院新領域創成科学研究科博士課程中退。現在、編集者・ライター。『海に癒される。 働く大人のための「海時間」のススメ』(水中クラブOB高橋啓介と共著、草思社)など。