都市伝説のメリーさんを追い、煩悩だらけの禅僧 最期の夢に伴走した中村高寛監督が20年を振り返る

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“青い目の禅僧”ヘンリ・ミトワの生涯を追ったドキュメンタリー映画『禅と骨』。横浜出身の日系米国人が求め続けた家族像と夢が浮かび上がる。
 都市伝説として知られていた“白いメリーさん”の実像を追ったドキュメンタリー映画『ヨコハマメリー』(06)は、異例のロングランヒットを記録した。横浜の街角に白塗りの街娼として立ち続けたメリーさんは1990年代半ばに姿を消したことから亡くなったと思われていたが、『ヨコハマメリー』のクライマックスには地方都市で元気そうに暮らすメリーさんが登場し、観客は驚くと同時に戦後社会を孤高に生き抜いてきたメリーさんの素顔に胸を打たれた。そして、8年がかりで『ヨコハマメリー』を完成させた中村高寛監督の11年ぶりとなる新作ドキュメンタリーが『禅と骨』。京都・天龍寺の禅僧として修業を積んだ日系米国人ヘンリ・ミトワの生涯を描いたものとなっている。10年に1本ペースながら、誰にも真似できない映画を撮り続ける中村監督がドキュメンタリーへのこだわりについて語った。 ──『ヨコハマメリー』の最後にメリーさんが登場するシーンを撮るため、中村監督はまずメリーさんのいる老人ホームで2週間ボランティアしながら通ったと聞いています。1シーンを撮るために、気が遠くなるような時間と手間を掛けていますね。 中村高寛 『ヨコハマメリー』でのメリーさんの撮影の経緯をお話すると、実はすごく悩んだんです。もともと本人不在のドキュメンタリーとして、メリーさんのことを知る関係者たちの証言で本人像を浮かび上がらせる構成を考えていたんですが、横浜から姿を消したメリーさんの居場所がいろいろ取材しているうちに偶々分かってしまった。そのことを知っているのは僕だけだったので、僕が黙っていれば本人不在のドキュメンタリーとしてきれいな構成で完成するはずでした。でも知ってしまったからには、目を背けることはできない。それで、まずメリーさんのいる老人ホームを訪ね、ただ訪ねるのも何なので、2週間ほど老人ホームで配膳などを手伝うボランティアとして通い、メリーさんとの関係性をつくっていったんです。 ──メリーさんに初めて会ったときはカメラを持って行かなかった? 中村 カメラは持たずに訪ねました。メリーさんの居場所が分かった時点でワイドショー的に取材することもできたんでしょうが、『ヨコハマメリー』にはそういう取材は合わないなと思ったんです。それからメリーさんと親しくしていた映画の出演者たちに、「メリーさんはここにいます」と住所と近況を知らせるという種蒔きをしたんです。種がうまく育つかは分かりませんでしたが、メリーさんと懇意にしていたシャンソン歌手の元次郎さんが一度会いに行き、それから元次郎さんが癌になったことから再び彼にカメラを向けることになり、メリーさんのいる老人ホームでリサイタルを開く様子を撮ることになったんです。メリーさんの居場所が分かったのが2000年で、元次郎さんがリサイタルを開いたのが03年。言ってみれば、時間の演出ですね。 ──メリーさんは映画が劇場公開される前に亡くなったそうですね。 中村 『ヨコハマメリー』は06年に劇場公開したんですが、メリーさんは映画の完成後の05年に、元次郎さんは完成直前の04年に亡くなりました。映画を観た方の中には「この映画は破綻している」という人もいました。本人不在のドキュメンタリーだったのに、メリーさん本人が最後に現われたからです。でも、僕はメリーさんと元次郎さんの再会シーンをどうしても入れたかった。あのシーンがないと、この映画は終われないなと思ったんです。病室にいた元次郎さんがメリーさんに会いに列車に乗るシーンの直前、元次郎さんのいない病室が一瞬だけ映るんですが、そのことを「黄泉の世界へ向かうシーンだ」という見方をする人もいましたね。そういう解釈もありかなと思います。
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『禅と骨』を完成させるまで8年間要した中村監督。「ドラマパートの撮影も充実していました。3日間で集中して撮ったんです」。
■サイアクの出逢いから始まった11年ぶりの新作 ──『ヨコハマメリー』の劇場公開から11年。京都のヘンリ・ミトワさんとはどのように知り合ったんでしょうか? 中村 『ヨコハマメリー』は戦後の日本社会を、戦争を体験していない世代である僕の視点から描いたものだったので、次回作を撮るなら米国という要素は外せないと思っていました。そんなとき、横浜の映画館シネマ・ジャック&ベティでのトークイベントの後、林海象さんと呑みながら、「横浜生まれで横浜育ちの日系米国人の禅僧のドキュメンタリーを撮ってみないか」と言われたんです。僕はそのときヘンリ・ミトワさんのことを知りませんでしたが、『赤い靴』を映画化したがっているという話も聞いて、面白そうだなと思ったんです。それが08年。その年に京都みなみ会館で『ヨコハマメリー』がリバイバル上映されることが決まったので、それで林さんに仲介してもらい、まずはミトワさんに一度会うことにしたんです。 ──禅寺で修業したはずのミトワさんですが、『禅と骨』の中では監督にキレるなど、かなり感情の起伏の激しい人物だったようですが……。 中村 会っていきなり、ミトワさんに叱られたんです。僕のことも知ってもらおうと思って、『ヨコハマメリー』の上映にミトワさんを招待したんですが、上映が終わって会場に残ってくれたお客さんのパンフに僕がサインをしていたところ、「なんじゃい、この映画。ドキュメンタリーなのに、メリーさんは出てこねぇじゃねぇか」と大声でずっと怒鳴っていたんです。それでパンフを買うために残っていたお客さんたちはサァ~と帰ってしまった。みなみ会館の支配人は顔を真っ赤にして怒っていました。そこへ遅れて林さんが現われて、「終わった」と思ったそうです(笑)。林さんは僕にミトワさんのドキュメンタリーを撮らせるつもりだったんですが、その時点でまだミトワさんはドキュメンタリーを撮ることをOKしていなかった。いきなりミトワさんから罵倒され、パンフも売りそびれ、サイアクの出逢いでした。それで横浜に戻って、「もう二度と会うこともないだろう」と思っていたら、1週間ほどして、ミトワさんから「東京に行くので、ぜひ会ってください」というメールが届いたんです。無視してもよかったんでしょうが、当時すでに90歳近かった禅僧のお願いをそう無下には断れませんでした。ミトワさんは童謡の『赤い靴』を映画化したがっていて、スポンサー探しのためにたびたび上京していたんですが、そのときの相談相手に僕を選んだんです。僕をツッコミやすい相手だと思ったんでしょう(笑)。しかも相談に乗ってあげているのに、会う度にコーヒー代を僕が払うはめになってしまった。僕がコーヒー代の伝票を手に取ると「ありがとう」とニコッと笑うんですよ。 ──そうやって、ミトワさんとの関係性ができてしまった。 中村 人間関係って、本当に最初が肝心ですよね(笑)。その頃のミトワさんは『赤い靴』の映画化がなかなか進まず、ストレスがいちばん溜まっていた時期だったようです。僕は僕で、『ヨコハマメリー』の後、次の作品を撮ることができずに悩んでいました。自分の撮りたい映画を撮れずにいるという2人の心境がシンクロしたんです。僕はドキュメンタリーを撮る際に、内面的必然性というものを自分に問うようにしているんですが、『禅と骨』の場合は自分がどうしても撮りたい題材というよりも、「ミトワさんの最後の夢を叶える手助けをしよう」という想いでした。普通のドキュメンタリーに比べるとかなりイレギュラーですが、それが今回の原点でした。
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『禅と骨』のドラマパート。ウエンツ瑛士、余貴美子、緒川たまき、永瀬正敏、佐野史郎……と豪華なキャスティング。
■映像には被写体の念が篭る。だから撮り始めたら必ず形にする ──『赤い靴』の映画化に情念を燃やすミトワさんを中村監督はサポートすると同時に、ミトワさんとその家族を被写体としたドキュメタリーを撮り始める。 中村 『ヨコハマメリー』が話題になったことで、『ヨコハマメリー』を劇映画化しないかという話もいくつかありました。それもあって、ミトワさんのドキュメンタリーをつくり、話題になれば、『赤い靴』の映画化のオファーもくるかもしれないとミトワさんに話したんです。 ──撮影が進んだ後半も、ミトワさんは監督に怒りの感情をぶつけるようになります。あれはミトワさんの体調が悪かったせいですか? 中村 体調の悪化がいちばんの原因だったと思います。撮影を始めてしばらくは好々爺然としていたんです。でも、入院する前後から、僕に怒りの感情をぶつけるようになりました。ミトワさんの考えているドキュメンタリーと、僕が撮っているドキュメンタリーが違うものだったことも要因だったと思います。ミトワさんはテレビや雑誌のインタビューはけっこう受けていたので、取材や撮影は1~2日で済むものと思っていたんです。ところが僕はその頃、すでに4~5カ月はカメラを回していました。ようやくミトワさんに馴染め始めたくらいの感覚だったんですが、ミトワさん的にはもういいだろうと。ずっと撮影されることに飽きてしまっていた。それで僕が「取材はもうやめます」と言い出すように、悪態をつくようになったのかもしれません。そこからはミトワさんと僕との闘いでしたね。 ──被写体が普段隠している顔を見せている。監督としては望むところ? 中村 いや、もっと自然な感じで撮影したかった(苦笑)。 ──途中で、もう止めようとは思わなかったんですか? 中村 ドキュメンタリーって撮影はしたけど、編集しないまま未完成で終わってしまう企画が多いんですよ。でも、僕は一度カメラを回し始めたら、映画としてきちんと形にしたい。写真には被写体の魂が篭るってよく言いますよね。映像にもそれがあると思うんです。その人の念だったり、想いというのが確実に映像の中には残ると僕は思っています。だから、撮ったものはちゃんと作品にしないと成仏しない。僕はそれもあって、撮り始めたものはきちんと完成させるようにしているんです。そうしないと自分の仕事としても完結しない。それまで僕は取材対象者と喧嘩したことはありませんでしたが、ドキュメンタリー映画には“こうでなければならない”という決まった方法論はないと思うので、そのことも含めてミトワさんと改めてしっかり向き合うことにしたんです。僕も本気で怒っていました。自分の怒った声って、こんなんだと分かったときは、恥ずかしかったですね。
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天龍寺の田原住職と対談するヘンリ・ミトワ。撮影中の中村監督にキレるなど、様々な顔をカメラの前にさらけ出してく。
■母への贖罪としての『赤い靴』 ──太平洋戦争直前に米国人の父親に会うために横浜から渡米したミトワさんは、戦時中は日系人収容所に入れられ、戦後はLAのミサイル関連開発会社でエレクトロニクス技師として働き、日本に残した母親の晩年を看取ることができなかった。そんな肉親と生き別れた体験を『赤い靴』として映画化しようとしていた。ままならない人生を歩んできたミトワさんは、せめて映像の世界だけは美しくありたい、夢を叶えたいと願っていたように感じられ、切なくなります。 中村 美しいものを映像に残したいという想いは、確かにあったと思います。ドキュメンタリーの撮影中も、自分のいい姿だけ撮らせようとしていました。それが変わったのは、僕に向かって怒り出したのと同じ頃、長男のエリック夫妻が来日してミトワ家が全員集まった場で、ミトワさんがみんなで一緒にカメラに映ろうとした際に家族間で図らずも諍いが起きてしまってからです。それからは、それまで見せたことのない姿をカメラの前に見せるようになったんです。僕もミトワさんとは本当にガチンコ勝負の日々でしたし、撮っていて葛藤しました。果たして、このドキュメンタリーを観た人は、ミトワさんのことを好きになってくれるんだろうかと。『赤い靴』を映画にしたいという想いは、母親への贖罪の意識が強かったと思います。母親というか、女性への執着みたいなものだったのかもしれません。ミトワ家でミトワさんを支え続けてきた3人の女性たち、妻のサチコさん、長女の京子さん、次女の静さん、彼女たちもミトワさんに振り回され続けた人生でした。サチコさんはクリスチャンだったのに、ミトワさんと一緒に天龍寺で暮らすことになった。京子さんは米国で暮らしていたのに、高校生のときにいきなり言葉の通じない日本に来させられ、高校時代の記憶が欠落しているそうです。静さんの幼い頃、ミトワさんは祇園界隈で遊び回っていて、家にほとんどいない状態だった。それでも静さんは入院したミトワさんの看病は懸命にする。愛憎半ばする関係だったようです。 ──ミトワ家を観ていると、「家族って何だろう?」と思ってしまいます。 中村 ミトワさんは茶道や陶芸に励んだり、禅寺で修業したり、映画をつくろうとしたり、いろんなことに手を出しています。本人も「何でも屋」と自嘲していたように、器用貧乏な人だったのかもしれません。12年にミトワさんが亡くなったとき、「結局、ミトワさんが残したものって何だろうね」みたいなことをスタッフと話していたんです。でも、告別式の場でミトワ家のみなさんが一列に並んでいる姿を見て、その様子をカメラに収めました。ミトワさんが何を残したかは分からないけど、人としての営み、次世代の人たちはちゃんと残したんだなと。これって、ドキュメンタリーをつくること以上にすごいことだと思えたんです。撮影の途中でミトワさんが亡くなり、取材対象者がいなくなったことから僕は虚脱感を覚えましたが、もちろん家族は僕以上だったはず。そんなとき、ミトワさんの遺品の中から、ミトワ家のみんなが映った8ミリフィルムが出てきたんです。これで、すべての点と点が線として繋がったなと思いましたね。 ■ドキュメンタリーとは、自分のはらわたをさらけ出す行為 ──ミトワさん不在の中、『赤い靴』は短編アニメーション『ヘンリの赤い靴』として完成し、14年12月に劇場公開されることに。ドキュメンタリー製作とアニメーションづくりを並行しての作業は大変だったと思います。 中村 7分ほどの短編アニメとして完成させたんですが、製作に1年間要しました。ミトワさんが残した膨大な資料とシノプスをもとに僕が脚本を書き、アニメーション作家に頼んで仕上げてもらった作品です。ドキュメンタリー映画の一環としてやるのなら、1日だけどこかでイベント上映して、満席になった様子を撮ればよかったんですが、1日だけの上映では映画雑誌「キネマ旬報」では劇場公開扱いにならない。それで横浜ニューテアトルで『ヨコハマメリー』と同時上映という形で1週間公開したんです。これでヘンリ・ミトワという名前を「キネマ旬報」に映画人として残すことができた(笑)。『ヘンリの赤い靴』をちゃんと一般公開し、その事実をドキュメンタリー映画として記録したかったんです。 ──ポスターの中のミトワさん、「映画つくってくれて、ありがとな」と笑っているようです。 中村 本当はパソコンをイジりながら、冗談を言い合って笑っていただけなんですけどね。まぁ、せっかくなので、そういうことにしておきましょう(笑)。 ──1本のドキュメンタリーを完成させるために、膨大な時間と労力を費やしている。中村監督自身の生活もあるから、大変じゃないですか。 中村 映画が完成してしまうほうが、僕にとっては大変なんです。ドキュメンタリーを撮っている間は、その製作費を稼ぐために頑張って働く気になれるんです。テレビのドキュメンタリー番組や企業のPRビデオを撮ったり、大学で教えたりしているんですが、それは全てドキュメンタリー映画を撮るというモチベーションがあるからできているんです。映画が完成してしまったら、働く気力も失せてしまう(笑)。基本、僕は自分が撮る映画は自分で製作費を用意しようと考えています。『ヨコハマメリー』がヒットした直後は、「お金は出しますが、口は出しません。ぜひ、中村監督ならではの作品を」などと甘い言葉を掛けられましたが、「お金を出して、口は出さない」なんてことは絶対ありえません(きっぱり)。『ヨコハマメリー』は映画賞を11個ほどいただきましたが、賞をもらっても次の仕事には結びつきませんでした。でも、自分でお金を用意すれば、自分から「負けた、やめた」と諦めない限り、闘いを続けることができる。ドキュメンタリーを撮り続けるということは、自分の闘いを続けるということなんだと思います ──『禅と骨』に続く新作の構想は? 中村 今はまだ『禅と骨』を完成させることに全力を使い果たして、死んだ状態ですね(笑)。「これだ!」と思える取材対象とどうタイミングよく出逢えるかだと思うんです。ここ20年間は取材撮影か映画祭に参加するか以外では旅行をしていないので、普通の旅行がしてみたいですね。 ──『禅と骨』の終盤、ミトワさんの妻サチコさんから「結婚は? ガールフレンドはいないの?」と尋ねられているのは中村監督ですか? 中村 「いません」と答えているのは僕です。サチコさんから、あのとき初めてプライベートなことを質問されて焦ったんです。「もうすぐ、できます」と答えようかと迷ったんですが、正直に答えました。自分のはらわたをさらけ出しているようで、すっごく恥ずかしいですよ(笑)。 (取材・文=長野辰次)
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『禅と骨』 監督・構成/中村高寛 プロデューサー/林海象 ナレーション/仲村トオル ドラマパート出演/ウエンツ瑛士、余貴美子、利重剛、伊藤梨沙子、チャド・マレーン、飯島洋一、山崎潤、松浦祐也、けーすけ、千大佑、小田島渚、TAMAYO、清水節子、ロバート・ハリス、緒川たまき、永瀬正敏、佐野史郎 配給/トランスフォーマー 9月2日(土)よりポレポレ東中野、キネカ大森、横浜ニューテアトルほか全国順次公開 (C)大丈夫・人人FILMS http://www.transformer.co.jp/m/zenandbones ●中村高寛(なかむら・たかゆき) 1975年神奈川県生まれ。97年、松竹大船撮影所よりキャリアをスタート。助監督として、様々なドラマ作品に携わる。2006年にドキュメンタリー映画『ヨコハマメリー』で監督デビュー。ヨコハマ映画祭新人監督賞、藤本賞新人賞などを受賞。NHKハイビジョン特集『終わりなきファイト “伝説のボクサー”カシアス内藤』(10年)などテレビドキュメンタリーも多数手掛けている。

是枝監督の新作さえも侵蝕する黒沢清ワールド! 長澤まさみが観音菩薩化する『散歩する侵略者』

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黒沢清監督のSFサスペンス『散歩する侵略者』。長澤まさみ、松田龍平、長谷川博己ら黒沢作品初参加組が人類滅亡の危機を救う!?
 家の中に赤の他人がいる。かなり不気味なシチュエーションである。ただし、その他人との間に婚姻届が交わされていれば、他人同士は夫婦として世間から認められた当たり前の光景となる。でも、ときどき妻(夫)もしくは同棲中の恋人が、まったく見も知らぬ他人に感じる瞬間はないだろうか。紅茶に入れた角砂糖が溶け出していくように、当たり前だと思っていた日常風景が少しずつ壊れていき、やがては世界全体が崩壊へと向かっていく。黒沢清監督の最新作『散歩する侵略者』は、ありきたりな夫婦の関係の変化から世界の滅亡が始まるスケールの大きなSFサスペンスとなっている。  劇団イキウメを主宰する前川知大の同名舞台を原作にした『散歩する侵略者』だが、映画版は黒沢清監督のカラーが強く滲み出た集大成的な作品である。すでに壊れてしまった夫婦が旅に出ることで再生を目指すというストーリーラインは、浅野忠信&深津絵里主演の『岸辺の旅』(15)を思わせる。世界が滅亡へと向かう恐怖は『回路』(00)、侵略者による容赦ないバイオレンスは『クリーピー 偽りの隣人』(16)を連想させる。サスペンスなのかコメディなのか、油断ならないドラマ運びは『ドッペルゲンガー』(03)や『トウキョウソナタ』(08)っぽくもある。長澤まさみ、松田龍平、長谷川博己ら黒沢清監督作品に初出演するメインキャストたちは、日常生活から秩序が失われていくアンバランスな黒沢ワールドで右往左往するはめに陥る。
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宇宙人に意識を操られている真ちゃん(松田龍平)。散歩中に出会った人たちから、次々と概念を奪っていく。
 東京から離れた静かな地方都市で、鳴海(長澤まさみ)と真治(松田龍平)の夫婦は一軒屋で暮らしている。すでに夫婦間には、すきま風がビュービューと吹いている状態。鳴海から「真ちゃん」と呼ばれる夫は勤務先の年下の同僚と浮気しており、在宅でイラストの仕事をしている鳴海は締め切りに追われ、夫の浮気に気づかないふりをしている。よくある夫婦だった。そんな形骸化した夫婦関係を木っ端みじんに吹き飛ばす事件が起きる。3日間にわたって音信不通状態だった真治が病院で保護されるが、まったくの別人となっていた。見た目は以前と変わらないが、一般常識が欠落した明らかに異なる人物だった。一時的な記憶喪失だろうということで、鳴海は真ちゃんを自宅に連れ帰り、仕事をしながら介抱することになる。 「僕は宇宙人なんだ」と説明する真ちゃん。夫の体の中に不定形な宇宙人が入り込み、意識をコントロールしているらしい。バカバカしい冗談だと思って鳴海は信じようとしないが、真ちゃんは次々と奇妙な振る舞いをする。最初の犠牲者は鳴海の妹・明日美(前田敦子)だった。一般常識が欠落した義兄である真ちゃんに、明日美は「家族」という概念を教えようとするが、真ちゃんが「その概念、もらった」と人差し指をかざした瞬間に、明日美から「家族」という概念が奪われてしまう。家族という概念を失い、ひと粒の涙を流す明日美。その後も真ちゃんは、散歩中に出会った人たちから概念を奪い続ける。一連の騒ぎに戸惑う鳴海だが、真ちゃんは鳴海からは概念を奪おうとはしなかった。真ちゃんいわく「鳴海は僕の大切なナビゲーターだから」危害を加えるようなことはしないとのこと。かつては愛した夫の姿をした謎の存在から信頼されていることに、鳴海は不思議な安堵感を覚える。破綻していた夫婦関係がリセットされ、喜びを感じる鳴海。相当におかしな夫婦ドラマである。  地球を狙う宇宙人たちが、人間から概念を奪うというアイデアがユニークだ。また、口数が少なく、何を考えているのか分からない真ちゃん役に松田龍平がよく似合う。ほとんどの人は概念をひとつでも奪われると、日常生活に支障をきたすようになるが、逆にハッピーになる人もいる。ずっと自宅に篭りっきりだったニートの若者(満島真之介)は、散歩中の真ちゃんから「所有」という概念を抜き取られたことで、明るい開放的な性格に生まれ変わる。もうひとり、根っからおめでたい人もいる。教会の若い牧師(東出昌大)は真ちゃんに頼まれ、「愛」の概念を懸命に教えようとするが、真ちゃんはこれを奪うことができない。どうも、この牧師が頭の中で思い描いている「愛」は本質的なものとはズレているらしい。ルポライターの桜井(長谷川博己)と彼をナビゲーターに選んだ宇宙人・天野(高杉真宙)たちの侵略計画も同時進行し、世界は破滅へと確実に向かっているのに、ところどころでコメディ要素が散りばめられ、事態はまるで予測できない局面へと転がっていく。
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ルポライターの桜井(長谷川博己)は、宇宙人だと自称する天野(高杉真宙)と立花(恒松祐里)の地球侵略を手伝うはめに。
 浮気していた夫がようやく自分のところに戻ってきて、これで平穏な家庭を築けると思っていたら、人類はどうやらもうすぐ滅亡するらしい。鳴海の人生はままならない。「まいっちゃうなぁ」と八の字眉で呟く長澤まさみがひどく切なく、とても愛しく思えてくる。人々からいろんな概念を奪って、すっかり人間らしくなった真ちゃんは、すまなそうな表情ができるようになっていた。人類最期の日を2人で過ごすべく、ラブホテルに真ちゃんと入った鳴海は、ある真実に辿り着く。それまで世間的なわかりやすい愛を追い求めてきた鳴海だったが、本当の愛は求めるものではなく、与えるものだということに気づく。このときの長澤まさみは、まさに母性の塊、生きた菩薩さまのようだ。  黒沢清監督はこれまでに『降霊』(99)、『トウキョウソナタ』『岸辺の旅』『クリーピー』、そして『ダゲレオタイプの女』(16)と夫婦の物語を繰り返し描いてきた。先日、黒沢監督にインタビューする機会があり、黒沢監督と奥さんとの夫婦関係が映画にも投影されているのかを尋ねたところ、「作品の中で描いている夫婦は架空のもの」「うちはいたって普通の夫婦です」と照れながらも、大学時代からの付き合いである奥さんとは観た映画の感想を話し合ったり、脚本づくりの際にアイデアをもらったりしていることを話してくれた。黒沢監督は意識していないというが、ありのままの自分を受け入れてくれるパートナーへのリスペクトと信頼感が『散歩する侵略者』からも感じられる。  本作と同じ9月9日(土)公開の『三度目の殺人』も、黒沢清ファンには見逃せない作品となっている。辛口ホームドラマで人気の是枝裕和監督が初めて挑んだ司法サスペンスだが、福山雅治扮するエリート弁護士が拘置所の接見室で対峙することになる殺人犯を演じているのは黒沢清作品の常連俳優・役所広司。ダークな黒沢清ワールドから、ヒューマニズム溢れる是枝作品へ音もなく忍び込んできた侵入者のような怪しい存在だ。しかも役所広司が演じる殺人犯の三隅は、相手の心を読み取る特殊能力の持ち主。三隅に心を読まれることで、エリート弁護士(福山雅治)も足の不自由な少女(広瀬すず)も常識で雁字搦めになっていた心の扉を解放され、それと同時に従来の社会のシステムから遊離してしまうことになる。役所広司演じる怪人物・三隅は、黒沢監督の傑作ホラーファンタジー『CURE』(97)に登場した催眠術師によく似たキャラクターとなっている。  日常生活が機能しなくなる悲喜劇を描いた『散歩する侵略者』と司法という信頼すべくシステムの危うさをクローズアップした『三度目の殺人』。黒沢清監督と是枝裕和監督、どちらも高度にシステム化された現代社会の歪みを見つめる映画監督ゆえに、生み出された作品に共通項があるのは自然なことだろう。 (文=長野辰次)
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『散歩する侵略者』 原作/前川知大 脚本/田中幸子、黒沢清  出演/長澤まさみ、松田龍平、高杉真宙、恒松祐里、前田敦子、満島真之介、児嶋一哉、光石研、東出昌大、小泉今日子、笹野高史、長谷川博己 配給/松竹、日活 9月9日(土)より全国ロードショー (c)2017「散歩する侵略者」製作委員会 http://sanpo-movie.jp 『三度目の殺人』 監督・脚本・編集/是枝裕和 出演/福山雅治、広瀬すず、満島真之介、市川実日子、松岡依都美、橋爪功、斉藤由貴、吉田鋼太郎、役所広司 配給/東宝、ギャガ 9月9日(土)より全国ロードショー http://gaga.ne.jp/sandome
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黒沢清監督のSFサスペンス『散歩する侵略者』。長澤まさみ、松田龍平、長谷川博己ら黒沢作品初参加組が人類滅亡の危機を救う!?
 家の中に赤の他人がいる。かなり不気味なシチュエーションである。ただし、その他人との間に婚姻届が交わされていれば、他人同士は夫婦として世間から認められた当たり前の光景となる。でも、ときどき妻(夫)もしくは同棲中の恋人が、まったく見も知らぬ他人に感じる瞬間はないだろうか。紅茶に入れた角砂糖が溶け出していくように、当たり前だと思っていた日常風景が少しずつ壊れていき、やがては世界全体が崩壊へと向かっていく。黒沢清監督の最新作『散歩する侵略者』は、ありきたりな夫婦の関係の変化から世界の滅亡が始まるスケールの大きなSFサスペンスとなっている。  劇団イキウメを主宰する前川知大の同名舞台を原作にした『散歩する侵略者』だが、映画版は黒沢清監督のカラーが強く滲み出た集大成的な作品である。すでに壊れてしまった夫婦が旅に出ることで再生を目指すというストーリーラインは、浅野忠信&深津絵里主演の『岸辺の旅』(15)を思わせる。世界が滅亡へと向かう恐怖は『回路』(00)、侵略者による容赦ないバイオレンスは『クリーピー 偽りの隣人』(16)を連想させる。サスペンスなのかコメディなのか、油断ならないドラマ運びは『ドッペルゲンガー』(03)や『トウキョウソナタ』(08)っぽくもある。長澤まさみ、松田龍平、長谷川博己ら黒沢清監督作品に初出演するメインキャストたちは、日常生活から秩序が失われていくアンバランスな黒沢ワールドで右往左往するはめに陥る。
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宇宙人に意識を操られている真ちゃん(松田龍平)。散歩中に出会った人たちから、次々と概念を奪っていく。
 東京から離れた静かな地方都市で、鳴海(長澤まさみ)と真治(松田龍平)の夫婦は一軒屋で暮らしている。すでに夫婦間には、すきま風がビュービューと吹いている状態。鳴海から「真ちゃん」と呼ばれる夫は勤務先の年下の同僚と浮気しており、在宅でイラストの仕事をしている鳴海は締め切りに追われ、夫の浮気に気づかないふりをしている。よくある夫婦だった。そんな形骸化した夫婦関係を木っ端みじんに吹き飛ばす事件が起きる。3日間にわたって音信不通状態だった真治が病院で保護されるが、まったくの別人となっていた。見た目は以前と変わらないが、一般常識が欠落した明らかに異なる人物だった。一時的な記憶喪失だろうということで、鳴海は真ちゃんを自宅に連れ帰り、仕事をしながら介抱することになる。 「僕は宇宙人なんだ」と説明する真ちゃん。夫の体の中に不定形な宇宙人が入り込み、意識をコントロールしているらしい。バカバカしい冗談だと思って鳴海は信じようとしないが、真ちゃんは次々と奇妙な振る舞いをする。最初の犠牲者は鳴海の妹・明日美(前田敦子)だった。一般常識が欠落した義兄である真ちゃんに、明日美は「家族」という概念を教えようとするが、真ちゃんが「その概念、もらった」と人差し指をかざした瞬間に、明日美から「家族」という概念が奪われてしまう。家族という概念を失い、ひと粒の涙を流す明日美。その後も真ちゃんは、散歩中に出会った人たちから概念を奪い続ける。一連の騒ぎに戸惑う鳴海だが、真ちゃんは鳴海からは概念を奪おうとはしなかった。真ちゃんいわく「鳴海は僕の大切なナビゲーターだから」危害を加えるようなことはしないとのこと。かつては愛した夫の姿をした謎の存在から信頼されていることに、鳴海は不思議な安堵感を覚える。破綻していた夫婦関係がリセットされ、喜びを感じる鳴海。相当におかしな夫婦ドラマである。  地球を狙う宇宙人たちが、人間から概念を奪うというアイデアがユニークだ。また、口数が少なく、何を考えているのか分からない真ちゃん役に松田龍平がよく似合う。ほとんどの人は概念をひとつでも奪われると、日常生活に支障をきたすようになるが、逆にハッピーになる人もいる。ずっと自宅に篭りっきりだったニートの若者(満島真之介)は、散歩中の真ちゃんから「所有」という概念を抜き取られたことで、明るい開放的な性格に生まれ変わる。もうひとり、根っからおめでたい人もいる。教会の若い牧師(東出昌大)は真ちゃんに頼まれ、「愛」の概念を懸命に教えようとするが、真ちゃんはこれを奪うことができない。どうも、この牧師が頭の中で思い描いている「愛」は本質的なものとはズレているらしい。ルポライターの桜井(長谷川博己)と彼をナビゲーターに選んだ宇宙人・天野(高杉真宙)たちの侵略計画も同時進行し、世界は破滅へと確実に向かっているのに、ところどころでコメディ要素が散りばめられ、事態はまるで予測できない局面へと転がっていく。
是枝監督の新作さえも侵蝕する黒沢清ワールド! 長澤まさみが観音菩薩化する『散歩する侵略者』の画像3
ルポライターの桜井(長谷川博己)は、宇宙人だと自称する天野(高杉真宙)と立花(恒松祐里)の地球侵略を手伝うはめに。
 浮気していた夫がようやく自分のところに戻ってきて、これで平穏な家庭を築けると思っていたら、人類はどうやらもうすぐ滅亡するらしい。鳴海の人生はままならない。「まいっちゃうなぁ」と八の字眉で呟く長澤まさみがひどく切なく、とても愛しく思えてくる。人々からいろんな概念を奪って、すっかり人間らしくなった真ちゃんは、すまなそうな表情ができるようになっていた。人類最期の日を2人で過ごすべく、ラブホテルに真ちゃんと入った鳴海は、ある真実に辿り着く。それまで世間的なわかりやすい愛を追い求めてきた鳴海だったが、本当の愛は求めるものではなく、与えるものだということに気づく。このときの長澤まさみは、まさに母性の塊、生きた菩薩さまのようだ。  黒沢清監督はこれまでに『降霊』(99)、『トウキョウソナタ』『岸辺の旅』『クリーピー』、そして『ダゲレオタイプの女』(16)と夫婦の物語を繰り返し描いてきた。先日、黒沢監督にインタビューする機会があり、黒沢監督と奥さんとの夫婦関係が映画にも投影されているのかを尋ねたところ、「作品の中で描いている夫婦は架空のもの」「うちはいたって普通の夫婦です」と照れながらも、大学時代からの付き合いである奥さんとは観た映画の感想を話し合ったり、脚本づくりの際にアイデアをもらったりしていることを話してくれた。黒沢監督は意識していないというが、ありのままの自分を受け入れてくれるパートナーへのリスペクトと信頼感が『散歩する侵略者』からも感じられる。  本作と同じ9月9日(土)公開の『三度目の殺人』も、黒沢清ファンには見逃せない作品となっている。辛口ホームドラマで人気の是枝裕和監督が初めて挑んだ司法サスペンスだが、福山雅治扮するエリート弁護士が拘置所の接見室で対峙することになる殺人犯を演じているのは黒沢清作品の常連俳優・役所広司。ダークな黒沢清ワールドから、ヒューマニズム溢れる是枝作品へ音もなく忍び込んできた侵入者のような怪しい存在だ。しかも役所広司が演じる殺人犯の三隅は、相手の心を読み取る特殊能力の持ち主。三隅に心を読まれることで、エリート弁護士(福山雅治)も足の不自由な少女(広瀬すず)も常識で雁字搦めになっていた心の扉を解放され、それと同時に従来の社会のシステムから遊離してしまうことになる。役所広司演じる怪人物・三隅は、黒沢監督の傑作ホラーファンタジー『CURE』(97)に登場した催眠術師によく似たキャラクターとなっている。  日常生活が機能しなくなる悲喜劇を描いた『散歩する侵略者』と司法という信頼すべくシステムの危うさをクローズアップした『三度目の殺人』。黒沢清監督と是枝裕和監督、どちらも高度にシステム化された現代社会の歪みを見つめる映画監督ゆえに、生み出された作品に共通項があるのは自然なことだろう。 (文=長野辰次)
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『散歩する侵略者』 原作/前川知大 脚本/田中幸子、黒沢清  出演/長澤まさみ、松田龍平、高杉真宙、恒松祐里、前田敦子、満島真之介、児嶋一哉、光石研、東出昌大、小泉今日子、笹野高史、長谷川博己 配給/松竹、日活 9月9日(土)より全国ロードショー (c)2017「散歩する侵略者」製作委員会 http://sanpo-movie.jp 『三度目の殺人』 監督・脚本・編集/是枝裕和 出演/福山雅治、広瀬すず、満島真之介、市川実日子、松岡依都美、橋爪功、斉藤由貴、吉田鋼太郎、役所広司 配給/東宝、ギャガ 9月9日(土)より全国ロードショー http://gaga.ne.jp/sandome
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国際暗黒プロデューサー・康芳夫が語る“怪優業”と『家畜人ヤプー』を書いた覆面作家の正体!!

国際暗黒プロデューサー・康芳夫が語る怪優業と『家畜人ヤプー』を書いた覆面作家の正体!!の画像1
ここ数年は、怪優として抜群の存在感をみせている康芳夫。熊切監督が撮る『家畜人ヤプー』にも出演する予定だ。
 康芳夫といえば、伝説の興行師だ。モハメド・アリを日本に呼ぶために、イスラム教に入信。アントニオ猪木とアリとの異種格闘技戦ではフィクサーとして暗躍した。ネッシー探検隊の結成、人間かチンパンジーかで世間を騒がせたオリバー君を日本に連れてきたのもこの人。戦後最大の奇書と呼ばれる『家畜人ヤプー』の出版者としても知られる。国際暗黒プロデューサー、虚業家など様々な呼称を持つ康氏だが、中島哲也監督の『渇き。』(14)や熊切和嘉監督の『ディアスポリス DIRTY YELLOW BOYS』(16)などに出演し、新たに“怪優”という肩書きも最近は手に入れている。今年80歳を迎えた康氏が、初の悪役に挑戦した最新出演作『干支天使チアラット』、そして実写映画化の準備が進む『家畜人ヤプー』について大いに語った。 ──河崎実監督の『干支天使チアラット』を拝見しました。主人公たちを苦しめる悪役として、抜群の存在感を放っていますね。 康芳夫 ははは、楽しんでもらえましたか。河崎監督は出版社を通じて僕に出演のオファーをしたんだけど、これは実に奇妙な作品ですね。パロディーというかナンセンスというか、これまでの日本映画では見たことのないタイプの作品になっています。僕が出演したのは1日だけだったけれど、思っていたよりもカット数は多かったし、河崎監督がいろいろと考えてくれた台詞もあってね、楽しい撮影現場でしたよ。 ──これまでにも中島監督の『渇き。』にチラッと登場し、『ディアスポリス』では裏都知事役を演じました。 康 僕が俳優デビューした経緯をお話すると、中島監督から手紙が届いたことがきっかけでした。中島監督のことを僕は知らなかったんだけれども、彼の事務所を訪ねたところ、『下妻物語』(04)や『嫌われ松子の一生』(06)など僕が面白いなぁと思っていた映画のポスターが貼ってあり、「あぁ、僕が面白いと思った映画を撮っていたのが中島監督だったのか」と分かったんです。それで中島監督から「ぜひ映画に出てください」と言われ、「いや、こちらこそ」と俳優デビューすることが決まったわけです。実際には何カットか撮影したんですが、編集の都合で僕が映っているのは一瞬だけになった。その後、ドキュメンタリー映画『酒中日記』(15)にも南伸坊と一緒に出ています。それから熊切監督が僕のところに『家畜人ヤプー』を映画化したいと現われ、その際に俳優としても出演してほしいと頼まれて、『ディアスポリス』にも出演することになったんです。熊切くんが今度撮る『家畜人ヤプー』とは別の新作にも出演する予定です。新興宗教の教祖を演じることになりそうです。
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クラウドファンドで製作された『干支天使チアラット』。希崎ジェシカ、辰巳ゆい、友田彩也香ら人気セクシー女優が大活躍。
■リアルと虚構との境界線上を生きる男 ──これまでの出演作は素の康さんがそのまま映画に出ている感じでしたが、『干支天使チアラット』ではフィクションならではの悪役を楽しまれたのではないでしょうか。「この世界は無意味なものだ」などの台詞は康さんが口にすると、すごく意味深に聞こえます。 康 あの台詞はね、僕がふだん考えていることを河崎監督がうまく台詞として盛り込んでくれたんです。他にもね、河崎監督がカットしてしまったけど、いろいろ撮りました。「内田裕也に僕が似ているんじゃない。内田裕也が僕に似ているんだ」とかね(笑)。あとね、「ばくちの貸しを返せ」なんて台詞を僕は言ったんだけど、それもカットされてしまいました。実際、彼は賭けポーカーで1億円くらい借金しているからね。まぁ、大昔の話だから時効でしょう(笑)。 ──賭けポーカーで1億円の借金!! 康 僕らがやっていたのは「ハイロー」という複雑なポーカーで、芸能人やヤクザ、もしくはプロのポーカープレイヤーしかやらないものでした。素人はやりません。作家の色川武大は分かりますか? 彼に賭けポーカーを紹介したのは僕なんだけど、それでポーカー場に出入りするようになった彼は膨大な借金を抱えて、一時期姿を消したんです。しばらくして、阿佐田哲也と名前を変えました。『麻雀放浪記』を書く前のことです。賭けポーカーは非常にスリリングなゲームで、動く金額も大きいんですよ。 ──国際暗黒プロデューサーという肩書きは、伊達ではないと。 康 国際暗黒プロデューサーというのは、マスコミが僕に付けたあだ名みたいなものです。まぁ、ボクシングの興行の世界は以前はやっかいなこともあり、裏社会との繋がりもありましたから。でも、僕がボクシングのプロモートをしていたのは50年近く前のことです。今はボクシングの世界も変わったでしょう。 ──康さんの言動には、どこまでがリアルでどこからがフィクションなのか分からない魅力があります。 康 おっしゃる通りです。いわゆるマージナルライン、リアルとフィクションとの狭間をさまよっているのが僕という存在です。虚実皮膜の世界で僕は生きているので、いったいどこまでがリアルで、どこからがフィクションなのやら(笑)。河崎監督もね、そこを狙って僕を起用したようです。撮影したのは僕の80歳の誕生日でした。合成シーンが多かったので現場ではよく分からなかったけど、今日の舞台挨拶には女優のみなさん(希崎ジェシカ、辰巳ゆい、友田彩也香)も集まって、キレイな方たちばかり。もう一人の女優さん、姫乃たまさん。彼女が書いた本(『潜行 地下アイドルの人に言えない生活』)は読みました。彼女が書いた本も、彼女もなかなか面白いですよ。
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康芳夫が『干支天使チアラット』で演じるのは、敵役である“風のマンチカン”。原作では半裸の美少年だったが……。
──でも、なぜ80歳近くになって“怪優業”に目覚めたんでしょうか? 康 もともと大島渚監督や若松孝二監督からは映画に出るように言われていたんです。彼らとは一緒に毎晩のように新宿で呑んでいましたから。映画の製作を手伝ったりしていました。久世光彦(TBSドラマ『ムー』『寺内貫太郎一家』の演出、プロデューサー)を知っていますか? 彼は僕と大学(東京大学)で同期だったんです。彼のほうがちょっと年上だったけど。彼からもドラマに出るようにしつこく言われました。でも、その頃は仕事が忙しかったし、彼らにイジられるのがいやだったので、それで断っていたんです。別に俳優業がいやで断っていたわけじゃありません。大島くんが『戦場のメリークリスマス』(83)を撮るときは僕からアドバイスしたんだけど、それで喧嘩別れしてしまってね。その後、彼は病気になって亡くなったでしょ。若松くんも交通事故で亡くなってしまった。最近はね、オファーがあれば出演するようになりました。まぁ、いい時間潰しになりますよ(笑)。僕も80歳。この年齢の新人俳優を使おうなんて、ありがたいことです。撮影現場は肉体的にしんどいこともあるけど、なかなかエキサイティングな世界だと思っています。新しいことに挑戦できるなんて楽しいですよ。
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戦後最大の奇書『家畜人ヤプー』の作者の正体は誰なのか? その秘密を知っているのは康芳夫だけである。
■『家畜人ヤプー』に魅了された奇才たち ──チアラット(希崎ジェシカ)たちと対立するシャノワール(姫乃たま)に、マンチカン(康芳夫)が「ヤプーは読まれましたか?」と尋ねるシーンがありますね。何度も噂が流れては消える『家畜人ヤプー』の映画化はどうなっているんでしょうか? 康 5年前に熊切監督が僕のところに来て、「どうしても映画化したいんです」と頼みにきてね。熊切監督は大阪芸術大学出身で、大学時代の教官が中島貞夫監督です。中島貞夫が『家畜人ヤプー』を映画化したいと言ってきた最初の監督でした。実際に僕のところに来たのは中島貞夫ではなく、天尾完次プロデューサーでしたが、面白い縁だなと思いました。ちなみに中島貞夫の次に名乗りでてきたのは中平康監督。彼は若くして亡くなったけど、彼が病気にならなかったら、映画は完成していたはずですよ。その後が『太陽を盗んだ男』(79)の長谷川和彦監督。彼も僕の大学の3つほど下の後輩。長谷川くんとうまくいかなかったのは予算の問題もあったけど、彼は勝手に動いて振り回すわけですよ。それでね、僕から言って降りてもらいました。アニメ化の話も幾つかありました。スタンリー・キューブリック監督のエージェントからも打診を受けていた時期もありましたが、キューブリックは『アイズ ワイド シャット』(99)を撮って亡くなってしまった。最近『ツイン・ピークス』がまた話題になっているデヴィッド・リンチ監督からも、映画化したいと言われていました。でも、デヴィッド・リンチが撮ると、僕のイメージとは別のものになってしまうなと思い、断りました。熊切くんはね、信頼できる監督です。彼が大学時代に撮ったデビュー作『鬼畜大宴会』(88)を観て、彼なら『ヤプー』の映画化を任せられると思ったんです。 ──舌人形や肉便器がどのように実写化されるのか、今からドキドキします。 康 出版した当時(1970年)、僕は右翼に襲われたんです。『家畜人ヤプー』で描かれた未来世界では白人が最高位、黒人は奴隷、黄色人種はそれより下の家畜人となっているわけです。『家畜人ヤプー』を書いた作者は日本人なんだけれども、日本人に対する大変な侮蔑感と同時に白人への反感も持っている人物でした。日本でいちばんの神様であるアマテラスオオミカミですが、『家畜人ヤプー』ではアナテラスオオミカミとなっています。それで右翼が怒って、僕の事務所を襲撃してきました。「康が仕込んだんじゃないか」と噂されましたが、これは本当の話でNHKニュースにもなりました。まぁ、『家畜人ヤプー』の映画化については、近いうちに正式発表されるでしょう。そうそう、日本でいちばん有名なアニメ『君の名は。』(16)を撮った新海誠監督がいるでしょ。彼の奥さんは三坂知絵子という女優で、彼女は高取英の劇団「月蝕歌劇団」で『家畜人ヤプー』を舞台化したときに出演してくれたんです。過去には寺山修司、唐十郎も舞台化したがっていました。『家畜人ヤプー』には日本の文壇、文化人のほとんどの人が関わり、エピソードに事欠かない作品なんです。 ■覆面作家にまつわる二重三重の秘密 ──『家畜人ヤプー』の原作者である沼正三から、康さんは出版権や映像化権など全権を委任されたわけですが、康さんは覆面作家・沼正三の正体を知っているんですよね? 康 もともとは三島由紀夫が「面白い小説がある」と、SM雑誌「奇譚クラブ」に連載されていた『家畜人ヤプー』の切り抜きを僕のところに持ってきたことが始まりだったんです。三島由紀夫がプロデューサーでした。それで僕は大阪にいた「奇譚クラブ」のオーナーを訪ねて、彼は関西で有名な相場師だったんですが、あらゆる手段を使って僕は彼から『家畜人ヤプー』の原作者・沼正三の連絡先を聞き出したんです。最終的には沼さんに直接会うことができました。どういう人物かということは、今はまだ話せません。沼さんは8年前に亡くなりました。沼さんの本当の正体を知っているのは僕だけです。 ──そこをもう少しお願いします。沼正三=新潮社の社員校閲者だった天野哲夫説、東京高等裁判所の判事だった倉田卓次説……など、いろんな説が流れました。 康 天野さんが沼正三の代理人だったことは事実です。面白い話をしましょう。沼さんが亡くなったときに、僕から共同通信の記者に情報を流したんです。その記者は『家畜人ヤプー』の熱心なファンだったので、彼に沼正三の死亡記事を書かせようと思ったわけです。ところがその記者の上司が「また康にハメられるぞ」と言い出し、なかなかOKしなかった。結局、記事は掲載されましたが、それは世にも奇妙な死亡記事でした。記者は共同通信社のスクープ賞をもらったそうです。 ──沼正三の代理人を名乗っていた天野哲夫さんは、2008年11月30日に亡くなっています。やはり沼正三=天野哲夫なのか、それともまだ秘密が隠されているのか? 康 こう考えていただきたい。『家畜人ヤプー』はコラボレーションから生まれた作品だと。当時の高等裁判所の主席判事だった倉田卓次さんは、雑誌「諸君!」(82年11月号)で“覆面作家は東京高裁判事”という記事が出て、そのせいで最高裁判所の裁判官になることが決まっていたのに、流れてしまったんです。でも彼はそのことを恨んではいなかった。彼自身は「僕は書いていません」と言うだけでしたが、僕は「倉田さんは関係ない」とは一度も言っていません。彼が作者ではないことは事実ですが、英語でいうところのバイタルロール、とても重要な役割を果たしています。だからコラボレーションなんです。倉田さん以外にも関わっている人物はいますが、まだ存命で、社会的地位もあるので実名を出すことはできません。僕に何かあったときには真相が分かるようにと、遺書を弁護士に預けています。 ──いずれにしろ『家畜人ヤプー』が映画化されたときは、「猪木vs.アリ」戦のように世界中に衝撃が走ることになりそうですね。 康 そうです。『家畜人ヤプー』のフランス語版、中国語版はすでに出版されています。中国語版は台湾だけでの発売だけど、一説によると中国大陸では地下出版され、2,000万部の大ベストセラーになっているらしい。契約していたNYの出版社が倒産して立ち消えになっていた英語版も、近いうちに出版される予定です。どうか楽しみにしていてください。 (文=長野辰次/写真=尾藤能暢) ●康芳夫(こう・やすお) 1937年生まれ、東京都出身。東京大学在学中に五月祭の企画委員長を務める。大学卒業後、興行師・神彰のもとでソニー・ロリンズなどの呼び屋として活躍。独立後はモハメド・アリ対マック・フォスター戦、トム・ジョーンズの来日公演を実現させた。1973年は石原慎太郎を隊長にした「国際ネッシー探検隊」、76年はオリバー君の日本招聘とアントニオ猪木対モハメド・アリの異種格闘技戦のコーディネーターとして注目を集めた。また、70年にはSF・SM小説『家畜人ヤプー』を単行本化し、原作者・沼正三から映像化権をはじめとする全権を委任されている。2016年には著名人との対談のほかに沼正三の生原稿なども収録した『虚人と巨人 国際暗黒プロデューサー康芳夫と各界の巨人たちとの響宴』(辰巳出版)を上梓している。 http://yapou.club
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■映画『干支天使チアラット』 原作/中川ホメオパシー 脚本/海神える、河崎実 監督/河崎実  出演/希崎ジェシカ、辰巳ゆい、友田彩也香、掟ポルシェ、ルノアール兄弟、ベッド・イン、姫乃たま、康芳夫 製作・配給/リバートップ 9月3日(日)渋谷ユーロスペースにて舞台挨拶つき上映イベントあり

国際暗黒プロデューサー・康芳夫が語る“怪優業”と『家畜人ヤプー』を書いた覆面作家の正体!!

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ここ数年は、怪優として抜群の存在感をみせている康芳夫。熊切監督が撮る『家畜人ヤプー』にも出演する予定だ。
 康芳夫といえば、伝説の興行師だ。モハメド・アリを日本に呼ぶために、イスラム教に入信。アントニオ猪木とアリとの異種格闘技戦ではフィクサーとして暗躍した。ネッシー探検隊の結成、人間かチンパンジーかで世間を騒がせたオリバー君を日本に連れてきたのもこの人。戦後最大の奇書と呼ばれる『家畜人ヤプー』の出版者としても知られる。国際暗黒プロデューサー、虚業家など様々な呼称を持つ康氏だが、中島哲也監督の『渇き。』(14)や熊切和嘉監督の『ディアスポリス DIRTY YELLOW BOYS』(16)などに出演し、新たに“怪優”という肩書きも最近は手に入れている。今年80歳を迎えた康氏が、初の悪役に挑戦した最新出演作『干支天使チアラット』、そして実写映画化の準備が進む『家畜人ヤプー』について大いに語った。 ──河崎実監督の『干支天使チアラット』を拝見しました。主人公たちを苦しめる悪役として、抜群の存在感を放っていますね。 康芳夫 ははは、楽しんでもらえましたか。河崎監督は出版社を通じて僕に出演のオファーをしたんだけど、これは実に奇妙な作品ですね。パロディーというかナンセンスというか、これまでの日本映画では見たことのないタイプの作品になっています。僕が出演したのは1日だけだったけれど、思っていたよりもカット数は多かったし、河崎監督がいろいろと考えてくれた台詞もあってね、楽しい撮影現場でしたよ。 ──これまでにも中島監督の『渇き。』にチラッと登場し、『ディアスポリス』では裏都知事役を演じました。 康 僕が俳優デビューした経緯をお話すると、中島監督から手紙が届いたことがきっかけでした。中島監督のことを僕は知らなかったんだけれども、彼の事務所を訪ねたところ、『下妻物語』(04)や『嫌われ松子の一生』(06)など僕が面白いなぁと思っていた映画のポスターが貼ってあり、「あぁ、僕が面白いと思った映画を撮っていたのが中島監督だったのか」と分かったんです。それで中島監督から「ぜひ映画に出てください」と言われ、「いや、こちらこそ」と俳優デビューすることが決まったわけです。実際には何カットか撮影したんですが、編集の都合で僕が映っているのは一瞬だけになった。その後、ドキュメンタリー映画『酒中日記』(15)にも南伸坊と一緒に出ています。それから熊切監督が僕のところに『家畜人ヤプー』を映画化したいと現われ、その際に俳優としても出演してほしいと頼まれて、『ディアスポリス』にも出演することになったんです。熊切くんが今度撮る『家畜人ヤプー』とは別の新作にも出演する予定です。新興宗教の教祖を演じることになりそうです。
国際暗黒プロデューサー・康芳夫が語る怪優業と『家畜人ヤプー』を書いた覆面作家の正体!!の画像2
クラウドファンドで製作された『干支天使チアラット』。希崎ジェシカ、辰巳ゆい、友田彩也香ら人気セクシー女優が大活躍。
■リアルと虚構との境界線上を生きる男 ──これまでの出演作は素の康さんがそのまま映画に出ている感じでしたが、『干支天使チアラット』ではフィクションならではの悪役を楽しまれたのではないでしょうか。「この世界は無意味なものだ」などの台詞は康さんが口にすると、すごく意味深に聞こえます。 康 あの台詞はね、僕がふだん考えていることを河崎監督がうまく台詞として盛り込んでくれたんです。他にもね、河崎監督がカットしてしまったけど、いろいろ撮りました。「内田裕也に僕が似ているんじゃない。内田裕也が僕に似ているんだ」とかね(笑)。あとね、「ばくちの貸しを返せ」なんて台詞を僕は言ったんだけど、それもカットされてしまいました。実際、彼は賭けポーカーで1億円くらい借金しているからね。まぁ、大昔の話だから時効でしょう(笑)。 ──賭けポーカーで1億円の借金!! 康 僕らがやっていたのは「ハイロー」という複雑なポーカーで、芸能人やヤクザ、もしくはプロのポーカープレイヤーしかやらないものでした。素人はやりません。作家の色川武大は分かりますか? 彼に賭けポーカーを紹介したのは僕なんだけど、それでポーカー場に出入りするようになった彼は膨大な借金を抱えて、一時期姿を消したんです。しばらくして、阿佐田哲也と名前を変えました。『麻雀放浪記』を書く前のことです。賭けポーカーは非常にスリリングなゲームで、動く金額も大きいんですよ。 ──国際暗黒プロデューサーという肩書きは、伊達ではないと。 康 国際暗黒プロデューサーというのは、マスコミが僕に付けたあだ名みたいなものです。まぁ、ボクシングの興行の世界は以前はやっかいなこともあり、裏社会との繋がりもありましたから。でも、僕がボクシングのプロモートをしていたのは50年近く前のことです。今はボクシングの世界も変わったでしょう。 ──康さんの言動には、どこまでがリアルでどこからがフィクションなのか分からない魅力があります。 康 おっしゃる通りです。いわゆるマージナルライン、リアルとフィクションとの狭間をさまよっているのが僕という存在です。虚実皮膜の世界で僕は生きているので、いったいどこまでがリアルで、どこからがフィクションなのやら(笑)。河崎監督もね、そこを狙って僕を起用したようです。撮影したのは僕の80歳の誕生日でした。合成シーンが多かったので現場ではよく分からなかったけど、今日の舞台挨拶には女優のみなさん(希崎ジェシカ、辰巳ゆい、友田彩也香)も集まって、キレイな方たちばかり。もう一人の女優さん、姫乃たまさん。彼女が書いた本(『潜行 地下アイドルの人に言えない生活』)は読みました。彼女が書いた本も、彼女もなかなか面白いですよ。
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康芳夫が『干支天使チアラット』で演じるのは、敵役である“風のマンチカン”。原作では半裸の美少年だったが……。
──でも、なぜ80歳近くになって“怪優業”に目覚めたんでしょうか? 康 もともと大島渚監督や若松孝二監督からは映画に出るように言われていたんです。彼らとは一緒に毎晩のように新宿で呑んでいましたから。映画の製作を手伝ったりしていました。久世光彦(TBSドラマ『ムー』『寺内貫太郎一家』の演出、プロデューサー)を知っていますか? 彼は僕と大学(東京大学)で同期だったんです。彼のほうがちょっと年上だったけど。彼からもドラマに出るようにしつこく言われました。でも、その頃は仕事が忙しかったし、彼らにイジられるのがいやだったので、それで断っていたんです。別に俳優業がいやで断っていたわけじゃありません。大島くんが『戦場のメリークリスマス』(83)を撮るときは僕からアドバイスしたんだけど、それで喧嘩別れしてしまってね。その後、彼は病気になって亡くなったでしょ。若松くんも交通事故で亡くなってしまった。最近はね、オファーがあれば出演するようになりました。まぁ、いい時間潰しになりますよ(笑)。僕も80歳。この年齢の新人俳優を使おうなんて、ありがたいことです。撮影現場は肉体的にしんどいこともあるけど、なかなかエキサイティングな世界だと思っています。新しいことに挑戦できるなんて楽しいですよ。
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戦後最大の奇書『家畜人ヤプー』の作者の正体は誰なのか? その秘密を知っているのは康芳夫だけである。
■『家畜人ヤプー』に魅了された奇才たち ──チアラット(希崎ジェシカ)たちと対立するシャノワール(姫乃たま)に、マンチカン(康芳夫)が「ヤプーは読まれましたか?」と尋ねるシーンがありますね。何度も噂が流れては消える『家畜人ヤプー』の映画化はどうなっているんでしょうか? 康 5年前に熊切監督が僕のところに来て、「どうしても映画化したいんです」と頼みにきてね。熊切監督は大阪芸術大学出身で、大学時代の教官が中島貞夫監督です。中島貞夫が『家畜人ヤプー』を映画化したいと言ってきた最初の監督でした。実際に僕のところに来たのは中島貞夫ではなく、天尾完次プロデューサーでしたが、面白い縁だなと思いました。ちなみに中島貞夫の次に名乗りでてきたのは中平康監督。彼は若くして亡くなったけど、彼が病気にならなかったら、映画は完成していたはずですよ。その後が『太陽を盗んだ男』(79)の長谷川和彦監督。彼も僕の大学の3つほど下の後輩。長谷川くんとうまくいかなかったのは予算の問題もあったけど、彼は勝手に動いて振り回すわけですよ。それでね、僕から言って降りてもらいました。アニメ化の話も幾つかありました。スタンリー・キューブリック監督のエージェントからも打診を受けていた時期もありましたが、キューブリックは『アイズ ワイド シャット』(99)を撮って亡くなってしまった。最近『ツイン・ピークス』がまた話題になっているデヴィッド・リンチ監督からも、映画化したいと言われていました。でも、デヴィッド・リンチが撮ると、僕のイメージとは別のものになってしまうなと思い、断りました。熊切くんはね、信頼できる監督です。彼が大学時代に撮ったデビュー作『鬼畜大宴会』(88)を観て、彼なら『ヤプー』の映画化を任せられると思ったんです。 ──舌人形や肉便器がどのように実写化されるのか、今からドキドキします。 康 出版した当時(1970年)、僕は右翼に襲われたんです。『家畜人ヤプー』で描かれた未来世界では白人が最高位、黒人は奴隷、黄色人種はそれより下の家畜人となっているわけです。『家畜人ヤプー』を書いた作者は日本人なんだけれども、日本人に対する大変な侮蔑感と同時に白人への反感も持っている人物でした。日本でいちばんの神様であるアマテラスオオミカミですが、『家畜人ヤプー』ではアナテラスオオミカミとなっています。それで右翼が怒って、僕の事務所を襲撃してきました。「康が仕込んだんじゃないか」と噂されましたが、これは本当の話でNHKニュースにもなりました。まぁ、『家畜人ヤプー』の映画化については、近いうちに正式発表されるでしょう。そうそう、日本でいちばん有名なアニメ『君の名は。』(16)を撮った新海誠監督がいるでしょ。彼の奥さんは三坂知絵子という女優で、彼女は高取英の劇団「月蝕歌劇団」で『家畜人ヤプー』を舞台化したときに出演してくれたんです。過去には寺山修司、唐十郎も舞台化したがっていました。『家畜人ヤプー』には日本の文壇、文化人のほとんどの人が関わり、エピソードに事欠かない作品なんです。 ■覆面作家にまつわる二重三重の秘密 ──『家畜人ヤプー』の原作者である沼正三から、康さんは出版権や映像化権など全権を委任されたわけですが、康さんは覆面作家・沼正三の正体を知っているんですよね? 康 もともとは三島由紀夫が「面白い小説がある」と、SM雑誌「奇譚クラブ」に連載されていた『家畜人ヤプー』の切り抜きを僕のところに持ってきたことが始まりだったんです。三島由紀夫がプロデューサーでした。それで僕は大阪にいた「奇譚クラブ」のオーナーを訪ねて、彼は関西で有名な相場師だったんですが、あらゆる手段を使って僕は彼から『家畜人ヤプー』の原作者・沼正三の連絡先を聞き出したんです。最終的には沼さんに直接会うことができました。どういう人物かということは、今はまだ話せません。沼さんは8年前に亡くなりました。沼さんの本当の正体を知っているのは僕だけです。 ──そこをもう少しお願いします。沼正三=新潮社の社員校閲者だった天野哲夫説、東京高等裁判所の判事だった倉田卓次説……など、いろんな説が流れました。 康 天野さんが沼正三の代理人だったことは事実です。面白い話をしましょう。沼さんが亡くなったときに、僕から共同通信の記者に情報を流したんです。その記者は『家畜人ヤプー』の熱心なファンだったので、彼に沼正三の死亡記事を書かせようと思ったわけです。ところがその記者の上司が「また康にハメられるぞ」と言い出し、なかなかOKしなかった。結局、記事は掲載されましたが、それは世にも奇妙な死亡記事でした。記者は共同通信社のスクープ賞をもらったそうです。 ──沼正三の代理人を名乗っていた天野哲夫さんは、2008年11月30日に亡くなっています。やはり沼正三=天野哲夫なのか、それともまだ秘密が隠されているのか? 康 こう考えていただきたい。『家畜人ヤプー』はコラボレーションから生まれた作品だと。当時の高等裁判所の主席判事だった倉田卓次さんは、雑誌「諸君!」(82年11月号)で“覆面作家は東京高裁判事”という記事が出て、そのせいで最高裁判所の裁判官になることが決まっていたのに、流れてしまったんです。でも彼はそのことを恨んではいなかった。彼自身は「僕は書いていません」と言うだけでしたが、僕は「倉田さんは関係ない」とは一度も言っていません。彼が作者ではないことは事実ですが、英語でいうところのバイタルロール、とても重要な役割を果たしています。だからコラボレーションなんです。倉田さん以外にも関わっている人物はいますが、まだ存命で、社会的地位もあるので実名を出すことはできません。僕に何かあったときには真相が分かるようにと、遺書を弁護士に預けています。 ──いずれにしろ『家畜人ヤプー』が映画化されたときは、「猪木vs.アリ」戦のように世界中に衝撃が走ることになりそうですね。 康 そうです。『家畜人ヤプー』のフランス語版、中国語版はすでに出版されています。中国語版は台湾だけでの発売だけど、一説によると中国大陸では地下出版され、2,000万部の大ベストセラーになっているらしい。契約していたNYの出版社が倒産して立ち消えになっていた英語版も、近いうちに出版される予定です。どうか楽しみにしていてください。 (文=長野辰次/写真=尾藤能暢) ●康芳夫(こう・やすお) 1937年生まれ、東京都出身。東京大学在学中に五月祭の企画委員長を務める。大学卒業後、興行師・神彰のもとでソニー・ロリンズなどの呼び屋として活躍。独立後はモハメド・アリ対マック・フォスター戦、トム・ジョーンズの来日公演を実現させた。1973年は石原慎太郎を隊長にした「国際ネッシー探検隊」、76年はオリバー君の日本招聘とアントニオ猪木対モハメド・アリの異種格闘技戦のコーディネーターとして注目を集めた。また、70年にはSF・SM小説『家畜人ヤプー』を単行本化し、原作者・沼正三から映像化権をはじめとする全権を委任されている。2016年には著名人との対談のほかに沼正三の生原稿なども収録した『虚人と巨人 国際暗黒プロデューサー康芳夫と各界の巨人たちとの響宴』(辰巳出版)を上梓している。 http://yapou.club
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■映画『干支天使チアラット』 原作/中川ホメオパシー 脚本/海神える、河崎実 監督/河崎実  出演/希崎ジェシカ、辰巳ゆい、友田彩也香、掟ポルシェ、ルノアール兄弟、ベッド・イン、姫乃たま、康芳夫 製作・配給/リバートップ 9月3日(日)渋谷ユーロスペースにて舞台挨拶つき上映イベントあり

戦国史上最大の決戦に見る日本社会の原風景とは? “三成”加藤剛vs“家康”森繁の超豪華版『関ヶ原』

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8月23日(水)よりDVD&ブルーレイが発売されるTBS版『関ヶ原』。加藤剛、森繁久彌ほか超豪華キャストが出演。
 司馬遼太郎原作、原田眞人監督の映画『関ヶ原』が8月26日(土)から劇場公開される。1600年に石田三成を中心にした西軍と徳川家康率いる東軍とが激突した戦国史上最大の野戦として知られる関ヶ原の戦いは、両軍合わせて20万人近くが動員されたスケールの大きさから映像化は困難とされてきた。NHK大河ドラマ『真田丸』では、関ヶ原での決戦シーンはわずか1分足らずで済まされてしまったほど。真っ正面から描くことが難しいこの題材を、『クライマーズ・ハイ』(08)や『日本のいちばん長い日』(15)など群像劇を得意とする原田監督は、三成=岡田准一、家康=役所広司というキャスティングで映画化に漕ぎ着けている。だが、司馬遼太郎の『関ヶ原』の映像化はこれが初めてではない。1981年にTBSが三夜連続でドラマ化しており、TBS版『関ヶ原』は“奇跡のキャスティング”と謳われるほどの超オールスターキャストだった。  天下人・豊臣秀吉の没後、豊臣政権を守るために立ち上がる石田三成に、当時42歳で三成とほぼ同年齢だった加藤剛。そして三成の片腕となる侍大将・島左近に三船敏郎。TBS時代劇『大岡越前』でおなじみだった加藤剛と黒澤映画で大活躍した国際派スター・三船敏郎がタッグを組むという贅沢な顔合わせだった。豊臣方の大名たちを籠絡してしまう古狸の徳川家康には、日本芸能界のドン・森繁久彌。そして、家康の腹心の部下・本多正信には演技派・三國連太郎(佐藤浩市のパパ)。この2人が耳打ちしているだけで、物凄く腹黒い陰謀が張り巡らされているような気がしてならない。加藤剛&三船敏郎vs森繁&三國連太郎という、原作小説のイメージにとても忠実な配役。映画版では有村架純が演じた三成の愛妾・初芽には、当時28歳だった松坂慶子が起用され、加藤剛とのベッドシーンを演じている。
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徳川家康役の森繁久彌と軍師・本多正信役の三國連太郎。この2人がコソコソ話していると、悪企みとしか思えない。
 他にも“文治派”の三成を嫌う“武断派”の福島正則に丹波哲郎、加藤清正に藤岡弘。親友の三成に命を預ける大谷吉継に高橋幸治、西軍の主力となる宇喜多秀家に三浦友和。そして合戦のキーパーソンとなる小早川秀秋に、『岸辺のアルバム』(77年)で注目を集めた国広富之。さらには北政所に杉村春子、淀殿に三田佳子……、という当時の人気俳優&実力俳優が目白押し。TBS30周年記念ドラマとはいえ、よくこれだけのキャスティングができたものだと感心してしまう。1600年の関ヶ原の戦いと同様に、TBS版『関ヶ原』もその時代のめぼしい俳優たちを総動員したかのようだ。“山内一豊”千秋実に手柄を横取りされる“堀尾忠氏”角野卓造など、細かい配役にまで目が行き届いている。  映画版『関ヶ原』が上映時間2時間29分でタイトにまとめているのに対し、TBS版は第1話『夢のまた夢』1時間50分、第2話『さらば友よ』1時間50分、第3話『男たちの祭り』2時間50分、トータル6時間30分という大長尺。映画版では見送られた名エピソードの数々が、TBS版には収められている。中でも有名なのは、家康が三成たち西軍と激突する前に、東軍側の大名たちを一堂に集めた「小山評定」。家康が率いた東軍は、実は豊臣家に恩顧のある大名たちを主力にした連合軍だった。福島正則らは三成を嫌ってはいたが、東軍としての結束力には疑問が残る。そこで家康は「小山評定」の前夜、福島正則と仲のよい黒田長政を使って入念な根回しを行なっていた。
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三成(加藤剛)を慕う初芽役の松坂慶子は、1979年に主演したTBSドラマ『水中花』のバニーガール役で大人気を博した。
 事前の打ち合わせによって、福島正則は「小山評定」が始まるやいなや、家康側に就くことを大声で表明し、迷っていた他の大名たちもいっきに家康陣営に流れ込むことになる。「小山評定」のシーンを見ていると、大事な会議ほど声のデカい奴がその場をまとめてしまうというこの世の真理を実演してみせた福島正則役の丹波哲郎、家康の政治家としてのしたたかさを貫禄演技で示した森繁という、昭和の名優たちの存在感が印象に残る。  そして、いよいよ関ヶ原の決戦シーン。「義のために戦う」という加藤剛演じる颯爽とした三成、その横に三船敏郎演じる頼もしい島左近が仕えていると、西軍こそが正規軍で、ひょっとして西軍が勝つんじゃないのと思えてくるほど。ただし西軍のウィークポイントは、三成の「自分は正義のために戦う。そんな自分を裏切る人間がこの世にいるはずがない」という猛烈な思い込み。頭がよく、理に適ったことしか口にしない三成だったが、人間の心がいかに弱いかを知り尽くしていた家康のような徹底した現実主義者ではなかった。合戦の序盤は、宇喜多軍や大谷軍の奮闘もあり西軍優位だったものの、西軍側であるはずの毛利軍、吉川軍、島津軍は、それぞれの陣営から一歩も出ずに両軍の激突をじっと静観しているだけだった。日本をまっぷたつに分けた関ヶ原の戦いだが、実際に戦場で血を流しているのは秀吉子飼いの大名たち同士だった。  自分こそが正義であり、正義は必ず勝つと信じ込んでいた三成。事前の根回しによって、東軍の勝利を揺るぎないものにしていた家康。関ヶ原の戦いに出陣したにもかかわらず、最後まで態度をはっきりさせなかった毛利軍、吉川軍、島津軍……。戦国史上最大の野戦となった関ヶ原の戦いは、戦国時代の幕引きの場となったが、そこには現代の日本社会へと繋がる原風景が広がって見える。根回しや談合を得意とした家康に敗れた三成だが、最期の最期に小さな“義”に触れることになる。戦国武将とは思えない三成の真っ正直な人柄を描いたこのエピローグは、実に感動的だ。『高原にいらっしゃい』(76年)の高橋一郎、『ふぞろいの林檎たち』(83年)の鴨下信一というTBSを代表する名ディレクター2人が演出した36年前の『関ヶ原』も見応え充分の歴史ドラマである。 (文=長野辰次)
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『関ヶ原』 原作/司馬遼太郎 制作/大山勝美 脚本/早坂暁 音楽/山本直純 演出/高橋一郎、鴨下信一 ナレーション/石坂浩二 出演/加藤剛、森繁久彌、三國連太郎、三船敏郎、松坂慶子、栗原小巻、杉村春子、三田佳子、竹脇無我、藤岡弘、丹波哲郎、三浦友和、国広富之、大友柳太朗、辰巳柳太郎、宇野重吉 収録時間/本編354分 特典映像/司馬遼太郎、森繁久彌、加藤剛が語る『関ヶ原の背景』(1980年収録) (c)TBS ※ 8月23日(水)、キングレコードよりブルーレイ(3枚組 税抜き14400円)とDVD(3枚組 税抜き9300円)発売

クリエイターにとっての作家性と変態性は同義語!? P・バーホーベン監督が本領発揮『エル ELLE』

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イザベル・ユペール主演の官能サスペンス『エル ELLE』。ベテラン女優が主演を張れるのもフランス映画ならでは。
 オランダ出身のポール・バーホーベン監督といえば、『ロボコップ』(87)や『スターシップ・トゥルーパーズ』(97)などのエンタメ作品の中にサディスティックなテイストをこってり盛り込んだことで知られている。自分の中の変態性を作品の中にぶちまけることで人気を博してきた。また、『氷の微笑』(92)のシャロン・ストーンや『ショーガール』(95)のエリザベス・バークレーといった“強い女”を愛して止まない監督でもある。最新作『エル ELLE』(フランス語で彼女の意味)では、『ベティ・ブルー 愛と激情の日々』(86)の作者フィリップ・ディジャンの原作小説を得て、持ち前の変態性をいかんなく発揮してみせている。  当初、原作を読んだバーホーベン監督は米国映画として製作し、ハリウッドの人気女優の起用を考えていた。ところが、「これほどまでに道徳に囚われない映画に出演してくれる米国の女優は、一人もいなかった。僕がよく知っている女優にさえも、『不可能だ』と言われたんだ」(バーホーベン監督)という事態に。そこでヒロイン役に急浮上してきたのが、フランスの大女優イザベル・ユペール。若き日のルトガー・ハウアーがヤリチン芸術家を演じた、バーホーベン監督の初期作『危険な愛』(73)をユペールはお気に入り映画に挙げている。そんな彼女が『エル』の主人公にみずから立候補したことで、フランス上流社会を舞台にしためくるめく倒錯ワールドが映画化されることになった。
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ミッシェル(イザベル・ユペール)はレイプされて黙っている女ではない。射撃の訓練に励み、レイプ犯への逆襲のチャンスを狙う。
 ミッシェル(イザベル・ユペール)はフランスの新鋭ゲーム会社のやり手社長。愛猫と共に豪邸での独身生活を満喫していた。そんなミッシェルの優雅な生活を破壊する異分子が現われる。白昼、目出し帽を被った男がミッシェル宅に侵入し、ミッシェルを力づくで陵辱したのだ。レイプ犯は自分の性欲を満たすと、金品を奪うことなく去っていった。荒らされた部屋を片付け、浴室で体を洗い流したミッシェルは、警察に通報することなく日常生活へと戻っていく。ミッシェルは警察に対して深い不信感を抱いているが、レイプ犯に襲われて泣き寝入りするようなタマでもない。レイプ犯は一体誰か? 唯一の手掛かりは、レイプ犯のチンコだけ。忌わしいチンコの記憶を頼りに、ミッシェルの犯人さがしが始まる。  ミッシェルは犯人の目ぼしをつけようとするも、ミッシェルの目にはすべての男が怪しく思えて仕方がない。ゲーム会社では新作ゲームを製作中のスタッフに徹底的にダメ出しをして、嫌われまくっている。やがて、ミッシェルの会社のパソコンがハッキングされる騒ぎが起きる。親しい人間にしか打ち明けていないレイプ事件のことを、このハッカーは知っているようだ。ミッシェルは自分への絶対忠誠を誓う社員に命じて、社員のパソコンの中身を極秘にチェックさせる。一方、ミッシェルの母親(ジュディット・マーレ)は若い恋人と再婚したいと言い出す。「再婚なんてしたら、殺すわよ」と実の母親を脅すミッシェル。母親の恋人から恨まれている可能性も高い。ミッシェルの別れた夫リシャール(シャルル・ベルリング)は、今も売れない小説家のまま。元夫から逆恨みされているかもしれない。さらには犯人が男とは限らない。ミッシェルと過去に諍いのあった女性が、レイプ犯を差し向けたことも考えられる。女がひとりでバリバリと社会でのし上がっていけば、恨みを買う相手は1人や2人では到底済まない。  ミッシェルのレイプ犯さがしのミステリーとして物語が進んでいくが、途中からどうも様相が変わっていく。性的暴行を受けたミッシェルだが、彼女は同情を求める哀れな被害者ではなく、常に我が道を進むタフな女だ。むしろ、彼女の周囲にいる男たちはエネルギッシュな彼女に振り回され、どんどん人生を狂わせていくことになる。息子のヴァンサン(ジョナ・ブロケ)もそのひとり。母ミッシェルへの依存度が高く、つい最近まで自宅でニート生活を送っていた。恋人のジョジー(アリス・イザーズ)が身籠ったため、家を出て働き始めたが、就職先はファストフード店。まともな父親になれるのか、ミッシェルならずとも心配だ。またミッシェルは会社の共同経営者であり、長年の親友であるアンナ(アンヌ・コンシニ)の夫との火遊びもこっそり楽しんでいる。当然、アンナの家庭も平穏無事では済まない。ミッシェルが放つ強力な磁場のせいで、彼女と関係を持った男たちはことごとくダメ人間となっていく。レイプ犯さがしのはずが、ミッシェルという女の業(カルマ)の深さをあぶり出してく愛欲のドラマへと入れ替わっていく。
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深夜に男性社員の下半身をチェックするミッシェル。社内にレイプ犯がいないか、徹底的に調べ上げる。
 レイプ犯を見つけることができずにいるミッシェルをあざ笑うかのように、再び目出し帽の男がミッシェル宅に現われる。同時進行でミッシェルが警察を呼びたがらない過去の秘密も明かされていく。深い深い業が、ミッシェルというひとりの女性をどうしようもなく突き動かし、そんな彼女に巻き込まれるように、男たちは快楽か身の破滅かのギリギリの瀬戸際に追いやられる危険なゲームに身を投じることになる。 “芸術大国”フランスは、大人の変態映画にはとても寛容だ。大島渚監督の『愛のコリーダ』(76)はフランスからの出資がなければ完成しなかっただろうし、今回の『エル』もフランス映画として製作したことでバーホーベン監督は久々に本領を発揮することができた。ハリウッドが中国市場向けにCG映画に力を注ぎ、日本映画がベストセラーコミックの実写化に血眼になっている中、生きた人間の肉体性にこだわるフランス映画の存在感は、これから大いに増していくに違いない。性愛をディープに描こうとすれば変態プレイに行き着くのは、フランス映画なら当然だろう。  本作のクライマックス、ミッシェルはようやく身に覚えのあるチンコに再会する。レイプ犯の正体を知るミッシェル。それと同時に、ミッシェルの会社で製作を進めていた新作ゲームもついに完成する。ゲーム会社を舞台にした本作は、多重構造のドラマ、一種のメタフィクションにもなっている。78歳(撮影時)になるバーホーベン監督は、自分の中の変態性と強い女性への猛烈な憧れを巧みにドラマ化してみせた。作家性をとことん掘り下げていく行為は、自分の中に潜む変態性もトラウマも、ありのままに肯定するということに他ならない。 (文=長野辰次)
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『エル ELLE』 原作/フィリップ・ディジャン 監督/ポール・バーホーベン 出演/イザベル・ユペール、ロラン・ラフィット、アンヌ・コンシニ、シャルル・ベルリング、ヴィルジニー・エフィラ、ジョナ・ブロケ  配給/ギャガ PG12 8月25日(金)よりロードショー http://gaga.ne.jp/elle (C)2015 SBS PRODUCTIONS – SBS FILMS– TWENTY TWENTY VISION FILMPRODUKTION – FRANCE 2 CINEMA – ENTRE CHIEN ET LOUP
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美少女たちの心は“闇”だらけ!? 「ミスiD 2017」受賞者が本音ぶっちゃける!

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撮影=尾藤能暢
 8月19日(土)~9月1日(金)にキネカ大森で開催される毎年恒例の「夏のホラー秘宝まつり2017」で、梅沢壮一監督の映画『血を吸う粘土』が上映される。  ドラマ『妖怪人間ベム』や映画『桐島、部活やめるってよ』などなど、数々の作品で特殊造型&特殊メイクを手がけてきた梅沢監督だけに、悪魔の粘土「カカメ」がみんなに取り憑いていって……という、造型&メイクにこだわりまくったこの作品。  主演は「ミスiD 2017」グランプリの武田杏香。さらに「ミスiD 2017」を受賞した杉本桃花、藤田恵名、牧原ゆゆが出演する。 ……ということで「ミスiD」の4人に、『血を吸う粘土』&「ミスiD」への思いを語ってもらった。 ■頭ぶっ飛んでるな、この人(監督)
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武田杏香
――今回の『血を吸う粘土』は「夏のホラー秘宝祭り2017」というイベントの一環として作られた映画ですけど、みなさんホラー映画は大丈夫なんですか? 武田 キライです! 昔、怖い話を聞かされて、しばらくお風呂にもひとりで入れなくなったくらいなんで……。 藤田 私も怖いのは本当にダメで……。台本を読んで「どういうこと?」って思いました(笑)。すごいことがいっぱい書いてあるんですよ。やっぱり監督さんが特殊造型出身の方だから、そういうところにはすごくこだわっていて……。「頭ぶっ飛んでるな、この人」と。 杉本 私は大丈夫です。好きでもないですけど、ホラー映画は日本のも海外のも見ていて『saw』みたいなグロいのも平気なんで、台本を読んで「楽しそうだな」って思いました(笑)。
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牧原ゆゆ
――牧原さんは、ホラー映画大好きなんですよね? 牧原 毎日見ています! 本当にホラー映画が好きで、この作品は襲われるだけじゃなくて、自分が怪物に取り憑かれて他人を襲えるというのが楽しみでしたね。いつも見ながら「私だったら、こう演じたいな」なんて考えていたので、今回はサイコパスっぽい感じで演じました。 ――撮影もハードそうでしたけど、大変だったことは? 武田 特殊メイクをして焼かれるシーンがあるんですけど、焼かれる気持ちってわからないじゃないですか。 ――……まあ、そうですね。 武田 監督から「とりあえず苦しんでください」って言われたんで、自分の中で一番低い声を出してうめいたんですけど、なかなかカットかからなくて大変でした。 杉本 私は自分に近い性格の役だったので、演技自体はやりやすかったんですけど、最後まで残って叫んでいるキャラクターだったんで、それが苦しくて……。酸欠になって頭クラクラになっちゃいましたよ。 藤田 撮影に入る前まで髪が明るかったんですけど、「役柄が10代だから、黒くしてくれ」って言われて。せっかくブリーチしてたのに、黒く染めたんですよ……。それがつらかったですね。 ――そこ!? ハムスターを口に入れられたり、いろいろやらされてましたけど。 藤田 もちろん本物のハムスターじゃないですけど、ゴムなのか粘土なのかよくわからない素材のものを口の中に入れられるとは……。「ウソだろー!?」って思ってました(笑)。まあ、普段から「NGなしです」って言ってる手前、「イヤです」とも言えないですから。 牧原 私は男の子の顔についた血をなめるシーンがあったんですけど、人の顔をなめたことがなかったから、どうなめたらいいかわからなくって。それが難しかったです。
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藤田恵名
■「ミスiD」を受けるような子たちは、何かしら闇を抱えていそう ――みなさんの共通点として、「ミスiD」というのがあります。アイドルオーディションとしてはかなり特殊なオーディションだと思いますが、なんで受けようと思ったんですか? 武田 オーディションを受ける1年くらい前に、実行委員長の小林司さんにイベントで呼んでいただいたことがあったので「ミスiD」の存在は知ってたんですが、コネとかがまったくないオーディションだと聞いていたので受けてみたいと思ったんですね。私、オーディションでちゃんと受かったことがないという意識があって、そういうコネがない場所で自分がどう評価されるのか知りたかったんです。 杉本 私はオーディションを受けたのが人生初めてだったんですが、なんで受けたのかって聞かれると……。当時、高校2年生で、将来の話とかで親や先生たちとぶつかることが多くて、「大人は、こんなに話が通じないのか」と悩んでいたんです。そんな時、「ミスiD」の募集要項を読んだら、「なんでもありで、かわいくなくても、スタイルがよくなくてもOKな、固定概念のないオーディションだ」って書いてあったんです。「ここなら自分の中身をちゃんと見てもらえるのかな」と思って応募しました。結果的に、ひねくれている審査員のみなさんをはじめとして、自分のことを理解してくれる人たちと出会えて、いい居場所ができたなと思いました。 ――オーディションの動画では、かなり挙動不審でしたけど、今日はだいぶ普通にしゃべれていますね。 杉本 最近まで本当に家から出られなくて……。こういう仕事をしようと決めてから、「頑張らなくちゃ」って、Twitterとかを頻繁に書くようにしているんですが、まだリハビリの真っ最中です。 ――藤田さんは、「ミスiD」にかなり思い入れがあったようですが。 藤田 「ミスiD」に携わっている、カルチャーに精通した人たちに自分の存在を届けたいって思ったんですよね。昔から女の子の集団って苦手で、いじめられて転校した経験もあるんですけど、「ミスiD」を受けるような子たちは何かしら闇を抱えていそうだから、この人たちの中だったらやっていけるんじゃないかなって。だから「ミスiD獲って、一花咲かせるぞ」とかじゃなくて、「ミスiD」という仲間に入りたかったんです。 牧原 私は以前、AKB48のオーディションを受けてメンバーに選ばれたんですけど、直後に元カレが私との写真を流出させて炎上してしまって、メンバーになれなくて……。その後、別のアイドルグループにも入ったんですけど、体が弱くてそこでやっていくのもキツイということになり、いったん夢をあきらめたんです。その結果、すごくネガティブな情報だけがネットに残ってしまい、挑戦したことがすべてマイナスになってしまったんですね。こんなことなら最初からこの世界に入らなければよかったって思っていたんですけど、「ミスiD」はそんなふうに失敗しても頑張っている姿を見てもらえるオーディションだと感じたので、そこに賭けてみようかなと思いました。 ――オーディションでは自分の病気のことなど、思い切ったカミングアウトもしていましたね。 牧原 そうです。自分にあるものは、いいものも悪いものも全部告白して……。すごく勇気がいったんですけど、その結果、周りの人たちが応援してくれたり、同じような境遇にある人が共感してくれたり。私が失敗してきたことも無駄じゃなかったな、と思えました。
やっぱりみんな闇を抱えてる!? 「ミスiD 2017」受賞者が本音ぶっちゃける!の画像5
杉本桃花
■オーディション中、審査員全員、敵にしか見えなかった ――「ミスiD」界隈には変わった大人がたくさんいると思いますが、その人たちの印象は? 杉本 ホント、みなさんクセしかないですよね。Twitterを見ててもわかるじゃないですか、大森靖子ちゃんとか……。でも、こういう変な人たちだからこそ、モデルや女優に求められる外見的なものとか、そういうのは関係なく審査してくれるだろうなって感じました。過去に受賞した人たちも、そんな固定概念をぶっ壊してきた人だからこそ魅力的だと思えるし、可能性を感じますね。 藤田 私も、もともとは王道な歌手しか聴いてこなかったんですけど、今はサブカルな審査員のみなさんに影響されて、みうらじゅんさんやリリー・フランキーさんみたいになりたいと思っています。 ――だいぶ変な影響受けましたね! 藤田 正直、自分でもどこに行きたいのかわからないんですけど。私の新しい扉を開いてくれるサブカルな人たちは、すごく素敵で……。仕事相手としてはどうなの? って思うところもあるけど、大好きです。 ――武田さんは、サブカルとは縁のなさそうな世界で活動してきた人ですが、どうでしたか? 武田 私は、サブカルはキライですから。なんかジメジメしているイメージ。だからといって、私がキラキラしているというわけではないんですけど、オーディション中も審査員全員、敵にしか見えなかったですね。でも、だからこそ、「信頼できる人たちだな」って思いました。私は、芸能界芸能界しているのが苦手だったので。 ――「ミスiD」を受賞して最初の仕事が今回の映画でしたが、今後はどんな活動をしていきたいですか? 武田 今回の映画のようなお芝居もいいですけど、基本的には音楽を中心に活動していきたいなと思って準備中です。普段、童顔なので幼く見られがちなんですが、性格的にはそんなことは全然ないので。そういう、自分の内面を含めた部分を生かして活動していきたいなと思っています。 杉本 こういう人になりたいというのは今のところなくて、ふんわりしているんですけど、演技をやってみたら楽しかったし、芸能に携わることは今後もやっていきたいですね。 藤田 ずっと音楽をやってきたので、引き続きやっていきたいです。わりと何を言われても断れなくって、ラップをやってみたり、パチスロや麻雀の仕事をやってみたり……。でも、ここまできたら、求められることは自分なりになんでもやっていきたいなと思っています。そして、いつかはコラムとかを書いてみたいです。 ――ああ、やっぱり目標は、みうらさんとリリーさんなんですね。 牧原 私はこの4月に「永遠少女症候群ゆゆ」というソロアイドルとして活動を始めたばっかりで、ソロでやっていくのは本当に難しいなと思っている最中なんです。いろいろと悩んでいることも多いですが、やっぱり芸能は続けていきたいなと思っているんで、頑張りたいです! (取材・文=北村ヂン) ●『夏のホラー秘宝まつり2017』 開催概要 期間:8月19日(土)~9月1日(金) 場所:キネカ大森 料金:新作1500 円、旧作1100 円 公式サイト http://horror-hiho.com Twitter @horror_hiho 提供:キングレコード 配給・宣伝:ブラウニー

破壊神ゴジラに命を吹き込んだ男の汗だく昭和史! CGにはない重みと妙味を感じさせる『怪獣人生』

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『怪獣人生 元祖ゴジラ俳優・中島春雄』(洋泉社)
 2017年8月7日、ゴジラ俳優が亡くなった。1954年に劇場公開された大ヒット映画『ゴジラ』で、怪獣ゴジラのぬいぐるみ役者(スーツアクター)を務めた中島春雄さんが88歳の生涯を終えた。14年に新書版が発売された中島さんの自伝『怪獣人生 元祖ゴジラ俳優・中島春雄』(洋泉社)を読むと、怪獣映画の金字塔となる第1作『ゴジラ』の撮影現場の熱気をありありと感じることができる。 「G作品」と表紙に書かれた奇妙な台本を、東宝撮影所で中島さんが渡されたのは25歳のとき。当時の東宝は所属俳優がおよそ200人いたが、スター級の「Aホーム」と大部屋俳優の「Bホーム」とに分かれていた。「Bホーム」はさらに2つに分かれ、東宝に入って5年目になる中島さんはエキストラや吹替え(スタント)もやるB2の役者だった。  戦争映画『太平洋の鷲』(53)で火だるまになる飛行兵を中島さんが演じたことから本多猪四郎監督に気に入られ、極秘に準備が進んでいた「G作品」の主演に抜擢された。特撮シーンを担当する円谷英二から「キツい仕事だけど、やれるかい?」と尋ねられるが、給料が安いB2の役者にとっては手当てが付くキツい仕事は大歓迎だった。しかも、中島さんは交際中だった奥さんとそろそろ身を固めようと思っていた矢先だった。かくして、中島さんは身長50mの大怪獣という設定のゴジラのぬいぐるみの中に入ることになる。  元祖ゴジラ俳優と呼ばれる中島さんだが、実はゴジラのぬいぐるみには先に入った俳優が存在した。仲間内からテッチャンと呼ばれた手塚勝巳という元プロ野球選手。当時41歳で、大部屋俳優の親分的存在だった。当初はプロ野球出身の体力自慢で年齢も上だったテッチャンが、国会議事堂の破壊シーンなどの目立つ場面が割り当てられたが、撮影が進むにつれて中島さんがゴジラの中に入る時間が増えていく。初期のゴジラのぬいぐるみは尋常ではないほどの重さで、100kgほどあったと言われている。また、一度入ればぬいぐるみの中はサウナ状態で、しかも素材はプラスチックのように固いゴムだったことから動かすことが非常に難しかった。最初のテストの段階でテッチャンが3メートルほど進んだ後に倒れて「とても無理だ!!」と声を荒げたのに対し、中島さんは体中から汗を吹き出しながらも「よーし、もういいよ」と声を掛けられるまで10メートルほど歩いてみせた。中島さんは学生時代に柔道を学び、戦時中は海軍で鍛えられていた。終戦後は食べていくために、どんな仕事でもやった。若くて、仕事を選り好みせず、またどうすれば怪獣らしい表現ができるか研究熱心だった中島さんは、次第 にゴジラと一体化し、スーツアクターの第一人者となっていく。  ぬいぐるみに入ることの大変さを東宝の上層部に訴え、手当てのアップに成功するなど中島さんにとってもありがたい存在だったテッチャンだが、第2作『ゴジラの逆襲』(55)以降は中島さんがメインでゴジラに入るようになり、『モスラ対ゴジラ』(64)の頃にはテッチャンは中島さんのサポート要員に回るようになっていた。ゴジラのぬいぐるみに入った際の2人の微妙な温度差が、中島さんに「元祖ゴジラ俳優」の称号をもたらすことになった。テッチャンのその後消息については不明だ。有名無名を問わず、様々なキャストやスタッフが撮影所に現われては消えていった。大部屋俳優でありながら、ゴジラ役で主演を張り続けた中島さんは希有な存在だったと言えるだろう。  第1作『ゴジラ』で中島さんが入ったゴジラは、銀座和光の時計塔や勝どき橋を豪快に壊してみせた。第1作から第29作『シン・ゴジラ』(16)まで度々にわたって東京を壊滅状態に追い込んだゴジラだが、これまで一度も皇居を破壊したことはない。第1作『ゴジラ』では皇居を迂回するようなコースを辿っている。そのため、ゴジラ=太平洋戦争で散った戦没者たちの魂の集合体とする説が唱えられてきた。だが、実際問題として海軍に所属していた中島さんに、ミニチュアとはいえ皇居を破壊することができただろうか。ゴジラ役にプライドを持ち、上野動物園に通ってアジアゾウ、クマ、ハゲタカなどの動きを1日中観察し、ぬいぐるみの中で汗だくになりながら熱演を続ける中島さんに、本多監督も円谷英二もそんな演出プランが仮にあったとしても、口にはできなかったに違いない。 『ゴジラ』シリーズ以外にも、馬淵薫脚本の名作『空の大怪獣ラドン』(56)、『マタンゴ』(63)、『フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ』(66)などにも出演している中島さん。『怪獣人生』では「オヤジさん」と呼んで慕った円谷英二たちと過ごした撮影所での思い出を楽しげに語っている。本著の中で中島さんの言葉に怒りが滲むのは、70年に円谷英二が亡くなった翌年、東宝が大部屋俳優の一斉リストラを行なったとき。中島さんをはじめ希望者にはボウリング場など東宝の関連会社への再就職が斡旋されたが、社員スタッフは最初から役付きだったのに対し、大部屋俳優たちは平社員としての契約で、薄給を余儀なくされた。同じ映画をつくるために苦労を共にしてきた仲間なのに、社員と契約俳優とで差をつけられたことが中島さんは悔しかった。  でも、晩年の中島さんは大スター級の好待遇を受ける充実した時間を過ごすことになる。初代ゴジラのスーツアクターとして中島さんは海外でも名前を知られ、ハリウッド版『GODZILLA』(98)の公開以降はファンイベントで引っ張りだことなっていく。奥さんや娘さんと共に海外旅行を楽しみ、各地のファンからサイン攻め&握手攻めに逢った体験をにこやかに振り返っている。俳優としてスクリーンに自分の顔が映る機会は少なかったが、ゴジラと一体化したことで中島さんは伝説のスーツアクターとして映画史にその名を刻んだ。  中島さんが最後にゴジラを演じたのは、シリーズ第12作『地球攻撃命令 ゴジラ対ガイガン』(72)だった。『ゴジラ対ガイガン』のラストシーン、怪獣島へと引き揚げていくゴジラは手を挙げて咆哮してみせる。中島さんいわく「ゴジラはこれで終わり」という決め芝居だったそうだ。 (文=長野辰次) ●『怪獣人生 元祖ゴジラ俳優・中島春雄』 著/中島春雄 発行/洋泉社 定価/925円(税別)
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「ダブル主演ではなく、主演は木村拓哉!」二宮和也との共演映画でジャニーズ猛抗議?

「ダブル主演ではなく、主演は木村拓哉!」二宮和也との共演映画でジャニーズ猛抗議? キムタク天下の状況に危機感もの画像1
 元SMAPの木村拓哉が主演する映画『検察側の罪人』(2018年公開)の撮影が順調に進んでいる。木村が演じるのは、東京地検のエリート検事・最上。その後輩・沖野を演じるのは、嵐の二宮和也だ。木村と二宮が俳優として共演するのは本作が初めてだが、裏で2人の扱いについて、ひと悶着あったという。芸能記者が明かす。 「一部メディアが“木村と二宮のダブル主演”と報じたところ、ジャニーズ事務所から『ダブル主演ではない、主演は木村です!』と、強い抗議があったというんです」  確かに公式な発表では木村が主演であり、二宮はあくまで二番手の出演者という扱いだ。ジャニーズサイドの言い分はまったくおかしくないのだが、わざわざ抗議をするほどではないという声も上がっている。 「これくらいであれば、ジャニーズといえども、スルーすることは珍しくない。でも、木村については、話は別。SMAPの解散騒動でイメージが悪くなり、人気低下がささやかれている中、一部では“二宮ありきのキャスティング”だったのではないかともいわれていましたからね。“木村の格が落ちた”みたいな表現はNG。ジャニーズとしては、木村の絶対的地位が崩れるなんてあってはならないことので、しっかりくぎを刺したのだと思います」(同)  ジャニーズがここまで木村の存在感を主張するのには、ワケがある。 「解散騒動で、木村は、ジャニーズの女帝であるメリー喜多川副社長側につきました。飯島マネジャーがいた頃の木村は、ジャニーズ内では“傍流”でしたが、解散騒動を経てメリー副社長直系の“本流”となったわけです。今なおジャニーズ事務所は、メリー副社長の影響力が絶大ですからね。メリーさんの肝いり案件となった木村は、飯島派時代よりも、業界的には、かなり扱いにくい存在になっていると思います」(同)  ジャニーズは木村の“格”を強調していくのかもしれないが、その一方で、今年4月公開の主演映画『無限の住人』は、お世辞にも大ヒットと呼べるような興行収入ではなかった。 「どう考えても、木村の人気はピークを過ぎています。にもかかわらず、ここにきてジャニーズが木村をプッシュするというのは、愚策にほかならない。業界内でも“数字を持ってないキムタクに、気を使う必要はないな”と、ジャニーズからの圧力を無視し始める関係者も増えているとか。このまま“キムタク天下”の状況を続けるというのであれば、木村の不人気とともに、ジャニーズの影響力も低下していくのではないかといわれています」(同)  もし『検察側の罪人』が大コケしたら、「主演・木村拓哉」が戦犯となることは間違いないだろう。「“二宮とのダブル主演”ということにしておけば、よかったのに……」とならなければよいが……。