
「じじいを騙すのは功徳や」とうそぶく結婚相談所の所長・柏木(豊川悦司)と会員の小夜子(大竹しのぶ)。持病のある高齢者ほどよくモテる。
その道のプロから見れば、“婚活連続殺人事件”の木嶋佳苗被告や“京都連続不審死事件”の筧千佐子被告は脇が甘く映ることだろう。その道のプロとは、業界用語で“後妻業”と呼ばれる女たち。独り身の高齢者をターゲットにし、預金や不動産といった遺産を手に入れては、次の獲物へと食指を伸ばす。自分を受取人にした生命保険はあえて作らせない。保険金が絡むと、警察が事件性ありと判断してすぐに動き出すからだ。自分の手を汚さずとも、持病のある高齢者ならすぐに逝ってしまう。死ぬ前に公正証書さえ書かせれば、合法的に遺産を独占することができる。独居老人の寂しさと死ぬまで枯れることがない性欲につけこんだ巧妙な闇稼業である。大竹しのぶ主演の犯罪エンターテイメント『後妻業の女』は、高齢化社会にはびこる闇ビジネスの実態を明らかにしていく。
大竹しのぶには犯罪ドラマがよく似合う。森田芳光監督の『黒い家』(99)では邦画史上に残るサイコパス系殺人鬼を大熱演した。石井隆監督の『ヌードの夜 愛は惜しみなく奪う』(10)での鬼婆役も強烈だった。松山ホステス殺害事件の2時間ドラマ化『実録・福田和子』(フジテレビ系)や多重人格障害の主婦を演じた『存在の深き眠り』(NHK総合)での役への溶け込みぶりも忘れがたい。素顔はとてもおっとりされた方だが、女優・大竹しのぶモードになるとスイッチが入ったかのように別人になる。死んだような目がうまいと評される染谷将太や新井浩文よりも、もっとリアルに死んだ目をしてみせる。ひとりの女性が持つ多面性を、これほど巧みかつ自然に演じてみせる役者はそうそういない。
映画『後妻業の女』は賑やかなシニア向け婚活パーティーで幕を開ける。明るい青空が広がるビーチで、いい年した男女が童心に戻ってはしゃいでいる。心臓発作でばったり倒れる人がいないかハラハラするオープニングだ。この婚活パーティーは大阪にある結婚相談所の所長・柏木(豊川悦司)が主催しており、結婚相談所の会員・小夜子(大竹しのぶ)は明るくチャーミングな人柄で、男性陣の熱視線を集めている。80歳になる中瀬耕造(津川雅彦)も小夜子にぞっこんだった。

笑福亭鶴瓶は大竹しのぶを相手に初めてのベッドシーンにも挑戦。男と女の騙し合いの中に、色欲と本音が入り交じる。
耕造が知り合って間もない小夜子と電撃再婚すると聞いて、耕造の娘・尚子(長谷川京子)と朋美(尾野真千子)は驚くが、老いた耕造の介護から逃れることができるため、強く反対はできなかった。小夜子がしおらしかったのは最初だけで、再婚してからは、小夜子が用意する料理はコンビニで買ったお惣菜だけ。耕造が服用していた降圧薬は、いつの間にか胃薬にすり替えられていた。ほどなくして倒れた耕造は病院に運ばれるが、小夜子が病室を訪ねた後は決まって酸素マスクや点滴のチューブが外れている。弁護士に相談した朋美は、小夜子が後妻業と呼ばれるプロであることを知るが、すでに後の祭り状態だった。威厳のあった父親があんな女の食い物にされたと思うと悔しくて仕方ない。
小夜子は結婚相談所の所長・柏木とグルなので、裕福な高齢者の個人情報が面白いように手に入る。男の扱いに手慣れた小夜子は、老人たちの死に水を取っては合法的に財産をいただく。儲けは柏木と山分けだ。小夜子にとって、こんな美味しい仕事は他にはない。ところが金の匂いのするところ、同じように鼻の利くハイエナ人間が集まる。弁護士に依頼された探偵(永瀬正敏)が小夜子の過去を洗い、小夜子はこれまでに8度結婚し、夫はみんな結婚してすぐに病死か事故死を遂げていたことが浮かび上がる。さらに自称・不動産王の船山(笑福亭鶴瓶)がにこやかな笑顔で小夜子に近づく。お金とセックスをめぐって、ドス黒い男女の駆け引きが軽妙な関西弁で繰り広げられる。

尾野真千子と大竹しのぶとの新旧演技派女優バトル。焼肉屋での肉弾戦シーンは長回しで撮られ、女子プロレスばりの盛り上がりを見せる。
本作を撮り上げたのは読売テレビ出身の大ベテラン・鶴橋康夫監督。読売テレビを退職後もフリーのディレクターとして活躍し、脚本家・野沢尚の遺作『砦なき者』(テレビ朝日系)や池端俊作脚本作『ぶるうかなりあ』(WOWOW)などの意欲作・問題作を次々と放ってきたテレビ界の生き伝説だ。映画監督として『愛の流刑地』(07)と『源氏物語 千年の謎』(11)を撮っているが、どちらもセックスと死を題材にしたもので、本作と繋がるものを感じさせる。男は射精した後の虚無感に耐えきれず、身近にいてくれる女性に愛情を覚えるのかもしれない。見ようによっては、大竹しのぶ演じる小夜子は家族と疎遠になった老人たちの最期を看取る死神であり、また聖女のようでもある。2014年に刊行された黒川博行の原作小説『後妻業』(文藝春秋)は生々しい犯罪ものだったが、鶴橋監督は大竹しのぶから陰と陽の相反する魅力を引き出した上で、したたかに生きる女性賛歌の犯罪コメディへと大胆にアレンジしてみせた。
悪魔のような女・小夜子への反撃を耕造の娘・朋美は試みるが、では朋美は心が清らかな女性かというとそうでもない。建築デザイナーである朋美は、仕事が忙しいことを口実にボケ始めた父親の世話をすることから逃げてきた。そんな自分に後ろめたさを感じていたがゆえに、弱みにつけこんできた小夜子が余計に許せない。焼肉屋で、大竹しのぶと尾野真千子が激しくしばき合うシーンは本作の見どころだ。さらに大竹は笑福亭鶴瓶とのベッドシーンも演じてみせる。大竹の熱演に触発されたのは尾野だけではない。柏木の情婦役を演じる若手女優・樋井明日香は『さよなら歌舞伎町』(15)でもフルヌードになったが、今回はさらに気持ちのよい脱ぎっぷりを見せる。『後妻業の女』に登場する女優たちはみんなキラキラと輝いている。いや、ギラギラと輝く。女たちが眩しく輝く姿に、男はもうひれ伏すしかない。
(文=長野辰次)

『後妻業の女』
原作/黒川博行 監督・脚本/鶴橋康夫 出演/大竹しのぶ、豊川悦司、尾野真千子、長谷川京子、水川あさみ、風間俊介、余貴美子、ミムラ、松尾論、笑福亭鶴光、樋井明日香、梶原善、六平直政、森本レオ、伊武雅刀、泉谷しげる、柄本明、笑福亭鶴瓶、津川雅彦、永瀬正敏
配給/東宝 PG12 8月27日(土)よりロードショー公開
(c)2016「後妻業の女」製作委員会
http://www.gosaigyo.com

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