「人間の欲望を視覚化?」香港人気キャラの生みの親が追求する"醜さの美学"

Talk-is-not-talk.jpg
「Talk is not talk」(c) Graphicairlines
 『AKIRA』『ドラゴンボール』『ドラえもん』......子どものころ、僕らの心をアツくさせた漫画やアニメが、海の向こうに住むアジアの子どもたちの心にも火をつけていた。今や日本人だけのものではなくなった、ジャパニーズ・ポップカルチャー。その影響を受けて育った、アジアの才能豊かなクリエーターたちを紹介します。 第21回 アート・ユニット Graphicairlines(グラフィックエアラインズ)  膨らんだほっぺと、どこを見つめているのか分からない小さな瞳。ふてぶてしさと諦観を同居させたような、でもどこか憎めないキャラクター「Fat Face(ファット・フェイス)」が香港の街中に現れたのは、数年前。小さな虫のようにFat FaceにまとわりつくMeaty(ミーティ)と一緒に、グラフィティとして路上をにぎわせ、フィギュアになり、グッズになり、さらにはペインティングやインスタレーションとなって、ギャラリーやメディアで紹介されると、香港であっという間に話題となった。そしてFat Face+Meatyは、今ではおなじみのご近所さんのようにローカルの若者に親しまれている。  このキャラクターの生みの親、Graphicairlines(グラフィックエアラインズ)は、Tat(タット)とVi(ヴィ)の2人組のアート・ユニット。香港の人気コミック・アーティスト、Tak(※記事参照)も彼らの大ファンで、地元の雑誌の連載記事で、彼らのスタジオ訪問をしているほど。そのイラストレポートには、日本の漫画がぎっしり詰まった本棚が......「私たち、オタクなので」。
31yd-pHWBhL._SL500_AA300_.jpg
『46億年物語』
 ふたりとも、子どものころから日本のアニメを見て、漫画を読んで、ゲームで遊んで過ごしたという。 「子どものころは完全にゲームオタクだった」  Tatがハマったのは、『スーパマリオブラザーズ』に『ドラゴンクエスト』、『ファイナル・ファンタジー』『夢工場ドキドキパニック』『忍者龍剣伝』『スーパーロボット大戦』。Viは、ツウ好み(?)の名作『46億年物語』。 「生物の進化が体験できるんですよ! 一番のお気に入りでした」  ゲームやアニメは、ふたりにファンタジーの世界をもたらしたという。それらは自分たちと一緒に成長し、彼らの生活にとってなくてはならないものになった。 「日本の作品は、キャラクターデザインが非常に優れていますよね。キャラクターを使って、物語や作家のメッセージを伝えるのがとてもうまい。わたしたちも多くのキャラクターを作っていますが、そういう影響は受けていると思います」
speak is not speak_s.jpg 
Tell is not tell_s.jpg
<画像をクリックすると拡大します>
「Speak is not speak」「Tell is not tell」(c) Graphicairlines
 彼ら自身は、自分たちのキャラクターにどんなメッセージを込めているのだろう。Viによると、Fat Faceの膨らんだほっぺたは「欲望の膨張」の現れだという。 「私たちは、常に、あらゆることを"もっと、もっと"と欲しています。富を増やし、強い権力を望み、より高いビルを建てたいと競い、大量のモノを買って、消費する......そんな人間の貪欲さが、ほっぺたをどんどん膨らませてしまうんです」  そしてFace Faceの周りでうろちょろしているMeatyは、Fat Faceのお肉で、体の中にひそむ欲望や貪欲さが視覚化されたものだ。  お世辞にも「きれい」とは言えないこのキャラだが、これをさまざまなメディアに落とし込み、表現することによって、Tat とViは「醜さの美学」を追求しているという。
live-in_s.jpg alter_boy_s.jpg Beautiful-freaks._sjpg.jpg
<画像をクリックすると拡大します>
「live in 25sq.ft.」「alter_boy」「Beautiful freaks」(c) Graphicairlines
「私たちは完璧な絵画の技術を持っているわけではありません。自分たちのスタイルは未熟で、不完全だということも分かっています。でも私たちは、醜さの中には、ある種の美しさがあると信じているんです。メインストリームの市場には、美しさにおける一定の"基準"があるけど、私たちにとっての"醜さの美学"というのは、メインストリームから外れたところにあるものだと思っています」  これから、ドローイングやペインティングを含め、自分たちの満足のいく作品をもっともっと作っていきたいというTatとVi。  「毎年、新作を作って個展を開きたい。それに、自分たちの作品を香港だけではなく、他の国でも紹介したいと思っています」とVi。そして「アート活動以外に、GLA GLA DI GUOというバンドもやっているので、もっと面白いパフォーマンスや音楽も作っていきたいですね」と口をそろえる。  彼らのこんな「欲望」を聞けば、Fat Faceも頬を膨らますのをやめて、微笑みだすに違いない。 (取材・文=中西多香[ASHU]) gal_portrait.jpg ●Graphicairlines TatとViのふたりによるアート・ユニット。香港をベースに、2002年にタッグを組み、香港のストリート・アート・シーンでデビュー、話題をさらう。出版活動や展覧会を通して作品を発表するかたわら、2006年からはオリジナルのデザイン・グッズなどの制作も開始。グッズは、香港のデザインショップや、彼らのウェブで購入可能。 <http://www.graphicairlines.com/galnew/> ●なかにし・たか アジアのデザイナー、アーティストの日本におけるマネジメント、プロデュースを行なう「ASHU」代表。日本のクリエーターをアジア各国に紹介するプロジェクトにも従事している。著書に『香港特別藝術区』(技術評論社)がある。<http://www.ashu-nk.com > オンラインTシャツオンデマンド「Tee Party」<http://teeparty.jp/ashu/>
46億年物語 懐かしい。 amazon_associate_logo.jpg
■バックナンバー 【vol.20】「故郷・ボルネオ島での原体験が創造力の源」世界で活躍するマレーシアの"ケンヂ" 【vol.19】「人生に起きるすべてのことを細かく観察したい」中国ネット世代のアーティスト 【vol.18】「ヒーローは宮崎駿と奈良美智」シンガポールのマルチスタイル・アーティスト 【vol.17】「ルーツは『天空の城 ラピュタ』」ウォン・カーウァイに見い出された香港の若き才能 【vol.16】怖かわいい魑魅魍魎が暴れ回る! ヤン・ウェイの妖魔的異界 【vol.15】「原点は日本のコミック」東南アジアを席巻する都会派クリエーター 【vol.14】エロ×宗教×故事が混在!? 中国版・寺山修司が造り出すカオスな世界 【vol.13】昼間はOL、夜は寡黙なアーティスト ソン・ニが描く秘密の快楽の世界 【vol.12】まるで初期アニメ ローテクを駆使する南国のアート・ユニット「トロマラマ」 【vol.11】「造形師・竹谷隆之に憧れて......」 1000の触手を持つ、マレーシアのモンスター 【vol.10】"中国のガロ系"!? 80年代以降を代表するコミック・リーダー ヤン・コン 【vol.9】大のラーメンおたく!? シンガポールデザイン界を率いる兄貴、クリス・リー 【vol.8】メイド・イン・ジャパンに憧れて...... 香港の文学系コミック作家・智海 【vol.7】「血眼になってマンガを追いかけた」海賊版文化が育んだ中国の新しい才能 【vol.6】裸人間がわらわら 香港ピクセル・アートティストが放つ"アナログデジタル"な世界 【vol.5】ダメでも笑い飛ばせ! 香港の国民性を体現したグラフィック・ノベリスト 【vol.4】「教科書はガンダムの落書きだらけだった」 香港・原色の魔術師の意外な原点 【vol.3】「懐かしいのに、新しい」 読むほどにクセになる"タイ初の日本漫画家"タムくん 【vol.2】 マイブームはBL!? 香港の腐女子が描きとめる、消えゆく都市の記憶 【vol.1】「 :phunk版ガッチャマンが作りたい」 シンガポール発のデザイン集団が描く夢

豪華声優陣が競演! 『モーレツ宇宙海賊』アフレコ中の小松未可子&花澤香菜を直撃!!

afureko01.jpg
 『学園戦記ムリョウ』や『シゴフミ』といった個性的な作品の監督として知られる一方で、『機動戦艦ナデシコ』や『宇宙のステルヴィア』などの宇宙SFものを手がけてきた佐藤竜雄。今冬は後者に近い『モーレツ宇宙海賊』を監督することになった(MBS、TOKYO MXほかで1月放送開始)。  『モーレツ宇宙海賊』は笹本祐一のSFライトノベル『ミニスカ宇宙海賊』(朝日ノベルズ刊)を原作にしたテレビアニメ。海明星に住む普通の女子高生が宇宙海賊船の船長になる──といった筋書きからも想像できるように、痛快なコメディー路線だ。声優の芸幅の広さを生かしやすいとみたか、豪華声優陣をこれでもかと注ぎ込んできたが、過日、アフレコ時に取材の場が設けられ、ヒロイン加藤茉莉香役の小松未可子、謎の転校生チアキ・クリハラ役の花澤香菜、ふたりがメインキャストを代表してメディアの質問に答えた。
0808marika.jpg
加藤茉莉香(声・小松未可子)。
(c)2011 笹本祐一/朝日新聞出版・モーレツ
宇宙海賊製作委員会(「ミニスカ宇宙海賊」
朝日新聞出版・朝日ノベルズ)
小松未可子(以下、小松)「加藤茉莉香はヨット部に在籍する普通の女子高生だったんですが、ある日突然『宇宙海賊船・弁天丸の船長になってくれ』と言われてから、女子高生兼宇宙海賊船長として、奮闘しつつ成長していくことになる女の子です。最初は探りさぐりといった感じで演じていたんですが、音響監督の明田川仁さんに『セリフの終わりに音符をつけるようなイメージで』と言われてからは、彼女を演じるためのコツを掴んだような感じがしています。茉莉香は明朗快活というか、何も考えていないようなあっけらかんとした性格なんですが、すごく芯の強い部分や自信をもっている女の子だったりもするので、そういう部分も出していけたらと思っていました」 花澤香菜(以下、花澤)「チアキは茉莉香と同い年で、いきなり彼女の通う高校に転入してくる謎めいた感じの女の子です。サバサバした男勝りな雰囲気だったりするんですが、人付き合いがあんまり得意じゃないとのことだったので、茉莉香と話をするときも何か牽制しているような、疑ってかかっているような、そんな感じを意識しながら演じました」  印象の残ったシーンについて尋ねると、こういう答えが返って来た。 小松「結構いろいろあったんですけど、憶えているのは茉莉香が夢を見ているシーンで、某ロボットアニメの主人公風に演じてくれと言われたところでしょうか(笑)。それにはビックリしました。ほかにも結構おおげさな感じでとか、いつもの茉莉香と違うなってすぐ分かるようなちょっと大人っぽい感じでとか、普段あまり使っていない演技の引き出しを開けていただいたことが多かったです。
afureko02.jpg
チアキ・クリハラ(声・花澤香菜)
 諸事情で某になっているが、だいたい想像がつくとおりのアレ。で、最近いろいろな作品でキレ芸を披露しているこの方はやっぱりという感じ。 花澤「チアキちゃんはノセるとすぐにノっかっちゃうキャラなんですね。なので、ノっかったときには、キレ芸を見せたりとか、すごい浮かれてしまったりとか、キャラになりきったりとか、そういういろんな彼女の一面が出てきたりもしたので、演じていて楽しかったです」  「キレてないですよ!」的なアドリブが出たのかどうか!? どのくらいアナーキーな現場だったのかが気になるが......。    作品の内容は「宇宙が舞台ということもあってすごく壮大で。あとキャラクターがすごく個性的で、第1話にしてこんなに個性が際立つのかとビックリしていました」(小松)、「海賊って言うぐらいだから、戦闘が続くのかなって思っていたんですが、私のイメージとしては加藤茉莉香というひとりの女子高生が成長していく姿を純粋に追っている作品だなという感じがしています」(花澤)と、ちょっとこれだけでは想像がつかないが、声優陣に劣らずメインスタッフにもビッグネームが名を連ねており(ex:アニメーションキャラクター原案はあきまんが担当)、映像化に際して気合が入っている感は伝わってきた。  佐藤監督はやはり今期の冬アニメである『輪廻のラグランジェ』の総監督も務めており、なんと11月27日には新宿ロフトプラスワンで『モーレツ宇宙海賊』との合同イベントを開催するという。    監督をゲストがいじり倒すと言いつつ、スターチャイルドとバンダイビジュアル、2大レーベルの垣根を超えたコラボレーション(いや、バトルか!?)という側面もあり、この公式の仕事ぶりから漂ってくる危険な感じは一体なんなのだろうか。  まずは第1話を、固唾を飲んで見守りたい。
ミニスカ宇宙海賊7 蒼白の髑髏星 最新刊は25日発売。 amazon_associate_logo.jpg
【関連記事】 【東京国際アニメ祭2011秋】革命的アニメ『TIGER & BUNNY』大ブレークの種明かし 警察まで巻き込み......『あの花』聖地巡礼で盛り上がる秩父市の"仕掛け" 多忙を極める磯光雄監督も登壇!『電脳コイル』夏期特別授業開講

「放送1時間後には英語字幕付きでアップロード」現地のニーズに応える日本アニメの未来形は?

kaigaianime03.jpg
カンファレンスの光景。
 今年9月に発行された、(財)デジタルコンテンツ協会の『デジタルコンテンツ白書2011』によれば、2010年の国内のコンテンツ産業の市場規模は12兆641億円とされており、前年比0.8%減だ。震災の余波を受け、今年の市場規模はさらに縮小していると予想される。いずれにせよ、国内のコンテンツ市場は07年の13兆2,450億円をピークに減少が続いている。こうした中、海外に新たな市場を求めるのは必然ともいえるだろう。  今回は、10月27日・28日の2日間にわたって東京・秋葉原UDXで開催された「東京国際アニメ祭2001秋」(主催:経済産業省/一般社団法人日本動画協会、後援:東京都)の「アニメ ビジネスマッチング&カンファレンス」を軸に、海外市場の展望について記していく。イベントの活況については、後藤勝氏が詳しくリポートしている(参照記事)ので、こちらも参照していただきたい。  27日に開催された「アニメーションのヨーロッパマーケット事情と、日本作品の世界市場におけるトレードギャップ」「海外のファン、マーケットの動向」の2つのカンファレンスでテーマとなったのは、日本のアニメ産業が海外で市場を獲得していくために必要な、市場となり得る国々の歴史と現状であった。  そもそも、このタイトルでカンファレンスが設定された背景には、2011年5月に経済産業省の「クール・ジャパン官民有識者会議」で提言が取りまとめられたことがある。ここでは、具体的な施策として国際共同製作の推進、国際事業展開をプロデュースできる人材の育成、必要な資金や人材の供給、海外情報収集体制の強化などが示されている。  近年ではヨーロッパ、特にフランスを中心に日本のアニメは大きな市場を獲得しているとされるが、その背景や現状は明らかではない。「アニメーションのヨーロッパマーケット事情と、日本作品の世界市場におけるトレードギャップ」では、モデレーターの江口美都絵氏(東京国際アニメフェア渉外担当プロデューサー)を除き、登壇者が外国人という顔ぶれで、ヨーロッパ各国のアニメ産業の現状が語られた。
kaigaianime002.jpg
Alfio BASTIANCICH氏。
 結論からいえば、ヨーロッパにおいて日本のアニメ産業は、市場としてはいまだ開拓国あり、現地では日本側との共同製作に大きな可能性を見出しているといえる。登壇した、イタリアアニメーション協会プレジデントのAlfio BASTIANCICH氏によれば、ヨーロッパ全体では約300の制作会社があり、市場規模は7億ユーロあまり。製作数はテレビアニメが年間放映時間で750時間分、さらにアニメ映画が年間15本程度だという。  もとより、いくつもの国が近接しているヨーロッパではアニメの市場は国際色豊かなもので、アメリカで製作されたアニメも含めた市場を形成している。ところが、日本のアニメ市場はこの中には入っていない。ヨーロッパにはインターナショナル(ヨーロッパ各国とアメリカ)なマーケットと日本のマーケットの2つが存在する。日本のアニメだけを扱ったメディアに象徴されるように、「従来のアニメとか価値も市場もすべて別のもの」として捉えられているのだ。この市場の分断を国際共同製作の実現によって、解消していきたいという意図が登壇者たちには共通していた。  また、フランスのCedric Littardi氏(KAZE代表取締役社長)は、日本のアニメの長所としてストーリー性の強さを挙げる一方で、日本には外国人との共闘が難しい文化があるために市場を失っていると指摘。新たな市場を開拓するためにもヨーロッパでの共同製作を訴えた。 ■あの「クランチロール」がカンファレンスに登場  さて、昼休みもそこそこに始まった続くカンファレンス「海外のファン、マーケットの動向」は、モデレーターの豊永真美氏(ETRO 海外調査部主査)の言を借りれば「売り上げベースでは減少傾向にある海外のアニメ市場を、どう伸ばしていくか」がテーマだったが、なによりも注目すべきは「クランチロール」の日本代表であるビンセント・ショーティーノ氏が登壇したことだ。クランチロールは、サンフランシスコに本社を置く日本アニメ専門の動画共有サイトだ。当初は、違法アップロードされた字幕付きの日本アニメが多数投稿されている「ファンサブ」のひとつだったが、2008年にテレビ東京と提携したのを皮切りに、違法サイトから一転。ライセンスを得て、字幕付き日本アニメを配信するサービスへと転換した異色の企業である。
kaigaianime001.jpg
ビンセント・ショーティーノ氏。
 クランチロールのサービスで際立っているのは、最短で日本放映の1時間後には英語字幕付きアニメを配信できることだ。日本で放映されたアニメを録画してサーバーにアップロードし、ファンが字幕をつけて違法に配信する「ファンサブ」は、海外のファンが日本アニメを視聴する大きなルートになっていた。もし、オフィシャルな形で視聴しようとすれば、日本で放映されてから長い間待たなくてはならないし、DVDも発売されないかもしれない。だから待っていられない。そのことが違法である「ファンサブ」を栄えさせる要因になっていた。ところが、クランチロールがライセンス契約を結び、そうしたファンサブよりも早く配信するサービスを始めたところ、違法アップロードは減ったとショーティーノ氏は語る。事実、09年に『NARUTOーナルトー』を配信したところ、違法アップロードは7割減したという。ショーティーノ氏は、コンテンツを1カ所にまとめて早く字幕をつけて配信することが、このサービスの成功の秘訣だとして、日本企業にさらなる協力を呼びかけた。  サービスとして際立っているクランチロールだが、当初が違法サイトとして出発したためか、多くの日本企業と契約した現在でも、そのビジネスに疑念を抱く人は絶えない。サイトの主な収入源は、有料会員と広告収入のみ。昨年からクランチロールは黒字化したと発表しているが、その収入だけで黒字になるのか疑問を呈する人もいる。それどころか、既にライセンス契約を結んでいる企業の中にも疑心暗鬼な人がいるそうだ。こうした疑念についてショーティーノ氏に指摘したところ、現在は違法な動画は一切ないと話す。その上で、さらに取材にも応じるとのことなので、改めて突っ込んだ質問をしてみたい。  日本のアニメにとって、海外が新たな市場であることは誰もが一致していることだが、同時に、「海外」のコアなファンは日本のアニメがリアルタイムで視聴できることを望んでいるのも確かだ。技術的には、十分に対応できるものだろう。そこから、さらに大衆化するには、もう一段上の戦略が必要になるだろう。 (取材・文=昼間たかし/写真=永山薫)
世界「文化力戦争」大図解 クール・ジャパンが世界を制す 今のところ、そうでもない。 amazon_associate_logo.jpg
【関連記事】 【東京国際アニメ祭2011秋】革命的アニメ『TIGER & BUNNY』大ブレークの種明かし 【東京国際アニメ祭2011秋】「今後も大幅な品質向上は望めない?」中国アニメビジネスの現状 警察まで巻き込み......『あの花』聖地巡礼で盛り上がる秩父市の"仕掛け"

【東京国際アニメ祭2011秋】革命的アニメ『TIGER & BUNNY』大ブレークの種明かし

ti_bunny_an.jpg
 10月27日・28日の2日間にわたって開催された「東京国際アニメ祭2011秋」(主催:経済産業省/一般社団法人日本動画協会、後援:東京都)のレポート第2弾、28日の模様をお届けしよう。  午前中のシンポジウムは「『TIGER & BUNNY』に見るTVアニメの新たな取り組み」。語り手はサンライズの宮河恭夫専務取締役である。ガンダム関連の出版物に度々プロジェクトの仕掛け人として登場する宮河専務、『タイバニ』もグイグイ引っ張っていたが、前評判の低さには若干の不安を抱えていたようだ。大量宣伝をせず、ファンの口コミで拡がった今回のタイバニ人気から得られた知見を、今後の作品におけるファン獲得にも生かせるかと尋ねられると、こう答えた。 「放送前にほとんど宣伝もしていないし話題にもなっていなかったではないか、という質問だと思うんですが、まさにおっしゃる通りで、プレゼンをしたときに『これはイケる』と言ってくれた人はほとんどいませんでした」  MBSの単発深夜、TOKYO MXとBS11でどれだけカバーできるのかといった懐疑的な声が多かったと宮河専務は振り返る。 「原作もなく完全オリジナルということもあり、ネットなどでまったく話題にならなかったので、これはやばいかなと思っていました。しかし、なんとなく口コミで拡がっていくんだろうなという予感はありました。正直に言って、それは狙っていました」  しかし、だからといって露出を抑えたというわけではないと苦笑。これを次の作品でやるかというと、やはり話題になった方がいい、普通に認知されるようにしたい、という。  「離陸は難産だった」と宮河専務も認める出だし低調の『タイバニ』が、なぜ急上昇したのか。いわばその仕込んだ種の種明かしがこのシンポジウムだった。  『タイバニ』といえば、登場キャラクター「ロックバイソン」の実況における呼び方が「牛角さん」で固定されるほどの効果をもたらした番組内スポンサー広告が特徴のひとつだが、出稿希望が殺到したそのわけは、昨秋11月24日の日本経済新聞朝刊に掲出された全国15段カラー広告。「キャラクタープレイスメント協賛社、大募集!!」と銘打ち、派手に行った。現場担当者が上司のおじさんたちを説得しやすいだろう、という読みである。計42種類のパーツに掲出可能な枠が設けられ、個人から大企業まで数十件の問い合わせがあった。  最終的に17社が8人のヒーローに協賛、ペプシが登場キャラクター「ブルーローズ」を用いたCFを制作するに到ったのはご存じの通りである。F1やサッカーや花火と同じ感覚の掲出スタイルが、時代にフィットしたのかもしれない。  問題はこれにツッコミを入れる環境があるかどうか。その点で、Twitterのタイムラインが画面右に流れるUSTREAMをMBS最速で同時ネット配信の舞台に選んだ決断が大きかった。初回のUST総視聴者(ユニークユーザー)数は2,955人。宮河専務も「やはりこのくらいか」と思ったらしいが、第2話では7,903人と急増。第9話で4万人台に突入して4~5万人台と高値安定すると、最終25話では9万3,490人に達した。  東日本大震災後の絆を求める視聴者の心理とも重なり、ファンが一体感を獲得、高揚したのだろうという分析がなされている。  おそらくその通りで、今回の場合は「自分が見つけた、自分が支持する作品」を同じ感覚で共有することの愉悦があったはず。しかも、メジャーになったから離れるということではなく、UST視聴数の伸びを歓迎するTwitterのPostを見ても分かるように、作品の成功≒自分の勝利という、まさにサポーター心理があり、口コミで確かな人気を獲得、土台づくりがうまくいったことが、成功につながったのではないかと思われる。  途中からはTwitterのHOTワードを独占、ソーシャルネットワーク全盛時代にマッチした旬の作品となった。  現在はネットからライブに「共有」の舞台を移しつつある。最終回第25話のライブビューイングは本会場4,800円、ライブビューイング3,000円の有料制だったにもかかわらず、全国85スクリーンで2万3,000人を動員した。地上波3.8%の視聴率とUST配信の9万3,490人を足すと、ひと晩にどれだけ多くのファンが、しかも同時に『タイバニ』を注視していたのかがわかる。11月13日に神奈川県民ホールでおこなわれるライブイベントの動員は本会場4,400人、ライブビューイング3万人を見込んでいる。  普段アニメを見ないドラマ派の視聴者にまで裾野を拡げたいという企画意図は、十分に達成されたようだ。  午後のシンポジウムは「スマートフォンが変える動画の世界」。モバイル動画配信サービス大手、ビデオマーケットの高橋利樹代表取締役が、具体的なスマートフォンの定義から、順を追って動画再生環境の解説を行った。  同社はプレミアムエンコードという技術を有しており、不安定な無線ネットワーク、低ビットレート下でも鮮明な映像を出力する。厳しい環境でも低容量で動画を配信しうることで、モバイル動画配信を現実的なものにしていることになる。  実際に動画配信となる端末の中心はガラケーからスマートフォンに移っている。具体的にはiPhoneやAndroidか。予測では2011年のフィーチャーフォンとスマートフォンの出荷比率はほぼ半々とみられていたが(MM総研調べ)、NTT DoCoMo、au、SoftBank各社の冬春発売モデル内での比率はスマートフォン73%フィーチャーフォン27%となっており、今後はスマートフォンを前提として考えていかなくてはならない。  日本の全世帯のうち3割が単身世帯といわれている。しかし、非単身の複数世帯でも核家族化が進み、3人家族が増えているようだ(平均世帯人数3.12、平成22年国勢調査)。テレビと携帯電話の保有台数はともに概ねひとりにつき一台だという(内閣府消費動向調査、平成23年3月現在)。  では、購入サイクル、保有期間はどうか。テレビは家電化が進み、壊れるまでは買い換えないことから、9.3年という長期保有商品となっている。一方、携帯電話は3.6年。10年単位で考えた場合、テレビよりも携帯電話のほうが市場規模が大きい。テレビ向けの液晶をつくっていた工場が生産品目を携帯電話向けのちいさな液晶ディスプレーに切り替えるなど、フィーチャーフォンからスマートフォンという携帯電話内での変遷だけでなく、テレビから携帯電話という大きな変化があることもわかる。まさしくスマートフォンが動画再生端末の主流になろうとしているのだ(モバイルデータトラフィックは、2,010年の3,004TB/月から、2,015年には101,900TB/月に達すると予想されている、米シスコ社)。  さらに、携帯端末はCPUの集積度や処理能力が一年単位で大幅に向上、また通信環境が太くなり、タブレットも登場して転送容量や表示サイズそのものが大きくなってきていることもあって、いわばテレビの優位性を食い、今後はモバイル端末への移行がますます進んでいくのではないか──という論調だった。  樋口真嗣監督が「寝転がって動画を見るときはiPadで見る」と以前に発言していたが、就寝時にスマートフォンで動画を見ることが当たり前になりつつある現状では、つくり手もスマートフォンが作品を届けるためのチャネルであると自覚し、企画や制作に生かしていく必要があるのではないだろうか。  『TIGER & BUNNY』と合わせ、変わりつつある環境に適応して作品性や流通のスキームを考案するきっかけになる内容のシンポジウムだった。  午後から夕方にかけ、カンファレンス会場では「ご当地アニメの地域振興効果」「声優・音声製作の国際化」と題したカンファレンスが続けて行なわれた。  アニメによる地域振興、アニメの国際化または日本アニメの海外進出、音響・音楽・音声に対する理解は、今年の東京国際アニメ祭でクローズアップされているところ。  「ご当地アニメの地域振興効果」では『耳をすませば』の聖蹟桜ヶ丘、『サマーウォーズ』の上田、『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』の秩父が、各々町興しの具体例を紹介した。それらの紹介だけで時間を消化してしまい議論には至らなかったが、たまさか聖地に選ばれた側がどういうリアクションを起こすか、あるいはフィルムコミッションの類がどう誘致するかという点での話し合いがもう少し多いとよかったかもしれない。  「声優・音声製作の国際化」は、日本で声優をめざし、あるいは既にプロとしての活動を始めている日本周辺国家出身の声優または声優志望者によるトークセッション的なカンファレンス。ネイティブ並に日本語を操るロシア人、中国人、台湾系アメリカ人、韓国人のバイリンガル、トライリンガルは主に日本アニメへの情熱によって衝き動かされ、日本語を学んだ経緯の持ち主ばかり。日本代表として参加した山口理恵も関西圏出身とあって関東との言葉の違いに苦心した時期があり、共通の心的ベースで体験談を語る様子はトークとして面白かった。  前者の町興しと同じく紹介が大半を占め、異国出身の声優の力をどう生かしていくかという議論としては深まらなかったが、関心を喚起する効果はあったように思う。  今年も地味なシンポジウムやカンファレンスに見るべきものがある催しだった。 (取材・文・写真=後藤勝)
TIGER&BUNNY(タイガー&バニー) 1 まさか、見てないの? amazon_associate_logo.jpg
【関連記事】 【東京国際アニメ祭2011秋】「今後も大幅な品質向上は望めない?」中国アニメビジネスの現状 警察まで巻き込み......『あの花』聖地巡礼で盛り上がる秩父市の"仕掛け" スカイハイ回の15話先行上映に湾岸が沸いた『TIGER & BUNNY』初のイベントを緊急レポ!

警察まで巻き込み……『あの花』聖地巡礼で盛り上がる秩父市の"仕掛け"

anohana.jpg
『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』
アニメ公式サイトより
 埼玉・秩父の町のあちこちに今、あるアニメのキャラクターグッズが溢れているのをご存じだろうか。  今年4月から6月まで放送され、再放送が10月初旬に4夜連続全話一挙放送されたフジテレビ・ノイタミナ枠のアニメ『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』だ。  西武秩父駅周辺の土産物売り場の店頭は今、通称『あの花』のグッズだらけ。駅周辺にはコスプレをしている人など、「聖地巡礼」者の姿が多数見られる。  この作品の異質なところは原作がなく、アニメオリジナルにもかかわらず、アニメ放送中から「聖地巡礼」する多数の人が町を訪れ、9月末からは西武秩父駅限定で記念切符発売と、いろいろ展開が早過ぎること。  西武秩父駅によると、第1弾の記念切符5,000セットはすでに完売し、第2弾も、5,000セットのうち西武秩父駅取扱い分3,000セットはすでに残り3セットとなっているという(10月26日現在)。  さらに放送中の5月には、『あの花』のキャラクター「めんま」が呼び掛けるポスターが、警察署の名前で貼り出されていた。  たとえば、『新世紀エヴァンゲリオン』グッズが大人気となっている箱根などは、放送終了後10年も経ってからのグッズ化&町おこしだったわけだが、『あの花』の異様な展開の早さはなぜなのか。  秩父アニメツーリズム実行委員会に聞いた。 「聖地巡礼の人は、早くはアニメ放送開始前から来始めてましたよ」  原作なしのオリジナルアニメなのに、放送前からとはどういうことなのだろうか。 「よく、『地域おこしのためにアニメを作ったのではないか』と言われるのですが、そうではなく、『放送が終わるまではアニメをじっくり楽しんでほしい』という制作会社の希望もあり、作品内で地名を出さなかったんですよ。我々は当然アニメに協力していますので秩父をPRするタイミングを見計らっていたのですが、放送が始まるなり、第1話でキービジュアルとなっている橋がどこなのかと話題になり、ファンの方の間で旧秩父橋と特定され、注目を集めたようです」  アニメ放送中に警察まで巻き込むPRとなった理由については? 「アニメのキャラクター『めんま』が橋の欄干に立つキービジュアルがあるのですが、ファンの人がもしマネをして事故が起こると放送ができなくなるので、注意喚起の貼り紙をしようということになりました。でも、単に『欄干に上るのはやめよう』ではファンの心をつかめないのでと、制作会社のOKをもらい、アニメキャラに呼びかけてもらう形にし、また、警察署長さんにもOKをもらって文言を入れたんです」  それにしても、一部で大人気のアニメとはいえ、一般知名度はそこまででもない気がするのに、こんなにも騒動になるとは......。 「我々も分からなかったんですよ。制作会社の方に『アニメが始まると、(作品内で溜まり場として登場する札所)17番というお寺はすごいことになるよ』と言われていたんですが、正直、ここまでは予想つきませんでした。監督が長井龍雪さん、脚本を岡田麿里さん、キャラクターデザインを田中将賀さんが務めており(テレビアニメ『とらドラ!』と同一スタッフ)、その3人だったら必ずヒットすると確信していたようです」  秩父アニメツーリズム実行委員会は、昨年、スタンプラリーなどを行った「銀河鉄道999in秩父」のために立ち上げたものだそう。 「来年どうしようかね、という話をしつつ、題材を探していたときに、ちょうど『あの花』の話がきたんです」  ちなみに埼玉といえば、最近では『らき☆すた』アニメ版の舞台が鷲宮町(現・久喜市)や幸手市、春日部市であることから、神社への聖地巡礼・町おこしイベントなどで盛り上がったこともあり、それがヒントになったところも大きいようだが、アニメ放送とほぼ同時進行に進んだ、早過ぎる町おこし&ブーム。  アニメ放送前からすでに聖地巡礼の人が来ていたという事実から考えても、背景には、広告代理店やテレビ局、制作会社などが一丸となった"仕掛け"があったのではないだろうか。
あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。 1 【完全生産限定版】 マジ泣ける。 amazon_associate_logo.jpg
【関連記事】 第二のアキバとなるか!?埼玉県がオタク文化で観光PR 公式の聖地巡礼!?『夏のあらし!』が物語の舞台・大倉山の観梅会に降臨! 『けいおん!!』修学旅行のエピソードでファンの脳内舞台設定が大混乱

人気漫画家が連載の合間にアニメを自主制作!? 少人数×3DCGアニメの可能性

waza01.jpg
(c)松江名俊/小学館
 2006年にテレビアニメ化もされた人気コミック『史上最強の弟子ケンイチ』を「週刊少年サンデー」(小学館)にて連載する漫画家・松江名俊。彼が執筆活動の合間に制作していた自主制作フル3DCGアニメ『技の旅人』が、実に3年の制作期間を経て完成した。  文明が崩壊した世界で武者修行の旅をする少女・てくにの活躍を描いた本作は、松江名氏が原作・脚本・制作総指揮・監督をひとりで担当した話題作だ。彼が何を思って自主制作アニメを作り上げたのか。作品にこめた熱い思いを聞いてみよう。 ■漫画週刊連載と二足のわらじで進めたアニメ制作 ――『技の旅人』はいつごろから制作をスタートさせたのでしょうか。 「およそ3年前です。最初は制作何年というようなノリではなく、もっとさっさと終わる予定だったんですが、予想以上に長引いてしまいました」 ――今回は原作、脚本、監督をひとりで担当されたそうですが、実際のところ、どの程度の規模で制作されたのですか。 「正確には3人くらいで作っています。まず、音楽は『ほしのこえ』『星を追う子ども』など新海誠さんの作品で音楽をやっていた天門さん。映像はゲームのグラフィックをやってる方。どちらも高校時代の先輩というよしみでお願いしました。あとはウェブで知り合った方ですね。ただ、基本的に全部のシーンを私が完成させています」 ――週刊連載をしながらの作業という過酷な制作だったわけですが......。 「わかってはいましたが『何でこんなことやってるんだろう』『取り返しのつかないことを始めてしまった』と思いながらやっていました(笑)。1週間のうち、だいたい半日くらいしか休みが取れなかったので、その時間をアニメ制作にあてるという感じで、ほぼ3年働き続けました。最後の方は『これは終わらせないと死ぬ』と命の危険まで感じました。DVDの発売日が決まったおかげで、終わらせるタイミングができたという感じです。それがなかったら、いつまでもズルズルと作っていたと思います」
waza03.jpg
――自主制作アニメというと、動画枚数の多いアクションを描くことが難しいためか、文芸路線にいくことが多いですよね。しかし、『技の旅人』ではアクション活劇に挑戦しています。 「文芸路線でいけば、たぶん3カ月で完成したとは思います。でも、自分の取りたいアニメがアクションでしたので面倒なことに(笑)、それに私は格闘漫画を描いているのでカット割りに漫画的な手法を入れていったら面白いかもと思いました。あ、あとお色気も」 ――制作に使用したソフトもハイエンドのものではなく、安価なソフトを使っているそうですが。 「『Lightwave3D』という、比較的に手に入れやすい値段のソフトを使っています。なるべく一般的に手に入るものだけでやろうと決めていました。今回の作品にはひとつコンセプトがあって、30分の普通のアニメを個人制作しようと考えていたんです。そう考えると、3DCG以外では無理だと思ったんです」 ――3DCGが好きだから、というわけではなく、消去法で選んだ結果の3DCGだったんですね。 「ええ。それと、もともと日本のアニメって、ディズニーあたりが秒間30フレームで作っていたものを、手塚(治虫)先生が日本に輸入する際に予算や制作時間などの上で無理が生じ、結果的に少ない枚数での独特の表現方法が発展して、最後には海外に勝てるくらいの作品が生まれた。そういうことを考えると、そろそろ3DCGアニメにもそういう変化が起きるんじゃないかなと思っています。つまり、ピクサーが何百人もの人手もお金もかけて作っているのに対して、日本では作業を簡略化して少人数で、『テレビで毎週放送できるレベル』の『30分』のCGアニメを作ってみたらどうなるんだろうってことです。だから今回はテレビアニメ1本分の予算でやろう、と最初に決めました。その製作費で3、4人で作ればひとりあたりの報酬が増えて、収入が少ないとたびたび問題になっているアニメーターさんも、とりあえずの生活ができるくらいのお金が手に入るのではないか。その体制で作品を作れるかどうかの実験をしてみたかったところもあります。小さい志なんですけどね」 ――アニメの制作体制にまで踏み込んで作られたっていうのは驚きです。一般人でも手に入れやすいソフトを使ったというのも、そこに通じるわけですね。 「はい。例えば『ファイナルファンタジー』みたいな映像は、もう個人でも撮れる時代です。その代わり、3分が限界なんです。時間が長くなると制作する上で相当時間とスキルが必要になってくるので、あれで30分のアニメを個人制作するのはあまり現実的ではないと思います。でも、少しデータ量を落とせば、ずっと楽にストーリーがある作品が作れる。足りない部分をアイデアで補うあたり、日本らしいと思いませんか? それに仕事をやりながらでも3年でこのくらいのものができたということは、この仕事にのみ専念すればさらに素晴らしい作品になるはずです」 ■「業界が衰退する」その危機感がもたらした全編公開という選択 ――公式サイトでは進んで低解像度で全編公開していますね。普通はYouTubeなどの動画サイトに一部だけ公開した上で、違法に全編がアップされたらどんどん削除してDVDを売っていこうという感じになると思うのですが。 「その方法は正しいですがいたちごっこですよね。何か別の角度から切り込めないか考えました。今回この企画ではアニメ1本分のお金を回収できたら私としては一応成功だと考えています。それを前提とした上で、低解像度でアニメを見てくださった方が、お金を出してもいいなと思ってくれたらDVDを買って欲しいなという意思表示です。今回の作品はそうやって発表しても成り立つのかという実験でもあります。正規の方法でお金を集めアニメ制作会社に作って頂いた場合、こういう企画は通しにくいでしょうから自主制作でやってみました」 ――確かに、ネットで映像を見て満足されてしまう可能性もありますからね。
waza04.jpg
「十分ありますね。ただ、小さい子どもはDVDを買えませんし。今のアニメは大半が深夜放送じゃないですか。おまけに高解像度で放送されているので録画したものに劣化がない。違法アップする人間のほとんどが本当は作品を面白いからもっと見てもらいたいと思ってしているのだと思います。おそらくアニメ会社を潰そうと思ってアップしている人はいないでしょう。ただ現状のシステムが、一番のファンと製作者のお互いを苦しめ合う悲劇的な構造になっているので、何か発想で構造を変える必要に迫られているのだと思います。見たい人は無料で見る。そして、よりきれいな画像で見たい人はDVDを買う。総叩きにあう可能性もありますけど、あえてこの方法を試してみました。私は基本的に暇さえあればなにか創作活動をしている人間なので」 ――漫画家が個人レベルで新たなビジネスモデルを作ろうとしたり、既存のシステムに異議を申し立てるような動きが、近年増えつつありますよね。それはなぜだと思いますか? 「漫画家は皆個人事業主でしがらみが少ないからでしょう。当然、企業サイドにも同じようなことを考えてる人はたくさんいると思います。いずれは何かいいカタチに落ち着くのでしょうが一刻も早く新しい仕組みが確立して欲しいところ・・・今回の企画は、その提案のひとつです」 ■「ノウハウを引き継いでほしい」松江名俊からのメッセージ ――今、自主制作アニメを作っている人に伝えるメッセージはありますか? 「何も言わないでも分かってると思うので、頑張ってくださいとだけ(笑)。ただプロのアニメーターさんがよく言っているのは、『ひとりで作るな』ってことですね。3人くらい集まらないと、作品じゃなくて実験アニメで終わっちゃうんです。ただ、天才的な才能を持つ方たちは人付き合いが苦手な方が多いんですよね。だから、そこをうまく繋げることができたら、日本のCGアニメ文化ももっと発展するんじゃないかなと思います。でも、その間に立つ人がなかなかいないんですけど。ニコニコ動画みたいな、作品を発表して評価される場所をもっと作らないと、海外に負け続けると思います」 ――今回は個人(レベルでの)制作という部分を強調されてはいますが、個人でアニメを作ることにそんなにこだわりはない。 「ええ。ただ普通のアニメのように人数が増えて、動画は海外に外注という形にすると、結局いまと同じで外国に発注しないと倒れてしまう文化になってしまう。だから少数精鋭で、国産でできるというスタンスでやらないとあまり意味がないと思います。すでに個人製作のFlashアニメがテレビで放送されたりしていますし、自主制作アニメの人同士でどんどん組んでほしいです。そろそろ時は満ちてると思います、ひとつ壁を越えたら、自主制作アニメの戦国時代が来るでしょう」 ――次回作の構想などはありますか? 「次やったらおそらく死にます(笑)。今回の件でアニメ制作のノウハウがたまったので、次はもっと進化したところから始められるだろうとは思うんですが・・・とりあえず今は思う存分漫画を描きます、漫画家ですからね(笑)」 (取材・文=有田シュン) ●『技の旅人』 <オリジナルDVD+天門オリジナルサウンドトラック付き> 近代文明が失われた世界。人々は"パティア"と呼ばれるエネルギー源を用い、他の集落との交易を行わずに生きていた。そんな世界に、"技人"と呼ばれ、武者修行の旅を続けるひとりの少女がいた。知恵フクロウのふっくんと共に旅を続ける少女の名は「てくに」。ある日、パティア発掘中に"オクシリク"と呼ばれる疑似生物兵器に襲われた少女「ルリ」を救い出し、彼女の村を訪れるが......。 原作・脚本・制作総指揮・監督/松江名俊 音楽/天門(『ほしのこえ』『星を追う子ども』) キャスト/釘宮理恵(てくに/『ハヤテのごとく!』三千人ナギ役)、関智一(シエント/『史上最強の弟子ケンイチ』白浜兼一役)、川上とも子(キャロト/『史上最強の弟子ケンイチ』風林寺美羽役 )、佐藤有世(ルリ/『機動戦士ガンダム00』クリスティナ・シエナ役)DVD本編32分+特典映像18分、CD28分、本体価格/3,150円(税込)、※全国の書店で11月18日発売  オフィシャルサイト <http://www.tekunichan.com/>
技の旅人 DVD+CD付特別版 DVD+CD付特装版。 amazon_associate_logo.jpg
技の旅人 通常版。 amazon_associate_logo.jpg
【関連記事】 キャラクター原案・redjuice氏も衝撃の「"鬼"すぎる」制作現場 「制作会社に採用されなくてよかった」原作者・竜騎士07の挫折と下克上(前編) 巨大資本・文教堂の参入で激化する同人誌書店のシェア争いの行方

巨大資本・文教堂の参入で激化する同人誌書店のシェア争いの行方

bunkyodoanimegqa.jpg
同人誌専門「アニメガ」をオープン
した文教堂
 巨大資本の参入で、オタク産業の一角を担う同人誌書店に業界再編の兆しが見え始めている。かつては同人誌即売会でなければ手に入らなかったマンガ・アニメ等の同人誌を、いつでも気軽に買えるものへと変貌させた、同人誌書店。果たして生存競争に勝利するのは、どの書店なのか。  オタクの街、秋葉原。そこには「コミックとらのあな」「COMIC ZIN」「アニメイト」「メロンブックス」などいくつもの店舗が軒を連ねている。これらの書店が、同人誌市場を巨大化させる一翼を担ってきたことは、いうまでもない。  このマーケットに新たに参入を決めたのが、大手新刊書店チェーンの「文教堂」だ。文教堂は、大日本印刷の連結子会社で、首都圏を中心に182店舗(2010年8月時点)の書店を運営する日本最大規模の書店チェーンだ。近年では、新刊書籍の販売だけでなく、一部の書籍を対象に税抜き定価の3割で買い取り、ネット販売する新古書販売事業にも参入し注目を集めている。  現在は、販売を委託してくれる同人誌を募っている段階で、当面は9月24日に1号店がオープンした専門店「アニメガ」での取り扱いがメインだが、徐々に取扱店を増やしていく予定だという。今後、同人誌を取り扱う店舗数が増加すれば、同人誌を購入できる書店が、一気に増加していくことになる。  もうひとつ、業界での大きな話題が、今月、「アニメイト」と関係の深い同人誌書店「らしんばん」が秋葉原に進出したことだ。長らく秋葉原に店舗を持たなかった同社が、秋葉原に進出した背景には、さまざまな憶測が流れている。「アニメイト」はグループ会社や関連企業も含めれば、同人誌の取り扱いだけでなく、版権管理やキャラクターグッズの製作、映像や音楽の製作、出版も行うオタク業界の巨大企業だ。今年6月には神保町の大型新刊書店「書泉ブックマート」などを運営する「株式会社書泉」も傘下に収めている。新店舗のオープンと並行して、新たな買収で更なる体制強化を図っているとの見方もある。  こうした競争激化の中で、一部の同人誌書店は人気のある同人漫画家の囲い込みに躍起になっているという話も聞こえてくる。囲い込みとは、文字通り人気作家の同人誌を即売会後に自店舗だけの専売にすること。どの同人誌書店も、売り上げを確保する最良の手段としているようだが、その中である大手同人誌書店の「失敗」が秋葉原の同人誌書店関係者の中では語り草になっている。 「最近、秋葉原でも古参の大手同人誌書店が、同人誌の専売を断った漫画家に対して、その漫画家の商業出版された作品が入荷した際に、即日返品する"報復"を行う事件が起こった。当然、ひんしゅくを買う結果に終わってしまい、ほかの漫画家も"そんなところには販売委託できない"と、離れつつある」(ある同人誌書店員)  あえて名前は伏せるが、この話題に上がった店舗は、創業者である社長が大学などでも積極的に講演を行ったりしている、本当の意味での「古参」だ。にも関わらず「報復」が他社を潤す結果に終わるだけだと見通せなかった理由は謎だ。この書店、新刊書籍の取り扱いも行っているのだが、店頭を覗いてみると既刊の補充が十分に行われていないのが目につき(1巻があるのに、2巻がなくて3巻がある)、組織自体が、なんらかの問題を抱えていることを窺わせる。通販で売り上げを確保しているかもしれないが、供給源である漫画家から忌避されるような同人誌書店に、果たして未来はあるのだろうか。  いずれにせよ、同人誌市場のシェア争いは、大手の参入によって新たな段階に入ったといえるだろう。巨大化したとはいえ、同人誌市場は、日本のコンテンツ産業全体からすれば、僅かな部分を占めているに過ぎない。巨大化した同人誌書店同士の競争が、市場を拡大することになるのだろうか。そもそも、書店で手軽に購入できる物が「同人誌」なのかは、甚だ疑問だが。 (取材・文=昼間たかし)
同人誌やイラストの美しいデザイン100―レイアウトの基本から配色、文字組みまで もはや無視できないマーケット。 amazon_associate_logo.jpg
【関連記事】 「制作会社に採用されなくてよかった」原作者・竜騎士07の挫折と下克上 「コミケ発禁即売会」を掲げたイベントの実態は自主制作エロ画像販売会だった!! "恋人たちの祭典?"「ラブプラス」同人誌即売会潜入レポ

ヒット作不足のテレビアニメ界 "無難"な「ジャンプ」の一人勝ち?

jump_anime.jpg
集英社「週刊少年ジャンプ」公式サイトより
 「週刊少年ジャンプ」43号(10月3日発売/集英社)表紙で、2本のアニメ化が発表された。『黒子のバスケ』と『めだかボックス』だ。「初めて聞いた」という人も、けっこう多いのではないだろうか。  いずれもオタクファンはついているものの、「人気順=掲載順」として知られる「ジャンプ」において、掲載順は常にお尻の方だった2本。なのに、アニメ化......?  ところで、1999年10月から2001年3月末までフジテレビ系でアニメ放送されていた『HUNTER×HUNTER』も、原作の休載が多かったために、アニメが原作に追いついてしまい、放送終了。続編はOVA化された。  にもかかわらず、今年10月から、今度は日本テレビ系で新たにアニメ化されている。しかも、続編ではなく、最初からの放送だ。  『タッチ』のように、再放送権が切れたときから、同じアニメが他の局でたびたび放送されるという例はあるものの、最初から他局での過去の放送は何もなかったように新たにつくられるケースは、異例ではないだろうか。  それにしても、いまジャンプに連載されている作品の中で、アニメ化したことがある、あるいは現在アニメ放送中の漫画の多いこと。 〇アニメ化決定......『黒子のバスケ』『めだかボックス』 〇アニメ放送中......『NARUTO -ナルト-』『ONE PIECE』『トリコ』『SKET DANCE』『銀魂』『BLEACH』『バクマン。』『べるぜバブ』『ぬらりひょんの孫』『HUNTER×HUNTER』(※2つの局において、2度のアニメ化) 〇過去アニメ......『家庭教師ヒットマンREBORN!』『こちら葛飾区亀有公園前派出所』  過去分も含めると、アニメ化作品は計14本!! 本数だけ見ると、黄金期より多い気がする。ためしに、過去の「ジャンプ」を引っ張り出してアニメ化本数を調べてみた。 ●昭和56年11月23日号(50号)......『3年奇面組』『Dr.スランプ』『キャプテン翼』『こちら葛飾区亀有公園前派出所』『キャッツ・アイ』『キン肉マン』『ストップ!! ひばりくん!』『コブラ』(計8本) ●昭和59年9月17日号(40号)......『北斗の拳』『キン肉マン』『こちら葛飾区亀有公園前派出所』『キャプテン翼』『よろしくメカドック』『きまぐれオレンジ☆ロード』『銀牙 -流れ星 銀-』『コブラ』『ハイスクール!奇面組』『キャッツ・アイ』(計11本)  本数だけでは少々の差にも見えるが、ラインナップの充実度・知名度には格段の差がある気がする。  漫画家にとって「アニメ化」は1つの夢ではないかと思うが、今はアニメ化のハードルが下がっているのか。あるいはアニメ枠が多すぎるのか。  あるマンガ編集者は言う。 「深夜アニメなどを含めて枠の多さは、1990年代~2000年代前半に比べると、今は少し落ち着いたといわれています。でも、ジャンプは特殊で、やはりアニメ化がグッズ売り上げにつながるからではないでしょうか。そもそも連載もアニメも終了してから10年以上経つのに、グッズ売り上げはずっと『ドラゴンボール』に頼りきりだったのも不思議な状態。ようやくそれが『ONE PIECE』にかわり、続く他のヒット作を探しているのでは?」  だが、あるテレビ関係者はこう漏らす。 「いまはゴールデンでアニメがほとんどなくなっていますよね。これは、子どもがテレビを見なくなっているから。アニメに限ったことではないですが、昔に比べ、どれも数字が取れない。局側もそれが分かっているし、アニメ業界はヒット作不足だから、かつてなら打ち切りになっているような状態でも打ち切らず、放送期間がどれも長くなっています。また、1つ終わるごとに、次々に新しい漫画が必要となりますから、無難に"読者が多いジャンプ作品を"という判断になるのでは?」  確かに、現在連載中のジャンプ作品の中で、ある程度の連載期間があってアニメ化されていないのは、『いぬまるだしっ』くらいか。  ちなみに、2004年から放送中の『BLEACH』は、今年4月からテレビ東京系の最長寿アニメとなっているようだが、正直、「まだ放送してたの?」という人も多いのでは? 次々にアニメ化が決まるものの、新たなヒット作を探しているという意味では、アニメも漫画も同じなのかも。
マンガ脳の鍛えかた 週刊少年ジャンプ40周年記念出版 やっぱりジャンプなのか。 amazon_associate_logo.jpg
【関連記事】 「韓流ドラマや時代劇ばかり」夏休みのアニメ再放送はなぜやらなくなった? キャラクター原案・redjuice氏も衝撃の「"鬼"すぎる」制作現場 スカイハイ回の15話先行上映に湾岸が沸いた『TIGER & BUNNY』初のイベントを緊急レポ!

キャラクター原案・redjuice氏も衝撃の「"鬼"すぎる」制作現場

GC_MainVisual_finish_t2.jpg
(c)ギルティクラウン製作委員会
 10月期からのノイタミナで放映が決定しているテレビアニメ『ギルティクラウン』(フジテレビ系)は、謎の能力を獲得した主人公が、政府と抵抗勢力との争いに巻き込まれて行く、近未来の東京を舞台にしたアクションエンターテインメント。本編公開前から話題となっている同作のキャラクター原案を担当するのが、クリエイター集団・supercellのメンバーでもあるイラストレーター・redjuice氏だ。アニメ制作に携わるのは初となる同氏に、その制作秘話を聞いた。 ――『ギルティクラウン』への参加の経緯を教えていただけますか? redjuice スタッフの方々が多くのイラストレーター、アニメーターの候補者の中から、最終的に絵を見て作品コンセプトとの相性などで選んでいただいたと聞いています。挿入歌を担当されるのはryo(supercell)さんですが、僕はsupercellの括りで参加したわけではなく、それぞれが選ばれたという感じです。ryoさんは場面やシチュエーションに合わせてテーマソングを作ることにかけて天才的なので、この作品にはベストチョイスだと思います。 ――キャラクター原案として『ギルティクラウン』に携わっておられるredjuiceさんですが、今回は実際に制作スタジオに通われているとうかがっています。アニメ制作の現場の空気はいかがですか? redjuice 元々アニメの現場は大変だろうとはずっと思っていたけど、みんな鬼ですね(笑)。魔法のように絵を描いていて、うまいだけでなく仕事への覚悟、気迫がすさまじい。1日8時間以上、365日絵を描き続けることは究極のトレーニングといえますが、それを実践するための集中力やタフさを身に付けるのは並大抵のことではない。普通の人だったら発狂しますよ、本当に。アニメスタジオのスタッフはアーティスト集団であり、職人集団ですね。スタジオに入ると、自然と気が引き締まります。 ――制作に携わる中で、本業であるイラストレーターと、アニメーターの違いは感じますか? redjuice 技術的な部分では、空間の把握力には絶対的な違いがありますね。画面の中の奥行き感を直感で感じ取って、各要素を画面の中に配置できるという資質がアニメではすごく重要なんです。単体のイラストは、常に一瞬しか切り取らない。画面全体の整合性よりも、ドラマティックさが優先され、精密なカメラ設定も必要とされないのが平面構成です。アニメの場合は立体的に動かすので、空間把握を正確にできないといけないので、勉強になります。  僕は自分のオリジナルイラストで描くキャラクターは風景の一部でしかないと思っていますが、アニメのキャラクターはまず個性ありきで、それに違和感のないようにデザインを肉付けしていく。技術的な手法の違いもありますが、イラストとアニメでは思考的なプロセスの違いが大きいです。
c03_Inori_00a-1.jpg
メーンヒロイン・楪いのり
――個性的な数多くのキャラクターが既に公開されていますよね。スタッフの方々からはやはり、メーンヒロインの歌姫にしてレジスタンス組織・葬儀社のメンバーでもある「楪(ゆずりは)いのり」ちゃんが人気だと耳にしました。redjuiceさんはお気に入りのキャラクターはいますか? redjuice お気に入りというか、ヒロインのいのりは別にすると、なぜか一番多く描いたのは葬儀社のオペレーターのツグミです。別にリテークが出たわけではなく、勝手に描いてましたね(笑)。特に指示が出たわけではないのですが、ネコ耳を付けたら、スタッフからは何の疑問もなくOKが出ました。そういう意味では、僕の趣味が詰まってます。  あとは、黒髪ショートメガネ委員長! の草間花音。実は、シナリオにはそもそも存在しなかったのに、勝手にキービジュアルを描いたら即採用されました(笑)。 ――redjuiceさんの熱意に圧倒されたんでしょうか(笑)。そういう、信頼関係というか、共同作業であるアニメ制作では、呼吸の合ったチームワークがやはり必要ですよね。 redjuice もちろんチームワークなしでは成立しない世界です。だから現場にも席をいただいて、多い日で週3日通っていました。空気感を共有している中で作業をするのは1人とは全然違って、好き勝手やっていても監督がまとめてくれるという安心感はあります。なんだかんだでアニメも個人プレーの積み重ねとはいえ、現場で作業をするのは刺激的だし効率的で、そんな感覚的部分も表現に影響していますね。 ──スタンドアローン・コンプレックスですね(笑)。それこそ『攻殻機動隊』制作などで知られるProduction I.Gとのタッグということもあり、本作においては3D技術も注目だといわれています。 redjuice 僕もイラストでCGを使いますが、あくまで3DCGをイラストの味付け程度に使っているだけです。この機会にプロフェッショナルの仕事から学ばせてもらいたいくらい。例えばいのりが連れている「ふゅーねる」くんというロボットがいるんですけど、3DCGでモックアップ(模型)を作って、「これを参考にお願いします」という感じで提出することはあります。やはり、『イノセンス』など押井守監督作品参加をはじめとする、業界トップクラスの3DCGやVFXの技術を持っているチームと一緒に制作できるのは心強いですね。 ──制作はProduciton I.G 6課という、中でも勢いのあるスタジオだというのも大きいですね。「ふゅーねる」くんは、『攻殻機動隊』の「タチコマ」を彷彿とさせます。 redjuice タチコマと同じく、糸を吐きますからね(笑)。実際、「マスコット的ロボットは欲しい」という話はあって、結構タチコマという存在は意識しました。健気なふゅーねるの演技も見所です。 ――最後に、『ギルティクラウン』PRを一言っ! redjuice 今回、アニメの現場で学んだことは多く、楽しいですけど大変です。僕自身のイラストレーターとしての創作にフィードバックされる部分も大きい。スタッフの意気込みも伝わると思いますので、皆さんにも『ギルティクラウン』を楽しんで見てもらえたらうれしいです。 (取材・文 新見直[KAI-YOU/http://kai-you.net/]) ●redjuice ニックネームは「しる」。Webデザイナーとして活躍すると同時に、インディーズCDのジャケットイラストなど徐々に活動の場を広げる。08年、クリエイター集団・supercellのメンバーとして『ワールドイズマイン』のPVイメージイラスト等を手がけて話題となって以降、国内外で高い評価を得る。アニメ制作に携わるのは本作が初となる。 ●『ギルティクラウン』 監督/荒木哲郎 シリーズ構成/吉野弘幸 副シリーズ構成/大河内一楼 キャラクター原案/redjuice 音楽/ryo(supercell) 制作/プロダクションI.G 6課 放映/2011年10月よりフジテレビ<ノイタミナ>にて アポカリプスウィルスの蔓延によって無政府状態となった日本。超国家間で組織された"GHQ"と、レジスタンス組織"葬儀社"の戦いが続いていた。平凡な高校生・集は、ネット上で絶大な人気を誇る歌姫・いのりと出会うが、いのりは"葬儀社"の一員だった。彼女に導かれるうち、集の右手には「王の刻印」が現れる。しかしそれはまた、彼が背負った「罪の王冠(ギルティクラウン)」の物語の始まりでもあった......。
東京マグニチュード8.0 ノイタミナといえば。 amazon_associate_logo.jpg
【関連記事】 いよいよ最終回!『東京マグニチュード8.0』が描いたリアル(前編) 絶賛と拒否反応が渦巻くハイブリッドアニメ『空中ブランコ』の果てなき挑戦(前編) テレビシリーズに残された数々の謎が明らかに! 劇場版『東のエデン』

多忙を極める磯光雄監督も登壇!『電脳コイル』夏期特別授業開講

coil01.jpg
 9月9日、新宿バルト9で「電脳コイル Blu-ray Box 発売記念『電脳コイル探偵団集まれ!"夏期特別授業"開講!』」が開催された。  2007年文化庁メディア芸術祭アニメーション部門優秀賞のほか、日本SF大賞、星雲賞メディア部門など幾多の賞を総ナメにした不朽の名作『電脳コイル』を、1時間のトークショーと2時間のBlu-ray版上映でたっぷりと味わおうという、かなり濃厚かつ素朴なイベントである。トークショーに登壇したゲストは磯光雄(監督)、泉津井陽一(撮影監督)、野村和也(絵コンテ・演出)というそうそうたる顔ぶれ。泉津井はジブリ作品の魅力を支えるスタジオ・ジブリCG部に所属し、野村は監督作品第2弾も決定と、活躍の場を広げており、磯監督も冗談交じりに惜しみない賞賛を述べるほどの出世ぶりだ。  肝心の Blu-ray Boxは11月25日の発売(※限定版の受注締切は10月11日正午)に向けてリテーク、リマスター作業が大詰めの段階。磯監督は徹夜でリテーク作業の後25、26話のコメンタリーを収録、そのままタクシーで会場に急行したということでかなりお疲れの様子だった。それでも満席のファンを前にサービス精神は旺盛で、冒頭、リテーク箇所についての解説を始める。 「本当はこっそり空いている穴をふさぐ作業なのであまり言いたくないのですが、20話、既に雑誌に出ているひげ増量(12話「ダイチ、発毛す」)と似たような増量系で、9話(「あっちのミチコさん」)のアイコの絵が設定と違っていた部分を直したりしました」 coil02.jpg  自身が描き下ろした限定版ボックスのパッケージイラストについては「こういうDVDやBlu-rayのイラストを描くのは初めてなので描き終わるまで気付かなかったのですが、ものすごくキャラクターのサイズが小さい......。顔やバストのアップじゃないと、Amazonなどに貼られるとまったく絵が分らない。ヤサコ(小此木優子、主人公)の等身が高いことにも終わってから気が付きました」と反省。それでも、細部に至る凝りよう、本気度がいかにも『電脳コイル』らしい。  Blu-ray化にあたってひとつ問題となったのは、5年前の作品なのでデータの行方が分からない、ということだった。 「昔のデータを引っ張り出してきてテクニカルな撮影ミスを直したり、監督のオーダーを反映する作業なのですが、まず元のデータがどこにあるか分からない。撮影用のデータはそれに付随するセル、背景、CGの素材が全部バラバラなので、探してリンクをつなげて読み込む作業をしないといけない」(泉津井)  なにやら電脳世界に迷い込んだ作中のキャラクターを救う手順のような話になってきたが、問題点はそれだけではない。 「ソフトウェアのヴァージョンが上がっちゃってるんですね、当時と比べると。その当時に設定したものを今のヴァージョンで開くとうまく反映しないので、一つひとつを探し出してプラグインをかけなおしたり、設定を全部やり直したり」(泉津井)  膨大な素材から「どれに何をしたか」を探すだけで非常に手間と時間がかかる。磯監督も『電脳コイル』内の世界観、設定に喩えて「素材が一部だけ壊れていたり、こちらの操作がおかしいのか素材がおかしいのか分からないことも多く、まるで"古い空間"をさまよっているようでした」とその労苦を漏らすほどだった。まさに作品の因果が子に報い。  素材がなければ描いてしまった方が早いと、磯監督が新規に描いたものもあるが、これはテレビシリーズ制作当時も同様だった。『電脳コイル』後半の作業部屋は、ちょうど登壇した3人がすぐ傍にいる配置になっており、泉津井の要望に応じて磯監督や野村が即座に足りない絵を補える環境にあった。普通は1~2日空くところ、30分で望みのカットが上がってきたという。 coilbd.jpg 「夜明けの朝日を浴びてコンテ作業を終え、ようやく帰れると思ったら、磯さんがそこで『じゃあ、直すか』と言い出す。二人三脚でやったことはいい経験になりました」(野村) 「僕らは"コイル部屋"と呼んでいたんですけど、途中で僕の席の後ろに磯さんがいて、通路があって隣に野村さんがいて挟まれるような感じ。すぐ話ができるのはよかったんですけど、ただ、あるときから磯さんが僕の使っているパソコンに"モニターのケーブル"をつなげと言い出して。僕がやっている作業をモニターで監視しようという。"あと3ミリ右"と後ろから指示が飛んで来る(笑)」(泉津井)  15話から絵コンテで参加した野村。磯監督から寄せられた注文は「俯瞰で引いたアングルは避けてほしい」ということだった。 「物事を引いて絵をとらえていると最初に指摘されて。この作品ではキャラクターに寄せて、キャラクターの感情をもっと画面に映り込むようにしてほしいと注文されたんです。それが、寄りや引きを意識するきっかけになりました。それに『電脳コイル』の特別な仕様だと思うんですが、俯瞰の絵をなるべく使わない。これは磯さんにきつく言われていて。なるべく子ども目線で物事をとらえてくれと。その2点は最後の最後まで意識してやっていました」  そうした集中力が作品の迫力につながったのは間違いない。この後さらにトークショーは続き、プレゼント抽選を経た後、全話を通した「おさらい講座」のほか、1話、12話、20話、最終26話が上映された。大スクリーンで鑑賞できる滅多にない機会とあって、集まったファンは食い入るように見つめていたが、終了後は拍手が起きるほどだった。  なお1話はBlu-rayにも収録されないスペシャル版。古い空間に迷い込んだデンスケを電脳ペットのオヤジが救うBパートが出色の回だが、オリジナル版ではオヤジは言葉をほとんどしゃべっていない。ここに目をつけ、スペシャル版ではここだけのサービスとして、ボーカロイドで声をアテてしまったのである。  「シモベイウナコラ」「ホナヨロシュウ」「(ヤサコに向かい)メンコイナァ」「ラジャー」「クンカクンカ」「ナンカヨウカ」「マダナンモミツカラヘンデ オモッタヨリヒロイワココ」「フヘェー オタスケー」と、かわいい人語を連発、狙い通りにウケていた。オンエア時よりも大幅に増量した12話のヒゲにも大爆笑が起きていたことはいうまでもない。  すべての上映を終えた後は「スペシャルキャスト オヤジ:リング・スズネ」のクレジットが。盛りだくさんな夜だった。 (取材・文=後藤勝)
電脳コイル Blu-ray Disc Box 11月25日発売。 amazon_associate_logo.jpg
【関連記事】 1年間のブランクに主演・林原めぐみも呆れ顔!? 『マルドゥック・スクランブル 燃焼』ついに公開! スカイハイ回の15話先行上映に湾岸が沸いた『TIGER & BUNNY』初のイベントを緊急レポ! 『ウテナ』の幾原邦彦最新作『輪るピングドラム』1話先行上映!