このいじめがスゴい! 『聲の形』だけじゃない、壮絶「いじめマンガ」の世界

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『聲の形』(大今良時/講談社)
 毎年、年末に宝島社から発売されるムック本「このマンガがすごい!」。ここで1位にランキングされるマンガは事実上、マンガ読みたちにその年最も面白いと評価されているマンガだといえます。  昨年末に発売された「このマンガがすごい!2015」では、オトコ編第1位が『聲(こえ)の形』、オンナ編第1位が『ちーちゃんはちょっと足りない』でした。  『聲の形』は、作品序盤の先天性聴覚障害を持つ女の子、西宮硝子をめぐる壮絶ないじめシーンがかなりインパクトのある作品です。主人公の石田将也やクラスメイトが、硝子が耳につけている補聴器を引きちぎったり、硝子がコミュニケーションを取るために持っている筆談ノートを池に投げ捨てたり……そして、池に沈んだノートをびしょ濡れになって探す硝子のかわいそうな姿。もちろんいじめのシーンだけではなく、その後の硝子と将也の意外な展開や感動的なラストシーンが評価されている作品でもあります。  ところで、衝撃的ないじめのシーンが掲載されているマンガは過去にもいくつか存在しています。今回はそんな「いじめマンガ」をご紹介しましょう。 ■『元気やでっ』(土屋守、次原隆二、山本純二/集英社)
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『元気やでっ』
 この作品は、1995年に「週刊少年ジャンプ」(集英社)で掲載された、いじめをテーマとしたマンガです。当時「いじめ」が社会問題になっていたこと、実体験を元に描かれたリアルな内容だったこと、そして何よりも「ジャンプ」というメジャー誌に掲載されたことで多くの少年少女が目にすることになり、“伝説のいじめマンガ”と呼ばれるようになったのです。  舞台は中学校。おとなしそう、逆らわなさそうという理由でクラスメイトの女子グループにパシリにされていた少女、佐伯幸子(さっちん)。そんなさっちんが次第にパシリからいじめに遭うようになり、どんどんエスカレートしていくというもの。パシリといじめって、紙一重ですよね。非常によくありそうな構図です。  お茶にふりかけを入れられたり、上履きを水の入ったバケツに投げ込まれたり、生徒手帳は盗まれていたずら書きをされ、黒板には教師とホテルに行ったなどとあることないこと書かれ、学校を休んだら机の上に花瓶が置かれ……と、まさに王道いじめが炸裂します。  この作品は『わたしのいじめられ日記』(青弓社)という、実際の中学生のいじめの記録を元に描かれたマンガであり、内容の生々しさ、リアルさが読者の胸を締めつけます。生徒のいじめもさることながら、事なかれ主義でいじめを見て見ぬふりをする先生の態度も、いじめ問題の根深さを象徴しています。  作中に出てくる担任・上沼先生が、いじめられているさっちんに冷たく繰り出す「いじめフェイス」は、まさにいじめ界のクイーンといっても過言ではなく、顔面から漂うネガティブさがハンパじゃありません。一見の価値ありです。 ■『ライフ』(すえのぶけいこ/講談社)
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『ライフ』
 いじめがテーマのマンガといえば、すえのぶけいこ先生の『ライフ』を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか? 単行本全20巻、07年に北乃きい主演でドラマ化もされています。 勉強苦手の主人公、椎葉歩(アユム)は親友で秀才の篠塚夕子(しーちゃん)と同じ高校に行きたいために頑張って受験勉強を始めたところ、成績が急上昇。志望校には自分だけ受かって親友のしーちゃんが落ちてしまうという最悪の展開になり、友情関係が崩壊。そのトラウマでリストカットを覚えてしまうという、冒頭からダウナーな展開のマンガです。  受験のトラウマを抱えつつ、孤独な高校生活を送っていた歩に声をかけてくれたクラスの中心的存在、安西愛海(マナ)と親友関係になり、明るい高校生活の兆しが見えてきます。しかし、彼氏命だったマナが彼氏に別れ話を切り出され、ショックで踏切自殺を図ってしまいます。歩によって事なきを得たものの、メンヘラモードに入ってしまったマナを助けようと、マナの彼氏にヨリを戻すように説得する歩。しかし、それが裏目となって、マナに寝取られ疑惑をかけられます。そして、親友だったはずのマナとその仲間グループから壮絶ないじめを受けることになってしまうという、やることなすこと裏目に出まくる女子高生、歩が卑劣ないじめに立ち向かっていくストーリーです。親友だと思っていた友達が、些細なきっかけで突然自分をいじめる敵に回ってしまう、これも人間関係の難しさですよね。  『ライフ』はいじめに立ち向かう少女がテーマのマンガで、女子特有の陰湿ないじめのシーンが、それはもう壮絶です。自殺未遂とかレイプとか、近年少女マンガでマストとなっている展開がしっかり盛り込まれております。  作中に出てくるリストカットシーンの多さが、また驚異的です。落ち込んだ時には迷わずリスカ、ちょっと気分転換にリスカ、三度の飯よりリスカ……。たまにリストカットをしてない時は、コンパスで手首を刺していたりと、とにかく手首がヤバい。思わず、手首をさすりながら読んでしまうマンガです。 ■『ミスミソウ』(押切蓮介/ぶんか社)
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『ミスミソウ』
 今回ご紹介するマンガの中でも、最も精神的にくる、後味の悪さがハンパないダウナー系いじめマンガの最右翼『ミスミソウ』。作者は『ハイスコアガール』でも有名な押切蓮介先生です。押切先生といえば、薄幸の美少女キャラを描かせたら当代一ですから、いじめがテーマのマンガを描くのは、ある意味、必然かもしれません。  主人公の野咲春花は父の転勤の都合で、過疎化が進行して廃校予定の大津馬中学校に転校してきました。しかし閉鎖的な環境で、都会からの転校生を受け入れられないクラスメイトから陰湿ないじめを受けるようになります。さらに、気が弱い担任の先生も生徒に逆らうことができず、学級崩壊状態へ。  初めは家族に心配をかけまいといじめの事実をひた隠しにする春花ですが、次第にエスカレートしていき、ついにはクラスメイトにより家に放火され、家族を失ってしまうという最悪の悲劇が訪れます。もはや、いじめとか言ってるレベルじゃない、超ヘヴィな展開です。  実際のところ、いじめのシーンはストーリー的には前フリ的な感じで、中盤以降は春花による残忍な復讐劇が中心となっており、殺人鬼となった春花無双な展開がメインとなっていきます。マンガのジャンル的にもサイコホラーという扱いなのですが、閉鎖社会におけるいじめ、家族への危害、そして新しいいじめの対象を生み出さなければ自分がいじめられるといういじめの多重構造を描いているという点では、いじめマンガとしても見逃せない部分があります。 ■『イジメをぶっ飛ばせ!!』(もとはしまさひで/共同プレス)
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『イジメをぶっ飛ばせ!!』
 いじめマンガの中でも最も異色といえるマンガが『イジメをぶっ飛ばせ!!』です。『ヤンキー烈風隊』『コンポラ先生』などのヤンキーマンガの大御所、もとはしまさひで先生が社会問題となっているいじめの実態に正面から挑んだ長編描き下ろし作品。97年の作品ですので、『元気やでっ』の2年後ぐらいに描かれています。  主人公の探偵・日乃本正義が、日本のいじめ問題の原因を探り、その解決法を提言するという内容。いじめマンガといえば、いじめられっ子の視点から描かれることが多い中で、異色の内容となっています。で、主人公の探偵・日乃本、ビックリするぐらい愛国心に満ちあふれた名前ですけど、見た目は完全にヤンキー。さすがもとはし先生。探偵だろうがなんだろうが、主人公はリーゼントでキメるのが基本のようです。ただ、どっちかというと、お前はルックス的にいじめてる側じゃないのかっていう……。  ツッパリ探偵がいじめ問題を解決するという設定はものすごくぶっ飛んでる感じがしますが、ストーリーはこういう感じです。日乃本の中学時代の後輩、永作が探偵の依頼に来ます。依頼内容は、息子が学校でいじめられているようなので調査してほしいというもの。そして、いじめの調査をするうちに、実は日本の社会構造がいじめを生み出しているということに気づいていきます。ズバリいじめの最大の原因は、日本の団塊世代にあるという衝撃の結論に! これは予想の斜め上の展開でした。  さらにイギリス、ノルウェー、スウェーデン等、諸外国におけるいじめ問題と日本のいじめ問題の比較、そして日本の教育制度改革に向けての提言。最後にはいじめ問題の舞台となった学校の教頭先生がブチ切れて爆弾発言。 「しつけもできてない……箸も持てないようなガキ供のめんどうを何から何まで見てられるか!!」  教師側の本音をぶちまけるいじめマンガというのも、ほかに類を見ないですね。  主人公のヤンキー探偵も「安心して子供を預けられる公立校を作ればイジメは消えるのです!!」など、要所要所ですごく良いこと言ってるのですが、どうしても、お前が言うな感が拭えないところがシュールです。ヤンキー探偵が力ずくでいじめを解決するマンガかと思っていたら、本格的すぎるいじめ研究・考察が始まって予想の斜め上を行く展開となる、ものすごいマンガです。 ■『いじめ』(五十嵐かおる/小学館)
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『いじめ』
 最後にご紹介するのは、どストレートすぎるタイトルの『いじめ』という少女マンガです。この作品は「ちゃお」(小学館)で不定期連載されているもので、小中学校で起こるさまざまなケースのいじめが1話完結方式でマンガになっています。単行本も現在10冊出ており、『いじめ』の後につけられるサブタイトルがなかなか強烈です。 いじめ~ひとりぼっちの戦い~ いじめ~生き地獄からの脱出~ いじめ~見えない悪意~ いじめ~勇気をください~ いじめ~静かな監獄~ いじめ~叶わない望み~ いじめ~凍りついた教室~  「生き地獄からの脱出」とか、「静かな監獄」とか……サスペンス映画のタイトルとしてそのまま使えそうなものばかりです。しかし、いじめを受けている本人からしたら、まさしくそのような心境なのでしょう。  『いじめ』シリーズは1話完結のため、実際に起こりそうないろいろなタイプのいじめがマンガとして紹介されていて、まさにいじめ事典といっても過言ではありません。  例えば、いじめられっ子を助けたら今度は自分がいじめられたり、部活でカッコいい先輩(男子)のお気に入りになった途端に部活内で露骨にいじめられたり、クラスメイトに万引きを強要されて拒否したらいじめられたりなどなど……確かに身近にありそうな事例ばかりです。ただしこのマンガは毎回、最後はいじめから立ち直ってハッピーエンドになるアッパー系いじめマンガなので、読後感がいいのが救いです。やっぱり小学生読者が多い「ちゃお」だけに、内容はポジティブじゃないといけないですよね。  また、脱いじめの啓蒙として単行本内にさまざまコラムがあって、これがまた実に必読な感じです。 「万引きは、とっても卑怯な犯罪だよ!」 「万引きに誘われたらはっきりと断ろう!」  など、万引きに誘われた時の断り方などもバッチリ載っています。知らないうちに誰かをいじめているかもしれない読者のための「いじめチェックシート」などもあります。こんなの全国民がやるべきですよね。そのほかにも、悩んでいるときの相談先として政府のいじめ相談ダイヤル、警視庁少年課や弁護士会の電話番号まで載っていて非常に実践的。まさに「本気の脱いじめマンガ」です。 ***  というわけで、いじめマンガ特集いかがでしたでしょうか? ダウナー系からアッパー系、さらに斜め上の展開系まで、さまざまなタイプのものがあることが分かりますね。特に「ちゃお」の『いじめ』は、お子さんがいる家庭では、ぜひ読んでおいたほうがいいんじゃないでしょうか。  ちなみに、いじめマンガは連続して一気に読むと精神的にかなりダメージを食らうので、まとめ読みはしないほうがいいと思います。しばらく寝つきが悪くなりますよ。 (文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん<http://ablackleaf.com/>)

生きるか、死ぬか――自給自足で登る、究極の山旅ハウツー本『サバイバル登山入門』

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『サバイバル登山入門』(デコ)
 電気やお金、常識、時には社会のルールからも遠く離れ、太陽の角度で時間の流れを読み、風を感じて天気を予想する。食べるものは自分で殺し、食べられるものと食べられないものは舌で味わい分ける。装備に頼らず、食料や燃料を現地調達しながら、登山道には目もくれず、道なき道を旅して歩く―――。それが、登山家・服部文祥氏独自の登山スタイル“サバイバル登山”だ。  『サバイバル登山入門』(デコ)は、そんな“サバイバル登山”のハウツー本である。辞書のような厚みがあるこの本には、1999年からサバイバル登山を始めた服部氏が身につけた独自のノウハウが、これでもかというほど詰め込まれている。中でも注目は、獲る、殺す、解体する、精肉する、料理する、咀嚼して飲み込む、消化するなど、食にまつわるすべてについて書かれた「食べる」の章。 <舌とはうまい、まずいを判断するものではなく、本来は「食べられる/食べられない」を味わいわける器官だといえる。食べられるものはうまい。食べられないものはまずい。舌をそんなシンプルな道具として使いうることは生命体としての喜びである>(本文より) と服部氏は語り、なんでも食べてみる。キノコや山菜に始まり、カミキリムシの幼虫、マムシ、シマヘビ、アオダイショウ、ヒキガエル、たまたま山で見つけた死んだばかりのモグラ……。発見したら、なんとなくおいしそうと感じるものは少し食べてみて、味や体調を観察、体に異変がなかったらもう少し食べてみる。もちろん、狩りもする。例えば、狩猟でよく標的にするというシカ。出現場所を予測し、撃ち、解体し、食べる。その一連の流れが1から10まで、かなり衝撃的な写真とともに、実にわかりやすく説明されている。  服部氏は“殺しの思想”について、こう語る。 <食べるために生き物を獲るというのは興味深い体験であるが、同時に生き物を殺すというのはけっして気持ちのいいことではない。「生きるために殺す」ということには解消できない矛盾がある。私は日ごろ肉を食べているが、そのための「殺し」はしていない。気の進まない殺しを他人に押しつけて、その代価として金銭を払っているということは、結果として殺しを買っていることにほかならないのではないか。今後やましさを感じることなく、肉を食い続けていくには、自分で大型獣を殺すという経験(=狩猟)が必要ではないかと考えたのである>  撃つたびに、自分もいつか死ぬんだなと覚悟しながら狩りに挑む。もはや、服部氏の登山は、生きるか死ぬかなのだ。  普段、登山も滅多にしない私のような者には、正直、理解しがたい部分も多い。だが、<死のリスクがあるからこそ、生きている実感を得ることもできる。登山者は自分の夢を叶えるために死に近づきつつ、死なないように最大限の努力をしている。登山者はだれよりも「生命」にどん欲なのである>など、過剰ともいえる服部氏の独特の思想は、平和ボケした私たちに、「生きる」ということの意味を深く考えるきっかけを与えてくれる。 (文=上浦未来) ●はっとり・ぶんしょう 登山家。作家。山岳雑誌『岳人』編集者。1969年横浜生まれ。94年東京都立大学文学部フランス文学科卒(ワンダーフォーゲル部)。オールラウンドに高いレベルで登山を実践し、96年パキスタンのK2(8,611m)登頂。国内では剱岳八ヶ峰北面、黒部別山東面などに初登攀が数本ある。99年から長期山行に装備と食料を極力持ち込まず、食料を現地調達する「サバイバル登山」を始める。妻と三児と横浜に在住。

「そんな偶然あるわけねーだろ!」突っ込まずにはいられない、伝説の超ご都合主義ラブコメ『くおん…』

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『くおん...1』
 「週刊少年ジャンプ」(集英社)の黄金期といえば諸説ありますが、一般的には1984年に発行部数が400万部を突破してから94年ごろまでといわれています。当時のヒット作の多くは、いわゆるジャンプ三原則といわれる「友情・努力・勝利」の方程式に則ったものが多く、このルールに反する作品は比較的短命になる傾向にありました。  このルールを適用しづらいラブコメは、ジャンプにおいて最も生き残ることが難しいカテゴリーだったのです。『きまぐれオレンジ☆ロード』は、ジャンプのラブコメの中では大ヒット作といえますが、主人公が超能力を使える+ちょっとエッチ、という、ある意味“ジャンプらしいギミック”が際立つラブコメ作品であったこともまた事実です。  そして時は86年。『北斗の拳』『ドラゴンボール』『キャプテン翼』『キン肉マン』『魁!!男塾』『聖闘士星矢』『シティーハンター』といったジャンプの黄金期を彩るモンスター作品が連載陣に並び、定価もまだわずか170円だった頃に、ジャンプ読者のごく一部だけに熱狂的なファンを生むことになる伝説的なラブコメが連載開始されるのです。その名は『くおん...』という作品。『タッチ』『みゆき』のあだち充先生のマンガを思わせるような男子と女子による正統派の三角関係ラブコメで、そこには超能力もバトルもエッチもありません。ジャンプ連載作品の中では、異色の雰囲気を放っておりました。  この『くおん...』ですが、実は11話で終了しており、本来であれば読者の記憶に残らない打ち切りマンガとして扱われるところなのですが、そのあんまりすぎる設定が一部のジャンプ読者にとてつもないインパクトを与えたのです。 <この街には14歳になる二人の“まこと”がいます。ひとりは男の子で久遠真(くおんまこと)、もうひとりは女の子で香瀬麻琴(こうせまこと)。そして奇しくもこの二人はお隣同士で幼なじみ。>  ストーリーはこのように始まります。ここまでなら単なる偶然、それほど不自然ではない設定です。あだち充先生のマンガにだって、バンバン出てきそうです。  しかし偶然にも、久遠真は幼いころに母親を亡くしており、父に育てられていました。また香瀬麻琴は幼いころに父親を亡くしているため、母親に育てられていたのです。つまりどちらも親子2人暮らしの生活をしていました。この辺から、確率的には天文学的なことになってきます。  そして死んだお父さんが忘れられない麻琴の悲しいエピソードなどを経て、突然真の父親が麻琴の母親にプロポーズ! 麻琴の母親もそれを受け入れて結婚し てしまったため、2人の「久遠まこと」が一つ屋根の下に誕生したのです。こ、これはなんという偶然!  それまでに2人の親同士が付き合っていたような描写は一切なかったので、読者もそれはもうビックリ仰天です。まるで視聴率ひと桁台の月9ドラマのようなダイナミックなショートカットぶり。そして、一気にラブがコメり出すのです。  麻琴は、普段は真を叩いたり殴ったりしてツンデレぶりを発揮していますが、実際は真のことが好きだったのです。一方、真は学園のマドンナ理乃ちゃんに首ったけで、麻琴の気持ちにはまったく気がつきません。そんな悶々とした状況の中で一つ屋根の下の兄妹になってしまい、好きとは言えない関係に……。どうですか、実によくできたラブコメになってきたと思いませんか?  天文学的な確率の偶然は、まだ続きます。久遠家の隣に、ある一家が引っ越してきます。その家のイケメン少年の名は紅御悠矢(くおんゆうや)。これが意味することが分かりますでしょうか? つまり、ほぼ同一エリア内が「くおん」姓だらけになったのです。どこの村社会ですか、ここは。  この悠矢は真と麻琴が通う学校の同級生となります。イケメンであり、なおかつサッカーも天才的にうまく、女子にモテモテの悠矢は、学園のマドンナ理乃ちゃんを口説こうと接近。つまり、真の恋敵としてレギュラー登場するようになるのです。いやぁ、実にラブがコメッてますねえ……。  この三角関係は理乃ちゃんと真の両想いにより決着するのですが、敗れたイケメン悠矢は、今度は麻琴にちょっかいを出し始め、“自分の妹に、何ちょっかい出してんだ”と心配する真が、次第に麻琴の気持ちに気づいていくという……抜け出せない泥沼のような展開となっていきます。春風のように爽やかな絵柄で、昼ドラのような複雑な人間関係、度重なる天文学的な偶然、加えてほんのちょっとの思い出補正……これらの要素が奇跡的な融合を果たし、知る人ぞ知る伝説のラブコメへと昇華した作品、それが『くおん…』なのです。  ちなみに『くおん…』は、川島博幸先生の名義で出している初期の単行本全2巻と、鷹城冴貴と改名した後の愛蔵版の2種類が存在しますが、川島先生名義の単行本1巻の表紙に描かれている女の子(たぶん麻琴)がボブ・マーリーを凌駕する勢いの毛髪量でものすごいインパクトがあります。これだけでも一見の価値ありですよ。 (文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん<http://ablackleaf.com/>)

失敗と偶然が生み出す、神がかりショット写真集再び!『味写道』

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『味写道』(アスペクト)
 サブカル界のバイブル『バカドリル』シリーズ(アスペクト)の生みの親、天久聖一氏の著書『味写道』(同)が発表された。これは、2010年発売の『味写入門』(記事参照)に続く第2弾で、『ほぼ日刊イトイ新聞』の人気連載「天久聖一の味写道」をまとめた、前作からのファンも多い1冊。  タイトルにもなっている“味写”とは、「こんなつもりじゃなかったのに」「どうしてこんなものを撮ったんだろう」という失敗写真だったはずが、よ~く見ると、偶然が重なって重なって、妙に味わい深く仕上がっている写真のこと。本書ではそんな味写の中でも、よりすぐりの作品がずらり。とくに、筆者お気に入りの神クオリティの作品が、こちら。
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「全身無職」(C)天久聖一/アスペクト
 枯れた芝生の上で、ブレイクダンスがうまくいかず、ぐちゃっとつぶれたようなポーズの男性と、尋常ではないほど洋服に芝生がついている男性。2人とも無職とのことで、これ以上ないタイトルがあてがわれている。
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「都市伝説」(C)天久聖一/アスペクト
 なんだかすごい1枚。子どもがただ遊んでいるだけなのだが、この異様さ。こういうところから、都市伝説は生まれるのか!?
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「洗脳中」(C)天久聖一/アスペクト
 「○ンタッキー」の白い服の老人に、あたかも洗脳されているようなこの表情。○ンタッキーが好きになーれ、○ンタッキーが好きになーれ、○ンタッキーが……。  前回の『味写入門』も、素晴らしいクオリティの高さだったが、今回もまたすごい。一般の人々の日常がいかに笑いに満ちているのか、そして、日々どれだけ奇跡の出会いに満ちているのか。なぁんてことも感じられる、ハズ。  今回紹介した写真のほかにも、タクシードライバーらしきおじさまが横断歩道で、トランクを開けて座ってひと休みする「トランクおじさん」、ウォーーーと叫んでいるかのような超凶暴系「肉食パンダ」、お尻に桜が一輪見事に挟まったまま歩くおじいちゃん「ミッケ」など、100枚を超える名作ぞろい。新春のひと笑いどうぞ。 (文=上浦未来)

「もうエッチされてもいい!」危険ドラッグよりヤバい、“ドラッグルメ”なマンガ

 今年はたびたび脱法ドラックに関するニュースが世間を騒がせました。いろいろと物議を醸した「危険ドラッグ」という言葉もすっかり定着しましたね。また、中国ではアヘンの原料となるケシの実入りのラーメンを提供して常連客ゲット!→店長逮捕というびっくりニュースもありました。まさに「事実はマンガより奇なり」です。  とはいえ、もちろんマンガの世界だって負けていません。「麻薬入りメニュー」が出てくるマンガって、実は結構あるのです。正確にいうと「麻薬っぽい成分」入りの、食べだしたら止まらなくなるメニューですが、本コラムではこれらのメニューが出てくる、通称「ドラッグルメマンガ」をご紹介したいと思います。
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『包丁人味平』
●『包丁人味平』のブラックカレー  ドラッグルメのルーツ的存在としてあまりにも有名なのが、ビッグ錠先生のマンガ『包丁人味平』のカレー戦争シリーズで登場する、カレー将軍・鼻田香作の作る「ブラックカレー」です。  鼻田香作は6,000種類のスパイスを嗅ぎ分けることができる恐るべきカレー職人で、その鋭い嗅覚を保護するために、普段は鼻の部分だけに黒いマスクをつけています。その結果として、奈良公園にいる鹿っぽい見た目になっているんですが、ブラックカレーの恐ろしいところは、食べた人の感想は決まって「なんだか変な味」「コールタール食べてるみたい」と、決して褒められたものではないのに、気が付くと背景がドローンとなり表情はポワーンとして、再びフラフラと店の中に入って行ってはブラックカレーを注文してしまうのです。  この恐るべきブラックカレーの秘密ですが、鼻田香作がスパイスを調合しまくっているうちに、いつの間にか麻薬に近い成分になってしまっていたというもの。まったく恐ろしいカレーがあるもんですね。危険カレー、ダメ。絶対。
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『口裂け女あらわる!―昭和怪奇伝説』
●『黒い清涼飲料水』のおじさんコーラ  続いてご紹介するのは、ホラーマンガ作家の呪みちる先生の描く短編『黒い清涼飲料水』に出てくる通称「おじさんコーラ」です。  少女が夏休みのプールの帰り道に通りかかる公園で、アイスボックスに50円のコーラを詰めて売りに来るおじさんがいました。毎日毎日「おじさんコーラ」を買って飲んでいると、いつしかほかのジュースがまずくて飲めなくなり、一度おじさんコーラの味を思い出すと飲みたくて飲みたくてどうしようもなくなるという、禁断症状が現れるようになります。  初めは50円で売られていたおじさんコーラは、100円、200円、300円と次第に値段が上がっていき、お金が払えなくなった女の子たちはおじさんのエッチな要求と引き換えにコーラを買うようになっていきました。最初は拒んでいた少女も「もうエッチされてもいい」などと言いだす状況になったのです。  この話は、それだけでは終わりません。いつしか時は過ぎ、おじさんコーラの話はただの都市伝説となった頃、大人になった少女が飲料会社で不思議なおじさんコーラの味を思い出して作った商品が「Zコーラ」。そして「Zコーラ」は一度飲んだら病みつきになる空前のヒット商品となったのですが、実はその病みつきになる秘密の成分として、コーラの中にはなんと……人間のアレが入っていたのです(ギャー!)。というホラーマンガです。まったく恐ろしいコーラがあるもんですね。危険コーラ、ダメ。絶対。
chukaichiban.jpg『中華一番!』
●『中華一番!』のケシの実入りイカスミビーフン  13歳の少年中華料理人マオが活躍するマンガ『中華一番!』にも、ドラッグルメなメニューが出てきます。「広州料理界の魔女」チェリンさんが作る、真っ黒いイカスミビーフンがそれです。  チェリンさんは登場シーンからして火薬で食材を爆破したり、主人公マオの首のツボにこっそり鍼を打ち込んで味覚を失わせたりと、さすが魔女と言わんばかりのアウトローな行動を取るキャラでしたが、出来上がった料理もやはりヤバかった!  イカスミビーフン食べた人たちの背景がドヨーンとまだらになって「な、なんだこれは」「止まらぬ」「お……恐ろしく後を引く味だ!!」とガツガツと食べまくります。そこへ試食したマオが「チェリンさんは料理人として絶対やっちゃいけないことをやったんだ!!」「この料理には禁断の調味料が使ってあるんだ!」とブチギレます。  そうです、このイカスミビーフンに「ケシの実」が大量に使われていたのです!……って、試食して速攻で分かるマオ(13)も、実は結構なジャンキーなんじゃないかという疑惑がありますが、マンガではそこには一切触れられていません。まったく恐ろしいビーフンがあるもんですね。危険ビーフン、ダメ。絶対。
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『魔人探偵脳噛ネウロ』
●『魔人探偵脳噛ネウロ』のドーピングコンソメスープ  グルメマンガではありませんが、「魔人探偵脳噛ネウロ」に出てきたドーピングコンソメスープも、ドラッグ入りメニューとして有名です。  ドーピングコンソメスープは、成功を呼ぶレストラン「シュプリームS」の至郎田(しろた)正影シェフが生み出した究極のメニューです。レシピも、実にアウトデラックス。  鴨肉、チコリ、アスパラガス、ヴィネガー、塩、レモン皮、モリーユ、ポルト酒、砂糖、ハーブ・スパイス11種、コカイン、ヘロイン、覚せい剤、モルヒネ、ペンタゾシン、ステロイド系テストステロン、ヒト成長ホルモンhGH……後半は、ダイレクトに薬剤名が記載されてます。もう清々しいほどに真っ黒です。  これらの数えきれない食材・薬物を精密なバランスで配合し、特殊な味付けを施して煮込むこと七日七晩!! 血液や尿からは決して検出されず、なおかつすべての薬物の効果も数倍、血管から注入る(たべる)ことでさらに数倍!! これがドーピングコンソメスープだ!!……血管から注入って、それもうコンソメスープじゃなくていいじゃん。  ちなみに、コンソメスープを血管から注入(たべ)た至郎田シェフは、筋肉ムキムキの超人ハルクみたいなバケモノになっちゃいます。危険コンソメスープ、ダメ。絶対。(しつこい)
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『鉄鍋のジャン!』
●『鉄鍋のジャン!』の幻覚キノコ入りスープ  最後にご紹介するのは、やはり中華料理のマンガで『鉄鍋のジャン!』。このマンガほど、ドラッグルメ度が高いマンガもなかなかありません。  全日本中華料理人選手権大会で主人公のジャンが審査員に振る舞ったキノコスープが、実は二種類のキノコをブレンドして幻覚興奮成分を発生させたマジックマッシュルームスープなのでした。当初、審査員は「まあまあだ」「なかなかですな」という評価で、採点も10点満点中5点とか6点とか平凡なものでしたが、しばらくした後、審査員たちが瞳孔の開ききった目で「す……すまんがやっぱりもう一度、もう一度味見をしたい」「ぱふぅ」などと言いながらスープを飲み干し「10点満点で100点ぐらいすばらしい」「1万点いや5万点と書いてやる!」などとわけのわからないことを言い始めます。ていうか、なんで5万点。逆に中途半端だろ……。  『鉄鍋のジャン!』は、この幻覚キノコ入りスープ以外にも危険なメニューが多数出てきます。食べると体がピクピクして動けなくなるケシの実入り麻婆豆腐が出てきたり、食べると脳内麻薬物質エンドフィンを分泌させる子羊のローストが出てきたりして、まさに無法地帯。ドラッグルメの王者と呼ぶにふさわしい存在なのです。  というわけで、皆さんの人生に決して役に立つことのない、危険ドラッグよりヤバいドラッグルメマンガの世界をご紹介しました。ちなみに日本では、アンパンの上にケシの実が乗っているやつがありますが、あのケシの実は体に無害で安全なものらしいですよ。安全安心にドラッグルメしたければ、アンパンがオススメですね! (文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん<http://ablackleaf.com/>)

高所、灼熱と極寒、異世界、廃墟……世界中の絶景を集めた『行ってはいけない! 危険な絶景』

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『行ってはいけない! 危険な絶景』(竹書房)
 世界には、立ち入り禁止、アクセス困難、極限の環境……とわかっていても、どうしてもこの目で見てみたいと思わせる、とんでもない絶景が存在している。海外へ行くと、安全第一の日本では絶対に考えられない配慮のなさで、自分の身は自分で守りやがれ! 死んじゃっても知らないよ、とばかりに野放しに開放され、その分、絶景が満喫できて感動も大きいことが結構ある。  たとえば、ペルーの世界遺産「マチュピチュ遺跡」のような超有名観光どころ。実際に行ってみて驚いたのは、自由にあちこち歩き回れるということ。入り口から順路通りに進み、出口へというようなお決まりのルールがなく、高所の崖っぷちに造られた遺跡ながら、柵がない。うっかり足を滑らせたら即死間違いなしの場所がいくつもあるが、自由な移動を許されているからこそ、南米のダイナミックな自然とともに遺跡を大満喫でき、ずっとここにいたいという気持ちにさせられた。  『行ってはいけない! 危険な絶景』(竹書房)は、ページをめくるたび「ほぇ~、世界にはこんな場所があるのか!」と驚かされる、世界中の絶景を集めた一冊である。「思わず膝が震える!高所の絶景」「極限の地だけで見られる神秘 灼熱と極寒の絶景」「ここは本当に地球?異世界の絶景」「戦慄と悲哀を覚える世界 廃墟の絶景」の4つのテーマを軸に、大きな写真と詳しい紹介文で、世界約50カ所を紹介している。  年間100人が命を落とすといわれる、断崖絶壁を伝い歩く中国の命がけの登山道、パキスタンにあるワイヤーと木片だけで作られた今にも壊れそうな世界最恐の橋、世界で最もマグマに近づけるバヌアツ共和国の山など、まさに近づくことも危険な絶景ほか、最近話題を集めている空が湖に反射するボリビアの塩湖や、セネガルの美しいピンク色に染まる湖など、日本から簡単にはたどり着けないものの、ちゃんとした手順を踏めば誰でも立ち寄れる絶景スポットまで幅広い。  また、本書の中でも異彩を放っている「廃墟の絶景」の章では、絶景かどうかは不明だが、超ホラースポットが紹介されている。たとえば、ドイツ・ブランデンブルク州の州都・ポツダムのほど近くにある廃病院「ベーリッツ・サナトリウム」は、かつてアドルフ・ヒトラーが下級兵だった頃、治療のために入院していたこともあるという病院で、激しく荒らされた手術室跡ほか、建物内は独特の退廃的な空気を漂わせ、興味本位で訪れた人は、みな一様に押し黙ってしまうという……。ほかにも、人骨で装飾されたチェコにある骸骨寺院、無数の人形で埋め尽くされたメキシコの人形島など、恐ろしくも気になるスポットばかり。  この本を参考に旅をすれば、刺激たっぷりなこと間違いなし。ただし、行くにはそれなりの覚悟と、もちろん自己責任でヨロシク。 (文=上浦未来)

反日マンガの仮面をかぶった壮大な釣り!? 日本で唯一のテコンドーマンガ『テコンダー朴』

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『テコンダー朴』(晋遊舎)
 格闘技をテーマとしたマンガの題材といえば、すぐに思いつくのは空手、拳法、ボクシング、プロレス、総合格闘技といったところでしょうか。日本の国技、相撲のマンガもあるといえばありますが、ちょっとキワモノ感が強いです。平松伸二先生の『どす恋ジゴロ』なんて、実際の相撲のシーンよりもベッドで夜の大相撲をやってるシーンのほうが多いぐらいです。  ところで、お隣韓国の国技「テコンドー」をテーマとした珍しいマンガが存在するのはご存じでしょうか? しかも、日本の雑誌に掲載された日本人向けのマンガであるという、異色すぎる存在。その名も『テコンダー朴』です。  『テコンダー朴』の最大の特徴は、韓国の国技としてのテコンドーを扱ったマンガであると同時に、強烈な反日メッセージを盛り込んだマンガでもあるところです。主人公のテコンドー使いの青年、朴星日(パク・スンイル)が、邪悪で卑怯なチョッパリ(日本人野郎)をブチのめすシーンというのが、この作品の肝となっています。  なにしろ、マンガ内に出てくる日本人がことごとく卑劣なクズ野郎なのです。このマンガを読む限り、日本人はブチのめされてもしょうがない奴らの集まりです。 「薄汚ねえ在日野郎はさっさと韓国に帰って犬でも食ってろよ!」 「在日刈りだぁ?」 「汚ねえ朝鮮■落をブッ潰してやる!!さっさと日本から出て行きやがれー」  こんなセリフを吐きながら韓国屋台料理の店を破壊したり、在日韓国人の女子どもを容赦なく襲う日本人たち。うわぁ……日本人クズすぎる! 日本人って、こんな『北斗の拳』のモヒカン族みたいな国民性だったのか。最悪ですね!!  そんな憎き日本人に、朴の怒りのテコンドー奥義が炸裂します。両手を合わせて人差し指で相手を鋭く突く、その必殺技の名は「重根(チュングン)」。この重根は、伊藤博文を撃ち倒した韓国の英雄、安重根の拳銃をイメージした技(型)です。決してカンチョーではありません。そのほかにもいろいろとテコンドーの奥義が出てきますが、どれもこれもすごいです。 「奉昌(ボンチャン)」昭和天皇に手榴弾を投げつけた韓国の独立運動家、李奉昌をモチーフにした技 「統一(トンイル)」テコンドー最終奥義とされる南北朝鮮の統一の決意をあらわしている技  ……などなど。蹴り技イメージの強いテコンドーのイメージを覆す手技の数々が登場します。このうち、「重根」「統一」は日本国際テコンドー協会でも紹介されている実在のテコンドー型となっています。抗日のシンボル的存在である安重根をモチーフにしたり、南北朝鮮の統一を願った奥義があるとは、なんて政治的意味合いの強い格闘技なんでしょうか……。美女と毎晩夜の千秋楽を迎えまくってる日本の国技マンガとは、シリアスさが全然違いますね。  ちなみに作品中では、テコンドーは5000年の歴史があり、空手、柔道、剣道、相撲などあらゆる日本の格闘技が韓国起源であるとか、金剛力士像はテコンドー武芸者の姿がモチーフになっているなど、日本人なら確実に衝撃を受けそうな起源アピールも盛り込まれております。5000年の歴史を誇っているわりに奥義の名前が「重根」とか「統一」って、えらく現代的な気もしますけど。  本作品の主人公、朴星日の本当の目的は、朴の父親のテコンドー道場を道場破りによって潰した日本人格闘家、覇皇(はおう)を倒すことにあります。この覇皇という男がまた「大東亜共栄拳」なる、身もフタもない感じの名称の必殺技を使う男なのです。それにしても、自分で覇皇って名乗るなんて、なかなかの中二病ですね。  ストーリーは、朴が宿敵である覇皇と闘うことができる格闘技トーナメントの出場権を手に入れる第3話で最高潮の盛り上がりを見せるのですが、それ以降のストーリーは掲載誌である「スレッド」(晋遊舎)が休刊(事実上の廃刊)になったため、お蔵入りとなってしまいました。  実は、この「スレッド」が創刊された2007年は、03年以降に盛り上がった『冬ソナ』ブームや韓流ブームのアンチテーゼとして2ちゃんねるを中心に嫌韓ムーブメントが起こった年で、インターネット上で「嫌韓流」「ネット右翼」「売国奴」などのキーワードが使われるようになったのもこの時期です。「スレッド」もそれに迎合するように、嫌韓流をあおるような記事が多数掲載されている雑誌でした。  つまり、作品だけを読むと、表面的には反日マンガあるように見える『テコンダー朴』ですが、ありえないほど反日的な内容にすることで日本人読者の嫌韓をあおる目的があった可能性が高いのです。作品が途中で終わっているので、真相は闇の中なのですが。  そういうややこしい事情がある『テコンダー朴』ですが、貴重なテコンドーマンガであることには変わりはなく、その無慈悲な反日っぷりも含めて、純粋に面白い作品になっています。この先の展開が気になるところですが、いま再びこの作品を世の中に出したら、せっかく寝た子を起こすようなエラい事態になりそうなので、おそらく永遠に封印されることになるのでしょう。 (文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん<http://ablackleaf.com/>)

池袋に中華街、錦糸町にリトルバンコク……東京でアジアを感じる案内本『東京のディープなアジア人街』

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『東京のディープなアジア人街』(彩図社)
 かつて一大ブームに沸いた韓流の街・新大久保をはじめ、錦糸町のリトルバンコク、高田馬場のリトルヤンゴン、池袋の新中華街、西葛西のリトルデリー、竹ノ塚のリトルマニラなど、東京には母国を離れて暮らすアジアの人々が独自のコミュニティを形成しているエリアが多数存在する。『東京のディープなアジア人街』(彩図社)は、そんな異国情緒漂うディープなエリアを徹底的に紹介する、アジア好きにはたまらない1冊だ。  著者の河畑悠氏は、学生時代にアジア独特の怪しさや猥雑さの魅力にとりつかれ、バックパッカーとしてアジア全域を放浪した経験を持つ。帰国後、池袋に中華料理を食べに、新大久保に韓国料理を食べに、錦糸町にパクチーを買いにと、あちこち回っているうちに、東京にもアジアが感じられる場所があることに気づく。日本とは言語も風習も異なる在留アジア人は、当然ながら、自分たちの国の食材が欲しくなるし、気兼ねなく訪れられる飲食店、パブやスナックを求める。そして、自然と同郷の人たちが集まり、自国と同じような空気感を形成していく。  たとえば池袋の中華街。私も、かつて池袋の北口に中華系のお店がたくさんあるらしい……との噂を聞きつけ、探してみたことがあるのだが、ぶらぶらと歩く程度ではさっぱり見つけられず、がっかりして帰った記憶がある。ところが、噂だけではなく、どうやら本当に存在しているようで、中華食品店、美容室、書店にカラオケ、ビリヤード店、マッサージ店、ネイルサロン、ガールズバーなど、生活に必要なものがそろっているという。しかも、日本一有名な横浜の中華街とは違う特徴として、池袋には中国東北部からの留学生が多く集まっていることから、彼らをターゲットにした東北料理店が多いという。中でも特筆すべきが、吉林省の朝鮮族自治州の韓国料理と中華料理をミックスした「延辺料理」なる店の多さで、その代表的なメニューは、クミンをふんだんにまぶした羊の串焼きや犬肉料理というから、なかなか衝撃的である。  また、錦糸町に存在するというリトルバンコクの章では、ほかの街でもよく見かけるタイ料理店やタイ古式マッサージ店だけではなく、タイ料理教室やタイ語教室、フルーツや野菜で器を作るタイカービングなど、タイに関すること全般を学べる「タイ教育・文化センター(タイテック)」を紹介。そんな場所があったのかとまず驚いたが、その理事長を務め、さらには、タイ食材輸入会社「ピーケーサイアム」代表、タイ料理店「ゲウチャイ」オーナーも務める、1976年に来日した松本ピムチャイさんにインタビューも試みている。なぜ錦糸町だったのか、リトルバンコクが誕生するきっかけなど、“ほー、なるほど!”と納得できる興味深い内容が記されている。    アジアが大好きだけれど、時間やお金がなくてなかなか行くことができない人、かつてバックパッカーだった人、アジアに興味はあるが未経験の人が興奮する内容に仕上がっている。 (文=上浦未来) ●かわはた・ゆう ライター・編集者。1979年生まれ。学生時代にアジアの魅力にとりつかれ、バックパッカーとしてアジア全域を旅する。大学卒業後、業界紙記者や情報誌の編集などを経験。現在はアジア関連をテーマとするライターとして活動中。好きな場所はタイのバンコク。タイ料理やゲテモノ料理の食べ歩きがライフワーク。

ガチで硬派なロリコンマンガ『あんどろトリオ』に見る、昭和のポジティブ変態

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『あんどろトリオ』(秋田書店)
 マンガの世界では、「ロリコン」という言葉はほとんど見かけなくなりました。しかし、美少女が出てくるマンガは減るどころか、むしろ商業的には活況の一途をたどっています。それはなぜか? おそらくは、2000年以降急速に普及した「萌え」という概念が、「ロリコン」というネガティブワードの隠れみのの役割を果たしているからではないでしょうか。「ロリコン」は、常に変態や犯罪などのネガティブイメージがつきまといますが、「萌え」だとマイルドな語感で、サブカルな香りすら漂います。「ロリコンは死んだほうがいいけど、萌え系はちょっとオシャレだよねー」みたいな。これは言葉のマジックですね。  1982年(昭和57年)から「週刊少年チャンピオン」(秋田書店)に連載されていた内山亜紀先生の作品『あんどろトリオ』は、昭和の作品らしく萌えマンガとは一線を画した純度100%の正統派「ロリコンマンガ」であるといえます。まさに、真のロリコンを追い求める、硬派のためのロリコンマンガといっていいでしょう。  内山先生はロリコン漫画家の筆頭として多数の作品を世に送り出していますが、『あんどろトリオ』は「週刊少年チャンピオン」という超メジャー少年誌に堂々と、合法的に掲載されていたというのが文化的価値の高いところです。  内山先生の描く少女は、現代の萌えマンガ特有のデフォルメされたアニメ絵とは異なり、大人びた顔立ちに幼児体型をミックスしたような昭和の香りを感じさせる美少女です。いま見ると、尋常じゃない背徳感と不健全さが漂っています。プロも納得するガチのロリコンというのは、こういうものなんだろうなと思わせられるものがあります。  では、『あんどろトリオ』はどんな作品なのでしょうか? ひとことで言うと、女の子が毎回パンツを脱がされるマンガです。実にシンプル。読者の欲望にダイレクトに応えているマンガといえます。  これだけだと作品紹介としてあんまりなので、もう少し詳しく説明しますと、主人公は「つかさ」という小学生風の女の子です。つかさちゃんはデフォルトでパンツが見える上にどのアングルから見てもパンツが見えるという、ちょっとどういう構造になっているのかよくわからない服を着ています。つまり、ほぼ全ページにわたって常にパンツが描かれています。内山先生のパンツへの執念を感じさせますね。  つかさちゃんの取り巻きには、「センパイ」「少年」というキャラクターがおり、3人合わせて「あんどろトリオ」を形成しています。一方で、つかさちゃんのパンツを狙う「紅ガイコツ団」という変態軍団や「イヤラッシー」という変態犬も登場します。イヤラッシー……変態犬にはこれ以上ないほどに、ピッタリの名前です。  つかさちゃんのパンツを狙う「紅ガイコツ団」をガードするために、センパイがいろんなアイテムを発明するのですが、味方であるセンパイも変態なので、結局パンツが見えることには変わらないという変態の多重構造になっています。  ちなみに、センパイがどのくらい変態なのかと言いますと、自分の家がパンツの形をしています。なんというか、インジケーター振り切ってる感じの変態ですね。  そもそも昭和のエッチマンガの特徴として、自ら変態だと公言してはばからないポジティブ変態なキャラが結構登場していました。「変態ですが、何か?」みたいな。それに対して現代の萌えマンガは、どちらかと言うと、一見女子に興味がなさそうな草食系男子がハプニングでエッチなトラブルに巻き込まれるみたいな設定が多い気がします。男らしい凛とした態度の変態は、昭和時代のほうが多かったということですね。  話がそれましたが、センパイがつかさちゃんのために発明したアイテムであるチカン撃退用のパンツ、通称「ニャンコパンツ」はパンツに描かれている猫のプリントに触れると「なめ猫」が飛び出すという仕掛けになっています。このパンツから立体物が飛び出してくる描写は、マンガ誌上類を見ないブッ飛んだ表現と言えます。  この飛び出すパンツにはさまざまなバージョンがあり、かわいい赤ちゃん猫が飛び出すパターンや、おっかない番長が飛び出すバージョンもあります。そのほかにも、尿意をもよおすと股間から卵が生まれるパンツなどもあり、まったくもって意味が分かりません。  さらに、パンツだけではワンパターンと見たか、途中からパンツに変わってオムツの出現回数も増えてきます。素人目には、正直言って何も変わっていないのに等しいのですが、もしかしたらその道のプロが見れば、パンツとオムツは全然別物なのかもしれません。  これだけパンツだオムツだと毎回少女が脱がされているマンガがメジャー誌で掲載されていたというのは、いかに規制が緩い時代とはいえ驚くべき現象ですが、上も下もちゃんと隠すべき部分は巧妙に隠されており、この辺は少年誌掲載マンガとしてのギリギリの良心を感じます。まあ、ギリギリアウトって感じですけど。  というわけで、最近のヌルい萌えマンガに辟易していた古きよき変態の皆様には、ぜひ『あんどろトリオ』をお読みになっていただき、昭和のエロスが醸し出す背徳感を感じ取っていただきたいと思う所存です。読み終わる頃にはきっと、人様に迷惑をかけない一皮むけた硬派の変態になっていることでしょう。 (文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん<http://ablackleaf.com/>)

こんな問題に人生を弄ばれていたのか!『絶対に解けない受験世界史―悪問・難問・奇問・出題ミス集』

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『絶対に解けない受験世界史―悪問・難問・奇問・出題ミス集』(社会評論社)
 人生を左右する大学受験。それを通過してきた人の中には「まさか、あんな問題が出るとは……」という苦い思い出を持っている人も多いんじゃなかろうか?  筆者もそうである。「世界史で90点以上取れるから大丈夫だろう」と軽く合格を予測していた某大学の入試。問題用紙を開くと、掲載されていたのはスペインの19世紀末~20世紀前半を問う問題だった。教科書レベルを越える出題範囲でした、ハイッ!  『絶対に解けない受験世界史―悪問・難問・奇問・出題ミス集』(社会評論社)は、人生を左右する局面に登場した、とんでもない出題を集めた一冊である。大学受験の必須アイテムである赤本をイメージした装丁。掲載されているのは、さまざまな大学で実際に出題された難問・悪問、そして出題ミスなのである。いくつか引用してみよう。 ●慶応大学文学部<悪問> 問題3 (南ア戦争=ブール戦争)戦争は、イギリスにとっては(F)戦争以来の長期戦となった。 ●早稲田大学国際教養学部<出題ミス> 問題1 問3 下線部2の地(編註:現在のシリアの首都)を支配したことのない王朝はどれか。ア~エのうちから一つ選びなさい。 ア アッバース朝 イ ササン朝 ウ マルムーク朝 エ ウマイヤ朝  わかるだろうか? 前者はクリミア戦争が当てはまりそうだが、「長期戦」をどう捉えるかで回答が分かれてしまう問題だ。  後者はササン朝を答えにしたかったのだろうが、「支配したこと」は、すべての王朝があるのだから、一つは選べないのである。  作者は、こうした人生を左右する入試での、トンデモ問題にひとつひとつツッコミを入れていく。この問題でも「この作題者は多分ホスロー2世知らないよね」とか、容赦ない。またクラシックミュージックを扱った慶応大学の難問では「慶応大学の商学部を受けるような層にとっては“クラシックは一般教養の範囲内”という判断は可能かもしれない」と記す。  そして、この本は464ページもあるのだが、掲載されているのは2009年以降のもの。わずか5年あまりで、こんなにトンデモ問題が出題されていたというわけである。「人生懸かってるのに、何してるんだ!」そんな怒りを感じるのは、筆者だけではないハズだ。 (文=昼間たかし)