コミックマーケットなどの大型同人イベントでおなじみの「献血バス」。漫画、アニメ、ゲームの限定ノベルティが出ることもあり、盛況を博しているように見えるが実態はどうなのか? コミックマーケットをはじめとした同人イベントや、その他アニメ、漫画、ゲームなどとコラボした献血の現状と実態について、日本赤十字社に話を聞いた。 ■コミケの献血バスは20年の歴史あり ――コミックマーケットをはじめ、大型同人イベントで献血バスが来るのはおなじみの光景ですが、いつ、どのような経緯で献血バスの配車を始めたのでしょうか。 日本赤十字社(以下、日赤) コミックマーケットには1997年から配車を行っています。コミックマーケット運営事務局に献血協力を依頼しましたところ、事務局のスタッフの方の中に輸血を受けられた経験のある方がいらっしゃったこともあり、献血バスの配車が実現しました。 ――配車は20年目になるんですね。近年では献血者に人気の漫画、アニメ、ゲームのノベルティを出しているケースも多いですよね。 日赤 ポスター等の記念品を付加した「コミックマーケット献血応援イベント」は2011年12月開催のコミックマーケット81から行っています。こちらの企画はコミックマーケット準備会の方からご提案いただきました。 なお、2013年の12月からは、コミックマーケットなどのイベントが終わった後も、全国の血液センターでも同じノベルティを配布するキャンペーンを展開しています。 ――地方在住で、首都圏のイベントに行けない人でも同じノベルティを手に入れられるのは助かりますね。どういったノベルティが付けられることが多いですか? 日赤 ポスターが多く、「コミックマーケット献血応援イベント」では、毎年異なるデザインのポスターを配布しています。また、コミックマーケット89ではそのほかにTCGカードを、コミックマーケット91ではタペストリーを配布しました。 ■若年層の献血協力はここ10年で30%減少している ――献血バスは同人イベントに限らず、人の多く集まるイベントによく来ていますが、同人イベントならではの特徴を感じることはありますか? 日赤 やはり若年層の方を中心にご協力いただいているところに特徴があります。東方紅楼夢(東方Projectの同人イベント)では、10代~30代の献血者が9割以上を占めていました。若年層の方の献血者数は年々減少しており、2006年における10~30代の献血者数は約293万人でしたが、2015年には約204万人と、30%も減少しています。こういったイベントでのご協力が貴重な機会となっています。 ――少子高齢化が献血協力にも影響しているんですね。たとえばコミックマーケットの場合、一日でどのくらいの血液が集まるものなのでしょうか。 日赤 コミックマーケット91の開催期間中(12月29日~31日の3日間)に、会場付近の献血会場でご協力いただいた献血者数は合計1,733名、献血バス1台当たりの1日平均献血者数は約72名になりました。平成28年度における東京都内の献血バス1台当たりの平均献血者数は約43名であることから、バス1台あたり約1.7倍の方にご協力いただいた形になります。 ――献血バスだけでなく、アニメ『文豪ストレイドッグス』と血液センターとアニメイトが提携した献血キャンペーンがありました。こういった、アニメや漫画、ゲームと提携した献血のキャンペーンも増えていますか? 日赤 はい。過去には『NARUTO-ナルト-』(関東甲信越ブロック血液センター)、『ガールズ&パンツァー』(茨城県赤十字血液センター)、『氷菓』、『のうりん』(岐阜県赤十字血液センター)、『ONE PIECE』(日本赤十字社)、『甲鉄城のカバネリ』(東京都赤十字血液センター)などのキャンペーンを開催しました。 「コミックマーケット献血応援イベント」の開催以降、首都圏に限らず全国的な動向として、イベントへの献血バスの配車以外にも様々なキャンペーンやコラボを行っています。 ――こういったイベント情報を知るにはどうすればいいのでしょうか? 日赤 イベント及びキャンペーンは各都道府県の血液センターが中心となって実施しています。そのため、現状では全国的な動向を取りまとめたWebサイトやTwitterのアカウントはございませんが、今後も各地域で様々なキャンペーンが行われていくこととなりますので、まずはお近くの血液センターのホームページをご参照いただければ幸いです。 * * * 私自身は同人イベントでの献血経験はないが、献血はたまにする。珍しい血液型ではないが、一度「特定患者さんへの献血のお願い」として、「現在、HLA(白血球)型の適合する患者さんが血小板輸血を必要としております。一般的にHLAの適合は数百人から数万人にお一人と大変少なく、血液の供給が非常に困難な状態です」といった献血の要請が来たことがあり、「数万人に一人」にくすぐられ使命感に燃え献血してきたものだ。数年前だが、いまだにそれを思い出すといい気分になる。献血は「やりたいと思ったときにできて(献血の間隔はあるが)人と継続的に関わらなくていい」というところが、私も含め「ボランティア」という言葉の持つ雰囲気に圧を感じるタイプにとって、敷居が低くてやりやすいボランティアだといえる。 年末年始だけでなくゴールデンウィークも献血協力が得られにくくなるとのこと。大型連休でイベントや献血会場のある都市部に出る人は、献血ルーム等で献血がてら一休みするのも手だ。 (文/石徹白未亜 [http://itoshiromia.com/])日本赤十字社ホームページより。一日3000人は想像以上と思う人も多いはず
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木村拓哉が『無限の住人』劇中で観客に感謝のカメラ目線!? サプライズに涙するファンも
29日に公開初日を迎えた元SMAP・木村拓哉が主演の映画『無限の住人』。本作は人気の同名人気NEO時代劇マンガ(作:沙村広明/講談社)を三池崇史監督が実写化に挑んだもの。 実写映画の公開が発表されたのと前後して、SMAPの解散報道が世間を騒がし始めるという不運もあったが、木村は不死身の剣客としてワイルドに戦う万次を演じており、その殺陣シーンの予告編ではアクションの頑張りに、期待するファンも現れるほどのものとなった。 そんな本作のジャパンプレミアイベントが4月19日に開催。木村たちが上映前に舞台挨拶に立ったが、上映後にも杉咲花、三池崇史監督と舞台挨拶に立ち、集まったファンたちを驚かせたという。 「キムタクは上映を2階席で鑑賞していたみたいなんです。上映が終わって会場内が明るくなった瞬間に、キムタクに気づいたファンが拍手と歓声を送っていて。このサプライズに涙を流している熱心なキムタクファンも多かったです。場内は圧倒的に女の人のファンが多かったんですけど、キムタクが舞台挨拶をしている最中に、客席の男性から『最高!』という声がかるなど、男性の支持もゲットできたんじゃないかなと思いました」(イベントに参加した20代女性) 意外なことに木村にとってはこれが上映後の舞台挨拶は初めて。客席の反応に興味深々だったようだ。 「客席の人たちがどこで笑うかとかの反応を見ていたらしくて、実際に笑い声が上がったことがキムタクもうれしかったみたいで『ここでみなさん笑う人は笑うんだ』『いまはじめて映画が出来上がったような気がしました』と、手応えを感じていたようです」(前出の20代女性) と、木村もだいぶ気をよくしていたようで、思わず裏話も飛び出したのだとか。 「カメラ目線をガッチリ決めるシーンがあったんですけど、これはキムタクが『観てくれた人に何か残せないと思って。カメラのレンズを思い切り見て何か残ればと思って』と、観てくれた人への感謝を画面の中からでも伝えたかったと解説していました。いろんな想いが詰まっているんでしょうね……」(前出の20代女性) 木村の想いが多くこもっているらしい本作。どのような結果を残すことができるのか、気になるところだ。映画『無限の住人』公式Twitter(@mugenmovie)より
大臣辞職でさらに注目度アップ! 福島ガイナックスと『エヴァ』ネクタイの関係とは?
東日本大震災の被害を巡る“失言”で、26日、復興相を辞任した今村雅弘衆議院議員。連日、各メディアがこのニュースをかなりの時間・紙幅をもって伝えているが、そこでまたもや注目を集めてしまっているのが、今村議員が締めていた『新世紀エヴァンゲリオン』(以下、『エヴァ』)柄のネクタイだ。 遠くから見ても、アニメのキャラクターがプリントされているなと分かってしまう例のネクタイ。まず今月4日の定例会見で、今村議員が東京電力福島第1原発事故に伴う自主避難者の帰還に関して、執拗に質問した記者に対して「撤回しなさい」などと激高。その発言を釈明した際に着用していたことで、ネット上の『エヴァ』、アニメファンの間で話題に。 その後、あのネクタイは過去に『エヴァ』の版権を持っていたガイナックスが発売したもので、今村議員が「福島ガイナックス社」を訪れた際に、プレゼントされたものだと判明。「福島の企業を応援するため、元気にするため」にと、マメに着用していたそうだが、変な形で注目を浴びてしまうという、皮肉な結果となってしまったわけだ。 4日の定例会見~釈明後の6日には、株式会社カラーは公式Twitter(@khara_inc)で、「復興相がエヴァ柄のネクタイを着用されていた件について、作品が福島復興のお役に立つのであれば嬉しい事なのですが、福島の企業と『エヴァンゲリオン』は無関係ですし、弊社としてはあずかり知らぬ事で当惑しております。本件に関する弊社への取材・お問い合わせはご遠慮下さいますようお願い致します」と告知。 さらに今回の“失言”後には『エヴァ』シリーズのキャラクターデザインを務め、コミック版も手掛けた貞本義行氏もTwitter(@Y_Sadamoto)で「俺の絵のついたネクタイしてくれなくていいですよ!」「しかもその漫画は復興させんといけん会社とは、もう何の関係も無くなっちょるしの〜」とつぶやいている。 カラーと貞本氏が口をそろえているように、ガイナックスと、『エヴァ』シリーズや『シン・ゴジラ』の監督として知られる庵野秀明氏が代表取締役を務め、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』シリーズを制作しているカラーは別会社。昨年12月には、カラーがガイナックスに対して借入金の支払いを求め、訴訟も起こしている。 そして『エヴァ』の版権も、以前は(C)表記が「カラー・GAINAX」と2社表記になっていたが、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』の公式サイトではいつの間にか「(C)カラー/Project Eva. (C)カラー/EVA製作委員会 (C)カラー」となっており、ガイナックスの文字が消えている(※商品化の企画・開発・販売、著作権の管理などは株式会社グラウンドワークスが行っている)。 しかもガイナックスは福島以外にも、米子、京都、新潟、GAINAX WEST、と“ガイナックス”の名を冠する企業を立ち上げてきたが、それらは資本が連携していないことを、訴訟が報道された際に、公式サイトで発表している(福島ガイナックスも設立当初はガイナックスの関連会社であったが、15年12月に全株式を引き取り、現在は独立会社であると説明している)。 つまり、今村議員に『エヴァ』ネクタイをプレゼントした福島ガイナックスと『エヴァ』は距離が近いように見えて実は遠く、その上なぜそんなグッズを大臣にプレゼントしてしまったのか? という疑問も残る、やや複雑な関係となっており、何もしてないのに現在『エヴァ』の版権を持つカラーがひたすら迷惑しているという、カラーには大変気の毒な状況となっているのだ。 なお『エヴァ』ネクタイは、今村議員が着用していたキャラの顔がしっかりわかる「貞本義行コミックタイプ」(税込8,424円)に加え、使徒サキエルとイスラフェルを図案化した「使徒タイプ」、「新NERVマーク柄」など複数のタイプが発売されているが、『エヴァ』グッズを取り扱うオフィシャルサイト「EVANGELLION SOTRE」ではそれぞれ売り切れ状態となっている(4月28日現在)。釈明中の今村議員を見て「あのネクタイ、格好いい!」と思った方は注意しよう。「EVANGELLION SOTRE」より
『けものフレンズ』でブレイクした「irodori」・たつき監督の軌跡 「自主制作アニメが盛り上がっていくといいなあ」
TVアニメ最終話の放送から1カ月が経過しようとしている『けものフレンズ』。だが、放送終了後も次々とコラボ企画、多様なグッズの発売など展開を広げ、ファンを飽きさせることがない。まだまだ『けものフレンズ』が生み出す熱気は収まりそうにないが、その中でたつき監督が「irodori」名義の活動にて、ネット上に公開してきた自主制作アニメにも関心を向けるファンも多いようだ。
「irodoriは、アニメーションの自主制作・頒布を目的としている制作集団」(公式サイトより)。たつき監督はTwitter(@irodori7)でも「たつき/irodori(けものフレンズ)」と名乗っていることで、初めてその名を認識したファンも多いだろう。 その「irodori」がもっとも最近に動画をアップしたのは今年の元旦。『けものフレンズ』の本放送を目前とした中でも自主制作を続けていたことに対し、驚きの声を挙げるファンも多かった。本稿では、たつき監督が『けものフレンズ』に至るまでを、“自主制作”の視点から振り返っていく(界隈の動向を追い続けていると、度々こうした事例が現れるので面白い)。 ■「我々もほそぼそずっと制作していくつもりです」 たつき監督のコメントに一貫性 「irodori」(メンバーは現在3名)は2008年9月から毎月数秒・数分、自主制作したものをニコニコ動画にアップしてきていた。これまでのラインナップは『眼鏡』から順に、『デスメタルさやかと仏滅』『たれまゆ』『ケムリクサ』『のための』『らすとおんみょう』『駅長さん』『???』となっている。 各作品は、話がまとまったところで1本に繋げられる。最初の作品『眼鏡』が完成したのは09年8月(10年前後当時は『フミコの告白』(石田祐康)、『オオカミはブタを食べようと思った。(オオカミとブタ)』(竹内泰人)、『中学星』(清水誠一郎)といった、自主制作作品が話題となっていた時期でもある)。 『眼鏡』は10年3月、「第8回インディーズアニメフェスタ」にてノミネート上映もされた。また同年6月、たつき監督はASCII.jpより「ネットは『アニメの全体』学べる小さな社会 『眼鏡』監督に聞く」と題したインタビューを受けている。当時のたつき監督の心境を窺えるので確認しておきたい(記事タイトルで検索すればヒットする。ググってみよう)。画像:「irodori」公式サイトより
また同年10月には同じく『眼鏡』が、「第22回CGアニメコンテスト」にて入選上映。この「CGアニメコンテスト」は、第12回(00年)に『君の名は。』の新海誠監督が自主制作した『彼女と彼女の猫』でグランプリを受賞するなど、アニメを自主制作するクリエイターにとって目標の1つとして知られるコンテストだ。 上映の当日、たつき監督は表彰を受けるため来場、さらに自身の作品を販売できる「作家市」にも出店した。ここで注目したいのは入選に際して寄せられていたコメント。たつき監督は『眼鏡』の作品概要とニコニコ動画での応援に感謝した後、次のように終えていた。 「自主制作アニメが盛り上がっていくといいなあ……と思います 我々もほそぼそずっと制作していくつもりです 一緒にワイワイやりましょうー」 どうだろう。元旦ですら自主制作を続け、動画をアップしているのだから、当時から一貫していることが分かる。そして「我々」とあるだけでフレンズたちの会話が聞こえてきてしまう人は、立派なジャパリパークの住民。“けもフレ考察班”にとっても価値がある耳寄りな情報ではないだろうか。画像:「第22回CGアニメコンテスト」の作家市にてたつき監督(2010年)
■“パークの危機”? 自主制作アニメのクリエイターが集まる場所は縮小傾向 「irodori」は同じく「CGアニメコンテスト」の、12年10月の第24回大会で『ケムリクサ』で作品賞を受賞。さらに、同年3月には「東京国際アニメフェア(TAF)2012」の「クリエイターズワールド」にも出展している(「クリエイターズワールド」には前年に出展予定だったところ、東日本大震災の発生でイベントそのものが中止に)。 この「クリエイターズワールド」は03年から「TAF」内に設けられ、13年に「TAF」が終了するまで実施されていた。出展枠に限りがあるため審査はあるものの、認可されれば無償で展示ブースを得られたのが特徴。さらにパネルなど、ブース内の装飾も範囲内で行えば無償だった。画像:「PROJECT TEAM DoGA」公式サイトより『眼鏡』(上)『ケムリクサ』(下)
「TAF」が11年、東日本大震災で中止となったこととは別に、児童ポルノ禁止法に関する都条例改正問題から端を発し、「アニメコンテンツエキスポ(ACE)」と分裂していたことを覚えている人も多いだろう。「TAF」と「ACE」の分裂は12年、13年と続き、14年からは「ACE」に統合されるような形で新たに「AnimeJapan」が開催。 そして、「TAF」で実施されていた「東京アニメアワード」は、一般社団法人日本動画協会が主催し、東京都が共催する国際アニメーション映画祭「東京アニメアワードフェスティバル(TAAF)」として独立・発展し、開催されるように。 しかし、かつて「TAF」で開催されていた「クリエイターズワールド」に該当する展示が、引き継がれることはなかった。詳細は14年に「TAF名物『クリエイターズワールド』の続きはここで? 盛況のANIME SAKKA ZAKKAと“難民”問題」にて記している(記事参照)。 自主制作アニメのクリエイターが集まる場所は、『けものフレンズ』的になぞらえるなら、それぞれの“ちほー”は、大きく「映画祭・コンテスト」「同人誌即売会」「見本市・展示会」に区分されるだろう。「irodori」は各映画祭・コンテストに加え、「コミックマーケット」「COMITIA」など「同人誌即売会」にも参加しているので、その生息域は広い。画像:「ケイ・コーポレーション」公式サイトより
ただ「同人誌即売会」の場合は、「映画祭・コンテスト」「見本市・展示会」よりも自主制作アニメのクリエイターを探しにくい。薄い本やペーパーを作成するようなフットワークで動けず、参加者の絶対数が少ないのもあるにしても、そもそも自主制作アニメだけの島があるわけではないため、サークルがバラけてしまっているからだ。 そうした状況も鑑み、「COMITIA」には各自のサークルスペースを掲載した合同パンフレットを作成して活動をアピールする「アニメ部」がある。「irodori」も参加することが多いが、参加サークル全てに周知されていくことを希望する(ちなみに「クリエイターズワールド」を運営していたのは「ケイ・コーポレーション」なので、「COMIC CITY」内でオンリー島を作れないのかといった趣旨の話をしてみたこともあるのだが、園反応は芳しくない)。 15年8月の「COMITIA 113」にて「irodori」がサークル参加していた際、たつき監督と仕事の話よりも他の“ちほー”のクリエイターと会う機会が減った、という会話をした記憶がある。「CGアニメコンテスト」も続いてはいるものの、上映会が行われなくなった。出来の良い作品がネット上にアップされても再生数が伸び悩む。この先、自主制作アニメが盛り上がる機運はあるのだろうか。ある意味“パークの危機”なのだ。 (取材・文/真狩祐志) ■irodori http://www.iro-dori.jp/画像:「アニメ部のブログ」より
『けものフレンズ』でブレイクした「irodori」・たつき監督の軌跡 「自主制作アニメが盛り上がっていくといいなあ」
TVアニメ最終話の放送から1カ月が経過しようとしている『けものフレンズ』。だが、放送終了後も次々とコラボ企画、多様なグッズの発売など展開を広げ、ファンを飽きさせることがない。まだまだ『けものフレンズ』が生み出す熱気は収まりそうにないが、その中でたつき監督が「irodori」名義の活動にて、ネット上に公開してきた自主制作アニメにも関心を向けるファンも多いようだ。
「irodoriは、アニメーションの自主制作・頒布を目的としている制作集団」(公式サイトより)。たつき監督はTwitter(@irodori7)でも「たつき/irodori(けものフレンズ)」と名乗っていることで、初めてその名を認識したファンも多いだろう。 その「irodori」がもっとも最近に動画をアップしたのは今年の元旦。『けものフレンズ』の本放送を目前とした中でも自主制作を続けていたことに対し、驚きの声を挙げるファンも多かった。本稿では、たつき監督が『けものフレンズ』に至るまでを、“自主制作”の視点から振り返っていく(界隈の動向を追い続けていると、度々こうした事例が現れるので面白い)。 ■「我々もほそぼそずっと制作していくつもりです」 たつき監督のコメントに一貫性 「irodori」(メンバーは現在3名)は2008年9月から毎月数秒・数分、自主制作したものをニコニコ動画にアップしてきていた。これまでのラインナップは『眼鏡』から順に、『デスメタルさやかと仏滅』『たれまゆ』『ケムリクサ』『のための』『らすとおんみょう』『駅長さん』『???』となっている。 各作品は、話がまとまったところで1本に繋げられる。最初の作品『眼鏡』が完成したのは09年8月(10年前後当時は『フミコの告白』(石田祐康)、『オオカミはブタを食べようと思った。(オオカミとブタ)』(竹内泰人)、『中学星』(清水誠一郎)といった、自主制作作品が話題となっていた時期でもある)。 『眼鏡』は10年3月、「第8回インディーズアニメフェスタ」にてノミネート上映もされた。また同年6月、たつき監督はASCII.jpより「ネットは『アニメの全体』学べる小さな社会 『眼鏡』監督に聞く」と題したインタビューを受けている。当時のたつき監督の心境を窺えるので確認しておきたい(記事タイトルで検索すればヒットする。ググってみよう)。画像:「irodori」公式サイトより
また同年10月には同じく『眼鏡』が、「第22回CGアニメコンテスト」にて入選上映。この「CGアニメコンテスト」は、第12回(00年)に『君の名は。』の新海誠監督が自主制作した『彼女と彼女の猫』でグランプリを受賞するなど、アニメを自主制作するクリエイターにとって目標の1つとして知られるコンテストだ。 上映の当日、たつき監督は表彰を受けるため来場、さらに自身の作品を販売できる「作家市」にも出店した。ここで注目したいのは入選に際して寄せられていたコメント。たつき監督は『眼鏡』の作品概要とニコニコ動画での応援に感謝した後、次のように終えていた。 「自主制作アニメが盛り上がっていくといいなあ……と思います 我々もほそぼそずっと制作していくつもりです 一緒にワイワイやりましょうー」 どうだろう。元旦ですら自主制作を続け、動画をアップしているのだから、当時から一貫していることが分かる。そして「我々」とあるだけでフレンズたちの会話が聞こえてきてしまう人は、立派なジャパリパークの住民。“けもフレ考察班”にとっても価値がある耳寄りな情報ではないだろうか。画像:「第22回CGアニメコンテスト」の作家市にてたつき監督(2010年)
■“パークの危機”? 自主制作アニメのクリエイターが集まる場所は縮小傾向 「irodori」は同じく「CGアニメコンテスト」の、12年10月の第24回大会で『ケムリクサ』で作品賞を受賞。さらに、同年3月には「東京国際アニメフェア(TAF)2012」の「クリエイターズワールド」にも出展している(「クリエイターズワールド」には前年に出展予定だったところ、東日本大震災の発生でイベントそのものが中止に)。 この「クリエイターズワールド」は03年から「TAF」内に設けられ、13年に「TAF」が終了するまで実施されていた。出展枠に限りがあるため審査はあるものの、認可されれば無償で展示ブースを得られたのが特徴。さらにパネルなど、ブース内の装飾も範囲内で行えば無償だった。画像:「PROJECT TEAM DoGA」公式サイトより『眼鏡』(上)『ケムリクサ』(下)
「TAF」が11年、東日本大震災で中止となったこととは別に、児童ポルノ禁止法に関する都条例改正問題から端を発し、「アニメコンテンツエキスポ(ACE)」と分裂していたことを覚えている人も多いだろう。「TAF」と「ACE」の分裂は12年、13年と続き、14年からは「ACE」に統合されるような形で新たに「AnimeJapan」が開催。 そして、「TAF」で実施されていた「東京アニメアワード」は、一般社団法人日本動画協会が主催し、東京都が共催する国際アニメーション映画祭「東京アニメアワードフェスティバル(TAAF)」として独立・発展し、開催されるように。 しかし、かつて「TAF」で開催されていた「クリエイターズワールド」に該当する展示が、引き継がれることはなかった。詳細は14年に「TAF名物『クリエイターズワールド』の続きはここで? 盛況のANIME SAKKA ZAKKAと“難民”問題」にて記している(記事参照)。 自主制作アニメのクリエイターが集まる場所は、『けものフレンズ』的になぞらえるなら、それぞれの“ちほー”は、大きく「映画祭・コンテスト」「同人誌即売会」「見本市・展示会」に区分されるだろう。「irodori」は各映画祭・コンテストに加え、「コミックマーケット」「COMITIA」など「同人誌即売会」にも参加しているので、その生息域は広い。画像:「ケイ・コーポレーション」公式サイトより
ただ「同人誌即売会」の場合は、「映画祭・コンテスト」「見本市・展示会」よりも自主制作アニメのクリエイターを探しにくい。薄い本やペーパーを作成するようなフットワークで動けず、参加者の絶対数が少ないのもあるにしても、そもそも自主制作アニメだけの島があるわけではないため、サークルがバラけてしまっているからだ。 そうした状況も鑑み、「COMITIA」には各自のサークルスペースを掲載した合同パンフレットを作成して活動をアピールする「アニメ部」がある。「irodori」も参加することが多いが、参加サークル全てに周知されていくことを希望する(ちなみに「クリエイターズワールド」を運営していたのは「ケイ・コーポレーション」なので、「COMIC CITY」内でオンリー島を作れないのかといった趣旨の話をしてみたこともあるのだが、園反応は芳しくない)。 15年8月の「COMITIA 113」にて「irodori」がサークル参加していた際、たつき監督と仕事の話よりも他の“ちほー”のクリエイターと会う機会が減った、という会話をした記憶がある。「CGアニメコンテスト」も続いてはいるものの、上映会が行われなくなった。出来の良い作品がネット上にアップされても再生数が伸び悩む。この先、自主制作アニメが盛り上がる機運はあるのだろうか。ある意味“パークの危機”なのだ。 (取材・文/真狩祐志) ■irodori http://www.iro-dori.jp/画像:「アニメ部のブログ」より
信仰だけではない“楽しめる場”としての神社へ──宮司も期待を寄せる神田明神の新スポット「明神カフェ」
4月14日、神田明神の鳥居の横にオープンした「明神カフェ」。さまざまなアニメとのコラボイベントやメニューを打ち出す「ビストロエンターテイメント」は「聖地・秋葉原」の新たなスポットとして、魅力と課題とを提示しようとしている……。 数年前の大みそかの朝、私は神田明神の祭務所の裏にいた。 その前日、私はコミックマーケット3日目の取材のために、東京ビッグサイトの中で団子のように揉まれていた。ふいに、パンツのポケットに入れていたiPhoneのバイブレーションを太ももで感じた。電話の主は、エクスアーツ・ジャパン株式会社の和田昌之だった。 「取材に来てくれませんか……」 少し申し訳なさそうな口調だった。さまざまなマンガ・アニメイベントのプロデューサーや、グッズ制作などを手がける和田は、それまでも何かと私に取材を依頼してきていた。 「神田明神の境内に、海洋堂コラボの縁起物フィギュアのガチャガチャが設置されたり、新しいコラボグッズの物販スペースが登場するんですよ」 いつからかと聞くと、さらに申し訳なさそうな声が聞こえてきた。 「明日の9時からなんです……」 私はすぐさま快諾した。その年のコミケは珍しく30日が最終日であった。たいていのオタクは3日間の疲れを癒やしながら、戦利品の観賞に忙しい日だろう。それでも、疲れ知らずでガチャガチャを回したりグッズを買いにやってくるのは、どんな人々なのだろうかと興味が湧いたからだ。 きっと、熱心な人々は早くから集まっているに違いない。そう思った私は、朝8時半には、もう現地に到着していた。スペースが設置されたのは、祭務所の裏。男坂の階段を昇りきったところであった。のぼりはあったものの、どこか寂しそうな感じはあった。けれども、徐々に人は集まり始めていた。午前9時前になると、ささやかながら行列ができていた。 時間になると、10台あまり並んだガチャガチャの前で、みな何度もガチャガチャを回し、グッズを買い求めていた。列はさほど長いものではなかったが、その後もやってくる人が途切れることはなかった。 私も、ガチャガチャ回してみることにした。何しろフィギュアメーカーとして、生み出す製品の質では定評のある海洋堂とのコラボである。いったい、どんなフィギュアが入っているのか気になったからだ。出てきた巫女さんのフィギュアの質は満足いくものだった。ただ、そこに一緒に封入されていたおみくじは「大凶」だった。もちろん、おみくじは吉凶の部分よりもそこに記されている言葉が重要なのはわかっている。とはいえ、一年の締めくくりの日に「大凶」を引いてしまうのは、よい気分ではなかった。ちょうど様子を見にやってきた権禰宜(ごんねぎ)の岸川雅範氏に「今年は今日までですから……」と、微妙な顔で慰められた。 その日、私は取材がなくても神田明神に参拝しなければならない理由があった。まだ、師走の大祓の形代を納めていなかったのだ。きっと、しばらく参拝もせずに、神様をないがしろにしていたことの戒めが、先のおみくじなのだろうと思った。 和田に大祓の形代を納めたか尋ねると、こんな返事が返ってきた。 「え、ごめんなさい。まだ、それがなんなのか勉強していないんです……」 ■破魔矢も売り切れる神田明神の参拝熱 3月の中頃、和田から連絡が来た。 「明神カフェの件で、ご相談できませんか」 ああ、これも和田のところが受けているのかと思った。その少し前から、何人かに「神田明神が、今度はカフェを始めるらしい」といった話は聞いていた。 わずかの年月の間に、裏でひっそりと、様子をみながら行われていたアニメコラボは、神田明神の境内を埋め尽くしていた。あちこちに、アニメ調のポスターやのぼり、そして、甘味や餃子、お土産を販売する常設の屋台もできた。それと共に参拝客の数も目に見えて増えてきたのを感じた。平日であっても「今日は、なんのお祭りがあるのだろう」と勘違いするほどの賑わいを見せている。三が日はもちろん、仕事始めの1月4日になっても、いつになったらお賽銭箱が見えてくるのかわからない行列も風物詩になった。 いつぞやは、松の内が明けてから、神札と一緒に破魔矢も頂こうとしたところ「売り切れなんです」といわれて驚いた。いまだかつて、破魔矢が売り切れた神社というのは、ほかに聞いたことがない。そんな賑わう神社に、カフェができると聞いても不思議ではなかった。 よく聞くと、新しくできる明神カフェは神田明神が経営するわけではない。神田明神の所有する鳥居の横のビルに、和田がジェンコなどから出資を受けて新たに設立した明神カフェ株式会社が、テナントとして入居するということだった。 鳥居の横のビルなのだから、神田明神も安心のできるテナントを求めていたのだろう。この数年の間に、和田はさまざまな形で神田明神に関わっていた。中でも、昨年初めて境内で開催された神田明神夏祭りには深く関わり、声優のライブなど、若い参拝客の興味をひくような仕掛けを数多く盛り込んでいた。それに連なる明神カフェは、アニメのコラボやイベントなども行うことができるスペースだという。 江戸時代から、さまざまな催事で人を寄せていた神田明神。熱心に行われるアニメやマンガとのコラボは、その現代版なのだと思う。けれども、そこに神社の信仰はあるのだろうか。やはり、数年前の大みそかのことが気にかかった。だから、和田に話を聞いてみることにしようと思い、オープンの2日前に企画されたメディア向け内覧会へと足を運んだ。 ■美味くて当然! 一流の食材が揃う店
まずは、店の紹介を……。 神田明神の狛犬をモチーフにしたロゴを掲げる明神カフェ。席数は48席。そのほか、VIPルームも準備されている。また、ホール内にはステージもあり、上映会やミニコンサートのようなイベントにも対応できるようになっている。 コンセプトは「ビストロエンターテインメント」。とりわけ力を入れているのは料理で、麻布十番の人気料理店「エル ブランシュ」のオーナーシェフ・小川智寛氏が、料理を監修。「数カ月先まで予約がいっぱい」とグルメを扱うメディアでも注目される「肉山」や、会員制馬肉専門店「ローストホース」、銀座で北海道産の純血サフォークなどの上質な羊肉が人気の「ひつじ座」まで、有名店とのコラボした食材が集まっている。 一流の素材に、一流のシェフの監修。これで、美味くなければ、逆にオカシイ。また、ランチタイムにはサンドイッチがメインのセットも用意されている。そんな店内で目立つのは、美しい乙女たち。これから芸に磨きをかけるであろう声優や声優の卵である。乙女たちの給仕で、一流店の味。そして、アニメとのコラボメニューが楽しめるのが「ビストロエンターテインメント」の意味するところだ。 スライドを用いた説明の後、集まった報道陣は、並べられた料理の試食を勧められた。 オープンの2日後に備えて、その間も面接の女性が次々とやってきたり、店内は慌ただしかった。報道陣に給仕する乙女たちの動きは、まだぎこちないが、その初々しさが、何がしかのエンターテイメント性を感じさせていた。ここから、大きなホールを埋め尽くすような人気声優が育っていくのだろうか、と思った。 ■神様に関わるなら、学ばなくてはならない
ようやく一息ついた和田と、まだ慌ただしく準備をする人が行き来する店の中で話を聞いた。座る椅子はターコイズブルー。これも、最近パリのカフェで流行っている配色なのだという。いくつか基本的な質問をした後、ずっと疑問に思っていたことを尋ねてみた。 「和田さん、大みそかの時に……」 「いやいや、覚えてますよ!」 半笑いのような泣き笑いのような顔をしながら、途端に和田は、身体を大きく揺らした。 「いや、あの時は本当に勉強不足でした」 なおも、身体を揺らして笑顔を作りながら、和田は言った。 「あれから、どういう変化があったんですか。単にビジネスとしてだけではないのでしょう……」 「んー……」 少し考えてから、私に正対して和田は語り始めた。 「自分も20代の頃までは、髪を青く染めてバンドとかやってたんですけど……」 今では、ふくよかな体型の和田だが、いつだったか昔の写真を見せてくれたことがある。ステージでギターを抱えている和田は、体重も今の半分くらい。何より、道で出会ったら、必ずこちらが危険を感じて道を譲ってしまうようなファッションだったと記憶している。 それでも、神社にまったく興味がないわけではなかったと、和田は言うのだ。むしろ、興味を感じながらも、深く知るきっかけがなかったのだ、と。 「会社の事業の中で、偶然のきっかけですが、京まふ(京都国際マンガ・アニメフェア)のときに、平安神宮の境内での奉納公演を手伝ったり、神田明神とも、仕事で関わることになりました。その中で、自分でも神様や神社とはどう関わっていくかを考えるようになりました。参拝の作法とか、行事とかも。せっかくここまで神様に関わらせてもらっているのなら、ちゃんとやらなきゃいけないな、と」 謙遜なのだろうか、和田は、まだ自分は「にわか」だとも語った。けれども「信心深くなったのは確か」だとも。 これも、神様の采配なのだろうか、と考えた。正直なところ、あちこちにアニメのポスターや売店も出来た神田明神の境内には、少しばかりの違和感がある。神社としては、少し賑やかすぎるのではないかとも思うのだ。 昨年、私は思うところがあり熊野三山を巡った。そのときに感じた違和感と似ている。 まだ、午前中の人の少ない時間に、熊野本宮大社に参拝した。ようやくたどり着いた、誰もいない社殿の前で感慨にふけりながら参拝していると、観光バスでやってきたと思しき団体客で、急に騒がしくなった。シャッター音が幾重にも重なり、社殿の前は撮影禁止だというのに、記念写真を撮っている者もいた。そのときに感じたような騒々しさがある。 けれども、それを一概に否定することはできない。「蟻の熊野詣」といわれた時代には、みんなこんな風に先達に導かれて、賑やかに山道を歩いて、熊野に来ていたのではなかろうか、と。だから、アニメとのコラボをきっかけに、神田明神を訪れたとしても、そこで神田明神や神社、神道へと興味を広げていく人も少なからずいるはずなのだから。 神田明神の境内で、販売されているアニメグッズも同様だ。熊野本宮大社の授与所で牛王宝印を求めた私は「あれも下さい」と、思わず、目に飛び込んだ「熊野詣」と書かれた、まさに「お土産品」そのものの、のぼりを指さした。 何がそうさせたかといえば、東京から一昼夜をかけて、ようやくたどり着いた感動である。だから、アニメグッズを買い求めている人々も、アニメグッズが欲しいというよりも、神田明神に参拝してグッズを買ったという思い出を求めているのではないか。かつて、熊野那智大社の熊野比丘尼は諸国を巡り曼荼羅を絵解きして、勧進をした。祀られる神様の有り難さを説き、参詣へと誘ったのである。もしかすると、神田明神で起きていることは、かつての曼荼羅の現代版がアニメであり、様々なメディアが熊野比丘尼の役割を果たしているのかも知れない。 だから、今ある少しばかりの違和感は、やがて薄れていくのではないかとも思っている。 ただ、その結論はまだわからない ■神田明神宮司が語る、これからの神社への希望 和田と話を続けていると、すっと空気が変わった。その空気のほうに目線を向けると、凜とした老紳士の姿があった。神田明神の宮司・大鳥居信史その人であった。またとない機会に、ぜひお話をお伺いしたい。その旨を告げると大鳥居宮司は、快諾してくれた。私が聞きたかったのは、いわば大家である神田明神が鳥居の横の「一等地」を明神カフェに貸すことには、それなりの理由があるのではないかということであった。 神職らしい、独特の暖かさのある口調で、宮司は語り始めた。 「今は門前町の体をなしていないでしょう。夜になると真っ暗になってしまうんです。それに日曜日になると、あらゆるお店が閉まっているんです。『お昼を食べるところはありませんか?』という問い合わせも多いんですよ。これでは、せっかく多くのお詣りをいただいても……。だから、和田さんにも夜を明るくしてもらって、ランチも出して下さい、とお願いをしたんです。ですから、これを機会にみなさんに楽しみにお詣りしていただけるようになればと思うんですよ。最近は、若い人のお詣りも増えています。そう、7割がたは若い人なんです。だから、神社も信仰ばかりじゃなくて、物を食べたり買ったり楽しめる場でなくてはいけないと思うんですよ」 そして、宮司は来年にも境内に新しく建設される文化交流館についても触れた。 「むしろ、外国人の方も日本の文化を学ぶために、ここに来てもらうようになればよいと思っているんです」 初めて参拝する若者や外国人に、じっくりと神社や日本の文化に触れてもらった上で、門前でも楽しんでもらいたい。それが宮司の考える、これからの神田明神の姿だ。今、アニメをきっかけとして参拝をしている若者の何割かは、新たに訪れる人の先達になるのだろうか。そんな気持ちを述べると、宮司はこんなことを教えてくれた。 「われわれも、初めは若い人たちが集まるのを不安に思っていたんです。ちゃんと参拝をしてくれるのかな、と。ところが、そうした若い人たちは、年配の人よりも行儀もよいし、きちんとお詣りしてくれるんですよ」 最初は神社も、半信半疑だった「聖地巡礼」でやってくる作品のファンたち。その真摯な参拝の姿に、新しい形での信仰の広がりを見ているのだと思った。
■地域の人々との連携をどう生み出していくか そんな新しい「きっかけ」で、参拝に訪れる人たちが立ち寄るスポットになるであろう、明神カフェ。でも、和田は、そうした参拝客を相手とする客商売だけを考えているのではない。 カフェには、VIPルームも設置されている。これは、上客を相手にしようというわけではなく、氏子をはじめ広く地域の人たちにも使ってもらいたいという想いからできたものだ。 「ぜひ、地域の人々にも使っていただき、一緒に街を盛り上げていきたいと考えているのです」 その和田の展望は、決して楽なものではないと思う。 幾度か地域の氏子らから聞いたことがある和田に対する認識は「神田明神が使ってる業者さん」である。和田のオフィスは、これまでも神田明神の氏子地域にあるにもかかわらず、である。もともと、神田明神の氏子地域の人たちは、自分たちが先祖代々住む土地のことを、こう表現する。 「ここは、東京の田舎なんですよ」 都会を離れて全国各地の「田舎」へと移住を決意する人は増えている。そうした人々に取材をする機会もあるが、中にはさまざまな軋轢から移住を断念する人もいる。そうしたエピソードは、だいたいが閉鎖的で後進的な地域を批判する論調で語られがちである。でも、それは間違っている。すでに連綿と長い生活史を育んできた地域に、新しいものがやってきたときに、待ってましたとばかりに、歓迎して賞讃する人がどれだけいるだろうか。 「最初の1年は、まず人間関係をつくるのを頑張ったほうがいいですね」 と、ある地方都市の役所で聞いた。まさにその通りだろう。 だから、明神カフェに求められているのは、単に参拝客を増やす要素となるとかではなく、それが地域にどのように馴染んで、一緒に神輿を担いだりもできる仲間として溶け込んでいくかである。それは、いくら神田明神が期待を寄せても近道できるものではない。和田だけでなく、店のスタッフたちもすべて、神社の信仰と地域があってこその店という意識を共有した上での、たゆまぬ努力が求められている。 それは、茨の道ではないだろう。何しろ、店があるのは鳥居の真横である。そこで、日々神社にやってくる参拝客や地域の人々を見て、何も「気づき」を得ないなんてことは、想像しがたい。店で働く声優や、これからのコラボイベントなどに参加するクリエイターも、どこかで神田明神のネームバリューを利用しようと考えているやも知れない。けれども、日々、見ることになる神社に参拝することになる人々の姿は、そうした我欲を押し流していくはずだ。 戦後70余年。西洋的な価値基準によって支配される中で、唯一オタク文化は世界を席巻し、抗している。それは、決してクールジャパンなどという下品な言葉で、一括りにして賛美していてよいものではない。 そうした中で現れたオタク文化と神社とのコラボレーション。それは、新たな形で日本が誕生して以来、悠久の歴史の中で育んできた精神性に気づく機会を与えている。説教するでもなく支配するでもなく、包み込むように気づかせる。そこに神道のすごさを感じずにはいられない。 グランドオープン以来、1週間あまり。既に店を訪れた人々の口から語られる明神カフェの評判は、極めて好評だ。まもなくゴールデンウィークである。「ご祝儀」の時期を終え、単なる一個の店舗としての評判を超えて、その先に向かうことができるのか。時折、訪問しながら見ていくことにしたいと思った。 (文=昼間たかし)
「1回払ってバックれるんじゃ?」神戸アニメストリートが債権者に送った“不信も募る”メールの中身
本当に、きちんと支払われるのだろうか。 多数の取引先への踏み倒し問題で注目を集めている、神戸アニメストリート(記事参照)が、公式サイト上に謝罪文を発表した。しかし、この謝罪文にも「コピペ」ではないかと疑惑が浮上。さらに、被害企業へ送付されているメールも宛先と金額を変えただけでまったく同一のものであることがわかり、謝罪にも不信の目が向けられる結果となっている。 神戸アニメストリートが公式サイト上で謝罪文を発表したのは4月22日。ここで、同社は代表取締役である岸建介氏からの説明という形で、不払い問題が存在することを認めた。 岸氏は「不適切な対応をとっておりましたことは、大きな間違いであったと深く反省しております」として、「深く反省し全力で問題解決に取り組ませて頂きます」としている。また「私自身のあり方を根本的に見直していく中でこのまま私がこの神戸アニメストリートの運営を続けることは許されないと判断しております」とも。 しかし、被害企業は謝罪文そのものに不審の目を向けている。というのも、この謝罪文自体が、昨年12月にキュレーションサイトをめぐる問題で、DeNAが発表した謝罪文と酷似したものであることが、明らかになっているからだ。 さらに、問題がネットに拡散されてから、突然音信不通だった岸氏から電話が掛かってきたり「払う」旨を記したメールを一方的に送りつけていることも不信感を募らせる原因だ。 そして、そのメールの文面も「コピペして、送ってきてるだけではないか」と疑われている。 **** 神戸アニメストリートの岸です ご迷惑をお掛けして大変申し訳ございません 現時点で全額を一括でお支払いするのは極めて難しい状況となっております。 本来であれば、お伺いしてご相談をすべことと重々承知しておりますが、今も資金の調達に奔走しておりますため、すべての対応が後手に回りましたこと深くお詫びいたします。 つきましては甚だ恐縮ではありますが、御社からの請求額残金の○○○○円を○回に 支払い期日はそれぞれ 平成29年5月末までに○○○○円 平成29年6月末までに○○○○円 平成29年7月末までに○○○○円 平成29年8月末までに○○○○円 とさせて頂き、並行して早期に全額ご用意できるように引き続き資金の調達に奔走いたします。 本内容を書面にしたものを御社に送付させて頂きます。 取り急ぎ、支払い遅延のお詫びとともに、分割支払いのお願いをお願いいたします。 **** それぞれ異なるのは、金額と分割の回数だけで文面はほぼ同一。また、前回の記事でも記したように、急に額面の一部だけが振り込まれたという企業も。そうした企業に対してのメールには「本日の支払額」が記されているものもある。 さらに謝罪文では「私がこの神戸アニメストリートの運営を続けることは許されないと判断しております」としながらも、週末には岸氏の同伴者と疑われる渋谷かおり氏のTwitterにDJをする岸氏の姿が。これが、さらに被害企業の怒りを呼んでいる。ある被害企業からは、こんな声も。 「一回払って、バックれるための時間稼ぎじゃないですか。名前も変えて、同じことをやるんでしょうね」 今さら謝罪しても不信感を拭うのは、はなはだだ困難な作業だろう。岸氏には誠意ある対応を求めたいところだ。 (文=昼間たかし)「神戸アニメストリート」公式サイトより。
『ちびまる子ちゃん』で「甘食」を使ってお茶会! ネットでは「甘食ってなに?」と時代を感じる反応が
4月23日にTVアニメ『ちびまる子ちゃん』(フジテレビ系)の第1097話が放送された。今週もさまざまな反響が上がっていたので、ネットの声とともに内容を紹介したい。 前半に放送されたのは「『睡魔はこわい?』の巻」。春になってやたらと学校で眠たくなるようになったまる子。「どれだけ寝ても眠いのはなんでだろう」と考えていると、丸尾くんが「それは睡魔のしわざでしょう」と教えてくれた。するとその後のまる子が、ウトウトとすると「すいまくん」というキャラクターが幻覚で見えるように。 すいまくんと仲良くなったまる子は昼の居眠りに拍車がかかり、テストで悪い点をとる。「どうしてまる子だけいつも眠たいのー!」と落ち込むまる子に、友蔵は「いいじゃないか、寝る子は育つじゃ。わしは一度眠ったらもう二度と起きてこないかもしれんがのう」と、ナレーション(キートン山田)ですら「笑えない」とツッコむ、ブラックジョークを放りこむ。これにネットでは「縁起でもないこと言うなwww」「永眠かよwww」と大喜び。 すいまくんに困らせ続けられるまる子。楽しみにしていたももえちゃんのドラマを見逃してしまうし、学校の全校集会に遅刻してしまうしと散々。しかし、ある日の朝、お母さんに怒鳴られて目が覚めるとすいまくんはどこかに去ってしまうのだった。「さすがのすいまくんもお母さんの雷にはかなわないのであった」というナレーションで終了。 後半は「『まる子の素敵なお茶会』の巻」。ある日、おばあちゃんがもらってきてくれたイギリス製の紅茶を飲んだまる子は、本場の紅茶の味に酔いしれ、「お茶会」を開くことを決断。 ムードを出すためにティーポットが欲しいと考えていると、花輪くんが貸してくれると言いだした。花輪くんの家にティーポットを取りに行ったまる子は、そこで紅茶と「マフィン」と「スコーン」をごちそうになる。『ちびまる子ちゃん』は昭和の時代設定のためか、マフィンとスコーンを珍しがるまる子。そして自分もお茶会でこれらを出したいと思うのであった。 まる子が家に花輪くんから借りたティーポットを持ちかえると、さくら家は壊したら大変だと震えあがる。しかしまる子は「いざって時はおじいちゃんが弁償してくれるよ」と軽々しくゲス発言。ネットでは「クズまる子の本領発揮!」「これはフラグか?」と湧き出す。 お茶会にはたまちゃんと野口さん、さらに偶然家に遊びに来ていた親戚のみどりちゃんが参加。ケーキ屋にはマフィンとスコーンが売っていなかったので、お菓子はそれらの代わりに「甘食」と「あんぱん」を用意、まる子はこれを「マフィンとスコーンだよ」と言って提供した。 途中、みどりちゃんが持参したフォーチュンクッキーなども食べてそこそこお茶会は盛り上がって終了。なおネットでは「甘食ってなに?」「甘食がわからんくてググった」といった声が。どうやら西日本の人や、若い人には甘食はあまりなじみがないらしい。 甘食とは菓子パンで、マフィンやカップケーキに近い食べ物なのだが、オッサン・オバサンの一部は若い世代が甘食を知らないことにショックを受ける人も多かった模様。『ちびまる子ちゃん』の世界では「マフィンってなに? 甘食なら知ってるけど」と疑問の声が上がったが、現実世界では「甘食って何? マフィンなら知ってるけど」という反応のギャップに、とても時代を感じた今回の放送だった。『ちびまる子ちゃん』公式Twitter(@tweet_maruko)より。
『ドラクエ11』発売日発表が大ボリュームだったのは堀井雄二の“お詫び”だった!? 熱愛報道の本田翼が“にげだした”と話題
ついに発売日が今年7月29日と明かされた、国民的RPG『ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて』(以下、『ドラクエ11』/スクウェア・エニックス)。その発売日発表会が今月11日に開催されたが、会場では発表に関連してさまざまなドラマが生まれていたようだ。 発表会にはシリーズの生みの親であり、本作でもゲームデザインとシナリオを手がけた堀井雄二をはじめ、豪華スタッフが集結。PS4版およびニンテンドー3DS版のそれぞれの特徴や、テストプレイの実演、発売日に至るまでの各プロモーション企画の発表など盛りだくさんの内容となったのだが、実はこれには“ある理由”があったのだとか。 「『ドラクエ』の第1作の発売が1986年5月発売だったことから、当初『ドラクエ11』は今年5月中の発売に向けて動いていたようなのですが、『どうしてもブラッシュアップに2カ月がかかる』ということで、登壇した関係者たちも無念そうにしていたような……。 とはいえ、PS4版、ニンテンドー3DS版それぞれのテストプレイ画面を見ていると、作り込みがすごく、それでいてゲーム機によって整合性を欠かないようにと細かく調整していたことを感じさせる出来で、関係者も『開発に2倍時間がかかる』とい発言してましたが、発表が遅れるのもやむなしというクオリティーだったように思います。 堀井さんも『30周年をこぼれたお詫びではないですけど、いっぱい映像とか持ってきました』と言ってましたけど、これはリップ・サービスでもなんでもなく、発表会自体が予定より30分以上後ろに押してしまったほど。おかげで別の取材が後ろに控えていた記者たちが困っていましたね(苦笑)」(取材したゲームライター) 『ドラクエ11』ではファミコン版ドラクエ1、2で使われていた「ふっかつのじゅもん」が復活するということでも話題となったが、堀井からこの裏話も。 「堀井さんは、現代のデータ量をセーブするとき、そのまま『ふっかつのじゅもん』にすると2万文字になると言って、記者たちを笑わせていたのですが、『そこは工夫しまして、だいたいのところで始められればいいかな』『レベルとかお金もこれくらいで復活できます。書きとめておいていろんなハードに入れて楽しめる』と、PS4版、ニンテンドー3DS版の間の橋渡し的な存在にもなりそうなことをにおわせていました」(前出のゲームライター) また、この日はシリーズ作のCMにも出演、“ドラクエガチ勢”といわれる本田翼もゲストに招かれ、テストプレイに熱中していたというのだが……。 「本田は一部スポーツ紙での菅田将暉との熱愛報道後、初めて公の場に出てくるということもあって、去り際に声がけがされたのですが、背を向けて答えずじまい。この光景を見た記者が『本田翼はにげだした(笑)』と、『ドラクエ』になぞらえて愚痴っていて、思わず笑いそうになりました(笑)」(前出のゲームライター) 本田と菅田の熱愛報道に“ふっかつ”があるのかどうかも気になるところ。まずは7月29日に『ドラクエ11』がどんな姿でユーザーの前に現れてくれるのか楽しみだ。『ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて』公式サイトより
参加するイベントから住みたくなるイベントへ──第2回「蒲田・コスプレこれくしょん」にOTAKU議員が語る新たなる希望
「単なるコスプレイベントじゃなかった。これは、とんでもないイベントだ……」 会場に詰めかけた見物客は、皆そう思ったに違いない。 昨年4月17日、蒲田駅西口の広場には大勢の人が集まっていた。商店街の主催で開催される春の催し「蒲田行進曲フェスタ」。その中でも目玉イベントとなったのが「蒲田・コスプレこれくしょん2016」。それは、いわずと知れた漫画原作者・小池一夫氏らを審査員に招いて行われたコスプレコンテストであった。その何人目だったろうか。こんな呼び込みのアナウンスが流れた。 「次の方はセーラージュピターのコスプレです。体型維持には気を使っているということです」 見物客、とりわけ男性たちがごくりと期待の唾を飲み込む音が聞こえた。そして、体型維持には気を使っていることがよくわかる、素晴らしいコスプレイヤーが登場した。 ……女装した、オッサンであった。 人は予想外の出来事に遭遇すると、固まってしまうものである。そんな空気もよそに、オッサン、いやセーラージュピターのコスプレした人はアコースティックギターを手に語り始めた。 「『セーラームーン』が始まって20年、戦いよりも社会のほうが厳しいとわかりました……」 そして、コスプレの人は歌い始めた。 ♪社畜~社畜~ぼくらは社畜~ その歌声は、なぜか会場の空気を和ませていった。そして、檀上にはセガサターンのコスプレなど、様々なアイデアを凝らした参加者が次々と登壇していった……。 審査の結果、最優秀賞に選ばれたのは、まるで本物のような造形が目をひく『魔法使いの嫁』のコスプレをした参加者であった。 参加者に送られたのは、商店街の一員・亀屋百貨店提供の24万8,400円もする超高級ベッドであった。その、大きさも値段も張る賞品に、商店街のただならぬやる気が感じられた。 後日、大きすぎて、とても部屋に入らないため別の品物に変えることになったと聞いた。 ■「コスプレ発祥の地宣言」から始まった新たな街づくり 駅のホームに蒲田行進曲が流れる、城南のディープタウン・蒲田を中心に繁栄する大田区。羽田空港を持つ国際的な玄関口として、あるいは町工場が連なる工業地帯としてなど、いくつもの顔を持つこの自治体は、いま「コスプレ発祥の地」として盛り上がっている。昨年12月に大田区制施行70周年記念PR助成金事業のひとつとして、京急蒲田駅周辺を会場に開催された「OTAKUコスプレ祭り」では、来場した松原忠義区長自ら「大田区はコスプレ発祥の地」と発言している。昨年は直前に春の嵐に遭遇しながらも、賑わった「蒲田・コスプレこれくしょん」
大田区が初めて発祥の地に言及したのは、2015年12月のことであった。17年の区制70周年を前に、様々な記念事業を話合っていた大田区議会。その席上で大田区の担当者は「コスプレ発祥の地は大田区」と発言。最初は、大きなニュースにはならなかったものの、ジワジワと広がっていった。 そんな発言が飛び出した背景にあったのは、大田区がオタクの街として、にぎわい始めていたことだった。発言の数カ月前の9月、JR蒲田駅東口広場をはじめ蒲田東口商店街一帯で「おた☆かま」と題したイベントが催された。これは、地元商店街のフリーマーケットに、コスプレイベントと同人誌即売会を合体させてしまうという新たな試みであった。 単なる商店街の催しかと思いきや、様々な衣装に身を包んだ男女が闊歩し、普段は見かけない本も売られている。それは、決して浮くことなく蒲田の街に溶け込んでいた。 「一緒に大田区を盛り上げいくことができる仲間を増やすことが目的なんです」 単なる賑やかしではないイベントの意義を語ったのは、企画の立ち上げから参加していた、おぎの稔区議であった。 おぎのは、ある一面で大田区の枠を超えた有名人だ。この人物を、多くの人は「大田区議」とは呼ばない。「オタク区議」という。初の立候補での当選以来、おぎのは新たな試みに挑戦してきた。それは、区民と共に考えるべきテーマを漫画にして配布するというもの。その試みは成功し、地元では子どもにまで「漫画の人」と呼ばれるにいたっている。ここで勘違いしてはならないのは、彼が単に区議としての椅子を確保するために、そのような手段を用いているのではないということだ。彼自身、もともとがオタクなのである。それも、区議になってからコミックマーケットにサークル参加するほどに、である。 筆者がおぎのと知り合ったのは08年頃のことだった。その頃のおぎのには、今の区議として活躍する姿など想像もできなかった。ただ、コンビニでバイトしているオタク青年。そんな印象であった。 ただ、誰にでも受け答えが丁寧というのが、人と違うところだったと思う。だから、おぎのが区議選に出馬すると聞いても驚きはなかった。 偶然、選挙事務所を置いたのは、私が『これでいいのか東京都大田区』(マイクロマガジン社刊)の取材のために引っ越して、しばらく住んでいた武蔵新田であった。馴染みのめし屋などで話を聞いてみると、おぎのを応援するというよりは、何か一緒にやりたい。そんな気持ちを持つ人が多かった。 選挙事務所には、最初からおぎのが「提督」として愛して止まない『艦これ』北上のフィギュアが祀られていた。選挙の際や、その後の日常でも選挙事務所に出入りするのは、オタクでもなんでもない地元の人たちである。でも、それはまったく浮いているものではなく、風景として馴染んでいた。ひとつだけ、疑問があるとすれば、おぎのがなぜ北上を選んだかということ。地方の女学生のような印象の北上のどこに引かれたのだろうかと、青葉を愛して止まない筆者は、ずっと考えている。 ■待ち構えているのに……なかなか告知されない その、おぎのに「今年も、やるんですよ、蒲田・コスプレこれくしょん」と聞いたのは、17年を迎えて間もなくのことであった。 冒頭に記した昨年の開催の時も、おぎのはなぜか黒子のコスプレ(バスケではなく、歌舞伎とかのアレである)で、スタッフとして忙しそうに動き回っていた。前述の通り、昨年感じたほかのコスプレイベントでは、ついぞ見かけたことのない独特の空気感。そして、商店街が気合をいれた賞品の数々は、強く印象に残っていた。だから、今年は筆者も参加者の側になろうかとも考えた。「OTAKUコスプレ祭り」を楽しむ、松原忠義大田区長
ところが、春が近くなっても、一向に告知はされなかった。幾度か尋ねてみると「いま、準備をしている」という。そして、ようやく日取りが告知されたのは4月に入ってからだった。日取りを見ると4月30日となっていた。1カ月を切ってからの日取りの告知。友人のコスプレイヤーに、こんなことをいわれた。 「コスプレイヤーというのは、時には半年くらい先の予定まで決まっているんですよね」 それは極端だとしても、遅すぎる告知だと思った。そして、日程も危うさを感じた。この日は、東京ビッグサイトでは同人誌即売会「Comic1」が。幕張メッセでは「ニコニコ超会議」が開催される日なのである。いったい、なんでこんな日取りにしてしまったのだろうか。 そんなことを考えていたら、おぎのから「事前に、一度話を聞いて下さいよ」と連絡が来た。 文句の一つでもいってやろうと思い、会うことにした。 「いや、商店街のお祭りは、近いタイミングで告知されることも多いのですよ」 待ち合わせた深夜のジョナサン蒲田駅東口店。筆者が何かをいうよりも先に、おぎのは少し申し訳なさそうに口火を切った。商店街では季節ごとに様々な催しが開かれる。だから、大抵は2カ月ほど前になってから「そろそろ、話合おうか」というスケジュール感で動いているという。また、昨年使った駅前の広場は工事中のため、今年は同じようなコンテストを行うことはできない。そこで、改めて一から仕掛けを練り直さなくてはならないという問題もあったのだ。ただ、おぎのはそれを言い訳にはしていない。 「もう少し、早く動けるようにしないといけないですね」 主催はあくまで商店街。そして、その有志によって立ち上げられた「国際コスプレ普及協議会」である。あくまで、一支援者にすぎないのに、おぎのは自身の解決すべき問題として、媚びるでも謝るのでもなく説明してきた。だから、筆者も文句をいうのはやめて、もっと本質的なことを聞こうと思った。 昨年のようなコンテストができないとすれば、今年はいったいどのような催しになるのだろうか。それを尋ねると、おぎのはニヤリとして答えた。 「<おた☆かま>では、商店街のフリーマーケットとコスプレイベントを合体させる試みをしました。これをもっと工夫して、コスプレイヤーが街を歩いているだけでなく、様々な衣装に身を包んだ人たちが街に当たり前に存在しているシーンを演出するんです」 具体的には、劇団などの協力を得て、商店街のあちこちで、コスプレをした人たちが寸劇を行ったりパフォーマンスを行ったり。いわばRPGで、キャラクターが町に入った時のような光景を、商店街を訪れた人々に見てもらおうというものだ。「コスプレ発祥の地」をアピールする蒲田西口商店街のホームページ(http://www.24kamata.or.jp/)
さらに、コスプレできる会場も商店街アーケード内以外に、御園神社、宴会・結婚式場でもある「プラザアペア」や公園などにも拡大。スタンプラリーも実施して、ウロウロと街を回る仕掛けが整えられているという。 実は、この試みは昨年から考えられていた。昨年「蒲田・コスプレこれくしょん2016」の企画に携わった蒲田西口商店街振興組合青年部の杉山修一に話を聞いた時に、こんなことを聞いた。 「商店街をコスプレで練り歩くとか様々な催しも考えています。次回は、私もドズル・ザビで参加するつもりです」 杉山は、商店街のみならず地域のコスプレに絡む催しを行うための団体名を「国際コスプレ普及協議会」と名付けたダイナミックな人物(なお、賞品の超高級ベッドを提供した亀屋百貨店の常務でもある)。そこでも、語られていたのは蒲田の街で、もっとコスプレをごく自然のものにしていこうという意志であった。既に各地で、コスプレパレードのような催しは行われている。けれども、そこにはコスプレする側と見物する側という壁があるもの。それを取り払い「なんか、今日は街が面白いなあ」という雰囲気を生み出そうというわけである。 ■コスプレイヤーが当たり前に歩く街へ 実にコスプレイヤーというのは、そこにいるだけでワクワク感を与えてくれるものである。昨年放映されたNHK大河ドラマ『真田丸』は大好評となった。そして、ゆかりの地である長野県上田市にも多くの観光客が訪れた。その上田市の観光の目玉といえば上田城である。 けれども、上田城には真田氏に絡む建造物は、残っていない。それどころか、上田城というのは、門をくぐったら神社があってお終いだ。歴史的建造物は、櫓ぐらいのものなのである。 ともすれば「がっかりスポット」なのだが、そうは感じさせない仕掛けがあった。平日にも、忍者やらくのいちやらの衣装を着た人々が「ようこそ~」などと出迎えていたのである。単にそれだけなのだが、その存在が「がっかり感」を変容させていた。大河ドラマだから、放っておいても観光客が来るだろうというところに、あぐらをかかず。なんだか、ワクワクさせてくれる仕掛けになっていたのだ。 「コスプレをしたい人や見物に来た人だけでなく、たまたま買い物に来た人も巻き込んで、みんなが楽しい気分を味わえる空間をつくっていければよいと思っています。コスプレで蒲田をつなげるといったところでしょうか」 おぎのは、そんな展望を語る。 儲けではなく、まずはスタッフも参加者も誰もが楽しめること。それが、もっとも重要な部分である。昨年の「OTAKUコスプレ祭り」は、区制施行70周年の関連行事ということで、大田区からは僅かながらも助成金が下りた。 でも、これらのイベントに関わる人々は誰一人として、そんな降ってくるカネをアテにしたり、打算的に動いているようには見えない。全国各地で行われているマンガやアニメを使った町おこしというものは、少なからず行政から下りるカネをあてにしているものが多い。それどころか、そうした公金を狙うゴロも跋扈するようになってしまった。 単純に、マンガやアニメに絡めた催しをすればオタクがたくさん来て儲かる。最先端のことをやっている……そんな低俗な意識が、悪の入り込む隙を与えてしまっているのだ。だから、本当に誰もが幸せになれる催しにするのならば、行政はサポート役。街の人々が自発的に、新しい取り組みを初めてくれるのが理想だと、おぎのは考えている。 「今回、行政と商店街の人々の協力で舞台は整いました。各店舗の人たちが、何か売り出しをしたりだとか、積極的に利用してほしいと考えています」 今回、巨大イベントと日程がかぶってしまったりした「蒲田・コスプレこれくしょん2017」。でも、その本質的な目的は地域の人々や、買い物に来る人たちに楽しんでもらうこと。だから、日程がかぶっても、ゴールデンウィーク初日のほうがよい……というのは、決して負け惜しみではない。 そして、蒲田の人々は単に客寄せのイベントではない、壮大な目標を掲げている。おぎのはいう。 「多くのイベントは、街に来てもらうのが目標ですよね。でも、私たちが考えているのは、大田区に住んでもらうことなんです」 ■町おこしを超えて、住みたくなる大田区へ 大田区が、オタクにとって実に住みやすい街であることは、ジワジワと広まっている。オタク向けのショップや充実した書店なども揃っており、秋葉原にまで足を運ばなくてもたいていのものは揃う。休日に催される同人誌即売会などがなくとも、元よりオタクに優しいのが大田区なのである。 筆者も、その魅力を二度にわたって単行本にまとめた。そして、羽田空港の国際化の進展や、移住者の増加により街は、どんどんと進化をしている。それでいて、街の調和が乱れることはない。 先日、月島のもんじゃストリートを歩いていたら、メインの商店街の店舗を5軒くらい潰してマンションが建とうとしていた。昨今、東京のあちこちでは調和などどこにもない、ムチャクチャな再開発が当たり前だ。けれども、新しいものを受け入れつつ、土地の持つ本来の味へと変えながら進化させていくというのが、大田区なのである。これがなせるのも、関東大震災以後の移住者たちによる、新たな山の手化。高度成長期の工場労働者の流入など、常に新しい人々がやってきては馴染んでいくという歴史がなせるわざなのか。 かつて、松竹蒲田撮影所があった時代。蒲田の街は、映画スタアも当たり前に闊歩する街だった。それが21世紀、コスプレイヤーになったというわけか。 そして、幾度もの蓄積を経てイベントはさらに地域へと広がろうともしている。 「将来的には蒲田の街を、例えるなら<幻想郷>のような、オタクにとって楽しい街にしていきたいです」 「幻想郷」とは、いわずと知れた霊夢とか魔理沙とかのいる、いわばオタクなら誰もが行きたくなる夢の世界のことである。それが、どのような形で現実になるというのか。 「これまで、それぞれの商店街が別個にコスプレイベントを開催してきたわけですけど、将来的にはJR蒲田駅から京急蒲田駅まですべてを巨大なコスプレ会場に見立てたイベントもいいんじゃないかと思っています」 一過性のイベントではなく、コスプレを出発点にオタクが住みたくなる街を誕生させたいという地域の人々の気持ちは本物だ。その証拠に、蒲田西口商店街の公式サイトでも「大田区はコスプレ発祥の地」がうたわれるようになった。 これからの大田区が目指すべきオタクの街としての未来を、おぎのは次のように語る。 「今年3月に、町工場などで構成する大田工業連合会青年部のイベントが開催されました。ここでも、コスプレイベントや東方projectのZUNさんによるトークショーをしたんです。最近、町工場の技術でコスプレ衣装のパーツを製造する事例が出ているということもあるのですが、それだけではありません。ともすれば、固いイベントになってしまうところに、より足を向けてもらいやすくなったと思います。こんな風に、大田区では一つの作品の聖地でなく、商店街や工場、行政など、街全体がおたくやコスプレとコラボしながら、街づくりを考えていく。すなわち、イベントを新たな交流のきっかけにしたいと思っているんです」昨年(左)と今年のポスター(右)。かなり進化している様子が一目瞭然
これまで筆者も各地の商店街とコラボした、コスプレも含んだ催しを取材してきた。その中で感じたのは、やはり飲食店のコラボばかりが目立っていること。まだまだ、それではチャンスを生かし切れていないのではないか。 例えば、クリーニング店でコスプレ衣装クリーニングにサービスを導入とか、美容室でのウィッグカット、写真館での写真撮影などなど。都内屈指の温泉地帯である、蒲田では銭湯とのコラボなんてのも想像できる。進取の気性を持つ大田区だからこそ、各地の人々が「うちもやってみよう」と真似したくなるアイデアが飛び出すのではなかろうか。 コスプレを出発点としてオタク文化を取り込み、大田区はどんな進化を遂げていくのか。 取材を終えた、深夜の帰り道。歌う路上ミュージシャンと「マッサージいかがですか~」と声をかけてくる客引きとが入り混じる猥雑な光景を見ながら、改めて大田区の進化に期待が高まった。 (取材・文=昼間たかし) ■蒲田・コスプレこれくしょん(かまこれ)2017 日時:4月30日(日) 受付場所:蒲田西口広場前 イベント開催時間:10時~17時 更衣室利用時間:10時~18時 更衣室利用料:500円(スタンプラリーと同時) ※プラザアペア使用の場合のみ+2000円(プラザアペアに限り、カメラマンの方も同額の使用料が必要です) ☆15時45分よりコスプレによる商店街アーケードパレード(集合場所は当日案内します) ☆16時30分より豪華景品のあたる大抽選会を行います!! 運営:国際コスプレ普及協議会 協力:蒲田西口商店街振興会 【詳細・お問い合わせ】 国際コスプレ普及協議会:http://otaku-cosplay.com/2017/04/168/ Twitter:https://twitter.com/kamatacosplayおぎの稔区議(右)。左はトークイベントに登壇したZUN氏




















