何かが狂ってしまった現代社会。毎日のようにニュースに流れる凶悪事件は尽きることを知らない。そして、いつしか人々はすべてを忘れ去り、同じ過ちを繰り返してゆく......。数多くある事件のなかでも、いまだ犯人・被疑者の捕まっていない"未解決事件"を追う犯罪糾弾コラム。 第24回 歌舞伎町一丁目雑居ビル火災に伴う多数焼死事件 (2001年9月) 2001年9月1日、深夜でも人々の往来が途絶えることのない“日本一の歓楽街”新宿・歌舞伎町。秋の到来などみじんも感じられないほど蒸し暑い夜、事件は起こった……。 午前1時を回る少し前、一番街の路上を歩いていた通行人から「ビルの3階から人が落ちた!」という119番通報が寄せられる。直後、救助を求める電話が繰り返し鳴り響いた。 「火事です、ものすごい煙です!」 「まだ何人も中にいます! 助けて!!」 「逃げられない……早く来てくださいっ!」 まさに、現場からの悲痛な叫びだった。 くしくも関東大震災から78年目のこの日は「防災の日」に制定されているため、全国各地で防災訓練などが行われる記念日。しかし、日付が変わって間もなく、新宿区歌舞伎町1-18-4「明星56ビル」で火災が発生し、44名死亡・3名負傷という大惨事が起きてしまった。ちなみに、日本で発生した火災では戦後5番目の死者数である。 事件現場となった「明星56ビル」は、地下2階・地上4階建ての雑居ビル。過去の消防署の立ち入り検査でも、火災報知器の不備などが何度も指摘されていたという。その原因ともいえるのが、土地・建物の権利関係。契約が極めて複雑になっていたため、防災管理が行き届かない状態になっていたのである。事件当時、階段には看板などが乱雑に置かれ、火災報知機は「誤作動が多い」との理由で電源が切られていた。 火の手が上がったのは、ビル3階の麻雀ゲーム店「一休」のエレベーター付近。内部で火災が起きていることに気付かずに扉を開けた店員は、密閉空間にたまった一酸化炭素ガスが酸素と結びついたときに起きる“バックドラフト現象”により、あっという間に炎に包まれてしまう。パニックに陥ったこの店員が道路沿いの窓から飛び降りたため、先述の「人が落ちた!」という通報に至ったというわけだ。「一休」の別の店員2人は窓から屋根伝いに脱出したが、3階から発生した炎は、おびただしい黒煙とともに4階へと広がっていく。この事態に気付いて119番通報したのは、4階のキャバクラ「スーパールーズ」の従業員女性である。同店は当時流行していた“抱きキャバ”と呼ばれる接客サービスがウリで、雑誌でもたびたび取り上げられる人気店としても知られていた。どんどん煙が充満していく店内から、午前1時の通報のあとに悲痛な声で2回、「外に出られない! 助けて!!」と救助の要請があったという。 数時間後、全身が真っ黒にすすけたセーラー服姿の女性たちが、消防車から伸びたはしごを上下するゴンドラに乗せられ、次々と4階の窓から運び出されていた。あまりに衝撃的な光景である。結局、ビルの中にいた全員が外に出られたのは、火災発生から約3時間がたった午前4時だった。しかし、消防隊員による命懸けの救助活動もむなしく、警察は全員の死亡を発表。犠牲者の内訳は「一休」店員2名と客15名、「スーパールーズ」店員16名と客11名の合計44名で、全員共通の死亡原因は“急性一酸化炭素中毒”だった。ビルにいた人間で、命が助かったのは、真っ先に脱出した3人だけである。 この火災には、全体で101台の消防車両と361名の消防隊員が動員され、消火・救助活動が行われた。きらびやかな歓楽街の様相は一変し、靖国通り・職安通り・明治通りには歌舞伎町を囲むように消防車が数珠つなぎとなり、火災現場を中心に広範囲が立ち入り禁止区域となった。 これだけの犠牲者を出した火災事件にもかかわらず、いまだに出火原因は特定されておらず、“放火”と推測されてはいるものの、誰の手による凶行なのかもわかっていない。一部の証言では、「一休」で「“賭け麻雀ゲーム”に負けた腹いせに放火した」と話す男の存在が浮上したり、出火の少し前に、やはり「『一休』のドアを蹴って帰った客がいた」という証言も寄せられたが、人の往来の多い歌舞伎町では、決定的な証拠にはなり得なかった。 しかし、たったひとつだけ、まだ犯人逮捕につながる可能性のある証言が残されている。火災発生から数分後、現場から200メートルほど先の駐車場で、全身血まみれの男が目撃されているのだ。目撃者によれば、男の服は黒く焼け焦げ、頭髪は爆風を浴びたかのようだったという。その駐車場は歌舞伎町と新大久保の間にあり、夜通し光が絶えることのない歌舞伎町の中心部とは異なり、人目の届かない“闇”が点在するエリアである。心配して声をかけた目撃者をよそに、血まみれの男は立ち去っていったという。この証言が事実なら、火災現場にいた“48番目の人間”として、大惨事の真相を知る可能性は極めて高い。無論、「いかがわしい店にいた」ということを隠したい一心で、現場から立ち去った可能性も大いにあるわけだが。 08年7月、ビルを管理していた会社の役員5人に、「防火管理の注意義務を怠った」として業務上過失致死傷罪による有罪判決が下された。しかし、44人もの命を奪った真の原因は、何ひとつ解明されていない。新たな有力情報を待つばかりである。 <連絡先> 新宿警察署 東京都新宿区西新宿6-1-1 03-3346-0110 ◆「日本"未解決事件"犯罪ファイル」過去記事はこちらからイメージ画像
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「まるでAV撮影現場のよう」目撃者が激白! 痴漢サイト愛好者の卑劣な手口
「あまりにも大胆なので、周囲に見せつける集団プレイかとも思いました……」 兵庫県のJR福知山線で、まったく面識のない3人のサラリーマンがひとりの女子高生を取り囲んで痴漢に及んだ卑劣な犯行は、ほかの乗客の目の前で行われていた。その様子を目撃した20代男性は不自然に密着していた男女を不審に思いながらも、親しいグループ内の遊びのようにも見えて通報できなかったという。 7月中旬、兵庫県警に強制わいせつの疑いで逮捕されたのは、同県在住の村井良寛(36)、舟越洋平(28)、木村康之(38)の3容疑者。事件は6月12日の朝、兵庫県内を走行中だった車内で、高校2年の女子生徒の前後を取り囲み、下半身を触ったとされる。 「電車はそんなに混んではいませんでしたが、もちろんほかに乗客は普通にいましたよ。ひとりが後ろから覆いかぶさり、もうひとりが横から上半身を、さらにもうひとりはかがむようにして下半身をまさぐっていました。女子高生は当初あまり抵抗している様子がなく、ただ顔はちょっと怖がった感じでした。いま思えば、恐怖のあまり固まっていたのでしょう。3人はさらに体を密着させ、周りから見えにくいようにして両手でゴソゴソ触りまくっていて……」(同男性) 見知らぬ3人の連携プレイは無言で役割が決められていた。ひとりが体を押さえつけ、2人で胸、股間などを触り「まるでおしくらまんじゅうのようだった」と目撃男性。 「そのうちにひとりが女子高生の口をふさいだので、何かおかしいなとは思いました」 それでも男性は途中で下車したものの、通報せず、まるでアダルトビデオの撮影風景のような状況は数十分に及び続けられた。最終的に女子高生が逃げるように下車、警察に駆け込んだことで、ようやく事件として扱われた。そのため、容疑者3名の逮捕まで約1カ月を要した。 3名のうち村井と舟越の両名は容疑を認め、痴漢の愛好サイトで知り合い、当日は初対面だったと供述。一方、木村容疑者は「知らない」と容疑を否認したままだ。 アダルトサイトの編集者によると、痴漢の愛好サイトは通常、掲示板での体験談の発表が中心で、多くは犯罪告白にならないよう、実体験を小説風に書いてボカしているのだという。 「ただ、一部の会員制サイトではそうした表向きの細工がなく、堂々と場所や日時を書き込んで、痴漢しやすいスポットを広めている」と編集者。こうした非公開サイトの場合、取り締まられたことはほとんどないという。今回、犯罪の温床となった痴漢サイトは、現在も運営を続けたままだ。 (文=鈴木雅久)イメージ画像(「足成」より)
増加する“社員を襲う”ストーカー、巧妙な最新手口と対処法…法的手段は逆効果?
サイゾーのニュースサイト「Business Journal」の中から、ユーザーの反響の大きかった記事をピックアップしてお届けします。
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増加する“社員を襲う”ストーカー、巧妙な最新手口と対処法…法的手段は逆効果? - Business Journal(5月28日)
多くの場合、ストーカー行為は行為者にとっては妄想に基づく行為だが、その手口が変化してきたという。法的措置だけで解決できないことは報道される事件などから明らかだが、手口の変化に合わせて、どんな対策が求められるのだろうか? 危機管理コンサルタントで武蔵野学院大学客員教授の平塚俊樹氏は、ストーカー対策で豊富な実績を築いてきた。その経験から、ストーカーの最新手口と対策を語る。 --最近のストーカー行為には、どんな目的によるものが多いのでしょうか? 平塚俊樹氏(以下、平塚) ストーカーの多くは恋愛が目的です。以前は金とか、単なる嫌がらせなどを目的にしたストーカーも多かったのですが、最近は加害者が男性であっても女性であっても、恋愛感情を抱いている対象者に会いたくて、ストーカー行為に走る例が目立ちます。 --警察庁は平成21年3月に出した通達「ストーカー行為等の規制等に関する法律等の解釈及び運用上の留意事項について」で、法規制の対象になる行為に「特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的」と明記しました。効果は上がっていないのでしょうか? 平塚 この通達が、逆手に取られてしまったのです。恋愛感情さえ表に出さなければ規制に引っかからず、捕まらないと。だからストーカーは、恋愛とはまったく異なるアプローチ法でターゲットに近づこうと試みます。ターゲットの取引先になるとか、客になるとか、ファンになるとか。そして追い詰めていき、面会の口実をつくっていくのです。 --どうやって追い詰めるのでしょうか。恋愛が目的なら逆効果ではないですか? 平塚 ストーカーは、ターゲットに会いたくて仕方がないのです。食事などに誘って断られ続けると、会うためにビジネスの関係を築こうとします。ビジネスの舞台を使えば面会の機会を得やすいのではないかと考えて、取引先や客の立場から、質問攻めにしたり、クレームを入れたりして、なんとか会えないかなと試みるわけです。 --狙われた本人は職場に居づらくなって、限度を超えたら退職せざるを得なくなるのではないでしょうか? 平塚 女性社員の離職率の高い会社では、そうした被害に遭って退職していく例が多いですね。本人は体裁が悪いので、ほかの理由を述べますが。例えば、事務職募集の求人広告に「クレーム対応業務はありません」と書くだけで、応募者数が格段に増える時代です。それだけストーカーに職場を狙われた女性が多いのです。でも、いま申し上げた手口は、ストーカーとしては初級者ですよ。 ●ストーカー対象の近所へ引っ越し、家族と接触 --初級者とはいえ、退職するまで追い詰められるのですから大ごとです。中級以上になると、どんな手口を使うのですか? 平塚 女性看護師が、ある社長をストーキングした例をお話ししましょう。その看護師は肉体関係をもった社長に、責任を取ってほしいと迫りましたが、社長は面会を拒否し続けました。すると、看護師は社長宅の近所に引っ越し、近所の住民が自然に出会ったように装って、社長の子供と道路や公園で会話を交わすようになりました。近所の親切なおばさんを装ったのです。そうして、社長と会う機会を探っていました。子供から話を聞いた社長は、生きた心地がしなかったといいます。 --不気味な行為ですが、看護師は違法行為に及んでいませんね。 平塚 そうです。中級者以上になると、なかなか法律は犯しません。それに、万が一逮捕されても、罰金刑なら金を払えば無罪、執行猶予が付けば無罪放免と事実上同じ、何度か逮捕されても保護観察処分というように、逮捕後のシナリオを見通した上でストーカー行為を行っています。この看護師の場合は、その社長が地域社会に貢献している人物なので守ってあげなければいけないと判断した警察が、2年がかりで看護師を他の県に引っ越しさせて解決してくれました。 --しかし、通常は警察に相談しても即座に動いてくれないでしょう。 平塚 ストーカー行為への罰則が、最も重くても保護観察処分であることを見越して行為を犯してくるので、警察はだいたい「逃げるしかない」と言ってきます。難しいのは、例えばある県から東京都内に通勤する人が、都内でストーカー被害に遭った場合です。本人の住所地の警察署が担当になるのですが、その警察署が警視庁管内である東京都に出向いて動いてくれるとは限りません。 --被害に遭った場合、どんな解決の手段が有効なのでしょうか? 平塚 ともかく会わないこと、無視すること。これに尽きます。法的に解決しようとするとうまくいきません。例えば、被害者の代理人となった弁護士が加害者に対して折衝すると、加害者は「弁護士を通して相手は自分にコミュニケーションを取ってくれている」、つまり「自分の存在を認めている」という感情を持ってしまう。当然、恋愛をあきらめてくれません。しかし、無視し続ければ、やがて恋愛の対象を変更します。特にルックスの良い女性は、自分が男性受けする自信を持っているため、あきらめて他の男性にアプローチする傾向が強い。 ●取引先からのストーカー被害 --平塚さんが手がけたトラブルの事例を、お話しいただけますか? 平塚 あるソフトウェア開発会社の例ですが、この会社の20代のイケメン営業マンが担当した40代の女性社長が、ソフトをどんどん購入してくれました。2人は何度か食事をしただけでなく、出張先が同じ地域であるときに、営業マンが女性社長の車に乗せてもらったりしていました。肉体関係はありませんでしたが、ある時、営業マンは恋愛感情を持たれていてヤバイと気づいたのです。そして、女性社長からの食事の誘いを断ったら、連日何十本もの電話が営業マンに入るようになって、上司に相談しました。 --上司は営業マンと女性社長の間に入って、仲裁をしたのですか? 平塚 いえ、上司は社長と法務部長に報告して、会社は弁護士と警察に相談したのですが、女性社長に電話で注意をしたことが解決を遠のかせてしまったのです。そこで、法務部長から私に相談が入りました。私は、女性社長が美人だったので、「時間がたてば他の男性に気持ちが移るから、会社として無視するよう」助言したところ、しばらくして電話が入らなくなりました。 --その営業マンは、よく退職に追い込まれずに済みましたね。なぜ彼は、会社にかばってもらえたのですか? 平塚 会社に、ストーカー被害への理解があったからです。その会社の社長も、かつてストーカー被害に遭った経験があったため、営業マンに理解を示してくれたのです。社員がストーカーに攻められていても会社が理解を示さなければ、9割は退職してしまいます。先ほど申し上げたように、ストーカーは弁護士が法律で処理しようとしてもうまくいきません。会社には社員を守るだけでなく、常にアンテナを張って、ストーカー対策を社員教育などに取り入れることが望まれます。 --ありがとうございました。 (文=編集部) ■おすすめ記事 コンドームのコンビニ販売普及で、自販機「明るい家族計画」が激減!売れるエリアと商品とは? アップル、生命線・中国市場で岐路に…バッシングの陰に中国独自通信方式をめぐる攻防 日本郵便、グッズ発注めぐる不正取引疑惑…関与社員は退職、総務省は調査会立ち上げか デンソー、古河電工らに総額7億ドルの罰金! 経済犯罪に対する意識の低さが日本企業を潰す!? 民主党都議、本日会見で「民主党は内紛で沈み行く船」と宣言…背景に長妻の思惑か「Thinkstock」より
加害者”家族の現実 失われる日常、自殺、退職、執拗な脅迫…広く親戚にまで影響
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“加害者”家族の現実 失われる日常、自殺、退職、執拗な脅迫…広く親戚にまで影響 - Business Journal(5月26日)
連日、殺人などの事件がメディアで報じられ、被害者家族の置かれた悲痛な状況もまた、しばしば大きく取り上げられる。その一方、ある日突然家族が犯罪を犯し、ときに“生き地獄”ともいわれる現実に直面させられる加害者家族の実態については、依然としてあまり知られていない。 昨年7〜9月に放送されたテレビドラマ『それでも、生きてゆく』(フジテレビ系)では、殺人事件の被害者家族と加害者家族の男女が恋に落ち、両家族が関係を築くことは可能かというテーマを扱い、話題となったが、加害者家族の置かれる現実とは、一体どのようなものなのか? 今回、『加害者家族』(幻冬舎新書)の著者で、NHK報道部ディレクターでもある鈴木伸元氏に、 「加害者家族となり社会から批判され、日常生活を送れなくなる現実」 「離婚や退職、自殺など、広く親戚の人生までも狂わせてしまう実態」 「ネットや手紙などで執拗に続けられる脅迫・嫌がらせ」 「生活地域や学校、職場などで直面する冷たい現実」 「加害者家族支援活動の広がりと現在」 などについて聞いた。 --これまで、被害者家族の実態については、メディアなどを通じて数多く報じられてきましたが、鈴木さんが加害者家族の実態について取材しようと思ったきっかけはなんでしょうか? 鈴木伸元氏(以下、鈴木) 1988年に起きた東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件の犯人・宮崎勤の父親と事件前から交流があり、当時東京新聞記者だった坂本丁次さんが書いた『単独会見記 針のムシロに坐る父親』(月刊「文藝春秋」所収)を読んで、事件が起きるとそこには被害者と被害者家族、加害者だけでなく、加害者家族もいるということを初めて意識しました。この事件を例にとると、犯人の父親の元には、全国から段ボール1箱分にもなる非難の手紙が届き、自宅へ引きこもり生活を余儀なくされ、自殺に至りました。宮崎の長姉は、勤め先を退職に追いやられ、婚約も破棄になり、次姉も看護学校を退学しています。また、父親の兄弟2人も、当時役員をしていた会社を退職することになったばかりか、宮崎の従兄弟2人まで勤め先を辞める事態に発展しました。そこで、自分でも加害者家族の実態について調べてみたいと思いました。 当初は、どこから取材を始めたらいいのかわかりませんでした。そうした中、たまたま仙台の市民グループが加害者家族支援活動のためにワールドオープンハートという特定非営利活動法人(NPO)を立ち上げることを知り、そこを切り口に取材をしてみようと思ったわけです。 --本書の中では、普通の家族が、ある日突然“加害者の家族”になるという現実が書かれていますね。 鈴木 30代後半の女性・Aさん(仮名)は、ある日突然、夫が殺人容疑で逮捕されます。その日から自宅周辺にはマスコミが押し寄せ、近隣住宅への取材もエスカレートしていき、Aさんは息子と親友宅へ身を寄せます。ある日こっそりと自宅へ忘れ物を取りに帰ると、近所の住人から「来るなら日中は避けてくれ。家や(子供の)学校にまでマスコミの取材が来て迷惑している」と言われました。Aさんの携帯電話には「人殺し!」という脅迫電話がかかってくるようになり、自宅の壁には「殺人者の家」と落書きされ、学校からも転校を勧められ、テレビでも連日報じられるため息子にテレビも見せられず、『家族を抹殺する』などのインターネット上の書き込みにもおびえる毎日でした。その後、名前を変えて息子と他の地域で生活を続けながらも、常に身元がバレることを恐れていました。ちなみに、身を寄せた先の親友は、Aさんのことが原因で夫と険悪になり、うつになったばかりか、その後、離婚に至っています。 --加害者家族にとっても、かなり厳しい現実があるのですね。 鈴木 誰も自分の家族がまさか罪を犯すとは思っていないでしょう。だから、何か予兆やサインがあっても、後で振り返ったときに、「あの時のあれがサインだったのか」と気づくことはあっても、事件が起きるまではそれがサインだとは思わずに生活していることが多いと思います。 そして、事件が起きて“加害者の家族”という烙印を押されたとたん、近所の目は冷たくなる。学校でもそういう目で見られて、子供はいじめられ、先生にも煙たがられる。それに、事件に関して近所の人もいろいろと取材されますから。面倒くさく思う人もいると思います。 一方で、家加害者族自身も、周囲から何かを言われなくても、身内が起こしてしまったことに対する責任を感じているわけです。そして、これからどのようにして生きていけばいいのかというようなつらい気持ちになる。事件が大きければ大きいほど、背負うものも大きいのではないかと思います。まさに加害者の家族の“生き地獄”が始まるわけです。 --加害者家族の実態に関する取材を開始した当初、情報はかなり少なかったようですね。 鈴木 ええ。もちろん地域の民間グループが加害者家族支援のためのフォーラムを開催するというようなことはあったのですが、加害者家族と正面から向き合って、その状況について本格的かつ継続的に調査したものはほとんどありませんでした。ワールドオープンハートは、そういう意味では、初めての本格的な支援組織です。 --なぜ情報が少ないのでしょうか? 鈴木 被害に遭われた方のことを考えると、加害者側の人間は、苦しいとか悲しいとか、そういうことを訴えられるような立場ではない、自分たちが発言していいはずがない、自分たちの発言によって被害者家族の怒りが増幅するのではないか、という思いに駆られているからではないでしょうか。多くの加害者家族は、身内が事件を起こしてしまったという事実に打ちひしがれ、自責の念にさいなまれています。笑うことはもちろん、泣くことも許されない。だから、頑なに取材を拒んでいる、それが現実だと思います。 ●冤罪でも実際の犯罪者と同じくらいの影響 --冤罪でも同じで、「それで人生が終わる」とも書かれています。 鈴木 『それでもボクはやっていない』(東宝/07年)という映画がありましたね。主人公は冤罪である痴漢で容疑者になったことで会社にいられなくなり、家族も疑心暗鬼になって、それまでに築いてきたものがすべてぐちゃぐちゃになってしまう。実際、ある建材会社の経営者が強制わいせつ罪で告訴された事件では、事件を契機に売り上げが激減し、逮捕されてから3年後に、それが冤罪だったと確定したときには、すでに会社は倒産に追い込まれていました。 一度容疑者になってしまうと、事件の大小とは関係なく、その時点でその人の人生は崩壊してしまうといっても過言ではありません。そして、冤罪であろうとなかろうと、身内が容疑者になってしまった場合、その家族には犯罪者の家族とまったく同じことが起きるわけです。冤罪の場合は、周りの人が冤罪だと信じてくれればそうならないケースもあるとは思いますけれども、構図としてはまったく一緒だと思いますね。 --インターネットの普及が、加害者家族への嫌がらせを助長している面もあるのでしょうか? 鈴木 事件が大きければ大きいほど、地域の中だけに情報がとどまらずに、全国に広がります。そうすると、実はあの人は加害者の親戚だというような噂が広がったり、職場でも話題になることもあります。そして、こうした嫌がらせを加速させているのが、インターネットの普及です。事件が起きると、加害者本人だけでなく、加害者家族の自宅や勤務先など個人情報までもが暴露されてしまう。その結果、家だけでなく、家族の職場にもいたずら電話や嫌がらせの手紙が来るようになる。ありとあらゆるものが、おしなべて起こるという感じです。 でも中には、同情する人たち、理解を示す人たちもいますし、事件の性格や重大さにもよりますが、今まで通りの付き合いをしてくれる人もいます。 --そうした加害者家族が置かれる厳しい現実というのは、日本特有のものなのでしょうか? 鈴木 海外にも加害者家族をサポートする団体があるので、家族がサポートを必要としているという問題は同じだと思います。ただ、日本の場合は、犯罪を個人の責任としてとらえるのではなくて、家単位で責任をとらせるというか、家意識のようなものが強く残っているので、家族へのプレッシャーも大きいのではないかと考える専門家は多いですね。また、逆にそういう意識が強いことが、犯罪の抑止力、つまり悪いことをしたら家族にも迷惑がかかるからと、犯罪実行を思いとどまらせることにつながっているのではないかとの見方もあります。 --加害者家族が苦しい状況に追い込まれる原因として、メディアの加熱報道を挙げる人もいます。 鈴木 人々の犯罪に対する意識というものは、マスコミの報道などを通じて形成される場合が多いように思います。そういう意味で、メディアの報道の仕方にも責任はあると思います。例えば、日本全国の不特定多数の人たちが加害者の家に手紙を送るのは、メディアの報道を見て事件のことを知ったからですよね。さらに、学校、職場にも取材が行ってしまう。 それに、新聞やテレビで使われている容疑者の顔写真は、警察が提供したものではありません。記者たちが、近所や関係者を回って入手したものなのです。他メディアに容疑者の顔写真が掲載されているのに、自社のメディアに出ていなければ、上司から叱責されます。だから、記者たちは必死になって探し回るわけです。何時であろうがおかまいなしに自宅へそういう記者が訪ねてくることに、近所の人たちはいら立つわけですね。 ●加害者家族支援の現在 --加害者家族の支援を行う、NPO・ワールドオープンハートについて教えていただけますか? 鈴木 この団体の発起人である阿部恭子さんが、大学院で犯罪被害者の支援をどのように行っていけばいいのかを研究している中で、ある事件で加害者の家族が自殺したことを知り、海外には当たり前のように存在する加害者家族に対する支援組織がなぜ日本にないのかを疑問に思ったのがきっかけと聞いています。阿部さんは、刑事事件を扱う弁護士さんや、自殺予防に取り組む精神保健福祉士、精神看護学の専門家などに呼びかけ、 08年8月、ワールドオープンハートを設立しました。 --具体的には、どのような活動をしているのですか? 鈴木 支援というよりも、現実的に困っている人がいるなら少しでも手助けしたいという思いで活動されているようです。具体的には、裁判はどのように進むのかについての情報提供や、子供が学校で困っている場合は、ワールドオープンハートのスタッフが同行して、家族からは言いにくいことを学校の先生と相談するというようなこともやっているようですね。 それから、加害者家族の実態を知るための全国規模のアンケート調査も行いました。その結果、事件後に困ったことで多かったのは、「安心して話せる人がいない」「被害者や遺族への対応に悩んだ」「報道にショックを受けた」ということでした。 --このような加害者支援の活動は、今後広がっていくとお考えでしょうか? 鈴木 ワールドオープンハートは現在、東京と大阪に支部があり、関東や関西にいる加害者家族に対して「オープンハートタイム」と呼ばれる家族の集いを開催しています。また、スタッフとして参加する人も、今まで仙台にしかいなかったのが、東京や関西でも出てきています。少しずつですが、ワールドオープンハートの活動は広がっていると思います。ただ、全国規模で本格的にこのような活動をする組織は増えていないと思います。もちろん、小さな組織としての活動はいろいろとあるようですが。 --一昨年放送されたテレビドラマ『それでも、生きてゆく』(フジテレビ系)では、殺人事件の被害者家族と加害者家族の男女が恋に落ち、両家族が関係を築くことは可能かというテーマを扱い、話題となりました。現実的に、こうした関係の構築は可能でしょうか? 鈴木 被害者家族としては、「加害者本人に一生罪を背負ってほしい」「謝ってもらっても、被害者が戻ってくるわけではない」「被害者のことを忘れるのは言語道断」というように考えていると思います。そして、そのような感情は加害者の家族に対しても同じだと考えるのが自然ではないでしょうか。そういうことを考えると、被害者家族の側から加害者家族へ歩み寄るというのは、かなり難しいと思います。もちろん加害者家族としては、謝罪をさせてもらったりお墓参りをさせてもらうことで、肩の荷を下ろせる部分もあるとは思います。 --加害者家族に手を差し伸べる前に、被害者やその家族を救うべきではないかという意見もあります。 鈴木 ワールドオープンハートのスタッフの方が、「自分の家族が事件に巻き込まれたら、その加害者の家族のことを許せるという自信はない」とおっしゃっていたのが、すごく印象的でした、やはり、自分が被害者家族の立場に立ったとき、あるいは加害者家族の立場に立ったとき、どのような感情を持つだろうか、そういう葛藤はありますよね。でも、さらなる犠牲者を出したくないという思いは一緒だと思います。 ●未成年者の犯罪は、親の責任か? --未成年者の犯罪の場合、その責任の大半は親にあるという見方もありますが、こうした見方について、どのように考えられますか? 鈴木 事件の質にもよりますが、一般論として親に責任の大半があるケースが多いと思います。不安定な家庭環境だと、子供が発しているSOSのサインを見逃す、あるいは子供自身が不安定になるというのはあると思います。でも、そのことと、周りの人が親の責任だと責めることとはちょっと違うと思います。 つまり、直接被害を受けた人たちが親に対して責任を問うことと、当事者ではない人たちが、「あのような事件が起きたのは親の責任だ」と言って、電話をかけたり、手紙を送ったりすることとは、次元が違うと思いますよ。事件の当事者でもないのに事件の親を責めることはできないと思っています。 --子供には、犯罪を起こす予兆やサインがあるといわれていますが。 鈴木 実際に起きた重大な少年事件と家庭環境についての研究では、事件を起こした少年を、「幼少期から問題行動を起こしていたタイプ」「表面上は問題を感じさせることのなかったタイプ」「思春期になって大きな挫折を体験したタイプ」の3つに分類しています。ただ、これらのタイプを見ていくと、誰でもこのうちの1つには当てはまりそうです。つまり、子供が加害者になるかどうかというのは、それくらい紙一重だということです。 (文=編集部) ■おすすめ記事 コンドームのコンビニ販売普及で、自販機「明るい家族計画」が激減!売れるエリアと商品とは? アップル、生命線・中国市場で岐路に…バッシングの陰に中国独自通信方式をめぐる攻防 日本郵便、グッズ発注めぐる不正取引疑惑…関与社員は退職、総務省は調査会立ち上げか デンソー、古河電工らに総額7億ドルの罰金! 経済犯罪に対する意識の低さが日本企業を潰す!? 増加する“社員を襲う”ストーカー、巧妙な最新手口と対処法…法的手段は逆効果?「Thinkstock」より
学校行事で訪れたキャンプ場、忽然と姿を消した女児……“肝だめし”下見中に一体何が起こったのか?
何かが狂ってしまった現代社会。毎日のようにニュースに流れる凶悪事件は尽きることを知らない。そして、いつしか人々はすべてを忘れ去り、同じ過ちを繰り返してゆく......。数多くある事件のなかでも、未だ犯人・被疑者の捕まっていない"未解決事件"を追う犯罪糾弾コラム。 第23回 岐阜・小学生女児キャンプ場行方不明事件 (2009年7月) 飛騨高地の南、岐阜県のほぼ中心に位置する郡上(ぐじょう)市。長良川の流域として知られる自然豊かな山岳丘陵地帯である。この地域では、江戸時代から続く伝統行事として、毎年7月半ばから約2カ月間にわたって「郡上おどり」と呼ばれる盆踊りが開催されている。そんな活気にあふれる田舎町で、2009年7月24日に奇怪な事件が発生した。 場所は郡上市高鷲(たかす)町の「ひるがの高原キャンプ場」。学校行事の野外授業として同施設を訪れていた愛知県常滑市立常滑西小学校5年生の女児・下村まなみちゃん(当時10歳)が、忽然と姿を消したのである。彼女の同級生や学校関係者ら約100人が周囲にいる状況下、さらにはキャンプ場という開放的な場所で発生したこの事件は、多くのメディアで“現代の神隠し”として報道された。多くの謎に包まれたこの事件、一体まなみちゃんは、どこに行ってしまったのか……? 事件の顛末を順に追ってみよう。 事件が起こったのは、夏休みに入ったばかりの金曜日。同校5年生の野外授業として、児童85人と校長・教員ら数名が前日の23日から隣県の同施設を泊まりがけで訪れていた。野外授業は毎年の恒例行事であり、この年も3日間のキャンプを予定。その2日目の24日午前7時半頃、この日の夜に予定されていた“肝だめし”の下見のため、まなみちゃんは同級生の女の子3人と一緒に出かけたという。しかし、午前8時頃、遊歩道をしばらく歩いていた同級生たちが、同行していたはずの彼女がいなくなったことに気づいたという。報道によれば、彼女は身長120cm、体重20kgと小柄で体も弱く、普段の学校生活においても、教員や同級生のバックアップを必要としていた。後日、テレビ番組に出演した母・益代さんによれば、まなみちゃんはダウン症を患っていたという。 事件発生当時の状況を振り返ってみる。キャンプ場で最後にまなみさんを目撃したのは、同校の校長である。午前8時を回る少し前、まなみちゃんら4人は遊歩道にある林道のカーブに立っていた校長の前を通過。校長の証言によると、このとき彼女は、ほかの女の子たちから随分と遅れて歩いていたという。その姿を見て心配になった校長は、しばらくしてグループの後を追う。その直後、引き返してきた女の子たちから、まなみちゃんが行方不明になったことを知らされたのである。その間、わずか10分。たったそれだけの時間で、何者かが彼女の身を襲ったのだろうか? 失踪の通報を学校から受けた岐阜県警は、すぐに同施設の捜索を開始する。約15万平米もあるキャンプ場全体には数百人もの捜査員が動員され、重機を使って崖までも切り崩すローラー作戦を展開。しかし、その甲斐もなく、まなみちゃん本人はおろか、彼女の所持していた物さえ一切発見されなかった。広大な森の中とはいえ、人通りのない早朝、同級生や校長らが近くにいる中での失踪は、まさしく“神隠し”としか言いようがない。 一見平穏なキャンプ場で、短時間の間にまなみちゃんの身に起こった出来事は、いまだに謎とされている。例えば、同市の各地でツキノワグマの出没も目撃されていたことから、事件発生当初は「クマに襲われたのではないか?」との予想もなされた。しかしながら、警察の捜索で衣服や靴などが発見されていないことから、その可能性は極めて低いとみられている。現状で最も可能性が高いと考えられているのは、何者かが彼女をさらったとする誘拐説だ。その場合、偶発的にその場に出くわした人物、もしくは、同日に野外授業が行われることを知っていた人間が前夜~早朝にかけて施設に潜入し、グループから遅れて歩くまなみちゃんを発見し、拉致したということになる。非科学的な話を無視すれば、後者の説が有力だとは思うが、なぜそこにいたのか、誰の目にも留まらないように小学5年生の女の子を連れ去ることが可能か、など疑問は多く残る。 現在、事件から3年以上が経過しているが、いまだ彼女の行方は知れない。しかしながら筆者は、まなみちゃんは現在も必ず生存していると信じている。拉致を実行した何者かが彼女の病気を利用して、外出させないように注意を払い、どこかで息を潜めているのではないだろうか。“神隠し”というのは、人間の想像力が低かった時代のただの都合のいい解釈であり、この事件が人間の所業によるものであることは疑いようもない。この世に犯人や被害者が生きている限り、証拠は残されていなくても、事件解決の糸口はゼロではないはずだ。せめて我々は、まなみちゃんが無事に笑顔で帰宅する日を信じて待ちたい。 (取材・文=神尾啓子) <事件の情報> 名前:下村まなみ(当時10歳/愛知県常滑市立常滑西小学校5年生) 体格:身長120cm/体重20kg 行方不明時の服装:白地に袖が水色の長袖Tシャツ、薄いピンク色のズボン、水色の運動靴、髪の毛を2カ所ゴム留め 発生場所:ひるがの高原キャンプ場(岐阜県郡上市高鷲町ひるがの4714番地2) <連絡先> 郡上警察署 TEL.0575-67-0110ひるがの高原キャンプ場 公式HPより
莫大な富を有する資産家夫婦は誰に狙われたか? “取り巻き”と「日中混成強盗団」の影を追う──
何かが狂ってしまった現代社会。毎日のようにニュースに流れる凶悪事件は尽きることを知らない。そして、いつしか人々はすべてを忘れ去り、同じ過ちを繰り返してゆく......。数多くある事件のなかでも、未だ犯人・被疑者の捕まっていない"未解決事件"を追う犯罪糾弾コラム。 第22回 板橋・資産家夫婦殺害放火事件 (2009年5月) 東京全域が激しい雷雨に見舞われていた、2009年5月25日午前0時半。東京都板橋区弥生町の豪邸が炎に包まれた。まもなく消防隊が駆けつけたものの、火勢が強く、家屋は全焼。焼け跡から、この家に住む瀬田英一さん(当時74歳)と妻の千枝子さん(当時69歳)の遺体が発見された。2人は鈍器で何度も頭部を殴られた上、胸部と腹部には刃物で刺された形跡も……。警察は殺人放火事件と断定し、捜査を開始した。 警察の調べによれば、犯人は24日午後11時から25日午前0時過ぎの間に瀬田さん宅に侵入し、夫妻を殺害。その後、おそらく証拠隠滅のため、ポリタンクに入っていた灯油を撒いて放火したものとみられている。ちなみに、ポリタンクは同宅にもともとあったものだという。英一さんは25日未明に豊島区内の飲食店に赴く予定があり、千枝子さんは24日午後10時45分の閉店まで板橋区内のパチンコ店で遊戯を楽しんでいた。つまり、2人は自宅で一緒になったわずかな時間の間に、何者かによって殺害されたのである。さらに、殺害現場となった部屋には2,000万円以上の札束が散乱していたという。一体なぜ、犯人はそのような大金を残したまま立ち去ったのだろうか? その疑問はすぐに解消される。英一さんは、江戸時代からこの地域に続く大地主の跡取り。火を放たれた邸宅を含め、約80物件ものアパートや土地を所有し、100億円にも迫る総資産を有していたのである。自宅には常に何千万円もの現金が保管されていたというのだから、部屋に残されていた大金は、犯人が“盗まなかった”ものではなく、“運びきれなかった”ものと推測できる。 生前の英一さんの豪奢な遊び方は、とりわけ夜の池袋界隈では有名な話。高級スーツをまとい、毎晩のようにネオン街に現れ、一晩で数十万円を使うことは日常茶飯事だったという。なじみのホステスには、「自宅から他人の土地を踏まずに池袋(距離にして約4km)まで行ける」と語っていたほどである。 地元の誰もが知る裕福な暮らしぶりを見せていた夫妻だが、地域住民との接触は異常なまでに少なかったという。自宅にいてもほとんど電話に出ることもなく、来客にすら応じなかったのは、意図的に他人を避けていたからかもしれない。例えば、夫妻と連絡を取る場合には、手紙を書いてポストに投函するか、FAXを送るしか方法がなかった。証言者の多くが、夫妻の用心深い性格を指摘し、「数回会っただけの人物を、瀬田さんが家に招き入れるはずがない」と口々に語るほどである。いったい何を契機に、夫妻は凶悪犯の標的となってしまったのだろうか? 被害者の人間関係の乏しさから、今現在も事件解決に困難を極めているこの事件だが、夫妻の日頃の生活をたどれば、事件解決の糸口になりそうな人物像もいくらかは浮上する。夫妻は連日のように一緒にパチンコ店に通っていたのだが、同じ常連客からは「2人の周りにはみすぼらしい格好をした“取り巻き”が何人もいた」との証言も。さらに、ある関係者も「人付き合いの少ない瀬田さんにとって、唯一心を開いていたのが“取り巻き連中”だったのかも」と語る。つまり、ビジネスとして近付いてくる人間より、だらしがなくても酒や食事を奢られて喜ぶ取り巻きのほうが、人間味が感じられたのではないか、というのだ。確かに、そういった人間であれば、用心深い瀬田さんの自宅にも容易に入れたのかも知れない。しかし、事件と彼らの関係は、今も明らかにはされていない。 2010年10月、事件は突如として動き出す。「瀬田さん夫妻殺害の協力を依頼された」という男が、警視庁に上申書を提出したのだ。そこには、犯人が中国出身のリーダーの男、同じく日本に帰化した男、そのほか日本国籍の暴力団員で構成された十数人の日中混成強盗団であると書かれていた。強盗団内部での内輪揉めを解決するため、多額の金が必要となったメンバーが中心となり、事前調査で資産家と判明した瀬田さん夫妻を襲ったというのである。さらには、事件の直前、リーダー格の中国人男性から、「『資産家の夫婦の寝込みを襲う。数千万円が手に入る』と聞かされた」という衝撃的な内容が記されている。尚、この強盗団のメンバーの一部は、別の強盗事件ですでに逮捕されているが、この殺害事件への関与はいまだに明らかにされていない。つまり、その上申書自体の信憑性も不明という判断である。 被害者の成仏のためにも、そして、安心して暮らすことができる市民社会の秩序回復のためにも、事件解決は警察の急務である。真犯人(たち)は、今も次なる標的を狙っているかもしれない。 (取材・文=神尾啓子) <事件の情報> 名前:瀬田英一さん(当時74歳) 瀬田千枝子さん(当時69歳) 発生場所:東京都板橋区弥生町79番所在の一戸建て住宅内 <連絡先> 「板橋区弥生町所在の住宅内殺人及び放火事件」特別捜査本部 TEL.03-5272-0110(板橋警察署 特別捜査本部/直通) TEL.03-3581-4321(警視庁/内線7863-6501・6502) ◆「日本"未解決事件"犯罪ファイル」過去記事はこちらから警視庁HPより
昼と夜、“2つの顔”を持つエリートOL 彼女を襲った魔の手が生み出した“2つの悲劇”真犯人の手がかりは?

『東電OL殺人事件』(新潮文庫)
何かが狂ってしまった現代社会。毎日のようにニュースに流れる凶悪事件は尽きることを知らない。そして、いつしか人々はすべてを忘れ去り、同じ過ちを繰り返してゆく......。数多くある事件のなかでも、未だ犯人・被疑者の捕まっていない"未解決事件"を追う犯罪糾弾コラム。
第21回
渋谷・東電OL殺害事件
(1997年3月)
東京都渋谷区円山町。ラブホテル街としても知られるこの地域は、喧騒に満ちた渋谷・道玄坂にほど近い、都内屈指の高級住宅地である松濤の南側に近接している。
1997年3月9日、渋谷という土地の持つ両面の狭間とも言うべきこの街で、惨劇が起きた。とあるアパートの空室で、女性の遺体が発見されたのだ。死後10日ほどたった遺体の首には絞められた跡があり、警察は他殺と判断した。
この事件が世間の耳目を集めることになったのは、殺害された女性の華麗な経歴と、昼と夜のまったく異なる“2つの顔”にマスコミが食いついたからである。被害者の女性は、東京電力に勤務する渡邉泰子さん(39)。彼女は、これぞエリートといえる華々しい経歴の持ち主である。慶應義塾女子高校を経て慶應義塾大学経済学部を卒業し、東京電力に入社。彼女の父親も東京電力の社員だった。彼女自身、同社初の総合職に就いた女性社員であり、エコノミストとして発表した経済論文で賞を授かったほどの才媛である。しかし、彼女には驚くべき夜の顔があった。
東電本社で勤務を終えると、彼女は決まってSHIBUYA109のトイレで着替えをした。そして、夜の円山町に赴いて街娼として客を引き、近隣のホテルで売春を行っていたのである。ちなみに彼女は、1日に4人の客の相手をするノルマを自分に課していた。“夜の仕事”を終えると、京王井の頭線神泉駅から終電で自宅のある西永福に帰宅。さらに土日も、五反田のホテトル嬢として働いていたという。捜査資料によれば、泰子さんが売春を始めたのは殺害される数年前。東電という大企業の社員であり、管理職にも就いていた彼女が金銭的に困窮していたというのは考えづらい。実際、借金の記録なども残されていない。この世を去ることになった彼女が売春に走った理由は現在も謎に包まれたままだが、このようなスキャンダラスな背景が明るみになり、事件は世間の大きな注目を集めた。
この事件は、泰子さんの死のほかに、“冤罪”というもう1つの悲劇も生み出した。遺体発見から2カ月がたった97年5月20日、警視庁は不法滞在中のネパール人男性、ゴビンダ・プラサド・マイナリさんを強盗殺人容疑で逮捕。ゴビンダさんは、同じく不法滞在していたネパール人4人と殺害現場の隣のアパートに住んでいて、泰子さんが売春した相手の1人でもあった。これで事件は解決に向かうかと思われたが、犯人を特定する証拠を著しく欠いたため、取り調べは難航。不特定多数の人間が出入りする街、泰子さんの謎に包まれた行動とプライベートの交友関係の不透明さ、そしてゴビンダさんという“格好の容疑者”の存在が、真犯人到達への道を一層険しくした。
事件が発生した日、泰子さんの身に一体何が起こったのだろうか。同日、泰子さんはいつものように客を引き、19時13分に円山町のホテルに入り、22時16分にはチェックアウトしている。その後、円山町の複数の場所で目撃され、23時45分に彼女と男性が話をしているところを見たという証言もある。これが目撃された彼女の最後の姿ということになるが、この男性が誰だったのかは、現在もわかっていない。
2000年の第一審では、殺害現場に別の人物の体毛が残されていたことなどから証拠不十分となり、ゴビンダさんは無罪判決を受ける。しかし、同じ現場に残されたコンドームに彼のものと思われる精液と体毛が付着していたことに加え、事件発生前に彼が所持していた以上の額のお金を事件後に知人に渡していたことなどから、同年の控訴審では一転して無期懲役の有罪判決が下った。このとき、ゴビンダさんは法廷で「神様、僕はやっていない」と叫んだ。
月日は流れ、11年。弁護側の要請により、殺害現場で採取された物証のうち、今までDNA鑑定が行われていなかったものの鑑定を東京高等検察庁が実施。その結果、泰子さんの遺体に残された精液は、ゴビンダさんのものではなく、現場に残された別の人間の体毛と一致することが判明したのだ。12年6月7日。東京高裁は事件の再審開始を認めるとともに、ゴビンダさんの刑の執行を停止する決定を通達。同日、ゴビンダさんは15年ぶりに自由の身となった。
では、泰子さんの命を奪い、ゴビンダさんの人生を大きく狂わせたのは誰なのか。振り出しに戻ったこの事件だが、真犯人の足取りに結びつく可能性のあるものが1つある。それは、殺害された泰子さんの定期券である。事件判明から数日後、豊島区巣鴨にある民家の敷地に、彼女の定期券が投げ捨てられていたのである。このことから、真犯人は近隣地域に土地勘のある人物ではないかと捜査関係者の間で語られている。
筆者は、この事件が発生当初から取材を続けているジャーナリストから、とても興味深い情報を入手した。かつて、円山町の居酒屋に“巣鴨に住んでいる男”が頻繁に出入りしていて、殺害された泰子さんと金銭トラブルを起こしていたというのだ。その男が真犯人であるのか否か、現時点では不明だが、「なんらかの事情を知っている可能性はあるかもしれない」とジャーナリスト氏は話す。ちなみに、事件発生以降、その男は円山町に現れなくなったという。
人間と街の持つさまざまな顔、表と裏が交錯するこの事件。被害者の鎮魂、そしてゴビンダさんの名誉回復のためにも、再捜査の進展を祈るばかりである。
(取材・文=神尾啓子)
◆「日本"未解決事件"犯罪ファイル」過去記事はこちらから
「ハワイ旅行に当選!」──実はウイルスに感染! 巧妙化する拡散手口に被害者が続出中

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複数の誤認逮捕につながった遠隔操作ウイルス事件、これと同様のウイルスに感染させる新たな手口が分かった。都内ネットセキュリティ会社の対策研究メンバーである樋口順英氏が「賞品がもらえるモニター募集のニセメールによる感染が見つかった」と、近く警視庁にも情報提供するという。
その手口は、唐突に届く“当選メール”だ。
「トヨタ プリウス、JTBハワイ旅行など豪華賞品に当選しました!」
こんな見出しのメール、その内容は当選した賞品を受け取る条件として「弊社の開発したツールバーを最低1カ月間、無料体験すること」とソフトをダウンロードするURLが掲載されたものだ。現在はすでにそのURLをクリックしてもエラー画面になってしまうが、被害者によると、メール受信直後にはソフトをダウンロードする画面があったという。
これは、ダウンロードするとパソコンを外部から遠隔操作できるプログラムを取り込んでしまうもので、当然、今回起こっているような、なりすましによる掲示板への投稿なども可能になるという。
「ただ、世間を騒がせている事件のものよりはソフトの出来が悪く、パソコンの動作が重く感じられるので異変には気付きやすい」と樋口氏。
「分かっているだけでも昨年11月から今年2月まで、この手口で4名のユーザーのPCへの感染が見つかりました。ただ、動作が重くなるだけでなく、ダウンロードしても画面にツールバーが実際に表示もされず、その4名は不審に思ってそれぞれ電器店やウイルスソフトの会社などに相談し、被害を出すことなく対処できています。でも、ほかで被害が出ている可能性があるので無視はできません」(同)
メールには当選者100名として、その中から「トヨタ プリウス」「JTBハワイ旅行・ペア5泊6日の旅」「ソニー46型液晶テレビ」「東芝ノートパソコン」「任天堂Wii&ソフト1本」「東京ディズニーリゾート・パークチケット(ペア)」の当選者が3名ずつ抽選で決まり、ほかは「3千円分の商品券」がもらえると書かれている。
しかし、メールやダウンロード画面に書かれていた運営会社の「株式会社EGC」は、樋口氏の調べによると該当する会社が存在せず、記載の都内住所も無関係なテナントビルのものだったという。
「4名に送信されたメールアドレスは、ドメインもwiughsk.com、iirutgi.com、yhjahu.com、dwiedapaqs.comとバラバラで巧妙に身元を隠していると思いますが、ランダムなアルファベットの印象は同じなので、似たようなメールを受信した人はくれぐれも注意してほしいです」(樋口氏)
ちなみにソフトをダウンロードした4名のうちひとりは現職の若い警察官、それも署から借りているノートパソコンにダウンロードしてしまったものだという。
(文=鈴木雅久)
「ニセ高岡早紀に、ニセ高田純次も……」芸能界にも遠隔操作“成りすまし”ウイルス被害が続出中

イメージ画像(「Thinkstock」より)
TBSに犯行声明が届いたことで発覚した遠隔操作ウイルス事件が世間を騒がせているが、似たような犯行が芸能界でもあったことが分かっている。
警視庁の捜査関係者によると「今回、誤認逮捕などが分かったのは同じ犯人によるつながりだけですが、似たような犯行をしていた別の犯人が複数、浮上している。つまり、冤罪事件は現在分かっているものだけでなく、倍増する可能性が出てきた」としているが、そのひとつが今春、芸能界で起こっていたものだ。
4月、一部の週刊誌や実話誌宛テに、女優の高岡早紀を名乗るメールがあり「インタビュー取材を受ける」との内容に釣られた記者が指定の場所に向かったところ、そこは都内のゴミ屋敷だった。
「ひどいイタズラだった」と当時を振り返るのは、騙された実話誌の記者、小林俊之氏だ。
「僕はすぐ帰りましたが、同じように呼び出された週刊誌の記者は、その足で警察に威力業務妨害として被害届を提出したそうです。後日、メールアドレスの送信元を示すIPアドレスから、神奈川県に住む会社員男性Aさんのものと判明したんですが、警察が任意の事情聴取を繰り返した際、“認めてくれたら上申書で罪を軽くできる”などと言ったことが問題となって、起訴はされなかったとか」(小林氏)
この警察の対応に怒った週刊誌記者が独自にAさんと接触したところ、犯行を否認されたため、話のウラをとった。するとAさんにはアリバイがあり、しかも、ひとり暮らしでほかにAさんのパソコンを利用できる人物がいないことが判明。さらにパソコンを専門業者に調べてもらったところ、遠隔操作のできるウイルスに感染していることが分かったという。
「今回、再び調べたら、世間を騒がせているものとは手口が別であることが分かって、同じような犯行をする者がほかにもいることが分かったんです」(同)
また、後日、ニセ高田純次のメールも出回っていたことが判明。こちらは銀座の飲食店に予約を入れるイタズラで、これもまたウイルス経由の遠隔操作の可能性が高いという。
「高田さん本人は“今年になって銀座は2回しか行ってないのに、おかげで常連のようになってしまった”と笑っていたそうですが、もし大事な仕事に被害があったりすれば笑い事ではなくなりますよ」(同)
警視庁ではIPアドレスから犯人を特定した場合、ウイルス感染の検査やメール送信時のアリバイ確認をするべきだが「パソコンに詳しくない刑事だとそういった作業を省いてしまうことが多い。今後も類似犯が続出するのが怖い」と前出捜査関係者。まだまだこの問題は収まりそうにない。
(文=鈴木雅久)
突如、謎の死を遂げた「現代のマザーテレサ」その背景に、"貧困ビジネス"の暗部が……!?
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●バックナンバー 【第19回】西新宿・早朝の凶行 芸能界に太いパイプを持つ被害者が襲撃された現場と背景ーー 【第18回】学校からの帰り道、狂気の刃物男とのすれ違いが青年の夢を絶った...... 【第17回】10年前、白昼の繁華街で消えた"美人"女子高生 背景に複数の「疑問点」が浮上......!! 【第16回】飲みかけのココアを残し、消えた少女......奇妙な「怪文書」が示唆する事件の真相とは!? 【第15回】 胸と内臓を刃物でえぐり取られ......切断された島根の女子大生殺害事件から1年 【第14回】 "栃木女児殺害事件"発生から5年 7歳少女の顔を執拗に殴打し、胸を12度も刺した犯人の残忍性 【第13回】 15歳ハーフ美少女が夏祭りの夜に失踪 3日後、見知らぬ町で変わり果てた姿に...... 【第12回】 "白昼の惨殺劇"母親が刺殺される一部始終をトイレの中で聞いていた娘...... 【第11回】 全裸発見の茨城大女子学生絞殺遺体 遺留品から検出の"男性2人分のDNA"の謎 【第10回】 愛知・蟹江町の"眼球破裂"通り魔事件 昨年5月「母子3人殺傷事件」と同一犯か!? 【第9回】「逮捕で迷宮入り!? "時効延長"直前に起きた「愛知母子4人殺害・放火事件」 【第8回】「上智大生殺人放火事件」時効まで残りわずか! 昨年10月の「千葉大生殺害放火事件」との関連は!? 【第7回】全国有数の"失踪事件"多発地域で女性記者が姿を消してから11年 【第6回】見知らぬ男が家に侵入して17歳長女を刺殺 顔を見られた犯人は妹と祖母を追い回し...... 【第5回】被害者とその親友──2人の"佐藤梢"と消えた男のリアル・ミステリー 【第4回】 ストーカー行為を働いた挙げ句にターゲット女性の家族を惨殺して逃亡 【第3回】 事態急転!「リンゼイさん殺害事件」市橋達也整形術前後の写真入手で逮捕秒読み!? 【第2回】大量の遺留品が招いた初動捜査の混乱 果たしてDNAに人格は認められるか? 【第1回】「おい、小池!」で日本中に知られた男は本当に名前を呼ばれる日を待ち続けている

何かが狂ってしまった現代社会。毎日のようにニュースに流れる凶悪事件は尽きることを知らない。そして、いつしか人々はすべてを忘れ去り、同じ過ちを繰り返してゆく......。数多くある事件のなかでも、未だ犯人・被疑者の捕まっていない"未解決事件"を追う犯罪糾弾コラム。
第20回
大阪西成・女医不審死事件
(2009年11月)
大阪市西成区萩之茶屋。かつては「釜ヶ崎」の地名で知られ、現在は「あいりん地区」と呼ばれる日雇い労働者の街である。多くの労働者が簡易宿泊所で暮らし、最近では住民の高齢化による孤独死や、生活保護の急増が問題となっている。路上生活者も多く存在し、半径300メートルの狭い地域に3万人もの人々がひしめき合いながら暮らしているという。
2009年11月16日午前1時20分。西成を流れる木津川の千本松渡船場で、女性の遺体が釣り人によって発見された。女性の名は矢島祥子さん。群馬県で生まれ、群馬大学医学部卒業後に医師となった祥子さんは、2002年頃からあいりん地区でのボランティアに参加し、亡くなる2年前からは西成の診療所に医師として勤務していた。自身の生活を切り詰め、医師としての給料をボランティアに費やしていた祥子さんの献身的な活動は、地元でもよく知られていた。身寄りのない高齢の労働者からも「さっちゃん先生」と慕われていたという。周囲の人たちは、次第に彼女を「現代のマザーテレサ」と呼ぶようになった。
そんな彼女が、どうして悲劇に巻き込まれなければならなかったのだろうか? 11月14日の早朝、彼女はカルテ整理の仕事で、前日から診療所で残業をしていた。カードキーの記録によると、祥子さんが診療所を退出したのは午前4時15分。そして、そのわずか1分後に診療所の警報システムが作動する。すぐに警備員が駆けつけたものの、不審な痕跡はなく「異常なし」と判断された。そして、祥子さんの足取りはここで途絶えてしまう......。翌朝、彼女が出勤してこないのを心配した診療所スタッフが部屋を訪れると、玄関のドアが施錠されていない状態だったため、慌てて彼女の実家に連絡したという。しかし、やはり消息はつかめなかった。
祥子さんが消息を絶って2日後、彼女は変わり果てた姿となり、千本松渡船場で発見された。事件発生当初、警察は"自殺"と判断。しかし、診療所を退出した際の警報システムのほか、祥子さんの死には不審な点がいくつも残されていた。彼女の遺体には、首の痣や頭部の瘤が確認されているのである。そもそも人間は、絶命してから身体を打ち付けたとしても、痣や瘤などはできない。生きているときに何者かに殴打され、川に運ばれたと考えるほうが自然である。
さらに、警察が部屋を調べても、祥子さんの指紋を含め、誰の指紋も出てこなかったのだ。それどころか、埃すら残っていなかったという。これは、何者かが証拠を隠蔽するために指紋や汚れを拭きとったと考えるのが妥当ではないだろうか。そして、祥子さんの足取りが途絶えた14日の早朝は雨が降っていた。いつも自転車で通勤している祥子さんは、診療所から自宅に戻るまで、雨に濡れないようにアーケードの中を通ったはずなのである。しかし、アーケードに設置された複数台の防犯カメラには、祥子さんの姿は映っていなかったのだ。つまり、何者かが祥子さんの勤務する病院に侵入し、車で連れ去って殺害。証拠隠滅のため、もしくは何かを盗み出すために部屋にまで侵入し、痕跡を残さずに立ち去った......という線が見えてくる。こういった推理をもとに、遺族は祥子さんの死を「何者かによる他殺に違いない」と、大阪府警に訴え続けた。すると、当初は自殺と判断した警察も、遺族と生前の彼女を慕っていた知人たちの訴えを受け、捜査を再開。大勢の人の彼女への思いが、警察まで動かしたのである。
事件後、多くのメディアがこの事件を取り上げたが、その過程でカギを握るかもしれない人物が登場する。「祥子さんの元交際相手」を自称する60代の男性は、テレビ番組の取材に対し、「祥子さんの死は間違いなく自殺」と断言。「これ以上、この事件を調べるのは反対」だと語ったのだ。ちなみに、自殺であるという根拠は、遺体発見翌日に届いた、祥子さんからのハガキだという。そこには「元気で長生きして下さい」と書かれていて、それが自殺をほのめかしているという理由である。この手紙だけで自殺と判断することは荒唐無稽に思える。この男性は、祥子さんのご両親に対しても同様の旨の言葉を伝えた。このことは、愛娘の死の真相を究明すべく、懸命の活動を続けている遺族への、極めて失礼で異常な対応であると言わざるを得ない。そして、自称「元交際相手」がメディアに登場してまで取る不自然な言動は、祥子さんの死の真相について、何かを知っているのでは?......と思わざるを得ないほど異様なものである。
祥子さんは、このある種特別な地域を覆い隠す"深い闇"に飲み込まれてしまったのではないかとさえ感じてしまう。もしかしたら、ボランティア活動の過程で、覚醒剤密売や臓器売買などといった、貧困ビジネスの暗部をのぞいてしまったのではないか。そして、そのせいで彼女は命を落とす結果になってしまったのではないだろうか。そういった背景から、闇の集団の逆鱗に触れるのを恐れ、周囲の人々は口をつぐみ、彼女の自殺をアピールするのではないだろうか。
事件の真相を解明し、闇に光を当てることこそが、生前に献身的な活動を続けた彼女へのせめてもの弔いになると信じたい。
(取材・文=神尾啓子)
未解決事件ファイル 真犯人に告ぐ 告ぐ。
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