元祖“出会い系”のいかがわしき世界……伝説のスケベマンガ『テレクラの秘密』

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『テレクラの秘密』(成田アキラ/スケール)
 みなさんは「テレクラ」って、知ってますか? いまやすっかり死語同然になってしまいましたが、1980年代から1990年代にかけて、テレフォンクラブ略して「テレクラ」というお店が繁華街にはたくさんありました。今聞いても、いかがわしくあやしい、なんともいえない響きがたまりません。 「テレクラ」は、いわゆる風俗の一業態。インターネットが普及するまで興隆していた出会い系システムです。基本的には狭い個室に電話とかティッシュが置いてあるだけで、男性がその個室でひたすら女性からかかってくる電話を待つというもの。電話で男女の会話が盛り上がり、交渉が成立すれば、電話を介したチョメチョメ(死語)やら、店外でのニャンニャン(これも死語)などに発展する可能性もあります。  そんな「テレクラ」の世界にどっぷりとハマり、人生をテレクラに捧げ、テレクラマンガという一大ジャンルを築き上げた伝説の漫画家がいます。その名も成田アキラ先生。そして、その成田先生が内外タイムスで連載していた日本初のテレクラマンガが、今回ご紹介する『テレクラの秘密』です。  成田先生こそ、まさしく「スケベマンガの帝王」と呼ぶにふさわしい存在です。この場合、エロマンガでもエッチマンガでもなく、「スケベマンガ」であるというところがポイント。なにしろ成田作品は、漂いまくるオヤジ臭に加え、淡々としたタッチがやけにリアルなギャグテイストになっているのです。やはりこれは、紛れもなく「スケベ」なのであります。 『テレクラの秘密』は、基本的に成田先生自身がテレクラに入店し、電話越しでひたすら女性客と会話。外で会う約束を取りつけられたら、待ち合わせからホテルに連れ込んでエッチするまでの一連のオトコとオンナの駆け引きや、その顛末を体験マンガにしています。  仕事でスケベできるなんて、うらやましい! と思うかもしれません。もちろん若くてかわいいOLや、美人な人妻が来れば超ラッキーですが、当然ながら、そんなにうまい話ばかりではありません。超デブスなオバサンや、性欲ありまくりのお婆ちゃん、手を出したら一発アウトの未成年や性病持ち、ヤクザの情婦に至るまで、あらゆるトラップだらけの中、テレクラで出会ったオンナはどんなにブサイクでもとりあえず口説いてラブホに連れ込もうとする成田先生のテレクラにかけるプロ根性は、ある種の悟りの境地に達しているといえます。 「ボクはこの数十年、かけっこで全力疾走をしたことがない。しかし、いい女とセックスする時は全力を尽くしてする。息切れし、心臓が破裂しそうになってもする。やっている時、これで死んでもいいような気になる。全くボクはどうしようもないスケベだ」 「愛のあるセックスでは決してない。原始的で粗暴で、けもののようなセックス、格闘技セックスなのだ」 「ボクにはヘンなクセがあって、女性が歓んでくれればくたばるまでやってやろーじゃないかという気持ちになる。こうなると、もう耐久レースの観を呈してくる。すでに肉体的快感はなく、頭はモウロウとして、ただ惰性的、自虐的持続があるのみ」  作品中、こんな数々の名言まで残しています。まさに、道を極めた者のみが語ることのできるテレクラ名言。  作品終盤では、テレクラの全国行脚を敢行。北海道、盛岡、仙台、新潟、松本、京都、福岡、鹿児島、沖縄など各地のテレクラに赴いては、現地のオンナとエッチすることに命を懸けます。例えば沖縄では、男勝りのすごいパワーでカニバサミを仕掛け、身動き取れない状態でエッチするオンナが登場。 「これが沖縄の女だ、これがー。来たかいがあった!」 などと、エッチしながら感無量の表情の成田先生。いや、沖縄の女の人が、みんなこんなじゃないと思うんですけど……。  そんなわけで『テレクラの秘密』は、単なるドスケベマンガだと思ったら大違い。最後まで読むと、成田先生のストイックなまでにテレクラ道を追求する姿に感動すら覚える作品だったのでした。まあ結局、ドスケベマンガであることに変わりはないんですが。  成田先生は漫画家でありながら、自らのホームページを「漫画家成田アキラコミュニティーサイト出会い情報館」(http://www.akiragirl.com/top.html)と銘打ち、オトコとオンナの出会いをプロデュースする伝道師としても活躍。さらに、御歳70を迎える現在でも、ブログをガンガン更新されています。しかも「週刊アサヒ芸能」(徳間書店)で、『成田アキラの性感マン遊 女体の旅GTR』などという、むしろ若い時よりも絶倫じゃねーか、というようなタイトルの連載で活躍されております。いやはや、スゴいです。 (文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん<http://ablackleaf.com/>)

いったい何がイカンのか!? タイムリーな社会派ギャンブルマンガ 『野球賭博』

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野球賭博』(谷あく斗、村岡栄一/芳文社)
 いま、プロ野球選手の野球賭博問題が世間をにぎわせています。野球賭博といえば、有名なところでは1969年の黒い霧事件、そして2010年の大相撲野球賭博問題があります。特に2010年は多くの力士や親方が処分され、まさしく角界に激震が走った事件であり、記憶に新しい方も多いのではないでしょうか。そのわずか5年後に、再びプロ野球界で野球賭博問題が発覚するとは、この問題の根の深さを表しています。    そんなスポーツ界を揺るがす野球賭博問題ですが、いったい何が問題なのか? 一般的には、あんまりなじみがないですよね。正直、僕もよく知りません。しかし、そんな疑問を解決するマンガが存在するのです。その名もズバリ『野球賭博』というマンガです。まさに、このタイミングで紹介するにふさわしい作品と呼べるのではないでしょうか。  ちなみに、野球賭博の話が出てくるマンガは『ラストイニング』や『ラストニュース』『白竜』『名門!第三野球部』などがあります。しかし、いずれも、あくまで作品のほんの一部で取り上げているだけです。「野球賭博」そのものをフィーチャーしたマンガというのは、おそらく本作だけだと思われます。いかにもマンガにするニーズがなさそうですから、当然といえば当然ですが、とにかく大変異質な存在です。  実際、単行本の表紙からして、すごく異質です。どこが異質かというと、真っ赤なのです! 表紙が真っ赤なだけならまだしも、表紙に描かれているオッサンのサングラスの中まで赤いという、尋常じゃないセンスです。まるで、内容がレッドゾーンであることを物語っているかのようです。 『野球賭博』は、実は野球をテーマにした劇画短編集なのですが、プロ野球や高校野球で1軍に上がれないまま落ちぶれていった日陰男たちの悲哀をテーマにしています。普通の野球選手がテーマのマンガではなく、「落ちぶれた野球選手」専門のマンガです。すごいコンセプトですよね。  たとえば、第1話は、ドラフト5位でスターズ(明らかに巨人がモデル)に入団したもののフォーム改造で肘を壊し、結局1軍に上がることができずに解雇になった滝田という男の物語です。  球団の無理な投球フォーム改造のせいで人生を狂わされたことを恨んでいる滝田は、なんとハンク・アーロンの755本塁打の記録にあと1本と迫ったスターズの剛選手(明らかに王貞治氏がモデル) を誘拐するという暴挙に出ます。そして身代金1億円を奪い取った挙げ句、剛選手を殺してしまおうという計画です。100%逆恨みですね。  剛選手誘拐の一報を聞いた刑事たちは…… 「畜生! なんてことしやがる。明日の中日戦には来々軒の上カツ丼がかかってるってぇのに!」  なんと、剛選手が記録達成するかどうかでカツ丼を賭けていた模様。  結局、最終的には逃走中に警察によって銃で撃たれて殺されてしまう滝田。世にも悲惨なお話です。この話をまとめると、次のようになります。  プロ野球入団→球団による投球フォーム改造→肘を壊す→2軍でくすぶり続けた後、引退→テレビに出てるスター選手に嫉妬→その選手を誘拐→全国に指名手配→警察に銃で撃たれて死亡  プロ野球選手として大成できなかった末路が銃殺という、なんという転落人生……。こんな感じで、日の当たらない野球選手たちの切ない話が盛りだくさんなわけですが、やはりメインとなるのは第2話の野球賭博ネタの話です。タイトルは「ハンディ師竜二」。  主人公はタイトルの通り、ハンディ師の東竜二という男です。野球賭博にはハンディ師と呼ばれる、野球の試合に独自のハンディを設定して賭けを盛り上げるための仕掛け人が存在します。  ハンディ師の竜二は、現在はヤクザですが、元プロ野球選手で関西一の凄腕のハンディ師と呼ばれています。 「竜二、明日のハンディは何点や」 「パイレーツに2.5点やな!(くわっ)」  みたいな感じの会話でハンディが設定されます。たとえばジャイアンツVSタイガースの試合で、絶好調のタイガースが圧倒的大差で勝利すると思われる場合は、ハンディ師はタイガースに2.5のハンディを課します。その場合、実際の試合でタイガースが2点差で勝ったとしても、賭けの世界では負けとなります。  ちなみに、0.5というのは、実際の試合が引き分けに終わった場合でも白黒をはっきりさせるために設定されています。こうやって、ハンディ師のさじ加減で、実際には大差がつきそうな試合でも緊迫感を煽ることができるのです。そのためハンディ師は、元プロ野球選手のような相当プロ野球に詳しい人物がやるのです。  ……って、やたらルールを詳しく書いちゃってますが、よい子のみんなはくれぐれもやらないように!  さて、そんな凄腕のハンディ師竜二ですが、客の挑発に乗って「八百長賭博」に手を出してしまいます。実際のプロ野球選手を脅迫するなどして、勝敗に関わるような八百長をさせてしまう行為です。  目をつけたのはパイレーツのエース投手、尾形。実は、竜二とは甲子園時代のライバルでした。尾形投手は、なんと4日連続登板をするなど超人的な活躍をしていたのですが、実はドラッグの「スピード」をやってギンギンになって投げていたのでした。それに気づいた竜二は登板前にスピードを飲む瞬間をカメラで撮影し、それをネタに脅迫したのです。そもそも、試合中にドラッグやってるエースってのも、かなりありえない感じですが……。  しかし、今でも野球を愛しており、高校時代ライバルだった尾形を苦しめたことに良心の呵責を覚えた竜二は、もう八百長はしないと誓うのです。ところが、八百長賭博がめちゃくちゃ儲かることを知った組長たちは、竜二にもっと尾形に八百長をやらせるように命令します。抵抗した竜二は組と仲間割れ……。  腹をドスで刺されながらも球場に駆けつけ、試合中に苦悩している尾形の目の前でネガを焼き捨てる竜二。 「尾形、これであんたは自由の身や! もう何も恐れることはないで!」 「いいんだな、力いっぱい投げていいんだな、東」  野球を愛するひとりの男として、最後の良心が働いたのです。しかしその後、組からの刺客に刺され、力尽きてしまう竜二。 「歓声や…大歓声や、わ、わしは帰って来たんや、この歓声の中に…」  なぜか最後はちょっと泣ける話ふうになっていますけど、八百長賭博を始めたのは竜二本人ですので、どう考えても自業自得です。しかも、自分が歓声の中に帰って来たとか言ってるのも明らかに勘違いですし。  というわけで野球賭博に関わったがために、悲惨な末路を迎えてしまったハンディ師竜二の話でした。繰り返しますが、こんな悲惨な末路が待っていますので、賭博にはくれぐれも手を出さないように! あなたの人生が登録抹消されても知りませんよ!

安保法案可決も「“負けた”とは思っていない」高橋源一郎が“教え子”SEALDsと8時間語り尽くす!

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『高橋源一郎×SEALDs 民主主義ってなんだ?』(河出書房新社)
 9月19日、集団的自衛権の限定的な行使を容認した安全保障関連法案、別名「戦争法案」が、怒号が飛び交う中で強行採決された。わたしも採決の数日前に国会前で行われたデモを訪れたが、ともかく人、人、人だらけ。あまりの混雑で前にも後ろにも進めない中、10~80代ぐらいの幅広い年代の人々が共に“声を上げる”姿を見て、驚いた。バックグラウンドも違う日本人が力を合わせて活動する、という行為に感動すらした。  そして、この大群衆の先頭に立ち、トラメガを手に「戦争法案、絶対反対!」「安倍はヤメロ! ヤメロ! ヤメロ!」と叫ぶ、SEALDsメンバーを見て、あらためて驚かされた。テレビやネットでは見ていたが、表参道や青山にいそうなかわいらしい女子に、イケメン率の高い男子。これだけの巨大な人の渦を作り出したのが、彼らなのか。  SEALDsについては、すでにさまざまなメディアが「これが『SEALDs』の正体だ!」「中心メンバー奥田愛基の正体とは!?」などとあちこちで書き立てているので、サイゾー読者なら、おそらく何かしらの記事をすでに目にしたことはあるのではないかと思う。  良くも悪くもいろいろな“正体”が暴かれていると思うが、まったくイロのついていないSEALDsの素顔が見えてくる1冊が、『高橋源一郎×SEALDs 民主主義ってなんだ?』(河出書房新社)だ。これは、今年5月に発売された『僕らの民主主義なんだぜ』(朝日新聞出版)が10万部を超えるベストセラーとなっている作家であり、明治学院大学国際学部教授の高橋源一郎氏と、同学部4年の奥田愛基氏、同じく社会学部4年牛田悦正氏、上智大学国際教養学部4年の芝田万奈氏を中心とする、SEALDsの学生メンバーが、2日間、8時間をかけて「SEALDsってなんだ?」「民主主義ってなんだ?」を軸に語り合う対談集だ。  とくに、奥田氏とは大学入試の面接で出会ってからの付き合いだという高橋氏の、奥田氏を見る目はとても独特だ。「(奥田氏は)“野生”っぽかった。っていうか、本当に、学校教育を受けてきたんだろうか、と思った」とか、文章を書く授業では「惚れ惚れするような、変な文章を書いてくるんだ」と語り、社会や学校教育にまるで「洗脳」されたところがなく、異彩を放っていたのだという。  本書では、それぞれのメンバーがどういう家庭環境で育ったのかを含め、詳しい自己紹介から、そこからどうして「SEALDs」が生まれたのか、なぜデモを始めたのか、どういうふうにして今のデモの形になったのか、などの話が続き、合間、合間で、バイトでデモに参加できなかったなど、メンバー同士の大学生らしい話も出たりする。また後半では、高橋氏の講義のような形で、古代ギリシアの民主制にまでさかのぼり、民主主義とは何かをマジメにひもといていく。  先日、下北沢B&Bで行われたトークショーで高橋氏は、安保法案は可決されたが「決して“負けた”とは思っていない」と語っていた。 「政治学者の丸山眞男さんは、『政治運動や社会運動は“勝った”“負けた”ではない』と言っていた。運動をやることによって、法律を施行させなくすることに意味がある。実際、1952年に施行された破壊活動防止法も、法案は通ったが、反対の声が多くて長年使われていなかった。オウムの事件のときも使えなかった。これはどういうことかというと、社会がある法律に対してすごく反対したというトラウマが指導者に残るので、次回の選挙で落選したくない指導者はそうやすやすと施行できない。今回の安保法案も通ったけれど、いろいろと不備があることは指摘されているので、使おうとするたびに、みんなの記憶が蘇る。これが、社会運動が持つ、不思議な力なんです」(同)  本書は発売2週間ですでに7万部を超える大ヒットとなっているというが、続編『民主主義ってこれだ!』(大月書店)も、今月中に出版予定だという。  果たして、デモを通して学生たちがたどり着いた“答え”とは――。 (文=上浦未来)

ジャンルを越境する表現の自由を体現するルポルタージュ 昼間たかし『コミックばかり読まないで』

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『コミックばかり読まないで』昼間たかし(イースト・プレス)
「これのどこが亀頭なんですか!? ただのおっさんの頭じゃないですか!」  2007年頃だっただろうか、当時、某実話誌の編集者だった筆者は、営業部に内線電話をする編集長の失笑混じりの声を聞き、何事かと彼のデスクを覗いた。 「これ見てよ。営業部が、ここにモザイク入れろってさ」  編集長が見せてきたのは、とあるエロページの初校(印刷所から上がってきた第一校)だった。頭頂部ハゲのおっさんの後頭部が、“全裸の女性の股間付近にかぶり、おかげで女性のアソコがモザイクがないのに隠れている”という写真が掲載されたページである。 「『おっさんの後頭部が亀頭に似て卑猥だから、おっさんのハゲ頭にモザイク入れろ』って……」  なんてアホらしい、という表情の編集長だったが、結局オッサンのハゲ頭にはモザイクが入った。  その頃の私たちは、せっま~い世界ながらも、日々自主規制と戦っていた。表紙モデルにセーラー服を着せることができなくなり、「女子高生」という記述が「女子校生」ならOK、となった。男女のセックス写真が掲載される場合、局部のみのモザイクではなく、女性に触れる男性の体全てにモザイクが入るようになった。苦肉の策として、男性モデルに全身黒タイツを着せたこともあった。このあたりまでなら「そりゃそうか、“テープ綴じ(成人向けほどではないが、アダルトな内容を扱う雑誌に対して、立ち読み防止のためのシールで留めた雑誌)”じゃないもんな」と納得できた。  近年では、ベッドに白濁色の液体が滴っている写真はNG、上半身ヌードでのキス写真もNG、あげく、日本の芸術作品として世界中から評価されている春画にもモザイクが入った、なんてケースも聞いたことがある。  猥褻とは一体、なんなのだろう──。  このたびルポライター・昼間たかし氏が上梓した『コミックばかり読まないで』(イースト・プレス)には、前述のせっま~い世界での“亀頭事変”の火付け役であろう大本営の東京都と出版界との、“表現の自由”をめぐる攻防戦が詳細に記されている。  出版業界の自主規制システム。10年に出版界に衝撃を与えた「東京都青少年健全育成条例」をめぐる攻防。「しずかちゃんの裸は規制対象」との怪情報が混乱を招いた「非実在青少年騒動」の全貌。青少年課の課長や日本雑誌協会専務理事補佐、石原慎太郎や都議会議員などとの対話。数年にわたる昼間氏の取材によるルポルタージュは、もはや“戦いの記録”といっても過言ではない。  当然、<1999年の法施行以来、いくども続いてきた(児童ポルノの)所持をめぐる論争>が、<範囲を限定した上で所持を禁止するという形で、ひとまず決着を見た>という、14年6月に国会で成立した「児童ポルノ法改定案」にも言及している。お茶の間では「宮沢りえの『Santa Fe』は是か非か?」で話題になった、ソレである。  同時に、出版界における猥褻の歴史も追っている同書だが、今では考えられない過去を振り返っている。  日本では<1970年代から少女ヌードが多数量産されるように>なっており、当時、<少女ヌードは「芸術」の一ジャンルとみなされていて新聞社の後援で展覧会が開かれるような存在>であったという。  そして80年代前半にも、<数多くの雑誌が少女ヌードグラビアを堂々と掲載>しており、80年6月19日号の「週刊現代」(講談社)には「ふたごの少女11歳のメモリアル」というタイトルと共に少女ヌードが掲載されたという例も挙げている。 <子供の無毛の股間は猥褻と見られておらず、堂々と掲載させていた。陰毛があるから性的に興奮するわけで、少女の無毛の股間に性的興奮を覚えるものなどいない、というのがおおかたの認識であった>  契機が訪れたのは85年、「ロリコンランド vol.8」(白夜書房)が、わいせつ図画頒布容疑で警視庁に摘発されたことを発端に、<当局は「無毛の股間は猥褻である」と判断>されるようになったのだ。  さらにそういった志向が「変態」「ロリコン」であると拍車を掛けたのが、89年に起きた宮崎勤による「東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件」だったという。  猥褻は、ただそこにあるだけでは猥褻になりえない。誰かがある日突然、「猥褻」と決めて、初めて猥褻となるのだ。  だから営業部が、「おっさんのハゲ頭は亀頭だ! 猥褻だ!」とひとこと言えば、それすなわち猥褻なのだ。  この猥褻をめぐる問題のみならず、本書では10年に一大騒動となった東京都青少年健全育成条例をめぐる問題や、児童ポルノ法と表現の自由。さらには20年東京オリンピックと環境浄化へと進んでいく。何よりも注目すべきは、表現の自由をめぐる問題への取材はマンガやアニメ、アダルトメディアといった限られたジャンルにこだわるのではないということ。さまざまなジャンルを越境した取材は、映画監督の若松孝二、さらには猪瀬直樹や石原慎太郎へと続いていくのだ。  同書で昼間氏は、膨大な取材量でもって、そんな“現実”を教えてくれている。 (文=羽屋川ふみ) <トークイベント> 「コミックばかり読まないで」出版記念イベント 日本のサブカルチャーよ、何処へ行く。 http://www.loft-prj.co.jp/schedule/plusone/date/2015/09/30 日時:2015年9月30日(水) OPEN 18:30 / START 19:30 料金:予約¥1800 / 当日¥2000(要1オーダー500円以上) 会場:ロフトプラスワン (東京都新宿区歌舞伎町1-14-7林ビルB2 電話:03-3205-6864) 【出演】 昼間たかし(ルポライター) 鈴木邦男(評論家) 宮台真司(社会学者) 塚原 晃(作家) 増田俊樹(登場人物) 有山千春(フリーライター)

年間20~30種類の新商品を生み出すのは、たった4人!? 「チロルチョコ」の秘密に迫る 

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『チロルチョコで働いてます お菓子メーカーの舞台裏お見せします』(KADOKAWA)
 『チロルチョコで働いています』(KADOKAWA)は、チロルチョコ株式会社の企画室に配属された新人女性社員を主人公に、お菓子メーカー企画職のリアルが描かれたコミックエッセイだ。  帯には「チョコづくりのお仕事は甘くないっ!」とある。チロルチョコは、1粒20~30円の低価格なお菓子。薄利多売でやっていくため残業しまくり、ストレスで人間関係もギスギスして心身ともにズタボロ……そんなブラックな暴露話を想像したが、全然違って素敵でハッピーなお仕事だった。  チロルチョコが出している新商品は、なんと年間20~30種類。それを生み出しているのは、企画室のたった4人というから驚く。うらやましいのは、お菓子を買うのも仕事のうちであるということ。味やデザインの参考にするため、毎週30以上の新商品を試食するのだ。  新商品がコンビニに並ぶ毎週火曜日の朝に、買い集めに行く。お菓子を食べることがお給料につながる……いいなあ。  本書では「チロくま」という白熊アイスのチロルチョコの開発秘話が紹介されているのだが、そのパッケージデザインのこだわりがすごい。ただ素材をデザインするのではなく、新しいキャラクターを作るところから始まる。白いクマちゃんのキャラが誕生し、そのクマちゃんが片手に白熊アイスを持っているデザインがやっとのことで決まる。  さらに、クマちゃんが手に持つアイスをイラストではなく写真にするため、フードコーディネーターにアイスを作ってもらい、プロカメラマンに撮影してもらう。あとで合成して調整するために、みかんやパインなどパーツごとの写真まで撮るのだ。あんなに小さいチロルチョコのほんの一部であろうとも、とことんこだわる姿勢に心を打たれる。そこまでしても全国会議で営業担当者に「包み紙はパッと見て味がわかるようにしてほしい」とダメ出しが入るのだ。  まさに、チョコづくりのお仕事は甘くないっ! だ。そんな苦労を乗り越えたチロルだけが、お店に並んでいる。ああ、けなげなチロル。愛おしいやつ。  パッケージのこだわりは、まだある。チロルチョコは同じ商品で、複数のデザインを使用している。並べると牛の柄が完成する「ミルク」や、麻雀牌風デザインの「杏仁豆腐」、100個に1個の割合でキャラクターがピースをしている「アーモンド」など、遊び心にあふれている。箱がハロウィンのお面やすごろくになって遊べるように工夫されている催事企画品という特殊パッケージもある。  チロルチョコ株式会社の社是は「楽しいお菓子で世の中明るく」だそうだ。とことん商品開発にこだわるのも、人を幸せにするためなのだ。なんて素晴らしい会社だろう。  就きたい仕事が見つからないのだから働かなくてよい、という理由で就職活動を一切しなかったが、過去に戻って学生時代の私にこの本を読ませ、チロルチョコに入社志望させたい。  チロルチョコで働かせてください!  しかし、そんな願いはかなうわけがないので、チロルを食べて幸せにしてもらうほうを担当します。 (文=ナカダヨーコ)

山口組分裂を予告していた引退組長たち――話題の書『血別』に見る7年前のクーデター未遂の反省とは?

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『血別 山口組百年の孤独』(サイゾー)
『血別――山口組百年の孤独』(太田守正著/サイゾー刊)を手にしたのが8月中旬、7月からの暑さに身体がこたえる真夏だった。そして当の山口組の分裂を耳にしたのは同書を読み終え、興味を惹かれたページをめくり返している8月下旬だった。  元山口組直参の侠客・太田守正氏が記していた六代目山口組の矛盾、すなわち本部による物販や人事問題などが噴出する形で、すでに離脱(処分)者たちは神戸山口組という新組織を結成したという。ただし、山一抗争の時のような流血の抗争となっていないのは、暴対法などの法整備がすすんだ甲斐もあってか、さいわいなことだ。  六代目山口組の主流派・弘道会と反主流派となった山健組・宅見組の内部対立は、太田氏が批判した『鎮魂』(盛力健児著、宝島社刊)にもすでに明らかで、やはり派閥対立が解消しないまま、ここに立ち至ったのであろう。その意味では太田氏と盛力氏の本は分裂を予告し、導火線になったかのような印象である。  いっぽう、ただちに抗争が起きなかった事実とあわせて、今回の分裂劇がほとんど事前に漏れなかったという驚くべき事実である。おそらく離脱者たちの計画のうちに分裂劇は行なわれ、大量処分を生んだ7年前のクーデター未遂の反省のうえに、用意周到に行われたからであろう。ヤクザも学習能力・反省能力があるというわけだ。  その反省という意味では、盛力氏の先行書よりも、太田氏のほうが数等すぐれている。ヤクザの精神年齢は親分と呼ばれる人ほど無邪気で、たいがいにして悪ガキの気分を残したままだが、太田氏のそれは老成しない無邪気さを残したまま、だからこそ失敗や難事にも清新に向き合うところに共感が抱ける。盛力氏の自己を省みない態度、鼻につく自慢げな言説とは好対照だ。われわれ堅気の者が訊いてみたいのは、ヤクザの反省や経験に裏うちされた、年輪と風格のある言説なのである。  それにしても今後、六代目山口組と神戸山口組が相互に存在を認め合うのか、認め合わないまでも抗争に至らなければ、暴力団抗争史に新たな一ページを刻印することになるかもしれない。いったん流血の抗争になれば、抗争を暴力団の組織的な業務とみなす判例があるので、いまや民法の使用者責任で組長が逮捕・訴追される。銀行口座や保険、ゴルフ場にも入れない、いわば身分差別の暴対法のもとで、新しいスタイルの組織運営がなされるのであれば、それはとても物悲しく、しかし本来の任侠的共同体の姿を宿しているのかもしれない。  利益共同体ではない、相互扶助と親和的な共同体、そして擬似家族的な血の結束である。太田氏がいう「血別」とは、それでは彼の絶望だったのだろうか。いや、われわれは血の別れの向うにある、あたらしい共同体のあり方を知りたいのである。 (文=高輪茂/作家) ※太田守正氏のインタビューはこちら http://www.cyzo.com/2015/08/post_23441.html

パクリ度ゼロ! デザイン業界激震の独創的すぎるファッションマンガ『こっとん鉄丸』

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『こっとん鉄丸』(あおきてつお/小学館)
 東京五輪のエンブレム騒動以来、いろいろと激震が走っているデザイン業界。“この素晴らしいアートも、実はパクリなんじゃないか”と疑心暗鬼になる、悲しい風潮になってきちゃっていますよね。  とりわけファッション・アパレル業界では、そういうパクッたパクられたのトラブルは顕著のようで、どこぞのファストファッションブランドがシャネルをパクッただの、エルメスとそっくりだの、ボタンの数が違うだけだの、そっくりなようだけど素材が違うから別物だのと複雑怪奇な様相を呈しています。  しかし、今回ご紹介する『こっとん鉄丸』では、まったくその心配がありません! どう考えても完全オリジナル、独創的すぎてドン引き! 誰もパクろうとする気すら起こらないレベルに達しているデザインが次から次へと飛び出してきます。パクッて当たり前の今の時代に強烈なメッセージを投げつけてくる、オリジナリティあふれるマンガなのです。 『こっとん鉄丸』は1987年から「週刊少年サンデー」(小学館)で連載された、少年誌としては珍しいファッションデザイナーマンガです。一見、少年マンガでファッションを語られてもあまりニーズがなさそうですが、バトルの要素を巧みに取り入れ、しっかり少年マンガとして成立させています。  主人公の山田鉄丸は、世界一のファッションデザイナーを目指す少年。原宿を舞台に、いろんな有名ショップや悪徳デザイナーに難癖をつけてファッション勝負を挑みます。他人様のファッションに文句をつけて勝負を挑むぐらいですから、主人公の鉄丸は相当なファッションセンスを持っているに違いありません。いったいどんなおしゃれボーイが主人公なのか?  鉄丸のファッションは、スウェットに横並びにプリントされた巨大な2つのチェック柄の胸ポケット。ズボンにも胸ポケットと同様のチェック柄の巨大膝パットがあてがわれ、ズボンの裾はしっかりとソックスの中にインしているという、独創的すぎる服装。こんなの、パリコレでも見たことありません。  オシャレなのかダサいのか判断がつかない(というか、世間一般的な感覚だと超ダサい)謎ファッションに身を包んだ鉄丸が、原宿で大暴れ。道行く原宿の若者のファッションに、いきなりイチャもんをつけ始めます。 鉄丸「ははーん。これからナンパしに行くんだね?」 若者「そんなの、お前の知ったことかよ!」 鉄丸「ぷぷぷっ! 悪いけどそのまんまじゃ、誰も寄ってこないかもね」  初対面なのに失敬すぎるセリフを放ちつつ、いきなり若者のコーディネートをし始める鉄丸。 鉄丸「ほいっ、できあがり!!」 …じゃじゃーん 鉄丸「ジーンズのすそは絶対ロールアップしたほうがいいよ!」 若者の友達「へーっ! なかなかいいじゃん。カッコよくなったぜ!」 若者「そ、そうか…」  鉄丸のドヤ顔で繰り出されるファッションアドバイス。確かに、ファッションのトレンドは時代とともに変わるもの。今まさに2015年、一回りしてロールアップがカッコいい時代が来つつあります。でもそれを踏まえた上でも、やっぱり全体としては実に微妙な感じに仕上がっております。これはパクれない!  さらに、このマンガはお役立ちファッションマンガ的な側面があり、鉄丸のファッションアドバイスコーナーがちょいちょい挟まれています。参考のために、いくつかご紹介しましょう。 ・国旗のプリントが今年のトレンド ・麻のジャケットはツータックのチノパンと合わせるのがオシャレ ・素足にスニーカーを履くことを強く推奨 ・いつもの服に「ワッペン」をつけるだけでオシャレ服に  などなど、さらに解けにくい靴ひもの通し方、モテるネクタイの結び方、デニムの色の落とし方、靴を買ったらまず防水スプレーをしろ、いま持っている服のボタンを付け替えるだけで途端にオシャレに、等々の明日から使える実践的アドバイスてんこ盛り。実践的なのに、なぜか真似したくないオシャレアドバイスが満載です。  ファッションバトルのハイライトはなんといっても、「ルフォーレ原宿」のショップ出店権をかけて有名ブランド「ヒューマンズ」とジャケット対決をするストーリー。それぞれのブランドのジャケット100着を先に完売したほうが勝ちという単純明快なルールとなっています。  鉄丸と敵対する有名ブランドのパーソ……もといヒューマンズは、ソ連からの直送ルートで格安の麻を手に入れ、普通なら4万円は下らないジャケットを1万5,000円で売るという戦略です。そう、価格のリーズナブルさも勝負のポイントなのです。  一方、鉄丸は麻のコストに頭を悩ませます。そこに妙案が!「コーヒーの麻袋を使えば、タダ同然じゃないか!」えー! 何言ってんの、コイツ?  しかも、麻袋にプリントされたコーヒーのロゴをデザインとしてそのまま利用。 「このスタンプって世界各地のものでしょ? 見てるだけでも夢があるじゃない?」  どう考えても間違った方向のポジティブさで、トントン拍子に話が進んでいきます。 そして、最後はボタンの選定です。コーヒーの麻袋にベストマッチなラフなボタンとは……? 「これだぁ、これだよ!」 なんと、コカ・コーラのフタをボタンにする鉄丸。いや、それはさすがにラフすぎでは? あまりにも貧乏くさ…… 「遊び心満点ね!」 ……ものすごいポジティブさで、ついに鉄丸の麻ジャケットが完成しました。コーヒー豆の麻袋のジャケットにコーラのフタのボタン。そして、着心地を重視して虫取り網の網を裏地に使うというナイス工夫! これでなんと1,000円という、GUもビックリの低価格を実現! ヒューマンズの1万5,000円に対し、1,000円。価格差が歴然すぎます。しかも、センスには定評のある鉄丸デザイン。ジャケット勝負は(デザインではなく)圧倒的価格差で、見事鉄丸が勝利したのでした。  そのほかの対決も、鉄丸の先鋭的すぎるデザインにより負け知らず。さすが世界一のファッションデザイナーを目指すだけのことはあります。  そんなわけで、ユニクロもギャップもしまむらもブッ飛ぶ、超ファッショナブルなマンガ『こっとん鉄丸』。みなさんもぜひ本書を読んで、モテるファッションのコツをマスターしてください。 (文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん<http://ablackleaf.com/>)

子を殺すか自分が死ぬか――知られざる精神障害者家族の実態『「子供を殺してください」という親たち』

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『「子供を殺してください」という親たち』(新潮文庫)
 7月15日にTBSで放送された『水トク!「THE説得」』。精神障害者とその家族を特集したこの番組では、統合失調症や引きこもり、家庭内暴力など、精神的に問題を抱える人々が次々に登場した。  その多くが、20代から40代にかけての大人だ。彼らは、社会にうまく溶け込めず、家族とも長い間、関係を作れないままだ。  しかし、そこには我が子を想う親の「なんとかしなければならない」という言葉はなく、ただただ「子供と絶縁したい」と考える親たちが大勢映し出されていた。  この番組に登場するトキワ精神保健事務所の押川剛。精神障害者を抱えた家庭からの要請で、障害者本人と向かい合って説得し、病棟への移送を承諾させる、説得のスペシャリスト。そんな彼が記したのが『「子供を殺してください」という親たち』(新潮文庫)である。  本書は、精神障害者を説得し、当該の施設にまで運ぶ「精神障害者移送サービス」に携わる著者による体験談と、精神保健福祉への問題提起がテーマとなっている。ゴミ屋敷となった家で初老の母親を奴隷のようにして生活する女性、交際していた女性と破局してしまったことが原因で家庭内暴力を振るうようになってしまった男性、親の金を無心し続ける40代の男性など、様々な障害者が登場する。 「精神障害者移送サービス」というのは、自分に病識(自身が病気であること)がない精神障害者を家族や親類に代わって病棟まで移送する仕事で、古くは警備会社やタクシー会社がその業務も行っていたという。多くの場合、精神障害者は、人として扱われることはなく、両脇を締め上げられて連れて行かれたり、す巻きのようにして身動きの取れないまま車に放り込まれたりしていたという。  結果、本人たちは家族を逆恨みして、ある日施設から脱走したと思ったら家族全員を殺してしまったりなど、重大な刑事事件に発展するケースが絶えなかった。  そんな状況を見かねて1996年に押川氏は、精神障害者移送サービス「トキワ警備」をスタートさせ、続けて精神障害者の社会復帰を目指す事業「本気塾」を開く。  ところが、そこからが苦難の連続だった。患者たちは身勝手に放浪したり、目の届かない場所で第三者を巻き込んだ事件を起こしかねないため、集団で就業でき、かつ送り迎えが可能な職場を探さねばならない。押川氏の元に集まったスタッフと共に、塾生の社会復帰のため、毎日電話をかける日々が続く。やっとの思いで見つけた職場でも、理解を示してくれた職場の先輩を殴る事件を起こしてしまう塾生もいた。  なぜ押川氏は、そこまで彼ら「精神障害者」に根気よく関わっているのか? それは、病棟に隔離された障害者たちと心を通わせた経験があるからだという。押川氏が中学生だった当時、通学路に隔離病棟があった。それは今ほど厳重に囲われていたわけではなく、怖いもの見たさから、その小さな窓から交流を始めた。入院患者のほとんどは自分の父親と同じくらいの年齢で、彼らから「坊主」と呼ばれ、たばこや食べ物の使いっ走りをして交流を深めた。  押川氏が地元を離れて上京する時には、塀の中の障害者たちは涙を流して悲しんでくれた。以来、家族から、拒絶され一人で死んでいく障害者と、慈愛ともいえる思いで接している。  一方で、精神保健福祉の現状を記しており、障害者のケアよりも利益を優先させる業界の空気を強く糾弾している。多くの病院は3カ月経過すると半強制的に退院させ、ベッドの回転率を上げることで利益を生み出す。そういった病院は儲かるが、ちゃんとした治療は行われることはない。利益度外視で運営する病院は、設備も古い中で、困窮しながら運営しているという。  一度退院してしまうと、再度受け入れ先を探すことも困難になってしまう。問題を起こした障害者のブラックリストを、病院同士が共有しているためだ。そして、また家族が苦しむ日々に逆戻りとなってしまう。  障害を持つ子どもばかりに問題があると考えがちだが、子供がそうなってしまった原因は、ほとんどの場合親にあると押川氏は断言する。障害を持つ子供と共依存してしまって、自身に原因があるとは全く気づかない母親や、子供に対して無関心で形だけの相談をし、あとは子供が死ぬのを待つだけという金持ちの親、子供に障害があるということを認めなくないからと、押川氏を逆恨みする親。  そんな身勝手な親からこそ、「子供を殺してください」という言葉が吐き出されるのだ。それは「懇願」だと押川氏は明かす。それでも彼は、そんな親子のために活動を続ける。

君は粘土のために死ねるか? 老後に備えて読んでおきたい「陶芸マンガ特集」

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 サラリーマンが定年退職後にやりがちな趣味といえば、そば打ちと陶芸ですよね。どちらも、ある種の男のロマンを感じさせる職人的世界であり、サラリーマン時代に成し得なかったことにチャレンジしてみたいというその気持ちはわからないでもありません。  しかし、そばはともかく、陶芸なんて地味すぎて絶対マンガのテーマにならないだろうと思っていませんか? 実は、陶芸マンガって、結構あるんです。しかも、どいつもこいつも「粘土」に対する執念がハンパなくて、文字通り粘土に命を懸けている奴らばかりです。今回は老後に備えて読んでおきたい、熱い陶芸マンガを4作品集めてみました。
hashiru0911
■『緋が走る』(原作:ジョー指月、作画:あおきてつお)  陶芸マンガの中では、おそらく一番有名な作品。単行本が全15巻出ているだけでなく、『美咲の器―それからの緋が走る』という続編も単行本で9巻出ています。よくぞ、陶芸だけでここまでネタが引っ張れるものだ! と感心せざるを得ません。
misaki0911
 陶芸といえば男の世界、という先入観を覆し、主人公に女性を据えたところもポイントです。『夏子の酒』とか『ソムリエール』などと同様の手法ですね。  タイトルの通り、陶芸の最高芸術といわれながらもかつて誰も再現できなかった、朱よりも赤く炎より深い色「緋色」の器を作ることが作品のテーマです。主人公・松本美咲は、「緋色(ひいろ)」の器を作ることに陶芸家生命を懸けた父の遺志を継ぎ、女子大生からいきなり陶芸家にジョブチェンジします。  ただ、女子大生がいきなり陶芸家を目指すという設定なので、前半はひたすら地道に修業。土を運んだり、掘り起こしたり、こねまくったりするシーンが続きます。泥だらけで、画的にはとにかく地味。地味ながらグイグイ引き込まれるのは、父娘二代にわたって命懸けで「緋色」を追い求めるというテーマが壮絶すぎるからにほかなりません。
haruka0911
■『ハルカの陶』(原作:ディスク・ふらい、作画:西崎泰正)  こちらも主人公は女子です。OLの小山はるかが、陶芸展で見た備前焼の大皿に感銘を受け、会社を辞めていきなり大皿の作家のもとへ弟子入りしに行くという話です。設定からもわかる通り、『緋が走る』に比べると悲壮感薄めです。というか「陶芸=命懸け」なマンガが多すぎて、こういうライトな設定が逆に斬新という不思議なジャンルになのです。  単行本は3巻出ており、1巻では土を練っているシーンがメイン、2巻ではロクロを回しているシーンがメイン、最終巻となる3巻ではようやっと窯に火が入って……という、これまたひたすら下積みばかりのマンガです。地味なのは陶芸マンガの宿命なので致し方ありません。かわいい女の子が主人公というのが救いです。  ちなみに『緋が走る』は萩焼がテーマとなっており、一見イメージがかぶりそうな2作品ですが、ちゃんと棲み分けされています。
kenka0911
■『流れ陶二郎 けんか窯』(原作:遠崎史朗、作画:ビッグ錠)  職人バトルマンガの大家・ビッグ錠先生と『アストロ球団』の原作者・遠崎史朗先生のコンビが送り出す陶芸マンガ。タイトルからも想像がつく通り、陶芸バトルマンガであり、リアルさを追求していた上記2作品とはブッ飛び度が段違いとなっています。  主人公の流陶二郎は凄腕の「渡り焼き物師」。渡り焼き物師とは日本全国を渡り歩き、数百万円とも数千万円ともいわれる法外な報酬を受け取って焼き物を焼き、日本各地のピンチに陥った窯元を救うという、助っ人陶芸家です。いわば「陶芸版ブラック・ジャック」みたいな感じです。さすがに陶芸バトルマンガだけあって、陶二郎の常軌を逸した行動が、これでもかと言わんばかりに炸裂。  時価数百万円の茶碗をいきなりで手で叩き割り、その破片をポリポリと食べ始めます。「釉薬は柞灰(いすばい)ですね…」などと、破片を食べることで土や塗料などの陶器の成分をズバリ当ててしまう陶二郎。そこまでしなくても、人に聞けばいいだけのことだと思うのですが、陶芸バトルでは、まずは周りの度肝を抜くことが大切なのです。  萩焼編では陶芸バトルで勝つために、燃えさかる窯の中に直接飛び込んで釉薬を吹き付けるという新製法に挑みます。ちなみに窯は、最高で1400度になるらしいんですが、そんなところに飛び込んで大丈夫なんでしょうか? 答えはノー。当然、全身黒焦げになります。あらかじめ用意をしていた水をかけまくって一命をとりとめますが、文字通り命懸けの陶芸バトル。  瀬戸焼編ではなんと、処女の初潮の血を土に練り込んだという幻の乙女茶碗が登場。芸術のためならばタブーも侵すという、狂気な側面が垣間見られますね。この幻の乙女茶碗を処女の初潮の血を使わずになんとか現代に蘇らせようとする陶二郎と、コンピューター解析で処女の初潮の血と同じ成分を作り、再現しようとする科学者とのバトルになります。  丹波焼編では、エジプトのピラミッドの内部で発見された壺がどうも丹波焼の壺にそっくりなので、それを証明したいというワケのわからない依頼により、ピラミッドの壺とそっくり同じ物を丹波焼で作らされるハメになる陶二郎。ここでは、ライバルの渡り焼き物師「窯神」が登場。  なんとこの話では、渡り焼き物師同士の裏窯勝負に恐ろしい掟があることが発覚。敗れた者は二度と粘土練りができないよう、己の指を打ち砕かなければならないらしいのです。恐ろしい掟ですね。何が恐ろしいって、どう考えても掟が後付けくさいところです。
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■『陶炎』(原作:原田大輝、作画:はしもとみつお)   こちらも、男が主人公の陶芸マンガです。主人公・浜田陶太は、表向きは「自由窯」という窯の主人で、陶芸教室なんかも開催しちゃっているほのぼの系陶芸家ですが、裏の顔は数千万円の報酬で陶芸にまつわるあらゆる揉め事を解決する「裏陶工師」なのです。渡り焼き物師といい裏陶工師といい、とにかく一癖も二癖もある裏稼業っぽい陶芸家が出てくるのがメンズ陶芸マンガの特徴です。  こちらの作品でも、800度の窯の中に飛び込んで全身黒焦げになってみたり、時価数億円の器を叩き割ったり、贋作を作って本物とすり替えたり等々、おおよそ陶芸マンガに期待される陶芸アクションがちりばめられた作品です。さらに焼き物を作って殺人事件を解決してみたりと、陶芸家のスキルを超えるハイスペックぶりを発揮。単行本全2巻ですが、なかなか見応えのある作品となっています。 ***  というわけで、とにかくストイック、とにかく粘土ラブな陶芸マンガの世界をご紹介しました。これらの作品を読んじゃうと、老後にのんびり陶芸でもやろうかな……なんて甘っちょろい考えは吹っ飛んでしまうかもしれません。どうせ陶芸を始めるなら、800度の窯に飛び込むぐらいの覚悟で臨みたいものです。 (文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん<http://ablackleaf.com/>)

「小鳥が来る街」でゴミ出しせな! 知られざる『大阪のオバちゃん』の生態とは

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『大阪のオバちゃんの逆襲』(言視舎)
 30代の人間にとって、大阪のおばちゃんのイメージは、『ダウンタウンのごっつええ感じ』(フジテレビ)で放送されていたコント「おかんとマー君」によって決定づけられている。せっかく彼女を家に連れ込んできたのに、「出て行け」と言っても部屋に居座ろうとするおかん、ダサいTシャツを買ってくるおかん、エロ本を見つけて「あー怖っ!」と叫ぶおかん、関東人にとってはコントのキャラの一つだが、関西の友人いわく「あんなおばちゃんばっかりやで」ということ……。関西の人々は、(さすがに過剰ではあるけど)「あるあるネタ」として受け取っていたようだ。  大阪のおばちゃんは、関東人にとっては未知の存在だ。そんなおばちゃんたちの生態を記したのが『大阪のオバちゃんの逆襲』(言視舎)だ。筆者の源祥子は、地元大阪でコピーライターとして活躍後、シナリオライターに転身するために40歳を過ぎて大阪から東京へと転居してきた。そして、地元大阪を離れてまじまじと感じたのが、大阪のおばちゃんの特殊さ。本書では、親友への手紙という形式を使いながら、大阪のおばちゃん像を解き明かしていく。  ヒョウ柄のスパッツを履き、トラの顔がでかでかとプリントされたTシャツを着ながら、さすべえのついた自転車で買い物に出かける大阪のおばちゃん。スーパーでは、初対面の人間に「今日何作りはんの?」と声をかけ、バッグの中には常に「飴ちゃん」を携帯している。上沼恵美子を「神」と崇め、月亭八方がロケをしていれば「元気にしてたん?」とさも親戚のように話しかけ、バシバシと身体を叩く。もちろん、「関西のロイヤルファミリー」である西川きよし師匠をはじめ、忠志、かの子、そしてヘレンのファミリーたちの動向はかかさずチェック。夏には、河内家菊水丸の河内音頭で踊るし、島倉千代子の「小鳥が来る街」を聞けば、ゴミを出さずにはいられない。音楽のない東京のゴミ収集車を見て、筆者は「ほんま東京のゴミ収集車、愛想ないわぁ」と嘆いている。  そんなディープな大阪のおばちゃんたちだが、筆者の源は、全国に誤解される大阪のおばちゃんのイメージを訂正することも忘れない。  大阪のおばちゃんが商品を値切るのは遊びの一種であり、スーパーやコンビニのレジでの支払いでは「まけて」と言うことはない。しっかりとTPOをわきまえて、場を盛り上げるために「値切る」という方法を活用しているのだ。大阪のおばちゃんの髪型はみんなが紫色だったりパンチパーマというわけではなく、ヒョウの顔が書かれたTシャツと、ヒョウ柄のファッションではおしゃれ度が違うと主張する。関東人である私には、あまりその違いは分からないが……。  他の地域の人々には全く理解できない大阪のおばちゃん。しかし、筆者の分析をもとに見ていくと、彼女たちも、決して理解の及ばないモンスターではないことがわかってくる。いや、むしろ、彼女たちは人情味が熱く、人を喜ばせるのが大好き、日本の中でも最も人生を楽しんでいる人々であるようだ。  源はこう語る。 「人生で大切にしてるんは、美味しいもんと、笑顔と笑い声。あと、衣食住関係なく、安うてお得なもんを発見すること。なにかと辛気臭い話題の多いこの世の中で、できるだけ楽しいこと、おもろいことに目を向けて笑って生きていこうとするそのパワフルさ。(中略)一億二千万人が真似したら、きっと日本は何かが変わるんちゃうかと思うんよ」  そのポジティブさ、そのおおらかさを真似できれば、確かに日本はもっと楽しく、パワフルな国になり、社会はもっと暮らしやすくなることだろう。でも、日本のおばちゃんが全員バシバシ人を叩いたり、「あんたそれなんぼ?」とズケズケと踏み込んでくるのは、他地域の人間としてはやや困りもの。  ぜひ、ほどほどに、参考にしてほしい。 (文=萩原雄太[かもめマシーン])