「年寄りをナメるな!」老人ホームで聞こえた、人々の生活史『驚きの介護民俗学』

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『驚きの介護民俗学』(医学書院)
 老人は何度も同じ話をする。例えば、うちの祖父がそうだ。  今年90歳になる祖父は、認知症こそ始まっていないものの、会うと毎回同じ話を繰り返す。例えば、戦後すぐの話。祖父は闇市で飴の販売をしたり、コメや農作物と物々交換をしてもらい生計を立てていた。 「伊東でイカを仕入れて、長野まで夜行で持って行ったんだよ。おい、どうなったと思う?」 「さあ……」 「腐っちゃってたんだよ」 祖父、爆笑。 こちらはうつむきながら調子を合わせて、とりあえず笑っているような雰囲気を作る。100回近く聞かされたこの話が面白いわけがない。だが、こちらの考えなどお構いなしに、おそらく祖父は死ぬまで僕に向かってこの話をしていることだろう……。  大学教授として学生たちに民俗学を教える立場から突然、介護の現場に飛び込んだ民俗学者・六車由実は「介護民俗学」という概念を提唱している。老人ホームで、認知症の老人たちの生活史に熱心に耳を傾けることによって生み出されたこの新しい視点。その成果が『驚きの介護民俗学』(医学書院)として一冊の本にまとめられた。  九州電力の子会社で働いていた山口昇さんは、発電所から村々を結ぶ電線を設置する仕事に従事していた。10日間村に滞在し、電線の設置が終わればまた別の村へと移動する。また、カイコの雄雌を見抜く「鑑別嬢」という仕事をしていたのは杉本タミさん。若い女性たちがグループを組み、あちこちの村に派遣され、村人と触れ合いながらカイコの鑑定を行う。現代では失われ、思い出されることもない彼らの暮らしぶり。六車は、民俗学者・宮本常一の言葉を引用しながら「忘れられた日本人」と彼らの半生を形容する。  また、高齢者のトイレ介助も老人ホームの仕事。普通なら嫌がられるだけの仕事だが、六車はそこにもまた面白さを見出してしまう。慣れない水洗トイレに拒否感を示してしまう入所者たち。「トイレに行きましょう」と声をかけてもなんの反応もしないのに、「お手洗い」「便所」「雪隠」などと言い換えればとたんに理解できる認知症の老人。畑仕事をしていた昔の記憶を思い出したのか、しばしば男性用トイレで立ちションをしてしまう女性……。  生活の歴史をつぶさに聞きだす民俗学のフィールドワーク現場として、老人ホームほど適した場所はない。だが、相手は認知症を患っている老人。認知症の診断を受けていないわが祖父の話し相手をするだけでもへとへとになってしまうのに、認知症老人相手にコミュニケーションなどとることができるのだろうか?  例えば夕方になると「帰りたい」と言い、徘徊をはじめるハルさん。「たそがれ症候群」といわれ、認知症高齢者によくある症例のひとつだ。 「私は家に帰ってご飯の支度をしなきゃいけないのよ。私が帰らなきゃ子どもたちがみんな困るじゃないの。だから私を家に帰してちょうだい」 「お母さんが病気で家に一人でいるの。だから帰らなきゃならないの」  もちろん、そんな事実はないのだから、彼女の言葉は「ボケ」の典型的な症例に過ぎない。しかし、六車はそんなハルさんの言葉から、徘徊する背景を「家族のために一生懸命働いてきたハルさんの生き方が垣間見える」と肯定する。認知症だからといって、決して老人たち本人にとっては支離滅裂な言葉をしゃべっているわけではない。記憶が混濁していても、彼らには彼らなりの必然性を持った言葉を話している。六車は、そんな老人たちの言葉に対して真摯に向き合う。  もちろん、人手不足が叫ばれ、過酷を究める介護の現場に、そんな誠意を持つ余裕はないという反論もある。六車も、仕事が変わり業務に忙殺されるようになると、とたんに彼らの話を聞く余裕を失ってしまった。だが、そんな状況でも「知りたい」という好奇心は勝手に動きまわるものだ。彼女は忙しさに流されず、そんな自分の欲求に素直になることで、「驚き」という感動を手にした。それは、思わぬ可能性も秘めていた。 「そこでは利用者は聞き手に知らない世界を教えてくれる師となる。日常的な介護の場面では常に介護される側、助けられる側、という受動的で劣位な『される側』にいる利用者が、ここでは話してあげる側、教えてあげる側という能動的で優位な『してあげる側』になる。(略)そうした介護者と被介護者との関係のダイナミズムはターミナル期を迎えた高齢者の生活をより豊かにするきっかけとなるのではないか」(本文より)  ともすると、僕らはすぐに老人を「弱者」とみなして、手厚く保護をしようとする。だが、現代っ子には窺い知れないほどに数多くの経験をしている彼らは、決してただの弱者ではないのだ。もちろん、老人たちの声に耳を澄ますことは、とても大変なことだ。だが、人間として尊敬を持ちながら真摯に彼らに接することで、介護は民俗学にとどまらない新たな発見の場にもなるだろう。 (文=萩原雄太[かもめマシーン]) ●むぐるま・ゆみ 1970年生まれ。大阪大学大学院修了。文学博士。「神、人を喰う―人身御供の民俗学」で2003年サントリー学芸賞を受賞。東北芸術工科大学准教授を経て、現在郷里の静岡県で特養内ディサービスに介護職員として勤務。

「モテるオタクに、俺らだってなりたい!」非モテオタクに捧ぐコミュ指南書『モタク』

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『モタク』スコラマガジン
「俺らはモテない! なぜだ!」 「オタクだからさ!」  と自虐コントを即興で打てるくらい非モテ人生に慣れてしまったオタク。  彼らは自分の好きなものに対して情熱的に入れ込むあまり、軽薄でライトな生き様がクールとされる現代社会において「キモい」位置づけとなってしまった不幸な存在だ。  だが、そんな冷たい視線に耐えてなお自分の愛する作品に殉じる彼らの姿は、まさに隠れ切支丹。どんな迫害にも負けず、ストイックに道を究めんとするオタクの生き様は、感動的ですらある……。  とか何とか言いながらも、彼らの本心はどうだろう。あえて言おう! 「それでもやっぱり恋人が欲しいんだよぉぉぉぉ!」であると!  非モテ男子が集まるサークルの中に萌え萌えボイスのオタク美少女が入ってきたら、彼女を巡って内紛は勃発するし、アイドルに生活の全てを捧ぐピュアガールでもコンビニの店員のお兄さんに優しくされれば胸がキュン♪ としちゃうもの。  そんな「フツーの男女」と同じくらい恋愛に憧れを抱くオタクだが、なぜうまくいかないのか。やはりオタクに恋愛なんて夢のまた夢……ということなのだろうか。 かと思えば、オタクなのに素敵なパートナーを持つ人もいる。  「ただしイケメンに限るんだろ」とツッコミが入りがちだが、イケメンじゃなくても幸せな恋愛をしているオタクも大勢いる。  彼らと俺達の違いは一体どこなのか。そこにズバッと答えてくれるのが本書だ。  本書ではオタクな夫と出会い、結婚にまで至ったアルテイシア女史(ちなみにアルテイシアとは「機動戦士ガンダム」に出てくる金髪美女セイラ=マスの本名である)が、パートナーとの出会いと彼がなぜモテなかったのか。また、彼のどんなところに惹かれたのか。  また、周囲の非モテオタク男子とのエピソードなど身近な話題を取り入れつつ、「なぜオタクが恋愛に失敗するのか」「どうすれば上手な恋愛ができるのか」を懇切丁寧に解説してくれる(というわけで、本書のメインターゲットはオタク男子である)。  面白いのは、従来の恋愛啓発書にありがちな「異性を喜ばせるコツ」や「デートのマナー」といったモテるための小手先のテクを解説するのではなく、「こう言ったら相手はどう思うか」「こういう気づかいをすると円満な人間関係が築ける」といった基本的なコミュニケーションの取り方のアドバイスから始まり、少しずつ恋愛に発展させるための解説が展開していく点だ。  そうなのだ。オタクが恋愛に失敗するのは、そもそもモテスキルの有無が問題なのではない。  オタクは自分の好きなものをとにかく語りたい、自己主張の塊のような生き物であるがゆえに、相手への思いやりをついつい忘れがちなだけなのだ。  そんなちょっぴりコミュニケーション能力に難のあるオタクが「恋愛」という戦場に立つためには、まず「コミュニケーションスキル」を開発する所からスタートせねばならなかったのである。  そこに気付いたアルテイシア女史が、「軟弱物!」と時に厳しく、「あなたならできるわ」と時に優しく、いまだ革新できずにいる古い地球人である我々オタクを導いてくれるというわけだ。  そこらへんのオタク向け恋愛ガイドとは違うのだよ!  関西系のバンカラ気質で男子を叱咤しつつ、自身も太っていてモテなかった黒歴史があるといい、オタク読者への気づかいを感じさせるテキストも好感度大である。まさに優しさと厳しさを併せ持ったセイラさん。僕の脳内では、故・井上遥さんの声でテキストが再生されたものである。 世界で一番アキバな個人サイト「アキバblog」で紹介されてツイッターで人気になり、アマゾン書籍ランキング恋愛・結婚・離婚部門で1位に輝いた話題作。  セイラさんに恋愛指南をしてもらいたいオタク男子。そして、なぜか人間関係がうまくいかない老若男女にもオススメの一冊だ。
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「モテるオタクに、俺らだってなりたい!」非モテオタクに捧ぐコミュ指南書『モタク』

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『モタク』スコラマガジン
「俺らはモテない! なぜだ!」 「オタクだからさ!」  と自虐コントを即興で打てるくらい非モテ人生に慣れてしまったオタク。  彼らは自分の好きなものに対して情熱的に入れ込むあまり、軽薄でライトな生き様がクールとされる現代社会において「キモい」位置づけとなってしまった不幸な存在だ。  だが、そんな冷たい視線に耐えてなお自分の愛する作品に殉じる彼らの姿は、まさに隠れ切支丹。どんな迫害にも負けず、ストイックに道を究めんとするオタクの生き様は、感動的ですらある……。  とか何とか言いながらも、彼らの本心はどうだろう。あえて言おう! 「それでもやっぱり恋人が欲しいんだよぉぉぉぉ!」であると!  非モテ男子が集まるサークルの中に萌え萌えボイスのオタク美少女が入ってきたら、彼女を巡って内紛は勃発するし、アイドルに生活の全てを捧ぐピュアガールでもコンビニの店員のお兄さんに優しくされれば胸がキュン♪ としちゃうもの。  そんな「フツーの男女」と同じくらい恋愛に憧れを抱くオタクだが、なぜうまくいかないのか。やはりオタクに恋愛なんて夢のまた夢……ということなのだろうか。 かと思えば、オタクなのに素敵なパートナーを持つ人もいる。  「ただしイケメンに限るんだろ」とツッコミが入りがちだが、イケメンじゃなくても幸せな恋愛をしているオタクも大勢いる。  彼らと俺達の違いは一体どこなのか。そこにズバッと答えてくれるのが本書だ。  本書ではオタクな夫と出会い、結婚にまで至ったアルテイシア女史(ちなみにアルテイシアとは「機動戦士ガンダム」に出てくる金髪美女セイラ=マスの本名である)が、パートナーとの出会いと彼がなぜモテなかったのか。また、彼のどんなところに惹かれたのか。  また、周囲の非モテオタク男子とのエピソードなど身近な話題を取り入れつつ、「なぜオタクが恋愛に失敗するのか」「どうすれば上手な恋愛ができるのか」を懇切丁寧に解説してくれる(というわけで、本書のメインターゲットはオタク男子である)。  面白いのは、従来の恋愛啓発書にありがちな「異性を喜ばせるコツ」や「デートのマナー」といったモテるための小手先のテクを解説するのではなく、「こう言ったら相手はどう思うか」「こういう気づかいをすると円満な人間関係が築ける」といった基本的なコミュニケーションの取り方のアドバイスから始まり、少しずつ恋愛に発展させるための解説が展開していく点だ。  そうなのだ。オタクが恋愛に失敗するのは、そもそもモテスキルの有無が問題なのではない。  オタクは自分の好きなものをとにかく語りたい、自己主張の塊のような生き物であるがゆえに、相手への思いやりをついつい忘れがちなだけなのだ。  そんなちょっぴりコミュニケーション能力に難のあるオタクが「恋愛」という戦場に立つためには、まず「コミュニケーションスキル」を開発する所からスタートせねばならなかったのである。  そこに気付いたアルテイシア女史が、「軟弱物!」と時に厳しく、「あなたならできるわ」と時に優しく、いまだ革新できずにいる古い地球人である我々オタクを導いてくれるというわけだ。  そこらへんのオタク向け恋愛ガイドとは違うのだよ!  関西系のバンカラ気質で男子を叱咤しつつ、自身も太っていてモテなかった黒歴史があるといい、オタク読者への気づかいを感じさせるテキストも好感度大である。まさに優しさと厳しさを併せ持ったセイラさん。僕の脳内では、故・井上遥さんの声でテキストが再生されたものである。 世界で一番アキバな個人サイト「アキバblog」で紹介されてツイッターで人気になり、アマゾン書籍ランキング恋愛・結婚・離婚部門で1位に輝いた話題作。  セイラさんに恋愛指南をしてもらいたいオタク男子。そして、なぜか人間関係がうまくいかない老若男女にもオススメの一冊だ。
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いまや小学校は麻薬やポルノ商品の流通場所!? 日本一の事件屋が語る、恐るべき事実の数々

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『証拠調査士は見た!すぐ隣にいる
悪辣非道な面々』
(宝島社)
 警察や弁護士が手を出せない事件を解決する「証拠調査士」という職業をご存じだろうか。例えば、警察は事件の証拠がないと動かない。弁護士は法律のアドバイスをするのみで、事件の解決には直接動くことはない。そういうさまざまなトラブルを調査し、証拠を集め、事を解決に導く。それが証拠調査士だ。  このほど、『証拠調査士は見た!すぐ隣にいる悪辣非道な面々』(宝島社)を上梓した平塚俊樹氏は、これまで数々の信じがたい事件に携わってきた。小学校の児童を運び屋にする麻薬密売人や、泣き寝入りを狙って女性専門マンションのみを繰り返し狙う強姦魔、性犯罪被害者の女性を恫喝訴訟で追い込む大手コンサル企業、痴漢冤罪を生み出す警察捜査の悪癖……。どれも日本社会の根深い矛盾を浮き彫りにする、悲痛で救いようのない事件ばかりだ。平塚氏が言う。 「いまや小学校は麻薬やポルノ商品の最大の流通場所だというと、警察関係者さえ驚きます。しかし、これは事実です。大人の売人が子どもを上手に使い、児童本人が自覚しないまま、事実上の運び屋として何年も使い続けるのです。ある児童の親から『子どもの様子がおかしい』と相談を受け、調べていくうちに麻薬組織が浮かび上がってきました」  “ヤクの運び屋”といえば普通、大麻をコンドームに入れて飲み込んだり、肛門に押し込んで海外から持ち込んだりするなどの手口を耳にすることはあるが、小学生の子どもが、たとえ意図しないまでも運び屋をしているのだとしたら驚くしかない。 「売人からランドセルに覚せい剤を入れられた児童は、家路に向かう通学路上で“客”にブツを渡します。それが麻薬だとは子どもには言いません。100均で勝ったポーチなどに入れて、『おじさんの友達がいるから渡しておいて』とか、いろんなシチュエーションで子どもに教え込むんです。ある別の組織で同類案件に関係していた関係者によれば、『子どもが売買に関わっているなんて誰も思わない。この方法なら、発覚する確率は限りなく低い』とのことでした」  また、女性向けマンションを専門に狙う、常習性のある強姦魔も横行しているという。 「一般に女性向け不動産はオートロックや防犯窓の充実などで、治安面で安全とのイメージがありますが、実はまったく逆です。常習的な強姦グループにとって、女性だけが住んでいると最初からわかっている物件は、言葉は悪いですが、格好の餌場なわけです」  警察庁の調べによれば、2011年の強姦事件の認知件数は1,402件。このうち約8割は屋内(住宅やホテルなど)で起きており、うち半数近くが住宅(団地やマンション、一戸建て住宅)で発生している。強姦事件の多くは住宅で起きているのだ。常習性のある性犯罪者たちは、一人暮らしをしている女性宅を狙って犯行に及ぶ。女性だけが住んでいるマンションが狙われるのは、ある意味必然といえるかもしれない。また、著書の中では、こうした事件の背景に、一部の不動産管理会社から合鍵が暴力団に流出していた事例もあるとの実態も明らかにしている。 「管理会社が鍵を横流しするなんてありえないという、性善説で組まれたスキームの中で起きている事件なんです。こうした約束ごとは、一握りの不届き者の出現であっけなく崩壊します。つい先日も、大手警備会社『セコム』の社員が、かつて自身が警備を担当した居酒屋に忍び込み、売上金を盗んで逮捕されました。今の日本では、残念なことに性善説で組まれた無邪気なスキームはもう通用しません。そのことを自覚する時期に来ているでしょう」  また、平塚氏はこうした事件の多くに共通するのが「人間関係の希薄さ」であるとも指摘する。「小学生の運び屋事件」は、親子間のコミュニケーションが密ならば、親が子の変化に気づくはずであり、「女性向けマンションでの強姦事件」についても、地域コミュニティのつながりが薄くなっていることが背景にあるというのだ。 「犯罪者を対象にした『どんなときに犯行を思いとどまったのか』というアンケート結果があるのですが、回答で最も多かったのが『住民にあいさつされたり、声をかけられたとき』でした。見知らぬ人でもあいさつするような地域では、犯行を犯してもすぐに通報されて捕まってしまう可能性が大きいと彼らは考えます。結局は、家族や友人、地域コミュニティのつながりがしっかりしていれば、多くの事件は未然に防げるのです」  現代社会の複雑な事件も、諸悪の根源は案外、昔と変わらない。大きな事件に巻き込まれる前に、まずは身近な人間関係から見直すことが重要といえそうだ。 (文=編集部) ●ひらつか・としき 平塚総合研究所所長。武蔵野学院大学客員教授。エビデンサー(証拠調査士)。某大手メーカーで年間1,000件を超えるクレーム処理を担当。在職中にトラブル対応ノウハウを会得。2004年に危機管理専門コンサルタントとして独立。一部上場企業や医療機関、弁護士事務所などを指導。
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いまや小学校は麻薬やポルノ商品の流通場所!? 日本一の事件屋が語る、恐るべき事実の数々

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『証拠調査士は見た!すぐ隣にいる
悪辣非道な面々』
(宝島社)
 警察や弁護士が手を出せない事件を解決する「証拠調査士」という職業をご存じだろうか。例えば、警察は事件の証拠がないと動かない。弁護士は法律のアドバイスをするのみで、事件の解決には直接動くことはない。そういうさまざまなトラブルを調査し、証拠を集め、事を解決に導く。それが証拠調査士だ。  このほど、『証拠調査士は見た!すぐ隣にいる悪辣非道な面々』(宝島社)を上梓した平塚俊樹氏は、これまで数々の信じがたい事件に携わってきた。小学校の児童を運び屋にする麻薬密売人や、泣き寝入りを狙って女性専門マンションのみを繰り返し狙う強姦魔、性犯罪被害者の女性を恫喝訴訟で追い込む大手コンサル企業、痴漢冤罪を生み出す警察捜査の悪癖……。どれも日本社会の根深い矛盾を浮き彫りにする、悲痛で救いようのない事件ばかりだ。平塚氏が言う。 「いまや小学校は麻薬やポルノ商品の最大の流通場所だというと、警察関係者さえ驚きます。しかし、これは事実です。大人の売人が子どもを上手に使い、児童本人が自覚しないまま、事実上の運び屋として何年も使い続けるのです。ある児童の親から『子どもの様子がおかしい』と相談を受け、調べていくうちに麻薬組織が浮かび上がってきました」  “ヤクの運び屋”といえば普通、大麻をコンドームに入れて飲み込んだり、肛門に押し込んで海外から持ち込んだりするなどの手口を耳にすることはあるが、小学生の子どもが、たとえ意図しないまでも運び屋をしているのだとしたら驚くしかない。 「売人からランドセルに覚せい剤を入れられた児童は、家路に向かう通学路上で“客”にブツを渡します。それが麻薬だとは子どもには言いません。100均で勝ったポーチなどに入れて、『おじさんの友達がいるから渡しておいて』とか、いろんなシチュエーションで子どもに教え込むんです。ある別の組織で同類案件に関係していた関係者によれば、『子どもが売買に関わっているなんて誰も思わない。この方法なら、発覚する確率は限りなく低い』とのことでした」  また、女性向けマンションを専門に狙う、常習性のある強姦魔も横行しているという。 「一般に女性向け不動産はオートロックや防犯窓の充実などで、治安面で安全とのイメージがありますが、実はまったく逆です。常習的な強姦グループにとって、女性だけが住んでいると最初からわかっている物件は、言葉は悪いですが、格好の餌場なわけです」  警察庁の調べによれば、2011年の強姦事件の認知件数は1,402件。このうち約8割は屋内(住宅やホテルなど)で起きており、うち半数近くが住宅(団地やマンション、一戸建て住宅)で発生している。強姦事件の多くは住宅で起きているのだ。常習性のある性犯罪者たちは、一人暮らしをしている女性宅を狙って犯行に及ぶ。女性だけが住んでいるマンションが狙われるのは、ある意味必然といえるかもしれない。また、著書の中では、こうした事件の背景に、一部の不動産管理会社から合鍵が暴力団に流出していた事例もあるとの実態も明らかにしている。 「管理会社が鍵を横流しするなんてありえないという、性善説で組まれたスキームの中で起きている事件なんです。こうした約束ごとは、一握りの不届き者の出現であっけなく崩壊します。つい先日も、大手警備会社『セコム』の社員が、かつて自身が警備を担当した居酒屋に忍び込み、売上金を盗んで逮捕されました。今の日本では、残念なことに性善説で組まれた無邪気なスキームはもう通用しません。そのことを自覚する時期に来ているでしょう」  また、平塚氏はこうした事件の多くに共通するのが「人間関係の希薄さ」であるとも指摘する。「小学生の運び屋事件」は、親子間のコミュニケーションが密ならば、親が子の変化に気づくはずであり、「女性向けマンションでの強姦事件」についても、地域コミュニティのつながりが薄くなっていることが背景にあるというのだ。 「犯罪者を対象にした『どんなときに犯行を思いとどまったのか』というアンケート結果があるのですが、回答で最も多かったのが『住民にあいさつされたり、声をかけられたとき』でした。見知らぬ人でもあいさつするような地域では、犯行を犯してもすぐに通報されて捕まってしまう可能性が大きいと彼らは考えます。結局は、家族や友人、地域コミュニティのつながりがしっかりしていれば、多くの事件は未然に防げるのです」  現代社会の複雑な事件も、諸悪の根源は案外、昔と変わらない。大きな事件に巻き込まれる前に、まずは身近な人間関係から見直すことが重要といえそうだ。 (文=編集部) ●ひらつか・としき 平塚総合研究所所長。武蔵野学院大学客員教授。エビデンサー(証拠調査士)。某大手メーカーで年間1,000件を超えるクレーム処理を担当。在職中にトラブル対応ノウハウを会得。2004年に危機管理専門コンサルタントとして独立。一部上場企業や医療機関、弁護士事務所などを指導。
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パーティ感覚で楽しく仕事ができちゃう!? 日本初のコワーキング本『つながりの仕事術』

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PAX Coworkingでお仕事中の佐谷恭氏。「仕事終わりにコワーキング仲間で一杯
やることが多いですね」とすごく楽しそう。
 これからのビジネスシーンで役立つキーワードになりそうなのが、“コワーキング”。英語でcoworking。一緒に仕事するという意味。これまでにも起業家やフリーランサー向けにレンタルオフィス、シェアオフィスというものはあったが、これは個人が払うオフィス代の負担を軽くするためのもの。それに対し、コワーキングは働く人同士がコミュニケーションすることの効果に着目している。多種多様な業種の人たちが同じオフィスに集まって働き、仕事の合間に交わす雑談などから新しいアイデアを生み出したり、刺激を受けたりしようというのが狙いだ。会話のない静まり返ったオフィスよりも、多少ざわざわしている活気のある職場のほうが仕事がはかどるという人には最適な空間だろう。時間や気が合う仲間が見つかれば、一緒にランチに出掛けたり、仕事帰りに一杯やるのもOK。意外な人的ネットワークが広がる可能性もある。2006年ごろから米国でコワーキングスタイルは生まれ、日本でもこの1〜2年、各地でコワーキングスペースが次々と誕生している。そんなコワーキングの概念と利用方法を紹介した日本初のコワーキング本が、5月11日に発売された『つながりの仕事術 「コワーキング」を始めよう』(洋泉社新書)だ。  『つながりの仕事術』は東京で初となるコワーキングスペース「PAX Coworking」を主宰する佐谷恭氏、『「どこでもオフィス」仕事術』(ダイヤモンド社)の著者・中谷健一氏、仕事はすべてコワーキング関連で受注・参加しているというデザイナーの藤木穣氏の3人による共著。第1章では、佐谷氏がコワーキングというワークスタイルがどのようにして生まれたのかという歴史的背景とコワーキングで働くメリットについて解説。第2章では、仕事の9割をオフィス外で行っているという中谷氏がコワーキングスペースの有効活用方法をレクチャー。第3章では、藤木氏が海外や国内のコワーキングスペースで生まれたビジネス事例をレポート。さらに第4章では、各地のコワーキングスペースを具体的に紹介している。国内では神戸・東京・大阪・上田・金沢・横浜……と広がりつつあるとのこと。都内だけを見ても、会員数110人以上という国内最大級のコワーキングスペース「渋谷co-ba」、英会話教室などの勉強会を積極的に開いている「下北沢オープンソースカフェ」、猫がオフィスで伸び伸びと過ごしている癒し系の仕事場「ネコワーキング」など様々なタイプのコワーキングスペースが運営されている。  特定のオフィスに縛られずに、カフェやレストランなどをオフィス代わりに活用するワークスタイルは、ノマド(遊牧民)ワーカーという呼び名で浸透しつつあるが、ノマドワーカーにとってもコワーキングスペースは魅力的な拠点となっている。また、フリーランサーが陥りがちな孤独感に悩まされることもない。本書では、自分に合ったコワーキングスペースを見つけるために、“ドロップイン”と呼ばれるお試し利用を薦めている。多くのコワーキングスペースは、1日1,000円程度でドロップイン利用ができる。まず、ドロップイン利用してみて、そのコワーキングスペースの雰囲気を気に入れば“メンバーシップ”契約すればいいというわけだ。いくつかのコワーキングスペースに参加して、その日の仕事内容や気分で使い分けることも可能。いろんなコワーキングスペースを無料で行き来できるよう、海外のコワーキングスペースとも連携した“コワーキングビザ”も存在する。また、コワーキングというワークスタイルは“ジェリー”とも呼ばれる。職種や性別・年齢の異なる様々な人たちがひとつに集まる様子を、ビン詰めの砂糖菓子ジェリー・ビーンズに例えたもの。コワーキングスペースやカフェでちょっとしたイベントや勉強会を開く際、フェイスブックなどで「ジェリーしよう!」と呼び掛けると好奇心旺盛な人たちが続々と集まるそうだ。  コワーキングの概念は本書を読むことで理解できるが、実際のところ、コワーキングスペースとはどういう空間なのか。著者のひとりである佐谷氏が主宰する「PAX Coworking」を訪ねてみた。世田谷区経堂の農大通り商店街にある「PAX Coworking」は8人掛けの大テーブルをメーンに小ぶりのテーブルなども置かれた落ち着いた内装のオフィス空間。受付はなく、大テーブルに置かれたノートに名前と連絡先(それと面白いコメント)を記入すればOKとのこと。この日は正午という早い時間帯だったため、人影はまばらだったが、ノートパソコンを前にした佐谷氏がニコニコと待っていてくれた。
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経堂にあるPAX Coworkingの様子。
ひとりで集中して働くのに疲れた人は、気分転
換狙いでコワーキングスペースを利用するといい
かも。
佐谷 「日によって、集まる顔ぶれも人数もバラバラなんです。普段は10〜20人前後で、イベントをやる日は40人くらい集まったこともあります。受付はありません。初めて来た方は戸惑うでしょうから、ボクがここで仕事をしているときは『こちらのテーブルが空いているから、どうぞ』と最初に声を掛けるようにしています。そのくらいですね。ここはしゃべりながら仕事をするのが好きな人たちが集まっているスペース。初めて来た方でも5分もすれば、雰囲気が分かって馴染んでしまう(笑)。オープン前は入会証や会員規約とか作ったほうがいいのかなとも考えたんですけど、そういうのはなしで参加者が自由に自発的にやっていくほうがコワーキングらしいと思い、作らないことにしたんです。メンバーは現在のところIT関係者が多いんですが、他にも農業支援者、雑誌編集者、研究者と様々です。地方の企業に勤めている営業マンで東京での拠点として活用している人もいれば、将来的に起業することを考えて自費で通っているサラリーマンの方もいます。いろんな人がいろんな使い方をしていますね。フリーライターの方はまだ少ないので、もっと集まってくれるとうれしいんですけど(笑)」  佐谷氏によると、コワーキングスペースの運営は登記上は不動産ビジネスに分類されるが、実態はコミュニティビジネスなのだそうだ。学生の頃から海外旅行好きで、いろんな人たちと交流する楽しさを覚えた佐谷氏は、会社員やフリーランスを経験後に世界初のパクチー料理専門店「パクチーハウス東京」を2007年11月に開店。様々な人たちが触れ合えるよう相席を推奨し、誰でも参加できる立食パーティを月に数回開いている。このオープンな雰囲気のレストラン経営をきっかけに、2010年8月に佐谷氏は東京初となるコワーキングスペース「PAX Coworking」を立ち上げた。 佐谷 「意識して明るい内装にしたこともありますが、パクチーハウスで食事をするお客さんたちはニコニコと食事を味わいながら、他のお客さんとの交流も楽しんでいる。お店にいる間はネガティブなことは言わないんですよ。なんでだろうなぁと考えていたら、『食事のときは楽しく過ごしたい』ということだと気づいたんです。そこで、食事時間を楽しく過ごすだけでも幸せな気分になるんだから、1日楽しく仕事をすることができればもっと素晴らしいんじゃないかと思ったんです。そのときはまだ“コワーキング”という言葉を知らず、漠然と“楽しいオフィス”というイメージだけでした。パーティするみたいに、いろんな人たちが集まって賑やかに仕事する場があればいいなと。パクチーハウスを開店したときもそうでしたが、“楽しいオフィス”“パーティするようなオフィス”とかボクが言い出したので周囲は心配したと思いますよ(笑)。そのうち、ネットを見ていたら、すごく楽しそうに働いている人たちの写真が目に留まったんです。それがロンドンのコワーキングスペース。その写真を見て、『自分と同じことを考えている人がいて、すでに実践しているんだ』と感激したんです。ちょうど、パクチーハウスの上のフロアが空いていたので、同じビル内でPAX Coworkingを始めたというわけなんです。まだまだコワーキングという言葉を広く浸透させていかなくちゃいけない段階ですが、『私もコワーキングスペースを開きたいんですけど』という問い合わせが地方も含めてかなりあるんですよ」  どうやらコワーキングスペースとは、廉価で利用できて、初対面の人とも情報交換できるゲストハウスのオフィス版、ソーシャルネットワークのリアル版といったもののようだ(ただし、それぞれのコワーキングスペースで雰囲気がずいぶん違うのでご注意を)。コワーキングスペースで働くことのメリットを、改めて佐谷氏に語ってもらおう。 佐谷 「気になったことを、隣にいる人にその場でサッと訊けることじゃないですか。ネットで調べてもいいんでしょうけど、コワーキングスペースに集まっている人たちはそれぞれの道のプロとして働いている人たちなので、必ずしもその質問に対する専門家じゃない場合でも、しっくりくる答えが返ってくるんです。この本を書いているときも、『コワーキングのメリットって、なんだろうな?』と原稿を書く手が止まったときに、隣にいる人に『どこにメリットを感じてる?』と質問しながら原稿を書き進めたんです(笑)。共著の藤木さんもここで仕事をしていたので打ち合わせがすぐにできたし、編集者もいて目を光らせていたので怠けることもできませんでした(苦笑)。フリーランサーだけでなく、会社勤めの人もコワーキングの良さに気づき始めたみたいです。ある雑誌の編集スタッフが『ここで企画会議をできたら面白いな』と話していましたね。どうしても同じ顔ぶれで企画会議を開いていると煮詰まってしまいますから。その点、コワーキングスペースで企画会議を開けば、たまたま居合わせたメンバーが面白がって無責任なアイデアをいろいろ提案してくると思いますよ(笑)。広く自由なアイデアを募る企画会議なら有効でしょうね。ノマドワーカーやコワーカーが将来的に増えていっても、社会の半数を占めるようなことにはならないと思います。でも、コワーキング的な発想や考え方が、企業や社会でも広まるとすごく楽しくなるんじゃないでしょうか」  どうです、みなさん。パーティするみたいに仕事してみませんか? (取材・文=長野辰次) ●さたに・きょう 1975年神奈川県生まれ。富士通、リサイクルワン、ライブドアを経て、07年に株式会社旅と平和を設立。世界初のパクチー料理専門店「パクチーハウス東京」を経堂にオープン。10年より東京初のコワーキングスペース「PAX Coworking」を主宰している。<http://pax.coworking.jp>

パーティ感覚で楽しく仕事ができちゃう!? 日本初のコワーキング本『つながりの仕事術』

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PAX Coworkingでお仕事中の佐谷恭氏。「仕事終わりにコワーキング仲間で一杯
やることが多いですね」とすごく楽しそう。
 これからのビジネスシーンで役立つキーワードになりそうなのが、“コワーキング”。英語でcoworking。一緒に仕事するという意味。これまでにも起業家やフリーランサー向けにレンタルオフィス、シェアオフィスというものはあったが、これは個人が払うオフィス代の負担を軽くするためのもの。それに対し、コワーキングは働く人同士がコミュニケーションすることの効果に着目している。多種多様な業種の人たちが同じオフィスに集まって働き、仕事の合間に交わす雑談などから新しいアイデアを生み出したり、刺激を受けたりしようというのが狙いだ。会話のない静まり返ったオフィスよりも、多少ざわざわしている活気のある職場のほうが仕事がはかどるという人には最適な空間だろう。時間や気が合う仲間が見つかれば、一緒にランチに出掛けたり、仕事帰りに一杯やるのもOK。意外な人的ネットワークが広がる可能性もある。2006年ごろから米国でコワーキングスタイルは生まれ、日本でもこの1〜2年、各地でコワーキングスペースが次々と誕生している。そんなコワーキングの概念と利用方法を紹介した日本初のコワーキング本が、5月11日に発売された『つながりの仕事術 「コワーキング」を始めよう』(洋泉社新書)だ。  『つながりの仕事術』は東京で初となるコワーキングスペース「PAX Coworking」を主宰する佐谷恭氏、『「どこでもオフィス」仕事術』(ダイヤモンド社)の著者・中谷健一氏、仕事はすべてコワーキング関連で受注・参加しているというデザイナーの藤木穣氏の3人による共著。第1章では、佐谷氏がコワーキングというワークスタイルがどのようにして生まれたのかという歴史的背景とコワーキングで働くメリットについて解説。第2章では、仕事の9割をオフィス外で行っているという中谷氏がコワーキングスペースの有効活用方法をレクチャー。第3章では、藤木氏が海外や国内のコワーキングスペースで生まれたビジネス事例をレポート。さらに第4章では、各地のコワーキングスペースを具体的に紹介している。国内では神戸・東京・大阪・上田・金沢・横浜……と広がりつつあるとのこと。都内だけを見ても、会員数110人以上という国内最大級のコワーキングスペース「渋谷co-ba」、英会話教室などの勉強会を積極的に開いている「下北沢オープンソースカフェ」、猫がオフィスで伸び伸びと過ごしている癒し系の仕事場「ネコワーキング」など様々なタイプのコワーキングスペースが運営されている。  特定のオフィスに縛られずに、カフェやレストランなどをオフィス代わりに活用するワークスタイルは、ノマド(遊牧民)ワーカーという呼び名で浸透しつつあるが、ノマドワーカーにとってもコワーキングスペースは魅力的な拠点となっている。また、フリーランサーが陥りがちな孤独感に悩まされることもない。本書では、自分に合ったコワーキングスペースを見つけるために、“ドロップイン”と呼ばれるお試し利用を薦めている。多くのコワーキングスペースは、1日1,000円程度でドロップイン利用ができる。まず、ドロップイン利用してみて、そのコワーキングスペースの雰囲気を気に入れば“メンバーシップ”契約すればいいというわけだ。いくつかのコワーキングスペースに参加して、その日の仕事内容や気分で使い分けることも可能。いろんなコワーキングスペースを無料で行き来できるよう、海外のコワーキングスペースとも連携した“コワーキングビザ”も存在する。また、コワーキングというワークスタイルは“ジェリー”とも呼ばれる。職種や性別・年齢の異なる様々な人たちがひとつに集まる様子を、ビン詰めの砂糖菓子ジェリー・ビーンズに例えたもの。コワーキングスペースやカフェでちょっとしたイベントや勉強会を開く際、フェイスブックなどで「ジェリーしよう!」と呼び掛けると好奇心旺盛な人たちが続々と集まるそうだ。  コワーキングの概念は本書を読むことで理解できるが、実際のところ、コワーキングスペースとはどういう空間なのか。著者のひとりである佐谷氏が主宰する「PAX Coworking」を訪ねてみた。世田谷区経堂の農大通り商店街にある「PAX Coworking」は8人掛けの大テーブルをメーンに小ぶりのテーブルなども置かれた落ち着いた内装のオフィス空間。受付はなく、大テーブルに置かれたノートに名前と連絡先(それと面白いコメント)を記入すればOKとのこと。この日は正午という早い時間帯だったため、人影はまばらだったが、ノートパソコンを前にした佐谷氏がニコニコと待っていてくれた。
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経堂にあるPAX Coworkingの様子。
ひとりで集中して働くのに疲れた人は、気分転
換狙いでコワーキングスペースを利用するといい
かも。
佐谷 「日によって、集まる顔ぶれも人数もバラバラなんです。普段は10〜20人前後で、イベントをやる日は40人くらい集まったこともあります。受付はありません。初めて来た方は戸惑うでしょうから、ボクがここで仕事をしているときは『こちらのテーブルが空いているから、どうぞ』と最初に声を掛けるようにしています。そのくらいですね。ここはしゃべりながら仕事をするのが好きな人たちが集まっているスペース。初めて来た方でも5分もすれば、雰囲気が分かって馴染んでしまう(笑)。オープン前は入会証や会員規約とか作ったほうがいいのかなとも考えたんですけど、そういうのはなしで参加者が自由に自発的にやっていくほうがコワーキングらしいと思い、作らないことにしたんです。メンバーは現在のところIT関係者が多いんですが、他にも農業支援者、雑誌編集者、研究者と様々です。地方の企業に勤めている営業マンで東京での拠点として活用している人もいれば、将来的に起業することを考えて自費で通っているサラリーマンの方もいます。いろんな人がいろんな使い方をしていますね。フリーライターの方はまだ少ないので、もっと集まってくれるとうれしいんですけど(笑)」  佐谷氏によると、コワーキングスペースの運営は登記上は不動産ビジネスに分類されるが、実態はコミュニティビジネスなのだそうだ。学生の頃から海外旅行好きで、いろんな人たちと交流する楽しさを覚えた佐谷氏は、会社員やフリーランスを経験後に世界初のパクチー料理専門店「パクチーハウス東京」を2007年11月に開店。様々な人たちが触れ合えるよう相席を推奨し、誰でも参加できる立食パーティを月に数回開いている。このオープンな雰囲気のレストラン経営をきっかけに、2010年8月に佐谷氏は東京初となるコワーキングスペース「PAX Coworking」を立ち上げた。 佐谷 「意識して明るい内装にしたこともありますが、パクチーハウスで食事をするお客さんたちはニコニコと食事を味わいながら、他のお客さんとの交流も楽しんでいる。お店にいる間はネガティブなことは言わないんですよ。なんでだろうなぁと考えていたら、『食事のときは楽しく過ごしたい』ということだと気づいたんです。そこで、食事時間を楽しく過ごすだけでも幸せな気分になるんだから、1日楽しく仕事をすることができればもっと素晴らしいんじゃないかと思ったんです。そのときはまだ“コワーキング”という言葉を知らず、漠然と“楽しいオフィス”というイメージだけでした。パーティするみたいに、いろんな人たちが集まって賑やかに仕事する場があればいいなと。パクチーハウスを開店したときもそうでしたが、“楽しいオフィス”“パーティするようなオフィス”とかボクが言い出したので周囲は心配したと思いますよ(笑)。そのうち、ネットを見ていたら、すごく楽しそうに働いている人たちの写真が目に留まったんです。それがロンドンのコワーキングスペース。その写真を見て、『自分と同じことを考えている人がいて、すでに実践しているんだ』と感激したんです。ちょうど、パクチーハウスの上のフロアが空いていたので、同じビル内でPAX Coworkingを始めたというわけなんです。まだまだコワーキングという言葉を広く浸透させていかなくちゃいけない段階ですが、『私もコワーキングスペースを開きたいんですけど』という問い合わせが地方も含めてかなりあるんですよ」  どうやらコワーキングスペースとは、廉価で利用できて、初対面の人とも情報交換できるゲストハウスのオフィス版、ソーシャルネットワークのリアル版といったもののようだ(ただし、それぞれのコワーキングスペースで雰囲気がずいぶん違うのでご注意を)。コワーキングスペースで働くことのメリットを、改めて佐谷氏に語ってもらおう。 佐谷 「気になったことを、隣にいる人にその場でサッと訊けることじゃないですか。ネットで調べてもいいんでしょうけど、コワーキングスペースに集まっている人たちはそれぞれの道のプロとして働いている人たちなので、必ずしもその質問に対する専門家じゃない場合でも、しっくりくる答えが返ってくるんです。この本を書いているときも、『コワーキングのメリットって、なんだろうな?』と原稿を書く手が止まったときに、隣にいる人に『どこにメリットを感じてる?』と質問しながら原稿を書き進めたんです(笑)。共著の藤木さんもここで仕事をしていたので打ち合わせがすぐにできたし、編集者もいて目を光らせていたので怠けることもできませんでした(苦笑)。フリーランサーだけでなく、会社勤めの人もコワーキングの良さに気づき始めたみたいです。ある雑誌の編集スタッフが『ここで企画会議をできたら面白いな』と話していましたね。どうしても同じ顔ぶれで企画会議を開いていると煮詰まってしまいますから。その点、コワーキングスペースで企画会議を開けば、たまたま居合わせたメンバーが面白がって無責任なアイデアをいろいろ提案してくると思いますよ(笑)。広く自由なアイデアを募る企画会議なら有効でしょうね。ノマドワーカーやコワーカーが将来的に増えていっても、社会の半数を占めるようなことにはならないと思います。でも、コワーキング的な発想や考え方が、企業や社会でも広まるとすごく楽しくなるんじゃないでしょうか」  どうです、みなさん。パーティするみたいに仕事してみませんか? (取材・文=長野辰次) ●さたに・きょう 1975年神奈川県生まれ。富士通、リサイクルワン、ライブドアを経て、07年に株式会社旅と平和を設立。世界初のパクチー料理専門店「パクチーハウス東京」を経堂にオープン。10年より東京初のコワーキングスペース「PAX Coworking」を主宰している。<http://pax.coworking.jp>

社畜、社内ニート必読!? 働くことの意味を考える写真集『地球のハローワーク』

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『地球のハローワーク』
(日経ナショナル ジオグラフィック社)
 旅に出ると、「へー、こんな職業があるのか」とか、「あの人何やってるんだろう、暇そうだな」とか、「全然、商品売れてないけど、ちゃんと食べていけるのかな」とか、その土地の仕事について、よく考えさせられる。  インドでは、自分の体に20個ほどカバンを巻きつけ、「カバンいらない?」と、会う人会う人に聞いて回る人がいたり、フランスのエッフェル塔の前では、黒人のお兄ちゃんたちが無表情でひたすら鳩のオモチャを飛ばしていたり、中国の列車の中では、突然、タイガーバームのよさを熱弁し始め、誰か目を合わそうものなら迫ってきて売りつけようとする商売人がいたり……。  また、中には考えられないほど過酷な職業についている人もいる。世界一標高が高い町とされるボリビアのポトシは、少し道を歩くだけでも苦しいのに、さらに空気の薄い鉱山の中で、高山病に効くとされるコカの葉を噛みながら必死に働く人々もいた。  人は生きるために、働く。必ず何かをしながら、生きている。    その姿を世界各地でとらえた写真集が、『地球のハローワーク』(日経ナショナル ジオグラフィック社)だ。著者は、フェルディナンド・プロッツマン。ニューヨークのアート誌「ARTnews」の編集者で、ワシントン・ポスト紙ほか、各紙に評論・エッセイを執筆する作家であり、批評家だ。精神科医のフロイトや、哲学者マルクスの仕事論を巧みに使い、人間にとって仕事とはなんなのか、というちょっとばかり小難しい話を追求しつつ、掲載されている写真の解説に力を注いでいる。  この本は、もともと「ナショナルジオグラフィック協会」という、アメリカのワシントンに本部を置く、地球の姿を人々に紹介する非営利の科学・教育団体が刊行した『ナショナル ジオグラフィック写真集 地球に生きる 仕事と人生』を再編集し、改題したもの。  この団体は1888年に設立され、その長い歴史の中で収められた写真から厳選した180点が掲載されている。  本書の中には、100年前の北米の紡績工場で働く少女がいるかと思えば、現代のパキスタンの薄暗い工場で、銃を組み立ている少年がいる。ほかにも、イギリス・バッキンガム宮殿の衛兵、イエメン・ホデイダで砂漠の緑化のために水やりをする白い伝統衣装を身にまとった男性、南アフリカでサトウキビ畑を野焼きするズールー族……。楽しげに、あるいは苦しげに、時に躍動的に働く彼らの姿が映し出されている。  この100年ほどの間に、世界は大きく動いた。必要がなくなり消えてしまった仕事もあれば、新しく生み出された仕事もある。けれど、ただひとつ言えることは、いつの時代も人々は働いているということ。どの人にも養うべき家族がいて、どうにかこうにか、生きている。  日本では、職がない、職がない、と嘆く人であふれ返っているが、世界にはさまざまな仕事がある。ページを開く度、懸命に働く人々の姿が目に飛び込み、「生きる」ということを、訴えかけてくる一冊だ。 (文=上浦未来) ●フェルディナンド・プロッツマン 米国の作家、批評家。ニューヨークのアート誌「ARTnews」の編集者で、ワシントン・ポスト紙ほか各紙にも評論、エッセイを執筆している。オハイオ州オバーリンに家族と在住。

ズボラー女子急増中? ちまたで話題沸騰の料理コミック第2巻『花のズボラ飯2』

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『花のズボラ飯2』(秋田書店)
 「ズボラー」といわれる人が、じわじわと増えているという。ズボラーとは、掃除をしない、洗濯も溜め込む、料理も手抜き……といった、その名のとおりズボラな人たち。平成22年の国勢調査によると、男性の単独世帯は880万4,079世帯、女性の単独世帯は798万428世帯と、単身で生活する人は男女とも年々増え続けている。気兼ねない一人暮らしであれば、さもありなん、ズボラーとなるのも自然なことだろう。  そんなズボラー女子ブームの牽引役となったのが、このマンガ。『花のズボラ飯2』(秋田書店)は、単身赴任中の夫と離れて暮らす主婦・駒沢花のズボラな食生活を描いた料理マンガの最新刊。宝島社「このマンガがすごい!」2012年版オンナ編第1位、「マンガ大賞2011」第4位と、続けて賞を受賞している話題のコミックだ。花の料理のコンセプトは、とにかく「省略」「迅速」「大雑把」。料理マンガは世に数多くあれど、“手抜き”に重点を置いた作品は今までになかったのではないだろうか。花の一人語り&オヤジギャグが軽快で、楽しい。  ある日の仕事帰り、花は電車内で男子大学生の会話を立ち聞きする。自炊についての他愛もない会話だが、その中の「めんたい豆腐バターライス」に、花は激しく心惹かれ、その晩、実際に作ってみることに。<白米に明太子、バター、くだいた豆腐、きざみネギ、かつおぶしを乗せ、レンジで1分半加熱するだけ>という超カンタンなズボラ飯だが、「うんまぁ~~い!」と花はご満悦。明太子とバターの組み合わせが妙なる一品だ。  ほかにも白菜とベーコンをコンソメで煮るだけの「白菜ベーコン鍋」や、茹でキャベツを冷まし、きざみミョウガ、かつおぶしを乗せ、味ポンをかけただけの「ミョーキャベ」など、四季折々のズボラ飯17品が掲載されている。  実際、レシピどおりに料理するのは億劫なものだが、ズボラ飯には見栄も体裁も計量カップも必要ない。忙しい現代人にとって“ズボラ飯”は、合理的かつ経済的なライフスタイルなのだ。 (文=平野遼)

ズボラー女子急増中? ちまたで話題沸騰の料理コミック第2巻『花のズボラ飯2』

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『花のズボラ飯2』(秋田書店)
 「ズボラー」といわれる人が、じわじわと増えているという。ズボラーとは、掃除をしない、洗濯も溜め込む、料理も手抜き……といった、その名のとおりズボラな人たち。平成22年の国勢調査によると、男性の単独世帯は880万4,079世帯、女性の単独世帯は798万428世帯と、単身で生活する人は男女とも年々増え続けている。気兼ねない一人暮らしであれば、さもありなん、ズボラーとなるのも自然なことだろう。  そんなズボラー女子ブームの牽引役となったのが、このマンガ。『花のズボラ飯2』(秋田書店)は、単身赴任中の夫と離れて暮らす主婦・駒沢花のズボラな食生活を描いた料理マンガの最新刊。宝島社「このマンガがすごい!」2012年版オンナ編第1位、「マンガ大賞2011」第4位と、続けて賞を受賞している話題のコミックだ。花の料理のコンセプトは、とにかく「省略」「迅速」「大雑把」。料理マンガは世に数多くあれど、“手抜き”に重点を置いた作品は今までになかったのではないだろうか。花の一人語り&オヤジギャグが軽快で、楽しい。  ある日の仕事帰り、花は電車内で男子大学生の会話を立ち聞きする。自炊についての他愛もない会話だが、その中の「めんたい豆腐バターライス」に、花は激しく心惹かれ、その晩、実際に作ってみることに。<白米に明太子、バター、くだいた豆腐、きざみネギ、かつおぶしを乗せ、レンジで1分半加熱するだけ>という超カンタンなズボラ飯だが、「うんまぁ~~い!」と花はご満悦。明太子とバターの組み合わせが妙なる一品だ。  ほかにも白菜とベーコンをコンソメで煮るだけの「白菜ベーコン鍋」や、茹でキャベツを冷まし、きざみミョウガ、かつおぶしを乗せ、味ポンをかけただけの「ミョーキャベ」など、四季折々のズボラ飯17品が掲載されている。  実際、レシピどおりに料理するのは億劫なものだが、ズボラ飯には見栄も体裁も計量カップも必要ない。忙しい現代人にとって“ズボラ飯”は、合理的かつ経済的なライフスタイルなのだ。 (文=平野遼)