かつてはよく目にした性風俗店のギラギラした看板を繁華街で見かけることが少なくなり、それらにとって代わりデリヘルが隆盛の現在。見えにくくなったと言われる風俗であるデリヘルとそこで働く女性たちがどんな生活を送っているのか。そうした問題に、重度身体障がい者に対する射精介助サービスなどを行う一般社団法人「ホワイトハンズ」代表理事の坂爪真吾氏は、福祉の立場からどんな見方をするのか。『性風俗のいびつな現場』(ちくま新書)を出版した同氏に、性風俗の現場や福祉と風俗の関係などについて話を聞いた。

※イメージ画像:『性風俗のいびつな現場 【Kindle版】』(筑摩書房)
――これまでにもなかなかのぞき知れない性風俗の現場や、そこで働く女性たちを追ったルポルタージュが増産されましたし、社会学者をはじめとする論客による議論が90年代から2000年代にかけて盛んでしたね。
坂爪真吾(以下、
坂爪) 90年代からの性風俗についての議論では、売春の合法化や性風俗で働く人たちの尊厳など、風俗を社会的に認めていこうといった動きが盛んだったと記憶しています。
また議論が盛んだったこともさることながら、90年代から00年代初頭までは、電車内での痴漢プレイが楽しめるなどのイメクラや、大型の店舗型風俗店がオープンするなどと、風俗業界自体も熱気に満ち溢れた「黄金時代」でした。
それに対し、現在は、「風俗が死んだあとの世界」ではないかと思いますね。
――それは街の浄化作戦が行われた結果、店舗型風俗店が激減し、デリヘルなどの無店舗型風俗店が増えた世界ということでしょうか?
坂爪 そうです。1998年の風営法改正でデリヘルの営業が合法化され、素人でも自らの住まいを事務所にし、携帯電話を受付電話の番号とし、警察署に届け出さえすれば、わずか数千円ほどでデリヘルを開業できるほど簡単になりました。またその後、00年代に入ってからのいわゆる浄化作戦により、デリヘルの届出数は約1万8000件(2013年時)と、セブンイレブンの店舗とほぼ同数と激増し、素人でも簡単に開業できるようになったことで、以前のような闇社会の人たちだけでなく、表社会の経営手法で風俗業界に参入した経営者たちもいます。
ですが店舗数が激増したことにより、価格競争が激化し、性風俗の世界にもデフレ化の波が押し寄せ、女性が以前に比べるとあまり稼げない商売になり、かつ働く女性たちは大きなリスクに晒されることにもなりました。
――彼女たちが晒されているリスクとは具体的にどんなものでしょうか?
坂爪 今回の本の中でも30分3900円という激安価格のデリヘル「サンキューグループ」で働いていた女性を取材しています。サンキューグループの問題点は何点かありますが、まず一部の店舗では激安店にもかかわらず指名料2000円を払っただけで過激なサービスである「生AF(コンドーム未着用での肛門性交)」をオプションとして提供していたことです。しかしこの過激なサービスなどは表向きで、実際には本番行為が許容されていた店舗もあったようです。女性たちは、ただでさえ激安店のため取り分が少ないので、指名料欲しさに本番行為に手を染めていました。
また店舗に待機部屋を設置するとコストがかかるため、ネットカフェや漫画喫茶を待機部屋として利用していました。取材した女性は、パニック障害を患っており、過去にいじめられた経験があるため、他の女性たちと一緒に待機するよりネットカフェでの待機というサンキューの特徴が魅力的だったようです。
ただ、ネットカフェから客のところへ直接行くとなると、管理するスタッフと顔を合わせる場がなく、女性たちは売上金を事務所のポストに投函するか、自らの財布に保管し、後日スタッフに渡すという杜撰というしかない仕組みになっていました。そのため、財布に保管していた自らの売上金を使い込んでしまうトラブルもあったようで、そうなると「店の取り分がない」と責め、長時間働かせることもあったようです。
また、この女性は悲惨な家庭環境で育ち、19歳から風俗や水商売で働き、ある時ホストクラブへの売掛金をためてしまった。ホストやスカウトと、一部のサンキューがグルとなり、女性は売掛金の返済のためサンキューグループで働くようになったそうです。
つまり、ネットカフェでの待機や売上金をポストに投函させたり、女性自らが保管したりホストクラブへの売掛金返済のために店で働かせたりと、金銭管理が苦手な女性に対し意図的に借金を背負わせる仕組みになっていた。さらに、生本番が常態化していた一部の店舗ではピル(経口避妊薬)を服用させず妊娠し、やむを得ず中絶に至ったケースまであります。

※画像:坂爪真吾氏
――そんな労働環境にもかかわらず彼女たちはなぜ辞めないのでしょうか?
坂爪 まず取材した女性の場合、パニック障害に加え糖尿病を患っており、他の風俗店では面接すら通らない可能性が高い。また、彼女は軽度の知的障害があるように思われました。ですがサンキューならば彼女でも働いてお金を稼ぐことができるんです。
――他にも他店では不採用となるような「デブ・ブス・ババア」を集めた地雷専門店として有名なデリヘル「鶯谷デッドボール」も取材されていますね。
坂爪 取材までの経緯を話すと、デッドボールで働く女性を描いたフジテレビ制作の『刹那を生きる女たち 最後のセーフティーネット』という番組がFNSドキュメンタリー大賞を受賞し、そこからデッドボール総監督が共著者である『なぜ「地雷専門店」は成功したのか?』(東邦出版)が出版され、業界関係者から好意的に評価されていました。しかし、登場する女性を始め、デッドボールに集まってくる女性たちは、知的障害や精神障害を抱えていることは火を見るよりも明らかでした。
私は障害者の性問題に取り組んでいるNPOの代表として、そうしたデッドボールを持ち上げる風潮にまったく同調できなかったので、同書についてホワイトハンズの発行誌で極めて批判的に書評を書いたんです。そうしたところ、総監督自身から一度見に来てくださいと連絡を受けました。
――そのような批判的な立場から実際に訪れてみての感想はどうでしたか?
坂爪 雑居ビルの1室が事務所兼待機部屋になっていて、室内にいる女性は肥満体型の方が多く、年齢は30~40代中心といった感じでした。また女性には無償でヘアセットやメイクを施すヘアメイクアーティストまでいました。
そして、わかったのは実際に地雷女性を求めてくる男性客は少数派だということです。
――ということは普通のデリヘルのような気もします。
坂爪 そうなんです。「地雷専門店」というのは耳目を集めるための看板で、実際は普通の激安デリヘルなんです。いや、むしろ普通の風俗店よりも女性に稼いでもらおうと、専属のヘアメイクアーティストをつけ、獲得指名数に応じて取り分をアップしたり、女性たちのケアをするスタッフを3人雇ったりするなど工夫を凝らしています。また本番行為を求める客がいれば、すぐにスタッフが救出にむかう態勢も整えられていました。
――ここまでの話を聞くと、困難な状況にある女性たちがやむなく風俗に足を踏み入れた姿が思い浮かびます。こうした状況に対し本書ではどのように対処しようと考えられたのでしょうか?
坂爪 これまで多くの現場を描写しただけのルポがありましたが、そういったものに物足りなさを感じていました。私がいまお話したような風俗の現場や、女性たちのインタビューを通して「こんな悲惨な状況がある」と書くだけでは、読者の興味はそそるかもしれませんが解決には至りません。そこで私は、障害緒者のNPO代表という福祉の立場からこそ見える現場の問題点に対し、何かしらの解決策を提示したつもりです。
【後編へ続く】
(取材=本多カツヒロ)
坂爪真吾(さかつめ・しんご)
1981年新潟市生まれ。東京大学文学部卒。一般社団法人ホワイトハンズ代表理事。 2014年社会貢献者表彰、2015年新潟人間力大賞グランプリ受賞。著書に『セックス・ヘルパーの尋常ならざる情熱』(小学館)、『はじめての不倫学』(光文社新書)、『男子の貞操』(ちくま新書)がある。