ひとりを殺すための犠牲 失われたアメリカの正義

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『ゼロ・ダーク・サーティ』 CIAの女性分析官・マヤを主人公に、国際的テロ組織の指導者オサマ・ビン・ラディンの捕獲・暗殺作戦を遂行するCIAの姿を描く。自爆テロなどを受けながら、CIAはついにビン・ラディンの居場所を突き止めるのだった。 監督/キャスリン・ビグロー 脚本/マーク・ボール 出演/ジェシカ・チャステイン、ジェイソン・クラークほか 日本では2月15日より全国ロードショー予定。  2011年5月2日深夜、パキスタンのアボッターバードに、米国海軍特殊部隊を載せたヘリコプターが突如飛来した。01年9月11日の同時多発テロ首謀者とされるオサマ・ビン・ラディンを急襲するためだ。作戦決行時刻は軍事用語でゼロ・ダーク・サーティ(午前0時半)。それが本作のタイトルになった。  監督は、米軍の爆発物処理班を描いた『ハート・ロッカー』(08年)で10年度アカデミー監督賞などを受賞したキャスリン・ビグロー。『ハート・ロッカー』の脚本家マーク・ボールと再び組んで、CIAによるビン・ラディン探索と襲撃を、事件からわずか一年半で映画化した。 『ゼロ・ダーク・サーティ』の主人公はCIAの女性エージェント、マヤ。彼女は、ビン・ラディンの居場所を突きとめた実在の女性CIA局員をモデルにしている。官僚主義や女性蔑視と戦いながら宿敵を追い続けるマヤの姿には、男中心のハリウッドで、リアルで硬派な男性アクション映画だけを撮り続けるビグロー自身が重なってくる。  そしてクライマックス。観客はビン・ラディン襲撃を体験する。同居している妻子を傷つけずに、ビン・ラディンだけを仕留めなければ。さらに、パキスタン政府に気づかれる前に脱出するタイムリミットが迫る。まさにホワイトナックル(握りしめた拳の関節が白くなる)緊迫感で批評家から絶賛され、ビグローとボールは『ハート・ロッカー』に続き、本作でアカデミー賞に輝くだろう……と言われていた。  それに水を差したのは、配給会社宛にジョン・マケイン(共和党)、ダイアン・ファインスタイン、カール・レヴィン(共に民主党)が連名で出した抗議文だ。『ゼロ・ダーク・サーティ』は事実を歪曲してCIAによる拷問を正当化しているという。  どの部分が問題なのか。『ゼロ・ダーク・サーティ』は04年、CIA局員ダンがアマールというアルカイダのテロリストを拷問するシーンから始まる。アメリカの法律は拷問を禁じているため、シリアやエジプトなど親米独裁政権の国の秘密基地で行われた。このやり方は当時のブッシュ大統領の承認を得ている。  ダンはアマールを水責めにする。顔にタオルをかけ、水を注ぐ。これはゴダールの映画『気狂いピエロ』にも登場する拷問だ。死ぬことはないが、死に近い恐怖を与えられる。こうした拷問を見たマヤは最初、嘔吐するが、だんだん自ら拷問を指揮するようになる。  CIAが欲しいのは、ビン・ラディンのクーリエ(連絡係)の名前。拷問の果てに、アマールは、連絡係の名前を漏らす。  しかし、実際は、CIAが連絡係の名を聞き出す際、水責めを使わなかったという(09年のオバマ政権以降、拷問は使われていない)。「『ゼロ・ダーク・サーティ』は、拷問が有効だという間違ったメッセージを観客に伝える」とマケインらは批判する。拷問された者は、苦痛から逃れようと、尋問者が求める答えをでっち上げる。イラクが9・11テロの黒幕という誤情報も拷問で得られたものだった。その結果、間違ったイラク攻撃で10万人以上が死んだ。  マケイン自身、ベトナム戦争時に捕虜となり、約6年間も拷問された。だからブッシュ政権がテロリストを拷問した時も「アメリカの正義がなくなる」と激しく反対した。  ただ、連絡係の名の入手に拷問を使わなかったという事実は、『ゼロ・ダーク・サーティ』撮影後に初めて判明した。また、この映画から観客が感じるのは、拷問するCIAへの賛辞ではなく、凄まじい脱力感である。世界一の大国が国を挙げて、たったひとりの男を10年も追い回し、卑怯で不法な暗殺によってやっと仕留めたものの、それまでに何十万もの命が無駄に失われ、暴力に暴力で対抗する間にアメリカは正義も威信も失った。その損失は、ビン・ラディンひとりを殺したところで何も戻ってこない。  すべてが終わった後、主人公マヤは「これからどこに行く?」と尋ねられて何も答えられない。筆者はサム・ペキンパー監督の『わらの犬』を思い出した。平和主義者の数学者(ダスティン・ホフマン)がアメリカの暴力を嫌って、スコットランドの田舎に引っ越す。しかし、田舎の素朴な人々は都会以上に暴力的で、ホフマンに襲いかかる。彼はあらゆる手段を使って反撃し、敵を皆殺しにするが、彼の手は血に塗れた。「帰り道はわかるか?」と尋ねられたホフマンはつぶやく。「わからない」と。 まちやま・ともひろ サンフランシスコ郊外在住。『〈映画の見方〉がわかる本』(洋泉社)など著書多数。TOKYO MXテレビ(金曜日23時半~)にて、『松嶋 ×町山 未公開映画を観るTV』が放送中。 「サイゾーpremium」ではあらゆる識者人たちによる連載が満載です。】"小田嶋隆の友達リクエストの時代「社会に出た人間は新しい友だちを作ることができない!? 友だちとは"学校"の副産物なのだ」町田康の続・関東戎夷焼煮袋「お好み焼きの王である豚玉 焼きそばのせお好み焼き・モダン焼 "モダン"が示す大阪人の魂」法社会学者・河合幹雄の法痴国家ニッポン「尼崎事件に見る普遍性と現代性」
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町山智浩氏に聞く“日本人の知らないアメリカ”

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町山氏
 サイゾー本誌に連載中の「映画でわかる アメリカがわかる」でもおなじみの、米カリフォルニア州バークレー在住のコラムニスト兼映画評論家・町山智浩氏。今秋同氏は、『99%対1% アメリカ格差ウォーズ』(講談社)、『教科書に載ってないUSA語録』(文藝春秋)、『アメリカ人の半分はニューヨークの場所を知らない』(文春文庫、08年発刊の単行本の文庫化)という、すべて“日本人の知らないアメリカ”がテーマの単著を3冊連続で発刊した。新聞やテレビ、ウェブではわからない超大国の素顔を現地在住者の目線でレポートする町山氏に、アメリカの現在、そして11月6日に控えたアメリカ大統領選挙の展望を聞いた。 ──『教科書に載ってないUSA語録』は、2009年~12年にかけて、町山さんが日常生活やテレビで耳にしたはやり言葉やキャッチフレーズでアメリカの社会や政治を読み解くコラム集ですが、文字通り日本人の知らない「アメリカ語」だらけですね。 町山智浩(以下、町山) アメリカ人も知らない言葉もありますよ。毎年たくさんの新語が生まれて、意味もどんどん変わっていくから、誰もついていけないんです。普通に子どもと会話しててもわからない言葉があるくらい。英語って、日本語より造語をつくりやすい言語なんですよね。 ──「Eastwooding」(クリント・イーストウッドする)とか、うまいこと言いますよね。 町山 そうそう。「ing」をつければなんでも動詞化しちゃうし、「フレネミー」(friend+enemy=frenemy:友達ぶった敵)とか「チナメリカ」(China+America=Chinamerica:中国とアメリカの運命共同体)とか、2つの言葉をくっつけたり。インターネット時代になると、文字を打つのが面倒だから略語も使うじゃないですか。 ──「lol」(lough out loud:大爆笑)とかですね。 町山 「lol」は日本語の「ワロタ」や「w」とまったく同じ。だからすごく似てる部分もあって、一番おかしかったのは「トロール」(troll:インターネット上の「釣り」)。アメリカ人も「I'm trolling(それ釣りだから)」って書き込みしてるから、なんでここまで一緒なんだろうって(笑)。 ──そういったはやり言葉だけでなく、政治家の言葉もたくさん掲載されてますね。日本でも政治家の失言は叩かれますが、アメリカもそういうところは敏感ですか? 町山 ええ。というかむしろ、アメリカの「インターネットミーム」(ネット上で広がるネタ)は日本の比ではないです。失言からわずか数分以内にツイッターを埋め尽くさんばかりに拡散するし、失言をもとにしたコラ画像やMAD動画も大量に作られます。最近は特に、世間が失言で大騒ぎしすぎなんですよね。でも逆に、政治家の言葉は、キャッチフレーズになった場合は大きな力を持つんです。 ──オバマ大統領の「Hope」や「Change」みたいに。 町山 そのワンフレーズで国が動いちゃう。日本でもかつて「小泉劇場」なんてのがありましたけど、アメリカはもっと極端。ワンフレーズ・ポリティクスの国だから、この本でも政治ネタが非常に多くなってるんです。 ──お話を伺う限り、ネタには困らない感じだったんですね。 町山 ネタよりもオチで苦労しましたね。僕は、コラムってオチがなきゃいけないと思ってて、最後で笑えない原稿になったときはすごい罪悪感が……。どうしてもいいオチが浮かばないときは、娘に原稿を見せて考えてもらったり、ツイッターで「オチがなくて苦しんでまーす」ってつぶやいてみたり。 ──そうやって誰かのオチが採用されたケースもあるんですか? 町山 ええとね、かみさんが考えたオチは使わせてもらいました。ペッパー・スプレー(Pepper spray)っていうトウガラシの辛味成分を噴射するスプレーが問題になってるっていう話で。 ──あのオチは奥様の案だったんですか!(気になる方は、お手に取ってご確認を) 町山 あと、オチとは関係ないんですけど、文章だけだとどうしても発言者の雰囲気やおかしさが伝わらないところもあって、そこは澤井健さんのイラストにずいぶん助けられました。 ■「貧乏人に税金を使うな!」vs「金持ちに課税しろ!」 ──『USA語録』は時に下世話な笑えるコラム集ですが、ほぼ同時期に書かれた『99%対1% アメリカ格差ウォーズ』は、よりジャーナリスティックにアメリカ社会に切り込んでらっしゃいますね。 町山 『格差ウォーズ』の取材ではスマホを持ち歩いて、Ustで同時中継ルポみたいなことをしてたんですよ。証拠を残しておこうと思って。でも、いかんせん時差の問題で日本では見てくれる人が少なくて、「これは意味がねえ!」って途中でやめちゃいましたけど。 ──そういった現場感は本からも伝わってきます。書名の『99%対1%』は、上位1%の大金持ちがアメリカ全体の富の4割近くを独占している事態(原因はブッシュ政権時代の富裕層への減税)を表しているわけですが、象徴的なのは「ティーパーティー」と「ウォール街を占拠せよ」という2つの運動ですね。 町山 ティーパーティーの参加者は主にオバマの医療保険改革(「オバマケア」と揶揄される)に反対する人たち。大半は50代以上の白人で、だいたい襟のある服を着てるんですよ。一方で、アメリカの金融界に抗議してウォール街を占拠した人たちは、ほとんどが若者で人種もばらばら。格好はボロボロのジーンズにTシャツとかで、ピアス率が異常に高い。 ──そして、金持ちの白人は「貧乏人の医療保険に税金を使うな!」とアジり、貧乏な若者たちは「Tax the Rich(金持ちに課税を)」というプラカードを掲げていると。 町山 金持ちが気にしてるのは年金と高齢者用の医療保険なんですけど、どちらも破綻しかかってるんです。なのに、政府は貧乏な人たちの医療保険などの福祉にお金を回そうとしてる。だから「そんなことしたらオレたちの取り分が減るだろ!」「がんばって働いた見返りを待ってたのに、話が違うぞ!」と怒ってるんです。でも、若い子たちからすれば、最初から働き口もないひどい状態だから「せめてスタート地点に立たせてくれ!」と。彼らの多くは失業者ですからね。ウォール街を占拠している人たちに「なんで来たの?」ってインタビューしたら「職がないから」ってすごいストレートに答えてくれて。 ──そんな困った国のリーダーを決める大統領選挙が、来る11月6日に行われるわけですが、日本ではあんまり話題になってないんですよね。 町山 一番問題なのは、大統領選でいろんな政策論争が交わされてますけど、そこで対日政策が一切争点になっていないこと。アメリカにおける日本の経済的な存在感はゼロに近くなってるんです。 ──そういう理由なんですね。てっきり、日本がアメリカに興味をなくしてしまっているだけなのかと。 町山 もちろんそれもあると思います。どっちもどっちなんですよね。日本の雑誌も中国の記事ばっかりでしょ? アメリカでも「タイム」や「ニューズウィーク」は毎回中国とインドですよ。この両国はいま中流層が拡大しつつある過程で、彼らはいずれ巨大な消費層になります。日本とアメリカがなぜ大国になったかというと、消費力があったから。国力というのは生産力だけじゃなくて消費力=中流層の人口も重要。その点で中国とインドのポテンシャルは計り知れないから、これはヤバい。 ──逆にいえば、いま日本とアメリカが弱っているのは、格差が広がって中流層が崩壊しているからだと。 町山 中流がいない、一握りの金持ちとたくさんの貧乏人で構成される国のことは「第三世界」といいますからね。だから、いまやらなきゃいけないのは格差の是正なんです。 ■フロリダ州とオハイオ州を制した者が勝つ ──今回の大統領選は、「新自由主義」路線の共和党ロムニー候補 vs.「富の再分配」を標榜する民主党オバマ大統領ということになりますね。 町山 ロムニーのは、金持ちがもっと金持ちになればトリクルダウン(滴り落ちる)する、つまり貧乏人もおこぼれに与れるという理論だけど、それって科学的な根拠がないし、すでにブッシュ政権で失敗してます。一方のオバマは、大金持ちに課税して財源を得ようとしてるけど、議会で共和党に反対されて、まだ一度も課税法案を通せていない。 ──町山さんは、どちらが勝つと予想されます? 町山 オバマでしょうね。実はアメリカ大統領選って、フロリダ州とオハイオ州を制すれば勝つんです。アメリカでは共和党が強い州と、民主党が強い州がはっきりしているんですけど、どちらが勝つかわからない激戦州というのがいくつかあるんです。 ──共和党が強い州では、民主党の候補は何をしても勝てないわけですね。その逆もしかりで、結果として、その激戦州での選挙戦がカギを握る。つまり一握りの州の結果が勝敗を左右してしまうと。 町山 中でもフロリダとオハイオは、歴史的に見ても非常に影響力が大きい。まず、フロリダで票を動かすのは引退したユダヤ系の老人たち。フロリダって、州の政策として高齢者の税金を優遇したりして老人を呼び込んでるんです。彼らがニューヨークなど他の州で稼いできたお金をフロリダで使わせるためにね。で、この老人たちの関心事は何かというと、自分たちの年金と医療保険だけ。だから、そこだけ気をつけて戦えばいいんです。 ──有権者がユダヤ人=ユダヤ教徒ということは、共和党のロムニーは「福音派」(プロテスタント系のキリスト教右派。共和党の支持基盤でもある)というカードを切れませんね。 町山 フロリダはキューバ系の移民も多いんですけど、彼らはとにかく「共産主義が嫌い!」っていう思想だけ。あとね、ロムニーは大失言やっちゃったんですよ。アメリカ国民の47%は所得税を払ってないんですけど、彼は「所得税払わないやつらのことなんかどうでもいい」って言っちゃった。この47%にフロリダの老人は全員含まれるんですよ、所得がないから。 ──それは痛いですね。一方のオハイオは、どういう州なんですか? 町山 オハイオはもともと工業地帯で、東欧とかロシア系、あとイタリア系やアイルランド系の移民労働者が多い。彼らはプロテスタントではなくロシア正教やカトリックだから、やっぱり共和党にとっては戦いにくい。そもそもロムニーはモルモン教徒だから、キリスト教徒の支持を得にくいんです。その点、オバマはクリスチャンだからまだ有利なんですね。 ──それにしても、たった2州が世界のリーダーを決定するって、とんでもない話ですね。 町山 そこに関しては、最近はアメリカ人も「国の運命を決めるのが、ド田舎の労働者と年寄りでいいのか!」って怒ってるんですど、どうしようもない。 ──選挙のシステム上、重要な州である以上、そこに媚びるしかないんですね。 町山 ところがロムニーは、オハイオに対してもやらかしてるんです。オバマが09年に、経営破綻したGM(ゼネラルモーターズ)に公的資金を投入したとき、ロムニーは「自己責任で倒産させろ」って反対しちゃったの。結果的にGMは再生して自動車業界は救われました。で、オハイオには自動車工場もたくさんあるんですよ。大統領選に出るつもりだったら、絶対に言っちゃいけないことだった。 ──『USA語録』『格差ウォーズ』共に、失言製造機のサラ・ペイリン女史など共和党の議員が出てきますが、ロクな人がいない……。 町山 日本よりはマシですけどね(笑)。 ■アメリカ、中国、インドが三位一体で世界を支配!? ──では、今後アメリカはどこへ向かうのでしょう? 町山 いま中西部と南部では産業が崩壊しちゃったからスキルもないし、キリスト教原理主義だから高等教育を拒否して低教養な人たちが急増してるんですけど、彼らのような、「市民」として機能しない人たちをどうするのか。放っておくわけにもいかないから、アメリカはこれから大変な重荷を背負うことになります。 ──日本も、ここ20年くらいで就職し損なった人たちがたくさんいますから、同質の問題を抱えていますね。 町山 加えて、いまアメリカの一流大学の学生の半分くらいは、中国やインド系のアメリカ人もしくは留学生に占められつつあります。だからシティバンクとかアドビとかぺプシとか大企業のCEOにもインド系が増えて来ました。逆に白人のエリートは減っています。 ──学費が高すぎて大学に行けないアメリカ白人が増えている一方で、お金持ちの中国人やインド人がどんどん入ってくると。 町山 アメリカの中高生のレベルは先進国でも最低レベルですが、大学は世界一なんです。世界中のエリートがアメリカで学ぶから、、今後もアメリカは世界の「知的覇権」みたいなものを維持していくでしょう。ただ、中国とインド系のアメリカ人がアメリカの経済だけでなく、政治に加わるとどうなるのか。あるいは留学生たちが祖国に帰ってからどうするのか。おそらくアメリカで教育を受けた人たちはエリートになるでしょうから、中国もインドも変わらざるを得ないでしょう。当然、アメリカと両国との関係性も変わっていって、米中印の三位一体で世界を支配していくんじゃないですか。 ──そこで日本は……。 町山 仲間に入れてもらえないでしょうね。日本からの留学生は激減していますし、政治家が英語できない国だし。 ──ならば、この『USA語録』で英語の勉強を……。 町山 「まえがき」にも書きましたけど、まったく役に立たないどころか、うっかり日常で使うと銃で撃たれちゃうようなヒドい言葉も載ってますから(笑)。 (取材・文=須藤輝) ●まちやま・ともひろ 1962年、東京都生まれ。早稲田大学法学部卒。編集者として雑誌「映画秘宝」(洋泉社)創刊後に渡米。コラムニスト、映画評論家として「週刊文春」「ニューズウィーク日本版WEB」「クーリエ・ジャポン」「映画秘宝」などに連載を持つ。TOKYO MXTV『松嶋×町山 未公開映画を観るTV』、TBSラジオ『たまむすび』出演中。著書に『〈映画の見方〉がわかる本』(洋泉社)、『99%対1% アメリカ格差ウォーズ』(講談社)、『教科書に載ってないUSA語録』(文藝春秋)、『アメリカ人の半分はニューヨークの場所を知らない』(文春文庫)など。

命令ならばレイプまがいも権威への従属が招く暴挙

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『コンプライアンス』 ある日、田舎のファストフード店に警察を名乗る男から一本の電話が入った。警官は、女性店員に窃盗の疑いがかかっていると言い、上司に身体検査を命じる。しかし、この電話はアメリカで10年にもわたって起こっていた「身体検査電話事件」のものだった……。 監督/クレイグ・ゾベル 出演/アン・ダウド、ドリーマ・ウォーカーほか(日本での公開は未定) 「警察官のスコットです」  2004年4月、人口1万2000人の田舎町、ケンタッキー州ワシントン・マウンテンのマクドナルドに警察から電話がかかってきた。 「お宅の店員に財布を盗まれたという人がいるんですけどね」  副店長のドナ・ジーン・サマーズ(51歳・女性)は聞き返した。 「どんな店員ですか?」 「レジにいた、若い女性の……」 「ルイーズですか?」 「そうそう、そのルイーズが、カウンターに置かれた財布を盗んだと」  そんな馬鹿な、とサマーズは思った。ルイーズはまだ18歳になったばかりの女子高生。時給600円で真面目に働いてきた女の子なのに。 「警察に協力してくれ。君が私の代わりに、彼女を身体検査するんだ」 『コンプライアンス(法令順守)』は、アメリカで実際に起こった、この「身体検査電話事件」を再現した映画だ。 「私、知りません」と否定するルイーズを、サマーズは裏の倉庫に連れて行き、ドアを閉めた。ルイーズの制服を脱がし、服の中を調べたが何もない。 「下着はどうした?」警官スコットが電話の向こうで尋ねる。「協力しないと、あなたもルイーズと共犯と見なして逮捕されますよ」  サマーズはルイーズの下着を脱がせ、代わりに店のエプロンを着せた。 「お巡りさん、ルイーズはどこにもお金を隠してません」 「いや。女性には隠せるところがあるだろう。そこを探せ」  この身体検査の一部始終は店内の監視カメラに記録されており、映画『コンプライアンス』は、店名、個人名などを変更しただけで、この事件を忠実に再現している。  警官と称する電話による身体検査事件は、95年から全米各地のファストフード店で起こっていた。  ルイーズは泣き始めた。サマーズはスコットに「これ以上できません。お店も忙しいし」と命令を拒否し始めた。するとスコットは「あなたは結婚してますか?」と言い出した。「いえ、でも、来月結婚する予定です」 「では、その婚約者を呼びなさい」  今度は、サマーズに呼び出された婚約者ウォルター・ニックスがルイーズの検査をすることになった。「彼女はドラッグをやっているかもしれない」と、スコットは言う。「息を嗅ぐため、彼女にキスしろ」彼は言われた通りにした。次にスコットは、ルイーズにニックスのパンツを脱がせてアヌスに指を入れるよう命じた。「従わないなら、ニックスに殴らせるぞ」と脅されて、彼女は従った。  この事件で驚くのは、警官と称する電話に命じられた人々が、泣き叫ぶ女の子に対し、簡単にレイプまがいの行為をしてしまうことだ。04年5月、ファストフード店のコックは電話で指示されるまま、16歳のウェイトレスにオーラル・セックスを強要した。  その理由を説明してくれるのは「ミルグラム実験」だろう。61年、イエール大学の心理学者スタンリー・ミルグラム教授は、ある実験の手伝いを募集した。問題に誤答した被験者に罰として電気ショックを与える仕事だ。回答者が間違えると15ボルトずつ電圧を上げていく。電気が流される度に回答者は悲鳴を上げたが、これは演技で、本当に実験されていたのは「拷問者」だった。驚くべきことに、被験者40人中25人が最大の電圧まで上げた。「これは実験だ」「君に責任はない」と言われると、人はどこまでも残酷になれる。  ユダヤ人を大量に拷問虐殺したナチの士官や兵士たちも、冷酷な怪物ではなく、凡庸な小市民ばかりだった。権威がお墨付きを与えると、人は自分の秘めたる欲望を解放してしまう。戦争や独裁政権下の暴虐の原因はそこにある。それを確かめるため、ミルグラム博士はこの実験を行った。犯人は、この実験を知っていたと推測されている。  次にスコットは、店の掃除夫を呼ばせた。しかし、彼は命令を拒否した。「これは間違っている。彼女に服を着せてやれ」ルイーズは2時間以上の恥辱から解放された。  電話主探しが始まった。いたずら電話はプリペイドカードでかけられていて、追跡は不可能だった。しかし、カードの販売店が判明。警察が店に張り込み、04年6月、ついに犯人を逮捕した。デヴィッド・R・スチュワート。警官志望の看守だった。  ルイーズは、サマーズとニックスを性的暴行で訴えた。彼らは「警官に命令されたと思ったから罪はない」と主張している。コンプライアンス(従順)という無責任。あなたは自分の意志で拒否できるか? まちやま・ともひろ サンフランシスコ郊外在住。『〈映画の見方〉がわかる本』(洋泉社)など著書多数。TOKYO MXテレビ(金曜日23時半~)にて、『松嶋×町山 未公開映画を観るTV』が放送中。 【「サイゾーpremium」では他にも強力な識者陣が連載中!】【法社会学者・河合幹雄】“役に立たない”監視カメラをそれでも警察が推進したいワケ【宇野常寛】「平家にあらずんば人にあらず」【高須基仁】原発問題に底が抜けている感覚を覚えるこの状況に団塊の世代はなぜ立ち上がらないのだ!?
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おバカな独裁者が問いかける民主主義

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『ディクテーター 身元不明でニューヨーク』 架空の国ワディヤの独裁者アラジーン(サシャ・バロン・コーエン)は、自国での核開発を疑われ、ニューヨークの国連本部へと召喚される。そこで拉致されて、路頭に迷った彼は、心優しい女性の元で難民として働き始めるのだが……。 監督/ラリー・チャールズ 出演/サシャ・バロン・コーエン、アンナ・ファリス、ベン・キングズレーほか 日本では、9月7日よりTOHOシネマズ六本木ヒルズほか、全国順次公開  今年2月のアカデミー賞授賞式。開場前のレッドカーペットに、勲章をいっぱいつけた軍服を着て、オサマ・ビン・ラディンみたいな長い髭を生やした男が現れた。  独裁者に扮したサシャ・バロン・コーエンだ!  コーエンはイギリス出身のコメディアン。映画『ボラット』でカザフスタン国営テレビのレポーターと偽ってアメリカ各地を取材した。つまり「どっきりカメラ」方式の疑似ドキュメンタリーで、「カザフスタンのテレビなら何を言っても大丈夫さ」と油断したアメリカ人から黒人やユダヤ人差別発言を引き出した(コーエン自身はユダヤ系)。  その次の『ブルーノ』でのコーエンは、オーストリアのゲイのファッション・レポーター。ゲイ嫌いの保守的な南部のハンターに夜這いをかけて殺されそうになったりした。 『ディクテーター(独裁者)』でコーエンが演じるのは、中東の架空の国ワディヤの独裁者アラジーン将軍。『ヒューゴの不思議な発明』に、ギャグを封印して普通の俳優として出演し、アカデミー賞にも出席したコーエンは、レッドカーペットにはカダフィみたいに美女の護衛を2人連れて登場した。 「親愛なる金正日に捧ぐ」  冒頭の献辞で『ディクテーター』は最初の笑いを取る。主人公アラジーンは中東の独裁者だが、どっちかといえば金正日に似ている。独裁者の息子として生まれ、幼い頃からわがまま放題。核兵器の開発をしていると疑われ、国連から召喚され、ニューヨークにやってくる。  アメリカに着くやいなや、アラジーンはアラブ嫌いの男に拉致され、トレードマークの髭を剃られ、身ぐるみを剥がされてニューヨークの路上に放り出される。アラジーンの側近は、一緒に連れてきた影武者をアラジーンに仕立てる。  アラジーンはニューヨークで誰にも頼れない。ワディヤ人も大勢住んでいるが、みんなアラジーンの独裁から逃げてきた難民だ。アラジーンだとバレたら殺される。  彼を救ったのは、ゾーイという優しい女の子。彼女はオーガニック食料品店を切り盛りし、世界中の独裁国家から逃れてきた難民たちに職場を提供し、支援していた。アラジーンも哀れな難民と思われて、そこで働くうちにゾーイと恋に落ちる。 『ディクテーター』を観ると、チャップリンの『独裁者』(1940年)を思い出さずにいられない。チャップリンはヒットラーにそっくりの独裁者ヒンケルと、彼に瓜二つのユダヤ人の床屋の二役を演じた。ユダヤ弾圧をするヒンケルに床屋が間違われて……というコメディ。当時はヒットラーの最盛期で、チャップリンは、ドイツと戦争する気がないアメリカにナチ打倒を促すために、この映画を作った。  ただ、コーエンは『ディクテーター』を「独裁者は悪い。民主主義はいい。アメリカは素晴らしい」などという単純な映画にはしない。アラジーンは自分がしてきた罪に気づいて反省するが、母国から来た核物理学者に独裁を続けろと励まされる(彼は核兵器を作りたいだけ)。 「あんたは最後の独裁者なんだから頑張れ! カダフィも倒れた。金正日も、チェイニー副大統領も! あんたがいなくなったら、言論は自由になり、女性の権利も認められてロクでもないことになるぞ!」  一方、影武者は国連でワディヤの民主化を宣言しようとしていた。それを裏で操るのは、エクソン・モービル、BP、ペトロ・チャイナという石油メジャー。民主化されればワディヤの石油利権が手に入る。世界の巨大企業のベストテンにランクされる彼らがアメリカや中国の政治を動かし、湾岸戦争やイラク戦争を引き起こした。彼らに比べたらアラジーンなんてちっぽけな小悪党だ。  チャップリンの『独裁者』は、ヒンケルに間違われたユダヤ系の床屋がラジオで世界の虐げられた人々を励ます演説をして感動的に終わる。アラジーンも最後に演説をするが、その内容は辛辣だ。 「アメリカでは上位1%の金持ちが富のほとんどを独占し、貧乏な庶民は医療保険もない。国民に選ばれた大統領はウソをついて戦争を起こした。独裁とどっちがマシだ? 民主主義は欠陥だらけのシステムだ。でも……」  その「でも」から後が感動的。ちょっと涙が出たよ。 まちやま・ともひろ サンフランシスコ郊外在住。『〈映画の見方〉がわかる本』(洋泉社)など著書多数。TOKYO MXテレビ(金曜日23時半~)にて、『松嶋×町山 未公開映画を観るTV』が放送中。
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■「サイゾーpremium」とは? 雑誌「サイゾー」のほぼ全記事が、
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アメリカの闇がまざまざと 忘れられた棄民たちヒルビリーの神話

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『ウィンターズ・ボーン』 17歳の少女リーは、貧しい田舎町で、病気の母と幼い妹弟と暮らしていた。しかし、そんな中、自宅を保釈金の担保にしたまま失踪した父を見つけなければ、自宅が差し押さえられてしまうことが発覚。彼女は父を探し始めるのだが......。 監督/デブラ・グラニック 出演/ジェニファー・ローレンス、ジョン・ホークスほか 日本では、10月29日より公開  映画『ウィンターズ・ボーン』のヒロイン、リー・ドーリー(ジェニファー・ローレンス)は、ミズーリのオザーク山地に住む17歳の少女。父は覚せい剤の密造で逮捕され、母は精神を病んでいて何もできない。幼い弟と妹の面倒はリーが看るしかない。  ところが父親は保釈されてすぐに行方不明になった。父が出頭しないと保釈金のカタとして家が差し押さえられる。家族を抱えたリーは父を探すため、オザークの闇社会に入り込んでいく。  リーのような白人たちをヒルビリーと呼ぶ。ヒルビリーが住むのは、テネシーからミズーリ、アーカンソーにかけて東西に広がるオザーク山地と、東側のジョージアからヴァージニア、ニューヨークにかけて続くアパラチア山地の2カ所。ヒル(丘陵地)に住むビリー(スコットランド人)という名前通り、彼らの多くがスコットランド系。  祖先は最初、アイルランドに入植したが、19世紀に起こったじゃがいも飢饉で難民としてアメリカ南部に渡ってきた。だが、農耕可能な土地はすでにイギリス系に独占されていたので、小作人になるのを嫌った人々は山奥に入った。  山奥は斜面と岩だらけなので、麦畑や牧畜には適さない。代わりにトウモロコシを栽培し、豚や鶏を飼ったが、規模を拡大することはできなかった。今でもアパラチアやオザークはアメリカで最も貧しい地域だ。  その代わり、ヒルビリーたちはトウモロコシで酒を密造した。最近では風邪薬を煮沸して覚せい剤を精製するようになった。リーの父もまたそうだ。  その父も行方をくらまし、収入を失ったリーの家族は冬を越せるのか。リーは、銃でリスを狩って、それでシチューを作って弟たちに食べさせる。リーを演じるジェニファー・ローレンスは、実際にリスをナイフでさばいた。しかしながら、この21世紀のアメリカで、リスを食べて暮らす白人がいるとは!
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愛の三日間には何があった!? レイプか愛の逃避行か 世間を騒がす女の半生

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『タブロイド』 1977年にイギリスで起こった「モルモン教徒男性誘拐手錠レイプ事件」の容疑者であるジョイス・マッキニーのインタビューと、当時の資料映像によって構成されたドキュメンタリー。彼女の劇的な半生を、ドキュメンタリー監督エロール・モリスが追った。 監督/エロール・モリス 出演/ジョイス・マッキニーほか 日本での公開は未定  2008年、韓国のバイオテック企業、RNLバイオ社がクローン犬を作って話題になった。依頼人のバーナン・マッキニーは、凶暴な犬に襲われて瀕死の重傷を負った。その時、ブーガーという彼女の愛犬が、身を挺して彼女を守った。その忠犬ブーガーがガンで余命わずかと宣告されたので、彼女はブーガーのクローンを作ろうとしたのだ。  ブーガーの細胞から、ブーガーと同じ遺伝子の5匹の子犬が生まれた。子犬を抱いて喜ぶマッキニーの写真は世界を揺るがせた。つまり、人間のクローンも技術的に可能な時代になったのだ。これは神の領域を冒したのでは? クローンの人権はどうなる? 法律による規制の必要は?  だが、イギリスでの反応は違った。 「このマッキニーという女性、見覚えがある」  その大きなタレ目と大きな口は忘れられなかった。彼女は77年にイギリスのタブロイド紙の一面を毎週のように飾った「モルモン教徒男性誘拐手錠レイプ事件」の「犯人」、ジョイス・マッキニーだったのだ。  ベトナム戦争を"デッチ上げた"マクナマラ国防長官のインタビューを記録した映画『フォッグ・オブ・ウォー』でアカデミー賞に輝いたドキュメンタリー映画作家エロール・モリスの新作『タブロイド』は、このジョイス・マッキニーという奇妙な女性の生涯を追った作品だ。  77年、イギリスで布教活動をしていた19歳のモルモン教徒カーク・アンダーソンが行方不明になり、4日後に戻ってきた。彼は警察にこう語った。 「私はジョイス・マッキニーという女性に拳銃を突きつけられて誘拐され、田舎のコテージに監禁され、ベッドに手錠で両腕を固定され、3日間にわたりレイプされ続けていた」  彼はモルモン教の教えから、結婚まで童貞を守るつもりだったという。  警察が逮捕したジョイスを見て、イギリス人は驚いた。ジョイスは、ブロンドのキュートでセクシーな女性だった。ミスコンの常連で、ミス・ワイオミングになったこともある。
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カウボーイ外交は何を生み出した? 暴力的支配の果てに馬が映し出す己の姿

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『BUCK』 伝説の調教師であり、馬の心を開くプロ"ホース・ウィスパラー"であるバック・ブラナマンの半生をたどるドキュメンタリー映画。幼少時の虐待をへた彼が、どのようにして馬と心を通じ合わせているのかを丁寧に追っている。
監督/シンディ・ミール 出演/バック・ブラナマン、ロバート・レッドフォードほか 日本での公開は未定。
 ロバート・レッドフォード監督・主演の『モンタナの風に抱かれて』(98年)という映画がある。乗馬を愛する13歳の少女が、馬と一緒に交通事故に巻き込まれる。少女は片足を切断し、心を閉じてしまう。馬も事故のショックで制御不能な暴れ馬となる。少女の親は、馬の薬殺を検討するが、そんなことをしたら娘の心も永遠に死んでしまうだろう。  悩んだ親は、ホース・ウィスパラーという職業の存在を知る。馬とコミュニケーションし、その心を開くプロだ。彼の住むモンタナで馬の治療が始まる。それは少女を癒やす日々でもあった。  この映画でロバート・レッドフォードの顧問を務めた本物のホース・ウィスパラー、バック・ブラナマンを追った『BUCK』というドキュメンタリー映画が作られた。BUCKとは暴れ馬が乗り手を振り落とすことをいう。やたらとBUCKしていた馬がブラナマンにかかると、大人しく人を乗せてギャロップするようになることから、このあだ名がついた。ワイオミングに住むバックは、暴れ馬を癒やすためなら、全米どこにでも出張する。  昔から、ムスタング(野生馬)の調教はカウボーイの仕事のひとつだった。野生馬の鞍付けを「ブレイク」という。ブレイクを記録した古いフィルムを見ると、抗う馬をロープで引き回し、絶えず鞭で叩いている。それはまさに馬の心をブレイクする(へし折る)行為だ。  しかし、バックは、ロープも鞭も使わない。毛布で馬の背中を温め、マッサージでリラックスさせ、鼻をこすりつけて馬と同じやり方でコミュニケーションする。  そして、小さな旗がついた棒を2本使って方向を誘導する。手綱を使うときも、バックは決して引っ張らない。行きたい方向、曲がりたい方向に一瞬力を入れるだけだ。
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ウォール街の保安官を"ハメた"のは誰だ!?

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『クライアント9/エリオット・スピッツァーの興亡』  圧倒的な票差により、07年のニューヨーク州知事に就任したエリオット・スピッツァーをめぐる政治ドキュメンタリー。あまりの人気ぶりに、一時は「米国大統領に」との声も聞かれたスピッツァーだが、高級デートクラブの上客だったことがニューヨーク・タイムズで報じられた。州知事就任前の州司法長官時代、多くの売春組織を摘発したという彼の経歴が、件のスクープにつながったと見る向きもあるが......。 監督/アレックス・ギブニー 日本での公開は未定。

 2008年3月10日、ニューヨーク・タイムズ紙が、FBIによる高級デートクラブ摘発を報じた。裁判所に提出された書類によると、首都ワシントンのホテルでコールガールと会っていたクライアント(顧客)ナンバー9は、ニューヨーク州知事エリオット・スピッツァーだった。FBIは電話盗聴でその事実を確認した。  スピッツァーはニューヨーク州の司法長官として徹底的に大企業と戦ったヒーローだった。株の違法捜査や独禁法違反を取り締まり、NYSE(ニューヨーク証券取引所)の会長すら収賄で起訴し、「ウォール街の保安官」とたたえられた。ソニーがラジオ局に払っていたペイオーラ(賄賂)を摘発して莫大な罰金を払わせたこともある。  その勢いでスピッツァーは州知事に立候補し、史上最高の得票数で当選。腐敗しきった州政府の浄化を始め、州民の圧倒的支持を集めた。「ユダヤ系で初の大統領になるかも」とすら言われた。  その英雄がコールガールにはまっていたとバレた。成人男女が同意の上で金銭を介在したセックスをすること自体を罰する法律はない。しかしスピッツァーは州司法長官時代にウォール街の高級コールガール組織を取り締まったことがある。「偽善者め」。州民の信頼は既に地に落ちた。スピッツァーは州知事辞任を表明した。記者会見では、スピッツァーの横に奥さんが般若の形相で立っていた。  しかし、スピッツァーのウォール街取り締まりは正しかった。それは08年の金融崩壊で証明された。彼がその後も政治家として活躍していたら、世の中はプラスになっていたかもしれない。 「今回のスピッツァー追及は政治的陰謀だ」。クリントン大統領の選挙ブレーンだったジム・カーヴィルは、スピッツァーは敵を増やしすぎたから標的にされたのだ、と論評した。  確かにおかしい。国家的犯罪を担当するFBIがなぜ、小さなデートクラブをわざわざ捜査したのか? 顧客の中で、なぜスピッツァーだけを盗聴し、特定したのか? そもそも誰がその書類をニューヨーク・タイムズにリークしたのか?
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アメリカを賢くする! スーパーマンの狙い

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■『スーパーマンを待ちながら』  荒れた教室、少ない教育予算、やる気のない生徒と教師たち......。優秀な留学生が各国から集まるため、高等教育はピカイチだが、国民の教育水準は先進国最低クラスだというアメリカでは、現在、政治レベルで教育の見直しが議論されている。だが、拡大する貧困層には、子どもの教育にかまっている余裕はない。結果、負のスパイラルへと陥っていくが、そこで注目を集めたのが独自の教育カリキュラムだ──。アカデミー賞受賞作『不都合な真実』の監督が教育問題に斬り込んだ意欲作。 監督/デイヴィス・グッゲンハイム 日本での公開は未定。  『スーパーマンを待ちながら』──このドキュメンタリー映画の奇妙なタイトルは、ニューヨークの黒人街ハーレムで育った教師ジョフリー・カナダの言葉から取られている。 「幼い頃、人々が困っていればスーパーマンが飛んで来て解決してくれると思っていた。スーパーマンは実在しないと知った時はショックだったよ」  彼がスーパーマンを必要としているのは、公立学校の改善のためだ。 『スーパーマンを待ちながら』の監督はデイヴィス・グッゲンハイム。ゴア副大統領が地球温暖化の危機を訴える『不都合な真実』でアカデミー賞を受賞したグッゲンハイムは、『不都合な真実』を製作したパーティシパント・メディアから次回作に公立学校問題を扱ったらどうかと持ちかけられた。  先進国30カ国中、アメリカの子どもの算数の能力は25位、理科の点数は21位。アメリカの中学生の69%の英語読解力は平均以下。大学のレベルは今も世界一だが、アメリカ人の大学進学率は下がり続け、一流大学の留学生の比率は増える一方。どうして、こんなに勉強ができないのか? 原因は公立学校にあるといわれてきた。アメリカの子どもの89%が公立学校に通っている。 「うちの2人の娘は月謝の高い私立に通っている」。監督は言う。彼の妻はハリウッド女優エリザベス・シューだ。 「学校への送迎の途中、3つの公立学校の前を通過する。罪悪感があった。金持ちでなければ公立に行くしかないから」そしてグッゲンハイムは取材を始める。意外な事実が暴かれていく。まず、アメリカ政府は公教育の改善に尽力してきたということ。70年代からの約40年間に生徒一人当たりに費やす予算は123%増え、その額は今や先進国中第5位。また教師ひとりが受け持つ生徒の数は平均16人で、日本に比べてはるかに少ない。それなのに学力低下は止まらない。  筆者はかつて、アメリカで最も教育レベルの低い地域に住んでいた。オークランドという同国で4番目に殺人の多い街で、黒人とヒスパニックの貧困層のスラムがある。そういう家庭では親が子どもの勉強を見る学力も余裕もない。低学力と低収入は次世代に引き継がれる。その悪循環から子どもたちを救いだすのが公立学校の使命だ。  グッゲンハイムは、教師の質の低下はテニュア(終身在職権)にあると見る。大学では教育の自主独立を守るため、教授はテニュアで守られている。教員組合の力で、小学校の教師にもテニュアがある。一般企業では実績によって給与が上下し、場合によっては解雇されるが、教師にはその心配がない。これでは良くなるはずがない。 「プレミアサイゾー」では現在、限定メモボックスプレゼントキャンペーン中!

町山智浩、松嶋尚美が推す! タブー知らずの"日本未公開"ドキュメンタリー映画

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 11月12日、日本未公開の映画を紹介するTOKYO MXの人気番組『松嶋×町山 未公開映画を観るTV』がイベントを開催した。同番組では、「松嶋×町山 未公開映画祭」と題して、11月17日から同番組で紹介された未公開映画が期間限定でVOD(ビデオ・オン・デマンド)にて配信中だが、そこで、番組のナビゲーターであり、月刊「サイゾー」で「映画でわかる アメリカがわかる」を連載中の映画評論家・町山智浩と、番組MCを務めるオセロ・松嶋尚美の両名に未公開映画の魅力を聞いてみた!  「未公開映画祭」でVOD配信されるのは、これまで番組で紹介してきた映画から選りすぐった39本。その中で、町山氏がオススメの作品は、キリスト教福音宣教会のフィッシャー女史が主催する子どものサマーキャンプを追った『ジーザス・キャンプ~アメリカを動かすキリスト教原理主義~』だ。 「子どもたちが宣教師の"教え"に感化されていき、中絶反対を叫んだり、キリスト教を推進したブッシュの立て看板を真剣に拝んでたり......。とにかく異常なんだけど、このキリスト教原原理主義者たちはアメリカ人口の多くを占めていて、選挙や政治に大きな影響を与えているという現実がある。キリスト教原理主義の実態から、アメリカのリアルな社会事情を描き出しています」(町山氏)  松嶋氏は、クレジットカードをテーマにした『マックスト・アウト~カード地獄USA~』を推す。 「カード会社のひどいビジネス手法や、それで払いきれないほどの負債を抱える人を扱ってるんやけど、絶望的な状況の負債者は映画にあまり登場せえへん。なぜかと言えば、死んじゃってるから。日本でもカードが浸透していて、身近なだけに怖かった」(松嶋氏)  ほかにも、30日間マリファナを吸い続けたらどうなるかを試した『スーパー・ハイ・ミー~30日間吸いまくり人体実験~』、ゲイを弾圧する政治家のなかにゲイが存在することを暴いた『クローゼット~ゲイ叩き政治家のゲイを暴け!~』など、配信される映画は日本のドキュメンタリー作品ではタブー視されているテーマが顕著だ。 「日本のドキュメンタリーは問題が起こることに過敏すぎるが、アメリカは言い訳みたいなものをつけません。ナレーションなんかでフォローせず、ただありのままを画で見せていく。撮影サイドの主観を交えない分だけ、リアリティーが増します」(町山氏)  このリアリティーは、ときに既存の概念を吹き飛ばしてしまうという。 「実際、これまで番組で未公開映画を見てきて、アメリカに対する『おしゃれ』とか『カッコイイ』というイメージは変わった。昔はアメリカ人と話すときに緊張したけど、いまは全然平気やもん(笑)」(松嶋氏)  我々の価値観すら変えてしまう衝撃的な未公開映画の数々。日本のありきたりなドキュメンタリーに飽きた向きは、必視です! ●『松嶋×町山 未公開映画を観るTV』 映画評論家の町山智浩がセレクトした日本未公開の映画を、MCを担当するオセロ・松嶋尚美とともに紹介。出演は、町山智浩、オセロ・松嶋尚美。毎週金曜日23:30~24:30(TOKYO MX)放送中。番組HP<http://www.mxtv.co.jp/matsumachi/> ●「松嶋×町山 未公開映画際」 番組で紹介したドキュメンタリー作品から39本を厳選して、11月17日(水)から期間限定でVOD配信。料金は「72時間(2泊3日)/1作品500円」。公式HP <http://www.mikoukai.net/>。
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