中年アイドルオタは本当に迫害されているのか?『中年がアイドルオタクでなぜ悪い!』

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『中年がアイドルオタクでなぜ悪い!』(ワニブックス)
 日本人は、何かと卒業したがりだ。  学校の卒業はともかくとして、暴走族、番組、アイドルグループ、この支配からの……などなど、いろんなものから卒業していく。  何かに関するオタクを辞めることを「オタ卒」なんて言ったりもする。卒業とはいうものの、「もう○○歳だし、オタクやってる年でもないよな」的な意味合いのほうが強い言葉だといえるだろう。  まあ、何をやる上でも「年齢」っちゅうのは判断基準のひとつとなるもんで、「だいたい○○歳くらいまでには、こういうことをやるのは辞めましょうね」的な暗黙の了解というのは世の中にたくさん存在する。  ただ、インターネットが一般に普及して以降、さまざまなジャンルにおいて「もう○○歳だし」というハードルが、かなり低くなっているのではないだろうか。  だって、ネットの世界を見渡せば「いい年こいて」なことを、キーポン○○な精神でずーっとやり続けているスゴイ先達がいっぱいいるのがわかっちゃうんだもん。  そんな感じで、かつては「いい年こいて」と言われていたようなジャンルにも、いい年こいた人たちがわんさか残っていて、エイジレス状態となっているのだ。 ■中年アイドルオタクって、迫害されてる?  で、この本『中年がアイドルオタクでなぜ悪い!』(ワニブックス)だ(コレのレビュー記事を頼まれていたんだった!)。  プロレスファンならば「週刊プロレス」(ベースボール・マガジン社)の、アイドル好きならば、ももクロの公式記者としておなじみのライター・小島和宏さんの新刊。  ボクも、ももクロ好きとして小島さんの記事はしょっちゅう読んでいたので、小島さんの語る中年アイドルオタク論とはどんなものかと期待していたのだが……。すみません、正直あんまピンとこなかったっす。  本書の中では、 ・中年アイドルオタクは冷たい目線にさらされている ・世間の理解がまったく進んでいない ・「恥じらい」や「うしろめたさ」を抱いていたほうがアイドルを楽しめる というのが前提としてあり、そのアンチテーゼとして『中年がアイドルオタクでなぜ悪い!』となっていくのだが、本当に中年アイドルオタクって、そんなに冷たい目線にさらされているだろうか?  もちろん、中年アイドルオタクに対して「キモイ!」「大人げない!」「ロリコン!」という偏見全開で接してくる人も少なくない……というか、結構多いとは思う。  でもそれが、ハロウィンにドンキで買ったコスプレを着て渋谷を闊歩するヤングたちに向けられる「ウザイ!」「邪魔!」「頭悪そう!」「どーせこれからセックスするんだろ!? ハロウィンでもクリスマスでも、なんでもいーんじゃねーか!」という偏見と、どっちが多いかといえば、まあ同じようなもんなんじゃないだろうか?  取り立てて中年アイドルオタクが迫害されているわけでもなく、価値観が多様化しまくって小さなジャンルの村社会が大量に作られた結果、なにかっちゅうと村人同士が石を投げ合っているのが現代なのだ。  アイドル界隈だけでいっても、中年アイドルオタクはピンチケ(AKB48劇場で販売される中高生向けのチケットのこと。転じて、マナーを守らない若者を揶揄する言葉として使われる)をバカにしがちだし、モノノフ(ももクロのファン)はCDを大量買いするAKBオタクをバカにしがち。かと思えば、他のアイドルグループのファンは、やたらとももクロだけを神聖視するモノノフをウザがったり……。  もちろん、アイドルとかにまったく興味のないリア充は、そんなオタクたちをひとまとめにして「キモイ!」と思っているし、オタクのほうはオタクのほうで、Facebookでステキな飲み会写真ばっかりアップしているリア充をバカにしまくっていることだろう。  以前、アニメオタクの友人と話している時に、 「アイドルオタクはバカだ。いくらCD買ったってアイドル自身には金なんか入らないで、秋元康みたいなおっさんが儲かるだけだろ?」 「だったらオメーの買ってる美少女フィギュアも、作ってるおっさんに金入るだけだろーが!」  みたいな不毛極まりない議論となり、つかみ合いになりそうになったが、もうね……オタクもリア充もヤンキーも意識高い系も、人間は理解し合えないと考えたほうがいい。  こんな時代なんだから、村の外の人たちの目線を気にしても仕方がないのだ(「清潔感」とか、最低限のラインは守りたいところだが)。  学校や会社で、周囲から冷たい目で見られたとしても、気持ちの通じ合える仲間はネットや現場でいくらでも探せるし、もちろん「いい年こいて……」という世間の目を気にしてオタ卒する必要もない。 『中年がアイドルオタクでなぜ悪い!』……と、最終的なところで小島さんと意見が一致するんだけど。 ■アイドル記者奮戦記として読もう 『中年がアイドルオタクでなぜ悪い!』の帯には「アイドルを追いかけることは大人の立派な“たしなみ”である!」とのキャッチフレーズが書かれているが、同時期に発売された、大森望さんの『50代からのアイドル入門』(本の雑誌社)の帯にも「アイドルは大人のたしなみだ!」との文字があるのも興味深い。  まあ「中年がアイドルを追いかけるなんてキモイ!」という声に対しての理論武装として「大人のたしなみだ!」なんだろう。  小島さんも大森さんも、ボクのひとまわりぐらい上の世代の方たちなのだが、「上の人たちって、周りの目をいろいろ気にして大変そうだなぁ~……」と思ってしまう。 「大人のたしなみだ!」なんて強がらなくても、周りが何と言おうと「ボクは好きだから好きなんだもーん!」でよくない? ……ほら、理解し合えないでしょ?  ちなみに本書は、中年アイドルオタク論うんぬんは置いといて、ももクロをはじめとしたアイドルに密着取材してきた、アイドル記者である小島さんの奮闘記として読めばすごく面白いよ。 (文=北村ヂン)

中年アイドルオタは本当に迫害されているのか?『中年がアイドルオタクでなぜ悪い!』

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『中年がアイドルオタクでなぜ悪い!』(ワニブックス)
 日本人は、何かと卒業したがりだ。  学校の卒業はともかくとして、暴走族、番組、アイドルグループ、この支配からの……などなど、いろんなものから卒業していく。  何かに関するオタクを辞めることを「オタ卒」なんて言ったりもする。卒業とはいうものの、「もう○○歳だし、オタクやってる年でもないよな」的な意味合いのほうが強い言葉だといえるだろう。  まあ、何をやる上でも「年齢」っちゅうのは判断基準のひとつとなるもんで、「だいたい○○歳くらいまでには、こういうことをやるのは辞めましょうね」的な暗黙の了解というのは世の中にたくさん存在する。  ただ、インターネットが一般に普及して以降、さまざまなジャンルにおいて「もう○○歳だし」というハードルが、かなり低くなっているのではないだろうか。  だって、ネットの世界を見渡せば「いい年こいて」なことを、キーポン○○な精神でずーっとやり続けているスゴイ先達がいっぱいいるのがわかっちゃうんだもん。  そんな感じで、かつては「いい年こいて」と言われていたようなジャンルにも、いい年こいた人たちがわんさか残っていて、エイジレス状態となっているのだ。 ■中年アイドルオタクって、迫害されてる?  で、この本『中年がアイドルオタクでなぜ悪い!』(ワニブックス)だ(コレのレビュー記事を頼まれていたんだった!)。  プロレスファンならば「週刊プロレス」(ベースボール・マガジン社)の、アイドル好きならば、ももクロの公式記者としておなじみのライター・小島和宏さんの新刊。  ボクも、ももクロ好きとして小島さんの記事はしょっちゅう読んでいたので、小島さんの語る中年アイドルオタク論とはどんなものかと期待していたのだが……。すみません、正直あんまピンとこなかったっす。  本書の中では、 ・中年アイドルオタクは冷たい目線にさらされている ・世間の理解がまったく進んでいない ・「恥じらい」や「うしろめたさ」を抱いていたほうがアイドルを楽しめる というのが前提としてあり、そのアンチテーゼとして『中年がアイドルオタクでなぜ悪い!』となっていくのだが、本当に中年アイドルオタクって、そんなに冷たい目線にさらされているだろうか?  もちろん、中年アイドルオタクに対して「キモイ!」「大人げない!」「ロリコン!」という偏見全開で接してくる人も少なくない……というか、結構多いとは思う。  でもそれが、ハロウィンにドンキで買ったコスプレを着て渋谷を闊歩するヤングたちに向けられる「ウザイ!」「邪魔!」「頭悪そう!」「どーせこれからセックスするんだろ!? ハロウィンでもクリスマスでも、なんでもいーんじゃねーか!」という偏見と、どっちが多いかといえば、まあ同じようなもんなんじゃないだろうか?  取り立てて中年アイドルオタクが迫害されているわけでもなく、価値観が多様化しまくって小さなジャンルの村社会が大量に作られた結果、なにかっちゅうと村人同士が石を投げ合っているのが現代なのだ。  アイドル界隈だけでいっても、中年アイドルオタクはピンチケ(AKB48劇場で販売される中高生向けのチケットのこと。転じて、マナーを守らない若者を揶揄する言葉として使われる)をバカにしがちだし、モノノフ(ももクロのファン)はCDを大量買いするAKBオタクをバカにしがち。かと思えば、他のアイドルグループのファンは、やたらとももクロだけを神聖視するモノノフをウザがったり……。  もちろん、アイドルとかにまったく興味のないリア充は、そんなオタクたちをひとまとめにして「キモイ!」と思っているし、オタクのほうはオタクのほうで、Facebookでステキな飲み会写真ばっかりアップしているリア充をバカにしまくっていることだろう。  以前、アニメオタクの友人と話している時に、 「アイドルオタクはバカだ。いくらCD買ったってアイドル自身には金なんか入らないで、秋元康みたいなおっさんが儲かるだけだろ?」 「だったらオメーの買ってる美少女フィギュアも、作ってるおっさんに金入るだけだろーが!」  みたいな不毛極まりない議論となり、つかみ合いになりそうになったが、もうね……オタクもリア充もヤンキーも意識高い系も、人間は理解し合えないと考えたほうがいい。  こんな時代なんだから、村の外の人たちの目線を気にしても仕方がないのだ(「清潔感」とか、最低限のラインは守りたいところだが)。  学校や会社で、周囲から冷たい目で見られたとしても、気持ちの通じ合える仲間はネットや現場でいくらでも探せるし、もちろん「いい年こいて……」という世間の目を気にしてオタ卒する必要もない。 『中年がアイドルオタクでなぜ悪い!』……と、最終的なところで小島さんと意見が一致するんだけど。 ■アイドル記者奮戦記として読もう 『中年がアイドルオタクでなぜ悪い!』の帯には「アイドルを追いかけることは大人の立派な“たしなみ”である!」とのキャッチフレーズが書かれているが、同時期に発売された、大森望さんの『50代からのアイドル入門』(本の雑誌社)の帯にも「アイドルは大人のたしなみだ!」との文字があるのも興味深い。  まあ「中年がアイドルを追いかけるなんてキモイ!」という声に対しての理論武装として「大人のたしなみだ!」なんだろう。  小島さんも大森さんも、ボクのひとまわりぐらい上の世代の方たちなのだが、「上の人たちって、周りの目をいろいろ気にして大変そうだなぁ~……」と思ってしまう。 「大人のたしなみだ!」なんて強がらなくても、周りが何と言おうと「ボクは好きだから好きなんだもーん!」でよくない? ……ほら、理解し合えないでしょ?  ちなみに本書は、中年アイドルオタク論うんぬんは置いといて、ももクロをはじめとしたアイドルに密着取材してきた、アイドル記者である小島さんの奮闘記として読めばすごく面白いよ。 (文=北村ヂン)

『路線バスの旅』でも見られない!? 誰も知らない日本を今日もバスが走る『秘境路線バスをゆく』

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『秘境路線バスをゆく』(イカロス出版)
 蛭子能収が大ブレイクを掴んだ『ローカル路線バス乗り継ぎの旅』(テレビ東京系)。この番組では、蛭子能収と太川陽介が毎回違う女性ゲストとともに、繰り広げるゆるい旅が人気だ。  私たちも日常的に利用する路線バスは、全国で約2,700路線。バス停の数は25万カ所あるといわれている。その中から、週にたった1便しかない路線や片道6時間半の路線など、各種ジャンル分けして語り尽くすのが本書『秘境路線バスをゆく』(イカロス出版)だ。  北は北海道、南は九州まで土地ごとの秘境を走るバスを紹介。たとえば、“絶景チャンピオン”の冠を戴く北海道の宗谷バスの天北宗谷岬線は、廃止された鉄道のかわりに誕生したいわゆる鉄道転換バスで、雪化粧の道北を、日本最北の地・宗谷岬を目指して走る。  また、“路線距離チャンピオン”の奈良交通の八木新宮線は、その距離166km、総時間6時間半と圧倒的な数字を誇り、バス停167カ所、通過する市町村は8つ。路線バスファンでなくても、きっと目がくらむはずだ。奈良県の郊外「八木駅」を出発し、温泉や世界遺産などを横目にしながら和歌山県「新宮駅」をつなぐ。  昨今のレトロブームにあやかり、昔懐かしいバスターミナルも特集。都内と違いバスが主要な交通手段の地方では、巨大なバスの停留所がある。掲載されているバスターミナルのほとんどは、昭和に建てられた。古めかしい雰囲気が残り、立ち食いそば屋や切符売り場、土産物屋などが現在でも営業しており、地元の人々から愛されている。 「伝説の廃路線」のコーナーでは、全国津々浦々の廃止されてしまったバス路線を網羅。その多くが、かつて存在した炭鉱街で働く人々の足であったり、新たに開通した鉄道が原因で存在を忘れられてしまったりなど、人々の生活と密接に結びついていた歴史があるのだ。  じわじわと再び注目をあびる路線バス。私たちと遠くて近いバスは、今日も誰も知らない日本を走る。

『路線バスの旅』でも見られない!? 誰も知らない日本を今日もバスが走る『秘境路線バスをゆく』

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『秘境路線バスをゆく』(イカロス出版)
 蛭子能収が大ブレイクを掴んだ『ローカル路線バス乗り継ぎの旅』(テレビ東京系)。この番組では、蛭子能収と太川陽介が毎回違う女性ゲストとともに、繰り広げるゆるい旅が人気だ。  私たちも日常的に利用する路線バスは、全国で約2,700路線。バス停の数は25万カ所あるといわれている。その中から、週にたった1便しかない路線や片道6時間半の路線など、各種ジャンル分けして語り尽くすのが本書『秘境路線バスをゆく』(イカロス出版)だ。  北は北海道、南は九州まで土地ごとの秘境を走るバスを紹介。たとえば、“絶景チャンピオン”の冠を戴く北海道の宗谷バスの天北宗谷岬線は、廃止された鉄道のかわりに誕生したいわゆる鉄道転換バスで、雪化粧の道北を、日本最北の地・宗谷岬を目指して走る。  また、“路線距離チャンピオン”の奈良交通の八木新宮線は、その距離166km、総時間6時間半と圧倒的な数字を誇り、バス停167カ所、通過する市町村は8つ。路線バスファンでなくても、きっと目がくらむはずだ。奈良県の郊外「八木駅」を出発し、温泉や世界遺産などを横目にしながら和歌山県「新宮駅」をつなぐ。  昨今のレトロブームにあやかり、昔懐かしいバスターミナルも特集。都内と違いバスが主要な交通手段の地方では、巨大なバスの停留所がある。掲載されているバスターミナルのほとんどは、昭和に建てられた。古めかしい雰囲気が残り、立ち食いそば屋や切符売り場、土産物屋などが現在でも営業しており、地元の人々から愛されている。 「伝説の廃路線」のコーナーでは、全国津々浦々の廃止されてしまったバス路線を網羅。その多くが、かつて存在した炭鉱街で働く人々の足であったり、新たに開通した鉄道が原因で存在を忘れられてしまったりなど、人々の生活と密接に結びついていた歴史があるのだ。  じわじわと再び注目をあびる路線バス。私たちと遠くて近いバスは、今日も誰も知らない日本を走る。

『カルト村で生まれました。』高田かやに聞く、村の生活、そして“家族”のこと――

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高田かや氏
 朝は5時半起床で労働、食事は昼と夜のみ、体罰は当たり前、テレビは『日本昔ばなし』(TBS系)だけ、そして親とは別の場所で集団生活……。所有のない、争いのない“理想郷”を目指す「カルト村」で生まれ育った少女が、当時の生活をありのままに描いた『カルト村で生まれました。』(文藝春秋)。WEB連載時から話題を呼んでいたこの実録コミックエッセイの作者である高田かや氏に、作品を描き上げた現在の心境と「家族」に対する思いを伺った。 ――まずは、この本『カルト村で生まれました。』を描くことになった経緯を教えてください。 高田かや(以下、高田) 現在、夫であるふさおさんのお母さんと同居しているのですが、私がお義母さんに子どもの頃の話をすると、すごく熱心に聞いてくれて。自分にとっては当たり前の思い出も、一般(※村以外の地域のこと)の人には面白いのかなぁと思ったことが、この本を描くきっかけでした。 ――もともと漫画は描いていたのですか? 高田 本当に、ちょこちょこっとしたイラストだったり、いたずら描きとか、そんな程度でした。まさか、初めてWEBに投稿した作品が本になるなんて……と、自分でもびっくりしています。 ――本にまとめるにあたって、最も苦労した点はどんなところでしたか? 高田 そうですね。漫画を描くという行為が初めてだったため、自分がどの作業にどれだけ時間がかかるかまったくわからず、思いっきりタイトなスケジュール設定にしてしまいました(笑)。それゆえ、ひたすら時間に追われることになってしまって……。 ――本を描く前と描いた後で、ご自身の中に変化はありましたか?  高田 描く前はぼんやりとしか見えていなかったことが、描いていくうちに「あれ、これっておかしくない?」と、はっきり見えてきたというのはあると思います。以前に比べて、村のことを、やや客観的に見られるようになったのかもしれません。 ――最初にWEBで高田さんのこの作品を拝見したとき、非常に衝撃を受けたんですよ。 高田 本当ですか!? どんなところが? ――それまで私が目にした村に関して書かれているものは、たいてい「被害者」という視点ばかりで、『カルト村で生まれました。』のように、淡々とその生活をつづったものを読んだことがありませんでした。 高田 なるほど。私も、もし村にいるときに、リアルタイムでそのときの気持ちを描いていたら、また違った作品になったんじゃないかなと思います。月日がたつうちにいろんなことが自分の中で落ち着いてしまい、その上で現在、頭にあるものだけを描いたら、こうなりました。 ――作風も、この表現が正しいかはわかりませんが、“あっけらかん”としているから、余計にひとつひとつのエピソードが胸に落ちてきます。 高田 作風については特に意図はなく……最初からこの描き方でした。これが私の表現方法の限界で、これ以外、描きようがないというだけです(笑)。 ■“問題児”として過ごした、「村」の生活―― ――本の中で、高田さんはご自身を「村の問題児」と表現されています。高田さんのどんなところが、村的に問題児だったのでしょうか? 高田 私、大人の「子どもはこうあるべきだ」「こうするのが当然だ」という雰囲気を感じると、反発したくなるんです。それで、わざとその大人の思惑とはまったく逆の行動をしてしまうので、そういう態度が問題視されたのではないかと思います。 ――では、村で「良い子」とされるのは、どんな子どもでしたか? 高田 大人に言われたことを素直にそのままできる子、どうしたらみんなが暮らしやすいだろうと自発的に考えて行動できる子が、「良い子」とされていた気がします。 ――高田さんのように「村で生まれた」子どもと、途中から「村に来た」子どもでは、村の捉え方に違いはありましたか? 高田 違いはあったと思います。途中から村に来た子は、一般の生活を知っているので、村と一般の違いを比較できますよね。だから、村で生まれた子より冷静に、村や親を分析していたと思います。 ――外からやってきた子に、影響されたりはしませんでしたか? 高田 外の子からの影響というより、外の子が持ち込んだ物に影響されました。人それぞれ趣味が違い、持ち込む物も違うので面白かったです。アガサ・クリスティを持ち込んでいる子に全巻借りて読んで、翻訳ミステリもいいなぁと思ったり、TOKIOのファンの子が大事にしていたスクラップブックを貸してくれたので、妙にメンバーについて詳しくなったり(笑)。自分は活字を通して影響されることが多かったです。 ――村時代、「反抗期」みたいなものはあったのでしょうか? 高田 親と一緒に暮らせなかったので、村にいたときは、反抗期らしいものはなかったと思います。高等部を卒業したときに、親と一緒に村を出ることになったんですけど、一般で暮らすのも初めてなら、親と生活するのも初めて。そのあたりで、ようやく反抗期がやってきました。毎日、家で母に口うるさく注意をされているうちに、嫌になってしまって。ほとんど口もきかず、食事も別に作って食べるようになりました。 ――それは、親だからこそ、安心してぶつけられる「本音」みたいなものでしょうか? 高田 逆に、親だとあまり認識していないからそうなってしまったと思っています。世話係さん(村では親と子が離されて暮らしているので、子供の世話や説教を担当する大人)に反発したのと同じような感覚でした。ひとつの家に大人の女性が2人いる状況に違和感があって、我慢できなかったんです。 ――高等部卒業時に「大方の予想を裏切り一般に出る」と描かれていましたが、村を出ようと決意したのはどうして? 高田 村を出る理由やそのときの葛藤は、決意する前後の話の流れもあるので、続編で詳しく描こうと思っています。続編が完成したら、また読んでいただけるとうれしいです。 ■一人暮らし、そして、結婚 ――楽しみにしています! しかし、高校卒業までの18年間をずっと村で暮らしていて、いざ「一般」に出てきたとき、戸惑いはありませんでしたか? 高田 パートの初任給で13万円ももらえたときは、本当にびっくりしました! 今までそんな大きな金額を手にしたことはなく、この金額に見合うほど自分が働いたとは思えず(笑)。うれしかったのは、一人暮らしができたことでしょうか。村にいたときは、常に大勢の人と暮らしていたので、一度でいいから一人暮らしというものをしてみたいなと思っていたんです。 ――一人暮らしは楽しめました? 高田 すごく気楽(笑)。自分が、一人でいることが好きなタイプだと知りました。逆に苦しかったことは……村のミーティングで思ったことをなんでも話す癖がついていたため、何げなく発した言葉で人を傷つけたり怒らせたりしてしまう事態が続いたことです。「どうしたら、この癖が直るんだろう?」と悩んだ時期もありました。 ――村での生活では「所有する」「自己主張する」ことが激しく制限されていたと思います。今でも、自分の考えを出すことにためらいはありますか? 高田 自己主張を制限されたような気はしていないのですが……鈍いんですかね?(笑) だから、よく叱られてたのかな……。今は思ったことをそのまま口に出すのではなく、常に言っていいことと悪いこととの区別をつけながら話すように心がけています。 ――ふさおさんとの結婚を決意した一番の理由は、どんなところでしたか? 高田 本書で描いた子ども時代は、「親子で一緒に暮らせないなんて、私は絶対に子どもは産まない」と思っていました。でも村を出て大人になって、その当時は子どもが欲しかったので、順番としてまず結婚かなと思いました。 ――「子どもを持ちたい」と気持ちが動いたのには、何か理由があるのですか? 高田 不思議ですよねー、ずっと産まないって決めていたのに。母が自分を産んだ年齢に近づき、急に産みたくなりました。 ――作品にも「ふさおさん」はたびたび登場しては、“ツッコミ役”として作品に絶妙なバランスを与えてくれていますよね。 高田 実際のふさおさんは、確固たる自分を持っている人で、他人に対してかなり辛辣で、威圧的です。ただ、私の考え方や習性をかなり理解してくれていて、私の話したいことをほかの人にもわかるような言葉に直して説明してくれるんですよ。ですので、漫画上でも、私と読者の方をつなぐ通訳をしてもらったり、私が言い難いことを代わりに話してもらったりしています。 ――今現在、ご家族(実のご両親や妹さん)とは、どんな関係を築いていますか? 高田 たまにふさおさんと一緒に実家に行って、食事をして話をして、泊まって次の日みんなで出かけて……と、たぶん一般の方々と同じような付き合いをしていますよ。妹も村を出て、一般の人のところにお嫁に行ったので、今はそんなにしょっちゅう会ってはいませんが、彼女も幸せに暮らしています。 ■一緒にいたくてもかなわない存在、それが“家族”だった ――幼少期にご両親と一緒に過ごさなかったことは、今の自分にどのような影響を与えていると思いますか? 高田 村にいたとき、家族は「たまに会える、血のつながった人たち」「同じ名字の人たち」という関係でした。だからなのか、私、人との距離感がうまくつかめないんです。仲良くなっても別れるときのことを想像してしまうので、ショックが大きくないように、人とあまり深く付き合わないようにしよう……と、つい思ってしまいます。 ――今に限らず、昔から親による虐待やネグレクトの事件は後を絶ちませんが、高田さんはこのような虐待やネグレクトについて、どのような考えをお持ちでしょうか? 高田 特定の考え方などは持っていないのですが……ただ子どもが外に立たされて凍死したニュースなどを聞くと、その子の気持ちを想像して泣きたくなります。 ――作品の中で「今でも受けた体罰や暴言は忘れないし、たびたび考え込んでしまう」とありますが、それを思い出すのはどんなときですか? そのときに抱く感情は怒りですか? それとも恐怖? 高田 思い出すのはたいてい、夜寝つけないときや暇なとき、夢に世話係さんが出てきたときなどです。怒りも恐怖も今は感じませんが、「いまだに思い出す、夢に見るってことは、自分がまだその当時の出来事にとらわれて縛られてるってことなのかなぁ。いっそ、記憶喪失になって昔のことを忘れてしまえたら、この考え込むめんどくさい性格も変わるかなぁ」と、らちの明かないことを考えています。 ――「村に戻りたいな」と考えるときはありますか?  高田 戻りたいと思ったことは、一度もありません。 ――村に限らず、“カルト”と称される集団については、どんな印象を持っていますか? 高田 何か怖いイメージ。そういった集団と一生関係を持たずに過ごせるなら、それに越したことはないと思います。 ――もし自分が村で育たなかったら……と想像することはありますか?  高田 その想像はしたことがありませんが、もし一般で今の両親の元に生まれたとしたら、きっともう少し勉強ができたんじゃないかなと思います。そして、ふさおさんと一緒になることもなかっただろうと思います。 ――生まれたときから村で育った高田さんにとって、「家族」とはどんな存在でしょうか? 高田 一緒にいたくてもかなわない存在……かな。 (取材・文=西澤千央)

ある日“イスラム過激派”になった──報道の裏にあるテロリストの素顔とは!? 『僕がイスラム戦士になってシリアで戦ったわけ』

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『僕がイスラム戦士になってシリアで戦ったわけ』』(金曜日)
 日本人ジャーナリスト・後藤健二さんがイスラム国に殺害されるショッキングな事件から、ちょうど1年が過ぎた。“イスラム過激派”。2001年のアメリカ同時多発テロ事件以降、日常的に目にする単語だが、一体彼らはどんな組織で、どんな人たちなのか? 私たちは知らない。  本書『僕がイスラム戦士になってシリアで戦ったわけ』(金曜日)の著者、鵜澤佳史(27)氏は“イスラム過激派”と呼ばれる人々と寝食を共にし、戦った人物。残虐性のみ取り沙汰される彼らの素顔や、内戦地シリアでの生活など、体験談を中心にした300ページにわたるルポをしたためた。  鵜澤氏がシリアに入ったのは、13年4月のこと。当時のシリアは、チュニジアから始まり中東各国に急速に広がっていった「アラブの春」を経て、現在も続くシリア政府軍と反体制派との戦いの真っ只中だった。  自ら志願して反体制派に加わった鵜澤氏は、指導者の元でイスラム教を熱心に勉強した。イスラム教徒でないと入隊できないうえ、彼らは、人々のために戦っているのではなく彼らの信奉する神のために戦っているため、イスラム教を理解することから始めなくてはならなかった。ムスリム(イスラム教信者)たちと共に、1日5回の礼拝をこなし、ラマダン(断食月)には水の一滴も飲まない生活を送った。そんな生活の中で、鵜澤氏は自分の中にあった彼らに対する「野蛮で残虐なテロリスト」というイメージが、「仲間思いで心温かい人たち」へと変わっていたことに気付く。  それが決定的となった出来事が起こる。シリアの都市、アレッポにある刑務所を政府軍から奪う作戦の際のこと。鵜澤氏は砲弾の攻撃に遭い、脚を負傷してしまう。身動きができないまま、1人戦場に取り残された。死を覚悟したが、銃弾の飛び交う中、決死の覚悟で鵜澤氏を助けだしたのは、他でもない“イスラム過激派”の彼らだった。  先の戦闘で受けた攻撃が原因で、眼の奥に銃弾の破片が埋没していることが発覚し、手術のために日本に帰国することになった鵜澤氏。この時も「帰国後の生活が大変だろうから」と多額の金銭を渡してくれた。たった3カ月の“イスラム過激派”としての生活だったが、鵜澤氏は彼らの本当の姿を伝えたいと強く感じたという。  本書を読み進めていくと、国内で報道される“イスラム過激派”と、鵜澤氏が目の当たりにした姿が大きく異なることに驚く。本書にもあるように、彼らは決して自爆攻撃を強要することはなく、戦闘も参加したい人が参加すればいいという程度だったのだという。  シリア騒乱での死者数は11万人以上といわれ、史上最悪の混乱となっている。幸い、日本国内では“イスラム過激派”とみられる集団による事件は、まだ起きていない。  日本人には、遠い国の出来事ではあるが、現地でいったい何が起きているのか、どんな悲惨な現状が繰り広げられているかを知るきっかけになる一冊である。

ある日“イスラム過激派”になった──報道の裏にあるテロリストの素顔とは!? 『僕がイスラム戦士になってシリアで戦ったわけ』

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『僕がイスラム戦士になってシリアで戦ったわけ』』(金曜日)
 日本人ジャーナリスト・後藤健二さんがイスラム国に殺害されるショッキングな事件から、ちょうど1年が過ぎた。“イスラム過激派”。2001年のアメリカ同時多発テロ事件以降、日常的に目にする単語だが、一体彼らはどんな組織で、どんな人たちなのか? 私たちは知らない。  本書『僕がイスラム戦士になってシリアで戦ったわけ』(金曜日)の著者、鵜澤佳史(27)氏は“イスラム過激派”と呼ばれる人々と寝食を共にし、戦った人物。残虐性のみ取り沙汰される彼らの素顔や、内戦地シリアでの生活など、体験談を中心にした300ページにわたるルポをしたためた。  鵜澤氏がシリアに入ったのは、13年4月のこと。当時のシリアは、チュニジアから始まり中東各国に急速に広がっていった「アラブの春」を経て、現在も続くシリア政府軍と反体制派との戦いの真っ只中だった。  自ら志願して反体制派に加わった鵜澤氏は、指導者の元でイスラム教を熱心に勉強した。イスラム教徒でないと入隊できないうえ、彼らは、人々のために戦っているのではなく彼らの信奉する神のために戦っているため、イスラム教を理解することから始めなくてはならなかった。ムスリム(イスラム教信者)たちと共に、1日5回の礼拝をこなし、ラマダン(断食月)には水の一滴も飲まない生活を送った。そんな生活の中で、鵜澤氏は自分の中にあった彼らに対する「野蛮で残虐なテロリスト」というイメージが、「仲間思いで心温かい人たち」へと変わっていたことに気付く。  それが決定的となった出来事が起こる。シリアの都市、アレッポにある刑務所を政府軍から奪う作戦の際のこと。鵜澤氏は砲弾の攻撃に遭い、脚を負傷してしまう。身動きができないまま、1人戦場に取り残された。死を覚悟したが、銃弾の飛び交う中、決死の覚悟で鵜澤氏を助けだしたのは、他でもない“イスラム過激派”の彼らだった。  先の戦闘で受けた攻撃が原因で、眼の奥に銃弾の破片が埋没していることが発覚し、手術のために日本に帰国することになった鵜澤氏。この時も「帰国後の生活が大変だろうから」と多額の金銭を渡してくれた。たった3カ月の“イスラム過激派”としての生活だったが、鵜澤氏は彼らの本当の姿を伝えたいと強く感じたという。  本書を読み進めていくと、国内で報道される“イスラム過激派”と、鵜澤氏が目の当たりにした姿が大きく異なることに驚く。本書にもあるように、彼らは決して自爆攻撃を強要することはなく、戦闘も参加したい人が参加すればいいという程度だったのだという。  シリア騒乱での死者数は11万人以上といわれ、史上最悪の混乱となっている。幸い、日本国内では“イスラム過激派”とみられる集団による事件は、まだ起きていない。  日本人には、遠い国の出来事ではあるが、現地でいったい何が起きているのか、どんな悲惨な現状が繰り広げられているかを知るきっかけになる一冊である。

嗚呼、清原……『かっとばせ!キヨハラくん』で、かつてのプロ野球界のアイドルの全盛期を振り返る

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『かっとばせ!キヨハラくん』、『モリモリッ!ばんちょー!!キヨハラくん』(小学館)
 ご存じの通り、清原和博が覚せい剤取締法違反容疑で逮捕された事件は、日本列島に衝撃を与えています。10代の若者からすれば「元野球選手かなんか知らないけど、ヤクザみたいなオジサンが逮捕されて、なんでこんな大騒ぎになってるの?」という感じかもしれません。しかし、我々アラフォー世代にとっては、清原といえば、野球に興味があるなしにかかわらず、誰でも知っている国民的大スターだったわけです。  そんな清原の全盛期の人気ぶりを象徴するのが、なんといっても、マンガ『かっとばせ!キヨハラくん』でしょう。1987年から94年まで「月刊コロコロコミック」(小学館)で、単行本にして15巻分の長期連載がなされていたのですから、当時の子どもたちへの影響力は絶大だったといえます。今でいうピカチュウ、ジバニャンと同等レベルの知名度といって差し支えないでしょう。  連載がスタートした87年ごろといえば、清原がシャブではなくホームランを打ちまくっていた時代。くしくもお笑い界では、マーシーこと田代まさしが「ギャグの王様」「ダジャレの帝王」と呼ばれてバラエティ番組を席巻し、アイドル界ではのりピーこと酒井法子が「のりピー語」をひっさげて衝撃のデビュー。歌謡界ではCHAGE and ASKAが「恋人はワイン色」「LOVE SONG」「SAY YES」を立て続けにヒットさせていました。 『かっとばせ!キヨハラくん』の主人公は、西部ライアンズの四番打者キヨハラ。第1話からファンの女の子にキャーキャー言われているシーンが、当時のアイドル的人気を物語っています。そのほかには、モリ監督、ピッチャーのクドー、イシゲ、アキヤマといったライアンズの面々や、パ・リーグ、セ・リーグの有名選手たちが登場し、毎回彼らとのドタバタギャグが繰り広げられます。内容はといえば、子どもたちが好きそうな下ネタあり、ダジャレありの、くっだらないギャグのオンパレードです。  たとえば、先発ピッチャーに悩むモリ監督が、クドーやワタナベに打診したところ拒否されてしまいます。そこで、「代わりにやりましょうか?」とキヨハラ。おもむろにモリ監督の頭をシャンプーしだします。「洗髪=センパツ」というわけです。  ほかにも、モリ監督が出したスクイズのサインを見てウグイスと間違えて「ホーホケキョ」と言ってみたり……。クドーの投げた牽制球がキヨハラの股間に当たり、チ●チンが膨れ上がったり……。いかにも小学生が大好きそうなギャグなのですが、大人が読んでも十分笑えるクオリティです。  そしてなんといっても、学生時代からのライバルである東京カイアンツのクワタの存在が作品の面白さを際立たせています。天然ボケで肉体派のキヨハラと、根暗でネガティブなクワタの掛け合いがバツグンに面白いのです。  クワタのキャラクターはかなりエキセントリックで、五寸釘を藁人形に打ち込んだり、いつもブツブツ言ってる不気味なキャラで、助っ人外国人や審判に変装したり、時にはウグイス嬢に女装するなど、ありとあらゆる手段でキヨハラの練習や試合を妨害します。主役のキヨハラを食うレベルの活躍で、作品中で『がんばれ!クワタくん』というスピンオフ作品を生んだほどでした。  このように、子ども向けギャグマンガの王道を行く『かっとばせ!キヨハラくん』でしたが94年に一旦終了。その後は、松井秀喜をモデルとした後継作品『ゴーゴー!ゴジラッ!!マツイくん』がしばらく連載されます。しかし、2003年に松井が大リーグ入りしたタイミングで、巨人に移籍した清原がモデルの『モリモリッ!ばんちょー!!キヨハラくん』が開始されます。  ……しかし、この『モリモリッ!ばんちょー!!キヨハラくん』がエライことになっていました。タイトルの通り、番長キャラに変貌した主人公キヨハラ。モトキをはじめとした舎弟たちを引き連れ、丸刈り、関西弁、目は据わっており、やたら裸になって筋肉を誇示します。ハラ監督やヨシノブ(高橋由伸)をはじめとした気の弱そうなキャラクターたちを恫喝して笑いを取るギャグが多く、『かっとばせ!』時代とは完全に別のキャラクターとなっているのです。ある意味、リアルさを追求した結果といえなくもないですが、これはこれでちゃんと笑えるギャグになっているところが、作者・河合じゅんじ先生の職人技なのかもしれません。  まるで何かのクスリをやっているのではないかと思うほどのキャラの変貌ぶりで、バイオレントに暴れまくるキヨハラですが、ここでもクワタが、暴走するキヨハラのストッパー役として登場。2人の掛け合いで、見事にギャグが成立しています。まるで長年連れ添った夫婦のようなコンビネーション。光と影、陰と陽。やはり、この2人は切っても切れない関係なのです。リアルの清原も、釈放されてイチから人生をやり直すとしたら、やっぱり一番頼りになる存在は桑田なのかもしれませんね。  ちなみに、14年から刊行されている大人版のコロコロコミックである「コロコロアニキ」では、番長時代ではないほうのマンガ『かっとばせ!キヨハラくん』が復活し、好評連載されていました。そして今回の事件を受けてその存続が心配されていましたが、残念ながら「諸般の事情」により休載が発表されています。一応「休載」ですから、いつの日か復活するかも……。そんなわずかな望みにかけて、再開を待ちたいと思います。 (文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん<http://ablackleaf.com/>)

一瞬の判断ミスが命取りに! 第一線の新聞記者が明かす、危険地帯の取材裏『戦場記者』

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『戦場記者 「危険地取材」サバイバル秘話』(朝日新書)
 約1年前の1月30日。イスラム国(IS)に拘束され、殺害予告を受けたジャーナリスト後藤健二さんの“その時”が近づき、日本中の人々がその行方をかたずをのんで見守っていた。  同日午前0時40分。朝日新聞東京本社に、外務省幹部から極めて異例ともいえる一本の電話が入った。 「シリアに、おたくのイスタンブール支局長が入っていますね。とても危険なんです。大臣の指示です。即刻出国してください」 「具体的に脅威が高まっているという情報があるのなら、教えてほしい」 「2人が誘拐されている。3人目を出したくはないんですよ。3人目の拘束者が出たら、どうするおつもりなんですか。3人目の邦人保護なんてできませんよ」  緊迫したやりとりを行ったのは、朝日新聞国際報道部長であり、『戦場記者 「危険地取材」サバイバル秘話』(朝日新書)の著者の石合力氏。およそ20年もの海外取材経験を持つベテラン記者で、2011年に中東特派員として派遣されたときには、“アラブの春”と重なり、エジプトやリビアで政権崩壊にも立ち会った。上記の外務省幹部とのやりとりの返事に、自身の経験から相当高い確率で安全を確保しながら取材できる地域がある、と考え「安全に最大限注意した上で、取材を続ける」と返答した。すると、ほかの新聞や週刊誌からは、シリアで取材を続ける朝日新聞に疑問を投げかけるような記事が出た。  外務省の邦人保護関係者の間に「冒険ダン吉」という言葉がある。それは戦前の人気漫画のタイトルで、南の島の王となった勇気ある少年ダン吉が、機転を利かせてさまざまな敵に打ち勝っていくという内容だ。「危険を顧みず、現場に飛び込むジャーナリスト」の隠語として使われているという。  そんな“ダン吉”とまでいかなくとも、危険地で取材している記者たちが、一体どうやって安全を確保し、取材しているのか? 本書では、爆弾テロが発生したらどのタイミングで近づくのか、どんな場所に宿泊するのか、催涙弾を受けたらどうするのか、危機や紛争に記者とともに現場に飛び込む“戦場運転手”の存在など、危険地取材の舞台裏が、石合氏の身に起きた実際の体験をもとに短いエッセー形式でつづられている。また、戦地で携帯は使えるのか、一日の滞在費用の相場など、一般人の素朴な疑問に対して、戦場の常識があまりにもぶっ飛んでいて、安全を確保することがどれだけ大変なのかを痛感させられる。場所はエジプト、シリア、レバノン、イラク、パレスチナ自治区など、日本人にはあまりなじみのない中東での経験がベースとなっているので、読んでいるうちに、中東情勢が難解ながらも少しずつわかってくる。  危険地に行かないから関係ない――。このご時世、なかなかそうも言っていられない。フランス・パリで起きた同時多発テロのように、いつ先進国の観光地がテロの現場となり、自分たちの身に危険が降りかかってくるかわからない。まして、4年後には東京オリンピックが開催されるのだ。今こそ、サバイバルスキルを上げておくべき、なのかもしれない。 (文=上浦未来) ●いしあい・つとむ 1964年、大阪市生まれ。朝日新聞国際報道部長。88年入社。カイロ、ワシントン両特派員、政治部次長、国際報道部次長、GLOBE副編集長、中東アフリカ総局長などを歴任。フセイン政権下のイラクや“アラブの春”に揺れる中東、アフリカ各国を現地取材。2013年6月から現職。同志社大学一神教学際研究センター共同研究員。

ダメ。ゼッタイ。 怖すぎドラッグマンガ 『エンドレス・ドラッグ・ウォーズ リスク』

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『エンドレス・ドラッグ・ウォーズ リスク』
 リスクをお忘れだ! 快楽だけじゃ、都合良すぎるぜ!!  かねて薬物使用のウワサがあったプロ野球界の大物OBが、ホームランだけでなくクスリも打っていたということで、ついに逮捕されました。一昨年は、同じく覚せい剤所持容疑で逮捕された大物ミュージシャンが、供述で「SAY YES!」と言ったとか言わないとか(たぶん言ってない)という話もありましたし、危険ドラッグの影響と思われる交通事故も多数発生しましたね。  ということで、ドラッグの恐ろしさをあらためて皆さんと共有すべく、世にも恐ろしいドラッグがテーマのマンガをご紹介いたします。その名も『エンドレス・ドラッグ・ウォーズ リスク』。やだ……タイトルがすでに怖い!  本作はそのタイトルの通り、麻薬撲滅のために闘う男が主人公です。主人公、財前要は、厚生労働省地方厚生局麻薬取締部の麻薬取締官。いわゆる麻薬Gメンとか、マトリと呼ばれる人です。麻薬捜査官は警察ではないんですが、逮捕権や拳銃の所持も認められているんですね。  財前は、単なるマトリの捜査官とは比較にならないほど、尋常じゃないドラッグへの憎悪を燃やしています。それもそのはず、自分自身が過去に捜査中にハメられてシャブを大量に投与されてしまい、生死をさまようことに。10年以上たった今も、後遺症で恐ろしいフラッシュバック(幻覚症状)に悩まされているのです。主人公の麻薬捜査官が元シャブ中……とんでもなく、ダークなマンガです。まさに、エンドレス・ドラッグ・ウォーズ。  作中で表現されているフラッシュバックのシーンが、またヤバいです。体中の至るところを虫が這い回ったり、時には人の顔が歪んだり、目が3つになったり……。財前は、自分の身にフラッシュバックが起こると、正気を保つために、ある行為に出ます。  それは、サックスを思いっきり吹くこと! そのため財前は、捜査中でも常にサックスをケースごと持ち歩いています。どう考えても捜査のジャマだろうと思うところですが、ジャンキーに襲われた時にサックスのケースで思いっきりブン殴るなど、武器としても役に立ちます。  その財前の宿敵が、関東仙石会幹部ヤンマ組組長である鬼山丈。通称、鬼ヤンマ。街をシャブで埋め尽くし、日本の麻薬王になる! と息巻く武闘派ヤクザです。鬼ヤンマの覚せい剤への入れ込みようはハンパではなく、言ってることもやってることもムチャクチャ。とんでもなくクレイジーな男で、もちろん自分自身もシャブを打つという筋金入りのジャンキーです。この鬼ヤンマの、シャブ中名言がスゴいです。 「シャブは基本的に無害なんだよ!」 「ヴーーーーーッ 来た来た来たあ 上がって来たぞォ」 「シャブは最高の貿易だ!! 広告も宣伝もいらなけりゃ、ジャロに苦情も来ねえ」 「オレにはシャブは現実(リアル)へのパスポートだ!」  こんなヤバいやつですので、怒らせると世にも恐ろしい拷問が待っています。それが「眼球シャブ注射」です。ギャーーー! ダメ! ゼッタイ!!  そして、こういうマンガですから、麻薬にハマって人生が崩壊する悲惨な人たちがワンサカ登場します。いくつかご紹介していきましょう。  大手広告代理店にお勤めの城野チーフ、プレゼン絶不調で、もう3日寝ていない状況です。そしてフラフラと、飯も食わずにトイレに行ってしまいました。しかし、トイレに行った後の彼は全然違いました! シャッキーン! 別人のような輝き!! 劇的ビフォーアフター。 「ホラ、メシなんか食ってないでガンガンいくぞ」  3日間不眠不休の男が、数分で見違えるほどに元気になるとは……。シャブの効果恐るべし。 しかし、コトがバレれば、もちろん会社はクビです。あとは転落するのみ。これからが本当の地獄の始まりなのです。仕事のために頑張っても、全然報われません。  若者向けドラッグといわれているMDMA(通称エクスタシー)も出てきます。しかも、舞台は高校の学校内です。最初は離婚の寂しさを紛らわすために使っていた体育教師から、女子高生……そして、男子高生へと段階的に波及していきます。こんな広がり方もあるのか。身近なだけに、恐ろしいですね。  MDMAは覚せい剤ほど強烈ではありませんが、本人が感じてなくても異常に発汗していたり、少しずつ異常な行動が増えていくようです。そして最悪なパターンは、ウワサによく聞く、いわゆる「アイ・キャン・フライ」です。  高校生が給水塔からダイブして、死亡。本人が飛べると思っちゃってるんだから、助かりようがないですよね。この男子生徒が大物政治家の息子だったため、マスコミや政界を巻き込んだ大問題に発展していきます。こんな感じで、基本的にいろいろなクズ野郎が出てくるマンガではあるのですが、この作品の中でも最凶最悪なクズ・オブ・クズで、キング・クズなキャラクターがいます。それが、御手洗光司という男。  麻薬中毒患者の更生施設「メシア」を運営し、何人も麻薬中毒から立ち直らせた人格者。しかし、実はこの男自身がいつのまにか覚せい剤にハマり、ジャンキーになってしまっていたのです。ミイラ取りがミイラにとは、まさにこのことです。  幼い一人娘に飲ませるフルーツミックスジュースも、なんとシャブ入り。おかげで、8歳にして娘もジャンキーです。いかにこの男が、キング・クズであるか伝わりましたでしょうか。 「キャハハハハハ 気持ちいーィ」  めちゃくちゃ楽しそうにブランコに乗る娘。そんな気持ちいいブランコ、おかしいから!! 実は、若かりし頃の財前をシャブ中にしたのも、この御手洗です。ウワサを聞いて内偵していた財前に一服盛って、財前に致死量寸前のシャブを投与したのでした。  ……というわけで、エンドレスで危ないドラッグマンガ『エンドレス・ドラッグ・ウォーズ リスク』をご紹介しましたが、いかがだったでしょうか? 気の利いたキャッチコピーで「ダメ。ゼッタイ。」を連呼するよりも、一発こういう超おっかないマンガを読ませたほうが、よっぽど抑止効果があるような気がします。 (文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん<http://ablackleaf.com/>)