「私の目標は重複障害者の方が家庭内での生活、及び社会的活動が極めて困難な場合、保護者の同意を得て安楽死できる世界です」 相模原の障害者施設「津久井やまゆり園」で19人の入所者を殺害した植松聖容疑者は、今年2月、衆議院議長に宛てて、このような手紙を書いている。障害者が「安楽死できる」という勝手極まりない発想だけでも身の毛がよだつが、犯行後の供述では「重複障害者が生きていくのは不幸だ。不幸を減らすためにやった」と、自らの「正義」を語っている。障害者に対する冷酷なまでのその発想は、ナチスドイツによる障害者の安楽死政策「T4作戦」にも影響を受けたとみられている。 そんな植松容疑者の「正義」を、誰もが「あり得ない」と思うだろう。けれども、信じられないことに、少し前の日本では、彼のような正義を語る人は少なくなかった。脳性マヒ者の組織「青い芝の会」会長を務め、自らも脳性マヒの障害を背負いながら社会に対して当事者としての言葉を発信し続けた、横田弘による著作『障害者殺しの思想』(1979年刊行。2015年に現代書館から復刊)から見てみよう。 本書は、78年2月9日に起こった母親による脳性マヒを患った障害児殺しの記述から始まる。自らの子どもを殺し、自殺を遂げた母親に対し、「献身の母、看病に疲れ? 身障の息子絞殺」(毎日新聞)、「雨の街 一夜さすらい 母親、後追い自殺 身障の愛児殺し」(読売新聞)などの見出しで事件を報道するマスコミ。その目は、明らかに殺された子どもに対してではなく、母親への同情的に向けられていた。そんな世間に対して、憤りを隠さない横田。脳性マヒの当事者である彼は、重い筆致で「障害者児は生きてはいけないのである。障害者児は殺されなければならないのである」とつづる。そして、この事件の原因を、母親の介護疲れではなく、障害者やその家庭を取り巻く社会の差別に見ている。 「勤君は、母親によって殺されたのではない。地域の人々によって、養護学校によって、路線バスの労働者によって、あらゆる分野のマスコミによって、権力によって殺されていったのである」 48年に施行された「優生保護法」は、「優生学上不良な子孫の出生を防止し、母体の健康を保護する」、つまり「不良」である障害児の出生や障害者の出産を防止する法律だった。96年、「母体保護法」と改名され、優生思想は排除されているが、わずか20年前まで、先天性の障害者は「不良」と見なされていたのだから驚くばかり。そんな時代を反映するかのように、社会的な地位のある人間すらも、今では考えられないような差別的発言を行っていた。元衆議院議員、日本安楽死協会初代理事長の太田典礼は、「週刊朝日」(朝日新聞出版)72年10月27日号の記事において、こう語っている。 「植物人間は、人格のある人間だとは思っていません。無用のものは社会から消えるべきなんだ。社会の幸福、文明の進歩のために努力している人と、発展に貢献できる能力を持った人だけが優先性を持っているのであって、重症障害者やコウコツの老人(編注:認知症の高齢者)から『われわれを大事にしろ』などといわれては、たまったものではない」(原文ママ) さらに、『飢餓海峡』(同)、『金閣炎上』(新潮社)などで知られる直木賞作家の水上勉も、「婦人公論」(中央公論新社)63年2月号の座談会で、こんな発言をしている。 「今の日本では奇形児が生まれた場合、病院は白いシーツに包んでその子をすぐ、きれいな花園に持って行ってくれればいい。その奇形の児を太陽に向ける施設があればいいが、そんなものは日本にない。今の日本では生かしておいたら辛い。親も子も……」 彼ら知識人の言葉と、19人を殺害した殺人鬼の「正義」は、驚くほど似通っている。その背景には「障害を抱えた人間は、社会においても役に立たず、本人も不幸である」といった偏見が横たわっているのだ。 では、現代において、障害者差別は根絶されているのだろうか? 今回の事件を受けて、神奈川県警は被害者の実名を発表していない。その理由は「被害者が障害者であることと、ご遺族の意思」とされている。犯罪被害者をめぐる実名報道の是非には議論があるものの、少なくとも、今回の事件が「健常者」をターゲットにした事件であれば、実名も、顔写真も、そしてプロフィールも飛び交っているはず。この報道の仕方に、健常者と障害者とをはっきりと区別する思想が見て取れはしないだろうか? なぜ、遺族は匿名を求めるのだろうか? なぜ、障害者であることが警察に匿名発表を選ばせたのだろうか? 報道発表で、被害者たちは女性(19)、男性(66)などと書かれている。被害者遺族をメディアスクラムの犠牲者にすべきではないが、このような発表では、被害者の姿をイメージすることは難しいだろう。 79年に執筆された本書には、エレベータがないために車いすでは地下鉄に乗れない、バスに乗車拒否されるといった今では考えられない差別的な状況がつづられている。現在では、エレベータやノンステップバスも整備され、状況は改善されつつある。太田や水上のような発言を、愚かであると断罪できるほどには、日本から差別意識は減少しているだろう。しかし、現代でも、まだ障害者をめぐる状況は「平等」ではない。今回の事件に対するメディアや社会のリアクションは、いまだ残る障害者差別の一端を垣間見せているのではないか。 (文=萩原雄太[かもめマシーン])『障害者殺しの思想』(現代書館)
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荒ぶる漢たちのリアル! 現役土建屋社長と石丸元章が立ち上げた「土木建築マガジン」編集部に潜入
作家の石丸元章が、「BLUE'S MAGAZINE(ブルーズマガジン)」なるフリーペーパーを作っているらしい。テーマはなんと「土木建築系総合カルチャーマガジン」。ど……土木建築!? 石丸さんって、ドラッグ小説とか書いてる人じゃなかったっけ? それがどうして、土木建築のフリーペーパーを! ……というわけで今回は、「ブルーズマガジン」の制作現場である感電社の編集部に突撃した……のだが、もらった住所にたどり着いても、年代物のアパートが建っているだけで、フリーペーパーの編集部がありそうな雰囲気はゼロ。ここが編集部のハズなんだけど……
まさか、このアパートの中が会社なんてことは……あった! しかも「いろいろなものをこじらせたひとり暮らしの男子大学生の部屋」感あふれる、どーかした内装の部屋が編集部。「ザ・秘密基地」といった感じのこの部屋から生み出されている「ブルーズマガジン」について、主筆の石丸元章と、編集長の雨森諭司に話を訊いた。 ■土建は都市的で荒ぶる男たちの世界だ ――この感電社は「ブルーズマガジン」を作るために、現役土建会社社長の柳知進さんと石丸さんたちが立ち上げた会社なんですよね? 石丸 そうです。今日は柳も同席する予定だったんですけど、現場でトラブルがあったということで、そっちに行ってしまって。でも、今日みたいなものすごく暑い日に、現場で汗を流して働いているやつらがいる。そこで感じた心情をダイレクトに出せる雑誌を作りたいということで、僕のTwitterにメッセージをくれたんです。土建の現場で見たり感じたりしていること、起きている物語……そういうものが雑誌にもテレビにも、どこにも出てこないので、思うところがあったみたいですね。 ――石丸さんが土建フリーペーパーを作っていると聞いて意外でした。それまで、土建関係に興味は? 石丸 全然なかった。ダンプとトラックの違いも、シャベルとスコップの違いもわからなかったですもん。でも土建はね、荒ぶる男たちの世界じゃないですか。そして彼らは、極めて都市的な文化を持った人たちなんですよね。そこには興味を引かれました。土建の現場って、実は青山とか渋谷とか、都市の風景の中に溶け込んでいますから。 ――ああー、確かに工事が多く行われているのは、田舎じゃなくて都会ですよね。 石丸 だから、都市で暮らして、都市で稼いで、都市で遊んで……っていう人たちが働いている。そういう意味で、この雑誌のことを「土木建築系総合カルチャーマガジン」と呼んでいます。 ――土建でバイトをして稼いだ金で、演劇やバンドを頑張っているという若者も多そうですよね。 石丸 やっぱり、稼ぎって大事ですから。ただ、今は「本当は演劇やバンドをやりたいけど、我慢の期間として土建をやっているんだ」という人は意外と少ないんですよ。表現活動は表現活動としてやるけど、職人としても誇りを持ってやっているという人が多い。イースタンユースのドラムの田森篤哉さんは庭屋さんなんですが、「本当にこの仕事をやっていてよかった」と言っていますからね。「すごくクリエイティブだし、たくさん稼げる」と。イースタンの吉野(寿)さんと出会ったことと同じくらい、今の仕事に出会ったことは大きいと考えているようです。あ、本当にここなんだ
■迫力のある表現より、危機管理や安全管理が重要 ――土建という未知の世界に触れて、一番興味を引かれたのは、どういうポイントですか? 石丸 やっぱり現場ですね。土建の現場って、写真や映像で見ると、うるさくて汚くて危なくて……っていうイメージじゃないですか? でも、自分で足を踏み入れてみると、必ずしもそうじゃない部分も見えてくるんですよ。解体の現場なんて、これから命を失っていく建物の大きさとか荘厳さとか、すごく心を打つものがありますよ。これは、表現の領域で人に伝えるべきだと思いました。 雨森 そういう現場を、石丸さんはすごく文学的に表現するんですよ。「さながら戦場のような……」みたいに。実際に、その現場はすごかったんですけど、職人さんにチェックしてもらったら「戦場のような」はやめてくれと。 石丸 「ウチは安全第一なんだ」って(笑)。 ――現場の迫力を伝えるための文章だけど、現場の人からすると、その表現はダメなんですね。 雨森 現場の人にとっては、迫力のある表現より、危機管理や安全管理が重要ですから。「そこに赤字入るんだ!?」って新鮮でしたね。もちろん、職人さんたちも同じように現場で「すごい!」とか「キレイ!」と感じることはあるみたいですけど、それを人に伝えることはしないんですよね。「ブルーズマガジン」では、そういう部分に光を当てたいという気持ちもあります。 石丸 雨森くんはね、現場と編集部をつなぐ役というか、職人さんたちと一番ぶつかる役だから大変だと思うよ。 雨森 すごくしっかりした人たちなんで、ちょっとした言葉遣いや、少し時間に遅れただけで怒られますから。礼節関係や冠婚葬祭、記念行事とかを、ものすごい大事にするんですよ。 ――ライターなんかやってると、年賀状とか気にしないですからね。 雨森 ですよね。一番そこを怒られるんですよ。あいさつ、コーヒーの出し方、差し入れのタイミング……そういうことをキッチリやれるようになると、「わかってるな、お前」ということで、やっとフレンドリーに話ができるようになるんです。 石丸 この人の役割はデカイですよ。現場の人たちに取材のオッケーをもらうのって、すごく難しいから。「BLUE'S MAGAZINE」主筆の石丸元章氏と、編集長の雨森諭司氏
――ある意味、雑誌に出ても得はないですからね。仕事の発注が増えるわけでもないし。 雨森 そういう状態だったのが、ようやく「ウチをぜひ取材してください」と声をかけてもらえるようになったのがうれしいですね。自分たちの仕事が雑誌の取材対象になるなんて思ってもいなかったのに、「ブルーズマガジン」を読んだら、自分たちと同じような業種が取り上げられている。じゃあ、ウチも取材してもらおうと思ってくれているようです。 石丸 見本誌を持っていくと、職人さんたちがすっごく喜んでくれるんだよね。自分たちの方法論が間違ってなかったんだ、職人さんたちの心に触れるようなものが作れて、本当によかったなって思います。 ――少し前から、町工場など「ものづくり」の現場が注目されるようになりましたけど、土建の現場も注目されるようになってほしいですよね。 石丸 『プロジェクトX~挑戦者たち~』(NHK)みたいな大きなプロジェクトは注目されるけど、穴掘ったり、コンクリートの型枠を組んだりする職人さんが注目されるような時代は、まだまだ来てないでしょ。プロの開削師が手掘りで掘った穴って、すっごくキレイで感動しますけどね。板前の切った刺し身のように、穴の角度がバシッと決まってて。でも、その穴って必ず埋められちゃう。 雨森 夜、穴を掘って作業して、朝までに埋めて、次の日の夜、また掘り返してから作業という繰り返しなんです。 ――それでも、キレイに掘る必然性がある? 石丸 あるんですよ。ああいう工事って、掘ったところ、埋めたところ、作業したところ……っていう過程を一つ一つ写真に収めて、役所の人が確認するんですよ。よくボードを持って写真を撮ってるでしょ? 地面の中で水道管換えたかどうかなんて、わからないじゃないですか。でも、役所の人がつきっきりで監視しているわけにもいかないから、写真を見て確認するわけです。写真がお金になるんですよ。 ――写真で見せる用の、キレイな穴なんですね。 石丸 あとは、職人のプライドもあるでしょうね。ザ・秘密基地感あふれる編集部。トレーニング器具は「いつでも現場で働けるように」とのこと
■実際に現場で働きながら写真を撮るカメラマン ――この時代、フリーペーパーで発行し続けるというのは大変そうですけど、戦略はあったんですか? 石丸 書籍にするとか、ムック本にするとか、いろいろな方法があったと思うんですけど、なんでフリーペーパーにしたのかというと、GoogleでもTwitterでも、ネットって全部フリーサービスじゃないですか。フリーメディアには、新しい可能性があると思ったんですよね。だから「フリーでやる」という前提で、編集部をどこに構えるのか、何人で作るのか、流通をどうするのかというのを決めていきました。 ――採算ラインから逆算して成り立つ家賃の場所、人件費でやろうと。 石丸 とはいえ、なかなか大変ね。Twitter社も赤字なくらいだから。それでも応援してくれる人たちがいるから、やれていますけど。 雨森 ウチで撮ってもらっている、カメラマンの菊池(茂夫)さんによく言われるんですよ。菊池さんはコレを始めてから、実際に現場で働きながら撮影もしたりしていてるんで、本当にリアルなものを撮るっていう部分に貪欲なんですよね。だから「お前も、いつ現場に入るの?」ってよく言われています。 ――菊池さんはライブやバンド写真で有名な方だから、やはり現場でのライブ感覚を重視してるんですね。 石丸 菊池さんは現場に入って働いている人の目線で写真を撮り、自分は書き手の立場で現場に入る人でいたいと思います。シャベルを持たないほうがわかることも、あると思いますよ。
■最新号は新企画満載! ――「ブルーズマガジン」の今後の展望を聞きたいんですが、どんな企画をやっていこうと思っていますか? 石丸 これまでは、自分たちもまだまだ土建について知らないことが多いので、現場にあるものを取材していたんですが、最新号の7号特集は「未来土木」ということで、ようやく未来を語れるようになりました。月面のプラントとかね。 ――いきなり月! 土建に対する理解が深まったからこそ、未来に行けたと。 石丸 もちろん、まだまだわかってない部分も多いんだけど、土建の未来に対して想像力が働くようになったということですね。ほかにも、7号は新企画満載なんで、楽しみにしてほしいですね。「飯場」ってあるでしょ? 住み込みで働く。昔は汚いプレハブで、カバンひとつでやって来て「今日から働かせてください」みたいなところだったけど、今はちゃんとした寮のようになってるんですよ。まあ、三畳一間だけど。 「TATTOO BURST」(コアマガジン)の編集長だった川崎美穂さんと自分が、そこに行って一泊する「飯場探訪記」という企画をやっています。食堂で一緒に酒飲んで一緒に風呂に入って……これは面白いですよ(笑)。飯場には高齢の人も多いんですけど「女の人とお風呂に入ったのは20年ぶりだ」って拝んでたもんね。 雨森 北村さんも行きましょうよ! ――それは行きたいですねー。働くのはムリですけど……。東京オリンピックが控えていて建築ラッシュなんていわれていますが、土建業界に活気は感じますか? 石丸 よく聞くのは「人手が欲しい」ということですね。それだけ仕事が多いってことなんでしょうね。まあ、東京オリンピックをピークに一段落するんだとは思いますが、アスファルトにしてもなんでも、東京って新陳代謝がすごいじゃないですか。都会においては、土木建築っていうのは、これからもある一定の活況というのは続いていくと思います。 雨森 逆に被災地に取材に行ったときは、復興特需で盛り上がっているのかと思ったら、全然違いましたね。 石丸 地方だと、一回造っちゃったら、何十年も建て替えることなんてないから。 雨森 復興特需の中で稼げるだけ稼いだら、その先、仕事が減っちゃうんですよね。 ――最後に、「ブルーズマガジン」を、どんな人に読んでもらいたいですか? 石丸 土建をやっている人たちももちろんそうなんですけど、まったく別の仕事をしていて、現場のことをひとつも考えたことのない人にも読んでもらいたいですね。マニュアルに縛られたアルバイトとかをやっていて、生きているという実感を持てない人たちに土建の世界を知ってもらいたい。今、「生きている実感がない」とか言って、IS(イスラム国)にいきなり行っちゃったりするわけじゃないですか。そうやって極端な方向に行っちゃう若者がいるけど、そりゃ冷暖房の効いたところでマニュアル仕事をやってたら、生きている実感なんてないよ。 土木建築の世界って非常に厳しいし、人付き合いも難しい。でも、激しい仕事であるからこそ、生きている実感の塊だから。そういう若者に「こういう世界はどう?」って見せたいという気持ちもあります。「ブルーズマガジン」を読むと、風景が変わって見えてくると思うんですよ。何も考えずに水道水を飲んでいたら「塩素の入った水だ」くらいにしか思わないけど、水道を造っている人の話を読むと、水道に味がする気がするじゃないですか。同じように道路だってビルだって、周りのものすべてを実は人間が造っているんだなって思うと、感動しますよ。 ――高速道路を走っていると「これを造った人がいるのかー」って、気が遠くなりますよね。 石丸 予算の消化で造ってるんじゃないんです、ちゃんと人間が心を込めて造ってるんです! それを「ブルーズマガジン」を通して感じてほしいです。都市って、無機質なつまらないところじゃないんです。
(取材・文・イラスト=北村ヂン) ●株式会社感電社ホームページ(ブルーズマガジン発行元) http://kandensha.com/ ・お取り寄せが可能です(有料)。ホームページからお問い合わせください。 ・配布店はホームページをご確認ください。
荒ぶる漢たちのリアル! 現役土建屋社長と石丸元章が立ち上げた「土木建築マガジン」編集部に潜入
作家の石丸元章が、「BLUE'S MAGAZINE(ブルーズマガジン)」なるフリーペーパーを作っているらしい。テーマはなんと「土木建築系総合カルチャーマガジン」。ど……土木建築!? 石丸さんって、ドラッグ小説とか書いてる人じゃなかったっけ? それがどうして、土木建築のフリーペーパーを! ……というわけで今回は、「ブルーズマガジン」の制作現場である感電社の編集部に突撃した……のだが、もらった住所にたどり着いても、年代物のアパートが建っているだけで、フリーペーパーの編集部がありそうな雰囲気はゼロ。ここが編集部のハズなんだけど……
まさか、このアパートの中が会社なんてことは……あった! しかも「いろいろなものをこじらせたひとり暮らしの男子大学生の部屋」感あふれる、どーかした内装の部屋が編集部。「ザ・秘密基地」といった感じのこの部屋から生み出されている「ブルーズマガジン」について、主筆の石丸元章と、編集長の雨森諭司に話を訊いた。 ■土建は都市的で荒ぶる男たちの世界だ ――この感電社は「ブルーズマガジン」を作るために、現役土建会社社長の柳知進さんと石丸さんたちが立ち上げた会社なんですよね? 石丸 そうです。今日は柳も同席する予定だったんですけど、現場でトラブルがあったということで、そっちに行ってしまって。でも、今日みたいなものすごく暑い日に、現場で汗を流して働いているやつらがいる。そこで感じた心情をダイレクトに出せる雑誌を作りたいということで、僕のTwitterにメッセージをくれたんです。土建の現場で見たり感じたりしていること、起きている物語……そういうものが雑誌にもテレビにも、どこにも出てこないので、思うところがあったみたいですね。 ――石丸さんが土建フリーペーパーを作っていると聞いて意外でした。それまで、土建関係に興味は? 石丸 全然なかった。ダンプとトラックの違いも、シャベルとスコップの違いもわからなかったですもん。でも土建はね、荒ぶる男たちの世界じゃないですか。そして彼らは、極めて都市的な文化を持った人たちなんですよね。そこには興味を引かれました。土建の現場って、実は青山とか渋谷とか、都市の風景の中に溶け込んでいますから。 ――ああー、確かに工事が多く行われているのは、田舎じゃなくて都会ですよね。 石丸 だから、都市で暮らして、都市で稼いで、都市で遊んで……っていう人たちが働いている。そういう意味で、この雑誌のことを「土木建築系総合カルチャーマガジン」と呼んでいます。 ――土建でバイトをして稼いだ金で、演劇やバンドを頑張っているという若者も多そうですよね。 石丸 やっぱり、稼ぎって大事ですから。ただ、今は「本当は演劇やバンドをやりたいけど、我慢の期間として土建をやっているんだ」という人は意外と少ないんですよ。表現活動は表現活動としてやるけど、職人としても誇りを持ってやっているという人が多い。イースタンユースのドラムの田森篤哉さんは庭屋さんなんですが、「本当にこの仕事をやっていてよかった」と言っていますからね。「すごくクリエイティブだし、たくさん稼げる」と。イースタンの吉野(寿)さんと出会ったことと同じくらい、今の仕事に出会ったことは大きいと考えているようです。あ、本当にここなんだ
■迫力のある表現より、危機管理や安全管理が重要 ――土建という未知の世界に触れて、一番興味を引かれたのは、どういうポイントですか? 石丸 やっぱり現場ですね。土建の現場って、写真や映像で見ると、うるさくて汚くて危なくて……っていうイメージじゃないですか? でも、自分で足を踏み入れてみると、必ずしもそうじゃない部分も見えてくるんですよ。解体の現場なんて、これから命を失っていく建物の大きさとか荘厳さとか、すごく心を打つものがありますよ。これは、表現の領域で人に伝えるべきだと思いました。 雨森 そういう現場を、石丸さんはすごく文学的に表現するんですよ。「さながら戦場のような……」みたいに。実際に、その現場はすごかったんですけど、職人さんにチェックしてもらったら「戦場のような」はやめてくれと。 石丸 「ウチは安全第一なんだ」って(笑)。 ――現場の迫力を伝えるための文章だけど、現場の人からすると、その表現はダメなんですね。 雨森 現場の人にとっては、迫力のある表現より、危機管理や安全管理が重要ですから。「そこに赤字入るんだ!?」って新鮮でしたね。もちろん、職人さんたちも同じように現場で「すごい!」とか「キレイ!」と感じることはあるみたいですけど、それを人に伝えることはしないんですよね。「ブルーズマガジン」では、そういう部分に光を当てたいという気持ちもあります。 石丸 雨森くんはね、現場と編集部をつなぐ役というか、職人さんたちと一番ぶつかる役だから大変だと思うよ。 雨森 すごくしっかりした人たちなんで、ちょっとした言葉遣いや、少し時間に遅れただけで怒られますから。礼節関係や冠婚葬祭、記念行事とかを、ものすごい大事にするんですよ。 ――ライターなんかやってると、年賀状とか気にしないですからね。 雨森 ですよね。一番そこを怒られるんですよ。あいさつ、コーヒーの出し方、差し入れのタイミング……そういうことをキッチリやれるようになると、「わかってるな、お前」ということで、やっとフレンドリーに話ができるようになるんです。 石丸 この人の役割はデカイですよ。現場の人たちに取材のオッケーをもらうのって、すごく難しいから。「BLUE'S MAGAZINE」主筆の石丸元章氏と、編集長の雨森諭司氏
――ある意味、雑誌に出ても得はないですからね。仕事の発注が増えるわけでもないし。 雨森 そういう状態だったのが、ようやく「ウチをぜひ取材してください」と声をかけてもらえるようになったのがうれしいですね。自分たちの仕事が雑誌の取材対象になるなんて思ってもいなかったのに、「ブルーズマガジン」を読んだら、自分たちと同じような業種が取り上げられている。じゃあ、ウチも取材してもらおうと思ってくれているようです。 石丸 見本誌を持っていくと、職人さんたちがすっごく喜んでくれるんだよね。自分たちの方法論が間違ってなかったんだ、職人さんたちの心に触れるようなものが作れて、本当によかったなって思います。 ――少し前から、町工場など「ものづくり」の現場が注目されるようになりましたけど、土建の現場も注目されるようになってほしいですよね。 石丸 『プロジェクトX~挑戦者たち~』(NHK)みたいな大きなプロジェクトは注目されるけど、穴掘ったり、コンクリートの型枠を組んだりする職人さんが注目されるような時代は、まだまだ来てないでしょ。プロの開削師が手掘りで掘った穴って、すっごくキレイで感動しますけどね。板前の切った刺し身のように、穴の角度がバシッと決まってて。でも、その穴って必ず埋められちゃう。 雨森 夜、穴を掘って作業して、朝までに埋めて、次の日の夜、また掘り返してから作業という繰り返しなんです。 ――それでも、キレイに掘る必然性がある? 石丸 あるんですよ。ああいう工事って、掘ったところ、埋めたところ、作業したところ……っていう過程を一つ一つ写真に収めて、役所の人が確認するんですよ。よくボードを持って写真を撮ってるでしょ? 地面の中で水道管換えたかどうかなんて、わからないじゃないですか。でも、役所の人がつきっきりで監視しているわけにもいかないから、写真を見て確認するわけです。写真がお金になるんですよ。 ――写真で見せる用の、キレイな穴なんですね。 石丸 あとは、職人のプライドもあるでしょうね。ザ・秘密基地感あふれる編集部。トレーニング器具は「いつでも現場で働けるように」とのこと
■実際に現場で働きながら写真を撮るカメラマン ――この時代、フリーペーパーで発行し続けるというのは大変そうですけど、戦略はあったんですか? 石丸 書籍にするとか、ムック本にするとか、いろいろな方法があったと思うんですけど、なんでフリーペーパーにしたのかというと、GoogleでもTwitterでも、ネットって全部フリーサービスじゃないですか。フリーメディアには、新しい可能性があると思ったんですよね。だから「フリーでやる」という前提で、編集部をどこに構えるのか、何人で作るのか、流通をどうするのかというのを決めていきました。 ――採算ラインから逆算して成り立つ家賃の場所、人件費でやろうと。 石丸 とはいえ、なかなか大変ね。Twitter社も赤字なくらいだから。それでも応援してくれる人たちがいるから、やれていますけど。 雨森 ウチで撮ってもらっている、カメラマンの菊池(茂夫)さんによく言われるんですよ。菊池さんはコレを始めてから、実際に現場で働きながら撮影もしたりしていてるんで、本当にリアルなものを撮るっていう部分に貪欲なんですよね。だから「お前も、いつ現場に入るの?」ってよく言われています。 ――菊池さんはライブやバンド写真で有名な方だから、やはり現場でのライブ感覚を重視してるんですね。 石丸 菊池さんは現場に入って働いている人の目線で写真を撮り、自分は書き手の立場で現場に入る人でいたいと思います。シャベルを持たないほうがわかることも、あると思いますよ。
■最新号は新企画満載! ――「ブルーズマガジン」の今後の展望を聞きたいんですが、どんな企画をやっていこうと思っていますか? 石丸 これまでは、自分たちもまだまだ土建について知らないことが多いので、現場にあるものを取材していたんですが、最新号の7号特集は「未来土木」ということで、ようやく未来を語れるようになりました。月面のプラントとかね。 ――いきなり月! 土建に対する理解が深まったからこそ、未来に行けたと。 石丸 もちろん、まだまだわかってない部分も多いんだけど、土建の未来に対して想像力が働くようになったということですね。ほかにも、7号は新企画満載なんで、楽しみにしてほしいですね。「飯場」ってあるでしょ? 住み込みで働く。昔は汚いプレハブで、カバンひとつでやって来て「今日から働かせてください」みたいなところだったけど、今はちゃんとした寮のようになってるんですよ。まあ、三畳一間だけど。 「TATTOO BURST」(コアマガジン)の編集長だった川崎美穂さんと自分が、そこに行って一泊する「飯場探訪記」という企画をやっています。食堂で一緒に酒飲んで一緒に風呂に入って……これは面白いですよ(笑)。飯場には高齢の人も多いんですけど「女の人とお風呂に入ったのは20年ぶりだ」って拝んでたもんね。 雨森 北村さんも行きましょうよ! ――それは行きたいですねー。働くのはムリですけど……。東京オリンピックが控えていて建築ラッシュなんていわれていますが、土建業界に活気は感じますか? 石丸 よく聞くのは「人手が欲しい」ということですね。それだけ仕事が多いってことなんでしょうね。まあ、東京オリンピックをピークに一段落するんだとは思いますが、アスファルトにしてもなんでも、東京って新陳代謝がすごいじゃないですか。都会においては、土木建築っていうのは、これからもある一定の活況というのは続いていくと思います。 雨森 逆に被災地に取材に行ったときは、復興特需で盛り上がっているのかと思ったら、全然違いましたね。 石丸 地方だと、一回造っちゃったら、何十年も建て替えることなんてないから。 雨森 復興特需の中で稼げるだけ稼いだら、その先、仕事が減っちゃうんですよね。 ――最後に、「ブルーズマガジン」を、どんな人に読んでもらいたいですか? 石丸 土建をやっている人たちももちろんそうなんですけど、まったく別の仕事をしていて、現場のことをひとつも考えたことのない人にも読んでもらいたいですね。マニュアルに縛られたアルバイトとかをやっていて、生きているという実感を持てない人たちに土建の世界を知ってもらいたい。今、「生きている実感がない」とか言って、IS(イスラム国)にいきなり行っちゃったりするわけじゃないですか。そうやって極端な方向に行っちゃう若者がいるけど、そりゃ冷暖房の効いたところでマニュアル仕事をやってたら、生きている実感なんてないよ。 土木建築の世界って非常に厳しいし、人付き合いも難しい。でも、激しい仕事であるからこそ、生きている実感の塊だから。そういう若者に「こういう世界はどう?」って見せたいという気持ちもあります。「ブルーズマガジン」を読むと、風景が変わって見えてくると思うんですよ。何も考えずに水道水を飲んでいたら「塩素の入った水だ」くらいにしか思わないけど、水道を造っている人の話を読むと、水道に味がする気がするじゃないですか。同じように道路だってビルだって、周りのものすべてを実は人間が造っているんだなって思うと、感動しますよ。 ――高速道路を走っていると「これを造った人がいるのかー」って、気が遠くなりますよね。 石丸 予算の消化で造ってるんじゃないんです、ちゃんと人間が心を込めて造ってるんです! それを「ブルーズマガジン」を通して感じてほしいです。都市って、無機質なつまらないところじゃないんです。
(取材・文・イラスト=北村ヂン) ●株式会社感電社ホームページ(ブルーズマガジン発行元) http://kandensha.com/ ・お取り寄せが可能です(有料)。ホームページからお問い合わせください。 ・配布店はホームページをご確認ください。
岡田有希子はなぜ飛び降りた? 不可侵の“タブー”へ切り込む『闇に葬られた「怪死」の真相』
『闇に葬られた「怪死」の真相』(宝島社)は、数々の謎に満ちた“死”を取り扱った一冊だ。女優・岡田有希子の飛び降り自殺や、陰謀論がささやかれる日本航空123便墜落事故など18編の“怪死”に切り込む。 14年、小保方晴子氏の一連のSTAP細胞騒動では、小保方氏の師であった笹井芳樹氏の自殺に大きな衝撃が走った。小保方氏との怪しすぎる“師弟愛”を大々的にバッシングされるなど、執拗なマスコミの煽りに心が折れた結果、自殺したとされているこの事件。本書によれば笹井氏を追い込んだ黒幕は、理研そのものであるとされる。 では、どうして理研が笹井氏を殺したといえるのか? 戦中、原爆を作っていたとされる理研。競争相手のアメリカに先を越されたうえに、原爆を落とされたことに当時の関係者は「文字通り腹を切る時がきた」と、悔しさを露わにしたという。のち、理研は解体されるのだが、すぐに民間企業として復活。前・理研のメンバーが新・理研にそっくりそのまま所属した。 その結果、理研は、戦中の空気を維持したまま今日まできているという。組織の保身のために責任者を死に追いやる空気があり、それを察知した笹井氏が「文字通り腹を切る時がきた」と、騒動に決着をつけたと本書では結論付けている。 1986年4月8日、女優の岡田有希子が飛び降り自殺するショッキングな事件があった。当時のマスコミは大々的に報じて、お茶の間に生々しい岡田の遺体の映像が流れた。50名を超える後追い自殺など、社会問題になった。 当時、岡田の自殺現場にかけつけた芸能記者の中野信行が、その死の真相は“90分の空白”にあると語る。自殺の動機は、峰岸徹に失恋したからだとウワサされたが、峰岸は「ユッコとは不純な関係は一切ありません」と告白している。 岡田は、当日飛び降りる前に、自宅で自殺未遂を起こしている。治療後所属事務所に行き、自殺未遂を起こしたことを強く責め立てられて、責任感を感じて飛び降りたという説も。 しかし、不可解なのは、救急隊が岡田の自宅に駆けつけてからマスコミに「自殺未遂」の連絡が入るのまで90分かかっていることだ。その後に所属事務所ビルの屋上へ上がり、飛び降りている。この90分に何かがあったのだと中野は推測している。 ほか、“怪死”の現場に駆けつけた記者による生々しいレポートが多数。なぜ彼らは、死ななくてはならなかったのか? 真相はいまだに闇の中だ。『闇に葬られた「怪死」の真相』(宝島社)
「集めて編むのが編集だ!」名言連発の熱すぎる編集者マンガ『編集王』
『重版出来!』というマンガをご存じでしょうか? 大学を卒業したばかりの新人女性漫画編集者、黒沢心が、本が売れない時代に作品を売り出すために奮闘するという、いま一番熱い“編集者マンガ”です。現在も「月刊!スピリッツ」(小学館)誌上で連載中であり、黒木華主演でドラマ化もされました。 『重版出来!』はもちろん素晴らしい作品ですが、僕らのような90年代のマンガをこよなく愛するロートルマンガ読みにとって、どうしても忘れられない編集者マンガがあります。それは、土田世紀先生の『編集王』です。 主人公は、桃井環八(通称カンパチ)。子どもの頃に読んだ『あしたのジョー』に影響を受けてプロボクサーになったものの、網膜剥離で引退を余儀なくされます。失意のドン底にあったカンパチですが、幼なじみでヒロ兄ィと慕う「週刊ヤングシャウト」編集デスク、青梅広道に誘われ、マンガ編集者の道を歩むことになるのです。 このマンガ、一言で言えば、とにかく熱い。まさに、やけどしそうな作品なんです。元ボクサーのカンパチが熱血漢なのを筆頭に、編集長も編集者も、漫画家もアシスタントも、書店員や出版社の営業マンまでもが例外なく熱くて、狂おしいほどに漫画バカ。まるで格闘技マンガを読んでいるかのようなスリリングな展開と、浪花節のような泣かせるセリフ回しの応酬が魅力です。 では、『編集王』がどのぐらい熱いか、ご紹介していきましょう。まず、ボクシングで挫折したばかりのカンパチをヒロ兄ィが励ましつつ、「週刊ヤングシャウト」編集部に誘うセリフ。 「おめえの人生は全20巻じゃねえ…」 「おめえにゃあ、あさっても、しあさってもやってくるんだからな」 「兄ちゃんの職場に来てみろよ…ネクタイ締めたリングもあるぜ!」 見事に全部『あしたのジョー』縛りでセリフが成立しています。「ネクタイ締めたリング」とか、たとえがうますぎるだろ。大喜利か! まあ、こんな熱いセリフで誘われたら、絶対転職しますよね。 そして、編集部にアルバイトとして採用された主人公のカンパチ、この男は気性が荒く、毒舌で思ったことをそのまま口に出す、まさしく狂犬です。『美味しんぼ』の主人公、山岡士郎も、世界3大珍味のフォアグラをディスってアンキモのほうがうまいと言ってみたり、中華街で「ゴマソースの物もチリソースの物も同じ皿でとれって言うのかっ!!」ってよくわからないキレ方をしたりと、かなりの狂犬っぷりを発揮していましたが、それに匹敵するレベルといって過言ではありません。 そんなカンパチにとって、もっぱらの敵は「週刊ヤングシャウト」の疎井編集長。週刊マンガ誌にありがちなアンケート至上主義、部数至上主義で、人気さえ出るならエロ満載のお下品マンガも厭わないという姿勢で、作品の面白さや質を重視するヒロ兄ィやカンパチたちと常に対立します。 「前々回のパンチラから今回のパンモロ、おまけに半チチに半ケツときたからな。次はチチモロ行くかァ?」 「集めて編むのが俺たちの仕事だ。会社は、作家との友情ごっこに、給料払ってんじゃないんだよ」 「アンケートは絶対なんだよ。アンケートの1位が一番面白いマンガなんだよ」 どうですか、編集長のくせにこのワルなセリフ。悪役としての貫禄十分ですね。そんな編集長の方針が気に入らないカンパチ。アルバイトで入ったばかりなのに、いきなりかみつきます。 「へえーっ、そうなんだ。じゃああんた、いらないじゃん! 編集長なんか居なくたって、このアンケートを見れば、売れる雑誌が作れるわけでしょ?」 すごい暴言! 編集部に来て、いきなり編集長不要論をぶち上げるカンパチ。こんな新人アルバイトいねーだろ……。 怖いものなしのカンパチは、酒とゴルフと釣りに明け暮れ、マンガへの情熱を失ってしまった大御所漫画家・マンボ好塚にも容赦なくかみつきます。 「原稿受け取るだけなら伝書鳩で十分だろう」 「あんたの仕事はウンコだよ!! 仕事場はまるでウンコの缶詰工場だ!!」 ひでぇ! 大御所漫画家の作品をウンコ扱いですから、そりゃあ相手だって烈火のごとくブチ切れます。しかし、カンパチのすごいところは、相手とガチでぶつかり合った末に、最終的にはカンパチの熱い想いが通じて親友になってしまうところなのです。 主人公以外のキャラも概ね濃いです。例えば、出版社の営業マンが登場する回なんかも熱いです。編集者を向こうに回して、営業が吠えまくります。 「出版社を支えてるのはお客様です。あんたら編集部が支えてるなんて思い上がりなさんな」 「あんたが持ってる編集のプライドとやらにかけて、文学をどうにかしてくれよ! 誇りで仕事が出来るんなら、給料なんかいらねえんだよこちとら!」 出版社では裏方に回りがちな営業だって、こんなに熱いんです。しまいには「給料なんていらねえ」とか言い出してるし。どんだけ本が好きな奴らなんでしょうか。 そうかと思えば、めちゃくちゃストイックな漫画家も出てきます。漫画のために家族を捨て、入稿寸前に原稿が気に入らないと破り捨てて逃亡。編集部や印刷所にめっちゃ迷惑を掛けるような存在ですが、いざ出来上がった作品は天才的な面白さ。そんな漫画家の持論がコレ。 「マンガ家と編集者に限って言やあ…家庭環境なんざ不幸なほど、良い作品が出来るわけだしな。」 「不安で不満で、もう逃げ出したくなるほど私生活をズタズタに追いつめてくと、見えてくんだよな、もう一人の自分ってやつが」 どんだけマゾだよ!! 自分の作品のために周囲の関係者までも道連れにするとか、超タチが悪い漫画家ですが、生い立ちが不幸なほうがいい作品ができる……というのは、ある意味で真理なのかもしれません。 そんなわけで、熱い奴らが集っている『編集王』をご紹介しました。編集の仕事を志す人にとってはバイブルのような作品だと思いますので、ぜひ全巻読み切って、『あしたのジョー』のように真っ白に燃え尽きちゃってください(燃え尽きちゃダメか)。 (文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん<http://ablackleaf.com/>)『編集王』(土田世紀/小学館)
まるで悪鬼の巣窟! 覚せい剤、レイプ、裏金、タブーのオンパレード『ヤバい! 警察官』
たびたび報道される警察官の不祥事。もう驚くこともなくなったが、ヤクザや芸能界などの“ヤバい”本を多数制作してきた宝島社の『ヤバい! 警察官』は、想像以上にヤバいエピソードが満載だ。 目次をみると、警察官による覚せい剤使用、レイプ、イジメ、天下りと胸糞が悪くなるようなキーワードがこれでもかというほど並んでいる。 風俗店にガサ入れなんて話をよく耳にする。当該地域の浄化を目指すもの……だが、本書によればそうではなく、今までヤクザが担っていた“ケツモチ”の座を警察が強引に奪ったということらしい。現在、風俗営業の管理者には「当局懇親会」への出席が義務になっているのだが、それは我々の想像する懇親会ではなく、警察当局が管理者に対して「ヤクザと付き合いはないか」「ヤクザと付き合いのある店舗があったら密告しろ」と詰問するのだという。 また、14歳の家出少女を“性奴隷”にした鬼畜警察官も登場。15年に埼玉県であった実際の事件で、1カ月以上にわたり、自宅に軟禁し性的暴行を加えたというのだ。出会い系アプリで「行くところがない」14歳の少女を誘い込み、性行為を強要。やがて、逃げ出そうとする少女に「ヤクザがお前を狙っている。外に出たら売り飛ばされるぞ」と洗脳したというのだ。 捜索願が出されていることを知った警察官は、唐突に「出てけ!」と少女を追い出す。路上にいた少女を別の警察官が発見したことで、事件が明るみになった。少女は、「脅されながら暮らし、何百回とセックスしたことがトラウマになっています」と語るが、当の警察官は、現在も働いているという。 ドラマなどで耳にする“裏金づくり”もお手の物。各県警は、関係者でしか購入できないオリジナルグッズを制作していて、これもワルの警察官にとっては小遣い稼ぎに都合のいいシロモノ。グッズは、県警のマークが入った酒や菓子などが主だが、コレクションするマニアは思いの外多く、1,000円ぐらいで買えるそれを、ネットオークションなどで、3万ほどで売りさばく。また刑事ドラマで見かける、黄色い規制線の切れ端でも同様に買い手がつくというのだ。足がつかないように、友人に頼んで代理で出品するなどして、手口は巧妙化している。 極めつきは、神奈川県警の不祥事の数々。本書では、“まさに不祥事の公営デパート”と表現されている神奈川県警は、国内で3番目の職員の多さを誇る。数に比例してワルの警察官も多いようで、1996年に警察官による覚せい剤使用が発覚するが、当時の神奈川県警はこれを隠蔽。99年に事実が明るみに出ると、芋づる式にあらゆる不祥事が発覚していく。2000年には巡査が拘留中の女性に対してわいせつ行為を働き、06年にはパトロール中の警察官が制服姿のまま窃盗したほか、92年より12年間に発生した106件の事件の捜査を放置し、時効を成立するなど、枚挙にいとまがない。 ほか、警察官が起こしたヤバ過ぎる不祥事を251ページにわたって収録。元警察幹部でメディア等で広く活躍する小川泰平氏、飛松五男氏両名によるインタビュー、元山口組関連団体組長による「警察と歩んだヤクザ人生30年」など、読み応えのある内容となっている。 掲載されているエピソードは、おそらく氷山の一角だろう。はたして、警察官はもっとも身近な“ワル”なのか?『ヤバい! 警察官』(宝島社)
「もう、お前死ね……」貧困が招く悲しき老後生活『万引き老人』
テレビの特番などでたびたび取り上げられる“万引きGメン”。スーパーや家電量販店でのさばる万引き犯を、ジッと監視し決定的な瞬間を待って捕まえる。現在も万引きGメンこと保安員として日夜窃盗犯の捕捉につとめる、伊東ゆうの著書『万引き老人』(双葉社)は、万引き犯となった高齢者、“万引き老人”の実態にせまったルポだ。 特売品が売り切れていたことに腹を立て、万引きをした老女。保安員の手から逃れるため、車を急発進させた。思わず保安員をひいてしまうところだったが、「なんなんですか?」と言ってのける厚顔ぶりだ。最終的に警察に引き渡された老女は、翌日夫と思われる男性と店に謝罪に来た。 ところが、老女は今回の件で仕事がクビになったと怒鳴り散らす。保安員を危うくひきそうになったことを初めて知った夫は、長年連れ添った妻に対して「もう、お前死ね……」とうなるようにつぶやいた。 窃盗は共犯になると罪が重く、即時逮捕となる。伊東が捕捉した実行犯のとある老婆は、見張り役の男性を「ご主人様」と呼んでいた。話を聞くと、老婆は少し前までホームレスで、見張り役の老人に拾われたという。拾ってやった見返りに万引きを強要されたと語る。「ほんと、奴隷みたいな生活なのよ……」。証拠不十分で逮捕にならなかった老婆は、男性に引き取られた。 また、この老婆のようなホームレスを利用して収入を得る“万引き商人”も存在する。ホームレスが万引きした商品を安く買い取り、それを別のホームレスに高く売ることで収入を得る。その地域では、スーパーよりも安く購入できると主婦たちも盗品を買っていたそうだ。 万引きの動機は、「生活の困窮」、「店舗への腹いせ」「寂しいから」などがおおよその理由だが、伊東が出会ってきた万引き犯の中にはそうではないケースもある。 出刃包丁を万引きした60代の女性は、自殺を図るために包丁を盗んだと語る。嗚咽をもらす女性に伊東が事情を聞くと、仕事一筋で生きてきた彼女は、会社が倒産したことに絶望し自殺を決意。「ここで自殺したら、生命まで会社に捧げることになっちゃうじゃない」伊東はそう言った。 2年後のある日、伊東はこの女性と再会。顔色は明るくなり、伊東をみかけるや「あなたに捕まえてもらって、本当によかった」と手を強く握った。保安員をしていて心が晴れた経験だったという。 年々、万引き認知数は減少傾向にある。しかし、実際は所轄の警察が被害届を出されることを拒否したり、万引き犯の身寄りがないなどの理由から厳重注意で終わってしまうことがほとんどだ。「謝れば許される」「買い取れば許される」という認識から万引きが繰り返され、手口の悪質化が進んでいる。 一方で、保安員は命懸けだ。万引き犯に声をかけたところ刺殺されてしまったり、逃げ出す車にはねられて死亡した保安員もいる。また、業務をこなすなかで、精神を病んでしまい自殺する者が後を絶たない。 ほか、増加する外国人による万引きグループや、近年導入されつつある顔認証型防犯システムの問題点など、普段知ることのない保安員と窃盗犯の戦いを7章にわたって収録。 伊東は、保安員の経験から「店内声かけ」を呼びかけている。ちょっと前の商店街などでみられたものだ。声をかけられることで、店員がこちらをみていると思わせて、万引きを未然に防ごうというものだ。しかし、現場には、一筋縄ではいかない問題が横たわっている。『万引き老人』(双葉社)
無職だけど、料理は絶品!! “クズッキングパパ”の貧乏グルメ 『貧民の食卓』
世間はすっかり夏のボーナス時期ですね。「ボーナス支給額が上がった!」「祝・景気回復!!」という人もいれば、「ボーナスなんか存在しないし、景気など回復していない!」「呪・アベノミクス!!」なんて人もいるのではないでしょうか。消費税も8%になりましたし、実感としては、まだまだ景気が悪いと感じる人のほうが多いと思います。 というわけで、今後も当面続くであろう格差社会を生き抜くために、食に関するコストは極力抑えたい、自炊して食費を限りなくゼロにしたい、なんて思っている人にピッタリなのが、今回ご紹介するグルメマンガ『貧民の食卓』なのであります。 『貧民の食卓』はその名の通り、1人1食当たり100円を切る激安レシピを徹底的に追求したグルメマンガです。1食当たり100円っていったら、食費は、月に約9,000円しかかからないことになりますね。今のご時世、これはかなりすごいことです。 主人公・赤柿留吉は、中学生の娘と小学生の息子がいる2児の父親です。奥さんが五平餅を喉に詰まらせて亡くなったため、男やもめで頑張っている……のかと思いきや、働く気は一切ゼロ。貯金を切り崩しつつ、日々パチンコと麻雀の稼ぎで糊口をしのいでいるのです。 そんな父親なので、娘・千夏には「おっさん働けー! 子どもに小遣い渡せー!」と罵られるわ、息子・ハジメを遊園地代わりにパチンコ屋へ連れて行ったり、焼酎を飲ませてみたりするなど、なかなかのクズっぷりを発揮しています。 徹底した無職ライフを満喫する留吉ですが、料理の腕だけは超一流。冷蔵庫に残ったわずかな食材や残り物を使って極上の貧民料理を作り、腹をすかせた子どもたちを満足させたり、町内の諸問題を解決したりします。もちろん、出てきた貧民料理のレシピはバッチリ紹介されていますので、そういう意味では構成が『クッキングパパ』に酷似していますが、肝心のパパが無職であるというところが全然違います。つまり、本作品はクッキングパパならぬ、クズッキングパパなのであります。 作中紹介されるメニューは1食当たり100円以下を目指しているだけあって、どれも徹底的にコストダウンが図られていますが、それでいて、それなりに旨いというのがポイントです。そんな貧民メニューを、いくつかご紹介しましょう。 ●「おかずにヘンシン風ライス春巻き」 冷蔵庫の冷ご飯を春巻きの皮で巻いて揚げるメニュー。パリッっと香ばしい春巻きで、ご飯のおかずにピッタリ! 気がつけば、ご飯をおかずにご飯を食べる炭水化物祭り状態になっていますが、なんと1人前53円という驚きの低コスト。まさに貧民料理です。 ●「胴の短いウナギ丼」 いまや庶民に手の届かなくなりつつある高級料理、ウナギ丼。気分だけでもウナギ丼を味わいたいということで、イワシを使ってウナギを再現するという、まさに貧民の知恵がほとばしる一品。考えてみれば、タレさえちゃんとしてれば、ウナギだろうがアナゴだろうがイワシだろうが、大して変わらないですよね(そんなことないか)。お値段も、胴が短い分、リーズナブル。1人前95円でいただけます。 ●「おめめパッチリじゃこめしセンベイ」「あたまシャッキリ梅レタススープ」 受験生向けに目が覚める歯応えのある夜食を、ということで作られたメニューが、この2品。じゃこめしセンベイが1人前12円、スープは13円と、2品合わせても25円という、本作品中屈指の超低コストメニュー。なんだこれ、駄菓子より安いじゃねーか! ●「赤柿屋の100円牛丼」 牛丼が100円って、一番安い時のすき家でもそんなに安くなかったんですが、どうやって実現するんでしょうか……? と思ったらなんと、牛丼屋で買ってきた一杯の牛丼をお麩と玉ねぎと卵で増量して4等分してしまうという、一杯のかけそばを超えるド貧民メニューでした。しかも1人前89円って、100円切ってるし!! ●「ステキなステキなステーキこんにゃく」 塩コショー、カレー粉、ニンニク、ごま油、肉味噌などなど、ありとあらゆるスパイシー素材で炒め合わせる涙ぐましい努力により、こんにゃくでステーキを再現した1品。1人前84円。これで満足できるなら、ステーキは一生食べる必要なし! *** もちろん作中にはもっと詳しいレシピがバッチリ載っていて、読めばその日にすぐ貧民料理が作れるようになっています。問題は、ここに載っているレシピよりも単行本自体の価格のほうが高いところですね。そういう意味では、実に悩ましい作品です。 (文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん<http://ablackleaf.com/>)『貧民の食卓』(おおつぼマキ/新潮社)
偏差値78の売れっ子AV男優・森林原人 8,000人超とヤッてたどり着いた「セックスの本質」とは?
偏差値78の超進学校を卒業しながら、なぜかAVの道へと進み、今までに8,000人以上の女性とセックスをしてきた、売れっ子AV男優・森林原人(もりばやし・げんじん)。 仕事でそれだけセックスをしていれば、さすがにプライベートでセックスする気なんてなくなるだろう……と思いきや、彼女やセフレともガンガンヤリまくっているという。彼女はともかく、セフレまで作るなんて、なんという性獣っぷり! そんな森林原人が、初の書き下ろしエッセイ『偏差値78のAV男優が考える セックス幸福論』(講談社)を上梓した。 心からセックスを愛し、セックスをしまくってもいる男の考える「セックス幸福論」とは、どんなものなのか!? ■社交ダンスサークルに絶望してAV男優に ――今回の本、要は「いろいろあるけど、セックス最高!」という内容だと思いますけど、あまり原人さんのプライベートなセックスについては書かれていなかったので、まず童貞喪失について教えてください。 森林原人(以下、原人) 童貞喪失は高1です。中学から筑駒(中学受験の最難関校)という男子校に入ったせいで、女の人との接点がなくなっちゃって、唯一のチャンスが文化祭に来た女子だったんです。それで、文化祭に来た桜蔭学園(超難関女子校)の中3の子と仲良くなって、なんとかペッティングまではできたんですけど、門限にうるさい家で、ダメになっちゃって……。しばらくして、その子の友達から連絡が来たんですよ。「○○から聞いたんだけど、キミってエロいんだって?」って。会ったこともないのに! ――女子校の情報網って、スゴイですね。 原人 怪しいなとは思ったのですが、「私、Fカップなんだ」って言うんですよ。おまけに「早稲田の大学生と半同棲している」とも。これはめちゃくちゃエロい女だぞと。もう童貞喪失のチャンスだと思って、高1と中3で渋谷・道玄坂のバーに行きましたね。でも、酒飲んだら一杯で真っ赤になっちゃうし、話も進展しないしヤバイなーって……。それから宮益坂のカラオケボックスに行って「ここしかない!」と、ガッと抱きついてFカップを激モミしました! ――展開が急! 原人 さらに股間を触ったんですけど、AVじゃモザイクがかかっていたから、クリトリスと穴を探しても全然わからないんですよ。でも、わからないなりに必死でまさぐっていたら「じらさないで」って(笑)。 ――すごい高等テクニックだと勘違いされたんですね。 原人 それで、あっちから「もう我慢できない、ホテル行こ」と言われ、円山町のホテルに行ったんですけど、童貞だからコンドームの着け方もわからないんですよ。焦れば焦れるほど、チンポはしぼんできちゃうし……。 結局、女の子から「表裏逆なんじゃない?」と指摘されて、フニャフニャになってるチンコの上にゴムを着けて。もちろんスカスカですよ。そんな状態なのになんとかねじ込み、先っちょだけが辛うじて引っかかってるだけなんですけど、AVの見よう見まねで腰を振りました。そしたら全然気持ちよくないんですよね……。当然っちゃ、当然なんですが、童貞だったからよくわからなくて、仕方ないからイッたフリをして「今までで最高のセックスだったよ」と腕枕しながら言ってみました。その後、連絡が取れなくなっちゃったんで、童貞だってバレてたんでしょうね。まあ、それでボクの中では童貞を捨てたってことになりました。 ――え、それで童貞喪失オッケーなんですか? 原人 いま思うと童貞喪失できてないですけどね、射精してないんだから。それからお年玉を持って、横浜・黄金町のちょんの間に行きました。さすがに最初から風俗っていうのはイヤだったけど、もう素人の子で童貞喪失したんだから、ということで。黄金町ではキレイなお姉さんは1万円、おばちゃんは8,000円、さらに奥に6,000円でいいよというデブのババアがいて……6,000円でいこうと! そこで本当の意味での童貞を捨てましたね。それからはもう、黄金町に通いまくり! 家庭教師のバイトした金でちょんの間に行って、お気に入りのタイ人に「いつか結婚しよう」みたいな話までしていましたから。 ――高校生の時ですよね!? 相手は何歳だったんですか? 原人 33歳くらいですかね。いま思えば故郷に旦那や子どもがいたんでしょうけど、当時のボクは、それが愛なんだって思ってたんですよ。そんなことやってるから当然、大学受験にも失敗して、一浪して専修大学文学部心理学科に入りました。 大学では社交ダンスサークルに入ったんですけど、なぜかボクだけパートナーを組んでもらえず、ひとりで鏡に向かって練習していて……。みんながキャッキャしている中、先輩から「ほら~、彼も仲間に入れてあげなよ、かわいそうじゃん」みたいなことを言われて、いたたまれなくなっちゃったんですね。「もう、こんなところにはいられない!」と。そんな時、エロ本に男優募集が載ってたんで、ヤケクソで応募したんです。そこからずっとAV男優一本ですね。 ――社交ダンスサークルがきっかけで、AV男優に!
■不倫のほうが真実の愛! ――セックスをヤリたくて仕方がなかった人生から、ヤリまくりのAV男優になれて大満足という感じですか? 原人 うーん……確かに性欲が満たされるのはうれしかったんですけど、だんだんとそこに心のスキマができて、彼女が欲しくなってくるんですよ。 ――AVの現場でセックスするだけじゃなくて、愛情が欲しくなっちゃう? 原人 なっちゃう、なっちゃう! ――女優さんも、現場でセックスしたからって、本気になられても困るでしょう。 原人 はい。ハメ撮りの時、女優さんの耳元で「本気で好きになっちゃいそうだよ」ってささやいたら、「あの男優、なんだか勘違いしていて気持ち悪いです」ってNG食らったりしました。そういう失敗もありつつ、セックスしたからって通じ合えたわけじゃないとか、いい意味でセックスに失望できた。それと、AV現場でのセックスだけじゃなく、プライベートのセックスもそれなりにあったからこそ、幅広くセックスを知れたのかなと思いますね。 AVでのセックスって、見せるための「プレイ」ですから。プライベートな、密室での1対1のセックス、同棲して「子どもができてもいいね」みたいな話をしながらの中出しセックス、ケンカをした後の仲直りセックス……そういったものとは全然違いますね。 ――本の中では、愛情と性欲を分けて考えたほうがいいと書かれていましたけど、やっぱり愛情があるセックスのほうがいい? 原人 まあ、愛情と性欲が合致しているセックスが理想だとは思います。でも、それがセックスの唯一のあり方だとは考えないほうがいいということですね。愛情と性欲が切り離されたセックスも、それはそれでアリと考えれば楽になれるし、結婚とセックスも切り離して考えられるようになる。そっちのほうが自然じゃないですか。 ――セックスする相手は、恋人や結婚相手に限定しなくてもいいんじゃないかと。 原人 そうそう! AV女優さんって、彼氏とか旦那さんに内緒で来てる人がすごく多いんですよ。……たまに旦那さん公認、彼氏がスカウトマンっていうような人もいますけど。基本的には、本命の彼氏なり、旦那さんなりがいるのに、内緒で来ている。そういう人たちがなんでAVに出るのかというと、お金もありますけど、最近の人はほとんど性欲からなんですよね。 ――そうなんですか!? 確かに、今はAVに出たところで、そんなに儲かるイメージもないですが。 原人 儲かる人は儲かりますけど、パンツを脱げば誰でも仕事があるっていう時代じゃないですからね。「ヤリたい」っていうモチベーションがないと、続けられない仕事だと思います。そういう女性たちが、ボクたち男優と絡んで「今までで一番気持ちよかった!」とか言ってくれるんですよ。本命の彼氏が別にいるのに! だから、愛がなくても気持ちよくはなれるんですよね。それに、外でセックスしてくることで、愛する相手に全部を求めなくて済むようになり、優しくできるみたいなこともあるし。1対1の関係で性欲を満たし続けるのは、至難の業ですよ。 「愛がなくちゃダメ」とか「好みのタイプじゃないと感じない」みたいな要素を引っぺがしていくと、セックスの核が見えてくるんです。その結果、ボクがたどり着いたセックスの本質とは「孤独の克服」ですね。 ――それは、承認欲求みたいなものですか? 原人 うーん……ちょっと違いますね。承認欲求っていうのは、どちらかというと思考とか理性の動きなんですよ。孤独の克服は、もっと本能的なところです。よく「生まれてくるのもひとり、死んでいくのもひとり」って言いますけど、赤ちゃんは、お母さんから生まれた時点で孤独になるんです。その孤独を、親に抱きしめられることによって克服する。もうちょっと大きくなったら、家族に囲まれたり、友達を作って克服する。セックスってそれと同じことで、孤独の克服をするために、肉体を通して2人が深くつながる行為なんだと思うんですよね。 ――愛情とか結婚とか関係なく、もっと本能的にセックスを考えたほうがいいと。 原人 本能的に興奮して、そこに感情からくる欲情が混ざるのが理想ですね。いま言われているような、セックスは愛の行為だとか、証しだとか、そういった常識を一回取っ払ったほうが、セックスをもっと楽しめると思います! 愛がなくても気持ちよくなれるし、愛があっても気持ちよくなれないこともある。 ――じゃあ、ベッキーやファンキー加藤も、オッケーということになりますよね? 原人 ボクから言わせたら、不倫のほうがよっぽど真実の愛の可能性が高いですよ! 結婚っていうのは、社会的制度に縛られているだけですからね。不倫は、そういう制度を飛び越えてでもくっつきたいという純粋な愛の場合もありますし、デキ婚のほうが純粋な愛の順序として正しいんですよ。不倫は、ロミオとジュリエットの愛に近いですよ。家柄に縛られて、結ばれてはいけない禁断の関係。今の人たちだって、自由に恋愛しているようで、社会が決めたなんらかのルールや価値観に縛られてる。 ――計画的に避妊したり、結婚したから子ども作ろうというのは不純だと。 原人 不純とまでは言いませんし、もちろん、子どもを作る気もないのに避妊しないのは無責任だと思いますけどね。後悔したり、どちらか一方でも傷ついたりするセックスはよくないので、99%欲望に突き動かされたとしても、1%の理性でコンドームはしたほうがいいとは思います。
■最近のヤリマンは、ポジティブにセックスを楽しんでいる 原人 人間の三大欲求って食欲、睡眠欲、性欲なんですよ。趣味・特技で「食べ歩き(=食欲)」「どこでも寝れる(=睡眠欲)」とか書いている人がいますけど、これって「セックス好き(=性欲)」って言ってるようなもんじゃないですか。「大食い選手権」なんて、「ヤリマン選手権」ですよ! それなのに、どうして性欲だけが後ろめたいことになっちゃっているのか!? 性欲だけが唯一自分ひとりで完結できない欲求だから、というのはあります。相手の自由を奪う可能性もあるし、暴力性も含んでくるから、社会的に性欲は制限しなくちゃいけないと考えられてしまう。でも、もっとシンプルに、性欲を本能的な欲求として考えたほうがいいと思うんですよね。もっと性についてオープンに話せる場があったほうがいいし、もっと女性の性欲もオープンになってほしい。……まあ、そうなると、男の肩身は狭くなりますけどね。今までは、一方的に男の性欲を押しつけていればよかったんだから。 ――男のセックスやチンコを評論する女性が出てきていますからね。 原人 性にオープンな女性が出てきたことで「ヤレる女が増えた!」と思いきや、男が評論される側になってしまったんです。でも、それも含めて楽しまないと。男にも女にも拒否権があるし、積極的になってもいい。そういうセックスがいいですよね。「あの男イカせてくれないんだよね」なんて女性がいますけど、実はそれって男の理屈にハマッてるだけなんですよね。イケるように、自分からどんどん働きかければいいんです。 ――そういう、性に積極的な女性が増えている実感はありますか? 原人 ありますね。ヤリマンの歴史をたどるとわかるんですけど、20世紀のヤリマンは、男に利用されるヤリマンだったんです。「アイツ、いつでもヤレるから」みたいな利用のされ方をしていた。それが21世紀に入って、承認欲求のためのヤリマンになってくる。「私はヤリマン」みたいな雰囲気を出すと、男からはチヤホヤしてもらえるから。 そして最近のヤリマンは、ホントにポジティブにセックスを楽しんでいるんですよ。「セックスって楽しいじゃん!」「誰とでもヤレばいいじゃん!」って。その代わり「アイツはヘタだから、もうやらない」みたいなことも言われてしまうんです。 ――草食系男子と呼ばれている、あまりセックスをしない若者って、その変化についていけていないのかもしれませんね。 原人 セックスをすることによって傷ついたり、リスクを負うことを、極端に怖がっている人はいますよね。確かに病気や妊娠のリスク、自分が傷ついてしまうこともあるかもしれない。でもそれ以上に、セックスをすることによって、いいことも多いんですよ。 ボクなんか、人生の挫折をたくさん味わってきて、それこそネットとかでしょっちゅう「アイツ死ね」とか「クソ原人め」とか書かれて落ち込んだりもするんですけど、あらゆる世の中のイヤなこと全部が、セックス一発で克服できたりするんです! それがセックスの持つパワーですね。特に、幸せなセックスで得られる「全肯定感」で、落ち込んでても、将来への不安でいっぱいになっていても、いいセックス一発することによって、全部受け入れてもらえたと思え、吹っ切れるんです。もちろん一時のことですが、その感覚って、ほかではなかなか味わえないですよ。 極端な話、戦争している国のトップがセックスすれば、すぐに仲良くなれますよ! ベネトンが、そんな意図があるんじゃないかって広告出していたけど、それくらいの全肯定感があるし、理屈じゃない部分で納得できるんです。仲直りセックスって、そういうことですよね。 ――問題がまったく解決してなくても、セックスしたらごまかされちゃいますもんね。 原人 今の子たちって情報が多すぎて、セックスをしてなくてもわかったような気になっていると思うんですよね。こんなもんだろ、とか、こんな面倒くさいことがあるらしいぜって。でも、知ってるのと経験しているのは、全然違いますから。「食べログ」をどんなに見ても、実際に食べてみなければ、どれほどおいしい料理なのか、もしかしたらマズいけど自分は好きな味なのか、わからないですもん。だから、風俗でも彼女でもいいので、どんどんセックスしてみてほしいです!
■愛している人がほかの男とセックスしたら……燃えちゃう! ――原人さんは、セックス経験は豊富ですけど、結婚はまだですよね。もし結婚することになったら、どんな結婚生活を送ると思いますか? 原人 もしボクが結婚するなら、男優を続けていようがいまいが関係なく、ボクもほかの人とセックスするし、奥さんにも「してきていいよ」って言いますね。 ――それが自然な結婚の形だと? 原人 結婚自体が社会制度だから、“自然な結婚”って言葉自体が意味をなしていないんですが。ボクは現行の結婚なんて、制度自体無理があると思っています。理想は不動産の賃貸みたいに2年更新制。けど、現実問題として今の日本で子どもを育てていくには、制度に乗っかっていたほうがいい。だから結婚した上で、お互い自由にセックスを楽しむという関係性がいいんじゃないですかね。ほかの人とセックスしてもいいけど、子どもは作ってこないでね、病気は持ってこないでね、って。そして、ほかの家庭には迷惑かけないから、うちはうちで、好きなスタイルでやらしてほしいと。 ――自分の愛する人がほかの男とセックスすることに関して、嫉妬とかは感じない? 原人 ……燃えちゃう! ――ああー(笑)。 原人 セックスしたからって、心まで持っていかれるわけじゃないですからね、男も女も。セックスは、たかがセックス。ただの行為ですよ。その上で、されどセックスだとも知っています。それに、いい女っていうのは、誰とセックスしても気持ちよくなれる女なんですよ。相手を選んで気持ちよくなる女なんて、ただのワガママ! それなら、誰とやってもマグロな女のほうがいいです。これ、モテないブ男の恨みつらみもこもってますが。 一徹というイケメンAV男優がいたんですけど、一徹と3Pするといつも女の子が一徹ばっかり見てるんですね。キスも必ず一徹と先にやる。「ボクともして~」って迫っても、すぐに一徹に戻っちゃう。最初はそういうのがイヤだったんですけど、今は「寝取り」みたいな楽しみ方ができるようになりましたね。「本当は一徹がいいんでしょ? でも、いま入っているチンポはボクので、それでキミは声を出している……。それを一徹に見られているよ~」って。 ――その境地にまで達するのは、なかなか難しそうです! (取材・文=北村ヂン)
偏差値78の売れっ子AV男優・森林原人 8,000人超とヤッてたどり着いた「セックスの本質」とは?
偏差値78の超進学校を卒業しながら、なぜかAVの道へと進み、今までに8,000人以上の女性とセックスをしてきた、売れっ子AV男優・森林原人(もりばやし・げんじん)。 仕事でそれだけセックスをしていれば、さすがにプライベートでセックスする気なんてなくなるだろう……と思いきや、彼女やセフレともガンガンヤリまくっているという。彼女はともかく、セフレまで作るなんて、なんという性獣っぷり! そんな森林原人が、初の書き下ろしエッセイ『偏差値78のAV男優が考える セックス幸福論』(講談社)を上梓した。 心からセックスを愛し、セックスをしまくってもいる男の考える「セックス幸福論」とは、どんなものなのか!? ■社交ダンスサークルに絶望してAV男優に ――今回の本、要は「いろいろあるけど、セックス最高!」という内容だと思いますけど、あまり原人さんのプライベートなセックスについては書かれていなかったので、まず童貞喪失について教えてください。 森林原人(以下、原人) 童貞喪失は高1です。中学から筑駒(中学受験の最難関校)という男子校に入ったせいで、女の人との接点がなくなっちゃって、唯一のチャンスが文化祭に来た女子だったんです。それで、文化祭に来た桜蔭学園(超難関女子校)の中3の子と仲良くなって、なんとかペッティングまではできたんですけど、門限にうるさい家で、ダメになっちゃって……。しばらくして、その子の友達から連絡が来たんですよ。「○○から聞いたんだけど、キミってエロいんだって?」って。会ったこともないのに! ――女子校の情報網って、スゴイですね。 原人 怪しいなとは思ったのですが、「私、Fカップなんだ」って言うんですよ。おまけに「早稲田の大学生と半同棲している」とも。これはめちゃくちゃエロい女だぞと。もう童貞喪失のチャンスだと思って、高1と中3で渋谷・道玄坂のバーに行きましたね。でも、酒飲んだら一杯で真っ赤になっちゃうし、話も進展しないしヤバイなーって……。それから宮益坂のカラオケボックスに行って「ここしかない!」と、ガッと抱きついてFカップを激モミしました! ――展開が急! 原人 さらに股間を触ったんですけど、AVじゃモザイクがかかっていたから、クリトリスと穴を探しても全然わからないんですよ。でも、わからないなりに必死でまさぐっていたら「じらさないで」って(笑)。 ――すごい高等テクニックだと勘違いされたんですね。 原人 それで、あっちから「もう我慢できない、ホテル行こ」と言われ、円山町のホテルに行ったんですけど、童貞だからコンドームの着け方もわからないんですよ。焦れば焦れるほど、チンポはしぼんできちゃうし……。 結局、女の子から「表裏逆なんじゃない?」と指摘されて、フニャフニャになってるチンコの上にゴムを着けて。もちろんスカスカですよ。そんな状態なのになんとかねじ込み、先っちょだけが辛うじて引っかかってるだけなんですけど、AVの見よう見まねで腰を振りました。そしたら全然気持ちよくないんですよね……。当然っちゃ、当然なんですが、童貞だったからよくわからなくて、仕方ないからイッたフリをして「今までで最高のセックスだったよ」と腕枕しながら言ってみました。その後、連絡が取れなくなっちゃったんで、童貞だってバレてたんでしょうね。まあ、それでボクの中では童貞を捨てたってことになりました。 ――え、それで童貞喪失オッケーなんですか? 原人 いま思うと童貞喪失できてないですけどね、射精してないんだから。それからお年玉を持って、横浜・黄金町のちょんの間に行きました。さすがに最初から風俗っていうのはイヤだったけど、もう素人の子で童貞喪失したんだから、ということで。黄金町ではキレイなお姉さんは1万円、おばちゃんは8,000円、さらに奥に6,000円でいいよというデブのババアがいて……6,000円でいこうと! そこで本当の意味での童貞を捨てましたね。それからはもう、黄金町に通いまくり! 家庭教師のバイトした金でちょんの間に行って、お気に入りのタイ人に「いつか結婚しよう」みたいな話までしていましたから。 ――高校生の時ですよね!? 相手は何歳だったんですか? 原人 33歳くらいですかね。いま思えば故郷に旦那や子どもがいたんでしょうけど、当時のボクは、それが愛なんだって思ってたんですよ。そんなことやってるから当然、大学受験にも失敗して、一浪して専修大学文学部心理学科に入りました。 大学では社交ダンスサークルに入ったんですけど、なぜかボクだけパートナーを組んでもらえず、ひとりで鏡に向かって練習していて……。みんながキャッキャしている中、先輩から「ほら~、彼も仲間に入れてあげなよ、かわいそうじゃん」みたいなことを言われて、いたたまれなくなっちゃったんですね。「もう、こんなところにはいられない!」と。そんな時、エロ本に男優募集が載ってたんで、ヤケクソで応募したんです。そこからずっとAV男優一本ですね。 ――社交ダンスサークルがきっかけで、AV男優に!
■不倫のほうが真実の愛! ――セックスをヤリたくて仕方がなかった人生から、ヤリまくりのAV男優になれて大満足という感じですか? 原人 うーん……確かに性欲が満たされるのはうれしかったんですけど、だんだんとそこに心のスキマができて、彼女が欲しくなってくるんですよ。 ――AVの現場でセックスするだけじゃなくて、愛情が欲しくなっちゃう? 原人 なっちゃう、なっちゃう! ――女優さんも、現場でセックスしたからって、本気になられても困るでしょう。 原人 はい。ハメ撮りの時、女優さんの耳元で「本気で好きになっちゃいそうだよ」ってささやいたら、「あの男優、なんだか勘違いしていて気持ち悪いです」ってNG食らったりしました。そういう失敗もありつつ、セックスしたからって通じ合えたわけじゃないとか、いい意味でセックスに失望できた。それと、AV現場でのセックスだけじゃなく、プライベートのセックスもそれなりにあったからこそ、幅広くセックスを知れたのかなと思いますね。 AVでのセックスって、見せるための「プレイ」ですから。プライベートな、密室での1対1のセックス、同棲して「子どもができてもいいね」みたいな話をしながらの中出しセックス、ケンカをした後の仲直りセックス……そういったものとは全然違いますね。 ――本の中では、愛情と性欲を分けて考えたほうがいいと書かれていましたけど、やっぱり愛情があるセックスのほうがいい? 原人 まあ、愛情と性欲が合致しているセックスが理想だとは思います。でも、それがセックスの唯一のあり方だとは考えないほうがいいということですね。愛情と性欲が切り離されたセックスも、それはそれでアリと考えれば楽になれるし、結婚とセックスも切り離して考えられるようになる。そっちのほうが自然じゃないですか。 ――セックスする相手は、恋人や結婚相手に限定しなくてもいいんじゃないかと。 原人 そうそう! AV女優さんって、彼氏とか旦那さんに内緒で来てる人がすごく多いんですよ。……たまに旦那さん公認、彼氏がスカウトマンっていうような人もいますけど。基本的には、本命の彼氏なり、旦那さんなりがいるのに、内緒で来ている。そういう人たちがなんでAVに出るのかというと、お金もありますけど、最近の人はほとんど性欲からなんですよね。 ――そうなんですか!? 確かに、今はAVに出たところで、そんなに儲かるイメージもないですが。 原人 儲かる人は儲かりますけど、パンツを脱げば誰でも仕事があるっていう時代じゃないですからね。「ヤリたい」っていうモチベーションがないと、続けられない仕事だと思います。そういう女性たちが、ボクたち男優と絡んで「今までで一番気持ちよかった!」とか言ってくれるんですよ。本命の彼氏が別にいるのに! だから、愛がなくても気持ちよくはなれるんですよね。それに、外でセックスしてくることで、愛する相手に全部を求めなくて済むようになり、優しくできるみたいなこともあるし。1対1の関係で性欲を満たし続けるのは、至難の業ですよ。 「愛がなくちゃダメ」とか「好みのタイプじゃないと感じない」みたいな要素を引っぺがしていくと、セックスの核が見えてくるんです。その結果、ボクがたどり着いたセックスの本質とは「孤独の克服」ですね。 ――それは、承認欲求みたいなものですか? 原人 うーん……ちょっと違いますね。承認欲求っていうのは、どちらかというと思考とか理性の動きなんですよ。孤独の克服は、もっと本能的なところです。よく「生まれてくるのもひとり、死んでいくのもひとり」って言いますけど、赤ちゃんは、お母さんから生まれた時点で孤独になるんです。その孤独を、親に抱きしめられることによって克服する。もうちょっと大きくなったら、家族に囲まれたり、友達を作って克服する。セックスってそれと同じことで、孤独の克服をするために、肉体を通して2人が深くつながる行為なんだと思うんですよね。 ――愛情とか結婚とか関係なく、もっと本能的にセックスを考えたほうがいいと。 原人 本能的に興奮して、そこに感情からくる欲情が混ざるのが理想ですね。いま言われているような、セックスは愛の行為だとか、証しだとか、そういった常識を一回取っ払ったほうが、セックスをもっと楽しめると思います! 愛がなくても気持ちよくなれるし、愛があっても気持ちよくなれないこともある。 ――じゃあ、ベッキーやファンキー加藤も、オッケーということになりますよね? 原人 ボクから言わせたら、不倫のほうがよっぽど真実の愛の可能性が高いですよ! 結婚っていうのは、社会的制度に縛られているだけですからね。不倫は、そういう制度を飛び越えてでもくっつきたいという純粋な愛の場合もありますし、デキ婚のほうが純粋な愛の順序として正しいんですよ。不倫は、ロミオとジュリエットの愛に近いですよ。家柄に縛られて、結ばれてはいけない禁断の関係。今の人たちだって、自由に恋愛しているようで、社会が決めたなんらかのルールや価値観に縛られてる。 ――計画的に避妊したり、結婚したから子ども作ろうというのは不純だと。 原人 不純とまでは言いませんし、もちろん、子どもを作る気もないのに避妊しないのは無責任だと思いますけどね。後悔したり、どちらか一方でも傷ついたりするセックスはよくないので、99%欲望に突き動かされたとしても、1%の理性でコンドームはしたほうがいいとは思います。
■最近のヤリマンは、ポジティブにセックスを楽しんでいる 原人 人間の三大欲求って食欲、睡眠欲、性欲なんですよ。趣味・特技で「食べ歩き(=食欲)」「どこでも寝れる(=睡眠欲)」とか書いている人がいますけど、これって「セックス好き(=性欲)」って言ってるようなもんじゃないですか。「大食い選手権」なんて、「ヤリマン選手権」ですよ! それなのに、どうして性欲だけが後ろめたいことになっちゃっているのか!? 性欲だけが唯一自分ひとりで完結できない欲求だから、というのはあります。相手の自由を奪う可能性もあるし、暴力性も含んでくるから、社会的に性欲は制限しなくちゃいけないと考えられてしまう。でも、もっとシンプルに、性欲を本能的な欲求として考えたほうがいいと思うんですよね。もっと性についてオープンに話せる場があったほうがいいし、もっと女性の性欲もオープンになってほしい。……まあ、そうなると、男の肩身は狭くなりますけどね。今までは、一方的に男の性欲を押しつけていればよかったんだから。 ――男のセックスやチンコを評論する女性が出てきていますからね。 原人 性にオープンな女性が出てきたことで「ヤレる女が増えた!」と思いきや、男が評論される側になってしまったんです。でも、それも含めて楽しまないと。男にも女にも拒否権があるし、積極的になってもいい。そういうセックスがいいですよね。「あの男イカせてくれないんだよね」なんて女性がいますけど、実はそれって男の理屈にハマッてるだけなんですよね。イケるように、自分からどんどん働きかければいいんです。 ――そういう、性に積極的な女性が増えている実感はありますか? 原人 ありますね。ヤリマンの歴史をたどるとわかるんですけど、20世紀のヤリマンは、男に利用されるヤリマンだったんです。「アイツ、いつでもヤレるから」みたいな利用のされ方をしていた。それが21世紀に入って、承認欲求のためのヤリマンになってくる。「私はヤリマン」みたいな雰囲気を出すと、男からはチヤホヤしてもらえるから。 そして最近のヤリマンは、ホントにポジティブにセックスを楽しんでいるんですよ。「セックスって楽しいじゃん!」「誰とでもヤレばいいじゃん!」って。その代わり「アイツはヘタだから、もうやらない」みたいなことも言われてしまうんです。 ――草食系男子と呼ばれている、あまりセックスをしない若者って、その変化についていけていないのかもしれませんね。 原人 セックスをすることによって傷ついたり、リスクを負うことを、極端に怖がっている人はいますよね。確かに病気や妊娠のリスク、自分が傷ついてしまうこともあるかもしれない。でもそれ以上に、セックスをすることによって、いいことも多いんですよ。 ボクなんか、人生の挫折をたくさん味わってきて、それこそネットとかでしょっちゅう「アイツ死ね」とか「クソ原人め」とか書かれて落ち込んだりもするんですけど、あらゆる世の中のイヤなこと全部が、セックス一発で克服できたりするんです! それがセックスの持つパワーですね。特に、幸せなセックスで得られる「全肯定感」で、落ち込んでても、将来への不安でいっぱいになっていても、いいセックス一発することによって、全部受け入れてもらえたと思え、吹っ切れるんです。もちろん一時のことですが、その感覚って、ほかではなかなか味わえないですよ。 極端な話、戦争している国のトップがセックスすれば、すぐに仲良くなれますよ! ベネトンが、そんな意図があるんじゃないかって広告出していたけど、それくらいの全肯定感があるし、理屈じゃない部分で納得できるんです。仲直りセックスって、そういうことですよね。 ――問題がまったく解決してなくても、セックスしたらごまかされちゃいますもんね。 原人 今の子たちって情報が多すぎて、セックスをしてなくてもわかったような気になっていると思うんですよね。こんなもんだろ、とか、こんな面倒くさいことがあるらしいぜって。でも、知ってるのと経験しているのは、全然違いますから。「食べログ」をどんなに見ても、実際に食べてみなければ、どれほどおいしい料理なのか、もしかしたらマズいけど自分は好きな味なのか、わからないですもん。だから、風俗でも彼女でもいいので、どんどんセックスしてみてほしいです!
■愛している人がほかの男とセックスしたら……燃えちゃう! ――原人さんは、セックス経験は豊富ですけど、結婚はまだですよね。もし結婚することになったら、どんな結婚生活を送ると思いますか? 原人 もしボクが結婚するなら、男優を続けていようがいまいが関係なく、ボクもほかの人とセックスするし、奥さんにも「してきていいよ」って言いますね。 ――それが自然な結婚の形だと? 原人 結婚自体が社会制度だから、“自然な結婚”って言葉自体が意味をなしていないんですが。ボクは現行の結婚なんて、制度自体無理があると思っています。理想は不動産の賃貸みたいに2年更新制。けど、現実問題として今の日本で子どもを育てていくには、制度に乗っかっていたほうがいい。だから結婚した上で、お互い自由にセックスを楽しむという関係性がいいんじゃないですかね。ほかの人とセックスしてもいいけど、子どもは作ってこないでね、病気は持ってこないでね、って。そして、ほかの家庭には迷惑かけないから、うちはうちで、好きなスタイルでやらしてほしいと。 ――自分の愛する人がほかの男とセックスすることに関して、嫉妬とかは感じない? 原人 ……燃えちゃう! ――ああー(笑)。 原人 セックスしたからって、心まで持っていかれるわけじゃないですからね、男も女も。セックスは、たかがセックス。ただの行為ですよ。その上で、されどセックスだとも知っています。それに、いい女っていうのは、誰とセックスしても気持ちよくなれる女なんですよ。相手を選んで気持ちよくなる女なんて、ただのワガママ! それなら、誰とやってもマグロな女のほうがいいです。これ、モテないブ男の恨みつらみもこもってますが。 一徹というイケメンAV男優がいたんですけど、一徹と3Pするといつも女の子が一徹ばっかり見てるんですね。キスも必ず一徹と先にやる。「ボクともして~」って迫っても、すぐに一徹に戻っちゃう。最初はそういうのがイヤだったんですけど、今は「寝取り」みたいな楽しみ方ができるようになりましたね。「本当は一徹がいいんでしょ? でも、いま入っているチンポはボクので、それでキミは声を出している……。それを一徹に見られているよ~」って。 ――その境地にまで達するのは、なかなか難しそうです! (取材・文=北村ヂン)
















