コッテコテのラブホテルは“愛とエロスの建築遺産”!? 『ラブホテル・コレクション』

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『ラブホテル・コレクション』
(アスペクト)
 ラブホテルを取材した都築響一の労作『Satellite of LOVE―ラブホテル・消えゆく愛の空間学』(アスペクト)が出版されたのは2001年。それから12年の時を経て、同じくアスペクトから、映画監督・村上賢司による『ラブホテル・コレクション』が刊行された。  都築をはじめとする先人たちの活動で、すでに昭和時代の香りを残すラブホテルのバカバカしいまでのセンスは広く認知されるようになった。正直なところ、「またこの手の本か……」という気持ちは拭えない。しかし、5年の歳月を費やして取材された本書が掲載する、東北から九州まで全国33のホテルを眺めていると、紙面からあふれ出さんばかりのラブホへの偏愛に、ページをめくる手は思わず止まる。  まえがきにおいて、『11PM』や『土曜ワイド劇場』『ウィークエンダー』などのテレビ番組でラブホと出会った過去を振り返る村上。85年の新風営法が施行される以前に建築されたラブホテルは、シティホテルと大差のない平成のそれではなく、「遊園地のような、バカバカしくも面白い」逸品ばかり。経済成長の波に乗って金は余り、精力もビンビンだった昭和の遺構であり、平成の男女にとってはまさかそこで睦言を交わすなど、夢にも思えない場所だ。  「ベッドが回転して、いったい何が楽しいんだろう」という程度の、セックス偏差値最底辺の不肖からすれば、銀河鉄道(可動式SLベッド)の上でコトを致すホテル亜想呼(「アソコ」と読みます)など、絶対に敷居をまたぎたくない。さらに、小人になった気分の味わえるホテルGAIAの「ガリバールーム」(オジサマたちはきっと「オレのアソコが大きくなっちゃったぜ!」と言うはずだ)があり、部屋の隅になぜかゴリラの置物があるホテルCOCO……すいません、意味不明も甚だしいです!  ラブホ内部の様子と共に、本書巻末に掲載されたオーナーたちのインタビューも興味深い。大阪・京橋にあるラブホテル「富貴」と「千扇」は、「ローマ」「江戸」といったコテコテのコンセプトルームが特徴のホテル。97年に先代オーナーが亡くなり、その経営は娘(氏名非公開)に引き継がれた。この際、彼女は物件を手放すことも考えたが……「『おねえちゃん、私、ここで働きたいねん』と昔からの従業員さんに言われまして……。で、よく見ると玄関や廊下のデザインがほんとうに可愛いんです」と、その魅力に目覚めたそうだ。「富貴の客層は60代から70代くらいが一番多いですね(中略)出るときは、昔の人なんで、ゴミを綺麗にまとめて帰る。おはぎとかを受付に差し入れしてくれたりとか、そういうお客さんが多いです」。人々に愛され続けてきたホテルだからこそ、男女の身体の交流だけではない、人々の心温まる交流が生まれるのだ。  日本には、現在3万軒以上のラブホテルがあるといわれている。しかし、新風営法によって、回転ベッドや鏡張りなどは設置不可能になり、時代の流れから、“性愛のワンダーランド”としてのラブホは姿を消しつつある。平成の人々が求めるのは、スッキリとして無機質な部屋で行われるフツーのセックス。もしかしたら、僕たちはとても寂しい時代を生きているのかもしれない。  特にゆとり世代の草食男子は、本書を読み、そのあり余るカネと性欲に打ちひしがれるべきではないだろうか。 (文=萩原雄太[かもめマシーン])

乱立する政党の主張がわかりすぎる!『政党擬人化政党たん ~解散総選挙編~』

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『政党擬人化政党たん ~解散総選挙編~』
(リブレ出版)
 政党は乱立するが、主張がよくわからん。そんなことを考える人も多いのではなかろうか。政党の離合集散は頻繁に起こり、選挙の度に混乱は募るばかりだ。  そんな国民の思いに応えたのか、現在の国会に議席を持つ政党を解説する、文字通り「面白くてためになる」マンガが誕生した。多くのボーイズラブ雑誌・単行本を出版してきたリブレ出版が送る『政党擬人化政党たん ~解散総選挙編~』が、それだ。  本書は、2010年に出版された『政党擬人化政党たん』に次ぐ第2弾。版元がリブレ出版ということもあり、擬人化+BLかと思いきや、みんなの党・渡辺喜美代表のインタビューページも含んだ構成で、内容はなかなかハード。「期待のルーキー維新の会たん」は「男だけど勝負服はスチュワーデス」「自民たん、支持率アップがうれしくてカツカレー食べた」とか、関係者にとっては忘れてほしい話を掘り起こすのだ。太陽の党が設立3日目で維新と合流したエピソードを扱うページでは「ショタどころか受精卵のまま飛び立った」なんて解説も。  また、妙に目につくのが共産たんをイジっているページ。同党の支持者として「某巨大グループ御曹司作家・某氏」は度々登場するし「作家・クリエイターは伝統的に共産たんの魅力に弱い(さらに“例外中の例外”として、あの人の似顔絵が)」とか「公安たんに見張られているし」とか、確かにその通りだけど、こんなの書いて大丈夫か? と思ってしまうネタが満載だ。  こんな怖い物知らずの本の原作とネームを担当したのが、BL作家の水戸泉さんだ(相撲とは無関係である、念のため)。水戸さんは、作家活動の傍ら表現の自由の問題への積極的な関わりでも知られる人物。そんな彼女は、前作でも関係者から抗議はこなかったので大丈夫だろうと動じない。 「不思議なことに、抗議はありません。神楽坂(リブレ出版は神楽坂駅前にある)は道が狭いから街宣車が入れないからかも……冗談です。本当に何が地雷になるかわからないので、今回はフリーランスライターの畠山理仁さんに監修をお願いしたんですが、畠山さんもハードな人なので『どれも大丈夫でしょう』って。さすがにヤバすぎるものは伏せ字にしましたけどね」  さらに、やたらと共産党がネタになっている理由は「キャラが立っている」からだという。自民党や民主党は、規模が大きくて所属議員の主張に差異もあるため、ひとつのキャラにまとめるのが難しい。ところが、共産党は所属議員の主張がまったくブレないので、結果的に「キャラ立ち」しやすかったのだとか。  それにしても、本書を通じて驚くのは「鉛筆と消しゴムでもカップリングできる」と力説する水戸泉さんの妄想力。国擬人化マンガ『ヘタリア』が注目された時も思ったが、人ならぬものをキャラに仕立てて、さらに「動かす」妄想のたくましさには感服するばかりだ。ちなみに、作画のにいにゃんさんのタッチゆえか、どの政党キャラも妙に可愛くなっているのもポイント。また、たびたび描かれる石原慎太郎氏も、なんだか可愛い雰囲気を醸し出していて、読んでいるうちに楽しい気分になってくる。描かれている政界のエピソードを、知っていても知らなくても楽しめるのは間違いない。水戸泉さんによれば、政党萌えな女性は、それなりの数はいるそうだが、まだカップリング論争が起こるほどの勢力ではなく、和気あいあいと楽しんでいるという。 「そのうち、カップリング論争が起きるくらいにメジャーなジャンルにしたいですね」 と、決意(?)を語る水戸泉さん。  これを読めば、国政がどんな人々によって運営されているのかよくわかるはずだ。 (取材・文=昼間たかし)

ホームレスは本当に減ったのか――支援の現場から考える『漂流老人ホームレス社会』

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『漂流老人ホームレス社会』
(朝日新聞出版)
 2003年、ホームレスが販売する雑誌「ビッグイシュー」の日本版が刊行。07年に漫才師の麒麟・田村裕が記した『ホームレス中学生』(ワニブックス)の大ヒットは、タレント本というジャンルを差し引いても、ホームレスに対する世間の興味を示している。08年末には、リーマンショックに伴って失業した非正規労働者らが、日比谷公園に設置された「年越し派遣村」で正月を迎えた。  近年、一時期よりもホームレスについての話題を耳にしなくなったように感じる。厚生労働省による調査では、08年と比較して12年には、ホームレスの数が全国で40%減少している。ピークであった10年前と比較すると、その数は3分の1。人々がホームレス問題に注目し対応がなされた結果、状況は改善。いまだに問題は残るものの、事態は徐々に改善に向かいつつある……。このデータを素直に読み取るなら、そういうことになるかもしれない。  だが、ホームレス支援団体「TENOHASI」の代表を務める精神科医・森川すいめい氏の著書『漂流老人ホームレス社会』(朝日新聞出版)には、こう明記されている。 「ホームレス問題がこのまま解決すると思っている人はいない」  TENOHASI代表として、池袋駅を中心に夜回りや炊き出しなどの支援を行う森川氏。本書では、その支援の中で出会ったうつ病、認知症、アルコール依存症、DV、知的障害、統合失調症などのホームレスの支援の実態を描きながら、そこで直面する問題を浮かび上がらせている。 「ホームレスとは、単に家(ハウス)がない状態をいうのではない。安心して生きていく場(ホーム)がない状態をいう。みんなが平等であることを前提とする社会は、人間を、ホームレス状態に押しやる」 と森川氏は書く。12年の調査で、ホームレスの平均年齢は59.3歳。60歳以上の高齢者が半数以上を占め、70歳以上でも全体の10%を超える。彼らは、ついのすみかとして路上を選ばざるを得なかった。だが、路上にすら居場所をなくしたホームレスも少なくない。近年、ベンチには眠れないように仕切りが設置され、公園は夜間閉鎖されるようになってきているのだ。 「経済競争力の糧にならない人間は、ホームレスか精神科病院か刑務所に社会は押しやっていないか。家族だけに責任を押し付けていないか」と、森川氏は問いかける。  路上生活者だけではない。この社会のあらゆる場所に、自分の居場所を喪った「ホームレス状態の人」は存在する。路上生活者としてのホームレスは、確かに減少したかもしれない。しかし、本当に状況は「改善」されているのだろうか? 社会から隔離し、追いやることで問題を隠しているだけではないだろうか?  精神科医として、統合失調症患者と話すとき、森川氏が大切にしていることは「コミュニケーションの原則を守ること」、つまり相手の立場を理解し、尊重することだという。脈絡なくしゃべっているような統合失調症患者や認知症患者にも、見えている世界があり、彼らはそれに基づいてしゃべっているにすぎない。コミュニケーションの原則においてすべきことは、それを否定することではなく、近づき、受け入れること。それは、森川氏の夜回り支援の現場にも生かされている。  森川氏は「主人公は支援される側である」という前提を貫く。弱く、無能な人間に対して「まともな」人間が「支援をしてあげる」のではない。「主人公」である被支援者を支えるために、活動を行っているのだ。 (文=萩原雄太[かもめマシーン])

漠然とした“死の恐怖”に怯えている人たちへ『「死ぬのが怖い」とはどういうことか』

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『「死ぬのが怖い」とはどういうことか』
(講談社)
「死ぬのは怖いですか?」  そう尋ねられたら、あなたはどう答えるだろうか? わたしは非常に楽観的な性格なので、100歳ぐらいまで生きて大往生。ぱぁっと散っていけるんじゃないかと考えているので、それほど怖くはない。ただ、自分の生命力が強すぎて、万が一火葬場で焼かれている最中に起きてしまい、「熱い! 熱い! うわぁ~~」と言いながら死んでいくことになったらどうしよう……と考えると、ちょっと怖い。だが世の中には、小さな頃から自分の死について真剣に考えている人も、たくさんいるのではないかと思う。  『「死ぬのが怖い」とはどういうことか』(講談社)の著者・前野隆司氏は、小学生の頃から死ぬことが怖くて怖くてたまらなかった。たとえば、生まれるまでは何もなかったのか、何かあったけれど思い出せないだけなのか。死んだら生まれる前と同じように、何もなくなってしまうのか。思い出もすべて失われてしまうのか、などなど。わたしはそんな想像をめぐらしたことがなかったので、こういう考えの人もいるのかと少し驚いてしまった。  前野氏はもともとロボットの研究者で、“人間の心もわからないのに、ロボットの研究をしている場合でない”と、脳科学、心理学、工学、宗教学、哲学、社会学、医学、カウンセリング学など、ありとあらゆる角度から「生きること」「死ぬこと」について研究した。その結果、大人になってからも漠然と怖いと思っていた死を、嫌だけれども怖くはないと思えるようになったという。  本書は、前野氏がどうしたら死が怖くなくなったのかを伝えたいと執筆した一冊で、そもそも、なぜ死ぬのが怖いと思うのかという心理的な話から始まり、死後の世界に五感はあるのか、幽霊に色は見えるのか、輪廻は存在するのかなど、これまでオカルトっぽく取り上げられることはあっても、それほどマジメに研究されていなかった素朴な疑問に対し、ひとつひとつ論理的に答えを導き出している。  人は必ず死ぬ。しかし、死を考えることは、生と向き合うことでもある。漠然と“死が怖い”と思っている人にとって、少し気持ちを楽にしてくれる本かもしれない。 (文=上浦未来) ●まえの・たかし 山口県生まれ、広島育ち。東京工業大学卒。同修士課程修了。キヤノン(株)、カリフォルニア大学バークレー校客員研究員、ハーバード大学客員教授を経て、現在、慶応大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授。博士(工学)。著書に、『脳はなぜ「心」を作ったのか』『錯覚する脳』(共にちくま文庫)、『脳の中の「私」はなぜ見つからないのか』(技術評論社)、『記憶』(ビジネス社)、『思考脳力の作り方』(角川oneテーマ21)など。主宰するヒューマンデザイン研究室では、脳と心から、ヒューマン・ロボットインタラクション、人間・社会システムデザイン、教育学、幸福学まで、人類の平和と幸福のために多様な研究・教育活動を精力的に行っている。

平凡な日常を刺激する、特殊間取りの世界へようこそ『間取り図大好き!』

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『間取り図大好き!』(扶桑社)
 『間取りの手帖』(佐藤和歌子著・リトルモア)が刊行され、サブカル界が珍間取り図の奥深さを認めたのが2003年。「いったい、どうやって生活するんだ!?」――。不動産屋の店頭に張り出されるありえない間取り図は、多くの人々の好奇心を刺激した。  そして、そんな“間取り図ブーム”は、一過性で終わることはなかった。あれから10年の時を経て、『間取り図大好き!』(扶桑社)なる本が上梓されたのだ。  もしも、あなたが「大家族だけど、家族仲が悪いから別々のキッチンを使用したい」なんていうワガママだとしても、あきらめてはいけない。世の中には「9LDKDKDKDK4S」なる物件が存在し、あなたの夢を叶えてくれる。断捨離ができず膨大な荷物を抱えているなら、8つの物置を完備した部屋がオススメだ。露出狂ならばベランダに浴槽が完備された物件、実は忍者のキミにはどんでん返しがある物件はどうだ!? 「24時間ず~っと一緒にいたい!」というラブラブカップルなら、トイレに便器が2つ並んでいる部屋で愛を育めばいい。「家族3人仲の良さが自慢です」というなら、便器が3つ並んでいる部屋がいい。きっと、子どもの下半身の成長までつぶさに観察できるはず!  本書の編集を務めるのは「間取り図ナイト」という団体。東京カルチャーカルチャーを中心に、同名のイベントを19回にわたって開催し、イベントのチケットはソールドアウトを続ける。“たかが間取り図”と思うなかれ、イベントに集まった大勢の観客は、その突飛なスタイルに抱腹絶倒する。  このイベントの中心メンバーは、mixi「間取り図大好き!」コミュニティ管理人の森岡友樹、住宅都市整理公団総裁であり、『工場萌え』(東京書籍)、『共食いキャラの本』(洋泉社)などを発表している大山顕、そして「デイリーポータルZ」ライターの大塚幸代の3人。一癖あるマドリスト(間取り好きの人をこう呼ぶらしい……)たちが、上記のような意味不明な間取りに対し、鋭いツッコミを加えていく。  もうすぐやってくる春を前に、引越しを考えている人も多いだろう。不動産屋の店頭に貼りだされた間取り図は「こんな家だったらどんな生活が送れるだろう?」と、あなたを妄想の世界に導いてゆく。物件のみならず、そこに生活する人を象徴する「間取り図」とは、人間の気分を高揚させるエンタテインメントなのだ。  あなたの求めているのは、本当に1DK南向きの平凡な物件なのだろうか? そんな設計士の都合と採算性のみを重要視し、型にはめ込んだ商品のような部屋で、本当に楽しい毎日が送れるのか?   既成概念を覆す特殊な間取り図は、きっとあなたの平凡な日常を揺さぶるだろう。 (文=萩原雄太[かもめマシーン])

苦笑、失笑、ニヤニヤが止まらない! 鉄道マニア垂涎の駅舎本『珍駅巡礼』の続編は“私鉄編”

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『珍駅巡礼2 (私鉄篇)』(イカロス出版)
 「本当にバカだよな~」と思う。「なんでこうなっちゃうんだろ?」と思わずにはいられない不思議なものや、「地域活性化」の名のもとに地元の名産をモチーフにした残念な建築もある。『珍駅巡礼2 (私鉄篇)』(イカロス出版)をめくると、性格の悪いニヤニヤが止まらない。  2010年に発売された『珍駅巡礼』は、遮光器土偶が不気味に張りつく「JR五能線木造駅」の写真を堂々表紙に据え、「駅舎ヲタ」という新たなジャンルを提示したムックだ。『珍駅巡礼2 (私鉄篇)』はこの続編であり、全国津々浦々の私鉄珍駅200カ所以上を収録している。2011年5月からおよそ1年間をかけて撮影された、撮りおろしの珍駅ばかりがズラリと並ぶ様はまさに圧巻。  一口に「珍駅」といっても、その内容はさまざまだ。著者の西崎さいき氏がライフワークとして追いかける駅舎シリーズとして掲載されるのは、まるで宇宙船のような「北越急行ほくほく線 くびき駅」、くじら型の「近鉄名古屋線 近鉄富田駅」など。たま駅長で知られる「和歌山電鐵貴志川線 貴志駅」は、全国の愛猫家をうならせるネコ型の駅舎だ。また、女子高生が体育祭の時にのみ使用する「えちぜん鉄道三国芦原線 仁愛グランド前」駅、米軍関係者専用出口を備えた「京急逗子線 神武寺駅」などのレア駅、「YRP野比」「京コンピュータ前」「宮本武蔵」などの珍名駅が紹介され、コアな鉄道マニアをうならせる「珍ホーム」の解説にはマニアならずとも「へぇ」という感嘆の声を漏らしてしまうだろう。  西崎氏は、本書のまえがきで「JRはどの駅も管理・整備され、そこそこのクオリティを保っているが、私鉄は都心の駅のような近代的なものが多い反面、地方のローカル線ではいまにも壊れそうなボロボロの駅舎があったりと、驚くほどバラエティ豊かだ」と記す。JRに比べて経営規模の小さい私鉄は、全国的に厳しい経営を迫られている。ましてや、車社会がいちだんと進む地方のローカル私鉄では、客足は遠のくばかり。イベントや副業、観光需要の掘り起こしなど、あらゆる工夫によって収益を確保しなければ、路線のみならず、会社全体が存亡の危機にさらされてしまうのだ。一時期、名物のぬれ煎餅販売が話題となり経営危機を脱した銚子電鉄も先頃、経営の自主再建を断念することを発表した。  一方、たま駅長が勤務するネコ型駅舎「貴志駅」には全国から観光客が訪れ、その経済効果は10億円あまりと試算されている。かつて、貴志川線は廃線が検討されていたほど赤字路線だったものの、たま駅長とネコ型駅舎、そして地域住民の協力によってその危機を脱出。まさに、駅を起点として町おこしがなされた好例だ。この仕掛け人である和歌山電鐵小嶋光信社長は「日本一、世界一の駅舎が創れれば、むしろ再生のみならず、紀の川市や和歌山市、また和歌山県の観光の大きな資源としてプラスになる」と語った。その目論見どおり、今日も貴志駅には観光客が絶えることはない。  苦笑、失笑、ニヤニヤが止まらない本書。しかし、珍駅舎には地域を支える人々の真剣な思いが込められている。 (文=萩原雄太[かもめマシーン]) ●にしざき・さいき 1965年岡山県生まれ。81年、高校入学時から駅舎撮影を始める。国鉄赤字路線の廃止予定駅を中心に撮影を進め、98年『国鉄・JR廃止駅写真集』を自費出版。2000年、ホームページ「さいきの駅舎訪問(http://ekisya.net/)」を開設。2006年、JR全駅訪問を達成し、ホームページ上にJR全駅の情報を掲載。現在、「ワンダーJAPAN」(三才ブックス)に「珍駅訪問」を連載中。ほか各媒体に駅舎画像提供多数。

汚れてでも勝ち抜け!――ヤクザに学ぶ最強ビジネス本『ブラック・マネジメント』

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『ブラック・マネジメント』(双葉新書)
 昨今、『ビジネス書を読んでもデキる人にはなれない』(漆原直行/マイナビ新書)、『ビジネス書大バカ事典』(勢古浩爾/三五館)などといったビジネス本批評のビジネス本が売れている。それほどまでにビジネス本は玉石混交のジャンル。そんなビジネス書の世界に異色な書籍が登場した。  それが丸山佑介氏の著書『ブラック・マネジメント』(双葉社)である。  このタイトルからおそらくまっとうな手段をまとめたものではないことは容易に想像ができる。実際、ヤクザやアウトローたちの裏稼業のビジネス手法を取り扱った本であることは間違いない。ただし、そんな裏社会の中でも「マネジメント」に特化して使えるところを取り上げたことが、この本のこれまでにないビジネス本としての特色となっているのだ。  著者の丸山氏は元々ジャーナリストとして裏社会を取材しながら、昼間はビジネス書系の出版社で一般企業の経営者などのビジネス書の編集をしてきたという。そんな著者だからこそ、冷静な視点で表社会でも役立つブラック・マネジメントを抽出できたのだろう。  本文に散りばめられたノウハウの数々を見ると、ヤクザの取材をしながら、「将来これ、ビジネスノウハウ本に使えるな」なんて思って情報を集めていた著者のツワモノぶりも相当際立つが、それ以上にそれぐらいのしたたかさがないと今のビジネスシーンは渡っていけないのだという厳しさも垣間見ることができる。では、そのしたたかなマネジメントとはどのようなものなのだろうか? ■「命がけ」の現場から生まれる究極の手法  ヤクザの仕事って何?  そう聞かれると北野武監督作『アウトレイジ』で繰り返された「バカヤロー」と怒声を張り上げたり、腕力を振るったり拳銃を撃ちまくったりすることをイメージする人も多いだろう。もちろん暴力的な側面は否めないが、その一方で巧妙な駆け引きも彼らの重要な仕事だ。  彼らは組という鉄の掟で結ばれた組織の中で、時に一人で、時にチームを組みながらシノギ(事業)を行うプレイヤーであり、その中で自らのブランディング法やポジショニングや交渉術を磨いていく。これは一般企業で働く人とまったく変わらない。さらに、彼らのビジネスは文字通り「命がけ」(!)の現場から生まれるだけに、さまざまな技術が駆使されている。そんな気合いと本気が詰まったノウハウが役立たないわけがないと著者の丸山氏は主張する。  例えば普段何気なく築いている社内の人間関係も、ヤクザ組織の中で捉え直すと、誰を支持するかや誰を味方につけるかがどれだけ大事かということがお分かりいただけるだろう。下手な兄貴分につけば、自分の命すら危うい世界なのだ。  そんな中で彼らがどのように立ち回り、どのように取り入り、どのように人を魅了するのかを、本書では実例と綿密な取材とインタビューで仕入れた情報をビジネススキルと融合して解き明かしていく。 ■なめられないためのブランディングとは?  『ブラック・マネジメント』の序盤でページを割いているのは、ブランディングである。例えば自分がその場で下位の人間だと思われて「お前なんかに仕事を任せられない!」と言われ、仕事をうまく進められなくなってしまう、という場面に遭遇したことはないだろうか。  本文では「個人をブランドにするためのセルフプロデュース」の手法として、若くして風俗店の統括を任されることになったヤクザが、職業を明かすことが許されない中、どのように百戦錬磨の風俗嬢たちを束ねたか、という実例を挙げている。そこで彼が取った手法は、風貌を野暮ったく演出し、髪形と髭で年齢を上に見せ、敬語を使わない、と言うよりもあまり言葉を発しないキャラ演出だったという。  さすがにこれを一般企業で真似すると上司から怒られそうだが、この手法を表社会でどう活用すればいいのかをちゃんと指南しているところがこの本の特色といえるだろう。特にビジネススキルと融合したノウハウに昇華させる際に何が重要か、自分をどういったキャラクターに設定すべきか、その設定を数年後にどのように変化させていくかなど、読んでいると自分でもできそうに思えてくるから不思議なものだ。 ■「汚い手段」と言われても勝ち抜け!  ディズニースタッフにキャビンアテンダント、果てはAV女優まで。ビジネス書では他業種の実体験に基づいた成功ノウハウ本が多く刊行されている。ある道を極めた人間の成功体験であれば、そこには必ず何かしら読者にフィードバックできるような含蓄が語られているだろうと皆が期待するからだ。  しかし、ビジネスが扱う最大の要求が「金(利益)」である以上、綺麗事や遠慮は無用だ。「笑顔で人のために」「いつかあなたの努力に気付く人が」みたいな上滑りの言葉で綴られたノウハウなんて役立つはずがない。  もちろん、ブラック・マネジメントだけに違法すれすれの手法も中にはある。しかしながら、今の厳しいビジネスシーンを勝ち抜くためにはある程度手を汚すことも必要だ。 本書を読むと、今属している会社生活が安穏とした場ではなく、シノギを削る戦いの場だということに改めて気付かされるだろう。しかし、表社会でタマ(命)を取られるようなことはないから、覚悟が決まったらどんどんブラック・マネジメントを実践すべし! (文=七井恵理)

ねたみ・そねみ・因根が渦巻く、“大都会”岡山の実態『これでいいのか岡山県』

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『これでいいのか岡山県』
(マイクロマガジン社)
 先日、「桃太郎市」に改名するしないで注目を集めた岡山県岡山市。その騒動と軌を一にして、岡山市のみならず県全体のイメージと実像を研究し尽くした書籍がリリースされた。  『これでいいのか岡山県』(マイクロマガジン社)は、さまざまな地域のイメージと実態を描いてきた「日本の特別地域」42冊目だ。このシリーズは、さまざまな地域の一般的なイメージ(足立区はホントにヤンキーが多いのか? など)と実情を、豊富な取材や資料によって実証していくもの。2007年に出版された足立区編以来、大田区や中野区など都市圏はもちろんのこと、群馬県や広島県など地方編も続々と刊行されている。  偶然の一致とは思えないタイミングでリリースされたこの書籍は、表紙からして「こんな本を出版して大丈夫なのか?」と心配になってしまう……。  なにしろ、表紙には「ねたみ・そねみ・因根が渦巻く 岡山の実態を暴く!」の文字。確かに、岡山と聞いて思い浮かべる「桃太郎」「瀬戸大橋」といった明るいキーワードはオマケみたいなもの。「津山三十人殺し」「獄門島」……近年は作家・岩井志麻子の影響もあってか、「ぼっけえ、きょうてえ」イメージのほうが多数派だ(執筆者個人の意見です)。  表紙には「出身高校で人生が決まる!?」「四国に対しては絶対的な上から目線」とか、とんでもないキャッチも。挙げ句の果てには「空は晴れても心はくもる県民の正体」とまで。いやいやホントに岡山は、そんなにひどいところなのか?  こんな奇書を執筆したのが、本サイトでも活躍するルポライターの昼間たかし氏だ。岡山出身の昼間氏は昨年、十数年ぶりに岡山の土を踏み、現地に住み着いて長期間の取材を行った。そんな昼間氏は「住んどったらわからんかったけど、ぼっけー土地じゃったんじゃー」という(この後も岡山弁の会話が続くが、めんどくさいので標準語で記す)。  昼間氏によれば、岡山の特徴はまず「住民が岡山県を、どういった分野でも日本の上位に位置すると考えている」ことだという。 「そもそも、中国地方であるという意識は希薄で、あくまで自分たちは関西文化圏。そして、山陰、四国地方はおろか、中国地方の覇者・広島県に対しても絶対的優位にあると思っているんです。食べ物は豊富で災害も少ない、新幹線はすべて停車する。テレビも民放5局がすべて放送されているし、文化レベルも昔から高いなどが、その理由です」  さらに、昼間氏は自身の出身地を「奇人変人の巣窟」だという。その代表格として挙げるのが、歴史の教科書にも登場する、大正時代の成金が足元が暗いので札束に火をつけて明かりにする風刺画。その元ネタとなったのが、山本唯三郎という実業家だ。大正時代に財を成した山本は、「征虎軍」を結成して朝鮮半島で虎狩りを行い、自作の「征虎軍歌」や「虎来い節」を歌いながら、大いに楽しんだという。  また、江戸時代に世界で初めて空を飛んだといわれる表具師幸吉も、岡山の人物。当時の記録では、幸吉は1785(天明5)年の夏に、当時、岡山随一の繁華な地だった京橋の上から、自作の翼で飛んで大騒ぎになったという(再現実験によると、飛んだのではなく落ちたらしいが……)。  この、頂点とか、第一人者とか第一号とか、妙な目立ちたがりの行動こそが、出世する岡山県民の基本スタイルだと昼間氏は断言する。 「かつて、岡山県一帯には大和朝廷に匹敵する勢力を持つ吉備国が栄えていました。しかし、古墳時代に吉備国は大和朝廷に敗北し、衰退しました。以来、岡山県は決して一番になったことがない。それでも、内部では自分たちが一番だと信じ、ほかの地域の人を見下しています。いや、地域だけじゃない。たいていの岡山県民は、互いに“自分が一番スゴイんだ!”と思っているんです」  自分が一番だと思っているから、目立つのも当然(いや、目立とうと思っているのではなく、結果的に目立ってしまったのかも)。ゆえに、ほかの土地で成功する岡山出身者には、ナンバーワンよりもオンリーワン系の人が多いハズだと、昼間氏は語る。  そんな素晴らしい土地なら、なぜわざわざ東京に出てくる必要があったのか? こんな素朴な質問をぶつけたところ、キレられた。 「学歴差別がひどいんじゃ!」  本書の中でも記されているが、岡山県の高校は公立優位。象徴的な事例として「普通科」という言葉は、県内のエリート校を指すもの。偏差値の低い高校の普通科に通う生徒が「普通科に通っている」と言うと、「何をいよーんなら、あんごうが」とバカにされるんだとか。30歳を回って、高校時代のことを怒るなんて……と思っていたら昼間氏は続ける。 「だいたい都会で成功する岡山出身者は、岡山に対して恨みや怒りを秘めている。だからこそ、成功できる……と漠然と思っていたのですが、今回さまざまな文献を読んでいると、岡山で“郷土の偉人”とされる人があまり岡山に帰ることはなかったとか、一切、岡山には触れなかったという事例が多々ある。故郷に対する複雑な思いも、岡山出身者が成功する原動力といえるでしょう」  うーん、ますます岡山県の謎が深まるばかり。発言とは別に執筆の際には、かなり論理的思考をしたらしく、本書では岡山県独特の複雑な県民性もきちんと分析されている。  この後、火がついたのか、とてもここでは書けないほど岡山県に対する批判を語りまくった昼間氏。最後に、一つくらい自慢することはないのか? と聞いたところ、 「食べ物がうまいんじゃ!」 と、語り出した。 「本の中でも記していますが、ラーメンは岡山県が最もおいしい。東京では半ば当たり前になった、ドヤ顔で腕まくりしたような店主のいる店なんて皆無なのが素晴らしい。そして、岡山の食の至高は岡山ずしです。どんなに高級な材料を揃えたとしても、岡山県産の食材でなくては、岡山ずしの味にならない。これよりうまいものを、私は食べたことがありません」  この後、岡山ずしの材料として「雄町の米」だのなんだのを、延々と語り続けた昼間氏。珍妙な岡山県に住む人々と土地の実情が、本書では次々と明らかにされている。  いずれにせよ、酸いも甘いも知る出身者ならではの容赦なき記述。“大都会”岡山の実態を暴く一冊なのは間違いない。

トム・クルーズの新シリーズ誕生か 危険でワイルドな新世代ヒーロー『アウトロー』

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 今週紹介する新作映画2本はジャンルこそ違えど、日常の裏側で進行している(かもしれない)特殊な世界を、今まさに眼前で展開しているかのようにリアルに見せてくれる意欲作だ。  2月1日公開の『アウトロー』は、英国発の人気ハードボイルド小説を、トム・クルーズ主演、『ユージュアル・サスペクツ』(95)のクリストファー・マッカリー監督・脚本で映画化したサスペンスアクション。米地方都市郊外で白昼、川沿いに居合わせた5人が、対岸から放たれたライフル弾で射殺される事件が発生。現場に残された多くの証拠から、元米軍スナイパーで前科のある男が逮捕される。だが、元陸軍捜査官のジャック・リーチャー(クルーズ)は、無差別殺人に思われた事件の不審な点に気づき、独自の調査で巨大な陰謀に迫ってゆく。  トム・クルーズの当たり役といえば『ミッション:インポッシブル』シリーズの諜報部員イーサン・ハントだが、本作のリーチャーは組織に属さない一匹狼で、正義のためなら法を破ることさえ辞さない流れ者という人物設定がミソ。クルーズが自ら運転して演じたカースタント、比較的新しく今も進化を続ける格闘術「キーシ・ファイティング・メソッド」に基づく格闘シーンなどのソリッドな迫力も相まって、危険でワイルドな新世代ヒーローが誕生した。凛々しい女弁護士役のロザムンド・パイクや、ひょうひょうとした射撃場経営者役のロバート・デュバルとの掛け合いが、ストイックな展開の中にも一服のユーモアを添えていい味。原作者リー・チャイルドによる『ジャック・リーチャー』シリーズはすでに17冊刊行されており、映画続編の製作も大いに期待される。  続いて、2月2日に封切られる『R-18文学賞 vol.1 自縄自縛の私』(R15+指定)は、竹中直人が監督7作目にして初めて挑んだ官能作品。平凡な家庭で育った百合亜(平田薫)は、大学時代に縄で自らを縛る趣味に目覚める。恋人に知られたため数年間封印していたが、勤め先の広告代理店で上司や部下への不満が募り、ストレスから逃れるように自縛を再開。自宅だけでなく、縄をしたままスーツを着込んで出勤するなど、次第に自縛のシチュエーションをエスカレートさせる。  原作は、新潮社主催の公募新人文学賞「女による女のためのR-18文学賞」を受賞した蛭田亜紗子のデビュー小説。本来は比喩的な意味で使われる四字熟語を文字通りに実践して自らを縛りつけ、その不自由な状況に快楽を覚えるという倒錯したマゾヒスティックな世界が、原作のポップで瑞々しい感覚そのままに再現された。共演に安藤政信、お笑いコンビ「ピース」の綾部祐ニ、津田寛治、つみきみほ、杉本彩ら。ハードコアなマニアには少々物足りないかもしれないが、不良中年テディベアが下ネタを連発する『テッド』が先月公開され予想外に女性客を動員して大ヒットしていることから、本作もまた女性層やカップルに大きな反響を呼びそうだ。 (文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉) 『アウトロー』作品情報 <http://eiga.com/movie/57490/> 『R-18文学賞 vol.1 自縄自縛の私』作品情報 <http://eiga.com/movie/57973/>

日本一幸せな県はどこだ!?『日本でいちばんいい県都道府県別幸福度ランキング』

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『日本でいちばんいい県都道府県別
幸福度ランキング』(東洋経済新報社)
 幸せって、ナニ?  いやー、難しい、難しい……。それは、人間にとって永遠のテーマとも思える超難問。ブータンでは、この幸せの指数を測る“GNH(国民総幸福量)”の調査の中で、「あなたは幸せですか?」という質問に対して「はい」と答えた人が約97%という奇跡の数字を叩き出し、一躍有名になった。  けれど、“幸福の量”を測るということは、なんとも曖昧なもの。ブータンのように、主観的に幸せかどうかを聞く方法もあるが、さまざまな統計データを元に分析する方法もある。後者のやり方で、都道府県別の幸福度をランキング化した1冊が『日本でいちばんいい県都道府県別幸福度ランキング』(東洋経済新報社)だ。  分析をしたのは、国や公共政策などの基礎研究を行う日本総合研究所。人口増加率、一人あたりの県民所得、選挙投票率、食料自給率、財政健全度を基本に、医療、娯楽、雇用などなど、膨大な統計データにより独自の幸福度指数を編み出し、本書でその結果と詳細を発表している。  その中で、理事長の寺島実郎氏が<次回の研究の課題は、主観的な幸せについてどう反映させるか>だと書いていたが、まったくその通りで、幸せの形は人それぞれ。わたしは幸せを感じる基準が非常に低いので、ちょっとおいしいものを食べたり、大好きなひとり旅に出かけられれば、あっという間に幸せになれる。けれど、人によっては「そんな小さなことでは到底満足できない!」「お金がすべて」という人もいるだろう。  日本は世界的に見ればお金持ち国家。だから、旅で発展途上国を訪れると、基本的に物価が奇跡的に安く感じられ、私は全然お金持ちではないけれど、「日本がお金持ちでよかった」「旅に出られて幸せ」と思うことはしばしば。  けれどその一方で、旅先で出会った現地の人と話していると、毎日幸せそうだなーと思うことも多い。途上国の人は、何事もよい意味でテキトー。マジメな日本人のように今詰めて働かないし、“なんとかなる”と不思議なほど前向き。少なくとも心は健全で、楽しそうに見える。  それは日本においても、都会と地方などの違いにも通じるのではないだろうか。本書のデータは、やはり金銭面が大きく影響しているので、一見、主観的な意見とは無関係のように思えるかもしれない。けれどこの本を読み、「いやいや、これはデータ上こうなっているけど、こんな面白いことや素晴らしいことがある」と議論する。それこそがこの本の裏テーマであり、幸せとはなんなのか、考えるきっかけになるはず。  そして、気になる幸福度第1位の県、最下位はどこなのか。1位は意外、最下位は納得だけど、うむむ……と悩ましい結果になっているので、お楽しみに。 (文=上浦未来) ●てらしま じつろう 1947年北海道生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了後、三井物産入社。米国三井物産ワシントン事務局長、三井物産戦略研究所所長、三井物産常務執行役員、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授等を経て、現在は日本総合研究所理事長、多摩大学学長、三井物産戦略研究所会長。国交省・高速道路のあり方検討有識者委員会座長、宮城県・震災復興会議副議長、経産省・資源エネルギー庁総合資源エネルギー調査会基本問題委員会委員等歴任。著書に『新経済主義宣言』(新潮社、第15回石橋湛山賞受賞)、『脳力レッスンⅠ・Ⅱ・Ⅲ』(岩波書店)、『世界を知る力 日本創生編』(PHP新書)ほか多数。