葛飾北斎親子は江戸のゴーストバスターズだった!? 杉浦日向子が愛した世界『百日紅 Miss HOKUSAI』

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葛飾北斎の娘・お栄を主人公にした『百日紅 Miss HOKUSAI』。プロダクションI.G.が製作し、欧州6カ国への配給が決まっている。
 江戸文化をこよなく愛した漫画家・杉浦日向子さんの連作集『百日紅』を、原恵一監督が『百日紅 Miss HOKUSAI』として長編アニメーション化した。天才浮世絵師・葛飾北斎の娘であるお栄(後の葛飾応為)を主人公にしたもので、北斎のゴーストペインターをつとめるほどの腕前を持っていたお栄が絵師として独り立ちを決意するまでの1年間を江戸の風俗と四季の移ろいを織り交ぜて描いている。百日紅(さるすべり)、白木蓮、椿といった花々が咲き乱れ、町人文化が花開いた江戸時代後期の化政文化の華やかさを再現している。  原監督はブレイク作『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲』(01)の中で“古き良き昭和文化の匂い”を再現したテーマパーク「20世紀博」を生み出し、大人の観客たちを魅了した。本作でもその才能を再び遺憾なく発揮している。時代考証家・稲垣史生氏に弟子入りしていたこともある杉浦さんの著書の力を借りて、スクリーン上に大江戸テーマパークを開催してみせる。このテーマパークは最新4Dシアターかと思うくらい、優れものの演出が施してある。お栄が隅田川に掛かる両国橋を渡るシーンから物語が始まるが、隅田川にそよぐ風、江戸市中を照らす陽射し、橋をわさわさと行き交う人々の体温さえも伝わってきそうだ。お栄は目の不自由な妹・お猶を連れて、夏は川遊び、冬は雪見見物に出掛ける。お猶が手にした隅田川の水や雪の冷たさが、しっかりと感じられる。お栄役の声優を杏がつとめていることもあり、フェイクドキュメンタリー番組『タイムスクープハンター』(NHK総合)よろしく、自分があたかも江戸時代に足を踏み入れたかのような錯覚に陥る。  葛飾北斎、本名・鉄蔵(声:松重豊)と23歳になる娘・お栄(声:杏)は絵を描くことに夢中で、着の身着のままの生活を送っていた。当代一の人気絵師とは思えないような貧乏長屋で暮らし、部屋の中は散らかしっぱなし。ゴミが溜れば、引っ越せばいいという似た者親子だった。いつの間にか、酒好きで女好きな弟子の池田善次郎(声:濱田岳)、後に美人画で人気を得る渓斎英泉が居候している。その日暮らしを続けるこの3人に加え、犬が一匹住みついているのも犬好きな原監督らしい。  原監督は江戸時代の風俗を再現するだけでなく、江戸っ子の“粋”を盛り込むことを忘れない。締め切りに追われている北斎は、版元に悪態は突くが、愚痴はこぼさない。また、どんなに忙しくても、街で噂の美人や怪奇現象を自分の目で確かめるためにすっ飛んでいく。そんな酔狂な父の背中を見て育ったお栄も、ぶっきらぼうな性格だが、絵を描くことを自分の生涯の仕事と決めている。ギャランティーの額や注文主の家柄は関係ない。宵越しの金よりも、絵師としての心を揺さぶる題材に出会うことをこの親子は最優先している。
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93回も引っ越しを繰り返した北斎の住居兼アトリエ。画狂親子の頭には、自炊や掃除といった言葉は存在しなかった。
 江戸時代の売れっ子浮世絵師は、今でいえば宮崎駿か庵野秀明みたいな人気アニメーション監督か。北斎は春画の名手でもあったから、AV監督でもあったといえる。「蛸と海女」は“触手系”のルーツだろう。「富嶽三十六景」をはじめとする風景画も多く残しているから、地道な取材を厭わないフォトジャーナリストでもあった。研ぎ澄まされたセンサーを持つ北斎とそのアシスタントであるお栄は、江戸市中で起きる怪異に次々と遭遇することになる。表現者としての好奇心と業が、どうしようもなく不思議なものを引き寄せてしまうのだ。遊郭・吉原ではろくろ首の花魁と接見し、またお栄が描いた地獄絵があまりにリアルなことから現実世界にまで鬼が火車を引いてやって来る。江戸時代は今よりも夜の闇がもっと濃く、魑魅魍魎たちが跋扈していた。人々も物の怪の存在を信じていたから、彼らはより生き生きとしていた。江戸時代は身分制度が確立されていたが、庶民たちはお金では手に入らない粋を愛し、生活の中にファンタジーが息づいていた時代でもあった。  原作にもある「龍」のエピソードが秀逸だ。例によって北斎の代筆でお栄は龍を描くことになる。締め切りはあと1日。テクニックは充分にあるお栄だが、幻の神獣を描くとなるとさすがに身構える。酔っぱらった善次郎が連れてきた若き天才絵師・歌川国直(声:高良健吾)がお栄に助言する。 「龍にはコツがありやす。筆先でかき回しちゃ弱る。頭で練っても萎えちまう。コウただ待って、降りて来るのを待つんでさ。来たところを一気に筆で押さえ込んじまう」  この国直の台詞は龍の描き方というよりは、形のないフィクションをどうやって自分のものとして体得するかという“創作の極意”みたいなものだろう。その夜、男たちを長屋から追い出して筆を握ったお栄は、雷雲の中から身体を覗かせた巨大な龍と接近遭遇することになる。ただ絵を描くことが大好きだったお栄が、日常の向こう側に潜む“何か”に触れた瞬間だった。  原監督は杉浦作品の大ファンで、アニメーターとして多大な影響を受けたという。『河童のクゥと夏休み』(07)でクゥが龍と遭遇するシーンは、それこそ『百日紅』の「龍」のエピソードからインスパイアされたものだ。『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦』(02)には白木蓮の花が散る印象的なシーンがあるが、これも『百日紅』の影響とのこと。お栄が妹のお猶を連れて舟遊びを楽しむシーンは原作にはないが、杉浦さんは豊島園のウォータースライダーがお気に入りだったというおきゃんな一面を思い出させる。同じく姉妹で雪見に出掛けるシーンは、“東京という現象は人々の想念のカタマリだ”と主人公に語らせる『YASUJI東京』のオマージュか。椎名林檎の「最果てが見たい」が主題歌として流れるが、これも杉浦さんのロック好き、椎名林檎ファンだったことを汲み取ってのもの。「杉浦さんの原作は完璧。僕は杉浦さんのいい道具になることを心掛けた」と原監督は語る。
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男っぽい性格だったと言われるお栄だが、年の離れた妹・お猶には優しい。目の不自由なお猶に、世界の美しさを伝える。
 美人漫画家として知られた杉浦日向子さんだが、体力を消耗する漫画執筆業は35歳で引退し、2005年7月に46歳の若さで亡くなった。自分が難病であることは公言しなかった。100日間にわたって咲き誇る百日紅のように、限られた時間の中で『百日紅』や『百物語』などの名作を描き残した。肉体から抜け出した杉浦さんは、今頃は大好きだった江戸時代に生まれ変わって暮らしているのだろうか。ふくよかで艶っぽい杉浦さんに出会った北斎かお栄、もしくは英泉は、ハッとするような美人画を描くに違いない。 (文=長野辰次)
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『百日紅 Miss HOKUSAI』 原作/杉浦日向子 脚本/丸尾みほ キャラクターデザイン/板津匡覧 監督/原恵一 声の出演/杏、松重豊、濱田岳、高良健吾、美保純、清水詩音、筒井道隆、麻生久美子、立川談春、入野自由、矢島晶子、藤原啓治  配給/東京テアトル 5月9日(土)よりTOHOシネマズ日本橋、テアトル新宿ほか全国ロードショー  (c)2014-2015 杉浦日向子・MS.HS/「百日紅」製作委員会 http://sarusuberi-movie.com

昼の新番組も大惨敗! 末期状態のフジテレビを救うのは「アニメ」しかない!?

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『ドラゴンボール改 魔人ブウ編 Blu-ray BOX3』(Happinet)
 フジテレビが危機的状況に追い込まれている。4月改編の目玉として、3月30日にスタートした昼の生番組『直撃LIVEグッディ!』(月~金曜午後1時55分)と『みんなのニュース』(月~金曜午後3時50分)が、1%台の“末期的”低視聴率を記録してしまったのだ。  4月27日の放送の『グッディ!』は1時55分~2時55分が2.3%、2時55分~3時50分が1.5%。『みんなの~』は27日放送の3時50分~4時50分が1.6%、4時50分~5時54分が2.7%、5時54分~7時が6.1%だった(ともにビデオリサーチ調べ、関東地区)。  『グッディ!』は、夕方のニュースから安藤優子キャスターを引っ張り、俳優の高橋克実と異色コンビを結成。これが完全な裏目で「昼の時間帯に安藤キャスターは似合わない。あの時間帯の視聴者層は主に主婦。完全にターゲットを読み違えた」(テレビ関係者)という声が圧倒的だ。  そんな中フジの最後の望みは、バラエティでもなければ、ドラマでもない。なんと、アニメだという。  フジは先日、大人気アニメ『ドラゴンボール』の新シリーズ『ドラゴンボール超(スーパー)』を7月から放送すると発表。同作の単行本売り上げは全世界で2億3,000万部を誇る。テレビアニメは1986年2月にスタートし『Z』『GT』『改』と長期シリーズで放送され「安定した視聴率を叩き出す優良コンテンツとして重宝されてきた」(同局関係者)。現在公開中の劇場版も大ヒット中だ。 「フジとしてはもうアニメに頼るしかない。『ドラゴンボール』は固定ファンも多いし、15%前後の視聴率は期待したいはず」とは前出テレビ関係者だ。  フジはこのほか『ワンピース』『サザエさん』『ちびまる子ちゃん』など、国民的人気アニメを多数抱えている。“アニメのフジ”と呼ばれる日もそう遠くはないかもしれない――。

『映画クレヨンしんちゃん ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん』高橋渉監督が明かす、『クレしん』映画が泣けるワケ

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(C)臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK 2014
 2月4日(水)~2月15日(日)までの12日間、東京・ 六本木の国立新美術館を中心に開催される「第18回文化庁メディア芸術祭の受賞作品展」。アニメーション部門で優秀賞を受賞したのが、『映画クレヨンしんちゃん ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん』だ。2002年の『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦』(原恵一監督)が、同じくメディア芸術祭アニメーション部門大賞を受賞して以来の快挙となった。ある日、突然ロボットになってしまった野原ひろしが、父親の威厳復活をもくろむ謎の組織の野望を打ち砕くため、しんのすけと共に立ち向かう。これまでは家族をサポートする立場だった父のひろしに、初めてスポットが当たった作品だ。 近年の『映画クレヨンしんちゃん』シリーズの中でも、とりわけ大ヒットとなった今作。脚本は、原作者の臼井儀人の元担当編集であった劇団☆新感線の作家で、『天元突破グレンラガン』や『キルラキル』などアニメ作品の脚本も多数手がける中島かずき。そして監督は、アニメ『クレヨンしんちゃん』シリーズに制作進行や演出として長年関わってきた、高橋渉。映画監督わずか2作目にして大きな名誉を得ることになった、期待のクリエイターである。そんな高橋監督に、作り手としての「クレヨンしんちゃん」の魅力をたっぷりと伺った。「大人も泣ける」と言われることについて、一体どう思っているのだろう? ――メディア芸術祭優秀賞受賞、おめでとうございます。 高橋渉(以下、高橋) ありがとうございます。でも、受賞ラインナップの中で浮いているような気がして、落ち着きません(笑)。 ――高橋監督は『クレヨンしんちゃん』テレビシリーズの演出もされていますが、この『ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん』で劇場版を初めて監督されました。テレビシリーズとの決定的な違いは、なんでしたか? 高橋 「でっかいことはいいことだ」という言葉があるように、テレビではできない大きなスケールのお話がやれるということですね。と言いつつ、今回は春日部の街の中で完結しちゃってる。映画の舞台としてのスケール感はちょっと小さかったかもしれませんが、物語としては深いものができたと思っています。あとは、1本のお話として完結できる点です。テレビ放送は、もう20年を超えて放送され続けています。でも映画は、それ1本で完結した作品というか、カギカッコでくくることができるんですね。やってみてわかりましたが、スッキリするんです。 ――高橋監督はシンエイ動画に入社してすぐに制作進行として『クレヨンしんちゃん』に関わって以来、演出助手、監督と長年この作品に携わっています。今作の主役である野原ひろしを、どういうキャラクターだと思っていましたか? 高橋 みんな馴染み深いキャラクターばかりですが、特にひろしは同性だし、年も近い。なにより、よくぼやくところが自分に似ていて、感情移入がしやすいキャラクターです。テレビだと、しんのすけとみさえの間に挟まれているかわいそうなお父さん、という感じですけどね。
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高橋渉監督
――ひろしがロボットになるという設定は、高橋監督のアイデアだそうですね。ひろしを主役にしてあげたいという思いが? 高橋 そうですね。近年ひろしにスポットが当たっていたので、ちょっとしゃくな部分もあったんですけど(笑)。 ――ひろしの名言を集めた『野原ひろしの名言 「クレヨンしんちゃん」に学ぶ幸せの作り方』(双葉社)なんて本も出ていましたもんね。 高橋 いろいろ考えましたが、ひろしがメインになるのが一番しっくりきました。ひろしって、それぞれの監督が自分の言葉を乗せやすいキャラクターだと思うんです。作者の臼井儀人さんも、もしかしたらそうだったのかもしれない。ときどき凛々しいことを言うのも、だからなんじゃないかなって思います。愚痴ったりぼやいたり、飲んで酔っ払ったり、女性にデレデレしたり。そんな人間くさい、泥くさい、足もクサい人間がロボットになったら、面白いことが起こりそうだと思いまして。それに、弱い部分をさらけ出している人間が好きなんです。あと今作では、もっとオヤジギャグを言わせたかったのですが、あまり入れられなかったのが心残りですね(笑)。 ――今回の主人公はしんのすけではなく、ひろしということになりますか? 高橋 大きく言うと、主人公はしんのすけとひろしです。もともとしんのすけは、能動的には動かないキャラクター。一生懸命動いているキャラクターの脇にくっついてちょっかいを出す、というのが基本的なスタイルです。誰かに引っ張られているんだけど、自分のペースを保っている。それが、しんのすけの特徴だと思ってます。引っ張られた先で、おかしなことをしでかして、流れに沿わない、予想もしなかった流れを生み出す。 ――それが『クレヨンしんちゃん』の面白さの理由なんですね。初監督をして、新たに発見した魅力はありましたか? 高橋 映像面からいうと、キャラクターの身長が極端ですよね。現実の5歳児より、しんのすけたちはずっと小さい。しんのすけと大人を一緒に入れ込むとなると、画面がゆがんでくる。どうしても嘘をつかざるを得なくなり、画面がダイナミックになる。そのゆがみが、『クレヨンしんちゃん』のアニメーションとしての魅力なんじゃないかなって思います。 ――確かに、下からなめるような構図だったり、遠近感を利用したりと、面白い画角になっていますよね。 高橋 ストーリー面でも、しんのすけの重要性に気づかされましたね。生と死を扱ったシビアなお話ですが、揺るがないしんのすけが救ってくれた。子どもの素直な目線がユーモアを生み出したり、複雑な問題を解決する奇抜なヒントを与えてくれたりもします。 ――大人が状況に振り回されているのを、しんちゃんたち子どもが冷静に見ている。そんな構図だから、子どもにも大人にもヒットするのでしょうね。 高橋 僕自身は子どもに向けてではなく、家族に向けて作っているつもりなんですよ。お茶の間にいるであろうお子さんと、お父さん、お母さん。大人にしかわからないネタも入れているけど、意味がわからないことがあればお父さんお母さんに聞けばいいわけですし。そこで会話が生まれればいいなと。
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(C)臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK 2014
――昨年はこの『ロボとーちゃん』と、同じくシンエイ動画製作の『STAND BY MEドラえもん』(山崎貴監督)が大ヒットしましたが、どちらも「大人も泣ける」と言われた作品でした。 高橋 いろいろとあざといなぁって思ってましたけどね(笑)。憎々しく思ってるわけではないのですが、今作は笑いで勝負したい気持ちがありましたので。でも、そういう映画は自分も大好物なもので……。悔しくもあり、うれしくもありです。 ――『クレヨンしんちゃん』は泣かせようとしているわけではない、と? 高橋 そうですね。企画の段階から泣ける作品にしようという話は一切出ていないです。でも、絵コンテが完成に近づくにつれて、「ロボひろしとひろしの結末をどうするんだ、真剣にぶつかるしかない」ということで、ああいう形になった。いわゆる感動シーンみたいになっていますが、最初から想定して作ったものではないんですよ。悲しすぎて、拒否反応を示される方もいるだろうとは思いましたが。そこは覚悟していました。 ――結果、感動したという声が圧倒的でした。キャラクターの力もありますね。 高橋 長期にわたる漫画、テレビのシリーズでみなさんに親しまれたキャラクターを真っすぐ真剣に描いてあげたいと思っていました。どんな悲しいことにもめげない、力強いキャラクターを生み出した臼井儀人先生のおかげです。 ――高橋監督は、もともとアニメ業界を目指していたわけではないそうですね。 高橋 もともとは映画のスタッフになりたかったんです。子どもの頃は周りの友達と同じように、サンライズのロボットアニメや『タイムボカン』などを見ていましたが、中学生ぐらいでアニメは卒業して。高校卒業後は、実写映画の編集技師になろうと映画学校に入りました。裏方として映画のクオリティを高めたいと思っていたんです。 ――当時は、どういう映画を作りたいと思っていたんですか? 高橋 小学生ぐらいの頃に見ていた80年代のハリウッド映画が、いまだに好きなんですよ。ハッピーで楽しい、派手なギミックのあるエンタテインメントが好きというのは変わらない。これからもそういう映画を作っていきたいなと思っています。 ――シンエイ動画に入社されて直接関わることになった原恵一監督(9作目『モーレツ!オトナ帝国の野望』、10作目『嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦』を監督)と、水島努監督(11作目『嵐を呼ぶ 栄光のヤキニクロード』などを監督)の存在はどのようなものですか? 高橋 毎年恒例のプログラムピクチャーでありながら、挑戦心あふれる映画でしたね。スタッフとして両監督の作品に関わっていましたが、当時の現場は両監督の熱気にあてられて、躁状態だったと思います。内容も結果も良くて、業界歴が浅い自分に、ある種のピークを経験させてくれた両監督を尊敬しています。当時はなかなかコンテをあげてもらえなくて、恨み節ばかりでしたけど。
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(C)臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK 2014
 僕が入社した当時、原さんって、夕方会社に来て新聞を読んで帰っていくみたいな印象でした(笑)。いい意味で監督っぽくないというか。「監督って呼ばないでほしい」とはよく言っていましたね。飄々としているようで、じっと深いところを見つめているような。水島さんは、とにかくスケジュールを大事にされる方。『嵐を呼ぶ 栄光のヤキニクロード』で初めて水島さんの演出助手としてついたのですが、原画が積み重なっているのを見つけると「なんでこんなにためてるんだ、すぐチェックしろ」と。「スタッフを大事にするように」ともよく言われましたね。当時の僕は生意気だったので。 ――生意気だったようには見えないです。 高橋 ゼロからものを生み出す過程も知らずに、「俺ならこうする」とか「ここは違うな」とか言ってたんですよね。できる前じゃなくできた後に。作る側としては、恥ずかしい態度でした。言葉遣いについても怒られました。制作って、みなさんに「原画をやってください」「動画をやってください」ってお願いして回るセクションですが、監督の仕事も本質は同じです。僕は絵もうまく描けないし、声もあてられない。お願いすることしかできないんですよね。あのままでは信頼もされず、演出にも監督にもなれなかったと思うので、叱ってくれた水島さんには本当に感謝しています。 ――今後も、監督を続けていきたいと思いますか? 高橋 時々やれればいいなって思います(笑)。パワフルな映画は、欲望をためてからじゃないと作れないような気がして。テレビシリーズでも満足できるんですけど、やっていると「こういうことがやりたいな」って欲が湧いてくる。そういうものをふつふつとため込んで、映画で爆発できたらいいなって思います。 ――映画の最後、ロボひろしの視点でしんちゃんを見ているカットがとても好きなんですが、アニメでは珍しい構図ですよね。あれはどんな欲望から生まれたんですか? 高橋 ロボットの主観視点は『ロボコップ』からですが。実はもうひとつ、ゲームからヒントを得たんですよ。プレイヤーの視点で進む『バイオショック』というアメリカ製のゲームがあるんですが、主観視点ならではの感動的な演出に胸を打たれました。今回の作品に生かせるのでは、と思って使わせてもらいました。ゲームは好きで、よく時間を潰すのですが、アニメの演出にもしっかり役立たせることを証明できました(笑)。 ――最後に、あらためて、この作品を見る人たちに向けてメッセージをお願いします。 高橋 ケレン味たっぷりのエンタテインメントがやりたいという思いでこれを作りましたが、自分が本当に描きたかったのは家族の理想的な姿だったのかもしれないと、今になって思っています。野原家のような楽しい家庭がたくさん生まれれば、日本は平和になるんじゃないかなって思いますね。 (取材・文=大曲智子) ●『第18回 文化庁メディア芸術祭 受賞作品展』 2015年2月4日(水)~2月15日(日) 会場:六本木 国立新美術館/シネマート六本木/スーパー・デラックス 料金:無料 主催:文化庁メディア芸術祭実行委員会 ※開館時間、休館日は会場によって異なります。 『映画クレヨンしんちゃん ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん』上映日時 8(日)12:30-14:15 11(水)17:30-19:55(上映後トークイベントあり) 15(日)10:30-12:10 すべてシネマート六本木にて <http://:j-mediaarts.jp/

『エヴァ』に迫るソフト売り上げを記録 第2期で大ブレークした『ラブライブ!』の快進撃が止まらない!

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 早いもので、2014年もそろそろ終わりが近づいてきました。さまざまな自然災害、事件が日本全体を揺るがした激動の一年でしたが、みなさんが大好きなアニメ業界にとってはどんな一年だったのでしょうか? 独断と偏見で、ざっくりと2014年のアニメ業界を振り返ってみましょう! ■キッズアニメの王者が世代交代か!?  あっちで「ゲラゲラ」、こっちで「ポー」といった具合に、『妖怪ウォッチ』が席巻した今年のキッズアニメシーン。今年5月にバンダイが0~12歳の子どもを持つ親を対象に行った「子どもの好きなキャラクターランキング」によると、1位の『それいけ!アンパンマン』に次いで『妖怪ウォッチ』が2位にランクイン。  一方、比較対象としてしばしば挙げられる『ポケットモンスター』は、なんと8位。この結果を見る限りは完全に、子どもに人気のゲームキャラの座はピカチュウからジバニャンへと世代交代した感があります。  12月20日に公開された『映画 妖怪ウォッチ 誕生の秘密だニャン!』の動員・興行収入も順調な滑り出しを見せており、このペースで行くと今夏公開された『ポケモン・ザ・ムービーXY 破壊の繭とディアンシー/ピカチュウ、これなんのカギ?』の興行収入成績を上回るのでは……といわれています。  しかし、『ポケモン』は20周年を間近に控えた怪物コンテンツ。片や『妖怪ウォッチ』はまだ始まって数年の、新参コンテンツです。世代を超えて愛される『ポケモン』が定番の強さで人気を維持し続けるのか? それとも『妖怪ウォッチ』が、第2のポケモンとして完全にお株を奪ってしまうのか。今後も注目です。 ■『ラブライブ!』、『エヴァ』に迫るソフト売り上げを記録!  アイドルアニメが数多く制作された2014年のアニメシーンですが、その中でもとりわけ多くの支持を集めたのが『ラブライブ!』です。昨年1月より放送された第1期の続編となる第2期が、4月より放送スタート。通常、第2シーズンものは前作よりも人気が落ち着くことが多く、映像ソフトなどの売り上げも縮小しがちなのですが、『ラブライブ!』は第2期で人気が大ブレーク。Blu-ray第1巻は11万枚オーバーの超ヒットを記録! 2015年に開催予定のライブチケット先行抽選券が封入されるというブーストがあるとはいえ、この記録はちょっと尋常ではありません。ちなみに1巻以降も4~5万枚で売り上げは推移。第1期のほぼ倍の売り上げを維持していることから、どうやら単にチケット目的で第1巻のみが売れたわけではないみたいです。  ちなみにこの枚数がどれだけすごいのかというと、テレビシリーズアニメのBD/DVD売り上げランキングで見てみると、2000年代以降に放送された『魔法少女まどか☆マギカ』『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』『化物語』などの人気深夜アニメはすべて後方にぶっちぎり、残るは90年代に発売された『新世紀エヴァンゲリオン』数巻と『The World of GOLDEN EGGS』くらいという状態。CDも3枚がゴールデンディスク入りするという快挙を成し遂げた『ラブライブ!』は、来年劇場版の公開も控えており、今後この人気がどこまで伸びるのか非常に気になるところです! ■今年も生まれた! 大量のアニメ流行語  昨年は「にゃんぱすー」「駆逐してやる」といった流行ワードが生まれたアニメ発の流行語ですが、今年も昨年に負けず劣らずのパンチラインが誕生。ファミリー層には「ゲラゲラポー」「もんげー」「妖怪のせい」など、『妖怪ウォッチ』一色な感じだと思うのですが、深夜アニメ大好きクラスタはこんな感じでしょうか? 「あぁ^~心がぴょんぴょんするんじゃぁ^~」 「さすがはお兄様です(さすおに)」 「(^q^)くおえうえーーーるえうおおwww」 「コネクティブヒナアアアアアアアア!!!!!」  2014年秋スタートのアニメ『SHIROBAKO』で登場した「万策尽きた~」も、なかなか汎用性があっていいですよね。ちなみに、個人的には「かしこまっ!」がヒットでした。 ■ロボットアニメは男のロマン! しかし、ロマンだけでは面白くならない……?  近年、妙に増加傾向のあるロボットアニメですが、今年も例年以上に多くのタイトルが発表されました。しかし、それらがきちんとヒットしたかというと……どうなんでしょう。  まずは、今年35周年を迎えたガンダムシリーズは、秋より『ガンダムビルドファイターズトライ』と『ガンダム Gのレコンギスタ』の2作品を同時展開。同時期に、別の局で複数タイトルが本放送されるなんて、ガンダム史上初の試みです。  熱さと発想の自由度が魅力のガンプラバトルが展開する『ビルドファイターズトライ』、富野由悠季監督による独特の言語感覚とドライブ感が癖になる『Gレコ』とそれぞれ魅力あふれる作品なのですが、ネット上では日夜両作品のアンチによる言い合いが繰り広げられています。個人的には、どっちも面白い『ガンダム』作品なんだけどなあ。と思う一方、人類はまだまだニュータイプには程遠いなと再認識させられますね。また、フルCGの硬質なタッチがハードな世界観にマッチした『シドニアの騎士』なんかも、なかなか面白かったように思います。  その一方、『キャプテン・アース』『M3-ソノ黒キ鋼-』『白銀の意思 アルジェヴォルン』『バディコンプレックス』『ノブナガ・ザ・フール』『風雲維新ダイ☆ショーグン』『健全ロボ ダイミダラー』なんかもありましたが……う~む……。「ミリタリー度を強めろ」と言われたり、「もっとエロネタを!」「もっと萌えを!」と言われたり、いろいろと大変かと思いますが、制作者の皆さんも頑張ってください! ■グラビア、結婚、スキャンダル!……そして訃報。激動の声優業界  いまやアイドルに匹敵する人気を誇る声優。アニメに欠かせない裏方である一方、タレントとしての需要も日々高まっています。そんなわけで、今年も声優のメディア露出が大きな話題を呼びました。  グラビア系声優として人気の内田真礼が青年誌に複数回登場! セクシーな水着グラビアを披露し、声優ファンを歓喜させました。無名時代からホテルなどでの個人撮影をしていた経歴のある彼女だけあって、水着の着こなしもセクシーな見せ方も心得たもの。今後も僕らを魅了してください!  そして永遠の17歳声優・ほっちゃんこと堀江由衣が、12月22日発売の週刊誌「FLASH」(光文社)で制服グラビアを披露! 今年でデビュー17周年を迎えながらもいまだにみずみずしさを失わない彼女の姿に、「ホ、ホ、ホァアーーーーーー!」と叫んだファン多いはず!  また、今年も多くの声優さんがご結婚されました。主な女性声優だと南里侑香、椎名へきる、仙台エリ、生天目仁美、本名陽子、MAKO、沢城みゆき、仁後真耶子、長谷川明子、儀武ゆう子、瀧本富士子、阿澄佳奈など。  対する男性声優は、瀧本富士子と入籍した荻原秀樹くらいしか名前が挙がらない。ほかには、一般人が、とある男性声優の結婚式に参加したことをうかがわせるツイートを投下。ネットを騒がせるという事件が起きたが、本当に男性声優の結婚がたまたま少なかったのか。それともタレント的な事情で公表していないだけなのか。どちらにしろ、おめでたいかぎりです。  そんなめでたいニュースが多くあった一方、訃報もまた少なくありませんでした。永井一郎、納谷六朗、家弓家正、中村秀利、仲村秀生など、人気キャラクターを多く演じた声優が続々と他界……。ご冥福をお祈りします。  というわけで、ざっくりと2014年のアニメ業界を振り返ってみました。来年はどんなニュースがアニメ業界を盛り上げてくれるのでしょうか!? 楽しみですね! (文=龍崎珠樹)

『月刊少女野崎くん』のヒロイン・佐倉千代はなぜこんなにも愛されるのか? 

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TVアニメ『月刊少女野崎くん』公式サイト
 10月に入り、秋新番の放送が続々とスタートを切っている。今期から始まるアニメ作品は全部で40本以上。アニメファンにとっては、どの作品を視聴するか、また悩みの種となっていることであろう。さて、毎回これだけ多くの作品がある中で、愛されるヒロインと次クールではすぐに忘れさられてしまうヒロインとがいる。もちろん作品自体の人気に左右されるのは間違いないが、その作品が人気ということは、登場するキャラクターが魅力的だからだと言うこともできる。今回は、前クールで人気を博したアニメ『月刊少女野崎くん』のヒロイン・佐倉千代が、多くの視聴者から愛されている理由について考察してみたいと思う。  『月刊少女野崎くん』は、男子高校生で人気少女漫画家の野崎梅太郎と、その野崎に告白するも、野崎に告白の意味を取り違えられて成り行きのまま彼のアシスタントをすることとなった女子高生・佐倉千代を中心に、彼らとその周りの個性的なキャラクターたちが織り成す日常をコメディタッチで描いた作品である。原作者の椿いづみは少女漫画家であり、劇中で登場する野崎の少女漫画も実にリアルで、思わず少女漫画読者なら「あるある!」と頷いてしまう演出もあったりと、男性視聴者のみならず女性視聴者からの人気も獲得。BD&DVD第1巻の売り上げも好調で、発売1週間で1万枚を超えたほどだ。そして、そのヒロインである佐倉千代が、これまた男女問わず「かわいい」と大人気なのである。イラスト投稿サイトpixivでは彼女のイラストが今でもたくさん投稿されているし、ニコニコ動画では彼女のかわいいシーンをまとめた動画がアップされ、ものすごい再生数とマイリス数を誇っている。佐倉千代は、アニメ放映が終わった後でもアニメファンの間で愛され続けているのだ。いったい彼女はほかの作品のヒロインたちとどこが違うのだろうか?  佐倉千代。浪漫学園に通う高校2年生。身長145cm。誕生日は3月27日。血液型はO型。頭の両側につけた、大きな赤い水玉柄のリボンがトレードマーク。  まず単純に、小柄でキュートな外見が魅力的なのは言うまでもないだろう。そこに加え、彼女は野崎をはじめ、周りの変人たちへクリティカルなツッコミを入れ、時には自らボケも担当する。そんな芸人みたいな感じでいるかと思えば、王道のラブコメヒロインもこなしたりと、とにかく器用で表情がめまぐるしく変わるのだ。1話の間でこれだけコロコロ表情が変わる子もなかなかいない。小動物のように動いていたかと思えば、すぐさま恋する乙女にも大変身。かわいい子の豊かな表情は、それだけで見ていて飽きない。愛らしいとさえ思える。しかし、かわいい子のかわいらしい姿というのは時として「あざとい」と映り、反感を買うこともしばしばだ。ところが、佐倉千代はそういうポイントも難なくクリアしているのだ。  それはなぜか? そこで、彼女のプロフィールに、もう一度注目してもらいたい。トレードマークに、「赤い水玉柄のリボン」とある。実は、これがなんとこともあろうか決定的にダサいのだ。今どき、こんなリボンをつけている女子高生なんていない。しかし、このダサいということこそが「あざとさ」を感じさせない上でとても重要なのである。  ファッションというのは、他者に対して自分をどう見せたいかということの表れだ。そしてそれは同時に、他者からの防御をも意味する。例えば、ハイブランドや原宿系の洋服で身を包んだ女の子というのは、同世代のお洒落な女の子たちからの人気は出るかもしれないが、逆に多くの男性陣からしたら自分には手が届かない存在だと感じてしまう。これは結果的に、一部のお洒落男子や自分に自信がある男以外からの防御としての効果を発揮している。しかし、これが同じような容姿の女の子でも、H&MやZARAといったファストファッションで身を包んでいたらどうだろう。おおむね親近感を持つのではないだろうか。もちろん、ファストファッションも別にダサくはない。むしろ今どきだ。ただ、お洒落としては無難なので防御としての意味をなしていないという点で挙げてみた。  さて、こうして見ると、かわいくてファッションセンスも抜群、完全無欠のヒロインより、かわいいのにどこか抜けていたり、ファッションがダサかったりといったヒロインに親近感や愛着が持てるのは言うまでもない。同じ「あざとい」行為をしていても、前者は反感を買ってしまうことが多いが、後者はむしろ愛されるということが往々にしてある。ゆえに佐倉千代は完全無欠ではないからこそ、完全無欠以上のヒロイン足りえるのだ。他作品になるが、成績優秀、能力も最高値の電撃ビリビリ女子中学生が、今どき誰も履いてないルーズソックスを履いていたりするが(そして、私服はことごとくダサい)、彼女もまたこれまでのアニメヒロインの中でトップクラスの人気を誇っている。かわいいけどちょっとダサ目ファッション女子というのが、これからのアニメヒロイン像を考える上で重要なのかもしれない。  10月11日(土)18時から、ニコニコ生放送では、『月刊少女野崎くん』一挙放送が行われる。まだ見たことがないというアニメファンはこれを機に見てみてはいかがだろうか。作品の面白さはもちろん、佐倉千代のかわいさを思う存分に堪能してもらいたい。 (文=織作亜樹良)

日常系なのに登山は本格志向! 第2期シリーズから一気に化けた『ヤマノススメ』

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『ヤマノススメ セカンドシーズン』公式サイトより
 現在放送中の『ヤマノススメ セカンドシーズン』が、ネットを中心にちょっとした話題となっている。本作は、2013年1月から5分枠アニメとして放送された『ヤマノススメ』の第2期シリーズ。第2期放送に伴い、放送枠も5分から15分へと拡大された。内気で高所恐怖症の主人公・雪村あおいが、ちょっと強引な性格の幼なじみ・倉上ひなたに引っ張り回される形で山登りをするところから物語はスタート。登山趣味を通じて知り合った1つ年上の斉藤楓、中学2年生の青羽ここなの4人を中心に、女の子たちだけの「ゆるふわ」な日常を描いた、いわゆる日常系アニメ作品である。しかし、それが今回、2クールの折り返し地点となる“富士登山編”で、日常系アニメとは思えない過酷な描写やリアルな演出で視聴者の注目を集めたのだ。  異性との恋愛要素が一切排除された中、美少女キャラクターたちのゆるふわな日常が描かれていく“日常系”、もしくは“空気系”と呼ばれるジャンルのアニメ作品群は、ゼロ年代後半あたりからある一定数を占めるようになった。“キャラ萌え”がとにかく重視され、物語性が希薄となるのが特徴であるが、2007年に放送された『らき☆すた』の大ヒットにより、日常系アニメはその後、量産されることとなる。しかし、『けいおん!』『ひだまりスケッチ』『ゆるゆり』といった作品がヒットしていったものの、それ以外の日常系アニメ作品は、視聴率的にもパッケージの売り上げ的にもそれほど特出した人気が出たものはなかった。それでもこのジャンルが廃れずに今でも毎クールに1、2本ほど放送されているのは、なんといっても、気楽に見ることができるからだ。物語を真剣に追う必要はなく、キャラクターたちが織りなす「ゆるふわ」な世界観にまったりと萌えるだけでいい。ストレスを抱え込みがちな現代人にとって、日常系アニメはちょっとした癒やしの時間を与えてくれるのだ。  そして『ヤマノススメ』 も、公式サイトで「女の子だけのゆるふわアウトドア」と称されている通り、物語のメインは「女の子だけ」で構成され、その関係性は「ゆるふわ」でつながっており、「萌え」を重視したキャラクターデザインとなっている。ここだけ見れば、『ヤマノススメ』は間違いなく王道の日常系アニメ作品だろう。しかし、この作品はこれまでの日常系アニメとは大きく違うところがある。それは公式文の「ゆるふわ」に続く「アウトドア」の部分。ここが、まったくもって「ゆるふわ」ではないという点だ。あおいたちは実際に存在する山を登っていくのだが、その描写がとてもリアルなのである。  第1期では、天覧山や高尾山といった、どちらも低くて初歩の山登りだったこともあり、登山の「リアルさ」よりもあくまで「ゆるふわ」な部分が勝っていた。しかし、現在放送している第2期では一気に1700メートル級の三ッ峠山や、日本最高峰である富士山への挑戦をしている。これではいくら「ゆるふわ」なキャラクターたちといえども、「ゆるふわ」なままで登っていくことはできないし、実在する山を登場させているので、それらの山を登る際の注意点なども詳細に描かなくてはならない。そのため、制作スタッフたちは作品に登場する山へ実際にロケハンを行い、丁寧な背景や風の音、どのポイントが大変かといった細かなところまで忠実に登山風景を作り上げている。キャラクターは「ゆるふわ」でも、登山に関してはあくまで本格志向。これらのことをたった15分間に凝縮し、見事な映像作品として成り立たせているところに、スタッフたちのこの作品にかける熱い思いと、登山に対する真摯な気持ちがひしひしと伝わってくる。  そして、特に今回の“富士登山編”で大きく話題となったのは、登山の厳しい現実を突きつけたことだ。これまで4人みんなで仲良く登ってきた中、あおいだけが高山病に罹ってしまい、8合目でギブアップしてしまった。楓はあおいを見守る形でその場に残り、ひなたとここなの2人はご来光を拝みに富士山山頂を目指す。そして、見事登頂に成功したひなたたちの感動は、大胆なカット割りと素晴らしい映像美によって視聴者を圧倒した。しかし、それと同時に、山頂を目前にとぼとぼと山を降りていくあおいの挫折感が痛いほど伝わる心理描写も細かく描かれていく。登山って素晴らしいなと思うと同時に、登れなかった悔しさも心に突き刺さるのだ。たった15分の間にこれだけの人間ドラマを見せてくれる作品も、なかなかないのではないだろうか。これまでアニメに興味を持っていなかった登山愛好家たちからも、絶賛の声がTwitterなどで上がっている。  萌え絵のキャラクターたちが登場するということで見るのを避けている人もいるかもしれないが、『ヤマノススメ セカンドシーズン』はヘタなスポ根モノよりスポ根しており、熱いドラマを見たいという人にはもちろんのこと、登山に対する適切な知識も身につくので、これから山登りを始めたいなと思っている人にもうってつけの作品である。また、あおいたちが暮らしている埼玉県飯能市では、さまざまなコラボ企画も行われているので、聖地巡礼も思う存分楽しむことができる。秋から始まる新番組と併せて、ぜひ視聴を薦めたいアニメ作品だ。 (文=織作亜樹良)

日常系なのに登山は本格志向! 第2期シリーズから一気に化けた『ヤマノススメ』

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『ヤマノススメ セカンドシーズン』公式サイトより
 現在放送中の『ヤマノススメ セカンドシーズン』が、ネットを中心にちょっとした話題となっている。本作は、2013年1月から5分枠アニメとして放送された『ヤマノススメ』の第2期シリーズ。第2期放送に伴い、放送枠も5分から15分へと拡大された。内気で高所恐怖症の主人公・雪村あおいが、ちょっと強引な性格の幼なじみ・倉上ひなたに引っ張り回される形で山登りをするところから物語はスタート。登山趣味を通じて知り合った1つ年上の斉藤楓、中学2年生の青羽ここなの4人を中心に、女の子たちだけの「ゆるふわ」な日常を描いた、いわゆる日常系アニメ作品である。しかし、それが今回、2クールの折り返し地点となる“富士登山編”で、日常系アニメとは思えない過酷な描写やリアルな演出で視聴者の注目を集めたのだ。  異性との恋愛要素が一切排除された中、美少女キャラクターたちのゆるふわな日常が描かれていく“日常系”、もしくは“空気系”と呼ばれるジャンルのアニメ作品群は、ゼロ年代後半あたりからある一定数を占めるようになった。“キャラ萌え”がとにかく重視され、物語性が希薄となるのが特徴であるが、2007年に放送された『らき☆すた』の大ヒットにより、日常系アニメはその後、量産されることとなる。しかし、『けいおん!』『ひだまりスケッチ』『ゆるゆり』といった作品がヒットしていったものの、それ以外の日常系アニメ作品は、視聴率的にもパッケージの売り上げ的にもそれほど特出した人気が出たものはなかった。それでもこのジャンルが廃れずに今でも毎クールに1、2本ほど放送されているのは、なんといっても、気楽に見ることができるからだ。物語を真剣に追う必要はなく、キャラクターたちが織りなす「ゆるふわ」な世界観にまったりと萌えるだけでいい。ストレスを抱え込みがちな現代人にとって、日常系アニメはちょっとした癒やしの時間を与えてくれるのだ。  そして『ヤマノススメ』 も、公式サイトで「女の子だけのゆるふわアウトドア」と称されている通り、物語のメインは「女の子だけ」で構成され、その関係性は「ゆるふわ」でつながっており、「萌え」を重視したキャラクターデザインとなっている。ここだけ見れば、『ヤマノススメ』は間違いなく王道の日常系アニメ作品だろう。しかし、この作品はこれまでの日常系アニメとは大きく違うところがある。それは公式文の「ゆるふわ」に続く「アウトドア」の部分。ここが、まったくもって「ゆるふわ」ではないという点だ。あおいたちは実際に存在する山を登っていくのだが、その描写がとてもリアルなのである。  第1期では、天覧山や高尾山といった、どちらも低くて初歩の山登りだったこともあり、登山の「リアルさ」よりもあくまで「ゆるふわ」な部分が勝っていた。しかし、現在放送している第2期では一気に1700メートル級の三ッ峠山や、日本最高峰である富士山への挑戦をしている。これではいくら「ゆるふわ」なキャラクターたちといえども、「ゆるふわ」なままで登っていくことはできないし、実在する山を登場させているので、それらの山を登る際の注意点なども詳細に描かなくてはならない。そのため、制作スタッフたちは作品に登場する山へ実際にロケハンを行い、丁寧な背景や風の音、どのポイントが大変かといった細かなところまで忠実に登山風景を作り上げている。キャラクターは「ゆるふわ」でも、登山に関してはあくまで本格志向。これらのことをたった15分間に凝縮し、見事な映像作品として成り立たせているところに、スタッフたちのこの作品にかける熱い思いと、登山に対する真摯な気持ちがひしひしと伝わってくる。  そして、特に今回の“富士登山編”で大きく話題となったのは、登山の厳しい現実を突きつけたことだ。これまで4人みんなで仲良く登ってきた中、あおいだけが高山病に罹ってしまい、8合目でギブアップしてしまった。楓はあおいを見守る形でその場に残り、ひなたとここなの2人はご来光を拝みに富士山山頂を目指す。そして、見事登頂に成功したひなたたちの感動は、大胆なカット割りと素晴らしい映像美によって視聴者を圧倒した。しかし、それと同時に、山頂を目前にとぼとぼと山を降りていくあおいの挫折感が痛いほど伝わる心理描写も細かく描かれていく。登山って素晴らしいなと思うと同時に、登れなかった悔しさも心に突き刺さるのだ。たった15分の間にこれだけの人間ドラマを見せてくれる作品も、なかなかないのではないだろうか。これまでアニメに興味を持っていなかった登山愛好家たちからも、絶賛の声がTwitterなどで上がっている。  萌え絵のキャラクターたちが登場するということで見るのを避けている人もいるかもしれないが、『ヤマノススメ セカンドシーズン』はヘタなスポ根モノよりスポ根しており、熱いドラマを見たいという人にはもちろんのこと、登山に対する適切な知識も身につくので、これから山登りを始めたいなと思っている人にもうってつけの作品である。また、あおいたちが暮らしている埼玉県飯能市では、さまざまなコラボ企画も行われているので、聖地巡礼も思う存分楽しむことができる。秋から始まる新番組と併せて、ぜひ視聴を薦めたいアニメ作品だ。 (文=織作亜樹良)

“おまけ”スタートから15年――拝金主義に傾倒する企業ブースはコミケに必要なのか

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コミックマーケット86の様子
 前回のコラムでは、同人の祭典であるコミケにおいて、なぜプロの小林幸子が受け入れられたのかを分析した(記事参照)。その結論として、小林幸子は大物芸能人でありながらコミケの基本理念であるところの、売り手と買い手がお互いイベント参加者としてフラットな立場で売買を行うということを忠実に守ったからだと書いた。もちろん、これはあくまでコミケがビジネスの場ではないという視点からの考察である。しかし、そんな観点からすると、コミケには実に不思議な場所が存在する。それは企業ブースという存在だ。企業とは利益を追求する団体であり、当然ながら企業のコミケ出展もビジネス活動の一環にほかならない。これは、コミケの理念にそぐわないのではないだろうか? イベント参加者からも、企業ブースの存在を疑問視する見方は多い。そこで今回は、そんな企業ブースの生い立ちやコミケにおける企業ブースの問題点について考えてみたい。  企業ブースができたのは、1996年の冬コミからである。コミケが東京ビッグサイトで開催されるようになって、2回目のことだ。なぜ2回目から企業ブースができたのかについて、コミケに詳しい参加者が次のように話す。 「東京ビッグサイトでコミケを開催するに当たって、1回目はほかのイベントと同時開催をしていたのですが、いろいろとほかから苦情が来ちゃったみたいなんですよ。そこで会場側から、コミケ期間中はすべてのホールを借りてほしいと準備会(運営側)に要請が来たらしい。そのため、ビッグサイトすべてのホールをコミケで使わざるを得なくなりました。しかし、ほかのホールと比べ圧倒的に行きづらい西3、4ホールにサークルスペースを配置するのは難しいと、当時の準備会は判断しました。そこでその空いているホールにアニメや漫画に関連する企業を呼び込み、宣伝スペースとして活用してもらい、その利用料を取るという形にしたようです」  つまり、企業ブースとは本来なら使われなかったスペースに企業を呼び込んだ、あくまでおまけのエリアだったわけである。そのため、当初はイベント参加者の自主流通の場を侵食していなかったのだ。しかし、それから15年以上たった今の企業ブースの現状はどうだろうか? 最近のコミケの企業ブースを軽く見渡してみても、新しいゲームの宣伝よりも一度売れたゲームのグッズばかりを、毎回手を替え品を替え売る方に力を入れているようなところがあったり、コミケ限定商品と称してイベント参加者の射幸心を煽り、注目を浴びようというところも多数目立つ。そういった限定物は始発組の一般参加者でも手に入れることができないため、さまざまな問題となっている徹夜組を生み出す原因にもなっている。  また、それぞれの企業スペースに並ぶ行列の長さが人気のステータスにもなりつつあり、当然、長蛇の列となった企業の話題はネットを通して一気に拡散されていく。しかし、そうやって生まれた長蛇の列整理にコミケスタッフが駆り出されるため、スタッフたちの負担にもなるし、そもそも限りある会場内を圧迫して危険な状態を作り出している。後日、自社通販するのであれば、あえてコミケで売ることもないだろう。そういった販売ルートを持たないアマチュアたちのための祭典のはずなのに、これではなんのための同人イベントなのかよくわからない。  もちろん、これはコミケ限定品を作り、大勢の人を並ばせて話題に上がれば、企業にとってその場のグッズ収益だけではなく、絶大な宣伝効果をもたらすからにほかならない。このおいしい果実を見逃す手はないと、普段、二次創作やMADを厳しく取り締まっているメーカーですら、企業ブースでコミケに参加していたりするのだ。権利者として毅然とした態度を取るのであれば、著作権無視の二次創作があふれているコミケにまったく参加しないという態度を取るべきだろう。確かに50万人以上が集まるイベントで出展すれば儲かるし、行列ができれば話題にもなる。しかし、あくまでコミケの主役はアマチュアたちであり、プロ(企業)ではないのだ。  こうして俯瞰してみると、いまやコミケにおける企業ブースは新しい作品の宣伝の場というより、儲け主義に傾倒している感は正直否めない。ただ、コミケで二次創作の同人誌を売っていることを知りつつも、この業界がさらに盛り上がるようにとアマチュアたちを応援している企業が少なからず存在しているのも事実だ。  メーカーには、これからも素晴らしい作品を作ってもらいたい。その宣伝の場として、コミケに企業ブースがあるのもいいだろう。しかし、あまりに儲けに走りすぎていると、完全にコミケが企業やプロのビジネスイベントになってしまう。コミケほどの自主市は、世界で日本にしか存在しない。これは誇るべき文化である。これが単なる利潤追求の場となってしまうの、はあまりにもったいない。コミケには二次創作だけではなく、商業流通では絶対に作れないようなオリジナル作品を頒布しているサークルも多数存在する。アマチュアの活動場として、コミケはまだまだ可能性を秘めているのだ。企業ブースの在り方をここらへんであらためて見直してみてもよいのではないだろうか。 (文=織作亜樹良)

前評判を覆す“ラスボス”の快進撃! 小林幸子はなぜコミケで受け入れられたのか

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『小林幸子全曲集2013』(日本コロムビア)
 8月15日から17日までの3日間にわたり、同人誌即売会「コミックマーケット86」(以下、コミケ)が東京ビッグサイトにて開催された。運営の発表によると、今回の来場者は合計55万人。昨年の夏コミは59万人の集客があったので今年は約4万人減少した形となるが、これは集計方法の変更によるところも大きいようだ。しかし、どちらにしろ50万人以上が集まる自主市なんて、世界のどこを探しても見つけることはできない。コミケは間違いなく、世界最大の自主流通マーケットなのである。マスメディアもこぞって取材を行い、民放3社の朝のニュースなどでは好意的な特集も組まれていた。かつての「ここに10万人の宮崎勤がいます!」といったネガティブなイメージは完全に払拭され、すっかりオタク文化がマジョリティとなりつつある。  さて、そんなコミケに今回、演歌界の大御所、小林幸子がサークル参加を果たした。プロの第一線で活躍している彼女の同人イベント参入には、コミケ開催前からさまざまな物議を醸し出していた。もちろん大物芸能人だからということもあるが、そもそもアマチュアの世界である同人業界において、プロが作品を出すことには難色を示す人が多いからである。なぜかといえば、まずコミケに限らず、同人イベントには店と客という概念がない。サークル側として自分が制作したものを頒布する人は“サークル参加者”、コミケの会場に来てそれぞれの制作物を購入する人は“一般参加者”であり、売り手も買い手も等しく“イベントの参加者”という立場を取る。それぞれの参加者は、イベントを無事成功させるために、お互いマナーを守って売買を行う。なので、当然売り手が上から目線でいてもいけないし、買い手がお客様気分でいても駄目なのだ。お互いフラットな関係でなくてはならない。ビジネスとしてお金を取って活動しているプロがそこに入ってくることを毛嫌いするのは、むしろ当然と言えるであろう。  しかし、いざフタをあけてみると、CD1500枚を即売し、5時間待ちの行列を作るなど大人気。Twitterなど現場からの実況は小林幸子大絶賛の声で埋め尽くされていた。小林幸子は、どうしてこうもコミケ参加者たちに受け入れられたのだろうか? 付近にいた参加者にその様子を聞いてみた。 「芸能人だからといってVIP入場するのではなく、普通にほかの人と同じようにサークル入場口から入っていました。イベント中もずっと笑顔で手売りしていましたし、頒布物が完売した後も、並んでいる一人ひとりと握手されてましたね。また、自ら周りのサークルにも挨拶していらっしゃったそうです」  大物芸能人だからといって特別扱いされることを受けず、コミケの基本精神(お互いが等しくイベント参加者)に則った行動をしていたからこそ、多くの人から賞賛の声が上がったのだ。今まで演歌など聴いたことないような若い参加者も、コミケを機に小林幸子のファンになったといった話も聞く。売り切れたCDはその後、ネットオークションで高騰するなど反響を呼び、再販の要望も多数上がっているそうだ。  今回、アマチュアの世界にプロが逆参入してきて成功を収めるという稀有な例を、小林幸子は示したと言えるだろう。これを受けて、我も続けと参入してくるプロが、今後も現れるかもしれない。メジャー流通の音楽セールスが頭打ちしている今、コミケの盛り上がりは確かに熱い。しかし、だからといって安易にプロが参加したとしても、いい結果は生まれないだろう。コミケの理念に沿った形で参加しなければ、いくら作品が素晴らしくても参加者たちから受け入れられることはないのである。  小林幸子は叩き上げの人と聞く。地方営業であろうが中小企業の慰労会であろうが、これまでどんな客とも真摯に向き合ってきた。だからこそコミケという場に来ても、ほかの参加者と同じ目線で接することができたのだ。紅白歌合戦のラスボスは、やはり伊達ではない。 (文=織作亜樹良)

パクリ? オマージュ? 人気街道驀進中の『ラブライブ!』に突如降りかかったパクリ騒動

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『ラブライブ!』公式サイトより
 現在放送中のアニメ『ラブライブ!』にパクリ疑惑が発覚し、ネット上で大炎上中だ。  『ラブライブ!』とは、以前にもこの連載でも取り上げたこともあるアイドルアニメで(記事参照)、美少女総合エンタテインメントマガジン「電撃G’s magazine」(KADOKAWA刊)、アニメソング中心に展開する音楽レーベル・ランティス、アニメーション制作会社・サンライズの3社による合同プロジェクトである。  本作は、アニメ、雑誌連載、Webラジオ、CDリリース、コンサートなど多角的なメディア展開を繰り広げ、今年2月にさいたまスーパーアリーナで開催された2日間のライブは両日とも1万人以上を動員し、大成功。現在放送中のアニメ第2期も好調で、オープニング主題歌「それは僕たちの奇跡」のシングルCDがオリコン週間シングルチャート2位にランクインし、初動で6万枚以上の売上を達成。5月13日には、同シングルがゴールドディスクに認定されるといった具合に、まさに今が旬の話題作である。  5月11日放送の第6話「ハッピーハロウィーン」も、劇中でヒロインたちが自分たちの個性を出すべくアメリカのロックバンド・KISSのコスプレをするシーンが話題となり、ファンがTwitter上に該当シーンをアップ。それを見つけたKISSボーカリストのジーン・シモンズが、自らのアカウントでリツイートしたことから、「ついに『ラブライブ!』が世界に羽ばたいた!」と多くのファンが喝采の声を上げた。  しかしその一方で、ライブ用の衣装を自分で作ることに対して「損な役回り」と不満を漏らすにこに対して、ことりが「それぞれの役割をこなすことが大事だ」という趣旨のセリフで答えるというシーンについて、海外ドラマ『glee』の「パクリでは?」という声も上がり始めた。元ネタといわれている『glee』では、合唱大会に向けてチームがそれぞれ自分の持ち場で仕事を進める中、衣装係をやらされ不満を言うメンバーに、ほかのメンバーが「力を合わせることが大切だ」と諭すシーンが存在。「これはあなたのよ」とメンバーに衣装を見せるシーンやカット割りがそのままであることから、ほどなくしてTwitter上で一気に「パクリ疑惑」が噴出した。  個人的な感想となるが、にこは口は悪いところはあるものの、実はメンバー一面倒見のいいキャラのはず。第2期では弟たちの面倒を見るいいお姉ちゃんというそれまでにない表情を見せるエピソードがあったほか、ドラマCDでもダウンしてしまったメンバーの海未をかいがいしく介護するシーンがあっただけに、該当シーンの言動に違和感を覚えたのは事実である。同エピソードの別のシーンでも、『glee』から引用したと思われる演出が発見されたほか、昨年放送された第1期第1話などにも『glee』を下敷きにしたと思われるシーンが続々と発見され、現在も延焼中。  さらに京極尚彦監督が、過去に「自宅で休んでいましたがコンテは描いてました。どなたかアニメ以外で面白いドラマあれば教えて下さい、うまくパクる…いや引用できる演出があればと…個人的には海外の方がハングリーな作りの作品が多い気がしています」(原文ママ)というツイートをしていたことが発覚。今回のパクリは意図的なものだったのでは、という声も上がっており、鎮火の気配はいまだうかがえない。  ちなみに『ラブライブ!』は今回以外にも、発表されている多数の楽曲が既存のJ-POPや洋楽のパクリではないか、という声が以前から多く上がっていた。しかし、アニメ化のはるか以前に行われていたイベントにおいて、『ラブライブ!』制作プロデューサーは「『ラブライブ!』は、それぞれの時代を彩った音楽やアイドルの元ネタを盛り込んでいる。μ’s(『ラブライブ!』のアイドル・グループのこと)が歌うならこうなる、というのがコンセプト」という趣旨の発言をしていたことがあるほか、アニメソングのクリエイター事情に詳しい関係者によると「『ラブライブ!』は楽曲を発注する際に、“こういうイメージの曲でやってほしい”という非常に詳細なオーダーが来るそうです。そこでは元ネタの名前も具体的に出ることもある」そうだ。  そう考えると、今回の騒動においても「パクリ」というよりも、元ネタを『ラブライブ!』流に料理するとこうなる――。というコンセプトの元に行われていた、ある種のオマージュである可能性も捨てきれない。  ともあれ、「みんなで叶える物語」というテーマの下、ハイペースで急成長してきた本作にとって、今回の騒動は冷や水を浴びせることになりかねない。ちょうど物語は折り返し地点を過ぎたところである。クライマックスに向けて、誰にも文句を言わせないオリジナルの感動を期待したいところである。 (文=龍崎珠樹)