究極の人材育成! 宇宙飛行士になるまでを取材した『宇宙飛行士の育て方』

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『宇宙飛行士の育て方』
(日本経済新聞出版社)
 近年、日本人宇宙飛行士の活躍が目覚ましい。若田光一飛行士、野口聡一飛行士、山崎直子飛行士に続き、2011年6月8日、古川聡飛行士がロシアの宇宙船「ソユーズTMA-02M」に搭乗し、宇宙へ飛び立った。医師としてさまざまな科学実験・研究を行うため、ISS(International Space Station 国際宇宙ステーション)に5カ月半の長期滞在をする予定だ。古川飛行士にとって初飛行であり、日本人で9人目の宇宙飛行士となる。  宇宙飛行士と言えば、人気コミック『宇宙兄弟』(講談社)がまず頭に思い浮かぶが、実際はどのような世界なのだろうか。『宇宙飛行士の育て方』(日本経済新聞出版社)は、元・日本宇宙少年団情報誌編集長で、宇宙専門ライターの林公代氏が、宇宙飛行士候補者が宇宙飛行士になるまでの課程を描いたノンフィクションだ。1,000人に3人という倍率の選抜試験から、厳しい訓練を経て、高度な能力を必要とする実務までを、宇宙飛行士や訓練担当者などのインタビューを交えながら紹介している。アメリカ(NASA)とロシアの違い、宇宙ステーションでの"家事"、宇宙食の進化などのエピソードが多数語られており、興味深い。  宇宙飛行士に必要な資質とは何なのか。知識や技術はもちろん、強いメンタルとコミュニケーション能力が必須条件であるという。宇宙空間という閉鎖され、地上と切り離された環境で、3~6人の固定された人間関係で長期間を過ごさねばならない。宇宙飛行士たちは、通常の生活とは全く異なるストレスにさらされる。そういった環境下で、やはり一緒にいて陰鬱な気分になる人より明るい人が好ましく、意思疎通を明確にすることが求められる。野口飛行士は、フリーズドライのマグロ漬けやウニ、ホタテなどを使った手巻き寿司を仲間に振る舞うなどして、楽しみながらコミュニケーションを取っている。「自分を見失わず、優秀な世界の飛行士の中でも生き残れるタフさ、ストレスに過敏にならない打たれ強さが評価されて、自分が選ばれたのかもしれない」と自身を評している。  宇宙空間という過度の緊張を強いられる極限下では、異文化への理解やコミュニケーション能力など、人間の基本的な生存スキルがより重要となってくる。強い意志で夢に向かってまい進し、仲間と巧みにコミュニケーションを取りながら、宇宙飛行という大仕事を楽しむ。宇宙飛行士たちこそ実に見習うべき人生の達人であるのだ。 (文=平野遼) ●はやし・きみよ 神戸大学文学部英米文学科卒業。日本宇宙少年団情報誌編集長を経てフリーに。書籍、雑誌、ウエブサイトで宇宙関連の記事を企画・執筆。著書に『宇宙においでよ!』(野口聡一飛行士と共著/講談社)など多数。企画・編集に『宇宙日記』(野口聡一著/世界文化社)、『国際宇宙ステーションとはなにか』(若田光一著/講談社ブルーバックス)など。20年以上にわたって宇宙飛行士へのインタビュー、NASA、ロシア、日本でのロケット打ち上げ、宇宙関連施設取材を続けている。
宇宙飛行士の育て方 育てられたい。 amazon_associate_logo.jpg
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ある日突然"難民"になった女子大学院生が日本社会をサバイブ!『困ってるひと』

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『困ってるひと』(ポプラ社)
 ビルマの難民支援問題に全身全霊で取り組んでいた20代の女子大学院生が、ある日突然、原因不明で治療方法もない難病を発症。その体験を本人が綴った本が、大野更紗著『困ってるひと』(ポプラ社)だ。  このあらすじで、すでに身構えてしまった方は多いのではないだろうか。難民支援に携わるなんてかなり意識の高い人なんだろうし、その上、難病という稀な苦労と闘っている。そんな内容の本を読んだらきっと、「恵まれた生活送ってるのに、甘えてて、どうもすみませんでした」とひれ伏すしかないんだろう。だったら、もう頭下げておこう、と。  でも、そうではないのだ。 「病気にかかっているかどうかにかかわらず。年齢や、社会的ポジションにかかわらず。けっこうみんな、多かれ少なかれ苦しくって、『困ってる』と思うのだが、どうだろう」  これは、本書の「はじめに」の一節。ステロイド剤を服用しながらの生活で、最低限の行動をするにも苦痛が伴い、ただ「生きている」ことそのものが困難という著者がこのように書くのは、「こんな状況でも自分が一番大変だって言わない私」アピールのためでは決してない。  文章は、こう続く。 「どうしてこんなに苦しいのか、みんな困らなくてはならないのか、エクストリーム『困ってるひと』としては、いろいろ思うところがあるのです」  ただの"感動モノ闘病記"ではないということが、この一文からよく分かる。難民という「困ってるひと」の問題を研究していた人らしい視点がとても新鮮なのだ。  ビルマやタイ、日本での支援・研究活動、突然の発病、つらい体を引きずっていくつもの病院をめぐり、痛みを伴う検査を受けて、病名が判明するまでの1年間の検査期間。そして、「筋膜炎脂肪織炎症候群」と診断された後も、治る見込みもないまま続く入院生活。親しい友人に語りかけるような軽やかな文体でその様子が綴られているものの、「死にたい」「どうやって生きていったらいいか分からない」といった言葉がそこここに現れる。    そんな中、「ある出来事」をきっかけに、「もう少し生きたいかも」と思うようになった彼女は「モンスター」とバトルを繰り広げる決意をした。  "モンスターとのバトル"とは、医療や障害、介護、社会保障にかかわる制度との格闘のことだ。「困ってるひと」を助けるためにあるはずの制度なのに、その助けを受けるための手続きは、「さらに困らせようとしてるんだろうか」と疑いを禁じえないほど煩雑だったり、かゆいところに手が届かないようにできていたりする。彼女は、この「モンスター」を「ハムスター」程度に弱体化させたいと願っている、という。  モンスターとのエンカウントは、失業したり、配偶者を失ったり、自分や家族が介護が必要になったり、といったあらゆる困難のかたちで、誰にでも簡単に起こることだ。彼女の姿を、とても自分には関係ないと思うことはできない。だから、この本に書かれた彼女のバトルを読むと、「頭が下がる」なんて他人ごとのような言葉は出てこなくなる。「前を向こう」と思わせられるのだ。 (文=萌えしゃン) ●おおの・さらさ 1984年、福島県生まれ。上智大学外国語学部フランス語学科卒。上智大学大学院グローバルスタディーズ研究科地域研究専攻博士前期課程休学中。学部在学中にビルマ(ミャンマー)難民に出会い、民主化活動や人権問題に関心を抱き研究、NGOでの活動に没頭。大学院に進学した2008年、自己免疫疾患系の難病を発病する。1年間の検査期間、9か月間の入院治療を経て、現在も都内某所で闘病中。 <http://wsary.blogspot.com/>
困ってるひと みんな困っている。 amazon_associate_logo.jpg
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"医学あるある"を徹底解説『あの医学都市伝説ってホントなの?』

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『あの医学都市伝説ってホントなの?』
(青山出版社)
 「おっぱいはもまれると大きくなる」「傷口は消毒して乾燥させると治りが早い」「筋肉痛が遅れてくるのは加齢のせい」といった、ちまたに出回る人体に関するうんちく。人々の間でまことしやかに語られ、聞いて「なるほど」と思うものも多いですよね。  でも、この手のトピックで困るのは、一体何が本当なのかよく分からないこと。ある日突然、真逆の説が持ち上がり、「あれ、どっちが本当?」なんてこともざらにあります。そんな「知識」というにはあやふやな、体や健康についての数々の説を「医学都市伝説」として取り上げ、そのウソ・ホントを医学的根拠をもとに解説したのが、森田豊著『あの医学都市伝説ってホントなの?』(青山出版社)です。   思えば「医学」と「都市伝説」というのは面白い言葉の組み合わせです。「都市伝説」と言えば「口裂け女」に代表されるような言い伝えのことで、聞き手の想像力を掻き立てる語り口によって、「もしかしたら本当かも」と思わせられる点がポイント。それに対して、「医学」と言えば、「根拠があって、結果がある」という理論第一、実証第一というイメージ。  ハーバード大学医学部で専任講師を務めたこともあるという現役の医師・医療ジャーナリストの著者が、その「医学」ネタを「都市伝説」として扱っているのは、ちょっとシュールに思えます。  とは言え、ホメオパシーなど「代替医療」が関係して人命にかかわる事件・事故が起きていることも考えれば、例えば本書でも取り上げられている「朝のジョギングは体にいい」など、一見害がなさそうで、「医学に基づいている」と思われるような説に対しても、本当なのか、どうしてそう言われるようになったのか、どういう根拠があるのか、という疑いの視線を向けてみるのは必要なことと言えるでしょう(実際、本書によれば、朝は脳梗塞などになりやすい時間帯のため、ジョギングはヘタをすると死につながる危険性もあるそう)。  と、少し難しげなことを書いてみましたが、本書はお堅いこと抜きで読めるものに仕上がっています。一つ一つの医学都市伝説について、まず「これはウソ」「これはホント」と書かれているので、最初はそれだけ見て、興味をそそられたものについて解説を読み進める、という読み方もできます。「医学的根拠」は分かりやすい言葉で解説されているし、コミカルでかわいらしいイラストが至るところに散りばめられているのも、見ていて楽しくなります。  ちなみに「健康・医学ネタ」が大好きで、メディアなどで入手したネタをあちこちで披露、そしてしばしばウザがられるのが趣味のひとつである筆者は、この本を読んで、「あれってどっちがホントだっけ」といった類のネタの白黒を再確認したり、「てっきりホントだと思ってたけど、ウソだった!」と常識をくつがえされたりしただけでなく、「男女の産み分け」についてなど、知らなかったネタを仕入れることもできました!「また始まった」と思われること必至ですが、披露する日が来るのが楽しみ。  また、筆者のような「健康・医学ネタ」ヲタを撃退したい人にも、ぜひ援護射撃として使ってもらいたい一冊です。 (文=萌えしゃン) ●もりた・ゆたか 1963年東京都生まれ。88年秋田大学医学部卒業。95年東京大学大学院医学系研究科卒業。東京大学医学部附属病院助手を務め、97年ハーバード大学医学部専任講師に。2000年埼玉県立がんセンター医長。04年板橋中央総合病院部長。現在は、現役医師、医療ジャーナリストとして、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌等のメディアで活動中。さまざまな病気の概説や、医療に関する種々の問題に取り組み、これまで言い伝えられてきた医学常識の真偽を徹底検証している
あの医学都市伝説ってホントなの? ダマされてた......。 amazon_associate_logo.jpg
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男性の生涯未婚率"驚異の16%!" その裏にあるのは「年収600万円の壁」と「一夫多妻制」!?

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水無田気流氏こと田中理恵子氏。
 世の独身男性にとって、将来の不安は多い。仕事、結婚、子ども、老後、孤独死......。そんな不安だらけの要因は「孤立」と「枯渇」に求められるという。この「孤立」というキーワードと共に種々の社会問題を取り上げ考察したのが社会学者であり、詩人の顔も持つ水無田気流氏こと田中理恵子氏著の『平成幸福論ノート 変容する社会と「安定志向の罠」』(光文社)である。今回、水無田氏に、当サイト読者の中にも身につまされている人も多いだろう「現代の結婚をめぐる状況」をテーマに話を聞いた。 ――『平成幸福論ノート』というタイトルですが、幸福論について書こうと思った経緯を教えてください。 水無田気流氏(以下、水無田) 現在、幸福論というものが錯綜していること、またGNH(グロス・ナショナル・ハッピネス:国民総幸福量)のような形で幸福像や幸福指標の見直しが進んできている、という事態についてもっと根本的な問題から検討すべきだと思ったんですね。以前、「若者不幸社会」というテーマで『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)に出演した際、どうも「主観的な幸福感」と、世代会計や若年層に不利な雇用環境のように、「制度的な不平等」の問題が、混同して考えられているなと感じました。この混乱は本当に問題です。解決の糸口すら、つかめなくしてしまう。主観的に幸福か不幸かという問題と、制度上の不平等の問題を、今一度整理して考え直す必要がありますね。 ――制度上、不平等な立場にある若者に対して書かれたということですか? 水無田 日本では、ある意味誰もが「明るく楽しい消費者」であることを強要されているところがあります。とくに若い人たちはそれ以外あまり考えないし、何か真剣に社会の問題について考える人は、むしろ「特殊で異常」なことにされてしまいますね。でもそのツケが回ってくるのが30代からです(笑)。若年男性の場合、結婚なども含めた家族関連行動を考え出すのが30歳を過ぎてからで、20代だとほとんど考えない。ところが、30歳をすぎて結婚、パートナーの出産、そして育児に直面して、初めて制度の不備などに直面することになります。もう少し前から、こうした問題を考えてもらいたいなと。もうひとつは、年齢層が上の人たち、「今の若者は草食化して、自分から女性にアプローチしないからけしからん」と言うような人たちは、この晩婚化・非婚化、それに少子化などを「若者の自己責任の問題」として捉えているところがあります。そうではなく、問題の背景に何があるのか、ということを分かっていただきたいなと。つまり不平等に気づかない若年層、問題を若年層の自己責任で済ます中高年層、どちらにも向けて書いています。 ――結婚をめぐる現代の状況ということについて詳しく聞かせてください。昨今では、ほとんどが恋愛結婚です。そうすると、まず異性にモテなければ、結婚相手を見つけることができません。男性の間の"モテ格差"は拡がっているんでしょうか? 水無田 これはかなり拡がっていますね。経済的な問題が大きいですが、人口動態的な理由もあります。人口動態的な問題というのは、元々男性のほうが出生性比率は高いのですが、昔は乳幼児死亡率も高かった。ですが、医学が進歩したため男性の乳幼児死亡率が低下しました。人口性比で見ると1995年から2005年にかけて結婚適齢期の男性のほうが、3%程度女性人口を上回っています。おのずと、男性のほうがパートナー獲得のための競争率は高まります。 ――経済的な問題というのは? 水無田 経済的な問題としては、ここ10年の間に30代の男性の年収は、「最も多い層」で見ると500万円台から300万円台へと移行しています。一方、女性はと言えば、いまだに結婚相手の男性の年収にこだわります。よく参考にする山田昌弘先生(社会学者、中央大学文学部教授)の調査結果によると、都内の20代半ばから30代半ばの未婚女性の4割が「年収600万円以上の男性」との結婚を望んでいますが、該当する同年代の未婚男性は3.5%しかいません。 ――かなり高条件の男性を求めていると思いますが、それはどうしてでしょうか? 水無田 年収が600万円程度ないと、女性は安心して子どもを産めないのです。女性は出産して育児をしながら仕事を続けることが難しいので、その期間無職になる可能性が高い。そのため、一般に「自分の年収の倍」ぐらい稼ぎのある男性を求めます。ちなみに「民間給与実態統計調査」を見ても、年間を通じて給与所得のある女性でも7割は年収300万円以下です ――共働きをすることも考えられると思うのですが。 水無田 実はすでにサラリーマン世帯であっても、専業主婦のいる世帯よりも共働き世帯のほうが多数派です。現実的にも、男性一人の稼ぎには頼りきれなくなってきている。でも、一方で20代など若年女性ほど専業主婦志向が強まっています。景気低迷や少子高齢化など諸々の条件を鑑みれば、今後パートナーとなる若年男性の昇給なども鈍化は避けられないでしょう。はっきり言えば、男性に家計負担を完全に依存した人生設計を行うのは、リスクが高いのです。女性はこの点をきちんと認識すべきです。ただ、社会環境の未整備の問題も大きいですね。今後は「共に働き、共に育てる」というのが理想的で一番リスクも低いライフスタイルなのですが、今なお女性は仕事と出産・育児がなかなか両立できません。ご存じのように、子どもを産んでからも十全に働くためには保育所の確保が必須ですが、現在、待機児童は約4万8,000人おり、潜在需要は80万人を超えるとも言われています。言い換えれば、実質的にそれだけの女性が就労できずにいるということです。さらに、育児環境はまだまだ専業主婦前提のため、仕事と育児を両立させようと思うと、苦労もストレスもきわめて大きい。若年女性が上の世代の苦労を目の当たりにして、そんなことはしたくないと考えるのも当然かもしれません(笑)。だから、女性の意識と社会環境、両方変えていく必要があります。また女性は現在、全従業員のうち過半数が非正規雇用です。正規雇用の女性でさえ、育休や産休は取りづらい状況ですが、非正規雇用は最初からそんなもの取得できません。すると子どもを望む場合は、身分が保証されていて年収が高い男性でないと、女性は安心して結婚には踏み切れない場合が多いんです。 ――そうなると男性の未婚率も当然上昇しますよね? 水無田 男性の生涯未婚率(50歳時で一度も結婚をしたことがない人の割合)は、近年ものすごい勢いで上がっています。1970年で1%台だった生涯未婚率が、90年代に5%台になり、2005年には約16%にまで上がっています。これはおおよそ女性の倍です。この男性と女性の未婚率の格差はなんだろうと考えると、この予感は外れてほしいのですが、実質的な一夫多妻制のようになっている。つまり、一度も結婚できない男性がいる一方、十分な収入など高い「モテ資源」があり、生涯に何度も結婚できる男性がいるということです。事実、再婚率は女性より男性のほうがずっと高くなっています。 ■経済力、魅力、コミュニケーション能力......どれかがゼロでもダメ ――本書の中で、結婚力点数は、「経済力×魅力×コミュニケーション能力」と書かれていますが。 水無田 それは、私が次に書く予定の女性の保守化の問題について取材する中で出た結論です。 ――若年男性の賃金がかなり下方に移動している現状で、男性は経済力以外のどこを磨けば結婚点数が高くなりますか? 水無田 私が結婚力点数を「経済力×魅力×コミュニケーション能力」と掛け算にしたのは、どれかが「ゼロ」だと、他が高くても結果がゼロになってしまうということなんです。女性の側からすると、いくら経済力があっても、人間的にダメな人はゼロじゃないでしょうか(笑)。もちろん、女性にもよるでしょう。たとえば年収も、300万程度稼いでいる男性を「プラス」と考える女性も、十分な稼ぎがない、つまり「ゼロ」と評価する女性もいるでしょう。これは女性自身の就労状況や、パートナーに求めるものの優先順位によります。ただ、どれかひとつでも「1」以上なら、ゼロにはなりません。ですから、どれかを磨けばいいんじゃないのかなと思うんです。経済力が「ゼロ」でないなら、あとの2つでなんとか頑張ってほしいという願いがこもっているんです。 ――本書の中では、結婚力点数の中でもコミュニケーション能力について言及されていましたが。 水無田 コミュニケーション能力というと、うまく会話をすることや相手の望みを聞き出すなどに目が行きがちですが、家族生活は言語外のコミュニケーション能力が必要とされます。たとえば、女性数人で誰かの家で話をしていると、必ず誰かが黙ってお茶の片付けをしたり、横に行って手伝ったりしますよね。そういうことを一切できない男性があまりにも多い。女性は、男性が口で言うだけじゃなく、体を使ってできるか、きちんと見ています。自分が子どもを産んで忙しいのに、口だけで何もしないタイプか、それとも一緒にさりげなくサポートしてくれるタイプか。 ――3月の震災後、結婚を考える男女が増えていると言われていますが。 水無田 やはり不安の高まりの表れだろうと思います。今回の震災では、日本社会の脆弱さが明らかになりました。公的機関が何もしてくれないことが分かったので、身近な家族を増やすことで自己防衛しようという意識が高まったんじゃないでしょうか。これは悪いことではないと思います。今まで、相当の経済力があって身分も保証されている男性ばかりを求めていた女性たちが、若干条件を修正する可能性もあるので、たとえ経済力に自信がない男性であってもチャンスではないかと思います。 ――本書の出版後の反響はいかがですか? 水無田 身につまされたという30代の男性の意見が多かったですね(笑)。でももっと、今後この問題に直面する20代や、「今どきの若者批判」で済ましている中高年の方々にも、ぜひ読んでいただきたいと思っています。 ***  今年で34歳、独身の著者も今回の話を聞いて身につまされた。20代、30代の独身男性は必読の書ではないであろうか。 (文=本多カツヒロ) ●たなか・りえこ 1970年神奈川県生まれ。詩人・社会学者。主な筆名は水無田気流(みなした・きりう)。早稲田大学大学院博士後期課程単位取得満期退学。現在、東京工業大学世界文明センター・フェロー(非常勤講師兼研究員)。桐蔭横浜大学スポーツ健康政策学部、日本大学経済学部非常勤講師。主な著書に、『音速平和』『Z鏡(ぜっきょう)』(共に思潮社)、『黒山もこもこ、抜けたら荒野 デフレ世代の憂鬱と希望』(光文社)、『無頼化する女たち』(洋泉社)などがある。
平成幸福論ノート 変容する社会と「安定志向の罠」 幸福ってなんでしょか。 amazon_associate_logo.jpg
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あの社長もこの博士も失敗だらけ 偉人17人の失敗秘話『失敗の教科書。』

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『失敗の教科書。』(扶桑社)
 「ザ・プレミアム・モルツ」(サントリー)のCM契約料が1億円の大台に到達し、現在絶好調の矢沢永吉だが、バブル期、事業に失敗し、多額の負債を抱えていたのは有名な話である。ドン底から上がって、下がって、また上がってと、"失敗は成功の母"を地でゆく波乱万丈な人生だ。  偉人の失敗は、実に成功のための重要なプロセスであった。『失敗の教科書。』(扶桑社)は、広告会社勤務のコピーライター・宮下裕介氏が、偉人・著名人の失敗談を集め、まとめた本だ。手塚治虫、ココ・シャネル、ケインズなど、各界の頂点に上り詰めた17人の"成功者"が、どういった失敗をし、その失敗をいかに乗り越えてきたかを紹介している。注釈やイラストが多数添えられた読みやすい本だ。  アップルの創業者にして現CEO、スティーブ・ジョブズの失敗が面白い。1976年、アップルを設立したジョブズは、「Apple II」「Macintosh」の成功により、アップルを世界有数の大企業へと成長させる。経営のプロが必要だと考えたジョブズは、ペプシコーラの社長であったジョン・スカリーを招聘するが、次第に二人の経営ビジョンは対立していき、ついにジョブズは取締役会でクビを宣告される。アップルをクビになったジョブズは再起を懸け、ネクスト・コンピュータを設立。OS「NEXTSTEP」を開発し、成功を収める。そのころ業績不振に陥っていたアップルにネクスト社を売却することで、ジョブズは11年ぶりにアップルに復帰する。その後、ジョブズはドラスティックな改革を進めてアップルの業績を回復させ、「iPod」「iPhone」などを発表し、現在の大躍進に至る。  のちにジョブズは当時のことを振り返ってこう言う。 「当時はよく分からなかったけれど、アップルをクビになったことは、私の人生に起こった最良のこと(the best thing)だったのだと思う。」(本文より)  ジョブズの他にも、コンペで負け続けた安藤忠雄、羽生善治・痛恨の一手、「死の商人」の汚名を着せられたノーベルなど、興味深い話は尽きない。  これら17人の偉人に共通して言えるのは、「失敗を失敗だと思わない」ことであり、失敗をさらなる飛躍へとつなげている点にある。他者から見れば失敗でも、当人の捉え方次第でそれはポジティブな出来事となる。この『失敗の教科書。』は、失敗について書かれた、これまでの成功マニュアル書とは一風変わった本だ。仕事で大きなミスをしてしまった人も、この本を読めば、そのミスを糧に前進する勇気が湧いてくることだろう。 (文=平野遼) ●みやした・ゆうすけ 1965年生まれ、東京都出身。コピーライター・CMプランナー・WEBプランナー。あらゆる領域の広告クリエイティブを手掛ける。広告会社の社員として働くかたわら、著述業にも取り組んでいる。著書『海外経験ゼロ。それでもTOEIC900点』(扶桑社)は、5万部のロングセラー。
失敗の教科書。 あきらめたら負け。 amazon_associate_logo.jpg
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「頑張る、は粋じゃない」杉浦日向子の名言集『憩う言葉』『粋に暮らす言葉』

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『憩う言葉』『粋に暮らす言葉』
(イースト・プレス)
 2005年7月に杉浦日向子さんが亡くなってから6年がたつ。漫画家でエッセースト、江戸風俗研究、時代考証の第一人者として知られ、NHK『コメディーお江戸でござる』の時代考証なども担当していた。1993年に"隠居宣言"をし、漫画家を引退した杉浦さんだが、実は当時から免疫系の病気を患っていたという。その突然の訃報に、多くの作家、漫画家が悼む言葉を寄せた。  その杉浦さんの著書から印象的な言葉を集めたのが『憩う言葉』『粋に暮らす言葉』(イースト・プレス)の2冊。杉浦さんのエッセーから抜粋した文章に加え、マンガの1コマ、個人的なポートレートも多く掲載されている。実兄の鈴木雅也氏が監修を務める、装丁も豪華な愛蔵版だ。  気取らず、頑張らず、気ままにその日暮らし。江戸人の考え方は、現代人と正反対だと言える。265年続いた封建制という時代状況の中で、江戸人の獲得した粋の思想、憩いのライフスタイルとはどんなものだったのか、杉浦さんの眼を借りてちょっぴりのぞき見ることができる。 「憩う、とはただのんべんだらりと時を過ごすことではない。余分なものをそぎおとして、素になるときこそが、憩いであろう」(『憩う言葉』本文より) 「江戸では、頑張るは我を張る、無理を通すという否定的な意味合いで、粋じゃなかった。持って生まれた資質を見極め、浮き沈みしながらも、日々を積み重ねていくことが人生だと思っていたようです」(『粋に暮らす言葉』本文より)  あちこちで「頑張ろう」と聞こえる昨今、「頑張らないでいきましょう」と言う人はなかなかいない。低生産・低消費・低成長の長期安定社会であった江戸時代の思想は、案外、いまの日本人に合っているのかもしれない。 (文=平野遼) ●すぎうら・ひなこ 1958年11月30日、東京都生まれ。稲垣史生氏に時代考証を学び、80年、「ガロ」で漫画家としてデビューする。84年、『合葬』で日本漫画家協会優秀賞を受賞。88年、『風流江戸雀』で文藝春秋漫画賞受賞。漫画作品としては、『杉浦日向子全集』(筑摩書房、全8巻『二つ枕』『合葬』『百日紅(上・下)』『東のエデン』『風流江戸雀』『百物語(上・下)』収録)などがある。93年に漫画家引退を宣言し、「隠居生活」をスタート。自らのライフワークである江戸風俗研究家として活動。NHK総合テレビ『コメディーお江戸でござる』では江戸の歴史、風習についての解説コーナーを足かけ10年務めた。晩年は文筆業に専念し、『江戸へようこそ』(筑摩書房)『江戸アルキ帖』(新潮社)『ぶらり江戸学』(マドラ出版)など、多くの作品を遺した。05年7月22日、下咽頭がんのため46歳で逝去。
憩う言葉 のんびり、いきましょう。 amazon_associate_logo.jpg
粋に暮らす言葉 頑張らないで、いきましょう。 amazon_associate_logo.jpg
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雀鬼・桜井章一が語る、「直感力」を取り戻すための生き方『カンの正体』

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『カンの正体』(イーストプレス)
 かつて20年間無敗という伝説を築き上げた男・桜井章一。裏プロとして数々の修羅場を生き抜き、「雀鬼」の異名で恐れられた彼による最新刊が『カンの正体』(イーストプレス)だ。  勝負の世界で実力や運とともに必要とされる「直感」。しかし、現代人はその「直感力」が鈍っていると桜井は嘆く。彼が、かの阿佐田哲也をして「本物のプロ」と言わしめた勝負師だからではない。それは特別な才能などではなく、誰にでも備わっているはずの能力であると桜井は語る。  そもそも、桜井にとっては麻雀との出会いすらも「直感」のなせる技であった。大学時代に友人に連れられて初めて雀荘に足を運んだ桜井。友人のプレーする姿をその後ろで観察しているうちに、麻雀というゲームの本質を「直感」で見抜いてしまい、ついにはその夜に大勝ちしてしまったというのだ。豊かな自然に囲まれながら育った桜井にとって、麻雀の本質を理解するために必要なのは「知識」ではなかった。川の流れの代わりに勝負の流れを見、鳥のさえずりの代わりに牌の音に囲まれながら、ただ直感だけを頼りに、独自の嗅覚で麻雀の地図を組み上げてしまった。  それから月日を経て、ヤクザなどの代わりに麻雀の勝負を行う「代打ち師」として一晩で数億というカネを動かすまでになった桜井。修羅場と化した卓では一瞬のうちに状況は激変し、その「割れ目」に飲まれてしまったが最後、命すらも「ポン」と消えてしまう(実際に行方知れずになってしまう代打ち師は多かった)。そのように常に死と隣り合わせの状況を過ごしてきた雀鬼にとって、直感力とは日々磨き続けるべき金棒であった。  麻雀は、牌をツモしたら(取ったら)必ず捨てなければならない。状況に応じて、瞬時に「何を捨てるか」の選択を迫られるゲームだ。厳しい勝負の現場で培った「直感力」とは、"捨てる技術"を身に付けることに等しい。そのために、桜井は常識を捨て、自然と戯れ、子どもと遊び、他人に「譲る」力を持つことの必要を説く。現代社会の常識から距離を置き、手持ちの13枚が生み出す「自然」に従い、「直感」を信じて捨てるべきなのだ、と。人間の本性がむき出しになる勝負の現場で生み出されたそのような桜井の思想は、ビジネスの現場や日々の生活においてもまた当てはまることは言うまでもない。  現在は「雀鬼会」という団体を設立し、若者たちとともに麻雀を楽しんでいる桜井章一。もはや雀鬼として掛け金数億円の雀卓を囲むことはないものの、書籍の上で、牌の代わりに言葉を打ちながら、そのアウトローな人生で培った経験を語っている。 (文=萩原雄太[かもめマシーン]) ●さくらい・しょういち 1943年、東京都生まれ。大学時代に麻雀をはじめ、裏プロとして頭角を現す。以来「代打ち」として20年間無敗の強さを誇り、引退後は「雀鬼流漢道麻雀道場 牌の音」を開き、「雀鬼会」会長を務める。主な著書に『人を見抜く技術』『負けない技術』『手離す技術』(以上、講談社)など。
カンの正体 第六感的な? amazon_associate_logo.jpg
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うつ病増加の一因!? 現代人が陥った「空虚な承認ゲーム」って何だ?

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批評家・山竹伸二氏。
 2008年6月、東京・秋葉原の歩行者天国にトラックが突入し、通行人ら17人を殺傷した事件は記憶に新しい。せんだって一審で死刑判決が出た事件の被告人は、インターネット上の掲示板に頻繁に書き込みをすることで、インターネットの世界でだけでも"承認"を求めていたのではないか? という議論があった。  そんな、現代にまん延していると言われる承認不安を真正面からとらえ、フロイトらを援用しながら現代の承認欲求への処方せんまでを考察したのが、批評家・山竹伸二氏の『「認められたい」の正体 承認不安の時代』(講談社)だ。今回、山竹氏に、学校や会社などで行われている"空虚な承認ゲーム"について聞いた。 ――"承認"に関しての本を執筆しようと考え始めたのは、いつごろですか? 山竹伸二氏(以下、山竹) 最初は、承認に関する本を書く予定ではなかったんです。もう少し倫理的な問題、道徳哲学的な本を書きたいと考えていました。 ――具体的に道徳哲学の中でも、どんなことを書きたいと思っていたのですか? 山竹 道徳哲学といっても堅い道徳の議論というよりは、人間の実存的な悩みに結び付くようなものが最初のモチーフとしてありました。要するに、正しいことをしなければいけないとか、困っている人を助けなければいけないというのが一般的な道徳の議論ですが、正しいことをしなさいと言われるだけでは、なかなか人間は動きません。しかし、何か善い行いをして、他人や仲間、社会などにそれを認めてもらう。単純なことですが、そういう部分が確保されていれば、人間は善い行いができる。そう考えると、やはり承認という問題が大きいのではないかと考えました。 ――本書の中で出てくる「空虚な承認ゲーム」とはどのようなものですか? 山竹 例えば、仲間の承認を得るために、自分の本音を抑えて仲間の言動に同調するような態度を取ったり、リーダー格の人間の気分を敏感に察知して、場の空気を読み、絶えず仲間が自分に求めている言動を外さないように気を使う、というような行為がありますよね。価値のある行為によって認められるわけでも、愛情や共感によって認められるわけでもない。つまり、空虚な承認ゲームとは、その場の空気に左右される、中身のない承認をめぐるコミュニケーションのことです。 ――それは、現代に特有なものですか? 山竹 現代に特有というものではなく、昔からあると思います。一般的に身近な人間に受け入れられたい、そのためにやや同調しがちになったり、自分の意に反して同調して、相手の意に沿うような行動をしてしまうことは昔からあるわけです。 ――よく言われますが、昔は宗教やいわゆる大きな物語により、社会規範や価値観がしっかりしていた。 山竹 身近な宗教グループの内で、人間関係の齟齬があっても、一方で、教義や神を信じて、それに準じた行動をすれば神の承認を得られるわけです。そして、そのことで身近な人たちから多少仲間外れにされたとしても自分が間違っているわけではないという、自分の存在価値を確保できる。 ――翻って現代は「空虚な承認ゲーム」が横行している? 山竹 現代の方が増幅しやすい条件が揃っていると思います。今の時代は中心的な価値観が非常に揺らいでいる。はっきり言ってしまえば、中心的な価値観がない相対主義の時代です。そういう時代になると、自分がどうすれば、何を拠り所にすれば、承認されるのかがわからない。社会の中で規範がしっかりしていて、価値観も共有されていれば、その価値観や社会規範に準じた行動をすれば大抵の人は承認してくれるわけですが。 ――そうした「空虚な承認ゲーム」の横行が、自殺者やうつ病患者の増加につながっているのでしょうか? 山竹 それは大いにあると思います。うつ病になりやすい人には特有の性格がある、と昔から言われています。それは、生まじめ、几帳面、人に配慮する、夜遅くまで残業し、休日出勤を繰り返す、何かをもらえば必ずお返しをする、というような一見すると何の問題もない、とても良い人なんです。これは、テレンバッハが主張したメランコリー親和型という性格類型ですが、私なりになぜこのような性格の人がうつ病になりやすいかを考えると、夜遅くまで残業をして、休日出勤を繰り返さないと、自分は認められないんじゃないかという不安が根本にある可能性が高いと思います。 ――具体的に言いますと? 山竹 一生懸命働いて業績を上げなければ、周りは自分を見放してしまうんじゃないか、認めてくれないんじゃないかと。そういう強固な思い込みがあって、そこから抜け出せない。他者への配慮も同調主義に近いものがあります。過剰な配慮をしてしまうのは、これをやっておかないと相手に変に思われてしまう、という不安感があるのです。でも、そんなことを繰り返していると疲弊してきます。疲れて、どこかでダウンしてしまう。それまでは、強迫的にその不安を回避しようと行動していた。ところが、実際にそんなことをしていると能力的にも仕事の質的にも低下してくるし、対人配慮もできなくなる。もともと自分に対する要求水準が高いので、少しでもできなくなると、どんどん後ろめたくなる。それでうつ病になってしまう。 ――お話を聞いていると、現代は一見すごく自由だと思うのですが、「空虚な承認ゲーム」の枠内だと心理的に自由ではないように思えてきました。 山竹 空虚な承認ゲームの中であれば、与えられるものは、自由ではなく、苦しさですよね。おかしなことに、社会は昔より自由になっているはずですが、実際には自由を感じられない。これを私は「自由と承認の葛藤」ととらえています。先ほども言った話につながりますが、あまり自由でなかった時代、宗教的な時代では、宗教的な規範や価値観でがんじがらめだったわけです。少しでも違うことを言えば抑圧されるような不自由さがあった。しかし、逆に宗教的な規範や価値観通りに行動していれば承認は維持されるわけで、承認不安はないわけです。もっと言ってしまえば、アイデンティティーの不安もあまりない。生まれながらにしてやることは分かっているし、何をすれば認められるかも分かっている。決まった役割以外は許されないし、そういう役割として生まれて死んでいくわけなので、自分が何者なのかという問い自体あまりないですよね。 ――今の時代だと、アイデンティティー不安などがあります。 山竹 近代になって、自由に生きることが可能な時代に少しずつ移行してきた。しかし今度は、自分はどうしたらいいのかという迷いが出てくる。それは単に自分が何をすればよいのか分からないという悩みではなく、どうすれば認められるのかということが複雑に絡んでいる問いなのです。世の中、自分のしたいことをしていいけれど、自分が思った通りにやると批判されるんじゃないか、でも認められたい。それは非常に強い葛藤を生むわけです。これをやると承認されない、これをやると承認されるけど自由がないという、このせめぎ合いが近代になって生まれてきました。 ――出版後の反響はいかがですか? 山竹 承認の概念を大きく変えるものではないか、と言ってくださる方もいましたが、まだ出版したばかりなので、今後の評価を楽しみにしています。 ***  社会は昔より自由になっているが、承認ゲームの中では自由にはなっていないという山竹氏の指摘が、とても面白く新鮮に感じた。承認不安を抱いている読者の方も多いと思う。自らを客観的に見直すためにも、一読をお勧めする。 (文=本多カツヒロ) ●やまたけ・しんじ 1965年広島県生まれ。学術系出版社の編集者を経て、現在、哲学・心理学の分野で批評活動を展開。大阪経済法科大学アジア太平洋研究センター客員研究員。著書に『「本当の自分」の現象学』(NHKブックス)『本当にわかる哲学』(近刊、日本実業出版社)『フロイト思想を読む』(竹田青嗣氏との共著、NHKブックス)などがある。
「認められたい」の正体 つーか、褒められたい。 amazon_associate_logo.jpg
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「東京スカイツリーになっちゃう!?」簡単そうに見えて奥深い『けんちく体操』

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『けんちく体操』(エクスナレッジ)
 来年5月から公開される東京スカイツリーの展望台の入場料が発表されたが、第1展望台、第2展望台合わせて3,000円という高価な設定に、「ぼったくりだ!」という声が上がっている。確かに一度くらいは登ってみたいけど、3,000円は高すぎるだろ、という方に一読していただきたいのが、『けんちく体操』(エクスナレッジ)だ。  そもそも「けんちく体操」とはなんなのか。本書の最初のページには「建築物を模写する体操」とあるが、言葉だけではいまひとつピンとこない。   というわけで、写真を見てみると、スポーツウエアに身を包んだ男女が、真顔でさまざまなポーズを取っている。  例えば、表紙の足を大きく開いて立ち、頭の上で両手をそろえて立つポーズは、「東京タワー」の「けんちく体操」だ。
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まつだい雪国農耕文化村センター(本書より/以下同)
 「なるほど、建築物をマネしてみればいいわけね」と簡単に思うなかれ。東京タワーは、本書の中でも極めてシンプルな部類の体操だ。ほかにも、足を開いて膝を90度に曲げ、腰を太ももが地面と平行になる位置まで落として、手の指先をちょこんと屋根のように頭の上で合わせる「国会議事堂」、足を地面に伸ばし、上体を地面と垂直に立てて座る「早稲田大学大隈記念講堂」など、一人で簡単に行えるものもあるが、「けんちく体操」はそれだけにとどまらない。
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パルテノン神殿
 「パルテノン神殿」は前屈のような格好で並ぶ2人の男性の上に、女性が「くの字」のうつ伏せで乗るアクロバティックなポーズだし、「シンデレラ城」では6人、「シドニー・オペラハウス」は9人の老若男女が身長に合わせて配置され、それぞれ指先まで神経を行き渡らせその建築物を模したポーズを取っている。無駄に大変そうなのだ。  はっきり言って第一印象は「何やってんの、この人たち」だが、よく考えればヨガにも似たようなポーズがあり、「バランス感覚を養える」「ストレッチ効果が期待できる」「内臓を刺激する」などといった健康効果があると書いているのだから、この「けんちく体操」もただの変なポーズだとは言い切れない。
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フジテレビ本社
 さらに、建築物の外観をマネるだけではなく、構造や用途、個人的に抱いた第一印象までをも表現するという舞踏のような側面も「けんちく体操」の醍醐味だそうで、これは、かなりクリエーティブな試みと言えよう。また、2人以上で行うものは、ほかの人と位置や高さを調節するなど、協調性やコミュニケーション力も必要とされる。バカバカしそうに見えて、その実なかなか奥が深いのだ。  冒頭で触れた「東京スカイツリー」のポーズは、本書の一番最後に掲載されている。これは2人で行うポーズ。カップル、親子、友人同士で挑戦できる。  3,000円払って展望台へ行くのをためらっている人は、来年5月の公開まで間もあることだし、まずは「けんちく体操」で東京スカイツリーに「なってみる」のはいかがだろうか。 (文=萌えしゃン) ●けんちく体操公式HP<http://kenchiku-taiso.com/>
けんちく体操 モジモジくんみたい。 amazon_associate_logo.jpg
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文化人、タレント、脳科学者……それぞれの体験した3.11

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『わたしの3・11 あの日から始ま
る今日』(毎日新聞社)
 誰もが忘れない瞬間として刻み込まれた2011年3月11日午後2時46分。この時間を境に、日本の風景は一変した。多くの人が、その瞬間にどこで誰と何をして過ごしていたかを語り合ったことだろう。その中でも著名人たちの3.11の記録をまとめたのが脳科学者・茂木健一郎の編集による本書『わたしの3・11 あの日から始まる今日』(毎日新聞社)だ。  編者・茂木を筆頭に、本書に寄稿するのは堀江貴文やロケ先の気仙沼で被災したサンドウィッチマン、今回の震災でその精力的な活動が評価されたジャーナリスト上杉隆など16人。タレント、ミュージシャン、実業家、ジャーナリスト、作家、学者、それぞれがそれぞれの立場から3.11に何をし、どのように考えたのかが克明に記録されている。被害を受けた場所も、原発に対するスタンスも異なるそれぞれ。想定外の規模の災害に対して、客観的な正義も現状に対処するためのマニュアルもなく、だからこそ、自分の信じる正しさに対して真摯に行動するしかない。そこから垣間見えるのは、編者・茂木健一郎が「プリンシプル」と表現するような、寄稿者にとって信じられる原理・原則だ。  中でも印象的なのが小説家・高橋源一郎による「レッツゴー、いいことあるさ」という掌編。3月11日に、長男である「レンちゃん」の卒園式を迎えた筆者が記録するその様子は、とてもほのぼのとしている。幼稚園児の合唱するポンキッキーズの曲「LET'S GO! いいことあるさ」に涙し、「お父さん、お母さん、ありがとう」という言葉に我が子を抱きしめる筆者。その直後に大地震が控えていることを知っている"その後"の我々からすれば、あまりにも緊張感がない風景かもしれない。しかし、そんな「3.11以前の日常」を選んだことに、筆者がこの掌編を書いた意味が込められているように思えてならない。3.11は特別な日の特別な出来事ではなく、あくまでも日常の延長に起こった出来事だった。3月11日の夜、余震が続く中を、筆者はレンちゃんとともに「LET'S GO いいことあるさ」の一節を歌いながら眠りにつく。「ひとのかなしみを わかってあげられれば」というその一節は、「頑張ろう日本」の合唱よりもはるかに強いメッセージとして読者に響いてくる。  あの大災害からもう3カ月が経とうとしている。被災地ではいまだに「復興」などという言葉も遠く瓦礫撤去すらままならない場所もあれば、東京のように原発問題へと関心の中心が移りゆく地域もある。ただ、3.11は何かの終わりではない。何かが変わったとすれば、「3.11後」が始まったということではないだろうか。  
わたしの3・11 あの日から始まる今日 もうすぐ3カ月。 amazon_associate_logo.jpg
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