田原総一朗夫人を看取った主治医が監修——“がんに不安を感じた”人、必読の書『がんに不安を感じたら読む本』

gannnifuanwso.jpg
『がんに不安を感じたら読む本』(光文社新書)
 もし自分ががんになってしまったら? あるいは、自分の大切な人ががんになってしまったら? 健康に暮らしている時には、そんな可能性があることすら忘れているかもしれない。だが、その宣告はある日突然やってくるかもしれないのだ。その時に、以前から「がん」という病気に対して知識を蓄え、心構えをしていたのと、そうでなかったのでは、がんに対していかに懸命に対処できるかが変わってくるのではないだろうか。今回紹介する本は、その、いわば「がんリテラシー」を高めておくには格好のテキストとなる一冊だ。  本書『がんに不安を感じたら読む本』の医療監修を担当するのは、昭和大学病院ブレストセンター長の中村清吾氏。乳がん治療界のオピニオンリーダーとして知られる中村氏は、ジャーナリスト田原総一朗の夫人である故・田原節子さんの主治医も務めた。田原氏は夫人を看取った後も、折に触れ講演などで中村氏との闘病エピソードを明かし深い信頼を寄せている。  そして同書の著者である本荘そのこさんは、週刊誌記者をしていた2004年、35歳のときに乳がんであることが発覚。がんの進行度合を表すステージはIIIまで進んでおり、本荘さんは、手術、抗がん剤、放射線と、がんの三大治療法のすべてを身をもって経験した。  本書では、本荘さんの生々しい闘病体験がリアルな筆致で蘇るだけではなく、週刊誌記者として取材した、がんと闘う医師や患者たちの多彩なエピソードが紹介されている。  いまや、がん医療は日進月歩の時代といわれるが、何がどう進化したのか──。かつてのがんが見つかったら即手術という時代から、現代非手術の時代へと進むがん医療の革新がつぶさに記されていることも読みどころともいえよう。  本書では、中村清吾氏が率いるブレストセンターでの乳がんの最先端治療の様子が克明につづられ、また、アンジェリーナ・ジョリーの告白でにわかに注目を集めた、がん遺伝子についての考察も加えられている。 「私はいままで自分のがんのことをあまり周囲に話さずに来たのですが、この本を書き始めてから、不思議なことに何人かの男性から乳がんについて相談を受けました。自分の妻が、あるいは親しい人が、あるいは姉や妹が乳がんになってしまって、といったものなのですが、男性が何かしてあげられることは、と模索しても、女性はかえって負い目を感じてしまったり、難しいですよね。そのあたりの距離感をつかむためにも、ぜひ男性にもこの本を読んでほしいし、もちろん実際に苦しまれている女性の方や、そのほかあらゆるがんに直面している人も読んでいただきたいです」(本荘さん)  この本には、これまでのがん関連本ではスルーされがちだったが、実は当事者にとっては最も気になるあることについても、詳しく書かれている。それは、がん治療にかかるお金にまつわる問題だ。 「闘病に経済的な問題はつきものです。日本の国民健康保険制度は確かに充実していますが、やはりそれだけでは賄えない部分があります。例えば、自由診療の部分とか、通院にかかるタクシー代、セカンドオピニオン、代替医療、さらには脱毛に対応するためのかつらの費用などもかかります。私は幸運にも、多額のがん保険に入っていたので、1,000万円近くを受け取ることができました。一回の飲み会の費用くらいで月々のがん保険には十分手厚いものに加入できますので、そういう備えも大切だということは強調しておきたいです」  本書ではカットされてしまったが、本荘さんも実際は髪の毛からまつげまですべてが抜け落ちてしまう脱毛を経験。ウィッグ(かつら)を専門店で購入した。 「でもそのときにおかしなエピソードがあって。のちに結婚した男性と一緒に行ったのですが、彼がお茶目心を出して見本のかつらをかぶって見せて、お店の人に呆れられたんです(笑)。ほかにもがん闘病中のことって、微笑ましい思い出もいろいろあって、9カ月間仕事を休んでいる間に、抗がん剤の投与のスケジュールの合間を縫って、フィリピンのセブ島のリゾートホテルに海外旅行に出かけました。ミュージカルを見たり、時間がなくて読めなかった本をまとめて読んだり、毎日仕事に追われていた頃にはできなかった経験もできました。この本を読む人も、がんになったらどういう闘病生活を送りたいか、事前にイメージしておいてもいいかもしれませんね」  さらに、本書では、本荘さんががん闘病後に妊娠・出産を経験するエピソードも詳しく書かれている。いまは7歳の女の子の母として、家庭も仕事も生き生きとこなす本荘さん。いまがんに直面している人はもちろん、いまは自分とは直接関係ないと思っている人も含めて、ぜひこの本を読んで、いつか来るかもしれないその時に向けた前向きな姿勢を手にしてほしい。 adsjhfgkfg.jpg ●本荘そのこ(ほんじょうそのこ) 1969年北海道札幌市生まれ。法政大学大学院経済学研究科経済学専攻修士課程修了。地方新聞社、法律事務所勤務などを経て、98年から女性誌記者として活動。2004年に乳がんが発見され、約9カ月間にわたって治療を受ける。05年に結婚し、06年に出産。現在はフリーライターとして、取材・執筆活動を行う。

旅好き必見! 海外でよく巻き起こる小ネタを集めた『海外あるある』

kaigaiaruaru.jpg
『海外あるある』(双葉社)
「“とにかくWi-Fiどこだ!”と叫んだことがある」 「“日本に帰ったら何食べる”のネタだけで何時間も話したことがある」 「旅の末期に“就職”を考えて鬱になる」 などなど、海外好きならば「うわー、わかるわ~!」と共感せずにはいられないネタが詰まった『海外あるある』(双葉社)が発売された。著者は、旅行関係の著書を多数持ち、犯罪ジャーナリストとしても活躍する、丸山ゴンザレス氏。バックパッカー系の旅好きには、超過激な旅の体験をつづった『アジア『罰当たり』旅行』(彩図社)が有名じゃないかと思う。この本は過激さが売りな分、読む人を選ぶが、本書は旅行好きならば、旅行初心者からディープな長期旅行者まで、男女問わず誰でも楽しめるような仕上がりになっている。  内容としては、海外、海外旅行、バックパッカー、海外文化、国別をテーマに、冒頭で紹介したようなごくごく短い、旅の小ネタを500以上まとめたネタ帳のような感じで、30分もあれば、さーっと読めてしまう。けれど、この本が面白い点は、ネタに目を通していくうちに、いつの間にやら旅の記憶がぶわっとよみがえり、脳内トリップが楽しめるところ。  例えば、 「英語や現地語で話しかけたら、日本人だった」 とあれば、そういえば、現地人並みに肌が浅黒かった女の人に、なんの迷いもなく「Hello!」って挨拶したら、「こんにちは」と返されて超気まずかったな……とか。 「何の仕事をしているのかわからないが、ホテルの前にむろしているおっさん多すぎ」 とあれば、外だけじゃなくて、ホテルの中にもそういうおっさんがやたら多かったなぁ。インドのデリーでは、おっさん集団に取り囲まれたおばあちゃんバックパッカーが、「デリーは今、どこもホテルも予約でいっぱいだ。だから、ネパールへ行こう」なんて訳のわからないことを言われて、ネパールに連れて行かれそうになっていたけど、その後、どうなったんだろう……などと、当時のエピソードが一気に頭の中をかけめぐり、いらぬ心配まで思い出してしまったりする。  なにせ500以上もネタがあるので、実際に体験していないネタも多数あるが、あの国ならそんなこともありそうだなとか、実際に行ったらこんなことが起こるのかな、と妄想は膨らむ。多くの人が体験したであろう、この「あるある」ネタは、旅人の共通語のようなもの。ひとりで読むのもいいが、旅好き同士で集まって読んだら大いに盛り上がりそうな一冊だ。 (文=上浦未来) ●丸山ゴンザレス 1977年、宮城県生まれ。犯罪ジャーナリスト。アジアやアフリカなどの海外放浪体験をまとめた『アジア罰当たり旅行』(彩図社)でデビュー。その後、出版社勤務を経て、丸山佑介名義で裏社会や猟奇殺人事件などを追いかけるジャーナリストとして活動。主な著書・共著書に『図解裏ビジネスのカラクリ』(イースト・プレス)、『裏社会の歩き方』『海外ブラックグルメ』(彩図社)、『ブラック・マネジメント』(双葉社)などがある。

空気を読む日本人の「うやむや」「なあなあ」文化を大分析!『正しい日本人のススメ』

tadashii.jpg
『正しい日本人のススメ』(宝島社)
 日本人は、場の「空気」を読む。とことん、読む。外国人にしてみたら、もはやエスパー並みだ。小さな島国で育ったわれわれは、「以心伝心」という言葉があるように、口に出さずとも、相手になんとなく伝わる、理解し合えると信じている節があり、プライベートでもビジネスでも、日々、ごくごく自然に場の空気を読みながら生活している。  『正しい日本人のススメ』(宝島社)は、そんな日本人特有の空気で物事が決まっていく、「うやむや」「なあなあ」の不思議な文化を、英国人の日本文化様式学者のアラン・スミシー氏が来日10年にわたり、とことん研究した調査報告書。お手洗い、満員電車、合コン、行列行動、謝罪、会議、朝礼、残業など、プライベートからビジネスまで、場面ごとに日本のしきたりや習慣、なぜそういう行動をとるのか、その歴史にまで踏み込んで調べ、分析している。  その冒頭のテーマが、「カラオケ」だ。アラン氏によれば、長年の研究の結果、そのルーツはなんと平安時代に行われた、貴族たちの短歌を歌い合う「歌会」にまでさかのぼるという。当時は、短歌の力量によって歌い手の教養が問われ、ときに恋愛の行方や、政治的な立場までも左右された。それゆえ、カラオケは単なるレジャーを超え、特別なコミュニケーションとみなされ、「自分のパーソナリティーをアピールしたり、メンバーの上下関係や立ち位置、人間性を推し量っている」場ではないか、という壮大な考えにたどり着く。  そんなカラオケ時の注意事項は、「絶えず盛り上がっていますよ」というムードを演出すること。楽しげでアッパーな空気を停滞させず、「気まずい」状態を避けることが重要であるという。また、人前でこれ見よがしに快感や自信をあらわにすることは「はしたない」とされる日本人独特の概念に言及し、どんなに歌い込んでいて自信のある曲でも、「これ久しぶりだわ~、歌えるかなあ?」と自信なさげに歌い出したり、「ダメだ、今日は声出ないわ」と言って保険をかけたりしている、などと細かな報告もしている。  カラオケ以外にも、みんなで同じ行動をして仲間意識や結束を固める“バンザイ”などの「コール行動」、ヨソ者に対する心のバリアゆえに心の内を見せず、嫌われないようにする「おもてなし行動」、本音を引き出す必要悪「根回し行動」など、日本の変わったしきたりや文化について、独自の持論を展開。その内容が、“外国人がまたそんなこと言っちゃって”というものではなく、“確かに!”と納得してしまう鋭い分析ばかりなので、ほうほうと納得しながら読み進められる。    また、アラン氏が初めてお葬式に参加し、お焼香をあげるときに、背中越しに何をしているかさっぱりわからず、考えに考えた末「お焼香を食べる」という、とんでもない間違いをおかしたエピソードなど、自らの体験も披露され、驚きと笑いが詰まった内容に仕上がっている。ぜひ、外国人向けに英訳版も発売してほしい一冊だ。 (文=上浦未来) ●アラン・スミシー 1946年生まれ、日本在住10年の英国人。文化様式学者として、日本各地でフィールドワークを精力的に行う。最初に覚えた日本語は「モッタイナイ」。

ダウンタウン・松ちゃんも特許出願してた!?  笑えて学べる『すばらしき特殊特許の世界』

subarashiki.jpg
『すばらしき特殊特許の世界』(太田出版)
 発明品の権利を独占できる「特許」。“特許を取って、一発大儲けしたい!”と、一度は考えたことがある人も多いのではないだろうか?  本書『すばらしき特殊特許の世界』(太田出版)は、ただの特許の話ではない。少し変わった発明者・出願人、技術の内容や解釈、権利の範囲が“普通じゃない”、特殊な特許のみを集めて紹介している。  著者の稲森謙太郎氏は、科学技術ジャーナリストであり、知的財産権と呼ばれる特許権、商標権、著作などについて、オモシロおかしく伝える第一人者。本書では、特許庁が特許出願の1年6カ月後に発行している「公開公報」を入手し、出願された内容を分析。さらに、発明者や出願人にコンタクトを取り、彼らの話を元に、出願された特許の内容を解説している。許可が下りたものはもちろん、下りなかったものについても扱っている。    その中でも気になったのは、バンダイナムコゲームスと秋元康事務所が、現在進行形で共同出願中らしい、「AKBをフッてフッてフリまくれ!」のキャッチコピーで大きな話題になった『AKB1/48 アイドルと恋したら』の恋愛妄想ゲームシリーズ。「公開公報」によると、はっきりとゲーム名は書かれていないようだが、「本命の女性を決めて、ほかの女性をフリまくる」というコンセプトが記されている。また、恋愛シミュレーションゲームの進め方や、グッドエンディング演出の概念図など、特許取得のために提出された図解があれこれと掲載されており、どうやら本当に特許出願されているようだ。  また、なんとダウンタウンの松本人志氏も特許の出願をしているらしい。さかのぼること、およそ20年。1993~96年まで放送されていた、発明バラエティ『発明将軍ダウンタウン』(日本テレビ系)を覚えているだろうか? 素人発明家や松本氏自身が考え出したオモシロ発明品を紹介する番組で、よくもこんなモノを大真面目に作ったなと爆笑していた記憶がある。けれど、あの番組に特許になりうるような発明品なんてあったっけ……? と、首をかしげたが、さすがは松本氏。確かに、特許になりそうな発明を考えていたのだ!     著名人の発明以外にも、阪急不動産と竹中工務店が共同出願した大阪駅前の巨大観覧車ビル、葬式のやり方や、夫婦が別れることのない指輪など、ユニークな特許ネタがぎっしり。  本編の合間には、アップルVSサムスンの行方や、アンジェリーナ・ジョリーと遺伝子特許などについて書かれたコラムも8本あり、かなり読み応えがある。一般人にはあまり縁がない、トンデモな特許の世界を覗き見してみよう。 (文=上浦未来) ●いなもり・けんたろう 1970年東京都生まれ。科学技術ジャーナリスト、弁理士、米国公認会計士。94年、横浜国立大学大学院工学研究課博士前期課程修了(工学修士)。大手電気機器メーカーにて、ソフトウェア関連発明の権利化業務、新規事業領域における戦略的提携の立案、グローバル研究開発や産官学連携の推進などに携わる。特許権、商標権、著作権などの知的財産権(知財)関連の小難しい話を楽しくわかりやすく伝える、知財啓蒙の第一人者。主な著書に、『勝手に使うな! 知的所有権のトンデモ話』(講談社+α新書)、『女子大生マイの特許ファイル』(楽工社)がある。

『風の谷のナウシカ』が現実になる日は近い――? 倉本聰『ヒトに問う』

hitoni.jpg
『ヒトに問う』(双葉社)
 『ヒトに問う』(双葉社)読了後、頭に浮かんできたのは『風の谷のナウシカ』だ。ジブリ作品の多くは、現代社会にあふれるコンクリートジャングルではなく、森や空などの自然が中心に描かれている。そんな主観的形象があり、『風の谷のナウシカ』も現代社会とは違う、ある種のパラレルだと思っていた。  だが、そうではない。第一話には、こんな冒頭文が添えられている。 「ユーラシア大陸の西のはずれに発生した産業文明は、数百年のうちに全世界に広まり巨大産業社会を形成するに至った。大地の富をうばいとり大気をけがし、生命体をも意のままに造り変える巨大産業文明は、1000年後に絶頂期に達し、やがて急激な衰退をむかえることになった。『火の7日間』と呼ばれる戦争によって、都市群は有毒物質をまき散らして崩壊し、複雑高度化した技術体系は失われ地表のほとんどは不毛の地と化した」    『ターミネーター』が、人間が社会の機械化を進めたゆえに生んだ怪物ならば、『風の谷のナウシカ』は、人間の欲が生んだ地球の生態系の崩壊といえる。本書の著者・倉本聰氏は、それが現実のものになるかもしれない、と警鐘を鳴らす。  『北の国から』などの脚本家と知られ、30年以上前から北海道の富良野に住み、自然破壊や崩壊した社会秩序について作品を通じて問題提起している倉本氏。本書は、3.11で壊滅した福島を歩き、今後の日本のあるべき姿について2年半にわたり書き綴った、渾身のメッセージ本だ。  「最悪の場合、首都圏の3000万人が避難対象となることを想定していた」(菅直人元首相)という福島第一原子力発電所事故。その恐ろしさから、脱原発を訴える人も少なくないが、その先に新たな代替エネルギーを求めていることに、倉本氏は疑問を呈する。「エネルギー量そのものを減らすことしか根本的解決策はない」と。  倉本氏の代表作である『北の国から』には、こんなやりとりがある。「電気がなかったら暮らせない」という純に対し、「夜になったら寝るんです」と父・五郎が返すシーンだ。    屁理屈にも聞こえるかもしれないが、夜になったら寝るというのは人間の本能的な行動だ。東京ベイ浦安市川医療センター長の神山潤氏も「早起き 早寝 生活リズム」(http://www.hayaoki.jp/gakumon/gakumon.cfm)で推奨している。睡眠をはじめ、食事や排泄など人間本来の行動を基本としなければ、体は蝕まれていく。減少傾向にある睡眠時間を増やすだけで、BMI(メタボリックシンドローム)が下がるというデータもある。それなのに、生活が改善されないのには理由がある。それは、人間の欲だ。  私自身、南アフリカW杯の取材で現地に滞在した際、夜間出歩けないことにストレスを感じた。私が宿泊したホテルは簡易的な朝食会場しかなく、夕食がとれるレストランは併設されていない。FIFAメディアセンターにあるのは、舌に合わない日替わりのもの(まれにおいしい食事があるが)か、チーズバーガー。食事をとりに外出したいが、電灯も少なく、治安の悪い南アフリカでは危険極まりない。睡眠、食事、排泄は確保されているものの、どこか満たされない。そんな生活が3週間を超えると、ストレスがたまってくる。食べたいものを食べたい。開放的な空間で過ごしたい――。人間の欲望はキリがない。本書も、そんな現代人の性(さが)を浮き彫りにする。  こんな興味深いデータがある。これからの人間生活のあり方について、京都府宮津市の講演会場で約800人に問うたところ、一般市民90%が「過去に回帰する」ことを選んだ半面、高校生の70%が「現在享受している生活を捨てられない」と答えたという。また、渋谷の若者に生活必需品を聞くと、1位:金、2位:ケイタイ、3位:テレビ、4位:車という回答だったのに対し、富良野塾(倉本による脚本家や俳優の養成施設)では、1位:水、2位:火、3位:ナイフ、4位:食料という結果だったと記されている。「若者達は生まれた時から恵まれた暮らしと便利さがあり、それのない生活は考えられないのだ」と倉本氏が指摘しているように、現代人が過去の生活に戻るのはそう簡単なことではない。私自身もそれに当てはまるから耳が痛い。 だからこそ、いま一度、真剣に考えるべきだと思う。「ヒトが生きるために何が必要なのか」という、根本的なことを。本書は、便利さ豊かさを享受しすぎた日本人の目を覚ます一冊になるだろう。 (文=石井紘人@FBRJ_JP)

虐待を生き延びた子どもたちの“その後”『誕生日を知らない女の子』

51kW5C9nkrL._SS400.jpg
『誕生日を知らない女の子』(集英社)
「なぜ、幼い生命を救えなかったのでしょうか?」  虐待死事件が報道されるたびに、レポーターが繰り返す言葉だ。毎年、少なくとも50人以上の子どもたちが、虐待の犠牲となってその生命を奪われている。だが、児童虐待の相談対応件数は、6万6,807件(平成24年度)。死亡してしまう子どもは、全体のほんの一部であり、「救えた」子どもたちが直面する過酷な現実に光が照らされることは、ほとんどない。  虐待を受けた子どもたちの“その後”を描いたノンフィクションが、黒川祥子よる『誕生日を知らない女の子』(集英社)だ。虐待を逃れ、里親のもとで暮らす子どもたちの生活を描いた本書。だが、そこに描かれているのは、里親のもとで安心した生活を送る幸せな子どもたちの姿ではない。  「川村のママ」と呼ぶ実母に、フライパンで手を焼かれ、タバコの火を押し付けられた美由は小学3年生。保護施設では、能面のように表情を変えず、「しゃべれないかもしれない」と心配されながら過ごしてきた。日常的に虐待を受け続けた生活が、彼女の感情を動かないように変えたのだ。里親のもとに引き取られて、少しずつその感情は改善していくも、嫌なことがあるとすぐに白昼夢に逃避してしまう美由。いまだに、「おまえなんか、ぶっ殺す」という実母の声に苛まれ、お店の商品をいつの間にか「持ってきちゃう」のは、実母から万引きを強要されていた過去がフィードバックするからだ。  虐待を受けた子どもたちは、多かれ少なかれ、いろいろな問題を抱えている。他人との距離がうまくつかめず、すぐに暴力に走ってしまう問題児や、いつ殴られるかわからない恐怖と闘ってきたため、脳の健全な発達は遅れ、学習障害と診断されるケースも少なくない。  捨てられたも同然で児童相談所に預けられ、里親のもとにやってきた明日香は、実母に恋焦がれている。「おかあしゃんは、女神さまのように優しくて、どんな願いでもかなえてくれる」と実母を理想化する明日香。しかし、継父と実母のもとに引き取られた彼女は、1カ月以上ひとりで放置され、再び児童相談所に送られることとなった。 「虐待はトラウマという、傷つけられた体験で語られがちですが、一番重要なキーワードは、喪失なのだと思います」 と、子どもの虹情報研修センターの増沢高研修部長は語る。子どもに関心の薄い母親のもとで、周囲の大人たちの誰もが、明日香が幸せになれるとは考えられなかった。それは、明日香自身も薄々わかっていたことだろう。けれども、彼女は「奴隷でもいいから、帰りたい」と言って、里親のもとを去っていた。現実を見つめないことが、唯一、彼女の喪失感を回避する手立てだったのだ。  二人の子どもがいる沙織は、父親からの暴力や性的虐待を受けて育った。 「上の子は女の子だからなのか、育児のたびに否が応でも自分とかぶるんです。育児をする上で、フラッシュバックを体験するというか……。『あの子歩いたな、よかったな。うれしい』って思った瞬間、『誰が私が歩いたのを喜んだ? 誰が私が歩いたのを見ただろう』って、だんだん上の子に当たっていくんです」  「スイッチが入る」と長女の「夢」を殴り、蹴り、首を絞めてしまう沙織。「このままだと殺してしまいます」という電話をかけ、彼女の子どもたちは児童相談所に保護された。「父親に言いたかったこと、継母に言いたかったこと、押し込めていた気持ちを自分の子どもにぶつけていたんです。小さい頃からの怒りが、夢ちゃんに向かって出ていたんです」まるで呪いのように、虐待の記憶は、何十年を経ても沙織を苦しめている。  母親の虐待を受けながら育った青年が、その母親を殺害する事件の裁判で、青年は「僕は今、虐待死させられた子どものほうがずっとうらやましい」と話した。  「『虐待の後遺症』という視点を持って、『殺されなかった』被虐待児の現実を、私たちは社会全体で見つめていかなければならないと強く思う」と黒川は書く。虐待を経験した子どもたちは、その成育の過程において人間としての当たり前な経験を得られず、社会に馴染むことができない。だから、彼らの扱いは難しく、本書には「育児放棄」のような扱いをする一部施設の姿も描かれている。向き合うことが困難だからといって、虐待を経験した子どもたちを見放すならば、この社会は虐待をする親たちと何も変わらないだろう。  これ以上、彼らが虐待を受けなければならない理由はどこにもないはずだ。 (文=萩原雄太[かもめマシーン]) ●くろかわ・しょうこ 1959年生まれ。福島県出身。東京女子大学文理学部史学科卒業。弁護士秘書、ヤクルトレディ、デッサンモデル、業界紙記者などを経て、フリーライター。家族の問題を中心に執筆活動を行う。橘由歩の筆名でも著書がある。息子が二人いるシングルマザー。第11回開高健ノンフィクション賞受賞。

6人の人気脚本家からひも解く、テレビドラマの歴史と魅力『キャラクタードラマの誕生』

kyaradora.jpg
『キャラクタードラマの誕生: テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)
 2013年、『あまちゃん』や『半沢直樹』がヒットし、テレビドラマは大きな話題となった。実は、このふたつの作品には共通点がある。それは、どちらも「キャラクタードラマ」であることだ。  成馬零一氏が上梓した『キャラクタードラマの誕生: テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)は、岡田惠和(『銭ゲバ』『泣くな、はらちゃん』)、坂元裕二(『それでも、生きてゆく』『最高の離婚』)、遊川和彦(『家政婦のミタ』『純と愛』)、宮藤官九郎(『11人もいる!』『あまちゃん』)、木皿泉(『すいか』『野ブタ。をプロデュース』) 、古沢良太(『鈴木先生』『リーガルハイ』)という、現在のテレビドラマを代表する6人の脚本家について評論したもので、各章の合間には「ホームドラマ」「トレンディドラマ」「キャラクタードラマ[1]、[2]」「朝ドラ」「現実とフィクション」という、テレビドラマ史を体系的に振り返るコラムが挟み込まれている。  テレビドラマ評論の多くは、山田太一、向田邦子、倉本聰といった、後に「シナリオ文学」などと呼ばれるような重厚な人間ドラマを描いた脚本家を高く評価するあまり、それ以降のトレンディドラマは批判的に語られがちだった。ましてや、漫画原作のドラマは、それだけで黙殺されてしまう。しかし、本書でテレビドラマの歴史やその連続性を知ることで、それがいかに不当な評価であるかが浮き彫りになってくる。  成馬氏は、前出の「キャラクタードラマ」について、本書の中で下記のように定義している。   ・漫画やアニメを原作とするドラマ、もしくは漫画やアニメの表現(方法論)を作品内に持ち込んだドラマ ・役者のキャラクター性に強く依存したドラマ ・主人公の個性がドラマの前面に出ているドラマ ・人間の内面をキャラクターという表現で描いたドラマ  前著『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)で、成馬氏はジャニーズの俳優たちを例にとり、最近のテレビドラマの演技は、複雑な感情の機微を感じさせる「人間芝居」と、個性がハッキリとしたキャラを演じる「キャラクター芝居」があると指摘し、分類している。「キャラクタードラマ」とは、それを元にして定義された概念である。これまでの映画的な評価基準では、「人間芝居」よりも「キャラクター芝居」は低い評価をされがちだった。その評価基準は、そのまま「キャラクタードラマ」に対する低評価にもつながっている。もちろん、原作を安易に翻案しただけのドラマも少なくはない。しかし、キャラクタードラマの本質は、漫画をそのまま実写で再現することではない。 「生身の人間が二次元のキャラクターとして振る舞おうとすればするほど、逆に身体性や内面がにじみ出てしまう。そしておそらく、そのにじみ出る人間性にこそキャラクタードラマの面白さが宿るのだ」(本書より)  キャラクタードラマとは、「人間」を描くための手法にすぎない。現在、現実世界でも僕らはお互いに「空気」を読み合いながら、なんらかの「キャラ」として振る舞うことを要求されている。だとするなら、強固なキャラクターを中心に据えてドラマを描くことは「現在」を描くことにほかならない。  また、本書は初めてのテレビドラマが『夕餉前』というホームドラマであったことが象徴するように、極論すれば日本のテレビドラマの歴史は、実はホームドラマ(アンチ・ホームドラマ)の歴史であるという、目からうろこの事実を指摘。それを描く手法が「人間ドラマ」「トレンディドラマ」、そして「キャラクタードラマ」に変遷していったにすぎないことを丁寧に解き明かしている。  テレビドラマは、ずっと日本のお茶の間を描いてきた。かつては、それを家族で、お茶の間の食卓を囲んで眺めていた。そして現在、SNSなどにより、新たな“お茶の間”ができ上がった。よく「インターネットはテレビの敵」のような言説がある。しかし、そうではないはずだ。僕たちは、インターネットによって生まれた「バーチャルなお茶の間」で、馴染みのあるキャラクターたちを見守っている。「キャラクタードラマ」の誕生とSNSとの出会いは、そんなテレビの原風景を取り戻したのだ。 (文=てれびのスキマ<http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/>)

新薬開発に難病解明!? 宇宙実験室ISSの全貌『国際宇宙ステーションのすべて』

uchu0111.jpg
『国際宇宙ステーションのすべて』(洋泉社)
 2013年11月、若田光一宇宙飛行士が、ソユーズ宇宙船に搭乗し、自身4度目となる宇宙空間へと飛び立った。今回のミッションは、国際宇宙ステーション(ISS)に長期滞在し、前半はフライトエンジニアとして、後半は日本人初のISSコマンダー(司令官)を務め、ISS全体の指揮を執る予定だ。12月24日にはロボットアームを操作して、故障中の冷却システムの機器の交換を無事完了。ISSを題材にした映画『ゼロ・グラビティ』のような危機的事態も起こらず、ミッションは順調な様子だ。  若田氏はじめ、多くの日本人宇宙飛行士が活躍するISSであるが、ISSとは一体どういう施設なのだろうか? 『国際宇宙ステーションのすべて』(洋泉社)は、ISSの概要や作業内容、宇宙飛行士の生活などを紹介したムックだ。多数の写真、図説を交え、ISSの内部外部を詳細に記している。ISSは、宇宙の微小重力環境下において、さまざまな研究・実験を行うための巨大な有人施設。大きさはちょうどサッカー場ほどで、4棟の実験棟と居住空間、2基のロボットアームを備え、地上から400km上空を時速2万7,700kmの高速で飛行している。実に90分で地球を1周する速さだ。  ISSにはロシア、アメリカ、ヨーロッパ、日本がそれぞれ実験棟を所有しているが、その中でも日本実験棟「きぼう」は最大の実験施設で、医師である古川聡宇宙飛行士などにより、特徴的な研究が数多く行われている。中でも特に力を入れているのが「タンパク質の結晶成長実験」。地上では重力の影響で歪んで生成されてしまうタンパク質だが、宇宙の無重力環境では地上ではできない高品質のタンパク質を作ることができる。結晶の質が高ければ、立体構造の細かな部分まで調べることができるため、難病の原因解明や劇的な新薬の開発が期待されている。実際に筋萎縮症の新薬もISSで開発されつつあるというから、なんともオドロキの話だ。ほかにも「宇宙放射線の研究」「キュウリの栽培実験」など、将来的に宇宙空間で生活することを想定された研究が行われている。宇宙船内に広がる一面のキュウリ畑、想像するだけでなんとも楽しい光景だ。  我々が暮らす地上でも、何気なく空を見上げると、星の間を走るISSを肉眼で見ることができる。本書で覗いたISSの内部を想像しながらの観測で、遠い宇宙空間もより一層近くに感じられることだろう。 (文=平野遼)

稼いだ額は1000万円! “プロ”が語る、驚きの治験生活『職業治験』

51vOJFeozYL._SS500_.jpg
『職業治験』(幻冬舎)
 トータル入院数365日、採血数900回。治験だけで1000万円を稼ぎ出した、治験のプロ・八雲星次氏が日々を綴った『職業治験』(幻冬舎)が発売された。これまでに八雲氏が実験台となった新薬は、C型肝炎の新薬インターフェロン、認知症に効果的とされる薬新型麻酔薬、統合失調症の薬、体に元気がみなぎるサントリーのセサミン、果ては飲むだけで禁煙できてしまう薬まで50種類以上。しかも、日本だけにとどまらず、海外での治験にも足を延ばし、報酬をもらって海外旅行まで楽しんでいるツワモノである。  というか、治験のプロってなんだ!? そうツッコミたくなった人も多いと思うが、つまりは治験一本で“喰っている”ということ。八雲氏は大学卒業後、一部上場会社に就職するも、2カ月で退社。以来、アルバイトも一切せず、7年以上もの間、治験の報酬だけで暮らしている。八雲氏が初めて体験した治験の報酬はC型肝炎の新薬で、衣食住がすべて提供され、20泊21日で53万円! なんとウラヤマシイ……。うっかり、わたしもやってみようかなと、ふらり、ふらりと治験の道へと歩み寄りそうになる。しかし、実際に治験をすることになれば、新薬を飲んで、飲んで、飲みまくり、しかも、結果を確認するために採血の連続に違いない。採血どころか、血を見るのがダメなのでは話にならないだろう。しかも、万が一の副作用のことを考えると、すさまじい恐怖が襲う。  八雲氏も最初の頃こそ、トクホなど無難な薬の治験を探していたようだが、今では骨を折るなど珍しい治験にも参加し、この道を極めている。また、気になる入院中の生活についても詳細に書かれており、薬を飲まない日はいたって暇なようで、部屋でネットをしたり、漫画を読んだり、遊び放題。その上、食事はうな丼、澄まし汁、エビサラダ・サウザンドレッシング和え、季節の漬物、水菓子、フォンダンショコラバニラアイスクリームのフルコースなど、たいていの場合、豪華極まりない。そんな夢のような世界が、存在しているとは!  本書にはこのほかにも、入院中に行われている検査の内容、治験の裏事情、どんな人が参加しているのか、プロ治験者の将来など、治験について隅々までまとめられているので、治験に興味がある人にとってはバイブルとなるはず。  ただ、この本を読んで「オレも治験のプロを目指す!」などと言い出されては困る。多くの治験の条件は、20歳以上40歳未満。引退は早いので、どうぞご注意を。 (文=上浦未来) ●やぐも・せいじ 莫大な労力と精神力を使い就職した一部上場会社を、たった2カ月でやめる。その後、アルバイトなども一切せず、7年間治験者で生計を立て今日に至る。トータル入院数365日、採血数900回、日本だけにとどまらず海外での治験も体験。著書に、『海外クレイジー紀行』(彩図社)がある。

まるであの“戦力外通告”……? 野球マニア必読の小説『ヒーローインタビュー』

heroint.jpg
『ヒーローインタビュー』(角川春樹事務所)
 新制度の狭間で揺れに揺れたマー君のポスティング移籍問題も実現の方向でひとまず落ち着き、ストーブリーグも一段落。これからキャンプインまでの数週間は、熱心なファンを含めたプロ野球界全体に、束の間の「オフ」が訪れる。  野球関連の話題がめっきり少なくなる、そんな「オフ」にこそ、ぜひとも読んでほしい激アツな一冊が、今回ご紹介する単行本『ヒーローインタビュー』(角川春樹事務所)。2000年のドラフト8位で阪神に入団した仁藤全なる無名の2軍選手を主人公にした、77年生まれの若き女性作家・坂井希久子氏の手による入魂の一冊だ。  まずもって、高校通算42本塁打の逸材でありながら、最後の夏を前にした“ある出来事”のせいでドラフトでは下位指名に甘んじたという主人公の持つバックボーンが絶妙だし、1軍の試合にはたった171試合しか出ていないのに、なぜか10年間も在籍していたなどというワケあり感もまた、野球好きにはグッとくる。  野球選手としては一度もお立ち台に上がることのなかったガッツリ二流な彼の軌跡を、本人がひそかに好意を寄せる理髪店の女性店主、担当スカウト、同じチームの若きエース、ライバル球団のベテラン左腕(モデルはあの山本昌!)、高校の同級生などなど本人以外の関係者たちへの“インタビュー”を元にたどっていく……となれば、ヒガシのナレーションでおなじみの『プロ野球戦力外通告』(TBS系)のような番組が大好物な人にとっては、まさしくドストライクといっても過言ではないだろう。  阪神のホームタウンである、兵庫県の西宮・尼崎周辺を舞台にしているだけに、登場人物のほとんどがコッテコテの関西弁なのは、多少読む人を選ぶきらいはあるも、たとえ“虎キチ”でなくとも、野球の面白さを多少なりとも分かってさえいれば、楽しめることは請け合い。たったひとつのプレーで球場全体をひとつにしてしまうほどの、野球ならではのあの“感動”を一度でも味わったことがある人なら、クライマックスに待つ“奇跡”には思わずゾクゾクしてしまうに違いない。  というわけで、この冬は、1球団70人という支配下登録枠の上限によって、有名・無名を問わず毎年100人近い選手たちがユニフォームを脱ぐことになるプロ野球の厳しき現実……その大多数を占める無名選手の、ニュースの活字にすればわずか数行でコト足りてしまう儚い野球人生に思いを馳せつつ、二流の“ヒーロー”が織り成す人間ドラマにどっぷり浸かってみることをオススメしたい。  ちなみに、ここまで読んで「あれ、そんな選手いたっけな?」と首をかしげている読者もいるはずだ。かく言う筆者も、ついついウィキペディアで検索してしまったクチだが、阪神タイガースに仁藤全などという選手がいた記録はもちろんないし、クライマックスで描かれる、00年シーズンにおける阪神vs中日の劇的すぎる首位攻防三連戦も真っ赤なウソ。ゲーム差こそ記録に忠実だが、そこまでドラマティックな直接対決は実際には起きていない。  そういった虚実をないまぜにした構成もまた、小説ならではの醍醐味。ことスポーツの分野では「事実は小説よりも奇なり」なことが多いが、本書はそれに当てはまらない希有な良書と言っていいだろう。  なお、同じ野球モノ、同じくサエない2軍選手を主人公にした、真田広之&鈴木保奈美主演のトレンディな同名映画も存在するが、当然ながら本書とはなんの関係もない。