ヒントは『君の名は。』から!? “原始人”との恋愛を描く注目の少女マンガ『原始人彼氏』作者&編集者インタビュー

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「LaLaDX」(白泉社)3月号掲載、北福佳猫『原始人彼氏』第1話より。
「スピカ」という農業を司る女神の“婚活斡旋”により、主人公の女子高生・神米美大(かみごめ みと)は“運命の人”に出会うべく250万年前の地球にタイムスリップすることに。そこで出会ったのは、アウストラロピテクスのガルヒ。一見、獰猛で野蛮に見えるガルヒに身の危険を覚える美大だったが、彼の意外な優しさに触れ――!?  人間の少女と原始人の恋愛模様を描く少女マンガ『原始人彼氏』(作:北福佳猫)。「LaLaDX」(白泉社)3月号から連載が始まるやいなや、その斬新かつ衝撃的な設定が「原始人?? 彼氏??(戸惑い)」「攻めすぎ!」「続きが気になる」と大きな話題を呼んでいる。 「おたぽる」では、そんな『原始人彼氏』の作者である新人マンガ家の北福佳猫さんと、担当編集・佐藤さんにメールインタビューを敢行! 作品誕生のキッカケや、マンガ制作の裏側とは……? * * * ――「LaLaDX」3月号での連載開始以降、「続きが気になる!」とネットを中心に大きな反響を呼んでいますが、編集部には読者からどのような反響の声が届いていますか? 担当編集・佐藤(以下、佐藤) いろいろな反響があり、とてもありがたいです。その中でも「どんな話になっていくのか予想できない」という声が多い印象です。 ――これを受けて、北福先生の今のお気持ちはいかがでしょう? 北福佳猫(以下、北福) どんな形でも反応を頂けるのは有難いです。小心者なので、かなりびっくりしています。読んで頂けるだけでとても嬉しいです。
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――北福先生と佐藤さんの出会いや、『原始人彼氏』が「LaLaDX」で連載されることになった経緯についてお聞かせください。 佐藤 2年くらい前に北福さんがララの漫画賞を受賞して、その際誠実で熱量の高い作風に魅かれて担当希望を出しました。 北福さんと次回作の打合せをしている時に『原始人彼氏』の設定が生まれました。原始人と恋愛するアイディアを話したら、ちょうど最近同じような事を考えていたと言われた事が印象に残っています。 北福 お話を頂いたのと偶然同じタイミングで原始生活と運命の恋について興味を持っていたので、「今これを描くしかない」と直感で思いました。 ――少女マンガといえば、“イケメン”との恋愛模様が定番となっていますが、“原始人との恋愛”という斬新なストーリーに衝撃を受けました。 北福 世界にこんなに沢山の人間がいて、毎日いろんな人とすれ違って、その中で出会って何かしらの縁を深める相手っていうのは、魂でつながる何かがあるんじゃないかと思うので、久遠の魂でつながる純愛を描くとしたら、いっそ原始人くらい遡った方がより純粋な物語になるかもと感じたんです。相手がたまたま原始人だっただけで、根底はイケメンとの王道の恋物語と何も変わらないと思っています。 ――最初に『原始人彼氏』を読んだとき、佐藤さんはどのような感想を抱かれましたか? 佐藤 エピソード自体は話し合って作っているので流れは分かっていましたが、北福さんの持ち味である、画面に溢れるエネルギーやユーモアが『原始人彼氏』の世界観に完璧に合致していて、新鮮な気持ちでワクワクしながら読みました。
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――連載するにあたり、具体的なアドバイスなどはされたのでしょうか? 佐藤 アドバイスではありませんが、「とにかく躊躇せず全力で原始人を描いて欲しい」と話しました。結果、野性味あふれる魅力的なヒーローになったと思います。 ――北福先生にお伺いしたいのですが、この『原始人彼氏』を描く上で、インスピレーションを受けた作品はありますか? 北福 作品だと、『君の名は。』です。『君の名は。』みたいなシチュエーションで「都会人と原住民くらいかけ離れた二人が出会う話も面白いんじゃないかな」と思ったのが最初でした。 ――美大とガルヒの仲がどのように進展していくか、また、他の登場キャラクターの活躍も気になるところですが、最終話の構想はもうすでに考えていらっしゃいますか? 北福 大まかな流れは決まっています。ただ、運命は行動でいくらでも変わるので、これからのキャラクター達の生き様で予定は変わっていくかもしれませんが。 ――先生がマンガ家を目指すようになったキッカケや、影響を受けた作品・マンガ家さんについて教えてください。 北福 4歳くらいの時に母が少女漫画雑誌を買ってくれたのがきっかけでした。絵を描くのが大好きだったので、その時生まれてはじめて見た漫画という存在に感動して、漫画家という職業を知り、なりたいと思ったのが最初です。  一番影響を受けたのは羽海野チカ先生ですね。長い挫折と葛藤の期間があったのですが、先生の作品から、怖かったからやるしかないことと、真摯に向き合う熱を学び、また挑戦するきっかけになりました。今もずっと大好きです。 ――マンガを描く際に心がけていること、こだわりはありますか? 北福 心が動く瞬間に真っ向から正直であること、漫画に誠実でいることです。あとはひたすら、読んでくださった人に楽しい瞬間があるように、下手な鉄砲も数打てば当たるじゃないですが「どこかたった一コマでもいいからめっちゃ響いてくれ」と念じながら描いています。
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――改めて、『原始人彼氏』の見どころをお聞かせください。 佐藤 草食系男子が多いと言われる今の時代に、「男らしさとは何か」を話し合って作っています。原始人の野性的な逞しさや、現代の価値観やコミュニケーションが通用しない時代だからこその純粋な恋に注目してほしいです。 北福 舞台が原始時代なので、野性的なシチュエーションがたくさんありますが、その中でも少女漫画ならではの可愛さや切なさ、情緒的な美しさも大切に盛り込んでいきたいと思っています。無骨な野性味と乙女なキラキラ感のさじ加減を自由に楽しんで頂けたら嬉しいです。 ――最後に、『原始人彼氏』読者のみなさんに、メッセージをお願いいたします。 佐藤 どんどん面白い展開になっていきますので、これからも是非ご期待下さい! 北福 目を留めて読んでくださって本当にありがとうございます。心軽くワクワクして頂けるよう、編集さん達と力を合わせて全力で頑張ります。最終話を読んだあと、「生きねば!」って明日に向かって笑って頂けるような作品になるよう想いを込めて描きます。楽しんでください! ■『原始人彼氏』 著 者:北福佳猫 Twitter:@morinekorokoro 掲載誌:「LaLaDX」(白泉社) *偶数月10日発売、5月号発売中! 価 格:690円(税込) LaLa DX 公式サイト http://www.hakusensha.co.jp/lala/mag_laladx/now.html LaLa編集部 公式Twitter:@LaLa_info

「ブチ切れ健康法とか最低」『サザエさん』波平の「バカモ~ン!」の理由がストレス解消だと判明しネット民からツッコミ

「ブチ切れ健康法とか最低」『サザエさん』波平の「バカモ~ン!」の理由がストレス解消だと判明しネット民からツッコミの画像1
『サザエさん』フジテレビ公式サイトより。
 4月9日に放送されたTVアニメ『サザエさん』(フジテレビ系)を、いつもと同じようにネット民たちが楽しそうにツッコミを入れながら視聴していたので、ネットの声とともにその内容を紹介したい。  まず最初に放送されたのは作品No.7585の「ぼくはお風呂奉行」。ある日、波平がお風呂の湯沸かしを失敗したサザエを叱っていると、カツオが「姉さんを責めたらかわいそうだよ」と庇いだす。買い物、掃除、料理、洗濯、タラオの世話などなどサザエも忙しいのだと主張し、「この際我が家も専属のお風呂係をつくった方がいいと思う」と提案するのだった。  そして家族のために自分がやると名乗りを上げた。お駄賃も要求せず「ボランティアだよ」と語ると、ネットでは「さすがカツオさん」「さすカツ」とネット恒例のカツオアゲ。だがもちろんカツオの行動には理由があったわけで、お風呂場に「おきもち箱」というものを設置。神社のさい銭のように、気持ちを入れてくれればいい、入れなくてもいいと言い出したのだ。  サザエとフネはこれに反対するも、波平やマスオはカツオに乗ってきてお金を入れる。するとカツオはお風呂場に富士山のポスターを張ったり、入浴剤を入れるなどさらに“おきもち”がもらえるように精を出す。  お金が大分貯まると、カツオは「今日は下請けに出す」と言って、ワカメとタラオに“おきもち”を分け与えることで風呂掃除を依頼し、自身は友だちとの遊びに熱中。だが案の定これがバレてしまい、波平から「バカモ~ン!」と叱られるのだった。しかしネットでは「カツオさんは商才あるなぁ」「カツオさんは有能企業家だな」「下請けはワロタ」とカツオに賛辞が送られていた。  次に放送されたのは作品No.7583の「マスオの眠れない日」。現実世界と同様に『サザエさん』の世界も暖かくなってきたようで、マスオは「仕事中もうとうとしてしまって」と話す。しかしそんなある日に上司から、取引先の人とクラシックコンサートにいくように命じられてしまった。  コンサート中に寝てしまうことを心配するマスオ。さまざまな策を練ってみたがどれも上手くいかず当日を迎えた。緊張の面持ちで出かけていくマスオに、カツオは「どうしても寝そうになったらこれを開いてみて」と折り畳んだ紙を渡す。  コンサート会場では気難しそうな取引先の人が待ち構えており、「これはますます寝られないぞ」とマスオの緊張はピークに。コンサート中、さっそく眠くなったマスオはカツオからもらった紙を開くと、そこには「マスオ兄さんの大切にしている万年筆壊しちゃった。ごめんなさい。カツオ」と綴られていた。 「ええ!」と思わず驚くマスオだが、これは実は嘘。眠気覚ましとしてカツオが考えた策略だったのだ。これにはやはりネットで「さすがカッツォさん!」「策士カツオさん」「なんという有能」と、2話続けてカツオに称賛の声が。オチは取引先の人が寝てしまうという展開で、話はキレイに幕を閉じた。  最後は作品7552の「カミナリやめます」。夜中に雷が鳴り響いたある日、波平は恐怖で目を覚まし、カツオも自分に怒られるたびに同じくらいの恐怖を感じていたかも、と謎の思考を巡らせ、唐突にそして叱るのをやめるのだった。もちろん叱られないことにカツオは違和感を覚えて、「見捨てられてしまったかも」とまで思い始める。  結局最後には、叱らないことが自分のストレスになって体の不調につながっていると感じた波平が叱ることを復活し、カツオはその“カミナリ”を喜ぶというオチ。だがネットでは「自分のストレス解消で怒んなよハゲ」「ブチ切れ健康法とか最低だなハゲ」「カミナリはただのストレス発散だったのか」と波平に非難集中。今週もいつもと同じく、カツオが株を上げて、波平が株を下げる『サザエさん』であった。

「ブチ切れ健康法とか最低」『サザエさん』波平の「バカモ~ン!」の理由がストレス解消だと判明しネット民からツッコミ

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『サザエさん』フジテレビ公式サイトより。
 4月9日に放送されたTVアニメ『サザエさん』(フジテレビ系)を、いつもと同じようにネット民たちが楽しそうにツッコミを入れながら視聴していたので、ネットの声とともにその内容を紹介したい。  まず最初に放送されたのは作品No.7585の「ぼくはお風呂奉行」。ある日、波平がお風呂の湯沸かしを失敗したサザエを叱っていると、カツオが「姉さんを責めたらかわいそうだよ」と庇いだす。買い物、掃除、料理、洗濯、タラオの世話などなどサザエも忙しいのだと主張し、「この際我が家も専属のお風呂係をつくった方がいいと思う」と提案するのだった。  そして家族のために自分がやると名乗りを上げた。お駄賃も要求せず「ボランティアだよ」と語ると、ネットでは「さすがカツオさん」「さすカツ」とネット恒例のカツオアゲ。だがもちろんカツオの行動には理由があったわけで、お風呂場に「おきもち箱」というものを設置。神社のさい銭のように、気持ちを入れてくれればいい、入れなくてもいいと言い出したのだ。  サザエとフネはこれに反対するも、波平やマスオはカツオに乗ってきてお金を入れる。するとカツオはお風呂場に富士山のポスターを張ったり、入浴剤を入れるなどさらに“おきもち”がもらえるように精を出す。  お金が大分貯まると、カツオは「今日は下請けに出す」と言って、ワカメとタラオに“おきもち”を分け与えることで風呂掃除を依頼し、自身は友だちとの遊びに熱中。だが案の定これがバレてしまい、波平から「バカモ~ン!」と叱られるのだった。しかしネットでは「カツオさんは商才あるなぁ」「カツオさんは有能企業家だな」「下請けはワロタ」とカツオに賛辞が送られていた。  次に放送されたのは作品No.7583の「マスオの眠れない日」。現実世界と同様に『サザエさん』の世界も暖かくなってきたようで、マスオは「仕事中もうとうとしてしまって」と話す。しかしそんなある日に上司から、取引先の人とクラシックコンサートにいくように命じられてしまった。  コンサート中に寝てしまうことを心配するマスオ。さまざまな策を練ってみたがどれも上手くいかず当日を迎えた。緊張の面持ちで出かけていくマスオに、カツオは「どうしても寝そうになったらこれを開いてみて」と折り畳んだ紙を渡す。  コンサート会場では気難しそうな取引先の人が待ち構えており、「これはますます寝られないぞ」とマスオの緊張はピークに。コンサート中、さっそく眠くなったマスオはカツオからもらった紙を開くと、そこには「マスオ兄さんの大切にしている万年筆壊しちゃった。ごめんなさい。カツオ」と綴られていた。 「ええ!」と思わず驚くマスオだが、これは実は嘘。眠気覚ましとしてカツオが考えた策略だったのだ。これにはやはりネットで「さすがカッツォさん!」「策士カツオさん」「なんという有能」と、2話続けてカツオに称賛の声が。オチは取引先の人が寝てしまうという展開で、話はキレイに幕を閉じた。  最後は作品7552の「カミナリやめます」。夜中に雷が鳴り響いたある日、波平は恐怖で目を覚まし、カツオも自分に怒られるたびに同じくらいの恐怖を感じていたかも、と謎の思考を巡らせ、唐突にそして叱るのをやめるのだった。もちろん叱られないことにカツオは違和感を覚えて、「見捨てられてしまったかも」とまで思い始める。  結局最後には、叱らないことが自分のストレスになって体の不調につながっていると感じた波平が叱ることを復活し、カツオはその“カミナリ”を喜ぶというオチ。だがネットでは「自分のストレス解消で怒んなよハゲ」「ブチ切れ健康法とか最低だなハゲ」「カミナリはただのストレス発散だったのか」と波平に非難集中。今週もいつもと同じく、カツオが株を上げて、波平が株を下げる『サザエさん』であった。

心地いい音楽と演出に酔いしれろ! “湯浅政明入門編”にも最適な『夜は短し歩けよ乙女』レビュー

【劇場アニメレビュー】心地いい音楽と演出に酔いしれろ! 湯浅政明入門編にも最適な『夜は短し歩けよ乙女』の画像1
『夜は短し歩けよ乙女』公式サイトより。
 正直に告白すると、かつて湯浅政明監督作品が大の苦手であった。それは彼の商業映画監督デビュー作『マインド・ゲーム』(2004年)を見たときの生理的拒絶感とでもいうか、作品としての質の高さを認めるのはやぶさかではないものの、あの濃密かつサイケな映像の洪水に押し流されそうな圧迫感を覚えたからである。  その後も彼が手掛けたTVアニメーション・シリーズ『ケモノヅメ』(06年/WOWOW)や『カイバ』(08年/同)を見ても苦手意識は薄れず、徹底して自由な才覚で突っ走り続ける彼の映像センスは、作っている本人や仲間たちは気持ちよさげだが、はたから見ると暴走族の走りを目の当たりにしているかのような強迫観念すら芽生えていたほどであった。  しかし、そういった苦手意識がようやく解消できたのが、10年のTVアニメ・シリーズ『四畳半神話大系』(フジテレビ系)で、原作:森見登美彦による独自の内面的自意識過剰宇宙ともいえる世界観とキャラクター原案:中村佑介によるあっさりとした中にも艶のある登場人物たちが、それまで過剰に「暴走」し続けていた恐怖(?)の湯浅演出を「疾走」の心地よさに転じさせてくれたような、そんな好印象をもたらしてくれていたのであった。  不思議なもので、一度こうなると彼のかつての旧作群も、見直すと実に心地よく映えてくるもので、一方で松本大洋原作のTVアニメ『ピンポン THE ANIMATION』(14年/同)も個人的には苦手な絵柄ながらも十分楽しめる快作たり得ていた。  そして今年、湯浅政明監督の新作劇場用アニメーション映画が2本立て続けに公開される。  4月7日公開の『夜は短し歩けよ乙女』と、5月19日公開の人魚と少年の心の交流を描いたファンタジー『夜明け告げるルーのうた』。  今回は前者をレビューさせていただくが、実は双方とも傑作であり、快作であり、怪作であり、そして必見作であることは、最初に強調しておきたい。 『夜は短し歩けよ乙女』は『四畳半神話大系』と同じ森見登美彦原作小説の映画化だが、京都を舞台に据えての世界観は『四畳半~』の発展形といってもよく、スタッフもキャラクター原案の中村佑介はもとより脚本・上田誠、音楽・大島ミチルなど『四畳半~』の面々が再結集。キャラクターにしても、樋口師匠や羽貫さんなど『四畳半~』の面々が登場するし、主人公となる天然女子大生“黒髪の乙女”をひそかに恋する“先輩”も、一見『四畳半~』の“私”と同一視しても差し支えないほどだ。 (もっとも“私”の声が浅沼晋太郎であったのに対し、“先輩”は星野源が担当。また眼鏡の形状や、髪の生え際も左右異なるので、やはり別人と捉えたほうが賢明か。いや、先輩の妄想の中に登場するもう一人の自分“ジョニー”の声を、『四畳半~』同様に檜山修之が演じているし……。何だか迷宮の中に入り込みそうなので、このへんでやめておこう。ま、TVと映画、パラレルワールドということで)  この時点で『四畳半~』ファンなら既に無問題の内容ではあるのだが、ここで湯浅監督はさらに劇場用映画ならではのダイナミックな作画構成や、台詞も抑えめにするなどの工夫を凝らし、“黒髪の乙女”が過ごす不可思議な一夜を、その実1年くらい優に過ぎてるのではないかと思わせるほどに時空軸を超越させながら、その混乱もまた大きな魅力として、銀幕を大いに映えさせている。  また『四畳半~』の“黒髪の乙女”(演:坂本真綾)には明石さんという名字があり、顔にほくろもあるクール美女だったが、一方で本作の主人公となる“黒髪の乙女”は、徹底的に天然で明るくほんわかした笑顔美女で(ちなみに、ほくろはない)、その意味でも花澤香菜の声が実によく似合っている。しかし、それでいて周囲の人間を次々と奇妙な事態へ導いていくお騒がせぶりとのギャップは、実に映画向きの愛らしくもファム・ファタール的キャラクターでもあり、そんな彼女の構築がすこぶるうまくいっていることも本作の成功の大きな要因といっていい。  一見あっさりしているようで実はこってりとした濃密かつレトリックな絵柄は、下ネタの多さまで巧みに微笑ましい印象へと転じさせることに貢献し、自意識過剰な“先輩”の純情までをもより一層引き立てる。後半のゲリラ演劇シーンにおけるミュージカル演出は、そもそも湯浅作品の本質が音楽的であることを証明しており、このセンスは続く『夜明け告げるルーのうた』でもさらに心地よく奏でられていく。  湯浅作品を見るたびに創作することの“自由”を痛感させられる。かつてはそこに恐怖にも似たけたたましさを感じるときもあったが、ひとたび見る側が心を開きさえすれば、その自由は心地よくも憧れの対象として、どんどんその世界観にはまっていくのも間違いない。 『夜は短し歩けよ乙女』は、そんな彼の入門編として広く門戸が開かれた作品であり、幅広い観客層の支持も大いに期待できる。いずれにしても『夜明け告げるルーのうた』ともども、前年度に続く2017年の国産アニメーション映画の大躍進の象徴として、そしてアニメーションがいくらでも自由になれることを示唆するものとして、湯浅政明監督作品群が今後語られ続けていくことを予見しておきたい。 (文・増當竜也)

心地いい音楽と演出に酔いしれろ! “湯浅政明入門編”にも最適な『夜は短し歩けよ乙女』レビュー

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『夜は短し歩けよ乙女』公式サイトより。
 正直に告白すると、かつて湯浅政明監督作品が大の苦手であった。それは彼の商業映画監督デビュー作『マインド・ゲーム』(2004年)を見たときの生理的拒絶感とでもいうか、作品としての質の高さを認めるのはやぶさかではないものの、あの濃密かつサイケな映像の洪水に押し流されそうな圧迫感を覚えたからである。  その後も彼が手掛けたTVアニメーション・シリーズ『ケモノヅメ』(06年/WOWOW)や『カイバ』(08年/同)を見ても苦手意識は薄れず、徹底して自由な才覚で突っ走り続ける彼の映像センスは、作っている本人や仲間たちは気持ちよさげだが、はたから見ると暴走族の走りを目の当たりにしているかのような強迫観念すら芽生えていたほどであった。  しかし、そういった苦手意識がようやく解消できたのが、10年のTVアニメ・シリーズ『四畳半神話大系』(フジテレビ系)で、原作:森見登美彦による独自の内面的自意識過剰宇宙ともいえる世界観とキャラクター原案:中村佑介によるあっさりとした中にも艶のある登場人物たちが、それまで過剰に「暴走」し続けていた恐怖(?)の湯浅演出を「疾走」の心地よさに転じさせてくれたような、そんな好印象をもたらしてくれていたのであった。  不思議なもので、一度こうなると彼のかつての旧作群も、見直すと実に心地よく映えてくるもので、一方で松本大洋原作のTVアニメ『ピンポン THE ANIMATION』(14年/同)も個人的には苦手な絵柄ながらも十分楽しめる快作たり得ていた。  そして今年、湯浅政明監督の新作劇場用アニメーション映画が2本立て続けに公開される。  4月7日公開の『夜は短し歩けよ乙女』と、5月19日公開の人魚と少年の心の交流を描いたファンタジー『夜明け告げるルーのうた』。  今回は前者をレビューさせていただくが、実は双方とも傑作であり、快作であり、怪作であり、そして必見作であることは、最初に強調しておきたい。 『夜は短し歩けよ乙女』は『四畳半神話大系』と同じ森見登美彦原作小説の映画化だが、京都を舞台に据えての世界観は『四畳半~』の発展形といってもよく、スタッフもキャラクター原案の中村佑介はもとより脚本・上田誠、音楽・大島ミチルなど『四畳半~』の面々が再結集。キャラクターにしても、樋口師匠や羽貫さんなど『四畳半~』の面々が登場するし、主人公となる天然女子大生“黒髪の乙女”をひそかに恋する“先輩”も、一見『四畳半~』の“私”と同一視しても差し支えないほどだ。 (もっとも“私”の声が浅沼晋太郎であったのに対し、“先輩”は星野源が担当。また眼鏡の形状や、髪の生え際も左右異なるので、やはり別人と捉えたほうが賢明か。いや、先輩の妄想の中に登場するもう一人の自分“ジョニー”の声を、『四畳半~』同様に檜山修之が演じているし……。何だか迷宮の中に入り込みそうなので、このへんでやめておこう。ま、TVと映画、パラレルワールドということで)  この時点で『四畳半~』ファンなら既に無問題の内容ではあるのだが、ここで湯浅監督はさらに劇場用映画ならではのダイナミックな作画構成や、台詞も抑えめにするなどの工夫を凝らし、“黒髪の乙女”が過ごす不可思議な一夜を、その実1年くらい優に過ぎてるのではないかと思わせるほどに時空軸を超越させながら、その混乱もまた大きな魅力として、銀幕を大いに映えさせている。  また『四畳半~』の“黒髪の乙女”(演:坂本真綾)には明石さんという名字があり、顔にほくろもあるクール美女だったが、一方で本作の主人公となる“黒髪の乙女”は、徹底的に天然で明るくほんわかした笑顔美女で(ちなみに、ほくろはない)、その意味でも花澤香菜の声が実によく似合っている。しかし、それでいて周囲の人間を次々と奇妙な事態へ導いていくお騒がせぶりとのギャップは、実に映画向きの愛らしくもファム・ファタール的キャラクターでもあり、そんな彼女の構築がすこぶるうまくいっていることも本作の成功の大きな要因といっていい。  一見あっさりしているようで実はこってりとした濃密かつレトリックな絵柄は、下ネタの多さまで巧みに微笑ましい印象へと転じさせることに貢献し、自意識過剰な“先輩”の純情までをもより一層引き立てる。後半のゲリラ演劇シーンにおけるミュージカル演出は、そもそも湯浅作品の本質が音楽的であることを証明しており、このセンスは続く『夜明け告げるルーのうた』でもさらに心地よく奏でられていく。  湯浅作品を見るたびに創作することの“自由”を痛感させられる。かつてはそこに恐怖にも似たけたたましさを感じるときもあったが、ひとたび見る側が心を開きさえすれば、その自由は心地よくも憧れの対象として、どんどんその世界観にはまっていくのも間違いない。 『夜は短し歩けよ乙女』は、そんな彼の入門編として広く門戸が開かれた作品であり、幅広い観客層の支持も大いに期待できる。いずれにしても『夜明け告げるルーのうた』ともども、前年度に続く2017年の国産アニメーション映画の大躍進の象徴として、そしてアニメーションがいくらでも自由になれることを示唆するものとして、湯浅政明監督作品群が今後語られ続けていくことを予見しておきたい。 (文・増當竜也)

結婚相談所がオタクの未婚率上昇を食い止める!? 「とら婚」婚活アドバイザーに聞いた“オタク”と“結婚”の関係

 同人誌の販売で知られる「とらのあな」の創業者が、まさかの婚活ビジネスに着手。2月末にオタク向け結婚相談所「とら婚」オープンした。
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オタクに寄り添う結婚相談所「とら婚」。
 HPを見ると、「趣味と結婚を両立させる。オタクに寄り添うに結婚相談所」という一文が。これまでにオタク向けの街コンや婚活パーティなどは目にすることがあったが、“オタク向けの結婚相談所”は前代未聞だろう。  結婚から遠い存在に思われがちなオタクに対し、なぜ結婚相談所を開いたのか? 「とら婚」には一体どんなオタクが集まるのか? 果たして、需要はあるのか?  今回はそんな疑問を、「とら婚」の婚活アドバイザーを務める野村晶二郎さんにインタビュー。オタクと結婚について、詳しく話を聞いた。 ■オタクの“ため”になる事業がしたかった
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「とら婚」婚活アドバイザー・野村晶二郎さん。
――「とら婚」を設立することになった流れを教えてください。 野村晶二郎(以下、野村) まず、社会的な背景として未婚率の上昇が近年指摘されています。その中で、一般的にオタクと言われるアニメ・マンガ・ゲーム好きの人の未婚率って、実はそういう趣味を持っていない人とくらべて高いという統計が出ているんです。矢野経済研究所さんが出しているデータによれば、オタクの未婚率は67%。オタクの方の年齢が若干若い傾向にあることも関係して、このような数字が出ているんですけど、それにしてもかなり高い。 ――私自身もオタクなので、そうなんじゃないかなとは思っていましたが(汗)、やっぱりそうなんですね。 野村 その状況を解決したいと言うか、何か力になれないかという考えが創業者にありまして。一方、会社側としては、やっぱり「とらのあな」からスタートした会社なので、お取引させていただいているクリエイター様たちとか、オタク趣味を持っているユーザーの方たちの“ため”になる事業がしたいなと。今まではそれが同人誌やグッズ販売だったんですけど、それ以外の方法もあるんじゃないかと。  その中で浮かび上がったのが、恋愛と結婚でした。そういう方面での新しいサービスとして、オタクの方たちのためになる事業を生むべきなんじゃないかと。社会的な問題、会社側の考えが合致して生まれたのが「とら婚」なんです。 ――実際「とら婚」は、とらのあなの創業者による新事業ですが、ネットでは「とらのあなが結婚相談所を開いた」など、大きな話題になっていました。ネット上での評判はどのように感じていましたか? 野村 最初はいじられると覚悟していたんです。どうしても「とらのあな」との関係が見え隠れするので。「とらのあなが変なこと始めた」って。でも逆に好意的な意見があったのがすごく印象的でした。来場された方の中には、「なんでもっと早く始めてくれなかったんですか!」って声を上げる方もいたりして。地方からも「大阪にも出してください」って意見が届いたりして。ちゃんと真剣に捉えてくださる方はしっかりといらっしゃるなと。そこはかなり嬉しかったですね。 ――「とら婚」と言えば、HP上で「婚前交渉」は「成婚」とみなしますと明記したことも大きな話題となりました。 野村 まず、「成婚」について説明すると、お互いが結婚の意志を確認しあう、プロポーズをしてOKが出る、それが第一の条件です。そして、「婚前交渉」。これも結婚の意志があるとみなす厳密なルールがあります。これは女性を守るという視点があるので、ここは結構崩せないです。それから、宿泊を伴う旅行もです。大きくはその3つになります。 ――女性を守るためのルールだったんですね。でも、アドバイザーに言わなければバレないような気もしますが……。 野村 ご自身に当てはめて考えてほしいんですけど、ルールとして婚前交渉を禁止されているのに、相手がルールを破るようなことをした場合、その方への信頼感ってガタっと落ちるじゃないですか。すると、大体の方が所属している結婚相談所に相談されるんです。そして、この方との交際は辞めましょうと。わりとすぐにバレることが多いみたいです。 ――先程の成婚の条件は「とら婚」だけのルールではないのでしょうか? 野村 そうですね。日本結婚相談所連盟の共通のルールです。あまり広く知られていなかったルールが、今回をきっかけに広まったのかなという印象です。 ■オタク趣味を理解してほしい人が集まっている
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相談所には、IBJ(日本結婚相談所連盟)の認定証が。
――ネットで話題になったことで、入会者数もかなり増えたのでしょうか? 野村 まだ立ち上げて3週間も経っていないので【注:インタビュー時】、入会希望者数で言うと、そろそろ20くらいに届くかなというレベルです。ただ、面談の申込み自体は300件とかなりたまっていて、これから成長してくのかなという感想は抱いています。男女比は結論から言うと半々くらい。わりと不思議なんですけど、最初は女性のほうが多くて。まとめサイトなどに女性会員のほうが多いと変な取り上げ方をされたのもあってか(笑)、男性の方はあとからついて来ました。 ――年齢層で言うと、どの年代がメイン層なのでしょうか? 野村 年齢層は男女で違いがあって、女性は20代後半から30代半ば。男性は30代から40代前半です。年齢のズレはありますが、これはこれでニーズは合っているような気がしていて。女性はわりと年上もOKだったりするみたいなんですけど、男性は年下のほうが良いって方が多くて。うまく合致しているなと。 ――「とら婚」は、「100%自身の趣味にこだわりを持つ方」でないと入会できないとありますが、どのレベルのオタクであれば入会できるのでしょうか? 野村 入りたいというご希望であれば、断るつもりはありません。その人がどういう人と出会いたいか次第だと思っています。でも「とら婚」にいらっしゃる方って、国民的なアニメが好きであっても、深く愛されている方が多いです。いわゆるライトオタクと言われる人と付き合いたいっていう場合は、うちじゃなくてもいいかもしれないですし、本当にディープな人と付き合いたいと考えていたら「とら婚」が一番合うのでは、と考えています。でも、その人が求めるレベルに応じて、しっかりとした人を紹介できればという理念、理想は抱いていますね。 ――そもそも結婚相談所がどういったところか分からない人も多いと思うので、理想の相手に出会うまでの流れを教えていただければと。 野村 言い方は適切でないかもしれませんが、転職サイトのような感じです。5万8,000人が登録しているIBJ日本結婚相談所連盟のシステムを利用して、希望する条件に合う人を月に10名弱ほど紹介されたり、逆に自分でサイトにアクセスして希望の相手を探したり。だいたい自分で行う活動がベースになるのですが、それだと結婚相談所のメリットがあまりないので、私たちアドバイザーが活動計画のサポートをしたり、行動を促したりします。  あと、サイトで設定する希望条件って年収・年齢・身長といった基本的な部分だけで、アニメとかゲームといった趣味部分がほとんどないんです。なので一部のプランでは、アドバイザーが会員の情報を深掘りし、「この方はあなたの趣味部分を理解してくれますよ」とか、「実は同じ作品が好きなんですよ」と条件に合う方を紹介しています。 ――自分の好きな作品のオタクを探せるのは、「とら婚」の強みですね。 野村 正直に言うと難しい部分もありまして、一般的にほかの結婚相談所は、そんなに深掘りして聞いていないんですよ。調べればわかるんですが、具体的に好きな作品を出している人はほとんどいません。たまにガンダム好きとか、ジョジョ好きとかはいますけど。出していても、アニメ・マンガ・ゲームという一般的なワードだけなので、そこは我々のほうでお手伝いをしながらっていうところになりますね。 ――ちなみに、「とら婚」で人気の作品ってあるのでしょうか? 野村 よく聞くのは、最近だと『Fate/Grand Order』と『ファイナルファンタジー15』でしょうか。アニメで意外だったのは、ラブライバーが意外と少ないな……と。いないってわけじゃないんですが、思ったよりいないなと。あとは男女問わず特撮好きの方が多いですね。 ――たとえばなんですけど、アイマスPさんが「ラブライバーはちょっと……」と言った場合、意見として取り入れてもらえるのでしょうか? 野村 そこは話し合いながらということになりますが、限定してしまうと、そもそもの出会いも限定されてしまいます。そこは我々からちょっと視点広げましょうかと助言することもありますし、どうしてもという場合はお聞きすることもあるかと思います。でも、現在入会されている方はわりと寛容な方が多くて、話が完全に合わなくても自分のオタク趣味を理解してくれる人だったら良いですという方が多いですね。 ――オタクに寄り添う結婚相談所ということで、やはり野村さんをはじめ、アドバイザーは皆オタクなのでしょうか? 野村 まずはオタクに理解のあるスタッフと捉えてほしいですね。なかなかどこからがオタクって言うのは我々も言いづらいので。一応僕はHP上では、『ARIA』『ガールズ&パンツァー』好きって言っていますが、レベルの高い諸先輩方には敵わないレベルだとは思っているので……。オタク趣味に理解のあるスタッフが揃っていると思ってください。 ――ちなみに、『ガールズ&パンツァー』だと誰推しですか? 野村 あの~……河西忍ちゃんですね。バレー部の。凛々しいじゃないですか。凛々しいけど、劇場版でアヒルの被りものを見て、穏やかな表情を浮かべるそのギャップが印象的で……。 ――ライトオタクじゃないような気もしますが(笑)。「とら婚」のTwitter(@ToraCon_Akiba)でも結構オタク発言をしていますよね。 野村 「とら婚」では結婚パーティの開催もしているんですが、大洗で結婚パーティをやりたいって僕が呟いて、それに反応をいただいたりもしています。でも、男女で集まるなら、男女共に人気の高い作品を選ばないとって思うので、作品選びが難しいですよね。 ――たしかに、『ガルパン』は男性ファンのが多いかもしれません。 野村 なので、やるならジャンプ系の作品かなと……最近だと『Fate/Grand Order』とか。 ――プロフィール欄に課金額を書く感じですかね(笑)。 野村 課金月3万円以上じゃないと参加できませんって書いたりですかね(笑)。 ■結婚を真剣に考えているオタクは多いかなと ――「とら婚」以外の結婚相談所だったら、月の課金額何万とかは引かれそうな要素ですよね。「とら婚」に来る方だからこそ許されそうという。 野村 結婚後もオタク趣味を続けていきたいという方しかこないですしね。ただ、ほかの結婚相談所のアドバイザーさんって、もちろん人によるんですが、ガンガン指導していくと言いますか、万人受けする理想像に近づけようとする人もいるみたいなんです。そういう人にぶち当たってしまったら、もしかするとオタク趣味は遠慮してくださいって言われてしまうかも。ほかの相談所さんの話を聞いて、そう思いました。 ――オタクであることを否定されてしまうと言いますか。 野村 でも今って、アニメもマンガもあふれているじゃないですか。それこそ、『君の名は。』がすごくヒットしたり。そういうところから、オタク趣味に理解のある人って増えていると思います。これも矢野経済研究所さんのデータなのですが、「自分自身がオタクだと自認している人」っていうのは、毎年だいたい全体の20~25%くらいいるっていうデータが出ているんです。その割合はだいたい変わっていないんで、30代とかでもオタクに理解のある方って実は多いんじゃないかと。なので、今の世の中でそれを無理やり直していくのは間違っているんじゃないかなという気持ちも一部であって。 ――「とら婚」は、“趣味と結婚を両立させる”結婚相談所とありますが、そのためにしていることを教えてください。 野村 もし、休日は寝ずにオタク趣味に時間を費やしています、という方はちょっと時間削って計画的に結婚に向き合ってみましょうかと、具体的な活動計画を立てることを最初の面談でさせていただいています。休日3時間くらいアニメ見ていますくらいだったら、全然続けていただいていいと思いますし。その中でお相手と交際できたら、どれくらいの時間を趣味に当てていきたいかという部分など、価値観の部分をお相手としっかりすり合わせていきましょうという話はみなさんにさせていただいています。 ――3次元に興味がないと言いますか、少なからず結婚しなくてもいいっていうオタクもいると思うんですが、「とら婚」を通じて、何か感じたことはありますか? 野村 やっぱり結婚しなくていいというオタクの方もいらっしゃいます。でも、もしかしたら口だけかもしれないですよね。実際、「とら婚」に冷やかしでやってきましたって人もいて。そんなに結婚には興味がなかった方だったんですけど、でもしっかりとお話を聞いていくと、実は本当は結婚を望まれていて。  また、話を聞いていく中で、まったく希望を持っていなかったけど、もしかしたら自分も勇気を出せば10~20%くらいの確率で結婚できそうだって、感想を抱く方もいました。もちろん結婚しなくて良いという方もいると思いますが、やっぱりどこかで恋愛とか結婚とか、将来的な部分でかなり真剣に考えているオタクの方は結構多いかなと感じています。 ――では最後に、立ち上がったばかりの「とら婚」の今後の展望を教えてください。 野村 現時点ではかなりの反響をいただいていて、相談など待たせしてしまっている方も多いのですが、まずはみなさんの話をしっかりと聞いて、結婚に向けてどういった活動をすべきなのかという話をしっかりとさせていただきたいなと思っています。  その中で「とら婚」が選択肢の最後として残った方に対しては、なるべく趣味部分に合う方を早期に提案していきたいですね。まだ立ち上がったばかりなので、もちろん出来る部分と出来ない部分があると思うんですが、加入してくださった会員の皆さんにとって、一番メリットのあるサービスを早期に作り上げていきたいなと考えています。 (編集部) ■とら婚 https://toracon.jp/

「きっと、きよちゃんは幸せになれる」アイドルヲタクが見た『ザ・ノンフィクション その後の中年純情物語』

「きっと、きよちゃんは幸せになれる」アイドルヲタクが見た『ザ・ノンフィクション その後の中年純情物語』の画像1
「小泉りあ」のTwitter(@lilia_koizumi)より。
 フジテレビ系で放送されている『ザ・ノンフィクション』では、定期的にアイドルを取り上げる。  苦労をしながらアイドルを続ける女の子が主役であったり、彼女たちを応援する男性がメインだったりするが、いずれにせよその姿は、一般の人達の目には奇異に写ることが多いようだ。  そのような番組が放送されると、決まって実家の母親から私のところに電話がかかってくる。  いわく「女性に相手にされないような、いい年をした男がアイドルに夢中になるなんてみっともない。ああはならないでくれ」。  年老いた母親にいちいち反論するのも面倒なので聞き流すことにしているが、私はそれを恥ずかしいともみっともないとも思わない。  私自身も、一アイドルファンとして、彼らの気持ちがよく分かるからだ。  4月2日放送の『ザ・ノンフィクション その後の中年純情物語』で取り上げられたのは、アイドルグループ「カタモミ女子」のメンバー・小泉りあちゃんと、その熱烈なファンである「きよちゃん」。  実は今回の番組は、2年前に放送された『中年純情物語~地下アイドルに恋して~』の後日談になる。当時53歳だったきよちゃんは、55歳になった。今も独身だ。  2年前、カタモミ女子を卒業したりあちゃんは、今でも地下アイドルを続けていた。そしてもちろん、きよちゃんは今でも、りあちゃんのファンを続けている。  りあちゃんときよちゃん、どこか不器用そうに見える2人は、きっとお似合いだ。誰になんと言われようとも、こうとしか生きられない。そんな姿には何か暖かいものを感じる。  大学を卒業し、一時は就職も考えたというりあちゃん。しかし、一度踏み入れたアイドルの世界を捨てられず、1人レッスンをしながらライブに出続ける。  時には、観客がきよちゃん1人ということもある。そんなときも、きよちゃんは精一杯の声援を彼女に送るのだ。  一体、何が彼を掻き立てるのだろうか。  ある日、りあちゃんはチケットノルマのあるミュージカルへの出演が決まる。ここでチケットノルマについての是非に触れるつもりはない。  ただ、愛情というのは、相手に何かしてあげたくて仕方なくなるものなのだ。彼女のためにチケットを買い、グッズを作るのも、きよちゃんにとっては楽しくて仕方がないはずだ。それこそが彼のモチベーションだと思う。  放送後、ネット上には様々な意見が書き込まれた。  きよちゃんの純粋な気持ちに共感するものもあれば、報われることのない思いを、無駄だとする意見もあった。  実際、私も人から言われることがある。 「アイドルなんていくら応援したって付き合えるわけじゃないんだから、虚しくない?」  そう聞いてくる人達はわからないのだろう。アイドルとファンという関係は、付き合うための前段階でもなければ、未来を見据えたものでもない。  それに、その人は知らないのだろうか。  アイドルではない、現実の女性だって、気持ちが伝わらないことなんてたくさんあるし、いつか必ず別れが来るということを。 「いつか別れが来ることはわかっている」  そんなきよちゃんの言葉が全てを物語っている。  わかっている、わかっているからこそ、その時間を尊いと思えるのだし、感謝の思いを持って、その時を過ごすことができるのだ。一体、そういう思いを持って過ごせる時間を持っている人が、この世界にどれだけいるだろう。  そして、アイドルファンの多くはDD(「誰でも大好き」の略)と呼ばれ、次から次へと新しい女の子に推しを移していく。そんな中できよちゃんは一途だ。どちらが偉いわけでもない、ただ、彼の一途さが少し羨ましくなることも確かだ。  前回の放送では、カタモミ女子からりあちゃんが卒業するところで終わっていた。しかし、今回は、お別れはなし。アイドルがファンの洋服をコーディネートしてくれるお店で働いているりあちゃんが、きよちゃんの服を見立てているところで終わる。  所詮は限りのある時間だし、限りのある生命だ。  そのうちの何年かを大好きな女の子とともに過ごす。  恋人とか結婚とか、どんな形態かなんて関係ない。  夢中になれることがあって、愛情を注げる人がいる。それだけのことがどれだけ尊いか。多分、きよちゃんはそれを知っている。それを知る人はきっと、少しの切なさを抱えながらも、きっと幸せになれる。そんなことを信じたいと思った。 (文=プレヤード)

「きっと、きよちゃんは幸せになれる」アイドルヲタクが見た『ザ・ノンフィクション その後の中年純情物語』

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「小泉りあ」のTwitter(@lilia_koizumi)より。
 フジテレビ系で放送されている『ザ・ノンフィクション』では、定期的にアイドルを取り上げる。  苦労をしながらアイドルを続ける女の子が主役であったり、彼女たちを応援する男性がメインだったりするが、いずれにせよその姿は、一般の人達の目には奇異に写ることが多いようだ。  そのような番組が放送されると、決まって実家の母親から私のところに電話がかかってくる。  いわく「女性に相手にされないような、いい年をした男がアイドルに夢中になるなんてみっともない。ああはならないでくれ」。  年老いた母親にいちいち反論するのも面倒なので聞き流すことにしているが、私はそれを恥ずかしいともみっともないとも思わない。  私自身も、一アイドルファンとして、彼らの気持ちがよく分かるからだ。  4月2日放送の『ザ・ノンフィクション その後の中年純情物語』で取り上げられたのは、アイドルグループ「カタモミ女子」のメンバー・小泉りあちゃんと、その熱烈なファンである「きよちゃん」。  実は今回の番組は、2年前に放送された『中年純情物語~地下アイドルに恋して~』の後日談になる。当時53歳だったきよちゃんは、55歳になった。今も独身だ。  2年前、カタモミ女子を卒業したりあちゃんは、今でも地下アイドルを続けていた。そしてもちろん、きよちゃんは今でも、りあちゃんのファンを続けている。  りあちゃんときよちゃん、どこか不器用そうに見える2人は、きっとお似合いだ。誰になんと言われようとも、こうとしか生きられない。そんな姿には何か暖かいものを感じる。  大学を卒業し、一時は就職も考えたというりあちゃん。しかし、一度踏み入れたアイドルの世界を捨てられず、1人レッスンをしながらライブに出続ける。  時には、観客がきよちゃん1人ということもある。そんなときも、きよちゃんは精一杯の声援を彼女に送るのだ。  一体、何が彼を掻き立てるのだろうか。  ある日、りあちゃんはチケットノルマのあるミュージカルへの出演が決まる。ここでチケットノルマについての是非に触れるつもりはない。  ただ、愛情というのは、相手に何かしてあげたくて仕方なくなるものなのだ。彼女のためにチケットを買い、グッズを作るのも、きよちゃんにとっては楽しくて仕方がないはずだ。それこそが彼のモチベーションだと思う。  放送後、ネット上には様々な意見が書き込まれた。  きよちゃんの純粋な気持ちに共感するものもあれば、報われることのない思いを、無駄だとする意見もあった。  実際、私も人から言われることがある。 「アイドルなんていくら応援したって付き合えるわけじゃないんだから、虚しくない?」  そう聞いてくる人達はわからないのだろう。アイドルとファンという関係は、付き合うための前段階でもなければ、未来を見据えたものでもない。  それに、その人は知らないのだろうか。  アイドルではない、現実の女性だって、気持ちが伝わらないことなんてたくさんあるし、いつか必ず別れが来るということを。 「いつか別れが来ることはわかっている」  そんなきよちゃんの言葉が全てを物語っている。  わかっている、わかっているからこそ、その時間を尊いと思えるのだし、感謝の思いを持って、その時を過ごすことができるのだ。一体、そういう思いを持って過ごせる時間を持っている人が、この世界にどれだけいるだろう。  そして、アイドルファンの多くはDD(「誰でも大好き」の略)と呼ばれ、次から次へと新しい女の子に推しを移していく。そんな中できよちゃんは一途だ。どちらが偉いわけでもない、ただ、彼の一途さが少し羨ましくなることも確かだ。  前回の放送では、カタモミ女子からりあちゃんが卒業するところで終わっていた。しかし、今回は、お別れはなし。アイドルがファンの洋服をコーディネートしてくれるお店で働いているりあちゃんが、きよちゃんの服を見立てているところで終わる。  所詮は限りのある時間だし、限りのある生命だ。  そのうちの何年かを大好きな女の子とともに過ごす。  恋人とか結婚とか、どんな形態かなんて関係ない。  夢中になれることがあって、愛情を注げる人がいる。それだけのことがどれだけ尊いか。多分、きよちゃんはそれを知っている。それを知る人はきっと、少しの切なさを抱えながらも、きっと幸せになれる。そんなことを信じたいと思った。 (文=プレヤード)

ハリウッド実写版『ゴースト・イン・ザ・シェル』と押井監督のアニメ版は西洋医学と東洋医学ぐらい違う!?

ハリウッド実写版『ゴースト・イン・ザ・シェル』と押井監督のアニメ版は西洋医学と東洋医学ぐらい違う!?の画像1
おかっぱヘアの少佐を演じたスカーレット・ヨハンソン。体にぴったりフィットした白いボディスーツがエロい!
 東洋人と西洋人との思考性の違いなのか、それとも監督の作家性を重んじる日本のアニメーション業界と世界配給を前提にしたハリウッドスタイルとの違いなのか。押井守監督の劇場アニメーション『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』(95年)がスカーレット・ヨハンソン主演の実写版『ゴースト・イン・ザ・シェル』となって全米で3月31日、日本で4月7日より公開されたが、オリジナルアニメ版とハリウッド実写版には大きな大きな隔たりがある。  士郎正宗のコミックを原作にした押井監督の『GHOST IN THE SHELL』では人間の義体化(サイボーグ化)が進み、人間の脳とインターネットが直接繋がる近未来社会が描かれ、『マトリックス』(99年)のウォシャウスキー姉妹や『アバター』(09年)のジェームズ・キャメロンなど海外のクリエイターたちに多大な影響を与えたことで知られている。SFアクションアニメとしての面白さに加え、人間の身体の人工化が進んだ場合、人間と人工物とのボーダーはどこにあるのか、またひとりの人間としてのアイデンティティーはどうなるのかといったテクノロジーの進化に伴う哲学的なテーマが物語の核となっており、アニメ版の公開から20年以上が経った今でもカルトな人気を集めている。  スティーブン・スピルバーグからのオファーを受けてハリウッド実写版の監督に起用されたのは、CM業界でキャリアを積み、お伽噺“白雪姫”をヒロイン活劇ものに仕立てた『スノーホワイト』(12年)でハリウッドに進出した英国人ルパート・サンダース。脚本チームには『ザ・リング』(02年)や『トランスフォーマー リベンジ』(09年)など日本発コンテンツのハリウッド翻訳もので実績のあるアーレン・クルーガーらが参加。主人公たちが所属する「公安9課」のボス・荒牧にビートたけしをキャスティングし、アニメ版でもおなじみ熱光学迷彩シーンやクモ型戦車とのバトルシーンも用意されている。押井監督の『GHOST-』と『イノセンス』(04年)だけでなく、『攻殻機動隊』シリーズすべてを熱心に研究したことが伺える。
ハリウッド実写版『ゴースト・イン・ザ・シェル』と押井監督のアニメ版は西洋医学と東洋医学ぐらい違う!?の画像2
『アベンジャーズ』シリーズで鍛えたスカジョの体を張ったアクションシーンは、ハリウッド大作ならではの迫力。
 ハリウッド実写版の主人公は草薙素子ではなく、所属先の「公安9課」では“少佐”と呼ばれている。腕利きの捜査官たちが集まった公安9課の中でも少佐(スカーレット・ヨハンソン)は脳みそ以外すべて義体化されており、並外れた捜査力・格闘能力を誇っていた。そんな少佐の悩みは、自分が義体化する以前の記憶はほとんどなく、本名すら分からないということ。義体化されたボディも政府から支給されたものであり、自分のものではない。アイデンティティーに関する不安を感じながらも、同僚であるバトー(ピルー・アスべック)たちと凶悪犯罪に立ち向かっていた。ある日、他人の脳をハッキングして自在に操る謎のサイバーテロリストが現われる。サイバーテロリストを追い掛けるうちに、少佐は自分が持っている僅かな記憶も他者によって操作されたものではないのかという疑念が強まっていく──。  オリジナルアニメ版へのリスペクトは充分に感じさせるハリウッド実写版だが、電脳化が進んだ同じ近未来社会を舞台にしながらも、押井監督とはまったく別解釈による作品となっている。押井監督ならではの観念的な色合いはほとんど消し去られ、なぜ主人公は草薙素子ではなく少佐と呼ばれているのか、さらには少佐の生い立ちから、義体化された経緯までがすべてクライマックスで明かされるというサスペンスタッチの構成。少佐が自分自身の正体を解き明かしていく過程は、スカーレット・ヨハンソン版『ロボコップ』(87年)かと言いたくなるほど、少佐のプロフィールを丸裸にしていく。押井版とハリウッド実写版は同じ『攻殻機動隊』を題材にしながらも、東洋医学と西洋医学ぐらい大きく異なる。
ハリウッド実写版『ゴースト・イン・ザ・シェル』と押井監督のアニメ版は西洋医学と東洋医学ぐらい違う!?の画像3
完成披露会見に登壇したビートたけしは「オリジナルに忠実な部分と新しいものが入った作品」とコメント。(c)2017 Jun Sato
 押井版とハリウッド実写版とのストーリー上のいちばんの違いは、押井版での最も重要なキーパーソンである“人形使い”が、ハリウッド実写版には登場しないという点だろう。押井版の草薙素子は従来の人間とは異なる価値観・概念を持つ人形使いと遭遇することで、自分自身の魂(ゴースト)の格納ケースに過ぎなかった肉体を捨て去り、この世から解脱することを決意する。『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』(84年)をはじめ、押井作品は現実世界と虚構世界がせめぎあうのが常であり、そんな押井監督ならではの観念的な結末がアニメ版のキモとなっていた。だが、ハリウッド実写版では主人公と対峙する敵役は人形使いではなく、クゼ(マイケル・ピット)となっている。実写版のクゼは、神山健治監督が手掛けたTVシリーズ『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』(02年)の“笑い男”と『攻殻機動隊 S.A.C 2nd GIG』(04年)のクゼ・ヒデオを組み合わせたキャラクターだ。実写版のクゼも少佐の運命に影響を与えるが、人形使いと違って生きた人間ゆえに結末は押井版とはまったくの別物となる。  押井哲学が饒舌に語られるオリジナルアニメ版か、スカーレット・ヨハンソンに加え、ビートたけし、桃井かおり、ジュリエット・ビノシュら豪華キャストをそろえた派手なビジュアルが売りのハリウッド実写版か、どちらが面白いかは観た人がそれぞれ決めればいい。押井監督のアニメ版とルパート監督による実写版は、同じ世界に存在しながらも、異なるアイデンティティーを有する映画となっている。思考性に自分の生きる道を見出す者もいれば、自分の生い立ちや家族を何よりも大切に考える者もいる。押井版、ルパート版のどちらも、アイデンティティーをめぐる物語であることには変わりはない。ただし、ルパート版がつくられたことで、押井監督の特異なテーマ性がより鮮明になったといえそうだ。 (文=長野辰次)
ハリウッド実写版『ゴースト・イン・ザ・シェル』と押井監督のアニメ版は西洋医学と東洋医学ぐらい違う!?の画像4
『ゴースト・イン・ザ・シェル』 監督/ルパート・サンダース 脚本/ジェイミー・モス、ウィリアム・ウィーラー、アーレン・クルーガー 出演/スカーレット・ヨハンソン、ピルー・アスベック、ビートたけし、ジュリエット・ビノシュ、マイケル・ピット、チン・ハン、ダヌシア・サマル、ラザルス・ラトゥーエル、泉原豊、タワンダ・マニモ 配給/東和ピクチャーズ 4月7日(金)より全国公開 (c) 2017 Paramount Pictures. All rights Reserved http://ghostshell.jp

ハリウッド実写版『ゴースト・イン・ザ・シェル』と押井監督のアニメ版は西洋医学と東洋医学ぐらい違う!?

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おかっぱヘアの少佐を演じたスカーレット・ヨハンソン。体にぴったりフィットした白いボディスーツがエロい!
 東洋人と西洋人との思考性の違いなのか、それとも監督の作家性を重んじる日本のアニメーション業界と世界配給を前提にしたハリウッドスタイルとの違いなのか。押井守監督の劇場アニメーション『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』(95年)がスカーレット・ヨハンソン主演の実写版『ゴースト・イン・ザ・シェル』となって全米で3月31日、日本で4月7日より公開されたが、オリジナルアニメ版とハリウッド実写版には大きな大きな隔たりがある。  士郎正宗のコミックを原作にした押井監督の『GHOST IN THE SHELL』では人間の義体化(サイボーグ化)が進み、人間の脳とインターネットが直接繋がる近未来社会が描かれ、『マトリックス』(99年)のウォシャウスキー姉妹や『アバター』(09年)のジェームズ・キャメロンなど海外のクリエイターたちに多大な影響を与えたことで知られている。SFアクションアニメとしての面白さに加え、人間の身体の人工化が進んだ場合、人間と人工物とのボーダーはどこにあるのか、またひとりの人間としてのアイデンティティーはどうなるのかといったテクノロジーの進化に伴う哲学的なテーマが物語の核となっており、アニメ版の公開から20年以上が経った今でもカルトな人気を集めている。  スティーブン・スピルバーグからのオファーを受けてハリウッド実写版の監督に起用されたのは、CM業界でキャリアを積み、お伽噺“白雪姫”をヒロイン活劇ものに仕立てた『スノーホワイト』(12年)でハリウッドに進出した英国人ルパート・サンダース。脚本チームには『ザ・リング』(02年)や『トランスフォーマー リベンジ』(09年)など日本発コンテンツのハリウッド翻訳もので実績のあるアーレン・クルーガーらが参加。主人公たちが所属する「公安9課」のボス・荒牧にビートたけしをキャスティングし、アニメ版でもおなじみ熱光学迷彩シーンやクモ型戦車とのバトルシーンも用意されている。押井監督の『GHOST-』と『イノセンス』(04年)だけでなく、『攻殻機動隊』シリーズすべてを熱心に研究したことが伺える。
ハリウッド実写版『ゴースト・イン・ザ・シェル』と押井監督のアニメ版は西洋医学と東洋医学ぐらい違う!?の画像2
『アベンジャーズ』シリーズで鍛えたスカジョの体を張ったアクションシーンは、ハリウッド大作ならではの迫力。
 ハリウッド実写版の主人公は草薙素子ではなく、所属先の「公安9課」では“少佐”と呼ばれている。腕利きの捜査官たちが集まった公安9課の中でも少佐(スカーレット・ヨハンソン)は脳みそ以外すべて義体化されており、並外れた捜査力・格闘能力を誇っていた。そんな少佐の悩みは、自分が義体化する以前の記憶はほとんどなく、本名すら分からないということ。義体化されたボディも政府から支給されたものであり、自分のものではない。アイデンティティーに関する不安を感じながらも、同僚であるバトー(ピルー・アスべック)たちと凶悪犯罪に立ち向かっていた。ある日、他人の脳をハッキングして自在に操る謎のサイバーテロリストが現われる。サイバーテロリストを追い掛けるうちに、少佐は自分が持っている僅かな記憶も他者によって操作されたものではないのかという疑念が強まっていく──。  オリジナルアニメ版へのリスペクトは充分に感じさせるハリウッド実写版だが、電脳化が進んだ同じ近未来社会を舞台にしながらも、押井監督とはまったく別解釈による作品となっている。押井監督ならではの観念的な色合いはほとんど消し去られ、なぜ主人公は草薙素子ではなく少佐と呼ばれているのか、さらには少佐の生い立ちから、義体化された経緯までがすべてクライマックスで明かされるというサスペンスタッチの構成。少佐が自分自身の正体を解き明かしていく過程は、スカーレット・ヨハンソン版『ロボコップ』(87年)かと言いたくなるほど、少佐のプロフィールを丸裸にしていく。押井版とハリウッド実写版は同じ『攻殻機動隊』を題材にしながらも、東洋医学と西洋医学ぐらい大きく異なる。
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完成披露会見に登壇したビートたけしは「オリジナルに忠実な部分と新しいものが入った作品」とコメント。(c)2017 Jun Sato
 押井版とハリウッド実写版とのストーリー上のいちばんの違いは、押井版での最も重要なキーパーソンである“人形使い”が、ハリウッド実写版には登場しないという点だろう。押井版の草薙素子は従来の人間とは異なる価値観・概念を持つ人形使いと遭遇することで、自分自身の魂(ゴースト)の格納ケースに過ぎなかった肉体を捨て去り、この世から解脱することを決意する。『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』(84年)をはじめ、押井作品は現実世界と虚構世界がせめぎあうのが常であり、そんな押井監督ならではの観念的な結末がアニメ版のキモとなっていた。だが、ハリウッド実写版では主人公と対峙する敵役は人形使いではなく、クゼ(マイケル・ピット)となっている。実写版のクゼは、神山健治監督が手掛けたTVシリーズ『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』(02年)の“笑い男”と『攻殻機動隊 S.A.C 2nd GIG』(04年)のクゼ・ヒデオを組み合わせたキャラクターだ。実写版のクゼも少佐の運命に影響を与えるが、人形使いと違って生きた人間ゆえに結末は押井版とはまったくの別物となる。  押井哲学が饒舌に語られるオリジナルアニメ版か、スカーレット・ヨハンソンに加え、ビートたけし、桃井かおり、ジュリエット・ビノシュら豪華キャストをそろえた派手なビジュアルが売りのハリウッド実写版か、どちらが面白いかは観た人がそれぞれ決めればいい。押井監督のアニメ版とルパート監督による実写版は、同じ世界に存在しながらも、異なるアイデンティティーを有する映画となっている。思考性に自分の生きる道を見出す者もいれば、自分の生い立ちや家族を何よりも大切に考える者もいる。押井版、ルパート版のどちらも、アイデンティティーをめぐる物語であることには変わりはない。ただし、ルパート版がつくられたことで、押井監督の特異なテーマ性がより鮮明になったといえそうだ。 (文=長野辰次)
ハリウッド実写版『ゴースト・イン・ザ・シェル』と押井監督のアニメ版は西洋医学と東洋医学ぐらい違う!?の画像4
『ゴースト・イン・ザ・シェル』 監督/ルパート・サンダース 脚本/ジェイミー・モス、ウィリアム・ウィーラー、アーレン・クルーガー 出演/スカーレット・ヨハンソン、ピルー・アスベック、ビートたけし、ジュリエット・ビノシュ、マイケル・ピット、チン・ハン、ダヌシア・サマル、ラザルス・ラトゥーエル、泉原豊、タワンダ・マニモ 配給/東和ピクチャーズ 4月7日(金)より全国公開 (c) 2017 Paramount Pictures. All rights Reserved http://ghostshell.jp