祝「怪遺産」認定! 妖怪文化が生き続ける街・岩手県遠野市

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第3回怪遺産認定式の様子。
 「遠野物語」が発刊されてから今年で100年目。物語の舞台となった岩手県遠野市では、年間を通しさまざまイベントが行われています。過日、作家の京極夏彦氏、荒俣宏氏、高橋克彦氏がそんな「遠野物語」の世界観を紐解く「妖怪セミナーin遠野」が開催されました  「遠野物語」は1910(明治43)年、遠野出身の大学生だった佐々木喜善が柳田國男に語ったふるさとの伝承を、柳田がまとめて記した伝説集です。  遠野には「遠野物語」に記されている、妖怪などが出没した場所が未だにたくさん残っています。ただ、今回訪れて初めて知ったのですが、「遠野物語」に記されていない不思議な話もまだまだ、遠野にはあるようです。  まずは、「遠野物語」に出てくる聖地を巡るスタンプラリー「怪フィールドワーク」に参加しました。チェックポイントに設置されたスタンプをぺったんぺったんと押して集めていくと、後日郵送で認定証がもらえるという催しです。  朱色の布が鮮やかな縁結びの卯子酉様や、飢餓の犠牲者を悼んで義山和尚が一人山奥で彫ったと言われている五百羅漢岩などを見て回りました。天候はあいにくの雨でしたが、まだ紅葉前の山の手前で、黄金色の稲穂が雨に打たれて頭を下げる様子は綺麗でした。
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ちなみに遠野の「伝承園」では河童情報を募集中
らしく、優れた河童情報を提供してくれた方は
記念品が貰えるそうです。
 翌日は、世界妖怪協会(会長・水木しげる)が選んだ「怪遺産」の認定式へと向かいました。  「怪遺産」とは、妖怪文化の普及に貢献したと土地や、文化、地域などを対象に認定するもので、今回で3回目。過去には、鳥取県境港市と徳島県三好市山城町が認定されています。  式典には協会から作家の高橋克彦さん、荒俣宏さんや京極夏彦さん、妖怪研究家の多田克己さんらが出席。本田敏秋遠野市長に認定証と日本物怪観光の造形作家・天野行雄さん作成の楯が手渡されました。  「目に見えない世界の更なる発展を」という協会の言葉に対し、本田市長は「河童は川を、天狗は山を大切に、座敷わらしは家族との絆をと、さまざまな形で物語を通じて交流してきました。今後も妖怪と気迫で街作りをしていきたい」とコメント。  京極さんは「妖怪の伝承を生かした町づくりをしている。百点満点で賞を差し上げたい」、荒俣さんは「遠野は今も妖怪が湧き続ける土地、妖怪との百年以上もの付き合いがあるこの場所がいつか世界遺産にも選ばれるかも」と、お話されていました。  NHKの連続ドラマ小説『ゲゲゲの女房』は放映を終了しましたが、まだまだ妖怪ブームは続きそうですね。  次回は遠野の座敷わらしについてお話します。 (取材・文=田辺青蛙) tanabe_prof.jpgたなべ・せいあ 「小説すばる」(集英社)「幽」(メディアファクトリー)、WEBマガジン『ポプラビーチ』などで妖怪や怪談に関する記事を担当。2008年、『生き屏風』(角川書店 )で第15回日本ホラー小説大賞を受賞。綾波レイのコスプレで授賞式に挑む。著書の生き屏風、共著に『てのひら怪談』(ポプラ社)シリーズ。2冊目の書き下ろしホラー小説、魂追い(角川書店)も好評発売中。
水木しげるの遠野物語 日本妖怪史上最強の黄金タッグ! amazon_associate_logo.jpg
【関連記事】 岩井志麻子が主人公のモデル!? 人情味溢れる泣ける怪談『富士子』 京女は幽霊よりも怖い? 京言葉で綴るスプラッタ怪談『京都怪談 おじゃみ』 トロフィーは青行灯!? 日本で唯一の怪談専門誌が選ぶ、大注目の新人怪談作家

実は読書嫌いだった? 知られざる田辺青蛙の原点『てのひら怪談』

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『てのひら怪談 庚寅』(ポプラ社)
「日本ホラー大賞短編賞」受賞の小説家・田辺青蛙によるオススメブックレビュー。  気が付けば、プロになってから3年以上が経っていた。まだ専業になれる程の稼ぎもなく、家業の手伝いの合間にちょこちょこと書き溜めたものを出しているのが現状だ。  そもそも、あまり褒められたことじゃないが、読書を嫌っていた私がどうして文章を書くことになったのか......。 切っ掛けは「巫女」+「萌え」という単語をネットで検索したことだった。そのキーワードで引っかかったサイトの、巫女座談会の記事が面白く、記事を読み終えた後、感想をBBSに書き込もうとクリックした。すると、そこではサイトの管理者が受賞したという、とある文学賞が話題になっていた。 「ビーケーワン怪談大賞」  オンライン書店の主催する掌編賞で、応募規約は800文字(原稿用紙2枚)以内のオリジナル怪談作品であること。  800文字くらいだったら、私でも書けるだろうと思い気軽に投稿してみた。それからしばらくして、ふっと思いついたお話があったのでまたそれを書いて投稿してみた。今は応募数が増えて、上限が3作までとなっているが、当時のビーケーワン怪談大賞には投稿数制限がなくて、何作でも投稿出来たのだ。下手な鉄砲も数打てばあたるのか、運よく応募した作品の中の1つが佳作を受賞した。宇治の橋姫の話を元にした怪談話で、ビーケーワン怪談大賞は全ての応募作をブログで公開しているので、今でもこちらで読むことが出来る。軽い気持ちで応募したので、PNも住んでいる町の名、京田辺市にちなんで「田辺」で投稿した。 『薫糖』/田辺 <http://blog.bk1.jp/kaidan/archives/001575.html>  その作品が審査員の1人、東雅夫さんの声かけによって他の受賞作等と一緒に、一冊の本になることに決まった。 『てのひら怪談』  PNもただの田辺じゃ収まりが悪いと言われ、蛙が好きだったので青蛙とつけた。田んぼの蛙......この場限りの名前だと思ったのだけれど、今は本名よりもこちらを名乗ることの方が多い。なんとなく、語呂がいいからと編集者のSさんに名づけられたこの本は、今年で文庫3冊目が発売された。さて、この賞も今年で8年目、応募者も増え、プロも多数輩出している。2010年度は、700作を越える応募作が集まったが来年はどうなることだろう。なんとなく文章を書いてみたいなという思う人がいたら、是非来年応募してみて欲しい。  最後に、私が応募してみようと思い立つ切っ掛けとなったサイトの管理人であった、ヒモロギさんの怪談をご紹介しよう。今までの怪談のイメージを払拭するような凄い内容なので、是非ごらんあれ。 『死霊の盆踊り』/ヒモロギヒロシ <http://blog.bk1.jp/kaidan/archives/002726.html> (文=田辺青蛙) tanabe_prof.jpgたなべ・せいあ 「小説すばる」(集英社)「幽」(メディアファクトリー)、WEBマガジン『ポプラビーチ』などで妖怪や怪談に関する記事を担当。2008年、『生き屏風』(角川書店 )で第15回日本ホラー小説大賞を受賞。綾波レイのコスプレで授賞式に挑む。著書の生き屏風、共著に『てのひら怪談』(ポプラ社)シリーズ。2冊目の書き下ろしホラー小説、魂追い(角川書店)も好評発売中。
てのひら怪談 庚寅 見つめないで。 amazon_associate_logo.jpg
「妖しき本棚」INDEX 【第13回】淡々とした人の狂気こそおぞましい 平山夢明監修『人間崩壊』 【第12回】事実は小説より奇なり 幽霊よりも怖い実話怪談集『現代百物語』 【第11回】"トイレの花子さん"だけじゃない! 便所怪談競作集『厠の怪』 【第10回】節約の先に見える幸せ? 新妻のお助けコミックエッセイ『年収150万円一家』 【第9回】頭が痺れて動けない! 真藤順丈が作る新しいバイブル『バイブルDX』 【第8回】すべてが吹っ飛ぶ極上スプラッタ・ホラー漫画『血まみれスケバンチェーンソー』 【第7回】後味の悪さが尾を引く、究極のマゾヒズム世界『劇画 家畜人ヤプー』 【第6回】妖怪並みの衝撃! 変態おじさんとの思い出がフラッシュバックする『バカ男子』 【第5回】「げに美しき血と汚物と拷問の世界に溺れる『ダイナー』 【第4回】「グッチャネでシコッてくれ」 河童に脳みそをかき回される『粘膜人間』 【第3回】なつかしく、おそろしく、死と欲望の詰まった"岡山"を読む『魔羅節』 【第2回】"大熊、人を喰ふ"史上最悪の熊害を描き出すドキュメンタリー『羆嵐』 【第1回】3本指、片輪車......封印された甘美なる"タブー"の世界『封印漫画大全』

淡々とした人の狂気こそおぞましい 平山夢明監修『人間崩壊』

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『黒丸ゴシック1 人間崩壊』(竹書房)
「日本ホラー大賞短編賞」受賞の小説家・田辺青蛙によるオススメブックレビュー。  先日、コンビニまでコーラを買いにいこうと思い、私は夜の9時過ぎ頃に家を出た。今住んでいる家は、一号線にも近く、夜中でも車の交通や人通りが絶えることはない。コンビニまでの距離はだいたい80mくらいだろうか......。  ひゅんひゅんひゅん  何かが空を切るような音を耳にして、私は振り返った。するとそこには、バイク用のヘルメットを被った男が、ゴルフクラブをスウィングしながら歩いている姿があった。周りには、10人近くの人がいたが、駆け寄ってくる人も、声を上げる人もいなかった。  ひゅんひゅんひゅん  あれで、殴られたら死ぬか大怪我だな......。そう考える暇もなく、全速力で走って家に戻った。翌日、警察に行くと、私が目撃した男と同じ格好をした人に背後から襲われて財布を奪われた人がいたという話を聞いた。恐ろしいことこの上ない。あまり背丈は高くなかったので、今思えばあれは中学生くらいの男の子だったのかも知れない。走って逃げる途中、転んでしまったり、また相手の足が私より速かったらと思うと、再び全身に寒気が走った。  ニュースで読み上げられる事件の被害者に、いつ自分がなるかは分かったもんじゃない。  さて、『黒丸ゴシック1 人間崩壊』は黒史郎さんによる実話怪談集。以前紹介した岩井志麻子さんの小説のように、幽霊等が出てくる怪談話ではない。ひたすら恐ろしい淡々とした人の狂気や、事件について書かれた怪談集である。それもそのはず、この本は、あの鬼畜実話怪談でも有名な平山夢明さんが監修しているのだから。  生焼けの男に抱きすくめられた話、夜中にキッチンバサミを持ってカットモデルを探しに徘徊する男。拉致されてガスバーナーで乳首を焼かれて、聞こえる悲鳴。手品の練習に、ペットを殺す恋人。次から次へとなんともいえない気持ちになる話が続くかと思ったら、ホロっとしてしまいそうな物悲しいエピソードも入っている。  個人的には小学生を追いかける赤いオートバイの話が、何とも言えず不気味に感じられた。 「岩橋君はすごく可哀想な子だった」という一文から始まる短編だが、いろいろとグッと来る。「うわぁ、きたきた! タスケテ、タスケテ」とか、言いながら逃げ続けるのだが、誰も赤いオートバイの話を信じてくれず、小学生だからどうしようもないのだ。1人でスタンド使いに立ち向かう普通の人みたいなノリが凄く絶望的な内容で、物凄く印象に残った。  普通に町に生きていて、何もなく平穏に暮らしていたとしても、いつか、悪夢のような体験を味わってしまうかも知れない。この本を読み終えたあと、ぼんやりと夕方のニュースを見ながらそんなことを考えた。  夏も終わり、これから日もどんどん短くなってくる。あのゴルフクラブを持った男に遭遇してから、私も闇が少し怖くなってしまった。  ふと、思い立って祖母の住むお寺に電話をかけてみた。老人しか住んでいない場所で、何か変わったことはないかと聞きたかったのだ。うちの祖母の住んでいるお寺は田畑に囲まれたのどかな所にある。祖母は新婚生活はどうかと私に一通り聞いたあと、ここは田舎なので、毎日が退屈すぎるくらいだと答えた。だが、祖母と他愛ない世間話をし終えたあと、こんな話を聞いた。 「あのね、怖い話ってほどじゃないけど、お寺の近くの西瓜畑でね、ボーガンの矢で西瓜が割られる事件が発生したの。不気味なのが、西瓜のひとつに『お前の頭』と書いてあったらしいよ」 とりあえず私は、祖母に番犬になりそうな犬を飼うように勧めた。  最後に著者による、本書のあとがきを引用しようと思う。 「現実はもっとおぞましく、危険なのです。 災難の蛹は、どこにでも生まれます。もしそれに気づいても、絶対に手を触れぬよう、目を背け、羽化してしまう前に逃げて下さい。 読者の皆さんが崩壊するところを僕は見たくありません。 どうか皆さんが安全な場所で、この本を読み終えてくださるように」 (文=田辺青蛙) tanabe_prof.jpgたなべ・せいあ 「小説すばる」(集英社)「幽」(メディアファクトリー)、WEBマガジン『ポプラビーチ』などで妖怪や怪談に関する記事を担当。2008年、『生き屏風』(角川書店 )で第15回日本ホラー小説大賞を受賞。綾波レイのコスプレで授賞式に挑む。著書の生き屏風、共著に『てのひら怪談』(ポプラ社)シリーズ。2冊目の書き下ろしホラー小説、魂追い(角川書店)も好評発売中。
黒丸ゴシック1 人間崩壊 ひゅんひゅんひゅん。 amazon_associate_logo.jpg
「妖しき本棚」INDEX 【第12回】事実は小説より奇なり 幽霊よりも怖い実話怪談集『現代百物語』 【第11回】"トイレの花子さん"だけじゃない! 便所怪談競作集『厠の怪』 【第10回】節約の先に見える幸せ? 新妻のお助けコミックエッセイ『年収150万円一家』 【第9回】頭が痺れて動けない! 真藤順丈が作る新しいバイブル『バイブルDX』 【第8回】すべてが吹っ飛ぶ極上スプラッタ・ホラー漫画『血まみれスケバンチェーンソー』 【第7回】後味の悪さが尾を引く、究極のマゾヒズム世界『劇画 家畜人ヤプー』 【第6回】妖怪並みの衝撃! 変態おじさんとの思い出がフラッシュバックする『バカ男子』 【第5回】「げに美しき血と汚物と拷問の世界に溺れる『ダイナー』 【第4回】「グッチャネでシコッてくれ」 河童に脳みそをかき回される『粘膜人間』 【第3回】なつかしく、おそろしく、死と欲望の詰まった"岡山"を読む『魔羅節』 【第2回】"大熊、人を喰ふ"史上最悪の熊害を描き出すドキュメンタリー『羆嵐』 【第1回】3本指、片輪車......封印された甘美なる"タブー"の世界『封印漫画大全』

事実は小説より奇なり 幽霊よりも怖い実話怪談集『現代百物語』

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『現代百物語』(角川書店)
「日本ホラー大賞短編賞」受賞の小説家・田辺青蛙によるオススメブックレビュー。  見開き2ページで1話完結の実話怪談集『現代百物語』。どちらかと言うと、幽霊よりも人間の方が怖いと思わせる内容の怪談となっている。岩井志麻子さんは、「週刊新潮」(新潮社)で実際の事件を小説仕立てに書く連載「黒い報告書」も行っているだけあって、内容のリアリティーがハンパじゃない。一時期日本中で話題となった、結婚詐欺師の話に、韓国の連続殺人犯、レズビアンの食人鬼、整形手術の後、何を嗅いでもウン○の臭いに感じるようになった女の話......。岩井さんらしい、エロネタもあって、悲惨なグロ話が続いたあとにニヤリともさせられる。  そんな中、一つ気になる話があった。「奇妙なインタビュー」というエピソードで、岩井さんが取材の依頼を受けると、日本語のアクセントのおかしい女性がインタビューにやって来た。彼女は何故か岩井さんに質問をふらずに不幸な香港女の話ばかりを語り、取材は終わるのだが、後日岩井さんが聞くと、出版社も雑誌もそんな依頼はしていないし、彼女の存在も知らないという。  何故この話が気になったかというと、以前インタビューした某ホラー作家からも同じような女の話を聞いたことがあったからだ。もしかすると同一人物だったのかも知れない。何故、彼女がありもしない依頼をでっち上げてホラー作家にインタビューを迫っては、不幸な香港女の話をするのか......一度その理由について、彼女にインタビューしてみたいと思った。  そして、私自身も奇妙なインタビューの依頼を受けたことがある。それは新人賞を取ってから、一カ月程経った日のことだった。『授賞式で貴女のことを知りました。コスプレ作家として取材したいので、コスチュームを着用したまま、○○ホテルのラウンジに来て下さい』という内容のメールをもらった。会社名も雑誌の名前もメールには明記されていたが、どちらも聞いたことも見たこともないものだったので、ネットで検索してみることにした。 すると、一件もヒットしないし、ホームページも存在しない。電話をいつかけても留守電話だった。Googleマップで待ち合わせに指定された場所も念のために検索してみると、それはホテルではなく普通の住宅地にあるマンションだった。何だか怖くなって、メールに返信しないまま、待ち合わせの日が来たが、私は当然行かなかった。すると翌日、『どうして来てくれなかrけあえま。』(原文ママ)無題の件名にこの一文だけのメールが来て背筋がゾッとした。 「富士山麓鸚鵡無く」という一文を必ず冒頭につけてメールをくれたミニコミ紙を名乗る編集者がいて、妖怪を見た話を書いてくれと頼まれた。しかもその依頼されたメールの文章がまるで、機械翻訳にでもかけたかのような珍妙な文体で、これもまた別の意味で怖かった。  何故だか、変な取材依頼というのは重なるようで、他にも20万を振り込んだら記事にしてやるといった内容の電話がかかって来たこともある。こういうことが続くと、さすがに気味が悪くなったので、同じ時期にデビューした作家さんに相談を持ちかけたところ、そんなメールや電話は自分に来たことはない。変な依頼が今後来たら、出版社を通して断ってもらうといいというアドバイスを受けた。しかし、どういったわけかそのアドバイスを受けてからは変な依頼が来たことはない。彼らはまた別の新人作家に、奇妙な依頼をし続けているのだろうか?  そして、本書の中で個人的に物凄く怖いと思った話。「子供への無関心」と題された話で、二人の子どもを持つ母親が出てくる。長男は酷い風邪をひいても母親にろくに看病もされず放ったらかしにされて、脳炎になった。長女は、行方不明になっても、捜索届けすら出されなかった。そして行方不明になってから二日後、長女は、性器やお尻の穴も裂けた状態で、傷だらけの廃人となって帰って来た。それでも母親は無関心で、長女はいまだに口もきけない状態だという。しかも、そんな家族の状態を何とも思ってないように淡々と語る夫の存在も恐ろしい。  今もなお、どこかにこんな家族がいるかと思うと何ともいえない気持ちになってしまった。本当に怖いのは、幽霊なのか、人なのか......。  1話あたりが短く直ぐ読めるので、寝苦しい熱帯夜のお供にお勧めの一冊だと思う。ただ、そのまま眠ると悪夢を見てしまう可能性があるかも知れない......。 (文=田辺青蛙) tanabe_prof.jpgたなべ・せいあ 「小説すばる」(集英社)「幽」(メディアファクトリー)、WEBマガジン『ポプラビーチ』などで妖怪や怪談に関する記事を担当。2008年、『生き屏風』(角川書店 )で第15回日本ホラー小説大賞を受賞。綾波レイのコスプレで授賞式に挑む。著書の『生き屏風』、共著に『てのひら怪談』(ポプラ社)シリーズ。2冊目の書き下ろしホラー小説、『魂追い』(角川書店)も好評発売中。
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「妖しき本棚」INDEX 【第11回】"トイレの花子さん"だけじゃない! 便所怪談競作集『厠の怪』 【第10回】節約の先に見える幸せ? 新妻のお助けコミックエッセイ『年収150万円一家』 【第9回】頭が痺れて動けない! 真藤順丈が作る新しいバイブル『バイブルDX』 【第8回】すべてが吹っ飛ぶ極上スプラッタ・ホラー漫画『血まみれスケバンチェーンソー』 【第7回】後味の悪さが尾を引く、究極のマゾヒズム世界『劇画 家畜人ヤプー』 【第6回】妖怪並みの衝撃! 変態おじさんとの思い出がフラッシュバックする『バカ男子』 【第5回】「げに美しき血と汚物と拷問の世界に溺れる『ダイナー』 【第4回】「グッチャネでシコッてくれ」 河童に脳みそをかき回される『粘膜人間』 【第3回】なつかしく、おそろしく、死と欲望の詰まった"岡山"を読む『魔羅節』 【第2回】"大熊、人を喰ふ"史上最悪の熊害を描き出すドキュメンタリー『羆嵐』 【第1回】3本指、片輪車......封印された甘美なる"タブー"の世界『封印漫画大全』

"トイレの花子さん"だけじゃない! 便所怪談競作集『厠の怪』

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『厠の怪 』(メディアファクトリー)
「日本ホラー大賞短編賞」受賞の小説家・田辺青蛙によるオススメブックレビュー。  鈴木光司さんの書いた、怖い話の印刷されたトイレットペーパーが売れているらしいですね(参照記事)。トイレで唸りながら怪談を読みたがる人間がそんなに多くいるということ自体、ホラーかも知れません。  あ、今回のレビューはお食事中の方は読まない方がいいかも知れませんよ!!  『厠の怪』はタイトルから見て分かる通り、便所に纏わる怪談の競作集です。  私の祖母の生家は寺で、そこの便所が壮絶に怖かった思いがあります。汲み取り式で屋外にあって、そこに辿り着くには本堂の渡り廊下を通って行かなくてはなりませんでした。  こういうことを言ってはバチが当たってしまうかも知れませんが、当時の私にとって仏像は恐怖の対象でした。どこを見ているか分からない、半開きの目に剥げた塗装......便所に行く途中、仏像の目がチロっと動いたりしそうで嫌だったんです。しかも恐怖の対象は仏像だけではありませんでした。渡り廊下には時折ムカデが、黄色い足をワキワキさせながら丸い円を描いていることがあり、一度、うっかり素足で踏んでしまって大変な目にあったことがあります。ムカデに刺されると足は青紫色になって、パンパンに膨れ上がって、強烈に痛痒いんですよ。なので、1人で便所に行くというのは大変な勇気を要しました。  この競作集の1作目は、京極夏彦さんの「便所の神様」。夜に便所に行くというだけのお話なのに、なんだか異様に不気味で、読んでいると肌がざわざわしました。ただ、便所に行くだけの話が、どうしてこんなに不気味で怖いのか......小さな虫が這い回っている描写とか、ちょっとした文章が、肌に染み入るように、グッと来ます。  そして、2作目は平山夢明さんの「きちがい便所」。先日、某社の依頼で、「きちがい」って言葉は今は使っちゃいけないから、他の言葉にしてくださいって言われたんですけど、平山さんならOKなんでしょうかね。まあ、そんなわけで、感想ですが、最初はほのぼの家族のウキウキ田舎ライフですが、後半は......。こりゃ、タイトルにきちがいを使いますよね、ええ、狂ってます、もう狂いまくってますよ、ええ、もう......お父さん、それは駄目でしょうって感じの内容でした。多分、この感想だと意味が分からないと思いますが、読んでみて下さい、多分納得出来ますから。一つの目的に魅入られて狂っていく情景が半端じゃないんです......。  3話目の福澤徹三による「盆の厠」は、田舎にやって来た少年が語る夏休み。田舎ののどかでありながら、ちょっと不気味な情景と、思春期に差し掛かった少年の性への戸惑いの描写がリアルです。読み終えた後、忌々しい思い出ばかりなのに、祖母の家の便所がちょっと懐かしく思えて来ました。  4作目は毎回、問題作として話題になる飴村行さんによる「糜爛性の楽園」。内容は、犬の交尾を見て性の知識を得た主人公赤間スエが、近親相姦をしまくります。やがて、彼女は人ではない不思議な子ども『便蔵』を便所で見かけるようになるのですが......。堕胎、乱交、マラ様......相変わらず何でもありな、凄い作品となっています。  5作目は黒史郎さんの「トイレ文化博物館のさんざめく怪異」で、便所に関するトリビアが入り混じりながらストーリーが展開していく。セレベスのプギス族の亀が海に帰る習性を利用した、亀の甲羅の上で用を足すという、もっとも自然な水洗便所の話や、ボルネオの筏を利用した水上トイレ。著者に確認したところ、創作ではなく、実際にこれらのトイレは存在するらしい。終盤のトイレで体験した、今まで一番怖かった時の話は壮絶です。  そんなわけで、誰しもが馴染みの深い便所。今年はいろんな怪談本が出ているが、その中でもこれは異色の一冊だと思います。  上記の5作品以外にも、長島槇子さんや水沫流人さん、岡部えつさん、松谷みよ子さんによる、全く味わいの異なる便所の話が繰り広げられています。小学校の頃に、トイレの花子さんの話を聞いたなんて人や、夜便所に行くのに怖い思いをしたなんて人は是非お手に取ってみて下さい。巻末の東雅夫さんによる、「厠の乙女 便所怪談の系譜」も含めて凄い本です。 (文=田辺青蛙) tanabe_prof.jpgたなべ・せいあ 「小説すばる」(集英社)「幽」(メディアファクトリー)、WEBマガジン『ポプラビーチ』などで妖怪や怪談に関する記事を担当。2008年、『生き屏風』(角川書店 )で第15回日本ホラー小説大賞を受賞。綾波レイのコスプレで授賞式に挑む。著書の『生き屏風』、共著に『てのひら怪談』(ポプラ社)シリーズ。2冊目の書き下ろしホラー小説、『魂追い』(角川書店)も好評発売中。
厠の怪 便所怪談競作集 トイレに行けなくなるね。 amazon_associate_logo.jpg
「妖しき本棚」INDEX 【第10回】節約の先に見える幸せ? 新妻のお助けコミックエッセイ『年収150万円一家』 【第9回】頭が痺れて動けない! 真藤順丈が作る新しいバイブル『バイブルDX』 【第8回】すべてが吹っ飛ぶ極上スプラッタ・ホラー漫画『血まみれスケバンチェーンソー』 【第7回】後味の悪さが尾を引く、究極のマゾヒズム世界『劇画 家畜人ヤプー』 【第6回】妖怪並みの衝撃! 変態おじさんとの思い出がフラッシュバックする『バカ男子』 【第5回】「げに美しき血と汚物と拷問の世界に溺れる『ダイナー』 【第4回】「グッチャネでシコッてくれ」 河童に脳みそをかき回される『粘膜人間』 【第3回】なつかしく、おそろしく、死と欲望の詰まった"岡山"を読む『魔羅節』 【第2回】"大熊、人を喰ふ"史上最悪の熊害を描き出すドキュメンタリー『羆嵐』 【第1回】3本指、片輪車......封印された甘美なる"タブー"の世界『封印漫画大全』

岩井志麻子が主人公のモデル!? 人情味溢れる泣ける怪談『富士子』

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『幽』怪談文学賞授賞式の様子。
 以前、このサイトでもご紹介した(参照記事)、『幽』怪談文学賞授賞式。前回の神狛しずさん(参照記事)に続き、谷一生さんにもインタビューしてみました。神狛さんは京都女のはんなりとした怖さの怪談でしたが、谷さんは同じ新人賞出身なのにまるで違う世界観の作品となっています。二冊を読み比べてみると、その違いがとっても顕著で面白かったです。最近いろんなタイプの怪談本が出ているので、夏の暑い一時を、読書で紛らわせてみてはいかがでしょうか? 私は現在引越したばかりで、クーラーのない灼熱地獄のような部屋でポタポタ汗を垂らしながらこの原稿を書いています。こんなに汗だくになってんのに、体重が減るどころか増えてるのは怪奇現象なのだろうか。そんなことを考えつつ、毎日昼夜を問わず怪談本を読み続けています。怪談で涼を得る......今流行の、エコですよ、ロハスですよ、地球に優しいですよってことで、受賞者の谷一生さんとのインタビュー開始です。 ――谷さんの怪談に出てくるキャラクターは、どれもとても個性的ですね。審査員を魅了した「富士子」というキャラは、ホラー作家の岩井志麻子さんがモデルということですが、本当でしょうか? 谷一生(以下、谷) そうです。ただし、私はその岩井さんを直接存じ上げませんので、あくまで作品世界から受ける印象という意味でモデルにさせて頂きました。単純にイヤなキャラとしての主人公を設定したわけではありません。不機嫌で武装しながらも、その内面は硬質なダイヤモンドのような純真な心を持った女性を書きたかった。勝手な思い込みですが、モデルにさせて頂いた岩井志麻子さんもそのような方ではないかと思っております。 ――実在のホラー作家から怪談の主人公が誕生したと考えると、すごいですね。谷さんの作品には、中間管理職の悲哀そのものみたいなキャラクターもいれば、物すごく切ない恋愛を語る女性が出てきたりしますね。登場人物を書き分ける時に意識していることってありますか?  それはないですね。登場人物に感情移入する方ですので。作中人物になりきって書いていますから、特に書き分けを意識することはありません。ただし、なりきれないキャラもいます。ずばり若い男性です。自分の若い頃を思い出してなりきろうとしても、昭和の若者にしかなりきれず、今の時代に合いません。昭和40~50年代を舞台にするなら別でしょうが。ですから、どうしても中高年が主人公の作品が多くなってしまいます。これはわたしの今の課題でもあるのですが、作中人物になりきるという手法以外で、キャラを書いていくということも、学ぶ必要があると感じています。 ――個人的に収録作の中で、幻の魚を食べるために四苦八苦する先生の出てくる「あまびえ」のお話が好きなのですが、辛い接待の経験はありますか?  一度、仙台、名古屋、広島、伊豆、福岡、長崎と六日連続で移動する出張がありました。「せっかくのお越しですから地元の美味しいものを」と連れて行って下さるお店がすべて魚料理なんです。たくさんの例外はあるでしょうが、やっぱり日本の場合、特にそれが海辺の町だと"地元の美味しいもの"というのは、その地元で獲れた魚ということになるんでしょうね。特に改まった席では、そうではないでしょうか。強行軍の移動と毎日刺身、さすがにこれは堪えました。最後の長崎では琴海湾の近くで泊まってここも美味しい魚の宝庫なのですが、「今夜のお食事は」と先方の担当者に訊かれ、「オムライスなんかいいですね」と答えてしまいました。すぐに「冗談ですよ」と付け加えましたが。 ――あの美味しそうな魚が調理法によって拷問のように感じる......情景描写がすごかったですよ。さて、谷さんは実話怪談も書いていらっしゃいますが、創作怪談と実話怪談を書くうえでそれぞれ気をつけていることはありますか?  創作怪談も発想のもとになっているのは、ほとんどが実話なんです。ですから、それほど気をつけているということはなかったのですが、逆に実話怪談を書くとき、物語の流れと言いますか、自分で読み直しても実話っぽくないんですよね。創作っぽい。今後はそのあたりを注意しなくては思っています。でも正直申し上げて、創作より実話のほうが"書くテクニック"という点では難しいですね。 ――実話怪談の方が書くのが難しいっていう怪談作家さんは多いですよね。やはり怖さを伝える面で、ごまかしが出来ないからでしょうか。ところで谷さんは、収録作の中で特に思い入れ深い作品はありますか?  「恋骸」です。この歳(54歳)だからこそ、切ない恋愛話をぜひ書きたかった、しかも女性のひとり語りで。ついでに申しあげますと、太宰治風に。実はもう一作挑戦したのですが、これはラストまで届きませんでした。閻魔さまの前で、道ならぬ恋を裁かれる女性が切々と想いを語る物語です。またいつか挑戦したいと思います。 ――富士子は非常に魅力的なキャラですが、今後、富士子の話を書かれる予定はありますか?  書きたいですね。「富士子」に続く「浜沈丁」は繋ぎの一作なんです。敵役の外資系ファンド会社がリゾートを開発中、知らずに石敢當(いしがんとう)を壊してしまう。魔物(マジムン)を払う石敢當を壊してしまうわけですから、もうどんどん邪気が流れ込んでくる。それを富士子と兼子が撃退する。「浜沈丁」では敵役だった外資系のふたりも富士子の味方になります。サイキックバトル4人衆ですね。ここで大切なことは邪気と言っても悪者ではない。何らかの理由があって邪なものになっているわけですから、邪を払うということはその対象を救済すると考えたいのです。やみくもに相手を粉砕するのではなく、最後は泣けるバトルにしたい。で、この4人衆のバトルをオムニバス形式であと四作書いて、いよいよ最後は長編になります。4人衆の力を見込んだ米国の本部から邪気払いの依頼が舞い込むんです。舞台は一転沖縄からニューオリンズです。アメリカで私が二番目に好きな場所なのですが、あの土地を初めて訪れた時、ここには絶対何かいると感じました。やりたい放題の続編をぜひ書いてみたいです。 (取材・文=田辺青蛙) ●谷一生(たに・かずお) 1956年、香川県生まれ。関西大学文学部卒業。「井戸のなか」で第1回『幽』怪談実話コンテスト佳作。「住処(「富士子」に改題)」で第4回『幽』怪談文学賞短編部門大賞受賞。 tanabe_prof.jpgたなべ・せいあ 「小説すばる」(集英社)「幽」(メディアファクトリー)、WEBマガジン『ポプラビーチ』などで妖怪や怪談に関する記事を担当。2008年、『生き屏風』(角川書店 )で第15回日本ホラー小説大賞を受賞。綾波レイのコスプレで授賞式に挑む。著書の『生き屏風』、共著に『てのひら怪談』(ポプラ社)シリーズ。2冊目の書き下ろしホラー小説、『魂追い』(角川書店)も好評発売中。
富士子 島の怪談 『幽』怪談文学賞短編部門大賞受賞作。器量も性格も悪い中年女・富士子は、旅行で訪れた沖縄で衝動的に民宿を購入。忙しく毎日を送るうち、彼女は邪悪な何かとつながっていく......。審査員が絶賛したキャラクター「富士子」をはじめ、その民宿を舞台にバトルが繰り広げられた「浜沈丁」、ジェントル・ゴースト・ストーリである「友造の里帰り」、人魚伝説をモチーフに描かれた幻の魚を食す「あまびえ」、深い人間愛を描き、涙なしでは読めない「雪の虹」「恋骸」の全6作品。 amazon_associate_logo.jpg
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京女は幽霊よりも怖い? 京言葉で綴るスプラッタ怪談『京都怪談 おじゃみ』

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第4回『幽』怪談文学賞授賞式の様子。
 ちょっと前まで肌寒かったのに、梅雨入りした途端蒸し暑くなりましたね。暑い季節といえば、アレですよ、アレ。怪談ですよ。ってことで、以前ここでもご紹介した(参照記事)「幽」怪談文学賞受賞者である、神狛しずさんにインタビューをしてみました。京都を舞台に、一人称の京言葉で綴られる『京都怪談 おじゃみ』は、上品さを感じさせる幻想的な作品ながらも、体の中からゾクっとくる怖さがあります。  幽霊も怖いけど、京都の女性も怖いですよ~。 田辺青蛙(以下、田辺) 小説に専念しようと、お仕事を辞められたそうですが、どれくらいのペースで新人賞に応募しましたか? 神狛しず(以下、神狛) 公募ガイドの情報をもとにいろいろ。月に百枚程度は書くように心がけていました(使いものになるか否かは別として)。「おじゃみ」を書いていた頃は公募ガイド社のYA文学短編小説賞(最終候補作にとどまりました)にも出したり、やはり(仕事を)辞めたばかりなのでどんどん書いていましたが、そのうちに、専念してもダメなときは全く書けないということも思い知りましたし、開き直りました。一年間の平均で言えば、応募(童話やショートショートは除く)は二カ月に一本程度。あまり筆が早いほうではないと思います。 田辺 十分速いと思いますよ。私は短いのばかり書いているので、百枚って聞くと、うわってなってしまいます(汗)。さて、受賞の連絡を聞いた時、どう思われましたか? 神狛 一瞬ポカン、としました。「最終に残っていますよ」という連絡は昨年の7月にいただいていたのですが、発表の日とされていた11月9日にはセールスの電話ばかりかかってきて。ああ、駄目だったんだな、ともう諦めて夕食を食べ始めたところだったので。 田辺 ふむふむ、そうだったのですか。で、受賞作となった「おじゃみ」に出てくる、我が子に火を付けて清々しているようなトンデモないお母さんのモデルはいるんですか? 神狛 トンデモ母さんにモデルがいたら、それこそトンデモないはずなのですが、テレビのニュースを観ていたら、世の中には結構たくさんいました。嗚呼、トンデモない。「おじゃみ」ちゃんは、うちのシーズーの女の子の頭のかたちから(アイデアを得ました)。あんこが詰まっていそうな顔をしているんですよ。あと、我が家の壁裏に鼬が入り込んで大変だった時期があって、夜な夜なゴトゴト気味悪くて眠れなかった経験もヒントに。 田辺 イケズな京都人が作中に沢山出てきますが、実際にそのような人に会うことはありますか? 神狛 いいえ、京都の方はほんまに優しいですよ。着物も、街角で見知らぬ方が笑顔でササッ、とおはしょりを整えてくださったり、帯の歪みを直して「ひやぁ、素敵やわぁ」と褒めてくださったり。皆様、怖がらないで京都へ来てください。  ただ、地獄耳だとキズつくこともあるかも知れません。でも、こういうことは全国共通の日常だと思いますよ? 京都(特定地域)の「聴こえよがし」が絶妙なだけで......。 田辺 そ、そうなのですか。私は生まれが大阪で育ちが京都なんですが、それゆえに京都の微妙なニュアンスっていうか、何か言葉遣いとかが肌に合わなかったんですよ。「あらぁ、安物がよぅ似あわはってええねぇ~」みたいなノリが怖い! って私の話になってしまってすみません。確かに「聴こえよがし」だけが絶妙なだけかもしれませんね......。作品を京都弁で書こうと思われた理由は何かあるんですか? 神狛 標準語で書いているつもりが方言だったり、自分のスピーチの録画を観たら、標準語で話していたつもりだったのに、イントネーションが思いきり訛っていたりして。それで、「ええい」と(放言丸出しで)地元近くの伝説の地を舞台にしたミステリーを書いたら賞をいただいたので、やはり自然体がいいのかなと思いまして。でも、京都と言っても<中の人>ではないので、普段はそんなに激しい京都弁では喋っていません。 田辺 そうなのですか。京都在住の私でも、綺麗な京言葉だなーと思って読んでいました。 「虫籠窓」は京都の古い町家が舞台ですが、実際に住まれたことはありますか? 神狛 ありません。京都の田舎の山奥、築三十五年の木造日本家屋に鼬や鼠や百足と一緒に暮らしております。町家は市内に出ると、カフェやギャラリーになっているところがあって憧れますが、実際に住んでいる方のお話を聞くと、ぼっかぶり(ゴキブリ)が多くて大変だそうです。 田辺 授賞式のお着物は何か作品と関連はありますか?「前妻さん」はお着物が幽霊の正体ですが、その発想はどこからですか? 神狛 京都だし、着物で......じゃあ「おじゃみ」っぽく小豆色で......という安直な理由です(普段から着物が好きでよく着ています)。弘法さん(毎月21日)にいっぱい古着物が出ていて、こういう古い着物には前の持ち主の気持ちなんか宿っていそう......と思ったのが「前妻さん」の地になっています。25日は天神さんですが、着物では怖くて行けません。 田辺 京都人の着物を見る目は厳しいですよね。最後に、次回作についてお聞きしたいのですが、今後も京都を舞台として怪談を書かれるんですか? 神狛 そうですね、今はいただけるお仕事を精一杯こなしつつ、新たな展開も見せられたらいいなと思っています。怪談以外にも書きたいお話はたくさんありますし、怪談も、せっかく入口に立たせていただいた分野ですので、ますます深くダイブしていきたいな、と。京都には書き尽くせないほど、いい舞台がありますから。 (取材・文=田辺青蛙) ●かみこま・しず 京都府京都市生まれ。現在、府下五里五里の里(城陽市)在住。同志社大学神学部卒業。図書館勤務を経て、 2008年、別名にて第6回北区内田康夫ミステリー文学賞大賞受賞。2009年、「おじゃみ」で第4回『幽』怪談文学賞短編部門大賞受賞。犬好き。愛犬は二匹のシーズー。 tanabe_prof.jpgたなべ・せいあ 「小説すばる」(集英社)「幽」(メディアファクトリー)、WEBマガジン『ポプラビーチ』などで妖怪や怪談に関する記事を担当。2008年、『生き屏風』(角川書店 )で第15回日本ホラー小説大賞を受賞。綾波レイのコスプレで授賞式に挑む。著書の『生き屏風』、共著に『てのひら怪談』(ポプラ社)シリーズ。2冊目の書き下ろしホラー小説、『魂追い』(角川書店)も好評発売中。
『京都怪談 おじゃみ』 第4回『幽』怪談文学賞・短編部門大賞受賞の京都怪談。京都を舞台に展開される、おんなの想いがつまった6つの短編怪談。古民家に暮らす妻、由緒ある家に嫁いだ若奥様、古くからの町家で祖母・母と暮らす妙齢の女性、京都の大学生、女子高の生徒......。さまざまな「京おんな」の生きざまを描く6つの怪談物語。 amazon_associate_logo.jpg
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節約の先に見える幸せ? 新妻のお助けコミックエッセイ『年収150万円一家』

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『年収150万円一家』
(著:森川弘子 /メディアファクトリー刊)
「日本ホラー大賞短編賞」受賞の小説家・田辺青蛙によるオススメブックレビュー。  去年の暮れぐらいでしょうか、某所でこういう会話が交わされました。 「SF作家の人と今交際中で、今度結婚するかも知れないんですよ」 「ああ、そうですか」 「変わった人なんですけどね、なんだか気が合うのです」 「相性なんて、そんなもんでしょう。うちもそうやったから」  それからしばらくして、私は入籍して先月お披露目会を行いました。家事も殆どやったことが無かったような私なので、いろいろと失敗も多いですが、何とかまあ......生きております。さて、そんな日々の生活の中で意外!? と役に立ちまくっている一冊を、今回はご紹介しましょう。  『年収150万円一家』は、食費は月1万円! 家賃は月6万! で生活、でも年に一度は海外旅行へ行く。そんな生活をしているイラストレーターの奥さんとSF作家の旦那さん、そして娘のコハルちゃんによる生活の記録です。ちなみにこの家族は、別にテレビの企画でこういう生活をしているわけではありません。  本になった経緯もただ奥さんが、パンの耳で生活している芸人がいることをテレビで知り、それならうちでもやっていると、雑誌「ダ・ヴィンチ」(メディアファクトリー)で募集している「コミックエッセイプチ大賞」に「パンミミ生活」という作品を送ったのがきっかけだったとか。  パンの耳生活は、細長いパン耳ではなく、パンの端と端についている四角い切り落としの部分。それにバターを塗って、バタートーストにしたり、チーズやトマトソースを乗せてピザトーストにするのです。四角い切り落とし部分のパン耳は、袋いっぱい入って30円(ランチ約一週間分)。他にもいろんなレシピも書いてあり、手作りでキムチが出来ることも知ったので、私も次の冬に仕込んでみようと思っています。  内容は節約料理や食材だけでなく、フリマ活用術から、懸賞の秘策まで盛りだくさん。私もこの本を読んで、ネットの懸賞に応募してみたら、諸々のブツが当たりました(ほくほく)。掃除の裏技もあって、窓ガラスは新聞で拭くと綺麗になるのは、本当にやってみたら驚くほどピカピカになりました。柑橘類の皮や、使用済みのティーバッグもお掃除に大活躍中です。  いわゆる生活の知恵や、これはさすがにやり過ぎでしょうといいたくなるような節約術が、可愛い漫画で綴られている『年収150万円一家』。海外旅行のエピソードやお役立ちも物凄く面白かったので、お役立ち本としてだけでなく、読み物としても十二分に堪能させていただきました。それにしても作中に出てくる3人家族はとっても仲良しで、本当に幸せってみんなが同じことを楽しんですることじゃないかなと思ってしまったり。  で、私が「SF作家と交際中」と打ち明けたSF作家さんの人が、このエッセイの著者の夫だと後日判明するのですが......。いや、本当に驚きましたね。書店で偶然手に取っただけなのに......意外と世間は狭いもんです。さて、そんなわけで偶然の繋がりの持つ恐ろしさなどについて書かれた、怖いお話の本を次回は紹介したいと思います。 (文=田辺青蛙) tanabe_prof.jpgたなべ・せいあ 「小説すばる」(集英社)「幽」(メディアファクトリー)、WEBマガジン『ポプラビーチ』などで妖怪や怪談に関する記事を担当。2008年、『生き屏風』(角川書店 )で第15回日本ホラー小説大賞を受賞。綾波レイのコスプレで授賞式に挑む。著書の『生き屏風』、共著に『てのひら怪談』(ポプラ社)シリーズ。2冊目の書き下ろしホラー小説、『魂追い』(角川書店)も好評発売中。
年収150万円一家 でも、欲しいものはガマンしたくないです。 amazon_associate_logo.jpg
「妖しき本棚」INDEX 【第9回】頭が痺れて動けない! 真藤順丈が作る新しいバイブル『バイブルDX』 【第8回】すべてが吹っ飛ぶ極上スプラッタ・ホラー漫画『血まみれスケバンチェーンソー』 【第7回】後味の悪さが尾を引く、究極のマゾヒズム世界『劇画 家畜人ヤプー』 【第6回】妖怪並みの衝撃! 変態おじさんとの思い出がフラッシュバックする『バカ男子』 【第5回】「げに美しき血と汚物と拷問の世界に溺れる『ダイナー』 【第4回】「グッチャネでシコッてくれ」 河童に脳みそをかき回される『粘膜人間』 【第3回】なつかしく、おそろしく、死と欲望の詰まった"岡山"を読む『魔羅節』 【第2回】"大熊、人を喰ふ"史上最悪の熊害を描き出すドキュメンタリー『羆嵐』 【第1回】3本指、片輪車......封印された甘美なる"タブー"の世界『封印漫画大全』

実は春樹好き!? "グッチャネ"ホラー作家・飴村行のイカレタ粘膜世界

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日本中をドン引きさせ続ける小説家・
飴村行氏。
 5月末、小説家の飴村行さんと、書評家で文芸評論家の杉江松恋さんによるトークショーが青山ブックセンター六本木店で行われました。今回は、そのイベントと打ち上げ時のお話を元に、飴村さんのエピソードを交えながらイカレタ粘膜世界の魅力をご紹介していこうと思います。  飴村さんは、グッチャネ(女の股ぐら泉に男のマラボウを入れてソクソクすること)が出てくるぐちゃぐちゃな『粘膜人間』(角川ホラー文庫)で、第15回日本ホラー小説大賞長編賞を受賞。過去の受賞作の中で最も衝撃的な問題作と評され、その続刊『粘膜蜥蜴』(同)では、日本推理作家協会賞を受賞されました。日本推理作家協会賞は、デビュー作では取れないと言われている賞で、2作目で取ったのは、京極夏彦さん、福井晴敏さん、馳星周さんなどだそうです。しかも、文庫で受賞後1作目での受賞は、前例のない快挙だとか。更に『粘膜蜥蜴』は宝島社「このミステリーがすごい!」大賞や、早川書房「ベストSF2009」でも高い評価を受け、ホラーだけに留まらず、ミステリーやSF読者の脳みそもレイプ......ならぬ、グッチャネし続けたわけです。  その、『粘膜』シリーズの最新作、『粘膜兄弟』(同)が先月25日に発売されました。トークショーの内容は、最新刊のネタバレにならない程度の情報開示と、こんな変な小説を書く飴村行という作家がどうやって誕生したのか、杉江さんが迫るという内容でした。  杉江さんと一緒に登場された、飴村さんのお姿にびっくり。昨年お会いした時は、眼鏡(実は伊達眼鏡で、実兄にキャラが薄いと言われたという理由でかけていたらしい)に銀行員のようなスーツだったのに、なんと茶髪に今風の若者っぽい黒ずくめの格好になっていました。染めたのは最近らしいのですが、「見た目は石部金吉! 作品は弩変態」と言われていた飴村さんがこうも変わってしまうとは......。イメチェンした飴村さんにあっけに取られている内に、粘膜トークショーが始まってしまいました。 飴村行(以下、飴) 最初はお行儀のいいホラーを書いて、ホラー小説大賞に1年に1本というペースで応募し続けていました。期限は4年と区切って決めて送っていたわけですが......最後の一年目に、「どう思われてもいい、笑われてもいい! 最後に好きなものを!」 と思って、『粘膜』で出してみました。 杉江松恋(以下、杉) デビュー作の『粘膜人間』は、190cmの小学生と弟が殺しあう話なんですが、すぐ手が飛んだりしますよね。飴村さんは、スピーディーなアクション・シーンが抜群に上手い。登場人物がみんな容赦しないんです。飴村さんの好きな作家はどなたですか?  村上春樹が大好きですね。でも、全く影響は受けていないと思います。肥やしや、土壌が違うんです。植えても春樹っぽい作品は育たない(笑)。お米でいうなら、育つ品目が「ひとめぼれ」だけって感じで限定されていますね。  最新作の『粘膜兄弟』は、童貞の兄弟が架空の「フグリ豚」という家畜を育てていますね。未読の方もいるかと思うので説明しますが、フグリ豚っていうのは、異様に睾丸が大きい豚なんです。睾丸を生で刺身にして、醤油につけると美味しい。「ヘモやん」っていう、天才ふぐり豚ブリーダーが出てきますが、趣味はふぐり豚とヤルこと。ふぐり豚は睾丸が美味しいので、それがないメスは役に立たない。メスは数を増やすために飼われているわけですが、そのメスフグリ豚の名前を呼びながらヘモやんはヤルのが好きなんですよね。「梅子ちゃん! 梅子ちゃん!」とか。舞台は一作目と同様、戦時中の日本となっていますが、こういう発想はどこから出ているんですか?  小学生の時、確か7歳ですね。「週刊新潮」(新潮社)にベトナム戦争の写真が載っていたんです。そこに、少し足を開いた女性の死体写真があって。その写真を同級生に見せたら、「もったいない」って言われたんです。見えそうで、見えなかったから。子どもでも、戦争は大変なことだ、悲惨なことだと知っています。なのに、見えるかどうかを考えてしまうことから生じる罪悪感。男の性欲ってどうしようもないなって。そういう気持ちに書かされている部分がありますね。で、小さい頃にロボダッチを爆破して遊んだりもしました。綺麗に着色して、並べて爆竹で爆破させるんです。それがやがてエスカレートして、タイガー戦車などになりました。壊すために作るんです。お婆ちゃんに可愛がられていたから、貰ったマッチで撒いた油に引火させて喝采を叫ぶ。友達は若干引いていましたが、楽しかったです。親父にバレてボコボコにされて、結局この遊びは止めてしまうんですがね。  そういう遊びは更にエスカレートするんで、お父さんに止められて良かったですね。  その遊びの余波か、軍記、戦記物を読み続けました。彼女には「右翼なの?」と言われたり、自分自身、何の役にも立たないのに、どうして自分はこんな本を読み続けてるんだろうと考えていました。だけど現在粘膜シリーズを書くにあたっては、めちゃくちゃ役にたっていますね。  こんな感じで、問題発言連発の大爆笑トークイベントでした。最後に、司会者の杉江さんから以下の言葉で締めくくりがありました。 「『粘膜兄弟』は童貞の兄弟が主人公です。童貞の人は楽しんで貰えると思います、童貞じゃない人は、童貞になった気持ちで大いに楽しんでください」  そんなわけで、女の私もこれから、心を童貞にして『粘膜兄弟』を読んでみようと思います! 読み終えたら、著者の飴村さんに、スマタテングオベーションで拍手を送ろうと思います。ちなみに、飴村さんの編集担当者さんは、一部で粘膜編集と呼ばれているそうで、次は『粘膜鼠(仮)』だとか。 (取材・文=田辺青蛙) ●飴村行(あめむら・こう) 1969年福島県生まれ。東京歯科大学中退。08年『粘膜人間』で第15回日本ホラー大賞長編賞を受賞しデビュー。第二作『粘膜蜥蜴』が「このミステリーがすごい!」で6位、「週刊文春 ミステリーベスト10」で7位、「最高の本!2010」国内ミステリー編で2位など、年末ミステリランキングに続々ランクインする。10年、同作で第 63回日本推理作家協会賞(長編および連作短編集部門)を受賞。ホラーとミステリーを融合した次代のエンタテインメント小説界を担う新鋭として、今最も注目を浴びている。 tanabe_prof.jpg田辺青蛙(たなべ・せいあ) 「小説すばる」(集英社)「幽」(メディアファクトリー)、WEBマガジン『ポプラビーチ』などで妖怪や怪談に関する記事を担当。2008年、『生き屏風』(角川書店 )で第15回日本ホラー小説大賞を受賞。綾波レイのコスプレで授賞式に挑む。著書の『生き屏風』、共著に『てのひら怪談』(ポプラ社)シリーズ。2冊目の書き下ろしホラー小説、『魂追い』(角川書店)も好評発売中。
粘膜兄弟 ベタベタジトジト。 amazon_associate_logo.jpg
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トロフィーは青行灯!? 日本で唯一の怪談専門誌が選ぶ、大注目の新人怪談作家

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受賞者には、硝子の賞状と作品をモチーフに作られた
世界にただ一つの青行灯トロフィーが贈与される。
 5月11日、メディアファクトリーが主催する「第4回『幽』怪談文学賞授賞式」が行なわれました。「幽」は、本邦唯一の怪談専門誌。年に2回の刊行で、綾辻行人さん、京極夏彦さん、小野不由美さん、謎の覆面作家の山白朝子さん、有栖川有栖さん、福澤徹三さん、平山夢明さん、小池壮彦さん、安曇潤平さん、工藤美代子さん、加門七海さんなどが怪談作品を連載しています。そして「幽」怪談文学賞は、雑誌の「幽」から生まれた怪談文芸の新人賞です。ここからデビュー出来るのは、選考委員に認められた怪談作家だけ。審査員の面子は、小説家の京極夏彦さん、岩井志麻子さん、南條竹則さん、漫画家の高橋葉介さん、そして編集長の東雅夫さん。  同賞には長編と短編の2部門がありますが、今回は短編部門から大賞が2作品選ばれました。神狛しずさんの「おじゃみ」は京言葉の一人称で紡がれる怪奇譚。谷一生さんの「富士子」(「住処」改題)は主人公が発作的に旅先で民宿を購入してしまうことから始まる物語です。  不吉な数字の4がつく回、しかも怪談作品の授賞式と聞いて、会場はお化け屋敷みたいなところで、血のにこごりのような飲み物をみんなが啜りあっているに違いない。そんな風に想像を巡らせながら、会場に到着したのですが......。禍々しそうなのは、入り口近くに置かれた過去に出版された怪談本くらいで、会場は綺麗な白いクロスのかかったテーブルの並ぶホテルの大広間でした。綺麗な背の高い女性に、「お飲み物はいかがですか?」とワインを勧められて手に取り、あたりを見回してみると有名な作家や文芸評論家の方々がズラーリ。ううう......凄いなあと気押されつつも、受賞者のお顔がよく見える最前列をキープ。
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受賞者の神狛しず氏(左)と谷一生氏(右)。
 最初に、「幽」編集長の東雅夫さんによるスピーチがありました。 「今年は怪談作品の収穫も大きく、受賞作は作風も著者も対照的だった。怪談は生々しさがコアになる、インパクトを秘めたジャンル。これからもどんどん新しい人達を押し出して行きたい」  東編集長の言葉が終わると、選考委員を代表して、漫画家の高橋葉介さんのお話がありました。 「2作品の傑作が出て、めでたさも2倍となった。受賞作の、神狛しずさんの『おじゃみ』は、中身はかなりのスプラッタ怪談なのだけれど、京言葉ではんなりと和らげられている。例えて言うならば、毒のお菓子を砂糖でコーティングしたような感じ。もう一作の受賞作、谷一生さんの『富士子』は、選考委員一致で『いいよね』とコメントが出た。選考委員みんな、富士子さんの大ファンになってしまうほど、魅力的なキャラだった。この作品は、他人に変貌する怖さが書かれている」  高橋さんのコメントの後に、賞の贈呈式が行われました。受賞者に贈呈されたのは、名前が刻まれた、涼しげに透き通った硝子の賞状と、作品をモチーフにして作られた、世界にただ一つしかない青行灯トロフィー。どうして、トロフィーが青行灯かというと、百物語を行うには行灯に青い紙を張った、青行灯のもとでやるという仕来りが江戸時代にはあったそうです。また、百話目を語り終えると行灯のかたわらに立った、髪を逆立てた青行灯という鬼女が出るとも言われています。そんな伝承から、怪談作家に贈呈されるトロフィーとして青行灯が採用されたようです。  今年の「幽」怪談文学賞には512編もの応募が集ったと聞き、怪談作家への登竜門としての盛り上がりを感じさせられてしまいました。500を超える作品の中から受賞を勝ち取った、神狛しずさんは、粋な着物を着こなして登場。「怪談を書いているうちに、怖いが楽しみになって来た、ほんまおおきに」と、作品の舞台ともなっている京都の言葉で締めくくっていました。着物で語られる京言葉っていいなあと余韻に浸っていると、もう一人の受賞者である谷一生さんが壇上に登場。「審査員の岩井志麻子さんから、選評で、「富士子」は悪い女やないという言葉が嬉しかった。器量も性格も悪い中年女だけれど、愛おしい」と作中キャラ富士子を大アピール。  受賞作品については、今現在読んでいる最中なのですが、魅力的で癖のある内容の怪談がギュッと詰まっているといった感じです。詳しい選評を知りたい方や、実は怪談を書いていて、この賞に出してみたいという人や、ちょうど怖い話を先日体験したからこれから書いてみようかなという人。もし、いたら「幽」を読んでみて下さい。怪談小説だけでなく、諸星大二郎や、花輪和一、高橋葉介、押切蓮介、伊藤三巳華と漫画連載も豪華な面子が揃っています。これから先の季節、ぞぞっと怖い読み物を味わってみたいって人にもお勧めの雑誌です。ちなみにお二人の受賞作品は、5月21日に単行本として刊行されます。 (取材・文=田辺青蛙) tanabe_prof.jpgたなべ・せいあ 「小説すばる」(集英社)「幽」(メディアファクトリー)、WEBマガジン『ポプラビーチ』などで妖怪や怪談に関する記事を担当。2008年、『生き屏風』(角川書店 )で第15回日本ホラー小説大賞を受賞。綾波レイのコスプレで授賞式に挑む。著書の『生き屏風』、共著に『てのひら怪談』(ポプラ社)シリーズ。2冊目の書き下ろしホラー小説、『魂追い』(角川書店)も好評発売中。
幽 2010年 01月号 淳二の季節がやってきます。 amazon_associate_logo.jpg
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