
人は誰しも秘密がある。それは、家族の間でも同じだ。
しかし、人に知られずに味わう楽しみには、また違った面白さがあることも事実だ。
今、アイドルヲタク(通称:ドルヲタ)界隈で「けもの道」と呼ばれる人たちがいる。奥さんや子どもに内緒にしつつ、アイドルを楽しむ人のことである。
そんな「けもの道」の悲哀を描き、話題となっているマンガがある。
その名も『堂々とアイドル推してもいいですか?』(KADOKAWA)、通称『堂推し』。
家族に隠れて、アイドルを楽しむことの苦労はどんなところにあるのか? 今まであまり公にされることがなかった人たちの生体はどんなものなのか?
それらを知るため、作者の小城徹也さんにインタビューを行った。
* * *
――この作品を描くことになった経緯を教えてください。
小城徹也(以下、小城) 以前、“アイドルヲタク”をテーマにしたファンタジーマンガを描いたことがあるんです。宇宙人がやってきて、アイドルについて学ぶみたいな。それをKADOKAWAさんに持ち込んだ時に、編集の方から「リアルなアイドルヲタクについて描いてみてはどうか」と言われたのがきっかけですね。
――製作にあたり、実際にヲタクの方に取材をしたのでしょうか?
小城 元々私の周りにドルヲタの方がいたというのもありますし、より詳しく話を聞くために協力してもらったりしました。ちょうど「けもの道」の方も多かったので。その後は、ツイキャスや、飲み会などでも情報収集しましたね。
――9月5日には、「マンガワールド」というイベントに出演されましたね。
小城 以前描いていた『ももプロZ』(講談社)というマンガを出した時に、このイベントの関係者の方がモノノフ(ももいろクローバーZのファン)で、そこからお話をいただきました。『堂推し』の連載が始まった時に「コミックスが出たらまたやりたいね」という話をしていたんです。
――『堂推し』に出てくるアイドル(あらたなチューズ)が架空のグループなのは、何か理由があるのでしょうか?
小城 例えば、「ももクロ」と名前を出しちゃうと、そのファンしか見てもらえないのではないかという懸念がありましたね。ただ、描き始めた当初は、ももクロしかアイドルに詳しくなかったので、ベースはももクロになってます(笑)。
――モノノフになったきっかけは?
小城 2012年の夏ぐらいに、ももクロがたくさんテレビ番組に出ていた時期があるんです。今思うと、アルバムが発売されて、その宣伝もあったようですが、『しゃべくり007』(日本テレビ系)とか、『ゴッドタン』(テレビ東京)を見ていて、「なんだか変わった子たちだな」と思いまして。
それまで、バラエティ番組に出ているアイドルというと、芸人においしくいじってもらって終わる、みたいな感じだったじゃないですか。でも、ももクロは逆に芸人の方があたふたしちゃうようなトークをしていて、そこが新鮮だと思いました。それまで見たことないアイドルだなと感じました。
――それから曲を聴き始めたということですか?
小城 そうですね。それまでのアイドルって、恋愛ソングみたいのが多い印象だったのですが、歌もちょっと変わってる感じで良かったですね。ライブに行ったのは、関係者席で見た「男祭り 2012-Dynamism-」が一番最初でした。コールはすごいし、お神輿が客席に入ったりで、カルチャーショックでしたね。他のアーティストのライブとはだいぶ違いました。
――マンガだと、主人公の奥さんはアイドル嫌いですが、小城さんがももクロにハマった時、奥様の反応はいかがでしたか?
小城 それが、資料でいただいたライブDVDを家に置いておいたら、妻が勝手に見て勝手にハマってくれたんですよ(笑)。仕事という免罪符もあったんで、うちはけもの道を免れました(笑)。
――ヲタク同士の横のつながりみたいなものは、すぐにできたんでしょうか?
小城 2013の日産スタジアムの「夏のバカ騒ぎ WORLD SUMMER DIVE 2013.8.4」が最初ですね。『堂推し』を描き始めた頃、ももクロはもう「握手会」とか「特典会」をやってなかったので、それがどういうものかわからなかったんです。なので、そうやって広がっていった横のつながりだったり、Twitterでもオススメを聞いたりして他の現場に行ってみました。
周りに元々スタダDD(ももクロが所属するスターダストプロモーションのアイドルを追いかけている人)界隈の方が多かったので、最初に行ったのは3Bjunior内の「ロッカジャポニカ」だったかな? その次が確か、「GRAZIE4」。あと、アイドルにもモノノフの方が多いので、「この子、モノノフでアイドルだから来て欲しい」という声も多くて、ライブを観に行ったりしましたね。
――今年の夏は、アイドルフェスなども行かれていたようですね。
小城 7月の「アイドル横丁夏まつり!!」では「プレイボールズ」が一番気になりました。Twitterでオススメを聞いて、自分なりのタイムテーブルを作ったりしました。あとは、ドルヲタのみなさんとの交流を含めて行った部分もあったので、そこでも楽しみがありました。
――今作では、「まだ描きたいことがある」という終わりになっていましたけど、具体的には今後どんなことを描きたいですか?
小城 ドルヲタあるあるでいったら、まだ山ほどネタがあるので、それは描いていきたいです。あとは、「会社バレ」とか「親戚バレ」みたいなのは面白いかなと思います。主人公を苦しめる展開にしたいので(笑)。
やっぱり、“アイドル”というよりは“アイドルヲタク”を描きたくて。今Twitterに、『ガチ恋40』っていうアイドルにガチ恋したおっさんのマンガをアップしています。アイドルのものは今までもありましたが、アイドルヲタクものっていうのはあまりないので、そっちの方が自分には向いてるのかなと。
アイドルや、アイドル運営目線のものも描いてみたんですけど、あまりピンとくるような感じじゃなかったんですよね。自分はドルヲタの知り合いが多くて、そっちの方が合ってるのかなと感じているので、その方面の方に喜んでもらいたいなと思っています。
――このマンガを通して伝えたいことは何でしょうか。
小城 やはり、世間的には、ヲタクに対する偏見があるじゃないですか。そういうのがなくなったらいいですよね。
――ただ、ちょっとした後ろめたさって、逆に楽しみが増幅される感じもありますよね。
小城 ちょっとしたところだったらいいですよね。「離婚届がどうの……」みたいなヘビーな話も聞いているんで、一概には言えませんが(笑)。
――小城さんから見て、「アイドルとヲタク」の関係性とは?
小城 キレイに言うと「心の支え合い」じゃないでしょうか。今作品でも、単に「この子カワイイな!」という理由ではなく、心を病んでいる時に偶然目にしたり、耳にしたことがきっかけでファンになる過程を描いています。実際に、そういったきっかけでファンになったという話はよく聞きますしね。
――“ドルヲタの良さ”は何だと思いますか?
小城 「いい意味で変わった人はいるけど、怖い人がいないところ」ですかね。初対面でも接しやすいです。もう、初めての現場に行くと、アイドルよりヲタクを見ちゃうくらい。すごい奇抜な格好してる人もいたりして(笑)。
――最近のアイドルで、面白いなと思う子はいますか?
小城 「アイドルネッサンス」の石野理子ちゃんのTwitterは面白いですね、尖ってて(笑)。アイドルもキャラが被るくらいだったら、ありのままの自分を好きになってもらう方がいいと思っているんじゃないかと思います。他には「notall」と「きゃわふるトルネード」ですね。本を書かせていただいたりもしてますし、きゃわふるトルネードのかれんちゃんのお父さんがドルヲタなんですよ。お話もしたんですけど、「今度そういうマンガ描いてよ」と言われちゃいました。
――最後に、改めて今作の紹介をお願いします。
小城 やはり、好きなことをやっていけるのは一筋縄ではいかないということを知ってほしいです。偏見もありますし。でも、やっぱり好きなことはやっていった方がいいと思いますよ。くじけずに頑張って欲しい、そんな気持ちを込めたマンガです。
* * *
インタビューを通して、「アイドルヲタクのあるある」を描いた作品ながら、小城さんのアイドルに対する思い、アイドルヲタクに対する思いがあふれた作品であることに、あらためて気付かされた。
アイドルファン、そしてアイドルファンの気持ちを知りたい人には必読の一冊であろう。
(取材・文=プレヤード)

『堂々とアイドル推してもいいですか?』(KADOKAWA)
■『堂々とアイドル推してもいいですか?』
著 者:小城徹也 Twitter:
@kojotetuya
出版社: 株式会社KADOKAWA
価 格:580円(税別)