ホロコースト犠牲者と加害者の孫同士が禁断の愛!? タブーを破る『ブルーム・オブ・イエスタディ』

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ナチの戦争犯罪を現代的視点から見つめ直したドイツ映画『ブルーム・オブ・イエスタディ』。主人公たちの禁断の恋の行方は?
 ナチスによる戦争犯罪やホロコーストを題材にした映画は、これまでにもスティーヴン・スピルバーグ監督の『シンドラーのリスト』(93)やロマン・ポランスキー監督の『戦場のピアニスト』(02)など、多くの実録作品が作られてきた。ナチスの非道さと過酷な状況を懸命にサバイバルするユダヤ系の人々の生き様を描いたものがほとんどだ。ところが、ドイツ人のクリス・クラウス監督が現代的視点から撮った『ブルーム・オブ・イエスタディ』は、ナチスの戦争犯罪とホロコーストを扱いながらも、これまでの戦争悲話とはまったく異なるアプローチを試みている。なんと、ナチ戦犯の孫息子とホロコースト被害者の孫娘が出逢い、禁断の恋に墜ちていくラブコメディなのだ。  ホロコーストものは悲劇にしかなりえず、ナチ関係者は徹底的に断罪されなくてはならない。そんな我々の思い込みを、本作は大きく覆してみせる。主人公はドイツのホロコースト研究所に勤める中年オヤジのトト(ラース・アイディンガー)。ナチス親衛隊(SS)だった祖父を告発した著書を発表したことで世間からは評価されていたが、家族には勘当された身だった。妻とのSEXライフにも問題を抱えている。情緒不安定なトトは2年間にわたって準備を進めてきたアウシュヴィッツ会議のリーダーから外されてしまい、代わりに選ばれた同僚のバルタザール(ヤン・ヨーゼフ・リーファース)と職場で殴り合いの大喧嘩をやらかしてしまう。雑用係に回されたトトは、フランスからやってきた研修生のザジ(アデル・エネル)の面倒を看ることになる。  ザジは明るく、ユーモア好きな女性だが、ユダヤ人の祖母をホロコーストで失っていた。ナチ戦犯の祖父を持ち、すべての物事を悲観的に考えてしまう頭の固いトトとは真逆の存在だった。開催が危ぶまれるアウシュヴィッツ会議を成功させるため、トトはザジを連れてスポンサー回りへ。ちぐはぐな2人は常に口論が絶えないが、ネオナチにトトが襲われたことをきっかけに2人の心の距離はぐっと縮まる。ホロコースト問題を異なる立場から見つめてきた2人は、ナチスが大虐殺を行なったラトビアの首都リガを訪ねた際、宿泊先のホテルで男女の関係を結ぶことに──。
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頭の固いトト(ラース・アイディンガー)と楽天家のザジ(アデル・エネル)は、喧嘩を繰り返しながら仲を深めていく。
 ユダヤ人大量殺戮をリアルに再現した『シンドラーのリスト』のスピルバーグ監督はユダヤ系米国人であり、『戦場のピアニスト』のポランスキー監督は母親を強制収容所で亡くし、自身も収容所送りになる寸前のゲットーから逃げ出した体験を持っている。どちらも当事者だから描くことができた、シリアスなドラマだった。その点に関しては、『ブルーム・オブ・イエスタディ』も面白半分で作られた企画ではない。クリス監督自身がドイツ史について調べていく中で、ラトビアのユダヤ人虐殺にクリス監督の祖父が関わっていたことを知り、大きな衝撃を受けたことが本作の企画の発端となっている。以下はドイツにいるクリス監督からのスカイプでのコメントだ。 「祖父が戦時中にSSだったことは知っていました。でも、まさか虐殺に直接的に関わっていたとは、僕も僕の家族も思いもしなかった。祖父は生前、SSだった頃の話をすることはありませんでした。あるとき、僕の友人が渡してくれた歴史書を開いていたら、祖父と同じ名前が出ていたので、気になって調べてみると、それは僕の祖父で、虐殺に関わっていたことが分かったんです。そのときは、すでに祖父は亡くなっていたので、祖父の口からそのことを聞くことはできませんでした。映画の中のトトは祖父が虐殺に加担していたことを知り、贖罪の意識からホロコーストの研究を始めています。主人公のトトは僕自身がモデルであり、この映画は僕の家族の物語でもあるんです。もちろん、映画では誇張されたキャラクターになっているので、僕はトトほどエキセントリックじゃないし、トト夫婦のようなSEXについての深刻な問題も抱えてはいません(笑)」  ナチスの戦争犯罪と主人公たちのSEXに関わる問題が、ひとつの作品の中で同時に語られる点も非常にユニーク。クリス監督いわく「死と生にまつわる映画」とのことだ。また、フランスからドイツにやってきたザジは、ベンツ車で空港まで迎えにきたトトに向かって「祖母はベンツのガス・トラックに乗せられて死んだのよ」とベンツ車に乗ることを拒むなど、ドイツの自動車メーカーをネタにするなどのブラックジョークも散りばめられている(※実際のガス・トラックはベンツではなく、ザジの思い込み)。テレビ放映されることを前提に作られている日本の製作委員会方式の映画では、まずありえないギャグだろう。 「ベンツのギャグは欧州では大ウケでした。シナリオ段階で弁護士に確認してもらって、法的に問題にならないギリギリのところを狙ったんです(笑)。もちろん、この映画は製作準備段階では、多くの人たちから『クレイジーな企画だ』と言われ、資金集めはすごく難航しました。でも、この映画は僕にしか撮れない作品であり、僕が歴史について充分な知識があることを理解してくれた人たちの協力を得て、完成させることができたんです。映画を観た人の中には抵抗を感じる人もいるかもしれませんが、でも賛否両論あったほうが『よし、これからもっと頑張ろう』という気に監督はなるもの。うれしかったのは、ロシアで上映された際にユダヤ系の団体から『ドイツ人がこれまでにない新しいスタイルでホロコーストに向き合った作品だ』と評価してくれたことですね」
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物語の後半、ザジたちはラトビアの首都リガへ。この街の外れにあるルンブラの森で2万5,000人以上のユダヤ人が殺された。
 ナチスをめぐる問題といえば、日本では人気アイドルグループの「欅坂46」が昨年行われたハロウィンライブのステージで着ていた衣装がナチス風だったことが問題視され、米国のユダヤ系人権団体「サイモン・ウィーゼンタール・センター」から抗議されたことが記憶に新しい。これは「欅坂46」をプロデュースする側の歴史認識のなさが招いたトラブルだが、一方のドイツでは同じ歴史の過ちを繰り返してはならないと、ナチスドイツがどのようにして生まれ、何をしたのかを学ぶ歴史授業に多くの時間が割かれていることが知られている。だが、その反動から、「歴史の授業には飽きた」「ホロコーストのことなら、もう充分知っている」という倦怠感も流れているそうだ。  ホロコーストを題材にした映画は数多く作られてきたが、クリス監督によれば、どんな展開が待っているのか先が読まれてしまうような作品は、テーマとしてすでに死んでしまっているとのこと。また、ナチ戦犯の子孫とホロコースト被害者の子孫とが交流を持つことは決して絵空事ではないとも語る。 「ホロコースト関係者たちの子孫は、被害者側も加害者側も先祖が戦争をどのように過ごしたのかに興味を持って、欧州各地にある資料館や史跡を訪ねて回ることが多いんです。行く先々で同じ顔に出逢うことで、言葉を掛けるようになり、ジョークを言い合うような関係になっているのを僕自身が見てきましたし、交際に発展するケースもあると聞いています。でも、若い世代たちが古い歴史には興味が持てなくなってきているのも事実。若い世代が関心を示す、新しい方法で歴史を伝える必要がある。そんな時代の転換期に直面しているように僕は感じるんです」  終戦からすでに70年以上の歳月が経つ。過去を変えることはできないが、現代を生きる当事者たちが新しい関係を築くことができれば、未来は大きく変わっていく。不幸な出来事があった土地にも、種を蒔き、水を与えれば、いつか花が咲くこともあるかもしれない。クリス監督の新しいアプローチと、トトとザジとの禁断の恋の行方に注目したい。 (文=長野辰次)
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『ブルーム・オブ・イエスタディ』 監督・脚本・プロデューサー/クリス・クラウス 出演/ラース・アイディンガー、アデル・エネル、ヤン・ヨーゼフ・リーファース、ハンナー・ヘルツシュプルング 配給/キノフィルムズ・木下グループ R15+ 9月30日(土)より渋谷Bunkamuraル・シネマほか全国順次ロードショー (c) 2016 Dor Film-West Produktionsgesellschaft mbH / FOUR MINUTES Filmproduktion GmbH / Dor Filmproduktion GmbH http://bloom-of-yesterday.com
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『パンドラ映画館』電子書籍発売中! 日刊サイゾーの人気連載『パンドラ映画館』が電子書籍になりました。 詳細はこちらから!

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ナチの戦争犯罪を現代的視点から見つめ直したドイツ映画『ブルーム・オブ・イエスタディ』。主人公たちの禁断の恋の行方は?
 ナチスによる戦争犯罪やホロコーストを題材にした映画は、これまでにもスティーヴン・スピルバーグ監督の『シンドラーのリスト』(93)やロマン・ポランスキー監督の『戦場のピアニスト』(02)など、多くの実録作品が作られてきた。ナチスの非道さと過酷な状況を懸命にサバイバルするユダヤ系の人々の生き様を描いたものがほとんどだ。ところが、ドイツ人のクリス・クラウス監督が現代的視点から撮った『ブルーム・オブ・イエスタディ』は、ナチスの戦争犯罪とホロコーストを扱いながらも、これまでの戦争悲話とはまったく異なるアプローチを試みている。なんと、ナチ戦犯の孫息子とホロコースト被害者の孫娘が出逢い、禁断の恋に墜ちていくラブコメディなのだ。  ホロコーストものは悲劇にしかなりえず、ナチ関係者は徹底的に断罪されなくてはならない。そんな我々の思い込みを、本作は大きく覆してみせる。主人公はドイツのホロコースト研究所に勤める中年オヤジのトト(ラース・アイディンガー)。ナチス親衛隊(SS)だった祖父を告発した著書を発表したことで世間からは評価されていたが、家族には勘当された身だった。妻とのSEXライフにも問題を抱えている。情緒不安定なトトは2年間にわたって準備を進めてきたアウシュヴィッツ会議のリーダーから外されてしまい、代わりに選ばれた同僚のバルタザール(ヤン・ヨーゼフ・リーファース)と職場で殴り合いの大喧嘩をやらかしてしまう。雑用係に回されたトトは、フランスからやってきた研修生のザジ(アデル・エネル)の面倒を看ることになる。  ザジは明るく、ユーモア好きな女性だが、ユダヤ人の祖母をホロコーストで失っていた。ナチ戦犯の祖父を持ち、すべての物事を悲観的に考えてしまう頭の固いトトとは真逆の存在だった。開催が危ぶまれるアウシュヴィッツ会議を成功させるため、トトはザジを連れてスポンサー回りへ。ちぐはぐな2人は常に口論が絶えないが、ネオナチにトトが襲われたことをきっかけに2人の心の距離はぐっと縮まる。ホロコースト問題を異なる立場から見つめてきた2人は、ナチスが大虐殺を行なったラトビアの首都リガを訪ねた際、宿泊先のホテルで男女の関係を結ぶことに──。
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頭の固いトト(ラース・アイディンガー)と楽天家のザジ(アデル・エネル)は、喧嘩を繰り返しながら仲を深めていく。
 ユダヤ人大量殺戮をリアルに再現した『シンドラーのリスト』のスピルバーグ監督はユダヤ系米国人であり、『戦場のピアニスト』のポランスキー監督は母親を強制収容所で亡くし、自身も収容所送りになる寸前のゲットーから逃げ出した体験を持っている。どちらも当事者だから描くことができた、シリアスなドラマだった。その点に関しては、『ブルーム・オブ・イエスタディ』も面白半分で作られた企画ではない。クリス監督自身がドイツ史について調べていく中で、ラトビアのユダヤ人虐殺にクリス監督の祖父が関わっていたことを知り、大きな衝撃を受けたことが本作の企画の発端となっている。以下はドイツにいるクリス監督からのスカイプでのコメントだ。 「祖父が戦時中にSSだったことは知っていました。でも、まさか虐殺に直接的に関わっていたとは、僕も僕の家族も思いもしなかった。祖父は生前、SSだった頃の話をすることはありませんでした。あるとき、僕の友人が渡してくれた歴史書を開いていたら、祖父と同じ名前が出ていたので、気になって調べてみると、それは僕の祖父で、虐殺に関わっていたことが分かったんです。そのときは、すでに祖父は亡くなっていたので、祖父の口からそのことを聞くことはできませんでした。映画の中のトトは祖父が虐殺に加担していたことを知り、贖罪の意識からホロコーストの研究を始めています。主人公のトトは僕自身がモデルであり、この映画は僕の家族の物語でもあるんです。もちろん、映画では誇張されたキャラクターになっているので、僕はトトほどエキセントリックじゃないし、トト夫婦のようなSEXについての深刻な問題も抱えてはいません(笑)」  ナチスの戦争犯罪と主人公たちのSEXに関わる問題が、ひとつの作品の中で同時に語られる点も非常にユニーク。クリス監督いわく「死と生にまつわる映画」とのことだ。また、フランスからドイツにやってきたザジは、ベンツ車で空港まで迎えにきたトトに向かって「祖母はベンツのガス・トラックに乗せられて死んだのよ」とベンツ車に乗ることを拒むなど、ドイツの自動車メーカーをネタにするなどのブラックジョークも散りばめられている(※実際のガス・トラックはベンツではなく、ザジの思い込み)。テレビ放映されることを前提に作られている日本の製作委員会方式の映画では、まずありえないギャグだろう。 「ベンツのギャグは欧州では大ウケでした。シナリオ段階で弁護士に確認してもらって、法的に問題にならないギリギリのところを狙ったんです(笑)。もちろん、この映画は製作準備段階では、多くの人たちから『クレイジーな企画だ』と言われ、資金集めはすごく難航しました。でも、この映画は僕にしか撮れない作品であり、僕が歴史について充分な知識があることを理解してくれた人たちの協力を得て、完成させることができたんです。映画を観た人の中には抵抗を感じる人もいるかもしれませんが、でも賛否両論あったほうが『よし、これからもっと頑張ろう』という気に監督はなるもの。うれしかったのは、ロシアで上映された際にユダヤ系の団体から『ドイツ人がこれまでにない新しいスタイルでホロコーストに向き合った作品だ』と評価してくれたことですね」
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物語の後半、ザジたちはラトビアの首都リガへ。この街の外れにあるルンブラの森で2万5,000人以上のユダヤ人が殺された。
 ナチスをめぐる問題といえば、日本では人気アイドルグループの「欅坂46」が昨年行われたハロウィンライブのステージで着ていた衣装がナチス風だったことが問題視され、米国のユダヤ系人権団体「サイモン・ウィーゼンタール・センター」から抗議されたことが記憶に新しい。これは「欅坂46」をプロデュースする側の歴史認識のなさが招いたトラブルだが、一方のドイツでは同じ歴史の過ちを繰り返してはならないと、ナチスドイツがどのようにして生まれ、何をしたのかを学ぶ歴史授業に多くの時間が割かれていることが知られている。だが、その反動から、「歴史の授業には飽きた」「ホロコーストのことなら、もう充分知っている」という倦怠感も流れているそうだ。  ホロコーストを題材にした映画は数多く作られてきたが、クリス監督によれば、どんな展開が待っているのか先が読まれてしまうような作品は、テーマとしてすでに死んでしまっているとのこと。また、ナチ戦犯の子孫とホロコースト被害者の子孫とが交流を持つことは決して絵空事ではないとも語る。 「ホロコースト関係者たちの子孫は、被害者側も加害者側も先祖が戦争をどのように過ごしたのかに興味を持って、欧州各地にある資料館や史跡を訪ねて回ることが多いんです。行く先々で同じ顔に出逢うことで、言葉を掛けるようになり、ジョークを言い合うような関係になっているのを僕自身が見てきましたし、交際に発展するケースもあると聞いています。でも、若い世代たちが古い歴史には興味が持てなくなってきているのも事実。若い世代が関心を示す、新しい方法で歴史を伝える必要がある。そんな時代の転換期に直面しているように僕は感じるんです」  終戦からすでに70年以上の歳月が経つ。過去を変えることはできないが、現代を生きる当事者たちが新しい関係を築くことができれば、未来は大きく変わっていく。不幸な出来事があった土地にも、種を蒔き、水を与えれば、いつか花が咲くこともあるかもしれない。クリス監督の新しいアプローチと、トトとザジとの禁断の恋の行方に注目したい。 (文=長野辰次)
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『ブルーム・オブ・イエスタディ』 監督・脚本・プロデューサー/クリス・クラウス 出演/ラース・アイディンガー、アデル・エネル、ヤン・ヨーゼフ・リーファース、ハンナー・ヘルツシュプルング 配給/キノフィルムズ・木下グループ R15+ 9月30日(土)より渋谷Bunkamuraル・シネマほか全国順次ロードショー (c) 2016 Dor Film-West Produktionsgesellschaft mbH / FOUR MINUTES Filmproduktion GmbH / Dor Filmproduktion GmbH http://bloom-of-yesterday.com
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障害者も健常者も関係ない! リリー・フランキーと清野菜名が不器用に愛を叫ぶ!!

障害者も健常者も関係ない! リリー・フランキーと清野菜名が不器用に愛を叫ぶ!!の画像1
(c)2017「パーフェクト・レボリューション」製作委員会
 9月29日より全国公開される映画『パーフェクト・レボリューション』は、幼いころに脳性麻痺を患い、手足を自由に動かすことができなくなったクマ(リリー・フランキー)と、人格障害を抱えた風俗嬢のミツ(清野菜名)が、互いの障害を乗り越えて本当の幸せをつかもうとする物語だ。  クマのモデルとなったのは、脳性麻痺を抱えながら障害者の性への理解を訴える活動を続ける熊篠慶彦氏。そして本作の監督を務めたのが、東京大学工学部建築学科卒ながら、吉本総合芸能学院(NSC)12期生という、異色の経歴を持つ松本准平氏だ。  そんな松本氏と、本作の企画の段階から関わり、クマの従弟・東海林二郎役として出演した増田俊樹氏に見どころを聞いた。 *** ――非常にエッジの効いた映画ですが、どういうキッカケで企画を? 松本 増田と熊篠さんが旧知の中で、紹介してもらったのがきっかけです。そのとき、熊篠さんが障害者の映画を作りたいと話していて、そこから話が進んだんです。僕は当初、プロデューサーとして入る予定でした。 ――それが、なぜ監督を? 松本 仕事仲間にお願いしてプロットを書いてもらったんですが、それを読んだとき、ちょっと違うなあと感じたんですね。そのプロットは健常者から見た障害者問題だったんですが、この映画をやるなら、熊篠さんを等身大でナチュラルに描かないといけない。そう考え、自分でやろうと思い始めたんです。 ――それは松本監督ご自身が、熊篠さんと接するうちに、熊篠さんのことを障害者ではなくて、一人の友人として接するようになったからということでしょうか? 松本 そうですね。世間一般には、障害者というと、『24時間テレビ』(日本テレビ系)で目にするような障害者像を思い描かれるかもしれません。聖人君子的で、言い方は悪いかもしれないけれど、感動ポルノ的に理解しているケースも多いと思います。でも、モデルとなった熊篠さん自身は「障害者だってセックスをしたい」と、障害者の性問題を世間に訴えている。こうしたことから考えても、この映画を作るに当たっては、障害者と健常者を分け隔てちゃダメなんです。そこで、友人がじかに体験した恋愛物語をベースにして、その目線で話を作って撮りました。 ――映画の中のクマは、皮肉屋でリアリストですが、ミツと出会ってから変わっていきますね。 松本 今の時代、いろんなことにあきらめていたり、不自由なものを抱えている人がたくさんいると思います。本作は障害者同士が恋をする話ですが、この不自由な感じって、健常者の人も同様に持っているテーマだと思うんです。ただ、クマとミツは、普通の人よりもより多くの困難を抱えているだけで。 ――ラストは印象的ですね。 松本 試写会をご覧になった方からは賛否両論が出ていますが、僕はラストにはありがちな<物語の結末>を描くのではなく、「この瞬間、あなただったらどうする?」と観客に問いかけるものにしたかったんです。「ここから先は、あなたのストーリーですよ」って。
障害者も健常者も関係ない! リリー・フランキーと清野菜名が不器用に愛を叫ぶ!!の画像2
左から増田俊樹氏、松本准平氏
■不器用で不細工、だからかっこいい ――映画では、リリー・フランキーさんがクマを演じられていますね。 松本 リリーさんは、クマのモデルとなった熊篠さんとロフトプラスワンのトークショーなどで親交を重ね、長年の付き合いがありました。こうしたこともあって、僕が「熊篠さんの実話を元にした映画を考えている」と話したときに、すごく興味を持ってくれたんです。僕はリリーさんのユーモアをまぶした性格とか、顔立ちとかも熊篠さんと似ていると思っていたから、クマはリリーさんが演じるしかないと企画当初から思っていました。リリーさんは一見クールに見えるけれど、実は熱い人です。リハーサルのたびに2人で飲みに行って、脚本のことを語り合っていましたね。例えば、熊篠さんは普段、「夢は立ちバックで」って言ってるんですけれど、リリーさんは「ここは映画に入れたい」と言ったことから、脚本に盛り込んだりもしました。 増田 僕は長い間、ロフトプラスワンでトークライブの企画を手掛けてきて、リリーさんも熊篠君もずっと近くで見てきた人間なんですけど、撮影中のリリーさんからは少し違ったオーラが漂っていました。熊篠君が現場を訪れた際、電動車椅子に乗ったままの2人を遠目に見ると、どっちがどっちだか見分けがつかないくらい似ていましたよね。松本監督が描こうとする突き抜けた世界観に、一表現者として懸命に応えるリリーさんの姿勢が、とても素敵でした。 ――清野菜名さんとの相性は、どうでしたか? 松本 リリーさんと清野さんは本当に仲が良くて、最後のほうは本当にクマとミツのようでした。そんな2人の雰囲気が映画の画面にも表れ、僕が想像していたよりも生き生きとしたクマとミツになったんです。おかげで演出が楽でしたね。待ち時間に、2人でよくわからないCMソングを歌っていたんですが、それがやけに耳に残っています(笑)。 ――松本監督はキリスト教徒ということもあり、これまで『まだ、人間』や『最後の命』などの作品に、自身の思想を色濃く反映させていました。そこが一部で難解とも称される作風になっていましたが、今回はダイレクトに人間の生きざまを描き、エンタテインメント色が非常に強い作品になっています。 松本 そうですね。今回は、誰もが楽しむことのできるエンタテインメントであること、そしてポップであることを心がけました。ポップっていうのは、ダサさだと思うんですよね。かっこいいだけだど、ポップにならない。どこかダサくないと。その不器用さとか、不細工さが、この作品にマッチすると思ったんです。まず、タイトルが『パーフェクト・レボリューション』なんですけれど、このタイトルはダサさがあると思うんですね。ミツが「革命を起こす」と言ってるのも、実はダサい。カメラもほぼ手持ちでしたが、かっこよく撮ろうという意識もありませんでした。単純に人間としてクマとミツが向き合って、ぶつかり合うというところで作っていきました。そんな2人の生き方は不器用だけれど、泥まみれになってもがいているから、逆に一番かっこいいと思うんです。今のように息苦しい時代、そんな2人の生き方が、お客さんの心にどう響くのか、とても楽しみな半面、興行的な成否も気になってプレッシャーにもなっていますよ(苦笑)。 (取材・文=井川楊枝) ●『パーフェクト・レボリューション』 9月29日(金)よりTOHOシネマズ新宿ほか全国ロードショー 監督・脚本 松本准平  企画・原案 熊篠慶彦 出演 リリー・フランキー、清野菜名、小池栄子、岡山天音、丘みつ子、下村愛、増田俊樹、螢雪次朗、石川恋、榊英雄、余貴美子 ほか 配給/東北新社 PG12  (c)2017「パーフェクト・レボリューション」製作委員会 http://perfect-revolution.jp/

障害者も健常者も関係ない! リリー・フランキーと清野菜名が不器用に愛を叫ぶ!!

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(c)2017「パーフェクト・レボリューション」製作委員会
 9月29日より全国公開される映画『パーフェクト・レボリューション』は、幼いころに脳性麻痺を患い、手足を自由に動かすことができなくなったクマ(リリー・フランキー)と、人格障害を抱えた風俗嬢のミツ(清野菜名)が、互いの障害を乗り越えて本当の幸せをつかもうとする物語だ。  クマのモデルとなったのは、脳性麻痺を抱えながら障害者の性への理解を訴える活動を続ける熊篠慶彦氏。そして本作の監督を務めたのが、東京大学工学部建築学科卒ながら、吉本総合芸能学院(NSC)12期生という、異色の経歴を持つ松本准平氏だ。  そんな松本氏と、本作の企画の段階から関わり、クマの従弟・東海林二郎役として出演した増田俊樹氏に見どころを聞いた。 *** ――非常にエッジの効いた映画ですが、どういうキッカケで企画を? 松本 増田と熊篠さんが旧知の中で、紹介してもらったのがきっかけです。そのとき、熊篠さんが障害者の映画を作りたいと話していて、そこから話が進んだんです。僕は当初、プロデューサーとして入る予定でした。 ――それが、なぜ監督を? 松本 仕事仲間にお願いしてプロットを書いてもらったんですが、それを読んだとき、ちょっと違うなあと感じたんですね。そのプロットは健常者から見た障害者問題だったんですが、この映画をやるなら、熊篠さんを等身大でナチュラルに描かないといけない。そう考え、自分でやろうと思い始めたんです。 ――それは松本監督ご自身が、熊篠さんと接するうちに、熊篠さんのことを障害者ではなくて、一人の友人として接するようになったからということでしょうか? 松本 そうですね。世間一般には、障害者というと、『24時間テレビ』(日本テレビ系)で目にするような障害者像を思い描かれるかもしれません。聖人君子的で、言い方は悪いかもしれないけれど、感動ポルノ的に理解しているケースも多いと思います。でも、モデルとなった熊篠さん自身は「障害者だってセックスをしたい」と、障害者の性問題を世間に訴えている。こうしたことから考えても、この映画を作るに当たっては、障害者と健常者を分け隔てちゃダメなんです。そこで、友人がじかに体験した恋愛物語をベースにして、その目線で話を作って撮りました。 ――映画の中のクマは、皮肉屋でリアリストですが、ミツと出会ってから変わっていきますね。 松本 今の時代、いろんなことにあきらめていたり、不自由さを抱えている人がたくさんいると思います。本作は障害者同士が恋をする話ですが、この不可能性みたいなものは健常者の人も同様に持っているテーマだと思うんです。ただ、クマとミツは、普通の人よりもより多くの困難を抱えているだけ。そんな2人だけれど、それでも挑戦し続けていきます。 ――ラストは印象的ですね。 松本 試写会をご覧になった方からは賛否両論が出ていますが、僕は、少し専門的な言い方をすると、ナラティブをディスクールにしたかったんです。 増田 監督は難しい言葉を使うので簡単に説明すると、僕は、ラストにありがちな<物語の結末>を描こうとはせず、『この瞬間、あなただったらどうする?』と観客に問いかけているような気がしました。それって、まさにロックンロールでしょ? ロールしているんだから、イメージがどんどんつながっていく。こちら側に向かって、『ここから先は、あなたのストーリーですよ』って、思わずバトンを渡されたような感じでしたね。
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左から増田俊樹氏、松本准平氏
■不器用で不細工、だからかっこいい ――映画では、リリー・フランキーさんがクマを演じられていますね。 松本 リリーさんは、クマのモデルとなった熊篠さんとロフトプラスワンのトークショーなどで親交を重ね、長年の付き合いがありました。こうしたこともあって、僕が「熊篠さんの実話を元にした映画を考えている」と話したときに、すごく興味を持ってくれたんです。僕はリリーさんのユーモアをまぶした性格とか、顔立ちとかも熊篠さんと似ていると思っていたから、クマはリリーさんが演じるしかないと企画当初から思っていました。リリーさんは一見クールに見えるけれど、実は熱い人です。リハーサルのたびに2人で飲みに行って、脚本のことを語り合っていましたね。例えば、熊篠さんは普段、「夢は立ちバックで」って言ってるんですけれど、リリーさんは「ここは映画に入れたい」と言ったことから、脚本に盛り込んだりもしました。 増田 僕は長い間、ロフトプラスワンでトークライブの企画を手掛けてきて、リリーさんも熊篠君もずっと近くで見てきた人間なんですけど、撮影中のリリーさんからは少し違ったオーラが漂っていました。熊篠君が現場を訪れた際、電動車椅子に乗ったままの2人を遠目に見ると、どっちがどっちだか見分けがつかないくらい似ていましたよね。松本監督が描こうとする突き抜けた世界観に、一表現者として懸命に応えるリリーさんの姿勢が、とても素敵でした。 ――清野菜名さんとの相性は、どうでしたか? 松本 リリーさんと清野さんは本当に仲が良くて、最後のほうは本当にクマとミツのようでした。そんな2人の雰囲気が映画の画面にも表れ、僕が想像していたよりも生き生きとしたクマとミツになったんです。おかげで演出が楽でしたね。待ち時間に、2人でよくわからないCMソングを歌っていたんですが、それがやけに耳に残っています(笑)。 ――松本監督はキリスト教徒ということもあり、これまで『まだ、人間』や『最後の命』などの作品に、自身の思想を色濃く反映させていました。そこが一部で難解とも称される作風になっていましたが、今回はダイレクトに人間の生きざまを描き、エンタテインメント色が非常に強い作品になっています。 松本 そうですね。今回は、誰もが楽しむことのできるエンタテインメントであること、そしてポップであることを心がけました。ポップっていうのは、ダサさだと思うんですよね。かっこいいだけだど、ポップにならない。どこかダサくないと。その不器用さとか、不細工さが、この作品にマッチすると思ったんです。まず、タイトルが『パーフェクト・レボリューション』なんですけれど、このタイトルはダサさがあると思うんですね。ミツが「革命を起こす」と言ってるのも、実はダサい。カメラもほぼ手持ちでしたが、かっこよく撮ろうという意識もありませんでした。単純に人間としてクマとミツが向き合って、ぶつかり合うというところで作っていきました。そんな2人の生き方は不器用だけれど、泥まみれになってもがいているから、逆に一番かっこいいと思うんです。今のように息苦しい時代、そんな2人の生き方が、お客さんの心にどう響くのか、とても楽しみな半面、興行的な成否も気になってプレッシャーにもなっていますよ(苦笑)。 (取材・文=井川楊枝) ●『パーフェクト・レボリューション』 9月29日(金)よりTOHOシネマズ新宿ほか全国ロードショー 監督・脚本 松本准平  企画・原案 熊篠慶彦 出演 リリー・フランキー、清野菜名、小池栄子、岡山天音、丘みつ子、下村愛、増田俊樹、螢雪次朗、石川恋、榊英雄、余貴美子 ほか 配給/東北新社 PG12  (c)2017「パーフェクト・レボリューション」製作委員会 http://perfect-revolution.jp/

心の障害をバリアフリー化するSEX革命の始まり。非感動ポルノ『パーフェクト・レボリューション』

心の障害をバリアフリー化するSEX革命の始まり。非感動ポルノ『パーフェクト・レボリューション』の画像1
リリー・フランキー&清野菜名の主演映画『パーフェクト・レボリューション』。世間の偏見を乗り越え、クマとミツは愛を育む。
 乙武くんをマスメディアで見なくなって久しい。ベストセラー本を連発し、自身の原作小説の映画化『だいじょうぶ3組』(13)に出演するなど超売れっ子だった頃は、「障害があるのに下ネタが得意なんて、すごい!」ともてはやされたが、2016年の不倫報道によって「障害者なのに、けしからん!」と世間の手のひら返しに遭ってしまった。だが、不倫の是非は別にして、乙武くんのモテモテぶりに勇気づけられた少数派も存在した。障害者の性的自立を唱える熊篠慶彦氏がその1人。障害者にも性欲はあるし、SEXしたい、めっちゃエロいこともしたい。障害者を特別視し、“感動ポルノ”の素材として扱う社会の偏見そのものをバリアフリー化してしまおう。そんな野心的な映画が、熊篠氏が企画・原案、リリー・フランキー&清野菜名が主演した『パーフェクト・レボリューション』だ。  出生時に脳性麻痺を患い、14歳のときから車椅子生活を余儀なくされている熊篠慶彦氏。2001年に出版された著書『たった5センチのハードル 誰も語らなかった身体障害者のセックス』(ワニブックス)によると、仲のいい理学療法士の先生に「女を知れば世界が広がるぞ」と勧められて、新宿のシティホテルにホテトル嬢を呼び、筆おろしを済ませている。初体験というハードルを19歳のときにクリアしたことで、彼の世界観はいっきに広がった。「俺も普通にセックスできるじゃん」という喜びが、革命への狼煙となった。以後、熊篠氏はNPO法人「ノアール」を立ち上げ、バリアフリーを導入している風俗店の情報や障害者向けのマスターベーションのノウハウを伝える動画をネット上で公開するなど、障害者たちを性の悩みから解放する運動を進めている。
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リリー・フランキーは主演だけでなく、銀杏BOYSに楽曲提供を頼むなど、様々な形で本作の映画化に貢献している。
 熊篠氏にとってのヰタ・セクスアリス『たった5センチのハードル』には障害を持つ男性&女性の性事情がありありと描かれていたが、映画『パーフェクト・レボリューション』では、その後の熊篠氏の恋愛事情、SEXに関する切実な悩みが掘り下げられていく。本作を撮ったのは、『まだ、人間』(12)や『最後の命』(14)など他者とうまくコミュニケーションできない人々を描いてきた松本准平監督。「障害者の映画を作りたい」と熊篠氏から企画を打診され、熊篠氏が当時交際していた彼女も松本監督は紹介されていた。その後、熊篠氏は彼女とは別れてしまったが、失恋の痛手を乗り越えるかのように、映画の企画が本格化していく。アダルト産業の一大イベント「アダルトトレジャーエキスポ」にて、TENGAスタッフを通じて熊篠氏と懇意になっていたリリー・フランキーが主演することが決定。エキセントリックなヒロインに『TOKYO TRIBE』(14)で度胸のよさを見せた清野菜名、頼れる介護士役に『接吻』(08)の演技派・小池栄子、と理想的なキャストがそろった。  本作は熊篠氏の実体験をベースに、ポップで過激でファンシーなラブストーリーとして展開していく。クマ(リリー・フランキー)は車椅子がないと生活できないが、かわいい女の子がいれば口説かずにはいられない性欲旺盛なエロ中年である。障害者は怪物でもなければ、聖人君子でもないんです。講演会でのクマの本音まじりの軽妙なトークにうなずく女の子がいた。髪をピンク色に染めた風俗嬢のミツ(清野菜名)はクマのもとに走り寄り、「私、クマピーのことが大好き!」と熱烈にアピールする。  エロいことは大好きなクマだが、40歳を過ぎ、重たい恋愛には慎重だった。障害者が結婚し、家庭を持ち、子どもを育てるには、高いハードルが存在する。性のバリアフリーを訴えているクマ自身が、障害者を取り巻く現実問題のシビアさを痛感していた。しかも、クマは中学生のときに大手術を受け、股間節をプロテクターなしでレントゲン撮影された過去から、生殖への不安も抱えていた。だが、そんなクマの心のハードルを、天真爛漫なミツは軽々と飛び越え、心の琴線部分へとダイブしてくる。「あなたと私みたいな不完全なもの同士が幸せになれたら、それってすごいことだと思わない?」
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介護士の恵理(小池栄子)はクマに恋人ができたことを喜ぶが、ミツが精神的に不安定なことが気がかりだった。
 パリを舞台にした障害者コメディ『最強のふたり』(11)の主人公たちのように、クマとミツは電動車椅子に2人乗りして、公道を暴走する。クラブでは車椅子をクルクルと回して、2人だけのオリジナルダンスを踊る。銀杏BOYSの至高のラブソング「BABY BABY」がフロアに流れる。このとき、世界はクマとミツの2人だけのものだった。そして夜の公園で、2人は熱いキスを交わす。ミツがクマの上に股がる官能シーンが、甘く甘く描かれる。  2人の過激な恋の行方を、クマの独身生活を長年支えてきた介護士の恵理(小池栄子)は表向きは笑顔で、でも内心は不安げに見守っていた。恵理が予感したように、クマとミツのラブロマンスは簡単には成就しない。クマは実家で行なわれた法事にミツを連れていくが、幼い頃からクマを見てきた親族の反応はまっぷたつに分かれる。クマの面倒を看てくれる若い女性が現われたことを喜ぶ肯定派、障害者が結婚して子どもを作ることのリスクを危ぶむ否定派に割れ、法事の席は大荒れとなる。また、それまでぶっ飛んだ言動でクマを驚かせてきたミツは、人格障害を抱えていることも発覚する。ミツが自殺衝動や暴力衝動に駆られるのを、車椅子に乗ったクマは防ぐことができない。甘く盛り上がったラブロマンスほど、醒めた後の疲労感・虚無感はとてつもなく大きい。  見た目は普通の女の子であるミツが実は内面に障害を抱えていたという設定は、映画ならではの脚色。映画のラストもまた、現実とは異なるエピローグが用意されている。生まれも性別も、職業も能力も、お金も年齢も、本当の幸せには関係ない。そのことを世界に向かって2人で証明したい。劇中のクマとミツは、パーフェクト・レボリューションという壮大な夢に向かって新しい一歩を踏み出していく。  有名なSF作家ジュール・ヴェルヌは「人間が想像できることは、人間が必ず実現できる」という言葉を残したといわれている。ヴェルヌのこの言葉が正しければ、クマとミツが夢見るパーフェクト・レボリューションも決して不可能ではないはずだ。 (文=長野辰次)
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『パーフェクト・レボリューション』 企画・原案/熊篠慶彦 原案協力/子宮委員長はる 監督・脚本/松本准平 出演/リリー・フランキー、清野菜名、小池栄子、岡山天音、丘みつ子、下村愛、増田俊樹、螢雪次朗、石川恋、榊英雄、余貴美子 配給/東北新社 PG12 9月29日(金)よりTOHOシネマズ新宿ほか全国ロードショー (c)2017「パーフェクト・レボリューション」製作委員会 http://perfect-revolution.jp
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“脱げる女優”瀧内公美と間宮夕貴が単館系でブレーク中「背中だけ見せる女優とは意気込みが違う」

脱げる女優瀧内公美と間宮夕貴が単館系でブレーク中「背中だけ見せる女優とは意気込みが違う」の画像1
スターダストプロモーション公式サイト「瀧内公美」プロフィールより
「単館系の映画では“脱げる女優”枠というのがあるのですが、フルヌードになれて演技力も求められるので、どの作品もキャスティングに苦労しているようです。その中でも引く手あまたなのが、瀧内公美さんと間宮夕貴さんの2人ですね」(映画関係者)  先日公開された映画『彼女の人生は間違いじゃない』で主演を務めた瀧内公美。 「彼女はこれまでも、映画『グレイトフル・デッド』(2014)や『日本で一番悪い奴ら』(16)で過激なシーンを演じています。所属事務所はスターダストですが、27歳という年齢的にも、彼女が大作映画で主演したり、プライム帯のテレビドラマで主演することは難しいでしょうからね。CMにもちょこちょこ出てましたが、今後は“脱ぎ”を武器にすることを選んだんでしょう」(芸能事務所関係者)  一般的にCMを多く抱えている女優は、スポンサーの手前、脱ぐことが難しいという。 「例外に近いのが壇蜜さんですが、彼女も化粧品など女性向けの“ナショナルクライアント”からは、ほとんどオファーはありません。間宮さんの事務所はマールスという小さいところですが、やはりその演技力と“脱ぎ”を買われて、単館系の映画にはよく呼ばれていますね。芸能事務所も伸び悩んでいる女優がいれば、とりあえずそっち系の仕事もあるよと声を掛けるそうです。瀧内さんと間宮さんの場合は、2人とも映画が好きで、女優の仕事を続けたいという強い意志があって脱いだそうなので、中途半端に背中だけ見せる女優たちと比べると意気込みが違いますよ。いま名前の通ってる女優さんで脱げる女優というのは、寺島しのぶさんや鈴木杏さん、門脇麦さんくらいしかいないので、彼女たちに続く大物女優の脱ぎっぷりも見てみたいんですけどね」(映画ライター)  自らの意志で脱いだ2人には、これからも仕事の需要はありそうだ。
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“脱げる女優”瀧内公美と間宮夕貴が単館系でブレーク中「背中だけ見せる女優とは意気込みが違う」

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スターダストプロモーション公式サイト「瀧内公美」プロフィールより
「単館系の映画では“脱げる女優”枠というのがあるのですが、フルヌードになれて演技力も求められるので、どの作品もキャスティングに苦労しているようです。その中でも引く手あまたなのが、瀧内公美さんと間宮夕貴さんの2人ですね」(映画関係者)  先日公開された映画『彼女の人生は間違いじゃない』で主演を務めた瀧内公美。 「彼女はこれまでも、映画『グレイトフル・デッド』(2014)や『日本で一番悪い奴ら』(16)で過激なシーンを演じています。所属事務所はスターダストですが、27歳という年齢的にも、彼女が大作映画で主演したり、プライム帯のテレビドラマで主演することは難しいでしょうからね。CMにもちょこちょこ出てましたが、今後は“脱ぎ”を武器にすることを選んだんでしょう」(芸能事務所関係者)  一般的にCMを多く抱えている女優は、スポンサーの手前、脱ぐことが難しいという。 「例外に近いのが壇蜜さんですが、彼女も化粧品など女性向けの“ナショナルクライアント”からは、ほとんどオファーはありません。間宮さんの事務所はマールスという小さいところですが、やはりその演技力と“脱ぎ”を買われて、単館系の映画にはよく呼ばれていますね。芸能事務所も伸び悩んでいる女優がいれば、とりあえずそっち系の仕事もあるよと声を掛けるそうです。瀧内さんと間宮さんの場合は、2人とも映画が好きで、女優の仕事を続けたいという強い意志があって脱いだそうなので、中途半端に背中だけ見せる女優たちと比べると意気込みが違いますよ。いま名前の通ってる女優さんで脱げる女優というのは、寺島しのぶさんや鈴木杏さん、門脇麦さんくらいしかいないので、彼女たちに続く大物女優の脱ぎっぷりも見てみたいんですけどね」(映画ライター)  自らの意志で脱いだ2人には、これからも仕事の需要はありそうだ。
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吉高由里子が売春&快楽連続殺人鬼に豹変した!! 人間の暗黒面に迫る犯罪ミステリー『ユリゴコロ』

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吉高由里子主演の犯罪ミステリー『ユリゴコロ』。吉高の映画主演は『僕等がいた』二部作(12)以来5年ぶりとなる。
 ユリの花は純潔のシンボルとされており、ユリの根は不眠や精神不安に効果がある漢方薬ともなる。だが、同じユリ科でもスズランや彼岸花には猛毒があることが知られている。沼田まほかるのミステリー小説『ユリゴコロ』(双葉社)は、人間の中に潜む崇高さと邪悪さの両面を描いた作品だ。『紀子の食卓』(06)や『蛇にピアス』(08)といった先鋭的な作品で存在感を放ってきた女優・吉高由里子は、最新主演映画『ユリゴコロ』では売春婦&連続殺人鬼でありながら、自分の中に根づいたユリゴコロに従って一途に生きるヒロイン・美紗子を演じている。  沼田まほかるの原作小説が圧倒的に面白い。10月28日(土)には蒼井優、阿部サダヲ主演作『彼女がその名を知らない鳥たち』も公開されるが、沼田まほかるの作品は人間のダークサイドを徹底的に掘り下げることで、逆に人間の持つ善良な部分が浮かび上がってくるという独特のレトリックが駆使されている。普通の主婦、出産、離婚、お寺の住職、建設コンサルタント会社の設立、倒産……、そして56歳にして作家デビューという山あり谷ありの末の遅咲きの花。だが、そんな彼女が生み出す小説は、伝説の植物マンドレイクのように、奇妙で妖しく、一度でも本を開いてしまった者を虜にしてしまう悪の魅力に溢れている。  カフェのオーナーである亮介(松坂桃李)は、婚約者の千絵(清野菜名)が謎の失踪を遂げ、さらに男手ひとつで亮介を育て上げた父親が末期癌であることが分かり、人生のドン底であえいでいた。ある日、亮介は父親がひとりで暮らす実家の押し入れから、「ユリゴコロ」と題名のついた手書きのノートの束を見つける。その内容は、ひとりの女性が次々と殺人を犯す過程が書かれた生々しい手記だった。亮介は、その手記の執筆者が誰なのか分からないまま、夢中になって貪り読み始める。
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共に生きづらさを抱える美紗子(吉高由里子)とみつ子(佐津川愛美)。2人の関係性は、原作とは微妙に異なる。
「私のように平気で人を殺す人間は、脳の仕組みがどこか普通とは違うのでしょうか」。そんな一文で始まる手記は、美紗子(吉高由里子)の生い立ちから始まる身の毛のよだつ物語だった。子どもの頃、他の子のように笑ったり、泣いたりする感情をうまく持つことができなかった美紗子は、深い井戸の中にカタツムリやミミズといった生き物を放り込むことに安らぎを覚えるようになる。美紗子に強い感情が芽生えたのは、小学校の同級生が庭の池で溺れ死んだ事故を目の前で目撃した瞬間だった。その日以来、美紗子は人間の死に立ち会うことで、自分の中にある“ユリゴコロ”がざわめくことを知る。やがて成長した美紗子は、自分の中のユリゴコロを確かめるかのように、次々と人を殺めるようになっていく。動機なき殺人ゆえに、なかなか警察の手が美紗子に及ぶことはなかった。  原作とは異なる映画版として、本作の脚本&演出を手掛けたのは熊澤尚人監督。『君に届け』(10)や『近キョリ恋愛』(14)などコミック原作の青春ラブストーリーものをヒットさせてきたが、「これまでとは違うテイストのものにトライしたい」と沼田まほかる原作小説の映画化に取り組んだ。熊澤監督が意欲的に撮り上げた過去パートが実に素晴しい。美紗子の小学校時代、同級生の女の子が池で溺れるシーンは“映像の魔術師”と呼ばれるニコラス・ローグ監督のサイコサスペンス『赤い影』(73)の冒頭シーンを思わせる。また、木々が生い茂った暗い庭の中に、ひとりで佇む美紗子の顔にだけ反射光が当たり、その表情が浮かび上がる。黒澤明監督の『羅生門』(50)の薮の中のシーンのようでもある。美紗子の中にユリゴコロが芽生えたことを示す印象的な映像となっている。若手カメラマン・今村圭佑の才気がほとばしった名シーンだ。  また、佐津川愛美が演じる、美紗子の親友・みつ子もインパクトのあるキャラクターとなっている。高校を卒業した美紗子は専門学校に通うようになり、他人とうまく交流ができずにいるみつ子にシンパシーを覚える。一般社会で生きることに苦痛を感じているみつ子は、リストカットすることでしか生きている実感を味わうことができない。みつ子がひとりで自殺しないよう、美紗子は「わたしも切って」と自分の手首を差し出す。お互いの手首に刃物を当て、血を流し合う美紗子とみつ子。誰も知らない深い谷間で、2つのユリの花が寄り添うようにひっそりと咲く。みつ子役の佐津川愛美は、ストーカー被害に遭う『ヒメアノ~ル』(16)や呪いのビデオの犠牲となる『貞子VS伽椰子』(16)など不幸を引き寄せてしまう女の子を演じると俄然輝きを発する希有な女優だ。生きづらさに悩み続けるみつ子は、やはり美紗子の手によって優しくあの世へと送られることになる。
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娼婦となった美紗子は、街で声を掛けた洋介(松山ケンイチ)と一緒に夜を過ごすようになっていく。
 再び、ひとりぼっちになった美紗子は就職もうまくいかず、夜の街に立つ娼婦となる。肉欲をユリゴコロにしているだろう男たちに自分の身体を投げ出し、いくらかのお金を受け取る美紗子。また、美紗子が街娼となったことで、不審死を遂げる男の数も増えていく。己の性欲を解放することしか頭にない男たちの、何とも無防備なことか。吉高由里子演じる美紗子は、シャーリーズ・セロン主演作『モンスター』(03)のモデルとなった実在の女殺人鬼アイリーン・ウォーノスのようだ。吉高の冷ややかな一重まぶたが不気味に感じられる。だが、美紗子は死刑執行されたアイリーン・ウォーノスと違って、洋介(松山ケンイチ)という罪の意識を抱えた孤独な若者と出会ったことで、殺人とは異なる新しいユリゴコロを見出すことになる。  原作にほぼ忠実な過去パートがとても素晴しい反面、原作を脚色した現代パートには正直なところ物足りなさを感じてしまう。映画版『ユリゴコロ』は美紗子と洋介とのラブストーリーとして収斂していくわけだが、サイコキラーを身内に持ってしまった一家の頭が割れんばかりの葛藤やそんな彼らが考え出した禍々しい解決策が、原作に比べてかなり希釈されてしまったように思う。クライマックスとなる千絵との再会シーンも釈然としない。熊澤監督は松山ケンイチが出演したホラー映画『親指さがし』(06)では、“呪いとは人間の心の中にある罪悪感が生み出したもの”という興味深いテーマを扱っていただけに、キラキラと輝くことができない人間の隠された心情を熊澤監督には今後も追い続けてほしい。  沼田まほかるが生み出したユリゴコロは、生きる気力を持てずにいる人間に活力を与えるが、適量を誤ると人間を死に至らせる劇薬にもなってしまう。ユリゴコロに触れてしまった熊澤監督、今村カメラマンらスタッフ、そしてキャストの面々が、これからどんな変貌を遂げていくのかに注目したい。 (文=長野辰次)
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『ユリゴコロ』 原作/沼田まほかる 監督・脚本/熊澤尚人 出演/吉高由里子、松坂桃李、松山ケンイチ、佐津川愛美、清野菜名、清原果耶、木村多江 配給/東映、日活 PG12 9月23日(土)より全国公開 (c)沼田まほかる/双葉社 (c)2017「ユリゴコロ」製作委員会 http://yurigokoro-movie.jp
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シュワルツェネッガーの鋼の筋肉が役に立たない!航空事故が生んだ哀しい復讐鬼『アフターマス』

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実在の事件を題材にした『アフターマス』。アーノルド・シュワルツェネッガー主演作としては異例の超低予算作品だ。
 アフターマス(aftermath)とは戦争や災害などの余波、後遺症のこと。アーノルド・シュワルツェネッガー主演作『アフターマス』は、2002年にドイツ南部上空で起きた「ユーバーリンゲン空中衝突事故」の顛末と、事故から2年後に生じた悲劇を描いた実話系映画だ。これまで数々のアクション大作で凶悪犯や宇宙人と戦ってきたシュワルツェネッガーだが、本作では家族を奪われた怒りから事故を招いた管制官に襲い掛かるという、あまりにも哀しい復讐鬼を演じている。  モスクワを発った旅客機とバーレーン籍の貨物機が高度1万メートルの高さで空中衝突し、両機に乗っていた71人が全員死亡した「ユーバーリンゲン空中衝突事故」。本作では事故を引き起こした管制官、事故によって家族を失った被害者遺族との双方の視点が並行する形でドラマが進んでいく。  ジェイク(スクート・マクネイリー)は妻と息子を愛し、民間の航空会社で管制官としてマジメに働く、ごく普通の市民だった。だが、その日のジェイクにはあまりにも不運な条件が重なり過ぎた。いつもと同じように2人体制で管制室に詰めていたが、1人が食事休憩のために管制室から離れていく。さらに、その日は管制室の電気系統のメンテナンスが行なわれ、航空機や空港との連絡が一時的に繋がりにくい状態となっていた。そんなとき、モスクワから南下する旅客機と北上する貨物機が異常接近する。両機に備えてある空中衝突防止装置(TCAS)が警告を知らせるが、他のトラブルの処理に追われていたジェイクは対応が遅れた。ジェイクは慌ててTCASとは逆の指示を旅客機に出し、ジェイクの指示に応じた旅客機とTCASの指示に従った貨物機は空中衝突してしまう。レーダーから2つの機影が忽然と消え、ジェイクは戦慄する。
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ワンオペを強いられた航空管制官のジェイク(スクート・マクネイリー)は、大事故を招いてしまう。
 一方、建築家のローマン(アーノルド・シュワルツェネッガー)は旅客機の到着を心待ちにしていた。ロシアからの便には妻と娘、そして娘のお腹の中には新しい生命が宿っていた。家族との再会を楽しみに、ローマンはずっと仕事に励んできた。ところが空港でいつまで待っても旅客機は到着しない。航空会社の係員に問い合わせると、ローマンは個室へと通される。家族が乗った旅客機は永遠に到着することがないという事実を、ローマンはすぐには受け入れられなかった。なす術もなく、ローマンは衝突事故が起きた現場へ赴き、地上に散らばっている航空機の残骸を呆然と眺めるしかなかった。妻と娘の写真を見ては、泣き暮れるローマン。航空会社は賠償金の金額を説明するだけで、謝罪の言葉を口にしようとはしない。仕事も手につかなくなったローマンは、家族が眠る墓の前で1日中過ごすようになる。  70歳になった今も、ボディビルで鍛え上げた鋼のような筋肉を鎧のように全身にまとっているシュワルツェネッガー。だがその自慢の筋肉は、不慮の事故で家族が失われるという精神的な打撃にはまるで役に立たない。カリフォルニア州知事を7年間にわたって務め、ハリウッド復帰後は『ラストスタンド』(13)で定年を間近に控えた老保安官、ゾンビ映画『マギー』(14)でゾンビウィルスに感染した娘を見守る父親役といった内面重視のドラマにも挑戦している。とはいえ、いかんせんマッチョなボディはアクション映画では見栄えがいいが、細かいナイーブな演技には向いていない。シュワルツェネッガーほど、演技派という言葉が似合わない俳優もいない。ところがだ。本作では家族を一瞬にして失ってしまった男の悲しみと苦しみを、デカい体を持て余しながら実に不器用に演じている。その不器用さ、不格好さが、むしろ主人公の報われなさをひしひしと伝えることに成功している。
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航空機事故現場を再現。事故が起きたのはドイツだが、ボディビル大会の開催地として有名な米国コロンバスでロケ撮影が行なわれた。
 航空機事故の余波は、被害者遺族だけでなく、事故を招いた管制官のジェイク、そしてジェイクの家族をも呑み込んでしまう。業務上の過失ということで刑務所送りは免れたジェイクだが、会社は自主退職するように勧告してきた。自宅に戻れば、マスコミに追われ、「人殺し!」という中傷の言葉や落書きが待っている。心神喪失状態に陥るジェイク。精神カウンセラーは「何か楽しいことを考えて」というが、楽しいことが何ひとつ思い浮かばない。それまで、ずっと夫を支えてきた妻クリスティーナ(マギー・グレイス)だが、ひとり息子の身の安全を考えて、別居することを提案する。仕事を失い、家を棄て、家族にも去られ、ジェイクは遠く離れた街で、名前を変えて別人として人生をやり直すことになる。  ユーバーリンゲンの上空で、出会ってはならない2機の航空機が衝突した。管制官だったジェイクと家族を失ったローマンも、あまりにも悲しい邂逅を果たすことになる。知らない街で新しい人生を歩もうとするジェイクだが、家族を亡くした喪失感から立ち直れずにいるローマンには、そのことが許せない。航空機事故のその後を追う女性ジャーナリストに、「誰もちゃんと謝ってくれなかった。俺の目を見て、ただ謝ってほしいだけなんだ」と訴えるローマン。事故を引き起こした管制官に一度会いたいという、心身ともにズタボロ状態のローマンの願いを、ジャーナリストは拒絶することができなかった。そして、ユーバーリンゲン事故から2年後、72番目の犠牲者が生じることになる。  ユーバーリンゲン事故の責任は、管制官の2人体制を敷き、トイレや食事休憩中は管制室がワンオペレーションになることを知りながら黙認していた航空会社側にあった。また、TCASが警告を発した場合、管制官とTCASのどちらの指示に従うべきかも事故当時は決まっていなかった。万全を期すべき航空システム上の不備が招いた、取り返しのつかない事故だった。520名の犠牲者を出した「日本航空123便墜落事故」を描いた『沈まぬ太陽』(09)では、合理化を進める航空会社が整備時間も削るようになっていたことを指摘していた。逆にクリント・イーストウッド監督の『ハドソン川の奇跡』(16)では、ベテラン機長の機転と決断によって乗客150名の命が救われた。社会を回していくシステムが順調に機能することによって我々は平和な日常生活を享受しているが、そのシステムにちょっとしたバグが生じることで不幸のどん底にも簡単に墜ちることになる。  どうやら我々は、天国と地獄とのボーダーである薄っぺらな皮膜の上で暮らしているようだ。事故後は別人として懸命に生きようとしたジェイクも、家族を失って生き地獄を味わい続けるローマンも、我々から決して遠い存在ではない。 (文=長野辰次)
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『アフターマス』 製作総指揮/ダーレン・アロノフスキー、アーノルド・シュワルツェネッガー 監督/エリオット・レスター 脚本/ハビエル・グヨン 出演/アーノルド・シュワルツェネッガー、スクート・マクネイリー、マギー・グレイス、グレン・モーシャワー、マーティン・ドノヴァン、ハンナ・ウェア 配給/ファインフィルムズ PG12 9月16日(土)よりシネマート新宿ほか全国順次公開 (C)2016 GEORGIA FILM FUND 43, LLC http://www.finefilms.co.jp/aftermath
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シュワルツェネッガーの鋼の筋肉が役に立たない!航空事故が生んだ哀しい復讐鬼『アフターマス』

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実在の事件を題材にした『アフターマス』。アーノルド・シュワルツェネッガー主演作としては異例の超低予算作品だ。
 アフターマス(aftermath)とは戦争や災害などの余波、後遺症のこと。アーノルド・シュワルツェネッガー主演作『アフターマス』は、2002年にドイツ南部上空で起きた「ユーバーリンゲン空中衝突事故」の顛末と、事故から2年後に生じた悲劇を描いた実話系映画だ。これまで数々のアクション大作で凶悪犯や宇宙人と戦ってきたシュワルツェネッガーだが、本作では家族を奪われた怒りから事故を招いた管制官に襲い掛かるという、あまりにも哀しい復讐鬼を演じている。  モスクワを発った旅客機とバーレーン籍の貨物機が高度1万メートルの高さで空中衝突し、両機に乗っていた71人が全員死亡した「ユーバーリンゲン空中衝突事故」。本作では事故を引き起こした管制官、事故によって家族を失った被害者遺族との双方の視点が並行する形でドラマが進んでいく。  ジェイク(スクート・マクネイリー)は妻と息子を愛し、民間の航空会社で管制官としてマジメに働く、ごく普通の市民だった。だが、その日のジェイクにはあまりにも不運な条件が重なり過ぎた。いつもと同じように2人体制で管制室に詰めていたが、1人が食事休憩のために管制室から離れていく。さらに、その日は管制室の電気系統のメンテナンスが行なわれ、航空機や空港との連絡が一時的に繋がりにくい状態となっていた。そんなとき、モスクワから南下する旅客機と北上する貨物機が異常接近する。両機に備えてある空中衝突防止装置(TCAS)が警告を知らせるが、他のトラブルの処理に追われていたジェイクは対応が遅れた。ジェイクは慌ててTCASとは逆の指示を旅客機に出し、ジェイクの指示に応じた旅客機とTCASの指示に従った貨物機は空中衝突してしまう。レーダーから2つの機影が忽然と消え、ジェイクは戦慄する。
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ワンオペを強いられた航空管制官のジェイク(スクート・マクネイリー)は、大事故を招いてしまう。
 一方、建築家のローマン(アーノルド・シュワルツェネッガー)は旅客機の到着を心待ちにしていた。ロシアからの便には妻と娘、そして娘のお腹の中には新しい生命が宿っていた。家族との再会を楽しみに、ローマンはずっと仕事に励んできた。ところが空港でいつまで待っても旅客機は到着しない。航空会社の係員に問い合わせると、ローマンは個室へと通される。家族が乗った旅客機は永遠に到着することがないという事実を、ローマンはすぐには受け入れられなかった。なす術もなく、ローマンは衝突事故が起きた現場へ赴き、地上に散らばっている航空機の残骸を呆然と眺めるしかなかった。妻と娘の写真を見ては、泣き暮れるローマン。航空会社は賠償金の金額を説明するだけで、謝罪の言葉を口にしようとはしない。仕事も手につかなくなったローマンは、家族が眠る墓の前で1日中過ごすようになる。  70歳になった今も、ボディビルで鍛え上げた鋼のような筋肉を鎧のように全身にまとっているシュワルツェネッガー。だがその自慢の筋肉は、不慮の事故で家族が失われるという精神的な打撃にはまるで役に立たない。カリフォルニア州知事を7年間にわたって務め、ハリウッド復帰後は『ラストスタンド』(13)で定年を間近に控えた老保安官、ゾンビ映画『マギー』(14)でゾンビウィルスに感染した娘を見守る父親役といった内面重視のドラマにも挑戦している。とはいえ、いかんせんマッチョなボディはアクション映画では見栄えがいいが、細かいナイーブな演技には向いていない。シュワルツェネッガーほど、演技派という言葉が似合わない俳優もいない。ところがだ。本作では家族を一瞬にして失ってしまった男の悲しみと苦しみを、デカい体を持て余しながら実に不器用に演じている。その不器用さ、不格好さが、むしろ主人公の報われなさをひしひしと伝えることに成功している。
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航空機事故現場を再現。事故が起きたのはドイツだが、ボディビル大会の開催地として有名な米国コロンバスでロケ撮影が行なわれた。
 航空機事故の余波は、被害者遺族だけでなく、事故を招いた管制官のジェイク、そしてジェイクの家族をも呑み込んでしまう。業務上の過失ということで刑務所送りは免れたジェイクだが、会社は自主退職するように勧告してきた。自宅に戻れば、マスコミに追われ、「人殺し!」という中傷の言葉や落書きが待っている。心神喪失状態に陥るジェイク。精神カウンセラーは「何か楽しいことを考えて」というが、楽しいことが何ひとつ思い浮かばない。それまで、ずっと夫を支えてきた妻クリスティーナ(マギー・グレイス)だが、ひとり息子の身の安全を考えて、別居することを提案する。仕事を失い、家を棄て、家族にも去られ、ジェイクは遠く離れた街で、名前を変えて別人として人生をやり直すことになる。  ユーバーリンゲンの上空で、出会ってはならない2機の航空機が衝突した。管制官だったジェイクと家族を失ったローマンも、あまりにも悲しい邂逅を果たすことになる。知らない街で新しい人生を歩もうとするジェイクだが、家族を亡くした喪失感から立ち直れずにいるローマンには、そのことが許せない。航空機事故のその後を追う女性ジャーナリストに、「誰もちゃんと謝ってくれなかった。俺の目を見て、ただ謝ってほしいだけなんだ」と訴えるローマン。事故を引き起こした管制官に一度会いたいという、心身ともにズタボロ状態のローマンの願いを、ジャーナリストは拒絶することができなかった。そして、ユーバーリンゲン事故から2年後、72番目の犠牲者が生じることになる。  ユーバーリンゲン事故の責任は、管制官の2人体制を敷き、トイレや食事休憩中は管制室がワンオペレーションになることを知りながら黙認していた航空会社側にあった。また、TCASが警告を発した場合、管制官とTCASのどちらの指示に従うべきかも事故当時は決まっていなかった。万全を期すべき航空システム上の不備が招いた、取り返しのつかない事故だった。520名の犠牲者を出した「日本航空123便墜落事故」を描いた『沈まぬ太陽』(09)では、合理化を進める航空会社が整備時間も削るようになっていたことを指摘していた。逆にクリント・イーストウッド監督の『ハドソン川の奇跡』(16)では、ベテラン機長の機転と決断によって乗客150名の命が救われた。社会を回していくシステムが順調に機能することによって我々は平和な日常生活を享受しているが、そのシステムにちょっとしたバグが生じることで不幸のどん底にも簡単に墜ちることになる。  どうやら我々は、天国と地獄とのボーダーである薄っぺらな皮膜の上で暮らしているようだ。事故後は別人として懸命に生きようとしたジェイクも、家族を失って生き地獄を味わい続けるローマンも、我々から決して遠い存在ではない。 (文=長野辰次)
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『アフターマス』 製作総指揮/ダーレン・アロノフスキー、アーノルド・シュワルツェネッガー 監督/エリオット・レスター 脚本/ハビエル・グヨン 出演/アーノルド・シュワルツェネッガー、スクート・マクネイリー、マギー・グレイス、グレン・モーシャワー、マーティン・ドノヴァン、ハンナ・ウェア 配給/ファインフィルムズ PG12 9月16日(土)よりシネマート新宿ほか全国順次公開 (C)2016 GEORGIA FILM FUND 43, LLC http://www.finefilms.co.jp/aftermath
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