今年の上半期、出版業界で大きな話題を集めたのが、村上春樹の最新作『騎士団長殺し』(新潮社)だ。発売時には大きな話題となり、ベストセラーランキングでも上位に入っている同作だが、業界内での評価は違うようだ。 『騎士団長殺し』は、村上春樹にとって『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』(文藝春秋)以来4年ぶりの長編小説。発行元の新潮社は、初版で異例となる100万部を刷ると、発売前にさらに30万部の増刷をかけ、計130万部を用意した。これについて、書店関係者は語る。 「これだけ大量に刷るというのは、もちろん『売れる』という自信があったからでしょうが、背景には近年の書籍の売上傾向もあると思います。ここ最近、出版界ではごくごく少数の本が爆発的に売れる状況が完全に定着しており、一度勢いがつくと、いつまででも売れ続けます。村上春樹レベルになると、新作が出るだけでニュースになりますので、ロケットスタートを狙ったのでしょう。売る側の書店としても、『村上春樹の新作が○万部到達!』というのがニュースになれば、普段はあまり書店に立ち寄らないような人が来店してくれることが期待できます。『売れているから読んでみよう』という人が必ずいますから」 こうした販売戦略が実り、大手出版取次・日販(日本出版販売)が発表した2017年上半期ベストセラーランキングで、『騎士団長殺し』は総合2位、文芸書ランキングでは1位にランクインした。しかし、業界内ではあるウワサがささやかれているという。大手出版社社員が語る。 「上半期ランキング1位の『九十歳。何がめでたい』(佐藤愛子著/小学館)が累計90万部ですから、2位の『騎士団長殺し』は、それ以下。しかも『九十歳。何がめでたい』は昨年8月発売なので、さらに割り引かなくてはいけません。『騎士団長殺し』は、我々が伝え聞いたところでは60~70万部しか売れていないようです。ほかの業界の方には、『本なんて紙とインクだけでしょ』『本なんて腐らないんだから』などと言われますが、印刷・製本には莫大な費用がかかりますし、売れ残った何十万部の本をストックしておくのはこれまた費用がかかりますし、税金の問題もあるので、返本は程なく断裁に回されることになります。ハードカバー本の断裁にも当然莫大な費用がかかりますので、“本当に”130万部刷ったのだとすれば、断裁率は5割近く。これでは出版社は大赤字だと思います」 コンスタントに数十万部を売り上げる作家など、日本には片手で数えるほどしか存在しないが、それでも判断を見誤ると赤字とは……。出版業界とは、なんとも因果な商売のようだ。『騎士団長殺し 第1部 顕れるイデア編』(新潮社)
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印刷しすぎて!? 村上春樹の『騎士団長殺し』バカ売れでも“大赤字”の怪現象
今年の上半期、出版業界で大きな話題を集めたのが、村上春樹の最新作『騎士団長殺し』(新潮社)だ。発売時には大きな話題となり、ベストセラーランキングでも上位に入っている同作だが、業界内での評価は違うようだ。 『騎士団長殺し』は、村上春樹にとって『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』(文藝春秋)以来4年ぶりの長編小説。発行元の新潮社は、初版で異例となる100万部を刷ると、発売前にさらに30万部の増刷をかけ、計130万部を用意した。これについて、書店関係者は語る。 「これだけ大量に刷るというのは、もちろん『売れる』という自信があったからでしょうが、背景には近年の書籍の売上傾向もあると思います。ここ最近、出版界ではごくごく少数の本が爆発的に売れる状況が完全に定着しており、一度勢いがつくと、いつまででも売れ続けます。村上春樹レベルになると、新作が出るだけでニュースになりますので、ロケットスタートを狙ったのでしょう。売る側の書店としても、『村上春樹の新作が○万部到達!』というのがニュースになれば、普段はあまり書店に立ち寄らないような人が来店してくれることが期待できます。『売れているから読んでみよう』という人が必ずいますから」 こうした販売戦略が実り、大手出版取次・日販(日本出版販売)が発表した2017年上半期ベストセラーランキングで、『騎士団長殺し』は総合2位、文芸書ランキングでは1位にランクインした。しかし、業界内ではあるウワサがささやかれているという。大手出版社社員が語る。 「上半期ランキング1位の『九十歳。何がめでたい』(佐藤愛子著/小学館)が累計90万部ですから、2位の『騎士団長殺し』は、それ以下。しかも『九十歳。何がめでたい』は昨年8月発売なので、さらに割り引かなくてはいけません。『騎士団長殺し』は、我々が伝え聞いたところでは60~70万部しか売れていないようです。ほかの業界の方には、『本なんて紙とインクだけでしょ』『本なんて腐らないんだから』などと言われますが、印刷・製本には莫大な費用がかかりますし、売れ残った何十万部の本をストックしておくのはこれまた費用がかかりますし、税金の問題もあるので、返本は程なく断裁に回されることになります。ハードカバー本の断裁にも当然莫大な費用がかかりますので、“本当に”130万部刷ったのだとすれば、断裁率は5割近く。これでは出版社は大赤字だと思います」 コンスタントに数十万部を売り上げる作家など、日本には片手で数えるほどしか存在しないが、それでも判断を見誤ると赤字とは……。出版業界とは、なんとも因果な商売のようだ。『騎士団長殺し 第1部 顕れるイデア編』(新潮社)
出版社ウハウハでも書店からは非難轟々の村上春樹狂騒曲
【サイゾーpremium】より
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『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』 著/村上春樹 発行/文藝春秋 価格/1785円 主人公・多崎つくるは、大学進学で上京して2年目に、突然地元の親友グループから縁を切られる。それは彼の中に深い傷を残した。それから16年後、鉄道会社に勤めるつくるに、友達以上恋人未満の関係にある沙羅は「4人から縁を切られた理由を探るべきだ」と告げる。彼はその言葉に従って、彼らを訪ねる旅に出た──という物語。社会現象となった『1Q84』以来の新刊ということもあり、発売が予告されるやたちまち話題に。世間の期待も高まり、発売前日の4月11日時点ですでに4刷50万部を超え、1週間でミリオンを達成するなど、驚異的な売り上げを記録している。 ──4月、村上春樹の新刊『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』が発売され、各メディアがその熱狂ぶりをこぞって報道した。一体なぜ、これほどまでに村上春樹の作品は売れるのか? 遅ればせながら本誌もこのフィーバーに乗っかり、過去作品の研究や、宗教家や批評家、ハルキスト・アイドルなどによる新刊レビューを敢行。今、最もノーベル文学賞に近い日本人・村上春樹の実態に迫った。 4月12日の発売から7日目にしてミリオンセラーを達成した村上春樹の新刊『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』(文藝春秋)。読者がバーゲンさながらに、目当ての書籍に殺到する風景は、初版部数290万部を記録した『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』(04年発売、静山社)の発売時を彷彿とさせる出来事だった。 しかし、いつから村上春樹氏の新刊がこれほどまでに爆発的な勢いで売れるようになったのだろうか? まずは一連の流れを見てみよう。2002年発売の『海辺のカフカ(上下)』(新潮社)や04年の『アフターダーク』(講談社)の頃は、確かに話題にはなったが、社会現象になるほどではなかった(P100参照)。分水嶺は、09年に新潮社が発売した前作『1Q84』にあるのだろう。同時発売となった『1Q84 BOOK 1』『BOOK 2』は、発売日までタイトルと価格、2巻同時発売という情報のみが開示され、書籍の内容については一切伏せられた。この戦略が話題を呼んで、メディアも大々的に取り上げて、発売から約2カ月で『BOOK 1』『2』同時にミリオンを達成。しかも、それぞれ初版刷り部数が20万部、18万部と、その後の売り上げからすると少なかったこともあって(それでも一般の書籍としては十分な数だが)、市場ではあっという間に品薄状態になった。増刷しても書店の注文に追い付かない状態が続き、結果的に消費者の”飢餓感”を演出することにもなった。 この例にならってか今回、文藝春秋も2月に発売の告知を掲載した際には、タイトル・発売日・価格、それと「短い小説を書こうと思って書き出したのだけど、書いているうちに自然に長いものになっていきました。僕の場合そういうことってあまりなくて、そういえば『ノルウェイの森』以来かな」という村上の談話のみを発表した。 ある文芸出版社の編集者によると、「『1Q84』の際に村上と新潮社がこの戦略で成功したので、今回も村上から文藝春秋にその話を持ちかけたという話だ。発売前まで社内でもゲラを読んだのは、社長以下経営トップ数人というほど、情報統制には超厳戒態勢が敷かれていた。また今回、『1Q84』ほか多くの作品を手がけてきた新潮社ではなく、文藝春秋から刊行したのは、文藝春秋の村上担当の女性編集者が急逝されたので、村上氏から追悼の意を込めて、1冊書きたいという申し出があった」との噂も出ているようだ。 また、都内書店員A氏は「文藝春秋の情報コントロールは本当に徹底していた。営業担当者に、本の詳細について聞いても『まったく知らない』と逆に困っていた様子。発売日前日には、書店にも本が届いたが、客の目に触れないようにしていた。販促用ポスターも同様で、発売日までは絶対掲示しないようにと、わざわざ電話があったほど。表紙画像が一般人によってネットにアップされたのは、発売が解禁される午前0時の確か2時間前くらいだったので、情報統制はまずまず成功したのでは」と話す。 このように、期待感を煽る戦略に出た文藝春秋だが、「初版刷り部数の設定には、社内で慎重派、積極派と意見が分かれたようで、苦労していた」(文芸系出版社社員)様子。結局、同社は初版30万部との結論を出した。しかし、書店やネット書店からの注文と問い合わせが殺到したため、発売前日の11日時点で刷り部数は4刷・50万部と一挙20万部を上積みすることになったのだ。 発売初日もお祭りそのもので、代官山蔦屋書店(東京・代官山)でのカウントダウンイベントや、三省堂書店神保町本店(東京・神保町)では入り口に「村上春樹堂」と看板を掲げて、早朝から店頭でワゴン販売を実施するなど、書店での”春樹フィーバー”を各局のワイドショーが報じるほど。文藝春秋も特設サイトや「週刊文春」などの自社媒体でこの話題を発売前後に繰り広げており、発売と同時に”祭り”は最高潮に達した。 「PubLine(紀伊國屋書店が提供するPOSデータ)など書店の売れ行きをみると、初回に仕入れた分のほとんどが初日に売れてしまった。紀伊國屋書店新宿本店では3日間で2700部を完売し、売上率は前代未聞の101%超え。仕入れを上回る販売部数となっているのは、おそらく店舗間移動などで外部から調達したのだろう」(出版社営業) また、取次会社の最大手・日販が提供する書店のPOSデータシステム「トリプルウィン」では、初日に7万部超、2日目に2万部超を出荷。13万部の初版仕入れに対して、6日間で11万部を出荷し、平均出荷率は86・7%(2812件)だった。店舗別にみると、地方の支店や文藝春秋の営業担当者から融通してもらうなど、さまざまな調達手段を駆使して商品をかき集め、こちらも出荷率100%を超える数字が目を引いた。同じく大手取次・トーハンが提供する書店データ「トーネッツi」でも、初日に3万部以上、2日目に1万部弱とすさまじい初速を示し、書店からは「初日で完売」「2日目には品切れ」などの声が相次いだ。 この異常なまでの初速により、文藝春秋では発売初日に10万部の増刷を決め、4月15日に20万部、さらに18日には20万部の増刷を決めて累計発行部数が100万部に到達。この勢いは、『1Q84 BOOK 3』が100万部に到達した12日間を、5日も上回るスピードとなった。 ■良いニュースと悪いニュースがある この”狂騒曲”の一方で、中小書店からは悲鳴も聞こえてくる。「なんと、うちには配本がゼロ。地方の中小の本屋に死ねというのか」(地方の書店)、「(あきらめがちに)まあ、うちには入ってこないよなぁ」(関西の書店)など、初回配本から漏れたケースが少なくなかったものとみられる。 さらに東京近郊の書店であっても、「初回配本は希望した数の半分以下」(大型チェーンの都内の店舗)、「(文藝春秋の)担当の営業さんに『1Q84』を3ケタ売った詳細な実績を報告したのに、初回配本数は2ケタだった。そんな数、すぐに売れてなくなりましたけどね」(東京近郊の書店)、「初回配本はあっという間になくなったので、営業さんに頼んで20部くらい都合してもらった」(別の東京近郊の書店)などと、初回の配本数が少ないという指摘が聞こえてきた。 こうした書店へのゼロ配本や初回配本の少なさは、出版業界特有の委託制度に原因がある。委託制度とは簡単に言えば、書店は仕入れた本が売れ残った場合ノーリスクで返品できるという仕組み。この制度により書店から来る注文数通りに重版し配本したのはいいが、書店で売れ残り、大量の返品が発生してしまい出版社が倒産する”ベストセラー倒産”も起こりうる。これは今回のようなビッグタイトルに限った話ではあるが、出版社はこうしたことを踏まえて、返品がなるべく発生しないように販売力のある書店を中心にこれまでの販売実績を考慮して初回配本数を決定する。そのため、地方の街の書店のような販売力の小さい零細店には、新刊・売れ筋商品が入荷しづらいのである。 今回は確実に売れる見込みがある書籍なので、文藝春秋が同作の配本に慎重かつ正確を期したいと、ほかの書籍以上に思い悩んだのは想像に難くない。だが、結果は『1Q84』の『BOOK 1』『2』と同様に、売り上げスピードが度重なる重版を上回り、前述したとおり、市場は飢餓感に満たされた。この山を文藝春秋の戦略とみる書店員は少数で、大方は圧倒的なまでの「春樹パワー」が文藝春秋の販売予測を超えたとみているようだ。 そうした状況に対し、都内の書店員C氏は「結果論だが、『多崎つくる~』と同じくらいの祭りとなった『KAGEROU』(ポプラ社)発売の時のように、責任販売制(通常よりも利益率は高いが、売れ残って出版社に返品する際は、仕入れ値より安く引き取られる制度)にして、書店の注文を採用してほしかった」と言う。 かつて、『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』の販売でも採用された責任販売制のメリットは、中小の書店でも自らのリスクと引き換えに初版の入荷部数を確保できる点にある。しかし今回、文藝春秋は責任販売制を選択しなかった。書籍の内容を事前に開示しないという出版社の戦略と、事前注文には書籍の情報が不可欠という書店側の事情との折り合いが取りづらかったのかもしれないが、これを導入さえしていれば、少なくとも「ゼロ配本により書店が顧客から不信感を受ける」という事態は避けられたのではないか。 このように、版元と書店にとっては悲喜こもごもの「村上春樹狂騒曲」だが、この祭りはいつまで続くのだろうか。筆者はゴールデンウィーク突入前の4月26日に都内の書店を訪れた。「『多崎つくる~』は2日前に入ってきて、店頭の一番いい場所で展開しているけど、だいぶ売り上げが落ち付いてきた。ゴールデンウィーク明けには、ひと段落するかもしれない。書店としてはもっと売りたいけど、配本が行き渡らなかったことによって、これだけ販売機会をロスするとね……」と早くも下火の予兆が見えてきているようだ。 しかも「『多崎つくる~』の陰に隠れてしまったが、今年の4月は文芸書祭りだった。第10回本屋大賞を受賞した百田尚樹の『海賊とよばれた男(上下)』(講談社)や、東野圭吾の『無幻花』(PHP研究所)も売れている。『海賊~』は100万部を突破し、百田さんによる既刊の『永遠の0』(文庫版、講談社)もこれに呼応して、動きがいい。村上春樹の既刊よりも動くし、百田さんはテレビにもたびたび出演する。講談社も思い切った重版で在庫も潤沢にあるようなので、書店としてはこっちのほうが売りやすい」(都内書店員B氏)と本音もチラリ。 「本屋大賞は、『本を売るための文学賞』として、書店や出版社と連携して、受賞作だけでなく、関連書籍も幅広く売れるよう施策を設けている。『多崎つくる~』も、こうした例を見習って、もっとほかの本と連動した企画をうつべきだっただろう」(同) 確かに、 『1Q84』の『BOOK 1』『2』『3』が発売された09年、10年の書籍市場はいずれもマイナス成長だった。書店業界からすれば、確実に売れる商材ではあるが、書店の年間売上が前年をクリアするほどの起爆剤には到底なりえない。 「マイナス成長にあえぐ出版社と書店にとっては、普段は本をあまり読まない人や書店に来ない人に、いかに今後も書店に足を運んでもらえるような仕掛けを施すかが重要だったといえるだろう」という書店員の声もあるようだ。 とはいえ、社会現象といえるまでに盛り上がり、世間の注目を集めたこの村上春樹狂想騒曲。本企画では、これらがいかにして作られたかを、過去の春樹作品の売り上げや村上のトホホなインタビュー記事検証、識者による『多崎つくる~』レビューをもって考察していきたい。 (文/佐伯雄大) 【「サイゾーpremium」では他にも村上春樹と多崎つくるの真価を問う企画が満載です!】 ・『多崎つくる~』の実売は6割程度? 下は3万部、上は140万部!村上春樹作品のホントの”売上冊数” ・【上祐史浩】『多崎つくる』は仏教のありふれたパロディ ”透明”という色が”最強”な時代とは? ・【谷 一歩】「液体のような私を受け止めてほしい」春樹にインスパイアされた”谷コミューン”
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“ミステリーな”村上春樹 大ヒット新作印税収入、次作の出版元、編集者も会えない… - Business Journal(5月19日)
村上春樹氏の書き下ろし長編小説『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』(文藝春秋)が4月12日に発売された。村上氏としては『1Q84 BOOK 1〜3』(新潮社)以来、3年ぶりの長編小説となる。 初版は30万部で、文藝春秋のこれまでの単行本としては最多。また、発売前にもかかわらず3度も重版し、発売時点で50万部に達した。発売前には、村上氏自身のメッセージが公表されたりしたが、小説の内容について、新聞社や他の出版社、書店、書評家などにもほとんど知らされなかったという。発売後1週間で100万部(8刷)を突破。作品に登場するリスト作曲のクラシック曲『巡礼の年』の輸入盤CDも品切れが続出し、国内盤CDはすでに廃盤になっていたが、ユニバーサルミュージックが5月15日に再発売することになった。 発売後、本作の内容については、次のような論評がなされている。 「世界的な評価を得ている作家による力のこもった作品だ。過去の自作とよく対話して書かれたのか、アメリカ文化の影響や暴力的な『父』といった要素が削ぎ落とされ、村上文学の核にあるものが取り出されて充実した表現があたえられている」(4月25日付毎日新聞夕刊『文芸時評』、文芸評論家・田中和生氏) 「本書の背後には3.11の大震災と原発事故がある。著書が1995年の阪神大震災の後、連作短編集『地震のあとで』(のちに『神の子どもたちはみな踊る』)を発表したように、本書には津波も放射能もなにも書かれてはいない。だが、大震災が行間に深く埋もれている。私はそのように読んだ。同時代の空気を吸ってきた同世代の者の勘である」(4月21日付東京新聞朝刊、文芸評論家・横尾和博氏) 一方で出版業界内からは「あれは小説ではない。戯曲だ。2時間あれば読める戯曲。100万部売れるからといって傑作とは限らない」(出版業界関係者・A氏)との声も聞かれ、賛否両論さまざまである。 ●文藝文春から出版された背景 そもそも村上氏が文藝文春から新作を出版することになったのは、「村上氏を担当していたある女性編集者を追悼することがきっかけで、村上氏から文春で書きたいと言ってきた」(出版業界関係者・B氏)という。 また、業界内では次作は講談社から出されるとみられているという。しかし、「講談社の村上氏担当編集者(村上番)は会社を辞め、村上氏の個人エージェントになるという。この村上番が辞めた際には、引き継ぎもなく、社内は混乱している」(出版業界関係者C氏)という。 ●気になる印税収入 今回の『色彩を持たない〜』の部数が100万部であれば、印税は最低でも1億7000万円。50万部を超えると印税の率が変わり、20%ほどになるといわれており、最終的な印税は2億円を突破するとみられている。一方で、「講談社は旧作の文庫本だけで年間1000万円以上の印税を払っている」(前出のA氏)。こうした村上氏の収入事情について、出版業界内では、「村上氏は海外に長期滞在することが多く、外国に半年以上いれば、その年は日本では納税しないで済む。いったい彼はどこで納税しているのか……」(前出のB氏)という点に、関心が寄せられているという。 また、村上氏に関する業界の関心事としては、「各出版社に村上番はいるものの、村上氏本人と会ったことのある編集者はほとんどいない。原稿を受け取って、そのまま活字にして本をつくるだけ。編集者が原稿を直すことなど絶対にあり得ず、編集者として村上番は決しておもしろい仕事ではない」(前出のC氏)という話も広がっているという。村上氏は作品のみならず、自身にまつわる“村上ミステリー”でも世間に話題を提供しているようだ。 (文=編集部) ■おすすめ記事 高橋みなみ、心の葛藤、熱愛峯岸擁護理由を告白「生まれ変わったらAKBにならない」 橋下徹慰安婦発言、デーブ「本性が口に」テリー伊藤「慰安婦抑えると一般人に危害」 まるで蟻地獄…… 自己啓発セミナーにどっぷり浸かった筆者が語る抜け出せないワケ Twitter乗っ取り大流行、多様な手口と防御法とは?被害に遭ったらどうする? 生理痛の正体は内臓痛 意外と知られていない効果てきめんな痛み止めはコレだ!『色彩を持たない多崎つくると、
彼の巡礼の年』(文藝春秋/村上春樹)
ハルキスト猛反発中!? 爆笑問題・太田光“村上春樹叩き”の是非
あっという間に100万部を突破した、村上春樹氏の新著『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』(文藝春秋)。書店には“ハルキスト”と呼ばれる熱心なファンが長蛇の列を作ったが、村上氏に対して一貫して否定的な意見を並べているのがお笑いコンビ爆笑問題の太田光だ。 『色彩を持たない~』について、太田は4月30日放送のラジオ番組『爆笑問題 カーボーイ』(TBSラジオ)の中で「人気を支えているのは、ファッションとして読む人たち」とブッタ斬った。太田も元は“春樹信者”だったというが、1987年の『ノルウェイの森』(講談社)以降は「クソつまらなくなった」(太田談)。 その後は事あるごとに批判的な見解を述べており、10年ほど前にも同ラジオ番組の中で「村上春樹の小説は中身がない。よくわからない。でも自分の好きな海外の小説家が“ムラカミは面白い”と言ってるから、わかんない自分が悪いのかもしれない。そのことで悩むこともある」と発言。 数年後には「あんなのは海外小説のパクリだ。見せかけだ。クソだ。村上、お前だよお前、お前が純文学のレベルを下げてるんだよ、バカヤロー」とまで言ってのけた。 こうした発言に、ハルキストは猛反発。太田も小説を出版していることから「少なくともおまえよりマシ」「才能の違いがわからないのか!」と大ブーイングだ。さらに太田が村上叩きを繰り返す半面、何かと物議を醸した俳優・水嶋ヒロの小説を酷評する人に対して「お前らはクソだ。人が一生懸命作ったものを踏みにじる人間には感受性がない。そういうやつはクソだし、本を読むな!」と擁護していたことについて「見る目がない」と一刀両断した。 その一方で、ハルキスト以外の読者からは、今回太田が言い放った「(村上作品の)人気を支えているのは、ファッションとして読む人たち」という言葉に対して「当たっている」「同感」という賛同の声も……。太田がブチ上げた“春樹論議”は今後も過熱しそうだ。『しごとのはなし』(ぴあ)
ラブストーリーってホント? 緘口令で情報管理!? 村上春樹新刊の"中身"
【サイゾーpremium】より
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2月16日、あの村上春樹氏の新刊が発売されることが、文藝春秋より発表された。小説なのか? 初版はいきなり数十万部なのか? ノーベル賞級大作家の新刊とあって、色めき立つ出版業界に書店業界。そんな“ハルキ狂騒曲”の向こうに垣間見える、新刊の本当の“中身”とはいったい──? この出版不況の中、ノーベル賞候補としても名前が挙がり、代表作『ノルウェイの森』(講談社)が単行本・文庫本を含めて累計1000万部超えを記録するなど、過去に類を見ないヒットを飛ばし続けている村上春樹。純文学、長編、上下巻(複数巻)という出版界のタブー(=売れない要素)を軽々と打ち破っている稀有な作家といえる。 その村上氏の新刊が文藝春秋から4月に出版されると告知されたのは、2月16日。その後、2月28日には、村上氏のメッセージが発表され、長編小説であることが明らかになった。だが、それ以外の情報については、3月4日現在まったく明らかになっていない。いったいどんな小説なのか? 文春社員数名に当たったが、かん口令が敷かれているのか、本当に社員にも詳細が明かされていないのか、みなノーコメント。 新刊情報の発信元である文春宣伝プロモーション局に問い合わせたところ、「貴誌発売の3月18日までには、あらためて具体的な情報を出せる予定です」とのみ回答があった。情報が厳しく制限されているようである。 それならばと書店関係者に取材を試みるも、公になっている情報以外、タイトルも価格も何も知らされていないという。 「第一報が出たときは、文春の営業さんすら何も知らなかったそうです。関係者から発売日は4月後半になるという噂は聞きましたが、それ以外は何も知りません。詳細を知っているのは、文春社長と担当編集者しかいないんじゃないでしょうか」(大手書店員) このように、発売日まで情報を制限する売り出し方は、2009年5月29日に新潮社から発売された『1Q84』(BOOK1、BOOK2)の手法を踏襲しているともいえる。当時新潮社は、タイトル、価格、全2巻といった情報を告知したのみで、詳細は発売まで一切明かさなかった。 「情報を制限することで希少性を煽り、消費者に飢餓感を与えることで『欲しい』と思わせる”ハングリーマーケット”を生み出すつもりだったんでしょう」と、ある出版関係者は語る。 その手法が功を奏し、同書は注文が殺到。初版は『BOOK1』が20万部、『BOOK2』が18万部だったが、発売前に重版が決定。6月2日には『BOOK1』『BOOK2』で合計85万部を記録。想像を超える売り上げに、納品が間に合わず、品切れ店が続出するという事態に陥った。さらに発売から約1カ月後の7月1日には『BOOK1』が、7月23日には『BOOK2』が見事ミリオンを達成したのである。 10年4月16日に発売した『BOOK3』は、初版50万部で発売。初版を大幅に増やしたのは、機会ロスを防ぐためだという。『BOOK3』も発売前に重版が決定し、約10日後の4月27日には早くも100万部を達成した。 ハングリーマーケットを作るこうした手法について一部では「戦略的」などと揶揄されもしたが、村上氏は『考える人』(新潮社)に掲載されたロングインタビューでそれを否定。この手法を採ったのは、長編小説『海辺のカフカ』(02年、新潮社)の発売前は、出版後すぐに書評が出るようプルーフ(見本用の仮とじ本)をメディア関係者に配ったが、みなが足並みを揃えるためか、結局書評が出たのは他作品と同じように発売1カ月後だったことが理由だという。 「結局、プルーフを先につくってもなんの意味もないんだとわかった。だから、『1Q84』のときはとくに何もせず、ただシンプルにそのまますっと本を出しました。秘密主義もなにも、ほかの本と同じように普通に出しただけです」 「事前に内容を明かさなかったというのも、僕の決めたことではないけれど、そもそも考えてみれば、事前にそんなもの発表する必要なんかどこにもないわけで、それを戦略だとかなんだとか言われるのは腑に落ちないですよね。それくらいのことで本が売れるのなら、みんなとっくにそうやっています」(いずれも「考える人」10年夏号より) また新潮社側は、読者から「事前に内容を知らせないでほしい」と要望があったためともしている。 しかし、似た手法をそのまま繰り返している文春の場合、”戦略”だといわれても致し方あるまい。事実、効果てきめん、各書店では早くも色めき立っているようだ。 「今度は、品切れとなった『BOOK1』の轍を踏まないようにします。当店では『BOOK3』だけで1000冊以上売れましたか ら、新刊は少なくとも初日に600~700冊は欲しいですね。いまどきこんなに仕入れるのは、村上氏の小説以外にありません。ほかの作家さんはみな、その10分の1以下ですよ。すでに予約受付中のポップも作りました。残念ながら、まだ予約は入っていませんが……でも絶対に売れるので大丈夫」(大手書店員) 有名な作家でも初版1万部に満たないことはザラの昨今。12年に最もヒットした文芸書は、三浦しをんの『舟を編む』(光文社、本屋大賞受賞作)で、約58万部。この数字もじゅうぶん素晴らしいが、それでも村上氏の作品に比べれば桁が違う。書店側がその新刊に多大な期待を寄せてしまうのも当然だろう。だが、あまりの過熱ぶりに一部では不安の声もある。 「4月9日に発表される本屋大賞と時期がかぶることが心配です。『1Q84』のときは"ハルキ一色"になってしまい、3日前に発売された桐野夏生さんの『IN』(集英社)がかすんでしまって関係者は怒っていたようです。今回も、本屋大賞受賞作が村上氏の新刊のせいで割を食わなければいいのですが……」(中規模書店員) 「中小の出版社は困りますね。数十万部の書籍を全国一斉に発売するため、流通が村上氏の新刊でパンクしてしまい、ほかの新刊の配本作業がストップする可能性が高いんです。『ハリー・ポッター』シリーズや『1Q84』発売時も、他社の新刊が後回しにされることがありました」(取次会社社員) さらに書店には別の煩わしさも。 「大量の部数を刷りますから、なるべく返品率を下げるため、定価のうち書店の取り分をアップする代わりに返品の際に書店に相応の負担を求める”責任販売制”を文春が採る可能性もあります。この制度は、小学館の図鑑など大手出版社の高額商品では以前からよく採用されており、齋藤智裕(水嶋ヒロ)の『KAGEROU』(ポプラ社)でも採用され注目を集めました」(取次会社社員) “ハルキの新刊発売”というお祭り、ただ騒いでばかりはいられないのである。 11年のカタルーニャ国際賞でのスピーチでは原発問題に触れ、尖閣諸島、竹島紛争問題では「魂が行き来する道筋を塞いでしまってはならない」という文章を朝日新聞に寄稿するなど、要所要所で社会的な発言もある村上氏。「ノーベル賞狙い」などと皮肉を言う者もいるが、ミリオンを狙うなら、社会的かつ寓話的だった小説『海辺のカフカ』(新潮社/上下巻合わせて約73万部)よりも、『ノルウェイの森』や『1Q84』のようなラブストーリー系の作品のほうが間口が広くウケがいい気も。 「新刊に関する村上氏のコメントに、『短い小説を書こうと思って書き出したのだけど、書いているうちに自然に長いものになっていきました。僕の場合そういうことってあまりなくて、そういえば『ノルウェイの森』以来かな』とありましたから、ラブストーリーであることを願っています(笑)」(大手書店員) 狙うはノーベル賞か、ミリオンか。発売日が待たれる。 (文/安楽由紀子) 【「サイゾーpremium」では他にも村上春樹特集記事が満載です!】 ・嫌いだからこそわかる「村上春樹」の正しい読み方【1】 ・有名編集者への憎悪、怒り、怨念......原稿流出騒動から垣間見える「春樹の暗部」 ・文芸評論家、渡部直己と小谷野敦に直撃! 「私が村上春樹を嫌うワケ」こちらが話題の新作タイトル『色彩を持たない 多崎つくると、 彼の巡礼の年』。発売日も4月12日に決定してさらに期待が高まる。
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ラブストーリーってホント? 緘口令で情報管理!? 村上春樹新刊の"中身"
【サイゾーpremium】より
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2月16日、あの村上春樹氏の新刊が発売されることが、文藝春秋より発表された。小説なのか? 初版はいきなり数十万部なのか? ノーベル賞級大作家の新刊とあって、色めき立つ出版業界に書店業界。そんな“ハルキ狂騒曲”の向こうに垣間見える、新刊の本当の“中身”とはいったい──? この出版不況の中、ノーベル賞候補としても名前が挙がり、代表作『ノルウェイの森』(講談社)が単行本・文庫本を含めて累計1000万部超えを記録するなど、過去に類を見ないヒットを飛ばし続けている村上春樹。純文学、長編、上下巻(複数巻)という出版界のタブー(=売れない要素)を軽々と打ち破っている稀有な作家といえる。 その村上氏の新刊が文藝春秋から4月に出版されると告知されたのは、2月16日。その後、2月28日には、村上氏のメッセージが発表され、長編小説であることが明らかになった。だが、それ以外の情報については、3月4日現在まったく明らかになっていない。いったいどんな小説なのか? 文春社員数名に当たったが、かん口令が敷かれているのか、本当に社員にも詳細が明かされていないのか、みなノーコメント。 新刊情報の発信元である文春宣伝プロモーション局に問い合わせたところ、「貴誌発売の3月18日までには、あらためて具体的な情報を出せる予定です」とのみ回答があった。情報が厳しく制限されているようである。 それならばと書店関係者に取材を試みるも、公になっている情報以外、タイトルも価格も何も知らされていないという。 「第一報が出たときは、文春の営業さんすら何も知らなかったそうです。関係者から発売日は4月後半になるという噂は聞きましたが、それ以外は何も知りません。詳細を知っているのは、文春社長と担当編集者しかいないんじゃないでしょうか」(大手書店員) このように、発売日まで情報を制限する売り出し方は、2009年5月29日に新潮社から発売された『1Q84』(BOOK1、BOOK2)の手法を踏襲しているともいえる。当時新潮社は、タイトル、価格、全2巻といった情報を告知したのみで、詳細は発売まで一切明かさなかった。 「情報を制限することで希少性を煽り、消費者に飢餓感を与えることで『欲しい』と思わせる”ハングリーマーケット”を生み出すつもりだったんでしょう」と、ある出版関係者は語る。 その手法が功を奏し、同書は注文が殺到。初版は『BOOK1』が20万部、『BOOK2』が18万部だったが、発売前に重版が決定。6月2日には『BOOK1』『BOOK2』で合計85万部を記録。想像を超える売り上げに、納品が間に合わず、品切れ店が続出するという事態に陥った。さらに発売から約1カ月後の7月1日には『BOOK1』が、7月23日には『BOOK2』が見事ミリオンを達成したのである。 10年4月16日に発売した『BOOK3』は、初版50万部で発売。初版を大幅に増やしたのは、機会ロスを防ぐためだという。『BOOK3』も発売前に重版が決定し、約10日後の4月27日には早くも100万部を達成した。 ハングリーマーケットを作るこうした手法について一部では「戦略的」などと揶揄されもしたが、村上氏は『考える人』(新潮社)に掲載されたロングインタビューでそれを否定。この手法を採ったのは、長編小説『海辺のカフカ』(02年、新潮社)の発売前は、出版後すぐに書評が出るようプルーフ(見本用の仮とじ本)をメディア関係者に配ったが、みなが足並みを揃えるためか、結局書評が出たのは他作品と同じように発売1カ月後だったことが理由だという。 「結局、プルーフを先につくってもなんの意味もないんだとわかった。だから、『1Q84』のときはとくに何もせず、ただシンプルにそのまますっと本を出しました。秘密主義もなにも、ほかの本と同じように普通に出しただけです」 「事前に内容を明かさなかったというのも、僕の決めたことではないけれど、そもそも考えてみれば、事前にそんなもの発表する必要なんかどこにもないわけで、それを戦略だとかなんだとか言われるのは腑に落ちないですよね。それくらいのことで本が売れるのなら、みんなとっくにそうやっています」(いずれも「考える人」10年夏号より) また新潮社側は、読者から「事前に内容を知らせないでほしい」と要望があったためともしている。 しかし、似た手法をそのまま繰り返している文春の場合、”戦略”だといわれても致し方あるまい。事実、効果てきめん、各書店では早くも色めき立っているようだ。 「今度は、品切れとなった『BOOK1』の轍を踏まないようにします。当店では『BOOK3』だけで1000冊以上売れましたか ら、新刊は少なくとも初日に600~700冊は欲しいですね。いまどきこんなに仕入れるのは、村上氏の小説以外にありません。ほかの作家さんはみな、その10分の1以下ですよ。すでに予約受付中のポップも作りました。残念ながら、まだ予約は入っていませんが……でも絶対に売れるので大丈夫」(大手書店員) 有名な作家でも初版1万部に満たないことはザラの昨今。12年に最もヒットした文芸書は、三浦しをんの『舟を編む』(光文社、本屋大賞受賞作)で、約58万部。この数字もじゅうぶん素晴らしいが、それでも村上氏の作品に比べれば桁が違う。書店側がその新刊に多大な期待を寄せてしまうのも当然だろう。だが、あまりの過熱ぶりに一部では不安の声もある。 「4月9日に発表される本屋大賞と時期がかぶることが心配です。『1Q84』のときは"ハルキ一色"になってしまい、3日前に発売された桐野夏生さんの『IN』(集英社)がかすんでしまって関係者は怒っていたようです。今回も、本屋大賞受賞作が村上氏の新刊のせいで割を食わなければいいのですが……」(中規模書店員) 「中小の出版社は困りますね。数十万部の書籍を全国一斉に発売するため、流通が村上氏の新刊でパンクしてしまい、ほかの新刊の配本作業がストップする可能性が高いんです。『ハリー・ポッター』シリーズや『1Q84』発売時も、他社の新刊が後回しにされることがありました」(取次会社社員) さらに書店には別の煩わしさも。 「大量の部数を刷りますから、なるべく返品率を下げるため、定価のうち書店の取り分をアップする代わりに返品の際に書店に相応の負担を求める”責任販売制”を文春が採る可能性もあります。この制度は、小学館の図鑑など大手出版社の高額商品では以前からよく採用されており、齋藤智裕(水嶋ヒロ)の『KAGEROU』(ポプラ社)でも採用され注目を集めました」(取次会社社員) “ハルキの新刊発売”というお祭り、ただ騒いでばかりはいられないのである。 11年のカタルーニャ国際賞でのスピーチでは原発問題に触れ、尖閣諸島、竹島紛争問題では「魂が行き来する道筋を塞いでしまってはならない」という文章を朝日新聞に寄稿するなど、要所要所で社会的な発言もある村上氏。「ノーベル賞狙い」などと皮肉を言う者もいるが、ミリオンを狙うなら、社会的かつ寓話的だった小説『海辺のカフカ』(新潮社/上下巻合わせて約73万部)よりも、『ノルウェイの森』や『1Q84』のようなラブストーリー系の作品のほうが間口が広くウケがいい気も。 「新刊に関する村上氏のコメントに、『短い小説を書こうと思って書き出したのだけど、書いているうちに自然に長いものになっていきました。僕の場合そういうことってあまりなくて、そういえば『ノルウェイの森』以来かな』とありましたから、ラブストーリーであることを願っています(笑)」(大手書店員) 狙うはノーベル賞か、ミリオンか。発売日が待たれる。 (文/安楽由紀子) 【「サイゾーpremium」では他にも村上春樹特集記事が満載です!】 ・嫌いだからこそわかる「村上春樹」の正しい読み方【1】 ・有名編集者への憎悪、怒り、怨念......原稿流出騒動から垣間見える「春樹の暗部」 ・文芸評論家、渡部直己と小谷野敦に直撃! 「私が村上春樹を嫌うワケ」こちらが話題の新作タイトル『色彩を持たない 多崎つくると、 彼の巡礼の年』。発売日も4月12日に決定してさらに期待が高まる。
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2月16日、あの村上春樹氏の新刊が発売されることが、文藝春秋より発表された。小説なのか? 初版はいきなり数十万部なのか? ノーベル賞級大作家の新刊とあって、色めき立つ出版業界に書店業界。そんな“ハルキ狂騒曲”の向こうに垣間見える、新刊の本当の“中身”とはいったい──? この出版不況の中、ノーベル賞候補としても名前が挙がり、代表作『ノルウェイの森』(講談社)が単行本・文庫本を含めて累計1000万部超えを記録するなど、過去に類を見ないヒットを飛ばし続けている村上春樹。純文学、長編、上下巻(複数巻)という出版界のタブー(=売れない要素)を軽々と打ち破っている稀有な作家といえる。 その村上氏の新刊が文藝春秋から4月に出版されると告知されたのは、2月16日。その後、2月28日には、村上氏のメッセージが発表され、長編小説であることが明らかになった。だが、それ以外の情報については、3月4日現在まったく明らかになっていない。いったいどんな小説なのか? 文春社員数名に当たったが、かん口令が敷かれているのか、本当に社員にも詳細が明かされていないのか、みなノーコメント。 新刊情報の発信元である文春宣伝プロモーション局に問い合わせたところ、「貴誌発売の3月18日までには、あらためて具体的な情報を出せる予定です」とのみ回答があった。情報が厳しく制限されているようである。 それならばと書店関係者に取材を試みるも、公になっている情報以外、タイトルも価格も何も知らされていないという。 「第一報が出たときは、文春の営業さんすら何も知らなかったそうです。関係者から発売日は4月後半になるという噂は聞きましたが、それ以外は何も知りません。詳細を知っているのは、文春社長と担当編集者しかいないんじゃないでしょうか」(大手書店員) このように、発売日まで情報を制限する売り出し方は、2009年5月29日に新潮社から発売された『1Q84』(BOOK1、BOOK2)の手法を踏襲しているともいえる。当時新潮社は、タイトル、価格、全2巻といった情報を告知したのみで、詳細は発売まで一切明かさなかった。 「情報を制限することで希少性を煽り、消費者に飢餓感を与えることで『欲しい』と思わせる”ハングリーマーケット”を生み出すつもりだったんでしょう」と、ある出版関係者は語る。 その手法が功を奏し、同書は注文が殺到。初版は『BOOK1』が20万部、『BOOK2』が18万部だったが、発売前に重版が決定。6月2日には『BOOK1』『BOOK2』で合計85万部を記録。想像を超える売り上げに、納品が間に合わず、品切れ店が続出するという事態に陥った。さらに発売から約1カ月後の7月1日には『BOOK1』が、7月23日には『BOOK2』が見事ミリオンを達成したのである。 10年4月16日に発売した『BOOK3』は、初版50万部で発売。初版を大幅に増やしたのは、機会ロスを防ぐためだという。『BOOK3』も発売前に重版が決定し、約10日後の4月27日には早くも100万部を達成した。 ハングリーマーケットを作るこうした手法について一部では「戦略的」などと揶揄されもしたが、村上氏は『考える人』(新潮社)に掲載されたロングインタビューでそれを否定。この手法を採ったのは、長編小説『海辺のカフカ』(02年、新潮社)の発売前は、出版後すぐに書評が出るようプルーフ(見本用の仮とじ本)をメディア関係者に配ったが、みなが足並みを揃えるためか、結局書評が出たのは他作品と同じように発売1カ月後だったことが理由だという。 「結局、プルーフを先につくってもなんの意味もないんだとわかった。だから、『1Q84』のときはとくに何もせず、ただシンプルにそのまますっと本を出しました。秘密主義もなにも、ほかの本と同じように普通に出しただけです」 「事前に内容を明かさなかったというのも、僕の決めたことではないけれど、そもそも考えてみれば、事前にそんなもの発表する必要なんかどこにもないわけで、それを戦略だとかなんだとか言われるのは腑に落ちないですよね。それくらいのことで本が売れるのなら、みんなとっくにそうやっています」(いずれも「考える人」10年夏号より) また新潮社側は、読者から「事前に内容を知らせないでほしい」と要望があったためともしている。 しかし、似た手法をそのまま繰り返している文春の場合、”戦略”だといわれても致し方あるまい。事実、効果てきめん、各書店では早くも色めき立っているようだ。 「今度は、品切れとなった『BOOK1』の轍を踏まないようにします。当店では『BOOK3』だけで1000冊以上売れましたか ら、新刊は少なくとも初日に600~700冊は欲しいですね。いまどきこんなに仕入れるのは、村上氏の小説以外にありません。ほかの作家さんはみな、その10分の1以下ですよ。すでに予約受付中のポップも作りました。残念ながら、まだ予約は入っていませんが……でも絶対に売れるので大丈夫」(大手書店員) 有名な作家でも初版1万部に満たないことはザラの昨今。12年に最もヒットした文芸書は、三浦しをんの『舟を編む』(光文社、本屋大賞受賞作)で、約58万部。この数字もじゅうぶん素晴らしいが、それでも村上氏の作品に比べれば桁が違う。書店側がその新刊に多大な期待を寄せてしまうのも当然だろう。だが、あまりの過熱ぶりに一部では不安の声もある。 「4月9日に発表される本屋大賞と時期がかぶることが心配です。『1Q84』のときは"ハルキ一色"になってしまい、3日前に発売された桐野夏生さんの『IN』(集英社)がかすんでしまって関係者は怒っていたようです。今回も、本屋大賞受賞作が村上氏の新刊のせいで割を食わなければいいのですが……」(中規模書店員) 「中小の出版社は困りますね。数十万部の書籍を全国一斉に発売するため、流通が村上氏の新刊でパンクしてしまい、ほかの新刊の配本作業がストップする可能性が高いんです。『ハリー・ポッター』シリーズや『1Q84』発売時も、他社の新刊が後回しにされることがありました」(取次会社社員) さらに書店には別の煩わしさも。 「大量の部数を刷りますから、なるべく返品率を下げるため、定価のうち書店の取り分をアップする代わりに返品の際に書店に相応の負担を求める”責任販売制”を文春が採る可能性もあります。この制度は、小学館の図鑑など大手出版社の高額商品では以前からよく採用されており、齋藤智裕(水嶋ヒロ)の『KAGEROU』(ポプラ社)でも採用され注目を集めました」(取次会社社員) “ハルキの新刊発売”というお祭り、ただ騒いでばかりはいられないのである。 11年のカタルーニャ国際賞でのスピーチでは原発問題に触れ、尖閣諸島、竹島紛争問題では「魂が行き来する道筋を塞いでしまってはならない」という文章を朝日新聞に寄稿するなど、要所要所で社会的な発言もある村上氏。「ノーベル賞狙い」などと皮肉を言う者もいるが、ミリオンを狙うなら、社会的かつ寓話的だった小説『海辺のカフカ』(新潮社/上下巻合わせて約73万部)よりも、『ノルウェイの森』や『1Q84』のようなラブストーリー系の作品のほうが間口が広くウケがいい気も。 「新刊に関する村上氏のコメントに、『短い小説を書こうと思って書き出したのだけど、書いているうちに自然に長いものになっていきました。僕の場合そういうことってあまりなくて、そういえば『ノルウェイの森』以来かな』とありましたから、ラブストーリーであることを願っています(笑)」(大手書店員) 狙うはノーベル賞か、ミリオンか。発売日が待たれる。 (文/安楽由紀子) 【「サイゾーpremium」では他にも村上春樹特集記事が満載です!】 ・嫌いだからこそわかる「村上春樹」の正しい読み方【1】 ・有名編集者への憎悪、怒り、怨念......原稿流出騒動から垣間見える「春樹の暗部」 ・文芸評論家、渡部直己と小谷野敦に直撃! 「私が村上春樹を嫌うワケ」こちらが話題の新作タイトル『色彩を持たない 多崎つくると、 彼の巡礼の年』。発売日も4月12日に決定してさらに期待が高まる。
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2月16日、あの村上春樹氏の新刊が発売されることが、文藝春秋より発表された。小説なのか? 初版はいきなり数十万部なのか? ノーベル賞級大作家の新刊とあって、色めき立つ出版業界に書店業界。そんな“ハルキ狂騒曲”の向こうに垣間見える、新刊の本当の“中身”とはいったい──? この出版不況の中、ノーベル賞候補としても名前が挙がり、代表作『ノルウェイの森』(講談社)が単行本・文庫本を含めて累計1000万部超えを記録するなど、過去に類を見ないヒットを飛ばし続けている村上春樹。純文学、長編、上下巻(複数巻)という出版界のタブー(=売れない要素)を軽々と打ち破っている稀有な作家といえる。 その村上氏の新刊が文藝春秋から4月に出版されると告知されたのは、2月16日。その後、2月28日には、村上氏のメッセージが発表され、長編小説であることが明らかになった。だが、それ以外の情報については、3月4日現在まったく明らかになっていない。いったいどんな小説なのか? 文春社員数名に当たったが、かん口令が敷かれているのか、本当に社員にも詳細が明かされていないのか、みなノーコメント。 新刊情報の発信元である文春宣伝プロモーション局に問い合わせたところ、「貴誌発売の3月18日までには、あらためて具体的な情報を出せる予定です」とのみ回答があった。情報が厳しく制限されているようである。 それならばと書店関係者に取材を試みるも、公になっている情報以外、タイトルも価格も何も知らされていないという。 「第一報が出たときは、文春の営業さんすら何も知らなかったそうです。関係者から発売日は4月後半になるという噂は聞きましたが、それ以外は何も知りません。詳細を知っているのは、文春社長と担当編集者しかいないんじゃないでしょうか」(大手書店員) このように、発売日まで情報を制限する売り出し方は、2009年5月29日に新潮社から発売された『1Q84』(BOOK1、BOOK2)の手法を踏襲しているともいえる。当時新潮社は、タイトル、価格、全2巻といった情報を告知したのみで、詳細は発売まで一切明かさなかった。 「情報を制限することで希少性を煽り、消費者に飢餓感を与えることで『欲しい』と思わせる”ハングリーマーケット”を生み出すつもりだったんでしょう」と、ある出版関係者は語る。 その手法が功を奏し、同書は注文が殺到。初版は『BOOK1』が20万部、『BOOK2』が18万部だったが、発売前に重版が決定。6月2日には『BOOK1』『BOOK2』で合計85万部を記録。想像を超える売り上げに、納品が間に合わず、品切れ店が続出するという事態に陥った。さらに発売から約1カ月後の7月1日には『BOOK1』が、7月23日には『BOOK2』が見事ミリオンを達成したのである。 10年4月16日に発売した『BOOK3』は、初版50万部で発売。初版を大幅に増やしたのは、機会ロスを防ぐためだという。『BOOK3』も発売前に重版が決定し、約10日後の4月27日には早くも100万部を達成した。 ハングリーマーケットを作るこうした手法について一部では「戦略的」などと揶揄されもしたが、村上氏は『考える人』(新潮社)に掲載されたロングインタビューでそれを否定。この手法を採ったのは、長編小説『海辺のカフカ』(02年、新潮社)の発売前は、出版後すぐに書評が出るようプルーフ(見本用の仮とじ本)をメディア関係者に配ったが、みなが足並みを揃えるためか、結局書評が出たのは他作品と同じように発売1カ月後だったことが理由だという。 「結局、プルーフを先につくってもなんの意味もないんだとわかった。だから、『1Q84』のときはとくに何もせず、ただシンプルにそのまますっと本を出しました。秘密主義もなにも、ほかの本と同じように普通に出しただけです」 「事前に内容を明かさなかったというのも、僕の決めたことではないけれど、そもそも考えてみれば、事前にそんなもの発表する必要なんかどこにもないわけで、それを戦略だとかなんだとか言われるのは腑に落ちないですよね。それくらいのことで本が売れるのなら、みんなとっくにそうやっています」(いずれも「考える人」10年夏号より) また新潮社側は、読者から「事前に内容を知らせないでほしい」と要望があったためともしている。 しかし、似た手法をそのまま繰り返している文春の場合、”戦略”だといわれても致し方あるまい。事実、効果てきめん、各書店では早くも色めき立っているようだ。 「今度は、品切れとなった『BOOK1』の轍を踏まないようにします。当店では『BOOK3』だけで1000冊以上売れましたか ら、新刊は少なくとも初日に600~700冊は欲しいですね。いまどきこんなに仕入れるのは、村上氏の小説以外にありません。ほかの作家さんはみな、その10分の1以下ですよ。すでに予約受付中のポップも作りました。残念ながら、まだ予約は入っていませんが……でも絶対に売れるので大丈夫」(大手書店員) 有名な作家でも初版1万部に満たないことはザラの昨今。12年に最もヒットした文芸書は、三浦しをんの『舟を編む』(光文社、本屋大賞受賞作)で、約58万部。この数字もじゅうぶん素晴らしいが、それでも村上氏の作品に比べれば桁が違う。書店側がその新刊に多大な期待を寄せてしまうのも当然だろう。だが、あまりの過熱ぶりに一部では不安の声もある。 「4月9日に発表される本屋大賞と時期がかぶることが心配です。『1Q84』のときは"ハルキ一色"になってしまい、3日前に発売された桐野夏生さんの『IN』(集英社)がかすんでしまって関係者は怒っていたようです。今回も、本屋大賞受賞作が村上氏の新刊のせいで割を食わなければいいのですが……」(中規模書店員) 「中小の出版社は困りますね。数十万部の書籍を全国一斉に発売するため、流通が村上氏の新刊でパンクしてしまい、ほかの新刊の配本作業がストップする可能性が高いんです。『ハリー・ポッター』シリーズや『1Q84』発売時も、他社の新刊が後回しにされることがありました」(取次会社社員) さらに書店には別の煩わしさも。 「大量の部数を刷りますから、なるべく返品率を下げるため、定価のうち書店の取り分をアップする代わりに返品の際に書店に相応の負担を求める”責任販売制”を文春が採る可能性もあります。この制度は、小学館の図鑑など大手出版社の高額商品では以前からよく採用されており、齋藤智裕(水嶋ヒロ)の『KAGEROU』(ポプラ社)でも採用され注目を集めました」(取次会社社員) “ハルキの新刊発売”というお祭り、ただ騒いでばかりはいられないのである。 11年のカタルーニャ国際賞でのスピーチでは原発問題に触れ、尖閣諸島、竹島紛争問題では「魂が行き来する道筋を塞いでしまってはならない」という文章を朝日新聞に寄稿するなど、要所要所で社会的な発言もある村上氏。「ノーベル賞狙い」などと皮肉を言う者もいるが、ミリオンを狙うなら、社会的かつ寓話的だった小説『海辺のカフカ』(新潮社/上下巻合わせて約73万部)よりも、『ノルウェイの森』や『1Q84』のようなラブストーリー系の作品のほうが間口が広くウケがいい気も。 「新刊に関する村上氏のコメントに、『短い小説を書こうと思って書き出したのだけど、書いているうちに自然に長いものになっていきました。僕の場合そういうことってあまりなくて、そういえば『ノルウェイの森』以来かな』とありましたから、ラブストーリーであることを願っています(笑)」(大手書店員) 狙うはノーベル賞か、ミリオンか。発売日が待たれる。 (文/安楽由紀子) 【「サイゾーpremium」では他にも村上春樹特集記事が満載です!】 ・嫌いだからこそわかる「村上春樹」の正しい読み方【1】 ・有名編集者への憎悪、怒り、怨念......原稿流出騒動から垣間見える「春樹の暗部」 ・文芸評論家、渡部直己と小谷野敦に直撃! 「私が村上春樹を嫌うワケ」こちらが話題の新作タイトル『色彩を持たない 多崎つくると、 彼の巡礼の年』。発売日も4月12日に決定してさらに期待が高まる。
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嫌いだからこそわかる「村上春樹」の正しい読み方
【サイゾーpremium】より
今月11日に発表されたノーベル文学賞で、またしても賞を逃してしまった作家の村上春樹氏。近年、ノーベル文学賞の最有力候補とされながらも、いまだ受賞できずにおります。がっくりと肩を落とす村上春樹ファンも多い中、実は春樹嫌いな識者の方々も一定数いるようで……。しかし、大手メディアではなかなか取り上げられない"村上春樹"批判。そこで、今こそ『嫌いだからこそわかる「村上春樹」の正しい読み方』を教えてしんぜます! 村上春樹の真価やいかに――!?
※当記事は「サイゾー」2009年7月号掲載のものとなります。
――『1Q84』がミリオンを突破した村上春樹。しかし、完璧な絶望が存在しないように、完璧な村上春樹などというものもまた存在しない――というわけで、もはや国民的作家と言っても過言ではない彼が、なぜだか一部では徹底的に嫌われる理由を探った。
2009年、デビュー30周年を迎えた村上春樹。彼をめぐる話題が続いている。08年7月には『ノルウェイの森』が10年に映画化されることが発表され、09年2月には、エルサレム国際ブックフェア認定の「社会の中の個人の自由のためのエルサレム賞」(エルサレム賞)を受賞。エルサレムを首都に持つイスラエルのパレスチナ・ガザ地区侵攻を理由に、受賞決定当時、市民団体らが賞を辞退するよう要求する「騒動」も起きたが、村上は授賞式に出席。イスラエル要人を前に「高くて固い壁(=イスラエル軍)があり、それにぶつかって壊れる卵(=ガザ市民)があるとしたら、私は常に卵側に立つ」とイスラエル批判とも取れるスピーチをし、話題をさらってみせた。
そして3月に、04年の『アフターダーク』以来の書き下ろし長編『1Q84』の発売を発表すると予約が殺到。新潮社は発売前に1・2巻合わせて10万部増刷という異例の措置をとり、5月29日全国発売初日に68万部(1・2巻合計)を出荷したが、完売店が相次ぎ、その後も増刷を続けた結果、09年6月4日時点で、1巻51万部、2巻45万部という驚異的な売り上げを記録しているのはご存知のとおりだ。
「物語の内容を事前には一切公表せず、読者の飢餓感を煽ったのも爆発的な売れ行きの一因でしょう。新潮社内でも、担当編集と上層部の一部しか内容を知らなかったというくらい情報が徹底管理されていたそうです」(大手出版社編集者)
確かに、平易ながらも斬新な文体、多層的な読みが可能な世界観といった点で村上の作品群は評価され、一般読者にも受け入れられてきた。評論家・福田和也も「夏目漱石以降の最重要作家」と語るなど、村上を評価する論者も多い。あるいは、ノーベル賞発表時期には、必ず文学賞候補と噂されては、落選したと報じられる(ノーベル賞候補者は非公開。本当に候補だったかなど知る由もないのだが)ため、素人目には、村上はさもスゴい作家に見える。だが、その一方で村上ほど批判渦巻く作家はいないのもまた事実なのだ。
■田中康夫がズバリ!「春樹は心智が卑しい」
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後出する比較文学者の小谷野敦氏が「日本人はアメリカ好きだから(笑)」と指摘するとおり、国内の村上人気の理由のひとつに、いち早く国内文学作品に米文学的ノリを取り入れた点が挙げられる。 作家の丸谷才一が、79年上期の芥川賞の選評で『風の歌を聴け』を「アメリカ小説の影響を受けながら自分の個性を示さうとしてゐます」(「文藝春秋」79年9月号)と語るなど、村上がアメリカ文学を血肉としていることは、一定の評価を受けているのは間違いない。しかし、その一方で同じ選考委員の瀧井孝作は「ハイカラなバタくさい作だ」(同)とバッサリ。80年上期に『1973年のピンボール』が同賞候補になったときも、評論家の中村光夫が「アメリカ化した風俗も、たしかに描くに足る題材かも知れない。しかしそれを風俗しか見えぬ浅薄な眼で揃へてゐては、文学は生れ得ない」(同80年9月号)としている(両年とも村上は落選)。 大出世作だけに『ノルウェイの森』は、多くの評価を集めるとともに、最も批判も呼んだ一冊だろう。哲学者・中島義道は『私の嫌いな10の言葉』(新潮社)の中で、同作を「『デブでブスで誰にももてずに』とか『三流大学さえ受からないアタマで』とか『父親に殴られて育って』とかいう具体的な悩み」のない「知的にも肉体的にも並以上、いや恵まれた」人物が「抽象的な理由で自殺したり(中略)抽象的に他人を世間を恐れ」る「非現実的」で「相当ひどい話」と評している。 評論家の斎藤美奈子は『ノルウェイの森』をはじめ、一連の村上作品を「主人公の知力・体力・武力がレベルアップしていくにしたがって、次々と新たなモンスターとの戦いが待っているロール・プレイング・ゲーム」(『文壇アイドル論』岩波書店)的だと分析。裏技探しに熱狂するゲームオタクに似た「文学プロパーのゴタク心を非常にくすぐ」るプロットが、彼らに「『ノルウェイの森』というタイトルの由来は何かといったトリビアルな(クソの役にも立たない)推理を得意げに披露」させるとコテンパンに批判している。 思想家・柄谷行人も村上作品の風景は「人工的」(『終焉をめぐって』講談社学術文庫)であり、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』などには、コンピュータゲーム同様「『神話や儀礼』に近いロマンス」が臆面もなく盛り込まれるため「注意すべき」と語っている。 なお、斎藤は「壁と卵」のスピーチについても「こういう場合に『自分は壁の側に立つ』と表明する人がいるだろうか(中略)作家はもちろん、政治家だって『卵の側に立つ』というのではないか」(「朝日新聞」09年2月25日付夕刊)と批判、それを受けて田中康夫も「村上春樹氏の心智の卑しさを冒頭で看破」(「週刊SPA!」09年3月17日号)と斎藤に喝采を送った。 出せば売れるドル箱作家ゆえ「村上叩きは、文芸界隈のタブーに近い」(小谷野氏)だけに、前記のような批判は、一般にはなかなか届きにくかった側面もあるだろう。しかし『ノルウェイの森』が20年以上を費やして870万部売れた一方、『1Q84』の発行部数は、わずか数週間程度で100万。『ノルウェイの森』に並んで村上の代表作になる可能性が高く、近いうちに作品解釈をめぐり、誰の耳にも聞こえるほどの論争が起こることも予想される。1000ページ超の大作をムリに読む必要はないが、新聞、雑誌、ネットで繰り広げられるだろう「春樹論争」を眺める価値は十分ある。名うての論客同士の罵り合いから、珍論奇論の応酬まで、あらゆるケンカ模様を楽しめるはずだ。 【「サイゾーpremium」ではハルキストも唸る!村上春樹関連記事が満載!】 ・有名編集者への憎悪、怒り、怨念......原稿流出騒動から垣間見える「春樹の暗部」 ・文芸評論家、渡部直己と小谷野敦に直撃! 「私が村上春樹を嫌うワケ」 ・『1Q84』をめぐる考察は続く──なぜ"1984"であったのか?↑画像をクリックすると拡大します。
作品から見る「村上春樹の人となり」
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