
商業デビュー30年を迎えた河崎実監督。『大怪獣モノ』には河崎監督の“怪獣モノ”としての全てが注入されている。
特撮映画のアイコンとして世界中に知られている怪獣王ゴジラ。2016年7月に東宝系で全国公開された『シン・ゴジラ』は興収80億円の大ヒットを記録したが、同時期にもう一本の怪獣映画が劇場公開されていたことを覚えているだろうか。バカ映画の巨匠と呼ばれる河崎実監督が特撮映画への万感の想いを込めて撮り上げた『大怪獣モノ』がそれだ。『地球防衛少女イコちゃん』(87年)で商業デビュー以降、おかしな映画を撮り続けて30年。自分の好きな世界だけを追い続けてきた河崎監督の不屈のインディペンデント精神には、感嘆を覚えずにはいられない。オールスターキャストを擁した『シン・ゴジラ』の話題にすっかり呑み込まれた『大怪獣モノ』の今だから話せる裏話、そして自分の好きな世界で生きていくということ、さらには東京スポーツの紙面を飾ったニュースの真相にまでタブーレスで語ってもらった!
──『シン・ゴジラ』に便乗する形で劇場公開された『大怪獣モノ』ですが、DVD&ブルーレイも『シン・ゴジラ』と同じ3月22日(水)リリースと徹底しての便乗商法。河崎作品はブレがありませんね!
河崎 もちろん、僕の作品はブレませんよ。『シン・ゴジラ』のキャッチコピーは〈ニッポン対ゴジラ〉ですが、『大怪獣モノ』のDVDのコピーは〈地底怪獣対大巨人〉です。DVDのパッケージデザインも『大怪獣モノ』は黒に赤と『シン・ゴジラ』と逆になっています。『シン・ゴジラ』がポジなら、『大怪獣モノ』はネガの存在なんです。
──『大怪獣モノ』と『シン・ゴジラ』はネガ&ポジの関係ですか。両作品を観ることで、今の日本の特撮シーンの裏表を知ることができるわけですね。
河崎 そうです。昨秋スペインのサン・セバスチャン映画祭に呼ばれて行ったんだけど、『シン・ゴジラ』の樋口真嗣監督も一緒でした。彼は『ゴジラ』(84年)の撮影現場から叩き上げで監督になったわけだけど、僕は子どもの頃から円谷プロに通って怪獣倉庫でウルトラ警備隊のヘルメットをもらい、それで自主映画を撮ったという反則技で監督デビューしちゃった人間(笑)。根っこは同じ円谷英二の怪獣映画なんだけど、映画はつくっている人間のパーソナリティーが出るから、出来上がる作品はまったく異なるものになるわけです。樋口監督と僕では違うし、もちろん庵野秀明監督とも違う。ちなみにサン・セバスチャン映画祭では『シン・ゴジラ』は会議シーンが長すぎて最初は「また会議かよ」とスペインの観客は言ってたんだけれど、ゴジラが登場すると拍手喝采で沸いてたね。怪獣と巨人が戦う見せ場満載の『大怪獣モノ』はスペインのノリに合ってたみたいで、みんなずっと笑ってくれてうれしかったなぁ。ウクレレえいじさんの志村喬のマニアックなモノマネなんて絶対分かってないはずなんだけど、何故かバカウケで(笑)。日本での劇場公開では完敗したけど、スペインでは『大怪獣モノ』のほうが人気だったんです。僕の作品はラテン系にはウケるんです。

特撮映画を撮り続ける河崎監督。『シン・ゴジラ』と違って、怪獣はCGではなく着ぐるみを使用。皮膚感覚へのこだわりがある。
──『シン・ゴジラ』の7月29日公開に先駆けて、7月16日に公開した『大怪獣モノ』ですが、劇場公開はやっぱりダメでしたか。あっさり認めるところも河崎監督らしい。
河崎 劇場公開はね、ちょっとしたタイミングで変わってくるんで難しいですよ。樋口監督の『日本沈没』(06年)のときは、僕は『日本以外全部沈没』(06年)を公開して、これは大ヒットしました。『日本沈没』が7月公開だったのに対して、『日本以外全部沈没』は9月に公開したんだけど、逆に少し後のタイミングだったことが良かったみたいだね。『大怪獣モノ』は『シン・ゴジラ』の2週間前に公開したんだけど、『シン・ゴジラ』の大ヒットフィーバーがすごすぎて、埋もれちゃいましたね(苦笑)。『ゴジラ』に対抗して『コチラ』という題名にしようかというアイデアもあったんです。アチラを立てれば、コチラは立たずというキャッチコピーでね。これは「シャレを理解しない人もいるから」と忠告をうけて止めました。松竹系で『ギララの逆襲 洞爺湖サミット危機一発』(08年)も撮ったけど、これは僕の映画の中で最大の製作費だったけれど思ったほどヒットしませんでしたね。一般の人はゴジラ以外の怪獣にはまったく興味がないことがよく分かりました。
■成功した作家はみんな変態だった!!
──『大怪獣モノ』はゴジラのパロディというよりは、『フランケンシュタイン対地底怪獣』(65年)のオマージュ作ですよね。
河崎 『ゴジラ』(54年)と『ウルトラマン』(66~67年)との狭間に作られたのが『フランケンシュタイン対地底怪獣』と『フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ』(66年)なんです。ウルトラマンが登場するまでは、怪獣と戦っていたのは巨大化した人間でした。つまり、ゴジラとウルトラマンとのミッシングリンクに当たる作品なんです。それをね、僕なりにリメイクしたのが『大怪獣モノ』。もしもウルトラマンが地球にやって来なかったら……という一種のパラレルワールドです。それで、どうせなら格闘能力の高いプロレスラーを怪獣と戦わせようと、飯伏幸太選手をキャスティングしたんです。飯伏選手のいいパンチがヒットして、怪獣の中のスーツアクターは本当にノックアウトされた状態でした。怪獣をあそこまでボコボコにするのは、テレビじゃできないですよ。今の地上波テレビはコンプライアンスでうるさいから。

これが問題の注射シーン。公衆の面前での、いきなりの人体実験は果たして成功するのか!?
──怪獣と巨人がストリートファイトを繰り広げる『ウルトラファイト』(70~71年)を思わせます。
河崎 樋口監督は初代ウルトラマンをリアルタイムでは観てなくて、ウルトラマンやウルトラセブンの対決シーンだけを再編集した『ウルトラファイト』世代なんですよ。『~ファイト』は我々の大好物です。巨人が戦うという設定は、米国のAIP映画で『戦慄!プルトニウム人間』(57年)と続編『巨人獣』(58年)があったし、手塚治虫原作のテレビアニメ『ビッグX』(64年)も主人公が巨大化して戦うという内容でした。『ビッグX』の原作コミックではシャープペンシル状の注射器で変身するんですが、『大怪獣モノ』で主人公が注射器を刺されて変身するのは『ビッグX』が元ネタ。注射器で薬物を注入して変身するなんて、ヤバいよね。それで『ビッグX』のテレビアニメはシャープペンシルを持つだけで変身するように変わったんです。そして『ビッグX』の変身アイテムが、『ウルトラマン』のベータカプセルへと受け継がれた。怪獣映画を観て育ったボンクラ少年が大人になってもこうして撮り続けているわけだけど、そういった娯楽作品の歴史は意識してつくっているんです。梶原一騎原作、桑田次郎作画の漫画『ゴッド・アーム』も格闘家が改造手術をうけて超人化するという内容でした。円谷英二、手塚治虫、梶原一騎、桑田次郎……と僕の好きなものをすべて詰め込んだ結晶が『大怪獣モノ』なんです。
──手塚治虫の変身ものといえば、『ふしぎなメルモ』(71~72年)も忘れられません。キャンディーを舐めた女の子が大きくなったり、小さくなったりと、子ども心に観ていて妙な気分になりました。
河崎 手塚治虫の変態ぶりが現われているよね(笑)。
──作家性って、突き詰めていくと変態性だと言えそうですね。
河崎 そうですよ、作家はみんな変態ですよ。三島由紀夫なんて切腹マニアでしたからね。変態性のない作品なんて、逆にいえば退屈なだけです。壇蜜主演で『地球防衛未亡人』(14年)を撮りましたが、これは怪獣を攻撃することで性的興奮を覚える未亡人が主人公で、興行的にも成功しました。モノをつくる上で変態性はとても重要な要素でしょう。
■敬礼シーンに秘められた特撮界ちょっといい話

地底怪獣モノと戦うのは、人気イケメンレスラーの飯伏幸太。特撮セットで華麗なスープレックス&空中殺法を繰り広げる。
──『大怪獣モノ』の変身後の主人公には人気プロレスラーの飯伏選手を起用。近年のプロレスブームを反映させたキャスティングですね。
河崎 飯伏選手をキャスティングできたのはよかったんだけど、2015年の暮れに撮影する予定が、彼が椎間板ヘルニアになって撮影中止になったんです。これには困りました。長州小力が注射をうったら長州力に変身するという別のストーリーも考えて、長州力に出演の打診もしたんだけどね。まぁ、飯伏選手が復活して、16年の春には撮影することができたんで、7月の公開に間に合ったんです。台詞は棒読みですが、さすが人気レスラーだけあって撮影現場での呑み込みの早さや表現力は素晴しいものがありましたよ。現役時代の長嶋茂雄が主演した『ミスター・ジャイアンツ 勝利の旗』(64年)という映画があったけど、あれも長嶋選手は台詞を棒読み。でもいいんです、スター選手なんだから。力道山が主演した映画もありました。最近はスターが主演した映画がないでしょ。そういったスター主演映画をつくりたかったというのもありましたね。鈴木みのる選手にも出てもらったけど、彼もいいよね。新日本プロレスで1988年にデビューして、今もバリバリの現役でしょ。彼こそ“プロレスモノ”だよね。
──元プロボクサー赤井英和の実娘であり、DTT所属の美形レスラーでもある赤井沙希も謎の女役でいい感じです。
河崎 飯伏選手は芸能関係での所属はオスカープロモーションになっていて、彼女もオスカー所属という縁で出演することになったんです。プロレスの才能はもちろんのこと、彼女は女優としての才能もありますね。峰不二子的なセクシーなキャラクターをうまく演じてくれたし、あのルックスでアクションもできる。父親の血が流れているんだなと感じさせますよね。

愛する美和(河西美希)のため、陽出人(斉藤秀翼)は戦うことを決意する。今回の河崎作品は恋愛要素も入っている!
──『ウルトラマンレオ』(74年)に主演した真夏竜、『ウルトラセブン』(67年)のアマギ隊員こと古谷敏、『帰ってきたウルトラマン』(71年)のスーツアクターだったきくち英一、実相寺昭雄監督作品の常連だった堀内正美……とウルトラシリーズゆかりの俳優たちも大挙出演。
河崎 真夏さん、いいでしょ? 70歳を過ぎた真夏さんに女装癖のある博士役をやらせるなんて、どーかしていますよね(笑)。でも本人はすごく喜んでくれた。特撮もののヒーロー役をやると、そのイメージが強すぎて、いろんな役が来なくなるものなんです。役者ってね、幾つになっても面白い役をやりたがるんですよ。まぁ、今回のキャスティングでいちばんの肝になったのは毒蝮三太夫さんでしょう。毒蝮といえば、やはり『ウルトラマン』のアラシ隊員。ネロンガの光線を浴びても死なず、最終回にはウルトラマンを倒したゼットンをペンシル爆弾でやっつけています。毒蝮こそ最強の男なんです。うちの嫁がまむしさんのファンで、『毒蝮三太夫のミュージックプレゼント』(TBSラジオ)の公開収録の現場に行って出演交渉しました(笑)。『大怪獣モノ』の中で、古谷さんが演じている防衛長官が「毒蝮に敬礼!」というシーンがあるでしょ。あれはかつて古谷さんが経営していたイベント会社が倒産して困っていたときに、『ウルトラマン』『ウルトラセブン』で共演した毒蝮さんが救いの手を伸ばしたというエピソードが背景にあるんです。だから古谷さんの敬礼ポーズにはすごく実感がこもっているんです。
■東スポの記事は正しかった!?
──『ウルトラマン』をリアルタイムで観て育った河崎監督は、いわば第一オタク世代。自分の好きな世界を追い続けてきた河崎監督が15年に一般女性と結婚したのには驚きました。東京スポーツは「19歳年下女性と交際4カ月スピード婚」と報じましたが、東スポの記事は正しいんでしょうか?
河崎 いや、その通りです。14年に出逢って、その翌年に56歳で結婚しました。聞いた話だけれど40歳過ぎて初婚で結婚できる確率は3%らしいから、ほとんど絶滅危惧種みたいなものだよね。本当、人生何が起こるかわかりません。うちの嫁は一般女性です。女優はこりごりですよ(苦笑)。女優と結婚しようと映画監督が考えるのは、ヒモになるという要素もありますね。篠田正浩、大島渚、長谷川和彦(以下略)……。みなさん女優と一緒になっているけど、映画監督の仕事だけじゃ不安定だし、妻が働いて支えるというね。また、その稼ぎを映画にぶっこんじゃう。監督が女優と結婚するって、そういうことですよ。
──19歳年下の奥さまは特撮好きなんですか?
河崎 残念ながら、嫁は全く特撮に興味がないんですよ。世代も違うし趣味嗜好も違うけど、今まで自分が知らなかった世界を知ることもできて面白いですよ。
──『地球防衛未亡人』の公開時に「夕刊フジ」のインタビューで「好きなことを続ける秘訣は?」と河崎監督は尋ねられ、「親兄弟を犠牲にすること。あと女もね、ハハハ」と答えていますが……。
河崎 うちの嫁とまだ出逢う前でしたね、そのインタビューは。僕は兄弟はいないけど、確かに両親には迷惑かけっぱなし。実家はフグ料理屋なんだけど、父親は90歳を越えた今もフグを調理していますよ(笑)。ひとり息子がバカ映画を撮り続けたことを、よく許してくれたなと感謝しています。まぁ、これから嫁にも迷惑かけると思いますが……。『地球防衛少女イコちゃん』で監督デビューしてから今日まで、ノープランでよく仕事が続いたものだなと自分でも思いますよ(笑)。
■自分の好きな世界で生きるということ

これまで、あまり語られることのなかった河崎監督の私生活。今後の作風にどんな影響が現われるだろうか。
──大槻ケンヂ著『サブカルで食う 就職せず好きなことだけやって生きていく方法』(白夜書房)には「運と才能と継続していくことが大事」とありますが、河崎監督的にはどうでしょうか?
河崎 僕もサブカルで食べているわけだけど、余裕のある生活は難しいよね。でも、サブカルの人は何故か忙しい人ばかり。大槻ケンヂ、みうらじゅん、吉田豪……、みんな忙しくしている。それって毎日くだらないことに夢中になっているからなんだよね。実相寺監督もいつも忙しそうだった。
──実相寺監督はピンクちらしの収集で忙しかったんですよね(
参照記事)。
河崎 そうそう、ピンクちらしのコレクターでね。ピンクちらし以外にも「けろけろけろっぴ」も集めていました。生前、実相寺監督に訊いたことがあるんですよ。「映画を撮ってないときは何をしてるんですか?」と。その答えが「乞食だよ」と。実相寺監督は晩年東京藝術大学の教授になったけど、それ以前は自分のことを乞食だと言っていたんです。フリーで仕事やってる人間って、みんなそうじゃないですか。仕事があるときはあるけど、仕事がないときは乞食ですよ。実相寺監督はズバリ言う人でした。常に本音でしゃべる人でしたね。『帝都物語』(88年)を撮る前まではCMの監督も多くやっていましたが、あまりにも心ないスポンサーから口出しされて、CMはやらなくなったそうです。それもあってね、僕はスポンサーの前で「天才監督です!」と自称するようにしているんです。実相寺監督は本当の天才で、僕は天才のふりをしているだけなんだけど(笑)。普段から天才・鬼才と自称しておくことは重要ですよ。
──バカ映画の巨匠として、これからも特撮映画を撮り続けていくわけですね。
河崎 映画監督にはキャリアは関係ありません。これから撮る作品をどれだけ面白いものにできるかしかない。ただ同じことを続けていくのもあれなんで、クラウドファンディングで300万円集めて、新作を撮ることが決まっています。ウェブ漫画の『干支天使チアラット』の実写版です。この製作費はスポンサーからどうのこうの言われることのないお金なんで、気兼ねせずに自由に狂った映画を撮ることができます。応援してくれる人たちがスポンサーだから、くだらないことで大笑いしたい仲間と一緒に作品づくりができる喜びもあるし。今その脚本を執筆中です。脚本の内容や小ネタのアイデアで行き詰まることが多々あるんだけど、『大怪獣モノ』で毒蝮さんを起用するアイデアはうちの嫁との何気ない会話からひらめいたんです。普段の夫婦の会話が、実は企画会議になっているかもしれませんね(笑)。
(取材・文=長野辰次/撮影=後藤秀二)
『大怪獣モノ』
監督/河崎実 脚本/中野貴雄、河崎実
主題歌/ベッド・イン「太陽を信じて……」
出演/飯伏幸太、斉藤秀翼、河西美希、赤井沙希、鈴木みのる
3月22日(水)、キングレコードよりDVD&ブルーレイ発売
(c)2016「大怪獣モノ」製作委員会
http://mono-movie.com
『大怪獣モノ』Blu-ray&DVD/メイキングスペシャル映像
●かわさき・みのる
1958年東京都生まれ。明治大学在学中より自主映画『フウト』『エスパレイザー』などで注目を集め、オリジナルビデオ作品『地球防衛少女イコちゃん』(87年)で商業デビューを果たす。『飛び出せ!全裸学園』(95年)、『実写版 まいっちんぐマチコ先生』(03年)などのオリジナルビデオ作品で活躍後、『いかレスラー』(04年)、『コアラ課長』(06年)、『かにゴールキーパー』(06年)といった着ぐるみ映画で劇場を賑わし、『ギララの逆襲 洞爺湖サミット危機一発』(08年)はベネチア映画祭に正式出品された。筒井康隆原作『日本以外全部沈没』(06年)やモト冬樹主演『ヅラ刑事』(06年)、壇蜜主演『地球防衛未亡人』(14年)はスマッシュヒットを記録。日本の特撮界を舞台にした『アウターマン』(15年)は永井豪の『デビルマン』を思わせる驚愕の内容で、ファンを驚かせた。河崎監督が主演も兼ねた『電エース』シリーズも30年にわたるロングラン人気を誇っている。