ネオヒルズ族は稼げてライターは稼げない 情報産業でメシを食うのに必要なこと

【サイゾーpremium】より 進化の歩みを止めないIT業界。日々新しい情報が世間を賑わしてはいても、そのニュースの裏にある真の状況まで見通すのは、なかなか難しいものである――。業界を知り尽くしたジャーナリストの目から、最先端IT事情を深読み・裏読み!
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インプレス「できる」シリーズは今も続いている(画像は「できるポケット LINE」と「同 facebook」)。新しいサービスが世に広く出た時には、今でも需要があるようだ。
 ウェブメディアの定着と雑誌の低調によって原稿料が下げ止まらなくなり、いわゆる「フリーライター」が飯を食っていくことが難しくなった。しかしこれは、メディア構造の変化に伴い、できる人/できない人の淘汰が進んだだけなのかもしれない。自身もフリージャーナリストである佐々木氏が考える、これからのフリーランスに必要な条件とは?  雑誌などのメディアに原稿を書いて収入を得る「フリーライター」と呼ばれる職業が、急速に終わりを迎えようとしている。インターネットの普及で情報の価値が落ちたことに加え、書くことが専業ではない人たちが安いギャラで原稿の仕事を請け負うようなことが増え、原稿料単価が驚くほど下がってしまったからだ。  少し前に、グーグルの及川卓也氏の呼びかけで『セミプロに駆逐されるプロという構図勉強会』という変わった名称の勉強会があった。集まったのは主にIT分野で記事を書いている専業や副業ライターの人たち40人。雑誌時代には1ページで2~3万円ぐらいだった原稿料単価が、最近のウェブメディアではどれだけ長く書いても1本1~2万円程度で、生活できなくなるレベルにまで落ちていることなどが語られた。驚いたのは、音楽ライター業界に「アルプス」という用語があるという話。 「最近は音楽ライターが『アルプスでやってくれない?』とメディアから言われるらしいですよ。『アルプス一万尺、小槍の上で』という歌があるでしょう。……つまり1万円弱でどうか、という意味なんです」  ……笑うに笑えない話である。  私自身のことを振り返ってみても、この原稿料の低下は体感している。私は1999年に毎日新聞社から月刊アスキー編集部に移り、ライターの人たちとお付き合いするようになった。2002年頃からアスキーの仕事と並行してライター仕事もこなすようになり、03年にフリーとして独立して今に至っている。  私がアスキーに移った99年頃はまだ雑誌が非常に元気で、10万部余り出ていた月刊アスキーの原稿料は、1ページ2万5000円前後だった。1ページは1500~2000文字ぐらいなので、文字単価が一文字10~15円だったことになる。専門性の高い記事や著名人への依頼の場合などでは、1ページ3万円払っていたこともある。ちなみに総合週刊誌の原稿料はもっと高く、だいたい1ページ3~5万円だった。いま振り返ると夢のような金額である。  とはいえ、この時期でさえすでに、古株のライターには「原稿料はもう何十年も上がっていない」というような愚痴を言う人もいた。バブルの頃はライター稼業もかなり羽振りが良かったらしい。  90年代でもまだその残滓はあった。例えばコンピュータ業界では95年以降、Windowsの爆発的人気でパソコンが一気に普及したが、当時はまだ初心者にはかなりハードルが高かったこともあって、解説本が売れに売れた。その象徴がインプレスの「できる」シリーズで、全体の累計はなんと現在までに4000万部に達しているというから驚かされる。  雑誌も同様で、一時は書店の雑誌棚の3分の1ぐらいを各種のパソコン雑誌が占領していた。自作系、エクセルなどの実用系、総合系、初心者系、プログラマー系、エンタープライズ系などさまざまなジャンルに分かれ、膨大な雑誌から依頼される原稿を書き分けているだけでも、ライターは十分に生活できたのである。 ■ある意味では当然のライターの淘汰  しかしこの「パソコン解説本バブル」が続いたのは、せいぜい00年代初頭ぐらいまでだ。WindowsもXPが出る頃にはたいへん使いやすくなり、エラーで落ちたりフリーズすることもあまりなくなって、誰でも使えるコモディティ商品に変わっていった。さらに、ブログが広まり、ちょっとした解説やお悩み相談程度なら、ネットで検索すればすぐに回答が見つかるようになった。これによってパソコン雑誌もパソコン解説本も市場は冷え込んでいく。  加えてブログ文化の勃興は、ネット検索での情報を豊かにしただけでなく、雑誌や書籍の分野でもプロとセミプロの境をなくしていった。それまではセミプロの書く文章は「素人くさい」「専門的すぎてわかりにくい」と思われていたのが、ブログで平易な文章を書き慣れる人たちが大量に現れ、雑誌や書籍にも進出して原稿を書いたり、本を出したりするようになったのだ。これによって専業ライターの領域は極端に狭まり、食えない人がたくさん現れてきた。それがこの10年代の現状だ。  とはいえ先ほどの勉強会では、こんな真っ当すぎる指摘もあった。 「そもそも、これは果たして悪いことなのでしょうか? プロと呼べる質の高い仕事をしていない人もたくさんいたわけで、そうした人たちが食べられなくなっていくのは仕方ない。問題は、良質なものが生き残るためにはどうするのかということ」  インターネットが普及する以前、情報の需給バランスは著しく供給側に傾いていた。つまり、情報を求めている人はたくさんいるのに、供給は雑誌や新聞、テレビなどに絞られていた。この需給バランスがメディア側に余剰の富をもたらしており、放送局や出版社、新聞社の高給はここから来ている。そしてフリーのライターやディレクターなどにも、そうした余剰が回ってきて業界全体を潤してくれていたということなのだ。  ネットが普及したことで需給バランスは逆に振れ、今や需要側に傾いている。つまり供給は膨大にあるけれども、そんなにたくさんの情報を全部読める人はいない、という情報洪水状態になったのだ。旧来の余剰が消し飛んでしまうのは当然である。  ではこのような状況で、専業のライターはどのようにしてメシを食っていけばいいのか。  ひとつは、自分の専門性を磨き、自分の仕事に付加価値をつけていくことである。勉強会では、今も元気に活躍されている女性ライターのひとりが「プロが食えなくなっているなんてことはない」と断言していた。 「ソフトやハード、開発系の記事は専業ライターでは結構難しい。でも発表会の取材記事や海外イベントの取材、企業の作るコンテンツに合わせた記事を書くことなどは、専業ライターの仕事としてちゃんと残っています」  彼女は、淘汰されるダメライターの5つのポイントをこう挙げた。 「特定の編集者とつながっている」 「英語が苦手」 「ソーシャルが苦手」 「昔話ばかり」 「文章が下手」  かなりきつい言葉が並んでいるが、これには私はまったく同意だ。  加えて、これからのライター稼業では、自分の売り方をきちんと戦略を立てて考えていく必要がある。  以前は、特定の編集者やセミナー会社などに人間関係だけでぶら下がり、仕事をもらう人が多かった。このようなやり方は、時折飲みに行って「なんか仕事ないっすかね」「こんな本書けないですかね」と駄弁っているだけで営業活動になるので、楽ちんだったのだ。しかし今やこういう人たちの大多数は、仕事がなくなってしまっているだろう。  そうではなく、自分にどんな付加価値があり、それがどう市場にマッチするかを分析し、その上でソーシャルメディアを駆使してセルフブランディングを構築し、読者を獲得する必要がある。ツイッターやフェイスブック、ブログの活用は必須だ。  単体の記事コンテンツの原稿料は下がっていっても、自分のブランドを確立できれば、ライター自身の価値は低下せず、自分自身というキャラクターを売っていくことで生計を立てていくことができる。そういう戦略が重要なのだ。  反語的だが、勉強会ではこんな意見も出たことを付け加えておこう。 「ライターは食えなくなったと言うけど、同じように情報で商売してるネオヒルズ族の与沢翼はメシが食えているということなんですよ。そういうこと言うと皆さん笑うけど、これはもうちょっと分析してみてもいい問題なんじゃないかな」 (文/佐々木俊尚) 佐々木俊尚(ささき・としなお) 1961年生まれ。毎日新聞、アスキーを経て、フリージャーナリストに。ネット技術やベンチャービジネスに精通。主な著書に『電子書籍の衝撃』(ディスカヴァー・21)、『キュレーションの時代』(ちくま新書)、『「当事者」の時代』(光文社新書)ほか。 「サイゾーpremium」では他にも話題の識者陣による連載が満載です!】【小田嶋 隆】友達リクエストの時代『敬語で始まった関係は友だちになれない?「友だち」という特殊な人間関係』【宇野常寛】批評のブルーオーシャン『新しいリベラルとニコニコ超会議』【町田康】続・関東戎夷焼煮袋『物事はダマになり易い ダマという人生の障害といかにして向き合うか』
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最後に勝つのは、実はアマゾンか?ハードベンダーの限界を見据える

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『アップル、アマゾン、グーグルの
競争戦略』
(エヌティティ出版)
「アップル神話」に陰りが見え始めたと、囁きあう声が聞こえてくる──。最近、アップルの株価が急落した。一時は時価総額世界1の座にまで就いたものが、どうしたのだろうか? これには、同社だけに限った話ではない「ハードベンダーの限界」という問題が密接に関わっているのだ。アップルの株価が急落している。2012年9月の最高額から4割近くも下落したというから尋常ではない。  アップルのティム・クックCEOはこの原因について、市場の不振に加え、MacとiPadの「共食い(カニバル)」があったと説明している。つまりパソコン市場が縮小して、タブレットに食われている。それがアップルの中でもMacからiPa dへの移行として表れているのだという説明だ。  クックはこうも発言している。 「カニバルは数字はマイナスだが、大きなチャンスでもある。われわれの基本方針はカニバルを恐れないということだ。もしカニバルを恐れれば、ほかの企業がその部分に食らいついてくる」  これは正しい認識だ。これまでもさまざまな企業が、自社内でのカニバルを避けるために新しい市場創出を尻込みし、結果としてその先の市場を他社に奪われてしまうというようなことを引き起こしてきた。それに対して、自社の製品が売れなくなる可能性も承知で、タブレットやスマホの市場創出に向かっていったアップルはあっぱれというしかないし、Macの売り上げが落ちていることを悲観材料にする必要はない。  しかし一方で、この先のアップルがどうなるのか? を考えると、かなり厳しいともいえる。なぜならハードベンダーであるアップルは、常に新製品によってイノベーションを繰り返していく必要があるからだ。  アップルはiPhoneとiPadによって、スマホとタブレットという、これまで存在しなかった新しい市場を創出した。これは素晴らしいイノベーションだ。しかし一方で、いったん作られた市場はどんどん進化し、拡大し、それまでの製品をコモディティ(日用品)化していく。サムスンやHTCなどの追い上げでAndroidをベースにした安価な機器が大量に投入されていくと、アップルの製品は高級さやデザインの良さでは相変わらず他社の上を行っているとはいえ、市場全体でのシェアは当然ながら低下していく。  すでに先進国のスマホ市場は飽和してきていて、今後期待される市場は中国やインド、東南アジアなどの新興国に移ってきている。ところがこういう市場では、iPhoneやiPadのような高価な製品はなかなか売れない。Androidベースの安価な韓国製、台湾製のスマホのほうが、圧倒的に競争力が高いのだ。そしてこういう新興国市場に今一番食い込んでいるのが韓国のサムスンで、世界市場全体では同社の市場支配力がどんどん高まっている。  実際、12年の第4四半期の数字を見ると、サムスンのスマホ販売台数は6300万台とトップで、アップルより1500万台あまりも多かった。市場シェアではサムスンが29%でアップルが22%。この差は、徐々に広がってきている。これは明らかに新興国マーケットに主軸が移ってきていることの表れだ。  アップルはサムスンなどに対抗するため、廉価版のiPhoneを出すのではないかという噂もある。真偽は定かでないが、高級イメージのブランド戦略で戦ってきたアップルが、サムスンと同じような安価なブランドイメージに対抗して果たして大丈夫なのか? という懸念もある。  これはハードベンダーが成長して巨大化していくと必ず抱えてしまうジレンマで、アップルとしては難しい選択になるだろう。iPhoneやiPadの先にさらに先進的な製品を出し、ユーザーを惹きつければいいのだが、そんなことはジョブズが生きていたってそう簡単ではない。 ■革新性がなくてもいいグーグル、アマゾンの強み  そもそも、イノベイティブなハードウェアを出し続けなければならない、というところに無理がある。  例えばグーグルやアマゾンに、革新的な新製品を期待している人はいない。それぞれNexus 7とKindle FireというAndroidベースのタブレットを出していて、よく作り込まれていて速度も速く、使いやすい製品だが、ものすごく先進的というほどではない。しかしだからといって、この2社がタブレットの革新性のなさを批判されることはあまりない。  なぜなら、2社がハードベンダーではないからだ。アマゾンはオンラインショッピングと電子書籍、それにクラウドサービスが本業。タブレットを売っているのは、その販売で儲けるためではなく、そのタブレットを使って電子書籍を読んだり、オンラインショッピングしてもらうことを狙っているからである。広告が本業であるグーグルは、Androidのモバイルデバイスが普及し、それで人々がブログを読んだり音楽や書籍や動画を楽しみ、SNSのGoogle+を使うようになれば、そこにさまざまな広告を付与できる可能性が高まるという未来像を描いているとされる。Nexusシリーズのタブレットやスマホを販売しているのは、それらの安価なハードウェアによってユーザーのデバイス体験をより増やしていきたいという狙いがあるからだ。  だからグーグルにしろアマゾンにしろ、販売すべきタブレットやスマホは高級品ではなく、安価で使い勝手の十分に良いもの、という結論になる。実際、両社の製品は非常に戦略的に安い価格で販売されている。そして確かに、売れている。アマゾンやグーグルの優位性は、ユーザーを囲い込むことによって持続可能なシステムを作り出しているところにある。両社がやっているのは、ユーザーが「アマゾン”の”モノを買う」「グーグル”の”コンテンツを観る」ということではなく、ユーザーが「アマゾン”で”モノを買う」「グーグル”で”コンテンツを観る」行動を取らせているということ。つまりは、ユーザー体験の基盤であるプラットフォームを作っているのだ。  もちろん、アップルもプラットフォーマーだ。iPhoneやiPa d上に垂直統合されたiTunes Storeを通じて、人々は音楽を買い、映画を観、アプリを利用する。しかし問題は、アップルの今の収益構造では、プラットフォームビジネスはあまり大きな割合を占めていないということだ。アップルのiTu nesからの売上高は10%程度でしかない。大半をiPhoneとiP ad、それにMacというハードの売り上げが占めている。特にこの4年ほどの間にiPhoneとiPa dが急成長したため、売上高の6割ぐらいをこの2つが占めるようになり、依存度は急速に高まっている。  これは素晴らしい結果だが、同時に将来への大きな不安材料である。常に革新的な製品を出し続けなければ、ハードの売り上げはいつかは縮小していく。プラットフォームが囲い込むビジネスのような持続性はハードの世界には乏しい。  そう考えれば、オンラインショッピングの入口出口をがっちりと握って収益力も高く、同時に「囲い込み」力もきわめて高いアマゾンが、最終的な覇権を奪う可能性が高いのではないか。私は最近、そう考えている。 【佐々木が注目する今月のニュースワード】 ■BEACON LOUNGE 赤坂にできた「ビジネスコンビニエンスラウンジ」というコンセプトのカフェ。理容室を併設し、ズボンプレスやスチームアイロン、電源なども無料。ビジネスマンのノマドワーキング向けに、こういう店が今後増えそう。 ■鯖江市 行政データをXML形式で提供することを決めた福井県鯖江市。北陸の小さな街だが、メガネの製造では世界的に有名で、IT政策にも非常に力を入れている。オープンガバメント的な方向に日本の自治体がここまで踏み込むのは初めてで、今後注目。 ■アーロン・シュワルツ プログラマーであり、インターネットの活動家としても常にその言動が注目されていた26歳のアメリカ人。検察庁などの不当な訴追を苦に、1月に自殺した。ネット犯罪の捜査や訴追のありかたについて、アメリカで大きな議論に。 佐々木俊尚(ささき・としなお) 1961年生まれ。毎日新聞、アスキーを経て、フリージャーナリストに。ネット技術やベンチャービジネスに精通。主な著書に『電子書籍の衝撃』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『キュレーションの時代』(ちくま新書)、『「当事者」の時代』ほか。 「サイゾーpremium」では他にもITの裏側に迫った記事が満載です!】ソニーのセキュリティ意識はユルユル!?お粗末IT事情を関係者が徹底暴露!!「楽天は意外とオススメ」「ヤフーはまるで公務員」 IT賢者が有名企業を採点!セカンドライフは黒歴史になるか? AKB48を起用するIT企業のブラック度を徹底検証!
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ITジャーナリスト・佐々木俊尚が選ぶ、記憶に残るサイゾーでの執筆記事3選

サイゾーpremium」12月無料購読キャンペーン開催!
【サイゾーpremium】より
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ジャーナリスト・佐々木俊尚氏
――1999年の創刊以来、芸能界から政財界、ヤクザにIT業界まで、各業界のウラ側を見てきた「サイゾー」。巷間騒がれる小誌の魅力をもっと多くの人に知ってもらいたい! そんな思いから、「サイゾー」を愛読している物好きな(失敬!)有名人からおなじみの識者の方々に、「サイゾー」でしか読めないオススメ記事を選んでもらいました!! 今回の選者は、小誌にてIT業界の"真の状況"を深読み・裏読みするITインサイド・レポートを連載中の佐々木俊尚氏です。佐々木氏が印象に残っている執筆記事とは?

「サイゾー」で僕が記事を書くようになったのは、フリーランスになってすぐの02年頃からです。「サイゾー」はまだ創刊3年くらいでしたね。今回は、その頃に自分が書いた記事の中から、印象深く覚えているものを3つ選びました。 「新旧天才起業家合体パンチ! 西和彦×堀江貴文『今こそヤフーBBを売っ払え』」 (2004年05月号より)  アスキーの創業者として有名だった西和彦さんと、ご存知ホリエモンの対談です。今のように西さんがすっかり表舞台から身を引く前で、まだまだ業界では名前が通っていた頃。逆に堀江さんは近鉄バファローズ買収などに乗り出す前でした。つまり新旧起業家だったんですが、2人とも何しろアクが強いキャラクター。西さんのほうは「この若造が」と思ってるだろうし、堀江さんのほうも「失敗した起業家が出てきやがって」と思ってるだろうし、現場は緊張しましたよ。内容としては、当時話題だったデジタル家電は今後どうなるか? など、ITを中心に世相を語る企画だったのですが、話の端々にピリっとした火花が散るような、スリリングな対談でした。 「ホリエモンだって「チェンジ」する! メディアへの大量露出と「徹底抗戦」の勝算」 (2009年6月号特集「ホリエモンだって「チェンジ」する!」より)  堀江さんとは、球界参入騒動(04年)の直前くらいまでけっこう頻繁に連絡を取って、会ったりしていました。でもその後、彼がマスコミの寵児になってからは疎遠になっていたのが、数年ぶりに会ったのがこの記事です。まだ裁判が終わる前の頃でしたね。堀江さんはカメラマンの要望に応じてハンバーガーにかぶりついたりしてました(笑)。  西さんとの対談の頃からこの頃まで、やはりこの時期はインターネットの歴史がどんどん変わっていく時だった。だからすごくおもしろかったですね。  それから、ITとは違うけれど、北朝鮮に関するルポ記事も記憶に残っています。 「マスコミに不信感を抱き続ける、北朝鮮拉致被害者家族たちの『恨15年』」 (2003年04月号より)  ちょうど僕が「サイゾー」で仕事をし始めた頃というのは、北朝鮮から拉致被害者が帰国する動きがあった時期でした。それまで北朝鮮というのはタブーだったわけです。特にメディアは朝鮮総連に対してすごく恐れを抱いていて、とにかく北朝鮮の悪口は言わない、という時代だった。だから、横田めぐみさんのご両親ら拉致被害者の家族の声を一切取り上げてきませんでした。北朝鮮は拉致を認めていませんでしたから。それが02年の首脳会談で一転して認めたどころか、5人が帰国してきたのでみんなびっくりした。そこで、これまで黙殺されてきた「北朝鮮による拉致被害者の家族連絡会」(家族会)とメディアの力関係が一気に逆転して、メディアは家族会に対して全く反論できない構図ができた。それはそれで180度反対に振り切れ過ぎなのではないか? というのを、古巣の新聞社などに取材して執筆した記事です。  この頃の男性誌は、総合誌や論壇誌でなくても硬派な社会派ルポルタージュを載せる文化がありました。「サイゾー」はその中でも、新進の書き手の登竜門、というような感じでしたね。僕もこうした記事を「サイゾー」で書いているうちに、他の論壇誌や総合誌に声をかけられるようになっていきました。今はそうした月刊誌自体もかなりバタバタと休刊してしまっていますが……。  僕にとっては、「サイゾー」というと、編集部の人数が少ない【編注:創刊以来、だいたい常に平均5人程度】ということと、その人たちが雑誌のイメージを裏切っていわゆる“海千山千の強面”という感じでは全然ないのが印象的(笑)。創刊した頃から「いつまで続くのか?」と言われ続けて10年以上経っているから驚異的ですよね。IT系の企業に関する裏話の記事も、業界のことを知って書いているというのがわかっておもしろいです。そういうメディアは今はほかにないですから、これからもニッチにディープに探っていくとおもしろいと思います。 (構成/編集部) 佐々木俊尚(ささき・としなお) 1961年生まれ。毎日新聞、アスキーを経て、フリージャーナリストに。ネット技術やベンチャービジネスに精通。主な近著に『電子書籍の衝撃』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『キュレーションの時代』(ちくま新書)、『「当事者」の時代』(光文社新書)ほか。「サイゾー」にて、佐々木俊尚の『ITインサイド・レポート』を連載中。 twitter:@sasakitoshinao 今なら無料で読める! 無料キャンペーンの詳細はここをクリック!!

「LINE」爆発的普及の裏にあるガラケー文化の巧みな利用法

【プレミアサイゾーより】
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送るスタンプを選んでタッチしたその瞬間には、
もう相手に送信されている。この速さはこれま
でのメッセージングアプリにはなかったものだ。
ただし、送り間違いには注意!
進化の歩みを止めないIT業界。日々新しい情報が世間を賑わしてはいても、そのニュースの裏にある真の状況まで見通すのは、なかなか難しいものである――。業界を知り尽くしたジャーナリストの目から、最先端IT事情を深読み・裏読み!  使ったことはなくとも、多少ITや新サービスに興味があれば聞いたことはあるだろうスマホアプリ「LINE」。NHN Japanによって開発されたこのアプリは、なぜこれほど話題を呼び、ユーザーを増やしているのか? 久々の日本発のヒットサービスとなりそうな、このアプリのすごさを探る。  LINEというアプリの成長ぶりが今、IT業界で話題騒然となっている。  LINEは、NHN Japanが開発した、スマホ向けのメッセージングアプリだ。NHNは韓国企業で、元の社名をハンゲームといった。検索エンジン「NAVER」を運営していることで有名で、日本でも「NAVERまとめ」というキュレーションサービスが人気を集めている。最近では、ライブドアを買収したことでも知られる。LINEはこの会社のサービスだが、日本法人主導で開発されており、実はほぼ純国産のアプリ。そしてLINEのユーザー数は、今すごい勢いで伸びている。国内のユーザー数は1800万人、世界ではなんと5000万人。今年4月以降、毎月500万人以上のペースで伸び続けており、グローバルプラットフォーム化に成功しつつあるといっていいだろう。  このLINEの最大の注目点は、日本がかつて誇ったガラケー文化のエッセンスをうまくスマホの世界に持ち込み、「つながり」を軸としたコミュニケーションの演出に成功したことだ。  持ち込まれたガラケー文化のエッセンスのひとつは「電話番号」であり、もうひとつは「スタンプ」だ。  LINEはスマホのアプリだが、スマホっぽいところが全然ない。たとえば普通のスマホアプリだと、アカウントを取得するのにIDやパスワードを設定したり、フェイスブックやツイッターと連携させたりといった登録作業が求められるが、そういう面倒さはLINEからは排除されている。そもそもログインという概念さえ排されていて、即座に使い始められるようになっている。  携帯電話というのは、非常に直感的なデバイスだ。ガラケー時代にはこの直感性が重要視され、だからこそ老若男女多くの人に使われるようになったといえる。日本が2000年代前半のガラケー時代にモバイル先進国となれたのは、こういう直感性を重視し追求したからではないか。ところがその直感性は、スマホの波の中で徐々に失われつつある。スマホという「モバイルのPC化」によって、モバイルにPC的なインターフェイスが持ち込まれたため、直感性が減少しているのだ。  LINEはここをうまく乗り越えて、スマホアプリでありながらガラケー的な直感性を実現しているように思える。ログインの排除や電話番号をベースにしたメッセージングがそうだ。 ■古くて新しい「つながり」を推す機能  そしてこの「ガラケー的な直感性」を、スタンプ機能が強力に後押ししている。スタンプとは、アイコンや顔文字をさらに大きくした画像で、メッセージとして送信できるものだ。テキストに添付するだけでなく、スタンプ単体で送ることで、相手にちょっとした感情をワンクリックで気軽に送信できるのが特徴だ。  6月に北海道で開かれたIVS 2012 SpringというIT系のイベントでのセッションで、NHN Japan執行役員の舛田淳氏はこう話していた。 「スタンプはもともと絵文字からスタートしたけれど、絵文字よりもっとカジュアルに気持ちを伝えられるものがないかということを考えた。テキストの最後にニュアンスとしてつける絵文字でさえも、時間がかかる。それよりもインスタントにカジュアルに送信一発で伝えられないか。そういう発想から、単体で送れる大きい絵柄の画像を考えた」  スタンプのキャラクターも工夫をしたという。ただ可愛いだけではなく、ちょっと怖い感じのキャラクターが中心だ。 「『キモカワ』といわれるような若干の毒があるのは、さまざまなスタンプを用意してリサーチしてみた際、若い女の子は『これがいい』という反応だったから。意見が真っ二つに分かれたので、だったら反対意見があまりないものよりも、反対があったほうを選んだほうがいいだろうという判断となった」 「これらのキモカワのスタンプは、フェイスブックやツイッターには向かない。なぜなら『怒ってるウサギ』とか『困ってるクマ』というのは、単体では何の感情を表現しているのかわかりにくく、送信側と受信側の人間関係の中でだけ意味を持ちうるから。つまりクローズドなメッセージングだから成り立つ感情なのだ」  これは非常に鋭い分析だ。インターネットには「情報流通」機能と「つながり」機能があるが、フェイスブックやツイッターなどはどちらかといえば前者に傾斜している。日本ではミクシィが後者の「つながり」を前面に打ち出したSNSだったが、若干失速してしまった。この隙を狙ってLINEが「つながり」メディアとして急成長してきた。その背景には、日本の若者のクローズドな人間関係にうまくはまり込む機能を巧みに提供できているからだろう。  なお先ほどのIVSのセッションでは、司会を務めたヤフーCIO松本真尚氏が、こんな興味深い質問をしていた。 「LINE利用者はキャバ嬢とかが圧倒的に多くて、ほぼ100%使ってるという話もある。LINEを使うと、モテ率が30%ぐらい高まるのでは?」  水商売系でLINE率が高いというのも、ガラケー文化を強く感じさせる象徴だ。もともと水商売系には、フェイスブックやツイッターのようなオープンな情報流通系SNSはそぐわない。キャバ嬢とフェイスブックのフレンドになったりすると、ほかの交友関係にすぐばれてしまって、いささか恥ずかしいことになる。それに比べればLINEはクローズドなメッセンジャーなので、他者にばれないですむというメリットがあるわけだ。  そもそもコミュニケーションは多様である。相手によって、TPOに応じてコミュニケーションのメディアを使い分けるというのは当然の作法となっていくのだろう。  先ほどの質問に、NHN Japan社長の森川亮氏はこう返答した。 「(水商売に限らず)やっぱりコミュニケーションが大切ということ。コミュニケーションって、何のためにやるのだろうか。フェイスブックは情報伝達したり、意味を求めるコミュニケーションだけれど、LINEは気持ちを伝えるコミュニケーション。テキストより、その時の気持ちをさくっと伝えられる。知り合いとのコミュニケーションって、そういう伝達がけっこう大事なのでは」  さらにLINEは、ビジネスモデルまでもガラケー的だ。フェイスブックやツイッターのように広告で儲けるのではなく、アイテム課金を持ち込んでいるのである。メッセージで送るさまざまなスタンプを、購入できるようになっているのだ。これはグリーやモバゲーのような日本のソーシャルゲーム業界が構築してきたアイテム課金のモデルを、うまくメッセージングに持ち込んだということで、たいへん興味深い。  森川氏は「機能が多いよりは、使いやすさ・わかりやすさ・直感的な使い勝手が大切」と話していた。せっかく育ったガラケー文化をスマホの波で見失ってしまうのではなく、時代に適合させる形で進化させていくというのは、なんとも素敵である。 (文/佐々木俊尚) 楽天の電書リーダーの破壊的価格 7,980円 2012.7.19 楽天らしい爆安でキンドル発売に対抗! 楽天が満を持して発表した電子書籍リーダー「コボタッチ」は、8000円を切る思いきった戦略的価格。ソニーリーダー・1万6800円、シャープGALAPAGOS・2万4800円などと比べると非常に安い。しかし発売当初アクティベーションができないといった不具合があり、苦情が殺到。波乱の幕開けとなった。 【佐々木が注目する今月のニュースワード】 ■マリッサ・メイヤー 迷走する米ヤフーの新CEOに、グーグルの「顔」として知られてきた古参女性幹部のマリッサ・メイヤーが就任。おまけに現在妊娠中で秋に出産予定ということで、アメリカのIT業界では話題沸騰している。果たしてヤフーを復活させられるか。 ■クラウドワークス 今、日本で急成長中のクラウドソーシングサービス。仕事が欲しい技術者やクリエイターと、仕事を発注したい企業や人を結びつける仕組み。スタートして3カ月あまりで、募集案件総額が3億円を突破した。 ■リトルモンスターズ レディ・ガガがスタートさせた独自のSNS。これまでタレントやミュージシャンはフェイスブックやツイッターなどの大手サービスを利用するだけだったが、今後はオウンドメディア(自社メディア)を持つケースが増えてくるかも。 佐々木俊尚(ささき・としなお) 1961年生まれ。毎日新聞、アスキーを経て、フリージャーナリストに。ネット技術やベンチャービジネスに精通。主な著書に『電子書籍の衝撃』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『キュレーションの時代』(ちくま新書)ほか。3月16日に『「当事者」の時代』を光文社新書より上梓。 【「サイゾーpremium」では他にも気鋭の識者による連載が満載!】町山智浩の「映画がわかる アメリカがわかる」/食事はマクドナルドに!?落ちゆく“裸の”女王様高須基仁 の「全摘」/三才ブックスのDVDコピーソフト販売問題で社員4人逮捕は「みせしめ」、公のいじめだ!神保哲生×宮台真司「マル激 TALK ON DEMAND」/リオ地球サミットの約束はなぜ果たされなかったか
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「反グローバリズムデモが世界席巻」? 勘違いも甚だしい報道の甘言

【プレミアサイゾーより】 ──激変するITビジネス&カルチャーの深層を抉る! ──米ウォール街におけるデモからの派生で、世界中の若者が自分たちの置かれた環境に異議を唱えだした......と報道されているが、果たして本当だろうか? 反グローバリゼーションを唱える参加者たちは、現在の世界の構造を本当にわかっているのか、疑義を呈す。
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知らぬは日本の参加者ばかりなり​「東京を占
拠する」前にやれることはまだあったはずだ。
「ウォール街占拠(オキュパイ)デモ」が各国に波及し、世界を一周していると報じられている。本当だろうか?  アメリカのウォール街やローマ、パリなどの欧米諸国で盛り上がったのは事実だ。ローマでは数万人がデモに参加し、暴動にまで発展して銀行が略奪されるなどの騒ぎになった。ウォール街でも数千人が参加し、逮捕者を多数出している。  日本ではどうか。朝日新聞の10月15日の記事にはこうある。 「東京・六本木の公園では正午ごろ、プラカードを手にした若者ら100人ほどが集まり、格差是正を訴えた。参加した学生の一人は『経済成長やグローバリズムを求めるのはやめよう。それは誰かを搾取していることだから』と話した」  写真入りで報じられている割には、参加者はわずか100人しかいなかったという。大手メディアの大半が無視したフジテレビへの反韓流デモだって、数千人は集まっていた。脱原発デモは数万人単位の参加者を集めている。それに比べれば、驚くほど小規模である。  さらに言えば、東南アジアでの参加者はもっと少なかったようだ。あまりソースがないので明確なことはわからないのだが、インドネシアのジャカルタでは20~30人程度がアメリカ大使館前に集合して「米帝国主義反対!」を叫んだだけだったようだし、フィリピンのマニラでも同じように参加者は数十人。おまけにこの参加者については、フィリピン在住の日本人男性がツイッターでこんな指摘をしていた。 「フィリピンでオキュパイデモに参加してたのは貧困層ではなくてネット環境が自宅に完備されてる良家の子息だと言う皮肉ww 貧困層はそんな事何も知らないし暇も無い」 ■「世界中の貧困層の団結」なんて、もはや不可能  前述のように、実態としては、先進国と途上国ではかなりの差があるようだ。ところがマスメディアでは「世界で盛り上がる反格差デモ」などと報じられている。例えば10月16日に、産経新聞はこんな記事を書いている。 「世代間の経済格差に気づかされた若者が自分たちの声を政治に反映させようにも人口構成上、有権者の中では少数派にとどまり、街頭を占拠して声を上げるしか道がない。インターネットを通じた『Occupy(オキュパイ=占拠せよの意)』という呼びかけに欧州やアジアの若者が一斉に反応したのは、構造的な矛盾へのいらだちを共有しているからに他ならない」  まあ言ってみれば、実にわかりやすい「反格差」「反グローバリゼーション」のスローガンがそこにはあって、そういうわかりやすいヒューマニズム(のようなもの)には大手紙は乗りやすいということでしかないのだろう。  だが「反格差」「反グローバリゼーション」の波は、本当に産経の言うように世界中を覆っているのだろうか?同記事ではこうも書かれている。
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■プレミアサイゾーとは? 雑誌サイゾーのほぼ全記事が、月額525円で読み放題!(バックナンバー含む) 【こんな記事もオススメ!】佐々木俊尚の「ITインサイド・レポート」森 達也×二木 信──公務執行妨害をでっち上げ!?デモに怯える公安警察の亀裂1万人以上が集結するなか、逮捕者も......「気楽に」「楽しく」だけじゃない! 反原発デモは正義なのか?

シャープ「GALAPAGOS」撤退騒動に見る電子書籍の本質

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自慢のアーカイブが、虚無の彼方に消え去
るかも......となれば、ちょっと考えます。
 2010年は「電子書籍元年」と呼ばれたが、実際のところ、日本においてはまだ電子書籍が広く普及したとは言えない状況だ。幅広いユーザーへと波及しないのはなぜなのか? 先般話題になったシャープの電子書籍リーダーをめぐる騒動からその本質を考察する。  9月中旬、シャープの電子書籍リーダー「GALAPAGOS」が「撤退へ」と、新聞各紙などで一斉に報じられる騒ぎがあった。たとえば日刊スポーツはいかにも扇動的な「ガラパゴス"絶滅"真価を見せられず」という見出しで、こう報じている。 「液晶画面に触れるだけで簡単に操作できるタブレット端末。その国産品の一角が脱落した。シャープは15日、昨年12月に鳴り物入りで発売した『ガラパゴス』の自社販売を今月30日で終了すると発表した。わずか10カ月の短命となった背景には、先行する米アップル社『iPad』の勢いに勝てず、電子書籍のコンテンツ不足などが重なった。さらに、人気の多機能携帯電話『スマートフォン』にもアピール力で及ばなかったことなどが浮上した」  最後の文章など何を意味しているのかわからず、いかにもスポーツ紙らしいIT音痴ぶりを発揮しているが、しかし一般紙などの記事もおおむね「撤退」という論調だった。  これに慌てたのが、シャープ自身。翌日になって「撤退は事実と異なる報道だ」と異例の声明をリリースした。自社販売は終了するが、アンドロイド搭載のGALAPAGOS製品に関しては通信キャリアのイー・アクセスから発売しており、今後も販売していく予定だというのである。そして同時に濱野稔重副社長が大阪の機械記者クラブで「GALAPAGOSは決して撤退しない。来年にも、さらに新モデルを追加販売する予定だ。今後もさらに魅力ある端末とコンテンツサービスの提供に努め、事業拡大を図る」と説明したのだった。  しかし、GALAPAGOSのビジネスが岐路に立たされているのは間違いない。その約10日後には、今度は配信プラットフォーム「TSUTAYA GALAPAGOS」からTSUTAYAが撤退し、同プラットフォームがシャープの100%子会社になるという発表も行われた。  そもそもGALAPAGOSの販売方式には、残念ながらかなり無理があったと言わざるを得ない。家電量販店で購入を申し込んでもその場で製品は受け渡しされず、後日シャープから直送されてくる形式になっていた(あるいは、シャープのオンラインストアでの購入)。なぜ直販方式を採用したかといえば、電子書籍のプラットフォームビジネスでは単にリーダーという家電製品を販売するだけでなく、リーダーを中心とした電子書籍エコシステムを包括的に利用してもらわなければならないからだ。そのためには、ユーザーに製品購入時に必ず決済やアカウントの登録をしてもらう必要がある。  シャープの担当者は今年初め、私の取材にこう答えている。
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125億ドルでモトローラを買ったGoogleアンドロイド陣営の真の狙い

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Googleマン&キャプテン・モトローラタッグ
の結成で、ケータイ市場で勝利をおさめる!?
 8月中旬、世界を驚かせたグーグルによるモトローラ・モビリティ買収劇。その異例の買収額も相まって、さまざまな憶測が飛び交った。果たしてグーグルの真の目的はどこにあったのか?ヒートアップする携帯OS戦争の行方を探る。  グーグルが、アメリカの通信機器大手モトローラ・モビリティを125億ドルという驚異的な金額で買収することを発表した。日本円にして、なんと1兆円に達しようという価格である。  モトローラは、コンピュータ業界に古くから接している人にとっては非常になじんだ企業名だ。設立は第二次世界大戦以前。1970年代末から80年代にかけては、インテルに張り合って68000シリーズと呼ばれる32ビットの高性能CPUを開発し、マニアックな人気を誇った。シャープのX68000なんてパソコンもあったほどだ。このシリーズはMacintoshにも搭載され、後継でIBMなどと共同開発されたPowerPCも含めれば、モトローラはずっとアップルの良き友だったのだ。  携帯電話の世界で言えば、同社から80年代末に登場したマイクロタック、そして90年代半ばのスタータックという端末は超カッコよかった。90年代半ばはまだ携帯の黎明期で、日本製の機器にはろくなデザインのものがなかった時代である。スタータックの小ぶりでソリッドなデザインは、多くのマニアの心をわしづかみにし、ちょっとレトロな「M」のマークに皆憧れた。  モトローラ携帯最後のヒット作は、04年のレーザー。iPhoneを先取りしていたような超薄型で優れたデザインだったが、これ以降はヒット作を出すこともなく、停滞してしまう。シェア争いではノキア、サムスンに引き離され、さらにiPhoneやアンドロイドの登場でスマートフォン化が進み、携帯電話の市場が大きく様変わりをしていく中で、独り置いてけぼりを食らう状況に陥ってしまったのだった。  携帯電話機器が極度の不振に陥ったことで、モトローラはこの分野の分社化を決意する。そうして11年初頭、モトローラは携帯電話とテレビ関連の機器事業を担当するモトローラ・モビリティと、ネットワーク関連機器などを扱うモトローラ・ソリューションズに分社されたのだった。  今回グーグルが買収したのは、前者のモトローラ・モビリティだ。スマートフォン戦争にすっかり乗り遅れ、かなり落ち目になってしまった社員1万9000人の大企業を1兆円もの巨費を投じて買収したのは、いったいなぜだったのだろうか?  グーグルは、買収の理由は特許戦争の防衛だったことを認めている。  スマートフォンの開発は特許のかたまりで、何か新しい機能を実装しようとすると必ずほかの企業の特許に抵触することになる。他社から提訴されればたいへんな訴訟費用がかかってしまうため、自社の持つ特許と「無料で特許を認め合う」というようなことを行って、特許訴訟を回避する。これがクロスライセンス契約と呼ばれるものだ。  ところが携帯電話OS「アンドロイド」を普及させようとしているグーグルは、携帯電話市場ではまったくの新参者。クロスライセンス契約を結ぼうにも、交換できる特許をほとんど持っていない。そしてこれをいいことに対立陣営は、アンドロイドの機器メーカーに特許訴訟を仕掛けてくるようになった。このままでは訴訟費用に負けてアンドロイド陣営は崩壊し、市場も収縮しかねない。そういう状況の中でグーグルは、大枚をはたいてモトローラを買収したのだ。なにしろ携帯電話市場の古株であるモトローラは、約1万7000件にも及ぶ携帯電話関連の特許を所有しているから。
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Google+が真に狙い定めるはフェイスブックよりツイッター!

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Google+参戦で激化するSNS三国志、覇権
争いになるのか、棲み分けを目指すのか?
──激変するITビジネス&カルチャーの深層を抉る!  SNS分野が苦手だと言われ続けてきたグーグルが、Google+で再びSNS市場に乗り込んできた。ツイッターが普及し、フェイスブックもユーザーを増やす日本では一見、同サービスの勝機は薄そうに見えるが、これが案外可能性があるようで......。  グーグルが「Google+(以下、G+)」という新しいソーシャルネットワーク(SNS)を始めた。まだβテスト中で、すでに使っているユーザーから招待をもらえないと登録できないが、しかしこれはフェイスブックとツイッターの長所ばかりをうまくすくい上げているサービスだ。日本で相当に普及していくのではないかと私は今予感している。  G+の特徴をこの連載の枠組みの中で文章で説明するのはかなり大変だが、わかりやすくほかのソーシャルメディアと比較すれば、次のような点にある。 ■フェイスブック:情報の発信者と受信者はフラットな「友だち」の関係。 だから発信者が友だちとして承諾してくれないと、受信者は発信者の書き込みは読めない。 ■ツイッター:情報の発信者に承諾を得る必要はなく、受信者は発信者を勝手にフォローすればその人の情報はすべて読める。 ■G+:ツイッターと同じように受信者は発信者を勝手にフォローできて、フェイスブックのように承認は必要ない。でも発信者が自分宛てにも情報を発信してくれるかどうかは、受信者には保証されていない。  フェイスブックは、今春に公開された実録映画『ソーシャル・ネットワーク』でもつぶさに描かれていたように、もともとCEOのマーク・ザッカーバーグがハーバード大学在学中に作ったSNSで、大学内の人間関係をそのままネット上に転写させることを最初の目的としていた。だからあくまでも、友人や知人とのつながりを確認し、仲間内での情報のやりとりを主眼とするSNSとなっている。  これに対してツイッターは、もっとオープンだ。ツイッターが画期的だったのは、140文字という短い文字数でのやりとりを生み出したことだけでなく、もうひとつある。それはフォローとフォロワーという非対称の関係性を持ち込んだことだ。フォローは勝手に行えるので、相手から承認を受ける必要はない。  そもそもリアルの世界においては、情報の流通は非対称でオープンである。マスメディアや有識者、言論人、有名タレント、あるいはさまざまな専門家など、情報は常に影響力の強い存在からその他大勢の人へと流れていく。しかも、それは閉鎖的な圏域の中ではなく、誰にでも触れられるオープンな空間に開かれている。  SNSも、フェイスブックの黎明期のように友人知人間のやりとりだけを扱うのではなく、インターネットならではの情報流通基盤へと進化していこうとするのであれば、このような「非対称かつオープン」性がどうしても必要になってくる。ツイッターは、そこにぐさりと刺さったというわけだ。
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GoogleTVにアプリが載る日、世界各国の産業構造が変わる!?

──激変するITビジネス&カルチャーの深層を抉る!
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「世界のテレビが、変わります」とでも言
われそうな、全く新しいテレビ像である。
 ワープロからパソコンへ、ガラパゴスケータイからスマートフォンへというように、テレビも進化する日が近そうだ。アプリ搭載型テレビの登場は、各企業のビジネスモデルのみならず、各国の産業政策をいやおうなしに変化させるだろう──。  GoogleTVという製品が2010年話題になったことがあった。これは、グーグルがソニーやインテル、PC周辺機器メーカーのロジテックなどと組んで発売したテレビ受像機だ。「番組とウェブの動画を同時に検索できる」といった機能が喧伝されているが、この機器は、実はテレビの世界を一変させる可能性を秘めている。  それは何かといえば、テレビ受像機にアプリがインストールできるようになるという可能性だ。現時点ではこの機能はまだだが、おそらく遠くない将来に実装され、そしてここを突破口に、アプリ化の波がテレビに押し寄せてくるのではないかと私は予測している。  ガラケーとスマートフォンの最大の違いは、このオープンなアプリケーションのプラットフォームとなっているかどうかだ。ガラケーは、キャリアが用意したアプリを使うことができるだけ。iモードなどでは外部アプリが利用可能にはなっているが、スマートフォンと比べると自由度は非常に低い。  プレインストールされたアプリから、入れ替え自由でオープンなアプリのプラットフォームへの転換。これはかつてワープロ専用機がパソコンに駆逐されていったのと同じ変化である。80年代に隆盛を誇ったワープロ専用機は、あらかじめワープロや表計算、カレンダーなどのアプリが用意されていたが、それほど使いやすいものではなかったし、機能が気に食わなくても入れ替えることができなかった。だから90年代に入ってパソコンが低価格になり、Windowsの普及によって使いやすさも高まってくると、消費者は一斉にパソコンへと移っていった。当然の流れである。そして今起きつつあるガラケーからスマートフォンへの移行も、同じ方向へと進むのは当然といえる。  そしてこの波が、今度はテレビにやって来るのではないかと私は考えている。現在のテレビ受像機は、完全に機能が固定化されていて入れ替えられない。これがアプリケーションが自由に入れ替えられるようになると、テレビ受像機の役割は劇的に多様化し、インテリジェント化していくことになる。つまりパソコンと同等の機器になっていくわけで、これこそが本当の「通信と放送の融合」ではないかと思うのだ。  そしてこのアプリ化は、テレビの垂直統合ビジネスを最終的に終わらせる引き金となる可能性を秘めている。
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ソーシャルメディアを生かしきるキュレーションってなんだ!?

──激変するITビジネス&カルチャーの深層を抉る!  今、「ソーシャルメディア」が勃興期を迎え、花盛りとなっている。ツイッターやフェイスブックに代表されるこの情報流通形態は、とにかく流れてくる情報の多さが特徴のひとつ。これをさばくために欠かせない"キュレーター"の存在について考察する。
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ソーシャルメディア社会では、多くの情報を見極
める"目利き"の存在が鍵を握る。
 先頃、『キュレーションの時代』 (ちくま新書)という本を上梓した。マスメディアによる情報流通という形態が徐々に衰退に向かって、その代わりにツイッターやフェイスブック、さまざまなクチコミサイトなどのソーシャルメディアを媒介にした情報流通がこれからは主流になっていく。そういう時代においては、無数の情報の中から「どの情報が良い情報なのか?」という選別をしてくれる目利きの人が重要になる。そしてソーシャルメディア上ではそのような目利きの人=キュレーターがあなたの前に無数に立ち現れてくる、というような未来図を描いた。  たとえばツイッターで良い情報をRTしている人もキュレーターだし、たくさんのレストランの中から自分の価値観に基づいてお店を推薦し、「食べログ」などにレビューを書いている人もキュレーターだ。電子書店で書評を書いている人もそうだし、さらにいえば2ちゃんねるなどの「まとめサイト」も立派なキュレーションである。2ちゃんねるには多くの掲示板があり、無数のスレッドが日々立ち上げられている。これらを網羅的に追いかけるのは一般の人にはほとんど不可能で、そこでまとめサイトがどこからか面白いスレッドだけを拾ってきて、しかもその中から意味のある書き込みだけをすくい上げて並べ替える。  キュレーションの定義を、私は「多くの情報を収集し、選別し、意味づけを行って、人々と共有すること」と解説しているが、2ちゃんねるの膨大な書き込みを収集し、そこから意味のある書き込みだけを選別し、それをひとつのストーリーの中に配置してまとめサイトとして配信するという行為は、まさしくキュレーションそのものということなのだ。  そもそもキュレーションを自らの意思と共に行おうという場合には、次のような要素が必要となる。 【1】質の高い情報を紹介していること。 【2】それらの質の高い情報を「どう読み取ればいいのか」という視点をきちんと提供していること。 「質が高い」といっても、「誰が読んでも面白く読める」ということを目指すわけではない。そういう情報はテレビや新聞などのマスメディアに任せておけばいいのだ。そういうマス的な情報を提供するのではなく、もっと専門的な分野で「ニッチだけど、そういう情報を欲しがっている特定少数の人には必ず読んでもらえそう」という分野がキュレーションの主な舞台となる。 「専門分野」という言葉を使うと、「自分にはそんな専門分野はない」「ただの会社員だし」と思う人もいるかもしれない。しかしここでいう専門分野とは、医療とか学術とか企業会計とか、そういう大それた専門分野だけを指しているわけではない。たとえばコンビニでアルバイトしている青年だって、コンビニの仕事の実態やアルバイトという仕事のあり方については、きっと普通の会社員よりずっと多くの知識や考えを持っているはずだ。そうした専門性を、キュレーションで発揮していくような可能性を私は考えている。  そして、このようにして収集した情報に、キュレーターたち自らが、自分の価値観や考え方をコメントして加えていく。「いま注目の記事」「必読」といったコメントだけではなく、「なぜ注目しているのか」「なぜ必読なのか」「なぜお薦めするのか」という自分なりの視座がなければ、受け手の側はその情報をどのように読み解けばいいのかわからない。「注目の記事」「注目の店」という情報だけでは、「自分にとっても注目すべきなのか?」という文脈を認識できないからだ。その部分の文脈をきちんと加えていくことが必要なのである。
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