
『封印されたアダルトビデオ』彩図社



『小池さん!大集合』(復刊ドットコム)
藤子不二雄先生の漫画にちょいちょい登場してくる名脇役・小池さんを知っているだろうか。そう、ラーメンばっかり食べているあの人!
チリチリパーマにメガネ、フニャフニャの口(通称・カレーパンマン口)という特徴だらけのルックスでズルズルーッとラーメンをすすっている姿は、昭和生まれ世代ならば一度は目にしたことがあることだろう。いや、それどころか意外と平成生まれの人たちにも認知されているからビックリなのだ。
脳の半分くらいは藤子不二雄関連のことで埋め尽くされている藤子脳なボクは、すごく若い子たちと漫画の話をしていても「ルフィがさぁ」くらいの感覚で「小池さんがさぁ」みたいな話をしてしまいがち。それでも「あー、ラーメン大好きの!」と、ちゃんと反応してくれるからね。
小池さんが藤子漫画に初登場したのは『オバケのQ太郎』なので、おそらく1960年代頃のこと。その後の作品にも登場しているとはいえ、やはり『忍者ハットリくん』『パーマン』など古い漫画が中心なのに、今のヤングにまで認知されているというのはスゴイ! ある意味、ルフィや悟空級の国民的キャラクターと言っても過言ではないだろう(いや、さすがに過言かそれは!?)。そういや、シャ乱Qの「ラーメン大好き小池さんの唄」なんちゅう曲もあったしねぇ……(ま、あれはかなり表層的にしか小池さんを理解していないビミョーな曲でしたが)。
そんな小池さんですが、一般的に持たれているイメージとしては、いっつもラーメン食ってるだけで、大した活躍もしないのに妙に気になってしまう脇役キャラクター……といったところでしょう。確かに、ほとんどの作品でそんな役回りだというのは事実なんだけど、実は小池さんが主人公となり、あまりラーメンも食わず、アクティブに活動している漫画作品というのもあるのだ。……しかも、結構いっぱい。
で、なんとこの度、復刊ドットコムから、そんな小池さんが主人公となっている藤子不二雄A先生の作品(藤子・F・不二雄先生も『カイケツ小池さん』『ウルトラ・スーパー・デラックスマン』という小池さんが主人公の作品を描かれているんですけどね)を一挙にまとめた作品集『小池さん!大集合』が刊行されたのだ。
どーしてこのタイミングで小池さん作品をまとめようと思ったのか、そもそも「小池さん」だけの作品集にどのくらい需要があるのか……いろいろと疑問は湧いてくるものの、小池さんファンにとっては(もちろん藤子漫画ファンにとっても)大歓迎な一冊と言わざるを得ないだろう!
なんせ、今回収録された『小池さんの奇妙な生活』『オレ係長補佐』『赤紙きたる』『ある暑中休暇』『ゲゲゲのゲー』『添乗さん』といった作品たちは、60~70年代にかけて発表されたものの、そのほとんどが単行本はもちろん、全集などにも収録されてこなかった作品たちなのだ。……やっぱり、パッとしないルックスのおじさんが主人公だけに、「単行本にするほどでもないか」とか思われてたのかなぁ? なので、どうしても読みたければ古本屋で掲載当時の雑誌を探し回るか、国会図書館にでも行くしかないという、なかなか過酷なハードルが課せられていた。そんな作品たちが新刊で手軽に読めるなんて、秀樹カンゲキッ!(昭和ノリ)
というわけで、藤子ファンを自称しているボクにとっても、ほとんどが未読の作品だったのだけれど、いざ読んでみると、これがまたイイ感じに奇妙な雰囲気を漂わせている怪作ばかりなの。時期的に、『オバQ』をはじめ『怪物くん』や『ハットリくん』など、子ども向けの作品が大ヒットし、その反動で『笑ゥせぇるすまん』『魔太郎がくる!!』といった、やや大人に向けたブラックユーモア路線の漫画を描きはじめていた頃なので、まあどの作品もブラック&シュール全開なのだ。
とくに『ゲゲゲのゲー』なんて、主人公のコイケさんがなんだかんだで酒を飲んで泥酔し、最終的に「ゲゲゲェー」とゲロ吐くだけというシュール過ぎるにもほどがあるストーリーなんだもん。しかも連載で、毎回そんなことやってるんだよ!? さすが藤子不二雄A(アヴァンギャルド)。
まあ、おなじみの小池さんが、売れない漫画家、うだつのあがらないサラリーマン、ツアー添乗員……とさまざまなシチュエーションに身を置いて、奇妙な出来事に巻き込まれていくという、この異色作品集『小池さん!大集合』。描く作品、描く作品がヒットを飛ばしていた脂の乗り切った時期のA先生が、メインストリームな作品ではとても描けない実験的な内容に挑戦している作品群としても、読む価値は高いのではないだろうか。
ただ『小池さん!大集合』と謳うならば、2000年代に入ってから突如としてゴルフ誌で連載がはじまった『ホアー!! 小池さん』も収録して欲しかった……(まあ、単行本が出てるけど)。この作品も「ゴルフ+小池さん+笑ゥせぇるすまん」といった雰囲気のかなり珍妙なゴルフ漫画で、精神集中するといきなり小池さんの顔が超リアルタッチ(超怖い!)に変貌したりと、いろんな意味でみどころの多い作品なので、未読の方は『小池さん!大集合』と併せてこちらもぜひ読んでもらいたいところ。「一体、小池さんって何者なんだぁーッ!?」と、ますます小池ワールドが混乱すること必至だ。
余談だけど、小池さんには実在のモデルがいるというのは有名な話。藤子不二雄先生がかつてトキワ荘に住んでいた頃の漫画家仲間・鈴木伸一さんがモデルとなっているのだ(後にアニメの道へ進み、アニメ界の大御所となっている)。

杉並アニメーションミュージアムの柱には、
A先生直筆の「小池さん」が!
しかし、なぜ鈴木伸一さんがモデルなのに「小池さん」なのか。実は、鈴木さんが居候していた家の大家さんの名前が「小池さん」だったのだ。なので、おバケのQ太郎に登場した時も「小池さんの家に居候している鈴木さん」という設定だったのだが、家の表札に「小池」と描かれていたため、ラーメン食ってるあのキャラクター自体が「小池さん」だと勘違いされ、それが定着してしまったということらしい。
ちなみにこの鈴木伸一さん、現在では杉並区にある「杉並アニメーションミュージアム」というアニメ博物館の館長を務めており、ちょいちょいミュージアムにも顔を出しているので、そこに通っていれば、もしかしたらあの「小池さん」の実物に会えるかもしれないぞ! ……それにしても鈴木さん、自分がモデルとなったキャラクターが「ゲゲゲェー」とゲロ吐きまくる漫画を読んで、どう思ってたんだろうなぁ~。
(文=北村ヂン)

『小池さん!大集合』(復刊ドットコム)
藤子不二雄先生の漫画にちょいちょい登場してくる名脇役・小池さんを知っているだろうか。そう、ラーメンばっかり食べているあの人!
チリチリパーマにメガネ、フニャフニャの口(通称・カレーパンマン口)という特徴だらけのルックスでズルズルーッとラーメンをすすっている姿は、昭和生まれ世代ならば一度は目にしたことがあることだろう。いや、それどころか意外と平成生まれの人たちにも認知されているからビックリなのだ。
脳の半分くらいは藤子不二雄関連のことで埋め尽くされている藤子脳なボクは、すごく若い子たちと漫画の話をしていても「ルフィがさぁ」くらいの感覚で「小池さんがさぁ」みたいな話をしてしまいがち。それでも「あー、ラーメン大好きの!」と、ちゃんと反応してくれるからね。
小池さんが藤子漫画に初登場したのは『オバケのQ太郎』なので、おそらく1960年代頃のこと。その後の作品にも登場しているとはいえ、やはり『忍者ハットリくん』『パーマン』など古い漫画が中心なのに、今のヤングにまで認知されているというのはスゴイ! ある意味、ルフィや悟空級の国民的キャラクターと言っても過言ではないだろう(いや、さすがに過言かそれは!?)。そういや、シャ乱Qの「ラーメン大好き小池さんの唄」なんちゅう曲もあったしねぇ……(ま、あれはかなり表層的にしか小池さんを理解していないビミョーな曲でしたが)。
そんな小池さんですが、一般的に持たれているイメージとしては、いっつもラーメン食ってるだけで、大した活躍もしないのに妙に気になってしまう脇役キャラクター……といったところでしょう。確かに、ほとんどの作品でそんな役回りだというのは事実なんだけど、実は小池さんが主人公となり、あまりラーメンも食わず、アクティブに活動している漫画作品というのもあるのだ。……しかも、結構いっぱい。
で、なんとこの度、復刊ドットコムから、そんな小池さんが主人公となっている藤子不二雄A先生の作品(藤子・F・不二雄先生も『カイケツ小池さん』『ウルトラ・スーパー・デラックスマン』という小池さんが主人公の作品を描かれているんですけどね)を一挙にまとめた作品集『小池さん!大集合』が刊行されたのだ。
どーしてこのタイミングで小池さん作品をまとめようと思ったのか、そもそも「小池さん」だけの作品集にどのくらい需要があるのか……いろいろと疑問は湧いてくるものの、小池さんファンにとっては(もちろん藤子漫画ファンにとっても)大歓迎な一冊と言わざるを得ないだろう!
なんせ、今回収録された『小池さんの奇妙な生活』『オレ係長補佐』『赤紙きたる』『ある暑中休暇』『ゲゲゲのゲー』『添乗さん』といった作品たちは、60~70年代にかけて発表されたものの、そのほとんどが単行本はもちろん、全集などにも収録されてこなかった作品たちなのだ。……やっぱり、パッとしないルックスのおじさんが主人公だけに、「単行本にするほどでもないか」とか思われてたのかなぁ? なので、どうしても読みたければ古本屋で掲載当時の雑誌を探し回るか、国会図書館にでも行くしかないという、なかなか過酷なハードルが課せられていた。そんな作品たちが新刊で手軽に読めるなんて、秀樹カンゲキッ!(昭和ノリ)
というわけで、藤子ファンを自称しているボクにとっても、ほとんどが未読の作品だったのだけれど、いざ読んでみると、これがまたイイ感じに奇妙な雰囲気を漂わせている怪作ばかりなの。時期的に、『オバQ』をはじめ『怪物くん』や『ハットリくん』など、子ども向けの作品が大ヒットし、その反動で『笑ゥせぇるすまん』『魔太郎がくる!!』といった、やや大人に向けたブラックユーモア路線の漫画を描きはじめていた頃なので、まあどの作品もブラック&シュール全開なのだ。
とくに『ゲゲゲのゲー』なんて、主人公のコイケさんがなんだかんだで酒を飲んで泥酔し、最終的に「ゲゲゲェー」とゲロ吐くだけというシュール過ぎるにもほどがあるストーリーなんだもん。しかも連載で、毎回そんなことやってるんだよ!? さすが藤子不二雄A(アヴァンギャルド)。
まあ、おなじみの小池さんが、売れない漫画家、うだつのあがらないサラリーマン、ツアー添乗員……とさまざまなシチュエーションに身を置いて、奇妙な出来事に巻き込まれていくという、この異色作品集『小池さん!大集合』。描く作品、描く作品がヒットを飛ばしていた脂の乗り切った時期のA先生が、メインストリームな作品ではとても描けない実験的な内容に挑戦している作品群としても、読む価値は高いのではないだろうか。
ただ『小池さん!大集合』と謳うならば、2000年代に入ってから突如としてゴルフ誌で連載がはじまった『ホアー!! 小池さん』も収録して欲しかった……(まあ、単行本が出てるけど)。この作品も「ゴルフ+小池さん+笑ゥせぇるすまん」といった雰囲気のかなり珍妙なゴルフ漫画で、精神集中するといきなり小池さんの顔が超リアルタッチ(超怖い!)に変貌したりと、いろんな意味でみどころの多い作品なので、未読の方は『小池さん!大集合』と併せてこちらもぜひ読んでもらいたいところ。「一体、小池さんって何者なんだぁーッ!?」と、ますます小池ワールドが混乱すること必至だ。
余談だけど、小池さんには実在のモデルがいるというのは有名な話。藤子不二雄先生がかつてトキワ荘に住んでいた頃の漫画家仲間・鈴木伸一さんがモデルとなっているのだ(後にアニメの道へ進み、アニメ界の大御所となっている)。

杉並アニメーションミュージアムの柱には、
A先生直筆の「小池さん」が!
しかし、なぜ鈴木伸一さんがモデルなのに「小池さん」なのか。実は、鈴木さんが居候していた家の大家さんの名前が「小池さん」だったのだ。なので、おバケのQ太郎に登場した時も「小池さんの家に居候している鈴木さん」という設定だったのだが、家の表札に「小池」と描かれていたため、ラーメン食ってるあのキャラクター自体が「小池さん」だと勘違いされ、それが定着してしまったということらしい。
ちなみにこの鈴木伸一さん、現在では杉並区にある「杉並アニメーションミュージアム」というアニメ博物館の館長を務めており、ちょいちょいミュージアムにも顔を出しているので、そこに通っていれば、もしかしたらあの「小池さん」の実物に会えるかもしれないぞ! ……それにしても鈴木さん、自分がモデルとなったキャラクターが「ゲゲゲェー」とゲロ吐きまくる漫画を読んで、どう思ってたんだろうなぁ~。
(文=北村ヂン)

『未来国家ブータン』(集英社)
今、もっとも注目される“世界でいちばん幸せな国”、ブータン。
国民総幸福量(GNH)という独自の考え方を打ち出し、国民の約97%が「幸せ」と答える。このご時勢、「幸せとはなんぞや……」と頭を悩ます世界中の人々から熱い視線が注がれている国だ。昨年11月には、ブータン国王、王妃が来日し、その美男美女ぶりに加え、幸せそうな姿に、すっかりファンになった人も多いのではないかと思う。
私の勝手なブータンのイメージは、“な~んにもない山岳地帯に、日本人のような顔をした人々がのんびり暮らしている”という、かなりざっくりしたもの。しかし、『未来国家ブータン』(集英社)を読んでみると、予想もしなかった、何やらものすごく奥深い「正体不明のナゾの国家」であることが見えてくる。
著者は、辺境作家の高野秀行氏。これまで20年以上にわたり、コンゴの謎の怪獣「モケーレ・ムベンベ」や、ベトナムの猿人「フイハイ」、アフガニスタンの凶獣「ペシャクパラング」など数々の未確認動物を探し回ってきた、その筋(?)では有名な人物だ。
その高野氏が、今度は雪男を探しにブータンへ出発することになった。
きっかけは、友人の二村聡氏が聞いた雪男話。二村氏は、野生の植物や菌類といった「生物資源」から新しい医薬品や食品などを作るための研究を行う会社の経営者。意表をついたアイデアと驚きの行動力の持ち主で、ブータンの農業省・国立生物多様性センターとの業務提携を取りつけていた。
その二村氏によると、同センターのプロジェクト主任が、「わが国に未知の動物はいないが、雪男はいる」と語っていたというのだ。
政府の高官が雪男の存在を肯定したという事実にすっかり血が騒ぎ、高野氏はブータンへと旅立つ。
とは言っても、雪男探しだけのために、ブータンへ行った訳ではない。
公式の任務は二村氏の依頼で、ブータン政府もよく把握していない少数民族の村へ行き、彼らの伝統知識や現地の状況を調べ、今後、「生物資源」の現地調査に適した場所を探し出すこと。
その中に、個人的興味である“雪男調査”をこっそり(どっさり)入れ込み、雪男を探し回ったのだ。
現地に到着後、すぐに聞き込み調査を開始した高野氏。まもなく雪男の特徴がわかってきた。けむくじゃらで山奥に住んでいる。巨大だが、大きさは自由に変えられ、ものすごく臭い。山椒と腋臭が入り混じったようなにおい。それに、女バージョンもいるという。
なんだか笑ってしまうような特徴だが、証言してくれる現地の人々の顔は真剣そのもの。
そのほかにも、雪男を目撃するのは不吉なことで、運が落ちている状態だと考えられていることや、雪男に間違えられた老人、雪男に連れ去られた公務員の話など、次々と証言者が現れる。
だが、調査してみると、雪男以外にも、悪魔を崇拝するという「毒人間」と呼ばれる一族や、子どもを食べるといわれる未確認動物「チュレイ」など、ブータンでは“物の怪”の存在を信じる人々がまだまだ多いことがわかってくる。そして、それらを退治するための薬なども存在し、いつの間にやら、公式の任務である調査内容へとつながっていく。
ブータンは、開発よりも伝統を優先し、外国人観光客はガイドなしでは自由に歩き回ることもできない。その上、多くの土地でまだ電気も水道も通っておらず、高度な教育や医療、福祉の恩恵にあずかれるのは、ごくわずか。
その一方で、政府の公用語は英語で、学校教育も小学校高学年からはすべて英語。官僚やビジネスマンはほとんど外国の大学で学位を取っている。開発よりも環境を優先し、世界で最もエコロジーが進んでいるという環境立国でもある。
昔ながらの生活はちゃんと残っているのに最先端。どうしたら、こんなにいいとこどりの国になれるのか。
しかも、政府の官僚でさえも、まるで威張ったところがなく、村人に会って話を聞けば、「彼らの知恵や経験は実に勉強になります」と、目をキラキラさせながら話す。
ブータンの底知れぬ幸せ力とは、一体何なのか。そして、ブータンで雪男は発見できたのか!?
今まで見聞きしたこともないブータンの真実が、この1冊に濃厚に詰まっている。
(文=上浦未来)
●たかの・ひでゆき
1966年東京都生まれ。早稲田大学探検部時代に書いた『幻獣ムベンベを追え』でデビュー。92~93年にはタイ国立チェンマイ大学日本語学科で、08~09年には上智大学外国語学部で、それぞれ講師を務める。著書に『巨流アマゾンを遡れ』『異国トーキョー漂流記』『ミャンマーの柳生一族』『アヘン王国潜入記』『アジア新聞屋台村』『腰痛探険家』『辺境中毒!』(以上集英社文庫)ほか、『西南シルクロードは密林に消える』(講談社)、『世にも奇妙なマラソン大会』(本の雑誌社)、『イスラム飲酒紀行』(扶桑社)など多数。『ワセダ三畳青春記』(集英社文庫)で第一回酒飲み書店員大賞受賞。

『未来国家ブータン』(集英社)
今、もっとも注目される“世界でいちばん幸せな国”、ブータン。
国民総幸福量(GNH)という独自の考え方を打ち出し、国民の約97%が「幸せ」と答える。このご時勢、「幸せとはなんぞや……」と頭を悩ます世界中の人々から熱い視線が注がれている国だ。昨年11月には、ブータン国王、王妃が来日し、その美男美女ぶりに加え、幸せそうな姿に、すっかりファンになった人も多いのではないかと思う。
私の勝手なブータンのイメージは、“な~んにもない山岳地帯に、日本人のような顔をした人々がのんびり暮らしている”という、かなりざっくりしたもの。しかし、『未来国家ブータン』(集英社)を読んでみると、予想もしなかった、何やらものすごく奥深い「正体不明のナゾの国家」であることが見えてくる。
著者は、辺境作家の高野秀行氏。これまで20年以上にわたり、コンゴの謎の怪獣「モケーレ・ムベンベ」や、ベトナムの猿人「フイハイ」、アフガニスタンの凶獣「ペシャクパラング」など数々の未確認動物を探し回ってきた、その筋(?)では有名な人物だ。
その高野氏が、今度は雪男を探しにブータンへ出発することになった。
きっかけは、友人の二村聡氏が聞いた雪男話。二村氏は、野生の植物や菌類といった「生物資源」から新しい医薬品や食品などを作るための研究を行う会社の経営者。意表をついたアイデアと驚きの行動力の持ち主で、ブータンの農業省・国立生物多様性センターとの業務提携を取りつけていた。
その二村氏によると、同センターのプロジェクト主任が、「わが国に未知の動物はいないが、雪男はいる」と語っていたというのだ。
政府の高官が雪男の存在を肯定したという事実にすっかり血が騒ぎ、高野氏はブータンへと旅立つ。
とは言っても、雪男探しだけのために、ブータンへ行った訳ではない。
公式の任務は二村氏の依頼で、ブータン政府もよく把握していない少数民族の村へ行き、彼らの伝統知識や現地の状況を調べ、今後、「生物資源」の現地調査に適した場所を探し出すこと。
その中に、個人的興味である“雪男調査”をこっそり(どっさり)入れ込み、雪男を探し回ったのだ。
現地に到着後、すぐに聞き込み調査を開始した高野氏。まもなく雪男の特徴がわかってきた。けむくじゃらで山奥に住んでいる。巨大だが、大きさは自由に変えられ、ものすごく臭い。山椒と腋臭が入り混じったようなにおい。それに、女バージョンもいるという。
なんだか笑ってしまうような特徴だが、証言してくれる現地の人々の顔は真剣そのもの。
そのほかにも、雪男を目撃するのは不吉なことで、運が落ちている状態だと考えられていることや、雪男に間違えられた老人、雪男に連れ去られた公務員の話など、次々と証言者が現れる。
だが、調査してみると、雪男以外にも、悪魔を崇拝するという「毒人間」と呼ばれる一族や、子どもを食べるといわれる未確認動物「チュレイ」など、ブータンでは“物の怪”の存在を信じる人々がまだまだ多いことがわかってくる。そして、それらを退治するための薬なども存在し、いつの間にやら、公式の任務である調査内容へとつながっていく。
ブータンは、開発よりも伝統を優先し、外国人観光客はガイドなしでは自由に歩き回ることもできない。その上、多くの土地でまだ電気も水道も通っておらず、高度な教育や医療、福祉の恩恵にあずかれるのは、ごくわずか。
その一方で、政府の公用語は英語で、学校教育も小学校高学年からはすべて英語。官僚やビジネスマンはほとんど外国の大学で学位を取っている。開発よりも環境を優先し、世界で最もエコロジーが進んでいるという環境立国でもある。
昔ながらの生活はちゃんと残っているのに最先端。どうしたら、こんなにいいとこどりの国になれるのか。
しかも、政府の官僚でさえも、まるで威張ったところがなく、村人に会って話を聞けば、「彼らの知恵や経験は実に勉強になります」と、目をキラキラさせながら話す。
ブータンの底知れぬ幸せ力とは、一体何なのか。そして、ブータンで雪男は発見できたのか!?
今まで見聞きしたこともないブータンの真実が、この1冊に濃厚に詰まっている。
(文=上浦未来)
●たかの・ひでゆき
1966年東京都生まれ。早稲田大学探検部時代に書いた『幻獣ムベンベを追え』でデビュー。92~93年にはタイ国立チェンマイ大学日本語学科で、08~09年には上智大学外国語学部で、それぞれ講師を務める。著書に『巨流アマゾンを遡れ』『異国トーキョー漂流記』『ミャンマーの柳生一族』『アヘン王国潜入記』『アジア新聞屋台村』『腰痛探険家』『辺境中毒!』(以上集英社文庫)ほか、『西南シルクロードは密林に消える』(講談社)、『世にも奇妙なマラソン大会』(本の雑誌社)、『イスラム飲酒紀行』(扶桑社)など多数。『ワセダ三畳青春記』(集英社文庫)で第一回酒飲み書店員大賞受賞。

『飼い喰い 三匹の豚とわたし』(岩波書店)
自分で豚を飼って、つぶして、食べてみたい――。
この湧き上がってしまった欲望を抑えきれず、自宅の軒下で約半年をかけて三匹の豚を飼い、育て、屠畜し、食べる会を開くまでに至る、驚愕の体験ルポ『飼い喰い 三匹の豚とわたし』(岩波書店)。
著者は、およそ10年間にわたり、国内外の屠畜現場を取材した『世界屠畜紀行』(解放出版社)が話題を呼んだ、イラストルポライターの内澤旬子氏。これまで、死んで肉となっていく家畜たち、牛、豚、山羊、馬、羊、ときにはラクダなどを、合計1万頭近くは眺めてきた。
だが、屠畜場に送られてくる前の段階はどうなのだろうか?
つまり、どうやって生まれ、どんな餌をどれだけ食べてきたか。出荷体重まで育てるのに、農家は毎日何をしているのか。
このことを知らずに屠畜場を見るということに疑問を抱き、自分の目で見て体験してみたいと、自宅の軒先で豚を飼い、イラストを入れながら、つぶさに記録した1冊である。
とはいえ、みなさんお察しの通り、豚なんてそう簡単には飼えるもんじゃない。臭いし、ブヒブヒうるさいし、餌やりだって大変だ。
しかも、自分の好奇心の赴くまま豚を育てるわけで、当然ながらどこかからお金をもらえるわけもなく、本業の仕事もしないといけない。並の人間ならば、このあたりで「やっぱムリ……」、萎えてしまうかと思うのだが、内澤氏はこの大きな大きなハードルを着々と乗り越えていく。
まずは、豚と暮らせる家探し。内澤氏が住む都内のマンションでは当然ながら豚は飼えず、知り合いのツテをたどって、千葉県旭市の150坪、敷金礼金なし、家賃5万の豚と住める廃屋を借りることに成功。
だが、かなりガタがきている物件のため、雨漏りする屋根を直し、なぜか残されていた大量のゴミを捨てるところからスタート。これが終われば、次は豚たちの寝床作り。物置小屋に糞尿対策のためおがくずをまき、給水器と餌やりの器具を設置し、さらに、豚を外で遊ばせるための運動場用に柵を張ったりと、やるべきことは次から次へと出てくる。
肝心の豚はいうと、こちらも知り合いのツテで、譲ってくれる農家の人が現れた。受精の瞬間から立ち会わせてもらい、ついに我が家へお出迎え。伸(オス)、夢(オス)、秀(メス)と、命名し、三匹の豚との生活がスタートする。
豚とはいえ、みんなそれぞれ性格が違い、伸は運動場でぐうぐうと寝ていることが多く、あまりなつかない。夢は人の好き嫌いがとても激しい。秀は、そばにいる人間をほとんど気にすることなく、黙々と餌を食べ、ひたすら眠る、豚らしい豚。
彼らとの暮らしぶりは、「面白すぎて寝られない」というぐらい、あれこれ何かが起こる。初日から、ドドドドッという音とともに、ギョーーーーーーーッキイイイイイイイッという悲鳴が上がり、ボス決定戦のタイトルマッチが行われたり、ある日の夜には、夢と伸が小屋から脱走。屠畜日の話をした翌日は、「食べられる!」ということを鋭く察知したかのように、運動場の端でうずくまり、伏し目がちに何か痛みをこらえているような表情を見せた夢など、読んでいると、豚たちにどんどん愛着が湧いてくる。
けれど、やはり彼らはペットではなく、家畜。最後は、大好物のバナナで誘導しながら、屠畜場へ連れて行き、100キロほどに太った彼らを、フレンチ、タイ、韓国料理の3種類に調理し、「食べる会」で、いただく。
手頃な価格で、ヘルシーで、いちばん身近ともいえる豚肉。豚という生き物が、どんな性格で、どんな風に暮らし、どうやって生きてきたのか。今まで、なんとなく食べていた豚肉が、深~く理解できるようになる。豚さん、ありがたや。
(文=上浦未来)
●うちざわ・じゅんこ
イラストルポライター。1967年生まれ。國學院大學卒業。日本各地、海外諸国へ出かけ、製本、印刷、建築、屠畜など、さまざまなジャンルを取材し、精密な画力を生かしたイラストルポに定評がある。著書に『世界屠畜紀行』(解放出版社)、『センセイの書斎』(幻戯書房)、『おやじがき』、(にんげん出版)、『身体のいいなり』(朝日新聞出版)など。

『ちゅーとにゃーときー』(長崎出版)
日本の昔ばなしには、子どもへの読み聞かせるのをためらってしまうような不条理な物語や、恐怖の物語が無数に存在する。
有名なところでは、「カチカチ山」。畑を荒らしていたタヌキを捕まえたおじいさんが、おばあさんに「タヌキ汁」にするように伝え、畑仕事へ。しかし、おばあさんはタヌキにだまされ、逆に「ばばぁ汁」となってしまう。さらに、帰宅したおじいさんもだまされ、「ばばぁ汁」を食べてしまい……。
こんなトラウマ必至の昔ばなしも、かわいい絵なんかが添えられてしまうと、子どもは意外に「なんかおもしろーい」と聞き流してしまうもの。しかし大人になると、「これはヤバイ(笑)」とツッコミながら、グルグルと深読みすることができる。昔ばなしとは、そんな“2度おいしい代物”といえるだろう。
今年1月に発売となった全編「土佐弁」の絵本『ちゅーとにゃーときー』(長崎出版)も、子どもと大人で印象の異なる作品だ。再話&イラストを手掛けるのは、ポップでちょっとおかしなフィギュアを数多く発表する、人気フィギュアイラストレーター・デハラユキノリ。カラフルな色づかいと強いタッチで、キャラクターや大自然をダイナミックに描いている。
あらすじは、実に昔ばなしらしい。おばあさんが織った“はた”を、町へ売りに行くおじいさん。そこで助けた猿からお礼に「一文銭」をもらってからというもの、たちまち大金持ちとなり……。
「わしゃ もう かえらないかんき」
「ほいたら おれいに これを もっていって つかぁさい」
おじいさんは きーから いちもんせんを もらいました
そんな土佐弁の心地よい耳障りは、子どもへの読み聞かせにもぴったり。さらに「おじいさん」「おばあさん」「動物」という、らしいキャストに、分かりやすいストーリー。しかもハッピーエンドと、子どもならきっと「なんかいいお話だった~」「猿がかわいかった~」などと言いながら、本をパタンと閉じることだろう。
しかし、大人が読むとどうだろうか。それまで想定内のストーリーが展開していたと思いきや、ラスト一歩手前に見過ごせない数ページが……。不意を突かれるように突然訪れるそのシーンには、たった数ページながら、道徳的に子どもへ伝えづらい「取られたら、いかなる手段を使ってでも取り戻せ!」「一度、上を見てしまうと、人は変わってしまう」といった教訓が詰まっているように感じる。
そんな問題のシーンは、実際に自分の目で確かめてほしい。そしてこの絵本をきっかけに、日本古来のファンタジー作品の数々に目を向けてみてはいかがだろうか。人間と動物がしゃべるだけでも、十分どうかしてるのだから。
(文=林タモツ)

『ちゅーとにゃーときー』(長崎出版)
日本の昔ばなしには、子どもへの読み聞かせるのをためらってしまうような不条理な物語や、恐怖の物語が無数に存在する。
有名なところでは、「カチカチ山」。畑を荒らしていたタヌキを捕まえたおじいさんが、おばあさんに「タヌキ汁」にするように伝え、畑仕事へ。しかし、おばあさんはタヌキにだまされ、逆に「ばばぁ汁」となってしまう。さらに、帰宅したおじいさんもだまされ、「ばばぁ汁」を食べてしまい……。
こんなトラウマ必至の昔ばなしも、かわいい絵なんかが添えられてしまうと、子どもは意外に「なんかおもしろーい」と聞き流してしまうもの。しかし大人になると、「これはヤバイ(笑)」とツッコミながら、グルグルと深読みすることができる。昔ばなしとは、そんな“2度おいしい代物”といえるだろう。
今年1月に発売となった全編「土佐弁」の絵本『ちゅーとにゃーときー』(長崎出版)も、子どもと大人で印象の異なる作品だ。再話&イラストを手掛けるのは、ポップでちょっとおかしなフィギュアを数多く発表する、人気フィギュアイラストレーター・デハラユキノリ。カラフルな色づかいと強いタッチで、キャラクターや大自然をダイナミックに描いている。
あらすじは、実に昔ばなしらしい。おばあさんが織った“はた”を、町へ売りに行くおじいさん。そこで助けた猿からお礼に「一文銭」をもらってからというもの、たちまち大金持ちとなり……。
「わしゃ もう かえらないかんき」
「ほいたら おれいに これを もっていって つかぁさい」
おじいさんは きーから いちもんせんを もらいました
そんな土佐弁の心地よい耳障りは、子どもへの読み聞かせにもぴったり。さらに「おじいさん」「おばあさん」「動物」という、らしいキャストに、分かりやすいストーリー。しかもハッピーエンドと、子どもならきっと「なんかいいお話だった~」「猿がかわいかった~」などと言いながら、本をパタンと閉じることだろう。
しかし、大人が読むとどうだろうか。それまで想定内のストーリーが展開していたと思いきや、ラスト一歩手前に見過ごせない数ページが……。不意を突かれるように突然訪れるそのシーンには、たった数ページながら、道徳的に子どもへ伝えづらい「取られたら、いかなる手段を使ってでも取り戻せ!」「一度、上を見てしまうと、人は変わってしまう」といった教訓が詰まっているように感じる。
そんな問題のシーンは、実際に自分の目で確かめてほしい。そしてこの絵本をきっかけに、日本古来のファンタジー作品の数々に目を向けてみてはいかがだろうか。人間と動物がしゃべるだけでも、十分どうかしてるのだから。
(文=林タモツ)

『参謀 落合監督を支えた右腕の
「見守る力」』(講談社)
今季からOBの高木守道監督が指揮を執る中日ドラゴンズだが、開幕から12勝7敗2分(24日現在)で3年連続のリーグ優勝と5年ぶりの日本一奪回を目指し、首位を快走中だ。
「2004年から8年にわたってチームを率い、4回のリーグ優勝と1回の日本一に輝いただけでなく、毎年Aクラス入りしていた落合博満前監督の鍛え上げたチームはそう簡単には負けない。ただ、主力の平均年齢が高いだけに、夏場を迎え、ベテランを中心に故障者や離脱者が続出しないかが危惧されるが……。中日の強さの秘けつは圧倒的な投手力だが、そうなったのも、落合政権で投手コーチ、バッテリーコーチ、ヘッドコーチを歴任し、自分に声をかけてくれた落合前監督と一緒に退任する“侠気”を見せた森繁和氏(現・野球評論家)の功績が大きい」(球界関係者)
そんな森氏がこのほど、自著『参謀 落合監督を支えた右腕の「見守る力」』(講談社)を上梓。落合前監督が帯に「私が、ユニフォームを着るなら必ず森繁和を呼ぶ」と、野球人としてはこれほどの名誉はないレベルの推薦文を寄せているだけあり、「発売直後に増刷が決定。この勢いだと、落合前監督の近著『采配』(ダイヤモンド社)を超える勢いの売り上げ」(出版関係者)というが、表紙は絶大なインパクト。
ビシッと髪を整え、色つきのメガネをかけ、あまりサラリーマンが着用しないようなスーツを着こなした森氏がおどけたポーズをとっているだけに、森氏を知らない人が書店で見つけたら、「この人はもしかして……」とあらぬ疑念を抱きそうだが、その“裏の顔”は球界中に知れわたっている。
「森氏の別名は『球界のトラブル・シューター』。よく各球団の首脳陣や主力選手の口から『あの人に頼めば大丈夫!』『森さんはいざという時に頼りになる』と聞こえてきた。森氏は“球界の寝業師”の異名をとった故・根本陸夫氏に、直々に口説かれて西武入り。根本氏とは親子を超えたような関係で、根本氏は自分の“後継者”に森氏を指名。根本氏が亡くなるまでに、その人脈をほぼ引き継いだといわれている。自軍の選手のみならず、表沙汰にはならなかった数々のトラブルを解決。中日時代には、某スター選手の警察沙汰を穏便に収めた。もともと熱血漢で、自著によると落合氏から『(選手に)手だけは出すな』と言われ必死にガマンしていたようだが、その風貌もあって、選手たちは森氏の前では若手・ベテランに限らず緊張の面持ち。今シーズンの中日ナインにはもうあの緊張感がないだけに、物足りないのでは」(プロ野球担当記者)
森氏は自著で、「具体的にはいっさい書くわけにはいかないが、たくさんのトラブルの種を、表沙汰になる前になんとか収めてきたことだけは確かだ」と意味深な一文をつづっているだけに、これまでの野球人生、グランドの外でもかなりの修羅場を乗り越えてきたに違いない。
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