恋愛において“ナカメ作戦”は果たして有効か? 星野源主演の劇場アニメ『夜は短し歩けよ乙女』

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オモチロイことが大好きな黒髪の乙女(声:花澤香菜)は、夜の京都で様々な変人奇人たちと遭遇する。
 純愛とストーカー行為は紙一重の違いであり、相手に受け入れられれば運命の恋として成就し、拒絶されれば変質者、もしくは犯罪者の烙印を押されることになる。日夜SMプレイに励んでいた熱愛カップルの場合、どちらか一方の恋愛感情が萎えてしまうと、その途端にSMプレイは忌わしいドメスティックバイオレンスと化してしまう。この世で恋愛ほど不条理なものはない。それでも、世の多くの人たちはそんな不条理な状況に自分が陥ることを願ってやまない。森見登美彦の人気小説を湯浅政明監督が劇場アニメーション化した『夜は短し歩けよ乙女』は、思い出すだけで恥ずかしさのあまり身悶えしてしまう、一方通行な恋愛あるあるストーリーが描かれている。  舞台は森見作品でおなじみの京都。原作小説の装画にもなっている中村佑介が描いた、ちょっとレトロな雰囲気を漂わせた美少女・黒髪の乙女(声:花澤香菜)が夜の京都をずんずんと歩き通す。大学で同じサークルに所属する先輩(声:星野源)は、そんな乙女に出逢ったときから一方的に想いを寄せ、“ナカメ作戦”を実行中だ。ナカメ作戦とは「なるべく彼女の目にとまるようにする作戦」のコードネーム。木屋町で開かれた春の宴会では、ひとり夜の先斗町へと繰り出していく乙女の後を追い掛けるも、次々と邪魔が入って思うように乙女に近づけない。下鴨神社で開かれる「下鴨納涼古本まつり」に乙女が出掛けるという情報をキャッチすれば、乙女がお目当ての本に手を伸ばした瞬間に自分も手を出し、紳士的に乙女に譲るという姑息な手段を考える。さらに秋の学園祭では、野外演劇の舞台に急遽出演することになった乙女の相手役の座を狙って野獣のように目を光らせる。すべては偶然を装って、自分こそが運命の男だと乙女の潜在意識に訴え掛けるためである。そんな先輩の苦労を乙女は露知らず、「また逢いましたね」とニコッと笑って、ずんずんずんと歩き去っていく。  森見原作&湯浅監督の顔合わせは、2010年にオンエアされたTVシリーズ『四畳半神話大系』(フジテレビ系)に続いての2度目。京都市左京区ならではのロケーション、森見作品特有のシュールさ、湯浅監督の鬼才ぶりが『四畳半神話大系』では見事に融合したことから、同作のスタッフを再び召集して『夜は短し歩けよ乙女』を劇場アニメーション化することが決まった。『四畳半神話大系』の登場人物そっくりなキャラクターも現われ、『夜は短し歩けよ乙女』と『四畳半神話大系』はパラレルワールド的な関係であることを思わせる。
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先輩役は星野源。多忙だった星野だが、湯浅監督の『マインド・ゲーム』の大ファンだったことから出演を快諾。
 オモチロイことが大好きな乙女は博愛主義者であり、かつ自分のかわいさには無自覚で、グラスに注がれた酒はきれいに飲み干すという気っ風の良さを併せ持つフィクションの世界ならではの聖女的な存在なのだが、多くの男性はこーゆー女の子を見つけると夢中になってしまうもの。偶然を装うために汗みどろになって先回りしようとする先輩の姿は、誰しも心当たりがあるはず。ようやく出逢っても「やぁ、たまたま通り掛かったものだから」とひと言交わしただけで別れてしまう。延々と外堀を埋め続ける日々。大坂夏の陣はいつまで経っても始まらない。湯浅監督いわく「踏み出さなくちゃいけないのに、なかなか踏み出せない迷いは僕にもよく分かる(笑)。先輩の場合はひどくこじらせてしまっているけど、それが面白く、みんな共感する部分でしょう」とのこと。そんなこじらせた先輩役に、『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)で大ブレイクした星野源を起用。『逃げ恥』の放送前に行なわれたキャスティング会議で先輩=星野源案が異様に盛り上がり、湯浅監督が星野宛てに手紙を送ることで理想のキャスティングを実現させた。  湯浅監督にとって『夜は短し歩けよ乙女』は劇場デビュー作『マインド・ゲーム』(04)以来となる劇場公開作品。『君の名は。』(16)の新海誠監督や『サマーウォーズ』(09)の細田守監督ほどの大ヒット作は放っていないものの、アニメ好きな間では天才アニメーターとして絶賛されている。『マインド・ゲーム』での性交渉時の絶頂シーン、脚本&絵コンテ&演出を担当した『ねこぢる草』(01)での臨死体験シーンなど、アニメーションでしか表現できない世界を描かせると他の追随を許さない異能ぶりを発揮する。『ちびまる子ちゃん わたしの好きな歌』(92)の音楽パートの作画・演出を手掛けたことでも知られており、『夜は短し歩けよ乙女』でも学園祭シーンは原作では単に野外演劇だったのをミュージカルに仕立て、星野源に加え、歌手活動もしている花澤香菜、ミュージカル女優の新妻聖子、ロバートの秋山竜次らによる華々しいステージが繰り広げられる。音楽に合わせてキャラクターたちが歌い踊るこのシーンは、序盤の“詭弁踊り”と同様に観る者に心地よい陶酔感をもたらせてくれる。2018年に配信予定の完全版デビルマン『DEVILMAN crybaby』も話題の湯浅監督だが、5月19日(金)には劇場用オリジナルアニメ『夜明け告げるルーのうた』も公開待機中で、こちらはミュージカルパートがよりふんだんに盛り込まれ、湯浅監督の天才アニメーターぶりを存分に味わうことができる。
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下鴨神社糺の森で開かれる古本市。乙女は思い出の絵本『ラ・タ・タ・タム』を求めて、活字の海を泳ぐ。
 原作のテーマ性をうまく際立たせた形で劇場アニメーションにまとめ上げた湯浅監督と『四畳半神話大系』に続いての参加となった脚本家・上田誠(劇団『ヨーロッパ企画』主宰者)のアレンジ力もお見事。納涼古本まつりで古本市の神さまだと自称する少年(声:吉野裕行)は、先輩が気にしていたシャーロック・ホームズ全集を起点に、コナン・ドイル→ジュール・ベルヌ→アレクサンドル・デュマ→黒岩涙香→山田風太郎→横溝正史……と古本市に並ぶ本はすべて平等で、自在に繋がっていると説く。活字の世界はひとつの海であり、人間はその海で暮らすお魚みたいなものらしい。やがて京都に寒い冬が訪れる。『四畳半神話大系』の主人公だった“私”がひとりぼっちの四畳半でコドクの無限ループに迷い込んだように、我々の分身でもある『夜は短し歩けよ乙女』の先輩もまた重い風邪を患い、夜の四畳半部屋でコドクさを噛み締めることになる。春から延々と続けてきたナカメ作戦は、やはりまったくの徒労だったのか?  世の不条理さを呪う先輩だったが、不条理な世の中ゆえに想像もしなかった不思議なクライマックスが訪れる。フィクションならではのご都合主義と笑うなかれ。活字の世界だけでなく、どうやら人間の世界も有機的にひとつに繋がっているらしい。良くも悪くも、ナカメ作戦は100%の無駄ではなかったということ。先輩の上に重くのしかかっていたコドク感は、一杯の温かいたまご酒によってホロホロと溶きほぐされていく。長い長い夜がようやく明けようとしていた。 (文=長野辰次)
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『夜は短し歩けよ乙女』 原作/森見登美彦 脚本/上田誠(ヨーロッパ企画) キャラクター原案/中村佑介 監督/湯浅政明 声の出演/星野源、花澤香菜、神谷浩史、秋山竜次、中井和哉、甲斐田裕子、吉野裕行、新妻聖子、諏訪部順一、悠木碧、檜山修之、山路和弘、麦人 配給/東宝映像事業部 4月7日(金)より全国公開 (c)森見登美彦・KADOKAWA/ナカメの会 http://kurokaminootome.com
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『夜明け告げるルーのうた』 監督/湯浅政明 脚本/吉田玲子、湯浅政明 主題歌/「歌うたいのバラッド」斉藤和義 声の出演/谷花音、下田翔大、篠原新一、柄本明、斉藤壮馬、寿美菜子、大悟、ノブ 配給/東宝映像事業部 5月19日(金)より全国ロードショー (c)2017ルー製作委員会 http://lunouta.com
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『DEVILMAN crybaby』 原作/永井豪 音楽/牛尾憲輔(agraph) 監督/湯浅政明  2018年初春にNetflixにて配信 (c)Go Nagai Devilman Crybaby Project

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『相棒』ドラマ版は視聴率低迷も、劇場版のヒットで反町隆史のクビつながる!?

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『相棒-劇場版IV-首都クライシス 人質は50万人!特命係 最後の決断』公式サイトより
 テレビ朝日系の鉄板ドラマ『相棒season15』の最終回が3月22日、2時間スペシャルで放送され、平均視聴率は16.2%(ビデオリサーチ調べ、関東地区/以下同)だった。 『season7』から『season13』まで、『相棒』最終回の視聴率は20%前後を記録していただけに、『season14』同様、なんとも物足りない数字に終わった。回想シーンで、芸能界を引退した“3代目相棒”甲斐享(成宮寛貴)が登場するサプライズもあったが、それも視聴率には結びつかなかったようだ。  全話平均は15.2%で、『season14』の15.3%を下回り、国民的ドラマとして認知され始めた『season5』以降では、ワースト視聴率になってしまった。 『season14』から登場している“4代目相棒”冠城亘(反町隆史)には早くから降板説が飛び交っているが、ここにきて、やや風向きが変わったともいわれている。  というのは、2月11日に公開された映画『相棒-劇場版IV-首都クライシス 人質は50万人!特命係 最後の決断』が予想外のヒットとなったからだ。 『相棒-劇場版』は『I』(08年)こそヒットしたものの、『II』(10年)、『III』(14年)は惨敗した。ところが、『IV』が思わぬ好成績を収め、それにつられる形でドラマの視聴率も上昇。『season15』は12~14%台を連発していたが、第15話(2月15日放送)以降、4週連続で15%超えを達成した。 「主演の水谷豊は、『season14』以降、視聴率がグッと下がったのをひどく気にしています。『劇場版IV』が爆死していたら、反町のクビは免れなかったでしょう。ただ、映画がヒットし、ドラマの視聴率も上昇したことで、“反町留任”の目を残したといえそうです」(テレビ誌関係者)  最終回では反町が卒業するようなシーンは描かれなかったが、絶対的な権力を持つ水谷が今後どう判断を下すのか、注目されるところだ。 (文=田中七男)

現代の「トキワ荘」はユートピアか無間地獄か!? 創作の苦しみを描く守屋文雄初監督作『まんが島』

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漫画家たちの無人島でのサバイバル生活を描いた『まんが島』。トキワ荘のようなユートピアかと思いきや……。
 人気コミックを原作にした映画『バクマン。』(15)は“友情・努力・勝利”という売れる漫画三大要素をフル活用した内容で観客の感動を誘い、17.8億円のスマッシュヒットを記録した。連載誌の読者アンケート1位の座をめぐり、漫画家たちがしのぎを削る漫画業界の内情をドラマチックに描いた『バクマン。』だが、普段からガロ系の漫画などを読み親しんでいる人はこう思ったに違いない。「いや、少年ジャンプだけが漫画じゃないから」と。そんなあなたに薦めたいのが、守屋文雄監督の監督デビュー作『まんが島』だ。家賃、光熱費、電話代を気にせずにいられる絶海の孤島で暮らす売れない漫画家たちが、まだ誰も読んだことのないオリジナルな漫画を生み出そうと苦悶する姿が107分間にわたって描かれる。  漫画家役を演じているのは、4月からテレビ東京系で深夜ドラマ化される『SRサイタマノラッパー』(09)のTOM役で知られる水澤紳吾、白石晃士監督の傑作ホラーコメディ『オカルト』(08)などで怪優ぶりを見せている宇野祥平、劇団「動物電気」を主宰する政岡泰志ら主にインディーズシーンで頑張っている人たちだ。本作のメインキャストのひとりであり、プロデューサーも兼ねているのが守屋監督。日本大学芸術学部映画学科卒業生で、沖田修一監督の『キツツキと雨』(12)や熊切和嘉監督の『ディアスポリス DIRTY YELLOW BOYS』(16)などの脚本家であり、いまおかしんじ監督のピンク映画にもちょくちょく役者として出演している。大学で同期だった沖田監督は『南極料理人』(09)や『横道世之介』(13)が絶賛され、今やすっかり売れっ子監督。大学の2学年後輩となる入江悠監督も『SRサイタマノラッパー』で一躍ブレイク。自主映画時代の仲間たちが華々しくスポットライトを浴びる姿を見守ってきた守屋監督だったが、40歳となってようやく監督デビューを果たしたのが『まんが島』である。  本作に主演している水澤紳吾は、仙台出身の守屋監督とは小学校時代からの幼なじみ。当時は藤子不二雄、ゆでたまごといったコンビの漫画家が大活躍していたことから、「2人でプロの漫画家を目指そう」と誓い合い、合作漫画の執筆に励んだ。とはいえ子どもは熱が冷めるのも早い。2人で漫画家になる夢は1~2年で頓挫したが、その後も友情だけは続く。沖田監督や入江監督へのライバル心をむき出しにすることのない守屋監督に対し、「いつになったら自分の映画を撮るんだよ」と水澤は酒の席でせっつき続けた。インディーズ映画界、ちょっといい話。 『まんが島』の中で水澤と守屋は藤子不二雄を思わせる漫画家コンビを演じているのだが、本作が「トキワ荘」伝説のような貧しくも美しい友情の物語なのかと言えば、まるで違う。無人島で暮らす漫画家たちはそれぞれがオリジナルな漫画を目指すも、うまくペン入れが進まず発狂寸前。お互いに励まし合う余裕はもはやなく、ネタの盗用や食べ物をめぐってドロドロの争いが繰り広げられていく。漫画家たちは自分が描く漫画の世界のみに没頭しすぎ、現実と虚構のボーダーさえも島ではあやふやになっていく。島の浜辺には「マンガ家以外の立入を禁じる」と立て札が掲げられ、まさに一般人がうかつに足を踏み入れると非常にヤバい映画なのだ。
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この人が守屋文雄監督。「脚本段階からお客さんのことは考えず、島で暮らす漫画家たちのことしか考えなかった」と語る。
 構想10年の末に初監督作を完成させた守屋監督に、製作内情について1時間ほど話を聞いた。 守屋文雄「日大芸術学部では沖ちゃん(沖田監督)と同年卒業でしたが、彼は一留して、僕は二浪しているから、同期生とは微妙に異なるんです(笑)。『鍋と友達』(02)などの彼の自主映画に、僕は演者として気楽に参加してきましたが、彼は短編を着実に撮り続け、初めての商業映画『南極料理人』で脚光を浴びることになった。今から僕が懸命に走っても一生追いつけません。入江くんも大学の後輩ですが、彼にももう追いつけない(苦笑)。彼らの作品を観た直後には『よし、見てろよ!』とは思うんですが、自分はその気持ちを抱えたままでは、仕事である脚本が書けないんです。自分を空っぽにしないと書けない。『まんが島』のアイデアは30歳ぐらいからあったものです。一緒にふたり芝居をやっていたこともあり、水澤に出てもらうのは決まっていて、そういえば2人で漫画家を目指していたなと、子どもの頃の思い出をもとに脚本を書き始めました。完成まで、ずいぶん時間が掛かってしまいましたね。製作費は『キツツキと雨』で脚本料をもらい、そのお金を撮影代に回したんです。沖田監督には世話になってます」  守屋演じる漫画家は島へ移住する前、アパートの家賃を滞納し続けていたことを編集者(川瀬陽太)の口から明かされる。実はこのエピソード、守屋監督自身の実体験を投影したもの。守屋監督は家賃3万8,000円の風呂なしアパートに15年ほど暮らしていたが、家賃を催促する大家さんの足音に怯えながら『まんが島』のシナリオの改稿を重ねてきた。無人島でサバイバルライフを続ける漫画家たちの鬼気迫る暮らしぶりは、守屋監督の実生活と重なり合う。 守屋「毎日が必死でした。脚本料が振り込まれると、なぜかその日に限って大家さんが家賃の取り立てに現われるんです。なぜ振込み日が分かったのか……。大家さんも必死だったんだと思います。毎日が真剣勝負でした。そのアパートは先日取り壊されたんですが、長年住んだこちらとしても思い入れが深く、記念に鍵をもらっておこうと思ったんです。でも、その鍵も大家さんに取り上げられました。何も俺に渡したくなかったんだと思います。代わりにこっそり網戸をもらってきました。次の家に無かったんで」
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売れっ子漫画家を演じるのは注目の若手女優・柳英里紗。「冨永昌敬監督の『ローリング』(15)より先にオファーしました」(守屋監督)。
 映画の本題からずいぶん脱線してしまったが、本作の主人公たちが誰にもマネできない唯一無二の漫画の執筆に情熱を注いだように、守屋監督の『まんが島』もクリエイターの狂気に満ちた、誰も観たことのない超個性的な作品として誕生した。 守屋「自分の次を考えたとき、いわゆる名刺になるような作品をつくるべきだというのは分かるんです。でも周りから何周も遅れて、それでも重い腰を上げようとしたときに、『こんなにいっぱい映画があるのに、なんでわざわざ自分が映画をつくるんだろう』と人並みに考えて。そうしたら『名刺になるかも』なんて思ったものに、人を巻き込むことは出来なくて、見たことがないもの、自分が本当に見たいものを撮るしかなかった。あんなメチャクチャに見える台本に、キャスト・スタッフの誰からも質問がなかったのは、その気持ちに賛同してくれたのかなと今になって思います。こんなに好き勝手な映画をつくって、何言ってんだって言われるかも知れないけど、好き勝手やったんじゃないんです。脚本の初稿は連載を勝ち取るという結末だったのが、頭を空っぽにして『まんが島』という作品の要求を聞いていたら、いつの間にか今の結末に変わっていた。どんどんプリミティブに、ものづくりの起源みたいなものに迫っていく他ないんです、あの島に入ったら。やあ、とんでもない島ですよ、あそこは。それは当然、撮影・編集・音仕上げのプロセスにも反映されています。だから映画が始まったら、ただ画を見て、音を聞いて欲しい。そうやって映画の動きに身を委ねてくれたお客さんの中で起こる、見たこともない何かのためにつくった映画ですから」  人気アンケートや世間の流行を気にせず、自分にしか生み出せないオリジナルの世界を追求する覚悟がある者だけが辿り着くことができる幻の島・まんが島。あなたは現代社会に残された秘境・まんが島に足を踏み入れる勇気があるだろうか? (取材・文=長野辰次)
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『まんが島』 監督・脚本・編集・制作/守屋文雄 出演/水澤紳吾、守屋文雄、松浦祐也、宇野祥平、政岡泰志、川瀬陽太、柳英里紗、笠木泉、森下くるみ、河原健二、長平、邦城龍明  配給/インターフィルム 3月25日(土)より新宿K’s cinemaほか全国順次公開 (c)2017守屋文雄 http://manga-jima.com

現代の「トキワ荘」はユートピアか無間地獄か!? 創作の苦しみを描く守屋文雄初監督作『まんが島』

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漫画家たちの無人島でのサバイバル生活を描いた『まんが島』。トキワ荘のようなユートピアかと思いきや……。
 人気コミックを原作にした映画『バクマン。』(15)は“友情・努力・勝利”という売れる漫画三大要素をフル活用した内容で観客の感動を誘い、17.8億円のスマッシュヒットを記録した。連載誌の読者アンケート1位の座をめぐり、漫画家たちがしのぎを削る漫画業界の内情をドラマチックに描いた『バクマン。』だが、普段からガロ系の漫画などを読み親しんでいる人はこう思ったに違いない。「いや、少年ジャンプだけが漫画じゃないから」と。そんなあなたに薦めたいのが、守屋文雄監督の監督デビュー作『まんが島』だ。家賃、光熱費、電話代を気にせずにいられる絶海の孤島で暮らす売れない漫画家たちが、まだ誰も読んだことのないオリジナルな漫画を生み出そうと苦悶する姿が107分間にわたって描かれる。  漫画家役を演じているのは、4月からテレビ東京系で深夜ドラマ化される『SRサイタマノラッパー』(09)のTOM役で知られる水澤紳吾、白石晃士監督の傑作ホラーコメディ『オカルト』(08)などで怪優ぶりを見せている宇野祥平、劇団「動物電気」を主宰する政岡泰志ら主にインディーズシーンで頑張っている人たちだ。本作のメインキャストのひとりであり、プロデューサーも兼ねているのが守屋監督。日本大学芸術学部映画学科卒業生で、沖田修一監督の『キツツキと雨』(12)や熊切和嘉監督の『ディアスポリス DIRTY YELLOW BOYS』(16)などの脚本家であり、いまおかしんじ監督のピンク映画にもちょくちょく役者として出演している。大学で同期だった沖田監督は『南極料理人』(09)や『横道世之介』(13)が絶賛され、今やすっかり売れっ子監督。大学の2学年後輩となる入江悠監督も『SRサイタマノラッパー』で一躍ブレイク。自主映画時代の仲間たちが華々しくスポットライトを浴びる姿を見守ってきた守屋監督だったが、40歳となってようやく監督デビューを果たしたのが『まんが島』である。  本作に主演している水澤紳吾は、仙台出身の守屋監督とは小学校時代からの幼なじみ。当時は藤子不二雄、ゆでたまごといったコンビの漫画家が大活躍していたことから、「2人でプロの漫画家を目指そう」と誓い合い、合作漫画の執筆に励んだ。とはいえ子どもは熱が冷めるのも早い。2人で漫画家になる夢は1~2年で頓挫したが、その後も友情だけは続く。沖田監督や入江監督へのライバル心をむき出しにすることのない守屋監督に対し、「いつになったら自分の映画を撮るんだよ」と水澤は酒の席でせっつき続けた。インディーズ映画界、ちょっといい話。 『まんが島』の中で水澤と守屋は藤子不二雄を思わせる漫画家コンビを演じているのだが、本作が「トキワ荘」伝説のような貧しくも美しい友情の物語なのかと言えば、まるで違う。無人島で暮らす漫画家たちはそれぞれがオリジナルな漫画を目指すも、うまくペン入れが進まず発狂寸前。お互いに励まし合う余裕はもはやなく、ネタの盗用や食べ物をめぐってドロドロの争いが繰り広げられていく。漫画家たちは自分が描く漫画の世界のみに没頭しすぎ、現実と虚構のボーダーさえも島ではあやふやになっていく。島の浜辺には「マンガ家以外の立入を禁じる」と立て札が掲げられ、まさに一般人がうかつに足を踏み入れると非常にヤバい映画なのだ。
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この人が守屋文雄監督。「脚本段階からお客さんのことは考えず、島で暮らす漫画家たちのことしか考えなかった」と語る。
 構想10年の末に初監督作を完成させた守屋監督に、製作内情について1時間ほど話を聞いた。 守屋文雄「日大芸術学部では沖ちゃん(沖田監督)と同年卒業でしたが、彼は一留して、僕は二浪しているから、同期生とは微妙に異なるんです(笑)。『鍋と友達』(02)などの彼の自主映画に、僕は演者として気楽に参加してきましたが、彼は短編を着実に撮り続け、初めての商業映画『南極料理人』で脚光を浴びることになった。今から僕が懸命に走っても一生追いつけません。入江くんも大学の後輩ですが、彼にももう追いつけない(苦笑)。彼らの作品を観た直後には『よし、見てろよ!』とは思うんですが、自分はその気持ちを抱えたままでは、仕事である脚本が書けないんです。自分を空っぽにしないと書けない。『まんが島』のアイデアは30歳ぐらいからあったものです。一緒にふたり芝居をやっていたこともあり、水澤に出てもらうのは決まっていて、そういえば2人で漫画家を目指していたなと、子どもの頃の思い出をもとに脚本を書き始めました。完成まで、ずいぶん時間が掛かってしまいましたね。製作費は『キツツキと雨』で脚本料をもらい、そのお金を撮影代に回したんです。沖田監督には世話になってます」  守屋演じる漫画家は島へ移住する前、アパートの家賃を滞納し続けていたことを編集者(川瀬陽太)の口から明かされる。実はこのエピソード、守屋監督自身の実体験を投影したもの。守屋監督は家賃3万8,000円の風呂なしアパートに15年ほど暮らしていたが、家賃を催促する大家さんの足音に怯えながら『まんが島』のシナリオの改稿を重ねてきた。無人島でサバイバルライフを続ける漫画家たちの鬼気迫る暮らしぶりは、守屋監督の実生活と重なり合う。 守屋「毎日が必死でした。脚本料が振り込まれると、なぜかその日に限って大家さんが家賃の取り立てに現われるんです。なぜ振込み日が分かったのか……。大家さんも必死だったんだと思います。毎日が真剣勝負でした。そのアパートは先日取り壊されたんですが、長年住んだこちらとしても思い入れが深く、記念に鍵をもらっておこうと思ったんです。でも、その鍵も大家さんに取り上げられました。何も俺に渡したくなかったんだと思います。代わりにこっそり網戸をもらってきました。次の家に無かったんで」
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売れっ子漫画家を演じるのは注目の若手女優・柳英里紗。「冨永昌敬監督の『ローリング』(15)より先にオファーしました」(守屋監督)。
 映画の本題からずいぶん脱線してしまったが、本作の主人公たちが誰にもマネできない唯一無二の漫画の執筆に情熱を注いだように、守屋監督の『まんが島』もクリエイターの狂気に満ちた、誰も観たことのない超個性的な作品として誕生した。 守屋「自分の次を考えたとき、いわゆる名刺になるような作品をつくるべきだというのは分かるんです。でも周りから何周も遅れて、それでも重い腰を上げようとしたときに、『こんなにいっぱい映画があるのに、なんでわざわざ自分が映画をつくるんだろう』と人並みに考えて。そうしたら『名刺になるかも』なんて思ったものに、人を巻き込むことは出来なくて、見たことがないもの、自分が本当に見たいものを撮るしかなかった。あんなメチャクチャに見える台本に、キャスト・スタッフの誰からも質問がなかったのは、その気持ちに賛同してくれたのかなと今になって思います。こんなに好き勝手な映画をつくって、何言ってんだって言われるかも知れないけど、好き勝手やったんじゃないんです。脚本の初稿は連載を勝ち取るという結末だったのが、頭を空っぽにして『まんが島』という作品の要求を聞いていたら、いつの間にか今の結末に変わっていた。どんどんプリミティブに、ものづくりの起源みたいなものに迫っていく他ないんです、あの島に入ったら。やあ、とんでもない島ですよ、あそこは。それは当然、撮影・編集・音仕上げのプロセスにも反映されています。だから映画が始まったら、ただ画を見て、音を聞いて欲しい。そうやって映画の動きに身を委ねてくれたお客さんの中で起こる、見たこともない何かのためにつくった映画ですから」  人気アンケートや世間の流行を気にせず、自分にしか生み出せないオリジナルの世界を追求する覚悟がある者だけが辿り着くことができる幻の島・まんが島。あなたは現代社会に残された秘境・まんが島に足を踏み入れる勇気があるだろうか? (取材・文=長野辰次)
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『まんが島』 監督・脚本・編集・制作/守屋文雄 出演/水澤紳吾、守屋文雄、松浦祐也、宇野祥平、政岡泰志、川瀬陽太、柳英里紗、笠木泉、森下くるみ、河原健二、長平、邦城龍明  配給/インターフィルム 3月25日(土)より新宿K’s cinemaほか全国順次公開 (c)2017守屋文雄 http://manga-jima.com

戦争が起きれば“防波堤”となるのはどこなのか? 三上智恵監督の最新ドキュメンタリー『標的の島』

戦争が起きれば防波堤となるのはどこなのか? 三上智恵監督の最新ドキュメンタリー『標的の島』の画像1
ドキュメンタリー映画『標的の島 風かたか』。自衛隊が配備されることになった宮古・石垣の現状を伝える。
 沖縄の基地問題をめぐって紛糾が続いている。中国と日本は戦争をすることが既定路線になっているかのようだ。風雲急を告げる沖縄を拠点に、三上智恵監督は地元民の視点からドキュメンタリー映画を撮り続けている。琉球朝日放送在籍時に製作した『標的の村』(12)は沖縄本島北部のやんばるの森でベトナム戦争時に米軍が訓練の一環として化学兵器を使用していた事実をスクープし、大反響を呼んだ。フリーとなって製作した第2弾『戦場ぬ止み』(15)では辺野古で座り込みを続ける文子おばぁたちの素顔をクローズアップし、大戦中に沖縄の人たちが味わった悲惨な記憶を現代に呼び起こした。そして第3弾となる『標的の島 風かたか』では、自衛隊によるミサイル配備が進む宮古・石垣島の切迫した状況を伝えている。元テレビ局のアナウンサーらしく、沖縄の一見すると難しそうな問題もわかりやすく紐解いてくれるのも三上監督のドキュメンタリー映画の特徴だろう。 『標的の島 風かたか』の“風(かじ)かたか”とは沖縄の言葉で風よけ・防波堤のことを意味している。本作では“3つの防波堤”が描かれる。太平洋戦争末期、沖縄では米軍との唯一の地上戦が繰り広げられ、沖縄の人たちが血を流して倒れていく間に、日本の閣僚たちは和平工作を図った。沖縄を米軍に対する防波堤にすることで、日本の本土は終戦を迎えた。日本と中国がまた戦火を交えることになれば、再び沖縄が防波堤の役目を負うことになる。これが、第1の防波堤だ。  本作を観る上で重要なキーワードとなるのが、「エアシーバトル構想」という米軍の軍事戦略。日本は中国と戦争になれば沖縄が防波堤になると思っているが、日米安全保障条約の同盟国である米国はそうは考えていない。米軍の「エアシーバトル構想」は沖縄だけでなく、日本列島も含めて防波堤にすることで中国を軍事的に封じ込めることを狙っている。日本の本土で暮らしている人々は中国と戦争が始まっても南西諸島一帯での局地戦で済むと高を括っているが、米国は日本全体が防波堤となることを前提として極東戦略を構築している。日本そのものが第2の防波堤である。石垣島と宮古島ではミサイル基地と自衛隊の配備が着々と進められているが、島を軍事要塞化することによって、敵国の標的となることは明らか。石垣や宮古で暮らす人々の逃げ場はどこにもない。
戦争が起きれば防波堤となるのはどこなのか? 三上智恵監督の最新ドキュメンタリー『標的の島』の画像2
沖縄の島々ではお祭りが盛んに行なわれ、先祖代々から伝わる精神文化が芸事と共に若い世代へと継承されていく。
 宮古島には地対艦ミサイル部隊など800人規模の自衛隊基地の建設が計画されているが、当初の予定地のひとつは島の水源地の真上だった。2016年3月、宮古・石垣の代表団が沖縄選出の5名の国会議員たちと共に、自衛隊配備の撤回を求める署名を持って東京の防衛省を訪ねた。防衛省のこのときの対応のいい加減さを、三上監督が回すカメラが映し出す。対応に当たったのは防衛省整備局防衛計画課のまだ若い班長だった。「宮古は地下水で生きている島だとご存知でしたか?」という代表団の問い掛けに対して、この班長はのらりくらりと受け答えし、やり過ごそうとする。「少なくとも基礎調査はしているので……」。では基礎調査しているのなら、なぜ島の水源地の真上に基地を設ける計画案が浮かび上がったのか。防衛省は島で暮らす人々の生活は配慮していなかったということではないか。しかも沖縄の離島から5人の国会議員を伴って上京してきたのに、まともな受け答えができない班長クラスを出してきたところにも防衛省の沖縄軽視がうかがえる。それまでやりとりを黙って見守っていた照屋寛徳衆議院議員の怒りが爆発する。「あんたはまったく誠意がない。去る大戦で軍隊は住民の命を守らなかった。軍隊は軍隊しか守らない。これが沖縄戦の実相であり、教訓なんだよ」。  東京生まれの三上監督は成城大学で民俗学を学び、沖縄の民俗芸能や伝統行事に惹かれ、関西の毎日放送から開局したばかりの琉球朝日放送に転職した人。辺野古への基地移転、高江のヘリパット建設、そして宮古・石垣で進む自衛隊配備の抜き差しならない現状を伝える一方、それぞれの土地で先祖代々から受け継がれてきたお祭りや芸事を映し出す目線はとても優しい。石垣島で暮らす山里節子さんは、喜びと哀しみを即興で歌い上げる民謡「トゥバラーマ」の今や数少ない唄者だ。「私たちの島は物や金はないけど、歌や踊りで心を満たしながら、心を洗いながら生き抜いてきた」と語る節子さん。反戦の想いを込めて歌う「トゥバラーマ」が胸に響く。
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沖縄本島では辺野古・高江で米軍基地建設をめぐり、機動隊や警察と地元住人側との間で激しい攻防が繰り広げられている。
「本当は宮古のパーントゥや石垣のアンガマといった昔から島に伝わる伝統文化を中心にしたドキュメンタリーにしたかったんですが、やはり辺野古や高江の問題も放っておけませんし、軍事評論家によるエアシーバトル構想の解説もあり、かなり雑多な内容になったかもしれません。山里節子さんは石垣では有名な方で、節子さんの言葉と歌はとても印象的ですよね。宮古や石垣は目には見えない精神文化が先祖代々受け継がれてきている土地なんです。かつては沖縄本島も日本本土そうだったはず。沖縄の島々では“弥勒世果報(みるくゆがふ)”という言葉が祭りの場などでよく使われます。今はつらい世の中でも、神の力を借りていつか豊かな世の中になるよね。あなたと私は今は対立しているけど、いつかみんなで幸せに暮らせる時代になるよね、という意味合いで使われているものなんです」(三上監督)  先祖が代々汗を流し、体を張って守ってきた土地に感謝し、自分の子や孫たち子孫にもきちんと残し伝えていきたい。それゆえ島で暮らす人たちの多くは、島を軍事要塞化し、戦争を呼び寄せる事態に異議を唱える。弥勒世果報が訪れることを祈り、一人ひとりがそれぞれ小さな防波堤となれば、戦火を煽る状況を防ぐこともできるはず。第3の防波堤は映画を観ている自分自身であることを本作は気づかせてくれる。 (文=長野辰次)
戦争が起きれば防波堤となるのはどこなのか? 三上智恵監督の最新ドキュメンタリー『標的の島』の画像4
『標的の島 風かたか』 監督・ナレーション/三上智恵 プロデューサー/橋本佳子、木下繁貴  撮影監督/平田守 音楽プロデューサー/上地正昭 配給/東風 3月11日より沖縄・桜坂劇場 3月25日(土)より東京・ポレポレ東中野ほか全国順次ロードショー http://hyotekinoshima.com (c)「標的の島 風かたか」製作委員会

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瑛太・佐藤江梨子主演の映画『リングサイド・ストーリー』に異変「ギャラ未払いで公開できない!?」

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「公開予定は今春になっているのですが、いまだに公式HPもない状態ですからね。ギャラの未払いもウワサされてますし、本当に公開されるのか不安に思っている事務所は結構あるみたいですよ」(芸能事務所関係者)  瑛太と佐藤江梨子が主演を務める映画『リングサイド・ストーリー』をめぐって、さまざまな臆測が飛び交っているという。 「この映画は『百円の恋』で賞を総ナメにした武正晴さんが監督を務めるとあって、前評判はものすごく高かったのですが、いまだに正式な公開情報が出ないとなると、このままお蔵入りになるのではと心配になりますよね。というのも、製作陣に元シネカノン代表の李鳳宇の名前がありますから」(映画関係者)  シネカノンといえば、『月はどっちに出ている』(93)、『パッチギ!』(05)、『フラガール』(06)などを手掛けた映画会社だが、47億円もの負債を抱えて経営破綻。ギャラの未払いなども発生していたようだ。 「実際、今回の映画でも撮影はすでに終わっていますが、出演料が未払いの役者もいるようです。基本的に主演クラスにはクランクアップ直後に支払いされますが、脇役以下には支払いが遅延することはよくあります。東宝や東映などの大手だとクランクイン前に支払われることもありますが、独立系だとどうしても支払いは後になりますね。ドラマも主演クラスには局が支払いますが、脇役には制作会社が支払うケースも多く、その会社が飛んだりして未払いとなるケースも多々あるようです。『リングサイド・ストーリー』は『百円の恋』同様、映画賞が期待される作品だけに、なんとか公開にこぎつけてほしいんですけどね」(テレビ局関係者)  この春、2人の姿を劇場で見ることができるのか?

瑛太・佐藤江梨子主演の映画『リングサイド・ストーリー』に異変「ギャラ未払いで公開できない!?」

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「公開予定は今春になっているのですが、いまだに公式HPもない状態ですからね。ギャラの未払いもウワサされてますし、本当に公開されるのか不安に思っている事務所は結構あるみたいですよ」(芸能事務所関係者)  瑛太と佐藤江梨子が主演を務める映画『リングサイド・ストーリー』をめぐって、さまざまな臆測が飛び交っているという。 「この映画は『百円の恋』で賞を総ナメにした武正晴さんが監督を務めるとあって、前評判はものすごく高かったのですが、いまだに正式な公開情報が出ないとなると、このままお蔵入りになるのではと心配になりますよね。というのも、製作陣に元シネカノン代表の李鳳宇の名前がありますから」(映画関係者)  シネカノンといえば、『月はどっちに出ている』(93)、『パッチギ!』(05)、『フラガール』(06)などを手掛けた映画会社だが、47億円もの負債を抱えて経営破綻。ギャラの未払いなども発生していたようだ。 「実際、今回の映画でも撮影はすでに終わっていますが、出演料が未払いの役者もいるようです。基本的に主演クラスにはクランクアップ直後に支払いされますが、脇役以下には支払いが遅延することはよくあります。東宝や東映などの大手だとクランクイン前に支払われることもありますが、独立系だとどうしても支払いは後になりますね。ドラマも主演クラスには局が支払いますが、脇役には制作会社が支払うケースも多く、その会社が飛んだりして未払いとなるケースも多々あるようです。『リングサイド・ストーリー』は『百円の恋』同様、映画賞が期待される作品だけに、なんとか公開にこぎつけてほしいんですけどね」(テレビ局関係者)  この春、2人の姿を劇場で見ることができるのか?

現場で国会議員を一喝! “ケンカ最強”故・渡瀬恒彦さんの知られざる武勇伝

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『鉄と鉛 STEEL&LEAD』(東映)
 人気俳優の渡瀬恒彦さんが3月14日、胆のうがんによる多臓器不全のため、都内の病院で死去した。72歳だった。4月スタートのテレビ朝日系ドラマ『警視庁捜査一課9係』に出演予定だったが、所属事務所の発表では、2月中ごろ左肺に気胸を発症し、入院治療していたという。 「2015年の秋に、胆のうがんで闘病中であることを告白しましたが、ドラマの撮影現場で、闘病の話は一切しなかったそうです。撮影の合間に、病院に通っているほどだったのに……」とは、渡瀬を長く取材してきたベテラン芸能リポーターの話。  過去、車が横転するシーンでもスタントマンに頼らず自分で演じきったなど、武勇伝は数知れず。弱さを見せない“男の中の男”として知られていた。  渡瀬さんが過去に主演した映画の撮影スタッフからは「一度も公になっていない話が、ひとつある」と、封印された武勇伝が明かされた。 「今から十数年前、渡瀬さんが主演のヤクザ映画に、自民党の議員が俳優でもないのにチョイ役で名を連ねていて、現場でかなり大きな顔をしていたんです。渡瀬さんより少し年下のくせに、現場ではまるで対等な立場のように振る舞っていました。この議員は、作品の主人公のモデルで大口出資者でもある元暴力団関係者とかなり親しかったので、大威張りだったんです。監督や演出家を首相官邸に連れて行き、当時首相だった小泉純一郎氏にも引き合わせ、そのことも自慢げに話していました。すると撮影中、渡瀬さんが議員のヘタクソな演技に強烈なダメ出しをして、何度もやり直しをさせたんです。大した役じゃないからNGを出す必要もなかったんですが、きっと渡瀬さんがスタッフのイライラを解消してくれたんでしょうね。でも、議員は逆ギレして『俺が降りたら、映画は撮れないんだぞ!』と大騒ぎ。すると、渡瀬さんは『揉めるなら俺が全部費用を持つから、出ていけ』と一喝したんです。結局、騒ぎを耳にした周囲の関係者によって、その場は収められましたが、渡瀬さんの振る舞いに感激した人は、たくさんいました」(同)  その後、議員は汚職事件で逮捕され辞職、実刑判決を受けて刑務所に入っている。 「この話は、まだ暴力団排除条例が広がる前のこと。当時のヤクザ映画の撮影現場には暴力団関係者が普通に出入りしていて、出演俳優は彼らに徹底して気を使うのが常識でした。撮影中の俳優に、ヤクザが『おい、あれはちょっと違うんじゃないか』と言えば、人気俳優でも言われた通りに撮り直しする、なんてことが当たり前だったんです。でも、渡瀬さんは舞台裏で腰が低くても、演技の現場では、相手が誰であれ、毅然としていましたね。さすが“芸能界ケンカ最強”ともいわれる人だと思いましたよ」(同)  渡瀬さんはもともとサラリーマンだったが、兄の渡哲也がスターだった頃、関係者に口説かれ、1969年に俳優デビュー。『仁義なき戦い』シリーズなどのヤクザ映画やアクション映画で活躍し、73年にはトップ女優・大原麗子と結婚(のちに離婚)。数多くの作品に出演し、主役でも脇役でも光る俳優といわれた。  3月2日に行われた出演ドラマ『そして誰もいなくなった』(テレビ朝日系)の制作発表を欠席していた渡瀬さん。このとき関係者は「スケジュールの都合」と説明したが、体調不良がささやかれていた。  前出スタッフは「気遣いをさせたくない、渡瀬さんらしい配慮だったのでは?」と話す。最後まで、超一流の振る舞いをする人だったようだ。 (文=片岡亮/NEWSIDER Tokyo)

セーフティネットが取り外された恐怖の現実世界! 下流層の叫び『わたしは、ダニエル・ブレイク』

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ケン・ローチ監督にとっては2度目となるカンヌ映画祭パルムドール受賞作。“ナマポ問題”を真っ正面から描いている。
 今の日本でどれだけの人が飢えで亡くなっているのか? 気になってネット検索してみた。21世紀に入ってからも毎年50人前後の人たちが食糧の不足のために亡くなっている。生活保護の申請が認められなかった人、もしくは生活保護を受けることを拒んだ人たちだ。外部との交流を断ち、生きる気力を失って自宅で亡くなるケースが多い。栄養失調が原因で亡くなった人も合わせると、毎年2,000人近くの人たちが亡くなっている。2016年のカンヌ映画祭パルムドール(最高賞)を受賞したイギリス映画『わたしは、ダニエル・ブレイク』を観ながら、生活保護受給者への締め付けが厳しくなっている日本も他人事ではない恐ろしさを感じた。 『わたしは、ダニエル・ブレイク』は社会派映画の巨匠ケン・ローチ監督の作品。常に労働者階級の立場から映画を撮り続けてきたケン・ローチ監督は前作『ジミー、野を駆ける伝説』(14)を最後に引退するはずだったが、社会格差がますます進む母国の現状を放っておくことができず、引退を撤回して本作を撮り上げた。80歳になる大ベテラン監督の不条理な社会への怒りと人生の酸いも甘みも噛み分けた男ならではの温かみが込められた作品だ。  主人公であるダニエル・ブレイク(デイヴ・ジョーンズ)は英国北部にある工業都市ニューカッスルで暮らす59歳になる腕のいい大工。妻に先立たれてからは、ひとり暮らしを続けている。まだまだ体は元気だが、建築現場で心臓発作を起こしてしまい、医者から仕事を禁じられてしまう。仕方なく労働年金省から雇用支援金手当てをもらっていたが、再申請の窓口がいつの間にか米国の民間企業に変わっており、頭はボケてないか、手足は動くかといった簡単な電話問診の結果、就労は可能だと判断されて手当てを打ち切られてしまう。では、どうやって食べていけばいいのか。抗議の電話をしようにも、自動音声案内に延々と待たされ、取り付く島がまるでない。  再申請の手続きをするには職業安定所に行かねばならないことが分かり、とりあえず職業安定所へと足を運ぶダニエル。ところが、役人の対応は極めて冷たい。手続きするにはまずオンライン登録を済ませておくこと、有料の履歴書の書き方講習会に出席すること、さらに就職活動をして働く意欲があることを証明するように、と次々と難題が課せられていく。医者から仕事を止められているから手当てを求めているのに、そのためには就職活動をしなくてはいけない。そのうえ、大工ひと筋で生きてきたダニエルはパソコンを持っておらず、触ったことさえない。矛盾だらけの役人の指示に、途方に暮れるダニエル。まるでカフカの不条理小説『城』のように、ぐるぐる回り続けるだけで一向に出口が見えてこない。ダニエルは心臓よりも、頭と心がおかしくなってしまいそうだった。
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働きたくても働けない。ケイティ母子は生活保護を受けようとするが、役所の“水際作戦”に阻まれてしまう。
 ケン・ローチ監督の初期代表作に、田舎の炭坑町を舞台にした『ケス』(70)がある。学校でも家庭でもイジメられている少年ビリーが、野生のハヤブサを育てることに生き甲斐を見出すというドキュメンタリータッチの感動作だ。少年ビリーがハヤブサのヒナの世話を焼くことを心の支えにしたように、本作のダニエルも若い母子と出逢い、彼女たちとの交流が心の糧となっていく。シングルマザーのケイティ(ヘイリー・スクワイアーズ)は、ロンドンから2人の子どもデイジー(ブリアナ・シャン)とディラン(ディラン・フィリップ・マキアナン)を連れてニューカッスルへと引っ越してきた。初めての土地で道に迷い、職業安定所が指定した面談時間に遅れてしまい、役人から「遅刻は厳禁です。次回の面談まで支援金を渡すことはできません」と冷たい言葉を浴びせられる。「子連れなんだぞ。遅刻ぐらい見逃せよ」とその場にいたダニエルが口を挟むと、ケイティ母子と一緒にダニエルまで警備員につまみ出されてしまう。役所が対応してくれないなら庶民同士で助け合うしかない。引っ越したばかりのケイティの家はトイレが故障しており、暖房器具も使えなかった。ダニエルはトイレを直し、プチプチシートを断熱材代わりに窓に貼付け、大工としての技能を発揮する。ケイティ母子が喜ぶ顔を見て、ダニエルは久々に心の安らぎを感じていた。  食費にも困っているケイティ母子を連れ、ダニエルが訪ねる「フードバンク」も興味深い。フードバンクとは販売期限は過ぎていてもまだ充分に食べることができる食品、見た目のよくない不ぞろいの生鮮野菜や果実、パッケージに傷が付いていて売り物にならなくなった日用品などをメーカーやスーパーマーケットから無償で提供してもらい、生活困難者に配給している非営利団体。日本では近年「子ども食堂」が注目を集めているが、欧米ではフードバンクの活動が活発で、フランスではスーパーマーケットはフードバンクへの提供が義務づけられているそうだ。ケイティの育ち盛りの子どもたちは、お菓子やジュースにもありつけた。食材を手にしたケイティは、その場で泣き崩れてしまう。「貧しいのは君の責任じゃない。自分を責めちゃダメだ」とダニエルはケイティに優しく言葉を掛ける。  人気スターは基本的に使わず、脚本もキャストに丸ごと1冊渡さずに、シーンごとにキャラクターになりきった芝居を求めるのがケン・ローチ監督の演出スタイルだ。冴えない郵便局員が自分の脳内にいるサッカー界のレジェンド、エリック・カントナに励まされて人生を立て直す『エリックをさがして』(09)、元不良少年とウイスキー好きな保護司との粋な友情を描いた『天使の分け前』(12)などコメディも得意とするケン・ローチ監督ゆえ、英国下流層のシビアな生活を伝える本作もユーモラスなものに仕立てている。主人公ダニエルを演じるのは、舞台でキャリアを重ねてきたコメディ俳優のデイヴ・ジョーンズ。ガンコ親父ながら、どこか愛嬌を感じさせるダニエルというキャラクターは、コメディ俳優として生の舞台に立ち続けてきたデイヴのパーソナリティーがあってのもの。口は悪いが、曲がったことは大嫌い。いかにも下町の職人を思わせるダニエルは、日本でも親しみを感じさせる人物像だろう。
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生活が行き詰まると情弱に陥りがち。ダニエルはケイティ母子に「フードバンク」が利用できることを教える。
 何とかオンライン登録を済ませ、就職活動にも取り組んだダニエルだったが、訪問先からの「うちの職場で、そのキャリアを活かしてほしい」という電話を断らなくてはならないのが心苦しかった。生活保護を受けるために、労働者としての自尊心はズタズタに傷つけられていく。それでも我慢して再申請をするが、しばらくして届いた通知書の結果内容は前回とまったく同じだった。長年マジメに働いてきたものの、もはや自分は社会の不要品なのか。落ち込んだダニエルはアパートの自室に引きこもり、外出をしなくなってしまう。  そんなある日、ダニエルのアパートの扉をノックする音が聞こえてきた。ケイティの娘デイジーだった。「ダニエル、あなたは私たち家族を助けてくれたわ。お願い、今度は私にあなたの助けにならせてちょうだい」。ちょっと前までフードバンクにいたことを学校の同級生にからかわれて泣いていたデイジーが、しばらく見ない間に精神的にすっかり大人へと成長していた。ダニエルは閉ざしていた扉をようやく開ける。無気力の谷に転げ落ちそうになっていた彼にとって、こんなにも頼りになる命綱はなかった。 (文=長野辰次)
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『わたしは、ダニエル・ブレイク』 監督/ケン・ローチ 脚本/ポール・ラヴァティ 出演/デイヴ・ジョーンズ、ヘイリー・スクワイアーズ、ブリアナ・シャン、ディラン・フィリップ・マキアナン、ケイト・ラッター 配給/ロングライド 3月18日(土)よりヒューマントラスト有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開 (c) Sixteen Tyne Limited, Why Not Productions, Wild Bunch, Les Films du Fleuve,British Broadcasting Corporation, France 2 Cinema and The British Film Institute 2016 http://danielblake.jp

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ふんどし姿で走り回る國村隼は悪魔か救世主か? 殺人事件を“神の視点”で捉えた『哭声 コクソン』

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國村隼演じる“山の中の男”は悪魔崇拝者なのか、それとも悪魔払い師なのか。キリストの復活を思わせるシーンもあり。
 風俗嬢を専門に狙った実在の連続殺人鬼を主人公にした『チェイサー』(08)、中国と北朝鮮との国境沿いに暮らす朝鮮族が経済的な貧しさゆえに犯罪に手を染める実情を追った『哀しき獣』(10)と、韓国の鬼才ナ・ホンジン監督は殺人者の心情に異様なまでに肉迫してきた。長編3作目となる『哭声 コクソン』は前2作とは真逆の立場に立った作品だ。恐ろしい事件になぜ巻き込まれてしまったのかという、被害者側の立場から猟奇殺人事件を捉えたものとなっている。物語の重要なキーパーソンを國村隼が演じており、國村はふんどし姿で生肉を喰らい、山野を駆け回る大熱演を見せ、韓国のメジャーな映画賞「青龍映画賞」(助演男優賞、人気スター賞)を外国人として初受賞。作品も難解な内容ながら、リピーターが続出し、韓国で700万人を動員する大ヒット作となっている。 『哭声 コクソン』は単純にジャンル分けすることができない作品だ。物語の序盤は、静かな村で一家惨殺事件が起きる殺人ミステリーとしてスタートする。最初は毒キノコを食べた村人が幻覚症状を起こして身内を殺傷沙汰に追い込んだ偶発的な事故かと思われていたが、同じような事件が村で多発。気のいい駐在員のジョング(カァク・ドウォン)は、山で暮らす男(國村隼)が怪しいという噂を耳にする。ジョングが山の中にある男の家を調べると、一連の事件現場の写真がなぜか部屋に貼ってあり、禍々しい呪術用具が並べてあった。その日以来、ジョングの愛娘ヒョジン(キム・ファニ)の様子がおかしくなる。娘が暴言を吐き、暴れ回る姿は、まるでオカルト映画『エクソシスト』(74)で悪魔に取り憑かれた少女リーガンのようだった。  藁にもすがる思いでジョングはソウルから祈祷師イルグァン(ファン・ジョンミン)を呼ぶ。山の中の怪しい男とイルグァンとの間で激しく繰り広げられる呪術バトル。さらには事件現場に度々出没していた若い女ムミョン(チョン・ウヒ)がジョングの前に現われ、「もうすぐお前の家に悪霊が入る」と告げる。一体、村に災いを招いたのは誰なのか? 山の中の男やこの女は何者なのか? なぜ罪のない我が娘が悪霊に狙われることになったのか、そして娘を救うためにはどうすればいいのか。途方に暮れるジョングと同様に、2時間36分にわたって本作を見続けた我々も迷宮の中に迷い込み、この難事件をどうすれば解決に導くことができるのかを考えざるを得ない。  これまでの追いつ追われつの怒濤の肉弾アクションから一転、難解な哲学・宗教学を思わせるミステリー作品に本作を仕立てたナ・ホンジン監督。4年間の準備期間を要したという脚本づくりの難しさを2017年1月の来日時にこう語った。 ナ・ホンジン「前作までは事件を犯罪者側に集中して描いてきたため、被害者の立場を深く描くことができていないことに気づいたんです。なぜ彼らは恐ろしい事件に巻き込まれることになってしまったのか、そのことを考えてみようというのが始まりでした。でも、その理由を探ってみても現実の世界だけでは解答は見つかりませんでした。そこで超自然的なものを扱ったところ、今回のような作品になったんです。事件の数々の原因を遡っていくと神の存在にまで突き当たったわけです。人間は神が生み出したものなら、人間の消滅にも神が関係しているに違いないと。これまでの作品以上に詳細なリサーチが必要となり、世界中の様々な宗教についての本を読み、またシャーマンなど神に関わる人たちへの取材を4年間にわたって重ねたんです。脚本を書き上げる途中、これを映画にするのは無理だと途方に暮れたこともありましたが、ようやく生まれたのが『コクソン』なんです」
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現代医学では娘は助けられない? ジョング(カァク・ドウォン)は民間信仰に救いを求めるが……。
 村人たちの間では、連続する殺人事件の元凶は山で暮らす怪しい日本人だと噂が広がる。村にある教会の神父は「あの人は日本から来た有名な大学の教授で、僧侶でもある」と男のことを擁護するが、祈祷師のイルグァンによれば、男はもはや生きた人間ではないという。悪霊についての研究を続けているうちに、男自身が悪魔的な存在になってしまったらしい。國村隼が演じる男は、生きているのか死んでいるのかすら分からない、得体の知れない異人として描かれている。久々にコワモテ系俳優としての本領を遺憾なく発揮してみせた國村は、シネマート新宿で行なわれたジャパンプレミアでこうコメントしている。 國村隼「ナ・ホンジン監督の前2作はもちろん、今回の脚本も抜群に面白いことから出演を決めました。脚本を読んだ段階ですっぽんぽんになることは分かっていましたが、でもこの役は他の役者には渡したくないなと思ったんです。自分からナ・ホンジン監督の作品の中へ飛び込んでいったので、ひどいことをやらされたという意識はないですよ(笑)。僕が演じた役は人間なのか、人間ならざるものなのかも分からない存在。従来のような役づくりでアプローチしても意味がないキャラクターでした。例えるなら、コクソンという池に波紋を起こす石みたいなもの、というイメージで演じたんです」  どこかうさん臭い祈祷師イルグァンを演じているのは、『新しき世界』(13)や『ベテラン』(15)などで知られる韓国映画界のスター俳優ファン・ジョンミン。ソウルからコクソンへとやってきたイルグァンは正義の悪魔払い師なのか、それとも腹黒い俗物人間なのか。彼もまた非常にグレーゾーンな存在である。ファン・ジョンミンと國村隼との過剰な呪術合戦が物語中盤の見せ場となっているが、韓国ではこういった民間での呪術信仰が今なお盛んらしい。 ナ・ホンジン「韓国ではキリスト教や仏教を信仰している人でも、みんな占いが大好きで、よく祈祷師に占ってもらい、占いの結果が悪いと厄払いをしてもらうんです。韓国のシャーマニズムは4兆ウォン産業ともいわれています。日本円にすると4000億円ですね。韓国の映画市場の2倍もあるんです。シャーマニズムは田舎だけでなく、都会の人も熱心に信じています。田舎では厄払いしているとすぐ周囲にバレるから、むしろ都会のほうが盛んなぐらいなんです」
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祈祷師のイルグァン(ファン・ジョンミン)は“山の中の男”を呪い殺そうとするも、二転三転する結末が待っていた。
 ロケ撮影を行なった韓国の南西部・谷城(コクソン)もまた重要な意味を持っている。デヴィッド・リンチ監督の『ツイン・ピークス』(90~91)のような山間の小さな村だが、ナ・ホンジン監督の母方の祖母が暮らしていた土地で、ナ・ホンジン監督は子どもの頃によく遊びに行っていたそうだ。韓国では山深いこの地方はもっとも開発が遅れており、また朝鮮戦争の激戦地でもあった。夜になると山から北軍が降りてきて食料の提供を命じ、朝になると山に戻った北軍に代わって南軍が現われ、北軍に協力した村人たちを処刑したという。昼と夜とで支配者が変わる二重支配の地域だった。この地域では今も虐殺に遭った遺族側と虐殺に加担した側とが一緒に暮らしているという。  物語の後半にこの映画を象徴するシーンがある。警察官のジョングは血の気の多い村の若者たちを引き連れ、山で暮らす日本人らしき男を追い詰めた挙げ句、車で跳ね飛ばしてしまう。ジョングは警察官でありながら、息の絶えた男を車道から崖下へと放り棄てる。一抹の罪悪感を感じながらも、これで娘を救えるはずだと安堵するジョング。だが、その一部始終を山の上から若い女ムヒョンが見つめていた。そして、ムヒョンのいる山の上にはさらに大空が広がっている。男が放り棄てられた奈落、ジョングたち人間が生きている現実の世界、そのすべてを見ている天上界……と1シーンが何層にもレイヤー化されて描かれている。死者たちが蠢く冥界、罪深き人間界、無言を貫く神たちの佇む天国……と、結局この映画はどの立場からこの物語を見つめ、自分なりの解釈を見出すかということでしか結末を迎えることはできない。  肝心の主人公であるジョングにとっては、もはや誰が神で誰が悪魔なのかはささいな問題だった。苦しむひとり娘を救うことさえできれば、それ以外のことはどうでもよかった。メタボ体型でおっとりとしたジョングだが、最後の最後に娘を守るために猛ダッシュすることになる。ジョングが考えうる回答はそれ以外にはありえなかった。ナ・ホンジン監督はいう。「この映画を観た人、それぞれが考えた解釈。その全てが正解なんです」と。 (文=長野辰次)
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『哭声 コクソン』 監督・脚本/ナ・ホンジン 出演/クァク・ドウォン、ファン・ジョンミン、國村隼、チョン・ウヒ 配給/クロックワークス 3月11日(土)よりシネマート新宿ほかにて公開 (c)2016 TWENTIETH CENTURY FOX FILM CORPORAITION http://kokuson.com

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