「視聴者をバカだと思っている表れ」!?“『アナ雪』台無し事件”に見るフジテレビの末期度

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エンディングのひとコマ。
「まさに、フジテレビの末期度を象徴するかのような“事件”でしたね。こういった押し付けがましい無自覚さは、『フジテレ be with you.』という局のキャッチコピーにも表れています」(テレビ誌記者)  フジは4日夜9時から、大ヒットしたディズニー映画『アナと雪の女王』のノーカット版を地上波初放送。平均視聴率は19.7%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と、キー局の映画放送として年内首位を記録した。  同局では、同日夕方6時からの音楽番組『MUSIC FAIR』の出演者が同映画主題歌「レット・イット・ゴー~ありのままで~」を歌唱したほか、6時半から2時間半にわたる事前番組『アナ雪が100倍楽しくなる!!ディズニーの知られざる秘密SP』を放送。さらに、1月から「レット・イット・ゴー」の歌唱動画を一般募集するキャンペーンを実施していた。  本来、エンディングではMay J.が歌う主題歌が流れるが、フジは約3分半にわたるオリジナル映像に差し替え。松たか子が歌う「レット・イット・ゴー」と共に、子どもの映像を中心にキャンペーンに寄せられた動画が放送された。  しかし、35秒ほど過ぎたところで、フジが企画・製作を手掛ける映画『ひるなかの流星』のキャストである永野芽郁、三浦翔平、白濱亜嵐が宣伝ポスターをバックに「レット・イット・ゴー」を歌い始めたあたりから、おかしな様子に。  同じくフジ製作映画『帝一の國』に出演する菅田将暉、野村周平、竹内涼真らイケメン俳優がおちゃらけながら登場したほか、『めざましテレビ』レギュラーのフジの局アナ陣、事前番組に出演していたよゐこ・濱口優、恵俊彰、足立梨花など、同映画とは無関係の芸能人が次々と登場。サビでは、青山テルマが熱唱する姿が約20秒にわたりメーンで映し出された。  これが終わると、今度はフジのスタッフクレジットへ。May J.が歌う主題歌が数秒だけ流れ、左下の小窓に映画のエンドロールが超高速で表示された。  力技により、形だけでも“ノーカット”にしたフジ。この身勝手な編集に、視聴者が騒然となり、ネット上では「変なエンディングで余韻が台無し」「フジ、頭おかしい」「よくディズニーが許可したな」といった声が相次いだ。  また、フジの公式Twitterアカウントには、苦情が殺到。「フジテレビはセンスがないことを自覚して余計なことしないでください」「エンディングに番宣ブッこむあたりフジテレビらしくて見苦しいです。二度と映画は放送しないでいただきたいです」などと、大炎上している。 「『少しも寒くないわ~』と言いながら、最高に寒いエンディングを作り上げたフジですが、いまだに視聴者から嫌われている理由を自覚していないのだとしたら、まだ救いがある。しかし、実際は、局内に『このセンスはダメだ』と認識している人間がいながら、上層部やプロデューサー連中が“聞く耳を持っていない”というのが実情。今回のエンディングは、フジが視聴者やネット民のことを“バカ”だと思っている表れといえる」(同)  数字的には成功を収めながらも、悪評は募る一方のフジ。「フジテレ be with you.」を実行できる日は、まだまだ遠そうだ。

もののけと肉体関係を結ぶという至高の背徳感! 小泉八雲の世界を実写化した官能ホラー『雪女』

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杉野希妃主演・監督作『雪女』。雪女は人の精気を吸い取る魔物として村人たちから恐れられていた。
 人間ならざる美女と出逢った若者の心に刻み込まれた死への恐怖心と背徳的な性欲とがもたらした奇妙なラブストーリー。ラフカディオ・ハーンこと小泉八雲が書き残した『怪談』の中の一編『雪女』は、エロス&タナトスに彩られた珠玉のエピソードだ。ギリシャで生まれ、アイルランドで育った小泉八雲は日本での質素な生活を愛し、妻・節子に日本の昔話を語らせることで『怪談』を書き上げた。『アラビアンナイト』の語り部・シェヘラザードのように、節子は夜ごと艶かしく日本に言い伝わる不思議な物語を夫・八雲に語って聞かせていたのだろうか。杉野希妃監督&主演作『雪女』は“もののけ”と人間との禁断の愛を官能シーンを交えながら描いている。  小泉八雲が書き伝えた掌編『雪女』をベースに、杉野監督は独自の解釈を加え、上映時間96分の長編映画に仕立ててみせた。時代設定は明確にしていないが、昭和時代を思わせるのどかな山村が舞台だ。若い猟師の巳之吉(青木崇高)は仲間の茂吉(佐野史郎)と冬山へ猟に出たが、激しい吹雪に遭い、狭い小屋で夜を明かすことになる。夜更けに目が覚めた巳之吉は茂吉の上にひとりの女が覆い被さり、茂吉の命を吸い取る瞬間を目撃してしまう。白装束姿の女は雪女(杉野希妃)だった。巳之吉が恐ろしさのあまり身動きできずにいると、雪女は「このことは誰にもしゃべるな。もし、しゃべったら、お前の命を奪う」と言い残して姿を消す。巳之吉は恐怖心と共に、この世のものと思えない雪女の美しさが忘れられなくなる。それから1年後、巳之吉は山道で迷っている若い娘・ユキ(杉野2役)と出逢う。ユキが雪女とそっくりなことに巳之吉は驚くが、巳之吉は母親(宮崎美子)が待つ我が家へとユキを案内する。母親はひとり者の息子が若い娘を連れてきたことに大喜びした。  人里離れた一軒屋で若い男女が一緒に暮らせば、夜の契りを交わすことは自然な流れだった。ある晩、2人で湯治へと出掛け、ユキは巳之吉に何か伝えようとするが、巳之吉はユキの口を激しく吸い、ユキが秘密を明かそうとするのを塞いでしまう。ユキのひんやりとした白い肌を、すでに巳之吉は手放せなくなっていた。しばらくしてユキは身籠り、ウメという女の子を産む。利発な少女へと育っていくウメ(山口まゆ)。ユキは出逢ったときのまま、いつまでも若々しい。猟師をやめて、村にできた工場に通うようになった巳之吉だったが、幸せで満たされた日々だった。だが、この穏やかな生活はいつか壊れてしまうのではないかという不安感も常に心の奥には潜んでいた。そんな折り、村で謎めいた凍死体が立て続けに見つかり、ユキ母子に疑惑の目が向けられる──。
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巳之吉(青木崇高)が雪山で猛吹雪に遭ってから1年後、山道で美しい娘・ユキ(杉野希妃)と出逢う。
 異界の美女と人間との異類婚を描いた『雪女』だが、夫婦となってから穏やかな時間が流れていく本作を観ているうちに、この物語の主人公であるユキと巳之吉は、八雲と節子自身であることに気づかされる。世界各地を流浪した後、米国に渡りジャーナリストとなった八雲は、初めて訪れた日本をすっかり気に入り、士族の娘だった節子を嫁にもらう。やがて八雲は東大の英語講師を務め、3男1女に恵まれることになる。『蝶々夫人』で描かれているように当時の欧米人は日本で仮りそめの妻を持つことが多く、八雲も当初はおとなしい日本人の女性を愛人として迎え入れるつもりだった。ところが節子はしっかり者で、彼女に仕切られた形での結婚生活を八雲は送ることになる。目論み通りではなかったものの、両親の愛を知らずにずっと流れ者の人生を歩んできた八雲にとって、節子との慎ましい生活は安らぎを覚えるものだった。正体不明の女・ユキもまた、純朴で口の堅い巳之吉との暮らしに心地よさを感じていた。  優香との新婚生活を送る青木崇高を共演に迎えた『雪女』を、主演女優と兼任する形で撮り上げたのは“インディーズ映画のミューズ”と呼ばれる杉野希妃監督。1984年生まれの杉野希妃は女優業だけでは満足できず、香港ロケを行なった国際色豊かな『マジック&ロス』(10)、3.11をいち早くドラマ化した『おだやかな日常』(12)、ナント三大陸映画祭グランプリ受賞作『ほとりの朔子』(14)、誘拐監禁&少年愛を扱った『禁忌』(14)など数々の作品のプロデューサーを兼任してきた。作品のためなら脱ぐことも厭わない肝の座った美人女優だ。『欲動』(14)、『マンガ肉と僕』(16)に続く監督作となる『雪女』は、監督である杉野自身が青木と濃厚な濡れ場を演じてみせた官能ホラー、もしくは夫婦間ミステリーとしての味わいがある。  溝口健二の『雨月物語』(53)や小津安二郎の『浮草』(59)といった日本映画黄金期の作品を杉野監督は愛していることから、『雪女』にも1950年代っぽいクラシカルな雰囲気が漂う。だがその一方では、移民問題や他民族に対するヘイトスピーチといった寛容さを失いつつある現代社会の歪みを狭い山村に投影させたものにもなっている。2月23日、外国特派員クラブでの記者会見に杉野監督は共演の青木崇史と共に登壇し、素性の知れない相手との結婚生活を描いた本作についてこう語った。
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ユキと巳之吉との間に生まれたウメ(山口まゆ)。思春期を迎え、彼女もまた不思議な体験をすることに。
「これまでプロデューサーとして様々な国の方たちと仕事をしてきましたが、もちろん分かり合えないことだらけで、最初はそれがすごいストレスだったんですね。でも、分かり合えないのは当たり前であって、今では分かり合えない中でもお互いに尊重し、共有できる部分を模索し、受け入れ合うことが大事だと考えるようになりました。それは夫婦においても同じではないかなと思っています」(杉野監督)  小泉八雲は『雪女』の他にも、やはり異類婚を題材にした『青柳のはなし』や若き日の恋愛体験を気にして成仏できずにいる女の幽霊を主人公にした『葬られた秘密』など、女という生き物の深遠さを扱った不思議なエピソードを『怪談』の中に収録している。節子はどんな想いで、子どものように怖い話をねだる八雲に男女の仲をめぐる奇妙な逸話を語って聞かせたのだろうか。八雲もまた、節子をはじめとする女性たちに愛おしさと同時に恐怖心も感じていたに違いない。 (文=長野辰次)
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『雪女』 原作/小泉八雲 脚本/重田光雄、杉野希妃、富森星元  撮影/上野彰吾 監督/杉野希妃 出演/杉野希妃、青木崇高、山口まゆ、佐野史郎、水野久美、宮崎美子、山本剛史、松岡広大、梅野渚 配給/和エンタテインメント 3月4日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町、シネマ・ジャック&ベティ 4月1日(土)よりシネ・リーブル梅田、大阪シネ・ヌーヴォ、京都みなみ会館、神戸元町映画館ほか全国順次公開  (c)Snow Woman Film Partners http://snowwomanfilm.com

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スポンサータブー? メディア側の過剰な自粛? 多国籍企業を告発した映画の公開に垂れ込む暗雲

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巨大食品会社の暗部を暴いた『汚れたミルク/あるセールスマンの告発』。世界に先駆けて日本での劇場公開が決まったが……。
 スポンサータブーに抵触するのか、それともメディア側の過剰な自粛(萎縮)なのか。国際的な評価を得ている名監督の力作が日本での劇場公開を控え、宣伝活動に悩まされている。ボスニア紛争を題材にした『ノー・マンズ・ランド』(01)などで知られるダニス・タノヴィッチ監督が2014年に完成させた『汚れたミルク/あるセールスマンの告発』がその問題の渦中にある作品だ。大手グローバル企業がパキスタンで粉ミルクを販売したところ、不衛生な水で溶いた粉ミルクを飲んだ乳幼児たちが次々と死亡しているという実話を題材にした社会派ドラマ。予告編やチラシなどには企業名は出ていないが、映画本編を観るとモデルとなっている大手グローバル企業がどこか分かるため、乳製品や食品関係のCMが多いテレビやラジオでは『汚れたミルク』が紹介されないという事態となっている。  パキスタンを舞台にした『汚れたミルク』の主人公は、超有名グローバル企業に勤めることになったひとりのセールスマン。1994年、国産の医薬品を地道にセールスしていたアヤン(イムラン・ハシュミ)だったが、妻ザイナブ(ギータンジャリ)に勧められて世界的に有名な大企業への転職に成功する。アヤンは上司の指示に従い、病院の医者たちからお墨付きをもらう形で粉ミルクの営業に尽力する。医者や看護士への贈り物を欠かさないアヤンは病院で気に入られ、粉ミルクは飛ぶように売れていく。大企業に就職でき、経済的にも豊かになり、子宝にも恵まれたアヤン一家は幸せいっぱいだった。ところが1997年、アヤンは自分が売った粉ミルクが招いた惨状を知ることになる。スラム街で暮らす貧民層の母親たちは水道設備の整っていない不衛生な環境で粉ミルクを作り、赤ちゃんに飲ませていた。母乳で育った赤ちゃんに比べ、粉ミルクで育った赤ちゃんには免疫力がなく、痩せ細って次々と死んでいく。衝撃を受けたアヤンは職場を辞め、ドイツのテレビ局でこの問題を訴えようとする。番組が放送されれば、アヤンは英雄として帰国できるはずだったが──。  映画の中では「ラスタ社」と仮名が使われているが、じっくりと本作を観ると粉ミルクを販売している多国籍企業は「ネスレ社」だと分かる。スイスに本社を置く「ネスレ社」は時価総額約26兆円(「週刊ダイヤモンド」2016年10月1日号)という世界屈指の巨大食品会社。インスタントコーヒーのネスカフェ、チョコレート菓子のキットカット、麦芽飲料のミロ、ペットフードのモンプチなど日本でもおなじみの商品が多い。それゆえパキスタンで起きた問題ながら、日本のテレビやラジオは『汚れたミルク』を取り上げることに難色を示しているという。本作を世界に先駆けて買い付けた配給会社ビターズ・エンドの宣伝担当者に内情を聞いた。
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子宝に恵まれたアヤン(イムラン・ハシュミ)にとって、粉ミルク問題は他人事では済まされなかった。
「デビュー作『ノー・マンズ・ランド』がアカデミー賞外国語映画賞に選ばれるなど世界的に知名度のある名匠ダニス監督の作品ということで、マスコミ関係者向けの試写会での反響はすごくいいんです。『パキスタンでこんなことが起きていたなんて驚いた』『家族の幸せか社会正義かで揺れ動く主人公に感情移入した』など賞讃の声をいただいているんですが、『では、ぜひ番組の映画コーナーで取り上げてください』とお願いすると、『それは難しい……』とその場で断られてしまうんです。ある民放の報道番組のスタッフが本作を気に入ってくれ、局内で協議したそうですが、やはりダメでした。モデルとなっている企業がスポンサーになっていない番組でも、局内の他の番組に影響が及ぶことを心配して取り上げることを見送っているようです。乳製品などを扱っている国内の食品メーカーの機嫌も損ねるのではないかと懸念する声もあります。作品がつまらないから紹介されないのなら仕方ないのですが、面白いと言ってもらっているのに紹介してもらえないのは辛い。雑誌の場合も、ママさん雑誌を扱っている出版社からは断られるケースもありました」(ビターズ・エンド社宣伝スタッフ)  本作を観てもらえれば分かるのだが、特定の大企業をやり玉に挙げることをダニス監督は狙っているわけではない。ネスレ社が発展途上国の販売地域の生活環境を考慮せずに粉ミルクを大々的にセールスしたことはもちろん大きな問題だが、医者たちが金品を受け取って粉ミルク販売の便宜を図っていること、スラム街の水道を整備することが遅れた政府側の対応、文字を読むことができないため商品に書かれている注意書きの内容を知らずに粉ミルクを作り続ける貧民層の母親たち……。様々な要因が重なることで、新生児たちの命が失われ続けている。それぞれが自分の非を認めずにいる曖昧な状況こそが無辜の命を奪っていることをダニス監督は問題視している。  複雑な民族問題を抱えるボスニアで生まれ育ち、健康保険証のあるなしによって命を翻弄される一家を描いた『鉄くず拾いの物語』(13)など社会的弱者を主人公にした作品を手掛けてきたダニス監督は、多国籍企業を相手に映画を作ることの難しさを充分理解した上で撮っており、本作がどのような過程を経て映画化されたのかという舞台裏も劇中で描いている。英国の映画会社の雇った弁護士の進言で企業名は実名のネスレ社ではなく仮名のラスタ社に変わった経緯について触れ、主人公アヤンも決して聖人君子としては描いていない。また、病院で苦しんでいる赤ちゃんの映像は一部1989年のものもあるが、本作が撮影された2013年の映像も使用されており、粉ミルク問題は現在も解決していないことを伝えている。
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アヤンの営業力を認めていた上司のビラル(アディ・フセイン)だが、アヤンが会社を辞めようとすると警告を発する。
「劇映画としての面白さとメッセージ性をきちんと両立させているところが、ダニス監督の名匠たるゆえんでしょうね。本作は日本でもヒットした『めぐり逢わせのお弁当』(13)を製作したインドのプロデューサーが資金を集め、パキスタンでは無理だったので代わりにインドで撮影されたんです。2014年に完成し、トロント映画祭やサン・セバスチャン映画祭で上映されましたが、パキスタンはもちろんインドでも欧州でも劇場公開できずにいます。大手グローバル企業の影響力を気にして、他国のバイヤーたちは買い控えたのかもしれません。今のところ、日本だけが唯一の『汚れたミルク』を劇場公開する国になりそうです。以前、ドキュメンタリー映画『ダーウィンの悪夢』(04)を弊社が買い付け、日本で公開する際に、タンザニアの駐日大使から『アフリカのイメージを損なう』と抗議を受けたことはありましたが、でも今回のように宣伝活動で苦戦したことはあったかどうか。何とか劇場公開に漕ぎ着け、ひとりでも多くの人にパキスタンで何が起きたのかを知ってもらえればと思っています」(同スタッフ)  映画に登場する大手グローバル企業のモデルとなったネスレ社は同社のホームページの「よくある質問」の中で、「映画『汚れたミルク』を知っていますか?」という質問に対して「映画の中の出来事は、1990年代のことであり、ネスレの活動に関する事実を大きく歪めたものです。」と答える文面を掲載している。日本での『汚れたミルク』の劇場公開に関しては、今のところ無言を貫いている状態だ。 (取材・文=長野辰次)
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『汚れたミルク/あるセールスマンの告発』 監督/ダニス・タノヴィッチ 脚本/ダニス・タノヴィッチ、アンディ・パターソン 出演/イムラン・ハシュミ、ギータンジャリ、ダニー・ヒューストン、カーリド・アブダッラー、アディル・フセイン 配給/ビターズ・エンド 3月4日(土)より新宿シネマカリテほか全国順次公開 (c)Cinemorphic,SikhyaEntertainment &ASAP Films 2014 http://www.bitters.co.jp/tanovic ■3月25日(土)からはダニス・タノヴィッチ監督の最新作『サラエヴォの銃声』が新宿シネマカリテにてロードショー公開される。第一次世界大戦のきっかけとなったサラエヴォ事件から100年の記念式典を開くことになった伝統あるホテルで起きる群像劇。戯曲『ホテル・ヨーロッパ』をベースに、地元出身であるダニス監督によるスリリングな演出が見ものだ。
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『サラエヴォの銃声』 原作/ベルナール=アンリ・レヴィ 監督・脚本/ダニス・タノヴィッチ 出演/ジャック・ウェベール、スネジャネ・ヴィドヴィッチ、イズディン・バイロヴィッチ、ヴェドラナ・セクサン、ムハメド・ハジョヴィッチ 配給/ビターズ・エンド 3月25日(土)より新宿シネマカリテほか全国順次公開 (c)Margo Cinema,SCCA/pro.ba2016

ぼくらはみんな『アイヒマンの後継者』だった!? 平凡な市民の残酷さを明るみにした不快な実験結果

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『服従の心理』の著者として知られるミルグラム博士(ピーター・サースガード)。彼の業績は今も評価が分かれている。
 人類はこれまでに数々の大量虐殺を繰り返してきた。ナチスによるホロコーストでは600万人ものユダヤ人が犠牲となり、太平洋戦争を早期終結させるという名目のもとに広島と長崎に原爆が投下された。そして現在もスーダンではダルフール紛争が続いている。これらの虐殺行為は戦時下や特殊な環境で起きたものであって、自分なら絶対にこんな非人道的な行為に加担しないとあなたは思うはずだ。だが、あなたの信念を揺るがす実験がかつて米国で行なわれた。社会心理学者スタンレー・ミルグラム博士による「アイヒマン実験」がそれだ。62.5%の人間は命令されれば、恨みのない他人に対しても暴力行為を働くことをこの実験は証明してみせた。映画『アイヒマンの後継者 ミルグラム博士の恐るべき告発』は「アイヒマン実験」がどのように行なわれたのか、またこの実験結果によってミルグラム博士はどのような人生を歩んだのかを描いている。  1961年8月、米国のイェール大学にて「アイヒマン実験」は実施された。ユダヤ系米国人であるミルグラム博士は、同年エルサレムで開かれたアイヒマン裁判に強い関心を示していた。元ナチスの親衛隊員でユダヤ人を収容所に移送する際に指揮を執ったアドルフ・アイヒマンだが、裁判の被告席に引きずり出された彼は自分の非を認めず「命令に従っただけ」と最期まで主張した。ヒトラーのような権力者から命令されれば、人間は誰しもホロコーストのような大量虐殺に加担してしまうものなのか。ミルグラム博士は人間の持つ残酷性を科学的に解き明かそうとした。 「アイヒマン実験」、またの名を「ミルグラム実験」とも呼ばれるこの実験は以下のようなものだった。まず被験者を2名、教育者と学習者に分ける。教育者が学習者に簡単なクイズを出題し、学習者が回答を間違えると罰として電流が流れるスイッチを押す。最初は45ボルトほどの微量の電流だが、学習者が回答を間違え続けると、次第に電圧が上がり、最終的には450ボルトの電流が流れることになる。誤答した学習者は途中から「痛い」「止めてくれ」と訴えるようになり、スイッチを押していた教育者は実験に立ち会っていた研究者風の白衣の男の顔色をうかがうが、白衣の男が「最後まで続けてください」「責任は大学側が負います」と実験を続けることを促すと、笑ったり首を振りながらもスイッチを押し続けた。ちなみに学習者は博士が用意したサクラ(演技者)であって、実際には電流は流れておらず、痛がっているように芝居を演じていただけだった。この実験の結果、62.5%の人々が最後までスイッチを押し続けたことが分かった。
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ミルグラム博士の妻サシャを演じたのはウィノナ・ライダー。『ブラック・スワン』(10)同様、惚れた男に振り回されるはめに。
 イェール大学で行なわれた実験では白衣を着た男性だったが、権威を持つ人間から命令されれば過半数の人々が虐待行為に加担することが明らかとなった。白人男性だけに限らず、女性の場合でも違う人種の場合でもほぼ同じ結果となった。この実験結果は学界のみならず、世界中に大きな波紋を起こす。ミルグラム博士の元上司は「君の実験は人を不快にする」と侮蔑し、学生からは「被験者を騙した詐欺まがいの実験」と罵られる。人間の真実の姿を暴いたことでミルグラム博士は有名になったものの、毀誉褒貶の人生を歩むことになる。  ミルグラム博士を演じたのはピーター・サースガード。『マグニフィセント・セブン』(16)の悪役など助演でいい味を出す演技派俳優だが、彼の演技キャリアの中で強く印象に残っているが、リーアム・ニーソン主演の実録映画『愛についてのキンゼイ・レポート』(04)。セックス研究の第一人者であるキンゼイ博士(リーアム・ニーソン)の助手に扮し、性の奥深さを探求するためにキンゼイ博士とベッドで同性愛に励むシーンを生々しく演じてみせた。研究にのめり込んでいく姿は本作と通じるものがある。ミルグラム博士の研究に理解を示す妻サシャには、『シザーハンズ』(90)でハサミ男と恋に陥るヒロインを演じたウィノナ・ライダー。ハリウッドのメインストリームからは外れていった彼女だが、実在するダーウィン賞を題材にした『ダーウィン・アワード』(06)ではバカな死に方をして、人類の進化に貢献した人たちを訪ねて回る保険調査員を演じている。奇妙な実験をドラマ化した本作に、相応しいキャスティングだといえそうだ。実験の途中で「非人道的な実験には協力できない」と毅然とした態度で退席する被験者を演じたのは、2016年に事故で亡くなった若手俳優のアントン・イェルチン。現在公開中の主演映画『グリーンルーム』(15)ではナオナチと戦うパンクロッカーを熱演しているアントンが、本作で1シーンながら自分の意思を貫く市民を演じているのも感慨深い。
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電気技師である被験者(アントン・イェルチン)は「この実験には協力できない」と途中退席する。彼は27.5%のひとりだった。
 人間という動物は社会性を重んじるあまり、簡単に主体性を失ってしまうことをミルグラム博士は解き明かした。批判を浴びながらも、博士はその後もユニークな実験を続けることになる。「スモールワールド現象」も「アイヒマン実験」と並ぶ博士の業績だ。自分とは面識のない人物宛ての手紙を知り合いに「知っている人、もしくは知っていそうな人に渡して」と頼むと、平均して6人を介して、目的の人物に手紙を転送できるというもの。世間は思ったよりも狭く、人と人とはいろんな形で繋がり合っていることを博士は検証してみせた。“六次の隔たり”と呼ばれるこの実験結果を前提に、多くのSNSは構築されている。「人生とは後ろ向きに理解して、前向きに生きるもの」という哲学者キルケゴールの言葉が劇中に何度か引用されるが、ミルグラム博士の人生はまさにキルケゴールの言葉どおりのものだった。奇妙な実験で名を馳せた博士は名門ハーバード大学の教壇に立つようになるが、ハーバード大学で教授職に就くことは叶わなかった。講演で世界各地を飛び回る中、51歳の若さで亡くなった。ジョージ・オーウェルが管理社会の恐怖を描いたSF小説『1984』の時代設定となっていた1984年のことだった。  ミルグラム博士がスクリーンから観客に向かって語り掛けてくる形で物語は進んでいく。時折、博士の後ろにゾウが現われる。かなりシュールな演出だが、これは“部屋の中のゾウ(the elephant of the room)”という英語のことわざに由来したもの。人間は自分が見たいと思うものしか見ようとせず、部屋の中に大きなゾウがいても平気で気づかないふりをする。ミルグラム博士が突き付けた実験結果を、あなたはどう受け止めるだろうか。 (文=長野辰次)
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『アイヒマンの後継者 ミルグラム博士の恐るべき告発』 監督・脚本/マイケル・アルメレイダ 出演/ピーター・サースガード、ウィノナ・ライダー、ジム・ガフィン、アントン・イェルチン、ジョン・レグイザモ 配給/アット エンタテインメント 2月25日(土)より新宿シネマカリテほか全国順次公開 (C)2014 Experimenter Productions, LLC. All rights reserved. http://next-eichmann.com

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「嫁は感激してますけど……」“元アウトローのカリスマ”瓜田純士が大ヒットアニメ『君の名は。』をメッタ斬り!

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 短気で素直な元ヤクザに無理やり話題作を鑑賞させ、その喜怒哀楽を観察する実験企画。『HiGH&LOW THE MOVIE』に退屈し、『おそ松さん』を嫌悪し、『この世界の片隅に』を大絶賛した“元アウトローのカリスマ”こと作家の瓜田純士(37)だが、果たしてこの青春アニメには、いかなる反応を見せるのか?――世界の興収累計で日本映画最大のヒット作となり、今なお国内外でロングラン上映を続けている『君の名は。』が、今回のお題だ!  昨年8月に封切られ、社会現象を巻き起こした新海誠監督の『君の名は。』。アジアやヨーロッパの各国でも続々と公開され、日本を含む全世界興行収入は約337億円を突破(1月8日時点)。日本映画の中で世界一売れた作品となった。
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『君の名は。』公式サイトより
 本作の鑑賞を瓜田に依頼したところ、まずはこんな反応が返ってきた。 「めちゃくちゃ売れてる青春物のアニメですよね? こないだグラミー賞のノミネートを逃したとかいう報道を見ましたよ」  アカデミー賞をグラミー賞と間違えてはいるものの、瓜田もこの映画の存在は知っていた。だが、鑑賞にはまったく乗り気ではないようだ。 「俺にもメンツってもんがありますから。1人で青春アニメを見に行ってる姿を知人に目撃されようものなら、何を言われるかわかったもんじゃない。記者と2人で? もっとイヤですよ。ゲイカップルと勘違いされるじゃないですか。どうしてもって言うんなら、嫁同伴でいいですか? 嫁と一緒だったら、“家族サービスをする夫”という体を装える。実際、嫁は『君の名は。』を見たいと言ってますし」  その要求を飲むことにした。前回、『この世界の片隅に』を見てもらったときは(記事参照)、最前列の一番端の席しか売れ残っておらず、瓜田を怒らせてしまったため、今回は「最後列のド真ん中」の席を、記者の分を含め3枚連番で予約した。  だが、劇場に来て拍子抜け。予約など必要なかったようだ。平日ということもあるだろうが、客入りは4割程度。最後列はわれわれ以外、誰もいない。公開から半年経ってこれだけ入れば十分と見るべきか、さすがに勢いが落ちてきたと見るべきかは判断の分かれるところだろうが、とにもかくにも落ち着いて鑑賞できる環境が整っていることは確かである。  いざ、開演――。途中で何度も、隣のほうから鼻をすするような音が聞こえてきたが、果たして……? 感想は終演後にじっくりうかがおう。 * * * ――いかがでしたか? 瓜田純士(以下/純士) なんだよ、この変態ムービー。嫁は大感激してますけど、俺には無理っす。ないなぁ、これは。 ――あれ? 奥様、目が真っ赤じゃないですか! 瓜田麗子(以下/麗子) もう、涙が止まらなくて……。ちょっとお化粧直しにトイレ行ってきます。 ――では引き続き旦那様にお話をお聞きしますが、「変態ムービー」とはどういう意味でしょう?
「嫁は感激してますけど……」元アウトローのカリスマ瓜田純士が大ヒットアニメ『君の名は。』をメッタ斬り!の画像3
純士 たとえばですけど、『ドラえもん』ってあるじゃないですか。あれを飽きずに見れるのは、のび太とかドラえもんとかジャイアンが三枚目だからですよ。でも、出木杉君としずかちゃんが主演のラブロマンスを、2時間見れます? 無理でしょう。つまりはそういうことです。『君の名は。』は、絵やキャラクターに、「若い男女は美しくあって欲しい」という監督の変態的な願望が入りすぎてるから、こっちの目と心が追いつかないんですよ。 ――絵のクオリティーはものすごく高かったですけどね。 純士 その技術力は、きっと世界でもダントツでしょう。キャラの動き、スマホの質感、コンビニで買った商品のリアル感。どれもこれもすごい。すごいんだけど、100で来られすぎました。クリエイターたちの力が入りすぎてて、見てるほうが疲れちゃうんですよ。 ――瓜田さんの地元である新宿の街並みも、本物そっくりに再現されていましたね。 純士 まわりくどい。あそこまでリアルさを追求するんだったら、実写でやれよ。なんでわざわざアニメにしたんだよ。監督はたぶん自分で見て自分で酔いしれてるんだろうけど、その優越感が鼻につきますね。そのくせ、バイト先の女上司が、先に風呂入って浴衣に着替えてるのに、バリバリのツケマで外行きのままなんですよ。そういう細部には気が回ってない。下手したら女性は化粧でそんぐらいに化けてるってことを、わかってないのかもしれないな。この新海って子は。 ――瓜田さんより年上ですけどね。 純士 中身は俺のほうがオトナですよ。あんまこういうこと言いたくないけど、初めから違う人なんだな、と思います。見てる景色や育った環境、すべてにおいて俺とは違う人なんだな、と。(ここで麗子夫人が戻ってくる) ――旦那様はお気に召さなかったようですが、奥様はいかがでしたか? 麗子 もう最初から最後まで、ズッキュン、ズッキュン来まくりでした。途中から嗚咽が止まらなかったです。    純士 そのときに俺、わかったんですよ。嫁は凡人で、俺は天才なんだな、と。 麗子 ちゃうわ! 純士にはロマンチックさがないんや! 私、学園物は苦手なんやけど、これはホンマに最高やった。ようできてるなぁ、と。 純士 こんなもんによく感情移入できたな。アニメって、ブサイクな男の子も女の子も見るじゃないですか。どっかで自分にコンプレックスのある人たちが見た場合、学校のシーンなんかが特にそうだけど、脇役までもが揃いも揃ってヒロイン級に容姿端麗だったら、面白くなくなりますって。僕が、私が、この場にいたらどうなるんだろう? そういう想像を掻き立てるのがアニメの面白いところなのに、どいつもこいつも出来杉君としずかちゃんばっかだと、イケてない男女が自分を投影できず、置いてきぼりを食らって可哀想ですよ。その点、宮崎アニメなんかは、ヒロインが可愛いんだか可愛くないんだかわかんなかったりして、愛嬌があるから、感情移入できるんですけどね。 麗子 スマホの音とか、電車の発車メロディーとか、生活音がリアルやったから、私はストーリーに没頭できたけどな。 純士 ああいう音もすべて、「うるせえよ!」と思いました。うるさかったと言えば、なんすか、あの学芸会みたいなバンドは。あんなしみったれた歌詞でお経みたいに歌われたら、「家でやれよ!」と言いたくなりますよ。 麗子 ウソー!? 私はあの音楽、めっちゃ泣けたで。サントラのCD欲しいもん。 純士 頼む。それだけはやめてくれ。一緒に住んでるんだから……。上映中はマジで地獄でしたよ。こっちはバカだクソだと思ってるのに、横では自分の愛する嫁が感動して泣いてるんですよ。しかも、あの背筋が凍るような音楽を、監督が好きだからって、ちょいちょい出してくるわけです。「ほら、ここでこの曲が流れたら、お前らグッとくるだろ?」と言わんばかりに。だけどあの手の音楽が嫌いな人からしたら、「え、やめて!」となるじゃないですか。なのに、しつこく流してくる。眠たいったらありゃしない。落語かよ、と思いました。 ――RADWIMPSは紅白に出るほど大人気ですけどね。
「嫁は感激してますけど……」元アウトローのカリスマ瓜田純士が大ヒットアニメ『君の名は。』をメッタ斬り!の画像4
純士 流行りって怖いなって思いました。最後、出演者のテロップを見て、納得したんですよ。大御所を含む有名俳優が声優として何人も参加してるんで、各々の事務所が相当なプロモーションをしたんだな、だから流行ってるんだな、と。それだけのことですよ。 ――ストーリーそのものは、どうだったでしょう? 純士 これから面白くなるんだろうと思って、ずっと信じて見てたんですけど、最後の最後まで裏切られました。どうでもいい奴らが、どうでもいい時空の歪みでどうでもいいことする話なんて、ホント、どうでもよくないですか? 麗子 歴史が変わったんやで! 運命を変えたんやで! 純士 あんな人形みたいな連中、死んでても生きてても一緒だろ(笑)。どうでもいいよ。 麗子 そんなことないわ! 途中で何度も入れ替わって、最後どうなるんかと思ったら、あぁ、こうきたか、と。 純士 何度も入れ替わるシーンにしても、混乱するから、もっとわかりやすくして欲しかったですよ。声が一緒のまんま、しょっちゅう入れ替わるから、今どっちなのかわかりづらくて、途中でどうでもよくなっちゃった。 麗子 それは純士がアホやからや! 普通にわかる! 私は全部わかったで! 純士 こういう話が好きな人は、『時をかける少女』とかも好きなんですよ。メンヘラ以下です。 麗子 『時をかける少女』は嫌いやけどな。 ――「メンヘラ以下」とは? 純士 メンヘラの作ったもののほうが内容がとっちらかってて、まだ印象に残るんですよ。『君の名は。』を見て思ったのは、本物の凡人の心は、こうなのかもしれないってこと。大学出て、サラリーマンやって、毎朝きっちり電車に乗って。そういう人たちの心って、案外こうなのかもしれない。俺とは人生が違いすぎるので、ちょっとわかんないわ。あともう一つ、すごく気に入らなかったことがある。 ――まだありますか? それは何でしょう? 純士 『君の名は。』というタイトルの存在を、途中で匂わせすぎですね。タイトルと内容が一瞬、かするか、かすらないかぐらいが映画や小説の醍醐味で、「なんでこのタイトルなんだろう?」というのをこっちは想像したいのに、天からケツまで、『君の名は。』みたいなことを、やたら言わせよう聞かせよう見せようとしすぎです。学芸会を前にした子供が「僕すごいんだよ! 僕の今からやる演技を見てね!」と練習の段階で周囲に見せまくるのと一緒。もうわかったから、うっせえな、って感じ。幼稚くさい子だな、と。 ――よかった点はありますか?
「嫁は感激してますけど……」元アウトローのカリスマ瓜田純士が大ヒットアニメ『君の名は。』をメッタ斬り!の画像5
純士 俺、見てる途中で、耳の奥がキーンとなったんですよ。ものすごくまずいものを食ったり、嫌いな人を見たり、つまんないものを見たりすると、キーンとなるんだな、ということがわかったのが唯一の収穫でしょうか。 ――本作を総括すると? 純士 金持ちAが現れて、「さぁ、うちの屋敷を見てごらん」と言われて、バカラグラスやフェラーリを見せられたら、ウザってえと感じつつも、やっぱすごいと俺は思って、写メを撮るかもしれない。それがハリウッド大作としましょう。一方、金持ちBの邸宅に招かれて行ったら、フィギュアの山を自慢されたうえ、聴きたくもねえ幻のレコードを延々と聴かされて、「知らねえよ!」って感じで逃げ出したくなった。それが『君の名は。』です。 * * *  ここまで言って大丈夫なのだろうか? という不安のほか、ここまで意見が対立して、この夫婦は今後うまくやっていけるのだろうか? という不安も募った今回の取材。3人で笑いあえる日はまた来るのか? 次回がもしあるなら、夫婦同伴で来ていただき、『君の名は。』よりもドラマチックな再会を果たそうではないか。 (取材・文=岡林敬太/撮影=おひよ) ※日刊サイゾーでは瓜田純士の最新情報をほぼ月イチペースでお届けしています。 http://www.cyzo.com/cat8/outlaw_charisma/ ※瓜田純士&麗子 Instagram  https://www.instagram.com/junshi.reiko/

「嫁は感激してますけど……」“元アウトローのカリスマ”瓜田純士が大ヒットアニメ『君の名は。』をメッタ斬り!

「嫁は感激してますけど……」元アウトローのカリスマ瓜田純士が大ヒットアニメ『君の名は。』をメッタ斬り!の画像1
 短気で素直な元ヤクザに無理やり話題作を鑑賞させ、その喜怒哀楽を観察する実験企画。『HiGH&LOW THE MOVIE』に退屈し、『おそ松さん』を嫌悪し、『この世界の片隅に』を大絶賛した“元アウトローのカリスマ”こと作家の瓜田純士(37)だが、果たしてこの青春アニメには、いかなる反応を見せるのか?――世界の興収累計で日本映画最大のヒット作となり、今なお国内外でロングラン上映を続けている『君の名は。』が、今回のお題だ!  昨年8月に封切られ、社会現象を巻き起こした新海誠監督の『君の名は。』。アジアやヨーロッパの各国でも続々と公開され、日本を含む全世界興行収入は約337億円を突破(1月8日時点)。日本映画の中で世界一売れた作品となった。
「嫁は感激してますけど……」元アウトローのカリスマ瓜田純士が大ヒットアニメ『君の名は。』をメッタ斬り!の画像2
『君の名は。』公式サイトより
 本作の鑑賞を瓜田に依頼したところ、まずはこんな反応が返ってきた。 「めちゃくちゃ売れてる青春物のアニメですよね? こないだグラミー賞のノミネートを逃したとかいう報道を見ましたよ」  アカデミー賞をグラミー賞と間違えてはいるものの、瓜田もこの映画の存在は知っていた。だが、鑑賞にはまったく乗り気ではないようだ。 「俺にもメンツってもんがありますから。1人で青春アニメを見に行ってる姿を知人に目撃されようものなら、何を言われるかわかったもんじゃない。記者と2人で? もっとイヤですよ。ゲイカップルと勘違いされるじゃないですか。どうしてもって言うんなら、嫁同伴でいいですか? 嫁と一緒だったら、“家族サービスをする夫”という体を装える。実際、嫁は『君の名は。』を見たいと言ってますし」  その要求を飲むことにした。前回、『この世界の片隅に』を見てもらったときは(記事参照)、最前列の一番端の席しか売れ残っておらず、瓜田を怒らせてしまったため、今回は「最後列のド真ん中」の席を、記者の分を含め3枚連番で予約した。  だが、劇場に来て拍子抜け。予約など必要なかったようだ。平日ということもあるだろうが、客入りは4割程度。最後列はわれわれ以外、誰もいない。公開から半年経ってこれだけ入れば十分と見るべきか、さすがに勢いが落ちてきたと見るべきかは判断の分かれるところだろうが、とにもかくにも落ち着いて鑑賞できる環境が整っていることは確かである。  いざ、開演――。途中で何度も、隣のほうから鼻をすするような音が聞こえてきたが、果たして……? 感想は終演後にじっくりうかがおう。 * * * ――いかがでしたか? 瓜田純士(以下/純士) なんだよ、この変態ムービー。嫁は大感激してますけど、俺には無理っす。ないなぁ、これは。 ――あれ? 奥様、目が真っ赤じゃないですか! 瓜田麗子(以下/麗子) もう、涙が止まらなくて……。ちょっとお化粧直しにトイレ行ってきます。 ――では引き続き旦那様にお話をお聞きしますが、「変態ムービー」とはどういう意味でしょう?
「嫁は感激してますけど……」元アウトローのカリスマ瓜田純士が大ヒットアニメ『君の名は。』をメッタ斬り!の画像3
純士 たとえばですけど、『ドラえもん』ってあるじゃないですか。あれを飽きずに見れるのは、のび太とかドラえもんとかジャイアンが三枚目だからですよ。でも、出木杉君としずかちゃんが主演のラブロマンスを、2時間見れます? 無理でしょう。つまりはそういうことです。『君の名は。』は、絵やキャラクターに、「若い男女は美しくあって欲しい」という監督の変態的な願望が入りすぎてるから、こっちの目と心が追いつかないんですよ。 ――絵のクオリティーはものすごく高かったですけどね。 純士 その技術力は、きっと世界でもダントツでしょう。キャラの動き、スマホの質感、コンビニで買った商品のリアル感。どれもこれもすごい。すごいんだけど、100で来られすぎました。クリエイターたちの力が入りすぎてて、見てるほうが疲れちゃうんですよ。 ――瓜田さんの地元である新宿の街並みも、本物そっくりに再現されていましたね。 純士 まわりくどい。あそこまでリアルさを追求するんだったら、実写でやれよ。なんでわざわざアニメにしたんだよ。監督はたぶん自分で見て自分で酔いしれてるんだろうけど、その優越感が鼻につきますね。そのくせ、バイト先の女上司が、先に風呂入って浴衣に着替えてるのに、バリバリのツケマで外行きのままなんですよ。そういう細部には気が回ってない。下手したら女性は化粧でそんぐらいに化けてるってことを、わかってないのかもしれないな。この新海って子は。 ――瓜田さんより年上ですけどね。 純士 中身は俺のほうがオトナですよ。あんまこういうこと言いたくないけど、初めから違う人なんだな、と思います。見てる景色や育った環境、すべてにおいて俺とは違う人なんだな、と。(ここで麗子夫人が戻ってくる) ――旦那様はお気に召さなかったようですが、奥様はいかがでしたか? 麗子 もう最初から最後まで、ズッキュン、ズッキュン来まくりでした。途中から嗚咽が止まらなかったです。    純士 そのときに俺、わかったんですよ。嫁は凡人で、俺は天才なんだな、と。 麗子 ちゃうわ! 純士にはロマンチックさがないんや! 私、学園物は苦手なんやけど、これはホンマに最高やった。ようできてるなぁ、と。 純士 こんなもんによく感情移入できたな。アニメって、ブサイクな男の子も女の子も見るじゃないですか。どっかで自分にコンプレックスのある人たちが見た場合、学校のシーンなんかが特にそうだけど、脇役までもが揃いも揃ってヒロイン級に容姿端麗だったら、面白くなくなりますって。僕が、私が、この場にいたらどうなるんだろう? そういう想像を掻き立てるのがアニメの面白いところなのに、どいつもこいつも出来杉君としずかちゃんばっかだと、イケてない男女が自分を投影できず、置いてきぼりを食らって可哀想ですよ。その点、宮崎アニメなんかは、ヒロインが可愛いんだか可愛くないんだかわかんなかったりして、愛嬌があるから、感情移入できるんですけどね。 麗子 スマホの音とか、電車の発車メロディーとか、生活音がリアルやったから、私はストーリーに没頭できたけどな。 純士 ああいう音もすべて、「うるせえよ!」と思いました。うるさかったと言えば、なんすか、あの学芸会みたいなバンドは。あんなしみったれた歌詞でお経みたいに歌われたら、「家でやれよ!」と言いたくなりますよ。 麗子 ウソー!? 私はあの音楽、めっちゃ泣けたで。サントラのCD欲しいもん。 純士 頼む。それだけはやめてくれ。一緒に住んでるんだから……。上映中はマジで地獄でしたよ。こっちはバカだクソだと思ってるのに、横では自分の愛する嫁が感動して泣いてるんですよ。しかも、あの背筋が凍るような音楽を、監督が好きだからって、ちょいちょい出してくるわけです。「ほら、ここでこの曲が流れたら、お前らグッとくるだろ?」と言わんばかりに。だけどあの手の音楽が嫌いな人からしたら、「え、やめて!」となるじゃないですか。なのに、しつこく流してくる。眠たいったらありゃしない。落語かよ、と思いました。 ――RADWIMPSは紅白に出るほど大人気ですけどね。
「嫁は感激してますけど……」元アウトローのカリスマ瓜田純士が大ヒットアニメ『君の名は。』をメッタ斬り!の画像4
純士 流行りって怖いなって思いました。最後、出演者のテロップを見て、納得したんですよ。大御所を含む有名俳優が声優として何人も参加してるんで、各々の事務所が相当なプロモーションをしたんだな、だから流行ってるんだな、と。それだけのことですよ。 ――ストーリーそのものは、どうだったでしょう? 純士 これから面白くなるんだろうと思って、ずっと信じて見てたんですけど、最後の最後まで裏切られました。どうでもいい奴らが、どうでもいい時空の歪みでどうでもいいことする話なんて、ホント、どうでもよくないですか? 麗子 歴史が変わったんやで! 運命を変えたんやで! 純士 あんな人形みたいな連中、死んでても生きてても一緒だろ(笑)。どうでもいいよ。 麗子 そんなことないわ! 途中で何度も入れ替わって、最後どうなるんかと思ったら、あぁ、こうきたか、と。 純士 何度も入れ替わるシーンにしても、混乱するから、もっとわかりやすくして欲しかったですよ。声が一緒のまんま、しょっちゅう入れ替わるから、今どっちなのかわかりづらくて、途中でどうでもよくなっちゃった。 麗子 それは純士がアホやからや! 普通にわかる! 私は全部わかったで! 純士 こういう話が好きな人は、『時をかける少女』とかも好きなんですよ。メンヘラ以下です。 麗子 『時をかける少女』は嫌いやけどな。 ――「メンヘラ以下」とは? 純士 メンヘラの作ったもののほうが内容がとっちらかってて、まだ印象に残るんですよ。『君の名は。』を見て思ったのは、本物の凡人の心は、こうなのかもしれないってこと。大学出て、サラリーマンやって、毎朝きっちり電車に乗って。そういう人たちの心って、案外こうなのかもしれない。俺とは人生が違いすぎるので、ちょっとわかんないわ。あともう一つ、すごく気に入らなかったことがある。 ――まだありますか? それは何でしょう? 純士 『君の名は。』というタイトルの存在を、途中で匂わせすぎですね。タイトルと内容が一瞬、かするか、かすらないかぐらいが映画や小説の醍醐味で、「なんでこのタイトルなんだろう?」というのをこっちは想像したいのに、天からケツまで、『君の名は。』みたいなことを、やたら言わせよう聞かせよう見せようとしすぎです。学芸会を前にした子供が「僕すごいんだよ! 僕の今からやる演技を見てね!」と練習の段階で周囲に見せまくるのと一緒。もうわかったから、うっせえな、って感じ。幼稚くさい子だな、と。 ――よかった点はありますか?
「嫁は感激してますけど……」元アウトローのカリスマ瓜田純士が大ヒットアニメ『君の名は。』をメッタ斬り!の画像5
純士 俺、見てる途中で、耳の奥がキーンとなったんですよ。ものすごくまずいものを食ったり、嫌いな人を見たり、つまんないものを見たりすると、キーンとなるんだな、ということがわかったのが唯一の収穫でしょうか。 ――本作を総括すると? 純士 金持ちAが現れて、「さぁ、うちの屋敷を見てごらん」と言われて、バカラグラスやフェラーリを見せられたら、ウザってえと感じつつも、やっぱすごいと俺は思って、写メを撮るかもしれない。それがハリウッド大作としましょう。一方、金持ちBの邸宅に招かれて行ったら、フィギュアの山を自慢されたうえ、聴きたくもねえ幻のレコードを延々と聴かされて、「知らねえよ!」って感じで逃げ出したくなった。それが『君の名は。』です。 * * *  ここまで言って大丈夫なのだろうか? という不安のほか、ここまで意見が対立して、この夫婦は今後うまくやっていけるのだろうか? という不安も募った今回の取材。3人で笑いあえる日はまた来るのか? 次回がもしあるなら、夫婦同伴で来ていただき、『君の名は。』よりもドラマチックな再会を果たそうではないか。 (取材・文=岡林敬太/撮影=おひよ) ※日刊サイゾーでは瓜田純士の最新情報をほぼ月イチペースでお届けしています。 http://www.cyzo.com/cat8/outlaw_charisma/ ※瓜田純士&麗子 Instagram  https://www.instagram.com/junshi.reiko/

佐々木希のヘタすぎる公開アフレコに「篠田麻里子の二の舞い」を危惧する声

佐々木希のヘタすぎる公開アフレコに「篠田麻里子の二の舞い」を危惧する声の画像1
 2月16日映画『キングコング:髑髏島の巨神』(3月25日公開予定)の日本語吹き替えを担当するミュージシャンのGACKTと女優の佐々木希が、都内のスタジオで公開アフレコを披露した。 「佐々木は『吹き替えは初めての経験で、このように(マスコミの)みなさんの前ですることも初めてなので、今からドキドキしていますが、頑張ります』と最初から緊張しまくり。案の定、アフレコが始まると、何度もセリフをトチり『間違えました。すみません! 本当にすみません!』『う~、緊張する~。ごめんなさい』と繰り返し謝罪し、パニック状態に陥っていました。そのたびにGACKTから『今のもう1回やろうか』『かわいいね~』とフォローされていましたが、現場にはグダグダな空気が漂っていましたね」(芸能記者)  佐々木といえば、ルックスの良さは誰もが認めるところだが、女優としてはドラマや映画に出演するたびに“棒演技”ぶりが話題となっている。そのため、このアフレコ映像を見た人たちは大いに心配になったようで、中には吹き替えが黒歴史化した元AKB48・篠田麻里子の二の舞いになることを危惧する声まで噴出している。 「篠田は2012年にハリウッド映画『TIME/タイム』の吹き替えを務めているのですが、マンガ家の相原コージ氏が『ヒロインの吹き替えが酷すぎて気になって面白さ半減』とTwitterで苦言を呈したことで、ネット上では酷評祭りに。さらに、大手レンタル店で貼られた『日本語吹き替えが最悪』というPOPも話題となり、篠田の棒演技ぶりがクローズアップされてしまいました」(映画ライター)  とはいえ、芸能人の声優起用は“客寄せパンダ”的な意味合いが強い。本職の声優に劣るのは当然で、むしろ責任は起用した製作側にありそう。しかし、佐々木の売りはあくまでも顔面。彼女の声の演技が集客に結び付くのか、甚だ疑問だが……。

日本人専門歓楽街タニヤ通りで生きる女と男の物語 『バンコクナイツ』に見る楽園のリアルな内情!!

日本人専門歓楽街タニヤ通りで生きる女と男の物語『バンコクナイツ』に見る楽園のリアルな内情!!の画像1
バンコクにある日本人専門の歓楽街タニヤ通りで働く女たち。彼女らとのコミュニケーションは日本語でOK。
 女、ドラッグ、拳銃……。男が欲しいものは、そこへ行けばすべて手に入るという。タイの首都バンコクは、自国に息苦しさを感じている男たちを否応なく惹き付ける魔力に溢れている。日本人専門の歓楽街タニヤ通りに繰り出せば、日本語の看板と妖しいネオンがきらめいている。店のドアを開くと、甘い匂いを漂わせたセクシーな美女たちがひな壇にずらりと並び、指名されるのを待っている。男たちの脳内物質を刺激して止まない、そんな夜の歓楽街へとカメラはごく自然に入っていく。そして、男と女の出逢いと別れのドラマをカメラは映し出す。富田克也監督ら空族によるインディペンデント映画『バンコクナイツ』は、日本映画でありながら今まで描かれることのなかったタイの内情とバンコクに集まる人々の心情を赤裸々に描き出していく。  富田監督は前作『サウダーヂ』(11)で自身の故郷・甲府を舞台に、地方都市で暮らす肉体労働者や外国からの移民たちのシビアな日常を描き、国際的な評価を得た。『サウダーヂ』に出てきた人々は働いても働いても楽にならない生活に疲れ、楽園に旅立つことを夢想する。そんな彼らの楽園願望を叶えてくれる先が、“ほほえみの国”タイだった。構想10年、製作に4年を要し、映像制作集団・空族を支援するファンから集まったクラウドファンディングで完成したインディペンデント大作が『バンコクナイツ』だ。この世界に楽園は存在するのか? そんな楽園での暮らしはどんなものなのか? レオナルド・ディカプリオ主演作『ザ・ビーチ』(00)とは異なるリアルな楽園像を空族は追い求めていく。  上映時間182分という長尺ながら、物語はシンプルさを極めている。日本人男性がタイの女性と恋に堕ち、楽園を目指すというものだ。バンコクのタニヤ通りで働くラック(スベンジャ・ポンコン)はお店でNo.1の人気嬢。裏パーティーに呼ばれたラックは、そこでかつて恋人だったオザワ(富田克也)と再会。元自衛官のオザワはバンコクに出てきたばかりのラックと出逢い、2人は恋に陥った。その後、オザワはネットゲームで日銭を稼ぐ、いわゆる海外沈没組に成り下がってしまう。高給マンションで暮らすようになったラックとは身分違いとなったが、それでも5年ぶりに巡り合った2人は焼けぼっくいに火が点くことに。そんなとき、オザワは自衛隊時代の上官・富岡(村田進二)からタイの隣国ラオス周辺の不動産の調査を依頼される。ラックの故郷イサーン地方は、ラオスとの国境に近い。オザワとラックはバンコクから抜け出すように、イサーン地方へと向かう。ラックの故郷で暮らす人々は、みんな純朴だった。自然が豊かで昔ながらの共同体が残るイサーンは、日本の高度成長期の田舎町を思わせ、どこにも居場所のないオザワの目にはまるで桃源郷のように映った。  ラックをはじめとするタイの女性たちは美しく、たくましく、そして情が深い。彼女たちはプロの女優ではなく、実際に夜の街で働く女たちだ。現在はバンコクで暮らし、プロモーションのために日本に帰ってきた富田監督は『バンコクナイツ』の舞台裏をこう語った。 富田「僕と脚本を担当した相澤(虎之助)の2人で夜のバンコクを歩き回って、『この子、いいな』という女の子たちに声を掛けていったんです。タニヤ通りの撮影は苦労しました。何度も通ってお願いしているうちに、『いつになったら撮るんだ?』と訊かれるような関係になった。タニヤ通り以外のシーンの撮影を先に済ませ、もう機は熟しただろうというタイミングでタニヤ通りでカメラを回そうとしたんですが、やっぱりダメで騒ぎになっちゃったんです。そこでようやくボスが現われて、呼び出されました。タニヤ通りは複雑で、最終的な話を誰につければいいのか分からなかったんです。僕らの切り札は、それまでに撮った映像だけ。ダイジェストをボスに見てもらったところ、『OK。パーフェクトだ!』と(笑)。翌日からはスムーズに撮影できるようになりました。撮影がOKになった要因として、この映画に出演してくれた女の子たちがみんなで『この人たちは悪い人たちじゃないよ。撮影させてあげて』と頼んでくれたことも大きかったと思います。『バンコクナイツ』が撮影できたのは、本当に彼女たちのお陰です」
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タイ名物の三輪タクシー・トゥクトゥクに乗るラックとオザワ。富田監督はオザワ役も兼ねている。
 タニヤ通りで働く女たちとそこに群がる日本から来た男たちとの関係を有りのままに映し出した前半のバンコク編から、中盤からはラックの故郷であるタイ東北部のイサーン編へ。タイ名物の三輪タクシーに乗ったオザワとラックは心地よい風を浴びながら、恋愛すらも金銭を介するバンコクを脱出する。ラオスとの国境が近いイサーン地方は、質素で人情味溢れる土地だった。異邦人ながらオザワは自分が生まれ育った日本からは失われしまったものが、ここには残っていることを実感する。身も心も癒されていくオザワ。だが、長く滞在していれば、当然ながら100%のユートピアがこの世には存在しないことが分かってくる。ノスタルジックさが漂う村だが、ここにはまともな産業がなかった。ラックの実家は彼女がバンコクで体を張って稼いだお金によって生活を維持していた。この村では女は娼婦に、男は出家して僧になるか軍隊に入るかしか道はなかった。地方都市の惨状を描いた『サウダーヂ』と同じように、“ほほえみの国”タイでも中央と地方との地域格差、搾取する側とされる側との大きな壁があることが明らかになってくる。 『サウダーヂ』に続いて『バンコクナイツ』でも共同脚本を務めた空族の相澤虎之助氏は90年代をバックパッカーとして過ごし、東南アジア各国の内情に詳しい。相澤監督作として東南アジアと戦争、麻薬の関係について掘り下げた『花物語バビロン』(97)や『バビロン2 The OZAWA 』(12)を撮っている。日本とタイを行き来する相澤氏にも話を聞いた。 相澤「タイ東北部のイサーン地方は、ラオスとの国境に近く、異なる文化や気質を持っている地域なんです。バンコクで働く娼婦やタクシー運転手たち出稼ぎ労働者の8割はイサーン出身だと言われているくらい経済的には貧しいけれど、ラオスの文化と交じり合った独特の音楽も生まれています。タイは歴史的に一度も植民地化されたことがなく、ベトナム戦争とも無関係だったと思われているけど、ベトナムへの米軍の前線基地がいちばん多く作られたのがイサーン地方であり、ゲリラが解放区を造ったのもイサーンだった。バンコクの歓楽街もベトナム戦争に従軍した米兵たちのためのリゾートとして誕生したという背景があるんです。欧米による植民地化が始まって以降、東南アジアの歴史にはずっと戦争と売春産業がセットになって刻まれているんです」
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仏教国であるタイらしさを感じさせる出家式。ご近所さんが集まって、賑やかにお祝いする。
 オザワのような旅行者にはパラダイスとして映っていたイサーン地方だが、その土地で暮らしているうちに楽園のダークサイドが次第に見えてくる。毎晩バーに現われるフランス人は世界各地を旅していたが、欧米が宗主国として君臨していた旧植民地にしか足を踏み入れていないことが分かる。深い森の中では、ゲリラ兵たちが今も幽霊となって戦いを続けていた。そしてオザワが国境を越えてラオスへと渡ると、そこにはより生々しい戦争の傷跡がむきだし状態で残っていた。大きな時代のうねり、歴史の流れをオザワは全身で体感することになる。 『サウダーヂ』同様に資本主義経済の波に呑まれ、下流層から脱することができない人々の哀歓を描いた『バンコクナイツ』だが、日本から離れたタイを舞台にしていることで、より鮮明に現代社会の問題構造が浮かび上がって見えてくる。ちなみに米国のラストベルトの荒んだ現状を描いたクリント・イーストウッド主演・監督作『グラン・トリノ』(08)で主人公コワルスキーの隣家で暮らしていたのはラオスからの移民であるモン族一家だった。相澤氏によるとモン族の多くはベトナム戦争の終結と共に内戦状態のラオスからタイのイサーン地方へと避難し、さらに米国に渡ったという。タイを舞台にした『バンコクナイツ』は、甲府を舞台にした『サウダーヂ』、そしてデトロイトの物語『グラン・トリノ』とも繋がっていることになる。  楽園の本当の姿を知ったオザワは、クライマックスで一丁の拳銃を手に入れる。大きな時代のうねり、社会の激流に、たった一丁の拳銃で立ち向かうことにどれだけの意味があるのか。迫りくる絶望に足を絡め取られそうになりながらも、それでも彼は生きることを選択する。それは幻の楽園を追い求めるのではなく、苦い現実世界に向き合うことに他ならなかった。 (文=長野辰次)
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『バンコクナイツ』 監督/富田克也 脚本/相澤虎之助、富田克也 撮影・照明/スタジオ石(向山正洋、古屋卓麿) 録音/山﨑巌、YOUNG-G DJs/Soi48、YOUNG-G 出演/スベンジャ・ポンコン、スナン・プーウィセット、チュティンバー・ポンピアン、タンヤラット・コンプー、サリンヤー・ヨンサワット、伊藤仁、川瀬陽太、田我流、富田克也 配給/空族 2月25日(土)よりテアトル新宿ほか全国順次公開 (c)Bangkok Nites Partners 2016 http://www.bangkok-nites.asia

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公開迎えた『サバイバルファミリー』宣伝に四苦八苦「深津絵里さんと連絡が取れない……」

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『サバイバルファミリー』公式サイトより
「とにかく今は“無事に公開を迎えられてよかった”の一言ですよ。撮影中はもちろん、番宣もなかなかうまくいきませんでしたからね」(映画スタッフ)  2月11日、矢口史靖監督の最新作『サバイバルファミリー』が公開された。 「主演は小日向文世さん、その妻役に深津絵里さんと、演技派2人がそろいました。脇にも時任三郎さんや宅麻伸さん、渡辺えりさん、柄本明さんなど、日本映画界を代表するそうそうたるメンバーが矢口監督の下に集まりました。ヒット作を連発している矢口監督の久々の作品だけに、製作のフジテレビも相当期待しているようです」(芸能事務所関係者)  それだけに事前の番宣が大事になってくるのだが、ヒロイン役の深津絵里が非協力的だったというのだ。 「本作の製作はフジテレビ。最近は局の垣根を越えて番宣できるようになってきたのはいいのですが、他局だといろいろな制約が出てきてしまうんです。たとえば、一度映画や舞台の宣伝をした人は、1年間はほかの番宣で出られないとか。今回も小日向さんがいくつかそういった制約に引っかかって、代わりに深津さんサイドにお願いをしたのですが、担当者レベルで無下に断られたそうです」(テレビ局関係者)  焦ったフジテレビは、深津と懇意のプロデューサーが直接連絡を取ろうと試みたという。 「すると、深津さんが所属するアミューズからは『それはやめてくれ』と横やりが入ったそうです。そもそもマネジャーが『深津と連絡が取れないので、できません』という返事をしたから、製作側としても困ってプロデューサーに相談したという経緯がありますからね。深津さんが悪いのか事務所が悪いのかはわかりませんが、もし映画がコケたら深津さんのせいになりそうですよ」(フジテレビ関係者)  深津にとって、まさに“サバイバル”な船出になりそうだ。

日本は格差社会ではなく、すでに階級社会だった!? 『愚行録』が暴くこの国の見えないヒエラルヒー

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映像化は困難とされた貫井徳郎作品の初映画化『愚行録』。週刊誌記者の田中(妻夫木聡)はエリート一家惨殺事件の真相を探る。
 慶應大学には付属校から上がった内部生と大学から入った外部生との間に見えない溝が存在し、早稲田大学では一流企業に就職するための猛烈なコネづくりが行なわれている──。有名大学のえげつない内情を克明に描いた貫井徳郎のミステリー小説『愚行録』(東京創元社)が、妻夫木聡&満島ひかり主演作として映画化された。本作で長編デビューを果たしたのは、ポーランド国立映画大学で演出を学んだ新鋭・石川慶監督。にこやかな表情を浮かべながらも、いっさい本音を吐くことのないエリート階級の人々の腹黒い内面を、乾いた映像で切り取ってみせ、魅力的なドス黒系エンターテイメントに仕立てている。  誰からも愛された美男美女のエリート夫婦とその娘が新築されたばかり自宅で刺殺されるという陰惨な事件が起き、犯行から1年が経っても犯人の手掛かりはつかめない。週刊誌記者の田中(妻夫木聡)はエリート夫婦の過去を知る関係者たちへの取材を始める。被害者夫婦の友人たちは「あんないい人がなぜ?」と首を傾げるが、その言葉の裏側から被害者夫婦の意外な素顔が浮かび上がってくる。さらに田中が取材を進めていくと、今の日本は格差社会どころか、歴然とした階級社会であることを思い知らされる。実の妹・光子(満島ひかり)が我が子をネグレクトしていた疑いで拘置所送りとなっている田中にとって、エリート階級とその階級に憧れる人々たちの言動はあまりにも虚しく感じられた。  直木賞候補にもなった原作小説を1時間57分に収めるために、映画ではぎゅっと絞った形となっているが、登場キャラクターたちの腹黒さや浅はかさが次々とスクリーンに映し出されていく。本人たちはそのことに気づいていない分、取材記者・田中の目を通して見る我々には、よりイタくてキモいキャラクターに映る。中でも極めつけなのが、殺されることになる夏原友季恵(松本若菜)だ。美人でファッションセンスに優れている友季恵は、学生の頃から人気者だった。大学から入った外部生ながら、華やかさと育ちの良さから内部生とのランチに呼ばれ、あっさりと学内カーストを駆け上がっていく。クラスメイトの誰とも明るく接するが、ダサくて取り柄もない外部生を内部生に紹介することは決してしない。友季恵をライバル視する同級生の淳子(臼田あさ美)は目障りなので、淳子の彼氏・尾形(中村倫也)を思わせぶりな態度で奪い取ってしまう。尾形が淳子から自分に乗り換える様子を見て、友季恵はにっこりと微笑む。
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外部生ながら、真っ先に内部生グループに昇格した夏原友季恵(松本若菜)。誰とでも気さくに接し、育ちの良さを感じさせる人気者だった。
 友季恵には自分がえげつないことをしているという自覚はまるでなく、自分が欲しいものは素直に手に入れ、逆らう者は容赦なく叩き潰すという行為が無意識レベルでできてしまう。多分、友季恵は自分がなぜ殺されたのか、その理由を知らないまま死んでいったはずだ。殺人鬼から愛する我が子を最期まで庇おうとした悲劇のヒロインとして、同窓生たちの記憶に残ることになる。生まれつきの悪女である友季恵役にオーディションで選ばれたのは松本若菜。成海璃子主演の官能作『無伴奏』(16)では池松壮亮の美しい姉を演じており、二面性のある美女役でこれから活躍の場を増やしてきそうだ。  週刊誌記者として事件の真相を追っていく主人公役の妻夫木聡とその妹役の満島ひかりは演技力に定評があるが、友季恵と一緒に殺されることになる大手不動産会社勤務の夫・田向役の小出恵介、田向にとって“都合のいい女”である恵美役の市川由衣ら助演陣も、実に素晴しく腹黒い人間像をはつらつと演じてみせる。彼らの生き生きとした悪人顔を見ていると、俳優として裏表のあるキャラクターのほうが薄っぺらい善人役よりも演じがいがあることが、とてもよく分かる。
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事件を追う田中にとって、気がかりな存在である妹の光子(満島ひかり)。兄妹とも、家族に関しては苦い思い出しかなかった。
 人間のドロドロした嫌な部分を描きながらも、本作を魅力的なエンターテイメント作品に押し上げている要因に、端正なカメラワークと湿度の低い映像も挙げられる。石川監督がポーランド国立映画大学に留学した際、撮影科にいた同期生のポーランド人ピオトル・ニエミイスキを日本に招き、撮影監督を任せている。石川監督によると、日本とポーランドは1本あたりの映画製作の予算規模が似ており、ピオトルの異文化に対するオープンな性格もあって、限られたスケジュールの中でもスムーズに撮影が進んだとのこと。日本の知られざるヒエラルヒー社会を、異邦人の乾いた目線で見つめるような冷ややかな味わいが本作にはある。  原作では慶應大学となっていた大学名は、映画では文應大学となっているが、多分どのキャンパスにも夏原友季恵によく似た女性がいたはずだ。とても美しい上に頭もキレ、彼女が現われただけでパッと場が明るくなる。多くの人の目には社交的な性格に映るが、でもごく自然に自分の周囲にいる人間をコマのように扱うことに優れている無慈悲な女王さま。それが夏原友季恵という女だ。愚かなことに、男たちはそんな女王さまに尽くすことに喜びを感じてしまう。人間はどうしようもなく愚かな生き物であることを、『愚行録』は思い出させてくれる。 (文=長野辰次)
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『愚行録』 原作/貫井徳郎 脚本/向井康介 監督・編集/石川慶 出演/妻夫木聡、満島ひかり、小出恵介、臼田あさ美、市川由衣、松本若菜、中村倫也、眞島秀和、濱田マリ、平田満 配給/ワーナー・ブラザーズ映画、オフィス北野  2月18日(土)より全国ロードショー (c)2017「愚行録」製作委員会 http://gukoroku.jp

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