2015年12月6日、東京・テレビ朝日で『M-1グランプリ2015』の決勝戦が行われた。総勢3,472組が参加したこの大会で見事に優勝を果たしたのは、トレンディエンジェル。前年末の『THE MANZAI 2014』でも準優勝していた彼らが、今大会では敗者復活戦を勝ち抜いて逆転優勝を成し遂げた。 5年ぶりに復活した今回の『M-1』では、従来の形を継承しながらも、さまざまな部分でマイナーチェンジが行われていた。その中で最も注目を集めたのは審査員の顔ぶれが変わったことだ。これまでは、松本人志、島田紳助など、押しも押されもしないお笑い界のレジェンド芸人たちが審査員を務めていた。一方、今年は中川家・礼二、笑い飯・哲夫など、過去の『M-1』で優勝した芸人9人が審査員として名を連ねることになった。 審査員が変わったことで、審査の基準や結果にどういう影響があったのか? 結論から言えば、それほど大きく何かが変わったわけではない。ただ、審査される側の芸人とそれほど大きく芸歴に差があるわけでもなく、似たような立場にある今回の審査員は、これまでの審査員よりも客観性や公平性を強く意識していたように見える。 例えば、番組を盛り上げるために、特に面白いと思った1組の芸人に極端に高い点数を付ける、といったスタンドプレーのようなことをする人はいなかった。それぞれが自分なりの基準で真剣にネタを見て、真面目に評価を下していた。その結果、それぞれが付けた点数の偏りが少なく、僅差で勝負が決まる接戦となっていた。 決勝ファーストステージを勝ち抜いたのは、ジャルジャル、トレンディエンジェル、銀シャリ。この3組が最終決戦に挑むことになった。いずれも、自分たちの漫才の形がはっきりしていて、それを堂々と演じられる技術とセンスを兼ね備えたコンビだ。 ただ、ファーストステージと最終決戦で2本のネタを披露したことで、3組の明暗が分かれた。ジャルジャルと銀シャリは、どこにも隙がないスマートなネタ作りを得意としている。ネタはきっちりした完成品として客の前に提示される。ただ、そのせいで、似たようなテイストのネタを立て続けに2本演じると、「2本目より1本目の方が良かった」などと、それぞれのネタの質の良し悪しに目が行ってしまいがちだ。 一方、トレンディエンジェルはそういうタイプではない。彼らの漫才には圧倒的な軽さと速さがある。自らの頭髪の薄さをネタにした軽いボケを矢継ぎ早に連発して、観客を強引に自分たちの世界に巻き込んでしまう。 そして、よくよく観察してみると、笑いの取り方の種類が豊富だ。若者ウケするキャッチーなボケから、お笑いマニアにウケそうなちょっとひねったボケまで、いろいろなテイストの笑いを1本の漫才に詰め込んでいる。緩急自在のボケを操り、見る者を翻弄しているのだ。実は相当な戦略家なのだが、「Wハゲ」という見た目の強烈さが隠れみのになっているため、こざかしい戦略を感じさせないのも強みだ。 また、決勝に出ていた9組の中で、時事ネタを積極的に取り入れていたのも彼らだけだった。賞レースに向けて何年もかけてネタを作り込むのが当たり前になっている昨今、すぐに古くなって賞味期限切れになりやすい時事ネタを取り入れる若手漫才師はあまり多くはない。トレンディエンジェルは「五郎丸」「トリプルスリー」「爆買い」「ライザップ」など、最近の流行りのキーワードをこれでもかというくらい詰め込んで、現代を生きる観客の心に刺さる漫才を仕上げていた。 最終決戦の審査では、審査員9人中6人がトレンディエンジェルに投票していた。彼らの漫才は観客だけではなく、審査員の気持ちもしっかりとつかんでいた。ジャルジャルや銀シャリの漫才は、いつどこで見ても安定して面白い、磨き抜かれた1つの「作品」だった。ただ、トレンディエンジェルの漫才は、良くも悪くも今この場所でしか楽しめない刹那的なパフォーマンスとなっていた。そこに独自の価値が出ていた。 トレンディエンジェルは、「トレンディ」という芸名の通り、ひたすら今という時代にこだわり、そこに特化したネタを地道に作り続けることで、ついに『M-1』というビッグタイトルを手にした。日本中の視聴者が彼らの漫才には脱毛、いや、脱帽したに違いない。 (文=お笑い評論家・ラリー遠田)テレビ朝日系『M-1グランプリ2015』公式サイトより
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戦術家・トレンディエンジェルを優勝に導いた「Wハゲ」という“隠れみの”
2015年12月6日、東京・テレビ朝日で『M-1グランプリ2015』の決勝戦が行われた。総勢3,472組が参加したこの大会で見事に優勝を果たしたのは、トレンディエンジェル。前年末の『THE MANZAI 2014』でも準優勝していた彼らが、今大会では敗者復活戦を勝ち抜いて逆転優勝を成し遂げた。 5年ぶりに復活した今回の『M-1』では、従来の形を継承しながらも、さまざまな部分でマイナーチェンジが行われていた。その中で最も注目を集めたのは審査員の顔ぶれが変わったことだ。これまでは、松本人志、島田紳助など、押しも押されもしないお笑い界のレジェンド芸人たちが審査員を務めていた。一方、今年は中川家・礼二、笑い飯・哲夫など、過去の『M-1』で優勝した芸人9人が審査員として名を連ねることになった。 審査員が変わったことで、審査の基準や結果にどういう影響があったのか? 結論から言えば、それほど大きく何かが変わったわけではない。ただ、審査される側の芸人とそれほど大きく芸歴に差があるわけでもなく、似たような立場にある今回の審査員は、これまでの審査員よりも客観性や公平性を強く意識していたように見える。 例えば、番組を盛り上げるために、特に面白いと思った1組の芸人に極端に高い点数を付ける、といったスタンドプレーのようなことをする人はいなかった。それぞれが自分なりの基準で真剣にネタを見て、真面目に評価を下していた。その結果、それぞれが付けた点数の偏りが少なく、僅差で勝負が決まる接戦となっていた。 決勝ファーストステージを勝ち抜いたのは、ジャルジャル、トレンディエンジェル、銀シャリ。この3組が最終決戦に挑むことになった。いずれも、自分たちの漫才の形がはっきりしていて、それを堂々と演じられる技術とセンスを兼ね備えたコンビだ。 ただ、ファーストステージと最終決戦で2本のネタを披露したことで、3組の明暗が分かれた。ジャルジャルと銀シャリは、どこにも隙がないスマートなネタ作りを得意としている。ネタはきっちりした完成品として客の前に提示される。ただ、そのせいで、似たようなテイストのネタを立て続けに2本演じると、「2本目より1本目の方が良かった」などと、それぞれのネタの質の良し悪しに目が行ってしまいがちだ。 一方、トレンディエンジェルはそういうタイプではない。彼らの漫才には圧倒的な軽さと速さがある。自らの頭髪の薄さをネタにした軽いボケを矢継ぎ早に連発して、観客を強引に自分たちの世界に巻き込んでしまう。 そして、よくよく観察してみると、笑いの取り方の種類が豊富だ。若者ウケするキャッチーなボケから、お笑いマニアにウケそうなちょっとひねったボケまで、いろいろなテイストの笑いを1本の漫才に詰め込んでいる。緩急自在のボケを操り、見る者を翻弄しているのだ。実は相当な戦略家なのだが、「Wハゲ」という見た目の強烈さが隠れみのになっているため、こざかしい戦略を感じさせないのも強みだ。 また、決勝に出ていた9組の中で、時事ネタを積極的に取り入れていたのも彼らだけだった。賞レースに向けて何年もかけてネタを作り込むのが当たり前になっている昨今、すぐに古くなって賞味期限切れになりやすい時事ネタを取り入れる若手漫才師はあまり多くはない。トレンディエンジェルは「五郎丸」「トリプルスリー」「爆買い」「ライザップ」など、最近の流行りのキーワードをこれでもかというくらい詰め込んで、現代を生きる観客の心に刺さる漫才を仕上げていた。 最終決戦の審査では、審査員9人中6人がトレンディエンジェルに投票していた。彼らの漫才は観客だけではなく、審査員の気持ちもしっかりとつかんでいた。ジャルジャルや銀シャリの漫才は、いつどこで見ても安定して面白い、磨き抜かれた1つの「作品」だった。ただ、トレンディエンジェルの漫才は、良くも悪くも今この場所でしか楽しめない刹那的なパフォーマンスとなっていた。そこに独自の価値が出ていた。 トレンディエンジェルは、「トレンディ」という芸名の通り、ひたすら今という時代にこだわり、そこに特化したネタを地道に作り続けることで、ついに『M-1』というビッグタイトルを手にした。日本中の視聴者が彼らの漫才には脱毛、いや、脱帽したに違いない。 (文=お笑い評論家・ラリー遠田)テレビ朝日系『M-1グランプリ2015』公式サイトより
“中流階級のガラパゴス芸人”タイムマシーン3号「尖ってるやつには勝てないと、やっと気づいたんです」
今年、5年ぶりに復活する漫才頂上決戦『M-1グランプリ』。参加3,472組で決勝の舞台に立てるのはわずか9組。そして結成15年目にして、2005年以来10年ぶり2度目の決勝進出を果たしたのが、タイムマシーン3号だ。客にはウケるのに、漫才コンテストはことごとく敗退。その理由を探し求め、2年前にはアップフロントから太田プロへ移籍もした。その経歴から「ガラパゴス芸人」と称される彼らが、M-1ラストイヤーに懸ける思いとは――。 関太(以下、関) 遅れちゃってすみません……ちょっとパチンコ打ってたもんで。 ――いやいや、その松葉杖は……ぎっくり腰とか? 山本浩司(以下、山本) あれだろ? 「CRヘルニア」打ってたんだろ。確変ぎっくり腰引いちゃったんなら、しょうがない。 ――(笑)。とにもかくにも、M-1決勝進出おめでとうございます。 関・山本 ありがとうございます! ――ネット上では「タイムマシーンがドカンと行ってくれたら、夢がある」という声が多いんですよ。 関 マジですか。その人に会いて~! ――ですので、ここはサイゾーが取材に行かなくてどうすると。今日はM-1への意気込みと、その波瀾万丈な芸人人生を語っていただきたいと思います。 山本 なにせ、今まさに波瀾万丈ですからね。決勝直前にぎっくり腰って、どういうことだという。 関 いや、決勝が近いじゃないですか。だからいつもより、いっぱいうがいしてたんですね。風邪だけはひかないようにと。ものすごいうがいをしていて、「ぺっ」ってした瞬間にグキッときました。 山本 ヘッドバンギングみたいなうがいしてたんでしょうね。 関 それが昨日の朝だったので、まだ当日ではなかったというのが唯一の救いというか。 ――だいぶ痛みますか? 関 今日、太めの注射を2本ほど打ったので、大丈夫です。 山本 昨日は「ちょっと腰いてぇな」くらいだったんですよ。でも今日、営業先に10時入りだったんですけど来なくて、11時、12時……14時の本番ギリギリくらいに松葉杖を両方こうやって、『ライオンキング』みたいにしてやってきた。 関 『ライオンキング』のキリンと同じ方式のつき方で。 山本 「あぁ、M-1終わったな」と思いましたよ。 関 治療に専念するため、辞退と。 山本 出ばやしに松葉杖つきながら登場するとか、ないでしょ。 関 持ち時間、30秒削んなきゃだなぁ。 山本 2~3日でなんとかなると言われているので、まぁよかったです。 ――なにせ、10年ぶり2回目の決勝ですから。決勝進出が決まった時のお気持ちは、いかがでしたか? エゴサしまくったと聞きましたが。 山本 正直ウケたんですよ、準決勝。2人で「おい、ウケたよな」って話してて。決勝進出がかなわなくても、今いるこの場所を最大限に楽しもうと。本番から発表まで1~2時間くらい時間があって、ほかのコンビがご飯を食べに行ってる中、俺たちだけ楽屋閉め切ってずっとエゴサーチ(笑)。「タイムマシーン3号」「タイマ」「タイム3号」いろいろ調べました。みんな「一番面白かった」「(決勝)行くんじゃない?」ってつぶやいていてくれて。 関 これで落ちたら、しょうがないかと。撮影=尾藤能暢
■「客にウケても、審査員にウケない」 山本 ご存じの通り、僕らって、わかりやすいネタが多いんですよ。キャラクター重視だったり、内容も万人にウケる形の。一方で、審査員ウケというか、玄人ウケがあまりないコンビだったりするんですよ。 ――そうなんですか? 山本 M-1の都市伝説として、「ウケた上位8組じゃない」っていうのがありまして。8種類の漫才が決勝に行くと。 ――ほかのコンビと、かぶらないということですね。 山本 ウケたけど、ベタな3組からは1組だけ、シュール1組、キャラ1組……みたいな。もちろん都市伝説ですよ。 ――まぁ、番組ですから。 関 長年(決勝まで)行けなかったのもあって、いろいろ考えちゃうんですよ。 山本 そうなってくると、僕らはウケ枠、お客さん盛り上がり枠ではあると思うんですけど、もっとウケる人が毎年出てきてて、その枠で一番取るのは難しかった。僕らは手数打ってわかりやすくベタな感じで……という漫才だったので。それが10年及ばなかった理由ですね。 関 正直、その間も迷っていたんですよ。デブだけを押していいのか。ボケツッコミを変えたこともありますし。 山本 05年に出たときは、あまり振るわない結果だったんですけど、審査員の渡辺正行さんから「デブネタ1本じゃ、なかなかキツいね」って言われて、僕らがそれまでやってきた翼をもがれました。どうしよう……と地べたでいろんなこと探したんですけど、それこそ、しゃべくりにしてみたりコントやってみたり、両方ボケもやってみましたし。でも結局、時代を追いかけるような漫才しかしてなくて、やっぱりガーンと行く人はやりたいことをやっていて、それに時代が追いついてくるっていう感じなんです。でも僕らは、ずっと先端をちょっと後ろで追いかけていただけだった。 ――なるほど。 山本 言ってみれば、あの05年の決勝で、当時の東京芸人の夢が断たれたんです。東京のベタな漫才がM-1ではダメだと。僕らだけではなく、東京芸人みんなの漫才への向き合い方が変わってしまった。オンリーワンを目指すようになり、ハマカーン、オードリーと、自分たちにしかできないものを見つけ出したコンビが抜けていきました。 関 僕らは、それを見つけられなかったっていう話なんですけど。 山本 でも、またここでベタでもいけるってなると、面白いですよね。俺らもう、コンテスト関係は全部ダメだろうと思ってたから。 ――それは、どこかで吹っ切ったんですか? 山本 原点回帰じゃないけど、「尖ってるやつには勝てないや」という大事なことに気づきました(笑)。だって、我々2人はおかしくないんですもん。中流階級に育ちましたし、典型的な核家族でしたし。 関 軽自動車もありました。 山本 そうなんですよ。 関 犬もいたなぁ。 山本 でも、ぶっ飛んだ母親なんていなかった! 関 そんな2人が、おかしなことをしなきゃいけないわけですから。 山本 じゃあこれ、もう無理だと。尖った笑いは。ウケる人だけにウケればいいっていう笑いじゃなくて、みんな笑ってほしいなっていう考えに変わりまして。それって結局、もともとやってたことと変わらなかったんですけど。 ――また同じところに戻ってきたわけですね。 山本 そのタイミングと、M-1の傾向と対策がたまたま合致したのが今回だったのかなっていう。我々「皆既日食」って呼んでますけど。 関 どんな漫才がいいのかとか迷っているうちは、ダメなんでしょうね。今年はもう、腹積もりはしっかりしてたんで。 ――自分たちがいいと思うことをやろうと。
■転機となった、太田プロへの移籍 関 あと太田プロさんに入って、先輩からいろいろなアドバイスをもらえたことも大きかったです。「ウケるんだから、ウケればいいんだよ」と。 ――2年前に太田プロ所属になって、その前はアップフロント(※モーニング娘。ほかが所属)でしたよね。やっぱり、環境は変わりましたか? 山本 ぜんっぜん違いますね。「早くお笑いでトップ取れるよ」って言われて入った事務所で、僕らお山の大将でした。ただ、その山が盛り塩みたいな山で。 関 初日にトップだったね(笑)。 山本 願書出したら、トップだった。 関 だから、ほかの芸人さんたちの生き方とは、ちょっと違ったと思うんですよね。 ――お笑いの先輩もいなかった? 山本 いないです。兵藤ゆきさんが、唯一の友達でしたから。 ――ゆき姐!! 関 たまにアドバイスくれるのが、堀内孝雄さんとか。 ――……堀内さんは、どういうアドバイスを? 山本 「ありがとうございました」を、もっとちゃんと言いなさいとか。「サンキュー!!」から来てるんでしょうね。そういう環境から、ダチョウ倶楽部さん、有吉弘行さん、土田晃之さん、劇団ひとりさん……ですよ。僕ら太田プロに入って「できないこと」を知りました。あまりに才能ある人ばかりがいるから。このジャンルは、この人にはかなわない、じゃあこっちか……とか。 ――そういうことは、わかったほうがいいんですか? 山本 全部行けるんじゃないかという希望よりも、これからはあきらめていく作業なんじゃないかっていう気もして。可能性がないことを知っていく。ダチョウさんにはなれない、有吉さんにはなれない、土田さんにも劇団さんにも……。 関 (片岡)鶴太郎さんは? 山本 ……イケんじゃないすか? 関 一番やめろ、バカ。 山本 筆さえいただければ。 ――前事務所に13年、太田プロさんに2年……。 関 ホント、ガラパゴス芸人です。独自の進化を遂げてきました。 ――でも、タイムマシーンさんは前事務所時代、NHK『爆笑オンエアバトル』の数少ない満点芸人だったわけですよ。 山本 オンバトっていうのは、僕らの中ですごく大きいウェイトを占めていました。いい悪いとか全然わからなかったし、それで仕事もらっていたのは確かなんですけど、オンバトの満点というのは「100人に嫌われなかっただけ」という結論に達したんですよね……。 ――というのは? 山本 100人が面白いって思ったわけじゃなくて、100人が嫌じゃないっていう判断での満点。できるだけ嫌われないようにしての満点だったんです。 関 すごい媚びてたんですよね、たぶん。 山本 オンバトで落ちた芸人さんが、どんどん違う大会で活躍し始めるんです。それを見て、「ちょっと待てよ」と。うちらお客さんにはウケてるけど、先輩やテレビを作っている人たちには受け入れられてないんだなって。どの世界もそうだと思うんですけど、賛否が出ないとダメなんですよ。 関 そこで迷いだすと、ウケていても「ウケるのがダメなのか」とか考えだしちゃう。 ――でも、そこで腐らずに15年やるって、すごいことだと思います。 関 太田に来て「芸人さんって、面白い人ばっかりだな」って当たり前のことがわかって、わかったからこそ、ネタに関してはシンプルに考えようって思えました。M-1は、ラストイヤーということもありますし。
■敗者復活で一番来てほしくないのは、トレンディエンジェル ――8番目という出場順は、いかがですか? 山本 非常に良かったと思います。 関 今回、本当ざっくり2つに分かれてるというか、ニューカマー的な芸人が前半で、そこそこいってるのが後半で(笑)。 山本 後半、怒涛の仕上げに入っている(笑)。 関 ニス塗って終わりの段階。 ――今回の決勝進出者の中で、要注意コンビは? 山本 すごく似ているコンビがいないので、どちらかというと敗者復活組が怖い。 ――敗者復活、来てほしくないのは? 山本 それはもう、トレンディエンジェルです。コンプレックスで明るい感じが、僕ら似てるんで。勢いもあるし。もちろんナイツも怖いですけど、敗者復活は技よりもパッションのほうが怖いです。 ――じゃあ、このコンビには負けたくない! というのは? 山本 やっぱり東京勢ですね。メイプル(超合金)、馬鹿よ(貴方は)……ハライチさんは、芸能人なんでいいです。 関 ハライチさんは、たぶんピーターさんのパーティーに行ってると思うんですよ。 山本 熱海のな。 ――(笑)。考えてみたら、05年って、ほとんど関西勢の年じゃなかったですか? 関 すごかったですよ。僕ら以外、みんな吉本さんで。楽屋の、でんがなまんがなが強すぎて。 ――決勝の楽屋は、独特の雰囲気でしたか? 山本 ピリピリしてましたね。営業とかだったら、もっとしゃべってもらえたと思うんですけど。唯一、ブラマヨ吉田(敬)さんだけが話しかけてくれました。 関 ああ、優しいなって。吉田さんも孤独だったのかもしれない(笑)。 山本 それに比べて、今回の準決勝の楽屋の和気あいあいさ。僕ら、メイプル、馬鹿よ、さらば(青春の光)。不貞をはたらいたやつだけ、ちゃんと落ちましたからね(笑)。 関 神様って、いるみたいですね。 山本 さらばだって、めっちゃウケてたんですよ。天才ですよ。 関 いやぁ、漫才畑に来てほしくない。 ――すべてが、05年の時とは違ったんですね。 山本 あの時は、『進め!電波少年』(日本テレビ系)じゃないけど、目隠しされて連れて行かれたという感じでした。 関 後悔も手ごたえもない。味のないメレンゲをずっと食べていたような。 山本 「05年に出たのがスゴイよ」って、過去ばっかり褒められて。 関 それ以降、決勝に出ていないということは、あの時を超えられてないっていうことなんですよ。今は、過去の自分にリベンジしたい。自分に腹立つときありますもん。 ――これから、どんな芸人を目指しますか? 関 昔ほどは、野心だけじゃないと思うんですよね。こういうのはダメかもしれないんですけど、この仕事を続けていけたらなと。その中でM-1という、今までやってきたことの証しは必要だと思うんですけど。だってそんな、クイズ番組出たいとか、そんなそんな……。今もう一杯、お茶が欲しいくらいしかないです。 山本 でも、こんなコンビが1組くらいいても、いいですよね? ぎっくり腰で決勝行くコンビがいても。 関 あ、そうそう言い忘れたんだけど、おまえさ、決勝当日痛み止めの座薬、入れてくれる? 山本 ……い、入れる。それで頑張れるなら、ケツでもなんでも入れてやる!! (取材・文=西澤千央) ●「タイムマシーン3号単独ライブ2016~肉~」 2016年1月30日(土)18:30開場 19:00開演 2016年1月31日(日)17:30開場 18:00開演 会場:東京・新宿シアターモリエール 出演:タイムマシーン3号 料金:前売2500円 当日3000円(整理番号付自由席) カンフェティにて12月1日(火)発売(TEL:0120-240-540 / 平日10:00~18:00) 問合せ:太田プロダクションFC(TEL:03-3359-6263 / 平日12:00~18:00)
中田カウスの“コント禁止令”に大阪よしもと芸人が悲鳴!「スーツの仕立て屋まで指定される」異常事態に
大阪よしもとが敷いた“コント禁止令”に、若手芸人から悲鳴が上がっている。 大阪よしもとは昨年12月、中田カウスが会長、中田ボタンが副会長を務める「上方漫才協会」を発足。同時に、関西若手芸人の拠点であった大阪・難波千日前のお笑い劇場「5upよしもと」を閉館し、「よしもと漫才劇場」に改名してリニューアル。以降、若手中心である点は変わりないものの、漫才を中心に据えたプログラムに変更されている。 大阪のとある若手芸人は、ため息まじりにこう話す。 「以前、大阪の若手が集められて説明会が行われたんです。幹部から『今後は、漫才をやるように』との説明があったほか、おじいちゃんがゾロゾロと登場し、『これからネタは、この作家さんたちが考えてくれるから』と言われました。さらに、『漫才用のスーツは、ここで仕立てるように』と老舗仕立て屋の指定まで。僕は、ロバートさんのようなトリオコントに憧れてNSCに入ったんですが、今は好きなネタもやらせてもらえない状況です」(大阪よしもと所属の若手芸人) 大阪芸人といえば、関西でそこそこ売れてから東京進出を検討するのが一般的。だが最近は、売れていない若手が、逃げるように東京に移住するケースが増えているそう。 「よしもと側も東京に行かれすぎては困るため、売れかけのコント師は東京行きを止められてしまう。しかし、『5upよしもと』なき今、出られるライブは少なく、八方塞がりに。見ていて、これが一番かわいそうですね」(同) さらに、今年は漫才コンテスト『M-1グランプリ』が5年ぶりに復活するとあって、大阪よしもと内にはさらに“漫才至上主義”の空気が充満しているという。 「おそらく『M-1グランプリ』の復活は、上方漫才協会の発足と無関係ではないと思います。カウス師匠は今年も審査員を務めるでしょうし、今年は『よしもと漫才劇場』に出演中の芸人が優勝するとウワサされています」(同) コント中のワンフレーズや、リズムネタでしかブレークできないといわれている今のお笑い界。大阪よしもとの少々強引な方針変更は今後、実を結ぶだろうか?「M-1グランプリ」公式サイトより
『KAMIWAZA~神芸~』視聴率7.3% ドル箱の『M-1』を"強奪"されたABC朝日放送の悲哀

紳助特需に沸く今田がニッコリ。
1月8日に放送された『KAMIWAZA~神芸~2012』の視聴率が7.3%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)だったことが分かった。同番組を制作したABC(朝日放送)としては、キラーコンテンツだった『オートバックス・M-1グランプリ』の後継番組として期待も大きかっただけに肩すかしに終わった格好だ。
同番組は世界中の一流パフォーマーらが人間の領域を超えて身につけた究極の技を競うというもので、『M-1』同様、吉本興業とABCが共同で開催。番組では日本人ダンサーの蛯名健一さんが"初代神芸"の座に輝いたが、視聴者の反応はいまひとつ。
「蛯名さんはもちろんのこと、口でジャグリングするイギリス人パフォーマーなど、確かに出場者たちの技は凄かった。ただ、それをランク付けするのは、審査員としてもどうしても主観的にならざるを得ません。そういう意味では、視聴者からも『審査員の判定が微妙』という声がありました(苦笑)。ギネスブックのように公認されているものではないので、"世界最高峰"とか"神業"なんて言われてもピンと来ませんからね。それに似たような番組は過去にもありましたし、低視聴率にABCはガッカリでしょうが、妥当なところだと思いますよ」(テレビ情報誌編集者)
「こんなことなら、『M-1』を継続すればよかった」というABCの恨み節も聞こえてきそうだが、『M-1』は発起人の島田紳助が「M-1の役目は終わった」と一昨年に終了してしまっただけに、いかんともしがたいところ。さらに、「オートバックスがスポンサーを降りることが決定したのも理由のひとつだったようだ」(在京マスコミ関係者)という声もある。だが、前出・テレビ情報誌編集者はこう指摘する。
「しかし、紳助と吉本は『M-1』のノウハウやフォーマットをそのままフジテレビに移して、昨年12月に『THE MANZAI 2011~年間最強漫才師決定トーナメント!~』を放送したわけです。『M-1』がABCからフジへ移籍したといっても過言ではないでしょう。ABCとしてはドル箱番組をフジに強奪された形ですが、あまり魅力的なコンテンツとは言えない『KAMIWAZA』と『M-1』の司会者だった今田耕司を代償として吉本にあてがわれたというのが実際のところではないでしょうか。しかも、『THE MANZAI』の視聴率は『KAMIWAZA』の倍以上の15.6%を記録したわけですから、ABCとしては泣くに泣けない話でしょう」
フジと吉本の親密な関係からすれば、確かにあり得ない話ではない。吉本にしても高視聴率を取れる番組なら在京キー局で放送したほうがよりメリットがある、という見方もできる。ABCにとっては、在阪キー局の悲哀を痛感させられる出来事だったということなのだろうか。
(文=牧隆文)
オアシズ それぞれにブスを昇華した「現実と空想のアンサンブル」
1月27日放送の『アメトーーク』(テレビ朝日)では、「39(サンキュー)オアシズ姐さん」という企画が放送されていた。森三中、北陽、いとうあさこ、椿鬼奴という女芸人たちが集まり、普段から世話になっているオアシズの2人を囲んで、トークを展開していた。
かつてはテレビの世界でも希少生物だった「女芸人」という存在は、今ではさほど珍しいものではなくなった。なぜそうなったかと言えば、テレビの中の女芸人がいつのまにか道化であることを脱却して、単なる一般人女性の代表になったからだ。彼女たちは、自らの身体的欠陥や女性的な性格を誇張することをやめて、普通の女性にとって身近な存在となることで、存在意義を獲得した。
そんな時代の転換点を生き抜いてきたのが、オアシズの光浦靖子と大久保佳代子だ。彼女たちは、一種の「ブスキャラ」として頭角を現して、それ以降はブスキャラにつきまとうキワモノ感を少しずつ脱臭させていくことで、テレビの中で一定の居場所を確保することができるようになった。ただ、彼女たちが現在の地位を築くためにやってきたことの内容は、光浦と大久保で180度異なっている。
光浦は、ブスであるという自覚と、自分がお笑いを貫くことも「いい女」を気取ることもできない、という大いなる断念を胸に抱きながら、鋭い分析力と観察眼を生かして、皮肉と批評と自己嫌悪を己の芸にまで昇華させた。いわば、光浦は、事実をまっすぐ見つめるリアリスト。前述の『アメトーーク』の中でも、光浦が語った将来の夢は、「お嫁さん」や「司会者」などではなく、自身の趣味を生かした「手芸の先生」だった。地に足を付けて、一歩一歩進んできた彼女の現実主義がそこにある。
一方、大久保は、光浦とは対照的に、恐るべき夢想家で、型に囚われない自然体の持ち主。一時はOLと芸人の二足のわらじを履いていた彼女は、OLとしての感覚をそのままに、手ぶらでテレビの舞台に上がっているようなところがある。あまり声を張らず、積極的にしゃべらず、淡々と「そこら辺にいるオバサン」のように思ったことをそのまま口にする。そのマイペースぶりは、芸人同士が必死で前に出ようとするテレビバラエティの世界では、ひときわ異様なものに映る。
『アメトーーク』では、コンビ結成当初、光浦が大久保に彼氏を奪われたという衝撃のエピソードを涙ながらに告白していた。光浦はいまだにそのときのショックを引きずっているのに、隣に座る大久保は一切動揺するそぶりを見せず、「そのときは性欲が異常にあったから」と、ケロッとしていた。徹底して無感情で、ポジティブでもネガティブでもない大久保の言動は、見る者を「笑うしかない」という思考の崖っぷちに追い詰める。これは、彼女にしかできない反則すれすれの名人芸だ。
オアシズの2人が特別だったのは、「女芸人はナメられる」「たとえ笑いを取っても、それでモテるようにはならない」という事実を冷静に把握した上で、そのことを「めんどくさい」と思う気持ちをそれぞれのやり方で素直に表現していたということだ。だから、光浦や大久保は、芸人という立場でありながら、テレビに出てもあまりガツガツすることもなく、自分たちがいわゆる「芸人」のカテゴリーに属することを全面的に受け入れてはいないようなところがある。
地を見つめる光浦と、天を仰ぐ大久保。現実主義者と空想主義者の奇妙な腐れ縁。お笑い界という不思議の国に迷い込んだ2人のアリスの冒険は、まだまだ終わらない。
(文=お笑い評論家・ラリー遠田)
不細工な友情
ふたりはなかよし。

●連載「この芸人を見よ!」INDEX 【第101回】スリムクラブ 最後のM-1を駆け抜けた「超スローテンポという革命」 【第100回】レイザーラモンRG "吉本団体芸"が生んだ「強心臓のニューヒーロー」 【第99回】麒麟 5度の決勝進出が「M-1グランプリの申し子」をどう変えたか 【第98回】ピース 噛み合わない2つの破片が力ずくで組み上げた「笑いのパズル」 【第97回】次長課長 変幻自在のオールラウンダー河本を生かす、井上の「受け止めるツッコミ」 【第96回】 オセロ松嶋尚美 大先輩・鶴瓶に見初められ「褒められて咲いた大輪の花」 【第95回】 ダイノジ 雌伏16年──ついに訪れる「二頭の虎が目覚めるとき」 【第94回】 キングオブコメディ 極限の不運と"顔芸人"のレッテルを払拭して掴んだ「コント日本一」 【第93回】 山田邦子 史上初の「天下を取った女芸人」その栄光と転落のタレント人生 【第92回】エレキコミック 一度ハマるとクセになる!?「一点突破の納豆コント」 【第91回】野性爆弾 「遅れてきた吉本最終兵器」がブレイクを果たした秘密とは 【第90回】野沢直子 今振り返るカリスマ女芸人の「先駆者としての比類なき存在感」 【第89回】サバンナ 野生の勘で芸能界を疾走する「発展途上のロジカルモンスター」 【第88回】東京ダイナマイト 破壊なくして創造なし! ハチミツ流「笑いのセメントマッチ」 【第87回】トータルテンボス 進化を止めない本格派コンビを育てた「M-1急転直下の挫折劇」 【第86回】ロッチ シンプルな構図でコントに魂を吹き込む「関係性のスペシャリティ」 【第85回】山崎邦正 ダウンタウンによって強制開花した「ヘタレの天才」が巻き起こす奇跡 【第84回】フルーツポンチ 確かな演技力でポストバブル世代に現出した「キザ男のリアリズム」 【第83回】よゐこ 爆発力と切れ味で支持層を拡大する「自然体のシュール」 【第82回】バッファロー吾郎 マニアック芸人の権化が極めた「もうひとつの天下」 【第81回】ドランクドラゴン 完璧な構築物に風穴を開けて回る「鈴木拓のガッカリ力」 【第80回】高田純次 還暦過ぎても華衰えぬ「日本一の適当男」が歩み続けた孤高の道程 【第79回】森三中 メンバーの結婚で進化する「ブスとブスとブスの関係性」 【第78回】Wコロン・ねづっち 「整いました!」なぞかけ芸が時代にハマった深い理由 【第77回】所ジョージ 突出した安定感を生み出すボーダレスな「私の世界」 【第76回】土田晃之 元ヤン、家電、ガンダム......でも嫌われない「ひな壇の神」の冴えたやりかた 【第75回】タカアンドトシ 非関西系漫才のツッコミ新境地「欧米か!」が生まれた理由 【第74回】キングコング西野亮廣 嫌われるには理由がある!? 天才を悩ませる「出た杭の憂鬱」 【第73回】椿鬼奴 虚栄心から自由になった女芸人の「自然体が放散する魅力」とは 【第72回】萩本欽一 テレビを作り、テレビに呑み込まれた「巨人の功罪」 【第71回】アンガールズ キモカワ芸人が精緻に切り出した「人生のNGシーン」に宿る笑い 【第70回】エハラマサヒロ 「究極の器用貧乏芸人」が無限の笑いをコラージュする 【第69回】なだぎ武 R-1二連覇を成した演技派芸人の「本当の運命の出会い」とは 【第68回】いとうあさこ 悲観なき自虐を操る「アラフォー女性のしたたかなリアル」 【第67回】チュートリアル M-1完全優勝を勝ち取った「ひとつもボケない」漫才進化論 【第66回】松村邦洋 己を棄てて己を活かす「笑われる天才」が生きる道 【第65回】キャイ~ン・ウド鈴木 20年目の変わらぬ想い──「満面の笑顔で愛を叫ぶ」 【第64回】しずる 緻密なマーケティングと確かな演技力で突っ走る「腐女子枠のプリンス」 【第63回】青木さやか 仕事も家庭も......不器用に体現する「現代女性の映し鏡」 【第62回】 今田耕司 好きな司会者第3位にランクされる「代弁者としての3つの極意」 【第61回】我が家 「変幻自在のローテーション」が3人のキャラ薄をメリットに転化する 【第60回】ハライチ "ツッコミ"を棄てた関東M-1新世代が生み出す「面の笑い」とは? 【第59回】出川哲朗 稀代のリアクション芸人が「計算を超えた奇跡」を起こし続ける理由 【第58回】中川家 すべてはここから始まった!? 兄弟が奏でる「舞台芸と楽屋芸のハイブリッド」 【第57回】板尾創路 笑いの神に愛された男が泰然と歩む「天然と計算の境界線」 【第56回】清水ミチコ 対象者の心を浮き彫りにする「ものまねを超えた賢人の不真面目芸」 【第55回】とんねるず 暴れ放題で天下を取った「学生ノリと楽屋オチの帝王学」 【第54回】友近 孤高の女芸人が体現する「女としての業と生き様」 【第53回】ウンナン内村光良 受け継がれゆく遺伝子「終わらないコント愛」 【第52回】モンスターエンジン 結成2年でシーンを席巻する「高次元のバランス」 【第51回】関根勤 再評価される「妄想力」ひとり遊びが共感を呼ぶ2つの理由 【第50回】南海キャンディーズ しずちゃんを化けさせた山里亮太の「コンビ愛という魔法」 【第49回】フットボールアワー 無限の可能性を秘めた「ブサイクという隠れみの」 【第48回】ますだおかだ 「陽気なスベリ芸」という無敵のキャラクターが司る進化 【第47回】ナインティナイン あえて引き受ける「テレビ芸人としてのヒーロー像」 【第46回】インパルス タフなツッコミで狂気を切り崩す「極上のスリルを笑う世界」 【第45回】アンタッチャブル 「過剰なる気迫」がテレビサイズを突き抜ける 【第44回】おぎやはぎ 「場の空気を引き込む力」が放散し続ける規格外の違和感 【第43回】志村けん 「進化する全年齢型の笑い」が観る者を童心に帰らせる 【第42回】はるな愛 「すべてをさらして明るく美しく」新時代のオネエキャラ 【第41回】明石家さんま テレビが生んだ「史上最大お笑い怪獣」の行く末 【第40回】ブラックマヨネーズ コンプレックスを笑いに転化する「受け止める側の覚悟」 【第39回】笑い飯 Wボケ強行突破に見る「笑わせる者」としての誇りと闘争心 【第38回】笑福亭鶴瓶 愛されアナーキストが極めた「玄人による素人話芸」とは 【第37回】島田紳助 "永遠の二番手"を時代のトップに押し上げた「笑いと泣きの黄金率」 【第36回】東野幸治 氷の心を持つ芸人・東野幸治が生み出す「笑いの共犯関係」とは 【第35回】ハリセンボン 徹底した自己分析で見せる「ブス芸人の向こう側」 【第34回】FUJIWARA くすぶり続けたオールマイティ芸人の「二段構えの臨界点」 【第33回】ロンブー淳 の「不気味なる奔放」テレ朝『ロンドンハーツ』が嫌われる理由 【第32回】柳原可奈子 が切り拓くお笑い男女平等社会「女は笑いに向いているか?」 【第31回】松本人志 結婚発表で突如訪れたカリスマの「幼年期の終わり」 【第30回】はんにゃ アイドル人気を裏打ちする「喜劇人としての身体能力」 【第29回】ビートたけし が放った『FAMOSO』は新世紀版「たけしの挑戦状」か 【第28回】NON STYLE M-1王者が手にした「もうひとつの称号」とは 【第27回】ダチョウ倶楽部・上島竜兵 が"竜兵会"で体現する「新たなリーダー像」 【第26回】品川祐 人気者なのに愛されない芸人の「がむしゃらなリアル」 【第25回】タモリ アコムCM出演で失望? 既存イメージと「タモリ的なるもの」 【第24回】ケンドーコバヤシ 「時代が追いついてきた」彼がすべらない3つの理由 【第23回】カンニング竹山 「理由なき怒りの刃」を収めた先に見る未来 【第22回】ナイツ 「星を継ぐ者」古臭さを武器に変えた浅草最強の新世代 【第21回】立川談志 孤高の家元が歩み続ける「死にぞこないの夢」の中 【第20回】バカリズム 業界内も絶賛する「フォーマット」としての革新性 【第19回】劇団ひとり 結婚会見に垣間見た芸人の「フェイクとリアル」 【第18回】オードリー 挫折の末に磨き上げた「春日」その比類なき存在 【第17回】千原兄弟 東京進出13年目 「真のブレイク」とは 【第16回】狩野英孝 「レッドカーペットの申し子」の進化するスベリキャラ 【第15回】サンドウィッチマン 「ドラマとしてのM-1」を体現した前王者 【第14回】小島よしお 「キング・オブ・一発屋」のキャラクター戦略 【第13回】U字工事 M-1決勝出場「北関東の星」が急成長を遂げた理由 【第12回】江頭2:50 空気を読んで無茶をやる「笑いの求道者」 【第11回】バナナマン 実力派を変革に導いた「ブサイク顔面芸」の衝撃 【第10回】山本高広 「偶像は死んだ」ものまね芸人の破壊力 【第09回】東京03 三者三様のキャラクターが描き出す「日常のリアル」 【第08回】ジャルジャル 「コント冬の時代」に生れ落ちた寵児 【第07回】爆笑問題・太田光 誤解を恐れない「なんちゃってインテリ」 【第06回】世界のナベアツ 「アホを突き詰める」究極のオリジナリティ 【第05回】伊集院光 ラジオキングが磨き上げた「空気を形にする力」 【第04回】鳥居みゆき 強靭な妄想キャラを支える「比類なき覚悟」 【第03回】くりぃむしちゅー有田哲平 が見せる「引き芸の境地」 【第02回】オリエンタルラジオ 「華やかな挫折の先に」 【第01回】有吉弘行 が手にした「毒舌の免罪符」
●連載「この芸人を見よ!」INDEX 【第101回】スリムクラブ 最後のM-1を駆け抜けた「超スローテンポという革命」 【第100回】レイザーラモンRG "吉本団体芸"が生んだ「強心臓のニューヒーロー」 【第99回】麒麟 5度の決勝進出が「M-1グランプリの申し子」をどう変えたか 【第98回】ピース 噛み合わない2つの破片が力ずくで組み上げた「笑いのパズル」 【第97回】次長課長 変幻自在のオールラウンダー河本を生かす、井上の「受け止めるツッコミ」 【第96回】 オセロ松嶋尚美 大先輩・鶴瓶に見初められ「褒められて咲いた大輪の花」 【第95回】 ダイノジ 雌伏16年──ついに訪れる「二頭の虎が目覚めるとき」 【第94回】 キングオブコメディ 極限の不運と"顔芸人"のレッテルを払拭して掴んだ「コント日本一」 【第93回】 山田邦子 史上初の「天下を取った女芸人」その栄光と転落のタレント人生 【第92回】エレキコミック 一度ハマるとクセになる!?「一点突破の納豆コント」 【第91回】野性爆弾 「遅れてきた吉本最終兵器」がブレイクを果たした秘密とは 【第90回】野沢直子 今振り返るカリスマ女芸人の「先駆者としての比類なき存在感」 【第89回】サバンナ 野生の勘で芸能界を疾走する「発展途上のロジカルモンスター」 【第88回】東京ダイナマイト 破壊なくして創造なし! ハチミツ流「笑いのセメントマッチ」 【第87回】トータルテンボス 進化を止めない本格派コンビを育てた「M-1急転直下の挫折劇」 【第86回】ロッチ シンプルな構図でコントに魂を吹き込む「関係性のスペシャリティ」 【第85回】山崎邦正 ダウンタウンによって強制開花した「ヘタレの天才」が巻き起こす奇跡 【第84回】フルーツポンチ 確かな演技力でポストバブル世代に現出した「キザ男のリアリズム」 【第83回】よゐこ 爆発力と切れ味で支持層を拡大する「自然体のシュール」 【第82回】バッファロー吾郎 マニアック芸人の権化が極めた「もうひとつの天下」 【第81回】ドランクドラゴン 完璧な構築物に風穴を開けて回る「鈴木拓のガッカリ力」 【第80回】高田純次 還暦過ぎても華衰えぬ「日本一の適当男」が歩み続けた孤高の道程 【第79回】森三中 メンバーの結婚で進化する「ブスとブスとブスの関係性」 【第78回】Wコロン・ねづっち 「整いました!」なぞかけ芸が時代にハマった深い理由 【第77回】所ジョージ 突出した安定感を生み出すボーダレスな「私の世界」 【第76回】土田晃之 元ヤン、家電、ガンダム......でも嫌われない「ひな壇の神」の冴えたやりかた 【第75回】タカアンドトシ 非関西系漫才のツッコミ新境地「欧米か!」が生まれた理由 【第74回】キングコング西野亮廣 嫌われるには理由がある!? 天才を悩ませる「出た杭の憂鬱」 【第73回】椿鬼奴 虚栄心から自由になった女芸人の「自然体が放散する魅力」とは 【第72回】萩本欽一 テレビを作り、テレビに呑み込まれた「巨人の功罪」 【第71回】アンガールズ キモカワ芸人が精緻に切り出した「人生のNGシーン」に宿る笑い 【第70回】エハラマサヒロ 「究極の器用貧乏芸人」が無限の笑いをコラージュする 【第69回】なだぎ武 R-1二連覇を成した演技派芸人の「本当の運命の出会い」とは 【第68回】いとうあさこ 悲観なき自虐を操る「アラフォー女性のしたたかなリアル」 【第67回】チュートリアル M-1完全優勝を勝ち取った「ひとつもボケない」漫才進化論 【第66回】松村邦洋 己を棄てて己を活かす「笑われる天才」が生きる道 【第65回】キャイ~ン・ウド鈴木 20年目の変わらぬ想い──「満面の笑顔で愛を叫ぶ」 【第64回】しずる 緻密なマーケティングと確かな演技力で突っ走る「腐女子枠のプリンス」 【第63回】青木さやか 仕事も家庭も......不器用に体現する「現代女性の映し鏡」 【第62回】 今田耕司 好きな司会者第3位にランクされる「代弁者としての3つの極意」 【第61回】我が家 「変幻自在のローテーション」が3人のキャラ薄をメリットに転化する 【第60回】ハライチ "ツッコミ"を棄てた関東M-1新世代が生み出す「面の笑い」とは? 【第59回】出川哲朗 稀代のリアクション芸人が「計算を超えた奇跡」を起こし続ける理由 【第58回】中川家 すべてはここから始まった!? 兄弟が奏でる「舞台芸と楽屋芸のハイブリッド」 【第57回】板尾創路 笑いの神に愛された男が泰然と歩む「天然と計算の境界線」 【第56回】清水ミチコ 対象者の心を浮き彫りにする「ものまねを超えた賢人の不真面目芸」 【第55回】とんねるず 暴れ放題で天下を取った「学生ノリと楽屋オチの帝王学」 【第54回】友近 孤高の女芸人が体現する「女としての業と生き様」 【第53回】ウンナン内村光良 受け継がれゆく遺伝子「終わらないコント愛」 【第52回】モンスターエンジン 結成2年でシーンを席巻する「高次元のバランス」 【第51回】関根勤 再評価される「妄想力」ひとり遊びが共感を呼ぶ2つの理由 【第50回】南海キャンディーズ しずちゃんを化けさせた山里亮太の「コンビ愛という魔法」 【第49回】フットボールアワー 無限の可能性を秘めた「ブサイクという隠れみの」 【第48回】ますだおかだ 「陽気なスベリ芸」という無敵のキャラクターが司る進化 【第47回】ナインティナイン あえて引き受ける「テレビ芸人としてのヒーロー像」 【第46回】インパルス タフなツッコミで狂気を切り崩す「極上のスリルを笑う世界」 【第45回】アンタッチャブル 「過剰なる気迫」がテレビサイズを突き抜ける 【第44回】おぎやはぎ 「場の空気を引き込む力」が放散し続ける規格外の違和感 【第43回】志村けん 「進化する全年齢型の笑い」が観る者を童心に帰らせる 【第42回】はるな愛 「すべてをさらして明るく美しく」新時代のオネエキャラ 【第41回】明石家さんま テレビが生んだ「史上最大お笑い怪獣」の行く末 【第40回】ブラックマヨネーズ コンプレックスを笑いに転化する「受け止める側の覚悟」 【第39回】笑い飯 Wボケ強行突破に見る「笑わせる者」としての誇りと闘争心 【第38回】笑福亭鶴瓶 愛されアナーキストが極めた「玄人による素人話芸」とは 【第37回】島田紳助 "永遠の二番手"を時代のトップに押し上げた「笑いと泣きの黄金率」 【第36回】東野幸治 氷の心を持つ芸人・東野幸治が生み出す「笑いの共犯関係」とは 【第35回】ハリセンボン 徹底した自己分析で見せる「ブス芸人の向こう側」 【第34回】FUJIWARA くすぶり続けたオールマイティ芸人の「二段構えの臨界点」 【第33回】ロンブー淳 の「不気味なる奔放」テレ朝『ロンドンハーツ』が嫌われる理由 【第32回】柳原可奈子 が切り拓くお笑い男女平等社会「女は笑いに向いているか?」 【第31回】松本人志 結婚発表で突如訪れたカリスマの「幼年期の終わり」 【第30回】はんにゃ アイドル人気を裏打ちする「喜劇人としての身体能力」 【第29回】ビートたけし が放った『FAMOSO』は新世紀版「たけしの挑戦状」か 【第28回】NON STYLE M-1王者が手にした「もうひとつの称号」とは 【第27回】ダチョウ倶楽部・上島竜兵 が"竜兵会"で体現する「新たなリーダー像」 【第26回】品川祐 人気者なのに愛されない芸人の「がむしゃらなリアル」 【第25回】タモリ アコムCM出演で失望? 既存イメージと「タモリ的なるもの」 【第24回】ケンドーコバヤシ 「時代が追いついてきた」彼がすべらない3つの理由 【第23回】カンニング竹山 「理由なき怒りの刃」を収めた先に見る未来 【第22回】ナイツ 「星を継ぐ者」古臭さを武器に変えた浅草最強の新世代 【第21回】立川談志 孤高の家元が歩み続ける「死にぞこないの夢」の中 【第20回】バカリズム 業界内も絶賛する「フォーマット」としての革新性 【第19回】劇団ひとり 結婚会見に垣間見た芸人の「フェイクとリアル」 【第18回】オードリー 挫折の末に磨き上げた「春日」その比類なき存在 【第17回】千原兄弟 東京進出13年目 「真のブレイク」とは 【第16回】狩野英孝 「レッドカーペットの申し子」の進化するスベリキャラ 【第15回】サンドウィッチマン 「ドラマとしてのM-1」を体現した前王者 【第14回】小島よしお 「キング・オブ・一発屋」のキャラクター戦略 【第13回】U字工事 M-1決勝出場「北関東の星」が急成長を遂げた理由 【第12回】江頭2:50 空気を読んで無茶をやる「笑いの求道者」 【第11回】バナナマン 実力派を変革に導いた「ブサイク顔面芸」の衝撃 【第10回】山本高広 「偶像は死んだ」ものまね芸人の破壊力 【第09回】東京03 三者三様のキャラクターが描き出す「日常のリアル」 【第08回】ジャルジャル 「コント冬の時代」に生れ落ちた寵児 【第07回】爆笑問題・太田光 誤解を恐れない「なんちゃってインテリ」 【第06回】世界のナベアツ 「アホを突き詰める」究極のオリジナリティ 【第05回】伊集院光 ラジオキングが磨き上げた「空気を形にする力」 【第04回】鳥居みゆき 強靭な妄想キャラを支える「比類なき覚悟」 【第03回】くりぃむしちゅー有田哲平 が見せる「引き芸の境地」 【第02回】オリエンタルラジオ 「華やかな挫折の先に」 【第01回】有吉弘行 が手にした「毒舌の免罪符」
スリムクラブ 最後のM-1を駆け抜けた「超スローテンポという革命」

「スリムクラブ内間のBLOG」より
2010年の「M-1グランプリ」は、最後のM-1にふさわしい大激戦となった。9年連続決勝進出の笑い飯が何とか逃げ切って念願の優勝を果たしたものの、彼らは最後までスリムクラブの猛追に脅かされていた。決勝初登場のスリムクラブは優勝こそ逃したものの、インパクト抜群の芸風で日本中に衝撃を与えた。彼らのもとには、その日のうちに約160件のテレビ出演・メディア取材のオファーが寄せられたという。
スリムクラブが決勝の舞台で披露した漫才は、M-1の長い歴史の中でも珍しい「超スローテンポ漫才」だった。彼らは、意図的にセリフとセリフの間にたっぷり間合いを取り、ゆっくりと話を進めていった。その斬新なスタイルが評価されて、彼らは準優勝を成し遂げたのである。
それまでのM-1では、テンポの遅い漫才は不利だとされてきた。実際、過去に優勝・準優勝を果たした芸人の大半が、スピード感のある掛け合いを得意とするコンビである。一般に、漫才では速いテンポでネタを進めていく方が、観客を乗せやすく、爆笑を起こしやすいと言われている。日常会話に近いゆったりしたテンポの漫才を演じるおぎやはぎ、POISON GIRL BAND、変ホ長調といった芸人は、決勝の場で今ひとつ結果を出せていない。
だが、スリムクラブはあえて「超スローテンポ漫才」を選んだ。そこには、ハイスピード漫才が評価されるM-1だからこそ、ゆっくりした漫才で笑いを取ることができれば圧倒的に目立つことができる、という計算もあったのかもしれない。ただ、それ以上に大きいのは、自分たちの持ち味を生かすためにスローテンポを追求することにした、ということだろう。
ボケ担当の真栄田賢は、2009年に開催された大喜利イベント「ダイナマイト関西ヤングマスター」で優勝を果たすほどの大喜利の達人であり、一撃必殺のボケフレーズの切れ味には絶大なる自信を持っている。また、彼には、しゃがれた声と不気味な風貌という武器も備わっていた。それらの武器を生かすためには、あえてたっぷりと間合いを取って、少しずつ言葉を継ぎ足すようにしてしゃべるボケ方が最も効果的だったのだ。
また、ツッコミの側から見ても、スリムクラブがあの形の漫才を演じることには意味があった。ツッコミ担当の内間政成は、つかみどころのない風貌と、沖縄なまりのひと癖あるしゃべり方が特徴的な芸人だ。相方の真栄田に出会うまで、内間は自分のなまりにコンプレックスがあり、それをなるべく隠そうとしていたのだという。だが、真栄田は「方言を隠す必要はない。自分にとって自然なしゃべり方をすればいい」と、内間を説得した。その結果、内間はネタの中でも沖縄なまりの混じった妙なイントネーションで真栄田にツッコミを入れるようになり、そのことで笑いも増幅していったのである。
漫才の中で、内間の役割はただのツッコミではない。真栄田が演じる強烈な個性を持つ人物に直面して、あきれて怯える人間をそのまま演じているだけだ。たっぷりと間合いを使って、彼はあきれかえり、言葉に詰まり、愛想笑いすら浮かべる。それは、日常で実際に変な人に遭遇したときの人間の反応として、この上なく自然で、リアリティに満ちたものだった。
彼らは、単に奇をてらって超スローテンポ漫才を演じたわけではない。自分たちの持つルックス、キャラクター、笑いの感覚など、あらゆる要素を考慮に入れた上で、結果的にそこにたどり着いたのである。
他の漫才師が、ハイスピード漫才で自ら槍や弓矢を携えて笑いを取りに行くのに対して、スリムクラブは超スローテンポ漫才で罠を張り、観客がそこにはまるのをじっと待ち構える。「攻め」ではなく「待ち」の笑いを徹底して磨き上げたことで、彼らはM-1史上に残る英雄となったのだ。
(文=お笑い評論家・ラリー遠田)
渡部陽一の世界名作童話劇場 日本篇 スローテンポ革命は続く!?
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チンポジを捨て、本気で獲りに来た「笑い飯」の戴冠劇

『笑い飯全一冊』(ワニブックス)
12月26日、漫才の祭典「M-1グランプリ2010」の決勝戦が行われた。この日、日本中のお笑いファンの興味は1点に絞られていた。それは、最後のM-1で笑い飯が優勝できるかどうか、ということ。
笑い飯は、2002年の第2回大会から8年連続で決勝に進出していたが、一度も優勝を果たしていなかった。そんな彼らは今年もまた、予選を勝ち上がって9回目の決勝行きを決めていた。M-1という大会そのものがラストを迎える今年、笑い飯は有終の美を飾れるのか? 人々の主な関心はそこにあった。
そんな笑い飯の前に、2組の刺客が立ちはだかった。それが、決勝初登場のスリムクラブと、昨年王者のパンクブーブーである。スリムクラブは、沖縄県出身の2人組。ボケ役の真栄田賢が、しゃがれた声質と鋭い発想力を生かして、ゆっくりと発する一言で爆笑を巻き起こす。その異様なまでに超スローテンポな漫才は、スピード感のある漫才が主流の最近のM-1ではかなりの異端である。
ただ、ゆったりした間合いでネタを進められるのは、自分たちの笑いに対する絶対的な自信の表れでもある。3番手として登場したスリムクラブは、あっという間に場の空気を支配して最終決戦へと駒を進めた。
昨年王者のパンクブーブーは、敗者復活戦を制して決勝に返り咲いた。決勝1本目で彼らが演じたのは、ボケ役の佐藤哲夫が見る者の予想を延々と裏切り続けて話を進めていく、というかなり技巧的な漫才。緻密にネタを作り込む構成力と、流暢に話を進める演技力の両方が高いレベルで求められるネタで、王者の貫禄を見せて決勝ファーストラウンドを突破した。
一方、迎え撃つ笑い飯が決勝1本目に選んだネタは「サンタウロス」。上半身がサンタクロースで下半身がトナカイという姿の不思議な生き物が、クリスマスに子どもの前に現れる、というファンタジックな設定の漫才だ。これは、前年の決勝で好評を博した「鳥人」と同じフォーマットのネタだ。あり得ない架空の生物に細かいリアリティを与えて笑いにしていく手法は、今年も高く評価されて、彼らは順当に最終決戦行きの切符をつかんだ。
何が飛び出すか分からない荒削りな魅力のスリムクラブ、抜群の安定感を誇るパンクブーブー、そして荒々しさと精密さの両方を併せ持つ笑い飯。誰が勝ってもおかしくない三つ巴の最終決戦を迎えることになった。
ここでの注目ポイントは、笑い飯が2本目にどんなネタを持ってくるのか、ということだった。彼らは前年の大会で、2本目にまさかの「チンポジ」というきつい下ネタを繰り出したせいで、優勝まであと一歩というところで敗北を喫していた。今年こそは勝負をかけて本気のネタを用意するのか? その点が注目されていたのだ。
満を持して披露された笑い飯の2本目は、「小銭の神様」。1本目と同じスタイルで、架空のキャラクターを交互に演じながらボケ合戦を繰り広げる、というもの。前年の「鳥人」の高評価と「チンポジ」の低評価を踏まえて、笑い飯は真剣に優勝を狙いにきた。そこには、「鳥人」タイプの漫才こそが、今の自分たちにできる最高の形だという自負もあったのだろう。
スリムクラブ、パンクブーブーも負けじと食らいつき、勝負の行方は7人の審査員に託された。それぞれが悩み抜いた末に3組の中から1組の芸人を選ぶ。そして、導き出された結果は、笑い飯4票、スリムクラブ3票。1票差の接戦を制して、笑い飯が悲願の優勝を果たした。
優勝が決まった瞬間、笑い飯の西田幸治は「やっとやー!」と絶叫して、目に涙を浮かべた。子どもっぽい自由な発想の漫才でM-1を毎年盛り上げて、番組内のコメントではいつも本音をはぐらかし続けたシャイで無骨な2人が、最後の最後に本気で優勝を取りにきた。念願の「M-1制覇」を達成して、笑い飯は名実ともにお笑い界の伝説になった。
(文=お笑い評論家・ラリー遠田)
笑い飯全一冊 おめでとう!
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M-1戦線異状あり!? 初の「両国国技館セミファイナル」開催で今年のM-1はどう変わるのか?

「オートバックスM-1グランプリ2010
公式サイト」より
年の瀬が近づき、今年もM-1グランプリの季節がやってきた。現在、12月26日の決勝戦に向けて各地で予選が行われている。
今年のM-1予選では、注目すべき大きな変化がいくつかあった。まず、3回戦と準決勝の間に新たに「準々決勝」が設けられたこと。そして、従来は東京・大阪で二回に分けて行われていた準決勝が、東京・両国国技館で一度に行われるようになったことだ。このことによって、今年のM-1戦線にはいくつかの変化が起こることが予想される。それについて考察していきたい。
第一に、準決勝の会場のキャパシティが変わる、ということだ。今年行われる両国国技館の準決勝では、観客6,000人の動員を予定しているという。6,000人というのは、お笑いライブ会場の収容人数としては、極端に大きい。これまで準決勝が行われていた会場は、大阪のなんばグランド花月(NGK)、東京のよみうりホール、メルパルクホールなど、1,000~1,500人規模のホールばかり。今年は準決勝会場が一気に巨大化することになる。
一般に、お笑いライブの収容人数には上限があると言われている。あまりに大きいと、観客は芸人の表情や動きが見えづらくなり、集中力を保つのが難しくなる。また、芸人にとっても、大きすぎる会場では笑いが散ってしまうので、空気をつかみづらいという難点がある。
そんなわけで、今年の準決勝では、会場が巨大化したことによる弊害が起こることが予想される。それは、簡単に言うと、芸風による有利不利が出てくる、ということだ。大きな会場では、小さい声の芸人、落ち着いたネタ運びをする芸人は、それだけで不利になる恐れがある。勢いがあって、よく声が出ている芸人の方が、遠くから見ていても笑える空気を作りやすいからだ。
実際、M-1予選の常連でもある、比較的おとなしい芸風の某コンビは、両国国技館で準決勝が行われるということを知って、今年のM-1は半ばあきらめたような気分になったという。会場のキャパシティは、舞台に立つ芸人にとってそれほど重要なことなのだ。
また、もうひとつ見逃せない変化がある。それは、今回の準決勝では、M-1史上初めて、客前で決勝進出者が発表されるということだ。これまでのM-1では、決勝進出者の発表は、出場者たちの目の前でひっそりと行われていた。だが、今回は、両国国技館で準決勝が行われた後、その場で決勝進出者が公表される。
そのことによって、今年のM-1では、より観客目線の審査が行われるようになるだろう。これまでのM-1では、準決勝で必ずしも大きな笑いを取っていない芸人が、審査員に評価されて決勝に上がるということがしばしばあった。だが、今年はそういうことがやりづらくなる。あまりにウケが悪い芸人が決勝に上がるとなると、発表された瞬間に客席から「えーっ!?」というブーイングの声があがるかもしれない。主催者側としてもそれは避けたいはずだ。今年のM-1では、目の前の観客から爆笑を勝ち取った芸人が、順当に勝ち上がることになるだろう。それは、事あるごとに予選審査の不透明性を指摘されてきたM-1が、一気に生まれ変わるきっかけにもなるかもしれない。
出場するそれぞれの芸人にとっては、これらの変化がもたらすメリットもデメリットもあるだろう。ただ、いずれにせよ、最後の最後にはいちばん面白い芸人が優勝する、というM-1の理念に偽りはない。予選審査にマイナーチェンジが加えられた今年のM-1が果たしてどんな結末を迎えるのか、期待は高まる一方だ。
(文=ラリー遠田)
M-1 グランプリ the BEST 2007 ~ 2009 初回完全限定生産 初回限定版がまだ売れ残ってる!
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終わることのない「お笑い戦国絵巻」~ラリー遠田著『M-1戦国史』~

『M-1戦国史』(メディアファクトリー )
「M-1グランプリ」は、現代のお笑い界で唯一と言っていいほどの大きな成功を収めているお笑いの大会だ。参加資格は結成10年未満の漫才師であることのみ、審査基準は「とにかく面白い漫才」。そして優勝者に与えられる賞金は1,000万円。
2001年に始まったこの大会は、中川家、アンタッチャブル、ブラックマヨネーズ、チュートリアルなどそうそうたる顔ぶれの優勝者を輩出しており、年を追うごとに大会を生放送する番組の視聴率も高くなっている。
本書はそんなM-1グランプリについて、当サイトでも連載コラムを執筆するお笑い評論家のラリー遠田氏が紹介する本だ。
まず語られるのは、M-1グランプリ誕生の経緯だ。1980年代の漫才ブームよもう一度と「漫才プロジェクト」なる企画を任された吉本興業のプロデューサー、そして漫才ブームによって世に出た大物タレント島田紳助。彼らがM-1を立ち上げたことから、幾多の芸人たちのドラマが始まるのである。
続いての章では過去9大会を振り返る。01年に麒麟が与えた衝撃、もはや伝説となった03年の笑い飯による「奈良県立民俗博物館」、05年に決勝初出場にして優勝を勝ち取ったブラックマヨネーズ、オードリー春日という異様なキャラ芸人が現れた08年...。M-1ファンならば誰の心にも残っているであろう数々の名場面が記されている。
この章の特徴は、単なる「M-1年表」の紹介にとどまらず、主な出場者の漫才の特徴が的確に紹介されていることにある。例えば笑い飯については「二人それぞれが『面白いことを言いたくてしょうがないんだ』というキャラクターになり切」ることに革新性があるとした上で、「バカバカしさこそが彼らの武器」と評している。普段漫才を見てなんとなく「面白かった」「面白くなかった」と感想を持つ程度の人も、この解説によって、それぞれの漫才をどのように楽しめばよいのかのポイントが押さえられるだろう。
さらにM-1決勝の審査員たちの紹介、ヤラセ疑惑の検証と、M-1グランプリの要素でありながら正面から取り上げられることの少なかった話題に切り込んでいく。特に決勝戦のヤラセ疑惑を一蹴する論調は明快かつ爽快だ。
本書を貫いているのは「面白いことは格好いい」という思想だ。自分たちにとって最も面白い漫才を追求して栄光を勝ち取った芸人、惜しくも好成績を残せなかった芸人、そしてこれまでの芸人人生を賭けて賞レースの審査を行う審査員。読み進めていくにつれ、紛れもなく格好いい芸人たちの姿に、そしてM-1の体現する「真剣勝負のスリルと漫才そのものの面白さ」に引き込まれていくことだろう。
が、M-1は格好いいだけのお祭りではない。苦労の末に優勝したところで芸人人生の安泰が約束されるわけではないし、さらにはM-1自体の存続を危ぶむ声も多い。著者は最後の章でそんな現実を直視し、しかしお笑いの可能性を語ることにより決して暗くない未来を提示して締めくくる。著者のお笑い愛を最も強く感じられる章だと言えるだろう。
普段テレビに出ているお笑い芸人たちは、単にバカ騒ぎをしているようにしか見えないかもしれない。しかしその根底にあるのは「芸を磨く」というあまりにもストイックな信念であり、その信念を賭けた終わりのない戦いを目の当たりにできる最も良質なソフトがM-1グランプリである。それゆえに、本書の丁寧な解説に沿ってそのドラマを堪能することは、さながら戦国絵巻を見るような興奮と感動を招くのだ。
読むと必ず「面白いことは格好いい」と思うはずだし、面白い漫才が見たくなるに違いない。M-1を毎年心待ちにしているお笑いファンはもちろん、M-1初心者にもおすすめの一冊だ。
(文=北川ミナミ)
M-1戦国史 初心者からマニアまで。
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