“昭和の味”が滅亡の危機!? 北尾トロ&下関マグロらが探る『町中華とはなんだ』

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『町中華とはなんだ 昭和の味を食べに行こう』(リットーミュージック)
“町中華”という言葉をご存じだろうか? 主に個人経営の中華料理店のことで、中華と名乗りながらも、カツ丼やらカレーも食べることができ、店内には昭和のレトロな雰囲気が漂っている。さらに、おいしさはさほど重要ではなく、数百円でおなかがいっぱいになる、といったら、なんとなく伝わるだろうか。  でも、そういえば、最近見かけなくなった? 『町中華とはなんだ 昭和の味を食べに行こう』(リットーミュージック)は、サブカル界のスターの北尾トロ氏(隊長)と下関マグロ氏(2号)、さらに、ゲイマガジン「薔薇族」の二代目編集長・竜超氏による、町中華の記録本である。  町中華の店主たちは、主力が70代で、80代もちらほら。超高齢化の荒波にさらされ、ひょっとして滅亡の危機に瀕しているのではないか――。「急がないと、大変なことになる」と、30年来の盟友である北尾氏と下関氏が立ち上がり、町中華の面白さを伝える親睦団体「町中華探検隊」を結成。のちに、竜氏をはじめとする隊員をどんどん増やしながら(40人超!)、怒涛の食べ歩きを始めた。  活動のきっかけは、高円寺にある町中華「大陸」の閉店だった。この店は、北尾氏が20歳の時から30年以上にわたり、足しげく通った店で、いつも注文していたのは“まずくてうまい”300円のカツ丼。本書には、こう記されている。 「丼のぎゅうぎゅう押し込まれた飯と分厚い衣にくるまれたカツが織りなす力強さは、たいしてうまくないという現実を忘れさせるパワーに満ちていた。しょっぱすぎる味付けで、合成着色料たっぷりの沢庵三切れがつく。とにかく飯の量が多くて、そんなに押し込んだらまずくなると思うのだが、腹ぺこ野郎どもを満腹にしてやることに使命感を感じているようだった」  そう、町中華は、味はどうあれ、おなかいっぱいになることが最重要なポイントなのだ。北尾氏によれば、食べた直後は「もうやめよう」と思うのだが、10日もすると、ウズウズして懲りずに訪れてしまう。たいしておいしくないにもかかわらず、引き寄せられてしまう。これぞ、町中華の真骨頂なのかもしれない。  一方の下関氏は、そういったお店をよく利用していたものの、“町中華”という言葉は知らなかった。ごく初期には、町中華の定義を知りたいと、町中華らしき店を見かけては、北尾氏に「ここは町中華なのか?」と確認していたが、ほどなくしてやめる。どうも答えが“ゆらぐ”のだ。  当初、北尾氏は「カツ丼がある店」ということを絶対条件として挙げていたが、その後、カツ丼、カレーライス、オムライスがあることが町中華の「三種の神器」だと言い始めて、でも、やっぱり定食もない……と、コロコロ言うことが変わる。さらに「駅前の店限定」「単品はあってもエビチリはない」、挙げ句は「床が少しぬるぬるしている店」などの条件も増やしてみたりと、迷走を繰り返した。店主の個性が激しく反映される町中華は、どうもビシッと“くくれない”のだ。  1年がたったころ、少食の2人は調査に限界を感じ、もっと町中華の実態を知るべく、竜氏をはじめとするメンバーをどんどん増やし始める。そして、駅に集合して周辺エリアの町中華をめぐり、気に入った店で食事をする“地域アタック”を決行するようになる。武蔵小山、西荻窪、荻窪、下北沢、築地、押上などなどを訪れ、とにかく町中華を求めて町を歩き回り、各自が行きたい店を訪れ、食べまくる。そして、“油流し”と呼ばれる、喫茶店での恒例儀式(感想会)を開く。店舗の実名もバンバン出て、感想が述べられているので、気づけば自分も参加しているような気になる。 「オヤジさん、出前に備えてバイクのヘルメット被って鍋振ってましたよ。あれすごかったなあ」 「決しておいしそうに見えず、サイズだけを強調している盛り付けが立派です」 「いや~、まずかったなぁ」 「全部食いきれるかどうかヒヤヒヤしたよ」  そんなコメントを聞いているうちに、うちの近くにも、町中華あったっけな? と思い始め、探したくなってきた。町中華が、なんだか妙に気になってくることは間違いない。 (文=上浦未来) ●きたお・とろ 1958年、福岡県生まれ。ライター。本やマニア、裁判傍聴、狩猟など、好奇心の赴くまま、さまざまな分野で執筆。町中華探検隊では隊長を務めるものの、好きな割に食べっぷりは力弱く、隊員の助けを借りて完食にこぎ着けている。『裁判長!ここは懲役4年でどうですか』(文春文庫)、『沈黙の オヤヂ食堂』(KADOKAWA)など著書多数。 ●しものせき・まぐろ 1958年、山口県生まれ。街歩きをしながら、ネタを探して原稿を書いている。町中華探検隊では2号。店舗ファサード、店の歴史などに興味あり。主な書著は『歩考力』(ナショナル出版)。メシ通に「美人ママさんハシゴ酒」を連載中。

不謹慎なる社会派エンタテイメント『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』

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初めて裁判所を訪れたタモツ(設楽統)は傍聴マニア(螢雪次朗)のレクチャーを受け、裁判の面白さにハマっていく。原作者の北尾トロ氏いわく「初めての傍聴は、窃盗など身近なものの初公判を選ぶとよい。殺人とか大変そうなものは避けたほうが無難」とのことだ。
(c)2010「裁判長!ここは懲役4年でどうすか」
 法廷映画と言えば、シドニー・ルメット監督の古典的名作をベースに現代ロシアの社会事情を盛り込んだリメイク版『12人の怒れる男たち』(07)、オカルト裁判の行方を描いた『エミリー・ローズ』(05)、現在も係争中の冤罪事件の真相に迫った高橋伴明監督の『BOX 袴田事件 命とは』(10)など緊張感溢れる第一級のサスペンス作品が並ぶ。裁く側、裁かれる側の生き様がぶつかり合うことから、脚本の構成力、監督の演出力、通常の映画よりもかなり多くなるキャスト陣の巧みな交通整理が求められるハードルの高いジャンルだ。そんな法廷ものの中に、裁く側でも裁かれる側でもない、第3の視点による新しい作品が誕生した。傍聴席に佇む傍聴人の立場から裁判を描いた豊島圭介監督の『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』がそれだ。面白そうな裁判を見つけては傍聴席に陣取る傍聴マニアのワクワク目線で、実際に起きた珍事件の数々をウォッチングしていく。  原作は傍聴ブームの先駆けとなった北尾トロ氏の『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』と続編『裁判長!これで執行猶予は甘くないすか』(ともに文藝春秋)。どちらも「裏モノJAPAN」(鉄人社)に連載されたもの。オウム事件、音羽幼女殺害事件、清水健太郎の被告席での気になるファッションなど、ニュース番組やワイドショーを賑わした裁判についても触れているが、北尾氏の筆が走っているのは、有名人がらみでも、世間を驚かせた大事件でもない、誰も知らない小さな事件の数々だ。歯が痛かったからという理由で、執行猶予中に覚醒剤に手を出してしまった女性。スピードオーバーでバイクをはね飛ばしてしまった男は謝罪しているものの、着ているトレーナーの背中がドクロマーク入りで心証が台無しなしだ。また、北尾氏の興味対象は被告だけではない。女子高生の集団が社会見学のために傍聴席に並んだ途端、やたらテンションが高くなる裁判官や検事。お金がなくて入れ歯が買えないのか、前歯3本が欠けてフガフガ状態で法廷に立つ迫力のない女弁護士。法廷映画や2時間ドラマが取り上げることのない、あまりに人間臭すぎる裁判所内部の様子を北尾氏は生き生きとスケッチしている。
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被告席で無駄に泣き叫ぶ痴漢の常習犯(バナナ
マン日村勇紀)。見苦しく泣きわめくのは、
傍聴人だけでなく裁判官の心証も悪くするので
気をつけたい。
 映画『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』で主役に起用されたのは、お笑い芸人バナナマンの設楽統。芝居のうまさはコントや『流星の絆』(TBS系)で実証済みだが、本職の俳優ではないというユルい立場が傍聴人役にぴったり。これが高田純次やアンタッチャブル山崎だとあまりに無責任感が漂いすぎだろう。映画初主演ということで設楽が主人公を神妙に演じているところが、いい案配だ。売れない放送作家のタモツ(設楽)は映画プロデューサー(鈴木砂羽)に法廷映画の脚本を書くことを命じられ、シナリオハンティングのため裁判所に通い始める。初めての裁判所に戸惑うタモツだが、百戦錬磨の傍聴マニアたち(螢雪次朗、村上航、尾上寛之)と知り合い、裁判の楽しみ方を伝授される。傍聴席にギャラリーがいることで裁判に緊張感が与えられること、ディープな裁判でヘコんだときは簡易裁判所がおススメなこと、そして美人検事(片瀬那奈)の裁判は人気が高いこと。タモツは脚本の取材であることを忘れ、裁判の面白さにハマっていく。  劇中で取り上げられる裁判は、原作もしくは脚本を担当したアサダアツシ氏が取材中に実際に出くわした実在の事件がモデルとなっている。被害者がいることを考えるとゲラゲラと大笑いできないのだが、ベテラン傍聴マニア(螢雪次朗)いわく"所詮、他人の人生ですから"、思わずニヤッと笑ってしまう。本作は不謹慎なる実録社会派エンタテイメントなのだ。  ただし、映画を作劇する上で大きな問題が生じる。事件をただ高見の見物しているだけでは映画の主人公に成り得ないからだ。主人公自身がリスクを冒し、事件の渦中で悶え苦しみ、その結果として解決策を見出して行動を起こさないことには劇映画(=ドラマ)として成立しない。そこで本作は"傍聴人がいることで裁判に緊張感を与えることができる"という部分に着目し、原作にはない意外な展開をクライマックスに用意している。美人検事(片瀬那奈)から「さぞかし楽しいでしょうね、他人の人生を高見の見物して」と罵られたタモツは一念発起。冤罪と目されている放火事件で逆転無罪を勝ち取るため、傍聴人として出来うる最大限の行動に打って出る。まず地味な弁護士に派手なパフォーマンス術、衣装コーディネイト術をレクチャー。さらに被告の母親に毎日朝と晩に無罪を訴えるチラシを裁判所の前で配らせて、裁判官の心情に訴える。そして裁判当日は他の傍聴マニア(阿曽山大噴火)たちにも呼び掛け、傍聴席を満席にして検察側に無言のプレッシャーを掛ける。傍聴人としての全力を尽くしたタモツ。0.1%の確率と言われる奇跡の逆転無罪はあり得るのか......。  ここまで読まれた方は、映画だけでなく傍聴そのものにかなり関心を抱いているのではないだろうか。そんな方たちのために、原作者である北尾トロ氏に"初心者向け傍聴の心得"についてコメントをもらった。ありがとうございます、北尾さん。 ──裁判関係者は美人が多いと原作本で書かれていますが、女優・タレントに例えるとどういうタイプでしょうか?
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SMの女王様ばりにキリリとした表情で被告人を
責める美人検事(片瀬那奈)。原作によると、
裁判関係者は大人なムードの知的美女が多いらしい。
北尾 検事や判事は、派手派手しくなくクールな感じの人が多い(例えると、堀北真希のような人)。対して、弁護士はメイクも派手でケバケバしい感じの人が多い(例えると、沢尻エリカのような人)。裁判官は、知的で、30代以上のベテランの人(例えば、天海祐希のような人)が多いですね。 ──検事・堀北真希、弁護士・沢尻エリカ、裁判官・天海祐希! これは是非とも傍聴したい! でも、殺人事件などの裁判を傍聴して、ヘコみませんか? そういう場合はどうすればいい? 北尾 ヘコみます。そういう場合はまっすぐ家に帰らず、喫茶店でも飲み屋でもいいのでブレイクを入れて平常心を取り戻すこと。悪いものを持ち帰らないようにすることです。 ──映画のように傍聴人がいるのと、いないのでは裁判が変わってくるもの? 北尾 変わります。たとえ一人でも傍聴人がいると緊張感が出るので、弁護人でも検察でもヘタなことができなくなる。身内だけの裁判はどうしてもダレるので、傍聴人はいたほうがいいんです。  また、北尾氏によると、裁判員制度が始まったことで、検察官や弁護人の尋問の仕方は法律用語ではなく、分かりやすい普通の言葉を使い、身振り手振りでいかに裁判員たちの心を掴むかを意識するようになっているとのこと。なるほど、そう聞くと裁判所がぐ~んと身近に感じられる。被告席はご勘弁だが、一度は裁判所を体験してみるのも楽しげではないか。裁判に興味を持つこと自体は不謹慎じゃないよね? (文=長野辰次) saibancyo04.jpg 『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』 原作/北尾トロ 脚本/アサダアツシ 監督/豊島圭介 出演/設楽統、片瀬那奈、螢雪次朗、村上航、尾上寛之、鈴木砂羽、木村了、堀部圭亮、斎藤工、徳永えり、大石吾朗、前田健、廣川三憲、佐藤真弓、阿曽山大噴火、日村勇紀、竹財輝之助、杉作J太郎、千葉雅子、市川しんペー、モト冬樹、平田満 配給/ゼアリスエンタープライズ 11月6日(土)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国ロードショー <http://www.do-suka.jp>
裁判長!ここは懲役4年でどうすか―100の空論より一度のナマ傍聴 どうすか? amazon_associate_logo.jpg
●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第90回]"世界のナベアツ"大阪府知事に就任! 政治コメディ『さらば愛しの大統領』 [第89回]自分の恋愛もプロデュースする女優、ドリュー・バリモア主演『遠距離恋愛』 [第88回]スタローンが立ち上げた"筋肉共和国"男たちの祭典『エクスペンダブルズ』 [第87回]元"おはガール"安藤聖の再起動ドラマ 就職氷河期を生きる『バカがウラヤマシイ』 [第86回]マイノリティーは"理想郷"を目指す。筒井文学の金字塔『七瀬ふたたび』 [第85回]清純派・佐藤寛子が美しく"変態"! 官能サスペンス『ヌードの夜──』 [第84回]死を意識して、ギラギラ輝く男たち! 三池節、大バクハツ『十三人の刺客』 [第83回] 女を食い物にする男どもは全員処刑! モダン社会の闇を暴く『ミレニアム』 [第82回] "企画AV女優"たちの青春残酷物語 性なる鎮魂劇『名前のない女たち』 [第81回]猫を見れば、人間社会が見えてくる! 世界の人気猫大集合『ネコを探して』 [第80回]原恵一監督の新作は辛口ファンタジー 退屈な"日常生活"を彩る『カラフル』 [第79回]米軍に実在した"超能力部隊"の真実!? ムー民、必見『ヤギと男と男と壁と』 [第78回]戦場から帰還した夫は"芋虫男"だった! ヤクザ監督の反戦映画『キャタピラー』 [第77回] 白ユリの花開くガールズの妖しい世界 H系ホラー『ジェニファーズ・ボディ』 [第76回] 爽やか系青春ゾンビ映画にホロリ......夏休みは『ゾンビランド』に集結せよ [第75回] "生きる"とは"見苦しい"ということ 藤沢周平の時代活劇『必死剣 鳥刺し』 [第74回]初恋の美少女は200歳の吸血鬼だった! 北欧産のホラー映画『ぼくのエリ』 [第73回] "三億円事件"の真相を解き明かす! 桜タブーに挑んだ『ロストクライム』 [第72回/特別編] 上映反対で揺れる問題作『ザ・コーヴ』"渦中の人"リック・オバリー氏の主張 [第71回] 女子にモテモテになる方法、教えます。軟派少年の実話物語『ソフトボーイ』 [第70回] 下町育ちの"北野少年"が見た現代社会 人間同士の食物連鎖『アウトレイジ』 [第69回] "リアルと虚構の狭間"を生きる男、アントニオ猪木初主演作『アカシア』 [第68回] ヒーローも神もいない現代社会の惨劇 井筒監督の問題作『ヒーローショー』 [第67回] アイドルが地獄で微笑む『戦闘少女』ギャグ×血しぶき×殺陣の特盛り丼! [第66回]アナーキーな"社歌"で生産性アップ! 満島ひかり大進撃『川の底からこんにちは』 [第65回]超ヘビー級なシリアス劇『プレシャス』"家族"という名の地獄から脱出せよ [第64回]乱れ咲く"悪の華"ゼブラクイーン! 仲里依紗が過激変身『ゼブラーマン2』 [第63回] オタク王が見出した"夢と現実"の接点 ティム・バートン監督作『アリス──』 [第62回] バッドテイストな感動作『第9地区』 アナタはエビ人間とお友達になれるか? [第61回]スコセッシ監督の犯罪アトラクション『シャッターアイランド』へようこそ! [第60回]宮崎あおいの"映画代表作"が誕生! 毒を呑んでも生き続けよ『ソラニン』 [第59回]"おっぱいアート"は世界を救えるか? 母乳戦士の記録『桃色のジャンヌ・ダルク』 [第58回]現代に甦った"梶原一騎ワールド"韓流ステゴロ映画『息もできない』 [第57回]命知らずの変態レポーター、中東へ! 史上最大のどっきり?『ブルーノ』 [第56回]仲里依紗がアニメから実写へと跳躍! 母娘2代の時空旅行『時をかける少女』 [第55回]ビグロー監督はキャメロンより硬派! 人間爆弾の恐怖『ハート・ロッカー』 [第54回] "空気を読む"若者の悲劇『パレード』楽しいルームシェア生活の行き先は? [第53回]社会の"生け贄"に選ばれた男の逃亡劇 堺雅人主演『ゴールデンスランバー』 [第52回]『男はつらいよ』の別エンディング? "寅さん"の最期を描く『おとうと』 [第51回]ひとり相撲なら無敵のチャンピオン! 童貞暴走劇『ボーイズ・オン・ザ・ラン』 [第50回]ヒース・レジャーが最後に見た夢の世界 理想と欲望が渦巻く『Dr.パルナサスの鏡』 [第49回]トニー・ジャーは本気なんジャー! CGなしの狂乱劇再び『マッハ!弐』 [第48回]全米"オシャレ番長"ズーイー、見参! 草食系に捧ぐ『(500日)のサマー』 [第47回]市川崑監督&水谷豊"幻の名作"『幸福』28年の歳月を経て、初のパッケージ化 [第46回]押井守監督、大いなる方向転換か? 黒木メイサ主演『アサルトガールズ』 [第45回]ドラッグ漬けの芸能関係者必見!"神の子"の復活を追う『マラドーナ』 [第44回] 暴走する"システム"が止まらない! マイケル・ムーア監督『キャピタリズム』 [第43回]"人は二度死ぬ"という独自の死生観『ガマの油』役所広司の監督ぶりは? [第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』 [第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』 [第40回]"涅槃の境地"のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』 [第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』 [第38回]海より深い"ドメスティック・ラブ"ポン・ジュノ監督『母なる証明』 [第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』 [第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』 [第35回]"負け組人生"から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』 [第34回]2兆円ペット産業の"開かずの間"に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』 [第33回]"女神降臨"ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』 [第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』 [第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』 [第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇 [第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』 [第28回]"おねマス"のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』 [第27回]究極料理を超えた"極地料理"に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』 [第26回]ハチは"失われた少年時代"のアイコン  ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊! [第25回]白熱! 女同士のゴツゴツエゴバトル 金子修介監督の歌曲劇『プライド』 [第24回]悪意と善意が反転する"仮想空間"細田守監督『サマーウォーズ』 [第23回]沖縄に"精霊が暮らす楽園"があった! 中江裕司監督『真夏の夜の夢』 [第22回]"最強のライブバンド"の底力発揮! ストーンズ『シャイン・ア・ライト』 [第21回]身長15mの"巨大娘"に抱かれたい! 3Dアニメ『モンスターvsエイリアン』 [第20回]ウディ・アレンのヨハンソンいじりが冴え渡る!『それでも恋するバルセロナ』 [第19回]ケイト姐さんが"DTハンター"に! オスカー受賞の官能作『愛を読むひと』 [第18回]1万枚の段ボールで建てた"夢の砦"男のロマンここにあり『築城せよ!』 [第17回]地獄から甦った男のセミドキュメント ミッキー・ローク『レスラー』 [第16回]人生がちょっぴり楽しくなる特効薬 三木聡"脱力"劇場『インスタント沼』 [第15回]"裁判員制度"が始まる今こそ注目 死刑執行を克明に再現した『休暇』 [第14回]生傷美少女の危険な足技に痺れたい! タイ発『チョコレート・ファイター』 [第13回]風俗嬢を狙う快楽殺人鬼の恐怖! 極限の韓流映画『チェイサー』 [第12回]お姫様のハートを盗んだ男の悲哀 紀里谷監督の歴史奇談『GOEMON』 [第11回]美人女優は"下ネタ"でこそ輝く! ファレリー兄弟『ライラにお手あげ』 [第10回]ジャッキー・チェンの"暗黒面"? 中国で上映禁止『新宿インシデント』 [第9回]胸の谷間に"桃源郷"を見た! 綾瀬はるか『おっぱいバレー』 [第8回]"都市伝説"は映画と結びつく 白石晃士監督『オカルト』『テケテケ』 [第7回]少女たちの壮絶サバイバル!楳図かずおワールド『赤んぼ少女』 [第6回]派遣の"叫び"がこだまする現代版蟹工船『遭難フリーター』 [第5回]三池崇史監督『ヤッターマン』で深田恭子が"倒錯美"の世界へ [第4回]フランス、中国、日本......世界各国のタブーを暴いた劇映画続々 [第3回]水野晴郎の遺作『ギララの逆襲』岡山弁で語った最後の台詞は...... [第2回]『チェンジリング』そしてイーストウッドは"映画の神様"となった [第1回]堤幸彦版『20世紀少年』に漂うフェイクならではの哀愁と美学

電子書籍時代に"定期購読専門誌"を創刊! 北尾トロと考える、本と雑誌の未来

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「別に世のため人のために雑誌をやるわけではない。
同業者の後輩が育ち、若い人が出版業界に来てくれないと
読むものがなくなって自分がつまらなくなっちゃうからね」
と北尾氏。
 電子書籍元年と騒がれ、iPadやらキンドルやら出版業界は大騒ぎ。そんな状況にあって、「紙媒体」「定期購読」「ノンフィクション限定」という時代を無視したかのような雑誌「レポ」が創刊された。発行・編集は、ライターとして『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』(文春文庫)や『全力でスローボールを投げる』(文藝春秋)など数々の著書を持つ、ノンフィクションライターの北尾トロ氏。はたして、「レポ」は時代へのアンチテーゼなのか? それとも風変わりな視点から社会を見つめる北尾トロ一流の考えがあるのだろうか? ■コンセプトは"手紙" ――「レポ」創刊おめでとうございます。とにかく変わった雑誌、という印象があるんですが、まず「ノンフィクション限定」というスタイルにした理由を教えてください。 「いろいろな理由があるんですが、一つはノンフィクションを書く場所(媒体)が少なくなってきているということですね。だんだん雑誌が減ってきて、ノンフィクションが書ける場所も限られてきているんです。かつてなら、たとえば『別冊宝島』がノンフィクションライターの目標となり、『月刊プレイボーイ』はお金も時間もかけたノンフィクションを掲載していました。あとはエロ本ですね。エロ本の活字ページは、若いライターが好きにできる場所だったんです。雑誌の目的がエロだったから活字はどうでもよかったんですね。そういう場所でかつてはいろんな人がしのぎ合っていたんです」 ――巷では電子書籍が騒がれていますが、どうしてこのタイミングで紙の雑誌を創刊しようと思ったのでしょうか? 「やるなら今だなと思ったんです。あと3年後とか5年後になってしまうと出版業界がどうなっているか分からない。もしかしたら、その時に紙の雑誌はもはやノスタルジーになっているかもしれないですよね。今だったら読者としても出版する側としても、ぎりぎりノスタルジーにならないんじゃないかと思ったんです」 ――定期購読という販売方法も特殊ですね。このような方法を選んだ理由は? 「最初から通販で売る雑誌にしようと考えていました。通販っていうことはポストに届く、それはある種の手紙じゃないかということで『手紙』をコンセプトにしたんです。......ちょっと無理矢理ですが(笑)。けど、手紙というコンセプトなら直接読者とやり取りできますよね。手紙って、届くとうれしいじゃないですか。自分の宛名があって、開封する楽しみがある。本屋で購入するのとは別の楽しみが生まれるんじゃないかと思ったんです。ただ、さすがにそういう販売方法だけでは『ひどい』と言われることも多いので(笑)、定期購読だけではなく各号ごとの通信販売も行う予定です。現実的な問題として、書店との清算といった事務作業が苦手なんですよ。だから通販がメインで、書店は買い切りのみにしようと」 ――「手紙」というコンセプトなら読者との距離も縮まりますね。 「やっぱりダイレクトに届くのが一番いいと思うんです。手紙じゃなくて、例えばTwitterでもDM(ダイレクトメール)のうれしさがある。名指しで送られてくるというのはうれしいんですよ。だから、そんな『手紙』に対して返事を書いてくれる人もいるんじゃないかと期待しています」
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「レポ」は分厚い手紙(本誌)と年間定期購読者への手紙「ちびレポ」がセット。
本誌は年4回発行、「ちびレポ」は本誌発行月以外の月に発行。
年間定期購読者だけには毎月「レポ」からの手紙が届くというしくみ。
■電子書籍に"みんな騒ぎ過ぎ" ――北尾トロ"編集長"としては、雑誌の未来をどう考えていますか? 「マスメディアではない"ミドルメディア"は結構イケるんじゃないかと思っています。広告ではなく、その雑誌を読みたい人が支えるような形です。出版不況と言われていますが、面白いものを作ってしっかりそれが読者に伝われば、500円や1000円をケチるっていうのはないと思うんです」 ――ミドルメディアというのは具体的にどのくらいの規模でしょうか? 「『レポ』で考えると、5,000部から1万部程度ですね。広告なしでもなんとかやっていくために必要な部数が5,000部かな。逆に1万部を超えるといろんな人に喜んでもらわなきゃならならなくなって、雑誌がつまんなくなってしまう気がします。ミドルメディアの範囲で欲張らずにやって行けば、ウェブではできないことができるんじゃないでしょうか? 出版界全体の流れは電子書籍に行くんでしょうが、みんなちょっと騒ぎ過ぎなんじゃないかとは思います。媒体が何であれソフトが命なんだから、紙でいいものを作れない人は、電子書籍をつくってもロクなものはできません」 ――『本』というモノについてはどうでしょうか? 北尾さん自身、愛着もかなりあると思うんですが。 「装丁やデザイン、重さなど、モノとしても魅力的ですね。それは電子書籍とは違うところです。そんな本の魅力を知っている人にとってはしばらく忘れがたい物だと思います。けど、最初から本に触れずに育つ子どもにとっては別。次の世代にとっては趣味的なものになっていくんでしょうね。ただ、本好きな人も、ある一定の数いればいいじゃんと思うんですよね。授業で読み聞かせをしたりしてまで、『本は素晴らしい』と言う必要はないと思うんです。僕自身は本が好きなので、好きな人を集めて、ブックフェスをやったり、『本の町』を作りたいと思っていますが」 ――長野県の高遠町での活動ですね。手応えはどうでしょうか? 「ヨーロッパにたくさんある『本の町』を日本にも作りたいなと思っていたんですが、誰もやらないだろうからちょっとやってみようかと始めてみました。高遠は自然も歴史もあり、町のサイズも歩いて回れる程度のイメージに近い町だったんです。ただ、肝心の本屋がなかったので、まず自分たちで本屋をつくりました。ただ、町の人に『本の町をつくりたい』と話しても何のことだかよく分かってもらえない。だから『高遠ブックフェスティバル』を始めたんです。2年間やってようやくイベントとして独り立ちし始めた感じがしますね。9月に終了したばかりなんですが、町の人にも気に入ってもらってすでに来年の話が始まっています」 ■みんなが集う"場"としての「レポ」 ――ゆくゆくは「レポ」をどういう雑誌にしていきたいと思っていますか? 「今はプロの書き手がメインですが、ゆくゆくはもっとアマチュアというか若い人に参加してもらえるような媒体にしていきたいですね。面白ければ何でも構わないので、ページもじゃんじゃん与えます。やりたい人がいたら誰でも企画を送るなり原稿を送るなりしてほしいですね。その辺はオープンにしたいと思っています。現在も拘置所から"書きたい"と言ってくれている人なんかもいますから」 ――いろんな人を集めてくるという意味で"メディア"としても成立していますね。 「場があればそこに人は集うんです。だからそれはそんなに難しいことではないし特別なことをしているわけでもありません。おそらく今後、この雑誌から本が生まれてくると思うんです。『レポ』に書いたことがきっかけで本を出して世に認められる、そういった場になればいいですね」 (取材・文=萩原雄太[かもめマシーン]) ●きたお・とろ 1958年、福岡市生まれ。 ライターとしての数々の執筆活動の他に、インターネット古書店「杉並北尾堂」の運営や、長野県伊那市高遠町での「本の町」プロジェクト、「高遠ブックフェスティバル」の開催など、本に関するあらゆる活動を行う。近著に『テッカ場』(講談社文庫)、『裁判長! 死刑に決めてもいいすか』(朝日文庫)など。
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「レポ」
ライター・北尾トロの編集・発行によるノンフィクション専門の季刊誌。北尾トロの他にも、コラムニスト・えのきどいちろうや漫画家・やまだないと、SM女王様ライター・早川舞などによるノンフィクション14本を掲載。定期購読(年間4,000円+税)か、一部書店のみでの取扱い。 <http://www.repo-zine.com/> ・映画『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』 北尾氏の同名ベストセラーエッセイがついに映画化!"愛と感動の裁判映画"の脚本を書くため、三流ライター南波タモツ(設楽統)は、生まれて初めて裁判所に足を踏み入れる。が、法廷では"愛と感動"どころかツッコミどころ満載のワイドショーネタばかり。ある時、美人鬼検事マリリン(片瀬那奈)に、「楽しいでしょうね、他人の人生を高見の見物して!」とキツい言葉を浴びせられ......。 原作/北尾トロ 脚本/アサダアツシ 監督/豊島圭介 出演/設楽統(バナナマン)、片瀬那奈、螢雪次朗、村上航、尾上寛之、鈴木砂羽ほか 配給/ゼアリズエンタープライズ 11月6日(土)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国ロードショー <http://www.do-suka.jp/>
怪しいお仕事! 個人的にはこれが一番好きです。 amazon_associate_logo.jpg
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